○第三十回
明治十八年十一月五日
欠席 細川委員
仝 渡邊委員
仝 周布委員
午前第十時開會
○第五十八條及第五十九條
（本尾委員）
先回ニ於テ原案第八十二條及ヒ第八十三條ヲ更ニ修正シテ提出スルコトニ決セシカ其修正案ハ卽チ左ノ如シ
第五十八條 會社財產ニ屬スル物件ハ社員ノ債主ノ要求ニ充ルコトヲ得ス但差入前ニ於テ其物件ニ付既ニ得タル權利アル者ニ對シテハ此限ニアラス
第五十九條 社員ノ請取ル可キ利息又ハ利益配當高ハ社員ノ債主ヨリ會社ニ對シ之ヲ要求スルコトヲ得其持分ヲ要求スルハ社員ノ退社若クハ會社解散ノ場合ニ限ル可シ
○第五十八條
（箕作委員）
「權利アル者」トハ重モ二人權卽チ債主權ヲ有スルモノヽ方ヨリ語ヲ立タルカ如ク見ヘ原案ノ精神ト少シク異ナル所ナキヤ
（岸本委員）
全ク人權ノミト見ユルトキハ甚タ不可ナリ修正委員ハ原案ト異ナラサル意義ヲ以テ修正シタルナリ
○本條ハ「既ニ得タル」ヲ「既得ノ」ニ修正シタルノミ
○第五十九條
（箕作委員）
其持分以下ハ前條ノ會社財產トアルニ包含スルモノト看認メ本條ノ其持分以下ハ削除セハ如何
（鶴田委員）
若シ前條ニ包含セシムルトキハ矢張社員ノ手ヲ經サレハ債主之ヲ受取ルコトヲ得ス此場合ハ社員ノ手ヲ經ス直ニ會社ヨリ受取ルコトヲ得ル場合ヲ示スモノナレハ前條ニ包含セシムルトキハ其精神ヲ失フニ至ラン
（委員長）
「但シ持分ハ退社若クハ會社解散ノ場合ニアラサレハ之ヲ要求スルコトヲ得ス」トセハ如何
○本條ハ「請」ヲ「受」ニ「要求スルハ」ヲ「要求スルヲ得ルハ」ニ改タルノミ
○第四節 社員ノ退社
○第六十一條 原案第六十八條及六十九條
社員左ノ場合ニ於テ退社スルモノトス
一 任意ノ退去會社契約ニ存立期限ヲ定メス若クハ社員ノ終身ヲ以テ其副期限ト爲シタルトキ又ハ存立期限ヲ定メタルニ於テハ總社員ノ承諾ヲ得タルトキ
二 除名
三 死亡相續人ナキ時
四 破產
五 無能力者特約ナキ時
社員ノ退社ニ因リ會社ハ解散ニ至ラサルモノトス
（本尾委員）
原案ニハ除名セラルヽノ外トアリタレトモ修正委員ハ之ヲ事項中ニ列記シタリ
本條ハ第一任意ノ下ニ註文アルヲ以テ修正委員ハ特ニ別案ヲ設ケタリ卽チ左ノ如シ
（第二案）
○第四節 社員ノ退社
○第六十一條 社員ハ左ノ場合ニ於テ退社スルモノトス
一 任意ノ退去
二 除名
三 死亡
四 破產
五 無能力者
社員ノ退社ニ因リ會社ハ解散ニ至ラサルモノトス
第六十二條 社員退社シタルトキハ會社ハ速ニ其理由ト共ニ其登記公吿ヲ受ク可シ
第條任意ノ退去ハ會社契約ニ存立期限ヲ定メス若クハ社員ノ終身ヲ以テ其期限ト爲シタルトキ又ハ存立期限ヲ定メタルニ於テハ總社員ノ承諾ヲ得タル時ニ限ルモノトス
此第二案任意ノ退去ノ下ニ註文ヲ揭ケス若シ之ヲ揭クルトキハ別ニ其解釋ヲ設クルヲ可トスルニ依リ後條ニ之ヲ揭ケテ本項ニハ之ヲ削除シタリ
又死亡ノ下ニ原案ハ相續人ナキ時トアレトモ其相續人ノ事ハ既ニ前條ニ記シタルヲ以テ玆ニ之ヲ要セサレハ削除シタリ
又無能力者ノ下ニ特約云々ヲ削リタリ是レ無能力者アルトキハ後見人之レカ社員トナル場合ナリト雖モ實際無能力者ヲ社員トスルコトナカルヘシ又之アルモ各社員ノ熟議ニ依テ社員トナスコトナレハ此ニ揭クルモ必用ナキヲ以テナリ
（箕作委員）
退社ノ語ハ何分穩當ナラサルナリ慣習ニ依レハ隨意ノ退去ノ場合ニ限リ退社ト稱スルモノニ如シ
（岸本委員）
然リ就テハ「社員ノ退去」ト爲シ第一ヲ任意ノ退社トセハ可ナルヘシ
（長森委員）
本節ノ首條ニハ隨意退社ノ場合ヲ記シ本條ヲ其次條トセハ如何卽チ其案左ノ如シ
第六十一條 會社契約ニ存立期限ヲ定メス若クハ社員ノ終身ヲ以テ其期限ト爲シタルトキ又ハ存立期限ヲ定メタルニ於テハ總社員ノ承諾ヲ得ルトキハ退社スルコトヲ得
第六十二條 左ノ場合ニ於テハ退社シタルモノト看做ス
一 除名
二 死亡
三 破產
四 無能力者
（箕作委員）
本案ハ第二案ヲ可トス併シ第六十一條末項ノ「社員ノ退社ニ依リ會社ノ解散セサルモノト」アルハ短文ナリト雖モ別二一ケ條ヲ設ケテ記載スルヲ正當ナリトス
（鶴田委員）
第二案ヲ可トスレトモ第一ニ會社契約ニ存立期限ナキ時第二終身會社ナルトキ第三有期會社ナル時トアレトモ此等ハ示サヽルモ單ニ總社員ノ承諾ヲ得テ退社スルヲ得ト爲セハ充分ナルヘシ
（本尾委員）
否總社員ノ承諾ヲ得ルハ存立期限ヲ定メタル場合ニ限リ無定期及ヒ終身會社ナルトキハ此承諾ヲ要セサルノ精神ナリ
正午第十二時中止
退席箕作委員
（委員長）
第二案ノ第條トアルヲ第一條トシ第六十一條ヲ第二條ト爲シ順序ヲ變更スルトキハ或ハ當ヲ得ルニ至ラン
（岸本委員）
本條ヲ修正スルニ當リ各條ニ交涉シ頗ル混雜ヲ來スヲ以テ本日之ヲ決定スルコト蓋シ難カルヘシ就テハ此部分丈ハ更ニ修正委員ニ於テ尙ホ改刪シテ提出セシメラレンコトヲ望ム
（本尾委員）
然リ修正委員ハ之ヲ委托セラレンコトヲ望ム
（長森委員）
議論各條ニ交涉スルヲ以テ更ニ修正委員ニ委托セサレハ修正スルヲ得サルヘシ
（本尾委員）
若シ更ニ修正ヲ修正委員ニ委託セラルヽトキハ「相續人ナキ時」ノ語ハ之ヲ削除スルモ可ナリト雖モ第五ノ「特約ナキ時」ノ語ハ削除シテ可ナルヤ否ヲ決定セラレタシ此特約トハ一時ナレ永遠ナリ無能力トナリタルトキハ後見人又ハ番頭ニ於テ之カ代理ヲ爲ス場合ヲ云フ其他ハ刑事上ヨリ生スル無能力ノ場合ニ限ルナリ之ヲ削ルトキハ當然丁年以上ノ者ニアラサレハ社員タルコトヲ得サルニ至ルナリ
（委員長）
原案第五ニ商業ヲ爲ス能力ヲ失フタル事トアルハ如何ナル場合ヲ云フヤ
（本尾委員）
社員カ官吏トナリタル如キ場合ヲ云フ是レ勿論ノコトナルヲ以テ修正委員ハ之ヲ削除シタリ而シテ其官吏トナリタルトキハ所謂重要ノ事故ナルヲ以テ豫吿ノ手續ヲ爲サスシテ退社スルヲ得ルナリ
（委員長）
然ラハ第五ノ「特約ナキ時」ノ數語モ不用ナルカ如シ
（本尾委員）
就テハ特約ノ語ヲ削ルコトニ決セン
又死亡ノ下「相續人ナキ時」ヲ削ルモ可ナリト雖モ鶴田委員ノ說ニ之ナキ時ハ新ニ入社スルノ手續ヲ盡サヽレハ相續人社員トナルヲ得サルニ至ルヘシト是レ至當ナル解釋ナリトス尤モ之ヲ削リタルトテ原案ノ精神ヲ變スルニアラサレトモ前顯ノ如ク解釋セラルヽトキハ大ニ不都合ヲ生スルナリ
（岸本委員）
本條ノ末項ハ削除セハ如何
（鶴田委員）
之ヲ本節ノ末條ニ揭クルモ可ナリト雖モ削除スルモ亦不可ナシ
（委員長）
末項ハ一ケ條ニ記スルヲ可トス故ニ本條ニハ之ヲ記スルニ及ハス
○第六十一條及第六十三條ハ更ニ修正委員ニ於テ改刪ノ上提出スルコトニ決ス
○第六十二條 原案第八十七條
社員退社シタルトキハ會社ハ速ニ其理由ト共ニ其登記公吿ヲ受ク可シ
（本尾委員）
原案ノ精神ニ依ルトキハ本條ナキモ先キニ登記公吿シタルモノニ變更ニ係ルヲ以テ無論登記公吿スルモノトス然レトモ本條ヲ特ニ設タルハ其退社ノ理由ヲ記載スルニ在リ故ニ委員ニ於テ此理由ヲ不用ナリト認ルトキハ本條モ亦不用ナリトス
（岸本委員）
退社ノ時ニ限リ理由ヲ登記公吿セシメ會社ノ業體ヲ變更シタルカ如キ重大ノ事件ニ理由ノ登記公吿ヲ命セサルハ彼是レ權衡ヲ失スルモノト云ハサルヘカラス故ニ本官ハ本條ノ削除ヲ望希スルモノナリ
（鶴田委員）
理由ヲ登記公吿スルノ必用ナケレトモ若シ本條ナキトキハ社外人カ退社ノ公吿スヘキモノナルコトヲ知ラサルニ至ルヘシ之レカ爲メニハ必用ナルカ如シ
（委員長）
說明ヲ閱スルニ必用トスル所アラサレハ削除スルコトトセン
○本條ハ削除スルコトニ決ス
○第六十四條 原案第九十條
退社員ハ其退社ノ時ヨリ會社ノ取引及其權利義務ニ關係ナキモノトス但退社前ノ取引ニ付其持分ニ對スル會社トノ關係ハ此限ニ在ラス
（本尾委員）
原案ト異ナル所ハ但書ヲ加ヘタルノミ併シ此但書ハ法文ニナシト雖モ說明中ノ精神ニ據リテ之ヲ揭ケタリ
本條但書以上ハ退社員ハ會社ノ內外ヲ問ハス普通ニ取引及ヒ其權利義務ニ關係ナキモノト云フノ精神ナリ
○本條ハ左ノ如ク修正セラレタリ
第六十四條 退社員ハ其退社ノ時ヨリ會社ノ取引及其權利義務ニ關係ナキモノトス
但退社ノ取引ニ付其持分ニ對スル會社ト退社員トノ關係ハ尙ホ存スルモノトス
于時午後第三時十分閉會