○第十六回
明治十七年九月十九日
欠席 細川委員
○第百四十三條 商法草案第百二十六條
新ニ加入シタル社員從前ノ取引ヨリ生シル利益ノ配當ヲ受ルトキハ其取引ノ爲メ他人ニ對シ責任ヲ負ハサル可カラス
（本尾委員）
本條ハ原第百四十二條ノ取除ナリ則加入以前ノ取引ノ利益ヲ受ケタルモノハ隨テ其責任ヲ負擔セサルヘカラサルコトヲ示スモノナリ
（周布委員）
若シ加入前後ヲ以テ區別スルニ於テハ實際ニ就キ此取引ハ何々此取引ハ何々ト一々其區別ヲ設ケ置ケサルヘカラス
（本尾委員）
然リ
（渡邊委員）
本條ハ到底實際ニ向テ施行シ能ハサル所ノモノナリ
（本尾委員）
然リ實ニ一々其事柄ニ付分析スルモノナレハ學術上ノコトエ云ハサルヲ得ス
（箕作委員）
若シ本條ヲ設ケ置クトセハ假令ハ配當期ヲ年ニ兩度トシ五月加入ノモノハ一月ヨリノ損益ヲ擔任シ七月以後ノモノハ後半年ノ損益ヲ負擔スルカ如ク明カニ其期限ヲ定メ置カサレハ不都合ナル結果ヲ呈出スルニ至ラン
（本尾委員）
後條ニ新加入ハ會計年度ノ結了後ニ限ル旨ヲ定メアリシト思意ス
（渡邊委員）
英國ニ於テハ我邦又ハ獨逸ノ如ク五萬圓或ハ十萬圓ノ少額ヲ以テ會社ヲ組立ルモノナケレハ本條ノ規程ヲ設クルモ敢テ差支ナカルヘシト雖モ我邦ノ如キ僅カ千圓ノ少額ヲ以テモ會社ヲ組立ル國ニ在テハ本條ヲ設クルハ甚タ不適當ナリトス
（箕作委員）
本條ハ株式會社ニ類似スルノ憂ヒアリ又合名會社ノ性質ヨリ論スルトキハ新ニ入社シタルモノハ全ク本條ノ如キ期限ヲ定メス都テ該社ニ就テノ權利義務ハ負擔セサルヘカラサルコトヽ定ムルヲ以テ至當ナリトス
（委員長）
先回質問スヘキニ決シタリ彼ノ漁業農業ノ區別ニ付過日ロエスレル氏ニ質セシ所同氏モ此區別ニ就テハ殆ント困却ノ體ニテアリシ
○本條ハ遂ニ左ノ如ク修正スルニ決ス
○第百四十三條新ニ加入シタル社員以前ノ取引ヨリ生スル利益ノ配當ヲ受クルトキハ其取引ノ爲メ自カラ第三者ニ對シ責任ヲ負ハサル可カラス
○第百四十四條 商法草案第百二十七條
會社財產ハ其配當前ニ於テハ會社義務踐行ノ爲ニアラサレハ之ヲ要求スルヲ得ヘカラス但シ其差入前ヨリ他人既ニ之ニ對シ特權ヲ有スルトキハ此限ニアラス
（塩田委員）
本條若シ會社ニ於テ加入前已ニ書入アリシヲ知ラサル場合ハ如何
（本尾委員）
假令ハ土地ヲ書入トスルニハ官簿ニ登記シアルヲ以テ會社ニ於テ之ヲ知ラスト云フコトヲ得ス
（渡邊委員）
西洋ニハ登記法アリテ財產ノ取調ヲナスニ容易ナレトモ我邦ニ於テハ未タ此法ナキヲ以テ財產取調フルノコトハ實ニ困難ナルノ業ト云ハサルヲ得ス
「踐行ノ爲メ」ヨリ以下「得ヘカラス」迄ヲ「履行ノ爲メニノミ之ニ對シテ要求ノ權利ヲ有スルモノトス」ト改ムヘシ
（本尾委員）
「他人既ニ之ニ對シ特權ヲ有スルトキハ」トアルヲ「第三者ノ爲ナル權利ノ存在スルトキハ」ト修正セハ可ナランカ
（渡邊委員）
先ニ呈セシ「要求ノ權利アルモノトス」ヲ「要求ニ當ツルコトヲ得ス」ト改メン
○本條ハ遂ニ左ノ如ク修正スルニ決ス
○第百四十四條會社財產ハ其分配前ニ於テハ會社義務履行ノ爲メニアラサレハ要求ニ當ツルコトヲ得ス但シ其差入前之ニ對シ既ニ第三者ノ爲權利ノ存立スルトキハ此限ニアラス
○第百四十五條 商法草案第百二十八條
會社財產中ノ持部高ヲ以テ社員ノ私債ニ充ルヲ得ルハ會社ノ承諾ヲ得スシテ引出スコトヲ得ル部分ニ限ルヘシ
（本尾委員）
本條ノ精神ハ前條ト略同一ナリトス
（長森委員）
「私債」ヲ「自債」ト改メハ如何
（渡邊委員）
本條私旗ニ充ツルトアルハ社員自己ノ債主ニ辨償スルヲ得ルノミナラス抵當ト爲スコトモ亦差支ナカルヘシ
○本條ハ左ノ如ク修正スルニ決ス
○第百四十五條社員自己ノ債主ニ對シ會社財產中ノ持分ヲ以テ其義務ニ充ルヲ得ルハ會社ノ承諾ヲ得スシテ引出スコトヲ得ル部分ニ限ルヘシ
于時正午時ナルヲ以テ喫飯ノ爲メ中止ス
午後第十二時五十分開會
○第百四十六條 商法草案第百二十九條
會社ニ對スル負債ト社員ニ對スル要求ト又ハ會社ニ對スル要求ト社員ニ對スル負債トノ差引勘定ハ會社財產分配前ニ在テハ之ヲ爲スヲ許サス
（本尾委員）
本條ノ結胴紳ハ社員ノ財產ト會社ノ財產トヲ嚴ニ區別ヲ設クルニアリ商業上ニ於テハ通常相互計算アルトキハ差引勘定ナルモノヲ以テ互ニ其負債ヲ結了スルモノナレトモ此ノ慣例ヲ以テ會社ニハ適用スルコトヲ得サルナリ則社篇貝カ他ノ社員ニ貸金アランニ會社ノ資本金ヲ以テ其負債ヲ辨償セシムルコトヲ得ス又第三者ヨリ會社ニ負債アリテ社員ニ貸金アルトキ第三者ヨリ社員ノ貸金ヲ以テ會社ノ負債ト相殺スルコトヲ得ス必ス各別ニ權利ヲ得義務ヲ盡サヽルヘカラス尤モ會社カ解散セシ場合ニ於テハ格別ナリトス
（箕作委員）
「差引勘定」ヲ「相殺」トシテハ如何
（渡邊委員）
「抵嗔」トナスヘシ
○本條ハ左ノ如ク修正スルニ決ス
「差引勘定」ヲ「抵填」ト改ム其他原案通リ
○第百四十七條 商法草案第百三十條
隨意ニ社員ノ持部高ヲ減少シ又ハ引取ルコトアリテ會社ノ債主之カ爲メ會社財產ヨリノ辨償ヲ減少サレ又ハ障碍サレタルトキハ債主ハ此事ヲ聞知シタル後一年以內ニ異議ヲ申立ルコトヲ得ヘシ其異議ノ果効ハ持部高ヲ減少シ又ハ取引ヲ爲サヽリシモノト見做ス迄ヲ限トス
（本尾委員）
本條ハ會社ノ財產ハ減少スルコトヲ得サル旨ヲ示スニアリ若シ之ヲ減少シテ會社ノ債主ニ損害ヲ加ヘタルトキハ之ヲ辨償セサルヲ得ス尤モロエスレル氏ハ各社員ノ相談ツクニテ減少スルコトハ差支ナシトセリ然レトモ第三者ニ損害ヲ與ヘタルトキハ之ヲ辨償スルハ前ニ陳フル所ノ如シ債主ハ亦其供資額ノ減少シタリシコトヲ知リ得タル時ヨリ一年以內ニ異議ヲ申立ツヘキモノトス隨意トハ少シク穩カナラサル如クナレトモ社員協議上卽チ承知ノ上ト云フコトナリ又減少トアリ引取ルトアルモ其結果ニ至テハ同一ナリトス
（委員長）
「隨意」ヲ「便宜ニ依リ」ト改メテハ如何
（長森委員）
「便宜ヲ以テ」トナスヘシ蔚
（本尾委員）
「任意ニ爲シタル社員持分ノ減少又ハ引取ニ依テ會社ノ債主云々」ト改メテハ如何
（箕作委員）
聞知ノ後トハ如何
（本尾委員）
聞知スルマテハ何年ヲ經ルモ差支ナシ尤モ聞知シタルヨリハ一年以內ノ期限中ニ異議ヲ申立テヨト云フコトヲ示スモノナリ
（箕作委員）
持分高ヲ減少シ又ハ引取ルコトアルトキハ官ノ帳簿ニ登記スルコトナルヤ
（本尾委員）
否ナ其方法ナシ
（委員長）
債主カ聞知シタルヨリ一年內ニ異議ヲ申立ルニ當テハ會社之ニ封テ言ハソニ貴樣ハ一年半以前ニ減少シタルコトヲ知得セリ依テ會社ハ其義務ヲ負擔スルノ責ナシト云フ場合ニ在テハ必ス其間ニ爭論ノ生スルアラン此際ニ當テ如何ナル處分ヲ下スヤ
（本尾委員）
爭論ノ生シタル場合ハ裁判所ノ判定ニ任セサルヘカラス
（本尾委員）
此一年間トハ原語ノ意義ハ三百六十五日卽チ日ヲ以テ滿ニケ年トナシ月ヲ以テ算シタルニハアラサルナリ
又結文看敬ス迄ヲ限リトストハニケノ場合アリ第一ハ債主カ異議ヲ申立ルトキニ於テ已ニ減少シタル金額假令ハ五十圓ナレハ其五十圓ヲ會社ニ差入レシメ以前ノ如ク減少セサリシモノト看做ス場合ト第二ハ其五十圓ヲ一年前ニ社員カ持遁ケシタル時ニ當リ之ヲ未タ持遁ケセサリシ以前ノ如ク金額ノ減少セサリシモノト看做ス場合トヲ云フ究立見スルニ本條ハ利息ヲ生スルコトニ就テノ關係ノ條ナリトス
○本條ハ左ノ如ク修正スルニ決ス
○第百四十七條任意ニナシタル社員持分ノ減少又ハ引取リニ依テ會社ノ債主會社財產ヨリノ辨償ヲ減少セラレ又ハ支障セラレタルトキハ該債主ハ之ヲ知リ得タル後一年以內ニ異議ヲ申立ルコトヲ得ヘシ但異議ノ効果ハ其減少又ハ引取ノ曾テアラサリシモノト看做 スニアリトス
（委員長）
本日ハ閉會スヘシ來ルニ十三日則火曜日ハ秋期皇靈祭ナルヲ以テ當日延金自トスヘシ
于時午後第二時一同散會