○第二讀會第十六回
明治十八年九月十九日
欠席 細川委員
仝 箕作委員
仝 渡邊委員
仝 周布委員
午前第九時開會
○第二十條 原案第三十七條
合名會社ハ契約書ヲ作ルニ非サレハ設立スルコトヲ得ス契約書ハ總社員之ニ連署シ各社員其一部ヲ所持ス可シ
前項ノ規定ハ會社契約變更ノトキニ於テモ亦之ヲ遵守セサル可カラス
（長森委員）
先回ニ議決セシ第十九條ヲ第二十條トシ第二十條ヲ第十九條ト其順序ヲ變換スル方可ナルヘシ
（本尾委員）
第十九條ハ社名ノコトヲ規定シ第二十條ハ契約證書ヲ作ルコトニ係ル而シテ此契約書ニハ社名ヲ記載シ置カサルヲ得ス故二十九條ニ於テ社名ノコトヲ規定シ而シテ第二十條ニ於テ契約書ノコトヲ定ムルハ穩當ナルカ如シ
（長森委員）
併シ契約書ハ會社設立ニ就テハ最モ重大ナル要件ナルヲ以テ此ニ特ニ示スト雖モ社名ハ契約書中ノ一部分ニシテ契約書ヲ作ルトキハ必ス其中ニ揭ケ置クモノナレハ左マテ要用トスルニ非ス則チ大體ヲ示シ置カハ社名ノ條ヲ後ニ揭クルモ差支ナカルヘシ
（岸本委員）
若シ二十條ヲ第十九條ト變換スルトキハ二十條ヨリ生シタル二十一條ノ位置甚タ不都合トナルヘシ如何トナレハ一ケ條ヲ越ヘテ其ヨリ生シタルモノヲ設クル如キ姿トナレハナリ
（委員長）
格別二十九條ヲ二十條ニ移スノ理由モナケレハ原案ノ儘トスヘシ
（本尾委員）
本條 原案ヲ修正シテ「契約書ヲ作ルニアラサレハ設立スルコトヲ得ス」トナセシモノハ元トロエスレル氏ノ精吐胛タルヤ必ス契約書ヲ作ルヘシ若シ之ヲ作ラサルトキハ會社ハ成立セサルモノトナスニ在リ故ニ原案ノ如ク「契約書ヲ作ルヘシ」トノミ示ストキハ之ヲ作ラサルニ於テ成立スルヤ否ヤノ疑ナキニアラス依テ修正案ニテハ之ヲ判明ナラシメンカ爲メ契約書ヲ作ラサレハ會社ハ成立セサルコトヲ明示セリ
（長森委員）
原案ノ方可ナリ如何トナレハ作ルヘシト示セハ若シ之レナキトキハ會社ノ成立セサルコトハ自カラ明瞭タレハナリ
（岸本委員）
原案ノ如ク作ルヘシトノミアルトキハ會社成立ノ要件トシテ作ルヤ又ハ證據ノ爲ニ作ルモノナルヤ疑ヒナキニアラス此㸃ニ就テハ佛國法ニ於テ未タ明瞭タラサルナリ依テ修正案ニ於テハ此疑團ヲ判決シテ成立ノ要件トシ若シ契約書ナキトキハ會社契約ハ成立セサルヲ以テ其之ナキモノハ會社設立ハ無効ニ歸スルモノナルコトヲ明示セシモノナリ
（長森委員）
必ス作ルヘシトセハ岸本委員ノ說ノ意味ニ解シ得ラルヘシ如何トナレハ必スノ文字アルヲ以テ若シ作ラサルトキハ無効トナルヘキ明瞭ナレハナリ
（委員長）
會社設立ノ日トハ契約書ヲ作リタル日ナルヤ或ハ登記公吿ヲナシタル日ナルヤ
（本尾委員）
契約書ヲ作リタル日ヲ以テ設立ノ日ト看做ナリ
（鶴田委員）
然ラハ解釋ニ依テハ少シク意味ヲ異ニスルコトナキニアラス假令ハ契約書ヲ作リタル後數日ヲ經テ會社ヲ設立シタルモノトシ而シテ夫ヨリ十四日以內ニ公吿スルモ差支ナキカ如ク解セラルヽノ疑ナキニアラス何トナレハ會社ハ契約書ヲ作ルニ非サレハ設立スルコトヲ得ストアリテ契約書ヲ作ルト共ニ設立スルモノトナサヽレハナリ
（本尾委員）
其誤解ノ恐ナキニ非ラサルナリ故ニ「設立スルコトヲ得ス」トアルヲ「設立セサルモノトス」トナストキハ其誤解ノ弊ヲ免カル可シ
（鶴田委員）
契約書ヲ作リタル日ヲ設立ノ日トナストキハ「契約書ヲ作リ初メテ設立シタルモノトス」ト記載セサルヘカラス
（岸本委員）
鶴田委員ノ說ニテハ契約書中ニ「來ル十九年一月ニ設立スルモノトス」ト定ムルコトナシトセスト云フニ在リ然レトモ此契約ハ會社ヲ結フト云フ豫約ニ過サルモノニシテ其會社契約トハ言フヲ得サルヘシ
（鶴田委員）
設立スルトハ會社設立ノ日ヲ約スルニアラスシテ會社ノ組織ヲ契約スルモノトス而シテ其契約書中ニ何日ニ設立スヘシト記載セハ或ハ豫約ナルヘシト雖モ止タ組織上ニ就キ契約スルニ於テハ敢テ差支ナカル可シ
（岸本委員）
本條ノ要㸃ハ契約書ヲ作ルニアリ故ニ鶴田委員ノ設ノ如ク「契約書ヲ作リ初メテ設立シタルモノトス」ト爲冖ストキハ設立ノ日ヲ認定スルヲ主ト爲スコトニアリ甚タ精神ニ齟齬スルノ憂ヒアリ
（長森委員）
第二十一條ノ設立ノ文字ヲ會社契約ノ日ヨリト改正セハ蓋シ諸君ノ疑ヒヲ解クニ近カラン
（委員長）
設立ノ文字ハ餘條ニ散在シテ尤モ緊要ナル文字ナレハ之ヲ削除スルハ不可ナリ
（鶴田委員）
本條ハ合資會社ニモ通用スルモノナルヘシ果シテ然ルトキハ合名會社云々トシテハ不可ナリ故ニ單ニ會社云々トスヘシ
（本尾委員）
然リ合資會社ニモ亦適用セラルヽ條ナレトモ第百十條ニ合名會社ノ條則本款ニ於テ別ニ規定ナキモノハ合資會社ヘモ亦之ヲ適用スヘシトアルヲ以テ單ニ會社トセサルモ差支ナキカ如シ
（岸本委員）
第二十一條ヨリ單ニ會社トセハ如何
（本尾委員）
然ラハ他ノ會社ト判然區別スルヲ要セサル條々ハ單ニ會社トシ區別セサルヘカラサル場合ニ於テノミ合名會社トセハ如何（之ニ決ス）
（鶴田委員）
可ナリ
（河上委員）
本條ニ其一通ヲ所持ス可シトアリ原案ニハ交付ス可シトアリ而シテ原案ノ精神交付ノ意ナレハ所持ト改メタルニ不可ナルノミナラス且不用ナリト信ス如何トナレハ若シ七名ノ合名會社ナルトキニ當リ其契約書ニハ銘々連署スルナラン然ラハ之ヲ所持スルコトハ言ハサルモ亦明カナリトス若シ之ヲ原案ノ如ク交付トセハ連署ト相照應シテ不可ナシト雖モ所持トナサハ寧ロ削除スル方可ナルヘシ
（本尾委員）
交付トナスモ所持トナスモ其精神ハ一ナリ何トナレハ會社ヲ主トシテ云フトキハ交付ナルモ社員ヲ主トシテ云フトキハ所持ト云ハサル可カラス
（岸本委員）
一部ツヽヲ所持セシムルハ雙務契約ノ性質ナレハ之ヲ所持スルノ權ヲ抛棄スルモノハ自己ヨリ之レカ訴權ヲ失フモノニシテ他人ニハ毫モ害ヲ及ホスモノニアラサレハ修正案ノ如クシテ敢テ不可ナシト信ス
（河上委員）
若シ之ヲ雙務契約ノ性質ナリトスルトキハ寧ロ所持ノ二字ハ削ルヘシ之ヲ削ルモ毫モ差支アラサレハナリ
○本條ハ左ノ如ク修正シタリ
第二十條 會社ハ契約書ヲ作リ初メテ設立スルモノトス契約書ハ總社員之ニ連署シ各員ニ其一通ヲ交付スヘシ
前項ノ規定ハ會社契約變更ノトキニ於テモ亦之ヲ遵守ス可シ
○第二十一條 原案第三十八條
合名會社ハ設立ノ日ヨリ十四日以內ニ本店及支店ノ地ニ於テ其登記公吿ヲ受ク可シ
（本尾委員）
十四日トハ契約ノ日ヨリ届出ノ日迄ヲ云フ然レトモ遠隔ノ地ニ在テハ法律上ノ路程ノ猶豫ヲ與フルノ精神ナリ
（岸本委員）
設立ノ日卽チ契約ノ日ハ十四日中ニ算入スルヤ否ヲ決定シ置カサルヘカラス
（委員長）
日曜日ハ當然十四日中ニハ包含セサルモノナルヘシ
（本尾委員）
總テ日ヲ期シタル場合ニ於テハ其日ヨリ其日迄トノ意ニ解スルノ精神ナリ取除ケノ場合ニ於テハ故ラニ其旨ヲ記載セサルヘカラス
（鶴田委員）
支店ノ文字ニ對シ設立ノ日ヨリト云フニ少シク不都合ナラスヤ
（委員長）
本支店ノ文字ハ削除シテハ如何
（本尾委員）
日本ノ習慣ニ依レハ例之ハ本店ヲ東京ニ設ケ支店ヲ大阪ニ設置シタル場合ニ於テ其本店支店ノ届出共ニ之ヲ本店所在地鄙チ東京ニ於テノミ爲スノ趣ナレハ本條ニ本店及支店ノ地ニ於テトアルハ必用ナリトス
（鶴田委員）
支店ヲ設クルトテ故ラニ契約書ヲ作ルモノニアラサレハ此二十四日云々トナシテハ少シク牴觸スル所ナキニアラスヤ又此二十四日ト定メタル理由如何
（本尾委員）
可成速ニ登記セシメンカ爲メナリ故ニ可成期ノ短キヲ欲スト雖モ餘リ短キニ過ルトキハ會社ノ爲メ不便ヲ來シ爲メニ設立モ亦目的ヲ達スルコトヲ得サルカ如キ形況ニ陷ルナシトセス故ニ之ヲ十四日ト定メタルナリ
（委員長）
十四日內ニ登記公吿セシムル理由如何
（本尾委員）
登記公吿セサレハ假令會社契約ヲ作リ社員間ニハ已ニ會社ハ成立スルト雖モ社外ニ對シ其効ナキヲ以テ可成迅速ニ社外人ニ知ラシメサル可カラサルヲ以テナリ又會社未タ開業セサルモ社員中ニシテ已ニ社外人トノ間ニ營業上ニ就キ契約スルコトナシトセス然ルトキハ會社ハ已ニ社外人ニ對シ重ナル關係ヲ有スルモノナレハ可成速ニ登記公吿シテ此等ノ㸃ヲ保護セサルヘカラス若シ登記公吿前ニ於テ會社ニ紛訟ヲ生シ解散スルカ如キ場合ヲ生スルトキハ其契約タル只タ民事上ノ性質ニ止マリ本法ノ規定ニ依リ會社トシテ其義務ヲ負フコト能ハサレハ爲メニ社外人ノ蒙ムル所ノ損害モ亦少々トセス依テ契約書ヲ作リタル以上ハ速ニ登記公吿セシメテ社外人ヲ保護セサルヘカラス是レ十四日以內ニ登記公吿セシムル所以ナリ
（岸本委員）
獨法ニハ此期限アリヤ
（本尾委員）
獨法ニハ只タ速カトアリテ期限ナシ
（岸本委員）
佛及伊太利白耳義共ニ期限ナシ就テハ速カニトナシテハ如何（之ニ決ス）
○本條ハ左ノ如ク修正シタリ
第二十一條 會社ハ設立後速ニ本店及支店ノ地ニ於テ其登記公吿ヲ受ク可シ
○第二十二條 原案第三十九條
登記及公吿ス可キ事項左ノ如シ
一 會社ノ種類、目的、社名、住所
二 各社員ノ氏名、住所
三 設立ノ年月日
四 存立期限ヲ定メタルトキハ其期限
五 業務擔當社員ヲ定メタルトキハ其氏名
（鶴田委員）
種類トハ如何
（本尾委員）
合名又ハ合資會社ナルコトヲ云フ而シテ目的トハ營業ノ事ニ係ル卽チ米屋油屋ノ如キヲ云フ依テ之ヲ改メテ業體トナスモ可ナリ
（委員長）
種類ノ語疑ヒナキニアラス依テ判然「合名會社ナルコト」ト爲スヘシ
（鶴田委員）
社員ノ住所ヲ削除シテハ如何何トナレハ住所ヲ更フル每ニ登記公吿スルハ實ニ手數ヲ要スル夥多ナルノミナレハナリ
（岸本委員）
社員ノ住所ヲ削除スルハ敢テ不可ナカル可シ
（委員長）
合名會社ノ社員ハ株主ト異ナルヲ以テ住所ヲ公吿セシムルハ信用上ニ就キ大ナル關係アルナレハ之ヲ削除スルハ不可ナリ
○本條ハ左ノ如ク修正シタリ
第二十二條 登記及公吿ス可キ事項左ノ如シ
一 合名會社ナルコト
二 會社ノ業體
三 社名、住所
四 各社員ノ氏名、住所
五 設立ノ年月日
六 存立期限ヲ定メタルトキハ其期限
七 業務擔當社員ヲ定メタルトキハ其氏名
○第二十三條 原案第四十條
前條ノ事項ニ變更ヲ生シタルトキハ七日以內ニ亦其登記公吿ヲ受ク可シ
（本尾委員）
第二十一條二十四日トセシヲ以テ本條二七日トセシナリ然ル二十四日ヲ削除シタレハ七日モ亦削除スヘシ
（岸本委員）
前條ノ會社ノ住所トアル中ニハ支店ノ住所モ亦包含スヘシ
（本尾委員）
然リ然レトモ本店ノ地ニ於テハ支店ノ住所ヲ公吿スルニ及ハサレトモ支店ノ地ニ於テハ本店ノ住所ハ却テ公吿セサルヘカラス
○本條ハ左ノ如ク修正シタリ
第二十三條 前條ノ事項變更シタルトキハ亦其登記公吿ヲ受ク可シ
○第二十四條 原案第四十一條
會社ハ登記公吿已前ニ開業スルコトヲ得ス違背スルトキハ裁判所ニ於テ其營業差止ム可シ
（本尾委員）
原案ニハ第二百六十條ニ規定シタル罰ヲ科スヘシトアレトモ別ニ罰則ヲ揭ケタルヲ以テ修正案ニハ之ヲ削除シタリ
○本條ハ修正案ノ通リ
第二十四條 會社云々修正案ノ通
○第二十五條 原案第四十二條
會社其登記ノ日ヨリ六ケ月間ニ開業セサルトキハ其登記公吿ハ無効ト爲ス
○本條ハ修正案通