○第二讀會第四十五回
明治十九年一月十八日
欠席 渡邊委員
仝 周布委員
仝 岸本委員
午前第十時開會
（本尾委員）
修正案第百九條及第百十條ハ先回ニ於テ更ニ修正スルコトトナレリ依テ尙ホ修正委員ニ於テ討議ノ上該兩條ヲ合シテ修正スルコトニ決セリ蓋シ登記ト公吿トヲ分別スルトキハ屆出ノ煩アルノミナラス體裁モ亦充分ナラサルヲ以テ之ヲ合併シタリ卽チ左案ノ如シ
第百九條 會社ハ前條ノ金額拂込ノ後速ニ起業目論見書定款株式中込書ノ寫幷ニ設立許可書ノ寫ヲ登記官吏ニ差出シ左ノ事項ノ登記公吿ヲ受ク可シ
一 株式會社ナル事
二 會社ノ業體
三 社名及所在地
四 資本ノ總額及總株數幷ニ株ノ金額
五 各株ニ付拂入レタル金額
六 取締役ノ氏名住所
七 存立期限ノ有無
八 設立許可ノ年月日
九 開業ノ年月日
登記官吏ハ前項ノ書類ヲ登錄簿ニ添ヘ保存ス可シ
第百十條 會社支店ヲ設ケタルトキハ其所在地ニ於テ亦前條ノ手續ヲ爲ス可シ
（鶴田箕作委員）
此修正案ヲ以テ可トス
（委員長）
原案ニ依レハ登記ヲ終リタルトキハ登記官吏ヨリ登記證書ヲ下付スルノ明文アリ然ルニ修正委員ハ之ヲ削リタリ就テハ登記證ヲ下付セサルノ精神チルヤ
（本尾委員）
合名合資會社ニ在テハ登記證ヲ下付スルノ規定ナシ故ニ株式會社ニ限リ登記證ヲ下付スルノ理由ナカルヘシ既ニ合名會社ノ規定ニ於テ下付スルノ明文ナキ以上ハ株式會社ト雖モ亦同一ニ規定セサルヘカラサレハナリ
（鶴田委員）
公吿ハ公衆ニ示スモノナレハ別段ニ登記證ヲ下付セサルモ確實ナルコトハ論ヲ竢タサルナリ
（委員長）
併シ登記官吏ノ登記書類ヲ受取リタルニ之ヲ登記セス又ハ會社ニ對シテ登記ノ有無ヲ間フ者ニ對シテハ登記證ヲ下付スルトキハ大ニ有用ナル事アルヘシ
又原案三依レハ免許證書トアリ本書ヲ差出スカ如シ
（本尾委員）
實際ニ於テハ免許證書ノ本書ハ會社ニ保存シ登記役所ニハ其寫ヲ差出スナリ蓋シロエスレル氏ノ單ニ免許證書トセシハ公證人其寫ヲ作リ會社ハ其寫ラ保存シテ、本書ヲ登記役所三差出スコトトセシナラン然レトモ我國未タ公證人ノ制テキラ以テ其寫ラ登記役所ニ差出スコトトチルヘシ其本書ヲ差出スハ今日必要チラサルナリ登記役所ニ赱ヲ備置クハ畢竟公衆ノ展閱ニ供スル爲メナレハ本書ニアラサルモ可ナリ若シ强テ本書ヲ閱セシトセハ會社ニ至テ之ヲ觀ルモ亦不可ナカルヘシ
退席箕作委員
（細川委員）
登記ノ方法ハ一種ノ帳簿ニ其會社ノ組織ヲ記入スル事ニシテ例之ハ公債證書ノ番號所有人ヲ記載シ又ハ所有財產帳一ニ品ヲ購入シタルカ爲メ記入スルカ如キト同一ノ方法ナルヘシ然ルニ原案ノ如ク悉皆登記スルモノトセハ株式會社ノ定款ノ如キ大部ナルモノモ亦悉ク之ヲ記入セサルヘカラス實ニ其煩ニ堪ヘサルノミナラス全部記入ヲ要用モ亦ナキカ如シ
（委員長）
一體登記ハ詳細ナルヲ可トス然ルニ修正案ハ登記モ公吿モ同一ニ記入事項ヲ示シタリ公吿ノ如キハ公衆ニ知得セシムルモノナレハ或ハ數項ノ事件ヲ以テ足ルヘシト雖モ登記ハ重モニ關係各人ノ閱覽スルモノナレハ特ニ詳密ナルヲ要スルナリ
（本尾委員）
登記法ノ原則ヨリ論スルトキハ全部ヲ登記スルモノナレトモ株式會社ノ如キ其差出シタル幾種ノ書類ヲ悉ク登記スルトキハ手數ノ煩ナルノミナラス其費用モ蓋シ少々ニアラサルナリ故ニ修正委員ハ登記官吏ノ煩ヲ省キ會社ノ登記費用ヲ減シ以テ更二一ノ便法ヲ案出セリ卽チ大部ノ書類ニシテ敢テ登記セサルモ不可ナキ書類ハ之ヲ登記簿ニ添加セシメ以テ實際登記シタルト同一ノ効力ヲ與フルコトト爲セシナリ
（長森委員）
或ハ添加シタル書類ハ登記公吿シタル以外ノモノトスルノ疑ヒアリ
（鶴田細川委員）
然ラハ其外トナスモ不可ナカルヘシ
（委員長）
第百九條云々ハ差出シ左ノ事項ノ公吿ヲ受クヘシトシ登記ノコ昏ハ上文ニ於テ之ヲ爲サシムルコトヲ示サハ不可ナキカ如シ
（本尾委員）
然ルトキハ登記ヲ受クルモノハ登記官吏ニ差出シトアルニ包含セシムルカ故ニ少シク疑ヲ生スルコトナキニアラス
（委員長）
然ラハ更ニ登記スヘキコトヲ示スモ不可ナシ
（細川委員）
原案ニ依レハ登記ノ書類ヲ差出シトアリテ末尾ニ右ノ登記終リタルトキトアリ其登記スヘキ事項ハ會社ヨリ差出シタル書類ノ全部ナルヤ否詳ナラス是レ思フニ歐州ニテハ皆登記法ニ其詳細ナル規定アルヲ以テ之ヲ云ハサルノ意ナルモ計ラレサルナリ
（本尾委員）
一體株式會社ノ登記ハ詳密ニ爲サヽルヲ得サルモノナレハ原案ニ揭クル所ノ書類ハ皆登記役所ニ差出サヽルヲ得ス則役所ニ於テハ人民ノ觀覽ニ供スルカ爲メ該書類ハ必ス備置カサルヘカラスト云フノ精神ナルヘシ
（長森委員）
第十五條ニ依レハ登記ハ總テ全文ヲ記載セサルヘカラサルカ如シ
（鶴田委員）
許可書ノ寫ノ下ニ其他登記ニ必要ナル書類ヲ登記官吏ニ云々トセハ如何
（本尾委員）
可ナリト雖モ末項ノ登記官吏云々ニ至テ少シク不都合アルカ如シ何トナレハ證據立トスルニハ會社ノ必要ナル書類ヲモ差出スニ至リ其書類モ亦役所ニ留置セラルヽノ恐レアリ
（鶴田委員）
留置セラルヽ書類ハ寫ヲ以テ屆出サスルモ不可ナカルヘシ
（本尾委員）
又必要ナル書類トカ目錄トカスルトキハ第十一條ト重複スルカ如シ
（鶴田委員）
然リ重複スルト雖モ屆出ルモノハ書面ナルヲ以テ敢テ差支ナカルヘシ
（長森委員）
原案ニ從ヒ登記ト公吿トヲ分別シテ記載スルモ其効果ニ至テハ修正案ト毫モ異ナルコトナキニ至ルヘシ
（委員長）
登記ハ全文ヲ記載スルモノナルヤ又ハ要件ヲ拔萃シテ記載スルヲ以テ足レリトスルヤハ先ツ質問スルヲ要スルカ如シ
（本尾委員）
然リ就テハ先ツ此修正案ヲ以テ假定案ト爲シ更ニ質問ノ上修正スルコトトセンカ
（委員長）
然リ
正午十二時中止
午後開會
○第百十一條 原案第百五十條
設立ノ許可ヲ得タル後一年以內ニ登記公吿ヲ受ケサルトキハ設立ノ許可ハ其効ナキモノトス
第二十三條及第二十四條ノ規定ハ株式會社ニモ亦適用ス可シ
（本尾委員）
本條ハ原案第百五十條ト毫モ異ナラス止タ第四十二條トアルハ修正案第二十四條ニ當ルヲ以テ之ヲ改メ第二十三條モ亦株式會社ニ入用ナルヲ以テ之ヲ挿入シタルナリ
○本條ハ修正案ノ儘ニ決ス
○第百十二條 原案第百五十一條
創業會ノ承認ヲ經タル負債ト雖モ登記公吿以前ニ在テハ發起人取締役及株主其全財產ヲ以テ連帶ノ責任ヲ負フモノトス
○第百十三條 原案第百五十二條
創業會ノ承認ヲ經サル負債ニ對シテハ發起人其全財產ヲ以テ連帶ノ責任ヲ負フ可シ
（本尾委員）
本條ハ原案第百五十一條ト精神異ナルコトナシ止タ字句ヲ變シタルニ過キス本條ハ創業費用ノ承認ヲ經サルモノハ發起人獨リ之ヲ擔任シ其承認ヲ經タルモノハ若シ會社ノ成立セサルトキハ發起人取締役及株主之カ責任ヲ負ハサルヘカラサルヲ云フ
（細川委員）
本條ハ會社ノ無効トナリタル場合ヲ云フヤ
（本尾委員）
無効トナリタル場合其他如何ナル事ニテモ登記公吿以前ニ債主ヨリ要求セラレタルトキハ本條ヲ適用スルナリ又支拂停止ノ時ノ如キ亦然リ右ノ場合ニ於テハ社外ニ對シテ未タ會社ノ成立セサルモノナレハ債主ハ何人ニ對シテ之ヲ要求スルヲ得ルヤ詳カナラス依テ本條ニ債主ハ發起人取締役及株主ニ向テ之ヲ要求スヘシト蓋シ株主ハ會社設立ノ贊成者ニシテ且ツ其負債ヲ承認シタル屯ノナレハ之レカ責任ヲ擔當スルモ亦是非ナケレ尤モ本條ハ株主ニ對シテ大ニ嚴酷ナル規定トス何トナレハ創業會ニ於テハ多數決ヲ以テ承認スルモノナレハ或ハ株主中心窃ニ承認ヲ諾セサルモノナキニアラス然ルニ法律ハ適法ノ決議ヲ以テ諾否ノ如何ヲ論セス之カ責任ヲ株主ニ擔當セシムルハ大ニ酷ナルモノトス
（細川委員）
蓋シ會社ヲシテ信用ヲ得セシメ社外人ヲ保護センニハ或ハ不可ナカラン歟
（鶴田委員）
若シ發起人創業會ニ呈出スルコトヲ怠リ途ニ承認ヲ經サルナキハ公然會社ノ支拂ニ屬スルモノナルト雖モ法律アルカ爲メ發起人自ラ擔當セサルヲ得ス實ニ發起人ハ迷惑ト云ハサルヘカラス
（本尾委員）
其場合ニ於テハ不得己發起人ニ於テ負擔セサルヲ得スト雖モ臨時總會ヲ開キ以テ其承認ヲ經ルノ途ナキニアラス
○衆議ノ上左ノ如ク修正スルコトニ決セリ
第百十二條 登記公吿以前ニ在テハ創業會ノ承認ヲ經タル負債ニ對シ發起人取締役及株主其全財產ヲ以テ連帶ノ責任ヲ負フモノトス
第百十三條 登記公吿後ト雖モ創業會ノ承認ヲ經サル負債ニ對シテハ發起人其全財產ヲ以テ連帶ノ責任ヲ負フモノトス
○第三節 社名
○第百十四條 原案第百五十三條同第二項第十二條
社名ニハ株主ノ氏名ヲ用ルコトヲ得ス
社名ニハ必ス株式會社ノ語ヲ付ス可シ
社名ハ他ノ株式會社ノ社名ト區別セサル可ラス
（本尾委員）
本條ヲ議スルノ前ニ原案第百五十三條ヲ削除シタル理由ヲ陳述セン原案第百五十三條ハ株式會社ニノミ之ヲ揭ケ合名會社ニ之ヲ示サヽルトキハ合名會社ニ在テハ該條ト異ナルヤノ疑ナキニアラス然レトモ合名會社ト雖モ該條ト異ナルコトナキハ明瞭ナリトス就テハ株式會社中ニ之ヲ揭ケス更一ニケ條ヲ總則ニ設ケ以テ前顯ノ疑ナカランコトヲ要ス其總則中ニ揭クヘキ文案左ノ如シ而シテ其位置ハ第三條ノ次ヲ以テ至當ト思料ス
第 條會社ハ登記公吿ヲ受クルニ非レハ社外ニ對シ法律上ノ効ナキモノトス
若シ右ノ一ケ條ヲ第三條ノ次ニ置クコトニ決セハ第三節ハ社名一ケ條トナルニ依リ次節ヲ本節ニ合併シ第三節社名及ヒ株主ノ名簿ト爲セハ却テ便且ツ簡ナルニ至ルヘシ
（鶴田委員）
然リ合併シテ可ナルヘシ
（細川委員）
總則輔ニケ條ヲ挿入スルモ可ナリ
○衆議ノ上左ノ一ケ條ヲ總則第三條ノ次ニ挿入スルコトニ決ス第四條會社ハ登記公吿ヲ受クルニ非レハ社外ニ對シ法律上ノ効ナキモノトス
○第三節 社名
○第百十四條ハ「用ル」ヲ「用ユル」ニ「語」ヲ「字」ニ改メ他ハ修正案ノ通リ
○第百十五條 原案第百五十五條
會社ハ株主名簿ヲ設ケ左ノ事項ヲ記載ス可シ
一 株主ノ氏名住所
二 株主各自所有ノ株數及株劵ノ番號
三 株金既納額
四 株式賣渡讓渡ノ年月日
（本尾委員）
本條ハ原案ノ精神ト異ナルコトナシ併シ第四ハ合名會社ニハ入社退社トアレトモ株式會社ニハ卽チ賣渡讓渡ナルヲ以テ之ヲ改メタルノミヘ
○本條ハ第四「賣渡讓渡」ヲ「賣買讓與」ト改メ他ハ修正案ニ決ス
○第百十六條 原案第百五十八條
會社ハ每年通常總會後一ケ月以內ニ株主名簿ノ寫ヲ登記官吏ニ差出ス可シ
（本尾委員）
原案第百五十六條ハ第二百二十四條ト同一ノ規定ニシテ第二百二十四條ノ詳悉ナルヲ採用シテ之ヲ削除シタリ又第百五十七條ノ如キハ特ニ示サヽルモ勿論ノ事ナルニ依リ是亦削除シタリ
本條ハ原案第百五十八條ニ該當ス原案ニ依レハ株主名簿ノ本書ヲ裁判所ニ差出スカ如シ元來裁判所ニ差出スハ變更ノ部分ヲ檢閱スル爲メナレハ一時本書ヲ差出シ忽ニシテ之ヲ會社ニ下戾ストキハ充分ノ綸撚閱ヲ爲スコト能ハス又會社ノ不便宜ナルコトナレハ修正委員ハ寫ト爲シタリ蓋シ寫ヲ差出サシムル方便宜確實ナルコトト思料スルナリ
○本條ハ修正案ノ儘ニ決ス
于時午後第三時三十分散會