○第二讀會第二十六回
明治十八年十月廿二日
欠席 細川委員
仝 渡邊委員
仝 周布委員
午前第十時開會
先回ニ於テ第四十條第四十一條及ヒ第四十二條ヲ更ニ修正委員ヲシテ修正セシムルコトニ決セシカ修正委員ハ第四十條ハ前案ノ儘ト爲シ第四十一條及第四十二條ヲ合シテ左ノ如ク修正セラレタリ
第四十一條一案
社員其持分ヲ他人ニ賣渡讓渡シ又ハ他人ト組合ヒ之ヲ共有スルモ其買受讓受人及ヒ組合人ハ會社ニ對シ直接ノ權利義務ナキモノトス
第四十一條二案
社員其持分ヲ他人ニ賣渡讓渡シ又ハ他人ト組合ヒ之ヲ共有スルモ會計牌ニ對削シ其効ナキモノトス
（本尾委員）
第一案ハ獨逸法ノ精神ニ基キタリ然レトモ第二案ノ方簡短ニシテ可ナルカ如ク思考ス尤モ其効ナキモノトスノ語ハ少シク嚴ニ過ルノ意ナリ
（箕作委員）
第二案ヲ可トス
（委員長）
第四十一條ニ「第三者」トアリシヲ削除シタル理由如何
（本尾委員）
第三者トアルヲ論究スルトキハ卽チ會社ノ債主ヲ云フニ過キサルナリ故ニ會社ニ對シ無効ト揭クル以上ハ第三者ニ對シテモ亦無効ナルハ言ヲ竢タサルヲ以テ削除シタリ
（箕作委員）
第二案ニテハ直接ノ文字アルヲ以テ間接ニハ如何トノ疑問ヲ起スコトナキニアラサレハ本官ハ第二案ヲ可トス是レ會社ニ對スル場合ヲ示セハ不直接ノ部分ハ此ニ明示セサルモ不可ナカルヘシ
（委員長）
「本法第章」ヲ削タルハ如何
（本尾委員）
改案ノ精神ハ匿名社員ノ規定ニ依ラシメサルヲ以テ之ヲ削除セリ
（委員長）
第二案ニ決スヘシ
（鶴田委員）
第四十條ハ社員タルノ地位ヲ他人ニ移スコトニ係リ第四十一條ハ社員タルノ資格ヲ存シ單ニ持分ノミヲ他人ニ移スコトニ就テノ規定ナレトモ今此二條ヲ合セテ見ル時ハ右ノ精神ヲ明瞭ニ知ルヲ得ヘキヤ聊カ疑ヒナキヲ保セサルナリ
（長森委員）
然リ就テハ「其持分ノミ」ト爲セハ如何
（本尾委員）
第四十條ハ社員タルノ資格ト共ニ持分ヲ他人ニ移スモノナレハ總員ノ承諾ヲ得ル以上ハ爲スコトヲ得ヘシト雖モ第四十一條ハ縱令ヒ總員ノ承諾タルモ社員タルノ名義ヲ存シ持分ノミヲ他人ニ移スハ合名社員ノ性質ニ反スルヲ以テ許サヽルナリ是區別ハ兩條ヲ對照シテ見ルトキハ自ラ分明ナルヘシ
（委員長）
獨法ニハ「私カニ」トアリ故ニ第四十條ハ公然ニシテ第四十一條ノ場合ハ私カニ爲スノ意味アリ就テハ玆ニ私カニノ意味ヲ示サント欲スルナリ何分持分トアルヲ以テ社員タル資格ヲ有シ私カニ持分ノミヲ賣ル事ト見ルハ容易ナラサルナリ
（箕作委員）
若シ修正案ノ如クシテ其意味ヲ知ルニ苦ムトナレハ第
四十條ノ「地位ヲ他人ニ讓ル」トアルヲ「地位ヲ他人ニ替ヘシムルコトヲ得ス」トセハ或ハ其疑ヲ免ル」ヲ得ンカ
（長森委員）
本官モ第四十條ノ「地位ヲ他人ニ讓ルコトヲ得ス」ヲ「自己ノ地位ニ替ラシムルコトヲ得ス」トナス方可ナリト思考ス何トナレハ如斯修正スルトキハ賣渡讓渡ヲモ包含セシムルヲ得レハナリ
○第四十條中「讓ル」ヲ「移ス」ニ改メ本條ハ持分ノ下ニ「ノミ」ノ二字ヲ加ヘ他ハ原案ノ儘ニ決ス
○第四十三條 原案第六十四條
社員會社ノ爲メニ金圓ヲ立替タルトキハ相當ノ利息ヲ要求スルコトヲ得
社員業務取扱ノ爲メ直接ニ損害ヲ受ケタルトキハ會社ニ對シ其賠償ヲ要求スルコトヲ得
（本尾委員）
本條ノ原案ト異ナルハ社員ヨリ會社ニ貸付タル金額及出資額ヲ超ヘテ支出シタル場合ヲ削除シタルニ在リ其他ハ字句ノ修正ノミニシテ原案ノ精神ヲ毫モ變更シタル所ナシ而シテ貸付ノ場合ヲ削リタルハ之レ雙方ノ契約ニ任スヘキモノニシテ利息ヲ取ルト否ハ法律ノ示スニ及ハサルモノナリ又供資高ヲ超ヘテ支出シタル場合モ同一ナルヲ以テ修正委員ハ之ヲ削除シテ雙方ノ隨意ニ放任シタリ蓋シ獨法第九十三條モ亦本條ト同シク立替金ノ場合ニ就テノミ規定ヲ設ケタリ
（箕作委員）
立替トアルトキハ少シク意味狹隘ニナルヲ以テ支出トナス訪可ナル可シ
（本尾委員）
支出ト爲スモ立替ト毫モ異ナルコトナシ
○本條ハ原案ノ儘ニ決ス
○第四十四條 原案第六十五條
社員業務取扱上ノ勤勞ニ付キ別段ノ契約アルニ非レハ其報酬ヲ要求スルコトヲ得ス但勞力ヲ供資ト爲シタル社員契約外ニ勞力ヲ供シタルトキハ之ヲ要求スルコトヲ得
（本尾委員）
本條ハ原案ノ二項ヲ一項ト爲シ其一項ヲ但書ト爲シタルニ過キサルナリ
（箕作委員）
社員ノ報酬ヲ要求スルヲ得サル理由如何
（本尾委員）
通常社員タルノ義務ヲ盡ス爲メニハ報酬ヲ受クルヲ得ス併シ勞力ヲ出資額外ニナシタルモノハ此限ニ在ラス則チ時間外ニ勞働シタルトキノ如キハ其報酬ヲ受ルコトヲ得但其報酬ノ方法ハ種々アルヲ以テ豫メ之ヲ述フルヲ得ス
○本條ハ左ノ如ク修正セラレタリ
第四十四條 社員業務取扱上ノ勤勞ニ付キ特約アルニ非レハ其報酬ヲ要求スルコトヲ得ス但勞力ヲ出資ト爲シタル者契約外ニ勞力ヲ供シタルトキハ之ヲ要求スルコトヲ得
于時第十二時ナルヲ以テ中止
午後○時三十分開會
退席箕作委員
○第四十五條 原案第六十六條
社員會社ノ爲メニ領收シタル金圓ノ交付ヲ延滯シタルトキハ會社ハ相當ノ利患ヲ拂ハシメ且損害ヲ賠償セシムルコトヲ得
（本尾委員）
本條ハ社金ヲ自己ノ用ニ供ストノ文字ヲ削除シタルノミ蓋シ社金ヲ自己ノ用ニ供スルハ刑法ノ制裁ヲ受クルモノナレハ勿論若シ之ヲ揭クルトキハ使用スルモ利足ヲ拂フ以上ハ差支ナシト誤解スルノ恐ナキニアラサレハ修正委員ハ豫メ此誤解ヲ避ケンカ爲メ削除セリ
（鶴田委員）
社金ヲ自己ノ用ニ供スル云々ヲ揭タルハ合名會社ナルヲ以テ各自集合セシ金ナレハ縱令ヒ之ヲ使用スルモ刑法上ノ制裁ヲ受クルニ及ハス恰モ親族互ニ金額ヲ使用スルカ如キヲ以テ明揭シタルニハアラサルヤ
（本尾委員）
否合名會社ト雖モ社員ノ差出シタル資本ハ會社ノ所有ニ歸スルモノナレハ親族相互ノ使用ト同一ニ論スルヲ得サルナリ
（岸本委員）
場合ニ依リ刑法上ノ犯罪アリト雖モ原案ノ意ハ之レカ犯罪タルト否ト云フニアラスシテ苟クモ會社ノ所有ニ歸シタル財產ヲ使用シ若クハ領收シテ交付セサルトキハ利足ヲ拂フノ義務アリト云フニ過キサルナリ
（委員長）
「使用」ヲ削除シタル理由如何
（本尾委員）
社金ヲ使用スルカ如キハ法律ノ明條ナキモ利足ヲ得ルコトハ勿論ナルヲ以テ削除シタルナリ
○本條ハ左ノ如ク修正セラレタリ
第四十五條 社員會社ノ爲ニ領收シタル金圓ヲ相當ノ時間內ニ會社ニ引渡サヽルトキハ會社ハ相當ノ利息ヲ拂ハシメ且損害ヲ賠償セシムルコトヲ得
○第四十六條 原案第六十七條
社員ハ總社員ノ承諾ヲ得スシテ自己又ハ第三者ノ爲ニ會社ノ營業部內ニ屬スル取引ヲ爲シ又ハ之レニ與ルコトヲ得ス
前項ノ規定ニ背キタルトキハ會社ハ其社員ヲ除名シ又ハ其取引ヲ會社ニ引受ケ尙何レノ場合ニ於テモ損害ヲ賠償セシムルコトヲ得
（本尾委員）
本條ハ二項ニ分チ及ヒ契約ニ依テ明言シタル外ハ何等ノ理由アリト雖モ爲スコトヲ得ストアルヲ修正案ニ於テハ總社員ノ承諾ヲ得レハ之ヲ爲スコトヲ得ト定メタルノミ
（委員長）
營業部內トハ同一ノ商業ニシテ假令ハ有限責任ノ會社ノ社員トナルハ差支ナキヤ
（本尾委員）
然リ責任有限會社ナルトキハ差支ナシ又航海營業ナルニ同營業ノ合資會社ニモ加入スルヲ得ヘシト雖モ自ラ營業ヲ取リ責任無限社員ト爲ルコトヲ得サルナリ
（委員長）
「自己又ハ第三者」ヲ削ルトセハ如何
（本尾委員）
然ル時ハ社員ノ自ラ爲スコトニ止マリ第三者ノ場合ハ取除トナルニ至ルヘシ
（岸本委員）
之ヲ削ルモ第三者ヲ包含スルヲ以テ差支ナカルヘシ
（長森委員）
營業部內トアルヲ營業ト同一トセハ如何
（本尾委員）
「營業部內」ト「營業ト同一」トハ其間餘程相違アルヲ以テ之ヲ同一ナリト云フヲ得サルヘシ
（鶴田委員）
取引ヲ會社ニ引受クルトハ從來ノ儘營業ヲ都テ引受クルモノナルヤ或ハ是ヨリ以後其營業ヲ引受クルモノナルヤ
（本尾委員）
夫レハ取引丈ヲ引受クルモノニシテ利益アルトキハ會社ニ引受クルナルヘシト雖モ若シ損アルトキハ必ス除名スヘシ本項ハ重モニ金目社ノ利【益ヲ得サシメンカ億川メ設タルモノナリ則斟肛員ノ爲シタルコトハ都テ會社ノ爲シタルモノト看做スカ故ニ其者ノ利益ハ卽チ會社ノ利益ナリト云フヲ適用スルナリ
○本條ハ左ノ如ク修正セラレタリ
第四十六條 社員ハ總社員ノ承諾ヲ得スシテ別ニ會社ノ營業ト同種ノ取引ヲ爲シ又ハ之レニ與カルコトヲ得ス
（第二項ハ尙ホノホヲ加ヘタルノミ）
○第四十七條 原案第六十八條
會社ノ損益ヲ共分スル割合ハ特約アルニ非レハ各社員出資ノ價額ニ準ス可シ
（本尾委員）
本條ハ原案ト異ナル所ナシ
（委員長）
特約トハ如何
（本尾委員）
相互二千圓宛ヲ出シ內二人ハ百分ノ五分ヲ取リ一人ハ百分ノ十ヲ取ルカ如キ特別ニ契約ヲナスヲ云フ此契約ナキトキハ皆平等ノ分配ナツト云フニ在リ
原案第二項ヲ削除シタルハロエスレル氏ハ佛法ニ勞力ヲ差入レタル者ハ最モ少額ヲ差入レタル者ト看做ストアルヲ不當ト爲シ時ニ依リテハ勞力ハ最モ高額ニ積ルコトアリ故ニ契約ニテ定メサルトキハ裁判上ノ判決（裁判手續ヲ履行セス）卽チ裁判所ニ至リ評價ヲ乞フヘシトセリ然レトモ我邦ニ於テハ佛法ノ如キ規則モナキ又裁判所ト相續スルカ如キハ慣習ニナキ所ナレハ修正委員ハ之ヲ削除シタリ
（委員長）
原案ノ儘ニ可決スヘシ
于時午後三時ナルヲ以テ閉會