○第四十五回
明治十八年一月廿三日
欠席 鶴田委員
仝 周布委員
午前第十時開會
○第二百五十一條
（本尾委員）
本條質問ノ精神ハ記名ヲ無記名トナストキニハ第二百九條ト第二百十四條ノ規則ハ適用セサル旨ヲ明示アルモ株主名簿噛ノコトタル適用スヘカラサルノ明文ナキヲ以テ見レハ矢張無記名ニモ之ヲ適用スルモノナルヤ注解ニ依テ見ル時ハ尙保存スヘキモノナルカ如シ若シ之ヲ記名同樣記入スルトセハ假令ハ一日ニ數回ノ賣買アルニ當テ一ニ之ヲ記入セサルヲ得ス實際上決シテ爲シ能フヘキモノニアラスト信ス其手續タル如何シテ可ナランロエスレル氏曰ク本條ノ規定ハ英法ニ據リタルモノナリ獨逸ニ於テハ無記名トナストキハ株主名簿ハ不用トナセトモ英ニ於テハ尙之ヲ記名ノ時ノ如ク履行セシム併シ之ヲ記入スルノ規定ナルモ賣買每ニ記入ノコトヲ屆出サシムルハ實際行ハレサルモノナラン故ニ數十回ノ賣買アルモ始ノモノト終リノモノトヲ屆出サシムルトセハ記入ノ實ヲ失ハサルカ如シ然レトモ斯ク終始ノミヲ屆出ルトスル時ハ恰モ手數ヲナスト云フニ過キスシテ直ニ其目的ヲ達スルモノトハ云フヘカラサルナリ本員問フテ曰ク株主名簿ハ第二百七條ノ規定ニ依テ每年裁判所ニ呈出スルコトアリ然ルニ斯ク不完全ナルモノヲ故ラニ屆出サシムルモ或ハ益ナキカ如シロエスレル氏曰ク然ラハ本條ハ全ク改按ニテ株主名簿其他無記名ニ付テ必要ナラサルモノハ盡ク適用セシメサルコトニセントテ左ノ如ク改按セラレタリ第二百五十一條株主ノ記名ニ關スル第二百九條ノ規則及第二百四條乃至第二百七條第二百十四條第二百十五條ノ規則ハ前條登記ノ日ヨリ適用セサルモノトス
無記名ニ關係セサル所ノ規定ハ右ニ揭記スルカ如シト雖モ若此他ニ不用ナル條項アルトキハ尙ホ後日之ニ追加スルコトエセン又原文ニハ「會社ノ承諾ニ關スル第二百十四條」トアレトモ株主名簿モ已ニ適用セサルニ決シタル以上ハ第二百十四條ノ承諾ニ關スル場合ノミナラス全條盡ク適用セサルモノトナリシニヨリ「會社ノ承諾ニ關スル」トアル九字ハ削除スルヲ可トスヘシ故ニ改正案ニハ單ニ「云々ノ規則ハ前條登記ノ日ヨリ適用セサルモノトス」トナシタリ
○本條ハ本尾委員差出ノ改正按ニ決シタリ
○第二百五十條
（本尾委員）
本條ノ質問ハ記名劵ヲ無記名劵トナスニハ登記公吿ヲ以テ瓩會ニ通報シ別段ノ無記名劵ニ引換ノ手續ハ之ヲ爲サヽルヤ否ヤニアリシ之ヲロエスレル氏ニ質シタルニ同氏ノ答辯ニハ實際ノ手續ハ余モ承知セス思フニ其手續ハ會社ノ便宜トスル所ニ任スルヲ可トスヘシ然レトモ古劵ヲ廢シテ新劵ヲ用ユルノ要用ハ見出サヽルナリ余曾テ本國政府ノ公債證書ヲ所持セシコトアリ當時政府ニ於テ其株劵ノ性質ヲ變更セシトキニ當テ都テノ公債ヲ伯林ニ取纏メ其劵面ニ消印シテ性質ヲ變セシメテ再ヒ其劵面ヲ下付セラレ更ニ新劵トノ引換ハナカリシコトアリ就テハ本條ノ株劵モ此手續ニ依テ消印スル迄ヲ以テ足レリトスヘシ併シ委員ニ於テ實際便宜トセラルヽ所ニ制定アリテ差支ナシトノ答辯ナリシ
（細川委員）
本官カ考フル所ニ依レハ記名劵ハ彫刻細微ヲ要セスト雖トモ無記名劵ニ至テハ之ヲ粗造トナストキハ必スヤ贋造ノ弊ヲ生スルヲ以テ此弊害ヲ防クニハ極メテ劵面ヲ細微ナル彫刻版トセサルヘカラス然ラサレハ忽チ社會ニ大害ヲ及ホスアルヲ以テ記名劵ヲ無記名劵トナストキハ一ニ之ヲ交換スルヲ可ト信ス
（渡邊委員）
其方法順序ハ會社ノ便宜ニ任スルヲ可トス
○本條ノ修正ハ前回ニ於テ決セシカ如シ一モ變更スル所ナシ
以上說明了
○第 條 商法草按第二百五十七條
會社前條ノ手續ヲ爲シタル後ハ判事ノ許可ヲ要ムル爲メニ願書ヲ差出シ之ニ各債主ノ名簿ヲ添ヘ且債主既ニ承諾シタルト否トヲ名簿中ニ書加フヘシ裁判所ニ於テハ異議アル者ハ六十日以內ニ之ヲ申出ヘク若シ期滿ルトキハ之ヲ許サヽル旨ヲ公吿スヘシ
（箕作委員）
異議アル者トハ如何
（本尾委員）
前條ノ株金額ヲ減少スルニ就テノ異議者ト云フノ意ナリ
且本條ハ意譯ナレトモ意譯ノ方反テ原文ニ適スルモノヽ如シ
（渡邊委員）
本條ハ會社前條ノ手續ヲ留シタル後裁判所ノ許可ヲ要ムル爲メ承諾シタルト否トヲ書加ヘタル債主ノ全名簿ヲ添ヘ願書ヲ差出スヘシ裁判所ハ之ニ對シ異議アル者ハ必ス六十日以內ニ申出ヘキ旨ヲ公吿スヘシト改正セハ如何（之ニ決ス）
（箕作委員）
書加ヘタル債主云々トハ假令ハ甲ハ不承知乙ハ承知ト記載スルヲ謂フカ
（本尾委員）
然リ
○本條ハ渡邊委員呈出案ニ決ス
○第 條 商法草案第二百五十八條
承諾セサル債主ノ異議ハ其要求高ヲ償却スルカ或ハ抵當ヲ入ルヽニ非サレハ之ヲ消除スル事ヲ得ス會社若シ其要求ヲ拒ムトキハ裁判所ニ於テ其理否ヲ判決シ且抵當ヲ入ル可キ高ヲ裁定スヘシ
（本尾委員）
「其要求ヲ拒ム」トハ抵當ヲ拒ムナルヤ又ハ負債返還ヲ拒ムナルヤ譯文ニ於テハ分明ナラス原文ノ精神ハ負債セシ事ナシト抗辯スルカ如キ場合ヲ云フモノニシテ抵當又ハ返濟ヲ拒ムノ謂ヒニアラサルナリ
（箕作委員）
抵當トハ抵當物件ノミナラス無形ノ抵當卽チ保證人ノ如キモ包含スルナラン
（細川委員）
有形卽チ抵當物件ノミト解釋セラレサルニアラス何トナレハ末文ニ抵當高トアレハナリ
（渡邊委員）
抵當ハ「抵保」ト修正スヘシ尤モ保證人等ハ此文字中ニ包含セサルモノニシテ專ラ金額ニ對スルノ證陷トス
（箕作委員）
否無形卽チ保證人等モ包含スルモノナラン何トナレハ抵保又ハ擔保ノ語ハ佛ノ「カラソチー」ト同義ナレハナリ
○本條ハ左ノ如ク修正セリ
第二百五十八條承諾セサル債主アルトキハ其要求ヲ滿足セシムルカ或ハ之ニ對シ抵保ヲ備ルニ非レハ其異議ヲ消除スル事ヲ得ス會社其要求ヲ拒ムトキハ裁判所ハ之ヲ判決シ且抵保ノ額ヲ裁定スヘシ
午後第十二時十分中止
午後第十二時四十分開會
欠席長森委員
○第 條 商法草案第二百五十九條
各債主ノ異議ヲ消除シタル後裁判所ヨリ減額ノ許可ヲ與フヘシ此場合ニ於テハ第百五十七條ノ規則ヲ適用スヘキ者トス
（本尾委員）
「此場合ニ於テハ第百五十七條」以下ハ合資會社ノ部ニ於テ第百五十七條ヲ削除セシニ依リ自ラ消滅シタルモノトス
○本條ハ「各」ヲ「總」ニ改メ「此場合」以下ヲ削除シタルノミ
○第 條 商法草案第二百六十條
減額ノ際株主名簿（第二百四條）ニ記入セラレタル株主ハ會社ノ債主中自己ノ過失ニ非スシテ減額ノ事ヲ知ラサルカ爲メニ異議ヲ申立サリシ者ニ對シテ其減額セシ迄ノ責任ヲ自己ニ負フヘキ者トス但シ此責任ハ債主ノ減額ノ事ヲ聞知セシ日ヨリ起算シテ一ケ年ヲ限ト爲ス
（本尾委員）
夫レ登記公吿タルヤ衆人之ヲ知ラサルヘカラス或ハ衆人之ヲ知リタルモノト看做サヽルヘカラス然リト雖モ海外ニ在リテ事實知ルヲ得ヘカラサル場合ナシトセス本條ハ此等ノ場合ヲ預定シ異議者ノ聞知セシ日ヨリ起算シテ一ケ年間ハ株主ニ於テ減額セシ迄ノ責任ヲ負ハサルヘカラサルモノト爲ス尤モ此責任ヲ擔當スル株主ハ減額スルトキ株主名簿ニ記入アリタルモノニ限ルナリ
但以下ハ「申出サリシ者ニ對シテ」ノ下ニ挿入スルヲ可ト爲ス
○本條ハ左ノ如ク修正セラレタリ
第二百六十條會社ノ債主中過失ニ非スシテ減額ノ事ヲ知ラサルカ爲メニ異議ヲ申出サリシ者ニ對シテハ減額ノ時株主名簿（第二百四條）三記載シアリタル株主其債主ノ之ヲ聞知シ得タル日ヨリ起算シテ一ケ年間減少セシ額ニ至ル迄ノ責任ヲ自己ニ負ハサルヘカラス
○第十款 申合規則ノ變更
○第 條 商法草案第二百六十一條
第七款第八款及ヒ第九款ニ揭ケタル外ノ事項上ニ就テ會社ノ申合規則ヲ變更スルトキハ其變更ノ件ヲ速ニ官簿ニ登記シ且之ヲ公吿スヘシ其登記公吿前ニ於テハ之ヲ施行スル事ヲ得ス
（細川委員）
「外ノ事項」トハ如何
（本尾委員）
第七款第八款第九款ハ定款變更ノ一部分ナリトス本條ハ該款ニ揭タル事項ノ外他ノ事項上ニ付キ變更スル場合ヲ云フ而シテ本條變更ノ事項ハ前諸款ノ如ク重大ノ事項ニアラサルヲ以テ裁判所ノ許可ヲ要スル事ナク會社其變更シタル事項ハ直ニ實行スル事ヲ得
○本條ハ左ノ如ク修正セラレタリ
第十款定款ノ變更
第二百六十一條第七款第八款及ヒ第九款ニ揭ケタル事項ノ外他ノ事項ニ付會社ノ定款ヲ變更スルトキハ其變更ノ件ヲ直ニ商業登錄簿ニ登記シ且之ヲ公吿スヘシ其登記公吿前ニ於テハ効力ヲ有セサルモノトス
午後第一時四十分閉會