○第五十一回
明治十八年一月十七日
午前第十時開會
○第二百八十四條
（本尾委員）
ロエスレル氏ハ本條ノ順席適當ナラサルトテ第二百八十五條ヲ第二百八十四條ニ第二百八十六條ヲ第二百八十五條ニ第二百八十四條ヲ第二百八十六條ニ改正セラレタリ卽チ左ノ如シ第二百八十四條（原第二百八十五條ノ儘）
第二百八十五條前條ト同一ノ場合ニ於テハ仕掛リノ取引ヲ完結シ或ハ在來ノ會社義務ヲ盡スノ外直ニ業務ヲ停止スヘキモノトス取締役ハ自己ノ財產ヲ以テ責任ヲ負ハサルヘカラス
第二百八十一條第二百八十一條第三項ノ場合ニ於テ會社其營業ヲ六ケ月以上保續スル時ハ之ヲ知リ得タル株主ハ爾後取結タル、會社ノ總テノ義務ニ就キ合名社員ト均シク責任ヲ負フモノトス漕扨第二百八十條ト舊第二百八十四條トノ關係ハ如何ナルモノナルヤ第二百八十一條ノ三項ニ於テ七名以下ニ減少スル時ハ解散スル壕ハ當然ナルヒ六ケ月以上之ヲ保續スルハ如何答辯ニ既ニ解散スヘキモノナルヲ解散セスシテ六ケ月以上保續スル場合ヲ云フト然ラ「ハ合名會社ニ變シタルモノナルヤ否然ラス之ニ會社ノ名稱ヲ付スルハ穩當ナラサルヘシ否會社ト云フモ敢テ差支ナカルヘシ尤モ株式會社トモ合名會社トモ稱スヘカラス要スルニ本條ハ會社ノ變更ヘ掛其社員ノ責任トヲ示シタルニ過キサルナリ若シ六ケ月內ニ發覺スル時ハ强制ノ處分ヲ以テ解散セシムルモソナリト
（委員長）
六ケ月ト規定シタル理由如何
（本尾委員）
此六ケ月トアルハ英法ヲ採用シタルモノナリ併シ如何ナル理由ニ據リ六ケ月ト規定シタルヤハ知ラサレ供每半年ニ計算スルヲ以テ或ハ此年期ニ應シ設ケタルナランカ全體株式會社ハ有限責任ヲ以テ原則ト爲ス然ルニ或ル場合ニ於テハ無限責任ヲ受クル事ナシトセス而シテ此無限責任ト爲ス一二ケ月二ケ月ト規定センカ餘リ酷ニ失スルノ憂ナキニアラス故ニ六ケ月間ノ猶豫ヲ與ヘ充分此期限內ニ解散ノ手續ヲ爲シ得ヘキモノトセリ然ルニ尙ホ此猶豫ニ關係セス營業ヲ保續スル時ハ法律ハ不得止制裁ヲ付セサルヲ得ス
（委員長）
六ケ月起算ノ㸃ハ如何
（本尾委員）
株式記名ナル時ハ七名以下ニ減少シタル事ヲ發顯スルハ容易ナリト雖供無記名劵ナル時ハ隨分困難ナルヘシ而シテ無記名ノ場合ハ發顯次第之ヲ起算スルヤヲ質セシニ無記名株劵ナルトキハ容易ニ發顯スルヲ得サルモノニシテ實際多クハ株主總會ノ時ニ於テナラテハ之ヲ發顯スル事ナカルヘシト然ラハ其株主中ノ一人ハ七月ニ之ヲ知リ三人ハ八月ノ總會ニ於テ知リ得タルモノトセンカ此場合ニ在テハ皆同一ニ之ヲ起算スルヤ否然ラス郞改案セシ如ク各本人ノ知リ得タル時ヨリ起算スルモノナリト
又證據上ノ疑㸃卽チ知ラスト申立ル株主ヨリ知ラサルノ證據ヲ供スルヤ又ハ之ヲ知タルヘシト云フ者ヨリ知リタルトノ證明ヲ爲スヘキヤヲ質問セシニ本條ノ場合ニ於テハ株主ヨリ知ラサルト云フ證左ヲ擧明スルモノナリ如何トナレハ義務ヲ免レソトスル者ハ其證披ヲ差出スヘシトノ原則ニ基キタルナリト
（河上委員）
英法ニ於テモ六ケ月トシ而シテ起算ノ㸃ハ株主ノ知リ得タル時ヨリト爲ス
（箕作委員）
英法ニ據レハ禁制ニ背キタル制裁トアリ
（本尾委員）
本條モ亦英法ト同シク制裁ノ精神ナリトス
（細川委員）
本條ハ總會ニ於テ解散セサル事ヲ決議シタル場合ナリヤノ質問如何
（本尾委員）
本條ハ總會ヲ開カスシテ營業ヲ保續シタルトキヲ云フ如何トナレハ七名以下減少ノ場合ニ解散セサルヘシトノ決議ヲ爲スハ法律ノ芯不スル所ナレハナリ
（箕作委員）
「爾後」トアルハ六ケ月後トモ又ハ知リ得タルヨリ後トモ解釋シ得ルヲ以テ不都合ナリトス併シ原文ノ意味ハ知リ得タ丶ルノ後ナルヘシ
（本尾委員）
然リ
（岸本委員）
本條ノ如キハ知リ得タルヤ否及ヒ實際ノ計算方法等ニ付重大ナル困難ヲ釀シ實ニ訴訟ヲ增加スルノ媒介ト云フヘシ故ニ斷然之ヲ削除シ六ケ凋經過ノ後ハ株主減少ヲ知リ得タルモノト看做シ處分スルヲ最モ簡便ナリトス
（細川委員）
然リ委員長岸本委員ノ所論ノ如ク實際訴訟ヲ增加事務皿ヲ繁ハ多ナラシムルノ弊生ロアリ
（本尾委員）
例ヲ揭ケテ之ヲ說明センニ第一月ニハ千圓ノ負債アランニ其一月ハ取締役ニ人ニテ之ヲ負擔シニ月ニ千圓ノ負債ヲ爲シタル時ハ株主中ノ一人之ヲ知得タルトキハ取締役ト株主ト三人ニテ負擔スヘキモノニシテニ月ニ於テ知得タル株主モ前月ノ負債ヲ三分シテ一部ヲ負擔スヘシト云フニアラサルナ丿
（周布委員）
假令ハ七人以下トナリタル事ヲ株主ニ於テ知リ得タル時ハ直ニ取締役又ハ裁判所ニ解散ヲ訴フルモノハ假令其會社七人以下ナルモ其訴求ヲ爲シタル株主ハ責任ヲ負フヘキモノニアラス尤モ知リ得タルモノハ臨一月ニテモ五月三アモ同一ニ其責任ヲ無限ト爲スヲ云フナルヘシ
（本尾委員）
周布委員ノ說ハ理論上ニ於テハ可然ナレ供ロエスレル氏ノ精神ニハアラサルナリ
○本條知リ得タル株主ハ爾後取結ヒタルト改案セシヨリ其計算方ニ付疑問起リ底止スル所ナキニ依リ途ニ尙ホ委細ノ說明ヲ要ムル事ニ決セリ
午後十二時十分中止
午後第十二時三十分開會
退席周布委員
同長森委員
○第二百八十五條
（本尾委員）
自己ノ全財產トアルハ連帶ナリトノ答辯ニ就キ然ラハ連帶ナル文字ヲ挿入セハ如何ナルヤヲ問ヒシニ本條ノミナラス全財產云々トアレハ皆連帶ノ意味ナレハ悉ク之ヲ記スルニハ及ハサルヘシ併シ委員ニ於テ之ヲ揭記スルトナラハ揭クトモ決シテ差支ナシ（衆議ノ上原案ノ通可決）鴨
○第二百八十六條
（本尾委員）
本條ノ所爲ハ從來決算人ノ爲スヘキ事業ナレ供決算人ニ引渡迄取締役ノ爲スヲ得ヘキ事及ヒ爲スヲ得ヘカラサル事トヲ列記シ取締役ニ示シタルニ在リ
第二間ハ解散シタル時トハ第二百八十五條ト同一ノ場合ヲ云フナリト此事ハ第二百八十四條ノ說明ニ詳記セルヲ以テ別段質問スルニモ及ハサルヘシト述ヘラレタリ扨テ本條ハ既ニ陳述セシ如ク第二百八十五條ト爲シ「前條ト同一ノ場合ニ於テハ」ノ數字ヲ加ヘ右ノ問題ヲシテ氷解セシメタリ
（渡邊委員）
前條ト同一ノ場合ニ至リタル時ト改ムル方可ナリ
（岸本委員）
本條ハ取締役ノ爲メ設タルモノトナレハ取締役ノ文字ヲ仕掛リノ上ニ移シ後文ノ取締役ヲ削除セハ如何
（本尾委員）
敢テ不可ナシト雖供ロエスレル氏ノ精神ハ會社ノ性質ヲ示シタルモノニシテ卽チ會社解散ノ場合ハ營業ヲ爲ス事ヲ得ス尤モ仕掛リノ事務ハ取扱フヲ得ヘキヲ示シ次ニ取締役ニ對スル規定ヲ設ケタルナリ
（鶴田委員）
仕掛リノ仕事ハ決算人カナスヘキナリト雖モ取締役カ取扱ハサル事ヲ得サルモノアルヘシ
（本尾委員）
然リ其引渡迄ハ取締役ニ於テ取扱フモノナリトス
說明了
第 條 商法草案第二百八十七條
第二百八十三條ニ記載シタル總會ニ於テ解散ノ決議ヲ爲シタル後ハ直ニ決算人一名又ハ數名ヲ選擧スヘシ若シ之ヲ選擧セサル時及ヒ第二百八十一條第五項及ヒ六項ノ場合ニ於テ會社設立ノ地方ノ裁判所ニ於テ之ヲ任シ又ハ之ヲ認可スヘシ
（細川委員）
「認可スヘシ」トアル場合如何
（本尾委員）
假令ハ倒產ノ時小官ヨリ命スルナレ供其他ノ場合ハ會社ニ於テ定款ニ從ヒ撰擧シテ認可ヲ受クル事アリ
（鶴田委員）
撰擧セサル時ニトアレハ認可トハ少シク不都合ナラスヤ
（本尾委員）
然リ尤モ第二百八十一條第六項ノ場合ニ於テハ會社撰擧シテ認可ヲ乞フ事アルヘシ
（鶴田委員）
倒產ノ時ニ於テモ會社ニ於テ撰擧スル事アルヘシ
（本尾委員）
倒產ノ場合ハ各國ノ法律モ此法ト同シク官選ト爲ス
（渡邊委員）
認可シ事ハ注解ニハ更ニ說明ナシ只裁判所ヨリ必ス任命スル事ノミヲ陳述セリ就テハ認可シ場合ヲ一應質問セハ如何
（本尾委員）
然リ諾
○本條ハ「會社設置ノ」ヲ「會社住所」ニ改メタルモノ
第 條 商法草案第二百八十八條
決算人ノ姓名ハ速ニ裁判所ニ申報シテ商業簡明簿ニ登記シ且之ヲ公吿スヘシ
（鶴田委員）
裁判所ヨリ命シタル解散ナルニ尙ホ申報シテ登記スルハ重複ノ手數ナラスヤ
（本尾委員）
否此場合ハ管轄ヲ異ニス卽チ裁判所ノ官吏ハ商業登錄官吏ノ資格ニシテ解散ヲ命シタルハ裁酬刋官タルノ咨〔格ナリトス
（細川委員）
本條ハ隨分日限ヲ定ルモ可ナラン
○本條ハ左ノ如ク修正スル事ニ決セリ
第二百八十八條精算人ノ氏名ハ遲滯ナク裁判所ニ申報セテ商業登錄簿ニ登記シ且之ヲ公吿スヘシ
午後第二時二十二分閉會