○第二讀會第二十二回
明治十八年十月十日
欠席 渡邊委員
仝 周布委員
午前第九時開會
先回議決セラレシ第三十四條第三十五條ニ付再ヒ議論ヲ生ス其要略左ノ如シ
（鶴田委員）
第三十五條ニ依ルトキハ社員タルノ資格モ隨テ消滅スルカ如ク見ユルナリ然ルトキハ本條ノ精神ニ反スルヲ以テ社員タル資格ハ從前ト異ナルコトナキヲ明瞭ニ記載スルヲ可トス
（本尾委員）
第三十三條ニハ社員ノ出資ハ會社ノ所有ニ歸ストアリ故ニ使用權ヲ差入レタル社員其物件ノ滅盡スルコトアルモ社員タル資格ノ消滅セサルハ自ラ明瞭ナルヘシ
（箕作委員）
收實權又ハ使用權ヲ供シタル物件滅盡スルモ社員タルコトハ從前ト異ナラサルハ勿論ナリト雖モ本官ハ第三十四條及ヒ第三十五條ハ消除アランコトヲ希望スルナリ何トナレハ使用權收實權ノ事ハ未タ法律上ニ規定シタルコトナク且此ニ權ハ別段法律ニ明揭セサルモ出資トシテ差入ルヽコトヲ得ルハ勿論ナリ又此ニ權ニ關スル規定ハ民法ニ於テ定ルモノナレハ民法草案ニ讓リ本法ニハ寧ロ削除スル方可ナラント思料スルナリ
（本尾委員）
本官モ先回此兩條ノ削除ヲ唱ヘタリ然レトモ其旨趣ハ箕作委員ノ說ト異レリ卽チ本官ハ本條ニ使用權又ハ收實權ノミヲ云フハ不充分ナリト思料セリ何トナレハ此ニ權ニ關スル規定ヲ設クル以上ハ勞力ノ場合ニ於ケル規定ヲモ亦示ササルヲ得サレハナリ又暫ク第三十四條ヲ置クトスルモ第三十五條ハ第三十四條アル以上ハ別段ニ之カ規定ヲ示サヽルモ明瞭ナルコトト爲ス故ニ削除スルトテ決シテ差支ヲ生スルコトナカルヘキヲ以テナリ
（岸本委員）
本官モ亦此兩條ニ艷シテハ削除說ヲ贊成スルナリ何トナレハ使用權收實權ノ如キハ此ニケ條ノ能ク蠱シ得ヘキ所ニアラサルノミナラス民法ノ頒布アルトキハ本法ニ此兩條ナシトモ當然差入資本ト爲スヲ得ヘケレハナリ
（委員長）
先ツ此兩條ハ先回議決ヲ以テ可ト爲シ後條ノ議ニ移スヘシ
○第三十六條 原案第六十三條
社員契約ニ定メタル供資ヲ差入ルヽコト能ハサルトキ總社員ノ承諾ヲ得テ他ノ供資ヲ差入ルヽニ非レハ社員ノ資格ヲ失フモノトス
（本尾委員）
本條ノ議ニ移ルノ前先ツ原案第六十條及ヒ第六十一條ヲ修正委員ニ於テ削除シタル可否ヲ決セラレタシ
（細川委員）
第三十三條ノ但書ハ先回ニ於テ削除セラレタリ然レトモ之ヲ削除スルトキハ差支ヲ生スルカ如シ何トナレハ勞力モ亦會社ノ所有ニ歸スルヤノ疑ヒアリ又使用權收實權ニ供シタル物件モ亦會社ノ所有ニ歸スルニ至ルヘケレハナリ故ニ此兩條ヲ削リタル以上ハ原案第六十條及第六十一條ハ別段揭ケサレハ不可ナルヘシト信セリ
（本尾委員）
原案第六十條ハ元來商法草案ニハナカリシモノナリシ然ルニ第三十四條ニ云フ如ク會社ノ所有ニ歸セサルモ假令ハ一社員机椅子等ヲ會社ニ貸渡シ其使用ヲ爲サシメ退社ノトキハ其机椅子等ヲ持歸ルヘシト約束シタルトキ此社員ノ出資ハ恰モ勞力ヲ出資ト爲シタル社員ト異ナルコトナシ何トナレハ共ニ退社スルトキハ社員タルノ資格ハ消滅スレハナリ元來右等ノ細事ハロエスレル氏ニ於テ規定セサル事柄ナリシニ委員ヨリ此疑問ヲ提出セシヲ以テ途ニロエスレル氏ハ第六十條トシテ追加スルニ至リタルモノナリ
（細川委員）
然ラハ第三十三條ト異ナル㸃ヲ示シタルニ過キサルナリ
（本尾委員）
然リ第六十條ノ物件卽チ退社ト共ニ終止スル目的ヲ以テ差入レタル使用權ハ第三十三條ニ會社ノ所有ニ歸ストアル取除ケナレハ會社ノ所有ニ歸セサルナリト云フニ在リ
（鶴田委員）
使用權ヲ會社ニ差入ルヽトキハ其使用權ハ會社之ヲ有スルモノナリ
（本尾委員）
第三十四條ノ使用權ハ會社ノ所有ニ歸スルモノトス故ニ社員ハ退社スルトキ之カ物件ヲ携帶スルコトヲ得ス之ニ反シ第六十條ノ使用權ハ會社ノ所有ニ歸セス故ニ會社ニ於テハ之レカ所有ヲ他ニ移轉セシムルコト能ハサルナリ
（岸本委員）
玆ニ云フ使用權トハ假令ハ一家屋ヲ會社ニ差入レ其家屋ノ修覆ヲモ擔當シ會社ノ住居ニ供スル如キ卽チ人權ナルヲ以テ退社スルトキハ會社其物件ヲ使用スル能ハサルニ依リ退社ト此ハニ消滅スルハ勿論ナリ是レ契約ヨリ生スルニアラスシテ其物件ノ性質ヨリ然ルモノトス
（鶴田委員）
例之ハ三百圓ノ供資ヲ差入ルヘキ社員家屋ヲ差入レ一ケ年之ヲ百圓ト積リ三ケ年後ニ於テ其家屋ヲ取戾ノ約束ナル場合ニ二ケ年目ニ其家屋燒失シタリ然ルトキハ殘金百圓ハ社員之ヲ償却セサレハ社員タルノ契約ヲ繼續スルコト能ハサルヘシ
（岸本委員）
原案第六十條及ヒ第六十一條ナキモ第三十三條ノ但書ヲ削リ決シテ差支ヲ生スルコトナシ何トナレハ使用ノ權又ハ勞力ヲ盡サシムルノ權ヲ會社ニ於テ所有スルモノナレハナリ人權卽チ權利ハ財產ナルヲ以テ別段ニ明文ナキモ一向差支ナケレハナリ
（本尾委員）
若シ兩條ヲ加ヘサルトキハ例之ハ一人ハ勞力ヲ五百圓トシ他ノ三者ハ千圓ノ金額トシ三千五百圓ノ會社ヲ設立シ後解散スルトキハ金額ヲ出シタルモノハ其金額ヲ持歸ルコトヲ得ヘシ然ルニ勞力ヲ供シタルモノハ如何スルヤ持歸ルコト能ハサルハ勿論ナリト雖モ是レ第三十三條ニ但書ヲ加ヘサル以上ハ原案ニケ條ヲ加ヘテ明瞭ナラシムルニ若カサルヘシ
（委員長）
勞力ヲ差入ルヽハ家屋等ノ使用權ヲ差入レタルト毫モ異ナルコトナシ何トナレハ其益金ハ會社ニ於テ同シク收入スルモノナレハナリ
（岸本委員）
勞力ト使用權ト異ナル㸃ハ家屋ノ使用權ヲ差入レソニハ其物件ヲ會社ニ供シテ他ニ爲スヘキ事ナケレトモ勞力ハ一日ニシテ濟ムモノニアラス其契約ノ日迄ナサヽレハ充分ナラス若シ半途ニシテ死亡スルトキハ之レカ爲メ勞力ヲ盡スノ義務ト社員タルコトトハ終ルモノトスルナリ
（本尾委員）
第三十三條ノ但書ヲ削リタルトキハ總テ出資ハ會社ノ所有ニ歸スルモノトナルヲ以テ勞力モ亦會社ノ所有ニ歸スルモノナリト岸本委員ノ如キ論モアレトモ本官ハ不然ト思考スルナリ何トナレハ他ノ物件ノ如ク使用セラルヽモノナルヤト云フニ決シテ然ラサルナリ止タ之ヲ差入レタルモノハ利益配當ノ比例ノ爲メニ差入ル」モノ、ニシテ會社ノ所有ト爲スカ爲メニ差入レタルニアラサレハナリ故ニ三百代言者流ニ之ヲ論スルトキハ爰ニ會社ノ所有トアルヲ以テ他ノ物件ト同一ニ差押フルコトヲ得ルヤノ疑ヒヲ生セサルニアラサルナリ
（岸本委員）
勞力ハ會社ニ於テ對人權ヲ有スルニ過キサルナリ故ニ、義務ヲ盡サヽルトキハ損害賠償ヲ爲サシムルヲ得ルヲ以テ若シ社員之レカ契約ヲ繼續スルコトナキトキハ會社ハ之ヲ訴フルニ至ラン
（長森委員）
原案第六十條ノ使用權ハ第三十四條ノ使用權ト異ナルヲ以テ其異ナル㸃ヲ示スハ可ナルヘシト思考ス
（細川委員）
然リ
（岸本委員）
併シ之ヲ記載スルトキハ解釋上困難ナキニアラサルヘシ
（本尾委員）
第三十四條及第三十五條ハ隨分困難ナル條ト雖モ亦原案第六十條及第六十一條モ困難ヲ免レサル規定ナリ故ニ「會社ノ所有ニ歸スル供資ノ損失ハ會社ニ歸シ會社ノ所有ニ歸セサル供資ノ損失ハ社員ニ歸シテ社員タルハ消一瀨スルモノトス」ト云フ精一岬ヲ以テ修正スルトキハ大ニ簡短ナルニ至ルヘシ如斯爲ストキハ第三十四條ノ如キ所有權ノ損失ハ社員ニ歸シ使用權ノ損失ハ社員ニ歸スルコトハ一目シテ瞭然タルニ至ルヘシト信ス
又獨逸法ニ於テハ第三十四條第三十五條及原案第六十條第六十一條ノ規定ナク左ノ法文ヲ以テ處分セリ卽チ該法第九十一條ニ「差入レタル資本ハ何モノタルヲ問ハス會社ノ所有ニ歸スルモノトス但シ利益標準ノ爲メ差入レタルモノハ此限ニ在ラス」
（委員長）
第三十四條ノ收實權又ハ使用權ノ如キモ其權利會社ニ移轉ストアリ卽チ移轉トハ第三十三條ノ所謂所有昌歸スルモノナルヘシ然ラハ勞力モ亦會社ノ所有ニ歸スルモノト云ハサルヘカラス
（岸本委員）
本官ハ第三十四條ヲ「收益ヲ供資ト爲シタルトキハ其權利ノミ會社ニ移轉スルモノトス」ト爲シ第三十五條及原案第六十條第六十一條ヲ削除セラレンコトヲ望ム收益權モ有用ニアラストナレハ是亦削除セラルヽモ異議ナキノミナラス却テ贊成スル所ナリ
（箕作委員）
第六十條ハ第三十五條ニ於テ分明ナリ何トナレハ使用收實ノ權ノ損失ハ會社ニ歸スルコトヲ示スモノナレハ其裏面ヨリ云フトキハ所有權ノ損失ハ社員ニ於テ負擔スルハ自カラ明カナリ故ニ第六十條ハ入ルエニ及ハサルモノト認定ス
（委員長）
第六十條ニ使用權ノ損失ハ社員ニ歸スルモノトアルハ如何
（細川委員）
此使用權ハ勞力ト異ラスシテ社員ニ附屬スルモノナルヲ以テ社員ノ勞力ヲ盡ス能ハサルト使用物ノ滅盡スルト同一ノ理ナルヲ以テ社員ノ損失ニ歸スヘシト爲シタル所以ナリ
（長森委員）
第六十條ハ所有、使用兩權トモ社員ニ歸スルコトヲ示ス第三十五條ハ會社ハ使用、收實ノ兩權ハ負擔スルモ所有權ハ所有主ニ歸スルコトヲ示スニ在リ
（本尾委員）
第六十條ハ第三十五條ト同一ニアラス第三十五條ハ會社ノ負擔ニ爲リ第六十條ハ社員ノ損失トナルト云フニ過キサルナリ
（箕作委員）
第三十五條但書ヲ削タルニ依リテハ第六十條及ヒ第六十一條ヲ修正シテ本案ニ加フルコトヲ望ム
（本尾委員）
修正シテ本案ニ加フルハ可ナルヘシト雖モ第六十條ハ不用ナルヘシ
正午第十二時二十分閉會