○第十二回
明治十七年九月五日
午前第九時三十分開會
○第百二十三條 商法草案第百六條
身體ヲ使役シ又ハ勞力ヲ供スルヲ以テ差入資本ト爲シタル社員會社契約存立中ニ死亡スルカ或ハ其他之ヲ供給スルコト能ハサルニ至リタルトキハ其差入義務及ヒ會社列員タルハ之レカ爲メニ終ルモノトス
（本尾委員）
本條ハ第百四條第百五條ニ對スルノ條ニシテ該條ハ收實權又ハ使用權ヲ差入シタルトキ其物件滅盡スルニ於テハ其損失ハ會社ニ歸スルヲ示シ本條ニ於テハ其損失又ハ身體ノ使役ヲ供資トシテ差入レ死亡其他之ヲ差入ルルコト能ハサル場合ニ至リタルトキハ其社員ハ社員タルノ名義ヲ失ヒ而シテ會社ニ對スル差入義務モ之レト共ニ消滅シ隨テ該社員ハ此時ヨリノ損益配當ヲ受ルノ權義ナキヲ示スナリ
（箕作委員）
使役ト勞力トノ差違如何
（本尾委員）
使役ト勞力トヲ區別スルコト甚難シ然ト雖モ强テ之ヲ區別セントスルトキハ使役ト譯シタルモノハ主トシテ身體ノ勞働ヲ使役者ノ命ニ放任シタルモノヲ云フ例之ハ丁稚奉公ノ類ノ如シ又勞力ト譯シタルモノハ一定ノ勞働ヲ自己ニ引受ケテ爲スモノヲ云フ例之ハ帳簿記載方ヲ自己ニ引受ル等ノ如シ
（委員長）
使役、又ハ勞力ヲ差入資本ト爲ストキハ豫メ其評價ヲ付シ置クコトナラン我邦ニ於テハ如斯例ハナカルヘシ
（長森委員）
否我邦既ニ其例比々之レアリ
（渡邊委員）
腕車會社ノ如キモ資本主ノ外勞力ノミヲ入レテ社員ニ列スルアリ
（箕作委員）
當時反譯會社ナルモノアリ是又其一ナリ
（細川委員）
製瓶會社ノ如キモ亦其一ナリ
（渡邊委員）
供給スルコト能ハストハ如何ナルヤ
（本尾委員）
疾病又ハ其他ノ事項ノ爲メ勞力又ハ使役ヲ供スルコト能ハサル場合ヲ云フ
（渡邊委員）
「身體ヲ使役ス」トハ自己ニテ自己ノ身體ヲ使役スルコトニ見ヘス其精神ハ身體ノ使役又ハ勞力ノ供出ヲ以テノ意ナルヘシ然ハ「使役又ハ勞力」ヲ改メ自己ノ「勞力勞心ヲ以テ」ト爲スヘシ蓋シ勞力勞心ノ熱語ハ孟子ニ見ル所トス
（塩田委員）
勞心トセハ或ハ心配スルコトト見ユルナリ
（周布委員）
勞力勞心ニテ可ナラン
（長森委員）
勞働トセハ如何
（渡邊委員）
勞力ノ二字ニテ使役ノコトハ包含スルナリ
（塩田委員）
「勞力勞心」ヨリハ寧ロ「勤勞」トセハ如何
（委員長）
勤勞ト爲ス方可ナリ
（渡邊委員）
「供給スル能ハサル」云々ヲ「行爲ニ堪ヘサルニ至リ」云々ト修正セハ如何
（鶴田委員）
「勤勞スルコト能ハス」ノ方可ナラン
（細川委員）
前ニ勤勞トアルヲ以テ勤勞スル能ハス云々ト改ムヘシ何トナレハ行爲トセハ大醉又ハ怠惰ヨリシテ勞役セサル如キモ云フノ嫌アリ故ニ勤勞ト爲シ之ヲ判然ナラシムヘシ
（渡邊委員）
勤勞スル能ハサルノ內ニハ死亡ノコトヲモ包含スルナリ
（長森委員）
供資ノ語ニ對スレハ矢張リ供給スルコト云々ノ方可ナルヘシ
（箕作委員）
其他之ヲ爲スコト能ハサル云々トセハ如何
（委員長）
可ナリ
（本尾委員）
「差入義務」ヲ「供資ノ義務」ト改ムヘシ又會社ノ列員云々ハ「社員ノ資格」ト改メテハ如何
（塩田委員）
本尾委員ノ說ヲ可トス宜ク修正スヘシ
（周布委員）
「終ル」ハ「消滅」トセハ如何
（長森委員）
「斷ユルモノトス」トスルヲ可トス
（委員長）
「終」ルノ方可ナルヘシ
○本條ハ遂ニ左ノ如ク修正スルコトニ決ス
第百六條自己ノ勤勞ヲ以テ供資ト爲シタル社員會社契約存立中ニ死亡スルカ或ハ其他之ヲ爲スコト能ハサルニ至リタルトキハ其供資ノ義務及ヒ社員タルコトハ之レカ爲メニ終ルモノトス（注意）「社員ノ資格ハ」ト決セシヲ次條ノ會議ニ至リ之ヲ「社員タルコトハ」ト再ヒ修正スルコトニ議定セリ
○第百二十四條 商法草案第百七條
社員若シ契約上ノ差入資本ヲ納メサルトキハ其怠納者ヲ除名スルト又百分ノ七ノ利足ヲ出サシムルト會社ノ撰擇ニ在ルモノトス且會社ハ其何レノ場合ニ在テモ損害ノ辨償ヲ要求スルヲ得ヘシ
（渡邊委員）
「若シ」ノ字ヲ削除スヘシ
（本尾委員）
本條ハ別三說明ヲ要セサルカ如シ
（鶴田委員）
何レノ場合トハ前文除名スルト利足ヲ出サシムトノ二ツノ場合ヲ云フノ意ナルヘシト雖モ少ク廣漠ニ失スルノ嫌ナキニアラス又撰擇ノ語ハ辨償ニモ關係スルヤ
（渡邊委員）
原書ニ於テハ辨償ニモ關係スルノ意味アリ
（委員長）
獨國利息制限法ハ如何
（本尾委員）
獨逸ニ於テハ利息制限ナシ普通民間利足ハ大槪四朱又ハ五朱ナリト雖モ商法中ニ規定シタル利息ハ百分ノ六ト爲セリ本條ノ利息ヲシテ百分ノ七ト爲シタルハ蓋シロエスレル氏未タ我邦ノ事情ヲ知ラサルニ依ルナラン
（委員長）
差入資本ハ月賦又ハ年賦或ハ一度ニ納付スルモノアルヘシ然ルトキハ除名ノ場合ニ至リ會社ハ既納額ヲ返却セサルヲ得サルナリ
（本尾委員）
差入資本ノ一部分ヲ既納シタル者殘餘ノ額ヲ怠ルトキハ又之ヲ除名シ得ヘシ然レトモ既納ノ額ハ之ヲ返却セサルヲ得サル可シ
（委員長）
除名ノ場合ニ於テハ利息ヲ拂ハシメサルノ精榊ナルヤ
（本尾委員）
然リ此場合ニ於テハ利足ハ要求セサル可シ然レトモ損害アルトキハ假令除名スルモ其償還ヲ要求スルコトヲ得ルナリ
（河上委員）
例之ハ十ニ月ヲ以テ納期ト爲ストキハ其月以後ノ利足ヲ拂フニ止ルヘシ
（本尾委員）
然リ期限後ノ利足ヲ拂ハシムルナリ
（箕作委員）
百分ノ七トハ法律ニ定メタル損害賠償ナラスヤ
（本尾委員）
否百分ノ七ノ利足ハ拂込延滯ニ對スルモノニシテ損害ノ有無ニ開スルコトナシ損害賠償ハ損害ノアリタルトキニ限リ之ヲ要求スルコトヲ得ルモノナリ故ニ其性質大ヒニ異ナリ
（委員長）
百分ノ上ノ「又」ヲ省キ會社ノ上ニ「ハ」ヲ挿入スヘシ
（渡邊委員）
「且會社ハ此兩樣ノ內何レノ場合ニ在テモ」ト爲スヘシ（注意）「若シ」ヲ省キ差入資本ヲ「供資」ニ改メ「除名スルト又」ノ「又」ヲ削除シ「出サシムルト」ノ下ニ「ハ」ヲ挿入シ「且會社ハ其」ノ「其」ヲ省キ之レニ代フルニ「此兩樣ノ內」ノ五字ヲ以テス
○第百二十五條 商法草案第百八條
社員若シ契約上ノ差入資本ヲ納ムルコト能ハサルニ至リタルトキハ會社ノ列員タルハ之カ爲メニ終ルモノトス但シ社員ノ承諾ヲ得テ他ノ差入資本ヲ代納スル如キハ此限ニ在ラス
（本尾委員）
本條ノ精神ハ供資トシテ納ムヘキモノ事故アリテ途ニ納ムルコト能ハサル場合ニ對スル規定ナリ假令ハ倉庫ヲ供資トナス契約ヲシタルトキ其倉庫燒失シタル場合ニ於テハ契約シタル物件滅盡シタルヲ以テ社員タル資格ハ之レカ爲メ斷絕セサルヲ得サルナリ然リト雖モ燒失シタル倉庫ニ代ルニ他ノ物件ヲ以テセント皿欲シ之レカ爲メ總四社員ノ諾ヲ受ケタルトキハ社員タルノ資格ヲ失フニ及ハサルナリ
（鶴田委員）
本條ハ勞力物件ノ何タルヲ問ハスヤ
（本尾委員）
然リ
（鶴田委員）
然ラハ原第百六條ト殆ント同一ナルカ如シ
（本尾委員）
第百六條ト相似タルト雖モ同條ニ於テハ但書以下ノ意ヲ缺ケリ本條ニ於テハ但書以下ヲ必要トス
（渡邊委員）
本條ハ是マテ駐帆列セシ所ノ條項ノ總括リト云フヘキモノナリ
（箕作委員）
但シ社員トアル社員ハ自己ヨリ他ノ社員ヲ稱スルモノナラン
（本尾委員）
然リ他ノ社員ヲ云フナリ故ニ之ヲ總社員トナス方可ナラン
（箕作委員）
然リ本條ハ總社員ト改ムヘシ
（細川委員）
代納トハ如何
（本尾委員）
代納トハ契約セシ供資ニ代ルニ他ノ物品ヲ以テシ之ヲ納ムルト云フ意ナリ卽チ甲物件ニ代テ乙物件ヲ納ムルナリ
（渡邊委員）
本條ノ但書ヲ削リ供資ヲ納ムルコト能ハサルニ至リタルトキハ總社員ノ承諾ヲ以テ他ノ供資ヲ代納スルニアラサレハ會社ノ列員タルハ絕ユルモノトストセハ如何
（本尾委員）
然カスルトキハ他ノ供資ヲ代納スルヲ以テ正則トシ社員タルノ資格ヲ失フヲ以テ變トナスカ如ク見ルノ嫌アリ原文ノ意ハ社員供資ヲ納ムルコト能ハサルニ至リタルトキハ之カ爲メ社員タルノ資格ヲ失フヲ以テ正則トシ而シテ若シ他ノ供資ヲ代納スル場合ヲ變則トナスモノノ如シ
（長森委員）
本條ハ代納ヲ正則トスルヤ社員タルコトノ斷絕スルヲ正則トナスヤ
（本尾委員）
前述ノ如ク社員タルコトノ終ルヲ以テ正則トシテ代納スルハ變則ナリトス
（箕作委員）
第百六條ト本條トハ全ク反對ナリ如何トナレハ本條ハ未タ資本納付前ノコトナリトス則第百六條ハ納付後義務ノ絕ユルコトヲ云ヒ本條ハ納付前ニ消滅スルコトヲ云フモノナリ故ニ第百七條ハ怠紬者處分法ナルヲ以テ條項ヲ變換シ第百六條第百八條第百七條ト其位地ヲ代ヘハ觀者モ大ニ其精神ノアル所ヲ知ルニ易カラン
（鶴田委員）
第百六條ハ勞力ノコトニシテ第百七條ハ怠納者處分ナレハ自カラ其間ニ區別アリテ本條ハ此ノ兩條ヲ包括スル所ノ規定ナリト信ス
（箕作委員）
第百五六條ニ對シテハ本條ヲ適用スルコトヲ得ルモ第百七條ニハ適用スルヲ得サルヘシ
（本尾委員）
箕作委員ノ說ノ如ク條項ヲ變換スルモ敢テ妨ケアルコトナシ
（委員長）
第百五六七條ノ場合ニ於テハ代納ハ之ヲ許サヽルモノナラン
（渡邊委員）
第百七條ニ於テモ勞力ノコトハ矢張包含スルモノナル、ヘシ
（委員長）
「代納スル如キハ」ヲ「代納スル者ハ」ト改ムヘシ
（渡邊委員）
「會社ノ列員」トアルヲ「社員タルコトハ」云々ト改ムヘシ第百六條ノ「社員タル資格ハ」トアルモ同ク修正スヘシ
○本條ハ遂ニ左ノ如ク決ス
第百八條社員契約上ノ供資ヲ納ムルコト能ハサルニ至リタルトキハ社員タルコトハ之カ爲メニ斷ルモノトス但シ總社員ノ承諾ヲ得テ他ノ供資ヲ代納スル者ハ此限ニ在ラス
○第百二十六條 商法草案第百九條
社員ヨリ會社ニ貸付ケタル金額及ヒ契約上ノ差入額ヲ超エテ會社ノ爲メニ支出シタル費用ニ就キ該社員ハ其辨償ノ外百分ノ七ノ利足ヲ要求スルヲ得ヘシ又社員業務取扱ノ爲メ直接ニ受タル損失ニ就テモ亦其辨償ヲ要求スルヲ得ルモノトス
（本尾委員）
原第百九條十條ハ義務ノ外ハ何事ヲモ爲スニ及ハストスルノ條ニシテ義務外ノ事ヲ爲シタル者ハ當然報酬ヲ受クルコトヲ差シ示スニアリ假令ハ大阪ニ赴キ好路ハ洪水ノ爲メ空シク途中ニ滯留スルトキハ其費用タル當然會社ヨリ受納スルコトヲ得ルカ如キ場合ヲ指スモノナリ
（長森委員）
「超テ」ノ字不用ナルカ如シ
（本尾委員）
否必要ナリ如何トナレハ借賃額外ノ支出ハ臨時支拂ナルモ又ハ公然タル貸付ナルモ社員ハ債主ナルヲ以テ利息ハ當然要求シ得ルヲ示スモノナリ是レ供資額ノ上ニ支出シタルモノナルヲ以テナリ
（渡邊委員）
「支出シタル費用ニ就キ」トアルヲ「會社ノ爲メナシタル曹〔消ニ就キ」ト改ムヘシ
（鶴田委員）
原案ノ方可ナリ
（委員長）
獨逸ニテハ利息ニ割合ヲ定ムルヤ
（本尾委員）
然リ商業上ニ於テハ大槪六朱ナレトモ雙方ノ約定ニ依テハ之ヲ增加スルコトヲ得
（渡邊委員）
此ニ百分ノ七ト定ムルモ雙方ノ契約ニ依テハ之レヨリ增加スルコトハ差支ナキヤ
（本尾委員）
然リ無論契約ナキトキニ限ルナリ
（渡邊委員）
社員ヨリ會社ニ貸付ケタル金額及ヒ契約上ノ供資額ヲ超ヘテ會社ノ爲メ支出シタル費額ニ就キ云々以下原文ニ同シ