○第十九回
明治十七年十月三日
午前第十時開會
（本尾委員）
前回質問ニ對スルロエスレル氏ノ答辯ヲ左ニ陳述セン
○商法第百三十五條
（本尾委員）
本條ノ精神ハ諸君ノ了解セラルヽ所ト異ナルナシ併シ反譯不充分トナラハ「會社ニ鉗スル」ノ文字ヲ加フルモ可ナリ素ヨリ會社ヲ退タル以上ハ事務ニ關與セサルヤ言ヲ俟タス但シ自己ノ持分高ニ就テノ取引ニ對シテハ第三者ニ要求シ得スト難モ會社ニ向ツテ之ヲ要求スルヲ得
又細川委員質問ニ日第百三十九條ニ循ヘハ退社スルモ一年間ハ直接ニ社外人ヨリ要求ヲ受ルコトアルヘシ而シテ第百三十五條ニ於テハ退社員ハ社外人ニ對シ要求スルコトヲ得ス此兩條少ク牴觸ノ感アリ且ツ彼是不權衡ナルカ如シト氏曰ク第百三十五條ハ會社ニ係リ訴フルコトヲ得レトモ退社員ニ伽封シ訟フルヲ一得ス又飴昻百三十九條ニ於テ退社員ニ向ヒ直接ニ要求スルコトヲ得セシメタルハ會社ノ信用ヲ失ハサラシメソカ爲メナリ敢テ權衡ヲ失フモノ三テラス若シ明瞭ナラサレハ左ノ如ク改ムルモ可ナリ
「但別離前ニ屬スル取引ノ持分ニ就テハ會社ニ對シ聞係ヲ有スルモノトス」
（渡邊委員）
左ノ如ク校正セハ如何
「別離シタル社員ハ別離前ニ屬スル取引ニ就キ其持分ニ對シ會社トノ關係ノ外別離ノ時ヨリ會社取引及ヒ權利義務ニ加ハラサルモノトス」
○渡邊委員ノ修正案ニ議決ス
○商法第百三十八條二項
（本尾委員）
身體ノ使役又ハ塋カハ退社ト共ニ消滅セサルモノアリヤノ質問ニ羯スル答ニ曰ク退社ト共ニ消滅セサル使役勞力ナシ而シテ其償却ヲ要求シ得サル理由ハ退社シタルト其勞力消滅トノニケニ據ルヲ以テナリ
（渡邊委員）
然ラハ前回例ニ擧ケタル出版書物ノ如キハ如何
（本尾委員）
夫レハ勞力ノ結果ニシテ物件ト同一視スヘカラス而シテ其勞力ノ原資ハ退社員ノ身體ニ附着シ居ルモノニシテ會社ニハ何ニモ殘存スルコトナカルヘシ但シ配分ノ利益ノ會社ニ現存スルモノハ浬遲付セシムルコトヲ得
（渡邊委員）
第百三十八條ノ第二項中勞力ノ下「ニシテ」ノ三字ヲ削リ「治滅スルトキ」ノ五字ヲ「止ムモノ」トナスヘシ
（周布委員）
否「止ムモノニシテ」トナスヘシ
（本尾委員）
周布委員ノ質問ニ第百三十八條ニ收實權又ハ使用權ヲ供資トシテ差入レタル場合ノ規定ナシ而シテロエスレル氏ノ意ハ使用權ハ消滅スルモ收實侃權ハ消滅スルコトナシトニ階罹ノ畔罹衡ヲ得ス云々氏曰ク收實權ハ物上權ナルヲ以テ消滅スル理由ナシ然レトモ使用權ハ之ニ反スルヲ以テ退社ト共ニ消滅スルハ當然ナリト
（渡邊委員）
周布委員ノ質問ハ第コ項ニ「動勞又ハ收實權又ハ使用權ハ社員ノ退社ト共ニ終止シ云々ト」セハ如何ト云フニ在ン
（周布委員）
然リ」
（本尾委員）
今ロエスレル氏本法立案ノ精神ヲ陳述センニ同氏ノ精神ハ總テ法律ニ反スル契約ハ無効ナリト（第九十六條）スルニアリ
本官試ニ本條第二項ノ場合ニ對シ例ヲ設テ質疑セリ則チ例ヘハ玆ニ舍密家アリ入社スルニ際シ契約スラク若シ退社スルトキハ壹萬圓ノ給ヲ得ント此契約ハ有効ナリヤ否ロエスレル氏曰ク該契約ハ有敷ナリト本官曰ク然ラハ第二項ニ要求スルコトヲ得ストアルニ牴觸スルニアラスヤト問フニ氏曰ク牴觸ノ嫌アルカ如シ依テ先ツ第九十六條ニアル規則ナル文字ノ意義ヲ剖判セサルヘカラス則チ該條ノ規則テフ語ハ命令法及ヒ禁止法ヲ指シ隨意法ヲ包含セス故ニ各條中得ス又ハ爲スヘカラストアルトキハ禁止法ト爲シ又爲スヘシトアルハ命令法トシ此ニケノ法ハ共ニ契約ヲ以テ牴觸スルヲ許サヽルモノトス然レトモ此等ノ讀法ハ苟クモ法律學者ニアラサルヨリハ了知セス故ニ法律ニ未熟ナル法官ニ於テハ實ニ困難ヲ免カレサルナリ若シ該三法ノ意ヲ明瞭ナラシメント欲セハ各條ニ此區別ヲ明示セン歟
（箕作委員）
此第二項ハ禁止法ニシテ立案者ノ精神タル隨意法ト見ルコト能ハス
（岸本委員）
然ラハロエスレル氏立案ノ精神ハ各國ノ法律ト異ナルコトナシ併シ過日ノ說明ニ依レハ全ク反對ニシテ恰モ公法ノ如キ性質アリシ今日ノ覩明ヲ聞キ始テ佛法ト異ナラサルヲ知ル
（本尾委員）
ロエスレル氏ノ意ハ佛法等ト敢テ異ナルコトナシ先日ノ說明ハ第九十六條ニ付テノミ質問セシヲ以テ一槪ニ之ヲ援引スルコトヲ得ス然レトモ互細ニ例ヲ引キ之ヲ質問シタルニ依リ途ニ衝突ヲ生シタルナリ敢テ前說ヲ變更スルニハアラサルヘシ
（周布委員）
然ラス各條中「別段ノ契約アルトキハ此限ニ在ラス」又ハ「別段ノ契約アルニ非レハ」ノ數字ヲ脫セシ箇條定メシ多キコトト思ハル
（渡邊委員）
本條ニ項モ亦「別段ノ契約アルニアラサレハ」ノ文字ヲ挿入スヘシ否ラサレハ立案ノ精稗ニ反スヘシ
以上質問ノ說明了
○第百五十六條 商法草案第百三十九條
會社ノ義務ニ對スル退社々員ノ責任（第 條）ハ退社後一年ヲ以テ消盡スルモノトス
（渡邊委員）
本條ハ左ノ如ク修正セハ如何
別離シタル社員會社ノ義務ニ對スル責任（原第百ニ十二條）ハ別離後一年ヲ以テ消盡スルモノトス
（委員長）
別離社員ノ責任ヲ一年ト定メタル理由如何
（本尾委員）
各國ノ法律ニ於テハ五年ヲ以テ責任ノ期限トナセトモ別離社員ノ關係ハ別離前ニ於ケル取引ノ止マルカ故ニ全體ノ事柄ハ別離ノ時ニ於テ完結スルヲ得ヘシ通常取引ノ決算ハ三四ケ月ヲ以テ完了スルモノナレハ五年ヲ以テ責任期限トスルハ餘リ過分ノ嫌ヒアルヲ以テ此ニ一ケ年ト定メタルモノナリ詳細ハ商法草案說明ニ委シ
（細川委員）
本條一年間ノ責任ハ別離後會社ニ於テナシタル損失ニモ關係スルヤ
（周布委員）
否別離シタル以後ノ損失ハ關係ナキモノナラン
（本尾委員）
ロエスレル氏ノ此ニ一ケ年ノ期限ヲ定メタル所以ノモノハ假令、ハ本年一月別離シタルニ未タ結了セサルヽモノアリト雖モ三ケ月乃至六ケ月ニハ必ス結了ヲ吿クルモノナレハ年間ノ責任ニテ充分ナリトシ一年後引續キ完了セサルモノハ絕テナシト信シタルモノナリ
（渡邊委員）
本條ニモ亦原第百三十五條ヲ適用スルモノナルヘシ
（本尾委員）
否該條ヲ適用スルコト舶駈ハサルナリ
（長森委員）
商法草案說明中保證ヲ立テシムルヲ以テ云々トハ如何ナル場合ヲ謂フヤ
（本尾委員）
別離シタルトキ未タ結算ニ至ラスシテ途三貢任ノ終期ニ及フトキハ保證金ヲ差出サシメ以其事柄ヲ完結セシムル場合ヲ云フ
（渡邊委員）
此一ニ年トセハ假令ハ政府ニ於テ礦山事業ノ爲メ資金ヲ貸渡シタルニ返濟期ニ先チテ會社ノ內一名逃走シタルヨリ一年間ハ會社ノ責任ヲ負擔スルモ其期限ノ終リタルトキハ其義務ヲ免ルニニ至ラン如此場合アルトキハ如何
（細川委員）
今渡邊委員ノ說ノ如キハ五ケ年ノ期限トスルモ其結果ニ於ケルヤ同一ナリトス
（渡邊委員）
本官考フル所ニヨレハ逃走者ノ義務ヲ免カレシメサル方法ヲ設ケサルヘカラス其法タルヤ債主ニ異議ノ申立ヲ許スニアリトス
（箕作委員）
本官ノ考フル所ニテハ本條一ケ年內ニ債主ノ要求スルコトヲ得ヘキハ自カラ包含シタルモノナラン依テ泣假曲邊委員ノ說ノ如キ逃走者アル場合ニ於テハ債主於テハ必ス要求スヘキモノトナセル條ニハアラスヤ
（渡邊委員）
假令ハ十ケ年ニ涉リタル年賦拂入ノ約定アランニ其內一人ノ社員別離シタル時負債償却ノ爲メ幾分ノ金員ハ殘シ置クヘシト雖モ一ケ年以後ニ至テハ已ニ連帶義務ハ消滅セシモノトナルヘシ
（本尾委員）
其場合ニ於テハ會社ニ於テ義務負擔ノ金員ヲ引去リテ後別離ヲ許スヨリ外方法ナカルヘシ
（渡邊委員）
然レトモ連帶義務ノ已ニ消滅スルモノナレハ其義務ニ付會社ニテ之レカ故障ヲナスコト能ハサルヘシ
（箕作委員）
社外人ニ於テ一ケ年故障ヲ申立サル時ハ退社員ニ於テハ義務ヲ免カルムモノナリ然レトモ十ケ月以內噛ニノ催促書ヲ迭リテ會テ餘ニ對スル負債ハ必ス何ケ年ノ後ニ至ルモ辨償セサルヘカラサルコトヲ申入ルム時ハ其義務ハ何ケ年ヲ經過スルトモ消滅スルコトナシトスルノ精神ニアラスヤ
（本尾委員）
否然ラス一髓合名會社ノ性質ニ於テハ箕作委員ノ說ノ如シト雖モロエスレル氏ニ於テハ此規定ヲ用ヒス同氏ノ精神タルヤ各國法律ノ如ク餘リ社員ヲ苦マシムルハ不可ナリ社員ハ隨意自己ノナス所ニ任放スヘシ一回社員トナリシ以上八年モ十年モ延帶義務ヲ免カルヽコト能ハサラシムルハ酷モ亦甚シキヲ以テ本條ニハ同氏ノ意見ヲ以テ一年ト定メ其期限ヲ終リシ以上ハ何事ヲモ免カレシムルノ繕川神ナリトス
（渡邊委員）
周布委員ト協同シテ編纂シタル會社案ニハ本條ノ場合ニ於テハ債主ヨリ退社ノコトニ付キ異議ヲ申立ルコトヲ得ルモノトナセリ
我邦ニ於テハ十年又ハ五年ニ涉ル年賦拂入ル等ノ約定アル會社ニ於テハ其年限中ニ社員ノ退社スル爲メノ大損害ヲ債主ニ蒙ラシムルコトアリ依テ本條ノミニテ實際困難ノ場合ナシトセス此趣意ヲ以テ精密ロエスレル氏ニ質問アリタシ
（本尾委員）
諾
（箕作委員）
債主ニ於テ社員ヲ別離シタルコトヲ確知セサルトキハ何ケ年ニテモ此義務消盡ノ年限ヲ中止スルヤ質問アリタシ
（本尾委員）
諾
（渡邊委員）
又年限ヲ定メ年限中ハ債主ニ於テハ異議ヲ申立ルコトヲ得ヘキモノトナシ而シテ其異議ノ當不當ノ如キハ裁判官ノ裁定スル所ト爲シテハ如何ノ如キモ亦質問アリタシ
（本尾委員）
諾
○本條ハ左ノ如ク修正スルニ決ス
○第百五十六條
「別離シタル社員會社ノ義務ニ對スル責任原第百ニ十二條」ハ別離後一年ヲ以テ消盡スルモノトス
于時十二時喫飯
午後一時十二分開會
○第百五十七條 商法草案第百四十條
合名會社ハ左ノ場合ニ於テ解散スヘキモノトス
一 期限ノ經過シタル時
二 期限內ト雖トモ契約書中ニ解散スヘシト定メタル事故ノ生シタル時
三 總社員中四分ノ三以上ノ同議決定
四 會社ノ倒產
五 判事ノ判決
（本尾委員）
本條四分ノ三以上トアレトモ三ノ數ヨリ解散スルコトヲ得ルノ精神ナリ
○本條「スヘキモノトス」ヲ「スルモノトス」ト改メシ
（委員長）
假令ハ五人ナルトキハ如何
（本尾委員）
四人以上ナリ
一項
（本尾委員）
本項ヲ「有期ノ契約ナルトキハ期限ノ經過シタル時」ト改メテハ如何
（岸本委員）
「存立期限ノ經過シタル時」トセハ如何
（長森委員）
定期ノ終リタル時トセハ如何
（本尾委員）
然リ
二項
（箕作委員）
事故トハ如何ナル場合ヲ云フヤ
（本尾委員）
米商會社ナレハ價十五圓ニ隲貴スルトキハ解散スヘシト契約スルカ如キヲ云フ
（箕作委員）
事故トスルトキハ何分災害ヲ指ス樣見ユルナレハ何トカ修正シタシ
（塩田委員）
「事由」トセハ如何
（箕作委員）
然リ
（岸本委員）
「契約ニ定メタル解散ノ事由ノ生シタル時」トセハ如何
（渡邊委員）
可ナリ改ムヘシ
（細川委員）
第三項以下ニハ「時」ノ字ヲ用ヒス止タ第一第二ノミ「時」ヲ用ヒアリ依テ第三以下ニ倣ヒ第囑鮫叩ニモ亦「時」ヲ削リテ經過又ハ事由ヲ以テ結文トセハ如何
（塩田委員）
契約ノ上ニ「會社」ノ二字ヲ冠スヘシ
（渡邊委員）
可ナリ又「事由ノ到來」ト改ムヘシ
三項
（本尾委員）
此ニ同議トアルハ四分ノ三以上ノモノヽ同意ニシテ決定シタル場合ヲ云フナリ
四項
（箕作委員）
「倒產」ヲ分散ト改ムヘシ
（細川委員）
原案ノ方可ナリ
（塩田委員）
然リ
（本尾委員）
本條原案ノ如ク倒產ト決セシ以上ハ原第百三十條ノ第四字資分散ト修正セシハ宜シク原案ニ復シテ倒產ト改ムヘシ
○本條ハ左ノ如ク修正スルニ決ス
第六款會社ノ解散
○第百五十七條合名會社ハ左ノ事項ニ據テ解散スルモノトス一會社存立期限ノ終リ
二會社契約ニ定メタル解散事由ノ到來
三總社員四分ノ三以上同意ノ決定
四會社ノ倒產
五裁判上ノ處分
○第百五十八條 商法草案第百四十一條
支拂停止ヲ爲シタル時ヲ以テ既ニ會社倒產シタルモノト見做スヘシ
（本尾委員）
「既ニ」ノ文字不用ナリ
（長森委員）
左ノ如ク改ムヘシ
「會社支拂ヲ停止シタル時ハ云々」
（委員長）
「支」ヲ「仕」ニ改ムヘシ
（周布委員）
「倒產云々」ヲ「倒產トス」ト改ムヘシ
（渡邊委員）
「倒產」ハ總テ「破產」ト爲スヘシ
（渡邊委員ノ說ニ決シ第百三十一條第四モ「破產」ト改ム）
○本條ハ左ノ如ク修正ヲ加フ
○商法第百四十一條會社支拂ヲ停止シタル時ハ破產シタルモノトス
第百五十九條 商法草案第百四十二條
若シ會社不法ノ事業又ハ公共ノ秩序及ヒ風俗ヲ紊スヘキ事業ヲ營ム時又ハ會社ノ目的ヲ達スルコト能ハス若クハ會社ノ關係ヲ維持スル能ハサル事由ノ起ルアリテ一二ノ社員ヲ除名スルモ尙之ヲ排除シ能ハサルカ爲メ社員一名又ハ數名ヨリ解散ヲ發議スル時ハ判事ノ判決ヲ以テ該會社ヲ解散セシムルコトヲ得ヘシ
（本尾委員）
第六十七條ト對照シテ見ル時ハ自ラ明瞭ナリ
（渡邊委員）
目的ヲ達スルコト能ハサル事由ト或社員ヲ除名スルモ會社ヲ維持スル能ハサル事由トニケノ場合アリ
（本尾委員）
然リ事由トハニケノ場合ニ係ル
（渡邊委員）
「能ハサル事由又ハ或社員ヲ除名スルモ尙ホ之ヲ排除シ能ハサル支障アルカ爲メ云々」トセハ如何
（細川委員）
本條ハ質問ノ上ナラテハ校正スルコトヲ得ス依テ質問セラレタシ
（本尾委員）
諾
○本條ハ校正未定
午後第二時二十分閉會