○第十四回
明治十七年九月十二日
午前第九時五十五分開會
○第百三十一條 商法草案第百十四條
社員一名又ハ數名他ノ社員ヲ除キ自己ニノミ特別ニ利潤ノ配當ヲ受ルノ約定ハ無効トス之ニ反シ一二ノ社員ニ對シテ特殊ノ理由アルトキハ之ニ損失ノ配分ヲ免カレシムルノ約定ヲナスモ無効ノモノト限ルヲ得ス
（本尾委員）
ロエスレル氏ノ精神ニ於テハ會社ノ分配ハ契約ニ基クヲ主トシ若シ其契約ナキトキハ供資ノ額ニ應シ分配セシムルモノトス然ルニ本條ニハ一名又ハ數名ノ社昌苧目己ノミ利益ヲ受ルノ契約ヲ爲ス者アルトキハ之ヲ無効ト爲スヲ主トシ併シ之ニ反シ以下ニ於テ若シ格別ノ理由アルトキハ損失ノ配當ヲ受ケシメサルノ契約ヲ爲スコトヲ得セシメタリ是レ重モニ技術等ノ勞力ヲ差入ルルモノニシテ該會社ニ於テ最モ有益ノ社員ナルヲ以テ法律ハ特ニ之ヲ保護シテ此契約ヲ適法ト爲スヲ得セシメルニ在リ
（周布委員）
「配分」ハ「分擔」ト爲ス方可ナラン
（本尾委員）
然リ
（箕作委員）
配分ノ文字原書ニアリヤ
（本尾委員）
原書ニナシ一
（長森委員）
前ノ利潤分配ノ字ト同一ナリヤ
（本尾委員）
其文字ナキモ精神ハ配當ノ字ト同一義ナリ
（渡邊委員）
利潤ノ「配當」ノ二字モ原書ニナシ
（本尾委員）
「約定ヲ爲スモ差支アルコトナシ」ト爲スヘシ
（委員長）
一ニノ社員損失ノ配分ヲ受ケス利益ノミヲ受ルノ場合如何
（細川委員）
特別ノ技倆ヲ有スル者其技倆卽チ勞力ヲ供資トシテ差入ルル者ノ如キ倆藝アリト雖モ無資力ノ場合ニ於テ會社ハ該技倆ノ要用ナルトキハ其者ニ損失ノ配當ヲ負擔セス利益ノミヲ受ケシムルコトアリ
（本尾委員）
又新發明品製造者ノ如キ其例ニ乏シカラス
（箕作委員）
勞力ヲ差入ルル者第百十條ニ從ヒ額外ニ勤勞シタルトキハ相當ノ報與ヲ受ルコトヲ得尙又本條ニ依リ其者損失ヲ受ケサルノ契約ヲ爲スコトヲ得ルノ精神ナルヤ
（本尾委員）
然リ本條ハ損失ヲ受ケサルコトヲ契約スルヲ得ルニ在レハ第百十條ニ從ヒ額外ニ勤勞セハ其報酬ヲモ受ルコトヲ得ルナリ
（箕作委員）
然ラハ資額外ニ働キタルハ社員外ニ於テ爲シタルモノト看做スヤ
（本尾委員）
然リ此場合ニ於テハ全ク雇人ト同一視スルナリ
（箕作委員）
佛商法ニ於テハ損失ヲ免ルルノ契約及ヒ自己ノミ利益ヲ受ルノ契約共之ヲ禁セル樣覺ヘタリ
（岸本委員）
然リニ一樣共之ヲ魅示制咽セリ
（本尾委員）
獨挽=於テハ都テ損失ヲ引受ルコトヲ芯不スル樣覺ユルナリ
（周布委員）
無資力者ト雖モ美術ヲ有スル者ナルトキハ會社ノ爲メニ實ニ重要ナルコトアリ
（岸本委員）
法文ナキモ實際ニ於テ本條ノ契約ヲ爲スコトヲ得則チ供資額ニモ多寡アリ各供資額ニ應シテ損失ヲ分配スルニ其細少額者ニ於テハ其損失配分ヲ負擔セサルモ同一ナルカ如キ些少ノ負擔ナルトキハ敢テ契約ヲ爲シタルモノト異ナル所ナカルヘキナリ
（周布委員）
身代限ノ場合ニ於テハ如何
（岸本委員）
此場合ニ於テハ他人ニ對シテハ僅少ノ負擔ニ止ルナルヘシ
○本條ハ左ノ如ク修正ヲ加フ
○第百十四條一名又ハ數名ノ社員其他ノ社員ヲ除斥シ自己ノミ利益ヲ受ルノ約定ハ無効トス之ニ反シ特殊ノ理由ニ依リ一ニノ社員損失ヲ免ルルノ約定ハ其効ヲ有スルモノトス
○第百三十二條 商法草案第百十五條
差入資本又ハ社員會社ニ對シテ賣渡シ又ハ他ノ報酬ヲ受テ讓渡シ又ハ其賣渡シ若クハ讓渡シニ依テ利益ヲ受タル物件及ヒ勞力ノ契約上ノ價額ノ其差入又ハ賣渡シ又ハ讓渡シノ際ノ實價ヨリ超過スルコト甚シキトキハ何時ニテモ其契約上ノ價額ヲ不當トシテ異議スルコトヲ得ヘシ
（本尾委員）
本條ハ譯文不明瞭ナリト雖モ其精神タル會社ヲ保護セシ條ナリトス假令ハ或ル社員カ資本トシテ差入レタル物件現價壹圓ナリシモノヲ五圓トシ差入レ已ニ其額ヲ契約書ニ登記シタル以上ハ最早動カスヲ得サルカ如シト雖モ素ト其價ナキモノヲ差入レタルモノナレハ後日此レカ不當ナル匿ナリシコトヲ覺擧シタル場合ハ其之ヲ差入レタル時ノ現價ニ改正スルコトヲ得セシムルノ主義ナリトス則會社ノ損失ヲ茜豕サラントコトヲ保護セシモノトス
（細川委員）
本條ノ場合ハ普通物件ノ賣買ト同一ナルヤ
（本尾委員）
否普通トハ其質ヲ異ニス如何トナレハ本條ハ社員カ自己加入スル所ノ會社ニ賣渡シ又ハ讓渡ヲナスハ最モ正當ナル取引ヲナスヘキニ詐僞ヲ以テ其價ヲ高カラシメタル如キ尋常賣買ノ場合ニ於テモ取締ヲ嚴ニスヘキ勿論ナレトモ會社ニ於テハ尙是ヨリ一層嚴重ニ取締皿リヲ設クルヲ以テ至當トセリ
（細川委員）
供資ナレハ改正セシムル敢テ論スルヲ俟タサレトモ社員カ他ノ物品ヲ賣渡シタル場合ニ於テ相場上ニ差違アリトテ一々之ヲ改正スルニ至ラハ實ニ底止スル所ナキニ至ラン
（渡邊委員）
賣渡又ハ讓渡シタル當時ノ相場ニ引直スモノナレハ之ヲ改正スルヲ相當トス又會社ニ於テハ是等ノコトタル充分爲シ得ラルルモノナレハ最モ嚴重ニ取締ヲ設ケサルヘカラス
（本尾委員）
細川委員ノ問ニ對フヘシ抑モ合名會社ハ相互ノ信用ヲ保テ成立ツヘキモノナルニ現價百圓ノモノヲ百五十圓ト僞ル如キハ最モ會社ニ對シテ信用ヲ損スルモノト云ハサルヲ得ス依テ之レカ取締ヲナス又正當ナリト云ヘシ
（細川委員）
勞力ヲ賣渡又ハ讓渡シテ利益ヲ受クルコトアリヤ
（本尾委員）
假令ハ船一艘ヲ製造センニ五十日ニシテ落成スルヤ百日ニシテ落成スル哉ハ未タ保證スルコトヲ得サレトモ其船ヲ會社ニ於テ金百圓ヲ以テ買受クル如キハ其船ノ讓リ渡シニアラスシテ則勞力ノ賣渡主ナリトス本條勞力ノ賣渡トハ如何場合ヲ稱スルモノナリ
又其賣渡シ若クハ云々トハ假令ハ甲ヨリ書籍ヲ十圓ニテ賣拂フコトノ委托ヲ受ケタル乙者ニ於テ其書籍ヲ會社ニハ十貳圓ニテ賣却シ其內十圓ヲ甲ニ渡シ殘リ貳圓ハ自己ノ所得トナスカ如キ場合ヲ云フモノナリ
（渡邊委員）
左ノ如ク修正セハ如何
「社員會社ハ差入ルル供資及ヒ會社ヘ賣渡シ或ハ報酬ヲ得テ他ニ讓渡シタル物件勞力其他此賣渡シ讓渡シヨリ得タル所ノ利益ノ契約上ノ價格ニ付該社員其差入賣渡讓渡ノ際甚シク價格ヲ超過シタルコトアラハ其超過ノ度每之ニ對シ會社異論ヲ唱フルコトヲ得ヘシ」
（周布委員）
左ノ如ク修正ヲ加フヘシ
社員ノ差入タル供資ノ契約ニ定メタル價額其時價ヨリ超過スルコト甚シキ時ハ契約上ノ價額ヲ不當トシテ異議スルコトヲ得ヘシ
社員會社ニ賣渡シ若シクハ報酬ヲ受ケテ讓渡シタル物件及勞力又ハ賣渡讓渡ニ付テ利益ヲ受ケタル物件勞力ノ契約ニ定メタル價額其時價ヨリ超過スルコト甚シキ時モ亦前項ニ同シ
（長森委員）
「供資ノ價額又ハ社員ノ會社ニ賣渡シ或ハ報酬ヲ受テ讓渡シタル物件及ヒ勞力ノ價額又ハ賣渡讓渡ニ因テ利益ヲ受ケタル物件及ヒ勞力ノ價額ヲ契約ヲ以テ定メタルモノ其差入又ハ費渡讓渡ノ時ノ實價ヨリ超過スルコト甚シキハ云々」トセハ如何
（本尾委員）
契約ニ定メタル供資ノ價額調又ハ社員ヨリ金罫肛一ニ買溝〔シ或ハ他ノ報酬ヲ受テ讓渡シタル物件及ヒ勞力若クハ賣渡或ハ讓渡ニ依リ利益ヲ受タル物件及ヒ勞力ノ契約ニ定メタル價額其差入又ハ賣渡シ又ハ讓渡シノ際ノ實價ヨリ超過スル云々」ト修正スヘシ
（渡邊委員）
左ノ如ク修正ヲ加ヘハ可ナルヘシ
第百十五條供資契約上差定メタル價額其差入ノ時ノ實價ニ超過シ又ハ社員會社ニ賣渡シ又ハ他ノ報酬ヲ受テ讓隘假シ又ハ宙買渡シ若クハ讓渡シニ於テ利益ヲ得タル物件及ヒ勞力ノ契約上差定メタル價額一其智買渡シ又ハ讓渡シノ時ノ實價ニ超過スルコト甚シキトキハ何時一テモ其價額ヲ適當トシテ異議スルコトヲ得ヘシ
（渡邊委員）
「甚シキ」語ハ範圍廣漠其區域ヲ知ルニ苦ム何トカ修正セハ如何
（細川委員）
「甚シキ」ノ範圍ハ說明書ニ「過半ノ損害」トアリ之ヲ標準トスヘシ
○本條ハ遂ニ左ノ如ク修正スルニ決ス
○第百三十二條供資又ハ社員會社ニ賣渡シ又ハ他ノ報酬ヲ受テ讓渡シ又ハ賣渡シ若クハ讓渡シニ於テ利益ヲ受タル物件及ヒ勞力ノ契約上差定メタル其差入又ハ賣渡又ハ讓渡ノ時ノ實價ニ超過スルコト甚シキトキハ何時ニテモ其價額ヲ適當トシテ異議スルコトヲ得ヘシ
時ニ正午時ナルヲ以テ午後直ニ開會ヲ約シ衆員喫飯ノ爲メ休憩セラル
午後第十二時四十五分開會
○第百三十三條 商法草案第百十六條
社務擔當ニ與ラサル社員ニシテ社務ヲ執行シ或ハ會社ニ對シテ詐僞ヲ爲シ或ハ會社ニ對スル重大ナル自己ノ義務ニ甚シク背反スルトキハ第百二條ニ制定シタル責任ヲ受シメタル上尙該社員ヲ除名スルヲ得ヘシ但シ之カ爲メ會社ノ存立ニ關係ヲ生スルナシ
（本尾委員）
本條ノ初項與ラサル社員トハ結文マテ係ハル如クナレトモ精神ニ於テハ敢テ然ラサルナリ依テ之ヲ改メテ社員社務ニ與ラサルニ社務ヲ執行シ云々ト爲スヘシ否ラサレハ其意義ニ於テ大ニ異ナリ宜シク改正スヘシ
（渡邊委員）
然ラハ或ル社員カ自己ハ既ニ社務ニ與ルコトヲ得サリシヲ知ラスシテ社務ニ與カリシ場合ヲ云フナラン
（本尾委員）
然リ
（渡邊委員）
「背反」ヲ缺キト改メ隨テ原第百二條ニアル「怠」ヲ「缺」クト修正スヘシ
○本條ハ討議ノ末左ノ如ク修正スルコトニ決ス
○第百三十三條社員業務ニ與ラサルモノニシテ業務ヲ爲シ或ハ會社ニ對シテ詐僞ヲ行ヒ或ハ會社ニ對シ甚シク主要ノ義務ヲ缺タルトキハ第百二條ニ制定シタル責任ノ上ニハ同該社員ヲ除名スルヲ得ヘシ但シ會社ハ之レカ爲メ解散スルヲ要セス
○第百三十四條 商法草案第百十七條
一社員會社契約又ハ此商法中ノ規則ニ照準シテ會社ノ爲メニ執行シタル各種ノ所業及ヒ取引ノ結果ハ自他ノ社員ニ於テ其持部高ニ應シ之ヲ承認スルノ義務アリトス
（本尾委員）
本條ハ別ニ說明ヲ要セス尤モ此商法中トアルハ本條例中ト改メサルヘカラス
（渡邊委員）
コ社員」ノ「一」ノ字ヲ削ルヘシ
（長森委員）
「其持部高ニ應シ之ヲ承認スルノ義務アリトス」ノミニテハ何分意味ノ足ラサル所アレハ原文ニ照シテ充分ニ意味ノ明了ナランコトニ改メサルヘカラス
（細川委員）
然リ本官モ亦惑ヲ同フス
（委員長）
結果トハ如何
（渡邊委員）
結果ニテハ不可ナリ原文ノ旨意ハ假令ハ石炭ヲ上海ニ輸送センニ當時開戰中ナルヲ以テ日本ニテモ中立ヲ布吿シタレハ石炭ハ開戰國ニ送ルコトヲ得ス爲メニ中途ニシテ其石炭ヲ差押ヘラレ大ニ損害ヲ蒙リタル時ニ於テハ各社員皆其持部高ニ應シテ損失ヲ引受クルカ如キ場合ヲ云フモノナレハ結果トシテハ甚タ原文ノ意ニ反スルカ如シ
○本條ハ遂ニ左ノ如ク修正スルニ決ス
○第百三十四條社員會社契約又ハ本條例ノ規定ニ據リ會社ノ爲メニ執行シタル各種ノ所業及ヒ取引ハ各社員ニ於テ其持分ノ割合ニ應シ之ヲ承認スルノ義務アリトス
第四款
○第百三十五條 商法草案第百十八條
社員ノ所業及ヒ取引ニ依リテ合名會社ニ得タル他人ニ對スル權利ハ其業務ニ參與セサルコトヲ官簿ニ登記セス又公吿セサル各社員ニ於テ裁判上ト裁判外トヲ論セス其全域ヲ擧テ之ヲ執行シ又此權利ニ付テ有効ノ處分ヲ爲スコトヲ得ヘシ
（渡邊委員）
全域ヲ擧テノ數字面白カラス
（本尾委員）
原第百十七條「其持分」ヲ「其持分ノ割合」ニト改ムヘシ
本條ハ社員業務擔當者トシテ官簿ニ登記ナク又公吿セサル通常社員ト所業取引ト雖モ苟モ會社ノ社員ノ所作ナルトキハ他人ニ對シテハ權利ヲ得義務ヲ負ハサルヘカラサルヲ示ス
（箕作委員）
有効トハ假令ハ貸金アランニ其貸金ヲ「テスホツシヨン」ナスヲ有効ナルモノトシテ權利ヲ如何樣ニモ處分スルコトヲ得ルヲ云フナリ
（本尾委員）
有効ナル處分ニハ假令ハ權利者タルモノ其辨償ヲ得ル爲メ相當ノ處分ヲ施行スルノ權アルモノヲ云フ
（長森委員）
全域ヲ擧テ之ヲ執行シト有効ノ處分ヲ爲ストノ區別如何
（本尾委員）
執行シトハ貸金ヲ取立ルヲ得ルヲ云ヒ處分トハ人ニ讓與又ハ賣却スルモ隨意ナルコトヲ示スモノナリ
（委員長）
裁判上トアリ既ニ裁判上ニテ定マリタル事柄ハ其通リ執行セサルヘカラサルナラン
（本尾委員）
否ラス原吿トナリ被吿トナリ事務ヲ處分スルヲ裁判上ト云ヒ會社內ニ於テ取引スル等ヲ裁判外ト云フナリ
○本條ハ左ノ通リ校正ヲ加ヘラレタリ
「他人」ヲ「第三者」ニ「官簿ニ登記」ヲ「登錄」ニ改メ各社員ニ「ニ於テ」ヲ省キ「其全域」云々以下ヲ「其範圍ヲ盡テ之ヲ主張シ又其權利ヲ處分スルコトヲ得ヘシ」ト爲ス
時ニ午後第二時二十分閉會