○第二讀會第五十一回
明治十九年二月六日
欠席 細川委員
仝 箕作委員
仝 渡邊委員
仝 周布委員
午前
（本尾委員）
原案第五十七條及ヒ第五十八條收實權云々ノ規定ハ我邦未タ民法ノ制定ナキヲ以テ之ヲ揭クルハ或ハ不可ナランカトノ質問ノ答辯ニ縱令ヒ制定法ナキモ無文法律アルヘク又之レナキモ實際收實權ノ事ニ付キ出訴スル者アルトキハ制定法ナシトテ之ヲ受理セサルヤ決シテ然ルコト能ハス出訴セラルヽトキハ佛法又ハ英法等ヲ援引シテ其裁判ヲ爲サヽルヘカラス故ニ制定法ニ收實權ニ關スル規定ナキヲロ實ト爲シ此兩條ヲ削除セント欲スルハ贊成スルコトヲ得スト
同第五十七條社員ノ供資云々ニハ勞力ヲ包含スルヤ否ノ質問ナリシカ全部ヲ通觀セスシテ議ヲ起スハ最モ不適當ナリトス合名會社ノ供資ナル語ニハ勞力ヲ常ニ包含スト雖モ本條ノ供資中ニハ勞力ヲ包マサルモノト爲スヘシ是レ第七十條ニ於テ明瞭ナルコトトスト
社員ノ供資ハ何時ヨリ會社ノ所有ニ移轉スルヤノ質問ニ說明ニ詳述セル如ク實際ノ引渡ヲ以テ所有權ヲ移轉スルノ精神ナリト
又供資ヲ會社財產目錄ニ記スルニハ勞力モ亦價額ヲ付シテ記入スルハ勿論ナリトス然レトモ原案第五十七條ノミテハ其事明瞭ナラサルヲ以テ特ニ第七十條ヲ設ケテ勞力モ亦價額ヲ付スルコトヲ示シタレハ兩條ヲ比照シテ始テ明瞭ナルニ至ルモノナリ然ルニ委員ハ第七十條ヲ削除セラレタリ其理由如何トノ問アリシニ依リ元來第七十條ノ如キハ普通法ノ原則ヨリ論スルトキハ之ヲ示スニ及ハサルハ勿論ナルノミナラス「甚シキ」又ハ「詐欺」ノ語アリ此等ノ場合ニ於テハ假令ヒ文法ニ明條ナキモ出訴スルコトヲ得ルハ當然ナルニ依リ之ヲ削リタリト答辯セシニ或ハ可ナラン然レトモ該條ナキトキハ之ヲ訟フルコトヲ得ルヤ否ニ付キ少シク疑ナキニアラサレハ特ニ之ヲ揭クルコソ當然ナレ而シテ第五十七條ノ供資ナル語ニハ勞力ヲ包ムヤ否ノ質問ノ由テ起ル所ハ委員ニ於テ第七十條ヲ削除シタルヨリ生シタルモノトスト
又原案第六十一條ヲ削リタルハ說明ニ依レハ初メヨリ資本ヲ差入ルヽコト能ハサル場合トス此場合ハ之ヲ退社ノ部ニ移轉シ半途ヨリ差入ルヽコト能ハサルニ至リタル場合ハ第六十三條ニ於テ之ヲ記シタル依リ第六十一條ヲ削除シタルモ他條ヲ以テ之ヲ補缺セリト陳述セシ處如此位置ヲ變更スルトキハ途ニハ各條ノ命脉ヲ連絡スルコト能ハサルニ至ルナリト
于時十二時中止
午後開會
（鶴田委員）
先回ニ於テ第八節ヲ左案ノ如ク修正シ各條ノ位置ヲ變更シタリ依テ瀏覽ヲ煩ハス
第八節 定款ノ變更
第百四十五條 會社ハ定款ニ豫定シタルトキ又ハ總會ノ決議ニ依リ定款ヲ變更スルコトヲ得
第百四十六條 資本ノ增加ハ株劵ノ金額又ハ株數ヲ增シ又ハ負債證劵ヲ發行シ又其減少ハ株劵ノ金額又ハ株數ヲ減シテ之ヲ爲スコトヲ得但資本減少ハ株金總額ノ四分一ヲ下ル可ラス
第百四十七條 會社其資本ヲ減少セントスルトキハ減少ニ對シ異議アレハ三十日以內ニ會社ニ申出可キ旨ヲ各債主ニ通知ス可シ第百四十八條債主前條ノ期限內ニ異議ヲ申出サルトキハ異議ナキ者ト看做ス可シ
異議ヲ申出タルトキハ會社ハ其負債ヲ辨償シ又ハ抵保ヲ備ヘ其異議ヲ解除シタル後ニ非レハ資本ヲ減少スルコトヲ得ス
第百四十九條 資本減少ノ爲メ株金ノ拂戾ヲ受タル株主ハ債主中自己ノ過失ニアラスシテ期限內ニ異議ヲ申出サル者ニ對シ三ケ年間其拂込ノ額ニ至ル迄ノ責任ヲ負フモノトス
第百五十條 會社定款ヲ變更シタルトキハ直ニ其登記公吿ヲ受ク可シ登記公吿以前ニ在テハ其變更ノ効ナキモノトス
會社所在地ノ移轉ニ付テハ舊所在地ノ登記役所ニ於テ轉住ノ登記公吿ヲ受ケ新所在地ノ登記役所ニ於テハ新設ノ會社ト同樣ノ手續ヲ以テ登記公吿ヲ受ク可シ但同管轄內ニ移轉スルトキハ單ニ轉住ノ登記公吿ヲ受クルヲ以テ足レリトス
第百五十一條 登記公吿ヲ受タルトキハ會社ハ地方廳ヲ經由シテ農商務大臣ニ其事項ヲ屆出可シ
（委員長）
可ナリ
○第百五十六條先回ノ續キ
（本尾委員）
本條ハ先回質問ノ上修正スルコトニ決セリ其質問ノ要㸃ハ利息及ヒ費用ハ會社ニ於テ必ス之ヲ徵收スヘキモノナルヤ又ハ會社ノ隨意ニ任スルモノナルヤ否ニ在リ
（鶴田委員）
前條ニハ拂込期限ヲ定メ且蒙ルヘキ損害モ亦通知スヘキノ規定ナルニ依リ若シ其通知書ニ損害ヲ蒙リタルトキハ利息費用ヲ可拂旨ヲ書加ヘサルトキハ拂込マサルモ可ナルカ如シ
（本尾委員）
縱令セ通知書ニ利息及費用ヲ拂ハシムヘキ旨ヲ記セサルモ會社ハ之ヲ請求スルコトヲ得ルノ權アルモノトス
（鶴田委員）
然ラハ故ラニ通知書ニ之ヲ記載セサルモ可ナルヘシ
（本尾委員）
若シ記載セサルトキハ會社ハ之ヲ請求セサルモノトスルノ裁判ヲ爲スモノナキヤモ計レス然レトモ本條アルトキハ假令ヒ通知書ニ之ヲ脫スルモ亦納付スルノ義務アルハ自ラ瞭然タルニ至ルヘシ
（委員長）
第百五十七條ノ十四日ハ頗ル長クシテ實際ニ適合セサルカ如シ故ニ之ヲ七日ト改メハ如何
（本尾委員）
然レトモ株主ノ有富ナラサルモノニ對シテハ短キニ過ルカ如シ原案ニ於テハ單ニ期限ヲ定メトアルモ相當ノ時間ハ猶豫スルノ意味ナルカ如シ
（岸本委員）
第百五十五條ニ單ニ之ヲ定ムトアルトキハ已ニ定款ニ於テ期日ヲ定メアルニ付若シ其期日ヲ過クルトキハ直ニ利子等ヲ要求セラルヽ場合トナルニ依リ「豫メ之ヲ定メ」トセハ如何
（本尾委員）
否定款ハ預メ作ルヘキモノナレハナリ
（岸本委員）
第百五十二條拂込延滯株主トハ定款ニ定メタル期日ニ遲レタル株主率ナルヘシ故ニ催促ヲ受テ尙ホ延滯スル株主ト見サルヘカラス
（長森委員）
否定款ニ定ムルモ第百五十五條ニ通知セヨトアルニ依リ其事ハ一々通知セサルヘカラサルコトハ明カナリ
（鶴田委員）
損害トアリ故ニ延滯スルトキハ利益配當ヲ爲サスト云フコトヲ得ルヤ
（本尾委員）
否利益配當ハ必ス之ヲ渡サヽルヘカラス止タ次條ノ責任ヲ負フモノトス
○本條ハ先回ノ修正案ニ決ス
○第百五十八條
（鶴田委員）
本條ノ未定ニナリシ所以ハ株劵ヲ引上ケタル上ニ利息費用ヲモ拂込マシムル義務ヲ負擔セシムルハ頗ル嚴重ナル規定ナカルカ如シ實際上ニ於テ如何ナルヤ種々ノ討議モアリシナレトモ途ニ決議ニ到ラサリシナリ
（委員長）
第一期拂込ノミナラス第二第三期モアルコトナレハ或ハ必要ナルヘシ
（岸本委員）
株劵ヲ沒收シテ公賣シ會社ニ其代價ヲ沒收シ又利息費用等ニ至ルマテ會社ニ於テ所有ト爲スニ至ルハ是レ會社ハ不當ノ利得ヲ得ルモノト云フヘク株主ノ困難亦大ナリトス
（委員長）
併シ株主ヲシテ常ニ本條ノ義務アルコトヲ知ラシメ以テ拂込ヲ容易ニ爲スニハ最モ便宜ノ方法ト云フ可シ
（岸本委員）
私法上人ノ財產ヲ奪フニ等シキ事ヲ規定スルハ最モ不可ナリ故ニ株劵ヲ引上ケタル上不足ナレハ之ヲ徵收シ過剩アレハ之ヲ還付スルコトトセハ實際ニ相當スヘキ事ト思料ス
（長森委員）
既ニ定款ニ定メタル期限ニ依テ拂入レタルトキ中途ニシテ株主株劵一葉ヲ會社ニ差出ストキハ一切ノ義務ヲ消除スルニ至リ實ニ契約上ヨリ論スルモ甚タ不適當ト云ハサルヘカラス何トナレハ若株劵一葉ヲ抛テ義務ヲ免ルヽコトヲ得トセシメハ爲メニ契約ノ原則ヲ破壞シ會社ノ成立セサルニ至ルヘシ
（委員長）
岸本委員ノ說ハ要スルニ株劵ヲ會社ノ所有ト爲シ之ヲ公賣シ淸算ノ上不足ハ徵收シ剩餘ハ返却スヘシト云フニ在ルカ如シ
（岸本委員）
然リ佛法ニ於テモ明條ナケレトモ亦其精神ナリ是レ最モ至當ノ處分ト云フヘシ
（本尾委員）
畢竟義務ヲ執行セサル爲メノ制裁ナレハ酷ニ涉ルモ敢テ不可ナカルヘシ
（鶴田委員）
制裁ナレハトテ餘リ酷ニ及フハ立法者ノ好マサル所ナリ
（委員長）
先回ノ修正案ノ儘ニ決スヘシ
第百五條 前條ノ事項ハ株主總員ニ分一以上ニシテ總株金ニ分一以上ニ當ル株主出席シ其議決權ノ過半數ニ決ス可シ
第百四十二條 總會ノ決議ハ本法ニ於テ規定アルモノニ外定款ニ定ムル所ノ方法ニ依ル可シ定款ニ其定メナキトキハ總株金四分一以上ニ當ル株主出席シ其議決權ノ過半數ニ決ス可シ
（本尾委員）
此兩條ハ參決權ノ事ニ係ル而シテ過般文例ヲ同一ニセヨトノ命ニ從ヒ修正委員ニ於テ更ニ修正シタルモノトス
（委員長）
可ナリ
○第十節 會社ノ義務
○第百五十九條 原案第二百十七條
會社ハ株金ノ全部又ハ一部ヲ株主ニ拂戾スコトヲ得ス又株主ニ在テモ之ヲ領收スルコトヲ得ス
若シ拂戾シ又ハ領收シタルトキハ會社ノ債主ニ在テモ直接ニ其金額ヲ償還セシムルヲ得
（本尾委員）
原案ニハ株主之ヲ取戾スコトヲ得トアリ之ヲ改メテ領收ト爲シタリ何トナレハ假令ヒ會社ヨリ之ヲ拂戾スモ領收スヘカラスト云フニ在レハナリ蓋シ原案ノ譯文ハ誤字アリ原文ノ精神ハ修正案ト同一ナリ
又原案ニハ罰金トシテ半額ヲ拂込マシムルコトヲ得ルノ規定アリ然レトモ會社ノ拂戾シタルトキハ取締役ハ僅カ二十圓以上二百圓以下ノ罰金ニテ事濟ミ株主ニハ半額ノ罰金ヲ以テスルハ權衡ヲ得サルヲ以テ之ヲ削リタリ
（岸本委員）
株金ノ取戾ハ卽チ資本減少ナレハ第百四十七、八條ニ從ハサルヘカラス故ニ之ニ從ハサレハ其拂戾ハ無効タリ已ニ無効タレハ何人ト雖モ之ヲ償還セシムルコトヲ得ルハ勿論ナリトス思フニ本條ノ要㸃ハ半額罰金アルカ爲メナラン其罰金ヲ削リタル以上ハ最早本條ハ不用ナリトス併シ之ヲ全廢スルハ酷ナレハ第二項ノミヲ存スルモ可ナリ
（本尾委員）
本條ノ要㸃ハ第二項ニ在リ第二項ヲ記センカ爲メ第一項ヲ記シタルニ過キサルナリ又第三者ニ於テモ要求スルコトヲ得ルト云フ事モ亦要㸃ノ一ナリ
又償還トハ債主カ直ニ自己ノ貸金辨濟ノ爲メ受取ルコトヲ云フナリ
（鶴田委員）
償還云々ハ如此意味ニ解スルヲ得ス若シ本案ノ如クスルトキハ會社ニ償還セシムル場合トノ外解スルコトヲ得ス
又本條ハ罰金ヲ要㸃ト爲ストセハ罰金ノ性質ヲ變シ政府ニ之ヲ徵收スル罰金ト爲シ引戾シタル者及受取リタル株主ト雙方ニ罰金ヲ付スヘシ假令ヘハ取締役ハ二百圓以上株主ハ百圓迄ト爲セハ或ハ不可ナカルヘシ
○本條ハ左ノ如ク修正スルコトニ決ス
第百五十九條 會社ハ株金ノ全部又ハ一部ヲ株主ニ拂戾スコトヲ得ス
于時午後第四時三十分散會