○第二讀會第十九回
明治十八年十月三日
欠席 箕作委員
仝 渡邊委員
仝 周布委員
午前第九時開會
○第二十八條ノ續キ
（長森委員）
第五十二條ハ前回ニ於テ討議セシ所ニ依リ考フルトキハ「目的ニ異ナル」ノ文字ヲ以テ或ハ契約變更ト同一ナリトノ論アレトモ此意味ハ契約變更ノ規定ヲ履行スルニ及ハサル事柄トナスノ精神ナル樣思料スルナリ故ニ第五十二條ノ意ヲ取リテ修正第二十七條ニ挿入スルトセハ可ナルヘシ則チ神戶迄ノ航路ヲ長崎迄延長シ又ハ倉庫ヲ築造シ或ハ棧橋ヲ建設シ若クハ炭礦ヲ自ラ所有スルカ如キハ契約ノ變更ニアラスシテ卽チ業務ノ擴張ト云フヘキモノナリ而シテ此等ノ事柄ハ會社ノ全體ニ關係ヲ及ホスモノナルヲ以テ總社員ノ同意ヲ要スルト爲セハ前後穩當ナルニ至ルヘシ其第二十七條ノ第二項ヲ設クルノ文案左ノ如シ
第二十七條第二項
會社契約ヲ變更スルニ至ラスト雖トモ會社ノ業務ヲ擴張シ又ハ縮節スルトキハ總員ノ同意ヲ要ス
（鶴田委員）
長森委員ノ修正案ニ依レハ先ツ會社ノ業務ナル語ノ區域如何ヲ定メサルヘカラス
（委員長）
合資會社ノ規定ニモ本條ノ如キ多數決ヲ設ケタル條則アリヤ
（本尾委員）
合資會社ノ規定ニハ本條ノ如キ明文ナシト雖トモ第百十條ニ依リ本條ハ合資會社ニモ亦適用ス可キモノナリ
（委員長）
本條ヲ合資會社ニモ適用スルモノトセハ最モ有用ナル條則ナリ
（鶴田委員）
契約變更ノ次ニ位スルモノハ第五十二條ノ場合其次ハ第五十一條ノ場合ナリ若シ第五十二條ハ契約證書ヲ改正セサルトモ總員ノ承諾ヲ得ル以上ハ施行シテ差支ナシトノ精神ナランニハ其旨趣ヲ以テ記載スルヲ要ス
（長森委員）
第五十二條ハ契約ノ變更トハ解セサルナリ契約變更ニ總員ノ同意ヲ要スルカ如ク第五十二條ノ場合モ會社ニ重大ナル關係ヲ生スルモノナルヲ以テ多數決ヲ許サスシテ總員ノ同意ヲ要スルモノト爲シタルナラン是レ契約變更ト同性質ノモノナリト雖トモ會社業務ノ擴張ニ止マルモノナルヘケレハナリ
（委員長）
佛法ニハ原案第五十二條ノ如キ規定アルヤ若シ之ナケレハ之レト同意味ナル規定アリヤ
（岸本委員）
佛法ニハ明條ナシ又原案第四十三條卽第二十七條ノ如キモ別段ニ規定ナケレトモ一般ノ法理上ヨリ論スルトキハ當然該條ノ如ク取扱ハサルヘカラス
（塩田委員）
本員ノ精神ハ施行上ニ關スル事項ノ外ハ總テ總員ノ同意ヲ要スル事ト爲セリ然ルニ業務擴張ニ至テハ多數決ヲ以テ爲スカ或ハ總員ノ承諾ヲ要スルモノト爲ス力ヲ論セハ本官ハ第五十二條ノ事柄ハ修正第二十七條中ニ包含シタルモノトシ契約ヲ變更セサレハ之レヲ爲シ能ハサルモノト處分アランヲ望ム
（委員長）
第五十二條ノ精神ハ契約變更ニ異ナラストスルモ契約證書ニ記載シアル事柄ヲ尙ホ法律上ニ記載セシモノニシテ若シ業務ヲ擴張スルカ如キ場合ニ在テハ契約書ニ記載シアル事柄ナリト雖トモ總員ノ同意アルトキハ其契約書ヲ變更スルニ及ハスト爲シタルカ如ク見ユルナリ
（細川委員）
若シ契約書ニ記載シナキ事柄ナルトキハ甚タ困難ナリトス
（塩田委員）
第五十二條ノ精神ハ修正第二十七條中ニ包含スルモノト看做サハ如何
（委員長）
例之ハ日本全國ニ鐵道ヲ敷設スル會社ニシテ其線路ヲ契約ニ指定セサルトキハ總社員ノ同意ヲ以テ東海道ニ敷設スルモ山陽道ニ敷設スルモ全國內ナレハ毫モ差支ナカルヘシ然ラハ契約ヲ變更スルニアラサルヤ明瞭ナリ
（細川委員）
合名會社ノ性質ハ他ノ會社ト異ナリ人員ニ制限アリ且共通計算ヲ以テ營業スルモノナレハ多數決ニテ事業ヲ施行スルハ實ニ危險ナリトス則鐵道ヲ敷設スルニモ共通計算ヲ以テシ又其入員モ寡少ナルヲ以テ總テ總員ノ同意ヲ要スルモノト爲スヲ第一ノ精神ナリト信ス故ニ多數決ニスル事モ之ヲ契約變更ノ部類ニ入レテモ不可ナシト本官ハ少シク窮屈ナル起案ヲ持セリ是ヲ以テ目的ニ異ナルカ又ハ目的ヲ踰ユルモノヽ如キハ無論契約變更中ニ入レ其手續ヲ要ス可キモノト爲スモ決シテ不都合ナシト信ス
（委員長）
原案第五十一條及第五十二條ニ就テハ如何シテ可ナランヤ
（本尾委員）
原案第五十一條及第五十二條ノ精神ハ存セラレンコトヲ望ム其理由ハ翫ニ度々陳述シタルカ如シ然ラサレハ第二十條ニノミ基キ會社契約ハ甚窮屈ナルモノトナリ社員ノ業務取扱上ニ困難ヲ生シ到底會社ノ目的ヲ充分ニ達スルコト能ハサルニ至ラン又修正第二十七條ノ如キハ社員相互ノ權利義務ノ節ニ置クハ穩當ナラサルヲ以テ修正第二十條ノ次ニ移サレンコトヲ望ムナリ
（岸本委員）
第二十七條第二十八條ニ就テハ先回ヨリ議シ未タ決定セサルヲ以テ寧ロ此兩條ヲ削除アランコトヲ希望ス何トナレハ此兩條ナシト雖トモ實際ハ契約書ニ於テ總員ノ承諾ヲ要スルヤ將タ多數決ヲ以テ可ナリトスルヤハ規定スルコトナルヘシ又此兩條ナキカ爲メ合資會社ニ至リ不都合アラン力ノ疑ナキニアラサレトモ是レ決シテ憂フルニ至ラサルナリ又此兩條ヲ削除スルトキハ第五十二條ヲ揭クルヤ否ノ議論ヲ生セシムルコトナカルヘシ傍ラ以テ削除セラレタシ
（細川委員）
此兩條ナシト雖トモ實際ハ此條ノ精神ニ從ヒ執行スルハ勿論ナルヘシ
（委員長）
若シ此兩條ヲ削除シテ合資會社ニ不都合アルトキハ合資會社ノ部ニ至リ記載スルモ亦不可ナカルヘシ
○論窮ノ上第二十七條第二十八條ハ削除ニ決ス
○第二十九條 原案第五十三條
會社ノ業務ヲ施行シ又ハ其利益ヲ保衞スルニ就テハ別段ノ契約アルニ非サレハ各社員同等ノ權利ヲ有シ義務ヲ負フモノトス社員ノ議決權ハ其供資ノ額ニ因テ等差ヲ立ルコトヲ得ス
（長森委員）
其利益ヲ保衞スルトハ如何
（本尾委員）
會社ノ利益ノ爲メニ注意スルノ意ナリ
（委員長）
第五十三條ノ會社契約ニ依リ若干ノ業務又ハ云々ヲ削除シタル理由如何又修正第二十九條別段ノ契約トハ何ヲ云フヤ
（本尾委員）
修正案ニ於テ會社契約以下ヲ削除シタル所以ハ原案第三十九條ノ第五項ニ「契約ニ依リ商務ノ專權ヲ委任セラレタル社員アルトキハ其社員ノ氏名」トアリシヲ「業務擔當社員ヲ定メタルトキハ其氏名」ト修正シ合名會社ニ於テモ業務擔當者ヲ置クヲ得ルコトハ已ニ世人ノ知リタルモノト看做セシヲ以テナリ又別段ノ契約トハ主トシテ業務擔當社員ヲ置タル場合ヲ云フナリ然レトモロエスレル氏ノ說明ニハ其他ニ於テモ社員ノ權利義務ヲ制限スル場合ナキニ非ラサルカ如ク見ユルナリ
又本條第二項ノ議決權ニ關スル規定ハ第二十八條ノ多數決ノ規定ヲ削除シタル以上ハ或ハ不用ニ屬スルモノニアラスヤ
（細川委員）
然リ不用ニ屬スルカ如ク見ユルモ發言ニ付等差ヲ立ツル場合ニ於テハ又入用ナシトハセサルナリ
（岸本委員）
議決權ト揭ケタルハ多數決ノ場合ノミヲ云フニアラス第一項ニ同一ノ權利義務トアルヲ以テ千圓ノ社員ト壹萬圓ノ社員ト決議權ニ等差ヲ立ツコトヲ保セサレハ特ニ本項ヲ存在セシメテ其弊ナカラシムルヲ可トス
（鶴田委員）
既ニ第二十九條ニ同等ノ權利義務トアル以上ハ本項ハ不用ナラン
（長森委員）
原案第五十一條ニ多數決トアルヨリ出ルモノナレハ該項ヲ削除シタル以上ハ本項モ亦削除スル敢不可ナカルヘシ
（委員長）
業務擔當社員ヲ任シタルトキハ各社員ノ權利義務上ニ於テ同等ナラサル諸㸃ハ幾許ナルヤ其差別ニ於テ甚タ分明ナラサルナリ合資會社ハ格別ナレトモ合名ハ社員都テ無限責任ナルヲ以テ之レカ等差ヲ立ルハ穩當ナラサルニアラスヤ又其同等ナラサル諸㸃ハ契約書ニ記載スルモノナルヤ
（本尾委員）
權利義務上ノ不同等ト云フハ業務擔當者ヲ置タルトキハ業務ニ與ラサル社員ハ第五十四條ノ權アルノ外業務ヲ執行スルヲ得サル卽チ是ナリ
（委員長）
義務ノ區別トハ社外ニ對シ義務ヲ負ハスト云フナルヤ
（本尾委員）
否社外ニ對スル義務ト云フニアラサルナリ單ニ社員間ニ於テ業務擔當上ノ義務ヲ云フナリ
（岸本委員）
義務トハ卽チ修正第三十二條ノ義務ヲ云フニ過キサルナリ
（本尾委員）
第二項ハ削除スヘキヤ否
（塩田委員）
多數決ヲ削除シタリトテ會社契約ニ於テ多數決ノコトヲ定ムルコトナキニアラサレハ削除スルニ及ハサルカ如シ
（細川委員）
供資ノ文字ハ穩カナラサルカ如シ
（委員長）
然レトモ之ニ換ユルノ好文字ナキヲ以テ先ツ原案ノ如ク供資トナスヘシ
（鶴田委員）
供資ヲ出資ト改メハ如何（之ニ決ス）
○本條ハ左ノ如ク修正シタリ
第二十九條 會社ノ義務ヲ施行シ其利益ヲ保衞スルニ就キ別段ノ契約アルニ非レハ各社員ノ權利義務ハ同一ナリトス
社員ノ出資額ニ因テ其議決權ニ等差ヲ立ルコトヲ得ス
于時正午十二時ヲ以テ本日ノ會ヲ閉ノ