○第二讀會第四十七回
明治十九年一月廿三日
欠席 箕作委員
仝 渡邊委員
仝 周布委員
午前第十時開會
○第五節 取締役及檢査役
○第百二十五條 原案第百七十條
取締役ハ三名以上ニシテ總會ニ於テ株主中ヨリ選擧セラルニモノトス其任期ハ三ケ年ヲ踰ユ可ラス但復選スルハ妨ケナシ取締役ハ同役中ヨリ頭取一名又ハ數名ヲ置クコトヲ得然レトモ其責任ヲ異ニスルコトヲ得ス
（本尾委員）
本體ノ趣意ハ原案ト異ナルコトナシ唯タ原案ニ二ケ月トアルハ實際ニ於テ不便ナルヘキヲ以テ之ヲ削リ會社ノ都合ニ任シタリ又取締役外ノ役員ヲ任スルハ會社ノ便宜ニ任ストアルハ法律ニテ之ヲ示スノ要用ナケレハ是亦削除シタリ
原案第百七十五條ハ特ニ一ケ條ヲ設テ記スルニ及ハサルモノナレハ委員ハ之ヲ本條ニ合併シタリ
修正案第二項中然レトモ以下ハ委員ニ於テ追加シタルモノトス蓋シ取締役中ヨリ頭取ヲ撰擧スルトキハ取締役ノ責任ハ皆頭取ニ於テ擔當スルカ如キ疑ヲ生セサルヲ保セサレハ特ニ其疑ナカラシメンカ爲メ追補シタリ
（委員長）
實際ニ於テハ如何
（本尾委員）
今日ノ實際ニテハ頭取一名取締役及支配人數名アリ
（委員長）
取締役三名以上ト揭クルニ及ハサルカ如シ
（本尾委員）
取締役ノ最下數ヲ示スハ要用ナリトス又株式會社ニ在テハ少クトモ三名ヲ置カサレハ不都合ヲ生スルナリ何トナレハ株式會社ノ人員ハ少クトモ百名ヲ下ラサルヲ以テナリ
（岸本委員）
單ニ「頭取」ト爲シ一名又ハ數名ノ文字ヲ削除スヘシ
（鶴田委員）
原案ノ「其他會社云々」ノ一項ハ本條ニ揭ケスシテ可ナルヤ若シ揭ケサルトキハ投票ヲ以テ撰擧スルノ論ナシトセス
（本尾委員）
取締役ヲ選擧スルコトヲ示スニアラサレハ其他ノ役員ハ撰擧スルニ及ハサルコト勿論ナルニ依リ之ヲ削リタリ
（細川委員）
其理由モアルヘケレトモ又本節ハ取締役檢査役ノ規則ニ係ルモノナレハ他ノ役員ノコトヲ示スハ其場所ヲ異ニスルカ如シ
（岸本委員）
若シ役員撰擧ノコトヲ云ハントセハ名目ヲ改メス單ニ役員トセハ如何
（鶴田委員）
此ニ是非置クニ不及レトモ支配人以下ノ役員ハ取締役ノ權內ニ於テ選擧シ得ル事ハ後條ニテモ記載シ置クコト可ナルヘシ
（細川委員）
然リ
○本條ハ左ノ如ク修正セラレタリ
第百二十五條（第一項從前ノ通リ）
取締役ハ同役中ヨリ頭取ヲ置クコトヲ得ルト雖モ其責任ヲ異ニスルコトヲ得ス
○第百二十六條 原案第百七十三條
取締役ハ會社ヲ代表スルノ權利ヲ專有スルモノトス但定款及總會ノ決議ヲ遵守セサル可カラス
○第百二十七條 原案第百七十三條
取締役ノ代表權利ニ制限ヲ立ルモ其制限ハ善意ヲ以テ取引ヲ爲シタル社外人ニ對シ無効トス
（本尾委員）
原案第百七十一條ヲ削除シタル理由ヲ陳述セン該條ハ政府ノ許可ヲ受クヘキ場合ニ於テ其許可ヲ得サル以前ハ取締役ト公稱スルヲ得サルヲ示ス是レ明文ナキモ勿論ノ理由ナルニ因リ之リヲ省リタリ
又第百七十二條ヲ削除シタルハ原案ノ精神ニ依レハ許可ヲ受ケテ後總會ヲ開キ取締役ヲ撰擧シ而シテ其取締役ハ二ケ月ヲ經テ執務スルヲ規定ト爲ス然レトモ修正案ハ創業總會ニ於テ取締役ヲ撰擧スヘキヲ云ヒ又一ケ月ノ事ヲ削リタルヲ以テ取締役ノ執務マテ發起人ニ於テ其職ヲ擔當スルノ日時ナシ然ラハ最早本條ハ他ニ入用ナキニ至ルヲ以テ之ヲ削リタリ
修正案第百二十六條ハ原案第百七十三條ノ事柄ヲ記ス其文例ハ合名會社ノ例ニ從ヘリ若シ此文例ヲ可ナリトセハ修正案第八十四條モ亦同一ニ改正セラレタシ
（岸本委員）
全體此案ニ依ルトキハ但以下ハ少シク辯ヲ費サヽルヲ得ス故ニ合資會社ノ規定ト同シクスルヲ可トス何トナレハ決議ヲ遵守スルハ制限ノ事ヲ云フモノナレハナリ
（長森委員）
否制限ノミナラス其他ノ所爲ヲモ包含スルナリ
（委員長）
本條ハ「取締役ハ定款及ヒ總會ノ決議ヲ遵守シテ會社ヲ代表スルノ權ヲ專有スルモノトス」トセハ如何
（岸本委員）
第百二十六條ノ但書ハ削除スルヲ可トス何トナレハ定款及ヒ總會ノ決議ハ會社ノ憲法トモ云フヘキモノナレハ其憲法及ヒ總會決議ノ範圍外ニ代表權ノアルヘキ理由ナケレハ之ヲ削ルモ精神ニ於テハ決シテ不都合ヲ生スルコトナカルヘシ
（鶴田委員）
若シ總會ノ決議ナル語ヲモ削ルトキハ決議ハ時々總會ノ都合ニ依リ變更スルモノナレハ取締役ハ定款ニ從ヘハ總會ノ決議ヲ遵守セサルモ可ナルヘシトノ疑ヒヲ生スルナキヲ保セサレハ敢テ之ヲ削ルヲ要セス
（委員長）
第百二十六條ハ修正案ニ決スヘシ
（本尾委員）
就テハ合資會社第八十四條ヲ本條ノ文例ニ從ヒ修正セン歟
（委員長）
然リ
○第百二十六條ハ修正案ニ決シ第百二十七條及第八十四條但書ヲ修正スルコト左ノ如シ
第百二十七條 取締役ノ代表權利ノ制限ハ善意ヲ以テ取引ヲ爲シタル社外人ニ對シ無効トス
第八十四條但會社契約又ハ會社ノ決議ヲ遵守セサル可ラス
于時十二時ナルヲ以テ中止
午後開會
退席鶴田委員
同岸本委員
○第百二十八條 原案第百七十四條
取締役ニ選ハルヽ爲メ所有ス可キ株數ハ會社定款ニ於テ定ム可シ取締役在任中ハ其株劵ニ賣渡、讓渡、質入、書入ヲ禁スルノ旨ヲ記入シ之ヲ會社ニ預ケ置ク可シ
（本尾委員）
原案ニ他人ニ移スヘキ云々ノ語アリ是レ質入書入ノ外ニナシトハセサレトモ僅少ナルモノナリ故ニ修正委員ハ之ヲ改メテ質入書入ヲ禁シテ會社ニ預クルコトトセリ少シク嚴ナレトモ取締上ニハ此位ノ規定ヲ設ケサレハ不都合ナルヘシト思料シタルヲ以テナリ
（委員長）
記入シトアリ又預ケ置クトアリ餘リ嚴ニ過クル所アルカ如シ取締役ハ自己ノ會社ト雖モ隨意ニ賣拂フモノニアラス又實際禁スルト云フモ自己ノ預カル所ノモノナレハ其効要ナキカ如シ
（本尾委員）
原案ニ其他株式ノ利益ヲ他人ニ移シトアルハ重モニ他人ノ保證物ニ貸渡スヲ云フ故ニ修正委員ニ於テハ會社ニ預ケ置クヘシト爲シタルニ依リ右ノ弊害ヲ生スルノ患ヒナシ
（長森委員）
禁スルノ旨ヲ記入シ檢査役立會ノ上封印シテ之ヲ會社ニ預ケ置クヘシトセハ取締ハ充分ナルヘシト信スルナリ
（本尾委員）
然ラハ其株劵ニ云々ヲ記入シヲ削リ在任中檢査役立會ノ上封印シテ之ヲ會社ニ預ケ置クヘシトセハ如何
○本條ハ左ノ如ク修正セラレタリ
第百二十八條 取締役ニ選ハルヽ爲メ所有ス可キ株數ハ會社定款ニ於テ定ム可シ取締役在任中ハ其株劵ノ賣渡、讓渡、質入、書入ヲ禁スル爲メ之ヲ會社ニ預ケ置ク可シ
○第百二十九條 原案第百七十八條
取締役ハ會社ノ業務ニ鑞シ第三十三條ノ責任ヲ負フモノトス
（本尾委員）
原案第百七十六條及第百七十七條ハ檢査役ニ對シテ此規定アルヲ以テ取締役ト檢査役トヲ格別スルノ必要ナキヲ以テ後條ニ併セテ記センカ爲メ此ニハ之ヲ削リタリ又原案第百七十八條ハ合名會社ノ第三十三條ト同一ノ事ヲ云フト說明ニ見ヘタリ就テハ第三十三條ヲ援引シテ記スルコトト爲シタリ
○本條ハ修正案ノ儘ニ決ス
○第百三十條 原案第百七十九條
會社ハ取締役ノ在任中ニ生シタル負債ニ對シ無限ノ責任ヲ負ハシム可キ旨ヲ定款又ハ總會ノ決議ヲ以テ豫メ定ムルコトヲ得前項ニ揭ケタル無限ノ責任ハ其解任後一ケ年ヲ以テ限リトス
（本尾委員）
本條合資會社ノ第八十七條ノ文例ニ從ヒ同一ノ記載ヲ爲シタルノミ精神ハ原案ト異ナルコトナシ
○本條モ亦修正案ノ儘ニ決ス
○第百三十一條 原案第百八十條
會社ハ取締役ノ更迭スル每ニ登記公吿ヲ受ク可シ其登記公吿前ニ於テハ新任者職務ヲ執行スルコトヲ得ス
（本尾委員）
原案ノ精神ト異ナルコトナシ
○本條モ亦修正案ノ儘ニ決ス
○第百三十二條 原案第百八十一條
檢査役ハ三名以上ニシテ總會ニ於テ株主中ヨリ選擧セラルヽモノトス其任期ハニケ年トス但復選スルハ妨ケナシ
（本尾委員）
原案ニハ三名以上五名以下トアリ然レトモ會社ノ都合ニテ七名ヲ置クモ差支ナカルヘキニ依リ修正案ハ單ニ三名以上ト爲セリ
○本條亦修正案ノ儘ニ決ス
○第百三十三條 原案第百八十二條
檢査役ハ左ノ事項ヲ擔當ス可シ
一 取締役ノ業務取扱法律、定款及總會ノ決議ニ適合スルヤヲ監視シ且總テ其取扱上ノ過誤不整ヲ檢査スル事
二 計算帳、貸借對照表及利足幷ニ分配金ノ配當案ヲ檢査シ其意見ヲ株主總會ニ報吿スル事
三 會社ノ利害ニ關シ必要ト認ムルトキハ總會ヲ招集スル事
（本尾委員）
原案第一項中發起人ノ上ニ取締役ノ三字ヲ脫セリ蓋シ印刷ノ誤リナルヘシ
原案ニ會社ノ登記及設立ノ際法律ニ定メタル條款ヲ嚴密ニ遵守シタルヤノ語幷ニ發起人ノ文字ヲ削除シタルハ小委員ニ於テ原案ノ主義ヲ變更シタルナリ何トナレハ原案ニ於テハ政府ノ許可ヲ要セサル精神ナリシモ本案ニ於テハ之ヲ要用トス故ニ設立許可前ノ事務ハ政府ノ管督スルモノニシテ檢査役ノ與ル所ニアラサレハナリ第二項中其意見ヲノ四字ヲ加工タルハ檢査役ハ書類ヲ檢査スルニ止マラスシテ自己ノ意見ヲ報吿スルヲ以テ尤用ト爲セハナリ
○本條モ亦修正案ノ儘ニ決ス
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○第百三十四條 原案第百八十五條
檢査役ハ業務ノ實況ヲ尋問シ會社ノ帳簿其他ノ書類ヲ展閱シ會社ノ金庫及其全財產ノ現況ヲ檢査スルノ權アルモノトス
（本尾委員）
原案第百八十三條ハ之ヲ後ニ移シ第百八十四條ヲ削除シタリ其理由ハ檢査役ハ會社ニ對シテ共同一體ナルモノト揭クルトキハ取締役ハ如何ナルヤ疑ヲ生スルナリ取締役ト雖モ亦共同一體ナルヘキコトハ勿論ナルヲ以テ之ヲ削リタリ第二項ハ申立ヲ提出スヘシトアリ其申立ヲ何處ニ提出スヘキ事ナルヤ明ナラス之レ第三項ニ共同一體ナリト云フ文ニ反スルモノト云ハサルヘカラス依テ之ヲモ削リタリ蓋シ揭テ疑ヲ惹起スヨリハ云ハスシテ疑ヒナカラシムルニ若カサレハナリ
（細川委員）
原案第百八十四條ハ削ラスシテ修正ヲ加ヘテハ如何
（委員長）
然リ互ニ意見ノ合セサルトキノ處分ナレハ或ハ有要ナル場合ナシトセス
（本尾委員）
若シ第百八十四條ヲ揭クルトセハ其二項ノ精神ヲ採リ第一項ハ合資ノ取締役ノ場合ニモ記セサルニ依リ本章ニモ亦削ルヲ可トス
（細川委員）
原案○以下ハ變例ヲ示シタルモノナレハ之ヲ揭クルモ敢テ不當ト云フヲ得ス
○本條ハ修正案ノ儘ニ決シ左ノ一ケ條ヲ次ニ新設スルコトニ決ス第百三十四條檢査役ハ同役中ニテ意見ヲ異ニスルトキハ雙方ノ意見ヲ總會ニ提出ス可シ
○第百三十五條 原案第百八十六條
檢査役ハ第百三十二條ニ揭ケタル擔當義務ヲ怠リ會社又ハ其債主ニ損害ヲ加ヘタルトキハ之ニ對シ其責任ヲ免カレサルモノトス
（本尾委員）
原案中有セス迄ハ不用ナルヲ以テ之ヲ削リ然レトモ以下ヲ修正シテ揭ケタリ而シテ原案ニ其義務トアルハ第百三十三條ノ事柄ヲ指スモノナルニ依リ明二條ヲ示シタルニ過キス其精神ハ原案ト異ナルコトナシ
○本條ハ修正案ノ儘ニ決ス
○第百三十六條 原案第百七十六條
取締役及檢査役給料又ハ其他ノ報酬ヲ受ク可キトキハ定款又ハ總會ノ決議ヲ以テ之ヲ定ム可シ
（本尾委員）
原案第百七十六條ト第百八十三條トヲ合併シタルノミ精神ニハ毫モ異ナル所ナシ
○本條モ亦修正案ノ儘ニ決ス
○第百三十七條 原案第百七十七條
取締役及檢査役ハ何時ニテモ總會ノ決議ニ依テ解任セラルヽコトアル可シ其解任者ハ解任後ノ給料又ハ報酬ヲ要求スルコトヲ得ス
（本尾委員）
原案第百七十七條ニ依レハ取締役ノ事ノミニシテ檢査役ノ事ナシ然レトモ彼是レ同一ナルヘキモノナレハ之ヲ同一ニ規定シタリ
又原案ニ賠償トアリ故ニ取締役ノ任期三年ナレハ一ケ年ニシテ解任セラルヽモ三年間ノ給料ラ受クルコトヲ得ヘキカ如キ疑アリ依テ其精神ヲ採リ「給料又ハ報酬ヲ要求スルコトヲ得ス」ト爲シタリ
○本條ハ「其解任者」ヲ「其解任セラレタル者」ニ改メタルノミ他ハ修正案ノ儘ニ決ス
于時午後第三時二十分散會