○第九回
明治十七年七月廿八日
欠席 鶴田委員
仝 周布委員
午前第九時開會
○第百三條 商法草案第八十六條
前條ニ記載シタル一件又ハ數件ニ於テ爾後變更アリタル歟或ハ約定ヲ更メタルトキハ亦之ヲ七日以內ニ商業簡明簿ニ登記シ且公吿スヘシ違背スル者ハ一日每ニ二圓以上十圓以下ノ罰金ヲ科スヘシ
（本尾委員）
本條ハ前條ニ別記シタル事項ヲ變更シタル場合ヲ示スモノニシテ第八十四條ト其精神異ナルコトナシ
（塩田委員）
本條變更ヲ以テ精神トスルヤ
（本尾委員）
然リ
（岸本委員）
原第八十四條ニハ之ヲ爲サヽル者トアルニ本條ニハ違背スル者ハトナセリ原文意味ヲ異ニスルヤ否同一意味ナリトセハ同文ニ改ムル方可ナルヘシ
（本尾委員）
同一意味ナレハ前條ト同シク「之ヲ爲サニル者」ト改ムヘシ
（箕作委員）
「約定ヲ更メ」トハ原文ニハ「變更ヲ約定スル」トアリ反譯其當ヲ得ルカ
（本尾委員）
原文ニハ「變更ヲ協議シタルトキ」トアリ
（渡邊委員）
爾後以下ヲ「變更ヲ生シタルトキ又ハ變更ヲ約定シタールトキ」掛改メハ如何
（塩田委員）
變更ヲ生スルトハ合意ヨリ生スルニアラスシテ他事件ヨリ生シ來ルモノヲ云フ約定トハ談合ニ出ルモノヲ云フナルヘシ且本條ニ「違背スル者」トアルハ第八十四條ト同シク「之ヲ爲サエル者」ト改メサルヘカラス
（渡邊委員）
「罰金ヲ科スヘシ」トハ改メテハ如何
（本尾委員）
然リ改ムルモ可ナリ
○本條ハ各委員合議ノ上左ノ如ク修正スルニ決ス
原第八十六條前條ニ記載シタル一件又ハ數件ニ於テ爾後變更ヲ生シ又ハ合議ヲ以テ變更シタルトキハ亦之ヲ七日以內ニ商業登錄簿ニ登記シ且公吿スヘシ之ヲ爲サヽル時ハ一日每ニニ圓以上十圓以下ノ罰金ニ處セラルヘシ
○第百四條 商法草案第八十七條
登記及ヒ公吿前ニ於テハ會社開業スルヲ得ス違背スルトキハ判事ノ處分ヲ以テ其營業ヲ差止メ且其會社ニ一日每ニ五圓以上五十圓以下ノ罰金ヲ科スヘシ
（本尾委員）
判事ノ處分ヲ以テトハ行政官ノ之ヲ爲スモノニアラサルヲ示スナリ卽チ如此場合ニ於テハ裁判官又ハ判事ノ書面アルニアラサレハ其營業ヲ停止スルコトヲ得サルナリ
（渡邊委員）
判事ハ裁判官ト改ムル方可ナラン
（本尾委員）
然リ
（塩田委員）
判事ノ處分ト譯セシモ原文ノ意味ヲ考フレハ裁判官ノ命令トナス方可ナラン乎
（岸本委員）
裁判官ハ所長ナルヤ
（本尾委員）
否所長ニ限ルニアラサルナリ
（長森委員）
「違背」ハ「開業スル」トセハ如何
（箕作委員）
塩田委員ノ諡ノ如ク「判事ノ處分」ヲ改メテ「裁判官ノ命令」トナスヘシ
（渡邊委員）
然リ改ムル方可ナラン
○第百五條 商法草案第八十八條
會社若シ登記ノ日ヨリ六ケ月間ニ開業セサルトキハ其登記及ヒ公吿ハ無効ノモノトス
（本尾委員）
無効トハ六ケ月內ニ開業セサルトキハ無効トナルモ更ニ登記公吿スルニ於テハ開業スルコトヲ得ルモノニシテ決シテ會社ヲ解散セサルヲ得サルニアラサルナリ
（長森委員）
本條ノ說明書ニ「其他此規定ニ依テ種々ノ不正ナル所業ヲ制止スルヲ得ヘシ」トアリ意昧如何
（本尾委員）
期限ヲ過キ開業セサルモノハ其會社ニ故障アルナラン其故障タル不正ノコトナキニアラス本條ハ是等ノコトヲ打消サンカ爲メニ設ケタルモノナリ
（委員長）
假令六ケ月ヲ過ルモ再ヒ登記公吿セハ有効トナルノ意ナルヘシ
（本尾委員）
然リ
（細川委員）
然ラハ看板ノミヲ揭ケテ未タ賣品到着セサルト云フヲ以テ開豐禾ヲ延期スルコトヲ得ルヤ
（委員長）
我邦ニ於テハ盡ク看板ヲ揭出スルトハ云ヒ難シ
（細川委員）
否多クハ未タ商業ヲ始メサル以前ニ揭出セリ
（委員長）
若シ本條發布アラハ政府ヨリ看板ノ寸法ヲ極メテ開業ト共ニ之ヲ揭示スヘシト命令ヲ下サヽルヘカラス然ラサレハ此條アルモ其効ヲ奏スルニ難カラン乎
○第二款
○第百六條 商法草案第八十九條
會社契約ハ總員ノ同意ニ非ラサレハ變更スルヲ得ス若シ總員ノ同意ヲ得サルトキハ舊契約ニ據ルヘシ
（渡邊委員）
「據ルヘシ」ハ「循フヘシ」トセハ如何
（委員長）
「總員ノ同意」トアルヲ「總員ノ決議」トセハ如何
（渡邊委員）
否多數決ニ依ルモノニアラサレハ決議トハ云フヲ得ス
（本尾委員）
合名會社ノ契約ハ總社員協議ノ上成立ツモノナレハ之ヲ變更スルモ亦總員ノ協議ヲ以セサルヘカラサルナリ
（塩田委員）
「舊」ハ「從來」ト改ムヘシ
○本條ハ合議ノ上左ノ如ク修正ニ決セリ
○原第八十九條
會社契約ハ總員同意ノ決議ニ非ラサレハ變更スルヲ得ス若シ此ノ決議ヲ得サルトキハ從前ノ契約ニ循フヘシ
○第百七條 商法草案第九十條
社員ハ契約上ノ高ノ外ニ其差入資本ヲ增額シ又ハ損失ニ由テ減少シタル高ヲ補充スルノ義務ナキモノトス
（本尾委員）
前條卽チ第八十九條以下ハ會社契約變更ノ場合ヲ示スモノナリ抑合名會社ハ總社員ノ合意卽チ相互ノ信用ヨリ成タルモノナレハ其契約ヲ變更スルニモ亦總社員ノ合意ヲ要スルハ論ヲ俟トタスト雖トモ本條ニ於テハ前條ノ例外ヲ設ケ總社員ノ合意ニアラサルモ=一ノ社員ノ之ヲ欲スルコトアルトキハ供資ヲ增加シ又ハ損失ニヨリテ減少シタル額ヲ補充スルコトヲ得ルモノトセリ故ニ義務ナシ」トアリテ權利ハ有スルモノト爲セリ其詳細ハロエスレル氏商法草案第九十條ノ說明ニ詳ナリ
（委員長）
補充トハ減少シタル高ヲ指スヤ塘額シタル高ナルヤ甚タ明瞭ナラス
（渡邊委員）
減少シタル高ヲ補充スルノ意ナラン
（本尾委員）
然リ「減少シタル高云々」トアルヲ「減少シタル供資ヲ云々」ト改メハ如何
（塩田委員）
可ナリ
（渡邊委員）
社員ハ其供資ヲ契約上ノ高ノ外ニ增額シトセハ如何
（委員長）
可ナリ
（塩田委員）
契約上ノ高トハ差入ヘキ高ヲ云フモノナレハ其實供資ト同一ナルヘシ
（本尾委員）
本條ノ精榊ハ契約ニ依テ定メタル高ノ外更ニ之ヲ墳加スルノ義務ナシト雖トモ其權利ハナキニアラスト云フノ意ナリ
○本條衆議ノ上左ノ如ク修正スルニ決ス
○原第九十條
社員ハ其供資ヲ契約ニ定メタル宀咼ノ外ニ塘加シ又ハ損失ニ由テ減少シタル供資ノ高ヲ補充スルノ義務ナキモノトス
○第百八條 商法草案第九十一條
社員ハ總社員ノ承諾ヲ得ルニ非ラサレハ自己ノ差入資本又ハ持部高ヲ減少スルヲ得ス
（本尾委員）
差入資本卽チ供資ト持部高トノ區分ヲ判然セサル可カラス供資トハ會社ヘ差入レタル資本ヲ云ヒ持部高トハ供資ニ拘ワラス會社資產中ニ自己ノ部分トシテ有スル高ヲ云フナリ是ヲ以テ供資ハ終始其碩ノ變スルコトナキモ持部高ハ會社損益ノ多少ニ依リ常ニ其額ヲ變スルモノナリ而シテ本條ノ精神ハ前條ト異ナリテ供資又ハ持部高ノ減少ハ總社員ノ承諾ヲ得ルニアラサレハ之ヲ爲スコトヲ許ササルナリ
（渡邊委員）
持部高トハ會社資產ノ各社員ニ分賦セラル可キモノヲ云フナルヘシ
（本尾委員）
然リ
（渡邊委員）
總社員トアリテハ 人ノ社員ヲ;樣ニ見ルノ嫌アリ故ニ他社員ノ總數ノ承諾トセサルヘカラス
（委員長）
他ノ字原語ノ意ニ適當セス
（渡邊委員）
持部高ヲ「持分高」ト改ムヘシ
（細川委員）
「高」ノ字ヲ省クヘシ
○本條ハ終ニ左ノ如ク修正スルコトニ決ス
○原第九十一條
社員ハ自餘ノ社員總數ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ自己ノ供資又ハ會社/資產中ノ持分ヲ減少スルヲ得ス
○第百九條 商法草案第九十二條
社員ハ總社員ノ承諾ヲ得ルニ非ラサレハ他人ヲ入社セシメ又ハ自己ノ代員ト爲スヲ得ス但シ契約ニ反對ノ明條アルニ非ラサレハ亡社員ノ家督相續人又ハ權利相續人ハ本員ノ嗣員トナルヲ得ヘシ
（本尾委員）
「自己ノ代員」ハ「自己ノ位置ニ代ラシム」ノ意ナリ
（塩田委員）
代ラシムルトセハ代理ノ性質アルモノト解スルノ恐レアリ
（箕作委員）
家督相續人ヲ相續人トナシ權利相續人ヲ權利承繼者ト爲ス可シ
（細川委員）
權利承繼者ヲ定ムルハ如何ナルモノヲ以テ之ヲ定ムルヤ冂
（渡邊委員）
民法ヲ以テ之ヲ規定セサル可カラスノ本條例ヲ以テ之ヲ定ムルコト能ハサルヘシ
○本條ハ協議ノ上左ノ如ク修正ヲ加フ
○原第九十二條
社員ハ前條同樣ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ他人ヲ會社ニ加入セシメ又ハ自己ノ地位ニ替ユルコトヲ得ス然レトモ亡社員ノ相續人又ハ權利承繼者ハ契約ニ反對ノ明條アルニ非サレハ本員ノ地位ヲ繼續スルコトヲ得ヘシ
○第百十條 商法草案第九十三條
持部高ヲ他人ニ販賣讓與スルコトハ會社ニ對シテモ又ハ他人ニ對シテモ其効ナキモノトス
（本尾委員）
本條ノ精神ハ合名會社タル前述ノ如ク社員相互ノ信用ヨリ成立スルモノナルヲ以テ社員自己ノ持分ヲ他人ニ販賣讓與スルヲ得サルコトヲ示スナリ又本條ヲ「會社資產中ノ持分ヲ他人ニ讓與又ハ移轉スルモ會社及ヒ他人ニ對シ」云々トセハ如何
（箕作委員）
可ナリ
（渡邊委員）
細川委員ノ解釋ニテハ本條ハ從令總員ノ許諾ヲ得テ之ヲ讓與移轉スルモ法律ノ禁スル所ナレハ固ヨリ無効ナルヘシト本官ノ思料ハ之ニ反シ總員ノ許諾ヲ受ル以上ハ之ヲ爲スヲ得ヘシト信ス其區別如何
（本尾委員）
總員ノ承諾ヲ以テ之ヲ爲スハ契約ヲ變更スルモノナルヲ以テ決シテ差支ナカル可シ
（河上委員）
「他人」ノ字允當ナラス賣買者雙方ヲ除クト云フ意ナルヤ將タ社外人ト云フ意ナルヤ判然セス
（箕作委員）
他人トアルモ差支ナシ如何トナレハ甲乙ノ外ハ皆他人ト見レハナリ
（本尾委員）
他人ノ字ハ契約者雙方ヲ除キタルノ意ナリ故ニ渡邊委員ノ提出セラレタル如ク第三者トナスモ妨ケナカル可シ
本條ハ衆議ノ上左ノ如ク修正セラレタリ
○原第九十三條
會社資產中ノ持分ヲ他人ニ讓與又ハ轉移スルコトハ會社ニ對シテモ又ハ第三者ニ對シテモ其効一ナキモノトス
○第百十一條 商法草案第九十四條
社員若シ他人（副社員）ヲ自己ノ持部高ニ加入セシムルトキハ其關係ハ本卷（第七十二條以下）中一般ノ規則ニ從テ之ヲ判斷スヘシ
（本尾委員）
本條ハ第九十二條ノ他人ヲ會社ニ加入セシメ社員トナスト異ナリテ他人ヲ自己ノ持分間ニ加入セシムルモノニシテ之ヲ社員トナスニアラス匿名員ト爲スヲ云フナリ
（箕作委員）
第七十二條以下トハ如何
（本尾委員）
第七十二條ハニ人以上乘合商法ノ場合卽チ匿名組合ニ對スル規定ナリ
（箕作委員）
副社員ノ字如何
（本尾委員）
「副社員」ハ猶間接組合員ト云フカ如シ
（本尾委員）
第七十二條ノ組合ハ純粹ナル會社ニアラサルヲ以テ社員ト云フハ不都合ナラン歟
（長森委員）
副社員ハ社員トシテ名簿ニ列スルモノニアラサルヘシ
（本尾委員）
然リ
（細川委員）
以下トハ何條迄ヲ云フヤ
（本尾委員）
第八十條迄ヲ云フナリ
（長森委員）
第七十二條ニ於テ副社員ナルモノアリヤ
（本尾委員）
第七十二條ノ匿名者ハ皆副社員ノ如キモノナリ本條ノ場合ニ於テハ例之ハ本社員ノ差入資本千圓ナルニ某人其千圓ノ內ヘ若干圓ヲ差入レ公然社員トナラスシテ其損益ノ配當ヲ望ム者ヲ副社員トスルナリ
（長森委員）
第九十一條ニ於テ會社資產中ノ持分トアルヲ以テ持部高ヲ單ニ持分トセハ如何
（渡邊委員）
單ニ持分ト云フトキハ了解シ難カルヘシ故ニ自己ノ持分トナサヽル可カラス又「副社員」ハ「間社員」又ハ「間接分有者」トセハ如何
○本條ハ左ノ如ク修正スルコトニ決ス
○原第九十四條
社員若シ他人（間接分有者）ヲ自己ノ持分ニ加入セシムルトキハ第一款中普通ノ規定（第十四條以下）ニ從テ其關係ヲ到定スヘシ
○第百十二條 商法草案第九十五條
會社契約中ノ箇條ニシテ會社之ヲ實行セサリシトキハ其箇條ハ後來社員ニ對シ又ハ他人ニ對シテ之ヲ踐行セシムルヲ得ス
（本尾委員）
本條ハ會社ニ於テ其契約ニ定メタルコトヲ執行セサルトキハ苴ハケ條ハ社員ニ對スルモ又ハ第三者ニ對スルモ消滅シタルモノトスルヲ云フナリ是レ恰モ法律ニシテ久シク執行セサルトキハ遂ニ其効力消滅スルト同シキ理由ニ基クナリ
（箕作委員）
從來トハ期限アルヤ
（本尾委員）
期限ナシ
（箕作委員）
實行セサルノ例ハ如何
（本尾委員）
註釋ニモアル如ク會社契約ニ於テハ總員ノ承諾アルニアラサレハ總理代人ヲ命スルコトヲ得サルニ社員中總員ノ承諾ヲ得スシテ總理代人ヲ命シ社員皆之ヲ默許シ當時毫モ異議ヲ唱ヘサリシニ後日ニ至リ契約上ノ執行ヲ求ルモ既ニ其契約ノケ條ハ實行セシコトナキヲ以テ途ニ踐行ヲ促スノ効力消滅シタルモノト爲スカ如シ
（渡邊委員）
「踐行セシムルコトヲ得ス」トハ「有効ト爲スコトヲ得ス」ト云フノ出思ナラン
（本尾委員）
然リ
○本條修正ハ左ノ通リ決セリ
○原第九十五條
會社契約中ノ箇條ニシテ會社實行セサリシモノハ後來社員ニ對シテモ又ハ第三者ニ對シテモ之ヲ有効トスルヲ得ス
于時正午十二時閉會