○第二十回
明治十七年十月七日
欠席 河上委員
午前第十時開會
○商法第百三十八條第二項
（本尾委員）
本條第二項ハ隨意法モ包含スルヤヲ質議シタルニロエスレル氏ノ精「胛ハ素ヨリ隨意法モ包含スルモノナリト而シテ前項「別段ノ約定アルニアラサレハ」ノ數字ハ削除スルモ可ナリ一體法律ノ精聯ヲ一字一句ニ就テ判定スルハ實ニ至難ナルモノニシテ其全體ニ就テ鑑別セサルヘカラスト又自今各條ニ於テハ右陳フル所ノ如ク隨意法ニアルトアラサルトハ精神ノ感觸スル所ヲ以テ鑑別セラレソコトヲ望ムトノ答ヘナリシ
周布委員ヨリ質議アリシ收實權使用權ノコトニ付テハ使用權ハ無論消滅スレトモ收實權三至テハ消滅セサルモノナリ尤之モ本條ニ挿入スルモ差支ナシトテ左ノ如ク修正セラレタリ
社員ノ勤勞又ハ使用權ノミノ供資ハ其別離ト共ニ終止シ償却ヲ要スルコトヲ得ス
（本案ニ決ス）
（箕作委員）
ロエスレル氏ハ隨意法禁止法命令法ノ如キハ文字上ニ付テハ不明了ナリ宜シク其精神ニ就テ知了スヘシトノ答ヘナリシヤ
（本尾委員）
然リ
（委員長）
其事記載ナキモ精神ヲシテ鑑別シ得ルノ方法如何
（本尾委員）
之ヲ精神ニ間フニ法律ニ於テ別段ノ契約ヲ許スモ可リトノ感觸ヲ惹起スル所ヲ以テ知了セラレタシトノコトナリ故ニ人々ノ學一識ニ依テハ或ハ誤解ノ弊ナキヲ保セサルナリ
（委員長）
一定ノ文法ヲ規定シ文章ノ結文ニ依リ何人ト雖モ了解シ得ヘキコトニ規定セサレハ大ナル誤ヲ生スルコトアラン
（渡邊委員）
然リ
（本尾委員）
一定ノ文法ヲ設クヘシ假令ハ禁止法ナレハ「許サス得ス」トナシ命令法ナレハ「爲スヘシ爲サヽルヘカラス」トナシ隨意法ナレハ「得又ハ得ヘシ」トナシ其區別ニ依テ判然了解シ易キ樣定メ置キテハ如何
（箕作委員）
文法ヲ一定スルハ可ナリト雖モ場合ニ依テハ禁止法ニシテ命令法ノ文字ヲ用ヒサルヘカラサル所ナキニアラスロエスレル氏ノ意見ハ人ノ腦膸ニテ知リ得ヘキ所ハ別段ノ約定云々ノ數文字ヲ加ヘス少シク了解ニ苦ム場合ニ限リ之ニ加フルノ意ナルヤ
（本尾委員）
然リ
（渡邊委員）
供資トシテ技術ヲ差入レ退社ノ時ニ金圓ヲ受ルカ如キ契約ハ有効ナリトスルヤ
（本尾委員）
ロエスレル氏ノ意見ニ依レハ由系ヨリ右掃効ナリ如何トナレハ隨意法ナレハナリ
（委員長）
然ラハ會社ノ論議ニテハ七人ト限リアレトモ別段ノ契約アレハ十人ニ十人ヲ以テ組織スルコトヲ得ルヤ
（本尾委員）
不可ナリ如何トナレハ七人以上ヲ以テ組織スルコトヲ得サルコトハ法律ノ精神ナラスト推測上ヨリ見認メサルヘカラサレハナリ
（委員長）
然ラハ此三區別ヲ見出スノ方法ヲ指定アルヘキ旨ロエスレル氏ニ質問アルヘシ
（本尾委員）
諾
（岸本委員）
原第百五條ノ使用權ト原第百三十八條ノニ項ニ追加ナリタル使用權ト原語同一ナルトキハロエスレル氏ノ精神牴觸スルカ如シ如何トナレハ收實權ヲ差入レタルトキハ退社ノ節評價額ヲ邃付セサルヲ得ス而シテ使用權ハ之ニ反シ還付スルコトナシ依テ理論ヲ以テ之ヲ究ムルトキハ正當トスルヲ得サルナリ
（箕作委員）
收實權ノ評價ハ返還スルコトヲ得ルノ精神ナリヤ
（本尾委員）
然リ事覩明ニ詳カナリ
（鶴田委員）
收實權ハ其收實會社ニ存スルヲ以テ評價ヲ返還スルハ當然ナリ然レトモ使用權ハ假令ハ家ノ使用權ヲ入レタルモノ其家ヲ引取リ退社スルトキハ會社ニ於テハ一モ存留スルモノナシ是ノ故ニ還付ヲ受クルコトナキ所以ナリ
（塩田委員）
本官ノ考フル所ニ依レハ供用ニアレ使用ニアレ退社ト共ニ終止スルモノナレハ敢テ牴觸スルコトナシ
（岸本委員）
要スルニ本官ノ疑㸃ハ第百三十八條ニ項ノモノハ供シユヰサンス用權ナリヤ使用權ナリヤト云フニアリ願クハロエスレル氏ニ質問ノアリタシ
（本尾委員）
岸本委員ノ說ハ第百五條ノ使用權ハ會耻ノ所有ニ歸スルニヨリ所有物ト同一ニ使用スルヲ得ヘシ然ルニ第百三十八條ニ於テハ社員カ退社スルト共ニ終止スルトセハ第百五條ト牴觸スルニアラスヤトノ論ナリ然ルニロエスレル氏ハ收實權ト使用權ニハ區別アリテ收實權ハ物權トナセ共使用權ハ物權トナサス尤場合ニ依テハ物權トナルコトアリ
收實權ハ終身自己ニ附隨スルモノナレトモ使用權ニ至テハ一時他人ニ貸渡スモ何時ニテモ取戾スコトヲ得ル其間實ニ非常ノ區別ヲ有セリ依テ使用ハ物權ニアラストナシ起草シタルモノナリ
又收實權ノ原物消滅シタルトキハ所有權ハ供資者ノ損失收實權ハ會社ノ損失ナリ而シテ差入人ハ依然社員タルコト論ヲ竢タス
（渡邊委員）
使用權ヲ差入タルニ災害ニ依テ消滅スルトキハ其差入人ハ社員タルノ資格ヲ失フモノナリ
（本尾委員）
燒失シタルトキハ代價ヲ受領シ否ラサルトキハ請求スルコトヲ得ストナスハ頗ル不權衡ナリト云フヲ得ス如何トナレハ燒失ニ依テ物品ノ代價ヲ受クルモノニアラス其使用セシ代價ヲ受クルモノナリ依テ退社ノトキニ物品アルモ償却ヲ受ケサルト權衡上決シテ不都合アルコトナシ
（周布委員）
第百三十八條ニ於テ收實權及ヒ使用權ニ付キ區別ヲ設クル所ノモノハ收實權ハ物權ニシテ使用權ハ人權ナリ依テ何時ニテモ社員入用ナルトキハ其使用物件ヲ取戾スコトヲ得之レ其區別アル所以ナルヘシ
（箕作委員）
第百五條ト第百三十八條トノ間ニ於テ三區別ニ付何分明了ナラサル所アレハ爾質問アリタシ
（本尾委員）
諾
午後零時一分喫飯
午後第一時十五分前開會
○商法第百三十九條
（本尾委員）
一年トハ全ク期滿免除ノ期限ナリ故ニ一年內ニ訴訟ヲ起シ置ケハ其期限ヲ中斷スト云ヘリ依テ左ノ如ク改案セラレタリ別離シタル社員會社ノ義務ニ對スル責任（第百ニ十二條）ノ期滿免除ハ別離後一年ヲ以テ消盡スルモノトス
（長森委員）
說明ノ末文ニ依レハ會社ハ存留社員ニ訟フルモ中斷スルコトヲ得ストアリ如何
（本尾委員）
夫レハ會社ニ對シ起訴スルモ不可ナルヲ示ス卽チ社員當人ニ對シ訟ヲ爲シタルニアラサレハ中斷スルコト能ハサルヲ云フナリ
渡邊委員ノ政府ヨリ會社ニ貸金アリタル質問ノ答辨ニ此ノ場合ニ於テハ一年間ニ訴訟ヲ起シ得ルモ實際=一年ヲ經過シテ義務ヲ費擔スルモ政府ノ信用如何ニ關スルコトナレハ如斯時ハ株劵ヲ抵當トシテ取置クヲ以テ敢テ不都合ナシト
○商法第百四十二條
（本尾委員）
本條ヲ質問セシニ左ノ如ク原文ヲ改メラレタリ
「若クハ會社ノ地位ヲ維持スル能ハサルニ至リ或社員ヲ除名スルモ尙ホ之ヲ排除シ能ハサル理由ヲ以テ社員一名云々」
（岸本委員）
原第百三十九條一年ノ期限起算ノ㸃ヲ示サス是ハ退社ノ日ヨリ起算スルヤ又ハ結算後ヨリ起算スルヤ若クハ公吿シタル日ヨリ起算スルヤ如何
（本尾委員）
說明ノ精神ヲ繹ルニ退社シタル日ヨリ起算スルカ如シ
（塩田委員）
公吿シタル日ヨリ起算スルモノナルヘシ
（渡邊委員）
然リ
○本條ハ左ノ如ク修正ヲ加フ
○商法第百四十二條「會社反法ノ事業又ハ公ケノ秩序及ヒ風敎ヲ紊亂スヘキ事業ヲ營ム時又ハ會社ノ目的ヲ達スルコト能ハス若クハ會社ノ地位ヲ維持スル能ハサルニ至リ或社員ヲ除名スルモ尙ホ之ヲ排除シ得サル事由ヲ以テ社員一名又ハ數名ヨリ解散ヲ發議スル時ハ數判上ノ處分ヲ以テ會社ヲ解散セシムルコトヲ得ヘシ」
以上質問ノ說明了
○第百六十條 商法草案第百四十三條
第百四十條中第一項ヨリ第三項ニ記載シタル場合ニ於テハ協議ノ上總社員又ハ其一部社員ニ於テ該會社ヲ保續スルコトヲ得ヘシ然ルトキハ其保續ニ加ハラサル社員ハ退社々員（自第百三十一條至第百三十九條）トシテ之ヲ取扱フヘシ
（本尾委員）
本條ニハ少シク疑㸃アルカ如シ則如此場合ハ登記公吿スヘキ之カ明條モ罰モナキカ故ニ疑ヲ生スルナレトモ第百三十一條ヨリ第三十四條ノ參照アルヲ以テ第百三十二條ノ明文ニ準據スルモノナレハ登記公吿セサルヲ得サルハ蓋シ明瞭ナリ
（細川委員）
本條ノ場合ハ新設ト等シク更ニ登記公吿スルモノナラン
（渡邊委員）
公吿ハ更ニナスモノナラン然ラサレハ不都合アレハナリ
（箕作委員）
然リ第八十五、六條ニ明文アルヲ以テ勿論公吿スルナリ
○本條ハ原案ノ儘ニ決ス
○第百六十一條 商法草案第百四十四條
會社解散スルトキハ其解散シタル旨ト年月日理由（第百四十條）及ヒ撰任シタル計算者（第百四十六條）ノ姓名ヲ七日以內ニ商業簡明簿ニ登記シ且之ヲ公吿スヘシ
（本尾委員）
計算者ハ「結算人」ニ又例ニ依リ「姓名」ヲ「氏名」二「簡明」ヲ「登錄」ニ改ムヘシ
本條登記公吿セサルトキハ罰ニ處セラルヽヤ否ノ明文ナシ依テ豫メ之カ疑㸃ヲ防キ「第八十六條ニ從ヒ」ノ文ヲ挿入スルカ又ハ「之ヲ爲サエル者ハ第八十六條ノ罰ニ處セラルヘシ」ヲ追加スルヲ可トス
（鶴田委員）
第一ニ公吿ノ罰ヲ揭ケ置キ各條ニ罰則ヲ逐載セサル樣爲スヘシ
（本尾委員）
然リト雖モ場合ニ依テ罰金ニ輕重アルヲ以テ預メ一定シ置クコト能ハス
（周布委員）
「其解散シタル旨」ヲ「解散ノ事」ト改ムヘシ
（渡邊委員）
「會社ノ解散ハ其年月日理由及ヒ撰任シタル結算人ノ姓名ヲ合セテ」ト爲スヘシ
（箕作委員）
原譯ノ方可ナラン
○本條ハ送ニ左ノ如ク修正ヲ加フルコトニ議決セリ
○第百六十四條會社ノ解散ハ其年月日事由（第百四十條）及ヒ撰任シタル結算人（第百四十六條）ノ氏名ヲ付シテ之ヲ七日以內ニ商業登錄簿ニ登記シ且公吿スヘシ之ヲ爲サヽル者ハ第八十六條ノ罰ニ處セラルヘシ
○第百六十二條 商法草案第百四十五條
會社ノ關係ハ解散ニ依テ盡キタルモノトス且解散ノ時ハ會社ノ營業ヲ停止シ會社財產ヲ其持部高ニ應シテ各社員ニ分配スヘシ但倒產ノ場合ハ此限ニアラス
（本尾委員）
會社ハ期日アリテ其期終ルモ結算事務ハ殘存スルモノニシテ其間ハ會社影跡ノ存スルモノト見認メサルヘカラストノ精神ナリ依テ「會社ハ解散ニ依テ終ルモノトス云々」ト爲スヘシ
○本條ハ左ノ如ク修正ヲ加フ
○第百六十二條會社ハ解散ニ依テ終ルモノトス會社ノ營業ハ一切之ト共ニ停止シ會社ノ財產ハ破產ノ場合ノ外持分ニ應シテ各社員ニ分配スヘシ
○第百六十三條 商法草案第百四十六條
會社財產分配ノ爲メ社員ノ多數決ヲ以テ計算者一名又ハ數名ヲ撰任スヘシ此計算者ハ常務ヲ結了シ會社ノ義務ヲ盡シ未納ノ要求物ヲ收納シ現在ノ財產物件ヲ賣却スルノ任アルモノトス計算者其目的ノ外ニ出テヽ尙營業ヲ保續シ又ハ新ニ取引ヲ爲スコトヲ許サス
（本尾委員）
原文ニ「會社財產分配ノ爲」トハナシ依テ單ニ財產分配トナスヘシ
（渡邊委員）
「目的ノ外云々」ハ「此目的ヲ超ヘテ營業云々」ト爲スヘシ如何トナレハ財產分配ノ目的ヲ超ルヲ許サヽルニ在レハナリ
○本條ハ左ノ如ク修正ヲ加フルニ決ス
○第百六十三條財產分配ノ目的ヲ以テ社員ハ多數決ニ依リ一名又ハ數名ノ結算人ヲ撰定スヘシ結算人ハ殘務ヲ結了シ會社ノ義務ヲ履行シ未納ノ貸方ヲ收納シ現存ノ財產ニ屬スル物件ヲ賣却スルノ任アルモノトス結算人此目的ヲ超テ營業ヲ保續シ又ハ新ニ取引ヲ爲スコトヲ許サス
午後第二時二十分閉會