○第三十四回
明治十七年十嗣月廿八日
○午前第十時開會
欠席 細川委員
仝 箕作委員
仝 渡邊委員
（本尾委員）
前回ニ於テ質問スヘキニ決シタル第百九十三條ノ○以下則入金前ハ會社ヲ登記スルコトヲ得ス其以前ニ之ヲナシタルトキハ無効ニ歸ストアリ然ルニ第百九十二條ニハ其明文ヲ以テ正式證書下付以前ニ登記スルモ無効ニアラサルカ兩條ヲ封比スルトキハ衡ヲ失フカ如シト右ノ答辨ニ曰ク第百九十三條ノ○以下入金云々ハ削除スルコトヲ得ス如何トナレハ會社ヲ設立スルニハ資本ヲ第一トス其資本ヲ得テ後ニ登記スルトキハ會社ヲ設立スルヲ得ルモノニシテ會社ノ設立ニハ必ス幾分力ノ財產ナカルヘカラス此ヲ以テ一株ニ付少ナクモ百分ノニ十五ノ金額ハ速ニ會社ニ拂入レシメサルヘカラス是ヲ以テ入金以前ニ登記シテ會社設立スル嚴ニ明文ヲ以テ其無効ナルコトヲ示サヽルヘカラス又第百九十二條正式證書以前ニハ登記スルヲ得ス如何トナレハ第百八十七條ノ第一項ニ太政官ノ免許ヲ云々トアルヲ以テ會社ニ於テハ此免許證書ハ僞造スルニ難キモノナレ共登記公吿ハ之ヲナスニ易シ故ニ第百九十二條ニハ無効ノコトヲ記載セスシテ可ナリト雖モ百九十三條ニ於テハ必ス之レカ無効タルコトヲ示ササルヘカラスト又問フ第百九十七條ニ登記公吿以前ニハ開業スルコトヲ得サル旨ヲ示セトモ登記公吿後ニハ開業スルノ期限ナキヲ以テ何ケ年ヲ經過スルモ開業ニ差支ナキヤ
答テ曰ク否登記公吿後ト雖トモ其期限ハ設ケ置カサルヘカラス本條ハ全ク起草ノ時ニ其規定ヲ脫落セシモノナリトテ左ノ如ク追加セラレタリ
其免許ハ無効トス
○第八十八條ノ規定ハ株式會社ニモ亦適用スヘシ
（鶴田委員）
罰ノコトハ如何
（本尾委員）
第三百十條ノ第一項ノ註ニ「第百九十四條ヨリ第百九十五條ニ至ル」トアル五ハ「七」ノ誤リニシテ更ニ第百九十七條ニ至ルト改メラレタリ
說明了
○第 條 商法草案第百九十八條
會社登記ヲ爲サヽル以前ニ會社ノ名義又ハ會社ノ計算ヲ以テ契約シタル總テノ義務ニ就テハ發起人及ヒ各株主全財產ヲ以テ連帶ノ義務ヲ有スル者トス
（本尾委員）
本條ノ文意少シク穩當ナラサル所アルヲ以テ之ヲ質問セシニ左ノ如ク改案セラレタリ
會社登記以前ニ會社ノ名義又ハ會社ノ計算ヲ以テ契約シタル總テノ負擔ニシテ第一總會ニ於テ其許可ヲ得タルモノニ對シ若シ會社ノ登記濟マサル時ハ發起人取締役及株主全財產ヲ以テ連帶ノ義務アル者トス
若シ之ヲ原案ノ如クシテ改メサル時ニハ株主ニ於テ會社ノ負債ニ付第一總會ノ認可ヲモ經サルニ蓮帶ノ義務ヲ負ハサルヘカラサル不都合ヲ生スルアルヲ以テノ故ニ右ニ述ヘタル如ク總會以前ノ負債ニシテ總會ノ認可ナキモノハ發起人ニ於テ之ヲ負搬スルコトヽ改案セラル
（周布委員）
登記云々ハ未タ登記以前ト云フノ意味ナリヤ或ハ又登記スルコトヲ許サヽリシ場合ナリヤ
（本尾委員）
雙方俱ニ包含セリ然レトモ本條ハ重ニ登記スルコトヲ許サヽリシ場合ヲ云フモノナリ
（岸本委員）
各株主ノ連帶義務ヲ負フハ株式會社ノ主義ニ反スルモノトス如何トナレハ株式會社ノ株主タルモノヽ責任ハ其株劵額ニ止ルヲ原則トスレハナリ又本條ノ場合ノ如キハ發起人取締役ノ所業ヨリ生シタルモノナレハ此者等ニ於テ連帶義務ヲ負フヘキカコソ至當ナルヘシ
（本尾委員）
本條ノ場合ハ既ニ株主ノ認可シタルモノナレハ株主之レカ義務ヲ負フハ當然ナルヘシ
（岸本委員）
株主總會ノ決議ハ多數ヲ以テ之ヲ爲ス然ルトキハ少數ノ株主ハ多數ノ株主ノ爲メ無限ノ責任ヲ負ハサルヲ得ス實ニ如斯規定ハ未曾有ノモノト云フヘシ
（本尾委員）
若シ本條ナキトキハ株主ノ責任ハ株金ニ止ルモノナレ共此ニ本條ヲ見ハストキハ則チ本文ノ場合ニ於テ承認シタルモノハ無限責任トナルヲ示スモノナリ而シテ其負債ハ總會ノ前後ニ生シタルヲ問ハス苟クモ株主ノ認可ヲ經タルトキハ皆同一ナリトス
（岸本委員）
未タ登記セサルモ順序ヲ追テ取扱フトキハ遂ニ故障ナク登記スルコトヲ得タルモノハ連帶ノ義務ナク之ニ反シ登記ヲ爲スヲ得スシテ會社ノ成立タサル場合ノミヲ云フヤ
（本尾委員）
然リト雖トモ假令登記スルコトヲ得ルモ其間ニ於テハ負債返濟ニ付矢張株主ハ責任ヲ負フモノナリトス
（長森委員）
會社ノ名義ノ文字ハ少ク穩當ナラス
（塩田委員）
「會社ノ爲メ」トセハ如何
（鶴田委員）
創業費承認ニ付總會ノ認可ヲ受クル場合ニ付第百九十一條ニ規定ナキヲ以テ質問セハ如何
（本尾委員）
諾
玆ニ名義トハ何々會社ト云フニアラス此會社ヲ設立スルカ爲メニト云フノ意ニシテ決シテ其名義ヲ以テ契約スルモノニアラサルナリ
（周布委員）
會社ノ名義ト云フトキハ其社名ヲ以テ契約スルモノトナルニ付甚タ關係少カサレハ之ヲ質問シテハ如何
（本尾委員）
諾
（鶴田委員）
委員長ノ讀ニハ或ハ名義ヲ用ヒテ契約スルモノナシトハ云ヒ難シ其之ヲ用ヒタルモノハ罰セラルニナレトモ其負債ハ償還セサルヘカラサレハ此等ノ場合ニモ亦適用スルモノナルヘシトノ說アリ或ハ求メテ名義ヲ用ユルモノナシトモ云ヒ難ケレハ其趣旨ヲ以テモ亦質問アリタシ
（本尾委員）
諾
○本條ハ左ノ如ク修正ヲ加フ
第百九十八條會社登記前ニ會社ノ名義又ハ其計算ヲ以テ契約シ第一ノ總益日ニ於テ承認ヲ得タル負債アリテ會社登記濟マサル時ハ其負債ニ對シ發起人取締役及ヒ各株主全財產ヲ以テ連帶ノ義務ヲ負フ者トス
退席委員長
○第 條 商法草案第百九十九條
發起人ハ第一總會前ニ取結ヒタル契約及ヒ出費ニシテ總會ノ認可ヲ得サルトキハ全財產ヲ以テ其責任ヲ有スル者トス但シ既ニ認可スト雖モ此認可及ヒ其他發起人ノ各種ノ所業ニ對シ後ニ詐僞アリトシテ異議スルヲ得ス
（本尾委員）
本條譯文穩當ナラス
（岸本委員）
全財產ヲ以テトアリ其問ニ連帶ノ二字ヲ挿入セサルヘカラス如何トナレハ第百八十九條ヲ改正シタルヲ以テ本條ニ連帶ノ二字ヲ挿入スルハ當然ナレハナリ
（本尾委員）
然リ併シ一應質問ノ上之ヲ挿入セン
（周布委員）
詐僞トハ發起人ノ總テノ所業ニ付テ云フヤ又ハ承認ニ付テ云フヤ
（本尾委員）
承認ニ付發起人ノ爲シタル總テノ所業ニ詐僞アル場合ヲ云フ
本條ハ日本文ニ譯スルトキハ甚穩當ナラサレハ先例ニ依リロエスレル氏ニ書替ヲ依賴スヘシ
于時午後十二時二十分中止
○午後第一時十五分開會
○第二款 社名及ヒ社印
○第 條 商法草案第二百條
株式會社ハ官簿ニ登記シ次テ公吿スルニ依テ設立シタルモノト視做スヘシ因テ會社ハ此時ヨリ特別ノ名號（社名）ヲ唱ヘ其印形ヲ用ヒテ契約ヲ取結ヒ各種ノ財產ヲ所得スルノ權利ヲ有スル者トス
○本條ハ左ノ通リ修正ヲ爲スコトニ決ス
第二百條株式會社ハ登記及公吿ニ依テ設立シタルモノト認ムヘシ此時ヨリ會社ハ社名ヲ唱ヘ社印ヲ用ヒ契約ヲ結ヒ各種ノ財產ヲ有スルノ權アルモノトス
○第 條 商法草案第二百一條
社名ハ社店ノ前面ニ揭示ス可シ
（周布委員）
本條一名又ハ數名トアルハ不用ナリ單ニ株主ノ氏名トアレハ一名モ數名モ包含スルヲ以テ之ヲ削ルヘシ
（本尾委員）
然リ別段質問ニ及、ハス直ニ之ヲ削除スヘシ（之ニ決ス）
○第 條 商法草案第二百二條
社印ニハ社名ヲ彫刻シ而テ簡明簿ニ備置ノ爲メ其印鑑一枚ヲ商事裁判所ニ差出スヘシ社印ヲ改正シ又ハ改刻スルトキモ此手續ヲ爲スヘシ
○第 條 商法草案第二百三條
社名及ヒ社印ハ總テ官廳ニ宛タル文書幷ニ公報、廣吿、株劵爲替切手及ヒ其他總テ會社ニ於テ權利ヲ所得シ若クハ義務ヲ負擔スヘキ各種ノ書類ニ押捺記載スヘシ
（周布委員）
社名ヲ社店ノ前面ニ揭載スルハ營業時間ナルヤ
（本尾委員）
否營業時間ニ限ラサルヘシ
（長森委員）
公報トハ如何
（本尾委員）
假令ハ過キ去リタル事柄ヲ統計シテ衆人三不スコト又ハ政府ノ命ニ依テ事業ノ形況ヲ呈出[シ新聞紙ニ揭載スルヲ云フ又廣吿トハ總理代人ヲ雇入ルエ等ノ如キ其區域狹少ナル部分ヲ云フ
○第條以下左ノ通リ修正ヲ爲スコトニ決ス
○第條商社ハ社名及社印ヲ設ケ且設置ノ場所ヲ定メサルヘカラス
社名ハ一地方ニ於テ同一ナル可ラス
社名ハ社店ノ前面ニ揭示スヘシ
○第條社印ニハ社名ヲ彫刻スヘシ且登錄ノ爲メ其印鑑壹枚ヲ商事裁判所ニ差出スヘシ社印ヲ改正シ又ハ改刻スルトキモ亦同シ
○第條社名及ヒ社印ハ總テ官廳ニ宛タル文幷ニ公報、廣吿、株劵、爲替手形其他總テ會社ニ於テ權利ヲ有シ義務ヲ負フ可キ各種ノ書類ニ用フ可シ
午後第二時十分閉會