○第二十八回
明治十七年十月七日
欠席 細川委員
仝 箕作委員
仝 鶴田委員
午前第十時開會
○商法第百七十二條
（本尾委員）
本條計算ノ語ハ下ノ拂渡シニ關聯シ則計算ヲナシ拂渡スコトヲ得サルモノナルヤ或ハ計算ハナスモ拂渡スコトヲ得サルノ精神ナルヤ原文ニテハ計算ト拂渡トノ兩事ニ見ユルモノナレトモ譯文ニ於テハ計算ト拂渡シトハ相關聯スルカ如シ此ノ意ヲ以テロエスレル氏ニ質問セシニ同氏ノ精神ハ計算ト拂渡ト兩事トナスニアリ則計算トハ帳簿上何程ノ損何程ノ益ト云フコトヲ計算シテ記載スルヲ云ヒ拂渡トハ其計算ニ依テ株主ニ拂渡スコトヲ云フ若シ拂渡サヽル以上ハ計算スルコトヲ禁セストセハ詐僞ヲ行ヒ利益ナキヲ利益アリトシテ配當スルノ計算ヲナサストモ保シ難シ且倒產ノ場合ニ至リ大ニ不都合ヲ生スルコトアリ右ノ理由ニ依テ拂渡サヽルモ單ニ計算シテ帳簿上ニ記載スルコトヲ許スニ於テハ會社ノ信用ヲ害シ且會社ニ樹シテ大ナル不都合ヲ生スルニ至ル故ニ本條ニ於テハ計算シテ帳簿ニ記載スルコトモ拂渡スコトモ禁止スルノ精神ナリ
（委員長）
今說明ニ依ルトキハ如何ナル文字ヲ用ヒテ可ナルヤ計算ノ文字ハ不都合ナルカ如シ
（周布委員）
算定ト改メハ如何
（長森委員）
「社員、拂渡ノ計算ヲ爲スコトヲ得ス」ト意譯セハ如何
（委員長）
或ハ拂渡ス爲メニ計算スルコトヲ得ストノ意味ヲ以テ改正セハ如何
（渡邊委員）
「之ヲ算當スルヲ得ス又之ヲ何レノ社員ヘモ拂渡スコトアルヘカラス」ト修正セハ如何
（本尾委員）
本條結文ノ還納セシムルコトヲ得ストアレトモ若シ反對ノ契約ヲ結フトキハ有効トナルヤ否ヤノ質議ニ對シロエスレル氏ノ答ニ之ヲ契約スルモノアルヘシト雖モ其契約ハ無効ト爲ス如何トナレハ第百五十四條ノ性質ニ反對スルノ契約ナルヲ以テナリト
○本條ハ質議ノ上更ニ左ノ如ク修正スルニ決ス
○商法第百七十二條「供資ニ對スル利息又ハ益金ハ損失ニ依テ供資ニ減額アル間ハ之ヲ計算スルヲ得ス又何レノ社員ニモ拂渡スコトアルヘカラス」「此規定ト牴觸スル會社契約ノ條款又ハ決議ハ無効トス然レトモ既ニ正當ニ拂渡シタル利息又ハ益金ハ爾後ノ損失ヲ補フ爲メニ其返還ヲ要求スルコトヲ得ス」
○商法第百七十四條
（本尾委員）
本條ヲ第百五十五條ノ前ニ入ルムノ可否ヲ質議セシニロエスレル氏ノ意見ニテハ之ヲ第百五十五條ノ前ニ入ルヽヲ可トセリ如何トナレハ之ヲ前ニ入ルニトキハ第百五十五條ノ意義ヲシテ明瞭三解釋スルコトヲ得且妥當ナリトテ左案ノ如ク改案セラレタリ
○商法第百七十四條ヲ商法第百五十五條トナシ合名會社ノ條則ハ本款ニ於テ別ニ規定ナキモノハ合資會社ニモ之ヲ適用スヘシ
○又商法第百五十五條ハ商法第百五十六條トナシ合資會社ハ登記及公吿中合名會社ニ就テ規定スルモノヽ外筒左ノ件々ヲ列記スヘシ
一ニ三四從前修正ノ通
○右ロエスレル氏定案ノ如ク決ス
○商法第百七十五條
（本尾委員）
「アクチエー」（株式）ノ語ニ付質問セシニ別段書冊ニ披ル所ナキモ其字義ハ借金ノ證書ト云フノ意味ナリ英ニ於テハ一ノ式ヲ備ヘタル「アクト」ヲ云フ而シテ此「アクト」トハ證書トモ云ヒ又時トシテハ法律ナル語ニ代用スルモノナリ又之ヲ株式會社ニ用ユルトキハ社員タルノ證書卽チ入金ノ證據トシテ渡スヘキモノニ該當スト云ヘリ
社員ノ語ニ付キ質問セシニ株主トハ株劵ヲ所持スルモノニシテ今日之ヲ所有スルモ明日ハ他ニ移轉シ得ヘキモノニシテ會社ノ業務執行上ニ就テハ毫モ關係ヲ有スルモノニアラサルナリ而シテ社員トハ右ニ述フル所ノ者ヲ云フニアラスシテ會社ト分離スヘカラサルモノヲ稱スルナレハ株主トハ全ク相異ナルモノトス又社員タルノ意義ヨリ論スルトキハ社員直接ノ業務ヲ擔當シ且社員ノ所業ニ於テハ會社之レカ爲メニ權利ヲ得義務ヲ負フモノナリ又株式會社ハ合名合資ノ兩會社トハ大ニ異ナリトス如何トナレハ株式會社ナルモノハ純粹ナル無形人ナルモノニシテ先之ヲ政府ニ譬ヘテ云ハハ政府ハ人民ヲ代表スルカト云フニ否ラス政府ハ國ヲ代表スル所ノモノニシテ國アリテコソ政府アルモノナリ尤モ政府ハ無形人ナルヲ以テ其政府ヲ代表スルニハ官吏アリテ之レヲナセリ之レハ同シク株式會社ハ無形人ナルヲ以テ之レカ機關ヲ主配スル所ノモノハ頭取々締役ナリトス又會社ノ費債ハ株主直接ニ其義務ヲ負擔スルカト云フニ是亦政府ノ國債ナル如ク此國債ナルモノハ一國人民ノ負フ所ノモノナリト雖モ其人民カ直接ニ負擔スルニアラスシテ間接ニ之ヲ負擔スルモノナリ會社モ前ニ辯スル如ク無形人ナルヲ以テ株主ハ其會社ノ負債ニ付キ間接ニ義務ヲ負フモ直接ニ之レカ義務ヲ負擔セサルモノナリ則本案ノ株主ト社員トハ右ニ陳フル所ノ如ク相違スルヲ以テ各委員ニモ亦此意ヲ了セラレンコトヲ請フトノコトナリ
又前回「本分ヲ以テ」ト修正セシナレトモロエスレル氏ノ意見ニテハ此ノ本分ナル語ハ不用ナリトス如何トナレハ前文ニ縷陳スル國債ノ例ノ如トク直接ニ關係ヲ有スルモノニアラサレハ此ノ語ヲコヽニ挿入セサルモ不都合アルコトナシ若シ委員ニ於イテ此ノ語ヲ强テ入レソト欲セハ之ニ換ユルニ「頭取ニ撰マレサル」ノ文字ヲ以テスヘシ併シ同氏ノ精神ハ此ノ文字ヲ入ルヽモ到底不用ニ屬スルナリ
（委員長）
社員ヲ「其加員」ト改ムヘシ
（塩田委員）
「加入者」ト爲スヘシ（之ニ決ス）
（本尾委員）
前ニ陳タル理由ニ依リ「本分ヲ以テ」ノ五字ヲ削ルヘシ（之ニ決ス）脯
○本條ハ左ノ如ク再修正ニ決ス
○商法第百七十五條七人ヨリ少カラサル商社ニシテ其資本ヲ一定平等ノ額ニ分チ移轉シ得ヘキモノ（株劵）トシ其加入者（株主）商社ヲ代表セサルモノヲ株式會社ト爲ス
以上質問了リ
○第百九十三條 商法草案第百七十六條
凡株式會社ハ商業取引ヲ爲スヲ本旨ト爲サスト雖トモ皆商社ト視做ス可シ
（本尾委員）
商業取引トアルハ前ノ例ニ依リ商ヒノ取引ト改ムヘシ又本旨トアルヲ目的トナスヘシ
（渡邊委員）
皆ノ上ニ「何レノ場合ニ於テモ」ヲ加フヘシ
○本條渡邊委員長森委員ヨリ商ヒノ取引ヲ爲スヲ以テ目的トスト否トハ拘ハルコトナシト修正アリタレトモ本尾委員ヨリ如此修正セハ商ヒノ取引ヲ爲スハ勿論商社ナレハ決シテ本條ニ之ヲ說明スルヲ用ヒサルナリ依テ「商ヒノ目的ト爲ス」ハ宜シク削ルヘキモノニシテ原文ノ意ハ「商ヒノ取引ヲ目的トセサルトキ」ト云フノ義ナリト論シ渡邊委員ハ「商ヒノ取引ヲ目的トスル」ト「目的トセサル」トノニケノ場合ヲ包含セシメタルモノナリトテ互ニ辨論アリシカ途ニ決セスロエスレル氏ニ質問スルコトヽナレリ依テ質議ノ上修正スルコトニ決ス
正午ナルヲ以テ中止
午後零時五十五分開會
○第百九十四條 商法草案第百七十七條
株式會社ノ社名ハ社員一名又ハ數名ノ本姓ヲ參用スルコトヲ得ス又他ノ株式會社ト同號ナルコトヲ得ス又必ス責任有限（リミゲールア、ハツツンク）ナル語ヲ社名ニ加フヘシ
（本尾委員）
本條ハ說明書ニ依テ見ルトキハ第二百條ノ次ニ入ルルヲ可トセリ依テ本條ハ第二百一條ノ會議ノトキニ修正スルコトニ決シ直ニ次條ノ修正ニ着手セリ
○第百九十五條 商法草案第百七十八條
株式會社ノ義務ニ就テハ會社財產ノミヲ以テ之ニ充ツヘシ但シ第二百二十八條ノ場合ハ此限ニ在ラス
（本尾委員）
本條ハ先例ニ依リ左ノ如ク修正セハ如何
「株式會社ノ負債ニ對シテハ第二百二十八條ノ場合ヲ除クノ外會社財產ノミヲ以テ之ニ充ツヘシ」
而シテ第二百二十八條ハ頭取勤務中ノ責任ハ各株主ト異ナルコトナキヲ示スニ在リ
○本條ハ左ノ如ク修正ヲ加フルコトニ決ス
○商法第百七十八條株式會社ノ負債ニ對シテハ第二百二十八條ヲ適用スルモノ外會社財產ノミ之ニ當ルモノトス
第一款 株式會社ノ創起及設立
○第百九十六條 商法草案第百七十九條
株式會社ハ發起人四名以上アルニ非サレハ之ヲ創起スルコトヲ得ス
（本尾委員）
ロエスレル氏ノ意見ニ依レハ株式會社組織ノ順席ハ之ヲ二ツニ區別セリ卽チ第一ヲ創起トシ第二ヲ設立トス
（渡邊委員）
「發起人」ノ語原文ニ見ヘス宜シク之ヲ削ルヘシ
（委員長）
「創起」ハ「發起」ト改ムヘシ款目亦同シ
○本條ハ左ノ如ク修正ヲ爲スコトニ可決ス
○商法第百七十九條株式會社ハ四人ヨリ少カラサル人員ニ非サレハ發起スルコトヲ得ス
○第百九十七條 商法草案第百八十條
發起人ハ會社ノ起業目論見書、及ヒ假申合規則ヲ立案シテ各自之ニ署名シ裁判所又ハ公證人ノ奥印ヲ受クヘシ此假申合規則ハ此商法ノ規則ト牴觸スルコトヲ得ス
（本尾委員）
「假申合規則」以下「奥印ヲ受クヘシ」迄ハ飜譯適當ナラス卽チ「之ニ署名シ裁判所又ハ公證人ノ證明ヲ受クヘシ」トスルヲ可トス
（渡邊委員）
假申合規則トハ如何ナル意昧ナルヤ
（本尾委員）
假リトハ總會議ヲ開キテ株主ノ認定ヲ得タル以上ヲ正規則トナスヲ以テ未タ認定ヲ經サルモノナレハ此ニ假リノ字ヲ設ケタルナリ
（渡邊委員）
然ラハ椴定款ト云フノ意味ナリ又起業目論見書ハ見込書ト改メハ如何
（本尾委員）
目論見書ハ趣意書トモ改ムヘカ帳令ハ鐵道ヲ造ルニ鐵軌ヲ敷キ道路ヲ開ク等ノ如キ矢張目論見ト云フヘケレハナリ本條ヲ一見スルトキハ目論見書及ヒ定款ニ裁判所又ハ公證人ノ證明ヲ受ルカ如クナレトモ左ニアラス精神ハ各自之ニ署名シトアル此署名ノ相違ナキ證明ヲ受クルニアルナリ
○本條ハ左ノ如ク修正ヲ加フ
○商法第百八十條發起人ハ會社ノ起業目論見書及ヒ假定款ヲ立案シテ各自之ニ署名スヘシ其署名ハ裁判所又ハ公證人ノ公證ヲ受クヘシ此段定款ハ本條例ノ規定ト矛盾スルコトヲ得ス
午後第一時三十分閉會