○第二讀會第十八回
明治十八年十月一日
欠席 渡邊委員
仝 箕作委員
仝 周布委員
午前第十時開會
○第二節 社員間ノ權利義務
○第二十六條 原案第五十條
社員間ノ權利義務ハ本法及ヒ會社契約ニ依テ定マルモノトス
（本尾委員）
前回ノ決議ニ基キ本條ハロエスレル氏ニ於テ削除シタルモノナレトモ本節ノ初メニ編入シタリ
（長森委員）
本條ヲ玆ニ編入スルハ可ナリト雖モ然ル時ハ第二條トノ關係ハ如何或ハ第二條ハ會社タルノコトニシテ本條ハ社員間ノコトナリトセン歟然レ下モ社員間ノ關係ハ卽チ會社タルモノヽ關係ト少差ナカルヘシ就テハ第二條ヲ削除シテハ如何
（委員長）
第二條ハ會社タルモノヽ權利義務ヲ云ヒ本條ハ社員間ノ權利義務ヲ云フモノナルヲ以テ少シク異ナル所ナキニアラス故ニ强チ重復ト云フヲ得サルナリ
（長森委員）
會社タルモノヽ權利義務トハ何ヲ云フヤトナレハ既ニ第八條ニ其關係ヲ設ケリ卽チ第二條ハ第八條ノ事柄アルコトヲ知ラシムルニ過キサルナリ
（本尾委員）
元來ロエスレル氏ノ本條（原案第五十條）ヲ削除シタルハ第二條ヲ總則ニ置キタルヲ以テナリ何トナレハ第二條ニ於テ會社ノ權利義務ノ關係ハ本法及會社契約ニ依テ定マルモノトシ而シテ會社ノ權利義務ト云ル中ニハ社員間ノ權利義務モ亦包含シ居レハナリ然ルニ今第二條ト本條ト對照スルトキハ委員長ノ云ハルヽ如ク差異ナキニアラスト雖モ會社ノ權利義務トハ何ヲ云フヤト云フニ第一會社自己ノ權利義務第二社員相互ノ權利義務第三社外ニ對スル權利義務ヲ合シタルモノト云ハサルヲ得ス然ルトキハ第一ノモノハ第八條ニ於テ第二ノモノハ本節ニ於テ第三ノモノハ第四節ニ於テ各其規定アリ故ニ重復ニアラスト云フヲ得サルヲ以テ長森委員ノ說ニ依リ第二條第一項ヲ削除スル方可ナラン歟
又第二條第二項モ第一項ト共ニ削除シテ可ナリ何トナレハ第二項ニ於テ代表人ノコトヲ揭ケタルモ此事ニ付テハ原案第七十三條及第百七十三條ニ規定スル所アルヲ以テ是亦重復ト云ハサルヲ得サレハナリ
（岸本委員）
第二條ト本條トハ少シク差異ナキニアラサレトモ第二條ヲ削除スルモ本條ヲ存スル以上ハ一向差支ナキヲ以テ本員モ第二條削除論ヲ贊成ス
（委員長）
本條ニ「本法」トアレトモ原案ハ元來商法草案ナルヲ以テ商法ト云フ精神ナルヘシ左モ商法ヲ指シテ云フトキハ該法第一條ニ基キ民法等モ自ラ包含スルモノトス然ルニ今之ヲ本法帥商社法ノミト爲ストキハ原案ノ精神ヲ狹隘ニスルノ恐レナキニアラサルナリ
（本尾委員）
本條ニ「本法」トアルハ此商社法ヲ指スモノトス何トナレハ社員間ノ權利義務上ニ就テハ敢テ民法ニ關係ヲ及ホスコトナケレハナリ尤社員間ニ於テ民事上ノ取引ナシトセス然レトモ是社員ノ資格ヲ以テ論ス可キモノニアラサル可シ
（委員長）
本條ハ細川箕作鶴田委員ノ出席ヲ俟テ再議スルコトニセン
○第二十七條 原案第四十三條
會社契約ハ總社員ノ同意ニアラサレハ變更スルコトヲ得ス其同意ヲ得サルトキハ從前ノ契約ニ循フ可シ
○別段異議ナク原案ニ決ス
○第二十八條 原案第五十一條同第五十二條
會社契約ノ施行ニ關スル事項ハ社員ノ多數ニ依テ決ス可シ
（本尾委員）
原案第四十九條印會社契約ノケ條ニシテ會社ノ實行セサリシモノ云々ヲ修正委員ニ於テ削除シタルハ實際別段ニ必用ナカルヘシト思考セルニ依レリ又原案第五十二條ヲ削除シタル所以ハ第五十二條ニ總員ノ同意ヲ要ストアルヲ以テ是卽チ契約變更ト云ハサルヲ得ス然ルトキハ第二十七條ノ規定ニ依ル可キモノナリトスルニ在リ又本條卽チ原案第五十一條中會社契約ニ規定セサル事項ノ數字ヲ削除シタル理由ハロエスレル氏ハ此ニ規定セサル事項トハ重モニ些瑣ナル事柄ヲ云フノ精神ナリト雖トモ其文字ニ就テ之ヲ見ルトキハ單ニ契約ニ規定セサル事項ト解スルヲ以テ如何ナル大事件ナリトモ規定セサルモノナル以上ハ社員ノ多數ニ依テ決議スルヲ得ヘシト解スルニ至ル可ク又文字ヲ修正シテ契約ニ規定セサル些瑣ノ事項トナストキハ到底契約施行ノ事項ニ止ル可キヲ以テナリ是レ修正委員ノ削除ヲ加ヘタル理由ナリ
（長森委員）
第五十二條ハ第五十一條ニ多數決ヲ以テ爲シ得ヘキコトヲ云フニ依リ第五十二條ノ事柄ニ關シテハ總員ノ同意ヲ要スト揭ケタルナルヘシ然ルニ第五十二條ヲ削除スルトキハ第五十二條ニ揭ケタル如キ事柄モ亦多數決ニテ爲シ得ヘキ事ナリヤノ疑ナキニアラサラン故ニ第五十二條ハ存スル方可ナルヘシ
（本尾委員）
原案第五十二條ハ修正委員ニ於テ削除シタリト雖トモ是レ甚タロエスレル氏ノ精神ニ戾ルモノナリ何トナレハロエスレル氏ハ本條ノ如キハ總社員ノ同意ヲ要シ酷ニ論スルトキハ契約ノ變更ト云ハサルヲ得サルモノナルモ第二十條卽チ原案第三十七條ノ手續ヲ要セス單ニ總社員ノ同意ヲ得ルトキハ之ヲ實行シ得ヘキモノト規定シ會社契約ノ變更ニ幾分歟圓活ナル性質ヲ與ヘタレハナリ故ニ本員ハ原案第五十二條ノ精神ヲ存セラレンコトヲ望ムナリ
（委員長）
第五十二條ノ精神ハ契約書ヲ書改ムルモノナルトキハ第二十七條ノ契約變更ニ入ルモ契約書ヲ書改ムルコトヲ要セス單ニ總社員ノ同意ヲ得タルトキハ實施スルコトヲ得ルモノナルトキハ之ヲ削除スルコトハ得サル可シ
（岸本委員）
ロエスレル氏ノ說明ヲ見ルニ本條ハ主トシテ事業ヲ擴張スル場合ヲ言フカ如シ假令ハ神戶迄ノ航路ヲ長崎迄延長セシムルカ如シ此如擴張ハ是レ契約ノ變更ト云ハスシテ何ソヤ苟モ契約ノ變更ナルトキハ又其手續ヲ爲サヽルヲ得サルナラン然ルトキハ卽チ第二十七條ニ入ル可キナリ
出席細川委員
○第二十六條ノ再議、
（細川委員）
第二條ト修正案第二十六條ト孰レカ削除シテ可ナルヤヲ論セハ第二十六條ヲ削除スルトキハ第二十七條ヲ以テ本節ノ首條ト爲スニ依リ題目ニ照シテ見ルトキハ穩當ナラサルナリ又第二條ヲ削除シテ第二十六條ヲ存センカ第二條ノ二項ヲ獨立セシメテ一條ト爲スモ亦體裁上宜ヲ得サルカ如シ
（本尾委員）
第二條ノ二項モ亦削除スルモ差支ナシ何トナレハ原案第七十三條及第百七十三條アレハナリ
（細川委員）
然ラハ第二條ヲ削除スルモ可ナリ
○衆議ノ上途ニ第二條ヲ削除スルコトニ決セリ
（委員長）
第五十一條ト第五十二條トノ關係ハ如何
（細川委員）
第五十二條ノ如キハ先回ノ會議ニ於テ到底契約變更ニ至ルナリト議論セシ所ナリ
出席鶴田委員
（本尾委員）
第五十二條ノ精神ハ契約變更ト云フモ可ナリト雖モ總員ノ承諾アルトキハ第二十條ノ手續ヲ爲サヽルモ之ヲ施行スルヲ得ルモノナリ
（長森委員）
本員ハ第五十二條ハ注意ノ爲メ揭載スルヲ可トス何トナレハ契約ヲ變更スルニアラスシテ一時營業上ニ猶豫ヲ與フル所ノモノナレハナリ假令ハ冬季北海風浪猛烈ナルカ爲メ小笠原嶋ヘ航路ヲ轉スルカ如キ其社營業上ニ就テハ大ナル關係ヲ及ハサヽル所ノモノハ契約ノ變更ト云フヲ得ス則一時ノ「ヤリクリ」ニ止マルモノナレハ毫モ契約上ニ關係ヲ及ホスヘキモノニアラス第五十二條ノ如キハ則此精神ナレハ其猶豫アルヲ示スニハ本條ヲ記載スルヲ以テ可ナリト信ス
（岸本委員）
若シ長森委員ノ說ノ如クナストキハ修正案第二十七條ヲ設クルモ詮ナキ場合ニ至ラン何トナレハ法律ハ登記公吿ヲ爲ササル以上ハ契約變更ノ効力ナシト明示シナカラ第五十二條ヲ揭クルニ於テハ總員ノ承諾アルトキハ登記公吿ヲ經スシテ實行スルコトヲ得ルニ至ルヘシ然ラハ法律ノ精神ニ戾リテ此ニ本條ヲ設クルモノト云ハサルヲ得ス彼ノ航路ヲ延長シ及ヒ變換スル如キハ實ニ契約變更ノ部類ニ屬スルモノナリ依テ第五十二條ヲ設クルハ穩當ナラサルカ如シ
（本尾委員）
登記公吿ハ契約ヲ變更セサルモ第二十二條ニ揭ケタル事項ニ變更ノ生シタルトキハ之ヲ爲サヽルヲ得サルナリ例之ハ社員住所ヲ轉シタルカ如キ契約ノ變更ニアラサルモ其登記公吿ハ爲サヽル可カラサルカ如シ
（長森委員）
酒屋營業ヲ米屋營業ニ變スルハ純粹ナル契約ノ變更ト云フヘシト雖モ航路ノ伸縮ヲナスカ如キハ全クノ變更トハ云フヲ得サルヘシ
（岸本委員）
航路ノ延長ヲナスカ如キハ則目的ヲ擴張スルモノトス然ラハ變更ニアラスシテ何ソヤ
（委員長）
第五十一條ノ契約ニ規定セサル事項トハ如何
（本尾委員）
契約ニ於テ豫定シ得サル歟又ハ豫定スルヲ欲セサル些瑣ノ事柄ト云フナリ
（岸本委員）
第五十二條ノ說明書中ニ贈與又ハ航路ノ延長又ハ輸出會社ノ其業ヲ輸入業ニ及ホス等ノ例ヲ擧ケタリ此等ノコトハ會社ノ爲メ大ナルコトナルヲ以テ契約ヲ變更スルニアラサレハ爲シ能ハサルコトナリ
于時第十一時ナルヲ以テ中止
午後第一時開會
（本尾委員）
第二十八條卽チ原案第五十一條中ノ會社契約ニ規定セサル事項ノ數字ヲ前述ノ理由ニ依リ修正委員ニ於テ削除シタリト雖モ總委員ニ於テ之ヲ記載スルヲ要用ナリトセラルヽナレハ「會社契約ニ規定セサル事項ニシテ會社ノ目的ニ反セサルモノ幷ニ會社契約ノ施行ニ關スル事項ハ社員ノ多數ニ依テ決ス可シ」ト修正スルモ敢テ不都合ナカル可シ
（長森委員）
能ク之ヲ究ムルトキハ契約ニ規定セサル事項云々ハ差加ヘサルモ不可ナキカ如シ
（岸本委員）
然リ原案ノ儘トナシ「施行ニ關スル事項中ニハ會社契約ニ規定セサル事項ニシテ會社ノ目的ニ反セサルモノ」云々ノコトハ包含スルモノトセハ如何
（鶴田委員）
明文ヲ加ヘル方判然トシテ宜カラン
（委員長）
契約施行ニ關スル事項ノ如キハ多數ヲ以テ決定スルニモ及ハサルヘシ如此些瑣ナル事項ハ實際一ニノ社員ニ於テ之ヲ處分スル何ノ差支カアラン就テハ本條ヲ削除スルモ別ニ不可ナキカ如シ
（岸本委員）
第二十八條ハ命令法ナルヤ又ハ隨意法ナルヤ
（本尾委員）
隨意法ナリ故ニ契約ヲ以テ之ヲ左右スルハ法ノ禁セサル所ナリ
（委員長）
本條多數ノ文字ヲ削除シ社員ノ協議ヲ以テ施行セシムルモノトセハ如何然ルトキハ其社ノ都合ニ依リ或ハ多數決ヲ用ヒ又ハ總員ノ協議ヲ以テ決定スルカ如ク會社ニ於テ便宜規定セシメハ却テ其業務上ニ取リテハ可ナルモノアルカ如シ
（本尾委員）
若シ契約ニ於テ其規定ヲ設ケサルトキハ必ラス總員ノ同意ヲ要セシムルヤ又ハ多數ヲ以テ決セシムルヤ本條ヲ設クル所以ハ契約ニ其規定ヲ缺キタル場合ニ適用スルモノナリ
（委員長）
如此規定ハ契約中必ラス設ク可キモノトシテハ如何
又獨逸法ニハ第二十八條卽チ原案第五十一條及原案第五十二條ノ如キ規定アリヤ否
（本尾委員）
獨法ニハ第二十八條ノ如キ規定ナシ原案第五十二條ノ如キ規定ハ獨法第百三條ニアリ尤同法ハ本案ト異ナリテ會社契約ハ必ラス書面ヲ以テスルヲ要用トセス故ニ本條ノ如キヲ揭ケ以テ總社員ノ同意ヲ要スル場合ヲ示メシタルモノナラン
（岸本委員）
契約書ニ記載シタル事柄ハ悉ク登記公吿ヲ要スルヤ
（本尾委員）
登記公吿ノ事項ハ第二十二條ニ揭ケタルモノナリ故ニ契約書記載ノ有無ヲ問ハス其事項ハ登記公吿セサルヘカラス又其事項ノ變更ニ就テモ然リトス
（委員長）
契約變更ノ時ハ社員各個所持スル契約書ヲ一々書換ユルハ實ニ手數ヲ要スルコト夥大ナリトス故ニ變更ノ時ハ之ニ記入スルカ或ハ別ニ書面ヲ以テ配付スルモ敢テ不可ナカルヘシ而テロエスレル氏ハ原案第五十二條ヲ置キ契約ヲ變更ス可キ場合ト雖トモ必ラス原案第三十七條卽チ第二十條ノ手續ヲ要用セサルコトヲ示シタルモノヽ如シ如此場合ハ又國際契約ニ於テモ往々見ル所ナリ例之ハ雙方政府ノ承諾シタル以上ハ契約書ヲ書改ムルコトナクシテ之ヲ實施スルコトアルカ如シ是甚タ便利ナル方法ト云フ可シ
（鶴田委員）
第五十二條ノ精神ヲ約言スレハ總員同意ノ上ハ會社契約ノ變更卽チ契約書ヘノ記入又ハ之カ改正ヲ要セスシテ執行スルコトヲ得而シテ社外人ニ對シテハ契約書ハ改メサルモ總員同意ノ上登記公吿ヲ爲シタルヲ以テ充分足レリト云フニ在ルカ如シ之ヲ要スルニ契約書ヨリ事實アリシナラハ其事實ヲ以テ効アリトスルナラン
（本尾委員）
然リ
（岸本委員）
然ルトキハ會社ハ契約書ヲ作ルニアラサレハ成立スルコトヲ得ストアル法文ニ反スルモノトナルヘシ又第五十二條ノ精神ヲシテ鶴田委員ノ說ノ如クナラシメハ第二十條ノ規定ハ實ニ有名無實トナルヘシ
（鶴田委員）
否然ラス第二十條ハ設立ノ時ナルヲ以テ之ヲ嚴密ニナサヽル可カラスト雖モ第五十二條ノ場合ニ於テハ如此嚴密ナルヲ要セサル精神ナラン
○本條未タ決セス于時午後三時二十五分ナルヲ以テ本日ノ會ヲ閉