第三回
明治十七年七月十四日
○午前第九時開會
欠席 細川委員
○第七十七條 商法草案第七十條
商社ハ社名ヲ設ケ且ツ設置ノ場所ヲ定メサルヘカラス
○第七十八條 商法草案第七十一條
各商社ハ特別ノ財產ヲ有シ又獨立シテ權利義務ヲ有スルモノトス殊ニ社名ヲ以テ金錢ヲ貸借シ動產不動產ヲ所得シ又訴訟ニ付テハ原吿又ハ被吿トナルヲ得ヘシ
商社ノ裁管轄ハ其設立地ノ裁判所ニ屬スルモノトス
（本尾委員）
過日來ノ質問ヲ爲サンカ爲メ昨日ロエスレル氏ヲ訪ヒタルニ本日函館ヘ出航ノ趣ニテ已ニ橫濱ニ向テ出立ノ際ナレハ同氏モ成ルヘクハ歸京ノ後質問アリ度シト云ヲ以テ途ニ說明ヲ得サリシ
第七十條ハ別ニ說明スル所ナシ則秕名ヲ設ケテ會社設立ノ場所ヲ定メサルヘカラサルコトヲ指示スニアルナリ
（渡邊委員）
「ヒルマ」卽チ屋號ヲ「フエーレン」トアルヲ社名ヲ設ケト譯セシハ如何
（本尾委員）
「ヒルマ」ヲ社名ト譯シタルハ一己商人ニ於テハ屋號ト云フヲ得ルモ商社ニ於テハ屋號ト云ヒ難キヲ以テナリ又「フエレン」トハ導クト云フ意ニシテ始終繼績シテ所持スルノ義ナリ設ケト譯シタルハ不穩當ナランモ斗リ難ケレトモ他ニ字ノナキ故ナラン
（箕作委員）
「ヒユーレソ」トハ佛ノ「ホルテー」ナル語ト同一ニシテ卽チ持ツト云フ義ナリ
（周布委員）
社名トハ屋號ナルヤ
（本尾委員）
一個人ノ場合ヨリ云フ時ハ屋號ナルモ會社ニ屋號ト云フモ聊不都合ナキニアラサレハ社名ト譯セシナリ
（渡邊委員）
單ニ社名トセハ大ニ差支アラン則合名又ハ差金會社ナルモ社名ヲ用ヒス例之ハ大倉組等ノ如キ組名ヲ付スルモノアル時ハ忽チ差支ヲ生スルヲ以テ單ニ社名トハ云ヒ難カルヘシ
（本尾委員）
大倉組ト稱スルハ是卽チ社名ナル可シ某組ト稱スルヲ以テ組名トハ云ハサルヲ得サルコトナキカ如シ會社ノ社名ヲ有セサル可カラサルハ尙一己人ノ氏名ニ於ルカ如シ故ニ社名ト譯シテ不都合ナルトキハ屋號ト改テモ妨ナカル可シ
（箕作委員）
「ヒルマ」中ニハ社名ノ意義ハ包含スルヘシ
（本尾委員）
然リ會社ニ對シテ「ヒルマ」ト云フトキハ卽チ社名ナリ
（委員長）
「社名ヲ設ケ」トアルヲ改メテ「社名ヲ稱ス」トセハ原書ノ意味モ適當スルナラン
（本尾委員）
然ラハ商社ハ屋號ヲ定メ云々ト改メテハ如何
（渡邊委員）
「ヒルマ」トハ我邦ニ於テハ暖簾ノコトナレハ屋號ト改ムルヲ可ナリトス
（周布委員）
社名ヲ設ケテ名號ヲ定メト改メテハ如何
（渡邊委員）
夫ニテモ可ナラン
（鶴田委員）
名號トナス時ハ或ハ越後屋ノ如キヲ指スモノト心得之ヲ會社ノ名稱ニ付スルノ不都合ナキニアラス
（本尾委員）
屋號ニハ通常本人ノ氏名ヲ用ユルモ時トシテハ異ナルコトナキニアラス社名ニハ法律ノ規定スル所アルヲ以テ之ニ從ハサル可カラス
（渡邊委員）
業名トシテハ如何
（長森委員）
若シ業名トスル時ハ靴屋ハ必ス靴ノ字ヲ用ヒサルヲ得サルニ至ラン
（本尾委員）
曾テ獨病逸商法ヲ飜譯セシ時ニハ「ヒルマ」ヲ商標ト譯シタレトモ商標條例ニ牴觸スルノ嫌アルヲ以テ商號ト改タメタリ
（渡邊委員）
實際上ヨリ論スル時ハ商標トナスヲ適當トス
（委員長）
一己人ニテモ矢張社名ヲ用ユルヤ
（本尾委員）
然リ一己人ニテハ屋號ヲ有スルナリ
（岸本委員）
社名ハ佛ノ「レイソンワシアール」ノ意味ナルヤ又ハ之ニ適應スルノ文字アリヤ
（本尾委員）
佛ノ「レイソンワシアール」トハ主トシテ合名會社ニ適スルモ株式會社ハ適セサルカ如シ
（委員長）
「ヒルマ」ハ獨逸ニ於テハ何々ト解釋スルヤ
（本尾委員）
商人ノ商業上ニ於テ常ニ用ユル所ン名ニシテ平生一私人ノ資格ヲ以テ有スルモノニアラサルヲ云フナリ
（委員長）
其如キモノナレハ我邦ニハ不用ナルカ如シ
（渡邊委員）
否之ヲ除ク可カラス例之ハ市川團十郞ト堀越秀ト云フカ如ク一人ニシテ其業名ト實名ヲ有スル者等是ナリ
（本尾委員）
然リ我邦ニモ其例多シ民法上ニ於テハ本來ノ氏名ヲ用ユルモ商業上ニハ他ノ名稱ヲ唱フルモノ比ニ之レアリ
（渡邊委員）
今一ノ例ヲ擧クレハ三井某ノ反物屋アランニ其氏名ハ何某ト唱スルモ三井三郞右衞門ヨリ暖簾ヲ分ケタルカ爲メニ業名ア三井某ト稱シ其名稱ヲ以テ取引スルカ如キモノアリ
（周布委員）
屋號ハ官ニ關係ナケレハ區役所ニ於テモ登記スルコトナシ
（渡邊委員）
然リ現今ハ隨意ニ設クルヲ得ルモ商法制定ノ時ニ至テハ何分ノ法則ヲ立テサルヘカラス
（塩田委員）
社名トアルモ差支ナキカ如シ
（箕作委員）
「ヒルマ」ト云フ字ノ內ニ社名ノ意味ヲ包含スルヤ
（本尾委員）
字ノ內ニハ包含セス然レトモ會社ニ對シ「ヒルマ」ト云フトキハ卽チ社名ナリ
（委員長）
「ヒルマ」ノ字義ハ如何■
（本尾委員）
獨逸辭書ニハ「ヒルマ」ノ字ニニ樣ノ解釋アリ一ハ商ヒノ名トアリ一ハ商人ノ商ヒヲナス時ニ署名スル名トアリ乃チ會社ニ在テハ其社ノ名稱ナリ
（岸本委員）
然ル時ハ「稱號ヲ定メ」トナシテ如何
（委員長）
「稱號ヲ定メ」ト云フ方至當ナラム
（本尾委員）
稱號ト改ムルモ妨ケナシ要スルニ文字ヲ一定スル三過サルナリ
（周布委員）
「稱號」ト云フモ意義未タ充分ナラス止ムヲ得サレハ新ニ文字ヲ設ルノ外ナシ
（塩田委員）
商社モ亦一己商人ナラン
（本尾委員）
然リ
（委員長）
玆ニ社名ト云フモ敢テ差支ナカルヘシ
（箕作委員）
第七十條ニ「設立ノ場所」ト次條ニ「設立地」トアリ其區別如何
（本尾委員）
第七十條及ヒ第七十一條ノ原語同一ナリ
（箕作委員）
然ルトキハ亦同一ニ譯セサル可カラス
（本尾委員）
如何樣ニ之レヲ改ムルモ可ナリ
（鶴田委員）
文字ノ修正ハ修正會三謖リテ如何
（塩田委員）
今原文ノ意ニ改メ置クモ可ナリ
（本尾委員）
極メ置クモ差支ナカル可シ
（委員長）
一條コトニ說明スルヨリ寧ロ不明了ノ㸃ニノミ就キ說明マ速ニ修正スヘシ
（本尾委員）
第七十一條ハ會社ノ無形人卽チ一己人ト同一ナルコトヲ示スニ在リ尤モロエスレル氏ハ會社ヲシテ純粹ノ無形人トセスシテ無形人ト同一ノモノト見倣セリ此條ハ會社ノ資產ヲ社員ノ資產ヨリ嚴確ニ分離シ之ヲシテ獨立ナサシメタルナリ又殊ニ以下ハ一己人ト同一ナルモノニ働キヲ示スナリ
（渡邊委員）
殊ニトハ如何
（本尾委員）
殊ニ以下ノ事柄ハ殊ニ以上ニ皆包含セリ然レトモ就中是レ々々ハト其無形人タルモノヽ働キ中重立タル事項ヲ示スニ過キス
（箕作委員）
佛ニ於テハ義務ナル語ニニアリ一ヲ「チフリカツシヨン」ト云ヒ一ヲ「トヴヲワシル」ト云フ本條ノ義務ノ原語ハ如何
（本尾委員）
本條義務ナル語ハ「フリヒ」ナリ卽チ「トヴワール」、ノ語ナラン歟
（箕作委員）
然ラハ「トヴヲワール」ナリ又社名ヲ以テトハ社ノ名義ヲ以テトスルノ意ナルヘシ
（本尾委員）
然リ會社ノ名義ト云フヲ可トス例ヘハ社名ヲ以テセサレトモ會社ノ爲メニナシタル取引ヨリ會社ハ權利ヲ得又ハ義務ヲ負フコトアルナリ
（渡邊委員）
日本文ナレハ殊ニ「社名ヲ以テ」ノ文字ヲ省略スルモ意義通スルナリ
（本尾委員）
然リ
（鶴田委員）
動產不動產ヲ所得ストアリテ之ヲ賣却スルヲ得ルノ明文ナキハ如何
（本尾委員）
既ニ所得スルヲ得レハ之ヲ賣却シ得ルハ當然ナリトス
（渡邊委員）
不動產ノ所得ト揭ケタルハ會社ハ不動產ヲ所得スルコト能ハストノ規則アリタルヤ故ニアラスヤ
（渡邊委員）
設立地ノ裁判所トハ如何
（本尾委員）
設立地ヲ管轄スル裁判所ヲ謂フナリ卽チ東京ニアル會社ナレハ東京始審裁判所ヲ云フナリ
（渡邊委員）
裁判管轄ノ原語ハ如何
（本尾委員）
適當ノ譯字ナキヲ以テ裁判管轄ト譯セシナラン原文ニ據ル時ハ反譯ニ脫字アリ卽チ通常ノ裁判管轄ト譯セサル可カラス何トナレハ通常ノ訴訟事件ニ付テハ設立地ヲ管轄スル裁判所ニ出ルモノト爲スモ例外場合卽チ東京ノ會社ニシテ栃木縣下ニ土地ヲ有シ其土地ニ付キ訴訟アルトキハ栃木裁判所ノ管轄ヲ受ケサル可カラサルナリ
（渡邊委員）
通常ノ裁判管轄ハト云フヲ可トス
（本尾委員）
然リ
（箕作委員）
普通ノ裁判管轄ト云ヘハ自ラ例外アルヲ示スニ足ルヘシ
（渡邊委員）
「ケリヒトスタン」トハ如何
（本尾委員）
裁判管轄ノ意ナリ
（委員長）
例外管轄ハ如何
（本尾委員）
渡邊委員ニ說明セシ例ニ據ル時ハ栃木裁判所ナリ
（周布委員）
此ニ裁判管轄トハ通例ノ裁判事件ニ對シテ云ヒ特別ノ事件ハ他ニアリトノ意ナラン
（塩田委員）
否ラス通例事件ハ通例ノ裁判所ニ訴フルト云フ意味ナラン
（岸本委員）
特別ノ裁判管轄トハ始審ノ外ノ裁判所ヲ云フナラン
（箕作委員）
然ラス土地ニ關スル事件等ヲ云フ
始審控訴ヲ以テ區別スルモノニアラス此精神ハ先ニ本尾委員カ說明セラレシ如ク土地ニ付テ其管轄ヲ異ニスルモノヲ云フ例之ハ禪奈川ノ人靜岡ニ土地ヲ有スルニ其土地ニ付テ爭ヒノ起ルトキハ靜岡ノ裁判所ニ訴フルカ如シ
（渡邊委員）
裁判管轄トハ商事裁判所ヲ云フニアラスヤ
（本尾委員）
否ロエスレル氏ノ草按ニテハ別ニ商事裁判所ヲ設クルノ意ニアラス
（渡邊委員）
裁判管轄ノ㸃ハ左ノ如ク改正シテハ如何
商社ニ係ル通常ノ裁判ハ其住所ノ屬スル管轄區ニ於テスヘシ
（本尾委員）
渡邊委員ノ修正ハ可ナリト雖モ「會社ノ通常裁判管轄ハ其住所ノ裁判所ニ屬スルモノトス」トナシタル方原書ノ意ニ近キカ如シ
（箕作委員）
訴訟ニ就テハ商社ナリト雖モ一己人ト毫モ異ナル所ナケレハ不動產ノ例ノ如キモ一己人ノ場合ト異ナルコトナシ
第七十九條 商法草案第七十二條
二人以上結合シ共通ノ計算ヲ以テ一時ノ商業取引又ハ起業ヲ爲スト雖モ是ヲ以テ商社成立タルモノト爲サヽルノミナラス其財產モ亦獨立シテ成立タルモノト爲サス且ツ其契約ハ此商法中商社設立ニ關スル規則ニ服從セサルモノトス但シ其中ノ一員他員ノ爲メニナシタル契約施行ニ付テノ所爲又ハ各員共同シテ躬ラ爲シ又ハ共同代理者ヲシテ爲サシメタル所爲ヨリシテ各員他人ニ對シ直接ニ連帶ノ權利及ヒ義務アルモノトス
（本尾委員）
本案ニ於テハ所謂共分組合ナルモノヲ分テ三種ト爲シ第一ハ一時ノ商ヒノ取引又起業ノ爲メニ結合スルコト第二ハ共通ノ計算ヲ以テ各自別箇一一商業ヲ營ムコト第三ハ所謂匿名會社トス而シテ其第一ハ本條ニ第二ハ第七十三條ニ第三ハ第七十四條ニ之ヲ規定セリ而シテ第七十五條ヨリ第八十條ニ至ル諸條ハ第七十四條ニ規定シタルモノ卽チ匿名會社ノ爲メニ設ケタルモノナリ右三種類ノ組合ハ商業上ノ契約ニ過キスシテ決シテ會社ヲ組織シタルモノニアラサレトモ損益ヲ共分スルノ約束ナルヲ以テ其組合員ハ他人ニ對シ連帶ノ義務ヲ負ハサル可カラサルナリ是ヲ以テ右三種ノ組合契約ヲ商法中契約ノ部ニ加ヘスシテ會社ノ部ニ於テ規定セシナリ本條ニ揭ケタルモノモ上ニ述ルカ如ク會社ニアラスト雖モ損釜共分ノ一㸃ヨリ看察スルトキハ會社ノ體裁ト云ハサルヲ得ス既三損益ヲ共分スルトキハ各組合員ハ他人ニ對シ連帶シテ權利義務ヲ有セサルヘカラサルナリ
（渡邊委員）
一時ト譯セハ原書ト少シク意味ノ違フ所ナキカ
（本尾委員）
「アイソチエルネー」トハ或ル事業ヲ繼續シテ爲スニアラスシテ只一時限リ爲スヲ云フ例之ニ人結合シテ價ノ低落セシ時ニ當リ米穀ヲ購買シ時ヲ待テ賣却セハ必ス利益ヲ得ルナラントテ之レカ取引ヲナス如キ場合ヲ云フ則全ク一事件限リタルコトヲ稱スルナリ
（渡邊委員）
一事件ノ共通契約ナレハ一事トナス方適當ナルカ如シ
（長森委員）
之ヲ我邦ノ俗語ニ譯セハ一口ト云フカ如シ
（本尾委員）
本條中「但シ」以上ニ於テハ如斯結合ハ會社ニアラスシテ商業上契約ナルコトヲ示シ「但シ」以下ニ於テ會社ニアラサルモ其組合員ハ會社ノ社員ニ齋シキ權利義務アルコトヲ示スナリ例之ハ此一ニニ人アリテ本條ニ基キ商業ヲ營ミ甲ノ所爲ニ付テハ乙ノ預ラサル所ナリト約束スルモ他人ニ對スルトキハ其効ナク各員連帶シテ其權利義務ヲ有セサルヘカラサルナリ
（渡邊委員）
本條ハ會社ニ關スル規定ニアラス全ク商業ニ涉ル契約ナリ
（本尾委員）
然リ本條ノミナラス仍ホ次ニ條モ同一ノ性質ナリ
（鶴田委員）
本條ハ全ク民事上ニ異ナルヲ以テ商法ニハ揭クヘキモノナルモ本案卽會社條例ニハ之ヲ加フルノ要用ナキカ如シ
（本尾委員）
然ルカ如シト雖モ各組合員ハ社員ト同一ナル義務ヲ負フ可キ者ナルヲ以テ會社條例中其規定ヲ設クルコト實際上要用ナルカ如シ
（箕作委員）
商業ト取引トハ各別ナリヤ
（本尾委員）
「ハンテルヘルフ」ヲ商業ト譯シ「ハンテルスケシエフト」ヲ商ヒノ取引ト譯セリ
（委員長）
共通ノ計算ハ損益共通トナス方可ナラン
（本尾委員）
然リ可ナラン然レトモ共通計算トハ聊カ異ヒナキニアラス
（渡邊委員）
損益共通トセハ差支アラン例之ハ三名ニテ商業ヲナス一ニニ名同ク資本ヲ出シ其內ニ名ハ損益ヲ擔當シ餘ノ一名ハ止タ資本ヲ出スニ止マル時ハ損益共通ト云フヲ得ス故ニ損益共通ト改ムハ不可ナルカ如シ
（本尾委員）
共通ノ計算ト損益共通トハ少シク差異アリ
（渡邊委員）
矢張原案ノ方可ナラン
（箕作委員）
俗ニ云フ「乘合商法」ノ意ナラン而シテ一時トハ如何之ヲ改ムルヤ
（本尾委員）
一箇トセハ如何卽原語ハ一々離ルヽノ意味ナレハナリ
（岸本委員）
矢張一時ノ方可ナラン例之ハ羅紗事業ヲ不斷ニナス時ハ卽チ一箇ノ事業トナレハナリ
（鶴田委員）
本條ハ會社條例ニハ餘リ關係セサルカ如シ
（委員長）
矢張本條ハ本案ニ置クヲ要ス
（渡邊委員）
共通財產ヲ以テ商業ヲ營ムトキハ會社ト誤認スルノ恐レアルヲ以テ之ヲ防クカ爲メニハ矢張本案ニ於テ如斯組合ニ對スル規則ヲ設ケサルヘカラス
（箕作委員）
普通ノ會社ニ異ナル所ハ一時ノ商業ノ爲メニ結合スルノミナリ一
（本尾委員）
一時ノ商ヒノ取引ノ爲メ結合スルト繼續シテ商ヒノ取引ヲ爲ス爲メ結合スルトニ依テ組合ナルト會社ナルトヲ區別スルナリ
（委員長）
若シ共通計算ヲ以テ願出ル者アルトキハ政府ハ事業ヲ爲スノ許可ヲ與フルモ會社タルノ許可ヲ與ヘサルヘシ
（本尾委員）
然リ
（渡邊委員）
今日實際ニ於テハニ人共通計算ヲ以テ事業ヲ爲ス者ハ皆ナ會社ト稱シ政府ヘ出願ス本條ハ則チ如斯場合ニ適用スルモノナリ
（渡邊委員）
若シ本條ナケレハ狡猾ノ商人等共通計算ヲ以テ一時商、業ヲ爲スモ之ヲ裁制スルニ由ナケレハナリ
（周布委員）
然リ狡猾ナルモノハ本條ナキカ爲メ法律ヲ潜ルノ憂ヲ生スルコトナシトセス故ニ之ヲ示シタルナラン
（委員長）
一コ時ノ商業」ノ原語ハ如何
（本尾委員）
一時ノ語ハ「アインツエルネ」ト云フ卽チ各箇ト云フ意ナリ而シテ本條ノ「商業取引」ハ「商ヒノ取引」ト修正スヘシ
（渡邊委員）
此一時商業トハ三名申合セ一ノ字書ヲ購求シテ之ヲ賣却シ其利益ヲ分配スルカ如キモノナラン
（本尾委員）
然リ「一時」ノ文字ニ拘泥シテ見ルト實際唱フル所ノ一「一時」ナル語ニ據テ解スルトハ感觸自ラ異ナルアルカ如シ
（塩田委員）
想フニコ時一箇」ト云フヲ可トス如何トナレハ一時ト云フモニ三ケ月間繼續スルモノアレハナリ本條ハ一箇ノ事業ヲ繼續セスシテ行フノ意ナルヘシ
（委員長）
矢張リ一時ノ商ヒトスル方先當ナラン又原語モ强テ異ナル所ナケレハナリ
（箕作委員）
若シ一時トスル時ハ一年又五年ニシテ其一事ヲ終ヘ復コタ更ニ一事ヲ爲スカ如ク際限ナク又期限アルモノハ却テ一時ノ內ニ包含スルノ恐レアリ
（委員長）
一時トハ物ニ就テ之ヲ云フヤ又ハ一度ト云フノ意ナルヤロ匡馬スレル氏ニ質問スヘシ
（本尾委員）
諾
（箕作委員）
例令ハ本案編纂事業ノ如キ何ケ月繼續スルヤ知リ得サレトモ一時ノ事業ト云フヘキナリ
（渡邊委員）
「爲スト雖モ」ハ「爲ストキハ」ト改メ又「服從セサルモノトス」ハ「依ルヘキモノニアラス」トスルヲ可トス
（本尾委員）
其中ノ一員云々トハ組合中ノ一員他ノ組合員ノ爲メニナシタル所爲又ハ各組合員共同シテ爲シ又ハ代理者ヲシテ爲サシメタル所爲ニ付テハ各組合員連帶シテ組合外ノ人ニ對シ義務ヲ負フヲ云フナリ
（箕作委員）
他員ト他人トハ其意味大ナル差異アリ而シテ他人トハ「第三ノ人」ト稱スヘキナリ
（本尾委員）
然リ他員トハ組合員中ノ者ヲ指シテ云ヒ他人トハ組合員外ノ人ヲ稱スルノ語ナリ
（周布委員）
例之ハ三人ノ中一人他人ヨリ金圓ヲ委托セラレシトキハ此ノ三人ハ連帶シテ義務ヲ負フヘキヤ
（本尾委員）
然リ連帶シテ義務ヲ負フモノナリ
（周布委員）
此文字ニテハ何分了解シ難シ
（本尾委員）
規則ニ依ルヘカラストアルハ組合ヲ組織スルハ會社ヲ組織スルニ非ラサルカ故ニ會社設立ニ要スル規則ニ從フヲ要セサルモ組合員ハ損益ヲ共分スルヲ以テ組合外ノ人ニ對シテハ連帶シテ義務ヲ負ハセサルヲ得サルナリ
（渡邊委員）
「直接」ノ文字ハ第三ノ人ニ對シタル意ナルヤ
（箕作委員）
直接ニ權利ヲ得義務ヲ負ハセラルニモノト云フノ意ナリ
（本尾委員）
直接ノ文字有要ナリ例之ハ一組合員他人ヨリ馬ヲ購求シ其代價ヲ拂ハサル時他人ハ組合員ノ中何人タルヲ問ハス直接ニ其代價ヲ請求シ得ルカ如シ
（渡邊委員）
然ラス直接ノ譯字不適當ナルカ如シ
（箕作委員）
連帶シテ直接ニ權利云々ト云フ方適當ナラン
（本尾委員）
然ル可シ
（委員長）
「此商法中」ノ字ヲ省除スヘシ
（本尾委員）
然リ
（長森委員）
本條ハ左ノ如ク修正セハ可ナラン
一時商ヒノ取引又ハ起業ヲ爲スタメ共通ノ計算ヲ以テニ人以上結合スルハ商社ト爲サス其財產亦獨立シタルモノトセス且其契約ハ此規則ノ管セサルモノトス
○第八十條 商法草案第七十三條
二人以上假令別箇ニ商業取引起業又ハ營業ヲ爲スモ其損益共分ノ約ヲ立タル時ハ前條ト同樣連帶ノ權利義務アルヘシ但シ此場合ニ於テ其結合人員中他ノ一員又ハ數人ノ所業ノ爲メニ他人ヨリ請求ヲ受タル者ハ先訟ノ申立ヲナスノ權利アルモノトス
（委員長）
「起業」ノ字義如何
（本尾委員）
起業トハ猶事業ト云フモ可ナラン事業ヲ起創スルト云フカ如シ獨逸語之ヲ「ウソテルネームソク」ト云フ卽チ英語ノ「オソテルテーキンク」ナリ
（委員長）
然ラハ是迄ナキコトヲ起業スルノ意ナルヤ
（本尾委員）
然リ目論見ヲ立テ或ル事業ヲ起スヲ云フナリ
本條ノ意ハ前條ト大差アルコトナシ只別箇ニ商業ヲ爲スヲ異ナリトス損益共分スルヲ以テ連帶ノ義務アルハ前條ト同一ナリ然レトモ先訴ノ控辯ヲナスノ權利アルハ前條ト異ナルナリ例之ハ貨物ヲ上海ニ輸送センニ東京ヨリ橫濱迄ハ鐵道會社橫濱ヨリ神戶マテハ三菱會社神戶ヨリ上海マテハ其同運輸會社之ヲ負擔スルニ此三會社ハ本條ニ依リ損益共分ノ約ヲ爲スコトヲ得然ルトキハ此三會社ハ他人ニ對シ連帶シテ義務ヲ負ハサルヲ得ス然レトモ此場合ニ於テ東京橫濱間ノ運輸ニ付共同運輸會社ヲ被吿トスルトキハ同社ハ此事タル東京橫濱間ノ運輸ニ關スルモノナルヲ以テ先ツ鐵道會社ヲ被吿トナス可シト抗辯スルヲ得ルカ如シ
（箕作委員）
「申立」ノ原語ハ「故障申立」ノ意義ナレハ單ニ「申立」ニテハ不明了ナリ宜ク「故障申立」又ハ「抗辯」ト譯スル方然ルヘシ又先訟ノ申立トハ保證人ニ於テ先負債主ニ掛リ訴ヘタル後ニアラサレハ保證ノ義務ヲ盡スコト能ハスト云フニ等シカラン
（渡邊委員）
本案ニハ原語ノ「アイソチエル」ノ文字ナシ
（長森委員）
「先訟ノ申立ヲナス」ニテハ少シク意味ノ不足ナル所アルヲ以テ左ノ如ク修正セハ可ナラン
先ツ其執業者ヲ訴フヘキノ申立ヲ爲スコトヲ得
（委員長）
「他人ヨリ請求トハ」餘リ俗文ニ失スルノ嫌ナキヤ
（本尾委員）
然リ少シ俗ニ失スルモノヽ如シ
（渡邊委員）
「ターラウス」ノ原語ヲ譯セサルハ如何
（本尾委員）
「ターラウス」ハ餘リ有用ナル文字ニアラサレハ之ニ載セス此ノ意味ハ其損益共分トアル「其」ニ包含セシメハ可ナラン又「先訟」ノユトハ「先訟ノ抗辯」ト改メ又「別箇ニ」ノ下コ時ノ」三字ヲ加ヘ「商業」ヲ「商ヒ」ト改メン乎
（委員長）
然リ改正及ヒ追加スヘシ
于時十二時本日ノ會ヲ閉ツ