○第四十四回
明治十八年一月廿日
欠席 周布委員
○午前第十時開會
○第八款 記名株劵ヲ無記名ニ變更スル事
○第 條 商法草案第二百四十九條
總株金拂込ノ濟タル後ハ總會ノ決議ヲ以テ其記名株劵ヲ無記名ニ變更スル事ヲ得ヘシ
（本尾委員）
本條ハ第二百四十一條ノ第三項ヲ受ケタルモノトス尤モ「無記名ニ變更スル事ヲ得ヘシ」トハ原文ノ意ニ適セサル所アリ故ユ「總會ニ於テ其記名株劵ヲ無記名ト爲ス事ヲ決議スル事ヲ得ヘシ」ト改メサルヘカラス
（岸本委員）
本條ハ株劵ヲ以テ主格トナスカ故ニ「株劵ハ總株金拂込ノ濟タル後ハ總會ニ於テ之ヲ無記名ニ變更スルノ決議ヲ爲ス事ヲ得ヘシ」ト改正スルハ如何
且無記名ノ下ニ株劵ノ二字ヲ加ヘタシ本條果シテ該ニ字ヲ加フルニ決セハ第二百四十一條ノ第三項ニモ「株劵」ノ二字ヲ加ヘサルヘカラス（之ニ決ス）
（本尾委員）
原文ノ意ハ總會ヲ以テ主格トセリ故ニ冒頭ニ株劵/文字ヲ冠セシムルトキハ遂ニ其精神ヲ失フニ至ラン
（箕作委員）
無記名株劵ハ商業上實ニ危險ナルモノナレハ本邦ニ於テハ盡ク記名株劵トセハ如何
（本尾委員）
一體無記名株劵ナルモノハ頗ル危險ノ性質ヲ有スルモノニシテ今日我邦ノ有樣徵スルトキハ先ツ施行セサルヲ可トス如何トナレハ無記名ナルモノハ流通恰モ紙幤ト効力ヲ同フスルモノニシテ場合ニ於テハ其流通ヲ補助スルナリト雖モ又他ノ場合ニ於テハ大ニ世人ノ信用ヲ失フコトアリ加之盜難其他紛失ノ場合ニ至テ之レカ取締ヲナス實ニ困難ナリトス故ニ商法草案委員ニ於テハ我邦今日ノ實況未タ施行スルノ期ニ達セストテ皆記名株劵ト改案シタリシカ本案モ亦削除スルヲ可ナリト信ス然ラサレハ其弊實ニ我々カ相心復卽ノ外ニ出ルナラン
（細川委員）
無記名株劵ハ其流通タルヤ紙幤ト同一ノ敷アルモノナレハ餘程確實ナル會社ニアラサレハ實行セシメサル事ニ注意セサレハ實ニ恐ルヘキ弊害ヲ釀出スルニ至ランモ計ルヘカラス
（箕作委員）
然リ本條例頒布ノ際ハ先ツ記名株劵ノミトナシ暫ク實況ヲ經驗シタル後更ニ無記名株劵ヲ發行スル事ヲ許スモ亦後シトセリ
（河上委員）
實際ニ於テハ無記名株劵ナルモノハ害アルモノト認ム如何トナレハ今日爲替劵ヲ以テサヘ紙幤ニ代用スルノ弊害アル時ナレハ之ヲ發行スルニ至テハ恐クハ其弊爲替劵ニ倍スルニ至ラン
（渡邊委員）
本員モ記名株劵ノミヲ可トス今日我邦ノ有樣ニ依テハ實際記名トナサヽレハ會社設立上ニ付不便宜ヲ來スコトアリ例ヘハ有名ナル豪商會社ノ株主トナルトキハ之ニ加入スル他ノ株主ニ於テハ第一該會社ノ組織ヨリモ先豪商ノ株主タルヲ信用シテ加入スルモノナリ是他ナシ有名ナル豪商其株主トナルニ於テハ頭取撰擧ノ場合ノ如キモ有名ナラサル凡庸ノ人物カ之ヲ撰擧スルヨリモ他ノ株主又ハ債主等ニ於テハ信用ヲ置ク實ニ幾倍ナルヲ知ラス然ル時ハ會瓩ノ幸福ノミナラス株主及ヒ第三者ニ對シテモ亦大ナル便宜アルモノトス若シ之ヲ無記名トナストキハ世人ノ信用ナキノミナラス最初設立ノ時ニハ記名株劵トシ株金ヲ募集シ追テ其會社倒產ノ傾キアラントスル時右株劵ヲ無記名ニ變更シ何人タルヲ問ハス之ヲ賣却シテ後閉店スルニ至ルカ如キ弊害ヲ生スルニ至ルハ期シテ待ツヘキナリ故ニ我邦今日ノ有樣ニテハシテ無記名トナスヘカラス
（本尾委員）
各委員ノ論㸃ヲロエスレル氏ニ談シテ意見ヲ呈出セシムル事トセハ如何
（委員長）
意見ヲ問フニハ今少シ論究セサルヘカラス故ニ無記名削除論ハ修正會ニ讓ルコトヽスヘシ
○本條ハ左ノ如ク修正スルニ決セリ
○第八款 記名株劵ヲ無記名株劵ニ變更スル事
○第二百四十九條
總株金拂込ノ濟タル後總會ハ其記名株劵ヲ無記名株劵ニ變更スルノ決議ヲナス事ヲ得ヘシ（第二百四十一條）
○第 條 商法草案第二百五十條
前條ノ決議ニハ第二百四十一條ヨリ第二百四十三條ニ定メタル規則ニ從フタル事ヲ加ヘテ十日以內ニ商業簡明簿ニ登記シ且ツ之ヲ公吿スヘシ
（本尾委員）
「前條ノ決議ニハ」トアル「ニ」ノ字ハ過クナラン削除スヘシ
（岸本委員）
本條ニハ第二百四十一條ノミヲ援引セハ充分ナラン何トナレハ第二百四十二條第二百四十三條ハ皆第二百四十一條ヨリ生シタルモノノミナラス本條ニ第二百四十ニ三ノ兩條ヲ揭クルハ不都合ノ至リナラスヤ
（渡邊委員）
本條ニ第二百四十ニ一ニノ兩條ヲ援引シタル決議ノ手續ヲ示スニアルモノナレハ尤モ有用ナルモノトス
（長森委員）
第二百四十二條ノ議長選擧ノ如キハ開會每ニ撰擧スルモノナレハ若シニ百四十一條ノミヲ援引スルトセハ該條ニハ議長撰擧ノ明分ナキヲ以テ總會ハ如何シテ議決スルコトヲ得ルヤ故ニ此一端ヲ以テ第二百四十ニ一ニノ兩條ヲニ百四十一條ト同シク援引セサルヘカラサル理由ハ明瞭ナルヘシ
（委員長）
本條ニハ第二百四十一條トアリ然ルニ該條ニハ第一項ヨリ第六項迄各別ニ事項ヲ揭載セリ就テハ本條ニモ亦該全條ヲ援引セシムル精神ナルヤ或ハ又株劵ニ關スル第三項ノミヲ引用セシモノナルヤ
（本尾委員）
本條ハ第二百四十一條ノ第三項ニ關係ヲ有スルノ條ナリトス其理由ハ決議ノ手續ヲ示シタルモノニシテ第一項ヨリ第六項迄ヲ盡ク包含セシメタルノ精神ニハアラサルナリ
（鶴田委員）
第二百四十一條ヨリ四十三條迄ニ從フタル旨ヲ登記スルハ實際不都合アルヲ冤セス故ニ「前條ニ第二百四十一條又ハ第二百四十二條又ハ第二百四十三條ニ從ヒ記名ヲ無記名ニ變更スル事ヲ得ヘシト爲シ而シテ本條ハ前條ノ決議ハ法ニ違ハサル旨ヲ附シ云々ト改正スルヲ可トス
（長森委員）
本條ノ趣意タル本款ニノミ揭載アリテ他款ニ之ヲ揭ケサルハ只鄭重ヲ示シタル迄ヒ止マルヤ
（本尾委員）
前款ノ如キハ裁判官ノ立入ル事アルヲ以テ其規定ヲ示サス本款ノ如キハ會社限リ處分スル事ヲ得ルヲ以テ特ニ其手續ヲ明揭セシニ過キサルナリ
（細川委員）
記名株劵ヲ無記名トナストキハ更ニ記名劵ト引換發行スルモノナルカ
（本尾委員）
其規定ハ定款ニ於テ定ムルナラン而シテ多クハ全ク引換ユルニアラスシテ其性質ヲ變更スル迄ナリト信ス故ニ株劵ハ矢張記名ノ儘ニシテ之ヲ無記名トナシタル日ヨリ記名ナルモ無記名ト看做スニ止マリ其性質變更ノコトハ單ニ定款ヲ以テ定ムルモノナルヘシ
（河上委員）
無記名トナスハ記名ヲ消印スルカ或ハ全ク交換セサレハ必スヤ弊害ヲ生スルコトアラン如何トナレハ若シ半株ヲ無記名トシ半株ヲ記名トナシタルトキ止タ定款ニ於テ無記名ト記名トノ區別ヲ立ルトキハ世人何號ヲ以テ記名ナルヤ無記名ナルヤヲ知ラサレハ實際大ナル不便アルノミナラス弊害モ亦少ナシトセサルヘシー
（細川委員）
記名ヲ無記名トスルニ株劵ヲ別段ニ引換スシテ直ニ無記名トスルノ精神ナルヤ實際ノ手續上質問アリテハ如何
（本尾委員）
諾
○本條ハ左ノ如ク修正スルニ決セリ
第二百五十條前條ノ決議ハ第二百四十一條乃至第二百四十三條ノ規定ニ從フタ旨ヲ附シテ十目以內ニ商業登錄簿ニ登記シ且公吿スヘシ
○第 條 商法草案第二百五十一條
其登記ノ時ヨリシテ株主ノ記名ニ關スル第二百九條ノ規則及ヒ會社ノ承諾ニ關スル第二百十四條ノ規則ハ適用ス可カラサル者トス
（細川委員）
記名株劵ヲ無記名株劵ニ變更シタル時ハ殆ント紙幤ト同一ノ流通力ヲ有スルモノナレハ株主ノ記名ニ關スル第二百十四條ハ自ラ適用シ得ラレサルモノトナルヘシ是本條ノ規定アル所以ナリ然ルニ株主名簿ニ關スル條項ハ尙ホ無記名株劵ニモ適用スル歟否ニ付明條ナキニ於テハ本條ニ據リ會社株主名簿ヲ規定ノ如ク實行スル樣見エ若シ適用セサルトノ明條ナキヲ以テ之ヲ適用スルモノトセハ聊カ穩當ナラサル所ノナキニアラサルナリ
（本尾委員）
株劵ヲ無記名ニ變更スルハ會社ノ隨意ナレハ其變更ノ時ヨリ株主名簿ハ無用ニ屬スルカ如シト雖モ之ヲ保存スルモ不可ナキナリ法律ヲ以テ別段禁制スルニ及ハサルヘシ又名簿アルトキハ會社ニ於テ大ニ便益ヲ得ル事アリ例ヘハ少ク疑アル場合ニ在テハ名簿ヲ披閱シ大ニ得ル所ナキニアラサレハナリ
然レトモ法律ニ明文ナキヲ以テ或ハ名簿ノ規定ヲ遵奉スヘシトセン歟是レ實際決シテ爲シ能ハサル事ナルヘシ何トナレハ例令ハ株式取引所ニ於テ日々ニ六七回モ移轉スルノ場合ノ如キ逐一名簿ニ記載スルモノトスルモ到底爲シ得ヘカラサルハナリ併シ場合ニ依リ記入ノ有益ナル事ニシテ又記入シ得ヘキ事ナキニアラス例令ハ利息又ハ利益分配若クハ總會ヲ開クカ如キ場合ニ於テ現有株主ノ氏名ヲ記入シテ會社ノ參考トスルカ如シ
要スルニ法律ヲ以テ禁制セス又記入ヲ命セサルナリロエスレル氏ノ意モ蓋シ此精神ニ外ナラサルヘシ尤モ尙質問シテ說明ヲ要ムヘシ
○本條ハ左ノ如ク修正ヲ加ヘラレタリ
第二百五十一條 株主ノ記名ニ關スル第二百九條ノ規定及ヒ會社ノ承諾ニ關スル第二百十四條ノ規定ハ前條登記ノ時ヨリ之ヲ適用セサルモノトス
○第 條 商法草案第二百五十二條
無記名株劵ハ自由ニ讓渡賣渡シ又ハ遺物ト爲ス事ヲ得ヘキ動產トス會社ニ在テハ預メ吿知ヲナス場合ヲ除クノ外所有者ノ所有名義ヲ取亂スノ義務ヲ有セサル者トス
（本尾委員）
「預メ吿知ヲナス」云々ハ反譯適當ナラス此吿知トハ株劵所有者アリ盜難ニ罹リタル屆ヲ差出シ若シ何號ノ株劵ヲ以テ利息等ヲ請求スルモノアルモ決シテ會社ニ於テ渡サヽル樣會社ニ吿知スルヲ云フ故ニ「預メ吿知ヲ得タル場合ヲ除クノ外」ト修正スヘシ
（長森委員）
第二百十五條ノ如キ本款ニ適用シ得ラレサルモノ少カラス然ルニ第二百五十一條ニ於テハ特ニ第二百九條及ヒ第二百十四條ノミヲ揭クルヲ以テ其他ハ適用スルモノト解釋シ得ルノ嫌アリ
（本尾委員）
別段明條ナキモ自ラ適用シ得ラレサルモノト爲スノ條少カラサルナリ
○本條ハ左ノ如ク修正ヲ加ヘラレタリ
第二百五十二條無記名株劵ハ自由ニ讓渡賣渡シ又ハ遺物ト爲ス事ヲ得ヘキ動產トス會社ハ預メ吿知ヲ得タル場合ノ外現有者ノ所有罹原ヲ取一亂スノ義務ナキ者トス
○第 條 商法草案第二百五十三條
紛失若クハ損廢シタル無記名株劵ハ無効タル旨ヲ公吿スル事ヲ得ヘシ
（本尾委員）
「株劵ハ公吿シテ無効ト爲ス事ヲ得ヘシト」スルヲ穩當ト爲ス
○本條ハ左ノ如ク修正ヲ加ヘラレタリ
第二百五十三條紛失若クハ廢滅シタル無記名株劵ハ之ヲ無効トシ新劵ヲ交付スル事ヲ得ヘシ
午後第十二時二十五分中止
午後第十二時五十五分開會
○第九款 總資本額又ハ株金額ノ塘減
○第 條 商法草案第二百五十四條
會社ハ申合規則ニ預定シタルトキハ又ハ總會ノ決議ヲ以テ定メタルトキハ（第二百四十一條）總資本額又ハ株金額ヲ增減スル事ヲ得ヘシ但シ判事ノ許可ヲ得テ之ヲ商業簡明簿ニ登記シ且公吿シタル後ニアラサレハ增減スル事ヲ得ス
又資本ヲ增加スルハ株金ヲ增額スルト新株劵及ヒ負債證劵ヲ發行スルトヲ論セス
（渡邊委員）
株金額增加トハ五十圓劵ヲ百圓劵トスル類ナラン
（本尾委員）
然リ
（箕作委員）
負債證劵トハ如何
（本尾委員）
社用ノ爲メニ金員ヲ借入レタル時ニ發行スルモノニシテ卽チ會社ノ公債證書ナリ
第二項ノ主意ハ增額スルニハ新株劵ヲ發行スルヲ得ルハ勿論負債證書ヲモ發行シテ差支ナキ事ヲ示スニ在リ
（渡邊委員）
新株劵ト負債證劵トハ同一ナラス例ヘハ負債證劵ニハ利息アルモ利【益配管田等ニ關係ナキカ如シ
○本條ハ左ノ如ク修正ヲ加ヘラレタリ
第二百五十四條會社ハ定款ニ預定シタルトキ又ハ總會ノ決議（第二百四十一條）ニ依リ會社資本額（原文總資本額）又ハ株金額ヲ增減スル事ヲ得ヘシ然レトモ其增減ハ裁判所ノ許可ヲ得（タル上之ヲ商業登錄簿ニ登記シ且ツ公吿シタル後ニアラサレハ之ヲ爲ス事ヲ得ス其資本ヲ增加スルニハ株金ヲ增額シ或ハ新株劵又ハ負債證劵ヲ發行スル事ヲ得ヘシ
○第 條 商法草案第二百五十五條
總資本ハ其四分一以內ニ減少スル事ヲ得ス
（本尾委員）
本條ハ關係重大ナルモノニシテ假令ハ株式會社ヲシテ盡ク官許ヲ受ルノ主義トセハ減額等ノ如キハ政府ノ許可ヲ要セシメ精密ニ唫味ヲ爲シ合目社隨意ニ減額スル齡寺ノ事アラシムヘカラス若シ會社ヲシテ任意ニ增減スルヲ許ストキハ社外ニ重大ナル損害广ヲ釀生セシムルニ至ルヘケレハナリ
（鶴田委員）
四分一ト規定セシ原因如何
（本尾委員）
株劵賣買ノ如キ四分一拂込ノ上ハ許與スルトノ規定ニ比較セシモノナラン
（鶴田委員）
縱令ヒ許可ヲ得ルモ第二百五十六條ニ據リ債主ヨリ異議ヲ唱フル事ナキニアラサルナリ
○本條ハ「以內」ヲ「以下」ニ改メタルノミ
第 條 商法草案第二百五十六條
總資本又ハ株金額ヲ減少セント欲スルトキハ其趣意ヲ各債主ニ通知シテ其承諾ヲ求ムヘシ
（委員長）
「總資本」トアルハ總テ「會社資本」ト修正スヘシ
○本條ハ別段異議ナシ左ノ修正セラレタリ
第二百五十六條會社資本又ハ株劵額ヲ減少セント欲スルトキハ其意見ヲ各債主ニ通知シテ其承諾ヲ求メサルヘカラス
午後第二時閉會