○第五十四回
明治十八年二月廿七日
欠席 塩田委員
仝 周布委員
仝 長森委員
仝 岸本委員
仝 河上委員
午前第十時開會
○第二百九十九條
（本尾委員）
原文ニ總會ノ決意トアルヘキニ會社ノ決議トアルヲ以テ質問セシニ原文ニ於テハ總會ノ決議ト改ムルハ不都合ナルニ依リ原案ノ儘ト爲シ譯文ハ總會ノ決議ト爲スモ差支ナシト
○第三百三條
（本尾委員）
本條認可トハ計算上ノ責任ヲ免レシムルノ意ニシテ卽チ淸算上ニ就テ責任ノ完了シタル認可ヲ求ムルヲ云ヒ決シテ總テノ責任ヲ免レシムルノ精神ニハアラサルナリ
（渡邊委員）
責任完了ノ認可ヲ求ムヘシトセハ如何
（本尾委員）
本條ハ「淸算上ノ責任ヲ完了シタル事ノ認可ヲ受クヘシ」ト爲シ第三百五條ニハ「第三百三條ノ認可ヲ得タル時ハ」トセハ如何
（渡邊委員）
了算證ヲ求ムヘシトセハ如何
（委員長）
了算證ニテハ餘リ短簡ニ過クルヲ以テ淸算結了證ト爲ス方可ナルヘシ
（渡邊委員）
否淸算結了證トナストキハ第三百五條ニ至リ淸算人ハ淸算結了ノ旨ヲ云々トアルヲ以テ長文ニ失シ且他ニ不都合ナキニアラサレハ矢張短簡ニ了算證トスルカ又ハ卸責證ヲ求ムヘシトセハ如何
○本條ハ左ノ如ク修正スル事ニ決セリ
第三百三條淸算結了シタル時ハ淸算人ハ總計算書及ヒ處務ノ槪報ヲ總會ニ差出シ卸責證ヲ求ムヘシ
○又第三百五條ニ「總會ノ認可ヲ」トアルヲ「卸責證ヲ」ト改正ス
○第三百二條
（本尾委員）
本條ハ先回ニ於テ解釋シタル場合ト大ニ異ナレリロエスレル氏ノ說明ニ據ルニ他ノ會社トアルハ單ニ他ノ會社ノ、ヲ指スニアラスシテ自己ノ會社事務擴張ノ爲メ一先解散シ若クハ他ノ會社ト合併スルニ當リ招集シタル總會ノ決議ナリト然ラハ全ク他ノ會社ニアラサルヲ以テ若シ他ノ會社ノ株劵又ハ負債證劵ヲ渡スヘシト決議シタルトキハ之ヲ拒ムヲ得サルヘシ否株主又ハ債主ハ之ヲ拒ムヲ得ルト雖モ實際會社ニシテ他ノ會社ノ株劵又ハ負債證書ヲ所有スルモノナシ否我邦ニ於テハ往々目擊スル所川ニシテ其齡趣旨タルヤ徒ラニ事業ヲ爲シ失敗センヨリハ寧ロ公債證書若クハ確實ナル他ノ會社株劵ヲ所有スルニ若カストノ意ヨリ之ヲ所有スルモノ多シ是レ未タ歐米ニ聞カサル所爲ト雖モ既ニ實例アル以上ハ此場合ニモ亦適用セサルヘカラサルカ如シ就テハ立案ノ精神ヲシテ明瞭ナラシムル爲メ改案セラレタシト義湘求セシニ他ノ合耳砿ト合併シ又ハ會社事務擴張ノ爲メ一時解散シテ事務ヲ繼績スル云々ト爲スハ餘リ法文煩雜ニ過ルノ恐レアリ尤モ委員ニ於テ如斯改案ヲ望ムニ於テハ之レヲ挿入スルモ敢テ異議スル所ニアラスト
（箕作委員）
然ラハ合併スル會社ノ株主又ハ解散シテ更ニ設立スル會社ノ株主ト爲ラン事ヲ決議シタル場合ナルカ
（本尾委員）
然リ
（渡邊委員）
本條ノ意味ニ據ル時ハ總會社合併スルモ配當金ハ必ス現金ト爲サヽルヲ得ス何トナレハ株主ハ金圓ヲ以テ配當ヲ受クルモノナレハナリ故ニ金圓ヲ以テ配當シタル上總會ニ於テ今回某會社ト合併スルニ依リ某會社ノ株主トナリ其株劵ヲ先般配當シタル金圓ヲ以テ買入レアリタシト云フノ意ナルヘシ
（委員長）
本條ハ計算上ニ付株主ニ配當ノ手續ヲ定メタルモノナレハ他ノ會社云々ハ事連絡セサルカ如シ就テハ之ヲ分離シテ立案スルモ差支ナカルヘシ
（渡邊委員）
否矢張計算上ノ事務ニ關係ヲ有スルモノナルヲ以テ之ヲ分離スルヲ得サルヘシ
（細川委員）
株式會社ハ合名會社ト同シク別段ノ契約ナキ時ハ金圓ヲ以テ拂皆波スヘシト云フノ精神ナルヤ
（本尾委員）
株式會社ハ別段ノ契約アリト雖モ配當ハ必ス金圓ヲ以テセサルヲ得ス
（箕作委員）
夫レハ第百四十六條ニ明文アリ
（渡邊委員）
本條ノ場合ヲ實際ニ就テ例ヲ擧クレハ今將ニ倒產セントスル會社ノ役員株主ニ對シ曰ク今回社將ニ解散セントスルニ就テハ株主諸君ニ配當スル金圓ハ會社ニ存在スレ供今回解散ノ目的ハ他ニ確定ナル事業ヲ爲スニアルヲ以テ配當金ノ掛リニ會社所有ノ某會社ノ株劵又ハ負債證劵ヲ代償トシ受領セラレ某會社ノ蟹主
又ハ株主トナラレタシト請求スルノ場合ナリ然ル時ハ此等ノ所爲ハ法律ヲ以テ規定スヘキ事ニアラス相互ノ契約ニ任シ法律ハ新會社ノ設立又ハ他ノ會社ト合併スルモノト看做シ處分スルヲ以テ足レリトス
（本尾委員）
本條第二項ハ任意法ニシテ且ツ第百三十八條ニ據テ見ル時ハ縱令本項ナキモ實際上差支ノ生スル事ナカルヘシ依テ削除スルモ不可ナキモノト認定ス
（渡邊委員）
若シ此第二項ヲ削除スル時ハ本條ノ場合ニ當リ總會ヲ開ク事ヲ得サルヘシ何トナレハ總會ヲ開クハ預メ法律ニ事項ヲ定メアラサレハ開ク事能ハサレハナリ故ニ全部削除スルヲ得サルヘシ
（本尾委員）
全體本條ノ如キハ株主各自ニ對シ熟談スヘキモノニシテ總會ヲ開キ可否ヲ決スルヲ得ト爲スハ單ニ熟談ノ手數ヲ省クニ過キサルナリ故ニ預メ定款ニ於テ規定シ置クモ不可ナカルヘシ
（委員長）
原文ニ依テ見ルモ總會ヲ開クヘシト云ハス故ニ他ノ條ニ於テ之ヲ開クヘシトノ規定ナキ以上ハ總會ヲ開キ決議スル事能ハサルヘシ
（本尾委員）
其總會ヲ開クト否トハ定款ニ於テ定ムルモノナラン
（細川委員）
若シ定款ニ於テ代物辨償ヲ爲スヲ得ヘシト定メタル時ハ株主ハ決シテ故障ヲ述フル事ヲ得スト註釋ニ見ヘタリ
（本尾委員）
株主ハ會社ノ役員ニ欺瞞セラレ易キモノニシテ今日往々傳聞スル所ナリ假令ハ既ニ破產シタル會社ノ株劵又ハ其他ノ株劵ヲ所有スル會社ノ役員ハ槪會社ノ確實ニシテ株劵モ亦高價ナル事由ヲ陳シ株主ヲシテ之ヲ購求セシムル等ノ弊害實三言フニ忍ヒサル所爲ヲ爲ス事アリ
若シ本條ヲ改正セントセハ左案ノ如ク爲スヲ可トス
「株主ハ總會ニ於テ決議シタル時ト雖モ他ノ會社ニシテ從前ノ會社ヲ繼續スル歟又ハ從前ノ會社ニ立ツヘキモノト雖モ其株劵又ハ負債證劵ヲ配當金トシテ請取ルヘキ義務ナキモノトス」
（渡邊委員）
若シ長文ヲ厭ハス改案センニハ總會ニ於テ如此事ヲ決議スルトモ合併スル會社ノ株劵等ヲ無理ニ株主ニ押付クル事ヲ得サルノ意吐邪ヲ以テセハ充分ナラン
○本條ハ種々論議ノ上先ツ先回修正ノ儘ト爲ス事ニ決シタリ
以上說明了
○第 條 商法草案第三百六條
決算處分ノ際會社現在ノ財產ヲ以テ會社ノ各債主ニ完納スル事能サルニ至リシ時ハ決算人ニ於テ倒產處分ノ手續ヲ爲スヘシ此場合ニ於テ決算人ヨリ良心ニテ既ニ會社ノ債主又ハ株主ニ支拂タル者ハ無効ト爲シ其領收者ヨリ之ヲ返還セシムル事ヲ得ヘシ既ニ貸方借方ヲ調査シタル後ニ於テ決算人ノ私ニ支拂タル者ニ就テハ自己ノ全財產ヲ以テ會社債主ニ對シテ責任ヲ受クル者トス
（本尾委員）
本條反譯適當ナラサルヲ以テ左ノ如ク修正セハ如何「淸算處分中ニ於テ會社現在財產ヲ以テ總債主ニ完償スル事能ハサル時ハ淸算人ハ破產處分ノ手績ヲ爲スヘシ此場合ニ於テ淸算人アリ良正ヲ以テ會社ノ債主又ハ株主ニ支拂タルモノハ無効トナリ其領收者ヨリ之ヲ返還セシムル事ヲ得ヘシ貸方借方ノ現狀如此ヲ知リテ淸算人支拂ヲ爲シタル時ハ之ニ對シ自己ノ全財產ヲ以テ會社ノ債主ニ責任ヲ負フモノトス」
（細川委員）
倒產處分ノ手續トハ如何
（本尾委員）
第三百八條第六項ニアル所ノ事務ヲ爲シ直ニ管財者ニ引渡スヲ云フ
正午第十二時十五分中止
午後第十二時四十分開會
（鶴田委員）
善意ヲ以テ拂出シタル時ハ受取リタル者ヨリ返還セシムルノ明文アリト雖モ惡意ニテ一拂渡シタル時ハ返型速セシムルヲ得ルノ明文ナシ然レ供如此理由ハ決シテアルヘキニアラス如何
（本尾委員）
此場合ニ於テハ淸算人自己ノ財產ヲ以テ責任ヲ負ハシムルモノニシテ會社財產ニ損害ヲ及スヘカラサルヲ示スニ在リ故ニ先ツ淸算人ハ自己ノ財產中ヨリ之ヲ償ヒ而シテ受取リタル者ヨリ返還ヲ受クルヲ得ルナリ
（鶴田委員）
淸算人ヨリ返還セシムルトキニ又淸算人ハ孰レニ係リ要償スルヤ
（渡邊委員）
受取リタル者ニ對シ要償ヲ要ムルナリ
（鶴田委員）
淸算人ニ於テ身代限ヲ爲シ尙ホ之ヲ償フニ不足ナル時ハ如何
（委員長）
然ル時ハ別段爲スヘキ方法ナシ
（鶴田委員）
然ラハ大ニ詐僞ヲ行フ事ナシトセス
（渡邊委員）
詐僞ノ㸃ニ至テハ之ヲ防ク事ヲ得ス然レ供此場合ニ於テハ受取人モ亦惡意ナルヲ以テ淸算人ト共ニ身代限ノ處分ヲ及スヲ得ルナリ
（本尾委員）
如此文明ナシト雖モ普通法ニ據テ都テ處分スル事ヲ得ルハ蓋シ疑ヲ容レサル所ナリ
（鶴田委員）
或ハ受取人ニ於テ惡意ヲ以テ拂受タルニアラスト云ヒ拂戾スノ義務ナシト抗辯スル時ハ如何
（本尾委員）
然レ供之ヲ受取リタル株主ハ淸算殘餘ノ金圓ニアラサレハ受取ルヲ得サルノ原則ニ據ル時ハ則チ株主ハ不當ノ利得ヲ得タルヲ以テ必ス返還セサルヲ得ス如何トナレハ未タ淸算ヲ完了セサル以前ニ受取リタル金圓ナレハナリ又債主ニ於テ同一ニ論スルヲ得何トナレハ未タ正ニ受取ルノ權利至ラサルヲ金圓ヲ受取リ人ヲ困難三陷ラシムルヲ得サルノ道理ニ反スレハナリ
○本條ハ左ノ如ク修正ヲ爲ス事ニ決セリ
第三百六條淸算ノ際、會秕現在ノ財產會社ノ總債主ニ完償スルニ足ラサル事出來シタル時ハ淸算人ハ破產處分ノ開始ヲ爲スヘシ此場合ニ於テ淸算人善意ヲ以テ會社ノ債主又ハ株主ニ支拂タルモノハ無効トシ其領收者ヨリ之ヲ返還セシムル事ヲ得ヘシ貸方借方ノ割合ヲ査明シタル後支拂タルモノニ就テハ淸算人自己ノ全財產ヲ以テ會社債主ニ對シ責任ヲ負フモノトス
○第 條 商法草案第三百七條
總會ノ決議ヲ以テ會社帳簿及ヒ書類ノ保存ヲ委托サレタル者ノ姓名ハ決算人ヨリ裁判所ニ届出ヘシ未タ届出テサル間ハ決算人ニ於テ其保存ノ責任ヲ負フ者トス
○本條ハ別段異論ナク左ノ如ク修正セラレタリ
第三百七條總會ノ決議ヲ以テ會社帳簿及ヒ書類ノ保存ヲ委托セラレタル者ノ氏名ハ淸算人ヨリ裁判所ニ届出ヘシ此届出ヲ爲サヽル間ハ淸算人其保存ノ責任ヲ負フモノトス
○第 條 商法草案第三百八條
決算結局ノ條件ハ左ノ如シ
一 現金支拂又ハ示談ヲ以テ各債主ニ辨償スル事
二 殘餘ノ金額及ヒ物件ノ配當高ヲ確定シ幷ニ之ヲ株主中ニ配當スル事
三 決算費用ヲ支出シ又決算上ノ要求ヲ處分スル事
四 總會ノ決議又ハ判事ノ命令ヲ以テ計算結局ヲ認可スル事
五 會社ノ帳簿及ヒ書類保存上ノ處置ヲ爲ス事
六 倒產處分ノ手續ヲ爲ス時ハ決算人ヨリ其旨ヲ裁判所ニ届出而テ三日以上新聞紙ヲ以テ連日之ヲ公吿シ會社ノ取引仲間ヘモ之ヲ通知シ其通知ニ倒產ノ爲メニ閉社シタルヲ以テ總テ會社ノ株劵及ヒ負債證劵ハ無効ニ屬スヘキ旨ヲ吿示スル事
（委員長）
第二項物權確定及ヒ配當ナル語ノ先後原文ニ於テ甚タ了解シ難キ所アルヲ以テ一應質問スヘシ
（本尾委員）
諾
（鶴田委員）
第三項淸算上ノ要求トハ如何
（本尾委員）
第三百五條ニアル要求ヲ云フ
（本尾委員）
第四項本項ノ卸責證ハ第三百五條ニ規定アルモノト同一ニシテ該條ノ外復タ更ニ本項ニ於テ之ヲ與フルモノニアラサルナリ
（渡邊委員）
卸責證ノ證ノ字ヲ削除セハ如何（之ニ決ス）前諸條モ亦證ノ字ヲ削除ス
（鶴田委員）
第六項其効力ヲ失フタルトハ反故同樣トナルノ意ナルヤ
（本尾委員）
否流通ノ効ヲ失フタル迄ナリトス則チ其證劵所有主ハ會社ニ對シ支拂ヲ受ルノ權利ハ消滅セサルモノトス
（箕作委員）
全ク反故紙トナルノ精瀞ニハアラサルヤ
（本尾委員）
證劵ハ如何ニ見ユルモ不可ナシト雖モ要償權利ハ決シテ消滅スル重「ナシト解 樺スヘシ
（委員長）
其効力ヲ失フト云フ時ハ或ハ疑ナキニアラサルヲ以テ一應質問スヘシ
（本尾委員）
諾
○本條ハ左ノ如ク修正スル事ニ決シタリ
第三百八條淸算結局ノ條件ハ左ノ如シ
一支拂又ハ示談ニ依リ總債主ニ全部又ハ一部ヲ以テ濟方ヲ爲ス事
二會社ノ殘餘財產配當ノ物件及ヒ高ヲ定メ幷ニ株主ニ配嘗スル事（未定）
三淸算費用ヲ支拂ヒ及ヒ淸算ニ關スル要求ヲ處分スル事
四總會又ハ裁判上ノ處分ニ依リ總結算ノ卸責ヲ與フル事
五會社ノ帳簿及ヒ書類保存ニ關スル處置ヲ爲ス事
六破產處分ノ開始ニハ淸算人ヨリ其旨ヲ裁判所ニ届出テ少ク供三回引續キ新聞紙ヲ以テ廣吿シ幷ニ會社ノ取引先ヘ之ヲ通知シ其廣吿及ヒ通知ニハ破產ノ爲メ會社ハ既ニ終了シ總テ會社ノ株劵及ヒ債劵ハ其効力ヲ失フタル旨ヲ明示スル事
（委員長）
引績キ罰則ヲ議スヘキナレ供ロエスレル氏遣淸大使隨行中不在ニ付質問等差支ヲ生スルニ依リ同氏歸朝ノ上更ニ議スル事トセン
午後第二時三十分閉會