旧民法・法例(明治23年)

取得編第二部相続ニ関スル別案一

参考原資料

本日會議議案取得編第一部相續ニ關スル別案報吿委員ヨリ呈出相成候付及御送付候也
庶務擔任報吿委員
取得編第二部相續ニ關スル別案 第一
第三款 相續ノ種類
第千五百十二條 相續ニ左ノ三種アリ
第一 法定相續
第二 遺言相續
第三 讓產相續
第二節 法定相續
第千五百十四條 法定相續ヲ家督相續及ヒ遺產相續ノ二種ニ區別ス
第千五百十五條 家督相續トハ戶主ノ死亡又ハ讓產ニ因リテ發開スル相續ヲ謂フ
遺產相續トハ非戶主ノ死亡ニ因リテ發開スル相續ヲ謂フ
第一款 家督相續
第一則 家督相續ノ通則
第千五百十六條 家督相續ヲ爲スハ一家一人ニ限ル
何人ト謂モ二家以上ノ家督相續ヲ爲スコトヲ得ス
第千五百十七條 婚姻又ハ養子緣組ニ因リ他家ニ入リテ其家ニ在ル者ハ實家其他ノ家ノ家督相續ヲ爲スコトヲ得ス
第千五百十八條 一人ニシテ數家ノ家督相續人ニ指定セラレタル者ハ其中ノ一ヲ選擇スルコトヲ得
一家ノ家督相續ノ受諾ハ明示ナルト默示ナルトヲ問ハス其選擇ヲ組成シ他家ノ家督相續ノ指定ヲ消滅セシム
第千五百十九條 一家ノ推定家督相續人ハ他家ノ家督相續人ニ指定セラレタルモ其指定ノ家督相續ヲ爲スコトヲ得ス
第千五百十九條第二 系譜、世襲財產、祭具、墓地、屋號及ヒ商標ハ家督相續ノ特權ヲ組成ス
此特權ハ被相續人ノ遺言ニ依リテ之ヲ處分スルコトヲ得ス
第二則 家督相續人ノ順位
第千五百二十條 家督相續人ハ或ハ法律ニ於テ之ヲ規定シ或ハ被相續人ノ意思ヲ以テ之ヲ指定シ或ハ親族會ノ決議ヲ以テ之ヲ選定ス
第千五百二十一條ノ二項修正
然レトモ右ノ規定ニ從ヒテ家督相續人ト爲ル可キ者カ被相續人ニ先タチテ死亡シ又ハ第千五百二十三條ノ規定ニ從ヒテ變更セラレタル當時ニ於テ卑屬親アルトキハ其卑屬親ハ法定ノ順位ニ依リテ家督相續ヲ爲ス
第千五百二十四條 第千五百二十六條修正
家督相續人ノ變更ハ身分取扱人ニ申述シ又ハ遺言證書ヲ以テ之ヲ爲ス可シ
家督相續人ノ指定ハ遺言證書ヲ以テ之ヲ爲ス可シ但讓產ノ場合ハ此例ニ非ス
第千五百二十五條 別案第二十五條ヲ用ユ
第千五百二十一條 法律ニ於テ家督相續人ト爲ル可キ者ノ順位ヲ定ムル左ノ如シ
第一 被相續人ノ家族タル卑屬親中親等ノ最モ近キ者
第二 同親等ノ卑屬親中男子ト女子トアルトキハ男子
第三 男子數人アルトキハ其先ニ生マレタル者但正出子ト私出子トアルトキハ正出子
第四 女子ノミ數人アルトキハ其先ニ生マレタル者但正出子ト私出子トアルトキハ正出子
然レトモ右ノ規定ニ從ヒテ家督相續人タル可キ者カ被相續人ニ先タチテ死亡シ又ハ第千五百二十四條ノ規定ニ從ヒテ變更セラレタル場合ニ於テ卑屬親アルトキハ卑屬親ハ法定ノ順位ニ依リテ家督相續人ト爲ル
第千五百二十三條 被相續人ハ正當ノ原因アルニ非サレハ法定順位ノ家督相續人ヲ變更スルコトヲ得ス
此ノ變更ハ法定ノ順位ニ從フニ非サレハ之ヲ爲スコトヲ得ス
第千五百二十四條 法定順位ノ家督相續人ヲ變更スルコトヲ得ヘキ正當ノ原因ハ左ノ如シ
第一 失踪ノ宣言
第二 民事上禁治產及ヒ準禁治產
第三 祖父母父母ニ對スル罪ノ處刑
第四 重罪ノ處刑但國事犯ニ係ル處刑ハ此例ニ非ス
第五 竊盜、詐欺取財、受寄財物、贓物、家資分散又ハ私印私書僞造ノ罪ニ因レル重禁錮一年以上ノ處刑
第千五百二十五條 法定ノ家督相續人アルトキハ被相續人ハ家督相續人ヲ指定スルコトヲ得ス但此規定ニ違ヒタル指定ト雖モ被相續人ノ死亡ノ日ニ法定ノ家督相續人アラサルトキハ有效トス
第千五百二十六條 家督相續人ノ變更又ハ指定ハ遺言證書ヲ以テ之ヲ爲ス可シ但讓產ノ場合ハ此例ニ非ス
第千五百二十七條 法定及ヒ指定ノ家督相續人アラサルトキ又ハ指定ノ家督相續人カ相續ヲ抛棄シタルトキハ被相續人ノ家ニ在ル前戶主ニシテ其被相續人ノ代ニ最モ近キ者ヨリ順次ニ再家督相續ヲ爲スヲ請求スルコトヲ得但其者ノ年齡、精神及ヒ体力ノ家政ヲ執ルニ堪ユルコトヲ要ス
第千五百二十八條 前條ノ規定ニ從ヒテ再家督相續ヲ有效ニ請求スル者アラサルトキハ親族會ハ被相續人ノ家族中ヨリ左ノ順序ニ依リテ家督相續人ヲ選定ス可シ
第一 兄弟
第二 姉妹
第三 兄弟姉妹ノ卑屬親中親等ノ最モ近キ者若シ同親等ノ男子ト女子トアルトキハ男子
第四 生存配偶者
第千五百二十九條 前條ニ記載シタル者悉ク有ラス又ハ家督相續ヲ抛棄シタルトキハ親族會ハ何人ニテモ選定スルコトヲ得但此場合ニ於テハ成ル可ク被相續人ト親等ノ最モ近キ者ヲ選定スルコトヲ要ス
第千五百三十條 親族會ニ於テ家督相續人ヲ選定シタルトキハ其選定ニ付キ區裁判所ノ認可ヲ請フ可シ
裁判所ハ事情ニ因リテ改選ヲ命スルコト有ル可シ
第千五百三十一條 前條ノ認可ナクシテ家督相續人タルノ行作ヲ爲シタル者ハ惡意ノ占有者タルノ責ニ任ス
若シ此者カ未成年ナルトキハ父母又ハ後見人其責ニ任ス
第三則 家督相續人ノ權利及ヒ義務
第千五百三十三條 家督相續人ハ姓氏、系統、貴號及ヒ一切ノ財產ヲ相續ス
第千五百三十四條 家督相續人ハ戶主ト爲リ法律ノ制限内ニ於テ贈與又ハ遺言ニ因リテ其相續シタル財產ヲ處分スルコトヲ得
第千五百三十五條 家督相續人ハ家族ヲ養育シ及ヒ教育スルノ義務ヲ負フ
第千五百三十五條第二 家督相續人ハ家族中他家ノ養子若クハ入夫ト爲ル者、他家ニ嫁スル者又ハ分家スル者アルトキハ身分相應ノ裝資又ハ資本ヲ其者ニ分與スルノ義務ヲ負フ但家督相續人ノ卑屬親及ヒ他家ヨリ入リタル家族ニ對シテハ此義務ヲ負ハス
裝資又ハ資本ヲ分與スルノ割合ハ家督相續人ノ相續財產ト特有財產トヲ合セテ現有スル資力ニ從ヒテ每次之ヲ定ム
第千五百三十六條 家督相續人ハ前戶主ノ贈與若クハ遺言ニ因リ又ハ他ノ方法ニ因リテ家族ノ一人又ハ數人カ相應ニ自活スルコトヲ得ヘキ財產ヲ承繼シ且現有スルコトヲ證シテ前條ノ義務ヲ免カルコトヲ得
又家督相續人ハ右ノ家族ノ現有財產カ其自活ニ足ラサルトキハ補充資ヲ給シテ前條ノ義務ヲ免カルコトヲ得
第二款 遺產相續
第千五百三十七條 非戶主ノ死亡シテ其所屬ノ家ニ卑屬親アルトキハ卑屬親中若シ死亡者カ戶主タルニ於テハ其法定家督相續人ト爲ル可キ者遺產ヲ相續ス
第千五百三十八條 死亡セシ非戶主カ生存中ニ戶主ノ給養ヲ受ケスシテ事實上一家タルノ生計ヲ立テタルトキハ遺產相續人ハ死亡者ノ眷屬ニ對シ家督相續ヲ爲シタル戶主ノ其家族ニ對スルト同一ノ義務ヲ負フ
第千五百三十九條 死亡セシ非戶主カ事實上一家タルノ生計ヲ立テサリシモ其遺產ヲ以テ眷屬ノ給養ヲ爲スニ足ルトキハ亦前條ニ同シ又其足ラサルトキハ遺產相續人ハ第千五百三十六條第二項ノ規定ニ從ヒ戶主ニ對シテ補充費ヲ請求スルコトヲ得
第千五百四十條 非戶主ノ死亡シテ其所屬ノ家ニ卑屬親アラサルトキハ其遺產ハ戶主之ヲ相續ス
第千五百四十一條 第千五百三十七條乃至第千五百四十條ノ規定ハ婚姻ノ繼續中ニ死亡シタル婦ノ遺產ニ之ヲ適用セス
此遺產ハ夫之ヲ相續ス
第千五百四十二條 非戶主又ハ婦ノ遺產ヲ相續シタル者ハ相續ニ關スル一般義務ノ外死亡者ノ身上ニ附着シ且死亡ノ時マテ履行シ來リタル養料ノ義務ヲ負擔ス
第千五百四十三條 前條ノ相續人ハ遺產ヲ抛棄シテ養料ヲ給スルノ義務ヲ免カルコトヲ得
此場合ニ於テハ遣產ハ養料ニ權利ヲ有スル者ニ屬ス
第三款 國ノ權利
第千五百四十四條 絕家ノ財產ハ當然國ニ屬ス
非戶主ノ遺產ヲ相續ス可キ者及ヒ遺產ニ權利ヲ有スル者悉ク抛棄シタルトキモ亦同シ
國ハ常ニ限定受諾ノ利益ヲ以テ相續ス
第千五百四十五條 國カ相續財產ヲ領收スル手續ハ特別法ヲ以テ之ヲ定ム
第千五百四十六條 國ニ屬ス可キ相續財產ハ其領收スルニ至ルマテハ相續人曠缺ノ財產ヲ管理スル如クニ之ヲ管理ス
第三節 遺言相續
第千五百四十七條 遺言相續トハ被相續人ノ最終ノ意思ヲ以テ其財產ノ幾分ヲ卑屬親ノ一人又ハ數人ニ分與スル相續ヲ謂フ
第千五百四十八條 戶主タル被相續人ハ家督相續ノ爲メ貯存ス可キ財產ノ部分外ノモノニ非サレハ遺言ニ依リテ處分スルコトヲ得ス
第千五百四十九條 遺言相續ニ依リテ卑屬親ノ一人又ハ數人ノ受ク可キ部分カ被相續人ノ處分シ得ル部分ニ超過スルトキハ其遺言ハ處分シ得ル限度ニマテ其效ヲ有ス
第千五百五十條 遺言相續ノ方式及ヒ有效ニ關スル條件ハ總テ贈遺ノ規則ニ從フ