○第三十回
明治十七年十一月十四日
○午前第十時開會
欠席 細川委員
仝 箕作委員
仝 周布委員
○第百八十一條ノ七項
（本尾委員）
本項ニ住所ヲ加フルコトニ付質問セシニロエスレル氏モ合名會社ニ住所ナル文字ヲ加ヘアレハ本項ニモ亦之ヲ加フルヲ可トセリ且各國ノ法ニ於テモ皆住所ノ文字ヲ記載シアレハ本項ニモ亦之ヲ加ヘ別ニ不都合ナシトノコトナリシ依テ「住所」ノ二字ヲ「氏名」ノ次ニ挿入スヘシ（之ニ決ス）
○同條第八項
創業費用ヲ一株每ニ納メシムルトキハ大ナル弊害ヲ生スルアルヲ以テ發起人之ヲ負擔スルトセハ如何トノ質議ニ對シロエスレル氏ノ答辯ニハ本項一株每ニ納メシムヘキコトヲ明揭スルモ發起人於テ別ニ株主ヨリ徵收シテ費滄セシムヘキノ精神ニアラス則第百八十九條ニ免許ヲ與ヘサル時ハ既ニ拂込ミタル金額ハ速ニ償還スヘキ旨ヲ揭ケアルヲ以テ別ニ發起人ノ費消ニ任放シ去ルノ精聯ニアラサルコトハ明瞭ナリ又英法ニ倣ヒ發起人ヨリ取辨シ置キテ後總會ノ決議ヲ以テ支拂フ如キ方法ヲ設クル可ナリト雖モ此場合ニ於テハ幾分カ株主ヨリ金員ヲ差出サシムルヲ可トス而シテ之ヲ費滄スルノ㸃ニ就テハ亦他ニ方法ヲ設ケテ發起人ヲ緊束シ叨リニ費滄スヘカラサル規定ヲ設ケハ充分ナリトス尤モ原案ニ於テハ聊カ精カナラサル所アレハトテ左ノ如ク改案セラレタリ
八株主記名ノ際直ニ各株ニ付拂ハシムヘキ金額アルトキハ其金額
而シテ株主ヨリ此拂入レタル金額ニ付テノ取締法ハ第百八十五條一ニ項ヲ加ヘテ發起人ヲ緊束シタリ依テ株主ヨリハ會社ニ拂入レスシテ裁判所ニ差出シ裁判所ニ於テハ登記公吿ノ終ルマテ之ヲ保管ス之レ濫費ヲ緊束スルノ法ナリ尤モ第百八十五條ニ此規定ヲ設クルトキハ第百八十八條ニモ關係ヲ有スルヲ以テ同條ノ第三項モ亦左ノ如ク改メサルヘカラス
三 各株ニ付前以テ拂入レタル金額ヲ裁判所ニ預ケタル證
（第百八十一條ノ八項）
（之ニ決ス）
○第百八十九條
政府ヨリ免許ヲ與ヘサルトキ又ハ其會社ノ設立ニ至ラサルトキハ株主ノ記名ハ無効ニ歸ス若シ既ニ拂タルトキハ此金額ヲ速ニ各本人ニ償還スヘシ（之ニ決ス）
ト改メ但書ヲ削除セリ依テ本官ヨリ但書中發起人連帶責任ノコトヲ質セシニ第百九十九條ニ全財產ヲ以テ責任ヲ負擔スルコトヲ揭ケアレハ本條ニ之ヲ載セサルモ不可ナシトノ答辯ニテアリシ
以上質問說明了リ
○第 條 商法草案第百八十三條
許可（第百八十二條）ヲ得タル後又ハ許可ヲ得ルコトヲ要セサルトキハ起業目論見ヲ公吿シテ株金ヲ募集スルコトヲ得ヘシ其公吿中ニハ第一ニ法律上ニ於テ創起ノ許可ヲ得タル旨及ヒ許可ノ月日第二ニ各申込人ニ假申合規則ヲ展閱セシメ又ハ請求ニ依リテ交付スヘキ旨ヲ書加フヘシ
（本尾委員）
本條株金トアレハ株主ノ誤リナリ如何トナレハ本條ノ精神ハ株主ヲ募集スルコトヲ云フモノニシテ未タ株金ヲ募集スルノ場合ニアラサレハナリ
○本條ハ左ノ如ク修正スルニ決ス
第百八十三條第百八十二條ノ許可ヲ得タルトキハ起業目論見書ヲ公吿シテ株主ヲ募集スルコトヲ得ヘシ其公吿中ニハ第一法律ニ從ヒ發起ノ許可ヲ得タル旨及許可シ年月日第二各記名者ニ假定款ヲ展閱セシメ又ハ請求ニ依リテ交付スヘキ旨ヲ加フヘシ但許可ヲ得ルヲ要セサル會社ニ在テハ直ニ公吿及募集ノ手績ヲ爲スヲ得ヘシ其公吿中ニハ第二ノ事項ヲ書加フルヲ以テ足レリトス
○第 條 商法草案第百八十四條
株式申込ノ時ハ自己ノ姓名及ヒ其引受ケントスル株數ヲ自ラ記入スヘシ但シ委任狀ヲ與ヘタル代理人ヲ以テ申込ムルモ妨ナシ然ルトキハ此代理者ハ自己ノ姓名ト委任者ノ姓名トヲ記入スヘシ各申込人ハ寡ナクモ一株ヲ引受サル可カラス
○本條ハ協議ノ上左ノ如ク修正セリ
第百八十四條株主記名ノ時ハ官己ノ茂名及其引受クル株數ヲ自ラ記入スヘシ
記名ハ委任狀ヲ與ヘタル代理者ヲ以テスルモ妨ナシ其代理者ハ委任者ノ氏名ト自己ノ氏名トヲ記入スヘシ
各記名者ハ少ナクモ一株ヲ引受ケサルヘカラス
○第 條 商法草案第百八十五條
株式引受ノ申込ヲナシタルトキハ會社設立ノ上ハ其社員ニ列スルコトヲ承諾シ且申合規則ノ通リ每株ニ就キテ要求スル所ノ拂込ヲ爲スヘキ義務ヲ負擔シタル者トス
（本尾委員）
「株式引受ノ申込ヲナシタルトキハ」トアルハ不用ナリ「記名ノトキハ」ニテ充分ナリトス
○本條ハ遂ニ左ノ如ク修正スルニ決ス
第百八十五條記名ヲナシタル時ハ會社設立ニ至リ其株主トナリ定款ニ從ヒ各株ニ對スル拂込ノ義務ヲ負擔シタルモノトス
各株ニ付前以テ拂フ可キ金額ハ會社設置地ノ裁判所ニ差出シ會社ノ登記公吿後マテ同裁判所ニ預リ置クヘシ
○第 條 商法草案第百八十六條
總株式申込ノ濟タル後ハ會社設立ニ着手スルコトヲ得ヘシ
○本條ハ左ノ如ク修正ニ決ス
第百八十六條總株記名ノ後ニ至リ會社設立ニ着手スルコトヲ得ヘシ
于時正午時ナルヲ以テ中止
○午後十二時三十分開會
退席渡邊委員
○第 條 商法草案第百八十七條
會社ヲ設立スルニ當テ其要件左ノ如シ
一 政府ノ免許ヲ受クル事但シ之ヲ受クヘキ時（第六十九條）ニ限ル
二 總會ニ於テ申合セ規則ノ認可ヲ受クル事
三 官簿ニ登記スル事
四 會社設立ヲ公吿スル事
（本尾委員）
「會社設立」トアル「設立」ノ二字ハ原文ニナキ所ノ文字ナレハ削除スヘシ
（塩田委員）
第三第四ハ會社ノ文字ヲ省キ單ニ「登記」「公吿」セハ如何
○本條ノ左ノ如ク修正ニ決ス
第百八十七條會社設立ニ就テノ要件左ノ如シ
一 太政官ノ免許ヲ受クヘキトキハ其免許（太政官ノ文字ハ次條ノ會議ニ於テ決セシモノナリ）
二 總會ニ於テ定款ノ認可ヲ受クル事
三 會社ノ登記
四 會社ノ公吿
○第 條 商法草案第百八十八條
政府ノ免許請願書ニ添フヘキ者左ノ如シ
一 會社ノ起業目論見書及ヒ假申合規則
二 總株式申込名簿ノ證印アル謄寫
三 創業費用ノ爲ニ拂込タル金額
四 起業ノ公益ヲ補フ所以ノ說明及ヒ起業ニ關スル法律規則ニ從テ施行スヘキ順序ノ說明
五 曩ニ得タル創起許可書（第百八十二條）
（委員長）
前條及ヒ本條ニ政府トアレトモ各省ヨリ免許ヲ與フルモノアルヘシサレハ一槪ニ政府トモ言ヒ難カルヘシ如何
（本尾委員）
單ニ政府ト云フトキハ各省ヲモ包含スル勿論ナリトス然レトモ前條及ヒ本條ノ政府トアルハ太政官ヲ指シタルモノナリ先ツ願書ヲ差出スニハ第一ニ主務省ニ差出シ第二主務省ヨリ太政官ニ差出シテ決裁ヲ請ムルノ順序ナレハ此ニ政府トアルハ自カラ太政官ナルコトハ分明スルナラン
（委員長）
然ラハ明カニ太政官ト改ムヘシ
（鶴田委員）
本條政府トアルハ太政官ナルヘシト雖モ願書ヲ呈スルニハ地方廳各省ト夫々順序アルヲ以テ矢張謾然政府トナス方可ナラスヤ
（岸本委員）
原文ニ政府ノ文字アルヘシト雖モ之ヲ削除スル方却テ疑ヒナキニ至ラン
（本尾委員）
本草案ニハ政府ト譯シアレトモ原案ニハ色々ナル文字ヲ用ヒアレハ其原文ニ從テ本案モ直譯ヲ用ヒテ太政官ナリ主務省ナリノ文字ヲ揭ケ置テ修正會ノ時ニ至テ明書ニ相當ノ文字ヲ用ユルコトヽセハ可ナラン歟蓋シ本條ノ政府ナル語ハ第十一條（商法草案第六十九條）ニ於テ既ニ太政官ト譯セシヲ以テ先ツ本條モ該條ト同一ニ之ヲ譯シ太政官トセハ如何
（委員長）
然リ（此ニ於テ前條及本條ニ政府トアルハ太政官ト修正ス）
第三項ハ第百八十一條ノ第八頂ニ關係ヲ有スルヲ以テ本項ニ該條ヲ顯ハスモ可ナルヘケレトモ先ツ原文ノ如ク譯シ置キ追テ修正會ニ至テ關係ノ條項ヲ明揭スルモ遲シトセス尤モ反譯ノミニテハ少シク意味ノ解シ難キ所アレハ修正會ノ時參考ノ爲メ預メ修正スヘキ文章ヲ揭ケ置クヘシ其文ハ第三項第百八十一條ノ第八項ノ預リ證
（本尾委員）
第四ハ原文ノ意反譯ノ如シト難モ本文ニ依テ見ルトキハ公益ニ補ヒアル時ニアラサレハ設立スルコトヲ得サルカ如ク見ユルノ嫌ヒアルヲ以テ=應ロエスレル氏ニ質問セントス
（塩田委員）
然リ質問アランコトヲ希望ス
（本尾委員）
法律上ニ特別ノ二字ヲ用フヘシ而シテ特別ナル語ハ或ハ銀行ヲ設立セント欲スルモノハ銀行條例ニ從テ施行スヘキ方法ヲ定ムルカ如キ場合ヲ云フモノナリ
（鶴田委員）
本項及ヒ以下ニ依テ見ル時ハ特別ノ法規ニ從フモノハ一般ニ關係ヲ有スルモノニアラサレハ說明書ヲ出スニ不及「及ヒ」以上モ之レト同シク公益ニ補ヒアルトキニハ其說明書ト云フノ意味ナラン依テ公益ニ補ヒナキ事業ナルトキハ之ヲ記載セサルモ不可ナキノ精神ニハアラサルヤ
○第五項ハ「曩ニ得タル所」及ヒ「許可」ヲ削リ「發起認可書」ト修正セリ
○本條ハ左ノ如ク修正スルコトニ決ス
第百八十八條太政官ノ免許ヲ講フ願書ニハ左ノ書類ヲ添フヘシ
一 會社ノ起業目論見書及假定款
二 總株主記名簿ノ公證アル謄寫
三 各株ニ付前以テ拂入レタル金額ヲ裁判所ニ預ケタル證
四 起業ノ公益ニ補ヒアルコト及起業ニ關スル特別ノ法律規則ニ從テ施行スヘキ方法ノ詳述書
五 發起ノ認可書
于時午後二時三十分ナルヲ以テ閉會