○第二讀會第五十三回
明治十九年二月十三日
欠席 箕作委員
仝 渡邊委員
仝 周布委員
仝 本尾委員
仝 岸本委員
午前開會
第十二節 取締役及檢査役ニ對スル訴訟
○第百七十一條 原案第二百三十條
總會ハ特ニ選任シタル代理委員ヲ以テ取締役又ハ檢査役ニ係ル訴訟ニ付原吿又ハ被吿ト爲ルコトヲ得
○第百七十二條 原案第二百三十一條
會社資本ノ少クトモ二十分一ニ當ル株主ハ亦特ニ選任シタル代理委員ヲ以テ取締役又ハ檢査役ニ係ル訴訟ノ原吿又ハ被吿ト爲ルコトヲ得
○第百七十三條 原案第二百三十一條
株主各自ノ名ヲ以テ原吿被吿ト爲リ又ハ間吿ト爲ルノ權利ハ前二條ノ爲メニ妨ケラルヽコトナシ
（長森委員）
第百七十一條ハ原案ト異ナルコトナシ唯タ原案ニ於テハ訴訟ヲ起シトアリテ原吿トナル場合ノミヲ記スルニ依リ修正案ハ之ニ被吿トナル場合ヲモ追加シ「訴訟ヲ起シ」ヲ改メテ「原吿又ハ被吿トナル」ト爲シタリ
本節ハ之ヲ分テ三トス第一ハ總株主訴訟ヲ爲シ又ハ之ヲ受クルコト第二ハ株主中ノ幾員連合シテ訴訟ヲ爲シ又ハ之ヲ受クルコト第三ハ各株主各自ニ訴訟ヲ爲シ又ハ之ヲ受クルコト是レナリ而シテ第百七十一條ハ其第一ノ場合ナリトス
（細川委員）
原案第二百三十一條ニ於テ被吿トナルハ如何ナル場合ナルヤ
（鶴田委員）
夫レハ大小ヲ論セス只タ訴訟ヲナスノ手續ヲ定ムルモノナラン、
（長森委員）
控訴ノ被吿トナル場合ナルヘシ
（委員長）
「訴訟ヲ起ス」ト云ヘハ原吿又ハ被吿トナルコトヲ包含スルニ依リ原案ノ方可ナルヘシ
（細川委員）
修正案ニ依レハ檢査役ヲ以テ取締役ニ對シ訴訟ヲ爲スコトヲ示サヽレハ是レハ如何スル意ナルヤ或ハ之ヲ許サヽルノ精神ナルカ
（委員長）
事實上ヨリ論スルニ總會ノ決議ニ不服アリトテ取締役ヨリ總會ヲ相手取ルコトアルヘシト雖モ取締役ハ總會ノ決議ニ壓セラレ決シテ訟フルコトナカルヘシ故ニ本條ノ被吿トアルハ少ク不適當ナルカ如シ
（鶴田委員）
原案ノ如ク訴訟ヲ爲スコトヲ得ヘシトセハ充分ナリ何トナレハ原吿トナルヲ得ヘキモノト亦被吿トナルヲ得ヘキハ訴訟法ノ普通原則ナレハナリ
（長森委員）
次條モ亦訴訟ヲ起ト爲サ呈レハ本條ノミヲ改ルハ不可ナリ
（鶴田委員）
然リ次條モ亦其訴訟ヲ起シト改ムルモ可ナリ是レ訴訟法ノ原則ナレハ敢テ詳定スルヲ要セス
（細川委員）
總會カ被吿トナルハ實際如何ナル場合ナルヤ預メ質問スルヲ可トス
（鶴田委員）
取締役又ハ檢査役ニ於テ取締役又ハ檢査役ヲ相手取リ訴訟ヲ起ストキハ矢張リ總會ヲ開キタル上ニアラサレハ不可ナル可シ
（細川委員）
然リ夫ハ手續上ニ涉ルモノナレハ自己ノ資格ニ於テハ爲スコトヲ得サルヘシ
（長森委員）
否一己ノ見込ヲ以テ之ヲ爲スコトヲ得ヘシ則取締役等ニ於テ委任セラレタル事項ニ對シ總會ノ決議又ハ定款ニ反シタル所爲アルトキハ直ニ起訴スルコトヲ得ヘシ
（細川委員）
之ヲ訟フルニ至ルトキハ已ニ委任外ノ事ナレハ之ヲ爲スニハ必ス總會ヲ開カサルヘカラス何トナレハ檢査役ハ監視シテ不都合ナキヲ取締ルノ職ニシテ之ヲ訟フルノ權ハ總會ニ於テ委任シタルモノニアラス
（長森委員）
修正案ノ主旨ハ選任シタルトアル內ニハ取締役及檢査役モ包含スルモノト爲シタルニ依リ檢査役又ハ取締役ノ名義ヲ以テ訟ヲ爲サシムルニハアラサルナリ
正午十二時中止
午後開會
（長森委員）
原案第二百三十一條但書以下ハ別ニ一條ト爲ス卽チ第百七十三條是レナリ依テ第百七十二條ハ但書以上ヲ示セリ
第百七十一條ノ例ニ依リ第百七十二條中選任シタルノ語ヲ削除スヘシ
（細川委員）
然リ又一己人ノ訴訟ヲ起ス場合ハ之ヲ示サヽルモ可ナルカ如シ
（長森委員）
一己人ニ於テハ勿論之ヲ爲スコトヲ得ヘシト雖モ若シ之ヲ示サヽルトキハ或ハ一己人ニ於テ爲スコトヲ得サルヤノ疑ヲ起スモノナキヲ保セサレハ其明條ヲ揭クルハ蓋シ必要ナルヘシ
（鶴田委員）
原案ニ間吿人ヲ揭タルモノハ株主ヨリ取締役ニ係リ訴訟ヲ爲スモ孰レノ勝敗ヲ論セス迷惑ヲ蒙ムルノ株主アルヘシ其際ニハ之カ間吿人トナリテ其訴訟ニ關係スルコトヲ得ヘシトノ㸃ヲ以テ此ニ但書ヲ以テ規定シタルニハアラサルヤ
（委員長）
原案ノ主旨ニ依レハ第二百三十一條ノ但書以上ハ一己人ニ於テ訴訟ヲ起スコトヲ得ス然レトモ其他ノ株主ニ於テ問吿人トナルコトヲ得ルヲ示シタルモノナラン
（長森委員）
然レトモ總會ニ於テ代理員ヲ委任シタル中ニハ其代理員ヲ承知セサル株主モアルヘシ然ラハ其株主ニシテ或ハ一己ノ名義ヲ以テ訴訟ヲ爲ストキハ少シク不都合ナルカ如シ
（鶴田委員）
第百七十一條ハ總株主ナレトモ第百七十二條ノ場合ハ一己人ニ於テナスコトヲ得ヘシ何トナレハ二十分一ニ當ル株主以外ノモノハ間吿トナルヲ得ヘキモノニシテ第百七十二條ニ至テハ一己人ニ於テ爲スコトヲ得ヘシト認定スルナリ
（細川委員）
說明ニ依レハ間吿人云々ハ前二條ニ關係スルニアラスシテ全ク第百七十一條ニノミ關スルモノヽ如シ
（委員長）
第百七十一條第百七十二條及ヒ第百七十三條ハ次回ノ決議ヲ待テ修正スヘシ（之ニ決ス）
○第十三節 會社ノ解散
○第百七十四條 原案第二百三十二條
會社ハ左ノ場合ニ於テ解散スルモノトス
一 定款ノ規定ニ依テ解散スル場合
二 期限前其他任意ニ解散スル場合
三 株主七名未滿ニ減シタル時
四 資本四分一未滿ニ減シタル時
五 會社ノ破產
六 裁判上ノ處分
（長森委員）
原案ニハ事項トアレトモ少シク適當ナラサルヲ以テ場合トシ又第二ハ原案ニ總會任意トアレトモ修正ニ於テハ之ヲ期限前及其他任意ノ決議ト爲シタリ
（鶴田委員）
第二ハ原案ノ方可ナルヘシ
（長森委員）
總會ヲ開カサレハ解散スルコトヲ得サル旨ハ後條ニアルヲ以テ明瞭ナリ
又第二ハ總會ノ決議ニ依テ解散セサルヲ得ス然ルニ其決議ノ方法ハ第百四十三條ニ從フ然ラハ本條ト第百四十三條トハ同一ノ文例ト爲サヽルヲ得ス故ニ此任意云々ト爲ストキハ第百四十三條モ亦任意ノ文字ヲ加ヘサレハ不可ナルニ依リ本條ト俱ニ第百四十三條モ亦修正スルノ見込ナリ
○本條ハ第二ヲ「總會ノ決議ニ依リ臨時ニ解散スル場合」ト改メ他ハ修正案ノ儘ニ決ス
○第百七十五條 原案第二百三十六條
會社解散ノ場合ニ於テハ仕懸リノ取引ヲ完結シ或ハ在來ノ會社義務ヲ盡スノ外直ニ業務ヲ停止ス可シ
取締役前項ノ範圍ヲ踰ヘテ營業ヲ爲ストキハ之ニ對シ自己ノ全財產ヲ以テ其責任ヲ負ハサル可ラス
（長森委員）
原案第百三十三條ハ總則第二條ト重複スルヲ以テ之ヲ削除シタリ
本條ハ原案第二百三十六條ニ該當ス而シテ第二百三十五條ヲ他ニ置換ヘタルハ先ツ解散シタルトキハ會社ノ營業上ニ直接ニ及フヘキ結果ヲ示スノ必要タルヲ推察シタルニ因ルナリ
又原案第二百三十四條總會ノ決議云々トアリ然レトモ裁判上ノ處分又ハ會社ノ破產若クハ株主七名以下ニ減シタルトキノ如キハ總會ト雖モ之カ決議ヲ爲スコト能ハサルナリ何トナレハ縱令ヒ決議スルモ之ヲ如何トモスルコト能ハサルモノナレハナリ
（委員長）
原案第二百三十四條ハ第一ニ爲スヘキモノニシテ則チ何レノ場合ト雖モ總會ノ決議ヲ取ルヲ可トス是レ一應ノ手續ナレハナリ
（長森委員）
否前條第三、四、五、六項ノ如キハ決議ヲ爲スモ其詮ナキモノニシテ一ノ益スル所ナシ故ニ此等ハ修正案ニ於テ總會ニ報吿スルコトト爲セリ卽チ次條是ナリ
（委員長）
條ノ位置ヲ論セハ本條ハ次條ノ次ニ在ルヲ可トス何トナレハ未タ株主ニ於テ解散ノ報吿ヲ得サルニ依リ何故業務ヲ停止シタルヤヲ知ルニ困ムモノアラン
又修正委員ハ原案第二百三十四條ノ總會ヲ招集スルモ其詮ナシト云フニ在リ然レトモ其決議トハ解散ノミヲ決議スルニアラス再興又ハ增資ヲ爲スコトヲ決議スルノ場合モ亦アル可シ然ルニ之ヲ削ルトキハ大ニ會社存立上ニ不便ヲ與フルコトトナルナリ
（細川委員）
原案第二百三十四條ハ縱令ヒ決議ノ詮ナシト雖モ法式上之ヲ招集スルモノトセハ如何蓋シ原案ノ精神ハ始メ總會ヲ以テ成立シタルモノナレハ其終尾モ亦總會ヲ以テ結了スヘシト爲シ始終相照應セシメタルモノナルヘシ果シテ然ラハ「マキシーム」格言ニモ適合スルモノト云フヘシ
（委員長）
解散ノ事情ヲ報吿スルト決議ヲ爲サシムルト實際ニ於テハ彼是少異ナカルヘシ然ラハ決議ト爲シ株主各自ニ解散ノ事情ヲ納得セシムルノ方法トスルヲ可トス
（細川委員）
會社ノ解散ヲ申渡サレタルトキノ如キ取締役一己ニテ其申渡ヲ承諾スルコトヲ得ス何トナレハ自己一人ノ會社ニアラサレハナリ故二一應總會ヲ招集シ總株主ノ意見ヲ聽カサルヘカラサレハ原案ノ如ク爲スモ亦適當ナル處分ト云フヘシ
（長森委員）
本條以下ハ原案ノ精神ニ基キ再修正ヲ爲シテ提出スルコトトセンカ
（委員長）
然リ
（細川委員）
條ノ位置ハ變換スルモ本條ノ法文ハ修正委員修正案ニテ可ナルヘシ
○本條ハ修正案ノ儘ニ決ス但シ本條以下ハ再修正ノ上次回ニ於テ更ニ決議スルコトトナレリ
于時午後第四時散會