旧商法(明治23・26年)

会社条例編纂委員会 商社法第一読会筆記 第32回

参考原資料

備考

  • 未校正のテキストデータです.
○第三十二回
(本尾委員)
官許ノコトニ關シ前回ニ於テ渡邊委員ヨリ呈出セラレタルケ條書ニ就キロエスレル氏ノ答辨左ノ如シ
第一許否ハ何レニ據リテ決スルヤ
會社ノ設立ヲ許スト否トハ政府ノ意見ニ任スルナリ然レトモ許否ハ政府ノ意見ニ任スト雖政府意見ノ如ク自己ノ好マサル所ノ會社ハ許可ヲ與ヘスシテ自己ノ好ム所ノ會社ハ何等ノモノト雖モ之ヲ許スト云カ如キ精神ニアラス之ヲ許否スルニハ彼是ノ權衡ヲ取テ公平ニ許否ヲ決スル等不公平ナカラソコトヲ勉ムルハ政府當然ノ識トスト依テ本官問フテ曰ク今說明ニ依テ考フル時ハ政府ハ人ヲ目的トシテ許否スルナラス曰ク然リ又問フニ若シ人ヲ目的トシテ許否スルニ於テハ間接ニ政府ヨリ會社ニ信用ヲ與フルニ至ラン曰ク然リ間接ニハ信用ヲ與フルト雖モ直接ニ信用ヲ與フルニアラサレハ會社設立上ニ就テハ敢テ不都合ナルコトナシ或ハ人民ヨリ政府カ信用ヲ與ヘタルニ依リ大ナル損害ヲ受ケタリトテ政府ニ訴フルモ政府之カ辨償ニ任セサルハ論スルヲ俟タスシテ明カナリ又實際上ニ於テモ政府ヨリ許可ヲ與ヘテ設立セシムルヲ正當トスルノミナラス必ス好結果ヲ呈スルモノナリ故ニ許否ノ權ヲ政府ニ於テ掌捆スルヲ可トス若シ政府ノ管理ヲ解キ人民ノ自由ニ任スル時ハ幾分カ私心ヲ挾ミ利益アラサル會社其利益アリトシ途ニ他ノ人民ニ害毒ヲ蒙ラシムルコトアリト雖モ政府ヨリ設立ノ許否ヲ與ルモノトスルトキハ一㸃ノ私
心ナク虛氣平心ニシテ能ク會社ノ實體ヲ檢査シ後許否ヲ決スルモノナレハ會社ハ勿論他ノ人民ニ宝呈母ヲ蒙ラシメサル言ヲ俟タスシテ明カナリ故ニ確固タル會社ヲ設立セシメント欲セハ政府ノ管理ニ屬セシメサルヘカラスト
第二許否ヲ辨ヲ以テスルモノトスルトキハ許可シタル者ヲ禁止若クハ停止スルハ何ノ條ニ據ルカ
商法草案第二百七十八條ニ於テ檢査スルヲ得ヘシ而シテ若シ檢査シタルノ際ニ於テ定款ニ違背スルコトアルトキハ第二百八十二條ヲ適用シ政府ヨリ裁判所ニ移牒シ解散セシムルコトヲ得又財產ノ貸借上ニ不平均ナルコトアルトキハ第二百八十一條ニ據テ處分スルコトヲ得ヘシト
本官ノ問フテ曰ク初メ行政權ヲ以テ許否スルモノナレハ解散セシムルモ判事ノ判決ヲ要セス直ニ行政權ヲ以テ之ヲ解散セシムルヲ至當トス然ルニ解散ノ場合ハ裁判所ノ判決ヲ以テ之ヲ命スルハ少シク不都合ナラスヤ同氏答テ曰ク否然ラス一旦許可ヲ得テ設立シタル以上ハ已ニ權利ヲ得タルモノナレハ其權利ヲ行政上ノ處分ヲ以テ解散ヲ命スルコト能ハス必ス裁判所ノ處分ヲ仰カサルヘカラスト
第三若シ雄聖議ニハ過誤ナシト云フヘカラス然レハ其過誤ノ害ハ許否セサルヨリ大ナルヘシ
政府モ天帝ニアラサレハ過誤ナシトハ謂ヒ難シ如此質議ヲ以テ小生カ讀ヲ駁スルハ實ニ不當ナリト云ハサルヲ得ス若シト力ノ言ヲハ用ユルモノハ机上ノ論ニシテ決シテ實際ニ適用シ得ラレサルモノナリ此ノ問ヒニ答フルニハ實際上ノコトヲ以テセハ充
分ナリト信ス從來ノ實驗ニ係ルニ人民ノ自由ニ放シテ會社ヲ設立セシメタル時ニ於テハ倒產ノ慘狀ニ陷ルモノ數フルニ遑マアラサル程ナレトモ政府ヨリ許否ヲ與フル時ニ至テハ如此弊ナキヲ以テ小生カ說ノ不適當ナラサルヲ推知スルニ足ルヘシト
第四故ニ法律ヲ嚴密ニシテ自ラ警戒セシメ然シテ辨議ニ任スルコトハ別ニ行政法ヲ設ケテ之ヲ禁止シ若クハ停止スルハ止ム可ラサルモノム如シ
本項質議ノ㸃ハ小生カ意見書ニ別段陳述セサルモ大體ノ主義ハ該意見書ニ依テ了解セラレソコトヲ要ス併シ此目的カ至當ナルヤ否ヤハ實際ニ付テ一々其形況ヲ調査シ後チ許否ヲ決スルノ外他ニ良法ナシト信ス別ニ行政法ヲ設ケテ自カラ警戒ノ勞ヲ取ラントスルハ決シテ爲シ得サルモノナリ故ニ法律ハ如何ニ緻密ナルモ之ヲ犯スノ徒ヲ防壓センコトハ實ニ至難ナルコトニス行政法云々ハ第二間ニ對シ既ニ陳述セシヲ以テ玆ニ資セス併シ本案中規定セル禁止法ノ如キハ第百八十一條第百八十二條第二百七十八條ニアリ右ハ四項ニ對スルロエスレル氏ノ答辨ナリ尤モ本件ハ重大ナル事件ナルヲ以テ若シ出論ヲ要スルコトアルトキハ委員長ノ命達ニ從テ直ニ出論辨解ノ勞ヲ辭セスト
(委員長)
渡邊質問件ハ修正會ニ至テ提出スヘキ事柄ナレハ今日之ヲ辨論スルハ未タ早シト信ス故ニ先ツ校正會ヲ終リタル後ニ於テ右質問ノ辨論ニ着手スルコトエセン一體本件ノミナラス重大ナル修正事件ハ之ヲ修正會ニ讓リテ校正會先ツ原案ニ於テナスコトトセン
(細川委員)
然リ先ツ原案ヲ通過シテ後修正會ニ至リテ難事件ノ討議ニ着手アランコト希望ニ堪ヘス
(渡邊委員)
余ハロエスレル氏ノ答辨ニハ感服スルヲ得ス如何トナレハ歐洲ニ於テ倒產シタルモノハ許可ヲ得タル會社ニハ少クシテ許可ヲ得サル會社ニ多シト云ヘトモ日本ニ於テハ之ニ反シ許可ヲ與ヘタル會社ニ多クシテ私設ノ會社ニハ殆ント倒產セシモノナキカ如シ是レ彼我情況異ナル場合アリテ然ルモノナレハ一槪ニ官許ヲ可トスルヲ得ス
(委員長)
行政警察ノコトハ會社資本等ノ如キモノヲ取締ルノ謂ヒニアラスシテ其營業ニ關シ檢束權ヲ施行スルモノナラン則チ鐵道電信ノ如キ其營業ノコトノミニ關係スルモノト信ス
(渡邊委員)
日本ニ於テハ信用ハ自由會社ニナクシテ政府ノ特許ヲ與ヘタル所ノ會社ニ多ク然レトモ倒產ハ政府ヨリ許可シタルモノニ多クシテ自由會社ニ少シトス
(岸本委員)
佛國ニ於テ發行シタル或ル表ヲ見ルニ官許ヲ與ヘタルモノハ圭皿ク倒產シテ編ヱ又會社ニ在テ公益旺益ニ赴クノ暑納況ヲ示セリ
(渡邊委員)
若シ官許ヲ與フルモノト規定スルトキハ我國ニ於テハ恐ラクハ成皿ニ大ナル會社ヲ設立スルコトハ難カルヘシ我國ニ於テハ決シテ官許ヲ以テ得策トスルヲ得ス
(本尾委員)
ロユスレル氏ノ改正案ノ主義ヲ以テ校正ニ付スルヤ否
(委員長)
兩按アルモノトシテ校正スヘシ
(本尾委員)
過日ロエスレル氏ヨリ左ノ如ク諸條ヲ改案セラレタリ則チ
第二百條 次ニ株式會社ノ社名ニハ株主一名又ハ數名ノ氏名ヲ用ユルコトヲ得ス且該社名ニハ必ス株式會社ノ語ヲ加フ可シ
而シテ第二百一條第二百二條第二百三條ノ三ケ條ヲ削除シ第七十條ヲ改正シ該條ノ次ニニケ條ヲ追加セラレタリ左ノ如シ
第七十條商社ハ社名及社印ヲ設ケ且設置ノ場所ヲ定メサル可ラス
社名ハ一地方ニ於テ同一ナル可カラス
社名ハ社店ノ前面ニ揭示ス可シ
第條社印ニハ社名ヲ彫刻シ而シテ登錄簿ニ備置ノ爲メ其印鑑壹枚ヲ商事裁判所ニ差出ス可シ社印ヲ改正シ又ハ改刻スルモ亦此手續ヲ爲ス可シ
第條社名及社印ハ總テ官廳ニ宛タル文書幷ニ公報、廣吿株劵、爲替手形及ヒ其他總テ會社ニ於テ權利ヲ所有シ若クハ義務ヲ負擔ス可キ各種ノ書類ニ押捺記載スヘシ
且第百五十六條ニ「合資ノ語ト」アルヲ「合資會社ノ語」ト改メラレタリ此ニ會社ノ二字ヲ加ヘタル所以ハロエスレル氏ノ意見ニ依レハ合資株式ニハ必ス會社ト稱ヘサセ合名ニハ社員ノ名ト會社タルノ附號ヲ付セハ可ナリトスルニ在リ
(箕作委員)
第七十條ノ一地方トハ如何
(本尾委員)
歐洲ニ在リテハ商事裁判所ノ管內ヲ云フ
○右記列ノ改正案ハ都テ可決ス
說明了
○第   條 商法草案第百八十九條
政府ヨリ免許ヲ與ヘサルトキハ株式申込ハ無効ニ歸ス若シ既ニ拂込タルトキハ此金額ヲ速ニ各本人ヘ償還スヘシ但シ創業費用ノ爲メ已ムヲ得スシテ消費シタル者ハ此限ニ在ラス此消費ニ關スル計算ハ公吿セサル可カラス且其償還ニ付テハ發起人ノ全財產ヲ以テ申込人ニ對シテ連帶ノ責任ヲ有スル者トス
(委員長)
「政府」ハ太政官ト改ムルナラン
(本尾委員)
原文ニハ政府ノ語ナシ單ニ免許云々トセリ
(委員長)
免許トアレハ太政官ヲ冠セシメテ可ナリ(之ニ決ス)
(河上委員)
本條若シ以下突然拂込タル云々トアリテ何ヲ拂込ミタルヤヲ詳カニセサレハ左ノ如ク修正セハ如何
若シ既ニ拂込、ミタル金額アルトキハ速ニ之ヲ本人ヘ償還スヘシ(之ニ決ス)
○本條ハ左ノ如ク修正ニ決ス
第百八十九條太政官ヨリ免許ヲ與ヘサルトキ又ハ其他會社ノ設立ニ至ラサルトキハ株主ノ記名ハ無効ニ歸ス若シ既ニ拂込タル金額アルトキハ速ニ之ヲ各本人ニ償還スヘシ
○第   條 商法草案第百九十條
政府ヨリ免許ヲ與ヘ或ハ法律上之ヲ得ルコトヲ要セサルトキハ會社申合規則確定ノ爲メニ第一總會ヲ開クヘシ申合規則ハ免許ニ付テノ預約ニ牴觸スヘカラス總申込人ノ四分ノ三以上ニシテ總株金ノ半額以上ヲ引受クル者ノ承諾ヲ得タルトキハ其申合規則ハ總會ノ認可ヲ得タル者トス
(本尾委員)
預約ハ命令ト改ムヘキカ
(箕作委員)
條件ト改ムヘシ(之ニ決ス)
(渡邊委員)
之ヲ直譯セハ約束トナスヲ可トス
○本條改正案ニ依レハ左ノ如ク修正セサルヘカラス
第百九十條太政官ヨリ免許ヲ得タルトキハ會社ノ定款確定ノ爲メニ第一總會ヲ開クヘシ定款ハ免許ニ付テノ條件ニ牴觸スヘカラサルモノニシテ總記名者四分ノ三以上總株金半額以上ニ當ル者ノ承諾ヲ以テ確定スルモノトス
又原草案ニ依レハ左ノ如ク修正セサルヘカラス
第百九十條太政官ヨリ免許ヲ與ヘ若クハ法律上之ヲ得ルコトヲ要セサルトキハ會社ノ定款云々」以下改正案修正ニ同シ
退席渡邊委員
○第   條 商法草案第九十一條
第一總會ニ於テハ前條議事ノ外第一ニ頭取及ヒ取締役ヲ撰擧シ第二ニ社員若シ現金ニアラサル物件ヲ會社ニ差入レ株式又ハ其他ノ報酬ヲ受クルトキ其物件ノ價額ヲ議決スヘシ但シ此決議ニ對シ後ニ詐僞アリトシテ異議スル得
(本尾委員)
本條頭取トアルハ取締役ニ取締役トアルハ檢査役ニ改メ且檢査役ノ上ニ「要スルトキハ」ノ六字ヲ挿入スヘシ
(長森委員)
「之ヲ要スルトキ」ト改ムル方可ナリ
(細川委員)
株式又ハ其他ノ報酬トハ如何ナルコトヲ云フヤ
(本尾委員)
假令ハ土藏ヲ會社財產中ニ差入ルヽ時ハ其代價ヲ計算シテ其價格等ノ株劵ヲ受ルコトヲ云ヒ報ロ酬トハ土弗臧ノ價格現金ニテ拂受クル場合ヲ云フ
(細川委員)
其他ノ報酬トハ本尾委員ノ說明ニ依テ見ル時ハ假令ハ一大家屋ヲ會社財產ニ差入レタル時其價五千圓ナレハ之ヲニ分シニ千五百圓ハ株劵ヲ以テ之ヲ受ケ餘ノニ千五百圓ハ現金ニテ之カ拂渡シヲ受クル如キ場合ヲ云フナルヘシ
(本尾委員)
然リ
(岸本委員)
報酬ノ內ニハ技術ヲ供シテ之カ報酬ヲ受クルコトアランニ其技術ノ價格ハ修正ニ依テ算定スルヤ
(本尾委員)
株式會社ニ於テハ無形物ヲ算定シテ拂渡シヲ爲スカ如キハ林不スル處ナリ
(細川委員)
譯文ニ依テ見ル時ハ價格ヲ定ムルニ物件ハ已ニ會社引渡シタル後ニ於テナスカ如シ如何
(本尾委員)
原文ニ於テハ過去ニシテ現在ヲ含メリ故ニ其財產ハ未タ社員ノ手中ニアレトモ會社ハ已ニ之ヲ受取リタルモノト看做シ價格ヲ議定スルモノナリ
(河上委員)
物件ハ已ニ會社ニ引渡シタルモノト見サルヘカラス如何トナレハ第百九十條ニ載スル記名者ノ四分三ノ數ト株金ノ全額ヲ計算スルニ何ニ據テ算定スルヤ已ニ會社財產トナリシ以上ニアラサレハ此ノ價格ヲ算スルコトヲ得ス故ニ本條ノ物件ハ已ニ會社財產トナリシモノト見認メサルヲ得ス
(本尾委員)
但書以下ハ左ノ如ク修正セハ如何
但シ此決議ニ對シ詐僞アルトキハ後日ニ異議ヲ申立ルコトヲ得
(河上委員)
詐僞アルトキハトナス時ハ後日取調ノ末曾テ詐僞ナカリシモノト定マリタル時ハ大ナル不都合ヲ生スルナレハ「詐僞アリト認ムル時ハ」トノ意味ヲ以テ修正セサルヘカラス
(箕作委員)
左ノ如ク修正セハ如何
但シ此決議アリト雖モ詐僞アルトキハ云々
(委員長)
原文ニ依ルニ代價ヲ受クルトキトアリ意味明了ナラス且文章モ亦爰當ナラサルカ如クナレハ之ヲ質問セン
(本尾委員)
然リ諾
(鶴田委員)
其他ノ報酬ノ場合ヲ質問アリタシ
(本尾委員)
○本條ハ左ノ如ク修正アリ
第百九十一條第一總會ニ於テハ前條議事ノ外第一ニ取締役ヲ撰擧シ及檢査役ヲ要スルトキハ之ヲ撰擧シ第二ニ株主金圓ニアラサル物件ヲ會社財產ニ元入レ株劵又ハ其他ノ代償ヲ受クルトキハ其物件ノ價格ヲ議決スヘシ
但シ詐僞アルトスルトキハ此決議ニ對シ後日異議ヲ申述フルコトヲ得