○第十一回
明治十七年九月二日
午前第九時三十分開會
（委員長）
本日ヨリ集會日ヲ火金ノ兩曜日ト改定ス
（塩田委員）
火金兩曜日モ集會時間ハ矢張正午十ニ時マテナルヤ
（委員長）
否ラス午後三時マテナリ尤モ暑中ハ正午十ニ時ヲ以テ退散スル勿論ナリトス
○第百十七條 商法草案第百條
業務取扱ニ與ラサル社員ハ何時ニテモ業務景況ノ詳吿及ヒ會社牒簿書類ノ檢閱ヲ要求スルヲ得ヘシ
（本尾委員）
商法草案第八十五條第五項ニ商務ノ專權ヲ一社員ニ委任云々トアリ又商法草案第九十九條ニ業務擔當ヲ一社員又ハ數社員ニ委任スル云々トアルヲ以テ若シ商務ノ專權ヲ=一ノ社員ニ委任シタルトキハ其他卽チ業務取扱ニ與ラサル社員ノ權利如何ノ疑ヲ生ス可シ故ニ本條ニ於テ其權利ヲ定メタルナリ如此社員ハ平常ノ業務ニ就テハ敢テ干涉スルコトヲ得サルモ業務景況ノ詳報及ヒ牒鮨溽圭日粨从ノ檢閱ヲ要求スルコトヲ得ルモノトセリ
（塩田委員）
「詳吿」ヲ「報吿」ト修正セハ如何
（本尾委員）
詳吿トハ其事柄ヲ詳細ニ報吿スルト云フナリ
（塩田委員）
然ラハ詳報トセハ如何
（渡邊委員）
說明ニテハ如何
（塩田委員）
說明トハ說キ明ストノ意味ナレハ原文ニ少シク相違ス、、ヘシ
業務實況ノ詳報ト改正スルコソ至當ナリト信ス敢テ本尾委員ニ質ス
（本尾委員）
實況ノ詳報トスルモ强テ原文ニ差支アルコトナシ修正スルモ可ナラン
（注意）
「業務實況ノ詳印報」ト改メタルノミ
○第百十八條 商法草案第百壹條
總理代理ヲ委任シ及ヒ解任スルノ權利ハ業務擔當ノ社員之ヲ有スルモノトス
（本尾委員）
總理代理ヲ委任シ及ヒ解任スルノ權ハ重用ナルモノナルヲ以テ殊ニ本條ヲ設ケタルナリ獨逸ニテハ總理代理ヲ委任スルハ總脚社員ノ承諾ヲ受クルヲ要用トス昆取モ至急ヲ要スル場合ニ於テハ其例外トス要スルニ各業務擔當社員ハ惣員ノ承諾ヲ受クルニ及ハスシテ總理代人ヲ任免スルノ權ヲ有スルコトヲ明示スルニ過キサルナリ
（細川委員）
總理代理ノ文字穩カナラス又「社員皆之ヲ有スル者」トハ假令ハ細川ト渡邊ノ兩名ハ擔當社員ナルトキ渡邊細川各自ニ就テハ任免ノ權ヲ有スルコトナキモ兩名合意ヲ以テスルトキハ之ヲ有スルモノト解釋シテ可ナルヤ
（本尾委員）
否業務擔當者ハ各自ニ其權利ヲ有スト云フ意ニシテ必ラス業務擔當老數名ノ合意ヲ要スルニアラサルナリ
（箕作委員）
反譯ノ說明ニ依レハ細川委員ノ說當ヲ得タルカ如シ
（委員長）
然リ擔當社員皆之ヲ有スルトアリテハ細川委員ノ說ノ如ク解スルヲ以テ至骨田ナリトス
（鶴田委員）
本條ハ各社員自己擔當ノ業務ハ自己ノ意ニ任シ處分シ得ルモ一般ニ關係スルコトニ付テハ總社員ノ承諾ヲ得ヘシトナスノ意味ナルヘシ
（細川委員）
然リ
（本尾委員）
獨逸商法第百四條ニ於テハ總理代人ノ任冤ハ總員ノ承諾ヲ要スルコトトナスモ本草案ニ於テハ然ラス乍去實際ニ於テハ總社員ニ對シ可否ノ意見ヲ問フナルヘシ然ラサレハ一社員之ヲ委任スルモ他ノ一社員又之ヲ解任スルノ恐レナキニアラス故ニ到底總社員ノ承諾ヲ經サレハ委任又ハ解任ハナサヽル可シ
（細川委員）
本尾委員ノ說明ヲ聽クニ本官カ解釋シタル如ク一人ニテ委任シ又ハ解任スルコトヲナシ得サルノ精神ナリ
（本尾委員）
前述ノ如ク實際ニ於テハ協議ノ上任免ス可キナレトモ法律上ニ於テハ之ヲ要用トセス各自自己ノ權力ヲ以テ之ヲ任免シ得ルナリ若シ法律上ニ於テ他員ノ同意又ハ總員ノ同意ヲ要スルモノトナストキハ一人ノ業務擔當社員遠隔ノ地方ニ在ル支店ニ於テ總理代人ヲ任セントスルトキハ本店ニアル同僚ノ同意ヲ求メサル可カラス是レ甚不便利ナラスヤ
（渡邊委員）
業務擔當社員トハ商家ノ大番頭ノ如キモノナラン
（本尾委員）
然リ
（渡邊委員）
本條ハ一體合名會社ナレハ相互ノ信用ヨリ成立スルモノナルニ本條ニ於テハ一社員ノ獨斷ヲ以テ敢テ信用シ得サル人ヲ總理代人ニ任スル場合ニ立至リ大ニ本案ノ精神ニ矛盾スルノ恐レアルニアラスヤ
（本尾委員）
前ニ述ルカ如ク假令ヘ甲ノ任シタル代理人ニモセヨ乙ノ信セサルトキハ乙之ヲ解任スルコトヲ得ルヲ以テ決シテ差支ナカル可シ
（渡邊委員）
理ニ於テハ乙之ヲ解任シ得ルモ一人之ヲ命シ一人之ヲ免スル如キ途ヲ開キ置クハ大ナル弊アルヘシ故ニ獨逸法ノ如ク制限ヲ立ルヲ宜シトス
（箕作委員）
實際ニ於テハ擔當人ニハ大槪取扱事件ノ制限ヲ規定スルヲ以テ本條アルモ敢テ恣ニ爲シ得ルト云フニハアラサルナリ
（本尾委員）
然リ尤モ契約中ニ於テ總員ノ承諾ヲ得ヘキモノト規定シタルトキハ本條ヲ適用スルノ限ニアラサルナリ是レ本條ハ契約ヲ以テ左右シ得ヘキ條ナルヲ以テナリ
（箕作委員）
此㸃ニ付無名郞株式會社ト合名會社差違スル所アリヤ
（本尾委員）
敢テ異ナル所ナシ
（箕作委員）
株式會社ニ於テモ斯クナラサレハ頭取事務ヲ取扱フ勹ト始肪ハサルヘシ
（本尾委員）
本條ノ「社員皆」ヲ「各社員」ト改ムヘシ
（塩田委員）
然リ
（鶴田委員）
總理代理者ハ土地ヲ賣拂フコトヲ得ルヤ
（本尾委員）
本草案ニ於テハ其商業ニ屬スルトキハ賣拂フコトヲ得ルナリ商法草按第四十七條ノ說明ニ詳ナリ
（渡邊委員）
如斯事件ハ我邦ニ於テハ容易ナラサルノ條項ナレハ深ク考量セサルヘカラサル所ナリ
（箕作委員）
商法制定ナラサル以上ハ其權理上甚タ混雜スルニ至ラン
（本尾委員）
然リ總理代理者ノ權限ヲ規定セサレハ甚タ不都合ナル結果ヲ呈スルニ至ルナラン
（渡邊委員）
「總理代理」ヲ「經理者」ト改ムヘシ
（鶴田委員）
假令ハ社員ニシテ總理代人ノ委任ヲ受クルトキハ總理代人トシテハ社員ノ資格ヲ有セサル可シ
（渡邊委員）
經理者不都合ナレハ代辯者トセハ如何
（箕作委員）
夫ニテ先ツ可ナルヘシ
（注意）
「總理代理」ヲ「代辯者」ニ改メ「當ノ」下ニ「各」ヲ加ヘ「皆」ノ=子ヲ省ク
○第百十九條 商法草案第百二條
各社員ハ會社ニ對シテ誠實信義ヲ盡シ又尋常商人ノ自己ノ業務ニ於ケルト齊シキ勉勵注意ヲナスノ義務アリ且自己ノ義務ヲ侵シテ會社ニ生セシメタル損害ハ之ヲ補償セサルヘカラス
（本尾委員）
本條ハ社員ノ怠ル者アルトキ其怠ヲ判定スルニ當リ憑準トナスヘキ度ヲ示シ其程度ハ正當ナル商人ノ自己ノ商業ニ注意スルト同シキモノヲ要スト云フニ在リ而シテ其義務ヲ怠リタルモノハ之カ爲メ生シタル損害ヲ賠償スルノ義務アリトスルナリ
（箕作委員）
佛法ニモ本條ノ如キモノアリ則チ艮法ニ人ノ財產ヲ預リタル者ハ自己ノ財產ヲ簡理スルト同樣ノ注意ヲ爲スヘシト其精神之レト異ナル所ナシ
（委員長）
「自己ノ義務ヲ怠リ」云々ハ穩カナラス
（本尾委員）
然リ「其義務ヲ怠リ云々」トセハ可ナラン
（細川委員）
尋常トアルモ我邦ニテ云フトキハ適當トスル方或ハ可ナラン
（本尾委員）
然リ適當又ハ正當トナス方可ナルヘシ
（委員長）
「又」ハ如何ナル意味ナリヤ
（本尾委員）
「又」ノ字ヲ入レシハ誠實信義ト勉勵注意ヲ區別シタルナリ
（委員長）
尋常云々ヲ正當ナル商人トナシ且自己ノ義務ヲ侵シテトアルヲ「其義務ヲ怠リ會社云々」ト改ムヘシ
（渡邊委員）
然リ
（注意）
「又尋常」ヲ「正當ナル」ニ改メ「商人ノ」ノ「ノ」ヲ省キ「且自己ノ」ヲ「其」ニ「侵シテ」ヲ「怠リ」ニ改ム
○第百二十條 商法草案第百三條
社員ノ差入レタル資本ハ會社ノ所有ニシテ契約上ニテ確定シタル價額ヲ附シ會社ノ財產目錄中ニ記入スヘシ
（本尾委員）
第百九十六條ヨリ前條マテハ社員相互間ノ權利義務中ニ於テ人ニ開スルコトヲ云ヒ本條ヨリ以下ハ其中ニ於テ財產ニ關スルコトヲ云フ蓋シ會社ニシテ自己ノ財產ナキトキハ會社ハ成立セサルヲ以テ社員ヨリ差入タル財產ハ會社ノ所有ニ歸ス可シト規定シ而シテ其財產ハ契約卽チ雙方ノ合意ヲ以テ定メタル價額ヲ附シ之ヲ會社ノ財產目錄中ニ記入シ以テ會社ノ財產確定スルナリ
（委員長）
「會社ノ所有ニ歸シ」トセハ可ナラン
（箕作委員）
「歸シ」ニテハ能々持込ムノ意味アリテ不適當ナランカ
（本尾委員）
持込ムノ意味アリテ差支アルコトナシ如何ナレハ例之三百圓ヲ出金スルノ契約アルモ之ヲ金庫ニ持込マサレハ會社ノ財產トナラサレハナリ
（箕作委員）
否「歸スル」トセハ一ノ「アクシヨン」ヲ要セサル可カラサルノ嫌アリ
（本尾委員）
「アクシヨン」ヲ要スルトナルモ差支ナカル可シ
○第百二十一條 商法草案第百四條
社員若シ物件ノ入額所得權利又ハ使用權利ヲ差入ルルトキハ其入額所得權利又ハ使用權利ノミ會社財產ニ移轉スルモノトス
（本尾委員）
本條ハ收實權及ヒ使用權ノミヲ差入ルル時ハ其實物ハ會社ノ所有ニ歸セスシテ唯收實權又ハ使用權ンミ會社ノ所有ニ歸ス可キモノトスルナリ
（細川委員）
本條ノ如キ差入資本ナルモ契約上ニテ價額ヲ定ムルモノナルヤ
（本尾委員）
然リ定メサル可カラサルナリ
（注意）
「若シ」ヲ省キ「使用權利ノミヲ差入」ノ「ノミ」ヲ加ヘ「財產」ヲ「資產」ニ改ム
第百二十二條 商法草案第百五條
若シ前條ノ物件其差入後滅盡スルトキハ其所有權利ノ損失ハ所有主ニ歸シ其入額所得權利又ハ使用權利ノ損失ハ會社ニ歸スルモノトス
（渡邊委員）
「若シ」ノ二字ハ削除スヘシ
（細川委員）
物件トハ有形物ノミヲ指スカ
（鶴田委員）
否ラス無形物ヲ亦包含スヘシ
（箕作委員）
權利差入ト云フヘキヲ物件差入トセシハ理論ニ適當セサルカ如シロエスレル氏ニ質問セハ如何
（塩田委員）
本條ノ如ク物件差入トナス方至極適當ナラン尤モ之ヲ穿鑿シテ云フトキハ單ニ物件トセハ或ハ無形物ハ包含セサルノ患ナキニアラサレハ何トカ修正スルモ可ナルヘシ
（岸本委員）
今日法理上ニ於テハ大槪物件トアレハ無形物ヲモ包含スルコトトナセリ
（渡邊委員）
本條ノ滅盡トハ原物ノ滅盡スルニアラサルナリ假令ハ此ニ通常ニ異ナル毛色ノ兎ヲ觀セ物トナシ其見料帥收實權ヲ以テ會社ニ差入ルルニ其後毛色ノ通常ノモノト變シタルトキ原物ハ滅盡セサルモ其損失ハ會社ニ歸スルナル可シ
（本尾委員）
「前條ノ物件其差入後滅盡云々」トアルヲ以テ物件卽チ有形物ヲ差入資本ト爲スカ如ク見ユレトモ然ルニアラスシテ差入資本ト爲スハ入額所得又ハ使用權利ナリ然レトモ其權利ヲ使用セシメントスルニハ亦物件モ會社ニ引渡サヽル可カラス而シテ其引渡後該物件ノ滅盡シタル場合ヲ云フナリ
（委員長）
物件トハ權利ヲ指スヤ將タ物品ヲモ包含セシムルノ意ナルヤ文法上穩カナラス一應ロエスレル氏ニ質問スヘシ
（本尾委員）
諾
于時正午十二時十分閉會