本日會議議案取得編第二部相續ニ關スル別案報吿委員ヨリ呈出相成候付及御送付候也
明治二十二年六月
庶務擔任報吿委員
取得編第二部相續ニ關スル別案 第二
第四節 讓產相續
第千五百八十一條第一 讓產相續ヲ隱居讓產相續及ヒ離緣讓產相續ノ二種ニ區別ス
第千五百八十一條第二 隱居讓產相續トハ被相續人カ生存中其意思ニ因リ法律ノ規定シタル條件ニ從ヒテ推定家督相續人ノ利益ノ爲メニ發開セシムル相續ヲ謂フ
離緣讓產相續トハ戶主タル養子カ離緣ト爲リ養家ヲ去ルニ因リテ發開スル相續ヲ謂フ
第一款 隱居讓產相續
第千五百八十二條 隱居讓產者カ讓產ノ時ニ於テ其財產ノ幾分ヲ卑屬親ノ一人又ハ數人ニ分與シタルトキハ其分與ハ遺言相續ノ適法限度ニマテ效力ヲ有ス
第千五百八十三條 家督相續人ハ相續財產ノ分量ニ應シテ讓產者ニ其生計ノ爲メ相當ナル用益權又ハ終身年金權ヲ供給ス可シ但讓產者カ自己ノ生計ノ爲メ相當ナル用益權又ハ終身年金權ヲ留保シタルトキハ此例ニ非ス
第千五百八十四條 讓產相續ヲ爲スニハ左ノ條件ノ具備スルコトヲ要ス
第一 讓產者ノ年齡ノ滿六十年以上ナルコト
第二 讓產ノ任意ニ出ツルコト
第三 成年ニシテ且實際家政ヲ執ルノ能力アル家督相續人ノ受諾シタルコト
第四 讓產者カ配偶者ト財產ヲ共通スルトキハ其配偶者ノ承諾シタルコト
第五 讓產者カ入夫ノ婦タルトキハ其夫ノ承諾シタルコト
第六 讓產ノ公示ヲ爲シタルコト
第七 第三者ノ故障アラサルコト
第八 故障アリタルトキハ其故障排斥ノ裁判ノ確定シタルコト
第九 裁判所ノ認可アリタルコト
第千五百八十五條 讓產者カ廢疾其他ノ原因ノ爲メニ實際家政ヲ執ル能ハサルトキハ本人ノ申立ニ因リテ年齡ノ條件ヲ宥恕スルコト有ル可シ
未成年及ヒ喪心ハ宥恕ノ原因ヲ成サス
第千五百八十六條 讓產ノ認可ハ讓產者ノ本住所ノ地方裁判所ニ之ヲ申請ス可シ
此申請書ニハ第千五百八十四條第一號乃至第五號ノ條件ニ適合シタル旨ヲ記載シ又年齡ノ宥恕ヲ申請スルトキハ其理由ヲモ記載ス可シ
第千五百八十七條 讓產認可ノ申請ヲ受ケタル裁判所ハ十五日内ニ事實ヲ審査シ第千五百八十四條第一號乃至第五號ノ條件ノ欠缺シタルニ非サレハ其申請ヲ却下スルコトヲ得ス
此條件ノ具備シタリト認ムルトキハ讓產者ノ費用ヲ以テ公示ヲ爲サシム可シ
第千五百八十八條 公示書ニハ左ノ各件ヲ記載シ三十日間之ヲ本住所及ヒ寄住所ノ地方裁判所、市役所又ハ町村役場ノ門前ニ揭示ス可シ
第一 讓產者ノ氏名、職業、本住所及ヒ寄住所
第二 讓產者ノ年齡又年齡ノ宥恕ヲ申請シタルトキハ其原因
第三 讓產者ノ任意ノ讓產
第四 家督相續人ノ親等、氏名、年齡、職業、本住所及ヒ其受諾ノ性質
第五 配偶者ノ承諾ヲ要スルトキハ其承諾
第千五百八十九條第一 讓產者ノ配偶者、親族及ヒ檢事ハ左ノ原因ノ一ニ基キ讓產公示ノ初日ヨリ六十日内ニ故障ヲ申立ツルコトヲ得
第一 第千五百八十四條ノ第一號乃至第三號ノ條件ニ違ヒタル事實
第二 讓產相續ノ得益者カ推定家督相續人ニ非サル事實
又讓產カ讓產者ノ任意ニ出テサル場合ニ於テハ讓產者モ亦故障ヲ申立ツルコトヲ得
第千五百八十九條第二 讓產カ第千五百八十四條第四號及ヒ第五號ノ條件ニ違ヒタル事實アルトキハ讓產者ノ配偶者ニ限リ故障ヲ申立ツルコトヲ得
又讓產者カ財產ヲ隱匿シ又ハ債權者ヲ詐害スルノ意思ヲ以テ讓產ヲ爲サントスルトキハ債權者ハ故障ヲ申立ツルコトヲ得
第千五百九十條 裁判所ハ公示ノ初日ヨリ六十日ヲ過クルニ非サレハ讓產ノ認可ヲ與フルコトヲ得ス
又此期間ニ故障アリタルトキハ其故障排斥ノ裁判ノ確定後ニ非サレハ讓產ノ認可ヲ與フルコトヲ得ス
第千五百九十一條 讓產ノ認可アリタルトキハ當事者ハ第四百九十條ノ手續ヲ爲ス可シ
第千五百九十二條 讓產相續ハ認可前ノ利害關係人ニ對シテハ認可ノ日ヨリ死亡ニ因ル相續ト同一ノ效力ヲ生ス但讓產者ノ終身ヲ限度トスル權利及ヒ義務ヲ消滅セシメス
又認可後ノ利害關係人ニ對シテハ第四百九十條ノ手續ヲ爲シタル後ニ非サレハ讓產相續ノ效力ヲ生セス
第千五百九十三條 第四百九十條ノ手續ヲ爲スコトヲ遲滯シタル爲メニ第三者ニ損害ヲ被フラシメタルトキハ家督相續人ハ讓產者ト連帶シテ其責ニ任ス
第二款 離緣讓產相續
第千五百九十八條第一 離緣讓產者ハ養家ニ返還ス可キ財產ニ付テハ隱居讓產ノ場合ニ於テ處分シ得ル部分ト雖モ之ヲ其卑屬親ノ一人又ハ數人ニ分與スルコトヲ得ス
此返還財產ノ相續ハ無遺言ノ家督相續ト同視ス
第同 條第二 戶主タル養子カ離緣ノ請求ヲ受ケ又ハ之ヲ爲シタル後ニ於テ前條ノ返還財產ニ付キ第三者ノ利益ノ爲メニ爲シタル無償名義ノ處分ハ離緣ノ言渡ニ因リテ當然無效ニ歸ス但無償名義ノ處分カ不動產ニ係ルトキハ離緣ノ請求ヲ登記簿ノ緣邊ニ附記シタル後ニ非サレハ善意ナル第三者ニ對シテ其處分ノ無效ヲ利唱スルコトヲ得ス
第同 條第三 戶主タル養子ハ養家ニ在リシ間ニ取得シタル權利及ヒ負擔シタル義務ハ養家ニ返還ス可キ財產ノ中ニ之ヲ包含ス但第三者ノ贈與又ハ贈遺ニ原因スルモノハ此限ニ在ラス
又戶主タル養子カ身上ノ過失ノ爲メ又ハ所有財產ノ保存ノ爲メニ負ヒタル債務ニ付テハ離緣讓產後ト雖モ其辨償ノ義務ヲ免カレス但債權者ハ養家ノ相續人ニ對シテモ辨償ヲ要求スルコトヲ得
第同 條第四 戶主タル養子ノ權利及ヒ義務ニシテ養家ニ屬ス可キモノナルヤ養子ニ屬ス可キモノナルヤニ疑アルトキハ養家ニ屬スルモノト看做ス
反對ノ證據ハ諸般ノ方法ニ依リテ之ヲ擧クルコトヲ得
第同 條第五 協議離緣ノ讓產カ債權者ヲ詐害スルノ意思ニ出テタルトキハ債權者ハ讓產者ニ對シテモ債務ノ履行ヲ要求スルコトヲ得