○第十回
明治十七年七月三十日
欠席 鶴田委員
午前第九時十分開會
（委員長）
第三款ニ移ルヲ止メ本日ハ是迄修正シタル各條ヲ比較セハ如何
（細川委員）
第三款ニ移ランコトヲ望ム
（渡邊委員）
速ニ修正ヲ終ヘソカ爲メ第三款ニ移ラレタシ
○第三款 社員相互ノ間ノ權利義務
○第百十三條 商法草案第九十六條
社員相互ノ間ノ權利義務ハ會社契約ニ依テ定マルモノトス但シ此商法中ノ規則ト牴觸スル契約ノ條件ハ此限ニ在ラス
（渡邊委員）
「相互ノ間」ハ「相互」ニテ可ナラン
（本尾委員）
「此商法」ハ「本法」ト改ムヘシ
（箕作委員）
會社條例ノミナラス他ノ一般ノ法律ニモ背反セサル緩包含セシムヘシ
（渡邊委員）
本法ハ勿論ナリトノ意味ヲ包含セシムルヲ要ス
（本尾委員）
本條ノ文字ニ就テ其精神ヲ索ムルトキハ何レノケ條ヲ問ハス本法中ノケ條ニ牴觸スル契約ハ爲シ得可カラサルモノヽ如シ然リト雖モ本法中ノケ條ニシテ例之ハ第百七條ノ利足ノ額ノ如キ契約ヲ以テ之ヲ左右シ得ヘキモノ往々之レナシトセス故ニ是等ノ㸃ニ付キロエスレル氏ヘ委敷質問シテハ如何
（渡邊委員）
「會社條例」ト云フヨリ會社法ト云フヲ可トス且ツ但書ハ第一項ノ本文中ニ箝入スヘシ
（細川委員）
「本法ノ規定」トセハ他ノ法律ハ契約ト牴觸スルヲ得ヘキノ嫌アリ
（渡邊委員）
否此法スラ牴觸スルヲ得ス況ンヤ他ノ一般法ニ背反スルヲ得サルハ明了ナリ
○本條ハ遂ニ左ノ如ク修正ヲ加ヘタリ
○原第九十六條
社員相互ノ權利義務ハ本法ノ規定ト牴觸セサル限リハ會社契約ニ依テ定マルモノトス
○第百十三條 商法草案第九十七條
會社契約ニ於テ定則ヲ設ケサル事項或ハ會社契約施行上ノ事項ハ社員同議ノ多數ニ決スヘシ
（本尾委員）
會社契約ニ於テ定則ヲ設ケサル事項ト會社契約施行上ノ事項トヲ區別セサル可カラス第一ノモノハ會社契約中ニ於テ規定セサル事項ニシテ第二ノモノハ會社契約中ノ規定ヲ實施スルニ關スル事項ヲ云フナリ又社員ノ同議トアルハ總社員ヲ云フニアラスシテ例ヘハ業務擔當社員ノミノ同議ニテモ場合ニ依リテハ妨ケアルコトナキナリ
（箕作委員）
契約ニ規定セサル事項ヲ決スルトキハ契約ヲ變更スルニ至ル場合之レナシトセス然ルニ契約ノ變更ハ第八十九條ニ基キ總社員ノ同意ヲ要ス如此總社員ノ同意ヲ要スルトノ法律ニ明文アルモ契約ニ規定セサル事項ナルトキハ社員ノ多數決ニテ決スルモ妨ナキノ意ナリヤ
（本尾委員）
否契約ノ變更ニ涉ルトキハ必ラス總社員ノ同意ヲ得サル可カラス本條ノ契約ニ規定セサル事項トハ契約ノ變更ニ至ラサル瑣少ノ事項ヲ云フナリ
（塩田委員）
事項云々トハ事項ニ付爭論ノ起リタルトキハト云フ意ナリヤ
（本尾委員）
否爭論ノ起ルヲ俟ツニ及ハサルナリ又時トシテハ爭論ノ起リタルトキニ至リ決スルコト之レナシトセス
（渡邊委員）
「規定ニ係ル取扱ノ事項」トセハ如何
（本尾委員）
「會社契約實施上ノ事項」トセハ如何
（岸本委員）
事項云々トハ實際爭論ノ起リタル場合ニ限ルヘシ
（本尾委員）
然ラス爭論ノ起リタル場合ニ限ルニアラサルナリ
（委員長）
「社員ノ多數」ハ不都合ナルヲ以テ「社員ノ多數議ニ之ヲ決スヘシ」トセハ如何
（渡邊委員）
「社員多數ノ同意ニ之ヲ決スヘシ」トセハ如何
（委員長）
社員合意ノコトヲ揭クヘシ是最モ要用ナレハナリ
○本條ハ衆議ノ上左ノ如ク修正ス
○原第九十七條
會社契約ニ規定セサル事項或ハ會社契約規定ノ施行ニ關スル事項ハ社員ノ多數ニ依テ之ヲ決スヘシ
○第百十五條 商法草案第九十八條
會社ノ目的ニ反スルカ或ハ目的ヲ踰ユル業務及ヒ社務ニ於テハ總社員ノ同議ヲ要ス
（本尾委員）
前條ハ瑣末ノ事項ニ關スル規定ナルモ本條ハ之ニ反シ重大ナル事項ニ關スル規定ナリ
（塩田委員）
「反スル」ノ語適當ナラサルカ如シ
（渡邊委員）
「反スル」ハ「異ナル」ノ意ナラン
（本尾委員）
然リ
（渡邊委員）
「社務」ハ「事項」ナラン
（本尾委員）
然リ事項又ハ事件ト爲ス方穩當ナラン又業務ノ字ハ取引トナシテモ可ナリ
（渡邊委員）
取引ト爲ストキハ雇入契約ヲ爲ス如キハ其中ニ包含シ得サルヲ以テ不都合ナルヘシ
（塩田委員）
「目的ヲ踰ル」ハ「目的ノ分界ヲ踰ル」ノ意ナルヘシ
（渡邊委員）
「社務」ハ「事件」トシ又「總社員ノ同議」ハ「總社員ノ同意ヲ要ス」トスヘシ
（箕作委員）
「同意」ノ語ハ俗字ナルヲ以テ寧ロ合意又ハ一致ト改メハ如何
（塩田委員）
「同意」ノ方可ナラン
○本條ハ遂ニ衆議ノ上左ノ修正ヲ加フルコトニ決ス
○原第九十八條
會社ノ目的ニ異ナルカ或ハ其目的ヲ踰ル諸般ノ業務及ヒ事件ニ就テハ總社員ノ同意ヲ要ス
○第百十六條 商法草案第九十九條
會社ノ業務上及ヒ社益計畫上ニ就テハ各社員同等ノ權利義務ヲ有スルモノトス但シ會社契約ニ於テ他ノ規則ヲ定ルモノハ此限ニ在ラス會社契約ニ依リ若干ノ業務又ハ各般ノ業務取扱ヲ一社員又ハ數社員ニ終始委任シタルトキハ第九十七條ニ規定シタル事項ニ對シ數員ニ於テ同條ノ例ニ準スヘシ差入資本ノ額ニ從テ社員ノ參決權利ノ差等ヲ立ルコトヲ得ス
（渡邊委員）
「會社ノ業務施行上」トナスヘシ
（本尾委員）
「社益計畫」ノ原文ハ「會社ノ利害ヲ代表スル」ト云フ意ナリ
（渡邊委員）
「會社ノ業務施行及ヒ社務代辯ニ」トセハ如何
（箕作委員）
「會社ノ利害ヲ代表スルニ就テハ」トスルヲ可トス
（委員長）
會社ノ利益ヲ保護スルトセハ如何
（本尾委員）
保護ノ語少シク不適當ナラン
（塩田委員）
「社益計畫」ハ「社務擔當」トセハ如何
（委員長）
社務擔當ハ不可ナラン
（細川委員）
會社ノ利益ヲ擔當スルトセハ可ナラン
（委員長）
「會社ノ利益ヲ保護スルコトニ就テ」ト直譯スルヲ可トス
此社益計畫ノ原語殊ニ「フエルタレーツソク」ノ字ハ白耳曼ニ於テハ如何ナル意味ヲ包含スルヤ
（本尾委員）
「フエルタレシツソク」ノ字義ハ代理又ハ代表スルノ意ナリ會社ノ「イソテレセー」ヲ代表スルトハ猶國會議員ハ全國ノ「イソテレセー」ヲ代表スルト云場合ノ如キ意味ニシテ其利害ヲ量リ適宜ノ所分ヲ爲スヲ云フナリ又今辭書ヲ見ルニ「フエルタレーツソク」ノ解釋ハ第一「踏ミ誤ル」第二「道ヲ仕切リテ、フミ入ルコトヲ止ム」第三「フミ、ツフス」第四「他人ノ位置ニ代ル」而シテ此第四ヲ分テ又ニトス其一「他人ニ代テ事ヲ爲ス」其ニ「防禦スル」トアリ
（委員長）
社務擔當トセハ申付ラレタル職務ノ如ク見ユルナリ
（本尾委員）
會社ノ利害ニ付害ヲ防キ利ヲ取ルノ處置ヲ爲スコトト云フノ意ヲ包含セシメサルヘカラス
（箕作委員）
矢張リ會社ノ利害ト云フヲ可トス
（委員長）
可相成丈損失セサル樣社員皆同等ニ勉强セサルヘカラスト云フノ意ナリ
（周布委員）
「社益計畫」ニテ差支ナカルヘシ
（箕作委員）
原案ノ儘トシロエスレル氏ニ質問シタル上修正セン
（委員長）
「會社ノ利益ヲ保護スル」トセハ如何且ツ此文字ヲ佛英字ニ譯スル樣ロエスレル氏ニ質問スヘシ
（本尾委員）
諾
（渡邊委員）
「會社ノ利益ヲ保衞スル」トセハ如何
（箕作委員）
一文章各異ナリタル事件ヲ記スルトキハ冒頭ニ〇ヲ付スルトセハ如何
（本尾委員）
可ナラン
（委員長）
然リ○ヲ付スヘシ
（本尾委員）
業務取扱ヲ一員又ハ數員ニ終始委任シタルトキ第九十七條ノ決議ハ其數員ノ多數ニ依テ決ス可シト云フ意ナルヲ以テ左ノ如ク修正ハ如何
會社契約ニ依リ業務ノ一部又ハ幾部ヲ一社員又ハ數社員ニ委任シタルトキハ第九十七條ヲ此ニ適用スヘシ
（渡邊委員）
多數ニテ決スルコトヲモ委任シタルトノ意ナルヤ
（本尾委員）
然リ業務取扱ヲ數員ニ委任シタルトキハ第九十七條ノ決議モ其數員ノ多數ニテ決ス可シト云フナリ
（渡邊委員）
本條ハロエスレル氏ニ質問セラレタシ
（本尾委員）
諾
○本條ハ種々討議ノ上遂ニ左案ノ如ク修正ヲ加ヘラレタリ
○原第九十九條
會社ノ業務施行及ヒ會社ノ利益ヲ保衞スルニ就テハ會社契約ニ別段ノ規定ナキ限リハ各社員同等ノ權利義務ヲ有スルモノトス
○會社契約ニ依リ若干ノ業務又ハ諸般ノ業務取扱ヲ一社員又ハ數社員ニ專ラ委任シタルトキハ第四十九條ヲ又玆ニ適用ス可シ
○供資ノ額ニ從テ社員ノ發言權利ニ等差ヲ立ルコトヲ許サス
于時午前十二時二十五分閉會