旧商法(明治23・26年)

商社法説明

参考原資料

曩に小官等會社條例編纂の命を受け爾来内閣雇独逸国法律博士ロヱスレル氏の起草を以て原案と為し討論審議の末別冊商社法を編成し茲に之を上進す抑ロヱスレル氏の原案を以て欧州文明諸国の商社法に比較するに優る所あるも劣る所なきか如しと虽も各條中或は事情に適せす或は慣習に合はすと認めたるものは毎條之を氏に謀り協議反覆其攺むへきものは氏に請ふて自ら原案を攺正せしめ妄りに委員の意見を以て攺竄を加へす故に委員とロヱスレル氏との間に於て熟議全く調ひ互に意見を矣にする所なきに至れり
會社條例を商社法と攺めたるは民事商事の別を明かにし民事會社は之を民法に讓り且つ他日商法全部脫稿の日に至り本法を以て直に商法中に編入するの旨趣に依るなり其他各條の說明書は編成中なるを以て不日脫稿を待ち上進する所あらんとす
商社法
此法は商社を支配する特別の規則なり商社とは即ち商事會社を云ふ後に掲ける三種の會社是なり之を商社と云ふは省語にして唱呼に便にす商事會社は一の無形人と看做すを以て其権利義務は社員の身に係らすして直接に會社に帰す是を以て法律上の関係甚た重し乃ち會社破産處分を受け會社の債主と社員の債主とを區別し會社の名を以て原告被告と為るの類會社の性質自ら民事と別ありて民事の通則を以て概す可からす且人員の多くして資金の大なるか為め其権利義務の関係亦従て廣く事の紛雜を來し或は奸商欺騙の柄たらさるを保し難し故に特に此法を設け彼我の権利義務を確正にし欺騙の途を塞き會社の信用を厚くして以て商業の益々旺盛なるヿを要す
第一章 總則
第一條
共同とは唯た人員及財産を集合するのみならす其集合は一個の無形體を為し又各員協力し或は其代務者をして同一の事業に従事せしめ其利益と損失とを共分する契約を為したるものを云ふ
商業とは賣買取引のみならす製産運輸銀行保険等の諸事を包含す其詳なるは商法に於て之を規定す可し
本條は會社の目的に依て商事會社たるヿを明かにす即ち商業を常識として営む為めに設立するに非されは商事會社とせす故に他の目的を以てするものは本法の関する所に非す
第二條
法律命令は單に法律勅令閣令省令のみに止まらす諸官廳に於て是に基き且職権を以て發したるものを包含す
會社の目的とする商業は禁止せられさる所のものにあらされは営むヿを許さす故に法律命令に反するもの例へは制限外の高利貸禁制物の賣買を目的とするの會社は之を設立するを得す假令之を設立するも法律上其設立を認めすして素より設立なきものと為す即ち無効となるなり
會社事業の目的反法にあらすと虽とも公安又は風俗を害する所為あるときは裁判所の處分を以て其會社を觧散せしむ觧散の結果は既徃に及はす前項の無効と異なり
前項は初めより無効とし次項は裁判所の處分を以て觧散せしむる所以は先者は法律上よりして無効となるもの後者は會社の目的と為す営業は不正の事件にあらすと雖とも傍ら不正の所為あるに由る例へは旅店會社にして禁制たる賭博の窩主たる如きは其旅店の営業は不正の事業にあらすと雖とも賭博を為したるを以て觧散せさる可からさるの類なり
裁判所の處分とは裁判の正式を用ひす裁判官其事實を推究し申渡すものを云ふ
第三條
官許を得されは為すヿを許さヽる営業は藥種、彈藥、砲銃諸相塲の類其他警察の區域に属するものにして多く公けの秩序に関係す故に此種の営業は固より會社と一個人とに別なく官許を受く可きものたり此條を掲くるは會社は特別の集合躰なるを以て或は一個人の官許を要する事柄も會社に在ては之を要せさるものと誤認する者あらんヿを恐れてなり
株式會社は営業の何たるに拘はらす官許を受くへきものたり是れ會社の組織に因て然らさるを得す
第四條
登記公告に関する諸件は第十一條以下に明かなり
會社設立は登記公告するに非されは其効力を有せす即ち會社を設立したるも社員間のみに止まり社外人に對しては未た會社たらす故に之と契約を為したる者は會社たるの義務を責むるヿを得す會社に在ても會社たるの権利を行ふ可かす登記公告は其事項を裁判所に於て公認し且之を公衆に明示するなり既に公認し且明示したる事項は確實にして信據す可きものなれは之に依て其効力を生せさるを得す然れとも其登記公告は完全ならさる可からす完全とは一の不適法なく又一の欫漏なきを云ふ
第五條
第六條
第七條
一地内とは其他の廣狹に拘はらす人戸集聚して一團を為し其名称を有する全域を云ふ例へは東京に於て十五區の全域西京に於ては上下京の全域其他村又は驛に於ては其村驛の全域を云ふ
社名は営業上諸般の塲合に於て之を署し公衆をして會社たるヿを知らしむる為めに設くるものにして一個人の名あると異なるヿなし乃ち會社の無形人たる標識なり而して會社の組織に因て其名を別異にす可し其別異は各會社の章に於て明かなる可し
一地内に於て社名の同一なるを許さヽるは他と混して社外人を誤らしむるヿなく或は甲社の盛大なるか為め乙社を設け同一の名を冒して其利を奪ふか如き獘を防止するか為めなり
第八條
本條は商社は法律上に於て如何なる性質を有するものなるやを明にす夫れ商事會社は法律上之を一個の無形人と認むるときは則ち一已人と仝しく獨立して財産を所有し又會社の名義を以て権利を有し義務を負ひ又訴訟に就ては原告被告と為る可きものたり是を以て會社の財産は社員の財産と區別し社員をして决して之を一已の私用に供するヿを許さす又社員相對上の債主も之に對して債主権を施行するを得す故に會社の負債主にして又社員の債主たるときと虽とも此貸借を以て相殺を為すを得す會社破産の塲合に於ては商社の債主に對し會社の財産を以て辨償し社員の債主に對しては其社員に帰す可きものを以て辨償せさる可からさるか如きは皆其結果にして商業に對し信用及ひ保證を與るものなり
會社無形人の資格を有するときは又一個人と同しく通常の裁判管轄を有せさる可らす其管轄は即ち會社所在地の裁判所なり之を通常の裁判管轄と称するは通常の事件のみに関す例外の事件即ち土地に付ての訴訟又は法律に違背せさる限りは契約者双方に於て或る商業取引の為め特に定めたる裁判所を以て裁判管轄と為すヿを得可きを示す
第九條
會社に帳簿を設けしむるは其財産及商業の実况を明かにせしむるか為めなり而して其業躰の為め定められたる帳簿即ち銀行、質屋、古物商等の帳簿幷に本條の財産目録貸借對照表の外は其業躰の習慣に従ひ如何なる名称を付して如何なる帳簿を用ひるも會社の隨意に任す然れとも其記載に塗抹、攺竄、脫漏且字画不分明等のヿある可からさるは言を待たさるなり
會社開業のときに於て目録及表を作るは其商業の資本を明かにするか為めなり之を明かにせされは他日損益を知る可からす毎年度の終に又目録及表を作るは既に為したる商業に付其財産の増减を明かにするか為めなり之を明かにせされは分配金又は利子の配當其凖據なくして或は會社資本の减縮に至るも得て知る可からさる故なり
毎三ヶ月又は毎半年に配當を為す會社は毎年度の定めに拘はらす半年毎に目録及表を作るも亦同一の理に由る其毎三ヶ月に配當を為すものも毎半年に之を作るを以て足れりとするは半年の間は月日多からすして損益の計算に大差なかる可し因て其煩を省くか為めなり
第十條
會社既に帳簿を設くるを法律上の義務とするときは之を保存するも亦た同しく義務たらさる可からす之を義務とするは帳簿を隠匿し或は破毀するの憂なくして其證據を確實にするに在り
商事上の取引は概して急速を要し且期満免除の期限も短縮なるものなれは十年の久きに及て結了せさるものなし又之を商人帳簿保存の習慣に徴して障碍する所なし故に保存期限を十年として其義務を免かれしむ其保存に就ては災害の為めに兦失毁損に罹るを防く等充分其意を尽さヽる可からさるものとす是其帳簿差出の命を受くるに際し遁辭を設け以て義務を免れんとするを防遏するに在り
第十一條
登録簿とは本法に規定したる登記を受くへき事項を記載する帳簿を云ふ
之れか為め定められたる管轄裁判所とは登記の取扱を為すは會社を管轄する裁判所の内に於て或は始審なるか或は其本支廰の孰れなるか或は治安なるかを其地方の便宜に従ひ第十四條に依り定む可き裁判所を云ふ
裁判所に於て登記の取扱は登記の事項主として権利義務に渉り行政事務の區域に属す可きものに非されはなり
第十二條
登記を受く可き事項は各種會社の條に於て之を示せり當務者とは届出のヿを擔當するものを云ふ業務擔當の任ある社員取締役結算人等是なり登記の事項を届出るには必す書面を以てす可きのみならす其證據たる書類を添へさる可からす例へは株式申込簿の寫には其本書を添へ設立の許可の年月日を證するには其許可書を添るか如し是れ其事項を公にして社外人に知らしむる為めには最も之を確實にせさる可らされはなり但し此本書及許可書は第百八條の登録簿に添へ保存するの限に非す若し證據書類を添ふ可きに之を添へさりしときは登記官吏は其登記を肯せさる可し
第十三條
登記官吏とは登録簿に登記するヿを掌る者を云ふ登記管吏は先つ届出の事項の法律に背かさるや否や検し果して適法と認めたるものは之を登記すへし登記す可きと否とに付疑義あるときは直に裁判所の决議を請ふて之を定むへし
登記を以て公認したる事項は第三者に對して固より有効とす然れとも未た之を知らさる者に對して或は然るを得さるものあり故に之を第三者に知らしむるか為め又公告せさる可からす其公告は登記官吏に於て届出を受取たる日より起算し五日以内には必す之を為す可し登記公告は成る可く速なるを要すと虽とも届書を検し登録簿に記載し又公告に付する手続を為すに幾許の時日無かる可からす因て五日の期限を定む
或は登記届出に関し故障を申立るものあるとき又は登記官吏に對し届出人より争論を起し為めに五日の期限を過経したるときは裁判所に於て之を决したる日を以て届出の日と看做す可きものとす
従前の登記事項を攺正し又は取消さんとするときも亦本條の手續に依り登記公告せさる可からす
公告は會社に於て之を為す可きものヽ如しと虽とも之を會社に為さしむるときは或は時日を遷延し或は詐称又は隠蔽の所為無きを保し難し故に登記官吏に於て之を為さしむ
第十四條
第十五條
登録簿の展閲を許すは公告の外又公衆に登記の事項を告知するの一方法なり公告を見るヿを得さりし者又は會社の組織を詳にせんか為め會社の定款其他の届類を視んと欲する者に對しては此方法を必用とす而して唯展閲のみならす登録簿中自已の必用とする事項は相當の手数料を納めて登記官吏に其寫を求むるヿを得可し既に公に展閲を得る以上は其寫を求むるヿを得るは言を待たす故に法律上之を掲けす
第十六條
本條は登記公告の効力を示すものなり既に登記を以て公認し公告を以て公衆に示したる事項は公明にして掩ふ可からさるものなれは社外人は必す之を知らさる可からす且商業を為す者其取引相手と為す會社の組織及営業上の諸件を詳知す可きは已む可からさる自然の務なり故に之を知らさるは其者の怠りなれは之を知らさるか為めに生する損失は自已に負擔せさる可からす何となれは會社既に充分の手続に因て事項を公衆に明示したる以上は會社其責に任するの理なきのみならす其事項に付ての権利の保護を受けさる可からされはなり然れとも災変の為め道路壅塞して公告を知るに由なきか又は遠航中なるか如き事故の為め其事故を實に知る能はさる者其事由を證明するときは義務を免るヽを得るヿある可し
第十七條
會社届出の事項を登記官吏に於て不適法として其登記を拒みたるときは會社は不服を申立るヿある可し又届出の際或は已に登記したる後に至り他人其事項に對し故障を述ふるヿあらん是即ち登記事件に係る争訟なり此争訟は其登録簿の在る裁判所に為す可し而して其裁判は終審とし更に控訴するヿを許さす何となれは登記官吏は裁判官の資格なしと雖とも裁判所の一個の事務たる登記を掌とり其意見を以て判定したるもの特に裁判所の决議に依り定りたるものあれは共に自ら裁判の性質を帯ふ故に之に對し裁判所に訴へたるとき其裁判は控訴裁判の効力を生す故に之を終審とし更に控訴するヿを許さす
第二章 合名會社
第一節 會社設立
第十八條
有價物件とは権利を移轉し得可きもの例へは土地、家屋、商品、證券及発明專賣免許等を云ふ共通計算とは各員の出資と為したる金圓又は有價物件即ち共有資本より生する利益を共分し損失を分擔するを云ふ出資額は社員の隨意に之を定むるに任せ之か定限を設けさるなり
責任出資に止まらさるとは會社の義務に對し會社の財産のみならす各社員の全財産を以て之を負擔するを云ふ是各社員連帯無限の責任を以て會社の信用を厚くするものなり
七人以下の制限を立るは社員過多なるときは其商務實は少許の社員の手に帰し其他は権利義務の任を有するも取引のヿに與らす徒に社員の虚名を擁するに至る是れ危険の由て生する所なり故に此制限を立つ
共有資本と為し共通計算を以てするは會社一般の定則なりと虽とも社員に定限あり責任の無限なるは合名會社特殊の性質なるを見る可し且會社の成立主として社員相互の信用に基くものなれは総社員を以て一躰と看做し第五十三條の結果を生するは亦會社特殊の主義なり
第十九條
社名は必す社員の氏名を以てし業名のみを用ヰ又は屋号を用ヰるヿを許さす又會社の二字を付す可し商會組合等の稱を用ヰるヿを許さす稱呼種々なれは混雑して人を誤り易すきか故なり
社名には総社員の氏名を用ゆ可しと虽とも総社員の名を用ヰるは唱呼に不便なれは一二員の氏名を用ヰるヿを得一二員の氏名を用ヰるときと虽とも其他を包含するものとす
社員の名を社名に用ゆるは他人をして合名會社たるを知らしむるに在り即ち連帯責任を以て擔保するヿを示すなり故に社員に非さる者の名を加るヿあるときは第五十八條の結果を生す
第二十條
會社は契約を以て成るものなれは契約は即ち會社の基礎なり故に之を確實ならしめさる可からす之を確實にするは書面を以てするに在り是を以て本條に於て契約書を作らされは會社を設立するヿを得さるの規定を設く
第二十一條
第二十二條
業務擔當社員とは會社一切の業務を取扱ふ者即ち會社を代表する者なり合名會社の社員は皆然り然れとも會社の便宜に因て社員盡く業務の取扱を為さす一二の社員を撰定して之に業務を委託するヿあり然るときは其社員のみ業務を擔當し他員は其任なし本項は一二員を選定して業務を委託したる塲合を云ふ此社員を置きたるときに登記公告を受くるものとするときは代務者を任したるときも亦登記公告を受けさる可からさるヿを推知すへし
此登記公告は第四條に示す所の法律上の要件にして會社設立を第三者に對して効力あらしむるの方法なり
登記公告には會社成立の要点即ち七事項を示す盖し會社の性質及組織の大躰は此七事項を以て足れりとす然れとも會社に於て尚ほ此より詳細なる登記公告を受くるは禁する所に非す
第二十三條
既に登記公告を受けたる事項を変更したるときは亦之を登記公告せさる可からす是れ登記公告の旨趣に於て當さに然るへきなり
第二十四條
通例登記公告を受けさる事件は裁判所及公衆の公認なきものなるを以て第三者に對し其効なきに止る然れとも開業に至ては然らす登記公告前に之を為したるときは其業を停止し且第二百四條の罰に處せらる是れ會社未た公然たる設立に至らさるに濫に其名を用ヰ営業を始めて以て第三者を欺くヿあるを防止するか為めなり若し果して此塲合に至りたるとき既に契約書あれは社員間に於て其契約は有効なるを以て第三者に對しても亦之に基つき其義務を免かれす又未登記の會社と取引を為したる者は其未た法律上成立せさるヿを知りて為したるものなれは自から其結果を受けさる可からす即ち之に對し會社たるの義務を責る能はさるなり
第二十五條
會社既に登記公告を以て其設立を公然にせしときは其公然なる事實即ち會社現在して商事の働きを為すの實なかる可からす實とは即ち開業なり本條に謂ゆる開業は假令未た店舗を開き公けに取引を為すに至らさるも営業品凖備の為めに多少の物品の仕入を為し又は営業に用ゆる器械等を謂ふるも亦開業と看做す可し然るに六ヶ月の久しきに及ふも尚ほ開業せす即ち店舗を開かさるのみならす一の凖備の事をも為さヽるは是れ會社たるの事實なきなり是以て法律上之を現存せさるものと為さヽるを得す故に其登記公告は無効に属す
第二節 契約の変更
第二十六條
會社契約は総員の承諾を以て成る之を変更するは即ち曩時の承諾を変するものなれは更に総員の承諾を要するは契約の本旨なり又社員自已の権利義務に関しては其意を以て定む可きものなれは會社契約を結ふの時に於てのみならす會社成立の後に於ても他人の強制を受くるの理なし故に社員同意の多数决を以て契約の変更を决す可からす其変更せんとする事項総社員の承諾を得さるときは𦾔契約に従ふへし発議者に於て一二員の承諾なく其事項廢棄に帰するも退社の理由と為すヿを得す
第二十七條
本條は法律は實行せられさるに由て其効を失ふとの原則を推擴して會社契約に及ほすものなり會社契約は契約者相互の間に於ては即ち法律なれは此原則を適用すへし盖し會社契約は證書を作り之を確實にしたるものなれは他の行為を以て容易に之を変更す可からす然れとも契約書中に明言したる事項と雖とも之を實際に行はさるときは其條件は宛も明言無きと同一のものなるのみならす契約者の意思に於て亦其條件を實行するヿを欲せす黙して之を廢棄したるものと看做すに足る故に其條件は社員又は第三者に對し有効と為すヿを得さらしむ例へは総理代人は全社員に於て命すへき規則なるに實際は常に一社員にて之を命して総員之を異議するヿなし然るときは後に至り同様の手續を以て総理代人を命するに契約上の規則に依て社員間又は第三者に對し之を有効となすヿを得す但法律上の規則及社員一般の権利を害するものは例外とす例へは禁止を犯して取引を為し或は商業帳簿の展閲を肯せさるか如きは前例ありと雖とも敢て許す可からさるなり
第三節 社員間の権利義務
第二十八條
本法及會社契約に依て定まるとは本法中の條款に必す依らさる可からさるものに付ては其條款に依て社員相互の権利義務を定め必す之に依るを要せさる條款に付ては會社契約に明言あるときは其契約に依り又其明言なけれは本法の規定に依て社員相互の権利義務を定む可しとするに在り
第二十九條
目的に反せさる特殊の事項とは會社契約に定めたる目的に反するに非すして其目的に係る事項の伸縮を云ふ例へは廣く海運を業とするとの會社契約にして是迄横濱神戸の間のみを航海せしに其航路を下の関に及ほし又礦業の會社契約にして是迄甲の炭壙を堀りたるに又乙の炭壙を兼採するか如し然れとも其航路を横濱神戸間に限りたる會社契約なるに之を下の関に及ほし又甲炭壙のみを採る會社契約なるに乙壙を採るか如きは契約の変更の部類に属す
又水火の難に付會社より被害者に救助を為し又は祝日祭日等に他へ贈與を為すか如きも亦此特殊の事項に算す可し
本條の業務擔當の任ある社員とは第二十二條第七の塲合なるときは委託を受けたる社員のみを云ひ別に委託を受けたる者無きときは総社員を云ふ
本條の事項は會社契約の変更に非すと雖とも業務取引上の関係軽からす故に業務擔當の任ある社員の同議を以て决せさる可からす然れとも特定の擔當者あるときは他の社員は與からす是多くは業務の實険より生する事件なれは現に業務を執る者のみの同議を以て足る可きなり
第三十條
施行に関する事項とは會社契約を實施する細目にして初めに預定し置かす業務執行の際に方り生するものを云ふ預定し置かさるは其事項瑣未にして其實地時々の景况に関するか為め或は偶然之を省せさりしか為めなり
本條の事項は前條と同視すへき重要のものに非らす故に業務擔當社員の多数决を以て定むるヿを許す
第三十一條
利益を保持するとは會社の利益を全ふし損失を防き會社の目的を十分に達せしむるの計画を為すの意なり
本條の特約とは特に業務擔當社員を置くの契約を云ふ
本條は第十八條の説明に示したる各社員を一躰と看做すとの主義に依り規定す即ち各社員の権利義務を同等にし甲員の為し得可きものは乙員亦之を為し得可し乙員の行為は甲員之を承認せさる可からす業務擔當者を置きたるときの外は社員の権利義務に於て毫も等差なきなり
第三十二條
前條に規定せるか如く社員の権利義務同等なるときは其議决権も亦等差を立る可からす合名會社は各社員の全財産を以て責任を負ふものなれは出資の多寡は損益配當の標凖と為すのみ之を以て議决権の區別を為さす若し之に依て等差を立るときは前條と矛盾して社員中に権利を異にして義務を同くするの結果を生す
第三十三條
擔當社員を置くときは其他の社員は通常の業務に干渉するの権なしと雖とも專ら擔當社員に業務を放任して不問に付するときは其專恣を防くに由なし故に本條は業務に與からさる社員に與ふるに擔當社員の執務を監督するの権を以てするなり
第三十四條
代務者とは即ち全権を有して會社を代理する者なり之を代務者と稱するは普通の代理人と區別するか為めなり代務者の権利は商法に於て規定す
業務擔當社員は各自に其意を以て代務者を任し又は之を免するヿを得而して総員の同意を得るを要せす凢そ商店の主業者は固より其代務者を任免するの権あり即ち合名社員は皆會社の主業者にして代務者を任免するも亦業務取扱の一部分なるか故なり然れとも各員業務を分擔し又は支店に在る如き各員隔離して業務を執る塲合の外は必す相互に同意を得て之を任す可し然らされは其任免相互に矛盾するに至る
第三十五條
會社の業務に勉励し會社の利益に注意す可きは社員の義務なり故に此義務を尽さヽる者に於ては其責を逭るヽヿを得す而して勉励注意に程度を立てすして社員各其為し得る所に止むるときは各員毎に其程度を異にし義務を盡したると盡さヽるとの分界漠然として責任の帰する所を知る可からす故に正當なる商人自已の営業の為めにする所為を以て凖規として其程度を定む正當なる商人の為す勉励注意は商業を為すに適應するものなれは之を以て程度とす
第三十六條
出資とは即ち第十八條に云ふ所の共有資本となる可き各自の差入物件なり
前数條に於ては社員の身分に付規則を設け本條以下に於ては社員其出資に對する権利義務を定む此権利義務に関する要件は社員の出資會社の所有に帰する是なり而して出資の會社の所有に帰するは契約のみを以て所有権の移轉する通則と異にして必す出資の物件を現に差入たるに非されは會社の所有に帰したりとせす其未た現に差入れさる間は其社員の所有なれは其危険に對する責任は社員に在り
社員の出資は総社員の協議を以て其種類又品等に従て相當の價格を定む可し價格を定むるは損益共分及會社財産分配の割合の凖據と為すか為めなり而して之を財産目録に記入するは會社の所有なるを確定するなり
労力は會社の所有に帰す可きものに非されとも亦其價格を定めさる可からす是損益共分の割合の為めにするに過きす夫労力は人の自から為す身心の働にして其人と分離す可きものにあらされは他の物件と異にして之を供する間のみ差入資本と為るものとす是を以て差入社員其労力を供するヿを止め或は供するヿ能はさるに至れは差入義務消滅し隨て社員たるの資格を失ひ第六十九條第二項の結果を生す
第三十七條
收實権とは他人の所有する物件より生する利益を收納するヿを得るのみの権利を云ひ使用権とは其物件を使用するヿを得るのみの権利を云ふ此に二権の義觧は民法に於て詳明なる可し本法に於ては唯其出資と為りたる塲合を規定するのみ
前條は出資に付概して會社の所有権を定む本條は其中特殊の出資即ち收實使用の二権に付て更に之を規定す普通の差入と單に権利のみの差入との區別を明にして會社の所有に帰す可きものを定めされは其物件の毁損或は滅盡の塲合に於て損失の責を帰する所なし此規定ありて始て次條の結果を生す
第三十八條
收實権又は使用権の差入は此所有権依然として差入社員に存するを以て會社は差入を受けたるものに付てのみの損失を負擔し所有権に係る損失は社員に帰す例へは家屋の收實権又は使用権の差入なるに其家屋災変の為め滅盡したるときは其損失は所有主なる差入社員之を負擔す可くして會社は其價を償ふの義務なし又社員は一たひ差入の義務を盡したる以上は其滅盡に至りたるも再ひ差入を為して之を補充するの義務なし而して之か為め社員たるの資格を失ふに非す故に會社の利益配當を受け會社の損失を負擔する𦾔に異なるヿなし又會社は觧散の塲合に至れは既に滅盡したるに拘はらす賞て領收したる出資に付ての價額を返還せさる可からさるなり
第三十九條
契約の資本を差入るヿ能はさるに至るは即ち金圓を紛失し家屋倉庫を焼失し又は疾病に依て身体の労働を妨けらるヽ等のヿにして其社員の怠慢に帰す可からす故に其損失は双方に於て之を負擔するを當然とす故に會社は其出資を得るの権を失ひ社員は社員たるの資格を失ふ然れとも直に其資格を失ふに非す之か代納を為さヽるに至て始て其資格を失ふものとす是れ其怠慢に由るに非さるを以て其代納を許すは情義に於て其當を得たるものなり故に之を除名と看做すに至るも次條の除名と同一の責任なし除名の觧は次條に明かなり
代納は総員の承諾を得て之を為さヽる可からす何となれは契約変更に等き性質あれはなり
第四十條
除名とは本人の意思如何に拘はらす會社の名簿より其名を除き社員たるの資格を失はしむるを云ふ
前條及本條は資本の差入なけれは會社成立せすして社員の結合を成さヽるの主義に因て規定するものなり前條は差入を為す能はさる者なるか故に之を待つ寛なり本條は怠慢に出る者なるを以て相當に之を處分せさる可からす而して其處分に二あり其一は主義の結果を断行して直に其怠納者を除名す一は少しく之を恕して延納の利息を收めて尚ほ社員たるを得せしむ然る所以は差入を怠りたる者と雖とも其氏名及業務参與に因て會社に益する所のものあり果して然るときは之を除斥するより寧ろ之を畱めて其益を得るに如かす此二のものは怠納者の實况に因て會社の取捨に任す以て會社に便を與るなり而して何れの塲合に於ても怠納の為めに生したる損失を辨償せしむるヿを得るは擔任の契約義務に背けはなり
第四十一條
出資額は會社契約を以て豫定せしものなれは豫定並に出資を増加す可きの義務なし减額を補充するも亦然り然れとも社員各自の意を以て之を増加し或は補充するは禁する所にあらす盖し営業を更に盛大にせんか為め或は會社資本の欠乏を補ふか為め復た出資を要するは會社の便益なりと雖とも人の資力に厚簿あり又其意思同しからされは豫約の外に於て隨時に其出資を强ゆ可からす然れとも資本の増加は通常會社の欲する所なれは社員自から望みて出資を増加し又は資本の欠乏を補充するは必しも之を制止せす故に本條の精神は社員更に出資を為すの義務なしと雖とも其権利は自ら存するを以て各員の意に任するに在り
第四十二條
持分とは會社財産中に於て各社員の所有に帰す可き部分を云ふ即ち會社財産は社員の出資を以て成立し而して其運用に依て常に増减するヿある可し其増减したる會社財産を出資の比例に凖し計算したるもの是なり例へは甲乙丙の三人各千圓を出資と為し三千圓の會社資本を造成し其三千圓を以て営業を為し其財産四千二百圓と為りたるときは各社員の持分は千四百圓とし又之に反し其財産减少して千五百圓と為りたるときは各社員の持分は五百圓なるか如し然れとも出資に至りては何れの塲合に於ても常に千圓にして損益の為めに其額を変するヿなし是出資と持分との區別なり
出資又は持分を减少するは即ち會社の財産を减少せしむるものなれは會社の共益を妨くるのみならす會社は契約を践て営業を為す能はさるに至る且契約変更に渉るを以て総員の同意に依らさる可からす
第四十三條
本條は合名會社は相互の契約に因り協同して成立するもの即ち人身の結合なりとの主義に因て規定す総社員の承諾に因て新に入社するヿを得るは総社員の承諾は即ち信用に因て協同するものにして會社設立のときに於て相互に承諾すると同一なるものなり
地位を他人に移すとは社員たるの資格及其持分を併せて他人に移轉するものを云ふ第四十四條に云る其持分のみを他人に賣渡讓渡の塲合と同しからす
反對の契約とは會社契約中に社員の死亡を直に退社として権利承継者又は相續人の継續を止むる契約を云ふ
権利承継者とは死兦者の財産を相續する者又は遺嘱贈與に因て社員たる権利を受たる者を云ふ
反對の契約なきとき相續人又は権利承継者死兦社員に代るは前項の主義に適せさるか如しと雖とも如此者を以て代らしむるときは死亡社員の持分を其儘會社に据置くと第三者に對して擔保の変易せさるとに於て會社の便益少からす故に此継續を以て入社と看做さす是會社は財産及之に基因する営業を主とするの精神を以て人身結合の主義を寛にするものなり
第四十四條
社員たるの實は會社に其持分を有するに在り其實無けれは社員たるの権利を有することを得す故に社員は賣讓を以て其資格と其持分とを各箇に分て其實を失ふヿなからしむ假令社員其持分の全部又は幾部を賣讓するも會社は之を承認す可きものに非されは會社に對しては賣讓の効なし第三者に對しても亦然り
第四十五條
社員自已の持分に他人を加入せしむるとは會社設立の際なると其後なるとに拘はらす自已の出資又持分の若干を分ち他人をして其持主たらしむるもの例へは社員千圓の出資に三百圓を他人に出さしめ自已の七百圓を合して出資とし又は千圓の持分ある社員他人より五百圓を受取り其他人をして會社に對する五百圓の匿名社員と為らしむるか如き是なり是素より其社員と加入者との関係のみ故に其関係は共算商業に関する第二百十六條以下の規定に依る可きものなり
第四十六條
社員會社に對し負債あるときは利息を拂はさる可からさるか如く會社に貸金あるときは勿論立替金に於ても其利息を求むるヿを得又業務執行の際直接に受けたる損害に付ては其償を求むるヿを得る是れ會社財産と社員私産とを區別したる効果なり
直接の損害とは例へは社員會社の工作に従事し噐械破裂したるか為め不意に傷痍を受け或は會社の業務の為めに遠航し風波に因て其航行に必用なる携帯物を流失したるか如きの類を云ふ其工塲外に在て傷痍を受け又は遠航中住宅に災異に罹るか如きは之を間接の損害と為さヽるを得す
第四十七條
社員は正當商人自已の業務に於けると等く會社の業務を取扱ふ可きは其業務なれは特約あるの外執務勤労の為めに報酬を要求するの理なし且其勤労に因て生する利益は會社の利益にして社員は持分に應し其配當を受くるものなれは報酬は自ら其中に存す
出資に属する労力に付ては前項と同しからす労力を出資と為すには日々執る所の労を量り契約を以て價格を定め利益分配の標凖となすか故に契約外に労力を供したる塲合に於ては別に其報酬なかる可からす
第四十八條
會社の為めに請取たる金圓を相當の時日内に引渡を為さヽるは之を私借したるものと看做さヾるを得す故に引渡を為さヾる間の利息を拂はしめたる上其引渡延滞したるに因り會社に生したる損失をも償はしむ可し又社金を私用に供したるときに於て亦然らさるを得す
第四十九條
本條は代務者たるものは自已の為めに働きを為すものに非すとの原則に基きて之を設く合名社員は會社を代表し且無限責任を負ふものなれは此原則に凖據せさる可からす何となれは社員隨意に會社と同種の取引を為すときは自已の利益を先にし會社の利益を後にして遂に會社の利益を害するの恐あれはなり故に総社員の承諾に依て為すは妨けなしと雖とも恣に之を為すときは第二項の制裁を受けさる可からす
第五十條
損益分配の割合は會社の契約に任かするを適當とす何となれは各社員其権利義務は同一なりと雖とも其業務に當る労逸難易同しからされは其實况を量りて利益分配の割合を定む可けれはなり然れとも會社契約に其定めなきときは分配の標凖なりして紛議を生するに至る故に此規定を設く
第五十一條
詐偽とは貪利の主旨即ち自已又は他人の為めに財産上不正の利を射るの目的を以て真正の事實を害し又は之を湮滅せしめ又は贋を以て真とし會社に損害を加へるを云ふ
業務擔當の権を犯すは商業上の秩序を紊乱するものなれは會社之か信用を失ひ有益の事を妨害せられ徃々要償を以て囬復し得可からさるヿあり
主要の義務を欠くとは前二項の外尚ほ社員の義務を甚しく怠りたるものにして例へは業務執行上又は計算上又は會社財産若くは社名の使用上に付不當の所為をなし又は商品贋造等総て會社の信用を妨害し又は第三十五條の義務を怠たるの類なり
第五十二條
本條は此一款の精神を該括して終尾とし社員間の権利義務相纒緜する普通の主義を明にす此主義は社員各自に會社の全権代表人たるを以て一社員の行為は各社員自ら為したるものと同視す故に一社員の行為及取引に付他の社員の承諾なきも又社名を用ヰさるも其實全く會社の為めに為したるに外ならさるときは各社員は承認したるものと為し之か為めに生したる権利義務は各社員に於て之を引請さる可からす然れとも社員會社の為にする行為は必す第二十八條に依て本法の規定及契約に遵はさる可からす故に全社員又は多数社員の承諾を要する規定あるものは必す其承諾を得可し然らさるときは其行為に付ての責任は自已に負擔す可し
第四節 第三者に對する権利義務
第五十三條
本條は第三者に對する會社の権利義務は何に由て成立するやを示す合名社員は相互に代理人なるか故に社員数名なるも猶ほ一人の如し是を以て業務擔當の任ある者の行為は一員に因ると数員に因るとに拘はらす之を明言したるときは勿論明言せすと虽とも其實會社の為めにしたる行為なるときは其行為に因て生する総ての権利業務は則ち會社の為めに成立するものなり是を以て會社は第三者に對して直接に其関係を有す通常営業取扱上の事のみならす違法の事に於ても亦然り例へは脱税禁制物の製造及其輸入等の所為に在ても會社直接に其関係を有す而して何れの塲合に在ても會社の損益たりしと社員の實意に出てたるか或は詐欺に因るかとを問ふヿなし之を要するに社員其資格を以て為したる事項は其事項の如何なるに拘らす第三者に對しては総て會社の為にしたるものとするなり
第五十四條
権利を處分するとは和觧仲裁等の事を為すを云ふ
會社の権利義務は會社の代表人たる各社員の行為に因て成立するものなれは其権利執行と其義務履行とは前條及本條の如くならさるを得す
第五十五條
第五十六條
本條は代表権の効力を示す此権に對しては會社契約又は其他の約定を以て制限を立て之を第三者に告知せしめ又は第三者自ら其制限を知得たるときと雖とも其制限は無効たり又他の社員業務擔當社員の行為に異議を述ふるヿあるも同く第三者に對しては無効とす是擔當社員は皆な第三者に對して同一の地位を有するに非されは會社の信用を厚からしむる能はされはなり是を以て會社は社員の行為制限を越たるときと雖とも第三者に對して其責に任せさる可からす故に會社は社員詐偽の所為又は會社の契約或は其他の約束を傷害するときに在ても亦之か責任を負はさるを得さるなり
第五十七條
會社財産と社員私産との區別あれは其義務も亦隨て區別せさる可からす故に會社の債主の會社に對する要求は第五十五條に依り各社員に對し之を為すと雖とも是會社の負債なれは之か辨償を為すには先つ會社の財産を以てし其不足なるときに於て會社の全負債に對し社員の財産を以てすへきなり蓋し合名會社の信用は差入資本に在らす社員の全財産に在り其全財産は固より會社の負債に充つ可しと雖とも財産の區別に依て辨償の順序を立るは會社の債主と社員の債主とに對する混雑を防くか為めなり
第五十八條
社員に非すして其氏名を社名に表するは通常為し得可からさるヿなり然りと雖も亦第四十三條の塲合に於て社員其地位を他人に移轉したるとき會社の求めに由て其氏名を尚社名に存するヿなしとせす若し之を為したるときは本條に基き社員と拘しく無限の責任を免かる能はさるは勿論なりとす
業務に参與する者とは例へは第二百十六條と云る匿名員にして會社の業務を取扱ふ者とす
事實社員たるの権利義務を有する者とは自已の負擔す可き責任の定めなくして社員と拘しく損益の分配を受くる者を云ふ
此両者の如きは公然の合名社員に非らすと雖とも其事実は合名社員と異なるなきを以て合名社員同様に其責任を負はしめさる可からす
第五十九條
商業使用人及代務者は主業者に非す其執務上の地位は他より制御を受く此等の者は會社の損益利害に関し而して給料として利益配分を受くヿありと雖とも社員の責任を推て之に及ほすヿを得す
第六十條
本條は專ら會社計算上便益の為めに設くるものなり新社員其加入前の負債に對し責任を負うは苛酷なるか如しと雖とも其入社するに臨て加入前の負債に関係せさるとの特約を為さヽる者は其責任を承諾したるものと看做さヽるを得す蓋し新𦾔の責任を分つか為めに年度中未た終結せさる帳簿を以て特に其入社の日よりの計算書を製するは其手續甚た煩雑に渉り其計算の確實なるを保し難し且新に入社するには必す會社の貸借を検査し其現状に因て特約を為すは固より其隨意なり故に寧ろ會社の便を主として新社員の責任を定むるを勝れりとす
第六十一條
本條以下三條は會社財産と社員私産との區別あるに基き其関係を規定す本條は會社財産は社員自已の負債辨償に充つ可からさるを示す盖し會社財産は社員の差入及其利益より成立すと雖とも既に會社の所有に帰したる以上は復た社員の私産と異なり是を以て其財産の運用は社員の手に在りと雖とも社員の私用に供す可きものに非さるなり然れとも會社に差入と為らさる前既に書入或は質入と為りて他人の権利に属したる物件なるときは差入れの為め他人の権利を妨く可からす故に其他人は會社の所有と雖とも其物件に對し要求するヿを得是物上権の理に於て當に然る可き所なり而して之れか為めに社員の出資减額するか或は変更するに至るヿあれは其事の為めに定めたる規則を適用せさる可からす其事情に因ては社員は除名せらるヽヿある可し
第六十二條
本條は社員の債主會社に對し要求し得可きものを示す其要求し得可きものは會社の所有を離れて社員之を隨意に使用し得可きもの即ち會社営業上より生したる利益の分配を其社員の受取る可くして未た受取らさるもの又は其社員退社或は會社觧散の塲合に於て持分拂戾の金圓を社員の受取得可きものヽ二種なり但し會社の財産中にある持分と雖とも會社の承諾ありて受取得可きものは此例外とす
第六十三條
分配前とは第七十九條の會社の全財産を分配する前なれは即ち會社存立中なり
二人相互に貸髙借髙に付差引計算を為すヿを得るは普通の原則なり合名會社は他の會社と異にして會社と社員と財産の関係相牽連す故に社員に對する貸髙借髙と會社に對する貸髙借髙と差引を為し得可きか如しと雖とも社員として運用する財産は會社の財産にして其権利義務は會社を代表するに由て生するものなれは即ち會社の権利義務にして社員の権利義務に非す然らは則ち會社に對する債主負債主は社員に對する債主負債主とは直接の関係なり即ち相互の債負債に非す故に差引計算を為し得へきものと異なり
第六十四條
社員其持分を减少するは第四十二條の規定に由て生す異議申述一年の期限は期満免除の如くに中止するものに非す之を一年とするは毎年度の計算に於ては負債辨償の過不足を検し得可けれはなり
本條は前諸條の規定を補足し債主を保護するに在り債主異議に因ての要求は直に社員の財産に對し之を為すヿを得而して其額は社員其持分を减少して受取し額に止る
第五節 退社
第六十五條
契約有期なるとき其期限中に退社するは契約を変更するものなれは更に総員の承諾を得さる可からす然れとも契約無期即ち期限を定めさるものなるときは何時にても退社し得可きの旨趣なれは契約に影響なし故に総員の承諾を得るを要せさるなり
社員自已の利益を後にして會社の利益を先にす可き義務は退社の際に在ても尚ほ之を守る可きものなれは會社の損害を顧みすして卒爾に退去するヿを得す故に六ヶ月前に預告す可きを規定す六ヶ月前に預告して年度の末に至り退去するときは其時月の間に會社の利益と社員の利益とを審にして其處置を為すヿを得可し然れとも重要の事由例へは急速の旅行或は會社を觧散せさる可からさる正當の理由ありて他の社員の抏拒するか為め之を遂くるヿを得さる塲合の如きは定期の豫告と年度の末とに拘はらす退社するヿを得可し
第六十六條
前條は社員已れの意を以て退社するヿを規定す本條は退社せさる可からすして前條の手續を要せさるものを示す其一、第三十九條第四十條第四十九條第五十一條第七十四條の除名せられたる者其二、社員死亡して第四十三條の反對の契約あるとき又は相續人或は権利承継者なきとき其三、破産に因て自已財産の處分権を失ふたるとき其四、無能力即ち瘋癲病其他の事由に因て財産の處分権を失ひたるとき然れとも此塲合に在ては其財産管理者に於て會社と特約を為し會社との関係を保續するときは其無能力者を退社とせす
第六十七條
登記公告に退社の理由即ち社員已れの意に出しヿ又は退社せさる可からさるに至りしヿの事由を記載せしむるは會社の信用上に付て商業社會に推測を得易からしむるか為めなり
第六十八條
社員退社したるときは其持分は既に會社の資本たる可きものに非されは會社は之を退社員に返還せさる可からす而して其持分は差入資本額より増减ある可く其額は會の貸方借方に付差引して之を定む可し故に之を精算して對照表を作り退社の時の割合を以て之を返還す可し未た結了に至らさる取引ありて其損益如何を知得さるものあるときは其結算に至る迄返還を延はすヿを得るなり又其損失を預知し得可きときは其償に充つ可き割合を引残し之を返還するも妨けなし
第六十九條
持分を返還するに必す金圓に限るとするは會社の便益の為めなり若し倉庫、家屋或は噐械等の如き差入なるに其現物件を還するときは會社営業の支障を生するに至る且差入資本は既に會社の所有に帰したるものなれは差入主の退社の為めに其所有を失ふヿなし故に之を返還するヿを要せす退社員は前條の貸借對照表に基つき其持分を得可きのみ
労力の出資は第三十六條に説明せるか如く會社の所有に帰す可きものに非す其價格は唯た分配の標凖たるのみ而して労力の供給は社員の退去と共に休止す故に之を償ふの義務を生するヿなし又使用権の出資にして預め其差入主退社するときは共に其権を復するの約あるものは亦労力と同しく其使用を終るものなれは其結果も亦同しくせさる可からす又此二つのものに對しては報酬を為すヿあるも同しく義務とす可きものに非さるなり
第七十條
社員は自已の全財産を以て社外に對し擔保するものなるに退社員あるときは會社の債主は其要償を减少せらるヽに至る可し然れとも之を防くか為めに社員の退社を止むるは過酷に失す由て之を酌量して本條の規定を設商業取引の結了は三四月乃至一年を以て通例とす退社員の関係は退社前の取引に止る而して其退社を年度の末に於てするものとす年度の末に於てせさる退社後に一年度を過れは會社取引の完結せさるものは僅々なるのみ既に登記公告ありて債主は退社員ありしを知れり已れの利益を抛棄するに非さる以上は数年間之を等閑にせさる可し然るときは退社員の責任を二年として足る可し
本條の責任を二年とし第六十四條の責任を一年とし其區別を立てたるは第六十四條に於ては社員退社するに非すして單に其持分を减少したるに過きされは其社員の無限責任は猶依然として存すと雖とも本條に於ては社員は全く退社して會社との関係を脱し従て其無限責任も之と共に消滅すへきを以て自ら其責任の期を長くせさる可からさるなり
第七十一條
合名會社は相互の信用を以て成立するとの主義のみを偏執するときは一社員の退去に因て會社を觧散せさる可からすと雖とも此主義のみならす會社財産及営業上の関係を該て合名會社に見觧を下すときは財産を會社の根本として社員は其附隨と看做し會社の獨立初て全し是に由て之を見れは社員の退去は會社の一事故なるのみ之を以て必す會社を觧散するの原由とするは未た其當を得たりとせす故に本條に於て退社は當然會社觧散の原由とす可きものに非さるヿを規定す
第六節 會社の觧散
第七十二條
會社の觧散は一個人に係る原因を以てせす必す會社総体に係る原因なるを要す其原由に二種あり各社員の意に出ると會社を保續し難き時と是なり本條の第一第二第三は社員の意に出るものにして第四第五は保續し難き塲合なり此五個の事は其義自ら明かなれは觧釈を費さす第五の塲合は第七十四條に於て説明す可し
第七十三條
前條第四破産の塲合は通常の一個人の破産と異なるを示す一個人に於ては宜告を以て初て破産したるものとすと雖とも會社に於ては支拂停止を以て直に破産とす然らされは其際多少曖昧の事情を生し會社破産と社員破産とを混同し債主をして甚しき危険に陥らしむるの恐れあれはなり
第七十四條
本條は第七十二條第五裁判所の處分に依る觧散の塲合を示す第二條第二項の塲合は勿論其他左の事情に因て裁判所の處分を以て觧散す可き塲合あり
其一は會社其目的を達する能はさるに至りたるとき例へは世の需求一変して會社其製造品の供給を失ひ或は汽車の設立あるるか為めに馬車其運輸を减するか如き是なり
其二は會社の地位を維持する能はさるに至りたるとき例へは損失又は事変に因て資本を减少し或は社員相互の信用を失ひ或は一二の社員社外より厭忌せらる等の事あるか為め會社の取引衰頽して復た挽囬す可からさるの㔟に至りたるときの如き是れなり
然れとも前項社員相互の信用を失ひ或は一二社員社外より厭忌せらる者ある原因にして一二社員を除名すれは再ひ地位を復し得可き實况なるときは之を除名するヿを得然れとも亦裁判所の處分を仰く可し盖し第三十九條以下各條の除名は法律上に規定ある事由に依るか故に會社に於て直に之を為すヿを得ると雖とも本條除名するの事由は社員の思料に出つ故に裁判所の處分を仰かさるを得す
第七十五條
第七十二條第一第二は社員已れの意に出る塲合なれは総員の同意なるときは勿論総員の同意なきも二三社員に於て同意あるときは會社を觧散せす𦾔に依て之を保續するヿを得二三社員に於て保續するときは其他の不同意なる社員は既に従来の契約を履行し終りたるものなれは直に退去するの権あり而して會社を保續するは契約変更と看做し第二十三條の規定に従ひ登記公告を受るを以て足れりとす退社員の関係は第六十八條第六十九條第七十條の規定に依る可し盖し既に觧散する會社を保續するは其實新設に異ならす然れとも之を新設とせすして契約変更と看做すも其支障を生するを見す之を新設とすれは一時に觧散と設立と両様の手續を為し徒に煩数を生するのみ故に此規定を設て保續する會社の便利を得せしむるなり
第七十六條
結算人の職務は次條に明かなり其人は社外人を用ヰるも妨けなし
會社破産に因て觧散するときは破産法に依り管財人を任す故に本條の例外なり
會社觧散するときは結算人を選定し之に會社の残務を委託して其處分を為さしめさる可からさるは是觧散の塲合に於ては會社即ち社員間の利益のみならす主として第三者の利益を保護せさる可からされはなり
結算事務の取扱い會社取引の終局なれは特に周密且公平なるを要す故に結算人の選定は義務擔當社員のみに任せす総社員の多数决を以てす可きを規定す
第七十七條
結筭人の職は會社仕掛の事務を取纒め財産分配の手順を整へ而して之を分配するに在り此範圍内に於て事務を取扱ふの外他と新に取引を始るヿを得す然れとも損耗を防くか為め例へは製造所の事業を一時継續せさる可からさる塲合に在ては職工を雇入又製造に供する原質物の買入を為すか如きは會社利益の為め已を得さるものなり若し然らすして濫に為したる取引に付ては結算人自已に其責を負はさる可からす
第七十八條
結筭人の擔任事務は法律に於て之を規定せり前條是れなり結算人は本と會社即ち社員の代理なれは社員其行為を監視し之を必要とするときは総社員の决議を以て結算人の事務執行に付訓條を與へ之に遵はしむるヿを得ると雖とも法律上に規定したる擔任事務の権即ち原被告たるの権和觧契約を為すの権仲裁に任するの権物件賣却の権の如きは之を制限するヿを得す然らされは結筭人を任するの旨趣に背くものなり又通常の代理人に等しく何時にても隨意に之を免除するヿを得す然れとも結筭人恣に會社の財産を賎售し或は不信の處置を為し或は怠慢に流れる等の所為あるに之を黙視するときは其害得て測る可からす如此塲合に至りたるときは社員は自已の利益を保護するか為めの處置を為すヿを得然れとも敢て自ら之を為すヿを許さす必す裁判所の處分を仰かさる可からす
第七十九條
結筭人其計筭を終り直に財産を分配せす先つ其計筭書の報告を為すは各社員の承認を承くるか為めなり委任者に對し其委任を受けたる事務即ち計算結了の承認の為めに先つ計筭書を報告するは事務取扱の順序なり若し計筭上承認を得さるヿあるときは之を改筭せさる可からす
財産を分配するには前項の手續に従ふを以て正則と為すと雖とも一の例外あり計算未た結了せさるも支障なき財産即ち會社の負債を償完して必す剰餘となる可き餘裕の財産は之を分配するヿを得是れ社員に便益を與ふるなり
第八十條
本條は前條に分配す可しとするは如何なる財産なるヿを示す負債を完償するに要せさる財産とは既に償却し又償却に充つる額を引き會社の負債を清完して残餘となる額を云ふ是れ分配す可き財産なり
第八十一條
社員に於て會社帳簿其他書類の保存を擔任するには實際社員の多数决を以て其保管人及保存の方法を定むるヿを云ふ然れとも法律上に於ては會社現存中と等く総社員を以て其擔保人と看做し敢て其細則を設けさるなり
第八十二條
本章中責任の期限に三つあり第六十四條第七十條及本條是なり第六十四條第七十條の期限に差異あるは各其條に就て之を説明せり本條は彼の二條に比して其期限延長す彼の二條は會社尚ほ現存するを以て債主の要求は猶ほ會社に對し之を為すヿを得然れとも觧散の後に於ては既に會社財産なきを以て債主の要求は直に社員各自の財産に對す而して一たひ其期限を経過すれは復た他に要求す可き所なりして遂に其権を失ふ且社員各自に對して要求すると會社に對し要求すると債主の便不便も又同からす是其期限の異なる所以なり而して五年の時日あるときは債主其要求を達し得るに適當なる可し其五年は觧散公告の日より起筭す可きなり
第三章 合資會社
第八十三條
第一項は合資會社の主義に基つき社員の責任を規定す其責任は社員出資の額に止りて其私産に及はす合名社員と異なり然れとも特に契約を以て社員中無限責任を負ひ或は第九十三條の責任を定むるは會社の隨意にして之を禁するの限に非す
合資會社には社員の出資に労力を以てするヿを止む労力は第三十六條に説明するか如く會社の所有に帰す可きものに非されは出資となさしむるも有限會社に在ては之を以て其負債に對する責任を負ふヿ能はす且合名會社に於けるよりも資本の取扱を嚴にせさる可からさるか故なり而して社員の持分は合名會社と等く其人と分離す可からさるものにして株式の如く移轉す可き財産に非さるなり
社員の数に制限を立てさるは責任有限なるを以て合名社員の如くに社員相互の信用を主義とせす故に之を立るの必要を見す其制限あるときは或は多額の資本を募集する能はすして結社を妨くるに至るも亦知る可からす
本條及第八十四條第八十八條等に依るときは合資社員は合名社員と其責任を異にすと雖とも會社組織の大体に於ては合名會社と異なるなし然れとも第八十九條以下に依るときは其組織殆と株式會社に類す之を要するに此會社は合名と株式とを折衷して一種の主義を生す是れ商業上の便宜に基くものなり
第八十四條
合資會社は前條の説明に云るか如く其組織の大体合名會社と異ならさるを以て本章に設たる規定と牴觸せさる合名會社の規定は総て合資會社に凖用す可きものとす之を凖用するには會社の性質に依り善く其精神に基かんヿを要す例へは第七十條の無限の責任は合資會社に在ては社員の責任特約ある塲合に限り又其有限社員に在ては會社より拂渡を受たる持分の額まての責任を負ふに止り又第六十九條第二項の労力は合資會社に適用せさるか如し
第八十五條
本條以下は即ち合資會社に要する所の規定なり第二十二條第二より第七迄に掲けたるものヽ外登記公告に加ふ可き事項を五箇とす第一は會社の種類を明にす第二の會社資本の惣額は社員出資の集合にして會任責任の止まる所第三の社員の出資額は社員責任の止まる所第四の無限責任社員は此會社の特約なり第五の業務擔當社員は第二十二條第七に掲くる氏名の外に責任の無限無限を掲く取締役は第八十九條の塲合なるときなり是皆な合名會社と異なる所なり
第八十六條
社員の氏名を社名に用ヰるは合名會社の主義にして會社の責任氏名を用ヰたる者の全財産に及ふヿを示すものなれは責任出資に止る會社に適用す可からす然れとも社員中責任無限の者あるときは之を表示するか為め其氏名を用ヰるヿを得可し故に氏名を社名に用ヰたる者に對しては社外に於て無限責任を負ふたる者と信認す可し
社名には氏名を用ヰるときと又は他の名を用ヰるときと拘はらす必す合資の字を附すへきものとす是れ他の會社との區別を明にして社外人に謬誤なからしむるか為めなり
第八十七條
合資會社は社員の責任有限なるに由り合名社員の規則を以て之を概するは苛酷に失す故に會社営業と同種の取引を為すヿを許す然れとも會社に對し社員たるの義務を履行せす即ち第三十五條の勉励注意を怠り或は會社に損害を蒙らしむるヿあるときは合名社員と等く同條の責任を免かれさるなり
第八十八條
合資社員の責任は有限なりと雖とも會社を代表するは合名社員と異なるなし即ち會社は各社員の行為に依て権利義務を得又各社員は會社の権利を執行し義務を履行し又相互に代理となり社務を擔當する等第三十一條と同一なりとす合資會社にして然る所以のものは第七十一條説明中に論せしか如く會社は財産を根本として法律上の無形体を為し社員は其附隨即ち理事者なりとするに依る社員會社の理事者なるときは同等に代表人たらさる可からす且會社の業務の運用を活溌ならしむるに已む可からさるの方法なり此規定は合資社員の主義を表する緊要の條件なるを以て第八十四條の明言あるに拘はらす第三十一條の主義を反履して特に之を示す
第八十九條
本條亦合名會社と異なるものなり是れ第八十三條第二項の結果にして前條を制限するものなり合資社員は其結合專ら相互の信用に出るに非す責任亦合名社員と異なり而して社員の数に定限なきに皆業務を執行するときは其衆多なるか為め混雑を生して事務整理の方を失ひ會社の不利たる甚しきに至る故に之か制限を設け総員をして盡く事務に干與するヿを得さらしむ
社員七名以下なるときは其結合相互の信用を得る難きに非す故に合名會社と同一の方法を以て管理するも前項の害なし故に制限の外なり
取締役選定の方法並に其任期の如きは會社契約を以て之を定むるものとす其觧任の如きも亦然り然れとも觧任のヿを契約に定めさりしときと雖とも第百四十四條の主義に従ひ之を觧任するヿを得可し其理由は同條説明に就て見る可し
取締役数名なるときは其事務取扱の方法なかる可からす其方法は會社其實况に従て之を定るヿを得
第九十條
本條は第五十四條及ひ第五十五條と其主旨を同しくすと雖とも「然れとも」以下の規定あるは該條と異なる所なり何となれは合資社員は責任有限なるを以て通則とし且取締役に至ては合名社員其資格を以て業務を擔當するの例に非すして社員より選定せられたる會社の役員たるに外ならされは其行為の會社契約又は會社の决議を遵守したると否に由て會社責任の有無に関係を生すれはなり
第九十一條
善意とは業務擔當社員又は取締役の代表権に制限あるを知らさるを云ふ
第五十六條即ち合名會社に於ては善意と悪意とを問はす第三者に對し制限を無効とし本條及第百三十三條即ち合資會社及株式會社に於ては第三者善意なるときに限り其制限を無効とするは第九十條の説明に云るか如く合資會社の社員は有限責任なるを通則とし且取締役は社員より選定せられたる會社の役員なれは其行為に由り會社に負ふ所の責任は合名社員の性質上主義者の地位に在るを以て會社の責任自ら重からさるを得さるものと同一なる可からす故に善意と悪意とに由て之を區別して會社の責任を减殺するなり
第九十二條
合資會社は合名會社の主義に凖據するものなれは社員の地位は容易に変轉し得可からすと雖とも社員の責任有限なるを通則とし且人員多数にして業務擔當を一の機関即ち取締役に付する塲合に於ては有限社員は單に持分の所有者たるに過きすして殆と株主と同視す可し故に徒に其主義を執て社員を勒するは苛酷に失す是を以て本條に於て之を合名社員より寛にし主務者の承諾のみを以て賣讓を為すヿを許す
既に賣讓を以て社員更代したるときは新社員は氏名の登記公告を受け権利義務を継承す又𦾔社員は交代の後と雖とも第七十條に従ひ社外に對する責任を免かれさるなり
第九十三條
會社の主任者責任重きときは執務上に於て特に審密にして且勉励し以て會社の信用を厚くす可し故に此會社の主義より生するものに非すと雖とも契約又は决議を以てするときは主任者に無限の責任を負はしむるヿを得且其責任は會社財産の不足なるときに於て補充するものたり在任中に生したる不足は主任者の所為に因るものなれは預め契約又は决議を以て其責任を重くするも可なり
第九十四條
前條責任の期限を一年と定めたるは觧任後尚一年の時日あれは債主の要求を為すに十分の餘地あるに因る
第九十五條
第九十六條
第九十七條
第九十八條
此四條及次條の規定は株式會社の原則に凖據して之を設く第八十九條に依るときは社員の業務に干與せさる者多きに居る故に此規定に依て社員の権利を保護し取締役の專恣を防く
通常総會に於ては已徃の業務を認むるに過きす臨時総會は其議する事項頗る重要に渉る故に其議决に出席社員の多数と総社員の過半数との別ある所以なり
合名會社に於て総社員の承諾を要する事件は尤も重要のものたり而るに総員四分三以上の多数决を以て足れりとするは合資會社の衆多なるに拘はらす総員同意の規定を適用するときは一社員の意を以て衆社員の意を沮むに至れはなり然れとも重要の事件にして少数社員多数社員の為めに其意を枉て之に従ふは亦至當に非す故に退社を許して其自由を得せしむ
第九十九條
前條の総社員の過半数又は総社員四分三の同意を得るは社員衆多なる會社に在ては難んする所にして或は数囬総會を招集するも定則の同意を得る能はさるヿあらん故に定数に拘はらす出席社員を以て决議するヿを許すは已む可からさる情状にして本條の規定を以て之を許す然れとも其决議は定則に適せされは假りの决議たるに過きす故に本條の手續に依て第二次會を開き其出席社員の多数决を以て前會の决議を認可したるときは其决議を以て有効ならしむるの便を與ふ第二次総會を招集するには前會の决議及第二次會の結果を各社員に報知す故に各社員は其報告を得て其當不當を審にす可し然るときは不同意者は必す出席して其意見を陳す可く欠席員は之を認可したるものと看做す可し故に後會に於て認可を得たるときは確定のものとして有効ならしむるなり
第百條
分配は必す純益金を以てす可し純益金とは會社の収入其使用したる元資本及諸費用を引去たる剰餘のものを云ふ其剰餘に非されは分配す可きものに非さるなり然れとも分配に付ては取締役動もすれは會社の取引及財産の現状を隱匿して計算不正の所為をなすヿあり又或は社員故らに之を不問に付するの情なき能はすして遂に會社の財産を蕩盡するに至る故に本條は厳に之か規定を設け資本の减額ある間は之を填補して資本を復し而して後ち剰餘あるに非されは利息又は分配金の配當を為すヿを得さらしむ是を以て减額を填補せすして配當を為したるときは其配當の無効となるは言を待たさるなり而して取締役之に違ふたるときは第二百六條の罰に處せらる可し
第四章 株式會社
第一節 総則
株式會社は其事業盛大にして業務多端特に其組織の他に異なるか為めに規則嚴密に渉り事類に従て節目を分つヿ亦多し由て其會社の大体に渉る各條を撮て総則とす
第百一條
株式の義觧は第四節に在り資本を株式に分ち各株の金多額に上らす株券の性質は流通證券にして其利益は普通の利息に超るを常とす而して會社の責任は其財産に止まる是を以て人の募集に應する易くして會社其資本を得るヿ多し
株式は流通證券にして會社の承諾を待たす之を賣讓するヿを得るものなれは株主は之に由て隨意に更代するヿを得是に由て之を見れは株式會社の成立は專ら資本に在て人に非らす故に會社を代表する者は社員即ち株主に非すして他の組織体を以てす第五節に規定する所是なり其組織体は會社の中心に湊合す則ち業務の取扱は全く取締役に帰し其他の株主は毫も参與せす唯資本を供し其損益を共にするのみなれは會社中に身分上純粹なる社員なく株式恰も社員なるか如し而して株式を有するも之か為めに商人たる資格を有するに非されは何人に拘はらす株式と為て資本を供するヿを得故に其効果は會社巨大の資本を以て大事業を起すヿを得るに至るなり
第百二條
株式を以て成立する會社は其営業の如何なるを問はす盡く商事會社と看做し本法の規則に従はしむ是れ株式は前條に説明したるか如く流通證券即ち賣買上の物件にして之を発行するは賣買の一なるを以てなり
第百三條
株式會社人員の最少限を七人とするは七人なれは第百三十二條に依り取締役三人を除きて尚四人の株主あれは會社を組織するに足れはなり検査役亦役員と云ふと雖とも會社の管理に與からす取締役の業務を監視するの任あるものなれは総會に於て他の株主と同視すへし之を要するに株式會社は巨額の資本を集合し一大事業を為さんとするを通例とするを以て少数の人員にて設立するか如きは事實之れなき而已ならす七人以下の人数を以て之を設立せしむるときは本社組織の主義に戾り本章の規定に依らしむるを得さるの結果を生するに至らし
株式會社は株主相互の信用に関せす人員の多きを要すれは発起の際に於て欺騙なきを保し難し故に必す官許を得せしめて以て其取締を嚴にす
第二節 會社の発起及設立
発起とは會社成立に至る迄の凖備の事務を云ひ設立とは會社法律上の効を有して公然たる成立に至る迄の事務を云ふ
第百四條
発起人は公衆に對して起業を誘奬し資本募集の任に當り其名に依て公衆の信用を得且其事業の成否に付責任を負ふものなれは一人ヽ計画なるときは其目論見或は疏漏に陥り或は信を公衆に得るに至らす故に人員の数を四名以上とす四名以上なるは計画周密信用を得へき擔保とするに足るなり
裁判所又は公證人の公證は現に其発起人に於て目論見書及假定款を作りたるヿを確認するに過きすと雖とも其法律に背反したるものに付ては之を公證するを許さす故に其公證を為さしむるは目論見書假定款を確實ならしむるか為めなり
第百五條
第二の起業の目的及事由とは會社の営むへき事業と其事業を発起する原由なり
第五の資本使用の概筭を記載するは第二の目的を達し得へき實况と第四の資本の総額を要する所以を明にするなり
第六の発起人の引受くへき株数を記するは其信用に関すれはなり
第七項は會社成立の基礎たる要件にして且會社の適法と否と其事業の有益なると否とを断定す可き者の必す知らさる可からさるものに係る故に必す之を記載せさる可からす其他尚ほ加ふ所あるは法律の禁する所に非す
第百六條
本條は第三條に依り官許を得るの手續なり主務の省とは會社の事業を管理す可き省を云ふ例へは郵舩なれは逓信省銀行なれは大藏省に願出可きの類なり
第百七條
第百八條
株式申込は起業目論見書及定款を承諾して會社に加入するヿを證するものなれは其手續を確實にせさる可からす故に此規定を設く此規定に依らさるものは申込の効なきなり既に本條の手續を為したる後は次條の義務あり且第百十條假定款の確定を既に保證したるものと看做す可し
第百九條
申込人既に契約を承諾し前條の手續を為したるときは定款に従ひ必す株金拂込を為すは申込人の義務たらさる可からす
第百十條
凢そ総會は株式會社組織上の最大関係たり本條の事件は尚ほ発起の凖備なりと雖とも會社を成立に至らしむる重要の事件なれは必す総會に依らさる可からす此総會は第六節通常臨時両総會の外にして創立の事件のみに係る故に之を創業総會と云ふ
定款は発起人の起草にして株主は各自に之を承諾して株式の申込を為したるものなれは総株主は既に申込の際に於て其同意を表したるものと云ふも可なり然れとも未た公然一致の承認なきを以て創業総會に於て其承認を受くるを要するは又欠く可からさるものなり
発起人の為したる契約並に出費は自已の利益の為めになしたるに非す會社創立の為めにしたるものなれは會社に於て之を負擔す可きものなり故に此総會に於て之か承認を受く可し其承認を得さるものに付ては第百十九條に依り発起人自ら其責に任す可し
金圓に非さる物件を差入れ株式を以て其辨償を受け株主と為る者あり其價は差入人と発起人とに於て取極たりと雖とも其物件は會社の財産たるものなれは総會に於て其價額果して相當なるや否を議决す若し其價額の不當なる欤又は詐欺の所為あるときは差入人又は発起人其責に任せさる可からす此差入に労力を許さヽるは合資會社の例に同し
第百十一條
此議决法は例へは株金の総額四萬圓にして株主の総数五百人なるときは二百五十人以上出席し其出席人の所有する株金額を合筭して二萬圓以上なるときに於て其議决権の過半数の同意に决するなり人員の過半数のみならす株金額の過半数を要するは株主其有する株券の多少に由て其利益に大小あれは會社に對して注意する所自ら厚簿あり若し人員の数のみに因て議决を為すときは二百五十一人の出席にして各人の所有株券二十圓一箇なるときは其総株金額五千二十圓にして會社総株金八分の一に當る少数たり此少数額の株金所有者は其人員は過半数なるも豈に深く會社の利害に注意するを保す可けしや故に議事を鄭重ならしめんか為めに両個の要件に適する株主の出席を要す
定款を確定するに総員同意の决を用ヰすして本條多数决の方法を用ヰるものは一二人不同意の為めに多数の同意を妨く可からさるを以てなり凢そ株主の数は数百の多に至るものなれは其一致同意を得るは㔟ひ能はさる所なり殊に各株主は假定款を承諾して申込を為し且此総會に於て定款を確定するヿも豫め認知したるものなれは多数决の為めに制せられたるも自ら其决議に服したるものと看做さる可し而して單一の多数决に依らすして此方法を用ヰるは定款の議定を重くするか故に尚ほ幾分か相互承諾の主義に基くものなり発起人の為したる契約及出費の認否差入物件の價格を議定するも亦重要の件なり故に其决議法を同しくす
會社の組織は假定款の主旨の區域外に出づ可からす又其主旨は此総會の决議を以て変更す可きものに非す故に此総會に於て之を変更し従前の主旨に反するときは株主は退社の権利を有す故に従前の主旨に反する事項は仮令多数决に依るも之を定款に加ふ可からさるなり
第百十二條
他の會社は其社員自ら會社の代表権を有して事務の取扱を為すを以て普通に役員を要せすと雖とも株式會社の株主に在ては之に反す故に役員に非されは事務を取扱ふ能はさるは會社組織上の然らしむる所なり是を以て役員を選定するは會社の成立に於て一日も欠く可からさるものなれは定款を確定すると等く創業総會に於て役員を選定す役員即ち取締役検査役の職務は第五節に詳かなり
役員選挙の方法は前條の决議法を用ヰすして第百四十九條に従ふ可し何となれは後来定期の選挙と其方法を異にす可からされはなり
第百十三條
本條は凖備事務既に終りたるを以て許可を請ふの手續に止る
第百十四條
會社既に許可を得たるときは凖備事務既に終結し発起人は通常の株主たるに過きすして事務に関す可きの理なし故に其許可を得たる時を以て事務取扱の分域とす
會社既に設立したる以上は速に財産を要するは言を待たす株式會社に於て殊に然りとす然れとも會社に於て一時に資本を使用するものに非す又拂込の数次なるは株主の便とする所なり其拂込の方法は會社に任すと雖とも寡少に過く可からす故に其金額の最下額を四分一に定む
第百十五條
本條の登記公告は第四條に基き法律上會社の設立を有効ならしむるものなり第一以下九項は如何なる會社なるやを概知するに足る可き要件を掲く尚ほ其詳細の登記公告を求むるは禁する所に非す
目論見書其他書類の寫を添るは登記簿に添て保存し之を登記したるものと看做し且第十五條の展閲に便ならしむるなり
第百十六條
第百十七條
許可を得たる後一ヶ年間登記公告を受けさるは會社に於て其許可を得たる事項を實施するの意なきものと看做さヽるを得す故に其許可を無効ならしむ而して其期限を一ヶ年と為したる株式會社は其事務多端なるを以て其期限を長くして之に猶豫を與へたるなり
登記公告前に開業するヿを得さると登記後六ヶ月開業せされは登記公告の無効となるとは何れの會社も同一義なり故に第二十四條第二十五條を適用す
第百十八條
登記公告前即ち會社未た公然の設立に至らさるときに於て為したる取引は會社の取引に非されは之を為したる各人即ち発起人連帯して其義務を負いさる可からす創業総會の承諾を経たるものに於ては取締役株主も亦之に連帯す其連帯する所以は取締役株主等の資格を以てするに非す各人通常の義務にして相互の承諾あれはなり
第百十九條
前條に反し総會の承諾を得さる負債及出費は會社の財産を以て負擔す可からす故に登記公告の前後に拘はらす発起人自ら其責に任するものとす
第三節 社名及株主名簿
第百二十條
株主の氏名を用ヰるを得さると株式會社の字を附するとは第八十六條と其義を同くす
第百二十一條
株式申込簿は會社発起人の際初て株主と為りたる者のみの記載に止る故に又本條の名簿を設け株式の移轉に因て交代したる株主のヿを記載して以て其交代を確認す此記載なきときは第百二十八條の結果を生す
第四節 株式
第百二十二條
本條は株式に義觧を下し且其金額の制限を定む
株式を一定平等の額に分つは其賣買の價を附するの容易なるヿ分配の計筭簡易なるヿ総會に於て議决権の数を筭ふるに便なるヿ等の為めなり
一株の金額過多なるときは募集に便ならさるを以て法律の制限なきも其最上㸃は會社の之を定むるに任せて其害なし然れとも募集を便にするか為め過度の少額に分つときは株主の数は過多にして名簿登記総會開設等に於て大に混乱を生し殊に株券移轉の甚た容易なるか為め危険に至るを免かれす故に之か程度を計り十万圓以上には五十圓より下らす十万圓未満は二十圓より下らさるの制限を設く
第百二十三條
第百二十四條
本條は第百二十二條に定めたる一定平等の額に分つの主旨を全するなり若し数株を合して一通の株券と為し又一株を分ちて数株と為すときは該條の主旨を失ふ
第百二十五條
第百二十六條
登記公告前未た成立の公ならさる會社に在りては其假券たると本券たるとを論せす株券を交付するヿを得す
此主義に由るときは登記公告前に第百十四條第二項の拂込の金額には受領證を渡し登記公告後に至り假株券を交換す可きなり
第百二十七條
前條に依るときは株主未た賣讓す可き假株券又は株券を所有せさるを以て其賣讓は自ら為し得可からさるも實際に於ては株式申込を為し直ちに其権利を他人に移轉し之か為め會社の信用を害する虞なしとせす故に本條を設けて其弊を防止す
第百二十八條
會社は株式名簿の記載に依て其株主を認む故に株主株式を他人に賣讓したるも其買受讓受人株主名簿に第百二十一條の記載を為したる後に非されは會社に對し株主たる資格を有せす會社は其賣讓ありしに拘はらす其賣主讓主を以て依然たる株主とす故に其賣讓は双方の契約に止り會社に對して無効とす
第百二十九條
株式を賣讓するときは第百九條の義務も亦隨て買受讓受人に移ると雖とも若し買受讓受人其義務を盡さす即ち拂込む可き株金を納めさるヿあるときは其不納の原由は賣讓に在り故𦾔株主は未納額を擔保せさる可からす何となれは株式賣讓の隨意なるに因て他人を假て以て自已の義務を逭る可けれはなり且株金不納あるときは會社の資本の欠乏するのみならす會社の債主其損失を蒙むるに至るヿあり故に賣讓の結果を嚴にして此規定を設く
第百三十條
第百三十一條
株式會社の成立は專ら資本に在り故に資本を組織する所の株式は更代に因て其所有主を変易するも資本と會社との結合は决して分離す可からす之を分離するときは會社の組織を破り資本を减少するか為め會社の危険を生す
第五節 取締役及検査役
取締役検査役の如何なるものたるは本節の各條に於て自ら明かなり本節は社務管理の組織に係る既に屡述るか如く株式會社は專ら資本を以て成立し人を主とするに非されは株主は會社の代表権を有せす即ち社務を管理するの権利義務なし且社員の衆多なるものなれは株主各自に盡く事務を執るは勢ひ為し能はさる所なり故に唯総會を以て社務管理者を選定するヿを得るのみ其選定せらるヽ者は即ち取締役是なり検査役を選定するの意は第百三十九條に於て説明す
取締役検査役の選定は既に第百十二條に在り本節は取締役検査役の職務及権利義務を規定するものなり
第百三十二條
取締役三名以上とするは株式會社は資金巨額にして事業亦た盛大なるものなれは其管理者多きを便とす可し且相互に輔翼し或は牽制して一人にして專橫に渉るの所為を防くに足る
株主中より選挙するものとするは株主にして自ら會社の利害に関するときは他人に比して其執務上心を盡す懇篤なるものとす他人を以てするときは其然るを保し難し且第百三十四條の規定を適用する能はさるなり
任期を三年とするは総會に監督権を與へ攺選の機を得せしむるなり然れとも亦た復選を許すは適任の者は其職に久しからしむ可けれはなり
取締役数名なるときは或は統一せさるの患あり故に會社の便宜に依て数名中に頭取を置くヿを得るなり然れとも是れ取締役其事務部内に於てする分擔なれは之を以て會社又は第三者に對して其責任を異にす可からす
第百三十三條
合資と株式とは會社の性質に於て異なりと雖とも取締役を以て社務を管理するに至りては其組織相類し株式會社の取締役會社を代表するの権利合資會社の取締役と異なるなし故に第九十條第九十一條の規定に依る
第百三十四條
取締役被選挙権を有するには若干の株式を所有する者なるヿを定めしむるは少数ならさる株式を有する者は其注意自ら厚く且其株式は在任中會社に對して保證物と為れはなり
第百三十五條
本條の職掌義務を盡すには第三十五條の主義に依る可きものなり又定款及决議に遵ふ可きの意は第九十條に同し而して自已に責任を負ふときは其職を觧免せらるヽも損害の弁償は免る可からさるなり
本條の定款及决議には第八十九條第二項の事項の定めをも包含するは言を待たす
第百三十六條
取締役其所為に因て會社に権利義務を負はしむと雖とも其身に付て會社直接の関係を有せさるは他の株主と異なるなし故に其責任も異なるなきなり其無限の責任を負はしむるは第九十三條第九十四條と其意向一なり
第百三十七條
是亦本法の通則なり
第百三十八條
第百三十二條を凖用す取締役と任期を異にするは成るへく其任免を共にせさらしむるか為めなり
第百三十九條
検査役の職務は取引に非す取締役の執務を監督するに在り即ち株主に代りて監督するものなり盖株主は業務上の関係なく唯総會に於て意見を陳するヿを得るのみ故に検査役を設けて常に業務を監督せしむるは欠く可からさるなり
第百四十條
本條に定むる権利は前條と同しからす前條の検査を施行するの方法にして其擔任を盡すに緊要なるものとす而して此権利は各員各自に行ふヿを得合名社員業務に與らさる者の権と同一なり
第百四十一條
検査役総會に對して報告を為し意見を申立るには鄭重を要するものなれは其総員の一致に由る可きは言ふを待たす然れとも若し一致に至らさるときは各其意見を呈出し総會の决に任す可し監督上のヿに付て検査役中の多数を以て其意見を定むるに至るヿあるときは事實を発露せさるの弊あるを免かれす
第百四十二條
自已の義務を怠り其責に任するは通義なり
第百四十三條
第百四十四條
総會に於て隨時に取締役を免するヿを得るは取締役の地位の緊要なると委任事務の重大なるとに由る取締役は會社を統率するの地位に居り万般の事務を掌握す故に會社は何時にても之を免するの権力なかる可からす此権なかりせは會社は如何なる損害を蒙むるに至るも之を甘せさる可からさるに至る之を免するに任期に満る迄の給料又は報酬を給するに及はす社員にして會社の代理に任せられたるものなれは通常雇人契約の一方に限り隨意に解約するときは約定の報酬を得可きものと異なり検査役を免するも亦同一なり
第六節 総會
株主は他の會社の社員と異にして自已の代理たる組織を設くるに非されは其権利を伸るヿ能はす総會は即ち株主代理の組織なり
本節中議長の選定の事を掲けす議長を定むるは是普通の事にして之を法律に掲くるを待たされはなり第百十條も亦同し
第百四十五條
其他の者とは発起人及結筭人を云ふ
合資會社に於ては呈示す可き書類をも送付すと雖とも株式會社は株主の数夥多なるを以て合資會社に同く書類を送付するは煩雑にして且費用を要す故に要旨のみを通知す
第百四十六條
第百四十七條
通常総會は少くも一年に一囬必す開かさる可からす盖し會社の計筭其他の事項は年度に於て終結するを以てなり其総會の手續は取締役先つ計筭書以下の書類を検査役に囬付し其検査を受け然る後に総會に差出すものなり
検査役書類の検査に付ての意見書は取締役の差出す書類と共に検査役より総會に差出すへし
総會に於て之を認可すれは則ち止む之を認可せさるときは之を大にしては取締役の職を觧き之を小にして其責任を嚴にし其他業務を廃止し或は新に决議の事項を實施するの義務を取締役に負はしむるは総會の権力なり
第百四十八條
申立株主の数を株金額に因て定むるは第百十一條の决議法に株金額を加へたると同主義なり此申立に其理由を問はす直に総會を招集するは総株金額の五分一に當る株主は其数必す小少ならすして挙くる所の目的は協議に出るものなれは相當と看做す可けれはなり
五分一以上に當る株主と定めたるは株主は何事も各自に為す可からす必す総會に於て為す可しとの原則なる以上は総會招集に申立も一二株主の意見を以てす可からす一二株主の意見を以て申立るヿを得せしむるときは毎に総會を招集するの煩雑を来さし
第百四十九條
株主の数は夥多にして其居住亦遠隔なるものあれは総員の出席は到底期す可からす故に之を酌量して决議を有効ならしむる方法なかる可からす其方法は會社の隨意を以て之を定款に規定するを得せしむ然れとも定款に其定めなきときは决議を為すに慿據するものなし故に本條を設く第百十一條第百五十條の如き別叚の規定あるものは必す之に従はさる可からす
第百五十條
定款の変更任意の觧散は重要の事件にして前條の普通决議法に依る可きものに非す故に必す第百十一條に依るものとす
株式會社に於ては総會に定數の株主出席を期す可からす故に第九十九條を凖用せさる可からさるなり
第百五十一條
一株に付一の議决権を有するを通則とす然れとも夥多の株数を有するものあるときは一人にして議决を左右し偏重の弊を生するに至る故に十株以上に至ては之を制限するヿを得其制限は會社に於て適度之を定むるヿを得
第七節 定款の変更
第百五十二條
定款に豫定するは例へは會社開業より幾年後に於て資本を増加し又は减少す可く或は同業者の竸争あるとき轉業すへき等のヿを豫め契約したる塲合を云ふ
定款は會社契約なり契約の変更は亦其契約者の承諾なかる可からす其変更を定款に豫定し又は総會に於て之を决議したるは即ち承諾を與へたるなり故に契約を変更するヿを得其変更したる條件も亦𦾔契約に等く法律命令及許可に付政府より特に命令したる條件にも亦従はさる可からす
第百五十三條
本條は前條変更中の事件即ち資本の増减に付ての規定を示す
増加は左の三種を會社の便に因て之を單用又は兼用するヿを得
株券の金額を増すとは例へは一株二十圓なるを増して三十圓とするか如し
株数を増すとは例へは増加の金額を従来の株式の額と同くして新券を発するを云ふ
債券は即ち負債證券なり増加する資本額を分ち若干通の證券を作りて之を賣り其代價を以て資本に充るなり
債券の記名なるを要するは猶株券に無記名を許さヾると同一なり其無記名を許す時は宛も銀行紙幣の数を増加するに異ならさるの結果を来すを以てなり其券面金額に付ては第百二十二條の制限に従ふ可しと為すは第百二十二條の説明に云るか如し而して債券発行の金額に付制限を設けさるは債券の流通は專ら會社の信用如何に依るものなるを以てなり然れとも若し之を要する塲合に於ては第百五十二條に掲けたる許可に付政府より命令する所の條件に於て豫め之を定むるも亦妨なし
减少は株金総額の四分の一未満に减少するヿを許さす之より减少するときは第百七十七條に規定したる觧散の塲合となれはなり
第百五十四條
第百五十五條
資本の増加は債主の損益に関するヿなし故に債主に関せすして實施し得可しと雖とも减額は即ち會社の辨償資額を减して債主の要求権利を縮小にするものなり故に債主との関係を放擲す可からす是れ此二條に於て債主に對する會社の處置を規定する所以なり
第百五十六條
本條は前條に基き更に一歩を進めて債主の保護を厚くするものなり相當の事由ありて實に期限を知るヿ能はさる債主あるときは前條第一項を以て之を論す可からす何となれは相手方未た承諾なき契約は申入れ人一方のみの意思たるの理に由り會社通知の効を生せされはなり故に株金减少の拂戾を受けたる株主其債主に對して責任を負はさる可からす其責任は拂戾を受けたる金額に止る然れとも此償還は未必のヿにして之を以て永く株主を覇す可からす故に减少公告の日より起筭し二年を以て株主の責任を免かれしむ
又債主の要求は會社に對して之を為す可し會社は株主をして拂戾しの金額を出さしめて之を其債主に弁償す可きなり
第百五十七條
第百五十八條
主務省に届出るは第百五條の事項を変更すれはなり
第八節 株金拂込
第百五十九條
株主の蒙る可き損失とは次條に掲くる所のもの是なり
第百九條に従ひ株金拂込の義務を盡すに其期限方法なかる可からす其期限方法は定款に於て之を定めて凖備の為めに之を預知せしむるは拂込の延滞なからしめんか為めなり而して尚ほ其期限前に期日の延滞の為めに受く可き損失とを通知するは株主を保護すると會社の利益との為め會社の手續を鄭重にするなり
第百六十條
是義務を怠るときの通則なり
第百六十一條
本條は延滞者の制裁を定む株主要求を受けて拂込を延滞するは既に一たひ其義務を怠たれり而して十四日の猶豫を以て督促せられ尚ほ拂込を為さヽるは是れ自ら契約を放擲するものなれは其制裁なかる可からす其制裁として株券を収められ株主たる資格を失ふは當さに然る可きの結果なり
第百六十二條
株式を収められたる者は株主たるの資格を失ふ然れとも株式を収むるは延滞の制裁にして契約觧除の所置に非す彼の賣買契約を觧除するに賣主は物品の返還を受け買主は價金拂渡の義務を免るヽに凖して會社に株券を収めたるを以て株主其払込の義務を免るヽヿを得す殊に督促を受けたる金額及其利息並に費用の拂込は既徃即ち株主たるときの義務なれは後に資格を失ふたるを以て之を免かる可からさるものなり若し之を免かれ得るものとするときは負擔の拂込を怠て恣に契約を觧除するに至らん
第九節 會社の義務
第百六十三條
本條は第百三十一條と其意を同ふすと雖とも主として會社の義務に就て之を定め而して償還の一項を加へて其禁止の意を嚴にす是れ特に取締役自ら持て其管理権を恣にし株主に私するの所為に陥らさらしむ
第百六十四條
株券は株主の會社に對する要求の因て生するものなれは會社は株券に對する義務者なる可し然るに自已の株券を所有し又は抵當に取るときは猶一個人の身に債主と負債主とを兼するに異ならす其要求権消滅し株券は一片の廃紙に過きす故に之を禁止す已むヿを得さる事由ありて會社に引受けたるときは速かに之を賣却せさる可からさるなり
第百六十五條
検査役の検査を終り総會の認定を経たるときは計筭書以下の書類は正當に確定したるものとす故に之を以て會社前一年間一切の實状を證するに足る
廣告を為さしむるは會社の信用及株券負債證券の價格に慿據を與ふるか為めなり
第百六十六條
第一項の减額補填は第百條と同意義にして同條に明かなり株式會社に在ては法律上凖備金を蓄積するを其義務とす故に减額補填と同しく配當に先たけ純益金の内より積まさる可からす
第百六十七條
前條は勿論第百六十五條も亦配當に付ての要件たり此規定に依らさるときは法律に適せさるものなるを以て其効なし故に償還せさる可からす
第百六十八條
株式は一定平等に分ちたるものなれは皆同一なり故に之に對する分配も其拂込みたる金額に應し平等ならさる可からす盖株主の損益配當を受くる権利義務に同異なけれはなり
第百六十九條
本條の要は會社の財産権利義務業務執行其他會社の實状を公にするに在り
第百七十條
第十節 會社の検査
第百七十一條
株主の申立に依り會社の検査を為すは行政廰に任せすして裁判所に為さしむるを相當とす何となれは是人民の私権に関し且此検査は會社の破産或は會社の役員に係る訴訟の豫審と為る塲合多けれはなり其行政廰に関するものは第百七十四條の規定に依る可し
第百七十二條
書類の検閲役員の推問は検査上欠く可からさるの権なりとす故に取締役若し此権に服従せさるときは第二百六條の罰を受く
第百七十三條
検査官吏の任は會社を検査し其報告を為すに止り他の事項に渉るなし
第百七十四條
裁判所の検査は株主の申立あるに非されは之を為さす是私権に関する事件を主とすれはなり行政廰の検査は公益に在り即ち其業務の景况に由て國の経濟に影響し或は公衆の利害に関係す故に株主の申立を待たす其職権を以て之を為すヿを得
第十一節 取締役及検査役に對する訴訟
第百七十五條
本條は総株主の團結して役員に對し原被告と為る塲合を規定す普通の手續に於ては数人共同にて同一の事件に付原被告たるとき代理人を任するには必す各自の委任状を以てせさる可からす総株主原被告たるか為め代理人を任するも此手續に依るときは株主の衆多にして且居住の隔遠なる各自の委任状を集むるは實に煩冗に渉るのみならす勢ひ為し得可からさるヿあり故に此塲合に於ては普通の手續に依らす総會に於て决議して総會の名義を以て代理人を任するヿを得るものとす是れ會社便宜の為めに設くる特別の手續なり取締役のみに係る訴訟なるときは検査役を以て代理人と為すを相當とす可し検査役に係るときは特に選定したる者を以て代理人と為さヽる可からす
第百七十六條
本條は前條の主義を推擴して株主の一部分の團結にして原被告と為る塲合も亦普通の手續に依らす其代理委員を以て之を為し得るヿを示す
間告とは他人の訴訟に付自已の権利に関係のヿあるときは其原被告の内に加ふるに非す其中間に在りて已れを辨護するの権あるを云ふ
二十分一の人員は會社の實際を見るに非されは其多少を預言する能はす然れとも株式會社は株主の数夥多なるものなれは二十分一の数は必す至少に非す故に之を以て定限とす之より少数なるときは普通手續に依るも不便とせさるなり
第十二節 會社の觧散
第百七十七條
株式會社の觧散も他の會社と其原由は同一なりとす第七十二條の第一第二は本條第一に包含し又彼第三は即ち本條の第二なり異なるものは本條の第三第四の二項に掲けたる株主の数と資本の額に関する要件なり此二個の要件欠亡するときは株式會社たるの資格を失ふ是二項の加はる所以なり
第百七十八條
第百七十九條
會社觧散すへき塲合に於ては會社の形躰尚存すと雖とも會社の活動止息せさる可からさるを以て直に業務を停止せさる可からす然らされは第二項の結果を生す然れとも仕掛の取引或は既に盡す可き業務ありて之を放擲するときは債主に損害を蒙らしめ又會社自ら損失となるヿあり故に之を完結するは停止の限に非さるなり
第百八十條
會社を設立するときに於て其契約を確定するに総會の决議を以てせり然るときは會社觧散は即ち契約の解除なれは亦総會の决議を以てせさる可からす且総會は第百七十七條第一第二第三の塲合に於ては尚ほ會社保續の處置を議し第四第五の塲合に於ては救濟の方法を議して觧散に至らさらしむるヿを得可し故に取締役は必す総會を招集するの義務を負ふものなり然れとも其觧散裁判所の處分に因るときは會社の决議を以て左右すへきものに非す故に此例外とす
結筭人を選定するは第七十六條と同意義なり
第百八十一條
取締役総會を招集せす或は総會を開くと雖とも他の事由ありて前條の决議を為さヽるとき又結筭人を選定せさるときは裁判所をして本條に掲けたる處置を為さしむ裁判所に於て之を為すは株式會社の觧散に在ては他の會社に於けるよりも債主及株主の為に利益の保護を嚴にせさる可からされはなり
第百八十二條
総會の决議に由ると裁判所の處分に由るとに拘はらす觧散及結筭人の登記公告は尤も債主及株主に関係し又裁判所への届出は次條の関係あるを以てなり故に共に之を速かにせさる可からす是亦取締役の義務なり
又主務の省は設立の許可を受けたる所なれは必す其觧散を届けさる可からす
第百八十三條
裁判所をして監視せしむるは會社並に債主を保護し又結筭不正の所為を預防するか為めなり
第百八十四條
第百八十二條の登記公告を以て公衆に會社の觧散及結筭人を認知せしめたるときより取締役の代表権は消滅し復た事務に干渉するヿを得す然れとも尚ほ補助の義務を負はしむるは會社従来の事務に諳熟せるを以て結筭事務を處理するに便なれはなり
第百八十五條
株式の賣讓は即ち株主の交代なり結筭の為めに非さる財産の處分は即ち通常の取引なり會社已に觧散したる以上は其株主交代するの理なく又残務の外事件を取扱ふヿを得す故に此二件の如きは有効ならしむるヿを得す一の例外は裁判所の許可を得たるときに在り蓋株主の死亡に依て株券其相續人又は権利承継者に移轉せさる可からさる塲合又は會社財産の損害を防く塲合即ち第七十七條に説明するか如く例へは觧散後に於て製造品の原質物を多量に儲藏したるに其儘賣拂ふときは其價至低にして甚しき損失を生するヿあり因て其損失を防くか為め之を製造して賣捌くの類なりとす
第百八十六條
第百八十條の総會の招集及第百八十二條の登記公告を怠たるときは株主及第三者は會社の觧散を知るに由なけれは會社と取引を為し又は株券を賣買するヿ無き能はす之か為め損失を蒙る者あるときは取締役其責に任せさる可からす是損失の原由自已の怠に在れはなり第百八十一條に依り裁判所の為したる處分に付ての費用も亦然り
第百八十七條
此費用は裁判費用登記公告料結算人の報酬金及残務に関する総ての諸費を言ふ如此類の費用は他の請求に先ちて之を引去るへし然らされは結筭事務を遂る能はす
第十三節 會社の結筭
第百八十八條
結筭人擔任の事務は會の種類に因異なるなし故に第七十七條及第七十八條に依る此會社に於て特に要するものは次條下に於て之を明にす
第百八十九條
訓示は結筭事務取扱の方法を定め結筭人の権限に渉る可からす権限を制限すへからさるは第七十八條に明かなり會社一般の利益に関するヿあれは総會の决議を以て訓示を與ふ可し総會に於て訓示を與へさるヿあるときは株主又債主は訓示を與へんヿを裁判所に申立るヿを得裁判所に於て其申立を當然なりとするときは之を與ふ即ち総會に代るなり
第百九十條
本條は專ら債主を保護するの方法なり債主會社に自已の代理人を出して結筭事務に参加せしむ可き申立を為し會社総會を開き之を可决したるときは其代理人を結筭事務に参加せしむ可し又裁判所に同一の申立を為し裁判所に於て其理由を相當とするときは此處分を以て債主の代理人を結筭事務に参加せしむ可し此代理人あるときは結筭人之と協議を為して其事務を取扱ふ可し
株式會社は其関係大なるを以て其結筭事務の取扱尤も鄭重ならさる可からす故に他の會社の債主と異にして此會社の債主は充分の保護を受けさる可からす是れ本條に於て債主の代理人結筭事務に参加し得る所以なり
第百九十一條
辨償期限とは負債主會社に對して約束したる負債を辨償する期限なり
其期限とは結筭人に於て債主の申込を為すに差支なき時間を酌量して定む可き期限なり例へは八十日内に或は三ヶ月内に申込む可しと云へるか如し而して其期限は但書に云ふか如く六十日より短かヽる可からす又第一廣告の日より起筭す可きものとす
第二項の附記は會社に於て其債主たるヿの明瞭ならさる債主に注意せしむるなり既に三囬以上の廣告を以て其申込を促し尚ほ申込を為す者なきときは既に債主あらすと看做し負債額と現財産との比較を確定す是を以て其期限の経過後に申込を為したる債主は自已の怠りの結果なるか故に第百九十三條に依るに非されは其辨償を受くるヿを得す然れとも會社に於て其債主たるヿの明瞭なる者あるときは其債主申込を為さすと雖とも會社は之に對する辨償を負債額として結筭に加えさる可からす
本條は結筭事務に着手する順序を示す
結筭人其任を受けたるときは先つ會社帳簿を調査し之に依て其財産の現状を明かにし且貸借對照表及債主名簿並に負債主名簿を製し然る後本條に定めたるか如く債主負債主に對し三囬以上の廣告を為す
負債主に對する廣告中に辨償期限の至りたるときは直ちに其負債を辨償す可きヿを以てするは普通手續即ち最後の催促を要せす期日辨償せさるときは直ちに訴訟を起すヿを得んか為めなり是れ此廣告を以て最後の催促を為したるものと看做し結筭事務を簡便にす
債主に對する廣告中に六十日を下らさる要求申込の期限並に期限内に申込を為さヽる債主は其辨償を結筭に加えさるヿを以てするは債主に要求の申込を為すに十分の猶豫を與え且申込に脱漏なからしむるなり是れ債主を保護するの厚きなり
此廣告を三囬以上為さしむるは或は廣告を知らすして自已の権利を失はんとする債主を慮てなり
以上の事項は結筭人任を受けたる日より六十日以内に必す之を為さヾる可らす然らされは結筭事務遅延するの恐れあり
第百九十二條
要求申込の期限内は未た現財産と負債額とを比較するヿを得すして猶計筭中なりとす然るに債主に支拂を為し財産に不足を生するときは他の債主に甚しき不幸を受けしむ故に支拂をなすヿを得す
第百九十三條
第百九十一條第二項の期限後に申込を為す果して真の債主なるときは其申込の期限に後れたるのみを以て其権利を失はしむるは過酷とす亦會社債主の期限に後れたるを以て口實として義務を免るヽは至當に非す然れとも當然申込を為したる者と其権利に等差なかる可からす而して會社其債主の要求の為め既に株主に分配したる金圓を返還せしむるの権なし故に當然の債主に完償したる剰餘ありて未た株主に分配せさるときに限り期限に後れ申込を為したる債主に償却するを以て足れりとす若し其剰餘既に株主に分配したるときは債主の損失に帰せさるを得す是れ第百九十一條の説明に言へる自已の怠りなる結果なり
第百九十四條
株金は未た拂込まさる残額と雖とも會社の権利に帰すへきものなり故に結筭の為め之を徴収するの権あるなり
第百九十五條
本條の意義は第百四十八條の説明に依り自ら明なり
第百九十六條
結筭人計筭を結了したりと雖とも直に其計筭に依て株主は勿論債主えも亦會社財産の支拂を為すヿを得す必す先つ総會を招集し計筭の認定を受けさる可からす是受任者の委託者に對する義務なりとす総會は即ち結筭人の委託者なり
第百九十七條
前條の認定を受けたる後に於ては直ちに財産の支拂に着手す可し其順次は會社負債の完償を先にし株主の分配を後にす而して其分配に三ヶ月の期限を定むるは第百九十三條の債主の要求を空しくせさるか為めなり
株主は金圓に非さる物件の配當に對して総會の决議ありと雖とも之に従ふの義務なきなり財産分配は必す金圓を以てすへきは何れの會社に於ても同一なり株式會社は其拂込通常金圓なるを以て尤も然りとす
會社の决議を以て金圓に非さる物件を配當に充るは主として觧散する會社を他の會社に於て引受け之を合併し其補償として株券又は負債證券を発行する塲合に多しとす此合併の如きは其實會社の変換なれは株主自已の意を枉て他の會社の株主又は之に對する権利者と為る可き義務なし會社存在中に在ては総會の决議を拒むヿを得すと雖とも其决議に不同意あるときは株券を他人に賣讓する等他に處置す可き方法あり本項の塲合に至ては如此他の方法あらす故に其决議に従ふを以て義務と為す可からす
第百九十八條
結筭人其事務結了したるときは之を総會に報告して其卸任を求むるヿを得るは受任者の委託者に對する普通の理なり
卸任とは觧任と異なりて結筭人たるの資格を觧くにあらす單に結筭人の負擔したる責任を卸すの意なり故に此卸任を得たる後と雖とも猶結筭人として第二百條第二百二條第二百三條の處置を為さヾる可からす
第二項の規定は総會は委托者なるを以て若し計筭上に於て総會と結筭人との間に争論あるときは総會に於て其可否を决す可きものなりとするの誤を防き又結筭人の権限は法律に定めあるものなれは如此争論ある塲合に於ては裁判所の判决に依可きを示すなり
第百九十九條
結筭人は一箇の株主より委任を受けたる者に非すして総會の代理人なり故に総會に對してのみ責任を負ふ而して其責任は取締役に凖する者にして亦第三十五條の主義に外ならさるなり然れとも株主各個の権利を傷害したるときは普通の原則に依り其責に任せさる可からす
第二百條
結筭人本條の登記公告を受くるは登記公告の主義に基き自ら然らさるを得さるなり
結筭事務に係る権利者の要求に對しても結筭人其處分を為さヾる可からさるは是又結筭事務に外ならさるを以てなり
第二百一條
破産處分の手續は破産法に依る可し此手續を為し且廣告及通知を為さヽる可からす
既に株主に分配したるものは是れ過誤の拂渡なれは之を返還せしむ可し又株主は會社債主の損失に拘はらすして分配を受く可きの理なし故に之を返還して破産財團に加へさる可からす結筭人故意を以て為したる分配に付ては自已に其損失の責に任せさる可からす
第二百二條
帳簿の保存は合名會社と同しく第十條に依る而して保存人は夥多の株主中より選定して之を慥むるか為め裁判所に届けしむるなり
第二百三條
結筭人一切の事務を結了したるときは會社は全く消滅し一事の関係を存するヿなし因て此廣告及届出を為して以て之を證し開始の手續と相應す而して結筭人の代理も亦此より全く消除するなり
第五章 罰則
本法は私法なりと雖とも會社は一個人と異なりて第三者に對する関係重大なるを以て本法中の規定にして必す遵守せしめさる可からさるもの少からす其之を遵守すると否さるとに由て大に公共の利害に関す故に之か為め制裁を設けさるへからす是れ罰則を置く所以なり
第二百四條
第二百五條
第二百六條
第二百七條
第二百八條
以上の諸條は犯罪の軽重に従ひ其罰の差等を分て之を適施す可きものを掲く其意義は各條の文に於て自ら明かなり
第二百九條
裁判所の處分を以てすとは裁判の正式に依らす即ち治罪法の手續を用ヰさるなり前数條に挙けたる犯則は職務に係る不注意に出るヿ多きを以て其罰は過料にして罰金を科せす
之を罰するの主義此の如し是を以て其職に居て其事の任ある者に於ては皆其事の為めに連帯して義務を負はさる可からす犯人の誰たるに関せさるなり
此處分に對しては控訴上告を許さす故に此處分に不服なるときは原裁判所に抏告を為すヿを得るのみ
第二百十條
第二百十一條
第二百八條以上の犯罪と類を異にす故に其罰も亦異なり其理は次條に明かなり
第二百十二條
前二條は第百八條以上の罪と異なり其罪職務に因て生すと雖とも詐称及隱蔽は故意の所為にして其身に係るものなれは第二百八條以上と等くす可からす故に治罪法に依て之を罰す
刑法は施躰を本とし本法は罰金を主とす此主義同しからす且刑法に第二百十條第二百十一條に適當する條款なし故に此二條の罰を設く
第六章 共筭商業組合
第二百十三條
共筭商業組合の契約は二人以上商事上より生する損益を共分するものを云ふ
會社に係る規定に凖據するを要せすとは契約は書面を以てし又社名を設け登記公告を受け又役員の設置総會决議の方法其他會社に要する一切の法則に従ふに及はさるを云ふ
其契約に因り會社及其財産は成立せさるとは會社の成立せさるは既に説明したるか如し既に會社成立せさるときは従て其財産の成立せさるは即ち組合の名を以て有する財産なきは當然とす
本條は組合の大旨を示す而して此組合に三種の別ありと雖とも其要旨は同一にして本條の外に出てす
第二百十四條
或商ひ取引又は作業とは常識として為す営業に非すして一とろの商ひ又は一時の起業を為すを云ふ例へは数人組合を為して竸馬塲に馬を賣買し或は一個の建築に付請負を為すの類なり此類の事を為すものを當座組合と云ふ
當座組合の合名會社と異なる所は常識とする目的に非すして一とろ又は一時の事を為すに在り而して契約者第三者に對し直接に連帯の関係を有するは組合の目的商事を為すに依るなり故に甲の為したる取引は組合の各人之を承認せさる可からす又丙の負ふたる義務は即ち組合各人の負ふたる義務と看做す可し是商事上の原則即ち相互に代理を委子責任を負ふに基く此原則は惟た商事會社のみに止らす此組合にも亦適用せさる可からさるなり
第二百十五條
各自別個に云々とは例へは百里の街道に海上三十里は舩あり山坂十里は馬あり其他の平路は車ありとせんに其舩馬及車を以て運輸する営業者は各異にして又之か為め資本を集合せすと雖とも各営業者契約に因り聨合して荷主と一通の切手を以て舩馬及車三個の運輸を約し其運輸より生する損益を共分するの類又各線路を連接する数個の鉄道営業者の間に於て同一の契約を為すヿある可し其資本を異にして其損益を同しくす故に之を共分組合と云ふ
先訴の抗辨とは已れを相手取る権利者に對して先つ主たる義務者を相手取る可きヿを以て抗辨するを云ふ例へは前項の各営業者中は連帯者なれは車を業とする者の行為に因て生したる義務なるも其権利者は舩を業とする者に對して其権利を主張するヿを得然れとも舩を業とする者は已れの業務上より生したる業務に非さるを以て其権利者に對し先つ義務を生したる車を業とする者を相手取る可き抗辨を為すの類なり
此組合の連帯責任なるは事業の聨合に由るを以て前に述るか如く一通の切手を以て三個の運輸を約す然るときは其契約は組合中即ち各営業者は同一致のものなれは亦相互に代理たるの主義に外ならさるなり
組合の連帯者にして先訴の権あるは各自其業を異にして各所に其業務を行ひ其情状互に相関せさるを以てなり若し何れの営業者に於ても必す直接に相手方の要求に應す可きものとするときは彼此錯雑して繁冗を招く故に先訴の抗辨を許すは義務者を便にするのみならす亦権利者を便にする所以なり
第二百十六條
匿名とは商務は主業者の氏名を以てし已れの氏名は商務上に表顕せさるを云ふ
甲者の商業或は起業の一時なると常識なるとに拘はらす乙者之に差金を為し其差金は主業者即ち甲者の所有に帰して共有たらす而して乙者は其業務に干與せす唯其差金に對する損益を受くるのみ故に其氏名商業上に表顕するヿなし因て之を匿名組合と云ふ匿名者の責任は差金に止る故に差金は其額を定めさる可からす責任の差金に止るは其契約の目的にして且其業務に對して金主たるの地位を有するのみなれはなり而して差金の拂込未濟なるときは第三者に對して其未濟額迄の責任を負ふ可し
匿名者にして業務に干與するときは自已の全財産を以て業務を負担せさる可からさるに至るは第五十八條の規定と同一なり然れとも主業者の代務者又は使用人と為りたる塲合は之と異なり代務者使用人等に於て實際の関係は主業者に同しと雖とも主業者の名を以てして自已の計筭の為めにするに非す故に商業に干與するものと為す可からす
第二百十七條
資本総額に對する差金額の比例とは例へは資本総額を一千圓とし甲者即ち主業者八百圓にして乙者即ち匿名者二百圓を差入たるとき其益金百分の十なるときは甲者は八十圓乙者は二十圓の分配を受け又其損失百分の二十なるときは甲者は百六十圓乙者は四十圓を負擔するを云ふ其他は類推すへし
利益配當は契約者相互の関係種々にして預め法律を以て之を定む可からす故に契約者に於て其實状に付配當の方法を設くるは妨くる所なし然れとも別に其定なきときは配當の凖據なかる可からす故に本條を設く
第二百十八條
本條は第百條第百六十六條と其主義相同し両條を参見すれは其義自ら明かなり然とも以下の規定は後日の損失は以て既徃の利益を妨く可からす
第二百十九條
匿名組合の契約は乙者即ち主業者の破産若くは死亡又は其営業の廃止に依て自ら觧除す何となれは其営業は專ら主業者に属し且匿名員は其主業者とのみ契約を為し其相續人又は権利承継者と為したるものに非されはなり然れとも匿名員の破産又は死亡の為めには其契約は觧除に至らす何となれは匿名員たるの契約は貸金契約と異ならさるを以て匿名員の相續人又は権利承継者に其契約の移轉するは已むを得さるの理なれはなり其他契約上匿名組合の期限を定めさるとき即ち無期の契約なるときは六ヶ月の豫告を以て契約を觧除するヿを得無期の契約は何時にても觧除し得可きの旨趣なるものなれはなり
第二百二十條
本條は第六十八條の主義に基く
第二百二十一條
本條は他人の為めに取引を為す者は其計筭を示す可き普通の例規に據る而して匿名員は業務に干與せすと雖とも之を通常の金主に比すれは権利義務の関係重しとす故に此検査の権なかる可からす