○第二十一回
明治十七年十月十日
欠席 長森委員
仝 河上委員
午前第十時開會
（本尾委員）
隨意法命令法禁止法ノ質問ニ付ロエスレル氏ノ答辯ヲ左ニ陳述セン
第百三十八條二項ノ如キ一見以テ隨意法タルヲ知ルニ苦ムカ如シト雖モ是レ該項ノミナラス其他ニ亦如此場合多シ然レトモ其精神ヲ搜索スルトキハ其隨意法タルコト蓋シ疑ヲ容ルヽニ及ハス併シ或ハ疑惑ヲ生スルノ恐ナキ場合ニ於テハ「別段ノ契約アルニ非レハ」ノ數字ヲ挿入セリ但シ各條之レヲ付記スルコトヲ望マス如何トナレハ各國ノ法ニ於テモ未タ每條之ヲ付記スルノ法律アルヲ見サレハナリ委員長質問ニ曰ク歐洲ニ於ルカ如ク法學者ノ法律ヲ讀ムニ於テハ差支ナカルヘキモ我邦ノ如キ未タ法律學者ノ多カラサル所ニ於テハ明條ヲ設ケ何人ト雖トモ了解シ得ルニ易カラシムヘシ而シテ三讀法ノ區別ヲ容易ニ知得セシムル方法ヲ設クヘシ云々ニ對シ左ニ其方法ヲ陳皿述セラレタリロエスレル氏ノ說ニ禁止法ハ關係者ノ意欲ヲ以テ變更スルコト能ハサルモノヲ云フ如何トナレハ公共ノ秩序ニ關スルモノナレハナリ之ニ反シ相互ノ契約ヲ以テ變更シ得ルモノハ隨意ニ之ヲ處分スルヲ得之ヲ會社條例ニ於テ例ヲ擧ルトキハ會社ノ成立及ヒ性質上必ス法律ヲ遵奉セサルヘカラサルモノ則「ユスコーケソス」ノ性質ヲ有スルモノハ變更スルヲ得ス
之ニ反シ「ユスシスホチチーフ」ハ社員相互ノ權利義務ニ關スルモノトス尤モ公ケノ秩序ニ關スルモノハ「ユスコーケンス」中ニ入ルヲ以テ此限ニアラス但シ相互間權利義務ニ關スルモ原第百二十八條第百二十四條ノ如キハ「ユスコーケソス」ニ入ルモノトス右說明ヲ聞クモ未タ本官ハ服スル能ハサル所アルヲ以テ縱令法律ヲ知ラサルモノト雖モ了解スヘキ樣爲スヘシト請求セシニロエスレル氏ハ其他ニ方法ナシト辯セシニ依リ本官ハ他ニ方策ナキニアラサルヘシ元來如斯疑問ヲ來ス所以ノモノハ第九十六條ノ文章ニ原由スルナリ故ニ該條ノ精神ヲ改メサレハ到底論議ノ止ム時ナカルヘシト抗辯セシニ同氏モ本官ノ抗辯ニ據リ漸ク第九十六條ヲ左ノ如ク改正セラレタリ
原第九十六條社員相互ノ權利義務ハ法律及ヒ會社契約ニ依テ定セルモノトス
注意（「本法ノ規定ト牴觸セサル限リハ」ヲ削除セシナリ）
要スルニ委員長ノ請求ハロエスレル氏ニ於テハ到底爲スコト能ハスト云フニアリ尤モ明條ナキモ法律學者ハ容易ニ之ヲ了解シ得ヘシ云々
質問ノ終リニ本官ハ各條每ニ三法ノ區別ヲ記入セリ依テ款末等ニ「第何條第何條ハ別段ノ契約ヲ以テ之ヲ變更スルヲ許サス」ノ一條ヲ追加セハ如何トノ疑問ニ同氏ハ答ヘテ左案ノ如キ條ヲ置クヘシトテ之ヲ起草セラレリ
第條第何條第何條ハ會社契約ヲ以テ變更スルコトヲ許サス
（渡邊委員）
第九十六條「牴觸セサル」原語ノ意味如何
（本尾委員）
「禁セサル」又ハ「反對セサル」ノ意義ナリ
（渡邊委員）
牴觸ノ語嫌ヒアリ「禁セサル限リハ」トスルトキハ蓋シ疑ヒナカリシナラン
（本尾委員）
第九十六條ノ精狆ハ法律ヲ根據トシテ爲スヘシトスルニ在リ之ニ反シ各國ノ法律ハ會社契約ニ規定セサル場合ニ於テ法律其契約ノ鐵ヲ補フニ過キス是レロエスレル氏ノ憾螂岬各國ト異ナル所以ナリ
（委員長）
例令ハ合名會社ノ如キニ人以上七人以下トアレトモ是レハ契約ヲ以テ七人以上ニ及ホスモ可ナルヘシ然ルニ之ヲ許サヽル其理由ハ如何
（本尾委員）
會社設立ニ關スルノ條ニシテ法律ニ於テ是非如斯セヨト命令シタルモノナレハ必スニ人以上七人以下ニ限ルノ精神ト了解セサルヲ得ス
（委員長）
其理由如何ソヤ
（本尾委員）
立法官カ七人以下ヲ以テ相當ト定メタルモノト見サル、ヘカラサルナリ
○使用權ニ付第百三十八條二項ト第百四條第百五條トノ關係
（本尾委員）
使用權ハ物權ナルヤ人權ナルヤ而シテ之ヲ供資トシテ會社ニ差入レタルトキハ其結果如何ノ質問ナリシ
佛國ニ於テハ法律上物權人權ヲ判然ニ區別セリ故ニ使用權ノ如キモ之ヲ物權中ニ列シタリ之ニ反シ獨國ニ於テハ場合ニ依リ使用權ハ人權ナルコトアリ物權ナルコトアリ蓋シ契約者雙方ノ意欲ニ依リ契約ヲ以テ定ルモノトス
使用權ハ物權トシテ差入ルヽモ人權トシテ差入ルヽモ皆契約者ノ意思ニ依テ生スルモノナリ併シニ權孰レニモセヨ其會社ノ財產トナルハ敢テ異ナルコトナシ然レトモ結果ニ至リニ權ノ差別アリ則チ退社スルノ際之ヲ物權トシテ差入レタルモノナルトキハ其償却ヲ要求スルヲ得ト雖トモ之ニ反シ人權トシテ差入タルトキハ之カ償却ヲ請求スルヲ得ス尤モ其物件會社ノ懈怠ニテ非常ニ卑惡ナラシメタルトキハ之レカ損害ヲ要求スルヲ得ヘシ
（渡邊委員）
然ラハ第百四條ハ人權物權ヲ問ハス包含シ第百三十八條ニ項ハ人權ノミノ規定ナルヤ
（本尾委員）
然リ依テ本官モ亦疑ナキニアラス則第百三十八條ニ項ニハ償却ヲ要求スルコトヲ得ストアリテ彼是相對スルハ何分判然ト了解シ難カルヘシトノ疑問ヲ起セシニ然ラハ第百五條ト第百六條ノ間ニ左ノ一ケ條ヲ新設セントテ起稿セラレタリ
第條社員ノ別離ト共ニ修正スル目的ヲ以テ物件ノ使用權利ヲ會社ニ引渡シタルトキハ其所有權及ヒ使用權ノ損失ハ社員ニ歸スルモノトス
（箕作委員）
如斯委シキ條アル時ハ第百三十八條第二項ハ不用ニ屬スルカ如シ
（本尾委員）
然リ如斯ナリシ時ニハ第百四條ニ於テ使用權ノミ移轉ストアリテ物件ハ會社ノ財產中ニ入ラス今ロエスレル氏ノ說明ニ依レハ物權人權ヲ聞ハス會社ノ所有トス是レ甚タ不都合ナルカ如シ
第百三十八條第二項ニ於テ過日ロエスレル氏ヨリ改正案ヲ提出セシカ今後更ニ左ノ如ク改正セラレタリ
第百三十八條二項
「社員ノ勤勞ハ其別離ト共ニ終止シ償却ヲ要求スルヲ得ス又社員ノ別離ト共ニ終止スル物件ノ使用權利（第五十八條）ニ付テモ亦同シ會社ノ失錯ニ依テ物件ノ損傷シタルトキハ此限ニ在ラス」
○商法第百三十九條
（本尾委員）
一ケ年ノ期限ハ解散ノ時未タ計算結了セサルモノト結了シタルモノト起算ノ㸃ニ付テ區別アルヤトノ質問ナリシカロエスレル氏ハ結了ノ成否ニ關係セサルモノナリト
說明了
○第百六十四條 商法草案第百四十七條
計算者ニ負ハシメタル擔任ハ社員之ヲ制限スルヲ得ス又重要ナル事由アルカ爲メ社員ヨリ申出タルトキニ限リ判事ノ處分ヲ以テ其任ヲ解クコトヲ得ヘシ
（周布委員）
本條ノ擔任ハ會社ヨリ費ハシメタルモノナルヤ又ハ法律ヨリ負ハシタルモノナルヤ
（本尾委員）
其事柄ハ法律之ヲ定ムルモ會社ヨリ負ハシムル擔任ヲ云フ
本條制限ノコトニ付テハ說明ニ依テ見ルトキハ第百四十六條ノ事項ハ之ヲ動カスコトヲ得サルカ如クナレトモ能ク之ヲ穿鑿スルトキハ其事項ノ內ニ於テ之ヲ制限スルコトヲ得ルカ如ク見ユルナリ
（周布委員）
然ル時ハ此結算人ハ義務ヲ免カレ此結算人ハ義務ヲ負フハスト云フ如キ意吐捧ナルヤ
（渡邊委員）
說明ニ依レハ各自社員之ヲ制限スルヲ許サヽルヘシ
（箕作委員）
制限トハ社員ノ結算人ニ向ヒ計算上ニ付指揮スルコトヲ得サル場合ヲ云フヘシ
（本尾委員）
然リ尤モ始メ償還ノ道ヲ付クルマテハ社員カ指示スルモ差支ナケレトモ一旦其方法ヲ定メタル以上ハ結算人ニ向テ計算上ノ指圖ヲナスヲ得サルナリ則計算人カ負擔タル事項ヲ變更スルコトヲ得サルヘシ
（箕作委員）
實ニ然ルナラン
○本條ハ左ノ修正ニ決セリ
結算人ニ屬スル擔任ハ社員之ヲ制限スルヲ得ス但重要ナル事由ニ依リ社員ノ申立タルトキハ裁判上ノ處分ヲ以テ其任ヲ解クコトヲ得ヘシ
○第百六十五條 商法草案第百四十八條
計算者ハ其擔任ヲ盡シタル後直チニ又ハ事情ニ依リ爾後年々計算ヲ社員ニ報吿シ且ツ其集マリタル現在資本額ヲ遲延ナク社員ニ分配スヘシ
（本尾委員）
本條「集リタル現在資本額ヲ遲延ナク社員ニ分配スヘシ」トハ飜譯其當ヲ得ス
○本條ハ左ノ如ク修正スルニ決ス
○第百六十五條結算人ハ其擔任ノ事務ヲ結了シタルトキハ直チニ又事情ニ依リテハ年々計算書ヲ社員ニ呈示シ且支障ナキ現在ノ資產ヲ遲延ナク社員ニ分配スヘシ
○第百六十六條 商法草案第百四十九條
社員ニ分配スルモノハ會社ノ義務ヲ盡シタル殘餘ノ會社財產ニ限ルヘシ
（鶴田委員）
本條ト前條トハ自カラ牴觸スルニアラスヤ如何トナレハ前條ハ會社ノ資本額ノ集タル丈ハ假令細少額ト雖トモ遲延ナク社員ニ分配セサルヘカラス而シテ本條ニ至リテハ會社ノ負債淸完ノ後殘存ノ財產トアルヲ以テ見レハ必ス他ノ關係ナキニ至テ社員ニ全ク分配シ了ルノ場合ヲ云フナラン是レ前條ト大ニ牴觸スル所ニシテ必ス不都合ナカラシムル樣修正セサルヘカラス
（渡邊委員）
否然ラス如何トナレハ前條ハ年度每ニ淸完シタル後殘存額ヲ分配スルヲ云ヒ本條ハ全負債ヲ淸完シタル時ノ場合ヲ指スモノナレハ決シテ前條ト牴觸ノ患アルコトナシ
（塩田委員）
本條ハ會社ノ處分シ得ヘキ殘餘ノ現在云々トセハ可ナラン
○本條ハ逐ニ左ノ如ク修正スルニ決セリ
○第百六十六條社員ニ分配スルモノハ會社ノ全負債ヲ淸完シタル後殘存セル財產ニ限ルヘシ
于時第十二時ナルヲ以テ喫飯ノ爲メ中止
午後第零時五十分開會
第百六十七條 商法草案第百五十條
各社員ハ若シ他ノ約定アルニアラサレハ相當ノ金員ノミニテ其持部高ノ拂渡シテ要スルヲ得
（本尾委員）
本條モ亦飜譯適當ナラス依テ拂渡シノ下ニ「之ニ相當スル貨幤ニテ要求スヘシ」ノ十五字ヲ加ヘテ約定アルニアラサレハノ下「相當ノ金員ノミニテ」ノ九字ヲ削除セハ原文ニ適合センカ
（渡邊委員）
貨幤ハ金額ト改ムヘシ
（鶴田委員）
本條モ亦原第百三十八條初項ト牴觸スヘシ如何トナレハ第百三十八條ニハ金圓ニテ渡スヘシトアルニ本條ニハ拂渡ヲ金圓ニテ要求スルヲ得トアリ是レ牴觸スルニアラスヤ
（本尾委員）
「得」トアルヲ以テ牴觸スルカ如ク見ユレトモ原文ノ意義ハ「得ヘシ」「得ルモノトス」ノ意吐泙ナレハ敢テ牴觸スルモノニアラス
（委員長）
本條ハ何分明了ナラサルヲ以テ質問スヘシ
（本尾委員）
諾
○本條ハ質問ノ上修正スルコトニ決セリ
○第百六十八條 商法草案第百五十一條
解散シタル會社ノ商業帳簿及ヒ書類ハ法律上ノ定規（第三十五條）ニ從ヒ會社ノ決議ヲ以テ之ヲ處分スヘシ
（本尾委員）
本條定規ノ下ニ第三十五條トアレトモ會社法中ニハ其條ナキヲ以テ更ニ之ヲ新設シテ八十五條トナシタレハ本條三十五條トアルハ八十五條ト改ムヘシ
又決議トハ原意多數決ノコトナリ此儘ニテ解釋シ得ラルヽヤ
（細川委員）
曾テ多數決ト定マリシモノナレハ多數決ト改ムルモ可ナリ
處分スヘシトハ說明ニ依レハ保存ノコトナルコト明瞭ナレトモ本條ニ「保存處置」ノ文字ナキヲ以テ或ハ明瞭ヲ失スルノ惑ナキニアラス
○本條ハ左ノ如ク修正スルニ決セリ
○第百六十八條解散シタル會社ノ商業帳簿及其他ノ書類ハ法律上ノ定規（第八十五條）ニ從ヒ會社ノ決議ヲ以テ之ヲ取扱フヘシ
○第百六十九條 商法草案第百五十二條
分配上又ハ之ニ關スル取引上ニ就テ社員相互ノ間又ハ社員ト計算者トノ間ニ爭論ノ起ルトキハ判事ノ判決ヲ以テ之ヲ處置スヘシ
（渡邊委員）
「取引」トハ事件ノ意義ナラン
○本條ハ左ノ如ク修正スルニ決ス
○第百六十九條分配又ハ之ニ牽連スル事件ニ就テ社員相互ノ間又ハ社員ト結算人トノ間ニ爭論ノ起ルトキハ裁判上ノ判決ヲ以テ之ヲ處理スヘシ
○第百七十條 商法草案第百五十三條
會社ノ義務ニ對スル社員ノ責任ハ其義務ニ就キ尙短キ期滿得免期限ノアルニアラサレハ會社解散後五年ヲ經過スルヲ以テ消盡スルモノトス但シ未タ分配セサル會社財產ノ現在スルトキハ此限ニアラス
（本尾委員）
本條モ亦不明了ナリ
本條ノ精神ハ會社ノ資債ニ對シ社員ハ連帶義務ヲ負フ其期限ハ五ケ年トス尤モ之ヨリ短カキ期限アルトキハ其短キ期限ニ從フナリ但以下ハ若シ會社解散シタル後財產存スルトキハ負債ノ性質ニ依テニ十年又ハ三十年ノ義務ヲ負ハサルヘカラサルヲ示スニアリ依テ本條ノ規定トスル處ハ全ク負債ヲ淸完シタル後ハ五年ノ期限トスレトモ若シ現存スル財產アルトキハ其贊債ノ性質ニ依テ數十年ノ永キ亠峩務ヲ負フコトアルヲ云フ
則本條ハ左ノ如ク修正セハ可ナラン
「會社ノ義務ニ對スル社員ノ責任ノ期滿免除ハ其負債ニ付キ尙短キ期滿免除ノ期限アルニアラサレハ解散後五年トス但シ未タ分配セサル會社財產ノ負債ニ付テハ此限ニ在ラス
右ニテ了解シ難キ場合アラハ更ニ了解シ易カラシムル樣改正スヘクロエスレル氏ニ暫ハ問スヘキヤ
（委員長）
若シ質問セハニ項ニ分別スルノ是非ヲ問ハレタシ
（本尾委員）
諾
○本條ハ質問ノ上修正スルニ決ス
于時午後二時閉會