○第二讀會第二十回
明治十八年十月六日
欠席 渡邊委員
仝 周布委員
午前第十時開會
○第三十條 原案第五十四條
業務ヲ擔當セサル社員ト雖モ業務實況ノ詳報、會社ノ帳簿其他書類ノ檢閱ヲ要求スルコトヲ得
（本尾委員）
本條ハ文字ヲ修正シタルノミニシテ精神ハ原案ト毫モ異ナルコトナシ
（長森委員）
本條ニ業務ヲ擔當セサル社員トアルハ合名會社ノ性質上ヨリ論スルトキハ取除ケト云ハサルヘカラス然ルニ玆ニ取除ノ場合ヲ突言スルハ少シク疑ナキニアラサルヲ以テ其取除法タルコトヲ本條中ニ揭クル事トセハ如何
（細川委員）
然リ本官モ亦其思料ヲ抱ケリ
（長森委員）
則チ其取除法タルコトヲ示サンカ爲メ左ノ如ク修正セハ如何
「會社契約ヲ以テ幾干ノ業務又ハ全部ノ業務ヲ一ニノ社員ニ擔當セシムルコトヲ得其業務ヲ擔當セサル社員ハ業務ノ實況ノ詳報、會社ノ帳簿其他書類ノ檢閱ヲ要求スルコトヲ得」
（本尾委員）
修正委員ニ於テモ長森委員ノ如キ議論アリシカ修正委員ハロエスレル氏立案ノ精神ニ基キ業務擔當者ヲ置クヲ得ヘキハ明文ヲ揭ケサルモ當然爲シ得ヘキモノトセリ又既ニ修正案第二十二條五項ニ於テモ業務擔當者ヲ定メタルトキハ其氏名トアリ傍以テ擔當者ヲ置クヲ得ヘキコトハ明瞭ナリトス尤モ委員諸君ニ於テ强ヒテ之ヲ揭クヘシトノ論ナランニハ敢テ抗辯セスト雖モ本條ニ之ヲ揭クルハ適當ノ位置ニアラサルナラン歟
（鶴田細川委員）
第二十二條ヲ閱スルニ業務擔當者ヲ定メタルトキハ其氏名トアリ然ルニ其條以上ニ擔當者ヲ置クヲ得ヘキヤ否ニ就テノ規定ナケレハ聊カ穩當ナラサル處アルカ如シ修正第二十條ノ邊ニ其規定ヲ揭クルコトトセハ如何
（本尾委員）
或ハ可ナラン然レトモ該節ハ會社ノ設立ニ係レリ設立ノ節ニ於テ業務擔當者ヲ置クヲ得ヘキヤ否ノ規定ヲ設クルハ少ク穩當ナラサルカ如シ
（長森委員）
順序ヲ論スルトキハ修正案第二十二條ハ登記公吿ニ就テノ規定ナレハ該條ニ其事ヲ示スハ當ヲ得サルヘシ就テハ修正第二十九條ニ合名社員ノ原則ヲ揭タルヲ以テ其次條ニ置ク事トセハ不可ナカルヘシ
（箕作委員）
原案ハ「業務ヲ擔當セサル社員ハ」トアリ故ニ擔當者ニアラサル社員ハ之ヲ檢閱スルコトヲ得ルモノニシテ擔當者ハ却テ之カ檢閱ノ要求ヲ受クルノ義務アリトスルカ如シ然ルニ修正案ニ「社員ト雖モ」トセラレタルニ依テ見ルトキハ原案ノ精神ヲ變セラレタルカ如シ何トナレハ擔當者ハ業務實況ノ詳報等ハ檢閱スルハ勿論ナレトモ擔當セサル社員ト雖モ亦之ヲ檢閱スルヲ得ト解セサルヲ得サレハナリ
（本尾委員）
「社員ハ」ト云ヒ「社員ト雖トモ」ト云フモ到底精神ハ同一ニ歸スヘシ何トナレハ擔當者ノ中ニ於テモ亦相互ニ檢閱スルコトヲ得ルナレハナリ
（箕作委員）
原案第五十三條ノ二項ニ「會社契約ニ依リ若干ノ業務又ハ」云々トアルヲ修正委員ニ於テ削除セラレタル理由ハ何レニ在リヤ該項ノ尙ホ存スルアレハ長森委員ノ修正案ナキモ業務擔當者ヲ任スルヲ得ルコトハ明ナル可シ
（本尾委員）
該項ヲ削除シタルハ原案第五十一條ヲ削除セラレタルヲ以テ自ラ然ラサルヲ得サルニ由ルナリ
又既ニ述タルカ如ク長森委員ノ修正案ナキモ修正案第二十二條ノ第五項ニ「業務擔當者ヲ定メタルトキハ其氏名」トアリ
又本條ニ於テ業務ヲ擔當セサル社員トアルトキハ業務擔當者ヲ任スルヲ得ヘキコトハ自ラ明ナリト雖モ第五十三條ノ二項ヲ削リタルヲ以テ會社契約ヲ以テスルニ非サレハ業務擔當者ヲ任スルコトヲ得サルコト明ナラスト云フモ可ナリ是ヲ以テ修正案第二十九條ヲ左ノ如ク修正スルトキハ長森委員モ滿足ナル可ク又會社契約ヲ以テ業務擔當者ヲ任スルヲ得ヘキコトモ明瞭ナル可シ
「會社ノ業務ヲ施行シ其利益ヲ保衞スルニ就キ各社員ノ權利義務ハ同一ナリトス但シ契約ヲ以テ業務ヲ=一社員ニ擔當セシメタルトキハ此限ニアラス」
尤原案第五十三條中「別段ノ規定ナキ限リハ」トアルハロエスレル氏ノ說明ニ依ルトキハ業務擔當者ヲ任スル場合ニノミ限ルモノニアラサルカ如ク見ユルモ倒底其場合ヲ除クノ外社員ノ業務施行上ノ權利義務ヲ制限スルコトナカル可シ故ニ本會ニ於テ業務擔當者ヲ任スルノ外社員ノ業務施行上ノ權利義務ヲ制限スルモノナシト斷然決セラレテハ如何
（岸本委員）
原案第五十三條中「別段ノ規定ナキ限リ」トアルハ決シテ業務擔當者ヲ任スル場合ニ限ラサルナリ又之ヲ限ルヲ得サルナリ何トナレハ本法ハ私法ナルヲ以テ契約ヲ以テ定ムルトキハ何等ノコトト雖モ爲シ能ハサルコトナケレハナリ例之ハ契約ヲ以テ各社員ノ業務ヲ分擔シタル場合ノ如キ決シテ各社員ハ業務施行上ニ於テ同等ノ權利義務アリト云フヲ得サルナリ
（本尾委員）
業務擔當者ヲ任スル場合ト業務ヲ分擔スル場合ト同一ニ論スルヲ得サル可シ何トナレハ業務擔當者ヲ任スル場合ハ登記公吿シテ社外ニ其効ヲ有セシム可キモノナルモ業務分擔ハ社外ニ關係ヲ有スルモノニアラス單ニ社內ノ申合セニ止マルナリ
（岸本委員）
若シ本尾委員ノ說ノ如ク爲ストキハ大ナル不都合ヲ生スルニ至ルナラン則チ第六十八條ニ於テ利益配當上ニ就テモ特別ノ契約ヲ爲シ不平均ノ配當ヲ爲スコトヲ許シタルニアラスヤ
（本尾委員）
利益配當ハ業務施行上ノ事ニアラサル可シ
（委員長）
原案第五十三條ニ第五十一條ヲ適用スヘシトアルハ如何
（本尾委員）
業務擔當者ヲ任シタルトキハ第五十一條ニ揭ケタル事項ヲ取扱フハ業務擔當者ノ同意ヲ要スルニアラスシテ單ニ業務擔當者ノ多數決ヲ以テ執行スルヲ得ヘシト云フナリ
（細川委員）
合名會社ハ多クトモ七名ノ會社ナルヲ以テ其業務擔當者ハ兩三員ナルヘシ然ルニ此兩三員ノ多數決ト爲スハ合名會社ノ性質ニ反スルモノナルヘシ何トナレハ合名會社ノ社員ハ互ニ權利義務ヲ連帶スルモノナレハナリ故ニ本官ハ何レノ場合ニ於テモ總社員ノ承諾ヲ得ルニアラサレハ業務ヲ施行スルコトヲ得サルモノト爲シ合名會社ノ性質ニ適合セシメンコトヲ望ムナリ
（岸本委員）
然ルトキハ業務擔當者ハ何事ヲ爲スモ總社員ノ承諾ヲ要スルモノトノ規定ヲ設ケサルヲ得ス然ラハ先回ニ於テ修正案第二十八條ヲ削除シタル精神ニ反スヘシ如何トナレハ本官ハ該條ヲ一削除シタル理由ハ多數決ナリ總社員ノ同意ナリ總テ會社契約ニ於テ定ムル所ニ放任セシメタリト思考ス
（箕作委員）
修正案第二十九條ニ依ルトキハ各社員ハ業務擔當者ヲ置カサル以上ハ業務施行上ニ於テ皆同一ノ權利義務アリトスルヲ以テ一社員ノ執行セント欲スル事ニ付キ他ノ社員ハ之ニ對シ故障ヲ述フルコトヲ得ルナル可シ然レトモ如此ナルトキハ實際ニ於テ業務ヲ施行スルコトヲ得サルニ至ルナラン是ヲ以テロエスレル氏ハ先回削除セラレタル修正案第二十八條ヲ置キ右等ノ場合ニ在テハ社員ノ多數決ヲ以テ執行スヘシト爲シタルニハアラサルヤ斯ノ如ク論スルトキハ第二十九條ノ次ニ削除セラレタル第二十八條ヲ設ケサルヲ得サル可シ然ラサレハ不完全ナル法律ト云ハサルヲ得サルナリ
（本尾委員）
本員モ亦修正案第二十八條ヲ削除セラレタルハ好マサル所ナリ何トナレハ之ヲ刪除スルトキハ會社契約ニ明條ナキ以上ハ如何ナル瑣末ノ事項ト雖モ必ス總社員ノ同意ヲ得ルニ非レハ爲シ得サルニ至レハナリ然レトモ本官ハ第二十九條アルヲ以テ第二十八條ヲ置カサルヲ得スト云フニアラサルナリ何トナレハ第二十八條ハ會社契約施行ニ關スル事項卽チ會社契約ニ揭ケタル綱領ニ基キ其細目ヲ規定スルカ如キ場合ヲ云ヒ第二十九條ハ業務施行上ニ於ル社員ノ權利義務ヲ普通ニ規定シタルモノナレハ此兩條ノ精神異ナル所アレハナリ
（箕作委員）
第二十九條ニ於テ同等ノ權利トアルヲ以テ社員ハ髓意ニ其營業上ニモ啄ヲ入ルルコトヲ許スモノナリ故ニ其事業上ニ付一ハ可トシ一ハ不可トナス場合ハ如何スルヤ
（本尾委員）
其事柄ノ如何ニ依リ或ハ第二十八條又ハ第二十九條ニ基キ其可否ヲ決スルノ外ナシトス
（箕作委員）
業務擔當者間ニ於テモ亦同等ノ權利ヲ有シ義務ヲ負フナラン
（本尾委員）
然リ業務擔當社員ヲ任シタルトキハ業務施行上ニ於テハ業務擔當社員ノミ同等ノ權利義務アルモノトスルナリ
（箕作委員）
佛法ニ於テモ業務執行上ニ付社員ノ一致セサルトキハ多數決ヲ以テ之レカ可否ヲ決スルカ如シ如何
（岸本委員）
否同意ヲ得ルニアラサレハ施行スルコトヲ得サルナリ尤モ法律ニハ其明文ナシト雖トモ普通法ニ於テ自ラ然ルモノトス
（箕作委員）
ロエスレル氏ノ精神ハ假令合名會社ト雖モ一々社員ノ同意ヲ要スルトナストキハ營業上ニ於テ種々ノ不便ヲ來シ常ニ損失ノミヲ蒙ルニ至ルヘシ故ニ其事柄ニ依テハ多數決ヲ以テ之ヲ決セシメ又原案第五十二條ノ如キ場合ニ於テハ總員ソ同意ヲ得テ後施行スルモノトシ事柄ノ大小輕重ニ依テ融通ヲ設クルノ意ナラン之レ原案第五十一條及第五十二條ノ設ケアル所以ナランカ又佛法ニ於テモ多數ニ依テ決スルコトアルカ如シ
（本尾委員）
商法草案第九十七條ノ說明ヲ見ルニ箕作委員ノ說ノ如ク佛國ニ於テモ多數ニ決スルノ場合ナキニアラサルカ如シ該說明ニ「フラウワヨル」著書第一冊第二百葉ヲ見ル可シトアリ
（岸本委員）
然リ裁判事例ニ於テ社員一致セサルトキハ多數決ヲ以テ之レカ可否ヲ決スルコトトアリ其多數決ヲ求ムルノ方法ハ「出資ノ額ニ依テ議決權ニ等差ヲ立ツルコトヲ得ス」トナセリ之ニ依ルトキハ箕作委員ノ說ノ如ク修正第二十八條ヲ第二十九條ノ次ニ置クハ可ナリト信ス
（塩田委員）
合名會社解散ノ場合ニハ社員四分三ノ多數トアリ然レハ何事モ同意ヲ要スルト云フ精神ニモアラサルヘシ
于時第十二時ナルヲ以テ中止
午後第一時三十分前開會
（委員長）
修正第二十九條ヲ裏面ヨリ解スルトキハ如何
（箕作委員）
別段ニ契約アルトキハ業務施行上ノ社員ノ權利義務ニ等差アリトスルモノナラン
（委員長）
然ラハ義務ニ等差ヲ立ツルコトヲ得ルヤ
（鶴田委員）
否義務ヲ負フ場合ニハ等差ヲ立ツルコトヲ得ス然レトモ業務施行上ノ義務ニハ契約ヲ以テ等差ヲ立ルコトヲ得ルナリ例之ハ契約ヲ以テ業務擔當ノ義務ヲ免カルヽコトヲ得ルカ如シ
（岸本委員）
箕作委員ノ說ノ如キ社員互ニ故障ヲ述フルコトアル場合ハ先回ニ於テ修正第二十八條ヲ削除シタル精神ニ基キ之ヲ總員ノ承諾ヲ要スルモノト定メ修正ノ儘ニ決定アランコトヲ望ム又此等ノコトハ必ラス契約書ヲ以テ豫メ定ルモノナレハ契約ニ放任シテ可ナリ
（箕作委員）
併シ修正第二十九條ハ最モ廣汎ナルヲ以テ社員間ニ抗論アリテ決定セサルトキハ總甘貝ノ承諾ヲ要スルヤ否ハ本條ニ於テ之ヲ明知スルコトヲ得サル可シ又契約ヲ以テ此等ノコトヲ規定シタル場合ハ之ニ依ラシムルコトヲ得ルモ若シ契約ニ豫定ナキトキハ如何スルヤ
（岸本委員）
之ヲ裁判所ニ呈出スルナラン然ル時ハ裁判所ハ一致セサルコトハ爲スヲ得サルモノトシ後日ノ爲メ契約書ニ其決議ニ關スル條則ヲ規定セシムルナラン亦之ヲ爲スニ毫モ差支ナカルヘシ
（箕作委員）
然レトモ修正第二十條ニハ「總員ノ同意ニアラサレハ契約ヲ變更スルコトヲ得ス」トアリ故ニ契約ノ變更ニアラサル限リハ多數決ニテ爲スヲ得ヘシト解釋スルヲ得サルニアラサルナリ是ヲ以テ多數決ナリ總員同意ナリ法律上ニ明カニ之ヲ揭ケテ疑ヒナカラシメサル可カラス然ラサレハ佛國ノ如ク立法官ノ意ニ背キテ裁判スルノ弊ナシトセサルナリ
（本尾委員）
斯ク議論ノ細微ニ涉リ本條ヲ通過スルコト能ハサルハ漫リニ原案第五十一條及第五十二條ヲ刪除シタルニ基因スルナラン故ニ先回既ニ議決セシ所ナレトモ原案第五十一條及第五十二條ヲ再ヒ本節ニ加フルコトエナシ彼是ノ疑㸃ヲ誘起スルノ弊ナカラシメハ如何
（岸本委員）
一旦削除シタルモノヲ再ヒ本節ニ加フルノ論ハ箕作委員ノ發議ニ係レリ本員ハ不同意ヲ表スヘシ如何トナレハ立法官タルモノニシテ箕作委員ノ詭ノ如キハ毫モ感心スルニ足ラサルナリ若シ過チアルヘシトテ改正スルトキハ實ニ際限ナキニ至ラン如此コトハ立法官ノ心切過キタル事柄ニシテ先ツハ立法官ノ弊害ト云フモ誣言ニアラサルナリ則「權利義務ハ同等ナリトス」トノ數語ノ意味ニシテ總員同意ヲ要スルコトハ明瞭ナルヘシ若シ箕作委員ノ說ノ如ク細微ノ規定迄ヲ設クルトキハ「コソマソテール」ノ如キ法律ヲ作ラサルヲ得サルニ至ルヘシ
（本尾委員）
原案第五十一條及第五十二條ヲ再ヒ本節ニ加フルノ說採用セラレサルハ止ムヲ得サルナリ故ニ第二十九條ヲ左ノ如ク修正シ次條ニ移ルトセハ如何
會社ノ業務ヲ施行シ其利益ヲ保衞スルニ就キ各社員ノ權利義務ハ同一ナリトス「但契約ヲ以テ=一ノ社員ニ業務ヲ委任シタルトキハ此限ニアラス」
（委員長）
第二十九條ノ議論ハ到底論決ノ期ナカルヘシ依テ先ツ本條ハ假定ノ原案トシ後條ニ移ルトセン
（長森委員）
假定ト決セハ先回議了セシモノヲ以テ假定案トセン若シ新說ノモノヲ採用スルトナストキハ亦議論ヲ生シ決定ノ期ナカルヘシ
（委員長）
先回議了セシモノヲ以テ假定案トスヘシ
○第二十九條ハ本日ノ會議ヲ以テ問左ノ如ク修正シタリ
第二十九條 會社ノ業務ヲ施行シ其利益ヲ保衞スルニ就テハ各社員ノ權利義務ハ同一ナリトス但特約ヲ以テ業務擔當社員ヲ任シタルトキハ此限ニアラス
第二項削除
○第三十條 社員ノ下「ト雖モ」ノ三字ヲ削リ「ハ」ノ一字ヲ加フ
于時午後第二時ナルヲ以テ本日ノ會ヲ閉ノ