○第三十一回
明治十八年十一月七日
欠席 渡邊委員
仝 周布委員
午前第十時開會
（本尾委員）
先回ノ決議ニ從ヒ修正委員ニ於テ第六十一、第六十ニ及ヒ第六十三條ヲ再修正スルコト左ノ如シ
○第六十一條
社員ハ第六十三條ニ遒ヒ隨意退社スルコトヲ得但存立期限ヲ定メタル場合ニ於テハ總社員ノ承諾ヲ要ス
○第六十二條
左ノ社員ハ退社シタルモノトス
一 除名セラレタル者
二 嗣員ナキ死亡者
三 破產者
四 無能力者
○第六十三條
社員隨意ニ退社セントスルトキハ六ケ月前ニ豫吿シ事業年度ノ末ニ限ルモノトス但特約又ハ重要ノ事由アルトキハ此限ニアラス
（箕作委員）
第六十一條ニ第六十三條ニ遒ヒトハ如何ナル意味ナルヤ
（本尾委員）
事業年度ノ末ニアラサレハ不可ナリト云フノ意ナリ
（箕作委員）
第六十三條ト故ラニ揭ケサレハ不可ナルヤ
（本尾委員）
之レナキモ强チ差支ノ㸃ナシト雖モ豫吿等ノ事ヲ示スハ不用ナラサルカ如シ又之ヲ削除スルトキハ立條餘リ簡短ニ失スルノ恐レアルヲ以テ旁之ヲ挿入シタリ
（委員長）
第六十三條アルトキハ第六十一條ハ不用ナルカ如シ
（本尾委員）
舊案ニハ隨意退社ノコトヲ事項中ニ揭ケタレトモ之ヲ分揭スルトキハ敢テ不用ト云フヲ得サルヘシ
（岸本委員）
本條ニ之ヲ揭ケサルモ敢テ差支ナシト雖モ故ラニ之ヲ揭ケタルハ但書以下ヲ云ハンカ爲メナリ
（箕作委員）
終身社員タルノ契約ヲ結ヒタル者ハ何レノ事項ニ入ルヤ
（本尾委員）
修正委員ニ於テハ但書以下ニ包含セシムル積リナリ依テロエスレル氏ノ精神トハ全ク異ナリトス
（長森委員）
終身ハ有期ニモ無期ニモ解釋シ得ラルヽナリ
（本尾委員）
然リ其見解ハ學者ノ鑑定ニ依テハ有期トモ無期トモ解シ得ラルヘシ故ニ本案ニ於テハ其有期無期ノ㸃ヲ明確ニ決定シ置カレソコトヲ希ム
（岸本委員）
佛國ニハ明文ナキモ社員ノ終身ヲ以テ目的トスル會社ハ定期アル會社ト爲セリ故ニ本案ノ如ク疑ヲ生スルコトナシ
（本尾委員）
獨法ニハ之ヲ定期會社ト看做スノ明文アリ然レトモ存立期限ヲ定メタルトハ契約ヲ以テ期限ヲ付シタルヲ云フ未必條件付ノ契約モ亦之ヲ論スレハ有期ナリト雖モ契約ヲ以テ之ヲ定ムルノ區別アルヲ以テ明カ示スハ有用ナルカ如シ
（長森委員）
終身ハ直接ニ會社ノ期限ナリトハ云ヲ得ス如何トナレハ五人ノ會社ニシテ其內生命ニ長短アリテ一定スルヲ得ス故ニ之ヲ以テ會社ノ期限トスルヲ得サレハ終身トハ其人々ニ就テ示スモノト解セサルヲ得ス
（岸本委員）
終身トハ一社員ノ終身ヲ期ト爲シテ定メタル場合ヲ云フ總社員ノ終身ト云フノ意義ニハアラサルナリ
（委員長）
入社ノ時ニ期限ヲ定メタルトキハ退社ノ時總社員ノ承諾ヲ要セサルハ勿論二ケ月前ニ豫吿スルノ義務ハ之レナキヤ
（本尾委員）
然リ如何トナレハ入社ノトキ期限ヲ定メタルハ恰モ豫吿シタルト同一ナレハナリ
（長森委員）
會社契約ハ元來承諾上ヨリ存立シタルモノナレハ有期無期ノ會社タルヲ論セス退社モ亦總員ノ承諾ヲ要スルモノト爲スヘシ如何トナレハ元承諾ニテナリタルモノナレハ之ヲ變更スルモ亦總員ノ承諾ヲ要セシムルハ正當ナルモノナレハナリ
（本尾委員）
無定期ト定期ノ會社トハ同一ニ論スルコトヲ得サルヘシ若シ無期ノ會社ニ於テ承諾ヲ得サルヘカラサルモノト爲ストキハ餘リ社員ヲ束縛スルニ至ルノ恐レアリ
（長森委員）
假令束縛ヲ受クルモ皆自己ノ承諾上ヨリ生スルモノナレハ之ニ對シ異議ヲ唱フルコトヲ得ス若シ無期ノ會社ニシテ隨意ニ退社セシムルトキハ會社ノ弊害ヲ生スルコト蓋シ少々ニアラサルナリ
（岸本委員）
本員ハ總員ノ承諾ヲ受クルヲ可トス一體ロエスレル氏ノ草案ニ於テモ敢テ缺㸃ナシト云フヲ得ス彼ン第九十四條ニ期滿冤除ハ一年トストアリ例ハ無資力ノ者二人アリテ五萬圓ノ會社ヲ組織セントスルニ際シ右ノ二人ニシテ壹萬圓ヲ提出シ三井大丸等ノ毫商ヨリ三万圓ヲ提出シテ會社ヲ設置セシニ其會社ハ三井大丸ノ名義アルヲ以テ五萬圓ノ負債ヲ募ルハ容易ナルヘシ然ルニ世人ノ信用ヲ以テ業務ノ盛大ニ赴カントスルニ際シ三井大丸等退社スルトキハ其責任一ケ年ニ止マルヲ以テ初メ組織ヲ企テタル二人ニシテ其會社ノ負債ヲ擔當スルノ資力アリトセハ敢テ異議ヲ唱フルコトナシト雖モ其負債ヲ償却スルノカナキハ勿論出資トナスヘキ金額モ亦空物ナリシトキハ會社ノ債主ハ實ニ容易ナラサル迷惑ヲ蒙ムルニ至ルヘシ故ニ之ヲ嚴酷ニ論スルトキハ總社員ノ承諾ヲ要セシムルノミナラス會社ノ債主ノ承諾ヲモ得サル時ハ退社スルコトヲ許サスト爲スヲ以テ至當ナリト信ス如何トナレハ若シ之ヲ債主ノ承諾ヲ得ルニ及ハストスルトキハ法ハ詐僞者ノ玩弄物トナルニ至ルノ恐レアリ歐洲各國モ亦前述ノ程度ニ法ヲ立テニ敢テ不都合ナキヲ見レハ本法獨リ不都合アリトスルヲ得ス依テ總員ノミナラス債主ノ承諾ヲモ受ケシムヘシ
（委員長）
本條ハ他國法ニモ亦揭ケアルヤ
（岸本委員）
ナシ隨意退社ノコトハ本案ヲ以テ嚆矢トス
（本尾委員）
一體本案嚴酷ヲ主義トセハ岸本委員ノ說敢テ不可ナシトセサレトモ已ニ社員關係ノ條ニ就テハ餘程自由ヲ與ヘタリ然ルニ此ニ到テ極メテ嚴酷ナル條項ヲ設クルハ全體ノ主義ニ反シテ不可ナリト信ス若シ之ヲ嚴酷ニシテ債主ノ承諾ヲモ受ルトセハ會社住所ノ比隣ニ住スル者ハ敢テ手數ヲ要スルコトナシト雖モ其債主ニシテ遠隔ノ地例ヘハ亞弗利加沙漠中ニ住居スルモノアリトスルトキハ如何スル是モ亦一々承諾ヲ求メサルヘカラス實ニ言フヘクシテ行フ可ラサル說ト云フヘシ
（箕作委員）
日本今日ノ實際ニ依レハ「コンチネント」ノ主義ヲ以テ起稿スル方可オルカ如シ
（岸本委員）
若シ原案ノ精神ニ依ルトキハ容易ニ退社シ得ヘキニ依リ人ヲ信用スルヲ得スシテ會社ノ資本ヲ目的ト爲サヽルヘカラス之ヲ目的トナサシムルニハ鶴田委員ノ說ノ如ク登記公吿シテ債主ノ異議ヲ申述ヘシムルコトヽ爲スヲ可トス
（箕作委員）
有期無期ヲ論セス退社ハ總社員ノ承諾ヲ得ヘキモノトナシ修正案六十七條ノ責任ヲ三年ナリ五年ナリニ改メ又退社ヲ登記公吿セシムルコトヽセハ取締ハ充分ナルヘシ
（岸本委員）
左ノ如ク改案セハ如何
第六十三條 社員ハ前條ノ場合ヲ除クノ外豫メ六ケ月前ニ公吿シタル上總社員ノ承諾ヲ得ルニ非レハ退社スルコトヲ得ス
會社ノ債主ハ前項ノ六ケ月間ニ社員ノ退社ニ就キ故障ヲ述フルコトヲ得
于時十二時ナルヲ以テ未タ議定ニ至ラスノテ退散ス