○第二讀會第五十七回
明治十九年二月廿三日
欠席 細川委員
仝 箕作委員
仝 渡邊委員
仝 周布委員
仝 長森委員
仝 岸本委員
午前第時開會
○第百九十六條 原案第二百五十七條
結算中ニ於テ會社ノ財產ヲ以テ負債ヲ完償スルコト能ハサルトキハ結算人ハ破產處分ノ手續ヲ爲シ且其旨ヲ廣吿シ及會社ノ取引先ヘ通知ス可シ
前項ノ場合ニ於テハ既ニ債主又ハ株主ニ支拂タルモノハ之ヲ返還セシメ破產財團ニ組込ム可シ然レトモ結算人其情ヲ知テ支拂タルモノニ就テハ自己ノ全財產ヲ以テ責任ヲ負ハサル可ラス
（本尾委員）
本條ハ結算ノ節財產不足シテ破產スル手續ヲ示ス原案ト異ナルノ㸃ハ結算人ハ破產處分ノ開始ヲ爲ス可シトアルヲ破產處分ノ手續ヲ爲シト改ム且其旨ヲ廣吿シ及會社ノ取引先ヘモ通知スルコトエセリ何トナレハ會社ニ於テ破產處分ヲナスノミナラス取引先ヘモ通知スル亦要用ナルヲ以テ之ヲ加ヘタリ而シテ原案ニ此場合ニ於テ淸算人善意ヲ以テ會社ノ債主又ハ株主ニ支拂タルモノハ無効トシ其領收者ヨリ之ヲ返還セシムルコトヲ得可シ云々會社債主ニ對シ責任ヲ負フモノトストアリ聊疑ナキニアラス如何トナレハ既ニ結算人ニ於テ債主ニ拂渡シタル金圓ヲ破產處分ニ至ルヲ以テ之ヲ無効トナスハ甚タ酷ニ涉ルノ規定トス株主ニ至テハ再ヒ之ヲ取戾スモ敢テ理ナシトセサレトモ債主ニ至テハ少シク酷ニ失スルト云ハサルヲ得ス然レトモ原案ノ精神ハ他ノ債主ト不平均ノ配當ヲ爲スニ至ルノ恐レアルヨリ如此規定ヲ設ケタルナルヘシト雖トモ一回受領シタル債主ニ在テハ大ナル迷惑ト云ハサルヲ得ス故ニ其酷ニ涉ルノ理由ヲ以テ質問セシニロエスレル氏モ大ニ其感ヲ同フシ債主ノ文字ヲ削除セラレタリ此ヲ以テ呈案中ニモ債主又ハトアルハ削除シテ單ニ株式會社ノミト爲スノ意ナリ
（鶴田委員）
本條ハ情ヲ知ルト知ラサルトニ關セス都テ返還セシムル方可ナルカ如シ
（本尾委員）
然ルトキハ株主ニ於テハ常ニ結算人ヨリ愚弄セラルヽニ至ルヘシ
（鶴田委員）
株主善意ニテノ支拂ヲ受タルトキニ於テ取戾サルニナレハ惡意ヲ以テ支拂ヒタルトキハ勿論取戾サルヽナルヘシ此場合ニ於テ若シ取戾ヲ得サルトキハ結算人之レカ責任ヲ負フヘシトスルヲ至當トス
（本尾委員）
否結算人ノ善意ヲ以テ爲シタルモノハ會社ノ株主之ヲ負擔スルハ敢テ不理ナリトセス何トナレハ結算人ニ於テ毫モ其破產處分ニ至ルヘキヲ知ラサレハナリ然レトモ結算人ノ惡意ヲ以テ爲シタルトキハ株主ニ於テハ毫モ其破產ノ場合ニ陷ルヲ知ラサルモノナレハ結算人ハ其責任ヲ負擔セミムルモ株主ニ向テハ之ヲ負ハシムルノ理ナカルヘシ
○本條ハ第一項ハ呈案ニ決シ第二項ハ左ノ如ク修正アリタリ
第二項
前項ノ場合ニ於テ既ニ株主ニ支拂タルモノアルトキハ之ヲ返還セシム可シ然レトモ結算人會社ノ負債ヲ完償スル能ハサルコトヲ知リタル後支拂ヒタルモノニ就テハ自己ノ全財產ヲ以テ責任負ハサル可ラス
○第百九十七條 原案第二百五十八條
會社帳簿其他書類ノ保存人ハ總會ノ決議ヲ以テ之ヲ定メ其氏名住所ヲ結算人ヨリ裁判所ニ届出ヘシ此届出以前ニ在テハ結算人其保存ノ責任ヲ負フモノトス
（本尾委員）
本條ハ原案ト異ナルナシト雖モ止タ文字ノ配置可ナラサル所アルヲ以テ之ヲ修正シタルノミ
○本條左ノ如ク修正シタリ
第百九十七條會社帳簿其他ノ書類ハ總會ノ決議ヲ以テ保存人ヲ撰定シ其氏名住所ヲ結算人ヨリ始審裁判所ニ届出ヘシ此届出以前ニ在テハ結算人其保存ノ責任ヲ負フモノトス
○第百九十八條 原案第二百五十九條
結算ノ最終ニ於テ結算人左ノ件々ヲ裁判所ニ届出且廣吿ス可シ
一 支拂又ハ示談ニ依リ總債主ニ濟方ヲ爲シタル事
二 會社ノ殘餘財產ヲ株主ニ配當シタル事及其金額
三 結算費用ヲ支拂ヒ及結算ニ就テノ要求ヲ處分シタル事
四 總會ヨリ卸責ヲ得タル事
五 會社帳簿其他書類保存ニ關スル處置ヲ爲シタル事
六 會社ノ株劵又ハ債劵ハ總テ無効ト爲リタル事
結算人ハ亦地方廳ヲ經由シテ農商務大臣ニ本條ノ届出ヲ爲ス可シ
（本尾委員）
原案ノ精神ト異ナルナシ然レトモ結末ノ一項ハ修正委員ノ新設ニ係ル如何トナレハ初メ設立ノトキ農商務省ノ許可ヲ得タルモノナレハ解散ノ場合ニ至テモ亦届出ルヲ相當トナスニ依リ之ヲ加ヘタリ
又原案ニハ廣吿及通知トアレトモ本案ニハ通知ノ二字ハ削除シタリ蓋シ之ヲ爲スノ要用ナク廣吿ヲ以テ足レリトスルニ依テナリ
（鶴田委員）
通知ハ不用ナルナシ
（委員長）
第百九十三條ノ卸責ノ文字ハ其意義解任ト同一ナルヤ將タ否ラサルカ若シ該條ノ結算事務結了トアルハ全ク結算人ノ擔任事務ヲ了リタルモノナリヤ果シテ然ラハ之ヲ解任トナスモ不可ナキカ如シ或又第百九十八條ニ結算ノ最終トアリ此時ヲ以テ結算人ノ解任トセハ卸責ヲ解任ト見ルトキハ第百九十三條ニ之ヲ顯ハスハ少シク不適當ナルカ如シ然ラハ他ニ意味ノ存スルアリヤ其邊篤ト質問アルヘシ
（本尾委員）
諾
（鶴田委員）
第百九十一條ニハ結算人計算ヲ結了シトアリ第百九十三條ニハ結算事務結了トアリ其精神ハ異ナルモ少シク惑フ所ナキニアラス故ニ他ニ差支ナクハ第百九十一條ノ結了トアルヲ整頓トセハ聊カ其惑ヲ解クニ近カランカ
于時正午第十二時中止
午後第一時開會
（鶴田委員）
第百九十八條ノ結文ノ届出ハ結算人ヲ以テナスヨリ株主ノ內ヲ以テ爲ス方可ナルカ如シ
（本尾委員）
他ニ届出ルモノナシ已ニ結算ヲ結了スルノ場合ニ至テハ株主ノ存スルノ理ナシ此際ハ會社ノ殘務取扱者ハ結算人ノ外アルコトナシ
（委員長）
裁判所ヨリ之ヲ農商務省ニ轉報スルノ手續トセハ如何
（本尾委員）
此時結算人ハ會社ノ代表者タルヲ以テ之ヨリ届出ルノ手續トナス方可ナルヘシ
（鶴田委員）
會社稅ハ何時ヨリ之ヲ拂ハサルヤ
（本尾委員）
結算中ト雖トモ未タ納稅ノ義務ヲ免カレス然レトモ營業稅ハ解散ノトキヨリ之ヲ免カルヘシ此等ノ規則ハ別ニ規定スルヲ以テ相當ト思考ス
（委員長）
獨逸ニハ設立ノトキ官許ヲ受クルヤ
（本尾委員）
行政ノ區域ニ屬スル營業ナレハ許可ヲ受クルモ會社ヲ設立スルノ亷ニ付テハ何等ノ制限アルコトナシ
（委員長）
裁判所ニ届出ノ上又農商務大臣ニ届出ルトセシカ思フニ裁判所ニ届出ル上ハ農商務大臣ニ届出ルニハ及ハサルヘシ獨逸昔時許可ヲ要スル時ノ如キ手續ナリシヤ質問スヘシ則裁判所ニ届出ル以上ハ裁判所ヨリ農商務大臣ニ報吿スルコトトセハ不可ナキカ如シ此等詳細ニ質問アリタシ
○本條ハ裁判所ノ上ニ始審ノ二字ヲ加ヘタルノミ
合名會社未定ノ部再議
○第三十五條 原案第五十七條
社員ノ出資ハ會社ノ所有ニ歸スルモノトス其出資ハ契約ニ定メタル償額ヲ附シ財產目錄ニ記載ス可シ
（本尾委員）
本條ノ出資ノ語ニハ勞力モ包含スルヤ否ヤノ質問ナリシ
一體其質問中ニ二說アリテ出資中ニハ勞力モ亦包含ストシ一ハ所有ニ歸スルモノニアラサレハ包含セストノ說ニシテ當時隨分劇論ニ涉リシ所ナリロエスレル氏ノ答辯ニハ勞力ハ無形物ニシテ所有權ヲ移㸃スヘキ理由ナシ故ニ包含セスト
（問）
然ラハ第十八條ニ云々トアリ或ハ此場合ニ所有トスルコトヲ得サルノ明文ヲ揭ケサレハ疑ヲ招クノ恐レナキニアラス
（答）
之ヲ加ヘサルモ所有トスヘカラサルハ辯ヲ竢タスシテ明カナレハ敢テ故ラニ之ヲ加ヘサルモ不可ナシ
（問）
所有ニ歸スルハ契約ノ日ヨリナルヤ又ハ引渡ノ上ナルヤ（答）普通契約ト異ナリ引渡ノ上ニアラサレハ所有權ハ移㸃セサルモノトス
（鶴田委員）
本條ハ左ノ如ク修正セハ如何
社員出資ヲ差入タルトキハ契約ニ定メタル價格ヲ附シ之ヲ財產目錄ニ記入シ會社ノ所有ニ歸スルモノトス但單ニ利益配當標準ノ爲メ價格ヲ定メタルモノハ此限ニ在ラス
○本條ハ鶴田委員呈出ノ修正案ニ決ス
○第三十六條 原案第五十八條
收實權又ハ使用權ヲ供資ト爲シタルトキハ其權利ノミ會社ニ移轉スルモノトス
○第三十七條 原案第五十九條
前條ノ場合ニ於テ物件損亡シタルトキハ其所有權ノ損失ハ所有主ニ歸シ收實權又ハ使用權ノ損失ハ會社ニ歸スルモノトス
（本尾委員）
質問ノ㸃ハ左ノ如シ
收實權使用權ノ如キハ本法ニ差加フルハ少シク不適當ナルカ如シ如何トナレハ此ニ權ハ民法ニ制定スヘキモノニシテ又假令本法ニ揭クルモ之ニ關シテ細則ヲ設ケサレハ不可ナルヘシ且我邦未此慣例ナシ就テハ本法ハ之ヲ削除セハ如何
（答）
質議ノ㸃敢テ理ナシトセサレトモ民法ノ制定迄之ヲ竢ツハ甚タ好マサル所ナリ又制定法ナキモ實際此事生シタルトキハ裁判官ハ如何ニ判決ヲ與フルヤ制定法ナキヲ以テ判決ヲ與ヘサルコトハナカルヘシ必スヤ我邦慣例ニ從フカ又ハ佛國法ノ我邦ニ入ル已ニ數年ナレハ該法ニ比準シテ何トカ判決ヲ與フルナラン又民法モ此等ノ場合ハ已ニ知ラスルモノナレハ全ク該法ニ該當スル所ノ契約ヲ取結ハストハ云フヲ得ス契約アレハ必ス訴ヘアラン已ニ法ナキモ判決ヲ與フルナレハ此ニ明條ヲ揭ク何ノ不可アラン故ニ削除セサルモ可ナリト
○本條ハ修正案ニ決ス
○第六十一條 原案第八十五條
社員ノ持分ヲ減少シタル爲メ會社ノ債主ニ於テ其要求ヲ完フススル能ハサルトキハ其減少ノコトヲ知リタル時ヨリ一年以內ニ異議ヲ申述ルコトヲ得
（本尾委員）
質問ノ要㸃ハ左ノ如シ
本條ノ規定ハ合資會社ニハ有用アルモ合名會社ニハ必用ナラサルカ如シ如何トナレハ合名會社ハ無限責任ナルヲ以テ若シ債主ニ損害ヲ與フルコトアルトキハ社員皆全財產ヲ以テ其辨償ニ任スルモノナレハ此一二條ヲ設ケテ一年內ニ異議ヲ申立テサルモ可ナリ故ニ削除シテハ如何
（答）合名會社ハ無限責任ナルヲ以テ本條ナキモ或ハ不可ナカルヘシト雖トモ社員ノ全財產ヲ以テ責任ノ實蹟ヲ顯ハスハ破產ノ場合ニシテ未タ營業中ハ之ヲ爲スニアラス若シ本條ノ設ケナキトキハ假令債主ノ要求ヲ完フセサルコトアルモ解散ノトキヲ竢タサルヲ得ス實ニ債主ノ迷惑ヲ蒙ムル僅少ナラサルヲ以テ營業中ト雖トモ之レカ異議ヲ申立ツルコトヲ得ヘキ旨ヲ規定セルモノニシテ敢テ不必要ナリトスルコトヲ得ス
（又問）知リ得タルトキヨリトハ餘リ硬ナリ例ヘハ數年前聞得タルコトモ昨年其減少ノコトヲ知レリト云フニ相違ナカルヘシ之ヲ裁判所ニ於テ審問スルモ其實ヲ知ルニ苦ムヘシ如何
（答）併債主ヲ保護スル爲メニハ決シテ不要ナリト謂フヲ得ス
（又問）本條ヲ設ルトセハ會社ノ金子ヲ登記公吿シ又減少シタルトキモ之ヲ登記公吿スルモノトスヘシ然ラサレハ社員ノ責任ヲシテ益重クスルノ患ナキニアラス
（答）之ヲ登記公吿スルノ必要ナシ如何トナレハ社員ハ皆無限責任ナルヲ以テナリ
○本條ハ左ノ如ク修正シタリ
第六十一條 社員ノ持分ヲ減少シタル爲メ會社ノ債主ニ於テ會社ノ財產ヨリ其要求ヲ完フスル能ハサルトキハ減少ノ日ヨリ一年以內ハ之ニ對シ異議ヲ申述フルコトヲ得
于時午後四時閉會