○第二讀會第四十六回
明治十九年一月廿一日
欠席 細川委員
仝 渡邊委員
仝 箕作委員
仝 周布委員
○第百十六條 原案第百五十八條
會社ハ每年通常總會後一ケ月以內ニ株主名簿ノ寫ヲ登記官吏ニ差出ス可シ
（本尾委員）
原案ニ於テハ登記官吏ニ株主名簿ヲ差出スニハ二十日トナセシナレトモ二十日ニテハ少シク其間短カキヲ覺ユレハ之ヲ一ケ月トナシタリ而シテ原案ニハ其名簿ヲ呈示スヘシトアレトモ注釋ニ依テ考フルトキハ名簿ヲ役所ニ呈示スルニアラスシテ其寫ヲ差出シ置クノ精神ナルカ故ニ之ヲ改メテ差出ス可シトナシタリ
（鶴田委員）
每年通常總會後トアルヲ以テ一ケ年ニ通常會二回ナルトキハニ度名簿ヲ差出ササルヲ得ス然レトモ實際ニ至テハ一ケ年一二回ニテ可ナルノ精神ナルヘシ
（本尾委員）
一ケ年二回ノ總會ヲ開クノ規定ナレハ二回差出スモ不可ナカルヘシ
（鶴田委員）
一年二回トナストキハ實ニ繁雜ニ涉ルナレハ假令二回總會ヲ開クノ會社ニ在テモ株主名簿ヲ差出スハ年々一回ヲ以テスルモ不可ナカラン
（本尾委員）
然リ一ケ年一回差出スノ精神トスルモ差支ナカルヘシ
（鶴田委員）
然ラハ一回ト決シタシ
（本尾委員）
然リ一回ノ精神ニ改ムヘシ
（委員長）
株主名簿ノ如キ大部ナルモノヲ登記役所ニ備置クモ敢テ要用ナキカ如シ何トナレハ官吏ハ何時ニテモ會社ニ至テ之ヲ査閱スルノ便アレハナリ
（本尾委員）
如斯論セハ本條ハ餘リ要用ナキヲ以テ之ヲ削除スルモ敢テ差支ナカルヘシ
（委員長）
株主名簿タルヤ通常總會後ノモノニ限リ入用ナルニアラス總會以前ノモノト雖モ亦有用ナルモノナレハ必ス總會後ニ限リテ之ヲ差出スノ必要ナキカ如シ
（岸本委員）
本案ノ如ク修正シタルカ故ニ不用ナリト云フニ至レリ元來原案ハ說明ニ在ルカ如ク名簿ヲ呈示スルハ裁判所ニ於テ管督スルカ爲メナリ然ルニ之カ寫ヲ差出ストセハ其寫ハ如何ナル事ヲ記載スルモ之ヲ檢査スルノ益ハナカルヘシ原案ニ於テ呈示スルモノハ本書トナセシハ故ナキニアラサルナリ蓋シ本妻ロニアラサレハ裁判官ノ之ヲ檢査スルモ毫モ其益ナカルヘケレハナリ故ニ修正案ノ如クセハ此精神ヲ變換シタルカ故ニ削除スルモ不可ナカラン
（長森委員）
說明ニ年々改正ノ株主名簿ハ官簿登記ヲ添刪スルノ用ヲ爲ス者ニシテ每年之ヲ云々トアルヲ以テ考フルニ總會後ニ差出ス所ノ株主名簿ハ曩ニ役所ニ差出シ置キタル名簿中株主ノ變換アルトキハ現ニ會社株主タルモノヲ知ラシメソカ爲メ年々之ヲ差出サシムルノ意ナリ且株主名簿ハ實ニ必要ナルモノナルヲ以テ之ヲ裁判所ニ呈示シ置クヘキモノニアラサルノミナラス又危險ノ所爲タルヲ免カレス故ニ裁判所ニハ其寫ヲ差出シ置クモノナルヘシ
（本尾委員）
會社ヨリ登記役所二名簿ノ本書ヲ呈示スルハ危險ノ所爲ニシテ又會社ニ於テモ必スシモ本書ニアラサレハ便宜ヲ缺クト云フニモアラサレハ旁寫ヲ差出スコトトセリ
（委員長）
本書ヲ役所ニ呈示スルヲ危險ナリトセハ官吏ニ於テ何時ニテモ會社ニ臨ミ檢閱スルトセハ雙方俱ニ便宜ナルヘシ
（本尾委員）
其精神ニ改ムレハ本條ハ削除スルモ可ナリ如何トナレハ後條ニ官吏ハ何時ニテモ檢査スルノ權ヲ有スルノ明條アルヲ以テ充分活用シ得ラルレハナリ
（鶴田委員）
名簿ヲ差出スハ餘リ必要ノモノニアラス多數ノ人員ヲ一々届出ルトセハ只タ混雜ヲナスニ止マリ毫モ其益アルヲ見ス
（長森委員）
裁判官ナリ登記官吏ナリ何時ニテモ會社ニ至リ之ヲ檢スルノ法ヲ設ケハ本條ハ削除スルモ不可ナカルヘシ
（岸本委員）
之ヲ削除スルモ不可ナシ
○本條ハ削除スルニ決ス
第五節 株式
○第百十七條 原案第百五十九條
株式ハ會社資本ヲ均一ニ分チタルモノトス其一株ノ金額貳拾圓ヲ下ル可ラス會社資本拾萬圓以上ナルトキハ一株ノ金額五拾圓ヲ下ル可ラス
（本尾委員）
原案ニ於テハ「株式ハ會社資本ヲ均一ニ分チタルモノトス」ノ一句ナシ是レハ株式會社ノ首條（原案第百二十九條）ニ記スル所ノモノヲ移シタルナリ元來首條ニ一定平等ノ額トアルハ株式タルノ解釋ナルヲ以テ該條ヲ議スルニ當テ本條ニ移スヘキコトニ論決アルニ依リ之ヲ此ニ移入シタリ而シテ移轉シ得ヘキノ語ハ株式ノ株式タル所以ナルヲ以テ之ヲ言ハサルモ明瞭ナルカ故ニ之ヲ削除シタリ又原案ニ依ルトキハ資本十萬圓以上ナルトキハ一株ノ金額百圓トナセトモ我邦ノ狀況ヲ以テ見ルトキハ五拾圓ヲ以テ適度ト思考スルカ故ニ之ヲ改メテ五拾圓トナシタリ彼ノ日本鐵道會社ノ如キモ一株五拾圓ナリ敢テ少額ナリトハ爲サヽルヘシ
○本條ハ左ノ如ク修正シタリ
第百十六條 株式ハ會社資本ヲ一定平等ノ額ニ分チタルモノニシテ其一株ノ金額貳拾圓ヲ下ル可ラス資本拾萬圓以上ナルトキハ一株ノ金額五拾圓ヲ下ル可ラス
○第百十八條 原案第百六十條同第百六十一條
株式ハ一株每ニ株劵一通ヲ作リ之ニ其金額發行ノ年月日、番號、社名及株主ノ氏名ヲ記シ社印ヲ捺シ且取締役署名捺印ス可シ
一株ヲ數名ニテ共有スルトキハ會社ハ其中ノ一名ヲ以テ株主ト見做スコトヲ得
（本尾委員）
本條ハ原案第百六十條ニ二株每ニ株劵一通ヲ作リ」ノ一句ヲ加ヘ第百六十一條ノ分割又ハ合併ヲ禁シタルノ精神ヲ取テ此ニ移入シタリ而シテ第百六十一條ニハ分割又ハ合併ノコトヲ記載セサルモ明瞭タルヲ以テ該條ニハ之ヲ削除シタリ
又第二項ハ原案第百六十一條ニシテ該條ノ首項ハ前項ニ挿入シタルヲ以テ本項ハ原案○以下ノミトナレリ本項ハ一體一ケ條トスルノ必要ナキヲ以テナリ
（委員長）
第二項ハ一株ヲ數名ニテ共有スルモノヽ規定ナレトモ若シ二株以上ヲ數名ニテ共有スルコトナシトセス故ニ二株以上共有ノ規定ヲ設ケサレハ不可ナリ
（岸本委員）
然ラハ一株トアルヲ株劵トセハ如何然ルトキハ一株モニ株以上モ亦包含スヘシ
又舊商法草案ニテハ其中ノ一名ヲ以テ名前人ト爲シタリ實際上ヲ考フレハ株主トスルヨリモ便宜ナルカ如シ
于時十二時喫飯中止
零時三十分開會
（本尾委員）
前條及本條初項皆會社ヨリ語ヲ立タルヲ以テ第二項モ亦會社ヨリ其中ノ一名ヲ以テ株主ト看做スヘキコトトセリ然レトモ株主ヨリ語ヲ立ツルトセハ別一ニケ條トナスヲ可トス
（鶴田委員）
然リ精神ヲ改メタレハ一ケ條トナスヘシ
○本條ハ初項ト二項トヲ分離シテ俱ニ一ケ條トシ左ノ如ク修正シタリ
第百十七條 原案ノ通
第百十八條 株式ハ分割又ハ合併スルコトヲ得ス數名ニテ株劵ヲ共有スルモノハ其中ノ一名ヲ以テ株主ト爲ス可シ
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○第百十九條 原案第百六十二條
株金金額ノ拂込以前ニ於テハ會社ハ假株劵ヲ交付シ全額完納ニ至リ本株劵ヲ交付ス可シ
○本條ハ異議ナク修正案ニ決ス
○第百二十條 原案第百六十三條
假株劵及本株劵ハ登記以前ニ之ヲ交付スルコトヲ得ス
（鶴田委員）
原案ハ交換ス可シトアルニ本條ニ於テハ之ヲ交付トセリ如何
（本尾委員）
修正案ニ於テハ全額完納ニ至リ本株劵ヲ交付ス可シト改メ交換ト云ハサルハ假株劵既納ニナリタルトキハ其假劵ヲ以テ直ニ本劵ト爲スコトヲ得ルノ便宜法ヲ設ケタルナリ蓋シ既納ノ後一々本株劵ヲ交付ストセハ之ヲ作ルノ費用夥多ニシテ會社ニ依テハ之レカ爲メ迷惑ヲ蒙ムルモノナシトセス然レトモ本劵ヲ作テ交換スルモ敢テ法律ニ違反スルノ所爲トハ爲サス其交換スルト否トハ會社ノ便宜ニ任スルノ精神ナリトス
○本條ハ異議ナク修正案ニ決ス
○第百二十一條 原案第百六十五條
株式ノ賣買讓與ハ會社ニ於テ買受讓受人ノ氏名ヲ株劵及株主名簿ニ記載スルニアラサレハ其効ナキモノトス但株金全額拂込以前ノ買賣讓與ハ會社ノ承諾ヲ要ス
（本尾委員）
本條ノ前ニ原案ニ於テハ一條アリ則第百六十四條之レナリ該條ヲ削リタル理由ハ原案ハ創業費用ヲ四分一拂込以前ニ支拂フ規定アルヲ以テ該條ヲ設ケタルモ修正案ニ於テハ創業費用ヲ支拂ノ規定ナキヲ以テ請取證書等ノ賣買讓與アルヘキ筈ナシ故ニ之ヲ削リタリ其第二項ハロエスレル氏自カラ削除シタルナリ
原案第百六十五條ノ二項ト第百六十六條トヲ比較スルニ實ニ繁雜ナルヲ以テ其責任ハ一方ニ之ヲ限定シタリ但其責任ハ次條ニ於テ之ヲ定ム
修正案第百二十一條ハ原案ノ精神ト異ナルコトナシ唯原案ニハ既納ト雖モ會社ノ承諾ヲ要スルコトトナシタレトモ既納ノ上ハ會社ノ承諾ナキモ隨意ニ賣買讓與シテ差支ナカルヘシ故ニ此精神ヲ以テ本條モ亦修正シタリ
（鶴田委員）
本邦會社ノ形況ヲ見ルニ若シ本條但書以下ノ規定ヲ設クルニ於テハ會社ノ融通上ニ至大ノ關係ヲ及ホシ商業社會ニ大影響ヲ來スヘシ何トナレハ現今ハ其一部ヲ拂入ルヽトキハ隨意賣買スルヲ得ルヲ以テ融通上ニ便宜ヲ得ルト雖モ本條ノ如キ法律ヲ設クルトキハ既納以前ハ一々會社ノ承諾ヲ要スルニアラサレハ賣買スルコトヲ得ス我邦現今ノ有樣ニハ少シク適セサルカ如シ
（岸本委員）
既納以後ハ會社ノ承諾ヲ得セシムルノ理由タル毫モ之レナキヲ以テ寧ロ削除スル冷セハ如何本條ハ弊ヲ防クノ手段トナラスシテ却テ社會ノ流通ヲ防害スルノ恐レアルモノトス
（本尾委員）
本條ヲ設クルハ會社及社外人ヲ保護センカ爲メナリ何トナレハ未納株劵ヲ九尺ニ間ノ貧乏人ニ賣渡ストキハ會社ハ全納スルノ見込ナキヲ以テ必ス其賣買ノ承諾ヲ與ヘサルヘシ社外人モ亦爲メニ其利益ヲ受クルコトヲ得ヘシ
（鶴田委員）
然リト雖モ亦不公平ノコトアリ或ル會社ノ倒產スルトキ頭取ノ知己ハ未タ倒產ナキ以前ニ所有株劵ヲ賣却シテ損害ヲ免カルレトモ頭取ニ緣故ナキモノハ承諾ヲ與ヘサルカ爲メ倒產アルヲ知ルモ之ヲ賣拂フコト能ハスシテ損害ヲ蒙ムルコトアルヘシ
（委員長）
初メテ株式ヲ申込ム時ハ如何ナル貧乏人ト雖モ申込アル以上ハ會社之ヲ承諾セサルヘカラサルヤ若此事ニ付規定ナキトキハ甚タ不都合アルヘシ
（本尾委員）
最初ニハ之ヲ拒ムノ規定ナシト雖モ實際ニ於テハ必ス拒絕スルナラン則人カ車挽ノ如キ窮困人ニシテ申込ムコトアルモ身元ヲ調査シテ全額ヲ納付ノ能ハサルモノト見認ムルトキハ必ス其申込ヲ拒絕スルヲ以テ敢テ之レカ規定ヲ設ケサルモ不都合ナカラン
（委員長）
但書以下ハ之ヲ削除スヘシ何トナレハ次條ニ未納額ニ付保證ノ義務アレハ此ニ之ヲ設ケサルモ充分ナレハナリ
○本條ハ但書以下ヲ削除シタルノミ
○第百二十二條 原案第百六十一條
株金全額拂込以前ノ賣渡人讓渡人ハ會社ニ對シ株金未納額ヲ保證スルノ義務アルモノトス
（本尾委員）
前回ニ陳辯シタルカ如ク第百六十五條ト第百六十六條トヲ合シテ一ケ條トシ全額完納ニ至ラサル間ハ未納額ヲ保證スルノ義務ヲ負擔セシムル旨ヲ規定セリ
（委員長）
原案ニ新所得者ノ外トアリ此方明瞭ナルヘシ
（本尾委員）
株金未納額ヲ保證スルノ義務トアルヲ以テ修正案ニ於テ明了ナリ
（鶴田委員）
「未納額ヲ保證スルノ義務アルモノトス」トアルニ依リ保證シタル證書ヲ記載セサルトキハ保證ノ義務ハナキモノトモ見ルヲ得ヘシ
（本尾委員）
證書ノ有無ヲ問ハス法律上當然保證人タルノ義務アルモノト爲サヽルヘカラス
○本條ハ左ノ如ク修正シタリ
第百二十二條 株金全額拂込以前ノ賣渡讓渡人ハ總テ會社ニ對シ株金未納額ノ保證義務ヲ負フモノトス
○第百二十三條 原案第百六十六條
會社ハ名簿及計算整理ノ爲メ廣吿ヲ以テ年度每ニ二ケ月ヲ踰ヘサル時間株劵ノ賣買讓與ヲ停止スルコトヲ得
（本尾委員）
原案ニハ十五日トアレトモ我邦ノ慣例ニ依レハ一ケ月ヲ以テ相當トナスニ依リ之ヲ一月ニ改メタリ
○本條ハ修正案ニ決ス
○第百二十四條 原案第百六十九條
會社存立中ハ既ニ拂込タル株金額及其拂込ニ因テ生シタル會社財產中ノ持分ハ之ヲ要求スルコトヲ得ス
（本尾委員）
本條ノ前ニ原案ニハ一ケ條ヲ第百六十八條設ケタレトモ本案ニ於テハ之ヲ削除セリ其理由ハ裁判判決ノ事ニ付テハ前例ニ於テ在ル如ク此ニ明條ヲ揭ケサルモ爭論ノ起ル時ハ裁判所ニ於テ判決スル勿論ノコトナルヲ以テ之ヲ削除シタリ
本條ハ原案ト毫モ異ナルコトナシ唯タ字句ヲ修正シタルノミ
○本條ハ左ノ如ク修正シタリ
第百二十四條 會社解散前ニ於テハ株金額其他會社財產中持分ヲ要求スルコトヲ得ス
于時三時三十分閉會