○第四十六回
明治十八年一月廿七日
欠席 周布委員
仝 岸本委員
午前第十時ヨリ同十一時四十分迄農商務卿上申會社條例制定迄府縣長官ヘ內達按ノ儀ニ付辨論アリタリ
○第二百五十八條
(本尾委員)
抵保ナル語ハ質入物件又タハ金額ノミナルヤ或イハ人證ヲモ包含スルヤノ質問ナリシカロエスレル氏ノ說明ハ人證ヲモ包含スルモノナリト蓋シ債主ハ人證ト雖モ滿足スルコトアレハナリ
然ラハ末文ニ抵保額トアルハ穩當ナラサルナリ何トナレハ額トハ重モニ金圓ヲ指示スルノ語ナレハ入證ハ包含セサルヤノ疑ナキニアラス曰ク縱令人證ト雖モ其標準ハ金額ナレハ額ト云フモ敢テ差支ナカルヘシト
又「其要求ヲ拒ム」トハ如何ナル場合ヲ云フヤヲ質セシニ會社ニ於テ負債セシ事ナシト云ヒ爭議ヲ生シタル場合ヲ云フナリト
以上質問說明了
○第十一款 株金拂込
○第 條 商法草案第二百六十二條
各株主ハ所有ノ株式ニ係ル金額ヲ申合規則ニ從テ要求スルニ應シ會社ニ拂込ムノ義務アル者トス但シ會社ノ承諾ヲ以テ(第百九十一條)他ノ物件ヲ差入ル株式ヲ受ル者ハ此限ニ在ラス
(本尾委員)
株式ニ係ルトハ其株劵面ノ金額中幾部分ツヽノ金額ヲ拂込ムヲ云フ而シテ要求スルニ應シトハ會社ノ請求アル每ニ差入ルヘキモノニシテ其請求ナキ時ハ差入ルエニ及ハサルノ意味ナリトス
(箕作委員)
「他ノ物件」トアル時ハ無形卽チ營業又ハ事業ヲ爲スヘキ勞力ハ包含セサルモノト誤解スルノ憂アレハ「他ノ供資」ト改ムルヲ可トス
○本條ハ左ノ如ク修正ヲ加フ
第二百六十二條各株主ハ會社ヨリ定款ニ從テ催促スルニ應シ所有ノ株劵ニ係ル金額ヲ拂込ムノ義務アル者トス但シ會社ノ承諾(第百九十一條)ヲ得金圓ニアラサル供資ヲ以テ株劵ヲ受ル者ハ比限ニアラス
○第 條 商法草案第二百六十三條
拂込要求ノ手續ハ頭取ヨリ拂込期限ヲ定メ且拂込サル時ハ其人ノ損害トナル可キ事ヲ公吿スヘキ者トス
(本尾委員)
「損害」ハ「不利」ト改ムルヲ可トス
(渡邊委員)
拂込マサル時トアルハ不拂ト改ル方可ナリ
(箕作委員)
拂込マサル時トナサヽレハ其精神ヲ知ルニ苦ムナラン
(渡邊委員)
「不利トナル可キ事」トハ若シ拂込マサル時ハ利息ヲ出シ又ハ手付金ヲ沒收セラル工事アルヘシト云フノ精神ナラン然ル時ハ「ナル可キ」ニテハ少シク原書ノ意味ニ適當セサルカ如シ
(本尾委員)
然リ
○本條ハ左ノ如ク修正ヲ加ヘラレタリ
第二百六十三條拂込ノ催促ハ取締役ヨリ拂込ノ期限ト不拂ニ依テ蒙ルヘキ損害トヲ記載セル公吿ヲ以テ爲スヘキ者トス
午後第十二時十分中止
午後第十二時五十分開會
○第 條 商法草案第二百六十四條
期限ニ拂込ヲ爲サヽル株主ハ百分ノ七ノ延滯利足ヲ拂ヒ且其延滯ニ由テ生シタル費用ヲ償フノ義務アル者トス頭取直接ノ督促ヲ爲スモ書中記載ノ期限內ニ株主猶拂込サル時ハ其株式ヲ沒收ス可キ事ヲ吿示シテ之ヲ會社ノ所有ニ歸スル事ヲ得ヘシ
(本尾委員)
本條ハ少ク反譯適當ナラス故ニ「其株式ヲ沒收シ會社ノ所有ニ歸セシムル事ヲ得ヘシ」トセハ如何
(渡邊委員)
延滯ニ由テ生シタル費用トハ如何
(本尾委員)
督促ノ爲メ費セシ使賃又ハ電信料若クハ郵便稅ノ如キモノヲ云フ
(細川委員)
本條ノ場合ニ於テハ合名會社ト同ク損害賠償ヲ求ムル事ヲ得ヘキヤ
(本尾委員)
原文ノ精神ハ損害賠償ヲ包含セス
(委員長)
本條百分七トアレ供定款ニ於テ此制限ヲ越ヘテ規定スルヲ得ヘキヤ
(本尾委員)
定款ニ於テ百分ノ七ヨリ高額ニ定メタル時ハ其定款ニ從フヘシ何トナレハ本條ハ定款ニ規定ナキ場合ニ適用スルモノナレハナリ
(鶴田委員)
本條ハ公吿ヲ爲ス事ナキヤ
(本尾委員)
先方ニ通知スル迄ニシテ更ニ公吿スルニ及ハサルノ精神ナリ
(委員長)
利息制限法ニ於テハ法律上ノ利息ハ百分ノ六トアルニ依リ此百分ノ七ハ修正會ニ至リ更ニ論スル事アルヘシ今ヨリ之ヲ注立息シ置クヘシ
○本條ハ左ノ如ク修正ヲ加ヘラレタリ
第二百六十四條株主期限拂込ヲ爲サエル時ハ百分ノ七ノ延滯利足ト其延滯ニ由テ生シタル費用トヲ拂フノ義務アル者トス取締役ヨリ期限ソヲ定タメ本人ニ宛テ催促クヲ爲スモ尙ホ拂イ込マサル時ハ其株劵ヲ沒收シ會社ノ所有ニ歸スル事ヲ得ヘシ
○第 條 商法草案第二百六十五條
沒收スヘキ事ヲ吿示セラルヽト雖モ其株式ノ所有主ハ其時マテニ督促ヲ受ケテ拂込サル金額ハ猶ホ會社ニ對シテ拂込ムノ義務アル者トス
(本尾委員)
督促ヲ受ケテ拂込マサル金額トハ督促アリシ時迄ノ金額ヲ云フ
(細川委員)
「拂込マサル金額」ノ中ニハ費用及ヒ延滯ノ利足ヲモ包含スルヤ
(本尾委員)
否費用等ハ前條ニ於テ處分スル所ナリ
(渡邊委員)
本條ノ精神ハ拂込金額ハ是非沒收後ト雖モ拂入ルヘシト云フニアラスシテ會社ノ都合ニ依リ拂込マサルモ可ナリトスル時ハ拂込マシムル事ナキ場合アリ
一體本條アル所以ノモノハ假令ハ一萬圓ノ會社アランニ第一回ニニ千圓ヲ拂込第二回三千圓ヲ來ル五月中ニ入金スルノ契約ナルニ其期ニ至リ催促スルニ株主ハ第一回拂込後會社ハ已ニ損失ヲ爲セシヲ以テ第二回ヨリハ拂込マスト云フ場合ナシトセス此時ニ當リ是非拂込マシムル爲メニ本條ヲ規定シタルモノナリ若シ本條ナキ時ハ會社ハ爲メニ倒產ノ慘狀ヲ呈出スルニ至ラン然レ供此條アルカ爲メニ會社ニ利益ヲ與フル事ナシ之レカ利益ヲ受ルモノハ第三者ナリトス
(細川委員)
費用及ヒ利息ハ本條金額トアル文字中ニ包含セサルトノ事ナリシカ尙ホ玩味スルニ包含スル樣思考スルナリ如何
(渡邊委員)
包含スルナル可シ
(本尾委員)
本條原文ノ精神ハ株式ノ事ノミヲ云ヒ費用及ヒ延滯利足ノ如キハ包含セサル樣思料スルナリ併シ「アレー」一切ノ文字アルヲ以テ一應質問シ說明ヲ要スル事トセン
○本條ハ左ノ如ク修正ヲ加ヘラレタリ
第二百六十五條株劵ヲ沒收セラルヽト雖モ其舊所有主ハ其時マテニ催促ヲ受ケテ拂込サル一切ノ金額ハ猶ホ會社ニ對シテ拂込ノ晶峩務ヲ負フモノトス
○第十ニ款 會社ノ義務
○第 條 商法草案第二百六十六條
會社ハ株主ニ株金ノ全額又ハ幾分ヲ拂戾ス事ヲ得ス又株主ニ在テモ之ヲ會社ヨリ引出ス事ヲ得ス若シ引出シタル時ハ其半額ヲ罰金トシテ會社ニ拂フヘシ
拂戾シ又ハ引出シタル金額ハ會社又ハ會社ノ債主ヨリ直接ニ償還セシムルヲ得
(長森委員)
本條株主ニ於テ株金ヲ引出スニハ會社ノ承諾ヲ得サレハ引出ス事ヲ得サルヘシ然ルニ其承諾ヲ得テ後引出シタルモノニ向テ罰金ヲ拂ハシムルノ理由如何
(本尾委員)
其理由トスル所ハ假令ハ五人ノ取締役アランニ其中ノ甲ナルモノ株主ノ乙ナルモノトハ豫テ親昵ノ交アルヲ以テ乙ナル者ヨリ甲ニ金策ヲ依賴シタルトセンニ甲ハ當時該會社ノ取締役タリト云ヲ以テ一時株金ヲ引出ス事ヲ承諾シテ乙ナル者ニ渡スヘシ此場合ニ於テハ甲ト乙トノ約束ニシテ會社ハ更ニ之ヲ知ラサルナリ故ニ株主乙ナル者ハ其引出シタル株金ヲ差戾シタル上本條ノ罰金ヲ拂ヒ取締役ノ甲ナル者ハ後條ニアル罰則ニ依テ處分セラルヽモノナリ
(細川委員)
第二項ノ直接ノ文字ハ會社ノ方ニハ係ハラサルカ
(本尾委員)
然リ
(委員長)
拂戾シタルモノニハ罰金ヲ科セサルヤ
(本尾委員)
然リ引出シタル者ノミ罰金ニ處セラルヽナリ尤モ拂戾シタルモノハ取締役ナレハ第三百十四條ニ據テ處罰スルナラン
(長森委員)
拂戾シタル金額ハ役員ヨリ償還セシムルヤ然ル時ハ之ヲ受取リタル株主ハ償還セスシテ單ニ利益ヲ得ルニ至ルヘシ如何
(本尾委員)
然ラス拂戾シタル金額ハ如何ナル金額ナルヤト云フニ會社ノ所有金額ニ外ナラサルナリ故ニ株主ニ拂戾シタル時ハ會社ノ債主ハ之レカ爲メニ損失ヲ蒙ムルニ依リ憤主ハ會社ニ係テ此ノ不足金額ヲ償還セシムルモ直接ニ株主ニ向テ償還セシムル事ヲ得ス如何トナレハ債主ハ會社ニ向テ催促スルノ權アレ供株主ニ向テ直ニ催促スルヲ得サレハナリ
又引出タル者ニ向テハ如何スルト云フニ會計ニ照會スルハ勿論債主ヨリ株主ニ向テ直接ニ償還セシムルヲ得ルハ第二項ニ於テ明カナリ
(鶴田委員)
第二項ノ精神ハ拂戾又ハ引出シノコトニ關係ヲ有セス朗町ニ金額ヲ曲爾取リタルモノヨリ償畑速セシムルノ義ナルヘシ果シテ本員ノ解釋スル如クニハ反譯極メテ穩當ナラサルナリ
(本尾委員)
拂戾ヲ受ケタル株主ヨリ償還セシムルハ此ニ明文ナキモ其意義タルヤ明瞭ナリ本項ハ拂戾シタル時ハ債主ハ會社ニ催促シテ拂戾シタル金額ヲ株主ヨリ會社ニ返還セシムル事ヲ得ヘキヲ示シタルモノナリ
(渡邊委員)
本條ニハ役員ノ事ヲ明揭セサルヲ以テ拂戾シタル役員ノ罰則ハ第三百十四條ニ依ルヤ或ハ他ニ處分法ノアルアリヤ一應質問アリタシ
(箕作委員)
本條罰金ニハ引出シタル金額ノ牛額ヲ拂ヘシトアルカ如キ尤モ嚴刻ナル條項ナルニ反シ役員ノ處罰ハ定テ第三百十四條ニ據テ處スルナラン然レ供株主ノ罰金ト役員ノ處罰ト相懸隔シテ不平ナルカ如ク思考スレハ或ハ他ニ處分法ノアルアリヤ此意味ヲ以テ質問スルトセハ如何
(本尾委員)
諾
本條ハ質問ノ上修正スル事ニ決ス
于時午後二時三十分閉會