○第十八回
明治十七年九月三十日
午前第十時開會
（本尾委員）
前回質問ノ件卽チ第百三十一條定期云々六ケ月前預吿ト事務年度ノ宋ニアラサレハ出社スルコトヲ得サルヤトノ問是ナリ
之ニ答フルニ第百三十一條第一ノ會社契約云々ハ矢張リ第百三十三條ニ循ヒ六ケ月前ニ預吿ヲ爲シ及ヒ事務年度ノ末ナルコトヲ要ス併シ社員カ事務年度前ニ承諾スルトキハ此限ニアラス
又第百三十一條第三、若シ官吏トナルトキハ如何ノ件是ハ第一ニ屬スルヤ第三ニ屬スルヤヲ質問シタルニ第一ニハ勿論第三ニモ屬セス如何トナレハ第三項ノ如キ不能力者ニアラサルヲ以テナリ官吏ハ第十條ニ於テ已ニ社員トナルコトヲ禁制シアルヲ以テ別段之ヲ揭クルニ及ハス又之ヲ批難スルモノアルモ第百三十三條但書アルヲ以テ決シテ差支ナシト然ルトキハ第一第三ニ入ラサルモノハ第百三十三條ニ適用スルヲ得ストノ論アリシトキハ如何曰ク斯ク論シ來ル時ハ止ムヲ得ス第五ニ其事ヲ加フルモ可ナリ併シ之ヲ加フルハ小生ニ於テハ必要ヲ見サルナリ若シ委員之ヲ加フルトセハ敢テ不可ナシ若シ之ヲ加フルトセハ左案ノ如シ
第五、商業ヲ爲ス能力ヲ失フタル事
○第百三十二條
（本尾委員）
本條ニ反スル者ハ第八十六條ニ依テ罰金ヲ科スルヤ否ヲ質問セシニ矢張第八十六條ニ於テ之ヲ罰スルノ精神ナリト玆ニ之ヲ揭ケタルハ止タ理由ト退去ノ事トヲ明示セシムルニ在リ故ニ本條ニ反スルトキハ第八十六條ヲ適用シテ之ヲ罰スヘシ罰スルノ精神本條ノ儘ニテ判然見ユルコト能ハストセハ文中「第八十六條ニ從ヒ」云々ノ語ヲ挿入スルモ亦可ナリ
○第百三十三條
（本尾委員）
本條ハ契約ノ有無ヲ問ハス重要ノ事由アルトキハ何時ニテモ退社スルコトヲ得ルナリ併シ重要ノ事由ナルヤ否ニ付キ爭ヒノ生スルコトアラハ裁判官之ヲ判定スルヲ以テ差支ナシト之ニ依レハ前回本條ヲ修正セシハ該修正其當ヲ得タリ
前回修正ハ
○原第百三十三條任意ノ退去ハ別段ノ約定アルニアラサレハ六ケ月前ニ預吿シタル後事務年度ノ末ニ限ルヘシ但シ至急退社スヘキ重要ノ事由アルトキハ此限ニアラス
○第百三十四條
（本尾委員）
本條ハ解散ノ部ニ揭クレハ如何ト質問セシニ解散ノ部ニハ解散スヘキ事項ノミヲ揭クトヲ以テ解散セサル事項ハ矢張リ本款ニ置クヲ可トス云々
以上質問ノ說明トス
○第百五十二條 商法草案第百三十五條
退社シタル社員ハ退社ノ時ヨリ會社ノ取引及ヒ其權利義務ニ干與セサルモノトス但シ退社前ニ爲シタル取引ニ就テノ財產持部高ニ在テハ此限ニアラス
（本尾委員）
但書以下反譯穩當ナラス
（塩田委員）
「權利義務ニハ關係ナキモノトス」トセハ如何
（本尾委員）
「但別離前ニ係ル取引ニ就テノ持分ニ在テハ此限ニアラス」トセハ如何
（渡邊委員）
「持分ニ及フモノハ此限ニ在ラス」トスヘシ
（本尾委員）
然リ
（渡邊委員）
其權利ノ「其」ハ不用ナリ
（本尾委員）
然リ削ルヘシ
（長森委員）
說明中受身ノ分擔トハ如何
（本尾委員）
「ハツチーフ」卽チ受身ト云フ意ナリ退社シタル以上ハ代理權ナカルヘシ然ルニ但書以下ハ代理權ヲ有スル樣見ユルヲ以テ大ニ間違ヲ生スルニ至ラントノ疑問ヲ爲スモノアリ本官ハ決シテ如斯惑ナケレトモ諸君ハ如何
（渡邊委員）
然リ決シテ代理權ヲ有スルモノニアラス
（長森委員）
但書以下言語廣漠タリ
（渡邊委員）
原文ハ此文ヲ除キテ其他ハ宜シトノ意ナリ全體ハ文中ニ挿入スルヲ可トス而シテ干與ハ已ニ關係ナキモノトスト改正シタレハ本文ニ於テハ不明了ナルコトナカルヘシ
（鶴田委員）
會社ト自分トノ關係ナケレトモ會社ト第三者トノ關係ニ付テハ裁判所ニ出訴シ答辯スルコトヲ得ルヤ
（渡邊委員）
夫ハ持分高ニ限リテ原被吿トナルコトヲ得ルナラン
（本尾委員）
否然ラス退社シタルヨリ社外ニ對シテハ如何ナル事ヲモ爲ス能ハス然レトモ退社前ノ取引ニ付テハ現會社ノ社員ニ依賴シ該取引ヲ完結セシムルモノトス要スルニ退社員ハ社外人ニ對シ退社シタル日ヨリ權利義務アラス而シテ退社員ノ爲シタル取引ニシテ未完結セサルモノアラハ會社ニ於テ之ヲ執行スルナリ
（渡邊委員）
然ラハ會社ニ對シテハ訴フルコトヲ得ルナリ
（本尾委員）
然リ會社ニ對シテハ訴フルコトヲ得ルナリ
（長森委員）
左ノ意義ニテ修正セハ如何
「退社前ニ爲シタル取引ニ就テハ財產持分ニ及フモノハ會社ニ對シ權利義務ヲ有スルモノトス」
（箕作委員）
意義ハ可ナリト雖トモ本條ニ對スル反譯ニハアラサルナリ
（委員長）
「權利義務ヲ負擔セサルヘカラス」トセハ如何
（箕作委員）
「分擔」ノ語反テ穩カナラス
（鶴田委員）
分擔ト云フハ等級ヲ分ル樣ニテ不都合ナラン
（塩田委員）
「分旛」ヨリハ寧ロ「共分」又ハ「分有」トセハ如何
（委員長）
「共有」トセハ如何
（本尾委員）
關係ノ方反テ穩當ナラン
（委員長）
關係ニテハ漠然ナリ則其人ニ依テ如何樣ニモ解釋スルコトヲ得ヘシ依テ關係ヨリ今少シ確タル文字ヲ用ヒタシ
（岸本委員）
我邦ニテハ關係ニテ可ナラン一體法文ハ一字一句ニ就テハ意味ヲ取ラス必ス全體ニ就テ意味ヲ解スルモノナレハ關係ニテ可ナルヘシ
（渡邊委員）
加擔トセハ如何而シテ本條左ノ如ク修正シタシ
別離シタル社員ハ別離前ニ係ル取引ニ就テノ持分ニ關スルン外別離ノ時ヨリ會社ノ取引及ヒ權利義務ニ加ハラサルモノトス
（鶴田委員）
「加ラサルモノトス」ノ文字穩カナラス之ヲ改ムヘシ
（渡邊委員）
能ク論究スルトキハ但書以下ハ削除スルモ可ナリ此ノ數文字アルトキハ却テ議論ノ種子トナルノ恐レナシトセス
（本尾委員）
但書ニ於ケル社員外ノコトニ付テハ今少シク明瞭ナル文字ヲ揭クル樣依賴スヘキヤ
（細川委員）
但書ハ第百三十九條トノ關係大ナルヲ以テ最モ必要ナルモノトス尤此但書ハ義務負擔ノコトニ付テハ矢張一年限リトナスヤ或ハ又一年以上ニモ及フモノナルヤ
（本尾委員）
但書ハ第三者ニ對シテハ何事ヲモ爲スコトヲ得ス第百三十九條ハ社外人ヲ保護シタルノ條ナリ故ニ今日退社シタル者アランニ來ル明治十八年九月迄ハ此退社員ヲ相手取リ訴フルコトヲ得要スルニ退社員ハ一ケ年間義務ヲ負ハサルヘカラサルコトヲ示スノ條ナリトス
（周布委員）
本條ニハ年限ノ定メナキヤ
（本尾委員）
然リ
（鶴田委員）
社外ニハ關係ナシ會社ニハ關係アルナリ
（委員長）
第百三十九條ニハ義務ヲ負フコトニ付テハ退社後]ケ年トセリ故ニ一年後ハ義務ヲ有スルコトナシ然ルニ本條但書ニ於テハ一ケ年トモ何トモ年限ナキヲ以テ利益ヲ受クルコトハ無期ナル樣誤解セラルニノ恐レアリ
（本尾委員）
第百三十五條ハ殘務ニシテ普通ノ慣例ハ三ケ月又ハ六ケ月トス一ケ年トスル如キハ法外ノ氷期ト言ハサルヲ得ス
○本條ハロエスレル氏ニ質議シタル上ニテ修正スルコトニ決セリ
○第百五十三條 商法草案第百三十六條
退社員ノ爲メ特ニ精算書ヲ製シ會社財產中ノ持部高ヲ其退社ノ時ノ割合額ニテ遲延ナク其退社シタル社員又ハ其權利相續人ニ拂渡スヘシ但シ本員ノ干與シタル取引ノ未タ結了セサルモノハ此限ニアラス
（本尾委員）
本條ハ前條ト同シク反譯充分ナラス
（渡邊委員）
「結了セサルモノハ」トアルヲ「結了セサル分」ト改メタシ
（本尾委員）
本官ハ本條ヲ左ノ如ク修正セントス
別離シタル社員ヘシ支拂ノ爲メ特ニ精算書ヲ製シ之ニ據リ會社財產中ノ持分ヲ其別離ノ時ノ割合ヲ以テ暹延ナク其社員又ハ權利承繼者ニ拂渡スヘシ但シ本員ノ加ハリタル取引ノ結了シタルモノニ限ル
（渡邊委員）
本尾委員ノ修正中「割合」トアルヲ「額」ト改メタシ
○本條ハ左ノ如ク修正スルニ決セリ
○第百五十三條別離シタル社員ヘシ支拂ノ爲メ特ニ精算書ヲ製シ本員ノ加ハリタル取引ノ結了シタルモノ丈ハ其精算書ニ據リ會社財產中ノ持分ヲ其別離ノ時ノ額ヲ以テ遲延ナク其社員又ハ權利承繼者ニ拂渡スヘシ
于時十二時ナルヲ以テ喫飯ノ爲メ中止
午後一時十五分前開會
○第百五十四條 商法草案第百三十七條
會社持部高ヲ拂渡スハ會社義務ノ其持部中ニ加フヘキモノヲ扣除シタル後ニ限ルヘシ
（本尾委員）
本條ハ別ニ意昧ヲ包有スルノ條ニアラス尤モ反譯不適當ナルヲ以テ左ノ如ク修正セン
擔當シタルモノヲ扣除シタル會社財產中云々
（渡邊委員）
本條ノ精神ハ各自ノ持分ヲ引去リ爲メニ會社ノ義務ヲ損傷スルヲ許サヽルノ意味ナラン
（本尾委員）
本條ノ例ヲ揭クレハ會社ニ負債百圓アリタルトキ各自差入レタル供資ヨリ其負債ヲ供資高ニ應シテ配當シタル後其殘額ヲ引去ルコトヲ得セシムルモノトス則會社ノ負債千圓ナルニ社員十人ナルトキハ各自百圓ヲ負擔セサルヲ得ス依テ供資千圓ナルトキハ負債高百圓ヲ引去リ殘額九百圓ヲ引取ルコトヲ得ルノ場合ナリトス
（渡邊委員）
「持分中ニ加フヘキモノ」トハ甚タ不明了ナリ
（本尾委員）
然ラハ持分中ニ分擔スヘキモノ云々トセハ如何
（周布委員）
會社々員ノ持分ヲ拂渡スハ云々トスヘシ
（渡邊委員）
會社々員ノ持分ヲ拂渡スノ高ハ其社員ノ分擔スヘキモノヲ扣除シタル」云々トセハ如何
（本尾委員）
左ノ如ク修正セハ如何
「會社財產中ノ持分ヲ拂渡スハ會社義務ノ其持分ニ相當スル分ヲ扣除シタルモノニ限ルヘシ」
（委員長）
其持分云々以下ハ本案ノ裏ヲ揭ケテハ如何又扣除シタルトキハ引去ルト云フノ意味ナレハ少シク不適當ナルカ如シ
（鶴田委員）
「後」ハ「モノ」ニ爲スヘシ
（長森委員）
「扣除シタル」ヲ「殘額」トセハ如何
（本尾委員）
原文ノ意ヲ直譯セハ左ノ如シ
「拂渡スハ會社義務ノ爲メ其持分ノ減少セサル分迄ニ限ルヘシ」
（渡邊委員）
左ノ如ク修正スヘシ
「會社財產中ノ持分ヲ拂渡スハ其持分ニ相當スル會社義務ヲ除キタル餘分ニ限ルヘシ」
○渡邊委員ノ修正案ニ決ス
○第百五十五條 商法草案第百三十八條
若シ他ノ約定アルニアラサレハ會社持分高ノ現在ノ資本額ハ當初差入レシトキ何種類ノ物ナリシヲ論セス必ス金員ニテ之ヲ拂渡スヘシ
身體使役又ハ勞力ニシテ社員ノ退社ト共ニ消滅スルトキハ其償却ヲ要求スルコトヲ得ス
（本尾委員）
本條モ反譯穩カナラス
（委員長）
持分高トアレトモ會社財產中ニハ種々ノ持分財產アルコトナルヘシ
（本尾委員）
否然ラス假令ハ供資十萬圓ノ中ト云フカ如シ
（鶴田委員）
現在ノ資本額トハ初メ千圓ノモノヨリ差入レタルニ現今ハ五百圓ニナリタル場合ヲ云ヒ當初差入レタル千圓ノ高ヲ云フニアラス
（細川委員）
否實價ニシテ少シモ動カサルモノヲ云フ則チ供資トシテ土藏ヲ差入レ之レカ爲メ利益ヲ得ル數千圓ナルモ其土藏ハ當初差入レタル時ノ價ヲ以テ引取ルコトヲ云フニハアラスヤ而シテ其利益ハ一己ノ所得トナスヲ得サルモノナリ
（本尾委員）
其迄ハ極言セサル場合ナリ
（箕作委員）
說明中價額ノ定メナキトキ云々トアリ其意味如何
（本尾委員）
偃令ハ此卷物一本ヲ差入レタルニ其時價ヲ付記セサリシ然ルニ本條ノ場合ニ至ルトキハ其當初差入レタル時ノ相場ヲ以テ之カ價ヲ定ムルナリ又庫ヲ差入レタルトキモ亦同シ其差入レタル正月ニテハ其價可程ナリシヤヲ探索シ其價ニ今日ノ相場ヲ比較シ以テ拂渡スヲ云フ
又財產目錄ハ年々改正スルモノニシテ假令ハ初年ハ千圓ノモノニ年ハ五百圓トナリ三年ハニ百圓ト減スルモ其時々現價ニ從テ目錄三記載スルナレハ實際決シテ不都合アルコトナシ
（委員長）
假令ハ三人アリ內ニ人ハ價千圓ノモノ外一人ハ同五千圓ノモノタランニ之ヲ合シテ六千圓ト爲ス此六千圓ニ比較シ三分シテ利益ヲ分ツトキハ內ニ人ハ供資額外ニ利益ヲ得外一人ハ五千圓ノ割ニハ分配ヲ受ケサルコトアルヘシ
（本尾委員）
然リ合額ヲ以テ之ヲ分配スルナリ
（渡邊委員）
第二項ノ場合ハ如何
（本尾委員）
假令ハ日々簿記又ハ大エヲ勤メ以テ之カ勤勞ヲ供資トスルモノヽ別離シタルトキヲ云フ物件ヲ差入レタルモノハ別離ノ時供資ノ返還ヲ得ルモ如斯勞力ヲ以テ供資トスルモノハ其供資ノ返還ヲ受クルコトヲ得サルヲ云フ
（渡邊委員）
假令ハ本尾委員ヲシテ演訓翫セシメ本官ハ其濡罫說場ヲ建築セシ場合ニ於テ本尾退社セハ演說ハ消滅スルヲ以テ何ニモ拂渡スヘキモノナシ之ニ反シ本尾委員ヲシテ反譯セシメ本官ハ之ヲ出板セシトキハ本尾委員退社スルモ其反譯ハ會社ニ存留シ消滅セサルヲ以テ其價卽チ反譯料ハ之ヲ分配シ拂渡サヽルヲ得サルナリ故ニ本官カ思料スル所ニ據レハ身體使役又ハ勞力ノ社員退社ト共ニ消滅セサル場合アリ然レトモ箕作委員ハ之ニ反シ退社ト共ニ滄滅セサルモノハナシト抗辯ス乞フ此事ハロエスレル氏ニ質問アランヲ
（本尾委員）
諾
○第二項ノ校正ハ質問ノ上爲スコトニ決ス
○第百三十八條會社財產持分高ノ現價ハ別段ノ約定アルニアラサレ八供資ノ何種類タリシニ係ラス必ス貨幣ニテ之ヲ拂渡スヘシ
第二項未定
午後第二時十八分閉會之事