○第三十九回
明治十八年十二月三日
欠席 細川委員
仝 渡邊委員
仝 塩田委員
仝 周布委員
仝 長森委員
午前第十時開會
○第八十五條
業務擔當社員又ハ取締役ハ會社ヲ代表スルノ權利ヲ專有スト雖モ會社契約又ハ會社ノ決議ヲ以テ其權利ニ制限ヲ立ルコトヲ得
○第八十六條
業務擔當社員又ハ取締役ノ代表權利ノ制限ハ善意ヲ以テ之レト取引ヲ爲シタル者ニ對シ其効ナキモノトス
（本尾委員）
第八十五條ノ原案ニハ業務擔當者又ハ取締役ハ裁判上ト裁判外トノ事件タルニ拘ハラス總テ會社ヲ代表スルノ權利ヲ專有スル者トス但會社契約中ノ規定及ヒ會社ノ決議ヲ遵守セサルヘカラストアリ之ヲ合名會社ノ規則ニ對照スルニ但書ヲ追加シタルノミ而シテ合名會社ノ規則ニ此但書ヲ記セサルハ制限ヲ立ルヲ得サルヲ以テナリ然リ而シテ原案但書ノ文ハ甚タ明瞭ナラス其意ヲ要スルニ制限ヲ立ルヲ得ルノ謂ヒナリ之ヲ以テ修正委員ハ之ヲ明瞭ニ記載シタルナリ
（箕作委員）
制限ヲ立ルヲ得ル理由如何
（本尾委員）
合資會社ハ有限ヲ以テ原則ト爲スニ因リ隨テ合名會社ノ規則ト異ナリ幾分カ制限ヲ立ルコトヲ許サヽルヘカラス但シ其制限ヲ立ルモ社內ニ効アルノミニシテ社外ニ對シテハ其制限ヲ知ラサル者ニ對シテ効力ヲ有スルコトナシ是レ次條ニ規定スル所ナリ
偖テロエスレル氏ノ精神ニ依レハ修正案ノ如ク揭載セサルヘカラスト雖モ此制限ハ社內ニノミ効アリテ毫モ社外ニ對シ關係ナキヲ以テ故ラニ之ヲ明揭スルニ及ハサルナリト論スルヲ得ヘシ併シ合名會社ト異ナルノ㸃卽チ社外人ノ善意ナル者ニ對シ効アルノ場合ヲ示サンカ爲メニハ原案ノ意ヲ採リテ本案ノ如ク記載セサルヲ得サルナリ
（箕作委員）
株式會社ノ規定ハ如何
（本尾委員）
本案ノ合資會社ハ有限ヲ以テ原則ト爲シタルニ因リ本條ノ場合ハ株式會社ノ規定ヨリ來因シタルモノト云フヘシ
（箕作委員）
然ルニ依テロエスレル氏ノ精神ハ株式會社ト同一ニセントノ意ヲ以テ次條ノ如キ條則ヲ設ケタルニ至リシナリ
（本尾委員）
本條ニ制限ヲ設クルヲ得ルモ次條ニ於テ善意ノ者ニ對スルノ外効ナキモノトスルハ敢テ無用ノ條ト云フモ不可ナカルヘシ又次條ノ善意ナルヤ否ヲ實際判別スルカ如キハ最モ困難ノ事情アルヲ免レサルナリ如斯効力ナキモノハ寧ロ之ヲ削除スルニ若カサルナリ
又本條ハ次條ノ規定アリテ合名會社ノ法則トハ少ク異ナル所ナキニアラサレトモ若シ之ヲ揭載スルトキハ合名會社ハ全ク本條ニ反スルモノ卽チ制限ハ社外ニ對シ効力アリトノ誤解ヲ免レサレハ此誤解ノ恐レヲ妨カンカ爲メニハ宜シク之ヲ削除スルヲ可トス
（岸本委員）
ロエスレル氏ノ意ハ合資會社ヲ以テ有限ヲ主トスルニ依リ明條ヲ揭クルコトム爲シタルモノニシテ又原案ノ精神ヲ可成採用スルコトニ決シタル以上ハ之ヲ揭クルヲ可トス合名會社ノ法則ト殆ント異ナラストテ削除スルハ立法官ノ不深切ナリト云ハサルヘカラス若シ之ヲ揭クルヲ不可トセハ寧ロ「コンチネント」主義ニ依テ本節ヲ規定スルノ外ナカルヘシ然レトモ今此兩條ヲ修正案ノ如ク爲スハ少シク冗長ニ涉ルヲ以テ合シテ一ケ條ト爲シ左ノ如ク修正セハ可ナルヘシ
第八十五條業務擔當者又ハ取締役ノ代表權利ニ會社契約又ハ會社ノ決議ヲ以テ制限ヲ立ルモ善意ヲ以テ取引ヲ爲シタル者ニ對シテハ其制限ハ無効トス
（本尾委員）
原案第百十四條ヲ觀ルニ合資合名ノ社員ト權利義務ニ至テハ異ナル所ナシ然ルニ修正案第八十五條及第八十六條ニ至リ合名社員ト區別ヲ設タルハ不條理ト云ハサルヲ得ス何トナレハ一方ニ於テハ同一ノ權利義務ト云ヒ一方ハ其權利ニ制限ヲ付スルヲ得ルト云フハ對應セサルノ說ト云ハサルヘカラサレハナリ故ニ原案第百十四條ヲ削リタルト同一ニ此兩條モ亦削除スルヲ可トス
（岸本委員）
修正案第五十三條中ニ「其制限ハ善意ヲ以テ之レト取引ヲ爲シタル者ニ對シ無効トス」ヲ加ヘ第八十五條及第八十六條ヲ削除センニハロエスレル氏ノ仙精神ヲ毫モ變更スルコトナクシテ簡短ニ修正スルヲ得ヘキニ依リ此說ニ決スルナラハ此爾條削除讀ニ對シ敢テ抗辯セサルナリ
（鶴田委員）
然リ合資合名ト云ヒ惡意ヲ以テ取引ヲ爲シタル者ハ同一ニ處分スルヲ以テ正當ナリトス
（本尾委員）
此第五十三條中ニ修正ヲ加ヘ此兩條ヲ削除スルハ可ナルカ如シ
（岸本委員）
原案ノ如ク合名會社ノ場合ニ取引ヲ爲シタル第三者ノ善意惡意ヲ論セスト爲スハ嚴酷ニ失スルノ恐レアルヲ以テ惡意者ノミヲ制裁セハ充分ナルヘシ
（箕作委員）
本員ハ第五十三條中ニ善意云々ヲ追加スルハ贊成セサル所ナリ
（岸本委員）
委員長ノ說ニ從ヒ第八十四條ノ「七名以上ナルトキハ」ヲ削リ人員ノ數如何ヲ問ハス取締役ヲ設クルコトヽ爲シ而シテ第八十五條及ヒ第八十六條ノ擔當者ノ字ヲ削リテ業務擔當者ノ事ハ總テ合名會社ノ規則ニ從ハシメ本節ニハ取締役ニ關スルコトノミヲ」碣クルトセハ創〃除說モ蓋シ呈出スルモノナカルヘシ其取締役ノ語穩當ナラサレハ之ヲ理事又ハ幹事ト改ムルモ可ナリ
（本尾委員）
名稱ヲ改正スルハ體裁上ニ止マリ其實毫モ變更スル所ナシ
于時十二時ナルヲ以テ中止
午後開會
○衆議ノ上左ノ如ク修正ヲ爲スコトニ決ス
第五十三條中「爲」ノ一字ヲ削除
第八十一條中第四「業務ノ擔當者又ハ」ノ八字ヲ削除ス
第八十四條中「社員七名以上ナルトキハ」ノ十一字ヲ削除ス
第八十五條及第八十六條ハ左ノ如シ
第八十五條 取締役ハ會社ヲ代表スルノ權利ヲ專有スルモノトス但シ會社契約又ハ會社ノ決議ヲ以テ其權利ニ制限ヲ立ルコトヲ得
第八十六條 取締役ノ代表權利ノ制限ハ善意ヲ以テ取引ヲ爲シタル社外人ニ對シ無効トス
○第八十七條
有限責任社員ハ會社ノ承諾ヲ得テ其持分ヲ他人ニ賣渡讓渡スコトヲ得此場合ニ於テハ其社員ヲ退社員トシ買受讓受人ヲ其權利繼承者ト看做ス可シ
（本尾委員）
本條ハ原案ト異ナル所ナシ
（鶴田委員）
會社ノ承諾トハ總社員ノ承諾ナルヤ又ハ取締役ノ承諾ナルヤ
（本尾委員）
取締役アリト雖モ尙ホ總社員ノ承諾ト云フノ意ナリ
○本條ハ左ノ如ク修正セラレタリ
第八十七條有限責任社員ハ特約アルニ非サレハ取締役ノ承諾ヲ得テ其持分ヲ他人ニ賣渡讓渡スコトヲ得其買受讓受人ハ舊社員ノ權利義務ヲ繼承シタルモノトス
○第八十八條
業務擔當者員又ハ取締役ハ其在任中ニ生シタル會社ノ負債ニ對シ無限ノ責任ヲ負フコトヲ會社契約又ハ會社ノ決議ヲ以テ定ムルコトヲ得
前項ニ揭ケタル無限ノ責任ハ其解任後一ケ年ヲ以テ限リトス
（本尾委員）
本條ハ原案ト異ナルコトナシ
（本尾委員）
原案第百十九條及第百二十條ヲ削除シタル理由ヲ陳述センニ此兩條ハ修正案第五十條及第五十四條ト同一ナルヲ以テ重複スルニ依リ之ヲ削除シタリ尤モ第百二十條但書ノ場合ハ合名會社ノ規則中ニ揭載セスト雖モ精神ハ暗ニ包含スルモノナレハ共ニ之ヲ削除セリ
（委員長）
第八十八條モ亦刪リテ可ナルヘシ
（鶴田委員）
否本條ハ有限責任社員カ取締役トナルトキハ無限責任ヲ負ハシムルコトヲ得ヘキ事ヲ示スノ條ナレハ削除スルコトヲ得サルナリ
○本條ハ左ノ如ク修正セラレタリ
第八十八條會社ハ取締役ノ在任中ニ生シタル負債ニ對シ無限ノ責任ヲ負ハシム可キ旨ヲ會社契約又ハ會社ノ決議ヲ以テ預メ定ルコトヲ得
前項ニ揭ケタル無限ノ責任ハ其解任後一ケ年ヲ以テ限リトス
○第八十九條
業務擔當社員又ハ取締役ハ每年一回以上總會ヲ開ク可シ其他社員四分一以上ノ請求アルトキハ亦之ヲ開カサル可カラス
（本尾委員）
原案第百二十三條ハ合名會社ノ第三十一條ト重複スルモノナレハ之ヲ削除シタリ然ルニ合資會社ニ限リ「意見ヲ陳シ」ノ語アリテ合名會社ノ規則中ニ此語ナシ是レ兩會社ニ等シク記スヘキ理由ナリト雖モ之ヲ要スルニ精神ハ毫モ異ナラサルヲ以テ之ヲ刪リタリ
（鶴田委員）
業務擔當者ヲ削リタル以上ハ取締役ノ常置員トナルヲ以テ矢張リ原案ノ如ク記載スル方可ナルヘシ
（本尾委員）
然リ追加スルモ不可ナシ
○本條ハ「業務擔當者又ハ」ヲ削リ他ハ修正案ノ通リニ決シ第三十一條ヲ修正スルコト左ノ如シ
第三十一條業務ニ與カラサル社員ハ業務ノ實況ヲ監視シ會社ノ帳簿其他ノ書類ヲ檢閱シ意見ヲ陳述スルコトヲ得
○第九十條新設
總會ヲ開クニハ其目的及呈示ス可キ書類ヲ開會ヨリ十四日以前ニ各社員ニ送付ス可シ
（本尾委員）
本條ハ原案第百二十四條ノ末項及ヒ第百二十五條ノ末尾又第百二十二條中ニ揭タルモノトス如斯三ケ所ニ再三揭載スルハ煩雜ナルヲ以テ修正委員ハ之ヲ合シテ一ケ條ヲ新設セリ卽チ本條是レナリ
（委員長）
可ナリ併シ位地ハ第九十一條ノ次ニ移ス方可ナルヘシ
（本尾委員）
然リ第九十一條ハ通常會第九十二條ハ臨時會ノ規定ニ係ルヲ以テ本條ハ第九十二條ノ次ニ移スヲ可トス第二十二號議案中ニ其位地ヲ定メテ記載セン
（鶴田委員）
然ラハ其改正案提出ヲ竢テ後回ニ之ヲ議定セン
于時午後二時三十分閉會