○第四十回
明治十七年十二月十九日
欠席 塩田委員
午前第十時十分開會
○商法第二百二十七條
（本尾委員）
本條定款云々ハ第二百ニ十二條ノ「取締役ハ會社ニ對シ定款及ヒ總會ノ決議ニ從フノ責アルモノトス」トアルニ牴觸スルカ如シ又本條ノ精神ハ合名會社ニ於ル尋常商人ト同一ノ義務部勉勵注意ヲ爲スヘシトノ規定ト同主義ナルヤ若シ同主義トセハ之ヲ總則ニ揭ケ兩會社ニ適用スルモノトセハ如何ナルヤノ質疑ナリシ答辯ニ云フ本條ハ聊カ第二百ニ十二條ト重復ノ嫌ナキニアラサレハ第二百ニ十二條「取締役ハ會社ニ對シ定款及ヒ總會ノ決議ニ從フ責アルモノトス」ノ一項削除シ該條ハ左ノ如ク改案セン尤本條ハ該條削除ノ上ハ此儘ニ保存スヘキモノトス
商法第二百ニ十二條會社ハ取締役ノ所業ヲ以テ直接ニ權利ヲ得革峩務ヲ負フ者トス
○取締役ノ代表權執行ノ方法ハ會社ノ定款ニ於テ之ヲ定ムヘシ
○取締役ノ代表權ヲ制限スルモ善意ノ第三者ニ對シテハ無効ト爲ス（之ニ決ス）
第二ノ質疑卽チ合名會社ノ通常商人ト同一ノ勉勵注意ヲ爲スノ義務アルモノトスト云ヘル規定ト同主義ナランニハ之ヲ總則ニ揭裁シ彼是ノ會社ニ適用スル事トセハ如何トノ答ニ曰ク抑モ合名會社ノ社員ハ全財產ヲ以テ義務ヲ負フモノナレハ株式會社ノ社員卽チ株主ノ如キ有限ノ責任ヲ負フ者ト之ヲ同一三記載スル事ヲ得ス併シ社員株主孰レモ通常商人ト同一ノ勉勵注意ヲ爲スヘキ義務アルハ勿論ナリトス右ノ如クナレハ兩條ノ規定ハ其儘保存シ總則ニ移シテ之ヲ揭載セサルヲ可トスト
（委員長）
本文記載方ノ質問如何
（本尾委員）
取締役ノ職掌義務ヲ盡スノ責任ト定款及ヒ會社ノ決議ニ從フノ責アルモノトスルノ意味ニ改案ノコトナリシカロエスレル氏ハ文章ハ何ト改ムルモ可ナリ原文ノ意ハ職掌義務ヲ盡スコトニ定款等ニ從フノ任アルコトヲ示スモノナレハ意味ニ於テ質問ノ如クスルモ同一ナレハ反譯ニ於テ貴問ノ如ク記載スルモ差支ナシト
（委員長）
原文ノ意義ハ取締役ノ自己ニ責任ヲ負フハ猶ホ會社ノ定款及ヒ決議ヲ確守スルカ如シト云フニ在リ
（本尾委員）
「義務ヲ盡スト會社ノ決議ヲ確守スルトニ付キ自己ニ義務ヲ負フヘキモノトス」トセハ如何
（岸本委員）
「取締役ハ會社ニ對シ義務ヲ盡シ及ヒ定款幷ニ會社ノ決議ヲ確守スルノ責アルモノトス」トセハ如何
（本尾委員）
岸本委員ノ修正ノ如クセハ原文ノ意義ニ背反スルナラン何トスレハ原文ノ精榊ハ若シモ損害ヲ生スル事アルトキハ會社ニ對シ其損害ヲ辨償スルノ義務ヲ自己ニ負フモノトナスノ意味ヲ包含スレハナリ
（委員長）
「對シテ」ノ語ハ如何
（細川委員）
原文ニハ單ニ「會社ニ自己カ責ヲ負フヘク」トアリテ謙對シテ」ノ語ナシ
（箕作委員）
委員長ノ說ニ於テハ原文ニ依レハ取締役カ會社ノ爲メニト讀ミ得ルヲ以テ取締役ハ會社ノ爲メニ社外人ニ對シ之カ責任トヲ有スルモノト解釋シ得サルニモアラスト（第一問）本官ハ之ニ反シ本條ノ精神ハ取締役ハ會社ニ對シテ損害ヲ償フノ義務アルモノニシテ社外ニハ一向關係ヲ有セサルモノト解釋ス（第二間）孰レカ是ナルヤ
（本尾委員）
第二間ヲ可トス假令ハ定款ニ於テ取締役ノ權利ヲ縮限スルモ社外ニ對シテ効ナキモノナレハ此等ノ精神ヨリ思料ヲ下ストキハ第一問ノ如ク會社ニ代リ第三者ニ責任ヲ負フ事能ハサルヘシ如何トナレハ第三者ノ場合ニ於テハ第二百ニ十二條ヲ適用シテ處分スルモノナレハナリ故ニ本條ニ於テハ全ク取締役ハ會社ニ對シテ責任ヲ負フモノニシテ社外人ニ關係ヲ有セサルモノト信認ス」
扨テ本條ハ左ノ如ク修正セハ如何
「取締役ハ其職掌義務ヲ盡ス事幷ニ定款及ヒ會社ノ決議ヲ確守スル事ニ就キ會社ニ對シテ自己ニ責任ヲ負フヘキモノトス」（之ニ決ス）
（長森委員）
「就キ」トアリテハ聊カ不都合ナキニアラス依テ「就キ」 「爲ヌ」トセハ如何
○商法第二百二十八條再議
（本尾委員）
第二百二十八條ハ前回既ニ修正ヲ經タレトモ未タ充分ナラサレハ再修正ヲ乞ハントス抑モ本條ハ第百六十六條ノ精神ト同一ニシテ在社中ハ勿論解任後モ尙ホ一ケ年間ハ全財產ヲ以テ連帶義務ヲ負フモノトス故ニ其在任中ニ生シタル負債ニ付キ「解任後一年間」トアレハ在任中ハ連帶義務ナキカ如ク見ヘ甚タ不都合ナレハ「解任後一年間ニ至ル迄」トセハ本條ノ精神ニ適用スヘシ
（長森委員）
解任後ト雖モ一年間云々トセハ如何
（岸本委員）
「解任後尙ホ一、ケ年」トナスヘシ（之ニ決ス）
○商法第二百十三條ト第二百十六條トノ關係
（本尾委員）
前段ノ質問ノ併テ商法第二百十三條ト第二百十六條トノ關係ニ付質疑センニロエスレル氏ハ兩條共決シテ不可ナシト然レトモ委員中或ハ可ナリト雖モ未タ我邦ノ度ニ適セサルヲ如何セント論スルモノアリ先ツ合名會社ニ於テハ如此規定アルモ敢テ不都合ナシトモ株式會社ニ在テハ未タ練 熟セサル會社ナレハ混雜ヲ生シ實際反テ不都合ヲ來スノ憂ナキニアラス故ニ我國ニ於テハ全額迄ハ賣却者ニ責任ヲ負フ如キ規定トセハ如何ソ又第二百十三條トノ關係ヲモ質セシニロエスレル氏曰ク第二百十三條ト第二百十六條トハ全ク異ナル所アリ如何トナレハ第二百十三條ハ負債ナキモ半額ヲ入ルヽノ義務ヲ負擔セシメ第二百十六條ハ負債アルノ時ニ拂入レシムルモノトノ區別アリ尤モ日本今日ノ實況ニ適セストナラハ之ヲ改正スルモ可ナリ併シ株劵ハ凡ソ流通スヘキヲ原則ト爲スモノナレハ全額拂濟ノ上ナラテハ賣買スルヲ得ストノ規定ヲ設クルハ不可ナリ故ニ四分一以上拂込タル株劵ハ之ヲ隨意ニ賣買スルヲ許スト雖モ爲替手形ト同シク裏書人ニ擔保ノ責任ヲ負ハスルモノト爲シ第二百十三條ノ半額ハ是非之ヲ拂込マシムルノ義務アルモノトシ文章ハ原案ノ儘ニ保存スルトセハ可ナルヘシ若シ此意見ニシテ委員ノ採用スル所トナルニ於テハ第二百十三條ノ但書ハ、之ヲ削除シ又第二百十六條ハ左ノ如ク改案セサルヘカラス
「退社ノ日ヨリ起算シテ一ケ年間」ヲ削リ他ハ原案ノ儘
（以上ロエスレル氏主義改正ハ採用セラレタリ）
（箕作委員）
第二百十三條但書ヲ削除シタル理由如何
（本尾委員）
會社ニ義務ノ取捨ヲ委スルハ弊害ナキニアラス且ツ之ヲ削除シテ賣渡人ハ必ス半額迄ハ拂込ノ義務アルモノトセハ株劵ノ信用ヲ增シ流通ノ途自ラ圓滑ニ至ラシメントスルノ精神ナリ以上說明了
正午第十二時中止
午後第十二時五十分開會
○第 條 商法草案第二百三十一條
取締役ハ左ノ件ヲ擔當スヘシ
一 頭取及發起人ノ業務取扱及ヒ殊ニ會社ノ創起設立上ニ於テ法律ニ背戾シタル所ナキカ否又業務取扱ノ申合規則ノ條件及ヒ會社ノ決議ニ適合スルカ否ヲ監視シ且總テ其取扱上ノ錯誤ヲ檢覈スル事
二 決算帳、比較表及ヒ利足利益ノ配當案ヲ檢査シテ之ヲ株主總會ニ報吿スル事
三 會社ノ利害上ニ於テ必要又ハ有益ト認ムルトキハ總會ヲ開ク事
（本尾委員）
本條取締役ハ左ノ件ヲ擔當スヘシトアレトモ原文ニ依レハ「檢査役ノ擔任左ノ如シ」トナス方可ナルカ如シ
（箕作委員）
「檢査役ハ左ノ件ニテ擔當スヘシ」ト改メハ如何（之ニ決ス）
第一項中ノ「及ヒ殊ニ會社ノ創起設立上ニ於テ」ノ十五字ハ不用ナルカ如シ
（長森委員）
本條ノ首メニ檢査役云々トアルヲ以テ見レハ會社ノ創起設立上云々ハ該役カ未タ選擧セラレサル以前ニ遡テ檢覈スルカ如シ
（岸本委員）
佛國ニ於テモ亦同一ナリト信ス
（本尾委員）
第一項發起人ニ關シテハ會社發起ニ付テハ法律ニ背戾シタルナキカ否ヲ檢査スルハ最モ緊要ナル事務ニシテ又頭取ノ業務取扱上ニ關シ調査スルハ會社ヲ保護スル㸃ニ付尤緊要ナルモノナリトス故ニ本項ヲ讀ムモノハ此等ノ區別アルコトヲ識ラサルヘカラサルハ能ク他人ヲシテ其區別アルヲ知ラシムルニハ左ノ如ク修正セサルヘカラス
取締役ノ業務取扱及ヒ發起人ノ發起設立上ニ於テ法律又ハ定款ノ條件及會社ノ決議ニ適合スルヤ否ヲ監視シ云々
（本尾委員）
第一項ハ曩ニ修正ヲ呈セシト雖モ錯雜ナル文章ニシテ解釋スルニ困難ナルヲ免レサレハ取締役ノ業務取扱ヒノ部分ト發起人カ業務取扱ヒノ部分トヲ分別シテ揭載スルトセハ大ニ體裁ヲ備フルノ條トナルヘシ故ニ斯ク改正アランコトヲ依賴シテハ如何
（委員長）
然リ意味ノ分明ナラシメタル以上ニ於テ修正スルコトエセン
第二項
（本尾委員）
本項末文ニ「之ヲ總會ニ報吿スル事」トアリテハ報吿スルハ檢査役ノ擔當ナル事件ノ如ク解釋セラルレトモ原文ノ意ハ檢査シタル事蹟ヲ報吿スルコトヲ言フモノナリ反譯文ハ配當案等ヲ報吿スルノ嫌ヒアルヲ以テ修正セサルヘカラス
○本項ハ左ノ如ク修正アリタリ
一 每年ノ精算帳、比較表及利足幷ニ分配金ノ配當案ヲ檢査シ株主總會ニ其報吿ヲ爲ス事
第三項
（委員長）
「必要」ノ下「又」ノ字ヲ削除シテハ如何
（本尾委員）
若シ之ヲ削ル時ハ必要ト有益トノ二件ヲ具有スルニアラサレハ總會ヲ招集スルコトヲ得サルモノトナルヘシ
○本項ハ左ノ如ク修正アリ
三 會社ノ利害上ニ於テ必要又ハ有益ト認ムルトキハ總會ヲ招集スル事
○第 條 商法草案第二百三十二條
取締役員ハ申合規則ニ確定シ又ハ總會ノ決議ヲ以テ年々報勞金ヲ與フル事ヲ得ヘシ
（本尾委員）
原文ハ檢査役ノ執勞ニ定款又ハト云フノ意味ナレハ反譯穩當ナラス修正セサルヘカラス
○本條ハ左ノ如ク修正アリタリ
第二百三十二條檢査役ノ執勞ニ對シ定款又ハ總會ノ決議ヲ以テ年々制執齡勞金ヲ踉ハフル事ヲ得ヘシ
午後二時閉會