○第二讀會第二十三回
明治十八年十月十三日
欠席 細川委員
仝 渡邊委員
仝 周布委員
午前第十時開會
先回ノ續キ
（本尾委員）
第三十四條及ヒ第三十五條ノ結果ヲ述ヘンニ假令ヘハ金圓ヲ差入レタル社員其紙幣ニ各審號アルヲ以テ退社ノ際ハ其番號ノ紙幣ヲ持歸ルヤト云フニ否ラス此金圓ハ修正第三十三條ニテ會社ノ所有ニ歸シタルヲ以テ番號ノ如何ヲ論セス最初差入レタル金額ノ金圓ヲ持歸ルヲ得ルノミ土藏ヲ差入レ社員トナリタル者ハ別段ノ契約アルニアラサレハ退社ノ時ハ其土藏ヲ持歸ルヲ得ス其土藏ニ相當スル價額ヲ受クルモノトス是レ土藏差入ノ際評價ヲ豫メ付スル所以ナリ又收實權及ヒ使用權ヲ差入レタル社員退社スルトキ總社員ノ承諾ヲ得テ其物件ヲ持去ルヲ得ルト雖モ總員ノ承諾ナキトキハ會社ノ所有ニ歸シタル權利ナルニ依リ會社ニ於テ他ニ移轉シタルトキハ之レカ收實權ヲ何圓ト積リ其價額ノ辨償ヲ受ルニ過キス尤モ其收實權ニ供シタル物件ノ所有權ハ其退社員ニ屬スルモノナルヤ勿論ナリトス
（鶴田委員）
若シ收實權ヲ差入レタルモノ退社スルトキ其物件ヲ持歸ルコトヲ得スト爲ストキハ全ク土地ヲ入ルヽト同一ニシテ止タ虛有權ヲ有スルニ過キス然ルトキハ退社員ハ其物件ヲ隨意ニ使用スルコトヲ得サルナリ故ニ退社ノトキハ其物件ヲ持歸ラサレハ甚タ不都合ナル結果ヲ生スルニ至ルヘシト思料ス
（本尾委員）
元來會社ニ收實權ノ移轉シタルモノナレハ會社ハ隨意ニ之ヲ賣却スルコトヲ得サルヘカラス之ヲ賣却スルモ其物件ノ所有權ハ矢張退社員ニ歸スルモノトス
（鶴田委員）
然レトモ會社ニ於テ若シ賣却スルトキハ實際ハ所有權ヲモ賣却シタルト同一ノ結果ヲ生スルナリ何トナレハ退社員ハ最早隨意ニ之ヲ使用スルヲ得サレハナリ故二名ハ退社員ノ所有ナレトモ實際上其所有權ノ効力アルコトナシ
（箕作委員）
一旦出資ト爲シタルモノハ會社ノ所有ト爲リ土地又ハ收實權ト雖モ永遠會社ノ所有ニ歸セシメサルヲ得サルヤ
（本尾委員）
然リ一旦會社ニ差入レタルモノハ退社ノ場合ニ至リ貨幣ヲ以テ辨償ヲ受クヘシトノ明文アルニ依リ則差入レタル物件ハ到底取戾スコトヲ得ス若シ强ヒテ之ヲ取戾サントセハ買戾ノ手續ヲ履行セサルヘカラス
（岸本委員）
收實權ヲ差入レタル社員退社スルトキハ其收實權ノ物件ヲ取戾スコトヲ得ルナリ若シ其物件ヲ取戾スヲ得スシテ其物件ニ相當スル金圓ヲ以テ辨償ヲ受クルモノト爲ストキハ收實權ノ性質ニ反スルノミナラス又時トシテハ退社員ノ儲利ノ目的トナルニ至ルヘケレハナリ
（箕作委員）
然リ元來收實權ハ未必條件付ノ契約ナレハ互ニ損益ヲ未來ニ期シタルモノナレハ本案ニ所謂收實權ハ其性質ニ反スルモノト云ハサルヲ得ス
（本尾委員）
原案第九十一條ニ供資ノ物件如何ナルヲ問ハス金額ヲ以テ拂渡スヘシトアリ之ニ依ルトキハ使用權又ハ收實權ト雖モ同輔ナラサルヲ得サルナリ
（箕作委員）
退社ノ場合ニ在テハ會社ノ繼續スルモノナレハ使用權ヲ持去ルコトヲ得スト爲スモ或ハ可ナレトモ會社解散ノ場合ニ於テハ退社ト同一ニ論スルヲ得サルヘシ
（岸本委員）
原案第九十一條及第百五條ニ依レハ本尾委員ノ說ノ如ク退社ノトキハ金額ニテ辨償ヲ受ケサルヘカラサルナリ然レトモ此ニケ條ハ收實權ノ性質ニ反スルモノナレハ若シ參事院ニ伺ヲ出スモノアルトキハ第百五條ハ收實權使用權ニ適用スヘキ限ニアラスト指令スルヨリ外ナカルヘシ
（箕作委員）
若シ本案ノ如ク爲ストキハ所有權ハ社員ニアルモ收實權ハ會社ノ所有ナルヲ以テ會社之ヲ他人ニ讓渡ストキハ收實權所有權ヲ合スレハ千圓ニ賣却シ得ヘキモ收實權ノミナレハ其價自ラ低亷ニシテ七百圓位トナリ他人其收實權ヲ有スルヲ以テ一ノ土地ニ二人ノ所有者アルカ如ク實際上取扱ニ隨分困難ヲ生スルナルヘシ例之ハ收實權ヲ有スルモノハ自己ノ土地ナラサルニ依リ常ニ誠實ニ培養スルコトナク所有者モ亦自ラ手ヲ下スヲ得サルヲ以テ途ニ其土地ハ言フヘカラサル荒蕪ノ狀ヲ呈スルニ至ルヘシ如斯ナルヲ以テ佛法ハ途ニ其土地ヲ所有主ニ還付スルコトトセリ實際困難ナルケ條ト云ハサルヘカラス
（本尾委員）
若シロエスレル氏ノ精神ニシテ本案規定ノ如クナルトキハ普通民法上ノ主義ト異ナリ少ク穩當ナラサル所ナキニアラス
（岸本委員）
收實權使用權ヲ會社ニ出資トシテ差入ルヽニハ年限ヲ定メサルヘカラス何トナレハ年限ナキトキハ價額ヲ定ムルコトヲ得サレハナリ依テ年限ヲ定メ會社ニ差入レタルトキハ其年限內ハ會社隨意ニ之ヲ他人ニ譲渡スヲ得ヘク社員ハ之カ取戾シヲ爲スコトヲ得サルナリ故ニ原案第九十三條ニハ其社員ニ金圓ヲ以テ年限相當ノ辨償ヲ爲スヘシト云ヒタルニハアラサルカ
（本尾委員）
總會年限ナキモ契約ニテ價額ヲ定ムルニハ差支ナカルヘシ若シ收實權ニ就キ年限ヲ設クルトセハ勞力モ亦年限ヲ定メサルヘカラサルナリ若シロエスレル氏ニシテ年限ヲ定ムルノ精神ナランニハ必ス第三十四條二年限ヲ定ムヘシト云フナルヘシ然ルニ其年限ヲ云ハサルニ由レハロエスレル氏ノ不注意ナルカ又ハ羅馬法ノ原則ニ從ヒ九十九年間ハ之ヲ有効トシ年限ヲ明定セサルモ契約スルヲ得ヘシト爲シタルニハアラサルカ
（岸本委員）
否勞力ト雖モ年限ヨリ價額ヲ積ラサレハ定ムルコトヲ得サルナリ若シ相當ノ原因ニ依ラスシテ價額ヲ定ムルトキハ卽チ會社ニ確定ノ價額アル資本ナキヲ以テ會社契約ハ成立セサルモノトス
（本尾委員）
否年限ナケレハ價額ヲ定ムルコトヲ得スト爲スヲ得ス何トナレハ社員ニ於テ無期ノ契約ヲ以テ收實權ヲ差入レ之ヲ五百圓ト見積ルニ他ノ總社員之カ承諾ヲ爲ストキハ卽チ契約ハ成立スルモノト云ハサルヘカラス
（岸本委員）
否其契約ハ成立タルモノニアラス何トナレハ假令ハ五百圓トセン一ニケ年ノ價額百圓ナルトキハ五年ニシテ其全額ヲ納ムルニ至ル其後ノ收實ハ全ク贈與ノ性質ト同一ナル結果ヲ生ス之ヲ裁判上ヨリ論スルトキハ如此契約ハ成立セサルモノト爲シ他ノ債主ニ於テ充分ニ故障ヲ申フルヲ得ルモノト爲サヽルヲ得ス
（鶴田委員）
ロエスレル氏ノ精神ヲ案スルニ本尾委員說明ノ旨趣ト異ナルコトナシ
（箕作委員）
民法草案ニ於テハ本法ノ精神ト全ク其趣ヲ異ニスルヲ以テ若シ民法草案ノ如クシテ發布セラルヽトキハ獨リ會社條例ノミ其性質ヲ異別ニシ甚タ實際上不都合ナル結果ヲ生スルニ至ルヘシ
（委員長）
第三十四條ノ使用權ト原案第六十條ノ使用權トハ性質異ナルヲ以テ其異ナル㸃ヲ示ス方可ナルカ如シ
（箕作委員）
民法草案ニ依レハ無形人及ヒ會社ノ入額所得權ハ三十年ヲ超ユヘカラストアリ故ニ三十年ヲ經過スルトキハ入額所得權ハ消滅セシモノトス但シ此年限ヨリ短キ期限ヲ定メタルトキハ此限ニ在ラス
（本尾委員）
會社入額所得權ヲ賣却スルハ如何
（箕作委員）
民法草案ニ於テハ公ケノ役所ニ登錄簿アリ以テ三十年間ハ其賣買ヲ爲スヲ得ヘキモノトセリ此等ノ細事ニ至ルマテ論スルトキハ實ニ際限ナキヲ以テ本官ハ收實權使用權ニ關スル規定ハ總テ消除アランコトヲ主張スルナリ尤モロエスレル氏歸朝ノ上質問シテ設クルモ亦不可ナカルヘケレハナリ
（岸本委員）
本官ハ第三十四條ニ「收實權使用權ヲ差入レタルトキハ年限ヲ設クヘシ否ラサレハ其契約ハ成立セサルモノトス」ヲ追加スルカ又追加セサルモ實際ハ年限ヲ定ムルコトニ至ルヲ以テ本案ノ儘ニテモ敢テ實行ニ差支ナカルヘシト思料スルナリ何トナレハ年限ヲ定メサレハ之ヲ金額ニ積ルヲ得サレハナリ若シ本尾委員ノ如ク無年期ニテ五百圓ト積ルトキハ會社繼續ノ年限長キニ從ヒ社員ハ互額ヲ出シテ少額ノ分配ヲ受クルニ至リ要償契約ノ主旨ニモ反ツ且ツ名ヲ要償契約ニ藉リ無名ノ贈與ヲ爲スノ弊ナキヲ保セサルナリ故ニ本官ハ右ノ如キ精神ニ確定セハ本法ノ儘ニテ實施スルモ差支ナキコトト思考スルナリ
（本尾委員）
年限ヲ定ムヘシト規定セハ或ハ可ナリト雖モ五十八條ヨリ六十一條ニ至リテハ實際解散スルコト容易ナラサルヲ以テ寧署此ノ事柄ヲ普通法ニ從ハシムルモノト爲シ此四ケ條ハ削除スルコトト爲サンカ
（箕作委員）
然リ本官モ亦削除說ヲ贊成スルナリ
（委員長）
若シ此三十四條三十五條ヲ削除スルトキハ今日行ハルヽ所ノ公債證書ヲ差入レ社員ト爲ルモノニ對シ不都合ナキヤ
（箕作委員）
銀行ノ如キハ能ク實際ノ契約ヲ知ラサレトモ公債證書ハ收實權トシテ差入レタルニアラスシテ抵當トシテ銀行ニ差入ルエカ如ク思料セリ卽チ金額ヲ差出ス保證トシテ證書ヲ差入レ暫ク全額差入ノ後ニ至リ其公債ヲ返却スルモノニシテ本條ニ云フ收實權トハ異ナレリ
正午十二時中止
十二時十五分開會
（本尾委員）
土地ヨリ生シタル物品ヲ會社ニ差入ルニノミニテハ未タ收實權ヲ出資トシテ差入レタルト云フヲ得ス收實權ヲ差入レタルトハ土地ヨリ生スル所ノ何百俵ヲ會社ニ差入ルエ約束ヲ爲スヲ云フ故ニ前顯ニ陳フル如ク土地ヨリ生スル物ヲ賣却シテ其代價ヲ會社ニ差入ルヽハ出資トスルコトヲ得ス一體此等ノ場合ハ契約ノ如何ニ依テ判タルヽモノニシテ豫メ是ハ收實權ナリ否收實權ニアラスト斷定スルコトヲ得ス
（塩田委員）
止タ漠然年々百圓宛ヲ差入ルヽノ契約ヲナストキハ其出資額ハ何程ヲ以テ程度トスルヤ
（鶴田委員）
年々其金ヲ限リテ差入ルヽモノトスルモ必ス最初入社ノ時十年間トシテ千圓トスルカ或ハ二十年間トシテ二千圓トスカカ入社員ノ請求ニ依テ其金額ヲ見積ルヘシ而シテ其見積高ヲ會社ノ出資トシ之ヲ帳簿ニ記入シ其高ニ依テ利益ノ配當ヲ受クルナラシ故ニ其程度ヲ示サス漠然年々百圓ヲ入ルルカ如キ契約ハ實際ナカルヘシ
（塩田委員）
然レトモ之ヲ十年間トシ千圓ト見積ランニ其會社ニシテ是ヨリ十五年或ハ二十年間繼續スルトキハ最初千圓ト見積リシモノモ其年限ノ延長ニ依テ千五百圓或ハ二千圓ノ出資ヲ供スルニ至ルヘシ然ルトキハ最初千圓或ハ二千圓ヲ差入レタルモノト比較スルトキハ甚シキ不平均ヲ生スルノミナラス實際千五百圓ノ出資ナルモ其利益ヲ受クルハ帳簿ニ記スル千圓ノ額ニ從ハサルヘカラス實ニ不權衡モ亦極ルト云フヘシ
（岸本委員）
一體會社解散ノ場合ニ於テ其年限ヲ立ルヲ可トス何トナレハ解散ノ場合ニハ本員敢テ疑ナキニアラス卽チ第百五條ニ供資ノ何タルヲ問ハス金圓ヲ以テ拂渡スヘシトアルカ故ニ收實權ヲ賣却シテ金圓ヲ以テ拂戾スカ如ク見ユルノ不可アレハナリ
（本尾委員）
修正第三十三條ニ「社員ノ出資ハ會社ノ所有ニ歸スルモノトス」トアリ故ニ會社ノ所有ニ歸セサルモノ卽チ修正第三十四條同第三十五條及第六十條第六十一條ヲ更ニ本案中ニ記載セサルヘカラサルニ至ラン如何トナレハ修正第三十四條ヲ置カサレハ所有ニ歸セサルモノハ何物ナルヤヲ知ルヲ得ヘカラサレハナリ
（岸本委員）
之ヲ要スルニ第三十三條ニ會社ノ所有ニ歸ストアリニ依テ議論ノ紛起シテ實ニ底止スル所ナキノ勢ニ立到リシモノナレハ該條ヲ修正シテ「會社ノ資產ニ歸ス」トシ其所有權ノ會社ニ移ルヤ否ハ物件ノ性質ニ依テ判スヘキモノトスルトキハ實ニ簡明ニシテ能ク其精神ヲ明カナラシメ修正第三十四條同第三十五條及ヒ第六十條第六十一條ヲ置カサルモ不都合ナカルヘシ併シ修正第三十四五ノ兩條ハ之ヲ設クルトスルモ强テ異議アルコトナシ
（箕作委員）
然リ所有ト云ヘハ會社ニ於テ處分權ヲ有スルニ至ル然レトモ之ヲ資產トナストキハ資產中ニモ會社ノ所有權ヲ有スルモノト否ラサルモノトアリ例ヘハ土地ニ債主權ヲ持ツハ權利ナツ卽チ財產ナリト雖モ其土地ニ付テハ毫モ所有權ヲ有スルテフニアラサルナリ故ニ所有ヨリ資產トナス方可ナルヘシ
（鶴田委員）
本法ハ極メテ簡短ニ其條則ヲ設ケ詳細ノコトハ之ヲ民法ニ讓リ若シ本法ノ收實使用等ノコトニ付キ爭ヒノ生シタルトキハ全ク裁判官ノ判定ニ任ストセハ本法ニ在テハ可ナルカ如シ
（委員長）
先原案ノ儘トシロエスレル氏ニ質問スヘシ
（鶴田委員）
若第六十條ニ規定スルモノ世間ニ在リトスルトキハ之ニ對スル規定ハ明示セサルヘカラス若シ之ヲ削除スルトキハ實際其ノ事實アルモ明文ナキヲ以テ唯其事實ニ推測シテ判斷ヲ下タスニ過キサルヘシ
（箕作委員）
修正第三十四條同第三十五條ヲ置ク以上ハ第六十條及第六十一條モ亦之ヲ設ケ置キロエスレル氏ノ歸朝ヲ竢テ其取捨ヲ決シ今日ハ先ツ之ヲ假定案トセハ如何何トナレハ皆疑ノ存セサルモノナケレハナリ
（本尾委員）
第六十三條ノ精神ヲ修正委員ニ於テ變更シタルヲ以テ第六十一條ニキ關係ヲ及ホシタリ今其理由ヲ左ニ辯スヘシ
原案ノ旨趣ハ最初ヨリ破產其他ノ事故ニ依リ契約上ノ出資ヲ納ムルコト能ハサルトキハ社員タルコトハ强ユルモノトナセトモ委員ニ於テハ全ク之ヲ入ルヽコト能ハサルモノモ已ニ幾部ヲ差入レタルモノモ之ヲ入ルコト能ハサルニ至リシ時ハ社員タルコトヲ得サルモノト精神ヲ改メタリ故ニ勞力ノ場合ニ在テモ中途ニシテ死亡スルモ亦本條ノ規定ニ從ハシムルモノトセリ
（箕作委員）
然ラハ委員ニテハ一部ヲ既納セシ場合ト雖モ之ヲ適用スルノ精神ナルヤ
（本尾委員）
然リ第六十一條ノ精神ハ修正第三十六條ニ包含シ中途ヨリ納ムルコト能ハサルニ至リタルトキハ社員タルコトハ失フモノトナスノ精神ナリ
（箕作委員）
然ラハ修正ハ中途ヨリモ亦最初ヨリモ納ムルコト能ハサルトキト云フノ意義ナリヤ
（本尾委員）
然リ其精神ニ至リテハ修正案モロエスレル氏ノ原案ト毫モ異ナルコトナシ
（箕作委員）
勞力者ニシテ假令、ハ之ヲ使用セサル以前ニ之ヲ供スルコト能ハサルニ至リタルトキハ其損失ハ社員ニ歸シ又中途ニシテ使用ニ供スルコト能ハサルトキハ他ノ代納物ヲ入レサレハ社員タルコトハ得ヘカラサルモノトナスヤ
（本尾委員）
然リ
（岸本委員）
原案第六十三條ハ未タ資本ノ一部ヲモ差入レサル場合ニ就テロエスレル氏ハ之ヲ規定セリ然ルニ本條ハ代納スルニ於テハ社員タルコトヲ得ルモ第六十一條ニ於テハ已ニ幾部分ヲ差入レタルモ代納ヲ許サストハ穩當ナラサルナリ何トナレハ理論上ヨリ云フトキハ些少ナリトモ勞力ヲ盡シタルモノハ代納ヲ許シ未タ一部ヲモ盡サヽルトキハ代納ヲ許サストナスコソ至當ト云ヘシ然ルニロエスレル氏ハ之ニ反シタル明條ヲ揭ケラレタルハ實ニ不審ト云フヘシ此ヲ以テ修正委員ハ彼是共ニ修正第三十六條ニ包含セシメシ所以ナリ
（委員長）
第六十一條ヲ削除スルニ付ロエスレル氏ニ對スル辯解ニハ差支ナカルヘシ
（本尾委員）
第六十一條ノ削除說ニ異議ナクソハ又修正第三十六條ノ精神ヲ敷衍スルトキハ修正第三十四條第三十五條及原案第六十條ヲ削除スルモ其精神上ニ於テハ毫モ差支ナシトス師修正第三十六條ノ意義ヲ以テ云フトキハ更ニ差支ノ生スルコトナケレハナリロエスレル氏ニ質問スルニ當テモ此諸條ヲ削リテ汝ハ如何ナル意見ヲ有スルヤヲ問ハ父其辯明スル實ニ容易ナリト雖モ之ヲ削ラスシテ質問スルハ隨分難事ナリト云ハサルヲ得ス
（長森委員）
第六十條ハ「社員ノ別離以下目的ヲ以テ」迄ヲ削除シ物件ノ使用權利トアルヲ物件ノ供用權云々ト改正セハ本條ヲ存スルモ不可ナカルヘシ如何トナレハ此ニ用ユル使用權トハ他條ニ揭クル所ノモノトハ異ナル性質ヲ有スルヲ以テ之レカ區別ヲ知ラシムルニ其文字ヲ異別シ供用權トセハ之ヲ解釋スルニモ亦敢テ難事ナラサルヘシ
（委員長）
第六十條及第六十一條ハ先ツ削除スルコトヽセン
○第三十四條第三十五條ハ討議ノ末先ツ之ヲ存シロエスレル氏歸朝ノ後質議シテ取捨スルコトヽシ其迄ハ先ツ假定案トシテ存在セシムルコトニ決セリ
○第三十六條
○本條ハ別段異議ナク左ノ如ク修正シタリ
第三十六條 社員契約ニ定メタル出資ヲ差入ルヽコト能ハサルトキハ總社員ノ承諾ヲ得テ他ノ出資ヲ差入ルヽニ非レハ社員ノ資格ヲ失フモノトス
○第三十七條 原案第六十二條
社員契約ニ定メタル供資ヲ差入レサルトキ會社ハ之ヲ除名シ又ハ相當ノ利息ヲ拂ハシメ且何レノ場合ニ於テモ尙ホ損害ヲ賠償セシムルコトヲ得
（箕作委員）
「相當」ハ「法律上」ノ利息ト改ムヘシ如何トナレハ相當トナスモ其實ハ法律上ノ利息ヲ云フモノニシテ假令ハ出資ヲ納ムルニ其期日迄ニ差入レサルモノハ會社ニ損失ヲ蒙ラシムルカ故ニ其損失ヲ償ヘシメソカ爲メ拂入レシムルニ在ルモノナレハ曖昧ニ相當トナスヨリ明カニ法律上ト改正スルヲ可トス
（本尾委員）
商業上ノ利息ハ民事上ノ利子ヨリ幾分カ高直ナラサルヲ得ス獨逸ニテモ商業上ニ在テハ年六朱ノ利子トナセリ佛國モ亦之ニ同シ依テ今日實際上ニ就キ考フルニ民事上ヨリモ幾分カ其價ヲ高クセサルヲ得サルニ依リ此ニ相當ノ文字ヲ用ヒテ暗ニ民事上ノ利息ヲ用ヒサルモ差支ナキヲ示シ歐洲ノ如ク幾分カ高直ナラシメントスルニ在リ
（箕作委員）
本員ハ相當トハ法律上ノ利息ト解スルノミナラス其成文法ニ從ハシメント欲スルナリ然レトモ法律上ノ利息タル少シク低價ナルヲ以テ利息制限法ノ利息ヲ以テ法律上ノ利息ト定メ而シテ此法ニ從ハシメンカ爲メ相當ノ文字ヲ修正センコトヲ望ムノミニシテ本員敢テ現今ノ法律上ノ利息ヲ斯ニ適用セントスルノ意アルニハアラサルナリ
（鶴田委員）
利息制限法ノ利息ヲ以テ法律上ノ利息トセンニハ該法ノ改正ヲ爲サヽルヘカラス事繁雜ニ涉リ種々ノ關係ヲ生スルヲ以テ先ツ之ヲ相當トシ本尾委員ノ如ク解釋スルモノトセハ不可ナカルヘシ
○本條ハ左ノ如ク修正シタリ
第三十七條社員契約ニ定メタル出資ヲ差入レサルトキハ會社ハ之ヲ除名シ又ハ相當ノ利息ヲ拂ハシメ尙ホ何レノ場合ニ於テモ損害ヲ賠償セシムルコトヲ得
于時午後三時ナルヲ以テ散會