第一款 單一ノ辨濟
第四百七十三條 辨濟ハ債務者ノ外尙ホ保證人又ハ抵當財產ヲ所持スル第三者ノ如キ附隨ノ義務者ヨリ有効ニ之ヲ爲スコトヲ得
又辨濟ハ利害ノ關係ナキ第三者ヨリ或ハ債務者ノ名ヲ以テ或ハ自己ノ名ヲ以テ之ヲ爲スコトヲ得
(栗塚)
本款單一トアルハ單純トスベシ又第一項ハ債務者ノ外トアルヲ債務者又ハ共同債務者ノ一人ヨリ有効ニ之ヲ爲スノ外トスベシ
(南部)
共同債務者ノ一人ノ辨濟ハ單純ト云フヲ得ザルヤ否ノ恐レアリ
(松岡)
債務者ト云ヘバ單獨ノ債務者及ビ共同債務者ヲモ包含スベシ
(栗塚)
債務者ガ辨濟スルト云ヘバ各債務者ノ辨濟スルモノニシテ共同債務者ノ一人ト云フ意味ヲ見ルヲ得ズ
(委員長)
共同債務者ノ一人ガ辨適シタルトキハ各共同債務者ノ支拂ヒヲ爲シタルカ如シト云フ意味ヲ顯ハサントスルニハ共同債務者ノ文字アルヲ可トス
可決ス
第四百七十四條 利害ノ關係ヲ有スルト否トヲ問ハス第三者ノ爲シタル辨濟ノ有効ナル爲メニハ債權者ノ承諾ヲ必要トセス但作爲ノ義務ニ關シ債權者カ時ニ債務者ノ一身ニ着眼シタルトキハ此限ニ在ラス
右同一ノ場合ニ於テハ債務者ノ承諾モ亦之ヲ必要トセス但利害ノ關係ヲ有セサル第三者ノ辨濟ニ付テハ債務者又ハ債權者ノ承諾ナキトキハ其辨濟ハ成立セス
(栗塚)
本條第二項「又ハ」ハ「及ヒ」ノ誤ナリ
(松岡)
前案ニハ第三者ノ代位辨濟ヲ承認セザルコトトナリシニ現案ニテハ其意味ヲ顯ハサズ
(元尾崎)
前案ノ儘ニシテハ如何
(松岡)
右同一ノ場合ト云フハ利害ノ關係ヲ有スルト否トヲ問ハズト云ヘルヲ指シタルモノナラン
第四百七十五條 代理ノ委任ヲ受ケスシテ辨濟ヲ爲シタルトキハ第三者ハ辨濟ノ爲メ債務者ニ得セシメタル利益ノ限度ニ應シ之ニ對シテ求償權ヲ有ス但法律又ハ契約ニ依リテ債權者ノ權利ニ代位スル場合ヲ妨ケス
(栗塚)
本條第三者ノ上「トキハ」ハ衍文ナラン
第四百七十六條 義務カ定量物ノ所有權ノ移轉ヲ目的トスルトキハ其物ノ所有者ニシテ且之ヲ讓渡スノ能力アル者ニ非サレハ引渡其他ノ方法ヲ以テ辨濟ヲ爲スコトヲ得ス
他人ノ物ヲ引渡シタルトキハ當事者各自ニ其辨濟ノ無効ヲ主張スルコトヲ得
讓渡スノ能力ナキ所有者カ物ヲ引渡シタルトキハ其所有者ノミ辨濟ノ無効ヲ請求スルコトヲ得
右孰レノ場合ニ於テモ債務者ハ更ニ有効ナル辨濟ヲ爲スニ非サレハ引渡シタル物ヲ取戻スコトヲ得ス
債權者カ辨濟トシテ受ケタル動產物ヲ善意ニテ消耗シ又ハ讓渡シタルトキハ債務者ハ其取戻ヲ爲スコトヲ得ス
又債權者ハ他人ノ物ヲ以テセル辨濟ヲ認諾スルコトヲ得但眞ノ所有者ヨリ回復ヲ訴ヘタルトキハ債務者ニ對スル擔保ノ訴權ヲ妨ケス
(栗塚)
本條第五項受ケタルハ受取タルトスベシ
可決ス
(淸岡)
第一項引渡其他ノトアルハ引渡又ハ其他ノ方法トシテハ如何
(栗塚)
引渡ト云フハ一ノ方法ナリ
第四百七十七條 辨濟ハ債權者又ハ其代人ニ之ヲ爲スコトヲ要ス辨濟ヲ受クルノ分限ヲ有セサル者ニ爲シタル辨濟ト雖モ債權者カ之ヲ認諾シ又ハ之ニ因リテ利得シタルトキハ有効ナリ
(栗塚)
本條ノ受クルトアルモ受取ルトシ受取ノ上「辨濟ヲ」ト云フ三字ハ必要ナキヲ以テ刪リタレ可決ス
第四百七十八條 眞ノ債權者ニ非サルモ債權ヲ占有セル者ニ爲シタル辨濟ハ債務者ノ善意ニ出テタルトキハ有効ナリ
表見ナル相續人、表見ナル包括承接人、記名債權ノ表見ナル讓受人及ヒ無記名證券ノ占有者ハ之ヲ債權ノ占有者ト看做ス
(栗塚)
本條第二項表見トナルトアルヲ其他ノトシテハ如何
可決ス
(淸岡)
讓受人ノ上表見ナルノ字モ無用ナルベシ
(栗塚)
讓受人ノ上表見ナルト云フハ記名債權ノ表見ナルト云フ意味ナレバ必要ナリ
第四百七十九條 受クルノ能力ナキ債權者又ハ債權占有者ニ爲シタル辨濟ハ其債權者又ハ債權占有者ノ請求ニ因リテ之ヲ取消スコトヲ得但其利得シタル部分ニ付テハ此限ニ在ラス
(栗塚)
本條ハ冒頭受クルトアルヲ受取ルトスベシ
可決ス
(元尾崎)
債權占有者ニ爲シタル辨濟ハ之ヲ取消スヲ得ルハ如何
(栗塚)
受取ルノ能力ナキ債權占有者ナレバナリ
第四百八十條 民事訴訟法ニ從ヒ正シク爲シ及ヒ續行シタル拂渡差押ノ後債務者カ辨濟ヲ爲シタルトキハ差押債權者ハ其受ケタル損害ノ限度ニ於テ更ニ辨濟ス可キヲ債務者ニ強要スルコトヲ得但辨濟ヲ受ケタル債權者ニ對スル債務者ノ求償權ヲ妨ケス
(栗塚)
本條ハ正シクトアルヲ正當ニトシ「及ヒ續行シ」ノ五字ヲ刪リ債務者カ辨濟ヲ爲シタルトキハトアル上ニ差留ヲ受ケタルトシ強要スルコトヲ得トアル「コト」ヲ辨濟ス可キトアル下ニ轉置シ受クルハ受取ルトスベシ
(松岡)
「差留ヲ受ケタル」ノ字ハ挿入セザルモ明了ナリ
可決ス
第四百八十一條 債權者ハ己レニ對シテ負擔シタル物ヨリ他ノ物ヲ辨濟ニ受クルノ責ニ任セス他ノ物ノ價格カ高キトキト雖モ亦同シ
債務者ハ其負擔シタル物ヨリ他ノ物ヲ與フルノ責ニ任セス請求ヲ受ケタル物ノ價格カ低キトキト雖モ亦同シ
代替物ヲ目的トセル債務ニ於テハ債務者ハ最良品ヲ與ヘ債權者ハ最惡品ヲ受クルノ責ニ任セス
(栗塚)
本條ハ負擔シタルノ上ニ債務者ノト云フ字ヲ加ヘ他ノ物ヲ辨濟ニ受クルトアルヲ他ノ物ヲ辨濟トシテ受取ルトスベシ
(村田)
債務者ノト云フハ蛇足ナリ辨濟トシテ受取ルハ可ナリ
可決ス
第四百八十二條 雙方一致ニテ物ヲ金錢ニ金錢ヲ物ニ又ハ或ル物ヲ他ノ物ニ代ヘテ辨濟ノ爲メ之ヲ與ヘ若クハ約束シタルトキハ原義務ヲ更改シタリト看做シ其所爲ハ場合ニ因リテ賣買又ハ交換ノ規則ニ從フ
(栗塚)
本條代ヘテトアル「テ」ヲ刪リタレ可決ス
第四百八十三條 特定物ノ債務者ハ引渡ヲ爲ス可キ時ノ現狀ニテ其物ヲ引渡スニ因リテ義務ヲ免カル但有條件義務ノ危險ニ關スル第四百三十九條ノ規定ヲ妨ケス
債務者ノ費用ニテ物ヲ保存シ若クハ改良シ又ハ其過失若クハ懈怠ニ因リテ之ヲ毀損シタルトキハ替償ハ上ノ第一章第二節第三節ニ從ヒ當事者相互デ之ヲ負擔ス
(栗塚)
本條ハ例ニ依リ有條件義務トアルヲ條件付ノ義務トシ替償ト云フハ償金トスベシ
可決ス
(委員長)
相互ニト云フハ如何
(村田)
債務者ノ毀損ハ債權者之ヲ負擔シ債權者ノ毀損ハ債務者之ヲ負擔スベキヲ當然トス
第四百八十四條 金錢ヲ以テ目的トセル債務ニ於テハ債務者ハ其選擇ヲ以テ金若クハ銀ノ國貨又ハ強制通用ノ紙幣ヲ與ヘテ義務ヲ免カル
債務者ハ法律ニ依リ貨幣ノ名價又ハ純分ニ變更ヲ生スルモ約束シタル數額ヨリ多ク又ハ少ナク負擔セス
本條ノ規則ニ違背スル契約ハ無効ナリ但第四百八十六條第二項ノ規定ヲ妨ケス
(栗塚)
本條ハ第一項金錢ヲ以テ目的トセルトアルヲ金錢ヲ目的トセルトシ第二項純分ニトアルヲ純分ノ割合ニトスベシ
(元尾崎)
名價ノ變更トハ如何
(栗塚)
假令バ天保錢ハ當百文ノ價格ナリシモ低減シテ九十六文ノ通用トナリシカ如シ
(渡)
本條ハ前回ニ大藏省ヘ問合ノ筈ナリシカ爾後如何ナリシヤ
(栗塚)
爾後再三研究シタルニ銀行紙幣モ強制通用ナルベシト云フニテ商法トモ照査シテ不都合ナキニ歸シタリ
(淸岡)
數額ヨリトアルヲ數額ヨリモトシテハ如何
(村田)
變更ヲ生ズルモノトアルヲ以テ數額ヨリトシテ可ナリ
(元尾崎)
金若クハ銀ノ國貨トアルハ補助銀貨ハ包含セザルヤ
(南部)
第四百八十七條ニテ論ズルヲ至當トス
(元尾崎)
銅貨ハ如何
(栗塚)
銅貨ハ貨幣條例ニ讓レリ
(元尾崎)
銅貨ヲ貨幣條例ニ讓リ補助銀貨ヲ同條例ニ讓ラザルハ如何
(委員長)
第四百八十七條ニ至テ論ズベシ
第四百八十五條 右ニ反シ辨濟期ニ於テ諸種ノ貨幣ノ爲替相場ヨリ生ス可キ相互ノ高低ノ差ハ債務者ノ選擇スル法律上ノ貨幣ヲ以テ平均價額ノ辨濟ニ因リ當事者ノ間ニ之ヲ平分スル契約ヲ爲スコトヲ得
(栗塚)
本條ノ契約ハ合意トスベシ
可決ス
(元尾崎)
平均價額ト云フハ市場ニ於ケル平均相場ニアラズヤ
(栗塚)
兩替相場ハ紙幣百圓ニ付キ銀百拾圓金百三十圓ニ對ス故ニ紙幣百十三圓三十三錢ト爲ルベシ
(松岡)
日本ニ爲替ト兩替ノ區別アリ
(元尾崎)
本條ノ爲替ハ兩替ノ義ナリ
(村田)
本條ハ干渉ニ失スルモノトス
(尾崎)
當事者ノ間ニ之ヲ平分スルト云ヘバ塡補額ヲ分擔スルノ義ナルベシ
(松岡)
本條ハ兩替相場ヨリ先ズ可キ高低ノ差ハ當事者ノ間ニ含意スルヲ得ト云フ意味ニスベシ
(栗塚)
平分スル合意ノ外諸種ノ合意ヲ爲スニ差支ナシ
(元尾崎)
本條ハ平分スル合意ノ外ニ渉ルヲ得ザルベシ
(南部)
本條ハ全損スルヲ得ザル義ヲ記シタルモノトス
(北畠)
假令バ金貨ヲ借ラントセンニ貸主ハ金貨ノ騰貴センコトヲ慮リ之ニ應ゼズ依テ借主ハ金貨ノ騰貴スベキ價格ノ半額ヲ添ヘ之ヲ辨償スベシト云フニテ借金シタルヲ云フ
(南部)
本條ハ第四百八十六條ノ如キ全差額ヲ支拂フベキ弊害ヲ押正セントスルニアルベシ
(渡)
第四百八十四條及ビ第四百八十六條ノ二條ヲ以テ其規ヲ立テ本條ハ只其損失ヲ分頭ニスベシト云フニアルベシ
(松岡)
然ラズ
(元尾崎)
本條ハ刪除シタシ
(栗塚)
平分ト云フニ字弊アリ個ハ七分三分ノ合意ヲ爲スニモ差支ナケレバナリ
(南部)
平分ハ塡補トスベシ
可決ス
(栗塚)
法律上ノ貨幣ヲ以テトアルヲ法律上ノ貨幣ヲ以テトスルトシ平均價額ノ辨濟ヲ爲シトアルハ平均價額ノ辨濟ニ因リトスベシ
可決ス
(松岡)
爲替相場ト云フハ兩替相場トスベシ
(元尾崎)
遠隔地ノ兩替ハ卽チ爲替ト云フヲ以テ遠近兩樣ノ意味ヲ顯サント欲スレバ爲替ト云フヲ可トス
可決ス
第四百八十六條 金貨又ハ銀貨ノ價額ヲ以テ負擔ノ金額ヲ指定シタルトキハ債務者ハ獨リ爲替相場ノ損益ヲ受ケ法律上ノ他ノ貨幣ヲ以テ義務ヲ免カルコトヲ得
金貨又ハ銀貨ヲ以テ負擔ノ金額ヲ辨濟ス可キコトヲ約束シタルトキモ亦同シ
外國ノ貨幣ヲ以テ辨濟ヲ爲ス可キコトヲ約束シタルトキハ債務者ハ右ノ規定ニ從ヒ自己ノ撰擇スル法律上ノ貨幣ヲ以テ其外國ノ貨幣ノ價額ヲ辨濟シテ義務ヲ免カルコトヲ得
(栗塚)
本條第一項價額ノ字ハ除去スベシ
(槇村)
銀貨ノ價額ヲ以テト云フハ其證文如何ニ記スベキヤ
(南部)
銀幾圓トスベシ
(元尾崎)
銀貨ノ價額ト云ヘバ銀貨幾圓トセザルベカラザルガ如シ
(南部)
第一項ハ借金ニ就テ云ヒ第二項ハ返濟ニ就テ云フモノナリ
(松岡)
「ノ價額」ヲ刪ルベシ
可決ス
(栗塚)
第二項辨濟ス可キコトヲ約束シタルトキトアルハ辨濟ス可キコトノ要約アリタルトキトシタシ
可決ス
(元尾崎)
第一項ハ云々債務者ハ獨リ法律上ノ他ノ貨幣ヲ以テ義務ヲ免カルコトヲ得但爲替相場ノ損益ハ債務者獨リ之ヲ負擔スト云フ意味ニシテハ如何
(栗塚)
第三項右ノ規定ニ從ヒト云フハ前二項ニ從ヒトスベシ
(三島)
右ノ規定ト云フハ前二項ヲ指スベシ
(南部)
第四百八十七條ハ存在スベシ
(松岡)
然リ
(淸岡)
五圓拾圓ト云フ文字ヲ置クハ不可ナリ
(栗塚)
第四百八十七條ハ銅貨及ビ補助銀貨ハ特別法ニ定メタル數額ヨリ多ク辨濟トシテ之ヲ交付スルコトヲ得ズトシテハ如何
可決ス
(三島)
第四百八十六條第一項銀貨ノ價額ト云フハ第二項負擔ノ金額ト云ヘルトハ照應スルモノナレバ「ノ價額」ハ存在シテハ如何
(元尾崎)
銀貨ノ價額ト云ヘバ銀貨ノ價値ト云フコトトナルヲ以テ不可ナリ
第四百八十七條
〔議場削除〕
<削除建議>
第四百八十八條 金錢ノ貸借ニ特別ナル規則ハ第八百七十八條ニ於テ之ヲ規定ス
(栗塚)
本條ハ別段ノ必要ヲ見ザルニ付キ刪除スベシ
可決ス
第四百八十九條 當事者カ辨濟ノ場所ヲ定メサリシトキハ辨濟ハ債務者ノ實地ノ住所ニ於テ之ヲ爲ス但後ニ揭クル或ル契約ノ場合及ヒ第三百五十三條ニ從ヒ特定物ノ引渡ニ關スル場合ハ此限ニ在ラス
自己ノ住所ニ於テ辨濟ヲ受ク可キ當事者カ詭譎ナクシテ轉住シタルトキハ辨濟ハ其新住所ニ於テ之ヲ爲ス但其當事者ハ爲替相場ノ差額及ヒ人ノ往復若クハ物ノ運送ノ補足費用ヲ一方ノ當事者ニ拂フコトヲ要ス
辨濟ノ其他ノ費用ハ債務者之ヲ負擔ス
(栗塚)
本條第一項實地ノ住所トアルヲ本住所トシ第二項辨濟ヲ受ク可キトアルハ辨濟ノアル可キトスベシ
(松岡)
實地ト云ヒ本ト云フニ及バズ第二項ノ辨濟ノアル可キトスルモ可決セラル
<第一項削除建議>
第四百九十條 辨濟ヲ爲ス可キ時期ハ第四百二十三條乃至第四百二十八條ニ於テ之ヲ規定ス
辨濟ノ期日カ法律上ノ休暇日ナルトキハ辨濟ハ其翌日ニ非サレハ之ヲ要求スルコトヲ得ス
(南部)
本條第一項ハ刪除シタシ
可決ス
第二款 辨濟ノ充當
第四百九十一條 一人ノ債權者ニ對シ一樣ノ性質ナル數箇ノ債務ヲ有スル債務者カ總債務ヲ全消スルコトヲ得サル辨濟ヲ爲ストキハ債務者ハ辨濟ノ時ニ於テ其孰レノ債務ニ充當セントスルノ意ヲ述ヘ且此充當ヲ受取證書ニ記入セシムルコトヲ得
然レトモ債務者ハ債權者ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ債權者ノ利益ノ爲メ定メタル期限ノ至ラサル債務ニ充當ヲ爲シ又費用及ヒ利息ニ先タチ元本ニ充當ヲ爲シ又一分ツツ數箇ノ債務ニ充當ヲ爲スコトヲ得ス
無異議
第四百九十二條 債務者カ有効ナル充當ヲ爲ササルトキハ債權者ハ受取證書ニ於テ自由ニ辨濟ノ充當ヲ爲スコトヲ得但會社契約ニ關スル第七百七十七條ノ規定ヲ妨ケス
債務者カ異議ナク又ハ異議ヲ留メスシテ受取證書ヲ受取リタルトキハ債務者ハ自己ノ錯誤又ハ債權者ノ欺瞞アリタルニ非サレハ充當ヲ非難スルコトヲ得ス
(松岡)
本條第一項有効ナルノ文字ハ必要ナルカ
(南部)
有効ノ字ハ存在スベシ
第四百九十三條 債務者及ヒ債權者カ有効ニ充當ヲ爲ササルトキハ當然左ノ如ク充當ス
第一 期限ノ至リタル債務ヲ先ニシ期限ノ至ラサル債務ヲ後ニス
第二 費用及ヒ利息ヲ先ニシ元本ヲ後ニス
第三 總債務カ期限ニ至リ又ハ至ラサルトキハ債務者ノ爲メ最モ辨濟ノ利益アル債務ヲ先ニス
第四 債務者カ辨濟ノ先後ニ付キ利益ヲ有セサルトキハ期限ノ最モ先キニ至リタル又ハ至ル可キ債務ヲ先キニス
第五 總債務カ何レノ點ニ於テモ相等シキトキハ充當ハ各債務ノ額ニ應シテ之ヲ爲ス
無異議
第四百九十四條 上ノ規定ハ交互計算上ノ振込ニ之ヲ適用セス此振込ハ振込人ノ貸方ニ之ヲ記入ス
(南部)
振込ハ拂込トシテハ如何
(三島)
拂込ト云ヘバ株金拂込ト云フガ如キヲ以テナリ
(元尾崎)
交互計算ト云フハ不可ナリ
(栗塚)
假令バ銀行ニ振込又銀行ヲシテ貸出サシムルヲ云フニ付キ妥當トス
(淸岡)
振込ハ振込ニテ可ナリ
可決ス
第三款 辨濟ノ提供及ヒ供託
第四百九十五條及ヒ第四百九十六條 債權者カ辨濟ヲ受クルヲ欲セス又ハ之ヲ受クル能ハサルトキハ債務者ハ左ノ區別ニ從ヒ提供及ヒ供託ヲ爲シテ義務ヲ免カルコトヲ得
第一 債務カ金錢ヲ目的トスルトキハ提供ハ貨幣ヲ提示シテ之ヲ爲スコトヲ要ス
第二 債務カ特定物ヲ目的トシ其存在スル場所ニ於テ引渡サル可キトキハ債務者ハ其物ノ引取ノ爲メ債權者ニ催吿ヲ爲ス
第三 特定物ヲ債權者ノ住所其他ノ場所ニ於テ引渡ス可クシテ其運送カ多費、困難又ハ危險ナルトキハ債務者ハ契約ニ從ヒ引渡ヲ卽時ニ實行スルノ準備ヲ爲シタルコトヲ提供中ニ述フ定量物ニ關シテモ亦同シ
第四 債權者ノ立會又ハ參同ヲ要スル作爲ノ義務ニ關シテハ債務者カ義務履行ノ準備ヲ爲シタルコトヲ述フルヲ以テ足ル
(南部)
第四百七十二條第二項實物提供トアル實物ノ字ハ刪リタシ提供ト云ヘバ實物ナルコト明ナレバナリ
可決ス
(栗塚)
本條辨濟ヲ受クルトアルハ辨濟ヲ受取ルトスベシ
第四百九十七條 右ノ外提供ハ辨濟ノ有効ナル爲メ上ニ定メタル條件ヲ具備シ且民事訴訟法ノ方式及ヒ條件ニ從フニ非サレハ有効ナラス
無異議
第四百九十八條 時期ヲ失セス且有効ニ爲シタル提供ハ法律ヲ以テ規定シ若クハ契約ヲ以テ約束シタル失權、解除及ヒ責罰ヲ豫防ス
此提供ハ付遲滯ヲ防止シ又既ニ付遲滯ノ存セルトキハ將來ニ向テ其効力ヲ止マシメ且遲延利息ヲ停ム
(栗塚)
遲延利息ヲ停ムトアルハ遲延利息ノ進行ヲ停ムトシタシ
(松岡)
進行ノ字ハ挿入セザルモ可ナリ
(栗塚)
其効力ヲ止マシメトアルハ其効力ヲ止メトスベシ
可決ス
第四百九十九條 債權者カ提供ヲ承諾セサルトキハ債務者ハ供託ノ日マテニ債務ニ生シタル塡補ノ利息ト共ニ辨濟ノ金額ヲ供託物取扱所ニ供託スルコトヲ得
特定物又ハ定量物ニ付テハ債務者ハ其物ヲ供託ス可キ場所ヲ指定スルコト及ヒ其監守ヲ選任スルコトヲ裁判所ニ請求ス
供託ノ方式及ヒ條件ハ民事訴訟法ヲ以テ之ヲ規定ス
(栗塚)
第一項塡補ノ利息トアル「ノ」ヲ刪リ第二項其監守ヲトアルハ其監守者ヲトスベシ
可決ス
第五百條 有効ニ爲シタル供託ハ債務者ニ義務ヲ免カレシメ且債務者カ意外ノ事ニ任シタルトキト雖モ其物ノ危險ヲ債權者ニ歸セシム
然レトモ債權者カ供託ヲ承諾セス又ハ其供託カ債務者ノ請求ニ因リテ有効ト裁判セラレ其裁判ノ確定ニ至ラサル間ハ債務者ハ其供託物ヲ引取ルコトヲ得
債權者ノ承諾アリ又ハ裁判ノ確定ト爲リタル後ト雖モ債務者ハ債權者ノ承諾ヲ以テ供託物ヲ引取ルコトヲ得
然レトモ共同債務者及ヒ保證人ノ義務免除ヲモ動產質權及ヒ抵當權ノ消滅ヲモ又供託物ニ付キ債權者ノ債權者カ爲シタル差押故障ヲモ妨碍スルコトヲ得ス
(栗塚)
本條承諾ノ文字ハ受諾トシ第二項債務者ノ請求ニ因リテ有効ト裁判セラレトアルヲ債務者ノ請求ニテ既判力ヲ有スル判決ニ因リ有効ト宣吿セラレトスベシ
可決ス
(元尾崎)
其供託ハ當然ナリトノ判決ヲ爲シタルヲ云フカ
(松岡)
然リ
(栗塚)
第三項ハ又ハ裁判ノ確定ト爲リタルトアルヲ又ハ廢罷ス可ラサル判決ノトシ義務免除ヲモトアルヲ義務解除ト〔一句削除建議〕シ差押故障トアルヲ拂渡差留トスベシ
(北畠)
廢罷ス可ラザル判決ト云フハ妥當ヲ得ズ
(栗塚)
債權者ノ受諾アリ又ハ判決アリタル後ト雖ドモトシテハ如何
(委員長)
判決ト云フハ何ノ判決タルヤ知ルベカラズ
(南部)
右ノ判決トスベシ
(松岡)
有効ノ判決トシテハ如何
(栗塚)
右ノ受諾又ハ判決アリタル後ト雖ドモトシテハ如何
可決ス
第四款 代位ノ辨濟
第五百一條 代位ヲ以テ第三者ノ爲シタル辨濟ハ債權者ニ對シテ債務者ニ義務ヲ免カレシメ且其債權及ヒ之ニ附着セル擔保ト効力トヲ併セテ其第三者ニ移轉ス但場合ニ從ヒ第三者ノ有スル事務管理又ハ代理ノ訴權ヲ妨ケス
代位ハ下ノ區別ニ從ヒ債權者若クハ債務者ヨリ之ヲ許與シ又ハ法律ヲ以テ之ヲ付與ス
(村田)
代位ノ辨濟ハ代位辨濟ト云フベキニアラズヤ
(栗塚)
單純辨濟ハ單純ノ辨濟トアリ
(元尾崎)
債務者ハ不知ノ間債權者ヲ異ニスルカ
(栗塚)
然リ
第五百二條 債權者ノ許與シタル代位ハ受取證書ニ之ヲ明記スルニ非サレハ有効ナラス但辨濟ニ付キ第三者ノ利害ノ有無及ヒ辨濟者ノ名義ノ誰タルヲ問ハス
(栗塚)
本條ハ但以下ヲ但第三者カ辨濟ニ付キ利害ノ關係ヲ有スルヤ否及ビ自己ノ名又ハ債務者ノ名ニテ辨濟スルヤ否ヲ區別スルコトヲ要セズトシタシ
可決ス
第五百三條 債務者ハ其債務ノ辨濟ニ必要ナル金額又ハ有價物ヲ己レニ貸與シタル第三者ヲシテ債權者ノ承諾ナク其權利ニ代位セシムルコトヲ得
右ノ場合ニ於テ借用證書ニハ其金額又ハ有價物ノ用方ヲ記載シ受取證書ニハ其出所ヲ記載ス
公正證書又ハ確定ノ日附アル證書ニ非サレハ他ノ第三者ニ對シテ右ノ行爲ノ證トスルコトヲ許サス
然レトモ借用ト辨濟トノ間ニ不相當ナル長キ時間ノ經過シタルトキハ裁判所ハ代位ヲ不成立ト宣言スルコトヲ得
(栗塚)
末項宣言トアルヲ宣吿トシ第三項他ノ第三者トアルハ第一項ノ第三者ト異ニスル爲メ他ノト云フ字ヲ加ヘシヤ報吿委員ニテ總テ第三者トセリ
(元尾崎)
他ノ第三者ト云フハ他人ト云フ義ナルベシ
(栗塚)
然リ
(委員長)
確定ノ日附アル證書ニ非ザレバト云フハ訴訟法ト對照スル筈ニアラズヤ
(松岡)
別ニ日附登記ノ法ヲ要スルニ至ラン
結局第三者トスベキ修正ハ否決セラル
第五百四條 代位ハ左ノ者ノ利益ノ爲メ當然成立ス
第一 或ハ他人ト共ニ又ハ他人ノ爲メ義務ヲ負擔シタルニ因リ或ハ先取特權又ハ抵當權ヲ負擔スル財產ノ第三所持人トシテ他人ノ爲メ義務ヲ負擔シタルニ因リ其義務ヲ辨濟スルニ付キ利害ノ關係ヲ有スル者
第二 或ハ抵當訴權ヲ豫防スル爲メ或ハ不動產ノ差押又ハ契約解除ノ請求ヲ止ムル爲メ他ノ債權者ニ辨濟シタル債權者
第三 自己ノ財產ヲ以テ相續ハ債務ノ全部又ハ一分ヲ辨濟シタル享益相續人又ハ表見ニシテ善意ナル相續人
(栗塚)
第一項ハ一身ニ屬スル義務アルト又ハ第三所持者トシテ義務アルトヲ示シタルモノナレバ或ハ自身ニテ他人ト共ニ或ハ先取特權又ハ抵當權ヲ負擔スル財產ノ第三所持者トシテ他人ノ爲メニ義務ヲ負擔シタルニ因リ其義務ヲ辨濟スルニ付キ利害ノ關係ヲ有スル者トシタシ又第三又ハ表見ニシテ善意ナル相續人トアルヲ善意ナル表見相續人トシタシ
可決ス
第五百五條 前三條ニ依リ代位シタル者ハ債權ノ効力又ハ擔保トシテ債權者ニ屬セシ總テノ對人及ヒ物上ノ權利及ヒ訴權ヲ行フコトヲ得但左ニ揭クル場合ヲ例外トス
第一 當事者カ代位者ニ移轉セシメシ權利及ヒ訴權ヲ制限シタルトキハ其制限ニ從フ
第二 第三所持人カ債務ヲ辨濟シタルトキハ保證人ニ對シテ代位セス保證人カ債務ヲ辨濟シ第千三十六條ノ規定ニ從ヘルトキハ第三所持人ニ對シテ代位ス
第三 一箇ノ債務ノ抵當ト爲リタル數箇ノ不動產カ各別ニ數箇ノ第三所持人ノ手ニ存スル場合ニ於テ其一人カ債務ヲ辨濟シタルトキハ各不動產ノ價格ノ割合ニ應スルニ非サレハ他ノ第三所持人ニ對シテ代位ノ權ヲ行フコトヲ得ス
第四 互ニ擔保人タル共同債務者ノ一人カ債務ヲ辨濟シタルトキハ辨濟者ハ他ノ債務者カ分擔ス可キ債務ノ限度ニ應スルニ非サレハ其各自ニ對シテ代位スルコトヲ得ス
(栗塚)
本條第一ハ移轉セシメシトアルヲ移轉シタルトシ又起案者ヨリ第二保證人カ以下ヲ第三トシ第三ヲ第四トシ元第四ヲ第五ト順次降下シタリ所持人トアルハ所持者トスベシ又第三ハ保證人ハ債務ヲ辨濟シ第千三十六條ノ規定ニ從ヒタルトキニ非ザレバ第三所持者ニ對シテ代位セズトシタシ歐文ハ全ク斯クノ如クナレバナリ第五ノ尾代位スルコトヲ得ズトアルハ代位セズトスベシ
可決ス
第五百六條 代位者ハ自己ノ支拂ヒタル金額ヲ超エテ債權者ノ訴權ヲ行フコトヲ得ス
無異議
第五百七條 代位ハ原債權者ヲ害セサルコトヲ要ス
數箇ノ債權ヲ有スル者ハ其一箇ニ係ル代位辨濟カ他ノ債權ノ抵保ヲ減スルトキハ之ヲ拒ムコトヲ得
(元尾崎)
本條ハ二人ノ債權者アルヲ想像セザルベカラザルカ
(南部)
債權者モ抵當モ二個アリト想像セザルベカラズ
第五百八條 代位辨濟カ債務ノ一分ノミニ係ルトキハ代位者ハ自己ノ辨濟ノ割合ニ應シテ原債權者ト共ニ其權利ヲ行フ
然レトモ原債權者ハ全部ノ辨濟ヲ受ケサルトキハ獨リ契約ノ解除ヲ行フ但代位者ニ賠償スルコトヲ要ス
無異議
第五百九條 代位辨濟ニ因リテ全部ノ辨濟ヲ受ケタル債權者ハ債權ノ證書及ヒ質物ヲ代位者ニ交付スルコトヲ要ス
債權者カ一分ノ辨濟ノミヲ受ケタルトキハ要用ニ應シテ代位者ニ證書ヲ出示シ且質物ノ監護ヲ之ニ許スコトヲ要ス
(元尾崎)
質物ノ監護ヲ之ニ許スコトヲ要ストアルハ保存ニ注意スルコトヲ之ニ許スコトヲ要ストシテハ如何
(北畠)
保存ニ注意スルコトヲ之ニ許ス可シトシテハ如何
(栗塚)
保存ニ注意スルコトヲ之ニ許スヲ要ストシテハ如何
可決ス
第五百十條 代位辨濟ノ有効、充當、提供及ヒ供託ニ付テハ前三款ノ規定ニ從フ
(委員長)
要セラレタル條件ト云フヲ除去シテ可ナルヤ
(栗塚)
代位辨濟ノ有効ト云ヘバ代位辨濟ノ有効ニ付テノ條件ト云フガ如シ
(委員長)
代位辨濟ノ有効ト云ヘバ代位辨濟ヲ有効ナラシムルニハト云フ如シ
(元尾崎)
原案ニテ可ナリ
可決ス
第二節 更改
第五百十一條 更改卽チ新義務ヲ以テ舊義務ニ代フルコトハ左ノ四箇ノ方法ニ因リテ成ル
第一 當事者カ義務ノ新目的ヲ以テ舊目的ニ代フル契約ヲ爲ストキ
第二 當事者カ義務ノ目的ヲ變セスシテ其名義ノミヲ變スルノ契約ヲ爲ストキ
第三 新債務者カ舊債務者ニ替ハルトキ
第四 新債權者カ舊債權者ニ替ハルトキ
(栗塚)
本條ハ更改卽チ新義務ヲ以テ舊義務ニ代フルコトハトアルヲ更改卽チ舊義務ノ新義務ニ變更スルコトハトシタシ第二ハ義務ノミトアル「ノミ」ヲ刪ラレタシ
可決ス
<第一項削除建議>
第五百十二條 當事者カ期限、條件又ハ抵保ノ加除ニ因リ又ハ履行ノ場所若クハ負擔物ノ數量、品質ノ變更ニ因リテ單ニ義務ノ體樣ヲ變スルトキハ之ヲ更改ト爲サス
商證券ヲ以テスル債務ノ辨濟方ハ其券面ニ債務ノ原因ヲ指示シタルトキハ更改ヲ成サス
又債務ノ認定ハ其證書ニ執行式アルトキト雖モ亦同シ
(栗塚)
本條第一項ハ之ヲ示シ置カザルモ分明ナリト云フニテ刪除ノ建議アリト雖ドモ報吿委員ヤ裁判官タル人等ハ現今代言人ノ輩無抵當ノ債權ニ抵當ヲ附シタルヲ以テ義務ノ更改トシ條件ノ變更ヲ以テ更改ト思惟スレバ之ヲ存置シタシト云フニアリ
(松岡)
存置スベシ
可決ス
(栗塚)
擔保ノ加除ト云フハ擔保ノ加減トスベシ
可決ス
(栗塚)
又債務ノト云フ「又」ヲ刪ルベシ
(松岡)
前債務トスベシ
可決ス辨濟方ハトアル方ヲ刪リ認定ハ追認トス
第五百十三條 債權者ハ原債權及ヒ其抵保ヲ有償名義ニテ處分スルノ能力ヲ有スルニ非サレハ更改ヲ承諾スルコトヲ得ス
<留保>
右規定ハ契約上、法律上又ハ裁判上ノ管理者及ヒ代理人ニ之ヲ適用ス但代理ノ總般ナラサルトキニ限ル
(栗塚)
第二項但以下ハ再調査員ヨリ之ヲ刪除シテ其留保ヲ取消シタリ
第五百十四條 更改ノ意思ハ債權者ニ在リテハ推定ヨリ生セス明カニ證書又ハ事情ヨリ生スルコトヲ要ス
<削除建議>
然レトモ當事者ニ交替ナキ場合ニ於テ義務ノ更改アリタルヤ又ハ二箇ノ義務ノ兩存セルヤノ疑ヒ有ルトキハ第三百八十條ニ依リ債務者ノ利益ノ爲メニ更改ノ意義ニ從フ
(栗塚)
本條第一項ハ推定ヨリ生セズトアルヲ之ヲ推定セズトシタシ
可決ス
(松岡)
事情ヨリ生ズルコトヲ要ストアルハ事情ヨリ現ハルルコトヲ要ストスベシ
可決ス
(栗塚)
第二項ハ再調査員ニテ債務者ヲ保護スルニ過グルヲ以テ之ヲ刪ルベシト云フニアルモ第三百八十條第二項ニ於テ此規定ハ各項目ニ付キ各別ニ之ヲ適用ストアルヲ存在シタレバ本條第二項モ之ヲ存セザルベカラズ依テ之ヲ修正シテ然レドモ同一ノ當事者間ニ於テ義務ノ更改アリタルヤ又ハ二個ノ義務ノ共ニ存スルヤノ疑ヒ有ルトキハ第三百八十條ニ依リ債務者ノ利益ノ爲メニ更改ノ意義ニ解釋ストセリ
可決ス
第五百十五條 舊義務カ停止又ハ解除ノ條件ニ從ヒシトキハ更改ハ同一ノ條件ニ從フモノトノ推定ヲ受ク
又新義務カ有條件ナルトキハ更改ハ停止條件ノ成就シ又ハ解除條件ノ成就セサルトキニ非サレハ成ラス
右孰レノ場合ニ於テモ當事者カ單一ナル更改ヲ爲サント欲シタルノ證據アルトキハ此限ニ在ラス
(栗塚)
本條第二項有條件トアルヲ條件附トシ第三項單一トアルヲ單純トスベシ
(元尾崎)
第一項條件ニ從ヒシトキハトアル條件付ナリシトキハトスベシ
可決ス
(元尾崎)
停止條件變シテ解除條件トナリシトキハ更改ニアラズヤ
(栗塚)
義務ノ態樣ハ變スルモ之ヲ更改トスルヲ得ザルナリ
第五百十六條 舊義務カ初ヨリ法律上成立セス又ハ法律ノ定ムル原因ニ由リテ消滅シ若クハ取消サレタルトキハ更改ハ無効ニシテ新義務ハ成立セス
又新義務カ其成立及ヒ有効ニ要スル法律上ノ條件ヲ具備セサルトキハ舊義務ハ存立ス
右孰レノ場合ニ於テモ當事者カ自然義務ヲ法定義務ニ又ハ法定義務ヲ自然義務ニ變換セント欲シタルノ證據アルトキハ此限ニ在ラス
<第三項疑問>
(栗塚)
本條第三項ハ自然義務ノ存廢ニ關スベキヲ以テ之ヲ疑問ニ附シタリ
第五百十七條 舊義務ヲ更改スル爲メ異議ナク又ハ異議ヲ留メスシテ有効ニ新義務ヲ約束シタル債務者ハ其了知セル舊義務ノ無効ノ理由ヲ以テ債權者ニ對抗スルコトヲ得ス
債務者カ次條ニ從ヒ舊債權者ノ囑託ニ因リ新債權者ニ對シテ義務ヲ約束シタルトキモ亦同シ
(栗塚)
無効ノ理由トアルヲ無効ノ方法トシ訴訟法ニ抗辯ノ方法トアル如キニ倣ヘリ
(松岡)
無効ノ理由ト云フニテ可ナリ
(栗塚)
約束ハ諾約トスベシ
可決ス
第五百十八條 債務者ノ交替ニ因ル更改ハ或ハ舊債務者ヨリ新債務者ニ爲セル囑託ニ因リ或ハ舊債務者ノ承諾ナクシテ新債務者ノ隨意ノ干渉ニ因リテ行ハル
囑託ニハ完全ノモノ有リ不完全ノモノ有リ
第三者ノ隨意ノ干渉ハ下ニ記載スル如ク除約又ハ補約ヲ成ス
(栗塚)
本條第一項干渉トアルハ干與トシタシ訴訟法ニテハ之ヲ參加トシ行政上ニテハ干渉ト云フベシ
原案ニ付ス
賃貸借
(栗塚)
今村氏ノ起案ニ係ル賃貸借ニ付キ報吿委員ハ三種ノ疑問アリ其疑問ハ兼テ各委員ニ配付シ置キタレバ各員領承アルベシ又今村氏ニ疑問ヲ爲シタルニ今村氏ハ第十三條「賃借人ヨリ各式ニ吿知ヲ受ケタル」及ビ「其訴訟ニ參加シテ」ノ文字ヲ刪ルベシトナリ又第二十三條ハ人權ナレバ轉貸スルヲ得ズ物權ナレバ轉貸スルヲ得ト云フ區別ナカルベシ凡ソ權利ハ轉貸シ又ハ讓渡スルヲ得ベキモノトス若シ修正按ノ如ク讓渡又ハ轉貸ヲ許サザルヲ以テ人權ノ本則トス物權モ亦讓渡又轉貸ヲ許サザルヲ以テ本則ト爲サザルヲ得ズ何トナレバ權利タルコトニ於テハ同一ナレバナリ然ルトキハ用益權其他ノ權利ノ規定ニ忽チ牴觸ヲ生ズベシ又物權ニテ使用權住居權人權ニテ使用貸借ノ如キハ何レモ轉貸ヲ許サザルヲ以テ本則トス是レ性質上然ラシムルモノニシテ其權利ノ人權タルト物權タルトニ因ルニアラズ若シ修正案ノ如ク讓渡又ハ轉貸ヲ許サザルヲ以テ賃貸借權ノ本則ト爲ストキハ賃貸借權モ亦使用權及ビ使用貸借ト同ジク之ヲ相續人ニ移轉セシムルコトヲ得ザルヲ以テ本則ト爲サザル可ラズ是レ果シテ當ヲ得タルモノナルカ今村氏ハ之ニ答ヘテ轉貸ヲ禁ジタル人權ト物權トノ區別ヨリ出テタルニアラズ人權トスルモ物權トスルモ實際上其轉貸ヲ禁ズルヲ可トスト云フニアリ又第三ハ報吿委員ニテ修正案第二十二條ハ原按ニ聊カ修正ヲ加フルモ物權タルノ原質ヲ失ハズト認メタルモ今村氏ハ物權タルノ原質タルト否ニ關セザルナリト云ヘリ
(委員長)
轉貸ヲ禁ズルカ否及ビ人權トスルカ物權トスルカノ二問題ニ歸スルヲ以テ第一ニ人權トスルカ物權トスルカヲ論決スルコトトスベシ
(磯部)
今村氏ノ起案ニ係ル第二十二條ハ實際上牴觸ヲ釀スルモノトス賃借人ハ土地ニ於ケル地上權ヲ有スベシ果シテ地上權ヲ有スルモノトセバ其土地ニ建物ヲ築造シ又ハ樹木ヲ栽植スルコトハ自由ナラザルベカラザルニ修正案ニ從ヘバ必要ノ場合ニアラザレバ之ヲ爲スコトヲ得ザルガ如シ又之ヲ人權トスレバ賃貸人ハ土地ノ收益ニ必要ナル建物ヲ築造シ又ハ樹木ヲ栽植スルヲ得セシムル義務アリト云ヘバ貸借人ヲシテ自ラ牧益ヲ得ルモ轉貸シテ其收益ヲ得ルモ賃貸人ハ之ヲ拒ムコトヲ得ザルベシ
(熊野)
賃貸借ヲ人權トスルニ付テハ今村氏ノ起案ニシテ大體ノ點ニ於テハ不都合ナシ
(南部)
賃貸借ハ既ニ前回ニ於テモ種々ノ議論アリ本員ハ倒底ボ氏ノ原案ニ從ヒ物權ト爲シ置キタシ
(磯部)
賃貸物ノ讓渡シ及ビ轉貸スルヲ得ズト云ヘバ抵當ノ權利モ自然消滅スルモノト云ハザルベカラズ何トナレバ抵當ハ義務者カ其義務ヲ履行スルヲ得ザルトキハ之ヲ公賣ニ附スルノ結果ヲ生ズベキモノナレバ讓渡又ハ轉貸ヲ爲スベカラズト云ヘバ抵當權ヲモ之ヲ禁ゼザルベカラズ
(委員長)
修正案ニ對スル大體ハ異議ナキヤ
(松岡)
異議ナシ
(委員長)
轉貸抵當及ビ占有スルコトヲモ得ズト云フ結果ヲ見ルハ容易ナルコトニアラザレバ尙ホ再應穩カニ起案者ニ質問シタシ
(淸岡)
修正案ハ占有ヲモ禁スルノ精神ナルヤ
(磯部)
修正第十三條ハ占有ヲ禁ズルノ精神ナルベシ
(尾崎)
之ヲ人權トシタレバトテ占有ヲ禁ズルモノニアラズ
(南部)
之ヲ人權トスレバ占有權ヲ生ゼズ
(栗塚)
「ボアソナード」氏ニ質問スルトシ其質問ハ論決ニ先スベキヤ後ニスベキヤ
(箕作)
論決ニ先スベキヲ便宜ナリトス
(委員長)
修正案ハ此儘ニ附シ置キ別ニ「ボアソナード」氏ニ質問スベシ又之ヲ物權トスルモ人權トスルモ賃借物ノ轉貸ヲ得セシメザルヤ否ヲ決シタシ若シ慣習上轉貸ヲ得セシメザルト云フ論決ニ歸着スレバ「ボアソナード」氏モ之ヲ人權トスル爲メニ法理ヲ變セザルベカラズト云ハザルベシ
(西)
家作ノ賃借ノ如キ其習慣ハ人ヲ目的ニスルニアリト云フベカラズ
(元尾崎)
家作ノ賃貸ノ如キハ皆人ヲ目的トスルモノナリ
(南部)
然ラズ貸家ノ貼紙ヲ爲シタル以上ハ人ヲ目的トスルヲ得ズ
(尾崎)
日本ノ貸借ハ皆人ヲ信ジテ之ヲ貸付スルモノニシテ貸主貸付スルヲ欲セザル者ニ對シテハ決シテ貸付セザルナリ多數ヲ以テ轉貸ハ貸主ノ承諾ヲ經ザレバ之ヲ得セシメザルコトニ決ス
第五百十九條 債權者カ明カニ舊債務者ヲ免除スルノ意思ヲ表セサルトキハ囑託ハ不完全ニシテ更改ハ行ハレス且債權者ハ新舊債務者ヲ連帶ニテ訴追スルコトヲ得
第三者ノ隨意干渉ノ場合ニ於テ債權者カ舊債務者ヲ免除シタルトキハ除約ニ因ル更改行ハル之ニ反セル場合ニ於テハ單一ノ補約成リテ債務ノ全部ニ付キ新舊債務者兩存ス然レトモ此債務者ハ連帶ノ義務ニ任セス
(栗塚)
本條第一項新舊債務者トアルハ二人ノ債務者ト云フベキ誤ナリ未ダ新舊ト云フヲ得ザル場合ナレバナリ
(松岡)
新舊ノ文字ヲ不當トスレバ舊債務者ヲ免除スルト云フヲ得ザルベシ
(淸岡)
新舊債務者トシテ不可ナシ
(栗塚)
免除スルノ意思ヲ表セザルヲ以テ新舊ト云フヲ得ズ
(元尾崎)
新舊ト云フニ差支ナシ
(南部)
既廢ニ屬セザレバ舊ト云フヲ得ザルベシ
(北畠)
原案ノ儘ニテ可ナリ
(栗塚)
第二項免除ト云フ字ハ免レタルトスベシ
(松岡)
第一項ノ免除ヲモ免ズルトスベキヤ
(栗塚)
然リ釋放ト云フベキヲ免除ト改メタルニ依リ免除ハ釋放ノ意味ヲ避ケンガ爲メナリ
(村田)
除約ニ因ルト云フハ除約ニ因レルトシタシ
(委員長)
新舊債務者兩存スト云フハ妥當ナリヤ
(栗塚)
第二ノ債務者ヲ得トシタキモ新舊ノ二字ヲ採用セラレタルニ依リ此儘ニ存セリ
(委員長)
補約カ成就シタル場合ニ付キ第二ノ債務者ヲ得ベキニアラズヤ
(栗塚)
義務ノ更改アラザレバ新舊ト云フヲ得ズ
(三島)
新舊ト云フモ假詞ト思惟スベシ
(栗塚)
新舊ト云フ文字ハ更改ニアラザレバ之ヲ使用スルヲ得ザルモノナルニ囑託ノ場合ニ新舊ノ文字ハ假詞ナリト思惟セザルベカラザルハ甚ダ困難ナリ故ニ第一第二ノ債務者トセザルベカラズ
(淸岡)
新舊ハ假詞ト看做シテ可ナリ第一第二ト云フモ第一ハ舊ニシテ第二ハ新タルノ事實ニ違ハズ
(委員長)
更改ノ成ラザル場合ハ第一第二ノ債務者ト云フベキヤ
(栗塚)
然リ
(委員長)
其修正說ニ決シタシ
結局舊債務者ヲ免ズルトアルヲ第一項ノ債務者ヲ免ズルトシ且債權者ハ新舊債務者トアルヲ第一第二ノ債務者トシ第二項ノ債權者カ舊債務者トアルハ原案ノ儘ニシ債務ノ全部ノ上ニ債權者ハノ文字ヲ加ヘ新舊債務者兩存ストアルヲ第二ノ債務者ヲ得トス
第五百二十條 完全囑託及ヒ除約ノ場合ニ於テ新債務者カ債務ヲ辨濟スルコトヲ得サルトキハ債權者ハ囑託又ハ除約ノ當時ニ於テ新債務者ノ既ニ無資力タリシコトヲ知ラサルニ非サレハ舊債務者ニ對シテ擔保ノ求償權ヲ有セス但特別ノ契約ヲ以テ此擔保ヲ伸縮スルコトヲ得
(栗塚)
本條ハ契約ヲ合意トスルノミ
第五百二十一條 債權者ノ交替ニ因ル更改ハ債務者ト新舊債權者トノ承諾アルニ非サレハ成ラス
(淸岡)
本條ノ新舊ト云フ字ハ第一第二ト云フベキニアラズヤ
(栗塚)
本條ハ更改ノ場合ナレバ新舊ト云ハザルベカラズ
第五百二十二條 債權者カ第五百二十五條ニ定メタル如ク其債權ノ抵保ヲ留保シ或ル人ニ囑託シテ自己ノ債務者ヨリ辨濟ヲ受ケシムルトキハ其受囑託人ハ債權ノ讓渡ニ關スル第三百六十七條ノ規定ニ從フニ非サレハ第三者ニ對シ其債權ヲ主張スルコトヲ得ス
(栗塚)
本條ハ抵保トアルヲ例ニ依リ擔保トスベシ且本條ハ留保トセシニ起案者其債權ノ擔保トアルヲ其債權ノ物上擔保ト改メタルニ依リ留保ヲ氷解シタリ又報吿委員ハ物上擔保ヲ留保シ或ル人ニ囑託シテトアルヲ物上擔保ヲ留保シ或ハ他人ヲ惠ム爲メ或ハ他人ニ對スル債務ヲ免ルル爲メ其人ニ囑託シテトシタシト可決ス
第五百二十三條 債權者ト連帶債務者ノ一人又ハ不可分債務者ノ一人トノ間ニ爲シタル更改ハ他ノ債務者及ヒ保證人ヲシテ其義務ヲ免カレシム
然レトモ債權者カ右共同債務者及ヒ保證人ノ同意ヲ更改ノ條件ト爲シタル場合ニ於テ共同債務者及ヒ保證人ノ之ヲ拒ムトキハ更改ハ成立セス
連帶債權者ノ一人ト爲シタル更改ハ其債權者ノ持分ニ付テノミ債務者ヲシテ義務ヲ免カレシム
性質ニ因ル不可分債務ノ債權者ノ一人ト更改ヲ爲シタルトキハ他ノ債權者ハ全部ニ付キ訴追ノ權利ヲ有ス但第四百六十六條ニ定メタル替償ノ負擔ニ任ス
(栗塚)
本條第四項替償ノ負擔ニ任ストアルヲ償金ヲ負擔ストシ第三項持分トアルヲ部分トスベシ
可決ス
第五百二十四條 保證人ト爲シタル更改ハ反對ノ意思アル證據ナキトキハ保證ニ付テノミ之ヲ爲シタリトノ推定ヲ受ケ主タル債務者ニモ他ノ保證人ニモ義務ヲ免カレシメス
無異議
第五百二十五條 舊債權ノ物上擔保ハ新債權ニ移ラス但債權者之ヲ留保シタルトキハ此限ニ在ラス
此留保ハ共同債務者、保證人又ハ第三所持人ノ手ニ存スル抵保財產ニモ之ヲ行フコトヲ得
此留保ニ付テハ更改ノ相手方ノ承諾ノミヲ必要トス
右ノ場合ニ於テ財產ハ舊債務ノ限度ヲ超エテ抵保ヲ負擔セス
(栗塚)
本條ハ抵保ヲ擔保トシ所持人ヲ所持者トスベシ
可決ス
(元尾崎)
假令バ甲者ノ債權ニ得タル擔保ヲ乙者ニ更改シタルトキハ其擔保ヲ失スルヤ
(栗塚)
然リ
(南部)
更改ナルガ故ナリ
(委員長)
擔保ヲ負擔セズト云フハ重語ナルニアラズヤ
(松岡)
擔保ヲ任ゼズトシテハ如何
(南部)
擔保ヲ負ハズトスベシ
(渡)
此儘ニシテ不可ナシ
(淸岡)
此儘ニテ可ナリ留保
第三節 契約上ノ免除
第五百二十六條 債務ノ全部又ハ一分ニ付テノ契約上ノ免除ハ有償名義又ハ無償名義ニテ之ヲ爲スコトヲ得
有償名義ノ免除ハ事情ニ從ヒ代物辨濟、更改、和解又ハ解除ヲ成シ無償名義ノ免除ハ生贈ヲ成ス但此第二ノ場合ニ於テハ公式ノ特別規則ニ從フコトヲ要セス
協諧契約ヲ以テ破產シタル債務者ニ許與スル一分ノ免除ハ商法ヲ以テ之ヲ規定ス
(栗塚)
契約ハ合意トシ生贈ハ贈與トスベシ
可決ス
(栗塚)
協諧契約ト云フ字ハ妥當ナリトセザルモ商法ニ於テ既ニ議定ニ屬シタル文字ナルニ依リ此儘ニ措ケリ
(松岡)
第三節合意上ノ免除トアルハ第四百七十一條ノ題目ニハ免除トアルニアラズヤ
(栗塚)
該條ノ題目ニ免除トアルハ今村氏ヨリ合意上ノ免除ト爲シ來レリ其報吿ヲ遺忘セリ依テ合意上ノ免除トスベシ
可決ス
(元尾崎)
本條第二項無償名義ノ免除ハ公式ノ特別規則ニ從フコトヲ要セズト云ヘルハ如何
(栗塚)
無償名義ハ公式ノ特別規則ニ依ラザルベカラザルモ無償名義ノ免除ノ場合ハ義務ノ免除ニ屬スルヲ以テ公式ノ特別規則ニ從フテ要セズトス
(元尾崎)
第一ノ場合ハ公式ノ特別規則ヲ要スルカ
(栗塚)
否デス但此第二ノ場合ニ於テハト云ヘルヲ然レドモトスベシ
可決ス
第五百二十七條 債務ノ免除ハ明示又ハ默示ヨリ成リ推定ヨリ成ラス但法律ニ特定シタル場合ハ此限ニ在ラス
無異議
第五百二十八條 主タル債務者ノ債務ノ免除ハ保證人ヲシテ其義務ヲ免カレシム
連帶債務者ノ一人ノ債務ノ免除ハ他ノ債務者ヲシテ其債務ヲ免カレシム但債權者カ他ノ債務者ニ對シ其權利ヲ留保シタル場合ハ此限ニ在ラス此場合ニ於テモ免除ヲ受ケタル債務者ノ部分ヲ扣除スルコトヲ要ス
不可分債務者ノ一人ノ債務ノ免除ニ付テモ亦同シ然レトモ性質ニ因ル不可分債務ノ債權者カ他ノ債務者ニ對シ其權利ヲ留保シタルトキハ債權者ハ免除ヲ受ケタル債務者ノ部分ヲ扣除シ殘餘ノ部分ニ付キ其權利ヲ行フ
(栗塚)
本條第一項ハ主タル債務者ニ爲シタル債務ノ免除ハ其保證人ヲ免ズトシ第二項ハ連帶債務者ノ一人ニ爲シタル債務ノ免除ハ他ノ債務者ヲ免ズトシ第三項ハ一人ノ債務ハ一人ニ爲シタル債務トシタシ
(松岡)
「ニ爲シタル」ノ修正ハ可ナルモ其他ハ此儘ニシタシ
(渡)
然リ其議ニ決ス
第五百二十九條 保證人ノ一人ノ債務ノ免除ハ主タル債務者及ヒ他ノ保證人ヲシテ其債務ヲ免カレシム
(栗塚)
保證人ノ一人ノ債務ノ免除ハ主タル債務者云々トアルヲ保證人ノ一人ニ爲シタル主タル債務ノ免除ハ債務者云々トスベシ
(元尾崎)
保證人ノ一人ニ爲シタル債務ノ免除ハ債務者及ビ他ノ保證人ヲシテ其債務ヲ免ガレシムベキニアラズ
(栗塚)
其保證ヲ免除スルニアラズ主タル債務ヲ免除スルヲ云フ
(淸岡)
保證人ノ一人ニ主タル債務ヲ免除シタルニ於テハ他ノ義務者ヲモ免レシムト云フハ記載セザルモ當然ナリ
(栗塚)
無償名義ノ場合ハ然ルベキモ有償名義ニシテ保證人ノ一人幾千金額ヲ還付シタルトキモ同然ナルベキヲ顯ハスベシ
(元尾崎)
本條ハ刪除シタシ
結局報吿委員ノ修正ニ可決ス
第五百三十條 債務ノ免除ヲ受ケタル債務者及ヒ保證人ハ債權者ヨリ共通ノ免除ヲ得ル爲メ實際供與シタル數額ニ付テノミ他ノ共同債務者及ヒ共同保證人ニ對シテ求償權ヲ有ス
無異議
第五百三十一條 連帶債務者ノ一人ニ對シ單ニ其連帶ヲ免除シタルトキハ其一人ヲシテ他ノ債務者ノ部分ヲ免カレシメ且他ノ債務者ヲシテ其一人ノ部分ヲ免カレシム
又契約上ノ不可分債務者ノ一人ニ對シ單ニ其不可分ヲ免除シタルトキモ亦同シ性質ニ因ル不可分債務ニ付テハ債權者ハ債務者ノ各自ニ對シ全部ノ要求ヲ爲スノ權利ヲ失ハス然レトモ免除ヲ受ケタル債務者ノ負擔ス可キ債額ヲ扣除スルコトヲ要ス
(栗塚)
本條第二項然レドモ以下ハ起案者ヨリ改正シ來レリ「然レトモ」ヲ刪リ免除ヲ受ケタル債務者ニ對シテモ亦全部ヲ要求スルコトヲ得但他ノ債務者ノ負擔ス可キ債額ヲ扣除スルコトヲ要スト爲セリ報吿委員ニテ第一項ハ共同債務者ノ一人ニ對シ單ニ連帶又ハ合意上ノ不可分ノ免除アリタルトキハ其一人ヲシテ他ノ債務者ノ部分ヲ免ガレシメ且他ノ債務者ヲシテ其一人ノ部分ヲ免レシムトシ第二項ハ「又合意上ノ不可分ヲ免除シタルトキモ亦同シ」トアルヲ刪リ性質ニ因ル不可分債務ノ免除ニ付テハ云々トセリ
(松岡)
性質ニ因ル不可分ノミノ免除ニ付テハトスベシ
(栗塚)
可ナリ
(村田)
起案者ノ改正ハ不可ナリ
(元尾崎)
紫色ノ原案モ亦起案者ノ改案モ同一結果ヲ得ベシ
(松岡)
不可分ノミノ免除ヲ受ケタルモノニ又全部ヲ要求スルコトヲ得ト云フヲ得ザルナリ
(栗塚)
不可分ノミノ免除ヲ得タルモ自己ノ分頭部分ニ付テハ其責ナキニアラズ
(委員長)
第二項ハ尙ホ報吿委員ニテ調査ヲ盡スベシ
(栗塚)
然カスベシ
第五百三十二條 債權者ハ左ノ場合ニ於テハ債務者ノ一人ニ對シ單ニ連帶又ハ契約上ノ不可分ヲ免除シタリトノ推定ヲ受ク
第一 債權者カ擔保ノ權利ヲ留保セスシテ債務者ノ一人ヨリ其債務ノ部分ナリト明言シタル金額又ハ有價物ヲ受取リタルトキ
第二 債權者カ擔保ノ權利ヲ留保セスシテ債務者ノ一人ニ對シ其債務ノ部分ナリト稱シテ裁判上ノ請求ヲ爲シタルニ其一人請求ニ承服シ又ハ辨濟ヲ爲ス可キ旨ノ言渡ヲ受ケタルトキ
第三 債權者カ異議ヲ留メスシテ債務者ノ一人ヨリ十个年間引續キ其負擔ス可キ利息又ハ年金ノ部分ヲ受ケタルトキ
(栗塚)
本條第三ハ報吿委員ニテ債權者カ異議ヲ留メズシテ十个年間引續キ債務者ノ一人ヨリ其負擔ス可キ利息又ハ年金ノ部分ヲ受取リタルトキトシタシ
可決ス
第五百三十三條 保證人ノ一人ノ保證ノミヲ免除シタルトキハ主タル債務者ハ其債務ヲ免カレス他ノ保證人ハ保證ノ免除ヲ受ケタル一人ノ部分ニ付キ其義務ヲ免カル然レトモ保證人ノ間ニ連帶ヲ爲セル場合ニ於テ債權者カ第五百二十八條第二項ニ準依シ他ノ保證人ニ對シテ自己ノ權利ヲ留保セサルトキハ他ノ保證人ヲシテ其義務ヲ免カレシム
(栗塚)
本條ハ保證人ノ一人ノ保證ノミヲ云々トアルヲ保證人ノ一人ニ保證ノミヲ云々トスベシ
可決ス
<削除建議>
第五百三十四條 債權者ノ動產質又ハ抵當ノ抛棄ハ其債權ヲ減セス然レトモ連帶債務者又ハ保證人ハ其抛棄ニ因リ此等ノ擔保ニ於ケル代位ヲ妨ケラレタルカ爲メ第千四十五條及ヒ第千七十三條ニ依リ債權者ニ對シテ自己ノ義務免除ヲ請求スルコトヲ得
(栗塚)
本條ハ第千四十五條及ビ第千七十三條ニ記載アルト重複セルトヲ以テ刪除建議アルモ本條ハ尋常ノ送リ條ト同ジカラザレバ存在セシムベシ
(元尾崎)
然ルベシ
第五百三十五條 共同債務者ノ一人カ連帶若クハ不可分ノミノ免除ヲ得ル爲メ又ハ保證人ノ一人カ保證ノ免除ヲ得ル爲メ債權者ニ出損ヲ爲シタルモ其債務ヲ減セス且他ノ共同債務者又ハ共同保證人ニ對シテ求償權ヲ有セス
(元尾崎)
本條ハ如何ナル意義ナリヤ
(栗塚)
連帶若クハ不可分ノミノ免除ヲ得ントシテ賄賂ヲ送ルモ金圓ヲ呈スルモ其責ヲ免ガルルヲ得ズト云フ義ナリ
(淸岡)
本條ハ佛蘭西民法千二百八十八條ノ旨意ニ倣ヒタシ
(松岡)
此ハ債務者ハ債權者ニ對シ連帶ヲ解除シ分帶ニ爲サシメンコトヲ請求スルニ付キ出捐スルモ其出損ハ負債元額ノ分當部分ヲ差引スルヲ得スト云フノ義ナリ
第五百三十六條 〔議場削除〕
(栗塚)
本條ハ曩ニ刪除ニ決シタルモ其刪除說ハ訴訟ヲ繁生セシムルニ過ギズト云フニアリ特定物ヲ引渡シ又ハ返還ノ義務ヲ免除スルモ所有者ハ回收ノ權利ヲ失ハズトスレバ弊害ナカルベシ凡ソ賣買ニハ人權物權ヲ併セテ移轉スルモノナレバ買者ハ引渡權ヲ釋放シタレバトテ物權ヲ回收スルノ權ヲ消滅スルモノニアラズ要スルニ人權ハ抛棄スルモ物權ハ存在スベシト云フヲ顯ハスヲ可トスト云フニアリ故ニ前回ニ於テ本條ヲ刪除シタルモ右ノ如ク修正シテ之ヲ存在セシメリ
(松岡)
一旦刪除シタルモノヲ更ラニ存置スルノ必要ナシ
(淸岡)
道理上明瞭ナリト雖モ世人ノ誤惑ヲ生ズルノ恐レアリ
(栗塚)
横濱市場ニ於テハ生糸類ノ賣買契約ヲ爲スモ卽時其品類ヲ引取ルコトヲ得ザルニ付キ倉敷料ヲ支拂ヒ之ヲ預置シ引渡ヲ免除スル如キ例少シトセズ
(北畠)
賣買ニハ荷送契約ト庭放シ契約ト云フモノアルモ義務免除ト云フモノナシ
(松岡)
報吿委員ノ呈議ハ採用スルニ足ラズ其議ニ決ス
第五百三十七條 連帶債權者ノ一人ノ爲シタル債務又ハ連帶ノミノ免除ハ其一人ノ部分ニ付テノミ他ノ債權者ニ對シ之ヲ以テ對抗スルコトヲ得
債務カ性質ニ因ル不可分ナルトキハ債權者ノ一人ノ爲シタル免除ハ他ノ債權者ヲ害スルコトヲ得ス他ノ債權者ハ第四百六十六條及ヒ第五百二十八條ノ規定ニ從ヒ全債權ヲ行フ
(栗塚)
本條第一項ハ連帶ノミノ免除ハトアルヲ連帶ノトシ其一人ノ上ニ單ニト云フニ字ヲ加ヘ部分ニ付テノミトアルヲ部分ニ付トシ他ノ債權者ニ對シトアル「對シ」ノ二字ヲ刪リタシ
可決ス
第五百三十八條 債權者カ債務者ノ義務ヲ記載シタル本證書ヲ任意ニテ債務者ニ交付シタルトキハ其證書ニ免除ノ旨ヲ附記セスト雖モ債權者ハ債務ノ免除ヲ爲シタリトノ推定ヲ受ク但債權者ノ反對ノ意思ヲ證明スル權利ヲ妨ケス
公正證書又ハ判決書ノ正本ノ任意ノ交付ハ其書類ニ執行式ヲ具備スルモ債務ノ免除ヲ推定セシムルニ足ラス但裁判所ハ事情ニ因リ其免除ヲ認定スルコトヲ妨ケス
債務者カ右ノ書類ヲ所持スルトキハ反對ノ證據アルマテハ債權者ヨリ任意ノ交付アリタリトノ推定ヲ受ク
(栗塚)
本條ハ證明スルトアルヲ證スルトシ認定トアルヲ考定トスベシ
(松岡)
認定ハ可ナルニアラズヤ
(栗塚)
認定ト云フ字ハ此等ノ場合ニ使用セズ
(松岡)
此場合ハ認定トシ他ノ場合ニテ別字ヲ使用シタシ
(栗塚)
然カスベシ
(松岡)
訴訟法ニテハ執行吏ハ受取ルベキ物類ヲ受取ルトキハ判決書ヲ債務者ニ交付スベシトナルニ本條ニテハ債務ノ免除ヲ推定セシムルニ足ラズトアルハ如何
(南部)
訴訟法ハ判決書ニアラズシテ執行ノ命令書ナリ
(栗塚)
執行命令書ト判決書トハ同ジカラズ又第五百八十一條ニ認定ノ字アリ
(南部)
該條ノ認定ハ承認トスベキカ否ト云フ論趣ハ如何
(松岡)
該條ハ承認トシタシ
(松岡)
公正證書又ハ判決書ノ任意ノ交付ハ債務ノ免除ヲ推定セシムルニ足ラズト云フヲ正則トシ但事情ニ因リ其免除ヲ認定スルコトヲ妨ゲズト云ヒシハ之ヲ反對ニ但公正證書又ハ判決書ノ任意ノ交付アルモ債務ノ免除ヲ妨ゲズト云フ樣ニシテハ如何
(南部)
此ノ如ク指定シタルモ不都合ナシ
(松岡)
判決書執行命令書ノ如キ訴訟法ニ關係アル文字ハ共ニ照査セラレタシ
第五百三十九條 債權者カ證書ノ全文又ハ債務者ノ署名若クハ其他ノ緊要ナル部分ヲ有意ニテ毀滅シ扯破シ又ハ抹銷シタルトキハ前條ノ區別ニ從ヒテ任意ノ交付ニ準シ債務ノ免除アリタリト推定ス
右毀滅扯破又ハ抹銷ハ之ヲ爲シタル當時其證書カ債權者ノ占有ニ係リシトキハ反對ノ證據アルマテ債權者ノ所爲又ハ其承諾ニ出テタリトノ推定ヲ受ク
無異議
第五百四十條 債務ノ免除ハ明示ト默示ト直接ノ證明ト法律上ノ推定トヲ問ハス反對ノ證據アルマテ有償名義ニテ之ヲ爲シタリトノ推定ヲ受ク
然レトモ互ニ授受スルノ能力ナキ者ノ間ニ於ケル免除ハ有償名義ニテ之ヲ爲シタリトノ直接ノ證據ヲ擧クルコトヲ要ス
(栗塚)
本條ハ第一項ヲ債務ノ免除ハ明示ナルト默示ナルト又直接ニ證スルト法律上推定スルトヲ問ハズ反對ノ證據アルマデ有償名義ニテ之ヲ爲シタリトノ推定ヲ受クトスベシ
可決ス
第四節 相殺
第五百四十一條 二人互ニ債權者タリ債務者タルトキハ下ノ條件及ヒ區別ニ從ヒ法律上、任意上又ハ裁判上ノ相殺カ成立ス
相殺ハ二箇ノ債務ヲシテ其最寡少ナル債務ノ數額ニ滿ツルマテ消滅セシム
(松岡)
其最寡少ナルトアルヲ其寡少ナルトシタシ
可決ス
第五百四十二條 二箇ノ債務カ主タルモノ明確ナルモノ互ニ代替スルヲ得ヘキモノ及ヒ要求スルヲ得ヘキモノニシテ且法律ノ規定又ハ當事者ノ明示若クハ默示ノ意思ヲ以テ其相殺ヲ禁セサルトキハ當事者ノ不知ノ間ニテモ法律上ノ相殺ハ當然行ハル
(栗塚)
本條「明確ナルモノ」ヲ代替スルヲ得ベキモノトシタシ下條記載ノ順序斯ノ如クナレバナリ又不知ノ間ニトアルヲ不知ニトスベシ
可決ス
第五百四十三條 主タル債務者ハ自己ノ債務ト債權者カ保證人ニ對シテ負擔スル債務トノ相殺ヲ以テ債權者ニ對抗スルコトヲ得ス然レトモ訴追ヲ受ケタル保證人ハ債權者カ主タル債務者又ハ自己ニ對シテ負擔スル債務ノ相殺ヲ以テ對抗スルコトヲ得
連帶債務者ハ債權者カ其連帶債務者ノ他ノ一人ニ對シ負擔スル債務ニ關シテハ其一人ノ債務ノ部分ニ付テノミ相殺ヲ以テ對抗スルコトヲ得然レトモ自己ノ權ニ基キ相殺ヲ以テ對抗ス可キトキハ全部ニ付キ之ヲ申立ツルコトヲ得
數人ノ連帶債權者アルトキ債務者ハ債權者ノ一人カ自己ニ對シテ負擔スル債務ニ付テハ第千七十八條ニ依リ債權者ニ辨濟ノ領受ヲ強要スルコトヲ得ヘキ場合ニ在リテハ總債務ノ相殺ヲ以テ常ニ訴追者ニ對抗スルコトヲ得
債務カ債務者ノ間又ハ債權者ノ間ニ於テ意思ニ因ル不可分ナルトキハ相殺ハ受方又ハ働方ノ連帶ニ於ケルト同一ノ方法ニ從フ又性質ニ因ル不可分ノ債務ナルトキハ第四百六十六條ノ規定ニ從フ
(栗塚)
本條第三項ハ負擔スルノ下債務ノ相殺ヲ以テ訴追者ニ對抗スルコトヲ得但第千七十八條ニ依リ債權者ニ辨濟ノ領受ヲ強要スルコトヲ得ベキ場合ニ限ルトシ第二項ハ部分ニ付テノミトアルヲ部分ニ付テニ非ザレバトシタシ
可決ス
第五百四十四條 當事者ノ一方カ他ノ一方ニ對シ地方市場ノ相場書アル日用品ノ定期ノ供與ヲ負擔シタルトキハ其供與ハ他ノ一方ノ負擔スル金錢ト相殺スルコトヲ得
(栗塚)
本條相場書アルト云フ「書」ヲ刪ルベシ
可決ス
第五百四十五條 債務ノ成立其目的ノ性質及ヒ分量カ確實ナルトキハ其債務ハ善意ニテ爭ハルル時ト雖モ之ヲ明確ナリトス
無異議
第五百四十六條 裁判所ノ許與シタル恩惠上ノ期間ハ相殺ノ妨ヲ爲サス債務者ノ請求ニ因リ無償ニテ債權者ノ許與シタル期間ニ付テモ亦同シ
二箇ノ債務ノ一カ解除條件ニ從フトキト雖モ相殺ハ行ハル但條件ノ成就シタルトキハ相殺ヲ解除ス
(栗塚)
本條第二項解除條件ニ從フトキト雖ドモトアルハ前例ニ從ヒ解除條件付ナルトキト雖ドモトセリ
第五百四十七條 二箇ノ債務カ同一ノ場所ニ於テ又ハ同一ノ貨幣ヲ以テ辨濟ス可キモノニ非サルトキト雖モ尙ホ相殺ハ行ハル但第一ノ場合ニ於テハ運送費又ハ爲替料ヲ計算シ第二ノ場合ニ於テハ兩替賃ヲ計算スルコトヲ要ス
無異議
第五百四十八條 左ノ場合ニ於テハ法律上ノ相殺ハ行ハレス
第一 債務ノ一カ不正ニ他人ノ財產ヲ押取シタルコトヲ以テ原因ト爲セルトキ
<留保>
第二 變例ト稱スル寄託物ノ返還ニ關スルトキ
第三 債權ノ一カ不可押ナル有價物ヲ目的トスルトキ
第四 當事者ノ一方カ豫メ相殺ノ利益ヲ抛棄シタルトキ又ハ債權者ト爲ルニ當リ期望シタル目的カ相殺ノ爲メ逹スルコトヲ得サルトキ
(栗塚)
本條第一ハ債務ノ一カ他人ノ財產ノ横領ヲ原因ト爲セルトキトセリ
(元尾崎)
不正ニト云フ字ハ刪ルベキヤ
(栗塚)
横領ト云ヘバ不正ヲ包含スベシ詐欺盜取等ヲ指スモノナレバナリ
(淸岡)
横領ト云フ熟字ナシ
(松岡)
横領トセズ不正ニトスベシ
(三島)
債務ノ一カ不正ノ押取ヲ原因ト爲ストキトシテハ如何
(委員長)
不正ノ押取ト云フニテ可ナルヤ
(栗塚)
不正ノ得取トシテハ如何
(淸岡)
押取ト云フヲ可トス
(元尾崎)
原案ノ儘ニシタシ
結局債務ノ一カ不正ニ他人ノ財產ヲ押取シタルヲ原因ト爲ストキトスルニ決ス
(栗塚)
第二ハ變例ト稱スルトアルヲ使用ヲ許セルトシ第三ノ不可押ナルトアルヲ差押フルコトヲ得ザルトシタシ
可決ス
(委員長)
第一ノ場合ハ尙ホ報吿委員ニテ調査スベシ
第五百四十九條 債權ノ讓受人カ其讓受ヲ債務者ニ吿知シタルノミニテハ債務者ハ讓渡人ニ對シテ從來有セル法律上ノ相殺ヲ以テ讓受人ニ對抗スルノ權利ヲ失ハス
債務者カ讓渡人ニ對シ既ニ得タル法律上ノ相殺ノ權利ヲ留保セス讓渡ヲ承諾シタルトキハ債務者ハ讓受人ニ對シ其權利ヲ申立ツルコトヲ得ス
右二箇ノ場合ニ於テ債務者カ相殺ヲ申立ツルコトヲ得サリシ金額又ハ有價物ヲ讓渡人ヲシテ自己ニ償還セシムルノ權利ヲ妨ケス
(栗塚)
本條ハ第三百六十七條第二項ト重複スルニ依リ刪除スベシト云フ建議アルモ別ニ重複シタルニアラザレバ存在セシメタシ
(元尾崎)
刪除スルニ及バズ可決ス
第五百五十條 拂方差止ヲ受ケタル債務者ハ差止人ノ債務者卽チ自己ノ債權者ニ對シテ差止後ニ取得シタル債權ノ相殺ヲ以テ差止人ニ對抗スルコトヲ得ス
又相殺ノ從來ノ原因ニ付テモ拂方差止ヲ受ケタル債務者ハ民事訴訟法ニ揭ケタル方式及ヒ期間ニ從ヒテ其原因ヲ述ヘタルニ非サレハ之ヲ以テ差止人ニ對抗スルコトヲ得ス
右孰レノ場合ニ於テモ拂方差止ヲ受ケタル債務者ハ差止ノ金額又ハ有價物ニ付キ自己ノ債權ノ辨濟ヲ得ル爲メ差止人ト共ニ入班スルノ權利ヲ有ス
(栗塚)
本條ハ拂方トアルヲ拂渡トシ差止トアルヲ差留トシ入班ヲ配當ニ加入ト修正スベシ
(渡)
差止ヲ差留トスルハ穩當トセズ
(南部)
訴訟法ニテハ登記法ニ差留トアルニ因リテ差留トシタレバ差止ハ不可ナリ
(栗塚)
佛蘭西流義ヲ以テ云ヘバ差止トスベキヲ妥當トス
(松岡)
差留ト云フモ差支ナシ
第五百五十一條 相殺ニ因リテ既ニ消滅シタル債務ヲ辨濟シタル債務者ハ其錯誤ニ出テタルトキト雖モ不當利得ノ取戻訴權ノミヲ行フコトヲ得但次條ニ記載スル場合ハ此限ニ在ラス
(栗塚)
債務ヲ辨濟シタル債務者トアルヲ債務ヲ辨濟シタル者本條ハ第三百六十七條第二項ト重複ス之ヲ削除ス可シトスベシ既ニ消滅シタル債務ヲ辨濟シタル場合ハ債務者ト云フヲ得ザレバナリ
可決ス
第五百五十二條 前三條ニ揭ケタル場合ニ於テ相殺ニ因リ既ニ消滅シタル債務ヲ讓受人若クハ差止人ノ利益ノ爲メ認定シ又ハ自己ノ債權者ニ辨濟シタル者ハ自己ノ舊債權ヲ擔保シタル保證、先取特權若クハ抵當ヲ申立ツルコトヲ得ス但既ニ行ハレタル相殺ヲ知ラサル正當ノ原因アリシコトヲ證明スルトキハ此限ニ在ラス此場合ニ於テ原債權ハ其資格ヲ以テ抵保ト共ニ復舊ス
(栗塚)
本條ハ認定ヲ追認トシ差止人ヲ差留人トシ證明ヲ證トシ抵保ヲ擔保トスベシ
可決ス
既ニ行ハレタルヲ既ニ得タルトシタシ
(松岡)
既ニ得タルト云フヲ可トス
(栗塚)
申立ヲ援用トシタシ
(淸岡)
援用トスルハ不可ナリ
(栗塚)
先取特權ヲ申立ツルト云フヲ得ザルニ依リ援用トシタシ
可決ス
第五百五十三條 任意上ノ相殺ハ法律カ法律上ノ相殺ヲ許ササル爲メ利益ヲ受クル一方ノ當事者ヨリ之ヲ以テ對抗スルコトヲ得
利害ノ關係アル各人ノ承諾ヨリ成ル相殺ハ之ヲ契約上ノモノトス
任意上ノ相殺ハ既往ニ遡ルノ効ヲ有セス
(委員長)
本條ノ契約上トアルヲモ合意上トスベキヤ
(栗塚)
然リ
(松岡)
契約上ヲ悉ク合意上トセシハ不可ナリ
(栗塚)
日本ニテハ合意ト契約トハ差異ナキモノトシ物權ニ就テモ合意又ハ契約ト云ヒ得ルモノトセザルヲ得ズ又承諾ヨリ成ルトアルハ歐字ニテハ承諾アルトキハトアリ
(松岡)
任意上ノ相殺ト合意上ノモノトノ二種アルカ如シ
(栗塚)
利害ノ關係ト云フ前ニ總テノ場合ニ於テト云フ字ヲ附シ前項ト合併シ承諾アルヨリ成ルトアルハ承諾アルトキトスルニ決ス
第五百五十四條 裁判上ノ相殺ハ被吿カ原吿ニ對シ自己ノ利益ノ爲メ債權ヲ認定セシメ又ハ淸算セシムルヲ主旨トスル反訴ノ方法ニ依リテ之ヲ得
裁判所ハ場合ニ從ヒ或ハ主タル訴ヲ裁判シ或ハ相殺ヲ行ヒ二箇ノ訴ヲ併セテ裁判スルコトヲ得
裁判上ノ相殺ハ之ヲ以テ對抗シタル日ニ遡リテ効ヲ有ス
(栗塚)
本條第一項ハ認定トアルヲ追認トシ第二項ハ此場合ニ於テト云ヘルヲ冒頭ニ加ヘ裁判所ハノ下「場合ニ從ヒ」ヲ刪リ又「相殺ヲ行ヒ」ヲモ刪リタシ
可決ス
(村田)
二箇ノ訴ヲ併セテト云ヒ得ルヤ
(栗塚)
主訴ト件訴トヲ指スモノナレバ差支ナシ
第五百五十五條 當事者ノ一方カ他ノ一方ニ對シ法律上又ハ裁判上ノ相殺ニ服ス可キ數箇ノ債務ヲ有スルトキハ其債務ヲ相殺スルノ順序ハ第四百九十三條ニ揭ケタル辨濟ノ法律上ノ充當ノ規定ニ從フ
任意上又ハ契約上ノ相殺ノ充當ハ第四百九十一條及ヒ第四百九十二條ノ規定又ハ當事者ノ協議ニ從フ
(栗塚)
本條第一項相殺ニ服ス可キトアルハ相殺ニ服セルトシタシ
(淸岡)
服ス可キトスベシ
(南部)
法律上ノ相殺ナルヲ以テ服ス可キト云フニアラズ服セルノ意ナリ
(村田)
服スルトスベシ
可決ス
第五節 混同
第五百五十六條 一箇ノ義務ノ債權者タリ及ヒ債務者タルノ分限カ相續其他ノ名義ニテ一人ニ併合シタルトキハ義務ハ混同ニ因リテ消滅ス
右ノ混同カ從來ノ適法ノ原因ニ由リ解除、銷除又ハ廢罷ヲ受ケタルトキハ義務ハ之ヲ消滅セサリシモノト看做ス
(渡)
適法ノ文字ハ妥當ナリヤ
(南部)
最初ヨリ適法ノ文字アリ
(淸岡)
義務ハ之ヲ消滅セザリシトアル「之ヲ」ヲ刪除シテハ如何
(三島)
義務ハト云ヘバ之ヲト承クルヲ文法トス
(南部)
第五百五十三條相殺ハ之ヲトアル「之ヲ」刪レハ本條ノ「之ヲ」モ刪リテ可ナリ
第五百五十七條 債權者カ連帶債務者ノ一人ニ相續シ又ハ連帶債務者ノ一人カ債權者ニ相續シタルトキハ連帶債務ハ其一人ノ部分ニ付テノミ消滅ス
混同カ連帶債權者ノ一人ト債務者トノ間ニ行ハレタルトキモ亦其混同ハ債務ノ一分ニ付テノミ成ル
(委員長)
本條第二項ハ債務者トアルモ單稱ナルカ複稱ナルカ明了ナラズ
(南部)
債務者一個ノ場合ヲ云ヒシナラン
(委員長)
一個ノ債務ハ債務ノ一分ト云フヲ得ザルベシ
(栗塚)
連帶ハ一個ノ債務ト看ルベシ
第五百五十八條 義務カ性質ニ因ル不可分ナルトキハ債權者ノ一人ト債務者ノ一人トノ間ノ混同ハ他ノ者ニ關シ其義務ヲ全存セシム然レトモ其混同ヲ得タル者ハ第四百六十六條ニ從ヒ一分ノ替償ヲ供シ又ハ受クルニアラサレハ全部ニ付キ訴追シ又ハ訴追セラルルコトヲ得ス
(栗塚)
替償ハ償金トナリ受取ルトナルベシ
(南部)
訴追シ又ハ訴追セラルルコトヲ得ズトアル訴追セラルルコトヲ得ズト云フハ不可ナリト云フニテ修正シタルニ付キ訴追スルコトヲ得ズ又ハ訴追セラルルコト無シトスベシ
可決ス
第五百五十九條 一人カ二人ノ連帶債權者又ハ二人ノ連帶債務者ノ分限ヲ併合シタルトキハ權利又ハ義務ノ消滅ナシ其身ニ就キ併合ノ成リタル者ハ債權者ノ利益ニ從ヒ或ハ自己ノ名ヲ以テ或ハ己レカ相續シタル者ノ名及ヒ權利ヲ以テ全部ニ付キ訴追シ又ハ訴追セラルルコトヲ得
働方又ハ受方ニテ不可分ナル義務ニ付テモ亦同シ
(栗塚)
本條ハ冒頭一人カト云フ字ヲ刪リ分限ヲ併合シタルトキハトアルヲ分限カ一人ニ併合シタルトキハトシ自己ノ名ヲ以テトアルヲ自己ノ名トシ相續シタル者ノ名及ビ權利ヲ以テトアルヲ相續シタル者ノ名ニテトスベシ
可決ス
(南部)
訴追シ又ハ訴追セラルルコトヲ得ト云フハ前修正ニ倣ハザルベカラズ
(栗塚)
訴追シト云フニテ可ナルニアラズヤ
(栗塚)
債權者ノ利益ニ從ヒト云フヲ刪リ訴追シハ訴追スルコトヲ得トシ又ハ訴追セラルルコトヲ得トアルハ訴追セラルルコトアリトスベシ
(淸岡)
債權者ノ利益ニ從ヒト云フヲ刪ルハ如何
(栗塚)
債務者ノ訴追セラルルコトアリト云フ裏面ヲ示サザルニ付キ表面ノ債權者ノ利益ニ從ヒトアルヲ刪ルベシ
可決ス
第五百六十條 保證人カ債權者ニ相續シ又ハ債權者カ保證人ニ相續シタルトキハ保證ハ其附隨ノ權利ト共ニ消滅ス
債務者カ保證人ニ相續シ又ハ保證人カ債務者ニ相續シタルトキハ債權者ハ主タル債務者共同保證人若クハ保證人ノ擔保人ニ對シ及ヒ保證ニ附着シタル動產質若クハ抵當ニ付キ其權利ニ變更ヲ受クルコト無シ
(栗塚)
本條第一項附隨ノ權利トアルハ附從ノトスベシ
可決ス
第六節 履行ノ不能
第五百六十一條 義務カ特定物ノ引渡ヲ目的トシタル場合ニ於テ其目的物カ債務者ノ過失ナリ且遲滯ニ在ル前ニ滅失シ紛失シ又ハ不融通物ト爲リタルトキハ其義務ハ履行ノ不能ニ因リテ消滅ス若シ義務カ數箇ノ特定物中ノ若干ヲ目的トシタル場合ニ於テ其一箇ノ引渡モ不能ト爲リタルトキハ亦同シ
作爲又ハ不作爲ノ義務ハ其履行カ右ト同シ條件ヲ以テ不能ト爲リタルトキハ消滅ス
(栗塚)
本條其義務ハ履行ノ不能ニ因リテ消滅ストアルヲ其義務ハ消滅ストシタシ
(淸岡)
履行ノ不能ニ因リト云フハ存在セシムベシ消滅スト云フハ消滅ノ原由ヲ示シタルモノナレバナリ
(南部)
滅失シ又ハ不融通物トナリタルトキハ固ヨリ義務ノ消滅スルモノタレバナリ
(村田)
消滅ト云ヘバ履行ノ不能ニ因リト云フヲ包含ス
(松岡)
不融通物ト爲リテ履行シ能ハザルトキハ消滅ストスベシ
(渡)
原案ヲ可トス
(元尾崎)
然リ
(栗塚)
特定物中ノトアルハ定マリタル物ノ中ノトスベシ此點全ク誤寫ナリ
(元尾崎)
其一箇ノ引渡モト云フハ全部ノ引渡ヲトシテハ如何
(栗塚)
之ヲ平言スレバ何レヲモト云フニアリ
(委員長)
原案ノ儘ニテ不可ナシ
第五百六十二條 債務者カ意外ノ事又ハ不可抗ノ力ニ因ル損失ヲ擔任シ若クハ第三百五十六條及ヒ第四百四條ニ從ヒテ遲滯ニ在ルトキハ其債務者ハ前條ノ原因アルモ其義務ハ消滅セス
犯罪ニ因リ他人ニ屬スル金錢其他ノ有價物ヲ返還スルノ責ニ任スル者モ亦之ニ準ス
(栗塚)
損失ヲ擔任シト云フハ危害ヲ擔任シトスベシ
(松岡)
危害トセズ危險トスベシ
(委員長)
危險及ビ災害ト云フ意味ニアラズヤ
(栗塚)
危險及ビ災害ノ意味ヲ兼ネ危害トシタリ
(村田)
危險及ビ災害トスベシ
可決ス
(栗塚)
前條ノ原因アルモ其義務ハ消滅セズトアルヲ前條ノ原因ニ由リ其義務ヲ免レズトスベシ
(淸岡)
前條ノ原因ニ由ルモ其義務ヲ免レズトスベシ
可決ス
(槇村)
同第二項ハ刪除セルカ
(栗塚)
第四百四條第二項ニ加ヘタレバナリ
(委員長)
可ナリ
第五百六十三條 債務者ハ自己ノ申立ツル意外ノ事又ハ不可抗ノ力ヲ證明スルノ責ニ任ス
債務者カ第三百五十五條第二項ニ依リ其義務ヲ免カル爲メ其物カ債權者ノ方ニ在リト雖モ亦滅失ス可キコトヲ申立ツルトキハ其證據ヲ擧クルコトヲ要ス
(淸岡)
債權者ノ方ニ在リト雖ドモト云フハ當レルヤ
(三島)
妥當ナリ
(渡)
本條ハ前回ニ起案者ヘ質問ノ筈トナレリ如何
(栗塚)
起案者ハ第三百五十五條第二項ヲ改正シ來レリ
(委員長)
第三百五十五條第二項ハ一讀會ノ際改正セザリシニアラズヤ
(栗塚)
改正ノ報吿ヲ怠レルニ依リ早速反譯シテ呈出スベシ末項ヲ本文ノ如ク修正シテ第四百四條第二項ニ加フルノ建議
第五百六十四條 債務者カ履行ノ不能ニ因リテ義務ヲ免カレタルトキハ其債務者ハ己レノ受ク可キ對價ニ付テハ其履行ノ爲メ既ニ出損シタル限度ニ於テノミ權利ヲ有ス
(栗塚)
受ク可キハ受取ルトスベシ
可決ス
第五百六十五條 物ノ全部又ハ一分ノ滅失ノ場合ニ於テ債務者カ其滅失ノ爲メ第三者ニ對シ或ル報復訴權ヲ有スルトキハ債權者ハ殘餘ノ物ヲ要求シ且右ノ訴權ヲ行フコトヲ得
(栗塚)
本條ハ起案者ヨリ「債務者カ」ノ四字ヲ刪リ來レリ報吿委員ニテ其滅失ノ爲メトアルヲ其滅失ヨリトシ報復訴權ヲ有スルトアルヲ報復訴權ノ生ズルトスベシ
(渡)
報復訴權ト云フハ元ト補償訴權トアリシニ之ヲ報復訴權トシタルハ如何
(三島)
今村氏ハ仇討ト云フ意味ナリト云ヘバナリ
(栗塚)
原狀ニ復スルト云フ意ニシテ名譽回復ト云フモ之ニ當ルベシ
(淸岡)
補償訴權トスベシ
(松岡)
補償ト云ヘバ商法ニ補償ノ文字アルヲ以テ其例ニ倣ヘリ又第三百三十三條報復ノ文字モ補償ト修正ス
第七節 銷除
第五百六十六條 能力ナキ人錯誤ニ因リテ承諾ヲ與ヘタル人又ハ他ノ一方ノ強暴若クハ詭譎ニ因リテ承諾ニ獲ラレタル人ノ約束シタル義務ハ五个年ノ間ハ或ハ其人又ハ其代人ノ請求ニ因リ或ハ履行ノ訴ニ對スル排斥ニ因リ裁判上之ヲ銷除スルコトヲ得
右ノ期間ハ缺損ニ付テノ銷除訴權ヲ行フ爲メ又ハ缺損ノ排斥ヲ申立ツル爲メ之ヲ成年者ニ許與ス但法律カ此訴權又ハ排斥ニ付キ特ニ其期間ヲ短縮シタル場合ハ此限ニ在ラス
(栗塚)
本條ハ第一項ヲ修正シ無能力者又ハ錯誤強暴若クハ詭譎ニ因リテ承諾ヲ與ヘタル人ノ約束シタル義務ハ五个年ノ間ハ或ハ其人又ハ其代人ノ請求ニ因リ或ハ履行ノ訴ニ對シ此等ノ者ヨリ申立タル無効ノ抗辯ニ因リ裁判上之ヲ銷除スルコトヲ得トシタリ
(委員長)
報吿委員ノ修正ハ不明ナリ
(栗塚)
錯誤強暴詭譎ニ因リテトシタルヲ更ラニ錯誤ニ因リ若クハ他ノ一方ノ強暴詭譎ニ因リトシテハ如何
(元尾崎)
他ノ一方ノ強暴ト云フハ不可ナリ
(南部)
第三者ノ強暴トシテ可ナリ
(松岡)
強暴ノ文字ハ更ラニ他ニ妥當ノ文字ヲ撰ムベシ
(三島)
然カスベシ
(淸岡)
無能力者又ハ錯誤ニ因リテ承諾ヲ與ヘタル人又ハ強暴詭譎ニ因リテ承諾ヲ獲ラレタル人云々トシタシ
可決ス
(三島)
強暴ノ字ハ暴威トシテハ如何ト云フニ箕作委員ハ暴力トスルモ暴威トスルモ差支ナカルベシト云フニアリ
(尾崎)
強暴ノ字ヲ可トス委員長強暴ト云フ字ニ天災ヲモ包含スルトセバ強暴ニテモ可ナルベシ
(元尾崎)
天災ハ強暴ニ包含スベシ強風暴雨ト云フ套語モアレバナリ
(松岡)
水害ノ難ヲ受ケタルモノヲ強暴ト云フコトナシ
第五百六十七條 右時効ノ期間ハ強暴ニ付テハ其強暴ノ止ムマテ錯誤ニ付テハ其錯誤ヲ覺知スルマテ詭譎ニ付テハ其詭譎ヲ發見スルマテ無能力ニ付テハ其能力ノ止ムマテ之ヲ停止ス
然レトモ瘋癲者又ハ喪神ニ因ル禁治產者ノ契約ニ付テハ此時効ハ其者カ能力ヲ復シタル後其承諾シタル契約ノ要旨ノ通知ヲ受ケ又ハ其契約ヲ了知シタル時ヨリ經過ヲ始ム
法律上治產ヲ禁セラレタル處刑ニ付テハ銷除ノ訴權及ヒ排斥ハ自他ノ爲メ其刑期滿了後ニ非サレハ時効ニ罹ラス
成年者ノ缺損ノ場合ニ於テハ時効ハ契約ノ時ヨリ經過ヲ始ム
此他免責時効ノ停止及ヒ中斷ノ通常ノ原因ニ關スル規定ハ此時効ニ之ヲ適用ス
(栗塚)
本條第一項禁治產者ノ契約トアルハ契約ハ合意トシ契約ノ要旨契約ヲ了知シタルノ契約ハ共ニ行爲トシ第三項契約ハ合意トスベシ
可決ス
(南部)
喪神ハ喪心トスベシ
(栗塚)
喪神ノ熟字アリ精神ヲ喪フノ意ナレバナリ
(松岡)
喪心ノ熟字ハ古昔ヨリ傳襲シ來レリ
第五百六十八條 銷除訴權ヲ有セル人カ前條ノ期間ノ滿了前ニ死亡シタルトキハ訴權ハ其相續人ニ移轉ス
右ノ場合ニ於テ期間カ死亡者ニ對シ未タ經過ヲ始メサリシトキハ相續人ノ訴權ハ其相續權ノ發開ノ時ヨリ時効ニ罹リ既ニ經過ヲ始メタルトキハ其殘期ヲ以テ時効ニ罹ル
無異議
第五百六十九條 未成年者又ハ禁治產者ノ財產ニ關シ後見人ノ爲シタル契約及ヒ行爲ハ無能力者ノ利益ノ爲メ法律ノ定メタル方式及ヒ條件ヲ遵守セサリシトキハ之ヲ銷除スルコトヲ得
未成年者ノ行爲ニ付テハ之ニ要スル方式ナキトキ浪費者ノ行爲ニ付テハ裁判上ノ輔佐人ノ輔佐ナキトキ及ヒ禁治產者ノ行爲ニ付テハ何等ノ場合ヲ問ハス又其行爲ヲ銷除スルコトヲ得
右規定ハ此他ノ原因ニ由リ有能力者ノ爲メニ許與セル銷除ノ訴權ヲ妨ケス
(栗塚)
前回ニハ輔佐人ノ輔佐ナキトキトアルヲ輔佐人ノ輔助ナキトキトシテハ如何ト云フヲ呈出シタルモ此儘ニ通過シタリ
第五百七十條 未成年者一人ニテ特別ナル方式又ハ條件ノ必要ナキ契約又ハ行爲ヲ承諾シタルトキハ銷除訴權ハ其未成年者ノ爲メ金錢ヲ以テ見積ルコトヲ得ヘキ缺損アルトキニ非サレハ之ヲ受理セス
法律カ保管人ノ輔佐ノミヲ要シタルトキ其輔佐ナクシテ既脫後見ノ未成年者ノ爲シタル右ト同一ナル性質ノ行爲ハ缺損ニ因ルニ非サレハ之ヲ攻撃スルコトヲ得ス
缺損ハ行爲ノ時ニ於テ之ヲ見積リ其偶然ノ事件ヨリ生スルモノハ之ヲ算入セス
(栗塚)
本條第一項「金錢ヲ以テ見積ルコトヲ得ヘキ」ヲ刪リタシ
(松岡)
然ルベシ
可決ス
(栗塚)
第二項性質ノ行爲ハト云ヘルハ性質ノ行爲モ亦トスベシ
可決ス
第五百七十一條 未成年者カ成年タリトノ陳述ノミニテハ其無能力又ハ缺損ニ因ル訴權ヲ妨ケス但其成年タルコトヲ信セシムル爲メ詐術ヲ用ヰタルトキハ此限ニ在ラス
此他ノ無能力者ノ虛僞ノ陳述ニ付テモ亦同シ
(栗塚)
本條ハ未成年者カトアルヲ未成年者ノ爲シタルトスベシ
(元尾崎)
未成年者カ成年ナリト陳述シタルノミニテハトスベシ
可決ス
(栗塚)
缺損ニ因ルトアルヲ缺損ヲ原因トシテ返還ヲ求ムルモノトスベシ
(元尾崎)
缺損ニ因ルトシテハ如何
(栗塚)
缺損ニ因ル錯除訴權トスベシ
可決ス
<此條第二項ヲ刪除シタルハ何ノ理由ナルヤ>
第五百七十二條 商業又ハ工業ヲ營ムノ許可ヲ得タル既脫後見ノ未成年者ハ其營業ニ關スル行爲ニ付テハ之ヲ成年者ト看做ス
(栗塚)
本條ハ前回ニテ商法第十二條ト牴觸スルト云フニテ刪除スベシト爲リタルモ商法ニハ差支ナキニヨリ存在セシメタリ
第五百七十三條 婦ノ行爲及ヒ義務ハ配偶者ノ相互ノ權利及ヒ本分ニ關シ本法ニ定メタル場合ニ非サレハ婦又ハ夫ノ請求ニ因リテ之ヲ銷除スルコトヲ得ス
無異議
第五百七十四條 承諾ノ瑕疵又ハ缺損ニ因リ行爲ノ銷除ヲ得タル成年者ハ其行爲ニ因リテ既ニ受取リタル總テノ物ヲ返還スルノ責ニ任ス
無能力者ハ銷除ヲ得タル行爲ニ因リテ仍ホ現ニ己レヲ利スル物ノミヲ返還スルノ責ニ任ス
右返還ヲ要求スル訴權ハ通常ノ時効ニ因ルニ非サレハ消滅セス
(委員長)
行爲ニ因リト云フハ行爲及ビ義務トスベキニアラズヤ
(栗塚)
行爲ニハ義務ヲモ包含セリ
(委員長)
前條ノ「及ヒ義務」ト云フハ如何
(村田)
前條ノ「及ヒ義務」トアルヲ刪リベシ
(南部)
前條ノ「及ヒ義務」ハ存在スベシ
(松岡)
本條ト義務ヲ記セザルヤ
(元尾崎)
義務ヲ記セザルモ可ナリ
(委員長)
行爲ト云フハ義務ヲ包含スト云ヘバ行爲ノミトスルカ又ハ行爲及ビ義務トスルカ何レカ一定シタシ
(栗塚)
前條ヲ婦ノ行爲ハトスベシ
可決ス
<此條ハ全ク無用ナリ>
第五百七十五條 不動產ノ讓渡カ無能力錯誤強暴又ハ缺損ノ瑕疵ニ因ル銷除ニ服スルトキハ第三百七十二條及ヒ第三百七十三條ノ區別及ヒ條件ニ從ヒ第三取得者ニ對シテ其銷除ヲ爲スコトヲ得
(栗塚)
本條ノ事項ハ第三百七十二條及ビ第三百七十三條ニ明記アリト雖ドモ右ハ登記ニ關スルヲ主トシタルモノニ付キ本條ト同一ナリト云フヲ得ズ
(松岡)
該條ハ手續ヲ示シ本條ハ權利ヲ示シタルモノナレバ存置スベシ
可決ス
第五百七十六條 缺損ニ因ル銷除ノ訴ノ被吿ハ事實ノ判決カ確定セサル間ハ正當ト認メラレタル缺損ノ全部ノ替償ト裁判費用トヲ原吿ニ提供シテ其訴ノ効力ヲ止ムルコトヲ得
(栗塚)
正當ト認メラレタルヲ證明セラレタルトスベシ
可決ス
第五百七十七條 利害ノ關係アル當事者カ時効ノ開進ニ關シ第五百六十七條ニ定メタル時期ノ後銷除ノ原因アル契約ヲ明示又ハ默示ニテ認諾シタルトキハ其銷除ノ訴權ヲ行フコトヲ得ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ銷除訴權ハ第五百六十六條乃至第五百六十八條ニ定メタル時効ニ因リ消滅ノ外第五百六十七條ニ從ヒ時効ノ開始スルノ後利害關係アル當事者カ銷除スルコトヲ得ベキ合意ヲ明示又ハ默示ニテ認諾シタルトキハ之ヲ行フコトヲ得ズトセリ
可決ス
第五百七十八條 明示ノ認諾ハ契約ノ要旨及ヒ其銷除ノ原因ヲ記シ且銷除訴權ノ抛棄ヲ述ヘタル明白ナル證書ニ因リテ成ル
銷除ノ數個ノ原因アルトキハ明示ノ認諾ハ時ニ證書ニ記シタル原因ノミヲ除去ス
成年者ノ利益ノ爲メ缺損ニ因ル銷除ニ服スル行爲ハ明示ヲ以テシ且原契約ノ後ニ於テスルニ非サレハ之ヲ認諾スルコトヲ得ス
(栗塚)
本條ハ第一項契約ヲ合意トスベシ
(南部)
合意ノ上ハ銷除スルコトヲ得ベキノ文字ヲ加ヘタシ
可決ス
第三項ハ成年者ノ利益ノ爲メ缺損ニ因リ銷除スルコトヲ得ベキ行爲ノ認諾ハ明示ヲ以テシ且其行爲ノ後ニ於テスルニ非ザレバ之ヲ爲スコトヲ得ズトスベシ
可決ス
第五百七十九條 默示ノ認諾ハ左ノ行爲ニ因リテ成ル
第一 契約ノ全部若クハ一分ノ任意ノ履行
第二 異議ヲ爲サス又ハ異議ヲ留メサル強制ノ執行
第三 更改
第四 物上又ハ對人ノ擔保ノ任意ノ供與
債權者ニ在リテハ默示ノ認諾ハ裁判上ノ履行請求及ヒ銷除ニ服スル契約ヲ以テ取得シタル物ノ全部又ハ一分ノ任意讓渡ニ因リテ成ル
此他ノ默示ノ認諾ハ之ヲ裁判所ノ審判ニ委ス
(栗塚)
審判ノ文字ハ審定トスベシ債權者ニ在リテハ默示ノ認諾云々トアルヲ默示ノ認諾ハ債權者ニ在テハ履行ノ請求及ビ銷除スルコトヲ得ベキ合意ヲ以テ取得シタル物ノ全部又ハ一分ノ任意讓渡ニ因リテ成ルトシタシ
可決ス
第五百八十條 認諾ハ銷除訴權ヲ有スル者ノ特定ノ承接人ノ權利ヲ害スルコトヲ得ス
(元尾崎)
特定ノ承接人ト云フハ如何
(栗塚)
買者卽チ一般ノ相續人ニアラザル者ノ如キヲ云フ
第五百八十一條 根源ヨリ無効ナル行爲ハ之ヲ認諾スルコトヲ得ス但方式上無効ナル生贈又ハ遺言ノ相續人ノ認定ニ關シ下ノ附錄ニ揭ケタル規定ヲ妨ケス
(南部)
認定ヲ承認トスベシ
(元尾崎)
根源ヨリ無効ナル行爲ト云フハ如何
(南部)
不法ノ行爲ヲ云フ
(村田)
賭博ノ類ヲ指スナラン
(南部)
「附錄」ノ二字ヲ刪ルベシ
可決ス
第五百八十二條 算數、氏名、日附又ハ場所又錯誤ノ改正ヲ目的トスル訴權ハ時効ニ罹ルコト無シ但右ニ關係スル權利ノ時効ヲ妨ケス
(栗塚)
右ニ關係スル權利トアルヲ右訴權ノ附屬スル主タル權利トスベシ
(元尾崎)
主タル債權ハ時効ニ繋リ算數氏名日附ノ如キハ時効ニ繋ラズト云フハ事理不明ト云フベシ
(栗塚)
原則ヲ示シタルモノナリ主タル訴權カ時効ヲ得タル後ト雖ドモ算敷ノ如キハ其更正ヲ求ムベカラザルニアラザルモ其更正ヲ求ムトモ別ニ利益ナカルベシ
第八節 廢罷及ヒ解除
第五百八十三條 債權者ノ詐害ニ因リテ約束シタル義務ノ廢罷及ヒ廢罷訴權ノ時効ハ第三百六十條乃至第三百六十四條ノ規定ニ從フ
生贈者及ヒ其相續人ノ利益ノ爲メ設ケタル特別ノ廢罷ハ生贈ノ章ニ揭ケタル規定ニ從フ
(栗塚)
詐害ニ因リテトアルヲ詐害ニ於テトスベシ〔留保留保此一節留保〕
(北畠)
詐害ニ於テト云フハ妥當ナラズ
(元尾崎)
詐害スル爲メト云フ義ナルベシ
(村田)
詐害スルノ意アリテトシテハ如何
(栗塚)
詐害スルニ意ナキ場合存スベシ
(北畠)
詐害ニ於テト云フハ如何ナル義カ
(栗塚)
假令バ乙者ハ甲者ノ債務者ナリ乙者ハ未ダ其義務ヲ了セザルニ更ラニ丙者ヘ贈與スル如キヲ云フ
(淸岡)
詐害シテトスベシ
可決ス
第五百八十四條 義務ハ第四百二十九條第四百四十一條及ヒ第四百四十二條ニ從ヒ契約上又ハ裁判上ノ解除ニ因リテ消滅ス
解除ノ訴權ハ通常ノ時効期間ニ從フ但法律ヲ以テ其期間ヲ短縮シタル場合ハ此限ニ在ラス
(栗塚)
本條第一項契約上又ハ裁判上ノ解除ニ因リテトアルハ前案ノ如ク明示シテ要約シタル解除又ハ裁判上得タル解除ニ因リテトシタシ
可決ス
(栗塚)
第二項ハ前案ノ意ニ從ヒ冒頭ヲ裁判上請求スベキ解除訴權ハトシタシ
(淸岡)
第二項ハ裁判上ノ解除訴權トシテハ如何
(栗塚)
請求ト云フ字ヲ存シタシ
結局裁判上請求スベキ解除訴權ハトスルニ可決ス
第四百七十一條
(栗塚)
義務ノ消滅ハ八種ノ事項ニ依リ消滅スルモノナルモ尙ホ其他ニ免責時効ヲ以テ義務消滅ノ元因ト爲ルヲ示シタリ報吿委員ハ更ラニ之ヲ修正シ其他義務ハ免責ト稱スル時効ノ條件カ第五編第二部ニ從ヒ具備スルトキハ之ヲ消滅シタルモノト看做ストシタリ
可決ス
第三編 財產ノ取得方法
總則
第六百一條 物上及ヒ對人ノ權利ハ前編ニ規定シタル原因ニ由ルノ外尙ホ本編ニ規定スル特定名義又ハ包括名義ニ依リテ之ヲ取得スルコトヲ得
包括名義ニテ取得スル者ハ其前主ノ總テノ權利及ヒ義務ヲ相續ス但法律ニ規定シタル例外ヲ妨ケス
(栗塚)
第三編財產ノ取得方法トアルヲ旧財產取得編トシタシ嘗テ其議定アルヲ以テナリ
(村田)
其議定アルヲ知ラズ
(栗塚)
本法ハ各別ニ頒布スベキナレバ每編ヲ別ニシ且ツ每編ヲ第一條ヨリ起始スベシ
(委員長)
其義ハ今爰ニ論ズルニ及バザルナリ
(箕作)
財產取得編ト云フニテ可ナリヤ
(栗塚)
財產取得方法編トシテモ可ナリ
(箕作)
他日コートニ編集スルモ第三編ト云ハザルカ
(栗塚)
其時ハ第三編ト云フベシ
(箕作)
然ラバ可ナルベシ
(栗塚)
前編ト云フハ財產編トスベシ
(箕作)
財產編トスルモ他日コートヲ成ストキハ前編トナルベシ
(栗塚)
然リ
(淸岡)
各編ニ第一條ヨリ起始スト云フハ甚ダ不便ナリ
(元尾崎)
各編共ニ第一條ヨリ起始スト云フハ不可ナリ
(栗塚)
佛蘭西ニモ最初民法ヲ頒布シタルトキハ各編第一條ヨリ起始セリ
(南部)
人事編ノ如キハ未ダ議定セズ且ツ包括名義ノ如キモ未定ナレバナリ
(栗塚)
第九章第十一章ハ相續編ニ至密ノ關係ヲ有スルニ付キ此二章ハ報吿委員ニテモ他日相續編ト共ニ議スルヲ可ナリトス右ハ假令特定名義ニ屬スベキニモセヨ相續編ヲ頒テ共議スルニアラザレバ不都合ニ付キ相續編ノ議定ノ模樣ニ從ヒ之ヲ本部ニ復スルヤモ知ルベカラズ然ルニ特定名義ト包括名義トヲ合併セントスルハ不可ナリトス
第一部 特定名義ノ取得方法
第一章 先占
第六百二條 先占ハ無主ノ動產物ヲ己レニ屬セシムルノ意思ヲ以テ最先ノ占有ヲ爲スニ因リテ其所有權ヲ取得スルノ方法ナリ
(栗塚)
己レニ屬セシムルトアルハ己レノ所有ト爲ストシタシ
可決ス
第六百三條 狩獵ノ目的ト爲ル可キ禽獸ニシテ他人ノ所有地内ニ在ルモノハ其地主ノ之ヲ放置キ又ハ飼附ケタルモ自由ニ飛走スルトキハ先占ニ因リテ之ヲ取得スルコトヲ得
私有ノ池、湖又ハ水流ニ在ル魚類ニ付テモ亦同シ
第六百三條 狩獵ノ目的ト爲ル可キ禽獸ハ他人ノ所有地内ニ在ルトキト雖トモ先占ニ因リ之ヲ取得スルコトヲ得但シ圍障アル所有地内ニテ其地主ノ放置キ又ハ飼附ケタルモノハ之ヲ返還シ又ハ其代價ヲ拂フコトヲ要ス
私有ノ池、湖又ハ水流ニ在ル魚類ニ付テモ亦同シ
(栗塚)
本條ハ種々沿革ヲ經タル法條ニシテ最初起案者ノ精神ハ悉皆消滅ニ歸シタリ種々研究ヲ盡シタル末再調査案ニ對シ報吿委員ヨリ之ヲ修正シ狩獵ノ目的ト爲ル可キ禽獸ハ他人ノ所有地内ニ在ルトキト雖ドモ先占ニ因リ之ヲ取得スルコトヲ得但他人ノ所有地内ニテ其地主ノ放置キ又ハ飼附ケタルモノハ之ヲ返還シ又ハ其代價ヲ拂フコトヲ要ス私有ノ池、湖又ハ水流ニ在ル魚類ニ付テモ亦同シトセリ
(淸岡)
自由ニ飛走スルトキト云フ字ハ必要ナルベシ
(箕作)
他人ノ所有地内ニ在ルモノハ無主物ニアラザルベシ
(栗塚)
囮ノ如キハ有主物ナルモ外ヨリ飛來レル鳥ノ如キハ之ヲ有主物ト云フヲ得ズ
(村田)
本條ハ刪除シタシ
(松岡)
先占權アル物ハ賠償ノ義務ナカルベシ
(箕作)
起案者ハ先占權ヲ以テ之ヲ得取スルヲ得ベシト云フ義トシタレバ寧ロ論理上不都合ナシ
(南部)
本條ノ如キハ無主物ノ性質タルヲ示シ置カザレバ若シ此場合ニ反スル如キ行爲ヲ爲シタルトキハ盜取シタル者トナルベシ
(委員長)
本條ノ如キハ有主物ト無主物ノ間ニ在ルモノナレバ法律上其規定ヲ示サザレハ裁判官ハ甚ダ困惑スベシ
(槇村)
圍障内ニ在テハ之ヲ有主物トシ圍障外ニ於テハ之ヲ無主物トスベシ
(南部)
圍障内ニ在ル物ハ之ヲ有主物トスルトキハ鳥類ノ人家ニ來去スル者ヲ得取スル如キハ竊盜罪ヲ造出スルニ至ルベシ
(委員長)
圍障内ニ在ルトキハ所有權アリト云ハザルベカラズ
(栗塚)
本條ハ鶯目白ノ如キ常ニ飼養シアル者ヲ云フニアラズ又脫兎走鹿ノ如キ其圍障内ニ投入シタル者ヲ以テ所有權アリト云フヲ得ズ
(委員長)
先占權アル者ニシテ賠償ヲ要スベキハ如何
(箕作)
最初ハ圍障アル地ニ於テ得取シタル禽獸ハ返還賠償ノ義務アリトシ圍障ナキ地ニ於テ得取シタル禽獸ハ得取者ノ先占權アリト云フ義トナレリ
(栗塚)
最初ノ原案ニ復シテハ如何
(松岡)
最初ノ原案ニテハ現物若クハ代價ヲ償ヘバ人ノ取有地ニ於テ猥リニ弾丸ヲ發炮スルモ可ナルカ如クナレバナリ本條ハ刪除シテハ如何
(尾崎)
圍障内外ニ於テ區別スルノ說ヲ可トス
(西)
此點ハ刪除スベシ
(南部)
圍障ノ内外ニ於テ區別スルニ至テハ甚ダ不可ナリ寧ロ刪除スベシ多數ニ依リ刪除ス
<起案者カ此條ヲ第六百三十七條ノ次ニ移シタル和郎ハ此條ヲ舊ノ如ク此ニ置クコトヲ建議ス蓋第八章ヲ削除セントスルカ爲メナリ>
第六百四條 狩獵、補魚ノ權利ノ行使及ヒ漂流物、遺失物ノ取得ハ特別法ヲ以テ之ヲ規定ス
戰時ニ於ケル海陸ノ掠奪物ニ付テモ亦同シ
無異議
第六百五條 物ノ占有者カ委棄物ヲ先占シタリト主張スルトキハ原所有者ノ任意ノ委棄ヲ證明スルノ責ニ任ス
(栗塚)
本條ハ「物ノ占有者カ」ト云フヲ刪リ主張スルトキハトアルヲ主張スル者ハトシテハ如何
可決ス證明ハ例ニ從ヒ證スルトス
第六百六條 他人ニ屬スル物ノ中ニ於テ偶然ニ發見シタル埋藏物ハ所有者ノ知レサルトキハ其一半ヲ發見者ニ屬セシム
埋藏物ヲ覆蓋セシ物ノ所有者ノ權利ハ次章ノ規定ニ從フ
(栗塚)
本條他人ニ屬スル物ノ中ニトアルヲ他人ノ所有物ノ中ニトシ發見者ニ屬セシムトアルヲ發見者ニ附與セシムトシ埋藏物ヲ覆蓋セシトアルヲ埋藏物ノ隱匿セシトシタシ
(三島)
埋藏物ノ埋藏セント云ヘバ意義適當ナルモ同文字ヲ避ケントスルニ依リ頗ル苦シカルベシ
(尾崎)
埋藏物ノ埋レ又ハ藏レタル所ノトシテハ如何
(松岡)
埋藏物ノ埋藏トナリテハ不可ナリ
(三島)
包覆トシテハ如何
(委員長)
埋藏物カ埋モレ又ハ隱レタル所ノトスベシ
可決ス
第六百七條 埋藏物ノ原所有者ハ發見後三个年間ニ非サレハ前條ノ付與ニ反シテ自己ノ權利ヲ主張スルコトヲ得ス
此期間ハ原所有者カ埋藏物ヲ覆蓋セシ物ノ所有者タルニ於テハ其發見ヲ知リタル後一个年間ニ之ヲ短縮ス
然レトモ埋藏物ノ占有者カ惡意ナルトキハ通常ノ民事時効ヲ適用ス
本條埋藏物ヲ覆蓋セシトアルヲ埋藏物ノ埋モレ又ハ隱レタルトセリ
(箕作)
民事時効トアル民事ハ刪ルベシ民刑ノ差別ニアラザレバナリ
可決ス
第二章 添附
第六百八條 動產ト不動產トヲ問ハス或ル物ノ所有者ハ其物ニ附隨トシテ合シタル物ヲ下ノ區別ニ從ヒ且替償ヲ拂ヒテ取得ス
無異議
第一節 不動產上ノ添附
第六百九條 建物其他ノ工作及ヒ植物ハ總テ其附着セル土地又ハ建物ノ所有者カ自費ニテ之ヲ築造シ又ハ栽植シタリトノ推定ヲ受ク但反對ノ證據アルトキハ此限ニ在ラス
右建物其他ノ工作物ノ所有權ハ土地又ハ建物ノ所有者ニ屬ス但名義又ハ時効ニ因リ第三者ノ得タル權利ヲ妨ケス
植物ニ關スル場合ハ第六百十一條ノ規定ニ從フ
(栗塚)
本條建物其他ノトアルヲ建築其他ノトシ右建物トアルヲ右建築トスベシ
可決ス
第六百十條 土地又ハ建物ノ所有者カ他人ニ屬スル材料ヲ以テ工作ヲ爲シタルトキハ其工作物ヲ毀壞シテ材料ヲ返還スルノ強要ヲ受ケス又材料ノ本主ニ其取去ヲ強要スルコトヲ得ス
然レトモ右ノ所有者ハ第四百五條ノ規定ニ從ヒ材料ノ本主ニ替償スルノ責ニ任ス
(栗塚)
本條第二項替償スルトアルヲ償金ヲ拂フトシ第一項ハ工作ヲ爲シトアル上ニ建築其他ノト云フ字ヲ加ヘタシ
可決ス
第六百十一條 他人ニ屬スル草木ノ栽植ニ付テハ其栽植ヲ爲シタル土地ノ所有者又ハ占有者ハ一个年内ニ其草木ヲ拔取リ且之ヲ返還スルノ強要ヲ受ク尙ホ損害アルトキハ之ヲ賠償ス
右草木ノ所有者カ其返還ヲ欲セス又ハ栽植時ヨリ一个年ヲ經過シタルトキハ其所有者ハ金錢ノ替償ヲ受ク
(栗塚)
本條第二項金錢ノ替償ヲ受クトアルヲ償金ヲ受クトスベシ
可決ス
(元尾崎)
本條ハ他人ノ草木ヲ栽植シタル場合カ
(箕作)
判然他人ノ草木ト云フヲ知レバ其草木ヲ栽植スルモノナカルベキモ判然所有權ノ明カナラザルコトアレバナリ
第六百十二條
〔議場削除〕
第六百十三條 他人ノ土地又ハ建物ノ善意ノ占有者ニシテ其土地又ハ建物ニ自己ノ材料又ハ草木ヲ以テ築造又ハ栽植ヲ爲シタル者ハ所有者ヨリ不動產回復ノ請求ヲ受クルニ當リ其工作物又ハ草木ヲ取拂フノ責ニ任セス所有者ハ其選擇ヲ以テ占有者ニ材料及ヒ手間代ヲ拂ヒ又ハ不動產ノ增價額ヲ拂フ
築造又ハ栽植ヲ爲シタル者カ惡意ノ占有者タリシトキハ所有者ハ工作物及ヒ草木ヲ除去シテ場所ヲ舊狀ニ復セシメ且損害アルトキハ之ヲ賠償セシムルコトヲ得又所有者ハ前項ノ規定ニ從ヒ占有者ニ替償シテ右ノ工作物及ヒ草木ヲ保存スルコトヲ得
(栗塚)
本條替償シテトアルハ償金ヲ拂ヒテトスベシ
可決ス
(箕作)
材料及ビ手間代ト云フハ材料及ビ手間ノ代價トシテハ如何
可決ス
第六百十四條 舟筏ノ通ス可キト否トヲ問ハス水流ノ寄洲ハ沿岸所有者ニ屬ス
寄洲カ水流ニ並行シ又ハ殆ント之ニ並行シテ沿岸ノ數箇ノ土地ニ生シタルトキハ所有者ノ各自ハ其土地ノ内部ノ廣狹ニ拘ハラス水流ニ接シタル土地ノ部分ニ付キ右ノ寄洲ヲ利得ス
右ニ反シテ寄洲カ水流ト角度ヲ成シ所有者ノ各自ニ歸ス可キ部分ヲ定メ難キトキハ其各所有者ハ分割スルコトヲ得サル部分ニ付キ水流ノ舊狀ニテ其水流ニ接スル所有地ノ部分ノ割合ニ應シ共有者ナリ
如何ナル場合ニ於テモ沿岸者ハ官府ノ許可ナクシテ從來存スル挽船路又ハ沿岸路ノ位置ヲ變更シ又寄洲ニ於テ挽船又ハ通航ノ便ヲ妨ク可キ築造又ハ栽植ヲ爲スコトヲ得ス
(栗塚)
官府トアルハ行政官トスベシ
可決ス
(箕作)
寄洲ハ沿津所有者ニ屬ストスレバ其沿岸者ニ於テハ頗ル幸福ニアラズヤ
(栗塚)
内務省地理局及ビ土木局ニ協議シタルニ不都合ナシト云ヘリ
(委員長)
沿岸所有者ノ所有ニ屬スト云フモ其爲メ他ニ妨害ヲ起生スルトキハ行政權ヲ以テ之ヲ抑制スベシ
(箕作)
其特別規定ハ何レニアルヤ民法獲得編ニテ其所有權ヲ屬セシムル以上ハ之ヲ拒ムコトヲ得ザルベシ
(南部)
水路ニ害アル場合ハ特別法ニテ其制裁ヲ附スベシ
(委員長)
河川ニ付テハ舊慣ノ存スルモノアレバ行政權ヲ以テ之ヲ處分スベキモ今ノ論點ニ付テハ尙ホ内務省ニ問合スベシ
(箕作)
第四項從求存スルトアルヲ從來ノトシタシ
可決ス
第六百十五條 沿岸者ハ右同一ノ區別及ヒ條件ヲ以テ舟筏ノ通スルト否トヲ問ハス河川ノ干瀉ヲ利得ス
然レトモ川床ノ沿岸者ニ屬スルト公有ニ屬スルトヲ問ハス漸次生シタル干瀉ノ添付ハ舊川床ノ全幅員以外ニ廣マルコトヲ得ス
此添付ノ權利ハ湖池及ヒ海ノ干瀉ニ付テハ存立セス但海ノ干瀉ハ第二十四條ノ規定ニ從ヒ國ニ屬ス
舟筏ノ通スル水流ニ於テ官府ノ爲シタル掘割又ハ堤防ノ工事ニ因リテ干瀉ト爲リタル部分ハ沿岸者ニ利セス但行政法ノ規定ニ從ヒ沿岸者ノ行フ先買權ヲ妨ケス
無異議
第六百十六條 河川ノ水ノ衝激カ沿岸地ノ一分ヲ割去シテ下流ノ沿岸地又ハ對岸地ニ轉送シ其孰レノ所有地ノ部分タルヤヲ仍ホ認知ス可キトキハ占有ヲ失ヒタル所有者ハ變災ヨリ一个年内ニ非サレハ右ノ土壤ノ回復ヲ請求スルコトヲ得ス又一个年後ニ於テハ沿岸者カ未タ之ヲ占有セサル間ノミ其回復ヲ請求スルコトヲ得且所有者ハ自費ニテ其土壤ヲ收去シ又收去ニ因リテ加ヘタル損害ヲ賠償スルコトヲ要ス
沿岸者ハ何時ニテモ右土壤ノ回復ヲ爲スカ又ハ單一ナル委棄ヲ爲スカ二者ノ其一ヲ選擇セシムル爲メ所有者ニ催吿スルコトヲ得
樹木、收穫物、木材其他ノ動產物カ洪水ノ衝激ニ因リ押流サレテ他人ノ土地ニ轉從シタルトキハ如何ナル方位ニ在ルモ本條ノ規定ニ從フ但此等ノ物カ何人ノ所有タルヲ認知ス可ク且漂流物ニ非サルコトヲ要ス
(栗塚)
本條第二項右土壤ノ回復ヲ爲スカ又ハ單一ナル委棄ヲ爲スカ二者ノトアルヲ右土壤ヲ回復スルカ又單ニ之ヲ委棄スルカトシ第三項何人ノトアルヲ某ノトシタシ
(委員長)
某ハ誰トスベシ
可決ス
(尾崎)
土壤ヲ回復スルト云フハ詮無カルベシ
(元尾崎)
其權利ヲ云ヒシモノナレバ差支ナシ
第六百十七條 舟筏ノ通スル河川ニ生シタル中洲ハ水流ノ等級ニ從ヒ國、府、縣又ハ市町、村ニ屬ス
舟筏ノ通セサル水流ニ生シタル中洲ハ川床ト同シク沿岸者ニ屬ス
兩側ノ沿岸者ノ權利ヲ定ムルニハ水流ノ中心ニ縱線ヲ畫シ各沿岸者ハ自己ノ方ニ在ル中洲又ハ其部分ヲ利得ス
中洲カ一方ノ數箇ノ所有地ノ前面ニ在ルトキハ第六百十四條第二項ノ規定ニ從フ
(松岡)
本條第二項川床ト同ジクトアルハ川床カ沿岸者ニ屬スル如ク中洲モ亦沿岸者ニ屬スト云フ義ナレハ刪除シテ可ナリ
(渡)
刪除スルノ必要ナシ
(南部)
川床カ沿岸者ニ屬スレバ中洲モ沿岸者ニ屬スト云フ義ナリ
(松岡)
川床ノ沿岸者ニ屬スル如クト云フ意義ナリ
(栗塚)
松岡委員ノ論ハ如何ト云フニアリヤ
(松岡)
舟筏ノ通セザル水流ノ川床ハ沿岸者ニ屬スルモノト爲リシヤ
(栗塚)
然リ
(松岡)
其定ハ何條ニアリヤ
(箕作)
沿岸者ト云フハ町村ノ所有ナレバ其町村ヲ指シテ國郡ノ所有ナレバ國郡ヲ指スベシ
(栗塚)
然リ
(元尾崎)
沿岸ノ市町村ニ戶口アル部分ハ何レニ屬スルヤ
(尾崎)
尙ホ内務省ニ質問スベシ
(栗塚)
犀川ノ如キハ郡村ノ所有ナルモ實際其川床ハ沿岸ノ人戶ニ屬セリト云フ起案者ハ中洲ト沿岸者ト〓離セシメサルニアル意味ナレバ其川床ヲ所有スル者ニ屬ストシテハ如何
(南部)
所有者ト云フハ不可ナリ
(委員長)
沿岸者ハ沿岸地ニ所有權アル者ニシテ沿岸地ニシテ所有權ナキ者ハ殆ンド有セザルベシ
(松岡)
沿岸者ニシテ皆其沿岸ニ所有權ヲ有スルモノト云フヲ得ザルベシ
(箕作)
川床ノ所有者ト中洲ノ所有者ト別異ナルハ不都合ナリ
(委員長)
中洲ハ川床ノ所有者ニ屬セシメテハ如何
(尾崎)
斯ノ如クスレバ日本ノ實際ニハ乖離スベシ
(委員長)
假令バ川床ハ國郡ノ所有ナルニ干瀉シタル部分ハ沿岸者之ヲ所有スベシト云フハ不都合ニ非ラズヤ
(松岡)
本會ニテ議論ノアル點ヲ擧示シ之ヲ内務省ニ質議シテハ如何
(南部)
不動產ノ添付ニ付テハ皆質問スベシ
可決ス
第六百十八條 或ル土地ヨリ割去セラレタル土壤カ水流中ニ止マリテ中洲ヲ成シタルトキハ所有者ハ其存在スル場所ニ於テ之ヲ占有スルコトヲ得
然レトモ公有ノ水流ニ付テハ漸積ノ中洲ノ所有權ニ關スル前條ノ區別ニ從ヒ國、府、縣又ハ市町、村ハ正當ノ替償ヲ豫メ拂ヒテ其讓渡ヲ要求スルコトヲ得
無異議
第六百十九條 舟筏ノ通スルト否トヲ問ハス水流カ新ニ支流ヲ成シ沿岸地ノ全部又ハ一分ヲ中洲ト爲シタルトキハ此土地ノ所有者ハ其所有權ヲ失ハス但前條ノ規定ニ因ル所有權徵收ノ權利ヲ妨ケス
無異議
第六百二十條 二箇ノ土地ノ分界ヲ成シテ沿岸者ニ屬スル舟筏ノ通セサル水流カ突然且全然其水路ヲ變シタルトキハ舊川床ノ所有權ハ兩沿岸者ニ屬シ第六百十七條ノ規定ニ從ヒテ之ヲ分割ス
<第二項ヲ削除シ第六百三十七條第一項ヲ此ニ移スノ建議蓋シ同一類ノ規定ナレバナリ>
舟筏ノ通スル水流ニ付テハ舊川床ノ所有權ハ第八章ノ規定ニ從フ
(栗塚)
分界ヲ成シテトアルヲ分界ヲ成シ且トシ突然且全然トアルヲ突然其小路ヲ全ク變ジタルトキトシタシ
(松岡)
突然其小路ヲ全ク變ジタルトキトスルハ可ナリ
可決ス第二項ハ第六百三十七條ニ於テ議スベシトス
第六百二十一條 私有池ノ魚又ハ鳩舎ノ鳩カ計策ヲ以テ誘引又ハ停留セラレタルニ非スシテ他ノ池又ハ鳩舎ニ移リタルトキ其所有者カ自己ノ所有ヲ證明シテ一週日間ニ之ヲ要求セサレハ其魚又ハ鳩ハ現在ノ土地ノ所有者ニ屬ス
<議場削除無用ナレハナリ>
群ヲ爲シテ他ニ移轉シタル密蜂ニ付テハ一週日間之ヲ追求スルコトヲ得
飼馴サレタルモ逃易キ野栖ノ禽獸ニ付テハ善意ニテ之ヲ停留シタル者ニ對シ一个月間其回復ヲ爲スコトヲ得
無異議
第二節 動產上ノ添附
第六百二十二條 各別ノ所有者ニ屬スル數箇ノ動產物カ所有者ノ意ニ非スシテ第三者ニ因リテ附合セラレ其各物共ニ著シキ毀損又ハ減價ヲ受ケスシテ容易ニ分タル可キトキハ所有者ノ各自ハ其分離ヲ請求スルコトヲ得但損害ノアルトキハ附合ヲ爲シタル者之ヲ賠償ス附合ノ爲メニセル物ノ變樣ハ之ヲ毀損ト看做ス
(松岡)
改樣ヲ變樣トシタルハ假令バ仕立商ニ羽織ノ仕立ヲ屬託シタルニ其羽織ノ裏ハ他ノ裏衣ヲ附シタル場合ノ如シ
第六百二十三條 二箇ノ物カ分ツ可カラサルカ之ヲ分ツカ爲メ著シキ毀損若クハ減價ヲ爲シ又ハ過分ノ費用若クハ時日ヲ要スルトキハ孰レノ所有者モ分離ヲ請求スルコトヲ得スシテ其物ハ附合ノ儘主タル物ノ所有者ニ歸屬ス但此所有者ハ從タル物ノ所有者ニ損害ヲ加ヘテ己レヲ利シタル限度ニ應シ賠償ヲ負擔ス
或ル物ノ便益、裝飾又ハ補完ノ爲メニ附合セラレタル物ハ之ヲ從タル物ト看做ス主從ノ區別ニ付キ疑ヒ有ルトキハ價格ノ低キ物ヲ以テ從タル物トス
此他ノ場合ニ於テ物ノ主從ノ區別ハ之ヲ裁判所ノ審判ニ委ス
(栗塚)
本條第一項「之ヲ分ツカ爲メ」トアルヲ又ハ之ヲ分ツ爲メトシ毀損若クハ減價ヲ爲シ又ハ過分ノ費用若クハトアルヲ毀損、減價ヲ爲シ若クハ過分ノ費用、トシタシ
可決ス又審判ハ審定トナレリ
第六百二十四條 附合カ主タル物ノ所有者ノ過失又ハ詭譎ニ因リテ成リ前條ノ規定ニ從ヒ其分離ヲ爲ス可カラサルトキハ從タル物ノ所有者ノ受ク可キ賠償ハ第三百九十條及ヒ第四百五條ニ依リ之ヲ評定ス
從タル物ノ所有者カ附合ヲ爲シタルトキハ主タル所有者ノ利益ノ限度ニ應シテノミ其損失ノ賠償ヲ受ク
(栗塚)
詭譎ト云フ字ハ詐欺トスベシ此文字ハ商法報吿委員ノ協議アリシニ因リ然シタリ
(松岡)
可ナリ
可決ス
第六百二十五條 物ノ分離ヲ爲ス可カラサル右同一ノ場合ニ於テ其性質、品質又ハ價格ニ因ルモ主從ノ區別ヲ爲シ難キトキハ其物ハ平等ノ權利ニテ各所有者之ヲ共有ス但過失又ハ惡意アル者ヨリ賠償ヲ受クルコトヲ妨ケス
無異議
第六百二十六條 前數條ノ規定ハ各別ノ所有者ニ屬スル流動物、固形物又ハ金屬ノ混和ニモ亦之ヲ適用ス
然レトモ分離スルコトヲ得サル物カ其性質及ヒ品質ノ同シキニ因リ共有ト爲ル可キトキハ各自ノ權利ハ己レヨリ出テタル物ノ數量ノ割合ニ應ス
無異議
第六百二十七條 附合又ハ混和カ所有者ノ一人ノ所爲ヨリ生スル場合ニ於テハ他ノ所有者ハ專屬ノ所有權ヲモ共有權ヲモ承諾スルノ責ニ任セス添附ヲ爲シタル者ニ對シ同品質ノ物又ハ其價金ヲ要求スルコトヲ得
(南部)
價金ノ文字ハ先例シ因リ代價トスベシ可決スバナリ
第六百二十八條 或ル人カ他人ノ物料ヲ以テ新ナル用方ノ物ヲ作リタルトキハ物料ノ所有者ハ手間代ヲ拂フテ其物ノ所有權ヲ要求スルコトヲ得
然レトモ手間代カ著シク物料ノ價額ヲ超ユルトキハ新ナル物ノ所有權ハ製作者ニ屬ス但製作者ハ物料ノ所有者ニ賠償スルコトヲ要ス
製作者カ物料ノ幾分ヲ供シタルトキハ其物料ノ價額ハ優勝權ヲ定ムル爲メ之ヲ手間代ニ合算ス
所有者ノ承諾ナクシテ物料ヲ用ヒタルトキハ其所有權ハ常ニ自己ノ優勝權ヲ抛棄シテ同品質同數量ノ物又ハ其價金ヲ要求スルコトヲ得
(箕作)
優勝權ノ文字ハ定マレルヤ
(栗塚)
優勝權ノ文字ハ初テ現出シタリト云フモ可ナリ
(三島)
今村氏ハ先ンズト云フ意ニアラズト云ヘルヲ以テ優勝トシタリ
(栗塚)
優勝劣敗ト云フ熟字アルヲ以テ優拔トカ又ハ優特トシタシ
(南部)
優先ニテ可ナリ
(淸岡)
優勝ト云フ字ハ妥當ナリ多數ニ依リ優先トスルニ決ス
第六百二十九條 附合、混和又ハ製作カ所有者ノ明示又ハ默示ノ承諾ヲ以テ成ルトキハ所有權ハ契約ニ從ヒテ之ヲ定ム若シ疑ヒ有ルニ於テハ分離カ容易ナリト雖モ其分離ヲ要求スルコトヲ得ス且優勝權及ヒ共有權ニ關スル前數條ノ規定ヲ適用ス
無異議
第六百三十條 前數條ニ定メサル動產物添附ノ場合ニ於テハ裁判所ハ前數條ノ規定ノ援引ス可キハ之ヲ援引シ且自然ノ公義ニ基キテ所有權及ヒ賠償ノ事件ヲ審判ス
(栗塚)
事件ト云フ字ハ元ト問題トアリシモ這回之ヲ事件トシタルニ付キ其當否ヲ決セラレタシ
(尾崎)
論點トシタシ
(北畠)
然カシタシ
可決ス
第六百三十一條 第六百六條ニ從ヒ發見者ニ屬セサル埋藏物ノ部分ハ添附ニ因リ其埋藏物ヲ覆蓋セシ動產又ハ不動產ノ所有者ニ屬ス
若シ其動產又ハ不動產ノ所有者自身ニテ意外ニ發見シタル埋藏物ハ一半ハ先占ニ因リ一半ハ添附ニ因リテ全部其所有者ニ屬ス
所有者ノ所爲又ハ其命令ヲ受ケ若クハ受ケサル第三者ノ所爲ニテ特ニ搜索ヲ爲スニ因リテ發見シタル埋藏物ハ添附ヲ以テ全部所有者ニ屬ス
原所有者ノ回復ニ對シ埋藏物ノ發見者ノ爲メ第六百七條ヲ以テ定メタル時効ハ右ノ場合ニ之ヲ適用ス
(北畠)
本條ハ覆蓋セシト云フヲ埋モレ又ハ隱レタル所ノトスルハ妥當ナラズ
(南部)
何レモ同一ナラザルベカラズ
<全章削除建議>
第三章 善意ナル占有者ノ果實ノ收取
<以下數章削除ノ理由ハ別紙ニ記ス>
第六百三十二條 善意ナル占有者ノ天然及ヒ法定ノ果實ノ取得ハ第二百六條ヲ以テ之ヲ規定ス
(栗塚)
本條ハ財產編ニモ規定アルヲ以テ之ヲ刪除シタシ
可決ス
<同前>
第四章 引渡
第六百三十三條 種類及ヒ數量ノミヲ以テ定メタル物ノ所有權ハ第三百五十二條及ヒ第四百七十六條ノ規定ニ從ヒ其物ノ屬スル者ヨリ又ハ其名ヲ以テ爲シタル引渡ニ因リテ移轉ス
引渡ナキトキハ當事者互ニ立會ノ上ニテ物ヲ指定スルヲ以テ足レリトス
(栗塚)
本條モ右ト同樣刪除スベシ
可決ス
<同前>
第五章 公用徵收ニ關スル裁判上又ハ行政上ノ行爲
第六百三十四條 公用徵收ニ服シタル財產ノ熟議ノ讓渡ナキトキハ所有權徵收ヲ宣言スル裁判上又ハ行政上ノ行爲ハ其行爲ニ於テ定メタル負擔及ヒ條件ヲ以テ國、府縣、町、村又ハ其權利ノ讓受人ニ右財產ノ所有權ヲ移轉ス但第三十二條第三百六十八條第五號及ヒ公用徵收法ノ規定ニ從フコトヲ要ス
(栗塚)
本條モ行政法ニ屬スベキ者ナレバ刪除スベシ
(元尾崎)
本條ノ規定アラザレバ行政官ノ專恣ヲ防グ能ハズ
(松岡)
行政官ノ專恣ヲ防グノ點ハ他ニ其規定アリ卽チ刪除ニ決ス
<同前>
第六章 公賣競落
第六百三十五條 無訟手續ニ關スル法律ニ從ヒ動產又ハ不動產ノ差押ニ付キ裁判上ニテ宣言セル競落ハ競落證書ニ記載シタル負擔及ヒ條件ヲ以テ其財產ノ所有權ヲ競落人ニ移轉ス
法律ノ命シ又ハ許シタル諸種ノ場合ニ於ケル公賣競落ニ付テモ亦同シ
(栗塚)
本條ハ訴訟法ニ屬スベキモノナレバ刪除シテ可ナリ
可決ス
第七章 特別ノ沒收
第六百三十六條 刑法ノ規定ニ依リ特別ノ沒收ヲ爲ス判決ハ沒收物ノ所有權ヲ國、府縣、町、村又ハ行政法ヲ以テ指定シタル公設所ニ移轉ス
(栗塚)
本條ハ刑罰ナルヲ以テ之ヲ取得方法トスルヲ得ス故ニ刪除スベシ
可決ス
第八章 法律ノ直接ノ付與
<第六百二十條ニ併合スルノ建議>
第六百三十七條 舟筏ノ通スル河川カ其水路ヲ變シ新河川ヲ爲ストキハ浸沒地ノ所有者ハ其失ヒタル土地ノ割合ニ應シ替償ノ名義ヲ以テ舊川床ヲ取得ス但舊川床ノ面積カ浸沒地ヨリ一層廣キトキト雖モ右ノ割合ヲ以テ之ヲ取得ス
<此項ヲ舊場所ニ復スル建議>
所有者ナキ不動產及ヒ相續人ナクシテ死亡シタル者ノ遺產ハ當然國ニ屬ス
(栗塚)
本條第一項ハ第六百二十條ノ第二項トシタシ同條第二項ハ第二十四條ノ第二項ト爲スベシ
可決ス
<(第二十四條)或ハ「所有者ヽヽヽ及ヒ」マテ十字ヲ削除シ「相續人」以下ヲ相續ノ章ニ移スモ可(此ニ所有者ナキ不動產ト云ヘルハ主トシテ地面ヲ言フナリ故ニ之ヲ削除スルモ害ナシ)削除建議>
第六百三十八條 右ノ外法律ノ直接ノ効力ニ因リ所有權、用益權、地役、抵當其他物上及ヒ對人ノ權利ヲ取得スル場合ハ其各事項ニ於テ之ヲ規定ス
本條ハ無用ナリト云フニテ刪除ス
第九章 特定名義ノ遺贈
(栗塚)
本章ハ人事編包括名義ノ議定マデ留保ニ附スベシ
可決ス
第十章 無名契約
<削除建議 第三百二十四條參觀 理由ハ別紙ニ載セリ>
第六百五十五條 下ノ諸章ニ規定シタル契約ノ外尙ホ各人ハ物權若クハ人權ヲ創設シ移轉シ變更シ又ハ消滅セシムル爲メ適宜ニ契約ヲ取結フコトヲ得之ヲ無名契約ト云フ但公ノ秩序又ハ善良ノ風俗ニ違ハサルコトヲ要ス
無名契約ハ本編第二部ノ規定及ヒ此ト最モ類似スル有名契約ニ關スル規定ニ照準ス
(栗塚)
本條ハ刪除スベシ只學理上ノ問題ニシテ別ニ要用ノ條ニアラザレバナリ
可決ス
<此章ハ人事編ト同時ニ議定ス可シ理由ハ別紙ニ祥カナリ>
第十一章 生贈
(栗塚)
本章ハ第九章ト同理由ニ付キ留保ニ附シタシ
可決ス
第十二章 賣買
第一節 賣買ノ通規
第一款 賣買ノ性質及ヒ成立
第六百六十一條 賣買ハ當事者ノ一方カ物ノ所有權又ハ其支分權ヲ移轉シ又ハ移轉スルノ義務ヲ負擔シ他ノ一方又ハ第三者カ其定マリタル代金ノ辨濟ヲ負擔スルノ契約ナリ
賣買契約ハ下ノ規定ニ從フノ外有償且双務ナル契約ノ總般ノ規則ニ從フ
(栗塚)
第十二章ハ第三章トシ賣買ノ通規ト云フハ賣買ノ通則トスルコトトナレリ又總般トアルヲ一般トセリ
第六百六十二條 賣買ハ當事者ノ承諾ノミヲ以テ完全ニ成立ス
然レトモ當事者ハ賣買ヲ各自ノ證據ニ供スル公正證書又ハ私署證書ノ錄製ニ繋ラシムルコトヲ得
(箕作)
各自ノ證據ニ供スルト云フハ必要アリヤ
(栗塚)
註解シタルニ過ギザルナリ
<修正建議(修正案ヲ別紙トス)>
第六百六十三條 賣渡又ハ買受ノ片務ノ豫約カ承諾ヲ得タルトキハ要約者カ第三百二十九條ノ條件ニ從ヒテ契約ノ取結ヲ要求スル時ヨリ諾約者ハ其豫約ニ於テ定メタル代價及ヒ條件ヲ以テ契約ヲ取結フノ義務ヲ負擔スナリ
(栗塚)
豫約ト云フ字ニ付テハ刪除建議アルモ「ボアソナード氏」ヨリハ之ヲ刪除スルノ不可ナル旨ヲ示シ來レリ依テ此文字ハ存在セシメラレタシ
(松岡)
片務ノ豫約カトアルハ一方ノ豫約ト云フ如キ意味ニシテ片務ノ豫約ト云フハ妥當ヲ得ズ片務ト云ヘバ契約ノ性質トナレバナリ
(西)
片方トシテハ如何
(箕作)
一方ト云ヘバ耳聞ニ奇異ヲ感セズ
(栗塚)
一方トスベシ
(淸岡)
今村氏ノ建議ノ如クスルハ不都合ナルカ
(栗塚)
今村氏ハ豫約ノ文字ヲ極沮泊ニ視認シ第六百六十二條第一項ヲ重視シタルモ決シテ賣買ハ當事者ノ承諾ノミヲ以テ完全ニ成立シタルモノトスルヲ得ズ必ラズ豫約ト云フ一階級アルヲ要用ナリトス
(松岡)
豫約ト云フ實例ハ如何
(栗塚)
買者ハ確實ニ之ヲ購得セントシ賣者モ稍賣却ノ意思ヲ示シタルモ判然賣却スルノ契約ナラザル場合ヲ云フ
(松岡)
豫約ト云フハ商法上提供ト云フ義ト差異アリヤ
(栗塚)
豫約ト提供ト差異ナカルベシ
(村田)
提供ハ之ヲ變更スルヲ得ルモ豫約ハ變更スルヲ得ズ
(松岡)
豫約モ相手方ノ承諾アラザル間ハ之ヲ取消スルヲ得ベシ
(南部)
賣ラントスルト賣ルトノ差ハ佛蘭西法律書ニモ裁示シタレバ豫約ハ賣ラントスル言詞ニ當リ賣ルト云フハ契約ナリ
(西)
賣者ハ之ヲ賣却スベシトシ買者ハ事宜ニ從ヒ之ヲ購得スベシト云フトキハ豫約ト云フモノナリ
(尾崎)
其豫約ニハ賣者買者何レモ其束縛ヲ被ムルコトナシ
(西)
賣者ハ束縛サルルモノナリ
(松岡)
右ハ提供ト異ルモノナシ
(南部)
賣買ト豫約トハ二種アルモノト認メザルベカラズ
(尾崎)
賣買ト豫約トハ二種ノモノナルベキモ實際其區別ヲ見ルニ苦メリ
(松岡)
豫約ト提供トノ甄別ニ苦シムベシ
(箕作)
豫約ハ義務ヲ生ズルモ提供ハ未ダ義務ヲ生ゼザルベシ
(尾崎)
提供ヲ承諾セラレタルトキ豫約ヲ生ズベシ
(箕作)
承諾ヲ得タルトキハト云フニ疾ヒアリ
(栗塚)
豫約ヲ承諾シタル義ニシテ契約上ノ承諾ニアラザルベシ
(松岡)
佛蘭西法ノ提供ト云フハ如何
(栗塚)
佛蘭西法ト遠路隔絕ノ場合申シ通スルヲ云フニアリテ近在者間ニ在ラザルナリ
(松岡)
商法ニテハ所在ノ遠近ヲ論ゼズ提供ヲ認ムルニ付キ彼是差異ヲ生ズルニ依リ不都合ナリ
(尾崎)
今村氏ノ意見ニ從フトキハ不都合アルカ
(栗塚)
豫約ト云フ階級ヲ廢シ賣買卽成トスルトキハ豫約ヲ以テ其危險ヲ負擔セザルベカラザルベシ
結局片務ノ豫約カ承ヲ得タルトキトアルハ一方ノ豫約アルトキトスルニ決ス
第六百六十四條 諾約者カ契約ヲ取結フコトヲ拒ムトキハ裁判所ハ賣買カ其相應ノ効力ヲ以テ成立シタリトノ判決ヲ爲ス
不動產權ノ賣買ニ關スルトキハ其判決ヲ登記ス
賣買ノ豫約ヲ登記シタルトキハ右判決ハ登記ノ縁邊ニ之ヲ附記ス
〔削除建議〕其登記ハ賣主ノ承接人ニ對シ既往ニ遡リテ効力ヲ成ス承接人ハ承繼人ト修正セリ
第六百六十五條 賣渡及ヒ買受ノ相互ノ豫約アルトキハ當事者ノ一方ハ前條ニ從ヒ他ノ一方ニ對シ契約ノ取結ヲ強要スルコトヲ得
裁判所ハ此場合ニ於テ當事者ノ意思ヲ解釋シ賣買ノ豫約カ卽時ノ賣買ノ効ヲ有シ又期間ヲ定メタルトキハ其期間ハ履行ノミニ適用スルモノタルヲ決定スルコトヲ得
解繹ハ解釋トシ決定ヲ判決トス
<修正建議(修正案ヲ別終トス)>
第六百六十六條 前四條ニ從ヒ當事者ノ双方又ハ一方カ日後賣渡及ヒ買受ノ契約ヲ取結ヒ又ハ單ニ證書ヲ錄製スルノ義務ヲ負擔シタル場合ニ於テ豫約ノ擔保トシテ手附ヲ與ヘタルトキハ契約ヲ取結又ハ證書ヲ錄製スルコトヲ拒ム一方ハ其與ヘタル手附ヲ失ヒ又ハ其受ケタル手附ヲニ倍ニシテ還償ス
(淸岡)
手附ト云フハ買者ニ適用スル文字ニシテ賣者ニハ適用セザルモノナリ
(栗塚)
違約金トシテハ如何
(箕作)
違約金ト云ヘバ過怠約款ニ類スルノ不都合アリ
(栗塚)
破約金トシテハ如何
(尾崎)
豫約ノ擔保トシテ與フルモノナレバ手附ト云フニテ不都合ナシ
第六百六十七條 卽時ノ賣買ニ於テハ手附ハ之ヲ與ヘタル者ノ利益ノ爲メニノミ解約ノ方法ト爲ル但買主ノ與ヘタル手附カ金錢ナルトキハ之ニ解約ノ性質ヲ明示スルコトヲ要ス
契約ノ全部又ハ一分ノ履行アリタルトキハ如何ナル場合ニ於テモ解約ヲ爲スコトヲ得ス
(村田)
解約ノ方法ト爲ルト云フモ方法ノ文字明了ヲ得ズ
(箕作)
品物ナルトキハ其手附ヲ與ヘタル者ノ利益ノ爲メニノミ解約ノ方法ト爲ルニ買主財物ヲ與ヘタルトキハ之ニ解約ノ性質ヲ明示スルヲ要スト云フハ日本ノ人情ニ恰當シタルモノトセズ
(尾崎)
此意義如何
(栗塚)
財物ハ内金ト看做サルルノ恐レアレバナリ
(松岡)
本條ハ商法第三百四十一條ト等シク手附金ヲ抛棄シタルトキハ解約スルヲ得ト云フ意味ニ修正シタシ
可決ス
第六百六十八條 嘗試ノ賣買ハ事情ニ隨ヒ買主ノ適意ノ停止條件又ハ拒絕ノ解除條件ヲ帶ヒテ之ヲ爲シタルモノト看做スコトヲ得
試味ノ慣習アル日用品ノ賣買ハ適意ノ停止條件ヲ帶ヒテ之ヲ爲シタルモノト推定ス
(栗塚)
嘗試ノ賣買ト云フハ嘗試ノ上ニテ爲ス賣買ハトシテハ如何
(松岡)
商法ニ點驗ト云フ字アレバ此嘗試モ之モ點驗トシテハ如何
(栗塚)
試驗ノ上ニテ爲ス賣買トシテハ如何
(南部)
試檢ハ試驗トセザレバ不可ナク
結局試驗ノ上ニテ爲ス賣買ハトスルニ決ス
(松岡)
商法ノ嘗試ト云フモ試驗トセザルベカラズ
(箕作)
商法ニ在テハ嘗試ト云フニ試味ト云フ意義ヲモ包含セルモノナレバ其儘ニシテ可ナリ
第六百六十九條 前條ニ定メタル二箇ノ場合ニ於テ買主カ己レニ屬スル權能ノ行使ニ付キ期間ヲ定メサルトキハ短キ期間ニ於テ決答ス可キ催吿ヲ受ク若シ其決答ヲ爲サスシテ賣渡物ノ引渡ヲ受ケタルトキハ買主ハ承諾シタリトノ推定ヲ受ケ反對ノ場合ニ於テハ拒絕シタリトノ推定ヲ受ク
(村田)
商法ニテハ決答スベキ催吿ヲ受ケザルニ民法ハ其催吿ヲ受クベキヤ
(村田)
商法ト民法トハ緩急ノ差アレバナリ
第六百七十條 賣買ノ代價ハ金額ヲ以テセサルモ其目安ヲ契約ニ定ムルコトヲ要ス
又其代價ハ或ハ同種類ノ商品ノ現時又ハ近日ノ市價ニ委カセ或ハ契約ヲ以テ指定シタル第三者ノ評價ニ委カスコトヲ得
右末ノ場合ニ於テ評價カ錯誤ニ出テタルカ又ハ明白ニ公平ニ反スルトキハ其評價ニ異議ヲ爲スコトヲ得但其異議ハ損失ヲ受ケタリト主張スル一方カ評價ヲ知リタル時直チニ之ヲ爲スコトヲ要ス
第三者ト當事者ノ一方トノ間ニ共謀ノ詭譎アルトキハ第三百三十三條及ヒ第五百六十六條ノ規定ヲ適用ス
當事者ノ定メタル代價ハ元本又ハ無期若クハ終身ノ年金權ヨリ成立スルコトヲ得然レトモ第三者カ代價ヲ定ムルトキハ其代價ハ元本ノミニ非サレハ成立スルコトヲ得ス但當事者カ明示ニテ一層廣キ權限ヲ第三者ニ與ヘタルトキハ此限ニ在ラス
(村田)
目安ヲ契約スルト云フハ一坪幾圓ト云フ類ノ如シ
(栗塚)
目安ヲ以テ云々トシテハ如何
(淸岡)
目安ヲ以テト云フハ不可ナリ
(箕作)
末ノ場合ニ於テト云フヲ刪除シテハ如何
可決ス
(栗塚)
第五項ノ元本又ハ無期若クハ終身ノ年金權ト云フハ元本又ハ年金權トシテハ如何
(箕作)
原案ノ儘ヲ可トス
第六百七十一條 賣買契約ノ費用ハ當事者双方平分シテ之ヲ負擔ス但双方カ別段ノ定メヲ爲シタルトキハ此限ニ在ラス
(松岡)
賣買契約ハ曩ニ賣買契約書トセシニアラズヤ
(栗塚)
契約ノミナラズ賣買ノ證據物ハ之ヲ包含スベシト云フニテ書ノ字ヲ刪レリ
第二款 賣渡又ハ買受ノ無能力
第六百七十二條 配偶者ノ間ニ於テハ動產ト不動產トヲ問ハス賣買ノ契約ヲ禁ス
配偶者ノ一方カ他ノ一方ニ對シテ負擔スル眞實且正當ナル債務ヲ消滅セシムルニ相互ニ代物辨濟ヲ爲スコトヲ得
右代物辨濟ハ相當ノ證明ヲ爲セル後民事裁判所ノ認許ヲ得タルニ非サレハ配偶者ノ間ニ於テ有効且完全ナラス
又此代物辨濟カ不動產物權ヲ目的トスルトキハ其代物辨濟ハ證書ノ登記中ニ右認許ヲ附記シタルニ非サレハ第三者ニ對シテ効力ヲ有セス
(栗塚)
本條第二項消滅セシムルニトアルハ消滅セシムルニハト云フベキ誤脫ナリ
(淸岡)
夫婦間ニ代物辨濟ヲ爲スニハ裁判所ノ認許ヲ得ベキト云フハ不都合ナリ
(村田)
民事訴訟法トアルハ民事ヲ刪ルベシ
可決ス
(箕作)
相當ノ證明トアルハ相當ノ疎明トシタシ
(栗塚)
證明ヲ疎明トスル義ハ未ダ確言セズ〔此項削除建議〕
(箕作)
最早之ヲ確定セシメザレバ際涯ナカルベシ
可決ス
第六百七十三條 前條ニ基キタル銷除ノ訴權ハ賣渡又ハ代物辨濟ヲ爲シタル配偶者、其相續人及ヒ承接人ノミニ屬ス但其訴權ハ第五百六十六條以下ノ總般ノ規則ニ從フ
本條ハ代物辨濟ノ上ニ認許ナキノ文字ヲ加ヘ承接人ハ承繼人トシ總般ハ一般トセリ
第六百七十四條 法律上、裁判上若クハ契約上ノ代理人又ハ管理者ハ直接ニ自己ノ名ヲ以テスルモ間介人ニ因ルモ賣渡ノ任ヲ受ケタル財產ニ付キ協議上又ハ公賣上ノ取得者ト爲ルコトヲ得ス
此制禁ハ公賣ヲ處理シ又ハ指揮スルコトヲ法律ニ依リテ任セラレタル公吏ニ之ヲ適用ス
契約ハ合意トス
(箕作)
合意上ノ代理人又ハ管理者トアル「又ハ」ノ二字ハ不可ナリ
(栗塚)
又ハ卽チノ意ナレバ「代理人又ハ」ノ數字ヲ刪ルベシ
可決ス
第六百七十五條 前條ノ規定ニ背キタル賣買ノ銷除訴權ハ原所有者其相續人及ヒ承接人ノミニ屬ス
本條ハ承接人トアルヲ承繼人トセリ
第六百七十六條 判事、檢事、及ヒ裁判所書記ハ當事者ノ間ニ爭ヲ起シタル物權又ハ人權ニシテ其職務ヲ行フ裁判所ノ管轄ニ屬ス可キモノノ取得者ト爲ルコトヲ得ス
此制禁ハ右同一ノ條件ヲ以テ辯護士及ヒ公證人ニ之ヲ適用ス
(村田)
爭ヲ起シタルト云フハ不可ナリ
(栗塚)
爭ニ係ルトシテハ如何
可決ス
第六百七十七條 前條ヨリ生スル銷除訴權ハ讓渡人、權利ヲ爭フ相手方、其双方ノ相續人及ヒ承接人ニ非サレハ之ヲ行フコトヲ得ス
又權利ヲ爭フ相手方、其相續人及ヒ承接人ハ讓受人ニ讓渡ノ現價ト辨濟ノ日ヨリノ利息トヲ辨償シテ其權利ノ受戻ヲ爲スコトヲ得
右ノ規定ハ違背者ニ對スル懲戒ノ罰ヲ妨ケス
本條モ承接人トアルヲ承繼人トス
(栗塚)
第三項ハ削除ノ建議アルモ個ハ懲戒ヲ妨ゲズト云フニ付キ刪除セザルヲ可トス
(松岡)
懲戒ニ屬スルモノハ懲戒令ニ讓移シテ可ナリ
(村田)
公證人ノ如キハ懲戒令ナシ
(南部)
公證人ト雖トモ懲戒處分ナキニ非ザルナリ
第三款 賣渡スコトヲ得サル物
第六百七十八條 賣買カ性質ニ因リテ總般ニ融通スルコトヲ得サル物又ハ特別法ヲ以テ各人ニ處分ヲ禁シタル物ヲ目的トスルトキハ其賣買ハ無効ナリ
此賣買ノ無効ハ排斥ニ依ルモ訴權ニ依ルモ當事者各自ニ之ヲ申立ツルコトヲ得
當事者ノ一方カ詭譎ヲ以テ賣買ノ制禁ナルコトヲ隱蔽シタルトキハ其損害賠償ノ責ニ任ス
(栗塚)
總般ハ一般トシ排斥ト云フハ抗辯トスベシ
(箕作)
訴權ニ依ルモト云フハ奇異ナリ
(槇村)
抗辯ヲ以テスルモ訴權ヲ以テスルモトスベシ
(松岡)
抗辯ニ依ルモハ訴ニ依ルモトスベシ
可決ス〔第三項削除建議〕
<末項削除建議>
第六百七十九條 他人ノ物ノ賣買ハ當事者双方ニ於テ無効ナリ
然レトモ賣主ハ賣買ノ際其物ノ他人ニ屬スルコトヲ知ラサルニ非サレハ其無効ヲ申立ツルコトヲ得
相互ノ訴權、排斥ノ行使、代金ノ返還及ヒ賣主ノ負擔シタル賠償ニ關スル規則ハ次節ノ追奪ノ事項ニ於テ之ヲ規定
(村田)
第三項ハ次節ニ示シタルコトノ送リニ過ギザレバ刪ルベシ
(栗塚)
報吿委員ハ不知案内者ノ爲メニ存在セシムベシト云フニアリ
(淸岡)
刪除スベシ其議ニ決ス
第六百八十條 賣買契約ノ當時ニ於テ物カ全部滅失シタルトキハ其賣買ハ無効ナリ但賣主カ此滅失ヲ知リタルトキ又ハ賣主ニ之ヲ知ラサルノ過失アルトキハ善意ノ買主ニ對スル損害賠償ヲ妨ケス
物カ一分ノミ滅失シ買主之ヲ知ラサリシトキハ買主ハ其選擇ヲ以テ或ハ殘餘ノ部分カ用方ニ不十分ナルコトヲ證明シテ賣買ヲ銷除シ或ハ割合ヲ以テ代價ヲ滅少シテ賣買ヲ保持スルコトヲ得但右二箇ノ場合ニ於テ賣主ニ過失アルトキハ其損害賠償ヲ妨ケス
賣買銷除ノ請求ハ買主カ一分ノ滅失ヲ知リタル時ヨリ六ケ月ヲ過キ又代價滅少ノ請求ハ右ノ時ヨリ二个年ヲ過クレハ之ヲ受理セス此他明示又ハ默示ノ認諾ノ場合モ亦同シ
本條ハ證明ヲ疎明トセリ
第二節 賣買契約ノ効力
第一款 所有權ノ移轉及ヒ危險
第六百八十一條 賣買契約ハ賣渡物ノ所有權ノ移轉及ヒ危險ニ付テハ第三百五十一條、第三百五十二條、第三百五十五條及ヒ第四百三十九條ノ普通規則ニ從フ
無異議
<削除建議>
第六百八十二條 賣買ノ目的カ不動產ナルトキハ其契約ヲ以テ賣主ノ特定且善意ノ承接人ニ對抗スルニハ第三百六十八條以下ノ規定ニ從ヒ登記ヲ爲スコトヲ要ス
第三百六十六條及ヒ第三百六十七條ハ右同一ノ目的ヲ以テ有體動產及ヒ債權ノ賣買ニ之ヲ適用ス
本條ハ全然無用ナリト云フニテ刪除ノ建議アリ
(箕作)
本條ヲ無用ナリト云ヘハ自然前條モ無用ナルベキニ至ル依テ本條ハ存在セシムベシ
可決ス又承接人ハ承繼人トス
第二款 賣主ノ義務
第六百八十三條 賣主ハ定量物ノ所有權ヲ移轉スルノ義務ノ外尙ホ賣渡物ヲ引渡スノ義務引渡ニ至ルマテ其物ヲ保存スルノ義務及ヒ妨碍追奪ニ對シテ買主ヲ擔保スルノ義務ニ任ス
無異議
第一則 引渡ノ義務
第六百八十四條 賣主ハ賣渡物ヲ其約束シタル時期及ヒ場所ニ於テ現存ノ形狀ニテ引渡スノ責ニ任ス但其保存ニ付キ懈怠アルトキハ買主ニ對シテ賠償ヲ負擔ス
引渡ノ時期及ヒ場所ニ付キ約束セサリシトキハ第三百五十三條第六項及ヒ第七項ノ規定ニ從フ
然レトモ買主カ代金辨濟ニ付キ契約上ノ期間ヲ得サリシトキハ賣主ハ其辨濟ヲ受クルマテ賣渡物ヲ留置スルコトヲ得
賣主ハ代金辨濟ノ爲メ期間ヲ許與シタルトキト雖モ買主カ賣買後ニ破產シ若クハ無資力ト爲リ又ハ賣買前ニ係ル無資力ヲ隱蔽シタルトキハ尙ホ引渡ヲ遲延スルコトヲ得
本條ハ契約ストアルヲ合意上トス
(箕作)
遲延ト云フ次ハ妥當ナリヤ
(尾崎)
延バスコトトシタシ
(栗塚)
原案ノ儘ニ附セラレタシ
第六百八十五條 賣主ハ契約ニ定メタル數量ヲ過不足ナク引渡スコトヲ要ス
然レトモ下ノ數條ニ定メタル場合及ヒ區別ニ從ヒ賣主又ハ買主ハ約定ノ數量ヨリ多ク讓渡シ又ハ取得スルノ責ニ任ス
無異議
第六百八十六條 賣渡物カ特定不動產ニシテ契約ニ其全面積ヲ明言シ且各坪ノ代價ヲ指示シタル場合ニ於テ現實ノ面積カ指示ノ面積ニ不足スルトキハ賣主ハ面積ヲ擔保セサル旨ヲ明言シタルトキト雖モ割合ヲ以テ代價減少ノ要求ニ服ス
現實ノ面積カ指示ノ面積ニ超過スルトキハ買主ハ割合ヲ以テ代價補足ノ要求ニ服ス
無異議
第六百八十七條 全面積ヲ明言シ唯一ノ代價ヲ以テ不動產ヲ賣渡シ其面積ノ不足ノ場合ニ於テ賣主ハ惡意ナルトキ又ハ善意ナルモ面積ヲ擔保シタルトキ又ハ不足ノ坪數カ少ナクトモ二十分一ナルトキニ非サレハ代價減少ノ要求ニ服セス
面積ヲ擔保セス又ハ面積ハ槪算ナリトノ附記ハ惡意ナル賣主ノ責任ヲ減セス
超過ノ場合ニ於テハ買主ハ其超過カ二十分一ニ及ヘルトキニ非サレハ代價補足ノ要求ニ服セス
(村田)
唯一ノ代價ト云フハ如何
(箕作)
十把一束ノ代價ト云フカ如シ
(北畠)
坪數ト云フハ一區域ト云フ義カ
(栗塚)
坪ト云フ語ハ地面又反物等ニモ使用スベシ
第六百八十八條 建物ノ存スルト否トヲ問ハス數箇ノ土地ヲ一箇ノ契約ヲ以テ其各箇ノ面積ヲ指示シ唯一ノ代價ニテ賣渡シタル場合ニ於テ其面積カ一箇ノ土地ニ超過アリ一箇ノ土地ニ不足アルトキハ其坪ノ箇數ニ從ハス其評價額ニ從ヒテ相殺ス
此相殺ノ後猶ホ原價二十分一ノ過不足アルトキハ割合ヲ以テ代價ヲ增加シ又ハ之ヲ減少ス
此規定ハ一箇ノ土地内ニ於テ別異ノ性質アル各部分ノ面積ヲ指示シタル場合ニモ之ヲ適用ス
無異議
第六百八十九條 買主ハ面積不足ノ爲メ代價減少ニ付キ權利ヲ有スル場合ニ於テ尙ホ損害ノ賠償ヲ要求スルコトヲ得又買主ハ約束シタル面積カ其用方ニ必要ナルコトヲ證明シ且面積ヲ擔保セサルノ明言ナキ賣買ニ非サルトキハ契約ノ銷除ヲモ請求スルコトヲ得
超過ノ場合ニ於テ買主ハ二十分一以上ノ代價補足ヲ辨償スルコトヲ要スルトキハ單一ニ解約スルコトヲ得
(栗塚)
單一ニト云フヲ單純ニトシタシ
(箕作)
本條證明トアルハ卽チ證據立ルト云フ義ニシテ疎明ト云フ義ニアラズ
(栗塚)
此點ハ證シト爲シ置キ追テ商法及ビ訴訟法ト對査スベシ
可決ス單一ハ單純トスルニ決ス
第六百九十條 上ノ規定ハ目方、員數及ヒ尺度ヲ以テ指示シタル數量カ買主ニ於テ容易且卽時ニ調査スルコトヲ得サル日用品及ヒ動產物ノ賣買ニ之ヲ適用ス
無異議
第六百九十一條 前數條ヨリ生スル代價改正、損害賠償又ハ契約銷除ノ訴權ハ不動產ニ付テハ一个年ノ期間動產ニ付テハ一个月ノ期間ニ於テ之ヲ行フコトヲ要ス
右期間ノ經過ハ賣主ニ在リテハ契約ノ日ヨリ買主ニ在リテハ引渡ノ日ヨリ始マル
(村田)
第六百八十九條單純ニ解約スルコトヲ得ト云フハ契約銷除ニ屬スルヤ
(南部)
然リ
(村田)
他ノ場合ハ皆契約銷除トアルニ此場合ニハ單純ニ解約スルコトヲ得トアルヲ以テ不明了ニアラザルカ
(南部)
不明了ニアラズ
<削除建議>
第六百九十二條 第六百九十三條 第六百九十四條 第六百九十五條 第六百九十六條 第六百九十七條 第六百九十八條 ハ傍聽ヲ缺ク
第六百九十九條 他人ノ物ノ賣主ハ日後其物ノ所有者ト爲リタルトキハ買主ヲシテ賣買ヲ認諾スルヤ又ハ正當ノ賠償ヲ以テ擔保訴權ヲ行フヤノ一ヲ擇マシムルコトヲ何時ニテモ催吿スルコトヲ得
右同一ノ權利ハ他人ノ物ノ賣主ノ相續人ト爲リタル眞所有者ニ屬シ又眞所有者及ヒ賣主ニ相續シタル第三者ニ屬ス
(栗塚)
本條ハ起案者ヨリ正當ノ賠償ヲ以テト云ヘルヲ賣買ヲ認諾スルヤノ上ニ轉置セリ
(箕作)
正當ノ賠償ヲ以テト云フハ刪ルベシ
可決ス
第七百條 買受物ノ分割ノ部分カ完全所有權又ハ虛有權ニテ第三者ニ屬スル場合ニ於テ買主カ右ノ部分ヲ取得スルヲ得サルコトヲ知レハ初ヨリ其物ヲ買ハサル可キ程ニ其性質又ハ廣狹ニ因リテ有益ナルコトヲ證明スルトキハ全部追奪ノ爲メ定メタル如ク損害ノ賠償ヲ得テ契約ヲ銷除スルコトヲ得
買主ハ契約ノ銷除ヲ宣吿セシメサルトキハ其受ケタル直接且現時ノ損失ノ限度ニ於テ賠償ヲ要求スルコトヲ得
(栗塚)
本條第二項ハ證明スルト云ヘルヲ證スルトシ第二項ハ契約ノ銷除ヲ宣吿セシメト云ヘルハ契約銷除ノ判決ヲ得トシタリ
(松岡)
本條ハ意義摸稜ニ屬セリ
(栗塚)
追テ起案者ノ註解ヲ報吿スベシ
賃貸借ニ關スル議
(南部)
賃貸借ハ物權ノ性質ナルヤ將タ人權ノ性質ナルヤ其槪要ヲ決シテハ如何
(箕作)
逐條ヲ審議シタル上其物權タルカ人權タルヤヲ決シテハ如何
(北畠)
賃貸借ノ性質論ハ既ニ委員會ニ於テ論決シタルモノナレバ「ボアソナード」氏ノ駁撃ノ意見ヲ視ルモ爲メニ委員會ノ定論ヲ動揺スルヲ得ザルベシ依テ同氏ノ意見ニ付之ヲ我邦ノ狀況ニ徵シ其慣習ニ支牾セザル部分ハ採用スルコトトシ最早其性質論ヲ再演スルニ及バザルベシ
(委員長)
人權ト物權トノ性質論ニ付テハ既ニ各報吿委員ヲモ會集シ充分ノ論理ヲ喧鬪シタルモ「ボアソナード」氏ハ更ラニ反對ノ意見アルニ付キ其性質論ハ「ボアソナード」ノ意見ニ從ハザルベカラズ依テ賃貸借上ヨリ出スル轉貸ノ如キ行爲ニ屬スル方法ヲ可否シタシ
(尾崎)
轉貸ハ禁歇スベシト云フニ決シタルニアラズヤ
(委員長)
轉貸ノ可否ハ未ダ決議ニ屬セザルナリ卽チ其點ヲ議スベシト云フニ可決ス
第百四十二條
(村田)
物權人權ノ性質論ハ停止シタリト雖ドモ物權中ニ於テ讓渡スルヲ得ザルモノアリヤ
(北畠)
人權物權ノ論ニ立戻ラントスルハ不可ナリ
(箕作)
第一項ノ但書ハ反對ノ慣習又ハ合意アルトキハ此限ニアラズトシテハ如何
(淸岡)
慣習ト云フモ廣漠タル言詞ニシテ殆ンド論種ヲ樹植スルモノト云フベシ個ハ借受シタル物品ヲ更ラニ他ニ轉貸スルヲ得ベキ慣習アルト思惟セザルナリ
(栗塚)
慣習ノ文次ヲ挿入シタレバ法上ノ不都合ヲ顯出セザルナリ
(南部)
慣習ノ文次ヲ挿入スレバ事實上ノ障害ヲ屏去スベシ
(淸岡)
轉貸ノ實例ハ凡百ノ一分ニ止マルモノニシテ殆ンド其習慣ナシ
(栗塚)
資本家大地面ヲ借受ケ更ラニ之ヲ小作ニ附スルガ如キハ世上往々見ルベキノ例アリ
(淸岡)
資本家ガ政府ヨリ地面ヲ借受ケ更ラニ之ヲ小作ニ附スル場合ナキニアラズト雖ドモ此等ハ殆ンド稀少ナルベシ
(槇村)
本願寺ノ如キ其所有ニ係ル地面ノ如キハ皆之ヲ小作ニ附セリ
結局但以下ハ但反對ノ慣習又ハ合意アルトキハ此限ニ在ラズトスルニ決ス
(栗塚)
此議決ノ旨意ニ基キ逐條ハ更ラニ再調査案ヲ呈出スベシ
(箕作)
不動產ノ賃借ハ皆之ヲ登記スベキヤ
(栗塚)
然リ
(箕作)
然ラバ不動產ノ買得者モ賃貸ニ附シタル者タルヲ知ラザルノ憂ヒナカルベシ
第七百一條 買受物ノ不分ノ部分カ第三者ニ屬スルトキハ其部分ノ重要ノ如何ニ拘ハラス買主ハ損害賠償ヲ得テ契約ヲ銷除スルノ權利ヲ有ス
買主ハ契約ヲ銷除セシメサルトキハ買受物ノ價格ノ減少シタルトキト雖モ常ニ其買受代金ト契約費用トノ右部分ニ對當スル部分ヲ取戻シ又其價格ノ增加シタルトキハ其損害ノ賠償ヲ受ク
(元尾崎)
第二項右部分ニ對當スル部分ト云フハ如何
(栗塚)
費用ノ部分ニ應ズル金額ヲ云フ
(箕作)
第二項價格ノ增加シタルトキハ其損害ノ賠償ヲ受クト云ヘルハ其損害ノ賠償ヲ受クルノミニシテ費用ノ部分ヲ取戻スヲ得ザルガ如ク認メラルルニアラズヤ
(栗塚)
道理上其憂ヒナカルベシ
(南部)
前條第二項買主ハ契約ノ銷除ノ判決ヲ得ザルトアリシヲ買主ハ契約ノ銷除ヲ求メザルトキハトシ然ル上ニテ本條ヲ修正シテハ如何
可決ス
(栗塚)
本條第二項モ買主ハ契約ノ銷除ヲ求メザルトキハ買受物ノ價格ノ減少シタルトキト雖モ常ニ右部分ニ對當スル買受代金ト契約費用トノ部分ヲ取戻シ又ハ其價格ノ增加シタルトキハ其損害ノ賠償ヲ受クトスベシ
第七百二條 或ハ賣買ノ土地ニ屬スルモノトシテ契約ニ於テ述ヘタル働方地役ノ追奪アリタルトキ或ハ契約ニ於テ述ヘサル人爲ヲ以テ設定シタル受方地役ニ關シ又ハ財產ノ全部若クハ一分ニ存スル用益權賃借權ニ關シテ第三者ノ要求アリタルトキハ第七百條ノ規定ヲ適用ス但用益權又ハ賃借權ノ經過ス可キ殘餘時期カ建物ニ付テハ一个年土地ニ付テハ二个年ヲ超ヱサルトキニ限ル
賣買ノ財產ノ全部ニ存スル用益權又ハ賃借權ノ繼續時期カ建物ニ付テハ一个年土地ニ付テハ二个年ヲ超ユ可キトキハ買主ハ自己ニ存留セル權利ノ不十分ナルヲ證明スルコトヲ要セスシテ第七百一條ニ從ヒ賣買ヲ銷除セシムルコトヲ得
(栗塚)
本條第二項證明スルトアルハ證スルトシ第七百一條トアルヲ前條トシ銷除セシムルコトヲ得トアルヲ銷除スルコトヲ得トスベシ
可決ス
(栗塚)
第二項ハ又ハ財產ノ全部若クハ以下ハ全ク原文ノ意義ニ反シタルヲ以テ又ハ財產ノ一分ニ存スル用益權賃借權ニ關シテ第三者ノ要求アリタルトキハ第七百條ノ規定ヲ適用ス財產ノ全部ニ存スル用益權又ハ賃借權ニシテ其經過ス可キ殘餘時期ガ建物ニ付テハ一个年土地ニ付テハ二ケ年ヲ超エザルモノニ關シテモ亦同ジトスベシ
可決ス
(松岡)
繼續時期ト云フモ殘餘時期ト云フモ同一意義ニアラズヤ
(栗塚)
然リ
第七百三條 契約ニ於テ述ヘタルト否トヲ問ハス賣買ノ土地ニ先取特權又ハ抵當權ノ負擔アリテ買主カ其代金ノ辨濟ノ前又ハ辨濟ノ時其土地ヲシテ右ノ負擔ヲ免カレシムル爲メニ必要ナル方式ヲ履行セサルニ因リ賣主ノ債權者ノ爲メニ所有權ヲ取上ケラレタルトキハ買主ハ賣主ニ對シ第六百九十五條及ヒ第六百九十六條ノ規定ニ從ヒテ擔保ノ求償權ヲ有ス
無異議
第七百四條 差押ヘタル財產ノ競落者カ追奪ヲ受ケタルトキハ被差押人ニ對シテ代金ノ返還ヲ求ムルコトヲ得若シ被差押人カ無資力ナルニ於テハ代金ノ配當ヲ受ケタル債權者ニ對シテ其代金ノ返還ヲ求ムルコトヲ得
競落者ハ差押人カ差押ノ際ニ其財產ノ債務者ニ屬セサルコトヲ知リタルニ非サレハ之ニ對シテ損害賠償ヲ要求スルコトヲ得ス又債務者カ其財產ニ存スル第三者ノ權利ヲ詭譎ヲ以テ隱蔽シタルニ非サレハ之ニ對シテ損害賠償ヲ要求スルコトヲ得ス
公賣條件書ノ錄製及ヒ競落ノ處理ニ任シタル公吏ハ甚シク其職分ヲ缺キタル爲メ買主ノ錯誤ヲ惹起シタルニ非サレハ損害賠償ノ責ニ任セス
(栗塚)
詭譎ノ文字ハ例ニ從ヒ詐欺トスベシ
(箕作)
第二項ノ債務者ト云フハ第一項ノ被差押人ト同一人ナルヤ
(南部)
然リ
第七百五條 債權ノ賣主ハ當然自己ノ債權ノ存立及ヒ其有効ノ擔保ニ任ス
又賣主ハ明示ニテ債務者ノ有資力ノ擔保ヲ約束シタルニ非サレハ其擔保ニ任セス
有資力ノ擔保ニ任シタル場合ニ於テモ賣主ハ債權カ既ニ滿期ト爲リタルトキハ讓渡ノ日ニ於ケル有資力ノミニ付キ且受取リタル代金ノ限度ニ從ヒテ其責ニ任ス但一層廣大ナル擔保ノ明約ト裏書ヲ以テ讓渡ス商證券ノ特別規則トヲ妨ケス
未タ滿期ト爲ラサル債權ノ讓渡ニ於テ讓渡人カ他ノ特約ナクシテ債務者ノ將來ノ有資力ヲ擔保シタルトキハ其擔保ハ滿期ヨリ一ケ年又無期年金權ニ付テハ其讓渡ヨリ十ケ年ニテ絕止ス
(元尾崎)
第三項ハ債權ノ滿期ト爲リタルモノヲ讓渡シタルトキヲ云フニアリヤ
(南部)
然リ
(元尾崎)
明約アルトキハ此限リニアラズ又裏書讓渡ヲ爲ス商證券ハ商法ノ規定ニ從ヒ本條ノ支配ヲ受ケザルヲ云フカ
(栗塚)
然リ
(元尾崎)
明約トアルヲ明約アルトキハ此限ニ在ラズトシテハ如何原案ニ決ス
第七百六條 物上ト對人トヲ問ハス爭ニ係ル權利ノ讓渡ニ於テハ讓渡人ハ特別ノ契約ナク且讓受人カ爭ヒ有ルコトヲ知リタルトキハ其主張ノ虛構ナラサルコトヲ擔保スルノミニシテ讓渡シタル權利ノ眞ノ成立ヲ擔保セス
裁判上ト裁判外トヲ問ハス權原ニ關スル明白ノ爭ノ目的タル權利ニ付テノミ右ノ規定ヲ適用ス
本條ニ定メタル擔保ニ任スル讓渡人ハ讓渡代金ノ返還ノ外讓受人カ正當ニ期望シタル利益ノ賠償ヲ負擔ス
(元尾崎)
第三項權原ニ關スルト云フハ如何
(栗塚)
所有權ニ關スルト云フガ如シ
(松岡)
占有中ニモ權原ナキニアラズ所有權ト占有權トヲ駢ビタルトキハ所有權ヲ以テ權原トスベシ
第七百七條 相續人又ハ包括名義ノ受遺者トシテ既ニ發開シタル相續ノ全部又ハ一分ニ係ル不分ノ權利ヲ賣渡シタル者ハ其賣渡シタル部分ニ付キ自己ノ權利ノ存立ヲ擔保ス
右賣主ハ定マリタル得益ヲ擔保スルコトヲ明言シタルニ非サレハ其擔保ニ任セス又賣主カ其相續又ハ受遺ノ部分ヲ特定セスシテ單ニ自己ノ權利ヲ賣渡シタルトキハ買主ハ相續人又ハ受遺者ノ增減ヨリ生スル得益ノ增減ヲ受ク
第七百八條 相續權ノ買主ハ相續ノ債務ニ對スル日後ノ訴追ニ付キ賣主ヲ擔保スルコトヲ要ス
又賣主カ相續ノ債務ノ全部若クハ一分ヲ既ニ辨濟シ又ハ財產ヲ保存スル爲メニ費用ヲ出シ又ハ自ラ相續ニ對シテ債權ヲ有スルトキハ買主ハ之ヲ賣主ニ計算スルコトヲ要ス
右ニ反シテ賣主ハ自ラ相續ニ對シテ負擔スル債務相續ノ債權ニ付キ受取リタル利得及ヒ相續ヨリ收取シタル其他ノ利益ヲ買主ニ計算スルコトヲ要ス
(栗塚)
此兩條ハ相續ノ賣買ヲ規定シタルモノニシテ恰モ舊幕時代五家人株ヲ賣買シタル事實ニ類スベキヲ以テ相續ノ賣買ト云フモノ稀レニ生ゼザルニアラザルベシ然ルニ此ノ如キハ相續編ノ規定ヲ待タザレバ之ヲ賣買編ニ明記シ世人ノ喫驚ヲ博スル如キ憂ヒ勿ラシメタシ
(委員長)
此兩條ヲ全刪スレバ此點ニ對スル事項ハ缺如ニ屬スルヲ以テ人事編ニ送入スベキ規準ヲ定メ置カザルベカラズ
(元尾崎)
相續ヲ賣買スルト云フ事件ヲ許スヤ否ヲ明決セザレバ何レニモ之ヲ明記スルヲ得ザルナリ
(委員長)
浴場營業ノ如キハ相續ヲ賣買スルコトアラザルカ
(南部)
浴場ノ賣買ハ多クハ其株ノ賣買ニシテ相續ノ賣買ニアラズ
(委員長)
假令バ醫業家ニ成長シタル人子ニシテ箕喪ノ業ヲ繼グ能ハザルヨリ自ラ他ノ事業ニ從事セントシテ從來ノ家業ハ之ヲ讓與スル場合ナシトセズ
(栗塚)
相續ヲ買受ケタル者ハ其權利義務ヲ擔當セザルヲ得ザルベシ
(委員長)
家名ヲ擧ゲテ之ヲ賣讓スルトキハ其權利義務ヲモ擔當スベキモ相續ノ一分ヲ賣却スルガ如キハ然ラザルベシ
(尾崎)
人事編規定ニ讓リ置クベシ其議ニ決ス
第七百九條 特定又ハ包括ノ民事又ハ商事ノ會社ニ於ケル自己ノ權利ヲ賣渡シタル者ハ其權利ノ存立及ヒ其賣買契約ニ示セル權利ノ廣狹ニ付テノミ擔保ニ任ス
會社ノ從前ノ營爲ヨリ生シ既ニ淸算濟ト爲リタル賣主ノ權利及ヒ義務ハ買主ニ利害ノ關係ヲ及ホスコト無シ
賣主ト會社トノ間ニ於ケル特別ノ計算ニ付テモ亦同シ
(栗塚)
營爲ノ文字ハ營業ノ誤ナリ
(元尾崎)
民事會社ト云フハ如何
(栗塚)
商法ニハ民事ノ目的ヲ以テスル會社モ之ヲ商事會社ト看做ストアルヲ以テ其他ニ民事會社ノ設立ハ稀少ナルベシ
(箕作)
株式會社ナレバ民事ノ目的ヲ以テスルモノト雖ドモ之ヲ商事會社ト看做スベキモ民事上ノ合名會社ハ民事會社ト云ハザルベカラズ
(委員長)
開墾會社ノ如キハ民事會社ナルベシ
(村田)
開墾會社ハ大抵株式上ニ成立スルモノナリ
(元尾崎)
赤十字社ハ如何
(栗塚)
赤十字會社ノ如キハ公役所ト云フニ屬スベシ
(南部)
又ハ商事ノト云フ字ヲ刪除スルニ止ムベシ民事會社ハ存立セザルモノトスルヲ得ザレバナリ
(栗塚)
民事會社ナリ商事會社ナリ其權利ヲ賣却シタルトキハ其擔保ノ責ニ任ゼザルベカラズト云フニアレバ冒頭ハ會社ニ於ケル云々トシ「特定又ハ包括ノ民事又ハ商事ノ」ト云フ字ヲ刪除シテハ如何
可決ス
第七百十條 上ノ場合ニ於テ無擔保ニテ賣買スルトノ契約ヲ爲シタルトキト雖モ買主カ追奪ヲ受ケタルニ於テハ賣主ハ代金ヲ返還スルノ責ニ任ス但買主カ賣買ノ時ニ於テ追奪ノ危險アルコトヲ了知シタルトキハ賣主ハ此返還ヲ負擔セス
賣主ハ買主ノ危險負擔ニテ賣買スルトノ契約ヲ爲シタルコトノミニ因リテ亦代金ヲ返還スルノ責ヲ免カル
然レトモ如何ナル場合ニ於テモ又如何ナル約款ニ依ルモ賣主ハ賣買ノ前後ヲ問ハス第三者ニ授與シタル權利ヨリ生スル妨碍又ハ追奪ノ擔保ヲ免カルルコトヲ得ス
(元尾崎)
無擔保ニテ賣買スルトノ契約ヲ爲スモノアリヤ
(栗塚)
賣買上ニ無擔保ナルハ殆ンド稀少ナルベシ
第七百十一條 賣主カ擔保ノ義務ノ全部又ハ一分ヲ買主ノ惡意ノ故ヲ以テ免カレント主張スルトキハ賣渡物ニ關スル行爲ヲ第三者ノ利益ノ爲メニ登記シタリト雖モ其登記ノミニテハ買主ノ惡意ヲ證明スルニ足ラス尙ホ賣主ハ登記官吏ノ保證書ニ依リ又ハ其他ノ方法ヲ以テ買主カ賣買ノ前ニ右ノ行爲ヲ了知シタル直接ノ證據ヲ供スルコトヲ要ス
(栗塚)
本條ハ登記シタリトアルヲ登記シ有リトシタシ
可決ス
(村田)
證明スルトアルハ證スルトスベキヤ
(栗塚)
然リ
(箕作)
第三者ノ上「行爲ヲ」トアルハ「行爲カ」トスベシ
可決ス
(松岡)
惡意ト云フハ可ナルヤ
(栗塚)
惡意トハ之ヲ知リシモノヲ云フ
第七百十二條 第四百十九條及ヒ第四百二十條ハ擔保ノ爲メニスル賣主ノ召喚ニ付キ及ヒ追奪ヲ受ケタル買主カ擔保人ヲ訴訟ニ參加セシメサル爲メニ生スル失權ニ付キ之ヲ適用ス
無異議
第三款 買主ノ義務
第七百十三條 買主ハ約束シタル時期ニ於テ代金ヲ辨濟スルコトヲ要ス又其時期ニ付キ特別ノ契約ナキトキハ引渡ノ時ニ於テ之ヲ辨濟スルコトヲ要ス
引渡ヲ日後ニ延フルノ契約アルトキハ當事者ニ代金ノ辨濟ヲ暗ニ日後ニ延フルノ意思アリト推定ス
賣主カ引渡ノ爲メ恩惠期間ヲ裁判所ヨリ得タルトキハ買主ハ代金辨濟ノ爲メ同一ノ期間ヲ享有ス
又代金辨濟ノ恩惠期間ハ引渡ノ爲メ賣主亦之ヲ享有ス
(栗塚)
本條ハ約束及ビ契約ノ文字ハ皆之ヲ合意トシ第四項亦ヲ刪ルベシ
(委員長)
亦ハ存在セシムベシ
(栗塚)
亦ヲ存スレバ同項ノ上又ノ字ヲ刪ルベシ
可決ス
第七百十四條 代金辨濟ノ場所ヲ約束セサルトキハ其辨濟ハ有體動產ニ付テハ引渡ヲ爲ス場所不動產、債權、相續ノ權利、爭ニ係ル權利又ハ會社ニ於ケル權利ニ付テハ證書ノ交付ヲ爲ス場所ニ於テ之ヲ爲ス
引渡ノ前後ヲ問ハス代金辨濟ノ要求ヲ受ク可キトキハ其辨濟ハ買主ノ住所ニ於テ之ヲ爲ス
(栗塚)
本條ハ第一項相續ノ權利ト云ヘルヲ刪リ第二項ハ引渡ノ前後ヲ問ハズトアルヲ引渡ノ前又ハ後ニト代金辨濟ノ要求ヲ受クベキトアルヲ代金辨濟ノ辨濟ヲ要求ス可キトシタシ
(委員長)
要求ヲ受ク可キト云フヲ可トス
(松岡)
要求ヲ受ク可キト云フハ不可ナリ
(南部)
辨濟ヲ要求ス可キトセザレバ明了ナラズ
(箕作)
辨濟ヲ要求スルコトヲ得可キトキトスベシ
可決ス
第七百十五條 買受物カ果實其他金錢ニ見積ルコトヲ得ヘキ定期ノ利益ヲ生スルトキハ買主ハ引渡ノ時ヨリ當然代金ノ利息ヲ負擔ス
反對ノ場合ニ於テハ利息ハ特別ノ契約又ハ辨濟ノ催吿ニ依ルニ非サレハ之ヲ負擔セス
(栗塚)
契約ノ文字ハ例ニ從ヒ合意トスベシ
第七百十六條買主カ物上訴權ニ因リテ妨碍ヲ受ケ又ハ妨碍ヲ受クルノ危險アル正當ノ事由ヲ有スルトキハ賣主カ其妨碍若クハ危險ヲ止マシメ又ハ迫奪アリタルニ於テハ代金ヲ返還スルノ保證人ヲ立ツルマテ買主ハ右訴權ノ輕重ニ從ヒテ代金ノ全部又ハ一分ノ辨濟ヲ拒ムコトヲ得
此規定ハ買主カ買受物ノ他人ニ屬スルヲ直接ニ證明スルコトヲ得ルトキハ賣買ノ無効ヲ宣吿セシメ及ヒ擔保ノ訴權ヲ行フ買主ノ權利ヲ妨ケス
(栗塚)
妨碍ヲ受クルノ危險アルト云ヘルハ妨碍ヲ受クルノ恐レアルトシタシ妨碍ヲ受ントスル恐レアル情況ヲ指シタルモノナレバナリ
(委員長)
止マシメト云ヘルハ止マシムルマデト云フ義ナルベシ
(元尾崎)
止マシムルマデトシタシ
(南部)
マデハ明記セザルモ明カナリ
(栗塚)
危險アルハ恐レアルトシ末項ハ證明スルトアルヲ證スルトシ無効ヲ宣吿セシメトアルヲ無効ノ判決ヲ求メトスベシ
可決ス
第七百十七條 買受ケタル不動產ニ付キ抵當權又ハ先取特權ノ登記アルトキハ買主ハ滌除ノ方式ヲ行フタル後ニ非サレハ代金ヲ辨濟スルノ責ナシ但法津上ノ期間ニ於テ滌除ヲ行フコトヲ要ス
(栗塚)
本條登記ノ文字ハ記入ノ誤ナリ
第七百十八條 前三條ノ場合ニ於テ賣主ノ先取特權及ヒ第三者ニ對スル解除ノ權利ヲ保存スル爲メ必要ノ方式ヲ行ハサルトキハ賣主ハ當事者双方ノ名ヲ以テ買主ヲ猶豫ナク代金ヲ供託セシメ當事者双方ノ承諾又ハ裁判所ノ判決ニ依リテ諸手續ノ終了後ニ非サレハ其代金ヲ引取ルヲ得サルノ處分ヲ要求スルコトヲ得
(栗塚)
本條ハ猶豫ナクノ文字以下ハ代金ヲ供託セシムルコトヲ得但當事者双方ノ承諾又ハ裁判所ノ判決アルモ諸手續ノ終了後ニ非ザレバ其代金ヲ引取ルコトヲ得ザルノ方法ニ依ルコトヲ得トシタシ
(松岡)
裁判所ノ判決アルモト云フハ不明ナリ
(栗塚)
裁判所ノ判決アルニ非ザレバト云フ意義トセザルベカラズ
結局猶豫ナク代金ヲ供託セシムルコトヲ得但其代金ハ當事者双方ノ承諾又ハ裁判所ノ判決ニ依リ且諸手續ノ終了後ニ非ザレバ之ヲ引取ルヲ得ズトス
第七百十九條 動產物ノ買主カ代金ヲ辨濟シタルト否トヲ問ハス引渡ヲ受クル權利ヲ有スル時ニ於テ其引渡ヲ受ケサルトキハ賣主ハ第四百九十五條乃至第五百條ニ從ヒテ其賣渡物ノ提供及ヒ供託ヲ爲スコトヲ得
然レトモ日用品其他速ニ敗損ス可キ物ニ付テハ賣主ハ買主ノ爲メ之ヲ轉賣スルコトヲ得ルトキハ其轉賣ヲ爲スコトヲ要ス
(栗塚)
本條第二項ハ然レドモ日用品其他速ニ敗損ス可キ物ニ付テハ賣主ハ之ヲ轉賣スルコトヲ得ルトキハ買主ノ爲メ其轉賣ヲ爲スコトヲ得トシテハ如何
(村田)
原案ノ儘ニテ可ナリ
可決ス
第三節 賣買ノ解除及ヒ銷除
第一款 義務ノ不履行ニ因ル解除
第七百二十條 當事者ノ一方カ上ニ定メタル義務其他特ニ負擔スル義務ノ全部若クハ一分ノ履行ヲ缺キタルトキハ他ノ一方ハ第四百四十一條乃至第四百四十四條ニ從ヒ裁判上ニテ契約ノ解除ヲ請求シ且損害アレハ其賠償ヲ要求スルコトヲ得
當事者カ解除ヲ明約シタルトキハ裁判所ハ恩惠期間ヲ許與シテ其解除ヲ延ヘシムルコトヲ得ス然レトモ此解除ハ履行ヲ缺キタル當事者ヲ遲滯ニ付シタルモ猶ホ履行セサルトキニ非サレハ當然其効力ヲ生セス
無異議
第七百二十一條 買主カ辨濟其他ノ義務ヲ缺キタル爲メノ解除ハ買主ノ猶ホ代金ヲ皆濟セサルコトヲ記載シ又ハ其責任タル負擔及ヒ條件ヲ明示シタル賣買證書ヲ登記シタルニ非サレハ賣主ヨリ轉得者ニ對シテ之ヲ請求スルコトヲ得ス但第千百八十七條ノ規定ヲ妨ケス
〔第二項起案者刪除〕
(栗塚)
代金ヲ皆濟セザルコトトアルハ代金ノ全部若クハ一分ヲ負擔スルコトヲ記載シト云ヘル意味ニハ恰當セザルニ依リ議決案ノ精神ニ反セリト思惟ス依テ代金ノ全部若クハ一分ヲ負擔スルコトヲ記載シトシヌハ其責任タル負擔トアル負擔ノ上ニ他ノ字ヲ加ヘタシ
可決ス
第七百二十二條 辨濟期限ヲ定メ有ル動產ノ賣買ニ於テ其引渡ヲ實行シタルトキハ辨濟ヲ缺キタル爲メノ賣主ノ解除ノ權利ハ買主ノ他ノ債權者ヲ害スルコトヲ得ス
辨濟期限ノ定メ無キ賣買ニ付テハ賣主ハ引渡ヨリ八日内ニ賣買ヲ解除セシムルコトヲ得然レトモ善意ナル第三者ノ既得ノ物權ヲ害スルコトヲ得ス
(栗塚)
本條ハ第一項冒頭ニ記載セル辨濟期限ヲトアルヲ辨濟期限ノトスベシ
可決ス
(淸岡)
解除セシムルト云ヘルハ解除スルトシタシ
(栗塚)
解除セシムルト云フハ裁判所ニ對シテト云フ意義ニアラズ相手方ニ對シト云フ意味ナリ
(尾崎)
解除スルトシタシ
可決ス
第二款 受戻權能ノ行使
第七百二十三條 賣主ハ賣買證書ニ明記シタル受戻ノ約款ニ依リ買主ノ辨濟シタル代金ト費用ノ部分トヲ指定ノ期間ニ買主ニ返還スルトキハ其賣買ヲ解除スル權能ヲ要約スルコトヲ得
右期間ハ不動產ニ付テハ五ケ年動產ニ付テハ二ケ年ヲ超ユルコトヲ得ス此ヨリ長キ時期ノ要約ハ當然之ヲ此期限ニ短縮ス
一旦期間ヲ定メタル以上ハ右制限内ト雖トモ之ヲ伸長スルコトヲ得ス
然レトモ其伸長ハ之ヲ買戻ノ豫約ト看做スコトヲ得此場合ニ於テハ第六百六十三條及ヒ第六百六十四條ノ規定ニ從フ(然レトモ其伸長ハ單ニ之ヲ買戻ト看做スコトヲ得此項ヲ此ノ如ク修正シテ次項ニ合併スルノ建議)賣買後ニ於テ爲シ又ハ別證書ヲ以テ爲シタル受戻ノ要約ニ付テモ亦同シ
賣主ハ代金ノ半額以上ノ辨濟ノ爲メ期限ヲ與ヘ且其期限カ受戻ノ爲メ定メタル期間ノ半以上ニ及ヘルトキハ有効ニ受戻ノ權能ヲ要約スルコトヲ得ス
(南部)
報吿委員ニ於テハ括孤中ハ刪除シタシトス
(栗塚)
第四項買戻ノ豫約ト云ヘルハ再賣ノ豫約ト云フ意義ナリ
(元尾崎)
再賣買ノ豫約トスベシ
可決ス
(松岡)
期間ヲ伸長シタルトキハ再賣買トセズ更新ト認メテハ如何
(南部)
更新トスルトキハ既往ニ遡ルノ結果ヲ生ズルヲ以テ不可ナリ
(栗塚)
第五項「又ハ別證書ノ文字ハ刪除シテハ如何賣買後ニ於ケル要約ハ別證書ナルコト言ヲ要セズ
(元尾崎)
賣買後ニアラザルモ別證書ヲ以テスル場合ナキニアラズ
(淸岡)
不動產ノ買戻ヲ五ケ年ノ期限ニ止ムルハ不都合ナリ田舎ノ情況ニ於テ不動產ノ買戻ヲ五ケ年以内ニ爲スヲ得ザルナリ
(松岡)
動產ノ買戻ヲ爲サシメントスルモ之ヲ第三者ノ手裡ニ移付シタルトキハ買戻スヲ得ザルベシ
(元尾崎)
動產ハ二ケ年トシ不動產ハ十ケ年ノ期限トシテハ如何
(松岡)
解除ト再賣買トノ區別ヲ付セントスルモ實際上ニ差異ナシ賣者ハ買戻期限マデハ其中間ニ在テ所有權轉々スルモ之レニ關係セザルベシ
(南部)
解除ト云ヘバ既往ニ遡ルベキ權利義務アルモ再賣買ト云フハ然ラズ
(委員長)
其期限ハ十ケ年ヲ可トスルヤ五ケ年ヲ可トスルヤト云フヲ決スベシ
(栗塚)
賣者ノ利害ヲ虞リ買者ノ利害ヲ等閑ニ附スルヲ得ザルナリ
(南部)
年限ノ如キハ權衡上ニ關スルヲ以テ注意アルベシ卽チ十ケ年ヲ期限トスルノ說ハ否決セラル
(元尾崎)
第六項ハ全ク贅冗ニ付キ刪除シタシ此儘ニ付ス修正建議
第七百二十四條 不動產ニ付テハ法律ノ定メタル期間ニ其定メタル條件ヲ以テ爲シタル受戻權能ノ行使ハ買主カ第三者ニ授與シ又ハ第三者カ買主ノ權ニ基キテ取得シタル物權ヲ排脫シテ其不動產ヲ賣主ニ復セシム但賃貸借ノ殘期ノ三ケ年ヲ超エサルモノハ此限ニ在ラス
動產物ニ付テハ受戻ノ權能ハ善意ニテ其動產物上ニ物權ヲ取得シタル第三者ニ對シテ之ヲ行フコトヲ得ス
(松岡)
本條第一項但書ハ曩ニ刪除シタルモ再調査ニ於テハ之ヲ存在セシメントスルヤ
(栗塚)
然リ
(松岡)
前議決ノ旨ヲ可トス
(南部)
管理所爲ノ上ニ於テ必要アルベシ
(松岡)
賣者ハ金圓ノ調逹シ賣地ノ受戻シヲ爲サントスルニ三ケ年間ハ之ヲ爲スヲ得ザルト云フハ不可ナリ
(栗塚)
受戻ニハ差支ナシ只第三者ニ小作セシメシ場合ニ於テハ買戻ヲ爲シタル者ハ三ケ年間其小作人ヲシテ利益ヲ得セシメザルベカラズトス
(松岡)
受戻シヲ爲スベキモ未ダ當季ノ收穫ヲ得ザルニ其植苗ヲ拔除セシムルト云フニアラズ
(元尾崎)
三ケ年ハ一ケ年トシ置クベシ
可決ス
第七百二十五條 賣主ノ債權者ハ賣主ニ代ハリテ受戻ノ權能ヲ行フコトヲ得
然レトモ買主ハ右債權者カ豫メ其債務者ノ無資力ヲ證明シ且第三百五十九條ニ從ヒテ受戻權能ノ行使ノ爲メ裁判上ニテ賣主ニ代位スルヲ要求スルコトヲ得
買主ハ同一ノ場合ニ於テ鑑定人ノ評價シタル買受物ノ現時ノ價額ト第七百二十七條ニ從ヒテ賣主ヨリ己レニ返還ス可キ金額トノ差額ニ逹スルマテ賣主ノ債務ヲ辨濟シテ債權者ノ訴ヲ止ムルコトヲ得
(栗塚)
本條第二項證明シトアルハ原語ハエタフリートアリ
(箕作)
エタフリーハ證シトシテ差支ナシ
可決ス
第七百二十六條 賣主カ受戻ノ契約ヲ以テ賣渡シタル物ヲ日後抵當トシ又ハ之ニ其他ノ物權ヲ負擔セシメタルトキハ其權利ノ効力ハ賣主自身又ハ其債權者ノ受戻權能ノ行使ニ從フ
賣主カ受戻ニ服スル物ノ所有權ヲ讓渡シタルトキハ讓受人ハ自己ノ名ヲ以テ受戻ヲ爲スコトヲ得然レトモ讓渡前ニ賣主ノ承諾シ且登記ヲ經タル此他ノ物權ヲ妨碍スルコトヲ得ス但其擔保訴權ヲ失フコト無シ
(栗塚)
本條第一項契約ノ文字ハ約款トスベキ誤ナリ
第七百二十七條 賣主カ受戻ノ權能ヲ行ハントスルトキハ指定ノ期間ニ賣買代金及ヒ契約費用ノ外尙ホ物ノ保存費用ヲ買主ニ辨償スルコトヲ要ス
買主カ右金額ヲ受取ルコトヲ拒ミタルトキハ賣主ハ猶與ナク之ヲ供託スルコトヲ要ス
賣主ハ物ノ改良費用ヲモ辨償スルコトヲ要ス然レトモ裁判所ハ此辨償ニ付テハ賣主ニ猶與ヲ許スコトヲ得
買主ハ右金額ノ皆濟ヲ受ルマテ其物ノ上ニ留置權ヲ有ス
(栗塚)
本條ト同シク第七百十九條第一項其引渡ヲ受ケザルトキハトアルヲ其引渡ヲ受ルコトヲ拒ミタルトキハトスベシ
可決ス
但書ハ原案ニ據リテ之ヲ補フ
第七百二十八條 受戻ノ契約アル賣買カ共有ノ不分ノ部分ヲ目的トシタル場合ニ於テ買主カ他ノ共有者ヨリ促カサレタル競賣ニ因テ其全部ノ競落人ト爲リタルトキハ賣主ハ前條ニ揭ケタル金額ニ競賣ノ代金ヲ加ヘテ其全部ニ對スルニ非サレハ受戻ヲ爲スコトヲ得ス
又買主ハ全部ノ受戻ニ故障ヲ述ルコトヲ得ス
買主カ自ラ競賣ヲ促シタルトキハ賣主ハ其賣渡シタル部分ニ付テノミ受戻ヲ爲スコトヲ得
又買主ハ全部ノ受戻ニ故障ヲ述ルコトヲ得
(栗塚)
本條第一項ハ契約ヲ約款トシ賣買カ共有ノ不分ノ部分トアルハ賣買カ不動產ノ不分ノ部分トシタシ
可決ス
第七百二十九條 孰レヨリ競賣ヲ促カシタルヲ問ハス買主ニ非サル共有者ノ一人又ハ外人ノ競落シタル場合ニ於テ賣主ハ競賣ニ召喚セラレサリシトキハ其賣渡シタル部分ニ付テノミ競落人ニ對シテ受戻ノ權利ヲ有シ之ニ反スルトキハ其權利ヲ失フ
(渡)
之ニ反スルトキト云フハ如何
(松岡)
召喚セラレタルトキヲ云フ
第七百三十條 現物ヲ以テ分割シタルトキ賣主カ其分割ニ召喚セラレタルニ於テハ賣主ハ孰レヨリ分割ヲ促カシタルヲ問ハス他ノ所有者ニ歸シタル部分ニ付キ何等ノ要求ヲモ爲スコトヲ得スシテ買主ニ歸シタル部分ノミヲ受戻スコトヲ得但當事者双方カ買主ノ供與シ又ハ受取リタル補足代金ヲ互ニ計算スルコトヲ妨ケス
賣主カ分割ニ召喚セラレサリシトキハ賣主ハ選擇ヲ以テ或ハ其分割ヲ認諾シ買主ニ對シテ前項ニ示シタル權利ヲ行ヒ或ハ第七百二十七條ニ揭ケタル金額ヲ買主ニ辨償シテ共有者ニ對シテ再分割ヲ促カスコトヲ得
(元尾崎)
當事者ト云フハ賣主買主ヲ云フカ
(栗塚)
分割者ヲ指スベシ當事者双方ガト云フ文字ヲ刪リ互ニトアル上ニ當事者ノ文字ヲ加ヘテハ如何
可決ス
<但書刪除建議>
第七百三十一條 不分物ノ共有者カ一箇ノ契約及ヒ唯一ノ代價ニテ其物ヲ受戻ノ條件ヲ以テ賣渡シタルトキハ買主ハ一分ニ付キ受戻ヲ受ルノ責ナシ
又買主ハ賣主ノ一人ヨリ爲ス全部ノ受戻ニ故障ヲ述ルコトヲ得
唯一人ノ賣主カ數人ノ相續人ヲ遺シテ死亡シタルトキモ亦本條ノ規定ニ從フ
之ニ反シテ數人ノ共有者カ各別ノ契約ヲ以テ各自ノ部分ヲ賣渡シタルトキハ各別ニ受戻ヲ爲スコトヲ得但第七百二十八條及ヒ第七百三十條ノ規定ハ之ヲ此場合ニ適用スルコトヲ得
(栗塚)
條件ノ文字ハ約款ノ誤ナリ又第四項冒頭之ニ反シトアルハ此ニ反シトスベシ
可決ス
第七百三十二條 數人ノ買主カ一箇ノ契約ノ契約又ハ各別ノ契約ヲ以テ一箇ノ財產ヲ受戻ノ條件ニテ取得シタルトキ賣主カ買主ノ間ニ分割ヲ爲ササル前ニ受戻ヲ爲サント欲スルニ於テハ賣主ハ總買主ニ對シ又ハ一人若クハ數人ノ買主ニ對シテ受戻ヲ爲スコトヲ得
既ニ分割ヲ爲シタルトキハ賣主ハ各買主ニ對シ分割又ハ競賣ニ因リテ其各自ニ歸シタル部分ニ付テノミ受戻ヲ爲スコトヲ得
唯一人ノ買主カ數人ノ相續人ヲ遺シテ死亡シタルトキモ亦本條ノ規定ニ從フ
(栗塚)
本條第一項條件ノ文字ハ約款ノ誤ナリ又受戻ヲ爲スコトヲ得トアル上ニ其各自ノ部分ニ付キノ數字ヲ挿入スベキ必要アリ
(元尾崎)
各自ノ部分トアルモ一人若クハ數人ニ對スルトキハ次項ヲ以テ處分スルヲ得ベキニアラズヤ
(箕作)
原文ハ併合シ各別ニト云フ意義ナリ
(元尾崎)
各自ノ不分ノ部分ニ付キトシテハ如何
(村田)
分割ヲ爲サザル前ニトアルヲ以テ不分ノ字ハ贅ナリ
(淸岡)
其各自ノ部分ニ付キト云フ字ヲ加フレバ可ナリ
可決ス
第三款 缺損ニ因ル銷除
<本條刪除建議>
第七百三十三條 不動產ノ賣買ヲ契約ノ日ニ於ケル實價ノ半額以下ノ代價ニテ爲シタルトキハ賣主ハ缺損ノ爲メ其銷除ヲ請求スルコトヲ得但賣主カ契約ヲ以テ明示ニテ此銷除ノ權利ヲ抛棄シ又ハ代金ノ補足ヲ抛棄スルコトヲ述ヘタルトキモ亦同シ
缺損ニ因ル銷除ハ代價ヲ當事者ノ協諾シタル第三者ニ定メシメタルトキハ之ヲ許サス但第六百七十條第三項及ヒ第四項ノ適用ヲ妨ケス
<但書ハ原案ニ載セス>
第七百三十四條 銷除ハ賣買カ有條件ナルトキト雖モ契約ノ時ヨリ二ケ年内ニ之ヲ請求スルコトヲ要ス
此期間ハ賣買契約ヲ以テ之ヲ伸縮スルコトヲ得ス但日後特別契約ヲ以テ其期間ヲ短縮スルコトヲ得
受戻ノ權能ヲ要約シタルトキハ受戻ト銷除トノ二箇ノ期間ハ最短キ期間ニ滿ツルマテ混同ス
第七百三十五條 賣買ノ目ニ於ケル不動產ノ價格ハ證書、證人又ハ鑑定人ヲ以テ之ヲ證明ス
當事者ハ常ニ各一人ノ鑑定人ノ選任ヲ請求スルコトヲ得
總テノ場合ニ於テ裁判所ハ職權ヲ以テ一人ノ鑑定人ヲ選任スルコトヲ要ス
右ノ外本法第五篇及ヒ民事訴訟法ノ鑑定ニ關スル總般ノ規定ニ從フ
第七百三十六條 缺損ニ因ル銷除ハ第三百七十二條第一項ニ從ヒテ爲シタル請求ノ公示ニ先タチ證書ヲ登記シタル物權ノ轉得者ニ對シ之ヲ行フコトヲ得ス
第七百三十七條 買主カ第五百七十六條ヲ以テ許與セル代價補足ノ權能ヲ行ハント欲スルトキハ其請求ノ日ヨリ補足代金ノ利息ヲ負擔ス
買主カ買受物ヲ返還セント欲スルトキハ其辨濟シタル代金ヲ請求後ノ利息ト共ニ受取リ且請求後ニ收取シタル果實ヲ返還ス
第二項ノ場合ニ於テ買主ハ代金及ヒ其利息ノ皆濟ヲ受クルマテ物ヲ占有スルコトヲ得
第七百三十八條 受戻權能ノ行使ノ可分又ハ不可分ニ關スル第七百二十八條乃至第七百三十二條ノ規定ハ缺損ニ因ル銷除ニ之ヲ適用ス
第七百三十九條 公ノ競賣ニ在リテハ其競賣カ任意ナルモ缺損ニ因ル銷除ハ存立セス但裁判所ノ權ヲ以テ行フ賣却ノ爲メニ定メタル
公示及ヒ期間ヲ遵守シ且競賣ノ自由ニ何等ノ妨碍ヲモ加ヘサリシコトヲ要ス
第七百四十條 賣渡シタル權利又ハ辨濟ス可キ代價ノ性質ニ因リテ射倖ノ本色ヲ有スル賣買ハ缺損ノ爲メニ之ヲ銷除スルコトヲ得ス
(栗塚)
本款ハ再調査員ニ於テ全節ヲ刪除セントス報吿委員ニ於テモ之ニ贊同ヲ表セリ
(淸岡)
個ハ起案者ニ質問シタルカ
(栗塚)
起案者ノ註解ヲ見ルニ只佛蘭西法ニモ明記アルヲ以テ之ニ摸シタリト云フニ過ギズ
(尾崎)
缺損ニ因ル銷除ハ存在セシメタシ從來弱冠ノ年齒ニ在ル者一時痴情ニ惑溺シ千金ヲ蕩盡シタル末非常ノ低價ヲ以テ不動產ヲ賣却セントスルニ乘ジ人ノ不幸ヲ僥倖シ之ヲ買得セントスル如キアレバナリ
(松岡)
契約ハ双方ノ間ニ有効ナリト云フ原則ヲ破ルベシ此等ノ危險ハ不動產ニ存セズ寧ロ動產ニアリ又此種ノ買者ハ大抵時日ヲ經過セザルニ早ク既ニ他人ニ賣却スベキヲ以テ實際上買戻ヲ爲シ得ル者多カラザルベシ
(元尾崎)
此種ノ規定ハ非常ニ混雜ヲ釀生スルノミナラズ財產上ノ安固ヲ失フベシ
(淸岡)
世途ニ顯出スル民事上ノ有形ハ非常ノ凹凸アルモノハ之ヲ許スベキモノニアラズ保護法ヲ設テ之ヲ極救セザルベカラズ
結局本款ハ全然刪除ニ決ス
第四款 隱濳ノ瑕疵ニ因ル賣買廢却訴權
第七百四十一條 動產ト不動產トヲ問ハス賣渡物ニ賣買ノ當時ニ於テ不表見ノ瑕疵アリテ買主之ヲ知ラス又修補スルコトヲ得ス且其瑕疵カ物ヲシテ其性質若クハ當事者ノ一致ノ用方ニ不適當ナラシメ又ハ買主其瑕疵ヲ知レハ初ヨリ買受ケサル可キ程ニ物ノ使用ヲ減セシムルトキハ買主ハ其賣買ノ廢却ヲ請求スルコトヲ得
此場合ニ於テハ買主ハ辨濟代金ト契約費用トヲ取戻シ其代金ノ利息ハ請求ノ日ニ至ルマテノ物ノ收益又ハ使用ト之ヲ相殺ス
(村田)
隱濳ト云フ字ハ平穩ナラザレバ隱レタルト云フヲ可トス
(栗塚)
其性質若クハ當事者ノ一致ノ用方ニ不適當ナラシメトアルハ其性質ニ依リ若クハ當事者ノ一致ニ依ル用方トシテハ如何
(南部)
其性質上若クハ合意上ノ用方トスベシ
(淸岡)
合意上ト云フハ平穩ナラズ
(尾崎)
合意上ト云フニテ可ナリ
可決ス
第七百四十二條 買主カ隱濳ノ瑕疵ノ賣買廢却訴權ヲ行フ程ニ重大ナルヲ證明スルコト能ハス又ハ物ヲ保持スルコトヲ欲スルトキハ買主ハ便益ヲ失フ割合ニ應シテ代金ノ減少ヲ請求スルコトヲ得
(栗塚)
隱濳ハ隱レタルトシ證明ハ疎明トスベシ
(松岡)
此點ハ證スルトセザルベカラズ
(南部)
保持スルトアルハ保有トスベシ
(淸岡)
保有トスルヲ可トス
可決ス
(栗塚)
證明ハ疎明トスベシ未ダ他ヨリ爭論ヲ起シ來ラザル前ニ辯明スルノ意義ナレバ證スルト云フヲ得ズ
(松岡)
原吿ヨリ擧證スルノ意義ナレバ證スルトセザルベカラズ
(箕作)
此點ハ證スルノ意義ニハ相違ナシ
(栗塚)
證スルト云フ意義ニハ相違ナキモ文字ノ行用上他人ヨリ爭論ヲ起シ來ラザル前ハ之ヲ辯明スルヲ疎明トシタレバナリ
(松岡)
既ニ相手方アルトキハ未ダ辯論ヲ開始セザルモ證シト云ハザルベカラズ
(淸岡)
疎明トシテ可ナリ
可決ス
第七百四十三條 買主カ賣主ニ對シ賣買ノ廢却又ハ代金ノ減少ヲ得タルニ拘ハラス賣主カ初ヨリ其瑕疵ヲ知リタルトキハ買主ハ尙ホ其受ケタル損害又ハ失フタル利益ニ付テノ賠償ヲ要求スルコトヲ得
無異議
第七百四十四條 隱濳ノ瑕疵ヲ擔保セストノ要約ハ賣主ヲシテ初ヨリ自ラ了知シ且詭譎ヲ以テ隱蔽シタル瑕疵ニ付テノ責任ヲ免カレシメス
本條隱濳ノ文字ハ例ニ從ヒ隱レタルトシ詭譎ハ詐欺トス
第七百四十五條 賣買ノ當時ニ於テ物ニ瑕疵アリタルコト其瑕疵ヨリ買主ニ損害ヲ生シタルコト及ヒ買主又ハ賣主カ其瑕疵ヲ了知シタルコトハ人證、鑑定其他ノ法律上ノ擧證方法ヲ以テ之ヲ證明ス
本條證明ストアルモ之ヲ證ストス
(南部)
擧證方法ト云フ字ハ訴訟法ニハ之ヲ證據方法トシタレバ同一ニスベシ
(松岡)
訴訟法ニテ證據方法トシタルハ誤ナリ
(村田)
本法モ既ニ第三百六十七條ニテ擧證方法トアルヲ證據方法トシタルニアラズヤ
(南部)
擧證方法ト云フ字ハ已ニ訴訟法ニテ證據方法ト論決シタレバ其決議ニ從ヒ追テ訴訟法ニテ同文字ニ付キ修正スルヤ否ヲ決スベシ其議ニ決ス
第七百四十六條 賣買廢却代金減少及ヒ損害賠償ノ訴ハ左ノ期間ニ於テ之ヲ起スコトヲ要ス
第一不動產ニ付テハ六ケ月
第二動產ニ付テハ三ケ月
第三獸畜ニ付テハ一ケ月
右期間ハ引渡ノ時ヨリ之ヲ起算ス
然レトモ此期間ハ買主カ瑕疵ヲ知レル證據アリタル日ヨリ其半ニ短縮ス但其殘期カ此半ヲ超ユルトキニ限ル
買主カ意外ノ事又ハ不可抗ノ力ニ因リテ右期間ニ隱濳ノ瑕疵ヲ覺知スル能ハサリシコトヲ證明スルトキハ其期間ノ滿了後ニ於テモ訴ヲ受理セラルコトヲ得此場合ニ於テハ意外ノ事又ハ不可抗ノカノ止ミタル時ヨリ通常期間ノ三分一ヲ以テ新期間トス
(栗塚)
本條第二項不可抗ノ力トアル「ノ」ヲ刪リ隱濳ノトアルハ隱レタルトシ訴ヲ受理セラルコトトアルハ訴ヲ爲スコトトスベシ
(元尾崎)
獸畜ト云フ字ハ蜂類ヲ包含セザルヤ
(槇村)
動物トスベシ
可決ス
第七百四十七條 隱濳ノ瑕疵ニ基キタル代金減少ノ訴權ハ買主カ買受物ヲ無償又ハ有償ニテ讓渡シタルモ之ヲ失ハス但有償ノ讓渡ノ場合ニ於テハ其瑕疵ノ爲メ買主カ損失ヲ受ケタルトキ又ハ買主自ラ讓受人ヨリ訴ヘラレ若クハ訴ヘラルルノ危險ニ在ルトキニ限ル
本條隱濳ノト云フ文字ハ例ニ從ヒ隱レタリトス
第七百四十八條 賣渡物カ意外ノ事又ハ不可抗ノ力ニ因リテ全部又ハ半以上滅失シタルトキハ賣買廢却訴權ハ受理セラレス
滅却部分ノ多少ニ拘ハラス代金減少ノ訴權ハ殘存部分ノ割合ニ應シ存立ス
如何ナル場合ニ於テモ賣主ハ隱濳ノ瑕疵ヨリ生スル全部又ハ一分ノ滅失ノ責ニ任ス
本條モ例ニ從ヒ不可抗ノ力トアルヲ不可抗力トシ隱濳ノトアルヲ隱レタルトス
(南部)
賣買廢却訴權ハ受理セラレズト云フハ妥當ナリヤ
(栗塚)
賣買廢却訴權ヲ行フコトヲ得ズトシテハ如何
可決ス
第七百四十九條 合式ノ強制賣却ハ賣買廢却訴權ヲモ代金減少訴權ヲモ生セス
無異議
第七百五十條 或ル獸畜、物品又ハ日用品ノ隱濳ノ瑕疵ニ付キ特別法ヲ以テ其賣買上ノ効果ヲ定ムルニ至ルマテ本法ノ規定ヲ此等ノ物ノ賣買ニ適用ス
(栗塚)
物品ノ文字ハ刪除シタシ本條ハ動物ト日用品トヲ擧ゲタルモノニシテ他ノ物品ヲ指スモノニアラザレバナリ
(淸岡)
本條ハ必要ト認メズ
(栗塚)
他日此點ニ關スル特別法ヲ制定スルトキハ本條ハ其効ナシ
(淸岡)
本條ハ存在セシムルモ害アルニアラザレバ敢テ刪除スルニ及バズ其議ニ決ス
第四節 不分物ノ競賣
第七百五十一條 不分財產ノ分割ヲ爲スニ當リ共有者ノ一人タリトモ現物ノ分割ヲ拒ム者アルトキハ其財產ノ協議賣却又ハ競賣ヲ爲シ各有權者ノ權利ノ限度ニ應シテ其代金ヲ配當ス
無異議
第七百五十二條 共有者カ其一人若クハ第三者ニ協議賣却ヲ爲シ又ハ相互ノ間ニ競賣ヲ爲スニ付キ一致ヲ得ル能ハサルトキ又ハ共有者中ニ失踪者若クハ無能力者アルトキハ不分物ノ競賣ハ裁判所又ハ裁判所ノ指定シタル公吏ノ前ニ於テ之ヲ爲ス但民事訴訟法ニ定メタル公賣方式ニ從フコトヲ要ス
共同競賣者ノ各自ハ常ニ競賣ニ付キ第三者ノ參加ヲ許スヲ要求スルコトヲ得共有者ノ一人カ失踪シ又ハ無能力ナルトキハ外人ノ參加ハ當然且必要ナリトス
(南部)
民事訴訟法ニ定メタル公賣トアルハ同法ニハ競賣ノ文字ヲ使用シタルニ依リ民事訴訟法ニ定メタル競賣トスベシ
可決ス
(箕作)
第二項第三者トアルハ外人トスベシ
可決ス
第七百五十三條 共有者ノ一人カ不分物ノ全部ヲ取得シタルトキハ競賣又ハ協議賣却ハ共有者間ノ分割ノ行爲ト看做サレ會社及ヒ相續ノ分割ニ關シ規定シタル効力ヲ生ス
第三者ニ競賣又ハ協議賣却ヲ爲シタルトキハ其賣買ハ第三者ト原共有者トノ間ニ於テ本章ニ規定シタル賣買ノ効力ヲ生ス
(元尾崎)
共有者ノ一人カ不分物ノ全部ヲ取得シタルトキハト云フハ如何シテ之ヲ取得スベキヤ
(村田)
競賣又ハ賣却ニテ得取スルナリ
(元尾崎)
競賣又ハ賣却ヲ以テ得取シトシテハ如何
(淸岡)
競賣ノ上ニ其ト云フ字ヲ加フレバ明瞭ナルベシ
可決ス
第十三章 交換
第七百五十四條 交換ハ當事者ノ一方カ取得シ又ハ要約シタル或ル物ノ所有權其他ノ權利ノ對價トシテ或ル物ノ所有權其他ノ權利ヲ他ノ一方ニ移轉シ又ハ移轉スルコトヲ諾約スルノ契約ナリ
相互ノ權利ノ價額カ均一ナラサルトキハ金錢其他ノ物ノ補足ヲ以テ之ヲ均一ニス
金錢ノ補足カ交換ニ供シタル物ノ價額ヲ超ユルトキハ其契約ハ之ヲ賣買ト看做ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項ヲ交換ハ當事者ノ一方ガ或ル物ノ所有權其他ノ權利ヲ他ノ一方ヨリ取得シ又ハ之ヲシテ諾約セシメ其對價トシテ或ハ物ノ所有權其他ノ權利ヲ他ノ一方ニ移轉シ又ハ移轉スルコトヲ諾約スルノ契約ナリトシタシ
可決ス
第七百五十五條 當事者ハ交換ニ供シ又ハ諾約シタル物又ハ權利ニ對スル妨碍及ヒ追奪ノ擔保ヲ相互ニ負擔ス
當事者ノ一方カ要約シタル物又ハ權利ヲ取得スルコトヲ得サリシトキハ其選擇ヲ以テ或ハ金錢ノ對價ヲ要求スルコトヲ得或ハ契約ノ解除ヲ請求シテ自己ノ供與シタルモノヲ取戻スコトヲ得但孰レノ場合ニ於テモ損害アレハ其賠償ヲ受ク
右解除ノ權利ハ取戻ニ服スル不動產ニ付キ權利ヲ取得シタル第三者ニ對シテ之ヲ行フコトヲ得ス但第三百七十二條第一項ニ從ヒテ請求ノ公示前ニ其第三者ノ名義ノ登記又ハ記入ヲ爲シタルコトヲ要ス
(栗塚)
本條ハ第二項要約シタル物トアルヲ他ノ一方ノ諾約シタル物トシタシ
可決ス
(元尾崎)
前條第二項「之ヲ均一ニス」ト云フハ法律上之ヲ均一ニスルガ如シ
(栗塚)
當事者間ニテ之ヲ均一ニスルヲ得ト云フ意義ナリ
(元尾崎)
他ノ物ヲ以テ補足ヲ均一ニセザレバ不都合アリヤ
(箕作)
不均一ニテハ贈遺ノ部分トナレバナリ
第七百五十六條 賣買ノ規則ハ交換ニ之ヲ適用ス但左ノ場合ハ此限ニ在ラス
交換ハ配偶者ノ間ニ之ヲ爲スコトヲ許ス但交換物ノ價額ノ差カ間接ノ利益ヲ成ストキハ生贈ヲ禁制シ又ハ之ヲ制限スルノ規則ヲ適用ス
當事者ノ一方又ハ双方カ指定ノ期間ニ於テ任意ニ交換ヲ解除スルコトヲ約束シタルトキハ第六百六十四條ニ從ヒ賣買ノ豫約ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得ル條件ニ從フニ非サレハ其解除ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
交換ハ缺損ノ爲メ之ヲ銷除スルコトヲ得ス
(栗塚)
本條第二項生贈トアルヲ贈與トシ第三項約束ト云フ字ヲ要約トシ第四項ハ刪除シ第一項ハ但書ヲ刪除シ「規則ハ」ノ下「左ノ例外ヲ以テ」ノ七字ヲ挿入スベシ
(元尾崎)
左ニ規定スルモノヲ除ノ外トシテハ如何報吿委員ノ意見ニ可決ス
第十四章 和解
第七百五十七條 和解ハ當事者カ交互ノ讓合又ハ出捐ヲ爲シテ已ニ生シタル爭ヲ落着セシメ又ハ生スルコト有ル可キ爭ヲ豫防スルノ契約ナリ
和解ノ成立、有効及ヒ證據ハ下ノ規定ヲ除ク外契約ニ關スル總般ノ規則ニ從フ
(栗塚)
本條ハ例ニ從ヒ契約ヲ合意トシ總般ト云フハ一般トスベシ
可決ス
第七百五十八條 無能力者ニ關スル和解ノ有効ニ要スル條件ハ本法ノ第一篇ニ之ヲ規定ス
國、府縣、市町村及ヒ公設所ニ關スル和解ハ行政法ノ規定ニ從フ
(栗塚)
本條第一項「本法」以下ヲ改メ「無能力者ノ財產管理ノ規定ニ從フ」ト爲スベシ吾々報吿委員ニ於テハ人事篇ノ成稿アルヤ否ヲ想像スルヲ得ザレバナリ
(松岡)
本條ハ全然刪除ス末項刪除說建議第三項刪除建議理由ハ賣買ノ豫約ヲ廢スル故ナリ第四項刪除建議理由缺損ニ由ル銷除ヲ廢スル故ナリベシ
(南部)
別項ノ如キハ刪除スベキ理由ナシ
(元尾崎)
別項ハ刪除セザルニ附スベカラズ
結局全刪除ニ決ス
第七百五十九條 和解ハ法律ノ錯誤ノ爲メ之ヲ銷除スルコトヲ得ス但其錯誤カ相手方ノ詭譎ニ起因スルトキハ此限ニ在ラス
無異議
第七百六十條 和解ハ僞造ノ書類又ハ無効ノ行爲ニ因リ承諾シタルコトヲ理由トシテ之ヲ銷除スルコトヲ得ス但此等ノ申立ヲ爲スヲ得ヘキ當事者ニ於テ其書類ノ偽造又ハ其行爲ヲ法律ニ於テ無効ナラシムル事實ヲ知ラサリシトキハ此限ニ在ラス
(栗塚)
本條ハ其書類ノ僞造ト云フ下ニ「ヲ知ラス」ト云フ文字ヲ足シ無効ナラシムル事實トアルヲ無効ナラシムル所ノ事實トスベシ原案ノ儘ニスレバ僞造ヲ知ラズト云フ意義ヲ顯著ナラシメズ又無効云々ハ假令バ司法大臣ノ調印ヲ要スベキモノタルヲ了知シテ故ラニ之ヲ落印シタルニアラズロハ其調印ヲ誤脫シタル事實ヲ知ラザリシ場合ヲ云フニアレバナリ
可決ス
(箕作)
行爲ニ因リトアルハ行爲ニ依リトスベシ
可決ス
第七百六十一條 爭ノ定マリタル原因ニ由リテ爲シタル和解ハ新ニ發見シタル證書ニ因リテ當事者ノ一方カ爭ノ一箇若クハ數箇ノ目的ニ付キ何等ノ權利ヲモ有セス又ハ他ノ一方カ其目的ニ付キ完全且爭フ可カラサル權利ヲ有スルコトノ顯ハレタルトキハ事實ノ錯誤ノ爲メ亦之ヲ銷除スルコトヲ得
確定シタル判決又ハ攻撃スルヲ得サル契約ヲ以テ已ニ爭ヲ落着セシメタル場合ニ於テ其判決又ハ契約ヲ知ルニ利益アル當事者カ之ヲ知ラサリシトキモ亦同シ
然レトモ和解カ從前ノ原因ヨリ生スル有ル可キ總テノ爭ヲ落着セシメ又ハ之ヲ豫防スルヲ目的トシタルトキハ當事者ノ一方ノ利益タル確定證書ノ發見ハ其證書カ相手方ノ所爲ニ因リテ扣留セラレタルニ非サレハ其和解ノ銷除ヲ生セス
(栗塚)
本條第一項爭ノ定マリタル原因ニ由リトアルヲ定マリタル爭ニ付キトシタシ
(元尾崎)
定マラザル爭ヒアリヤ
(栗塚)
一定ノ爭ヒト云フ義ナリ
(箕作)
總テノ爭ヒニアラザル特定ノ爭ヒト云フガ如シ
(槇村)
一個ノ爭ヒト云フ義カ
(箕作)
一個又ハ數個ニテモ定マリタル爭ヒヲ云フ可決ス
(栗塚)
爭ノ一個若クハ數個ノトアルヲ「一個若クハ數個ノ」ノ文字ヲ刪除スベシ
可決ス第三項生スル有ルトアルヲ生スルコト有ルトス
第七百六十二條 有効ノ和解ハ當事者ノ相互ニ認定シタル權利又ハ利益ニシテ已ニ生シ又ハ豫見シタル爭ノ目的タルモノニ付テハ當事者間ニ在テハ確定判決ノ判認ノ効力ヲ生ス此場合ニ於テハ其權利又ハ利益ハ從前ノ原因ニ由リテ保持シタルモノト看做ス但當事者双方ニ更改ヲ爲スノ意思アリシトキハ此限ニ在ラス
此ニ反シテ相互ニ供與シ又ハ約束シタル權利又ハ利益ノ全部若クハ一分ニシテ爭ノ目的タラサリシモノニ付テハ和解ハ物權又ハ人權ヲ生シ之ヲ移轉シ若クハ之ヲ消滅セシムル有償名義ニ關スル契約ノ規則ニ從フ
(栗塚)
本條ハ認定トアルハ追認トスベシ又判認ノ文字ハ權利表白トシタシ何トナレバ判決ニ依リ權利ヲ生シタル旨ニアラズシテ判決ハ既存ノ權利ヲ確認スルト云フ義ナリ元來確定裁判ニハ二種アリ一ハ權利ヲ移轉セシメ一ハ權利ヲ確認スルニアリ本條ノ如キハ權利ヲ移轉スルニアラズシテ既存ノ權利ヲ確認スル義ナレバナリ
(南部)
權利表白ト云フハ平穩ナラズ權利認定トスベシ
(箕作)
民事上ノ判決ニ權利ヲ移轉スル場合アリヤ
(栗塚)
第六百三十四條ハ已ニ刪除サレタルモ該條ノ如キハ權利ヲ移轉スルノ判決トナルベシ
結局權利認定トスルニ可決ス
<第十五章 削除建議>
第十五章 特定會社
第一節 會社ノ性質及ヒ設立
第七百六十三條 總般ノ會社ノ設立ハ數人カ各自ニ配當ス可キ利益ヲ收ムル爲メ財產ヲ共通シ又ハ共通セント約束スルノ契約ナリ
特定會社ハ或ハ物ヲ共通シテ利用スル爲メ或ハ一定ノ事業ヲ成シ又ハ職業ヲ營ム爲メ各社員カ定マリタル物ノ出資ヲ爲シ又ハ之ヲ約束スルノ會社ナリ
(栗塚)
本條第一項ハ總般ノト云フヲ凡ソトシ會社ノ設立ハトアルヲ會社ハトシ共通セント約束スルノ契約ナリトアルヲ共通スルコトヲ諾約スルノ契約ナリトシ第二項ハ或ハ物ヲトアルヲ或ル物ヲトシ或ハ一定ノトアルヲ又ハ或ルトシ又ハト云フ字ヲ若クハ或ルト修正シタリ
(淸岡)
設立ノ文字ハ存スベシ
(栗塚)
會社ハ屋宇ヲ指スニアラズ無形體ヲ指スモノナリ
(元尾崎)
本章ハ刪除ノ建議アリ如何
(栗塚)
民法ハ恰モ會社ノ本家ノ如ク商法ハ會社ノ末家ノ如シ世運ノ進歩スルニ從テ末家ノ業務昌盛ニ達スルハ自然ノ道理ナリト雖ドモ末家ノ業務繁昌ニ趣クガ爲メ本家ノ地ニ居ル民法ヲ省ザル所以ナシト云フニアリ
第七百六十四條 商事會社ニ特別ナル規則ハ商法又ハ特別法ヲ以テ之ヲ定ム
包括會社ニ特別ナル規則ハ本篇第二部第二章ニ於テ之ヲ定ム
(栗塚)
本條第二項ハ報吿委員ニ於テ刪除シタシトス
(松岡)
包括會社ト云々ヲ刪除セントスレバ特定會社ト云フ稱謂ヲ廢シ單ニ會社トシ置ケバ可ナリ
(南部)
本節ハ特定會社ノ精神ヲ以テ編纂シタルモノナレバ特定會社ト云フ稱謂ヲ廢スルハ不可ナリ
(松岡)
會社ト云ヘバ各人相集リテ各自ノ利益ヲ計ルモノニ過ギザレバ包括ト云ヒ特定ト云フ區別ヲ要セズ
(南部)
會社ト云フモ單ニ何種ノ會社タルカ甄別スルヲ得ザルハ不可ナリ
(尾崎)
第二項ヲ刪除シ第一項ノミ存シ置クヲ可トス
(松岡)
特定ト云ヘバ包括ノ文字アラザルベカラズ
結局第二項ノミヲ刪除スルニ決ス
第七百六十五條 社員ノ出資ハ或ハ動產又ハ不動產ノ所有權若クハ收益權或ハ金錢又ハ技術勞力ヲ以テスルコトヲ得
出資ハ不均一ナルコトヲ得
無異議
<原案ニハ此條ニ第三項アリ之ヲ銷除シタル理由如何>
第七百六十六條 民事會社ハ當事者ノ意思ニ因リテ之ヲ無形人ト爲スコトヲ得
此場合ニ於テハ會社ニ社名ヲ付シ且其契約ハ商事會社ノ公示ノ爲メ法律ニ規定シタル方式ニ從ヒテ之ヲ公吿スルコトヲ要ス
(元尾崎)
本條ノ民事會社トアルハ如何
(栗塚)
商事會社ハ勿論無形人ナリト雖ドモ民事會社モ亦意思ニ因リテ無形人トスルヲ得ベシト云フニアリ
(元尾崎)
會社ト云ヘバ已ニ商法部内ニ屬スベシ
(松岡)
會社ト云ヘバ登記公吿ヲ爲スモノナレバ無論商法部内ニ入ルベシ民事會社ト云フハ僅カニ組合ト云フ組織體ニ過ギザレベシ又本條第三項ヲ刪除シタル理由ハ如何ト云フ論結ニ付テハ理由ナシトセズ
(南部)
社名ヲ付シタレバ迚之ヲ無形人ト看做スコトヲ得ズトス
(栗塚)
公吿ト云フ文字ハ公示トシタシ
(松岡)
公示ト云ヘバ登記公吿ヲ包ルモノトナルベシ
(箕作)
公示トシテ妨ナシ
第七百六十七條 契約ノ總般ノ規則ハ會社ニ之ヲ適用シ殊ニ當事者ノ承諾、能力、目的、原因及ヒ證據ニ之ヲ適用ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ合意ノ一般ノ規則殊ニ當事者ノ承諾、能力、目的、原因及ビ證據ニ關スル者ハ會社ニ之ヲ適用ストシタシ
可決ス
第七百六十八條 會社ハ其目的ノ商事ニ在ラサルモ資本ヲ株式ニ分ツトキハ商法ノ規定ニ從フ
無異議
第二節 社員ノ權利及ヒ義務
第七百六十九條 會社ハ契約ノ日ヨリ開始ス但明示又ハ默示ニテ他ノ期限ヲ定メ又ハ條件ヲ帶ハシメタルトキハ此限ニ在ラス
各社員ハ會社ノ開始スル時ニ於テ其約束シタル出資ノ差出ヲ實行スルコトヲ要ス之ヲ實行セサルトキハ其社員ハ當然出資ニ生スル果實及ヒ利息ヲ負擔ス且遲延ノ爲メ損害ヲ生シタルトキハ出資ノ金錢ヲ以テスルトキト雖モ其賠償ヲ負擔ス
(栗塚)
第二項ハ出資ノ差出ヲ實行スルコトヲ要ス之ヲ實行セザルトキハトアルヲ出資ヲ差出スコトヲ要ス之ヲ差出サザルトキハトシタシ
(元尾崎)
差出ハ商法ト同ジク差入トスベシ
可決ス
(栗塚)
其約束トアルヲ其諾約シタルトスベシ
可決ス
第七百七十條 會社ニ對シテ技術又ハ勞力ノ出資ヲ約束シタル社員カ其諾約ヲ缺キタルトキハ其社員ハ他ノ社員ノ選擇ニ從ヒ會社ニ對シテ或ハ其義務ノ履行ヲ缺キタル當時ヨリ會社ノ受ケタル損害ヲ賠償シ或ハ其勞力ヲ會社外ニ用イテ得タル利益ヲ讓與スルノ責ニ任ス
本條ハ約束ノ文字ヲ諾約トセリ
第七百七十一條 動產ト不動產トヲ問ハス特定物ノ所有權ヲ出資ト爲スコトヲ約束シタル社員ハ會社ニ對シ賣主ト同シク其物ノ追奪又ハ面積、數量ノ不足及ヒ隱濳ノ瑕疵ニ付キ擔保ノ責ニ任ス
又社員カ物ノ收益權ノミヲ出資ト爲スコトヲ約束シタルトキハ賃貸人ト同シク擔保ノ責ニ任ス
(栗塚)
本條ハ約束ヲ諾約トシ隱濳ノト云フヲ隱レタルトシ追奪ノ上ニ起案者ヨリ妨碍ノ文字ヲ挿入シ來レリ
可決ス
第七百七十二條 會社契約ヲ以テ社員中ヨリ一人又ハ數人ノ支配人ヲ選任シタルトキハ其各員ハ受任ノ權限ヲ踰ユルコトヲ得ス
權限ノ定マラサル支配人ハ共同又ハ各別ニテ通常ノ管理行爲ヲ爲スニ止マル
又支配人ハ會社ノ目的中ニ存スル一層重要ナル行爲ニ付テハ共同ニテノミ之ヲ爲スコトヲ得但異議アル場合ニ於テハ其行爲ヲ中止シ總社員ノ多數ヲ以テ之ヲ決ス
(栗塚)
支配人ノ文字ハ商法ト同ジク皆業務擔當人トシ多數ト云フハ過半數トスベシ
可決ス
(元尾崎)
一層重要ト云ヘバ其目的中ヨリ重要ナル意義ノ如シ
(松岡)
一層ノ文字ハ刪除スベシ
(栗塚)
目的中ニ存スル一層重要トアルハ目的中ノ重要トシテハ如何
可決ス
第七百七十三條 會社契約ヲ以テ支配人ヲ選任セサル場合ニ於テ總社員ノ一致ニテ之ヲ選任セサルノ間ハ社員ノ各自ハ前條ニ規定シタル行爲ヲ同一ノ條件ニ從ヒテ爲スノ權ヲ有ス
本條ハ支配人トアルヲ前例ニ從ヒ業務擔當人トセリ
第七百七十四條 會社契約ヲ以テ支配人ニ選任セラレタル社員ハ正當ノ原因アルトキ又ハ其承諾ヲ得及ヒ總社員ノ同意ヲ得タルトキニ非サレハ委任ノ期限内ニ之ヲ解任スルコトヲ得ス
會社契約以後ノ行爲ヲ以テ選任シタル支配人ハ之ヲ選任シタルト同一ノ方法ヲ以テ其承諾ヲ要セスシテ之ヲ解任スルコトヲ得
本條ハ支配人トアルヲ前例ニ從ヒ業務擔當人トセリ
(松岡)
第二項行爲ノ文字ハ契約トセザルベカラズ可決ス
(栗塚)
第一項其承諾ヲ得及ビトアル「ヲ得」ノ二字ハ刪除スベシ
可決ス
第七百七十五條 支配人ヲ選任シタル方法ノ如何ヲ問ハス其中ノ一人又ハ數人ノ死亡、辭任又ハ解任アリテ是等ノ事件ノ爲メニ會社ノ解散セサルトキハ總社員ノ多數ヲ以テ其補缺者ヲ選定ス
本條ハ支配人ヲ業務擔當人トシ多數ヲ過半數トセリ
第七百七十六條 右ノ外會社定款ノ執行ニ關スル諸般ノ處分ハ亦社員ノ完全多數ヲ以テ之ヲ定ム
定款ノ違反又ハ定款外ノ行爲ニ付テハ總社員ノ一致ヲ得ルヲ必要トス
本條ハ定款又ハ法律ノ此ニ反スル規定ヲ妨ケス
(栗塚)
本條ハ諸般ノトアルヲ總テノトシ完全多數トアルヲ過半數トスベシ
(村田)
定款ノ違反ト云フ文字ハ平穩ナラズ違反ト云ヘバ惡意ヲ含ムト云フ觀アレバナリ
(淸岡)
定款ニ反スル行爲トシタシ
可決ス
第七百七十七條 第三者カ會社ト支配人タル社員ノ一人トニ對シテ同性質ノ債務ヲ負擔シタルトキ其第三者カ二箇ノ債務ヲ消滅セシムルニ足ラサル金錢又ハ有價物ヲ右社員ニ辨濟スルニ於テハ其社員ハ會社ノ債權額ト自己ノ債權額トノ割合ニ應スルニ非サレハ自己ノ債權ノ辨濟ニ之ヲ充當スルコトヲ得ス但債務者ノ爲シタル充當ヲ變更スルコトヲ得ス
然レトモ債務者カ正當ノ利益ナクシテ社員ノ債權額ノ全部ニ充當シタルトキハ社員ハ其辨濟ノ額内ヨリ右ノ割合ニ應スル部分ヲ會社ニ讓與スルノ責ニ任ス
債務者又ハ社員カ有効ナル充當ヲ爲ササルトキハ第四百九十三條ニ從ヒ法律上ノ充當ノ規則ヲ適用ス
(栗塚)
支配人タルト云ヘルハ業務擔當トスベシ
可決ス
(箕作)
讓與スルノ責ニ任ズト云フハ交付スルノ責ニ任ズトスベシ
(栗塚)
第七百七十條ノ讓與モ本條ト共ニ交付トスベシ
可決ス
第七百七十八條 支配人タルト否トヲ問ハス社員ニシテ會社ノ債務者ヨリ會社ニ對スル債務ノ一分ヲ受取リタル者ハ場合ノ如何ニ拘ハラス共同ノ社員ニ之ヲ利得セシムルコトヲ要ス但自己ノ持分トシテ受取證書ヲ與ヘタル時ト雖モ亦同シ
本條ハ支配人トアルヲ例ニ從ヒ業務擔當人トセリ
(元尾崎)
會社ノ債權者ハ會社ト云フ無形人ニ對シテ請求スルヲ得ザル
(栗塚)
公示ノ方法ハ商事會社ノ規定ニ依ルベキモ民事會社ハ依然タル民事會社タルベシ登記公吿ヲ爲シタレバ迚商事會社トスルヲ得ズ
(箕作)
商業ヲ營ム會社ハ商業會社ナリ商業ヲ營マザル會社ハ民事會社ナルベシ
(渡)
共同ノ社員トアルハ會社トシテ不都合ナシ
可決ス
第七百七十九條 支配人タルト否トヲ問ハス各社員ハ其過失又ハ懈怠ニ因リテ會社ニ加ヘタル損害ヲ賠償スルノ責ニ任ス
此損害ハ社員カ會社營業ノ或ル他ノ事件ニ付キテ會社ニ得セシメタル利益ト相殺スルコトヲ得ス但其事件ノ互ニ牽連シタルトキハ此限ニ在ラス
本條ハ支配人トアルヲ例ニ從ヒ業務擔當人トセリ
第七百八十條 會社契約ヲ以テ支配人ヲ選任セサル爲メニ業務ヲ執行スル社員ハ自己ノ業務ヲ執行スルト同一ノ注意ヲ加ヘサルトキニ非サレハ其過失ノ責ニ任セス
(栗塚)
本條ハ業務ヲ執行スルトアルヲ業務ヲ取扱フトシ「業務ヲ執行スルト同一」トアルヲ「業務ニ於ケルト」トシ支配人ハ業務擔當人トスベシ
可決ス
第七百八十一條 各社員ハ會社資本中ニ於テ使用スルコトヲ得ル金額ナキトキハ會社ノ所屬物ニ關スル必要及ヒ保持ノ費用ヲ自己ノ權利ノ割合ニ應シテ分擔スルノ責ニ任ス
無異議
第七百八十二條 右ニ反シテ支配人タルト否トヲ問ハス各社員ハ會社ヲシテ自己ノ出資外ニ會社ノ爲メ有益ニ立替ヘタル金額ヲ返還セシメ又ハ會社ノ利益ノ爲メ善意ニ負擔シタル義務ヲ認諾セシメ又ハ會社ノ營業ノ爲メ自己ノ財產ニ受ケタル避クルヲ得サル損害ヲ賠償セシムルコトヲ得
本條ハ支配人トアルヲ業務擔當人トセリ
第七百八十三條 會社營業ノ爲メ社員ノ立替ヘタル金額ハ其使用ノ日ヨリ當然利息ヲ生ス
此ニ反シテ各社員ハ自己ノ營業ノ爲メ會社資本中ヨリ引出シタル金額ニ付テハ當然會社ニ對シテ其利息ヲ負擔ス但此場合ニ於テ一層大ナル損害ヲ生セシメタルトキハ尙ホ之ヲ賠償スルノ責ニ任ス
(尾崎)
一層大ナルト云フ字ハ刪除シテハ如何
(栗塚)
且損害アルトキハ賠償ノ責ニ任ズトシタシ
(箕作)
其利息ヲ負擔ストアルハ其利息ヲ負擔シトシ但云々トアルハ尙ホ損害アルトキハ賠償ノ責ニ任ズトスベシ
可決ス
第七百八十四條 社員ハ會社ノ存立中ニ得タル利益ニ因リテ增加シ又ハ受ケタル損失ニ因リテ減少シテ會社解散ノ際ニ現在スル會社資本ニ付キ其相互ノ持分ヲ會社契約又ハ其後ノ行爲ヲ以テ隨意ニ定ムルコトヲ得但第七百八十六條ニ揭ケタル二箇ノ場合ハ此限ニ在ラス
(栗塚)
行爲ノ字ハ契約トスベシ
可決ス
(松岡)
本條ハ會社ノ存立中ニ得タル利益ニ因リテ增加シ又ハ受ケタル損失ニ因リテ減少シテトアルヲ刪除シタシ
可決ス
(槇村)
會社資本ニ付キトアルハ資本ニ於ケルトスベシ
可決ス
第七百八十五條 社員ハ其一人又ハ數人ノ持分カ利益及ヒ損失ニ於テ同一ナラサルヲ約束スルコトヲ得
然レトモ利益ノミヲ豫見シテ右ノ持分ヲ定メタルトキハ損失ニ付テモ同一ノ定方ヲ約束シタリトノ推定ヲ受ク
如何ナル場合ニ於テモ受ケタル損失ヲ扣除シ會社ノ貸方トシテ殘ル所ノモノニ非サレハ配當ス可キノ利益ト看做サス又右貸方ヲ拂盡シタル後借方トシテ殘ル所ノモノニ非サレハ損失ト看做サス
然レトモ會社ノ存立中ニ詭譎ナクシテ爲シタル利益又ハ損失ノ一分ノ配當ハ之ヲ變更セス
(栗塚)
本條詭譎ト云フ文字ハ詐害トスベシ
(松岡)
詐害ハ詐欺トシタシ
可決ス
(松岡)
貸方ヲ拂盡シト云フハ如何
(栗塚)
有金ヲ盡シタルトキヲ云フ
(松岡)
借方ヲ拂盡スト云ヘバ語詞平穩ナルモ貸方ヲ拂盡スト云フハ語路ヲ成サザルナリ
(南部)
貸方ヲ竭シタル後トスベシ
可決ス
第七百八十六條 會社資本ノ全部又ハ會社ノ得タル利益ノ全部ヲ社員中ノ一人ニ歸ス可キ約款ハ無効ナリ
技術又ハ勞力ヲ出資ト爲シタル社員ニ非サル社員ニ全ク損失ノ負擔ヲ免レシム可キ約款モ亦同シ
會社契約ニ右ノ約款ヲ附記シタルトキハ其約款ハ契約ヲシテ全ク無効ナラシム又日後ニ右ノ約款ヲ追加シタルトキハ其約款ハ契約ノ存立ヲ妨ケスシテ會社ノ淸算ハ第七百八十九條ニ從ヒテ之ヲ爲ス
(淸岡)
右ノ約款ヲ附記シ云々ハ約款ハ無効ナルモ契約ハ存立セシメザルヲ得ズ
(栗塚)
然ルヲ得ズ
第七百八十七條 社員ハ自己ノ選任シタル又ハ選任ス可キ社員又ハ外人タル一人若クハ數人ノ仲裁人ヲシテ會社解散ノ際各自ノ持分ヲ定メシムルコトヲ會社契約又ハ其後ノ行爲ヲ以テ約束スルコトヲ得
仲裁人ノ爲シタル定方ハ仲裁人カ仲裁契約ヲ以テ授ケラレタル方式若クハ條件ヲ履行セサルカ又ハ顯然公平ヲ失シタルトキニ非サレハ之ヲ攻撃スルコトヲ得ス
右定方ノ無効ノ請求ハ此ニ因リテ害ヲ受ケタルト主張スル社員ニ在テハ其社員カ定方ノ執行ニ加ハリタルトキ又ハ此レヲ知リタルヨリ三ケ月ヲ經過シタルトキハ之ヲ受理セス
(栗塚)
本條ハ約束ノ文字ヲ合意トシ行爲ノ文字ヲ契約トシ顯然ノ文字ヲ明カニトシ此ヲ知リタルトアルハ其定方ヲ知リタルトスベキニ然ラザルハ寫字ノ誤ナリ
(松岡)
仲裁人ニ關スルモノハ訴訟法ト如何ナル關係ヲ有スルヤ
(栗塚)
仲裁人ノ定方其他本法ニ牴觸セザル限リハ訴訟法ニ依ルベシ
(淸岡)
商事會社ニ在テハ仲裁裁判ヲ無効トスル請求ハ一ヶ月間ニ限ルベキニ民法ニハ之ヲ三ケ月トシタルハ牴觸スルニ非ズヤ
(栗塚)
個ハ期間ノ論點ニ屬スルモノニシテ牴觸ノ問題ニアラズ
(松岡)
三ケ月ト一ヶ月トノ差異アル理由及ビ其他兩法ニ屬スル差異ヲ調査シタシ
(栗塚)
其點ハ吾々報吿委員ニテ調了スベシ
第七百八十八條 會社契約ヲ以テ持分ノ定分ヲ仲裁人ニ委任ス可キコトヲ定メタル場合ニ於テ少ナクトモ社員ノ過半數カ仲裁人ヲ選任スルコトニ一致セサルトキハ裁判所ニ於テ其選任ヲ爲ス
選任セラレタル仲裁人カ定方ヲ爲スコトヲ欲セス又ハ之ヲ爲スコト能ハサルニ當リ社員カ其改選ニ付キ一致セサルトキモ亦同シ
本條ハ前條ト共ニ報吿委員ノ調査ニ付ス
第七百八十九條 社員自身ニテ若クハ仲裁人ヲ以テ持分ノ定方ヲ爲サス又ハ仲裁人ノ定方ノ無効ト爲リタルトキハ會社資本及ヒ利益又ハ損失ハ社員ノ出資額ノ割合ニ應シテ之ヲ其間ニ配當ス
社員ノ出資ト爲シタル技術又ハ勞力ノ評價ナキトキハ裁判所ハ各般ノ事情ヲ斟酌シテ其出資ノ價額ヲ定ム
技術又ハ勞力ト財產トヲ出資ト爲シタル社員ハ前項ニ定メタル價額ノ外尙ホ其財產ノ價額ニ從ヒテ計算シタル持分ノ配當ヲ受ク
(栗塚)
本條ハ商法第百五條ニ模倣シタリ
第七百九十條 各社員ハ自己ノ持分ニ第三者ヲ組合サシメ又其持分ヲ質入シ又ハ之ヲ讓渡スコトヲ得然レトモ此等ノ行爲ヲ以テ會社ニ對抗スルコトヲ得ス但會社契約ヲ以テ社員ニ此權利ヲ認許シ又ハ會社資本ヲ株式ニ分ケタルトキハ此限ニ在ラス
右二箇ノ場合ニ於テ會社カ社員ノ讓渡サント欲スル持分又ハ株式ヲ消却スル爲メ先買權ヲ留保シタルトキハ自己ノ持分ヲ讓渡サントスル社員ハ會社カ其先買權ヲ行フカ又ハ抛棄スルカニ付キ之ヲ遲滯ニ付スルコトヲ要ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項「又ハ會社資本ヲ株式ニ分チ」ト云フヲ刪リ第二項ハ右二個ノ場合トアルヲ「右權利ノ讓渡ヲ以テ會社ニ對抗スルコトヲ許シタル場合トシ持分ノ下「又ハ株式」ノ四字ヲ刪除セリ
(元尾崎)
右二個ノ場合トアルハ右末ノ場合トシテハ如何
(松岡)
右ノ場合ト云フヲ可トス
可決ス
(松岡)
其持分ヲ讓渡スコトヲ得トアルニ是等ノ行爲ヲ以テ會社ニ對抗スルヲ得ズト云フハ不都合ナリ
(委員長)
讓渡スルニハ妨ゲナキモ甲乙間ノ關係ニ止マリ會社ニ對抗スルヲ得ズ
(松岡)
會社ニ對抗スルヲ得ズト云フ制限ニ止メルトキハ他ノ第三者ニ對抗スルヲ得ベシ
(委員長)
會社ニ對抗スルヲ得ザルモノニシテ第三者ニ對抗スルヲ得ベキ理由ナシ
(南部)
他ノ第三者ニ關シ論ズベキニ及バズ
(箕作)
會社及第三者ニ對抗スルヲ得ズトシテハ如何
(栗塚)
第三者ト云フ文字ヲ記載セザルベカラザル必要アリヤ
(箕作)
第三者ニ對抗スルヲ得ベキヤト云フ疑點アルヲ以テ之ヲ防止センガ爲ナリ
(栗塚)
第三者ト云フ地位ヲ想像スル場合ハ如何
(箕作)
自己ノ債權者トスルモ會社ノ債權者トスルモ可ナリ
(栗塚)
會社ノ債權者トセバ其場合ナキニ限ラザルモ敢テ之ヲ明記スベキ必要ナシ
(松岡)
其持分ヲ讓渡スルコトヲ得ト云ヘバ讓渡シタル者ハ會社ニ對シ權利義務ナカルベシ然ルニ被讓渡者ハ會社ニ對シ對抗スルヲ得ズト云フハ道理貫通セザルベシ
(西)
會社ニ對抗スルコトヲ得ザルモノトセバ會社ノ債權者ニ對シテモ對抗スルヲ得ザルコト知ルベシ
(栗塚)
會社ニ對抗スルコトヲ得ズト云フ文字ニ付テハ報吿委員ニ於テ調査シタシ其議ニ決ス
第七百九十一條 支配人カ會社ノ名ヲ以テ又ハ會社ノ營業ノ爲メ有効ニ負擔シタル義務ハ會社カ無形人ヲ成セルトキハ各社員ノ一身上ノ債權者ニ先タチ會社資本ヲ以テ之ヲ擔保ス
會社資本ノ不十分ナル場合又ハ其資本カ訴追シタル債權者ニ示サレサル場合ニ於テハ總社員ハ連帶シテ會社ノ義務ヲ負擔ス會社カ無形人ヲ成ササルトキモ亦同シ
右ノ場合ニ於テ各社員間ノ決算ハ第七百八十四條乃至第七百八十九條ニ規定シタル貸方及ヒ借方ニ於ケル各自ノ持分ニ從ヒテ之ヲ爲ス
(栗塚)
第一項ヲ報吿委員ニテ支配人ト云フ字ハ業務擔當人トシ「會社カ無形人ヲ成セルトキハ」ト云フ文字ヲ刪除シ擔保ストアル下ニ但會社ノ無形人タルトキニ限ルト云フヲ足セリ
(箕作)
但會社ノ云々ヲ附加セズ會社ガ無形人云々ノ原案ヲ可トス
(栗塚)
報吿委員ノ修正ハ取消ニ付スベシ
第三節 會社ノ終止
第七百九十二條 會社ハ左ノ諸件ニ依リテ當然終止ス
第一 會社契約ヲ以テ指定シタル時期ノ滿了又ハ解除條件ノ成就
第二 會社ノ目的タル事業ノ成功又ハ其成功ノ不可爲
第三 申込ミタル會社資本ノ全部又ハ半額ヲ超ユル損失
第四 社員ノ一人ノ技術、勞力又ハ收益ヲ以テスル繼續ノ出資ヲ爲スノ不可爲
第五 社員ノ一人ノ死亡、禁治產判認ノ破產又ハ顯然ノ無資力但第七百九十五條ノ規定ヲ妨ケス
(栗塚)
終止ハ終了トシ不可爲トアルヲ不能トシ判認ノ文字ハ刪除スベシ
(村田)
申込ミタルト云フ文字ハ却テ疑義ヲ生ズルニ付刪除シタシ
可決ス
第七百九十三條 會社ハ左ノ諸件ニ因リテ之ヲ解散スルコトヲ得
第一 如何ナル場合ヲ問ハス社員ノ一致ノ意思
第二 明示又ハ默示ノ一定ノ期間ナキ場合ニ於テ惡意ニ非ス又都合ノ時期ニ非スシテ解散ノ請求ヲ爲ストキハ社員一人ノ意思
第三 社員ノ一人ノ義務不履行ニ基キタル解除ノ訴又ハ會社ニ一定ノ期間アルトキト雖モ正當ノ理由ニ基キタル解散ノ請求
(栗塚)
本條第三ハ報吿委員ニテ會社ニ一定ノ期間アルトキト雖ドモト云フヲ刪除シ請求ノ下ニ但會社ニ一定ノ期間アルトキト雖モ亦同ジトセリ原案ニテハ正當ノ理由云々ノミニ係ルモ社員ノ一人ノ義務不履行云々ニ係ラザレバナリ
(村田)
冒頭ニ冠セシメテハ如何
(栗塚)
然ルベシ
結局會社ニ一定ノ期間アルトキト雖ドモ社員ノ一人ノ義務不履行ニ基キタル解除ノ訴又ハ正當ノ理由ニ基キタル解散ノ請求トスルニ決ス
(村田)
第二ノ冒頭ニ會社ニノ文字ヲ冠セシメタシ
可決ス
第七百九十四條 社員ハ會社ノ期間ノ滿了前ニ明示又ハ默示ニテ之ヲ伸長スルコトヲ得
默示ノ伸長ハ一定ノ期間ノ滿了後ニ於テ社員ノ一人タモ故障ヲ爲サスシテ會社營業ノ繼續シタル事實ヨリ生スルコトヲ得此場合ニ於テ會社ハ前條第二號ニ從ヒ社員ノ一人ノ意思ヲ以テ之ヲ解散スルコトヲ得
(渡)
「一人タモ」トアルハ一人モトシタシ
(元尾崎)
一人ダモトアルヲ可トス
(北畠)
原案ノ儘ニテ可ナリ
可決ス
第七百九十五條 社員ハ第七百九十二條第五號ニ揭ケタル原因ニ因リテ會社ヲ解散セス且缺ケタル社員ノ持分ヲ定メ他ノ社員ニテ之ヲ繼續スルヲ約束スルコトヲ得
又社員ハ死亡シタル社員ノ相續人又ハ無能力ト爲リタル社員ト共ニ會社ヲ繼續スルヲ約束スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ相續人又ハ合式ノ代理ナル無能力者ノ承諾ヲ要ス
(栗塚)
缺ケタル社員ト云フ文字ハ缺員トシタシ
可決ス
(元尾崎)
無能力者ト共ニ會社ヲ繼續スルヲ得ベキヤ
(栗塚)
社員中無能力者ト爲リタルトキハ合式ノ代理人ト共ニ繼續スベキ義ナリ
(元尾崎)
本條ノ文面上ニテハ無能力者ノ承諾アルヲ要スルガ如シ
結局前項ノ場合ニ於テハ相續人又ハ無能力者ノ合式代理ノ新ナル承諾ヲ要ストスルニ可決ス
第四節 會社ノ淸算及ヒ分割
第七百九十六條 會社ノ解散シタルトキハ社員ノ各員又ハ其承接人ヨリ淸算ヲ請求スルコトヲ得
淸算ハ分割前ニ之ヲ爲スコトヲ要ス但社員ノ多數カ全部又ハ一分ノ分割ヲ先ニスルコトヲ請求シタルトキハ此限ニアラス
又會社ノ各債權者ハ淸算前ニ分割ヲ爲スコトニ付キ故障ヲ申立ツルコトヲ得
(栗塚)
起案者ヨリ社員ノ文字ノ上ニ舊ノ字ヲ加ヘ來レリ
(松岡)
舊ノ字ヲ加フルニ及バズ
第七百九十七條 淸算ノ事務ハ左ノ諸件ナリ
第一 着手シタル事件ノ成就
第二 會社ノ債務ノ辨濟及ヒ其第三者ニ對スル債權ノ取立
第三 各社員ト會社トノ間ノ特別ナル計算ノ定方
第四 分割スヘキ貸方又ハ負擔ス可キ借方ニ於ケル各社員又ハ其代人ノ持分ノ指定
(栗塚)
本條淸算ノ事務ハ左ノ諸例ナリトアルヲ淸算ハ左ノ諸件ヲ包含ストシ第一ノ事件ト云フ文字ハ業務トスベシ
可決ス
第七百九十八條 會社契約中淸算人ノ選任及ヒ其權限ニ關スル約款ハ已ムヲ得サル故障ナキニ於テハ之ヲ履行スルコトヲ要ス
會社契約ニ淸算人ノ選任及ヒ其權限ニ關スル約款ナキトキハ淸算ハ或ハ總社員之ヲ爲シ或ハ社員ノ一致ヲ以テ委任シタル一人若クハ數人ノ社員之ヲ爲シ或ハ社員ノ一致ヲ以テ選任シタル第三者之ヲ爲ス
社員カ淸算人ノ選任ニ付キ一致セサルトキハ裁判所ニ於テ之ヲ選任ス
(栗塚)
本條第一項故障ノ文字ハ妨碍ト云フ文字ニ修正シタシ
(村田)
異議トシテハ如何
(松岡)
前決讓ノ如ク權限ニ關スル約款ナキトキハトシタシ
(栗塚)
第一項ヲ刪除スレバ前議ノ精神ニ適合セリ
可決ス
第七百九十九條 淸算人ハ如何ナル場合ヲ問ハス速ニ缺減又ハ敗損ス可キ物ヲ讓渡スコトヲ要ス
滿期ト爲リタル債務ノ辨濟ノ爲メ必要ナルトキハ此他ノ動產ヲ讓渡スコトヲ得
不動產ニ付テハ淸算人ハ社員ノ特別ナル委任ヲ受ルニ非サレハ之ヲ抵當トシ又ハ讓渡スコトヲ得ス
前項ノ讓渡ハ協議上ニテ約束スルヲ許シタル場合ノ外ハ公賣競落ニ依ルニ非サレハ之ヲ爲スコトヲ得ス此等ノ處分ハ總テ社員ノ多數決ヲ以テスルコトヲ要ス
淸算人ハ社員ノ名ヲ以テ原吿又ハ被吿トシテ訴訟ヲ爲スコトヲ得
淸算人カ會社ノ債務又ハ債權ニ付キ承諾シタル和解及ヒ仲裁ハ第三者ト通謀シタル詭譎ノ爲メニ非サレハ之ヲ攻撃スルコトヲ得ス
(栗塚)
本條第四項多數決ヲ以テスルコトヲ要ストアルハ起案者ヨリ過半數ヲ以テ之ヲ決スルコトヲ要ストシ來レリ
(尾崎)
第一項缺減又ハ敗損トアルハ毀損又ハ滅盡トシタシ
可決ス
第八百條 淸算ノ總計算ハ社員ノ認可ヲ受クルコトヲ要ス
右ノ計算ヲ認可スルニハ社員ノ多數決ヲ以テ足レリトス
其議決ハ總計算ヲ合セテ之ヲ爲シ又ハ計算ノ或ル部分ニ付キ各別ニ之ヲ爲スコトヲ得
認可ヲ得ス且改正スルヲ得ヘキ計算ハ淸算人其費用ヲ以テ之ヲ爲ス若シ改正スルヲ得サルトキハ淸算人ハ代理ノ規則ニ從ヒ其過失ニ因リテ加ヘタル損害ノ責ニ任ス
淸算人ノ受任シタル權限ニ依リ又ハ前條ニ從ヒテ爲シタル行爲ハ常ニ善意ナル第三者ノ爲メニ之ヲ維持ス
(栗塚)
改正ト云フ文字ハ仕直トシタシ
(淸岡)
仕直シト云フ意義ハ改正ニアラズヤ
(栗塚)
正ノ義ヲ帶ビザレバナリ
(箕作)
仕直シトシテハ如何
(元尾崎)
改ムルトシタシ
(村田)
仕直トスルヲ可トス
可決ス
第八百一條 株式ヲ以テ民事會社ヲ組織シタルトキハ商事ノ株式會社ノ規則ニ從ヒテ其淸算ヲ爲ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ全ク刪除スベシトス
可決ス
第八百二條 會社ノ淸算後ハ不分ニテ存スル財產ノ分配ハ社員ノ各自又ハ其承接人ヨリ之ヲ請求スルコトヲ得但當事者カ第四十條ニ從ヒ不分ニテ存スルコトヲ會社ノ解散後ニ約束シタルトキハ此限ニアラス
(松岡)
分割ト云フ字ハ平穩ニアラズ
(村田)
分割ノ文字ハ既ニ存用シ來レリ
第八百三條 配當部分ノ組成又ハ各當事者ニ對スル配當ニ付キ當事者ノ一致セサルトキハ財產ノ相續其他ノ共通ノ分割ノ爲メ本法及ヒ民事訴訟法ニ定メタル規則ニ從フ
(栗塚)
各當事者ニ對スル配當ニ付キト云フ配當ノ文字ハ配賦ノ誤ナリ又財產ト云フ文字ヲ刪リ共通ノ上ニ財產ト云フ文字ヲ挿入シタシ
(松岡)
冒頭配當部分トアルハ分割部分トスベキニアラズヤ
(栗塚)
俗ニ所謂一山ト云フ意義ナリ
(尾崎)
配當部分ト云フニテ可ナリ
(南部)
分割部分トスルヲ可トス
(松岡)
本節ノ題命ハ分割トアルニ付キ本條モ分割トセザレバ一定ナラズ可決ス
(松岡)
民事訴訟法ニ定メタル規則ニ從フトアルモ個ハ訴訟法ニ明記ナシ
(箕作)
本條ハ全然刪除スルモ差支ナシ
(南部)
本法ノ規則ト云フ場合ハ存スベシ本法ノ文字ヲ存スルトキハ相續法ノ成定ニ至ラザル間ハ單行ノ布吿ヲ以テ之ヲ處理スルヲ得ベケレバナリ
(栗塚)
本法ノ文字ヲ存スルモ人事篇ノ成定セザル間ハ本法中ニ揭載ナキニ依リ不都合トス
(淸岡)
訴訟法中ニモ記載スルコトトシテハ如何
(渡)
本條ハ報吿委員ノ調査ニ付シタシ其議ニ決ス
第八百四條 會社資本中ノ物ニシテ分割ニ因リ各社員ニ歸シタルモノニ關スル其社員ノ權利ハ會社解散ノ日ニ遡リテ効力ヲ有シ不分中ニ於テ他ノ社員ヨリ其物ニ付キ第三者ニ授與シタル權利ハ之ヲ解除ス
無異議
第八百五條 共同分割者ハ分割ニ因リテ取得シタル權利ノ上ニ受クルコト有ル可キ妨碍及ヒ追奪ニ付キ其各自ノ部分ニ應シテ相互ニ擔保ヲ爲ス
共同分割者ノ一人カ無資力ナルトキハ其一人ノ負擔シタル賠償ノ部分ハ被擔保人ヲ併セテ他ノ共同分割者ノ間ニ之ヲ分付ス
(栗塚)
共同分割者トアルハ共同ノ文字ヲ除キ此他ニ共同分割者トアルモ皆分割者トシタシ
可決ス
(栗塚)
第一項取得シタル權利ト云ヘル文字ハ擔保篇ニ至テ差支ヲ生ズルニ付キ諾約セラレタル權利トシタシ
可決ス
(松岡)
分付ト云フハ安當ナラズ分付ハ支那語ニテハ云付ルコトノ意味トナルベシ
(尾崎)
分ツトスベシ
可決ス
第八百六條 分割ハ成年者ノ間ニ之ヲ爲シ且動產物ヲ目的トシタルトキト雖モ其分割者ノ受クヘキ部分ノ四分一ヲ超ユル缺損アルトキハ其者ノ爲メニ分割ヲ銷除スルコトヲ得
缺損ニ因ル賣買ノ銷除ニ關シテ第七百三十四條以下ニ規定シタル條件ハ右ノ場合ニ之ヲ適用ス
(栗塚)
已ニ缺損ノ條項ヲ刪除シタル結果ニ從ヒ本條モ刪除セザルベカラズ可決ス
第十六章 懸空契約
總則
第八百七條 懸空契約トハ當事者ノ双方若クハ一方ノ損益ニ付キ其効力ノ全部又ハ一分ヲ將來ノ不確實ナル事件ニ繋クルモノヲ謂フ
(尾崎)
懸空ノ文字ハ最初ノ如ク射倖トシタシ
(南部)
射倖ノ文字ハ已ニ否決セラレ懸空ニ可決シタルニアラズヤ
(箕作)
射倖ト云フ文字ハ可ナリト思惟セルモ前回ニテ懸空ト決シタル以上ハ懸空ト爲シ置キタシ
(渡)
已ニ懸空ト決シタルモ事實ト文字ニ不適合アレバ修正ヲ要スベシ
結局射倖トスルニ決ス
第八百八條 懸空契約ニハ其性質ニ因ルモノ有リ當事者ノ意思ニ因ルモノアリ
博奕、賭事、終身年金權其他終身權利ノ設定、陸上、海上ノ保險及ヒ冒險貸借ハ性質ニ因ル懸空ノモノタリ
此他成立又ハ効力ヲ停止又ハ解除ノ未必條件ニ繋クル契約ハ當事者ノ意思ニ因ル懸空ノモノナリ
(箕作)
繋グルト云フ言詞アリヤ
(松岡)
繋グルト云フモ可ナルベシ
可決ス
第八百九條 陸上、海上ノ保險及ヒ冒險貸借ハ商法ヲ以テ之ヲ規定ス
無異議
第一節 博奕及ヒ賭事
第八百十條 博奕カ博奕者ノ勇氣、力量、巧技ヲ發達ス可キ性質ナル體躯運動ヲ目的トスルニ非サレハ其義務履行ノ爲メ訴權ヲ許サス
賭事ニ基ク訴權ハ右ノ如キ體躯運動ヲ爲ス人ノ爲メ又ハ賭者ノ直接ニ爲ス農工商ノ業事ノ成功ノ爲メニスルニ非サレハ亦之ヲ許サス
右ノ博奕又ハ賭事ニ於テ約束シタル金額又ハ有價物カ情況ニ照シテ過度ナリト見ユルトキハ裁判所ハ之ヲ減少スルコトヲ得スシテ全ク其請求ヲ棄却スルコトヲ要ス
(栗塚)
冒頭ノ博奕カトアルハ博奕ハトシタシ
可決ス
(淸岡)
博奕ト云フ字ハ從來習慣ノ博奕ノ字ト同ジカラザレバ賭事ノ文字ニ換ヘタシ
(栗塚)
自ラ爲ス場合ヲ博奕ト云ヒ他人ノ行爲ニ付キ財物ヲ賭スルヲ賭事ト云フノ差アリ
(南部)
字弊ヲ改正スルハ然ルベシト雖ドモ博奕ト賭事トヲ一文字ニスルハ不可ナリ
(尾崎)
力量巧技ヲ爭フ者ハ在來ノ習慣上博奕ト稱セズ
(松岡)
博奕ノ文字ハ用語上妥當ヲ失スル感アルベシ
(栗塚)
博奕ハ場口トハ異別ナリ原文ハ手慰ミト云フ意ナリ
(松岡)
博戲トシテハ如何
(栗塚)
賭戲トシテハ如何
(北畠)
博戲ト云フハ妥當ナルベシ
可決ス
第八百十一條 前條ノ場合ノ外博奕及ヒ賭事ハ何等ノ義務ヲモ生セス且其債務ノ認定、更改又ハ保證ハ總テ無効ナリ
然レトモ右博奕又ハ賭事ニ因ル有能力者ノ任意ノ辨濟ハ之取戻スコトヲ許サス但勝者ニ於テ詭譎又ハ欺瞞アリタルトキハ此限ニ在ラス
(尾崎)
本條第二項但以下ハ刪除シタシ
(南部)
但以下ハ詐欺刑ニ屬スベキ性質ニシテ賭奕トハ異別ナレバ存在セシムルベシ
(北畠)
詐欺ハ詐僞トシテハ如何欺瞞ノ欺ト區別センガ爲メナリ
可決ス
第八百十二條 官許ヲ得サル富講ハ訴權ナキ博奕及ヒ賭事ニ關スル規定ニ從フ
商品又ハ公ノ證券ノ投機ノ定期賣買ニ付テモ初ヨリ當事者カ約束シタル金額又ハ有價物ノ引渡及ヒ辨濟ヲ實行スルニ意ナク單ニ相場昻抵ノ差額ヲ計算スルノミヲ目的トシタルコトヲ被吿カ證明スルトキモ亦同シ
(栗塚)
本條第一項ハ賭事ニ關スル規定ニ從フトアルヲ賭事ト同視ストシ第二項約束ヲ約諾トシ被吿ガ證明ストアルヲ被吿ノ證スルトシタシ
可決ス
第八百十三條 前二條ノ場合ニ於テ被吿ヨリ無効ノ排斥理由ヲ申立テサルトキハ判事ハ職權ヲ以テ其無効ノ排斥理由ヲ補足スルコトヲ得但契約又ハ請求ニ於テ博奕、富講又ハ相場差額ノ賭事カ債務ノ原因タルコトヲ明言セシトキニ限ル
(栗塚)
本條ハ無効ノ排斥理由トアルヲ銷除ノ抗辯トシタシ
可決ス
第二節 終身年金權
第一款 終身年金權ノ設定
第八百十四條 終身年金權ハ動產若クハ不動產ナル元本ノ讓渡ノ報酬トシ又ハ既往若クハ將來ノ勤勞ノ報酬トシテ有償名義ニテ之ヲ設定スルコトヲ得
又終身年金權ハ有償又ハ無償ノ名義ニテ讓渡シタル元本ノ上ニ留存シテ之ヲ設定スルコトヲ得
又生贈又ハ遺贈ヲ以テ無償名義ニテ之レヲ設定スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ終身年金權設定ノ方式、授受ノ能力及ヒ處分シ得ヘキ財產ノ部分ニ付テハ無償名義ニ關スル特別規則ニ從フ
(栗塚)
此條ニハ末項刪除ノ建議アリ個ハ然ルベキニ付キ採用シタシ
(淸岡)
刪除ノ理由如何
(栗塚)
送リヲ附シタルニ過ギズ
(元尾崎)
本條ハ第一項ト第二項トノ意味異ルヲ認メズ〔此項削除建議〕
(南部)
元本ヲ讓與スルト依託スルトノ異アルノミ
第八百十五條 終身年金權ハ對價物ノ供與者ニ非サル人ノ利益ノ爲メ之ヲ設定スルコトヲ得
此場合ニ於テハ要約者ト諾約者トノ間ニ在リテハ有償名義ノ契約ノ規則ニ從ヒ要約者ト得益者トノ間ニ在リテハ生贈ノ規則ニ從フト雖トモ生贈ノ方式ニ從フコトヲ要セス
(栗塚)
本條第一項設定ノ文字ハ要約トスベシ
可決ス
第八百十六條 終身年金權ハ債權者若クハ債務者ノ終身ヲ期シ又ハ第三者ノ終身ヲ期シテ之ヲ設定スルコトヲ得
此未ノ場合ニ於テ契約カ有償ナルトキハ其成立ニ付キ第三者ノ承諾ヲ必要トス然レトモ此承諾前ニ辨濟シタル年金ハ之ヲ取戻スコトヲ得ス
(槇村)
設立ハ要約トセサルカ
(南部)
設定モ要約モ異議アラサルモ前條ハ第二項ニ要約者ト云フ文字アレハナリ
第八百十七條 終身年金權ハ同時又ハ順次ニ數人ノ債權者ノ終身ヲ期シテ之ヲ設定スルコトヲ得
此場合ニ於テハ用益權ニ關スル第百三條ノ規定ヲ適用ス
無異議
第八百十八條 有償名義ノ終身年金權ノ契約ハ其設定ノ爲メ終身ヲ期セラレタル人カ契約ノ當時ニ於テ已ニ死亡シタルトキハ當事者双方其死亡ヲ知ラスト雖モ無効ナリ
右ノ人カ契約ノ當時ニ於テ已ニ罹レル疾病ノ爲メ六十日内ニ死亡シタルトキハ其契約ハ當然之ヲ解除ス
(村田)
契約ノ當時ト云フハ合意ノ當時ナリヤ
(箕作)
契約ノ當時ト云フニテ可ナリ
(尾崎)
合意トシテモ可ナリ
第八百十九條 無償名義ノ終身年金權ハ設定者ニ於テ之ヲ不可讓且不可押ノモノト定ムルコトヲ得
右約款ハ設定證書ニ記入シタルニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
養料トシテ無償ニテ設定シタル終身年金權ハ當然不可讓且不可押ノモノナリ
本條ノ規定ハ生贈ノ財產ニ付キ生贈者ノ利益ノ爲メ留存シタル終身年金權及ヒ支拂時期ノ至リタル年金ニ之ヲ適用セス
(栗塚)
不可讓且不可押トアルハ何レモ讓渡スコトヲ得ズ且差押フコトヲ得ザルトシ末項ハ本條ノ規定ハ贈與者ノ利益ノ爲メ贈與財產ノ上ニ留存シタル云々トシタシ
可決ス
<第二項ヲ前條ノ末項ニ移入ルルノ建議>
第八百二十條 終身年金權ノ不可讓及ヒ不可押ハ其一事ノミヲ要約シタルトキト雖モ二事共ニ存立ス
(栗塚)
本條ハ終身年金權ノ讓渡及ビ差押ノ禁止ハ其一事ノミ云々トシタシ
可決ス
第二款 終身年金權ノ契約ノ効力
第八百二十一條 債務者ハ年金權ノ設定ノ爲メ終身ヲ期セラレタル人ノ生存中ハ其年金權ノ年金ヲ支拂フコトヲ要シ且贖圍ヲ爲スコトヲ得ス但其贖圍ニ付キ特別ノ契約アルトキハ此限ニ在ラス
(尾崎)
贖圍ハ買戻トスベシ
可決ス
(栗塚)
契約ハ合意トナルベシ
第八百二十二條 年金ハ每月又ハ此ヨリ長キ時期ニ於テ其支拂ヲ爲ス可キトキト雖モ債權者日割ヲ以テ之ヲ取得ス
然レトモ年金ヲ前拂ス可キトキハ債務者ハ已ニ支拂時期ノ始マリタル全一期分ヲ負擔ス
無異議
第八百二十三條 債權者ハ解除ノ權利ヲ留保セサルトキハ年金支拂ノ欠缺ノ爲メ契約ノ解除ヲ請求スルコトヲ得ス只其債務者ノ財產中ニ於テ年金ヲ受ルニ足ルヘキ部分ヲ差押ヘ之ヲ賣却セシメ其賣却代金ヨリ生スル利息ヲ以テ年金ノ支拂ニ充ルコトヲ得但他ノ債權者ノ競取ヲ拒ムコトヲ得ス
終身年金權ヲ無償名義ニテ設定シ又ハ生贈若クハ遺贈ノ元本ノ上ニ留存シタルトキモ亦右ト同一ニ處理ス
(栗塚)
競取ト云フ文字ハ參同シテハ如何
(南部)
參同トスルヲ可トス
(元尾崎)
競取ハ競ヒ來リテ其物ヲ得取スルヲ云フ
(栗塚)
競取ハ競參トシタシト雖モ尙ホ他ノ場合ニ於テ決スルコトトシタシ其議ニ決ス
第八百二十四條 終身年金權ノ債務者ハ年金權ノ設定ノ爲メ終身ヲ期セラレタル人カ支拂ノ時期ニ生存セシコトヲ債權者ヨリ證明セサルトキハ其年金ノ支拂ヲ拒ムコトヲ得
生存ノ保證書ハ其人ノ現住地ノ受持公證人又ハ身分取扱人之ヲ交付ス
(栗塚)
本條ハ起案者ヨリ第一項ノ債權者ヨリトアル下ニ生存ノ保證書ヲ以テト云フ字ヲ入レ證明セザルヲ證セザルトシ第二項ノ生存ノト云フ字ハ此トシタシ
(箕作)
保證書ト云フ字ハ妥當ナリヤ
(栗塚)
認證書トシテハ如何
可決ス
第三款 終身年金權ノ消滅
第八百二十五條 有償名義ノ終身年金權ノ債務者カ年金支拂ノ爲メ約束シタル抵保ヲ供セス又ハ供シタル抵保ヲ減少スルトキハ債權者ハ契約ノ解除ヲ請求シ且已ニ支拂時期ノ至リタル年金ヲ取得スルノ權利ヲ有ス
生贈又ハ遺贈ノ元本ノ上ニ留存シタル終身年金權ノ債權者モ亦右ト同一ノ權利ヲ有ス
右ノ解除ハ年金權ノ設定ノ爲メ終身ヲ期セラレタル人カ確定判決前ニ死亡シタルトキハ之ヲ宣吿セス
(栗塚)
本條第一項ハ報吿委員ニテ約束シタルトアルヲ諾約シタルトシ抵保ヲ擔保トシ契約ノ解除ヲ請求シトアルヲ契約ノ解除ヲ請求スルコトヲ得トシ且ツヲ但トシ年金ヲ取得スルノ權利ヲ有ストアルヲ年金ノ何等ノ部分ヲモ返還スルノ責ナシトセリ
(松岡)
本條ハ原案ノ儘ヲ可トス
(栗塚)
解除ト云ヘバ舊ニ複スルヲ云フモノナルモ解除ハ已ニ受取リタル部分ヲ返還スルノ責ナシト云フニアリ
(淸岡)
已ニ淸取濟ニ屬シタル部分ヲ返還スベキ所以ナケレバ敢テ明記スルニ及バズ
(南部)
解除シタル以上ハ舊狀ニ回復セザルベカラザルニアルモノナレバ此點ハ之ヲ明記シテ以テ其責ナキヲ顯著ナラシムルヲ要ス
(槇村)
支拂時期ノ至リタル年金ヲ取得スル權利アル以上ハ業ニ已ニ受取濟ニ屬シタル部分ハ返還スルノ責ナキコト勿論ナリトス
(南部)
解除シタル以上ハ最早取得スルト云フヲ得ザルベシ故ニ返還ノ責ナシトシテ以テ支拂時期ニ達シタル部分ヲモ收受セシメザルベカラズ
(箕作)
支拂時期ノ至リタルト云フヲ刪除シ已ニ取得シタル年金ノ何等ノ部分云々トシテハ如何
(元尾崎)
已ニ取得シタルト云ヘバ實物ニ付キ云フモノニシテ權利ヲ得タルト云フ意味ヲ顯ハサズ
(南部)
取得ト云ヘバ權利ト實物トニ付キ云ハルベシ
結局但已ニ取得シタル年金ノ何等ノ部分ヲモ返還スルノ責ナシトス
第八百二十六條 普通法ニ於テ許シタル銷除及ヒ廢罷ノ原因ハ終身年金權ニ之ヲ適用ス
終身年金權ハ此他尙ホ更改、免除、混同、時効及ヒ要約シタル贖圍ニ因リテ消滅ス
然レトモ終身年金權カ第八百十九條及ヒ第八百二十條ニ從ヒテ法律又ハ契約ニ依リテ不可讓及ヒ不可押ノモノナルトキハ其年金權ハ時効ニ罹ラス
如何ナル場合ニ於テモ年金ハ支拂時期ノ五ケ年ニシテ時効ニ罹ル
(栗塚)
本條第一項ハ再調査員ニテ免除ノ上ニ合意上ノト云フ字ヲ入レ例ニ從ヒ贖圍ヲ買戻トシ不可讓及ビ不可押ト云フ文字ハ讓渡スコトヲ得ズ且差押フルコトヲ得ザルトスベシ
(渡)
普通法ト云フ文字ニハ疑ヒヲ惹起スベキニアラズヤ
(栗塚)
普通法ト云ヘバ民法ナリト云フニ疑ヒナシ
(松岡)
支拂時期ノ五ケ年トアルハ支拂時期後五ケ年ト云フ意トナルベシ然ルニ商法ニ於テハ支拂時期ト云ハズ滿期トシタルニ付キ其例ニ倣ヒタシ
(元尾崎)
滿期ト云ヘバ假令バ十ケ年間年金權ノ契約アルトキハ其十ケ年ヲ經過シタル場合ヲ云フニアリ
(松岡)
年金權ノ滿期ハ每一ケ年間ヲ云フ十ケ年ノ契約ナルトキ其十ケ年ヲ經過シタルトキハ年金權消滅スベシ
(渡)
支拂時期後トスベシ
(村田)
滿期後ト云フヲ可トス
結局支拂時期後トスルニ可決ス
第八百二十七條 終身年金權ハ其設定ノ爲メ終身ヲ期セラレタル人ノ死亡ニ因リテ消滅ス但第八百十八條ノ規定ヲ妨ケス
然レトモ終身ヲ期セラレタル人カ債務者ノ責ニ歸ス可キ不正ノ原因ニ由リテ死亡シタル場合ニ於テ其年金權ヲ有償名義ニテ又ハ生贈若クハ遺贈ノ負擔トシテ設定シタリシトキハ其契約又ハ惠與ハ之ヲ解除ス且債務者ハ已ニ支拂ヒタル年金ヲ取戻サスシテ其取得シタル財產ヲ返還ス
右ト同一ノ死亡ノ場合ニ於テ其年金權ヲ直接ニ生贈シ又ハ遺贈シタリシトキハ年金ノ支拂ハ裁判所カ終身ヲ期セラレタル人ノ生命ノ繼續期ト推測スル期間之ヲ繼續セシム
無異議
〔第八百二十八條ヨリ第八百七十二條マテ(第三節、陸上保險)ハ商法ニ讓ルニ付キ略ス〕
第十七章 消耗貸借及ヒ無期年金權
第一節 消耗貸借
第八百七十三條 消耗貸借ハ當事者ノ一方カ代替物ノ所有權ヲ他ノ一方ニ移轉シ他ノ一方カ或ル時間後ニ同數量及ヒ同品質ノ物ヲ返還スル義務ヲ負擔スルノ契約ナリ
(箕作)
消耗ト云フ文字ハ消費トシ商法ト同一ニノハ如何
(南部)
商法ヲ消耗トシタシ
(元尾崎)
消費トスベシ
可決ス
第八百七十四條 當事者カ返還ノ時期ヲ定メサリシトキハ裁判所ハ當事者ノ意思ヲ推測シ且事情ヲ斟酌シテ之ヲ定ム
又返還ノ場所ヲ定メサリシトキハ無利息ノ貸借ニ付テハ貸主ノ住所有利息ノ貸借ニ付テハ借主ノ住所ニ於テ其返還ヲ爲ス
(栗塚)
有利息ト云フハ利息付トシテハ如何
可決ス
(箕作)
利息付ノ上ニ又ノ字ヲ加ヘタシ
(北畠)
利息ノ上ニ又ノ字ヲ加ルナレバ冒頭又ノ字ヲ刪ルベシ
可決ス
第八百七十五條 借用物ノ返還カ意外ノ事又ハ不可抗ノ力ニ因リテ不可爲ト爲リタルトキハ借主ハ貸借ヲ爲シタル時日及ヒ場所ノ相場ニ從ヒテ算定シタル其物ノ價格ヲ負擔ス
(栗塚)
不可爲ト云フ字ハ不能トシ不可抗ノ力ト云フハ不可抗力トスベシ
(箕作)
本條ハ意外ノ事又ハ不可抗力ニ因リ借用物ヲ返還スルコト能ハザルトキハ借主ハ云々トシテハ如何
可決ス
第八百七十六條 貸主ニ屬セサル物ノ貸借ハ無効ナリ其貸借カ有利息ニシテ且借主カ善意ナリシトキハ貸主ハ借主ニ對シテ擔保ノ責ニ任ス
然レトモ此貸借ハ左ノ場合ニ於テハ有効ナリ
第一 借主カ善意ニテ借用物ヲ消耗シタルトキ
第二 借主カ時効ニ因リ眞所有者ノ回復ノ請求ヲ排却シタルトキ
第三 眞所有者カ貸借ヲ認諾シタルトキ
本條ハ例ニ從ヒ消耗トアルヲ消費トセリ
第八百七十七條 貸借物ニ借主ノ了知セスシテ貸主ノ了知シタル隱濳ノ瑕疵アリテ其瑕疵カ身體又ハ財產ニ損害ヲ加フ可キ性質ニシテ且實際借主ニ損害ヲ加ヘタルトキハ貸主ハ無利息ノ貸借ニ付テハ自己ニ詭譎アリ又ハ加害ノ意思アリタルニ非サレハ其損害ノ責ニ任セス
其貸借カ有利息ナルトキハ貸主ノ了知セサリシ隱濳ノ瑕疵ト雖モ之ヲ了知スルコトヲ得ヘキトキハ其責ニ任ス
此他賣買廢却訴權ニ關スル第七百四十一條乃至第七百四十八條ノ規定ハ之ヲ消耗貸借ニ適用スルコトヲ得
(栗塚)
本條ハ例ニ從ヒ隱濳ノトアルヲ隱レタルトシ詭譎ハ詐欺トシ有利息ハ利息付トシ消耗ハ消費トセリ
可決ス
(村田)
隱レタル瑕疵ハ第七百四十一條ニ倣ヒ不表見ノ瑕疵トシタシ
(槇村)
隱レタル瑕疵ト云フヲ可トス
可決ス
第八百七十八條 第四百八十四條乃至第四百八十七條ハ正貨又ハ強制通用ノ紙幣ニテ爲シタル消耗貸借ニ之ヲ適用ス
然レトモ貸主カ第四百八十六條ノ許セル金貨若クハ銀貨ヲ以テ指定シタル價額ノ辨濟ヲ受ケ又ハ是等ノ正貨ノ一ヲ以テ辨濟ヲ受クルコトヲ要約スルニハ同性質ノ正貨又ハ他ノ正貨若クハ紙幣ヲ以テ對當ノ價額ヲ實際ニ貸付スルコトヲ要ス
無異議
第八百七十九條 貸借ヲ金銀塊ニテ爲シタルトキハ借主ハ他ノ商品ノ貸借ノ如ク同一ノ性質、重量及ヒ品格ノ金銀塊ヲ返還スルコトヲ要ス
無異議
第二項及ヒ第三項ヲ削除シ「其貸借カ有利息ナルトキハ第何條(賃貸借ノ修正案ニ詳ナリ)ノ規定ニ從フ」トノ一項ニ換フルノ建議
第八百八十條 金錢、日用品又ハ商品ノ借主ハ使用ノ報酬トシテ元本ノ外ニ利息ノ名目ヲ以テ借用物ノ割合ニ應スル金額又ハ有價物ノ辨濟ヲ約束スルコトヲ得
無異議
第八百八十一條 利息ハ要約シタルニ非サレハ借主ニ對シテ之ヲ要求スルコトヲ得ス
借主ヨリ利息ヲ辨濟ス可キノ契約アリテ其額ノ定メ無キトキハ其利息ハ法律ノ制限ニ從フ
諾約セサル利息ヲ法律ノ制限内ニテ任意ニ辨濟シタル借主ハ之ヲ取戻シ又ハ之ヲ元本ノ辨濟ニ充當スルコトヲ得ス
(栗塚)
本條第一項契約ハ合意トシ第二項諾約セザルトアルヲ要約セラレザルトスベシ
(松岡)
其利息ハ法律ノ制限トアルヲ其利息ハ法律上ノ割トスベシ
可決ス
第八百八十二條 契約上ノ利息ハ法律ヲ以テ特ニ制禁スル場合ノ外ハ法律ノ制限ヲ超ユルコトヲ得
法律ノ制限ヲ超エテ顯然ニ利息ヲ定メタルトキハ之ヲ法律ノ制限ニ滅却シ此制限ヲ超エテ爲シタル辨濟ハ之ヲ元本ノ辨濟ニ充當シ又ハ之ヲ取戻スコトヲ得
債權者カ實際ニ貸付シタル元本ヲ超ユル元本ノ認定其他ノ方法ヲ以テ不正ノ利息ノ全部又ハ一分ヲ隱蔽シタルトキハ債務者ハ其不正ノ利息ノ何等ノ部分ヲモ辨濟スルコトヲ要セス若シ之ヲ辨濟シタルトキハ其全部ヲ取戻スコトヲ得
(元尾崎)
本條第一項ハ合意ノ利息ハ法律上ノ利息ヲ超ユルコトヲ得トシタシ
(松岡)
合意上ノ利息ハ法律上ノ制限ヲ超越スルヲ得ズト云フ義ナリ
(栗塚)
合意上ノ利息ハ法律上ノ利息ヲ超ユルコトヲ得ト雖ドモ法律上ノ制限ヲ超ユルコトヲ得ズ
(箕作)
制限ヲ超ユルト云フハ穩當ヲ得ズ
(尾崎)
第一項ハ報吿委員ニテ修正ヲ乞ヒタシ其議ニ決ス
(松岡)
第二項又ハ之ヲ取戻スコトヲ得トアルハ刪除シタシ
(南部)
取戻スコトヲ得ト云フハ規存セシメザレバ利息ヲ先占スルニ至ルベシ
(元尾崎)
任意上ニテ支拂フタル利息ヲ取戻スニ至ルハ苛酷ナリトス
(松岡)
此場合ハ殆ンド毒物ヲ嘗ムルナラバ尙ホ器皿ニモ及ブベシト云フガ如キ甚シキモノト云フベシ
(栗塚)
利息制限法ノ存在スル以上ハ此點ノ規定ヲ必要トスベシ
(松岡)
債權者既ニ收得シタルモノヲ數年間ヲ經ルモ期滿免除ニ至ラザル間ハ之ヲ取戻スコトヲ得ラルルト云フハ世ノ不安固ヲ生ズルモノト云フベシ
(槇村)
本條ハ曩ニ起按者ニ質問スト云フニアリ
(栗塚)
起按者ニ此條ノ說明ヲ案スルニ消耗貸借ハ無利息ヲ主トス故ニ恩惠ノ性質アリテ下ノ使用貸借ト同一種ナリ唯目的物ノ量定ナルト特定ナルト及ヒ消耗貸借ニ於テハ或ハ利息卽チ借賃ヲ拂フコトヲ約スルコトヲ得ルノ差アルノミ故ニ消耗貸借ト使用貸借トヲ各別ノ章ト爲ササルヲ可トス質問スベキ論據ニ乏シシ之ヲ質問スレバ必ラズヤ不當ノ富ヲ得取シタル者ナレバ法律上ニ許スベカラザルモノト云ハン
(松岡)
法律ハ任意ニ合意スルヲ許シタルモ此制限ヲ超ユベカラズト云フ範圍ヲ附シタリト云フニ過ギズ範圍ト云フニ廣狹ノ差アルモノニシテ原案ハ廣範圍ニ過グルモノト云フベシ
(元尾崎)
賭博上ニ得タル金圓ハ訴權ナキモ既ニ交付シタル金圓ハ之ヲ取戻スヲ得ザルニアラズヤ
(南部)
賭博上ノ授受ハ無元因ナレバ之ヲ取戻スベキ理由ヲモアラザルナリ
結局原按ニ決ス
(松岡)
第三項認定ヲ追認トスルハ不可ナリ
(南部)
認諾トシテハ如何
(栗塚)
諾約トスベシ
(淸岡)
認メシメト云フヲ可トス
(箕作)
認メシメ又ハ其他ノ方法トスベシ
可決ス
第八百八十三條 貸主ハ支拂時期ノ至リタル利息ニ付キ異議ヲ爲サスシテ元本ノ全部又ハ一分ヲ受取リタルトキハ反對ノ證據アルマテ其利息ヲ受取リ又ハ之ヲ抛棄シタリトノ推定ヲ受ク
無異議
第八百八十四條 十个年ヲ超ユル期間ヲ以テ有利息ノ貸借ヲ爲シタルトキハ借主ハ如何ナル反對ノ契約アルモ十个年後ハ常ニ辨濟ヲ爲スノ權能ヲ有ス
然レトモ年賦金ヲ以テ利息ノ外尙ホ元本ノ幾分ヲ漸次ニ償却スルトキハ其取越辨濟ヲ爲スコトヲ得ス
無異議
第八百八十五條 第八百八十一條乃至第八百八十四條ノ規定ハ消耗貸借ヨリ生スル義務ニ非サル金錢又ハ定量物ノ義務及ヒ契約上、法律上ノ利息ニ之ヲ適用ス
無異議
第二節 無期年金權ノ契約
第八百八十六條 有利息ノ貸主ハ元本要求ノ權利ヲ抛棄スルコトヲヲ得此ヲ無期年金權ノ設定ト謂フ
此抛棄ハ明白ナルカ又ハ明カニ事情ヨリ生スルコトヲ要ス
(栗塚)
本條ハ第一項權利ヲ抛棄スルトアルヲ權利ヲ自ラ禁止スルトシタシ
(松岡)
自ラ禁止スルト云ヘハ債務者ノ意思如何ニ拘ハラズ債權者ハ元本ヲ要求セズシテ無期年金權ヲ設定スルヲ得トナルモ債務者其方法ヲ迷惑トシテ之ヲ受ケザルトキハ如何債務者ハ無期年金權ト心得ザルベカラザルニ至テハ不都合ノ甚シキモノト云フベシ
(栗塚)
債權者ハ之ヲ無期年金權トスルヲ得ベシ
(箕作)
本條ハ法理上間然スベキナキモ定義上ニ缺點ナキニアラザルベシ
(淸岡)
債權者ト債務者トノ意思牴觸スル場合アルベシ
(元尾崎)
牴觸スルコトナシ
(栗塚)
貸主ガ元本ノ要求ヲ爲スコトヲ自ラ禁止シ年金ノミヲ受取ルコトヲ要約スルトキハ此ヲ無期年金權ノ設定ト謂フトシテハ如何
可決ス
(栗塚)
第二項抛棄ハ禁止トシ明白ハ明示トスベシ
可決ス
第八百八十七條 無期年金ノ債務ヲ負擔スル借主ハ如何ナル反對ノ契約アルモ常ニ其受取タル元本ノ辨濟ヲ爲スコトヲ得
然レトモ借主ハ十个年ヲ超エサル或ル時期前ニ辨濟ヲ爲ササルヲ約束スルコトヲ得
右期間ハ常ニ之ヲ更新スルコトヲ得然レトモ亦十个年ヲ超ユルコトヲ得ス若シ之ヲ超ユルトキハ十个年ニ短縮ス
辨濟ハ反對ノ契約アラサルトキハ全部タルコトヲ要ス
債務者ハ六个月前ニ辨濟ヲ爲スノ意思ヲ債權者ニ豫吿スルコトヲ要ス但當事者ニ於テ他ノ期限ヲ定メタルトキハ此限ニ在ラス
債務者ハ自己ノ定メタル時期ニ於テ辨濟ヲ爲ササルトキハ其損害ノ責ニ任ス然レトモ辨濟ノ強要ヲ受クルコト無シ但更改アリタルトキハ此限ニ在ラス
(栗塚)
本條ハ末項其損害ノトアルヲ其損害賠償ノトスベシ
可決ス
(松岡)
無期年金ノ債務ヲ負擔スルト云フハ不明了ナリ
(栗塚)
無期年金權ノ借主ノ債務ノ負擔トシテハ如何
(南部)
原案ノ儘ヲ可トス
可決ス
第八百八十八條 債務者ハ第四百二十五條ニ揭ケタル初ノ三號ニ依リテ尋常ノ債務者カ權利上ノ期限ノ利益ヲ失フ場合又ハ合式ノ付遲滯ヲ受ケタル後引續キ二个年間年金ノ辨濟ヲ缺キタル場合ニ於テハ元本辨濟ノ強要ヲ受ク
此末ノ場合ニ於テ第四百二十六條ニ從ヒ債務者ニ恩惠期間及ヒ分割辨濟ヲ許與スル裁判所ノ權ヲ妨ケス
(栗塚)
本條第一項第四百二十五條ニ揭ゲタル初ノ三號トアルハ第四百二十五條第一號乃至第三號トスベシ
可決ス
(栗塚)
第二項分割辨濟ハ割濟トシタシ
(元尾崎)
原案ノ儘ヲ可トス
可決ス
第八百八十九條 前二條ノ規定ハ不動產讓渡ノ代金若クハ條件トシテ設定シ又ハ無償名義ニテ設定シタル無期年金權ニ之ヲ適用ス
右孰レノ場合ニ於テモ辨濟ハ當事者ノ評定シタル元本若シ評定セサリシトキハ法律上ノ利息ノ割合ニ從ヒテ計定シタル年金ヲ生ス可キ元本ヲ以テ之ヲ爲ス
日用品ヲ以テ年金ニ充ツルトキハ元本ノ辨濟ハ特別ノ契約アルニ非サレハ前十个年間ノ其日用品ノ平均代價ヲ年金ノ基礎ト爲シテ之ヲ爲ス
(栗塚)
第一項計定ハ計算トシタシ
可決ス
第十八章 使用貸借
第一節 使用貸借ノ性質
第八百九十條 使用貸借ハ當事者ノ一方カ他ノ一方ノ使用ノ爲メ之ニ動產物又ハ不動產物ヲ交付シ明示又ハ默示ニテ定メタル時期ノ後他ノ一方カ其借受ケタル原物ヲ返還スル義務ヲ負擔スルノ契約ナリ
此貸借ハ本來無償ナリ
(松岡)
第二項ノ此貸借ハ本來無償ナリト云フハ初項ニ挿入スルヲ得ザルヤ
(南部)
原案可ナリ
可決ス
第八百九十一條 借主ハ使用ノ物權ヲ取得セス單ニ貸主及ヒ其相續人ニ對シテ人權ヲ取得ス
借主ノ權利ハ其相續人ニ移轉セス但其相續人カ當事者ノ意思ノ之ニ異ナルコトヲ證明スルトキハ此限ニ在ラス又其相續人カ他ヨリ同種ノ物ノ使用ヲ得ル爲メ裁判所ヨリ返還猶豫ノ期間ヲ受クルコトヲ妨ケス
(元尾崎)
使用貸借ハ人權ナリヤ
(松岡)
使用貸借ハ人權ナリ賃貸借ハ物權ナリ
第二節 使用貸借ヨリ生シ又ハ其貸借ニ際シテ生スル義務
第八百九十二條 借主ハ借用物ノ性質又ハ契約ニ因リテ定マリタル用方ニ從ヒ且契約期間ニ非サレハ其物ヲ使用スルコトヲ得ス
借主ハ此他ノ使用又ハ期限後ノ使用ニ因リテ生スル借用物ノ滅失又ハ毀損ニ付テハ勿論又其使用ニ際シ意外ノ事又ハ不可抗ノ力ニ因テ生スル滅失又ハ毀損ニ付テモ其責ニ任ス
(栗塚)
且契約ノ期間ト云フハ且貸借期間トシタシ
(松岡)
契約ノ期間ニテ可ナリ
(村田)
貸借期間トスベシ
可決ス
第八百九十三條 借主ハ自己ノ物ヲ用ヒテ借用物ノ滅失又ハ毀損ヲ免カレシムルコトヲ得ヘキトキ又ハ自己ノ物ト借用物トカ同時ニ危險ヲ受クルニ際シ自己ノ物ノミヲ救護シタルトキモ亦意外ノ事又ハ不可抗ノ力ニ因リテ生スル借用物ノ滅失又ハ毀損ノ責ニ任ス
無異議
第八百九十四條 借主ハ借用物保持ノ通常費用ヲ負擔シ貸主ニ對シテ其償還ヲ求ムルコトヲ得ス
無異議
第八百九十五條 借主ハ約束セシ時期ニ於テ借用物ヲ返還ス其時期前ト雖モ約束セシ使用ヲ終リタルトキハ亦同シ尙ホ第八百九十八條第二項ノ規定ニ從フコトヲ要ス
返還ノ時期ヲ定メス且物ノ使用カ繼續ス可キトキハ裁判所ハ貸主ノ請求ニ因リ返還ノ爲メ相應ナル時期ヲ定ム
(栗塚)
時期前ト雖トモ約束セシトアルヲ時期前ト雖許與セシトシテハ如何
(槇村)
許與セシハ許セシトシテハ如何
可決ス
(箕作)
借用物ヲ返還ストアルハ借用物ヲ返還スルコトヲ要ストシタシ
(栗塚)
可ナリ第八百九十八條第二項ノ規定ニ從フ事ヲ要スルトアルハ第八百九十八條第二項ノ規定ヲ妨ゲズトスベシ
可決ス
(栗塚)
第二項繼續スベキトキハト云ヘルハ繼續シ得ベキトシ時期ヲ定ムトアルヲ期間ヲ定ムルコトヲ得トシタシ
(尾崎)
繼續スベキトキハト云ヘルハ際限ナキトキハトシテハ如何
(淸岡)
等閑ニ附シ置ケバ期限ノ到着セザルヲ云フ
(松岡)
繼續スベキモノナルトキハトスベシ
可決ス
第八百九十六條 借主カ借用物ノ第三者ニ屬スルコトヲ了知スルトキト雖トモ貸主又ハ其代人ニ之ヲ返還スルコトヲ要ス但第三者カ其返還ニ付キ合式ニ故障ヲ爲シタルトキハ此限ニ在ラス
此末ノ場合ノ外返還ハ貸主又ハ其代人ノ住所ニ於テ之ヲ爲ス
無異議
第八百九十七條 數人連合シテ同時又ハ交互ニ用ユル爲メ一箇ノ物ヲ借用シタルトキハ各自連帶ニテ上ノ義務ヲ負擔ス
(栗塚)
上ノ義務ト云フ字ハ前記ノ義務トシタシ
可決ス
第八百九十八條 貸主又ハ其相續人ハ明示又ハ默示ニテ借主ニ約束シタル期限前ニ貸付物ノ返還ヲ要求スルコトヲ得ス
然レトモ其物ニ付キ急迫ニシテ且豫期セサル要用ノ生シタルトキハ貸主又ハ其相續人ハ裁判所ニ請求シテ期限前ニ一時又ハ永久ノ返還ヲ爲サシムルコトヲ得
(栗塚)
本條約束ノ文字ハ許シトスベシ
可決ス
<第二項削除建議(理由)ハ義務ノ通則ヲ以テ>
第八百九十九條 貸主ハ借主カ借用物保存ノ爲メ支出シタル必要且急迫ナル費用ヲ之ニ辨償スルノ責ニ任ス
又貸主ハ貸付物ノ瑕疵ノ爲メニ借主ノ受ケタル損害ヲ賠償スルノ責ニ任ス但其瑕疵ハ隱濳ニシテ借主之ヲ了知セス貸主之ヲ了知シ且借主ニ害ヲ加フルノ意思アリタルトキニ限ル
(村田)
本條ノ隱濳ニシテト云フハ不表見ニシテトスベシ
(淸岡)
但シ隱レタル瑕疵ニシテトシタシ
(栗塚)
不表見ニシテト云フヲ可トス
(渡)
但其瑕疵ハ隱レタルモノニシテトシタシ
可決ス
第九百條 借主ハ前條ニ依リテ自己ノ受ク可キ賠償ヲ得ルマテ借用物ニ付キ留置權ヲ行フコトヲ得
(松岡)
本條ハ刪除シタシ
(村田)
否ナリ
(元尾崎)
刪除スルニ及バズ
第十九章 寄託及爭論寄託
第一節 寄託
第九百一條 寄託ハ一人カ動產物ヲ交付シ他ノ一人カ之ヲ監守シ要求次第直チニ原物ヲ返還スルノ契約ナリ
寄託ハ本來無償ナリ
寄託ニハ任意ノモノアリ急迫ノモノアリ
(栗塚)
爭論寄託トアルハ管守トシ「一人カ」ノ下「他ノ一人ニ」ト云フ字ヲ挿入スベシ
(松岡)
他ノ一人ニト云フ字ハ用ナシ
第一款 任意寄託
第九百二條 任意ノ寄託ハ寄託者カ寄託ノ時日、場所及ヒ受寄者ヲ自由ニ選擇スルコトヲ得ル場合ニ於テ成ルモノナリ
無異議
第九百三條 寄託ハ所有者ノミナラス尙ホ物ノ監守及ヒ保存ニ付キ利益ヲ有スル人又ハ其代理人之ヲ爲スコトヲ得
又寄託ハ無能力者ノ法律上ノ代理人之ヲ爲スコトヲ得
(栗塚)
法律上ノ代理人トアルハ法律上代人トナルベシ
第九百四條 寄託ハ契約ヲ爲スノ能力ヲ有スル者ニ非サレハ之ヲ受クルコトヲ得ス
然レトモ無能力者ハ仍ホ自己ノ手ニ存スル寄託物ノ返還又ハ寄託ニ因リテ得タル利益ノ返還ニ付キ民事上其責ニ任ス但背信ノ爲メノ公訴ヲ妨ケス
(元尾崎)
小兒ヨリ物品ヲ受託スルヲ得ザルヤ
(栗塚)
受託者ニ能力アルヲ要スト云ヘリ
第九百五條 受寄者ハ受寄物ノ監守及ヒ保存ニ付テハ自己ノ財產ニ加フルト同一ノ注意ヲ爲スコトヲ要ス
然レトモ受寄者カ自ラ求メテ寄託ヲ受ケ又ハ單ニ自己ノ利益ヲ目的トシ要用ニ從ヒ受寄物ヲ使用スルノ許諾ヲ得テ寄託ヲ受ケタルトキハ受寄者ハ善良ナル管理者ノ注意ヲ爲スノ責ニ任ス但此末ノ場合於テ受寄者カ其物ヲ使用シタルトキハ第八百九十三條ノ規定ヲ適用ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ曩ニ刪除サレタル舊第九百六條第二項ヲ回存セントスルニアリ
(寺島)
人事慌急ノ際財物ヲ救護セントスルニ受託物ヲ救護シタル爲メ自己ノ所有品ヲ損滅シタルトキハ其賠償ヲ要求スルヲ得セシメザルベカラズト云フニアリ何トナレバ人情自己ノ物品ヲ救護セントスルニ厚キモノニシテ受託物ヲ救護セントスルニハ薄キモノナレバ賠償ヲ得セシメサルトキハ受託物ヲ救護スルモノ殆稀少ナルノ結果ヲ見ルニ至ルベケレバナリ
(松岡)
前決議ノ旨ニ附スベシ定ムル此種ノ奇怪ナル規則ヲ揭クルノ必要ナシ
〔第九百六條〕(此條第一ハ前條ノ末項ト爲ル)
<第九百六條第二ハ議場ニテ削除セシナラン>
第九百七條 受寄物返還ノ遲滯ニ付セラレタル受寄者ハ普通法ニ從ヒ意外ノ事又ハ不可抗ノ力ニ因ル滅失ノ責ニ任ス
無異議
第九百八條 寄託者カ受寄者ニ寄託物ノ性質ヲ隱秘シタルトキハ受寄者之ヲ知ラント探求スルコトヲ得ス又其性質ヲ受寄者ノミニ知ラシメタル場合ニ於テモ受寄者之ヲ他人ニ漏泄スルコトヲ得ス若シ之ヲ漏泄シタル爲メ損害アルトキハ其賠償ノ責ニ任ス
(松岡)
探究スルコトヲ得ストアルハ求ムルコトヲ得ストシタシ
(南部)
探求スルコトヲ得ストシテ可ナリ
第九百九條 受寄者ハ受寄物ヲ使用シ又ハ其果實ヲ消耗スルコトヲ得ス但此カ爲メ寄託者ノ明示又ハ默示ノ許諾アリタルトキハ此限ニ在ラス
此許諾ハ寄託ニ使用貸借ノ性質ヲ與フルニ足ラス
(栗塚)
末項ハ此許諾ハ寄託ヲ使用貸借ニ變體スルニ足ラズトシテハ如何
(松岡)
此儘ニテ不都合ナシ
第九百十條 受寄者ハ其收取シタル果實及ヒ產出物又ハ果實及ヒ產出物ヲ金錢ニ換ヘサルヲ得サリシトキハ其代金ト共ニ原物ヲ返還スルコトヲ要ス但前條ノ規定ヲ妨ケス
受寄者カ受寄物ニ付キ或ル替償又ハ或ル權利若クハ利益ヲ取得シタルトキハ之ヲ寄託者ニ移轉スルコトヲ要ス
又受寄者カ故意ニテ受寄物ヲ消耗シ讓渡シ又ハ隱竊シタルトキハ遲滯ニ付セラルルコト無クシテ當然損害賠償ノ責ニ任ス但背信ノ爲メ公訴ヲ妨ケス
(栗塚)
第一項「果實及ヒ產出物ヲ」ヲ「之ヲ」トシ第二項替償ヲ償金トスベシ
可決ス
第九百十一條 受寄者ノ相續人カ受寄物ナルコトヲ知ラスシテ其物ヲ消耗シ又ハ之ヲ讓渡シタルトキハ其相續人ハ此ニ因テ得タル利益ノ額ニ滿ツルマテ賠償ノ責ニ任ス
右ノ規定ハ遺忘又ハ錯誤ニ因リ自己ノ物トシテ受寄物ヲ處分シタル受寄者ニ之ヲ適用ス
無異議
第九百十二條 寄託物ノ返還ハ寄託者若クハ其相續人又ハ其法律上若クハ契約上ノ代人ニ之ヲ爲スコトヲユルス
無異議
第九百十三條 返還ニ付キ場所ヲ定メサリシトキハ受寄者カ受寄物ヲ移置シタルモ詭譎ナキトキハ受寄物ノ現在ノ場所ニ於テ之ヲ返還ス
本條ハ例ニ從ヒ詭譎ト云フ文字ヲ詐欺トセリ
第九百十四條 寄託者ノ要求次第物ヲ返還ス可キ受寄者ノ義務ハ左ノ場合ニ於テ消滅ス
第一 受寄者カ其物ノ自己ニ屬スルヲ證明スルコトヲ得ルトキ
第二 受寄者カ次條ニ從ヒテ留置權ヲ行フコトヲ得ルトキ
第三 受寄者カ合式ノ返還差止メノ吿知ヲ受ケタルトキ
第四 受寄者カ受寄物ノ盜品ナルコトヲ覺知シ且其所有者ヲ知リタルトキ
此場合於テ受寄者ハ所有者ニ其寄託ヲ受ケタルコトヲ通知シ且指定セル相應ノ期間ニ寄託者ト立會ノ上ニテ其物ヲ要求ス可ク若シ此期間ヲ過クルモ立會ハサルトキハ寄託者ニ返還ヲ爲ス可キ旨ヲ催吿スルコトヲ要ス
(栗塚)
本條第一證明トアルヲ例ニ從ヒ證スルトセリ第三合式ノ返還差止トアルハ渡方差押ノ合式ノトシタシ合式ノ文字ハ吿知書ニ冠セシムルヲ至當ナリトス
可決ス
(淸岡)
第四指定セル相應ノ期間ト云ヘル相應ノ文字アレバ指定セルト云フニ及ハズ
(尾崎)
相應ノト云フ文字ヲ刪除シテハ如何
(北畠)
指定セル相應ト云フハ行文妥當ナラズ
(委員長)
原案ノ儘ニシテ可ナリ
可決ス
第九百十五條 寄託者ハ寄託物ノ保存ノ爲メ受寄者ノ支出シタル必要ノ費用ト其物ノ爲メニ受寄者ノ受ケタル損害トヲ賠償スルコトヲ要ス
右賠償ノ皆濟ヲ受クルマテ受寄者ハ受寄物ノ上ニ留置權ヲ行フコトヲ得
無異議
第二款 急迫寄託及ヒ旅店寄託
第九百十六條 寄託者カ水災、洪水、難船、地震又ハ暴動ノ如キ不測ニシテ且不可抗ノ事變ニ因リ已ムヲ得ス寄託ヲ爲シタルトキハ之ヲ急迫ノ寄託ト云フ
急迫ノ寄託ハ諸般ノ方法ニ依リ又ハ情況ヨリ生スル事實上ノ推定ニ依リテ之ヲ證明スルコトヲ得
此他急迫ノ寄託ハ任意ノ寄託ノ規則ニ從フ
(栗塚)
本條第三項ハ此他急迫ノ寄託ハ刑事上ノ責任ノ外任意寄託ノ規則ニ從フトシタシ刑ノ加重ヲ妨ケズト云フ如キハ刑法ノ範圍内ニ屬スル者ニシテ民法ニ記載スルニ及バザレバ暗ニ刑事上ノ責任アル旨ヲ示スベキヲ要ス
(松岡)
刑事上ノ責任ト云フヲ明記スルハ不可ナリ
(淸岡)
原案ノ儘ニスベシ
可決ス
(栗塚)
第二項事實上ノトアル「上」ノ字ヲ刪除スベシ
可決ス
第九百十七條 旅店及ヒ下宿屋ノ主人ハ其止宿セシムル旅人ノ携帶シタル手荷物ノ受託ニ付テハ之ヲ急迫ノ受寄物ト看做ス
舟車運送人其他水陸運送ノ營業者モ亦其運送ヲ任セラレタル荷物ニ付テハ之ヲ急迫ノ受寄者ト看做ス
然レトモ本條ノ受寄者ハ有償名義ニ於ケル通常ノ義務ヲ負擔ス
(槇村)
舊案ニ已ム得ザル寄託トアルヲ急迫ノ寄託トシタルハ如何
(栗塚)
漢文家ノ眼〓ニハ蓋シ充當ナラザルモノト思惟シタルナラン
(渡)
止ムヲ得ザルト云ヨリハ急迫ト云フヲ可トス
(委員長)
已ムヲ得ザルト云フノミニテハ充分ノ意味ヲ蓋サザルモノアルベケレバ急迫トスルヲ可トス
可決ス
(元尾崎)
止宿セシムルト云ヘル一語ハ主人ハノ語意ヲ受ケザルニ依リ止宿セルトスベシ
(南部)
主人ハノ一語ハ止宿セシムルト看做ト二點ニ係レリ
第二節 管守
第九百十八條 管守トハ數人ノ間ニ於テ爭論ノ目的タル物ヲ第三者ニ寄託シテ保護セシムルヲ云フ
管守ハ動產又ハ不動產ヲ目的トスルコトヲ得
管守ニハ契約上ノモノ有リ裁判上ノモノ有リ
(栗塚)
第一項ハ第三者ニ寄託シテ保護セシムルヲ云フトアルヲ第三者ニ寄託スルヲ云フトシタシ寄託ト云ヘバ保護ノ意味ヲ含蓄スレバナリ
可決ス
第九百十九條 契約上ノ管守ハ其管守ニ付テモ管守人ノ選定ニ付テモ當事者ノ承諾アルコトヲ要ス
裁判上ノ管守人ハ當事者カ其選定ニ付キ一致セサルトキニ非サレハ裁判所ハ職權ヲ以テ之ヲ選定スルコトヲ得ス
裁判所ハ當事者ノ一人ヲ管守人ニ選任スルコトヲ得
無異議
第九百二十條 契約上ト裁判上トヲ問ハス管守人ハ報酬ヲ受クルコトヲ得此場合ニ於テ管守人ハ善良ナル管理者ノ通常ノ注意ヲ保管物ニ加フルノ責ニ任ス
(栗塚)
保管物ト云フ文字ハ管守物トシタシ
可決ス
第九百二十一條 裁判上ノ管守人ハ〔第百二十六條〕ニ從ヒテ管守物ヲ賃貸スルコトヲ得然レトモ契約上ノ管守人ハ當事者ノ特別ノ委任ヲ受ケタルニ非サレハ賃貸スルコトヲ得ス
裁判上又ハ契約上ノ管守人ハ其占有ヲ保存シ又ハ之ヲ回收スル爲メ占有訴權ヲ行フコトヲ得
管守人ノ占有ハ爭訟ニ於テ確定ニ勝ヲ得タル當事者ヲ利ス
(箕作)
括孤ハ必要ナカルベシ
(南部)
蓋シ誤寫ナルベシ
(村田)
保存ハ保持スベシ
可決ス
第九百二十二條 管守ニ付シタル物ハ勝ヲ得タル當事者ニ之ヲ返還スルコトヲ要ス
然レトモ管守人ハ自己ノ責任ヲ免カルル爲メ當事者ノ許諾又ハ裁判所ノ命令ヲ要求スルコトヲ得
(栗塚)
本條第二項ハ然レドモ管守人ハト云フ下ニ最初爭訟ノ終ラザル前ト云文字アリシヲ修正シテ判決ノ確定前ト云フ文字ヲ挿入シテハ如何
(元尾崎)
判決ノ確定前ト云フハ如何ノ必要アルヤ
(栗塚)
管守人ハ保護注意ヲ要スル手數アレバ其煩累ヲ避ケント欲シテナリ
(委員長)
確定前ト云ヘバ上訴ノトキヲモ包含スルカ
(栗塚)
初裁判ヲ經タルモ上訴中未ダ確定セザルナリ
(淸岡)
確定前ト云ヘバ必ズ初裁判ヲ經タル以上ニ於テス初裁判判決前ニハ之ヲ爲スコトヲ得ザルベシ
(尾崎)
初裁判判決前ニ其責任ヲ免レントスルモノアラザルベケレバ判決ノ確定前ト云フ字ヲ挿入スルハ可ナリ
可決ス
第九百二十三條 右ノ外契約上及裁判上ノ管守ハ尋常ノ寄託ノ規則ニ從フ
無異議
第九百二十四條 差押物ニ於ケル裁判上ノ管守及ヒ債務者カ辨濟ニ提供シテ債權者ノ受取ルコトヲ拒ミタル金錢若クハ有價物ノ供託ハ民事訴訟法ヲ以テ之ヲ規定ス
無異議
第二十章 代理
第一節 代理ノ性質
第九百二十五條 代理ハ當事者ノ一方カ其名ヲ以テ其利益ノ爲メ或ル事ヲ行フコトヲ他ノ一方ニ委任スルノ契約ナリ
代理人カ其名ヲ以テ事ヲ行フ可キモ委任者ノ利益ノ爲メニスルトキハ其契約ハ仲買契約ナリ
仲買契約ハ商法ヲ以テ之ヲ規定ス
(栗塚)
本條第二項ハ代理人ガ委任者ノ利益ノ爲メニスルモ自己ノ名ヲ以テ事ヲ行フトキハ其契約ハ仲買契約ナリトシタシ
(元尾崎)
民法ノ代理法ハ代理人ノ名ヲ以テスルモノナリト雖ドモ仲買契約ハ仲買人自己ノ名ヲ以テスル者ナリ
(松岡)
斯ク修正スルノ必要アリヤ
(栗塚)
然リ
可決ス
第九百二十六條 代理ハ默示ニテ之ヲ委任シ及ヒ之ヲ承諾スルコトヲ得
(栗塚)
承諾ノ文字ハ受諾トシタシ
可決ス
第九百二十七條 代理ハ無償ナリ但反對ノ明示又ハ默示ノ契約アルトキハ此限ニ在ラス
(元尾崎)
代理ハ無償ナリト云フハ代理ハ本來無償ナリト云ハザルハ如何
(栗塚)
代理ハ無償ナルベキモ往々有償ノ場合アレバ本來ト云フ得ズ
第九百二十八條 代理ニハ總般ノモノ有リ特定ノモノ有リ
總般代理則チ爲ス可キ行爲ノ別段ノ定メ無キ代理ハ委任者ノ資產ノ管理行爲ノミヲ包含ス
代理カ或ハ管理或ハ處分或ハ義務ニ關シテ一箇又ハ數箇ノ限定セル行爲ヲ目的トスルトキハ其代理ハ特定ナリ
(栗塚)
本條第一項ハ總般トアルヲ總理トシ特定ノ文字ヲ部理トシ第二項ハ總理代理ハ爲ス可キ行爲ノ別段ノ定メナキ代理ニシテ委任者ノ云々トシ第三項特定ノ文字ハ部理トシタシ
可決ス
第九百二十九條 凡ソ代理ハ總般ナルト特定ナルトヲ問ハス其目的タル行爲ヨリ必然ニ生ス可キ事柄ヲモ暗ニ包含ス
然レトモ元本ヲ諾約スルノ委任ハ其辨濟ヲ爲スノ委任ヲ包含セス
元本ヲ要約スルノ委任ハ其辨濟ヲ受クルノ委任ヲ包含セス
訴訟ヲ爲スノ委任ハ仲裁人ヲ選任シ請求ニ承服シ訴訟ヲ取下ケ又ハ和解ヲ爲スノ委任ヲ包含セス
和解ヲ爲スノ委任ハ仲裁人又ハ裁判所ヲシテ爭論ヲ裁決セシムルノ委任ヲ包含セス
仲裁人ヲ選任スルノ委任ハ和解ヲ爲シ又ハ裁判所ヲシテ其爭論ヲ裁決セシムルノ委任ヲ包含セス
(栗塚)
元本ノ文字ハ元債トシタシ
(南部)
元本ト云フヲ可トス
(松岡)
貸方借方ト云フ義ナルベシ
(槇村)
元本ヲ借リ元本ヲ貸スト云フ義ニ非ラズヤ
(箕作)
元本ヲ諾約スルトシテ不都合ナシ
(栗塚)
諾約ト云ヘバ義務者トナリ要約ト云ヘバ權利者トナルベシ
(松岡)
訴訟ヲ爲スノ委任ト云ヘルハ訴訟法ニモ記載アリト雖ドモ仲裁人ノ選擧ニハ漏脫セシニ付キ之ヲ記入シタシ
可決ス
(栗塚)
第一項事柄ヲモトアルヲ事柄ヲトスベシ
可決ス
第九百三十條 代理ハ無能力者ニモ有効ニ之ヲ委任スルコトヲ得然レトモ其代理人ハ委任者ニ對シテハ無能力者ノ受ケタル制限ノ責任ノミヲ負擔ス
(栗塚)
無能力者ノ受ケタル制限ノ責任ノミヲ負擔ストアルヲ無能力ノ制限アル責任ノミヲ負擔ストシタシ
(箕作)
無能力者ノ責任ノミヲ負擔ストスレバ制限アルト云フ意義ヲ包含スベシ
(委員長)
制限ノ文字ヲ除去スルトキハ無能力者ニハ元來制限アル意義ヲ表彰スルヲ得ズ
(南部)
無能力者ノ制限責任ノミヲ負擔ストシタシ
(箕作)
制限責任ト云フハ不可ナリ
結局無能力者ノ制限アル責任ノミヲ負擔ストスベキニ決ス
第九百三十一條 代理人ハ其管理行爲ノ全部又ハ一部ニ付キ他人ヲシテ自己ニ代ハラシムルコトヲ得但此ヲ明示ニテ禁止セサルトキ又ハ事件ノ性質ニ因リテ專ラ代理人ノミニ委任シタリト看做ス可カラサルトキニ限ル此場合ニ於テ代理人ハ自己ノ管理ニ於ケル如ク其下代人ノ管理ノ責ニ任ス
委任者カ下代人ヲ指定シタルトキハ代理人ハ其選擇實行ノ不得爲ノ場合ニ於テモ他人ヲ選任スルコトヲ得ス代理人カ其選擇ニ從ヒタル場合ニ於テハ代理人ハ其下代人ノ無能又ハ不誠實ニ付キ委任者ニ之ヲ吿知スルコトヲ怠リ又ハ下代人ヲ解任スルコトヲ怠リタルニ非サレハ其責ニ任セス
委任者ノ禁止シタルニ拘ハラス下代人ヲ選任シ又ハ其許諾セサル人ヲ選擇シタル場合ニ於テハ代理人ハ意外ノ事又ハ不可抗ノ力ニ因リテ生スル損害ニ付テモ其責ニ任ス但此ノ下代人ノ選任ヲ爲ササレハ其損害ノ生セサル可キトキニ限ル
(栗塚)
本條第二項不得爲トアル文字ハ不能ノ誤ナリ
(松岡)
其選擇ニ從フコト能ハザルトシテハ如何
可決ス
(松岡)
下代人ト云フハ舊案ニ復代人トアリ故ニ下代人ハ復代人トシタシ
可決ス
(元尾崎)
復代人ヲ委任スルト云フハ允當ニアラズ
(南部)
復代人ヲ許サザレバ疾病事故アル際ニ差支アルベシ
(淸岡)
復代人ヲ禁スルニ及バザルモ正面上之ヲ許シ置クハ不可ナリ
(栗塚)
復代人ヲ任ズルト云フハ代理人ノ利益ニアラズ依頼者卽チ本人ノ利益タルベシ
(元尾崎)
復代理人ヲ任ズルヲ得セシムルトキハ契約上明記アラザルトキハ復代人ヲ任ゼシムルベカラズ
結局原案攻撃ハ成立セズ
第九百三十二條 前條第一項及ヒ第二項ノ場合ニ於テ委任者ハ下代人ニ對シ其管理ニ關スル訴權ヲ直接ニ行フコトヲ得又之ニ對シ同一ノ名義ニテ直接ニ責任ヲ負擔ス
同條第三項ノ場合ニ於テ委任者ハ直接訴權ト代理人ノ名ヲ以テスル間接訴權トノ間ニ選擇權ヲ有ス然レトモ直接訴權ヲ行フタルトキハ其下代人ノ選任ヲ許諾シタルモノト看做ス
(栗塚)
許諾ト云フ文字ハ認諾トシタシ
可決ス
第二節 代理人ノ義務
第九百三十三條 代理カ第四節ニ列記シタル原因ノ一ニ由リテ終了セサル間ハ代理人ハ委任ノ本旨ニ從ヒ且其明示ナキモ自己ノ了知シタル委任者ノ意思ヲ斟酌シテ受任事件ヲ成就スルノ責ニ任ス此レニ違フトキハ損害賠償ヲ負擔ス
全部ノ履行ヲ爲スヲ得サルトキハ委任者ニ有益ナルニ非サレハ代理人ハ一部ノ履行ヲ爲スノ責ナク且之ヲ爲スコトヲ得ス
(松岡)
一部ノ履行トアルハ一分ノ履行トスベシ
(南部)
然リ
(箕作)
明示ナキモノト云文字ハ意思ト云フ文字ヲ指シタルモノナレバ且其ト云フ冠字アルハ却テ不明ニ屬セリ
(松岡)
「其」ヲ刪除スベシ
可決ス
第九百三十四條 指定ノ代價ニテ物ヲ買入ルルノ委任ヲ受ケタル代理人カ其指定ヲ超ユル代價ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ得ル能ハサリシトキハ代理人ハ其超過額ヲ抛棄シテ買入ノ承諾ヲ委任者ニ要求スルコトヲ得又委任者ハ代理人ノ辨濟シタル代價ヲ以テ物ノ引渡ヲ要求スルコトヲ得
物ヲ賣却スルノ委任ヲ受ケタル場合ニ於テ代理人カ指定ノ代價以下ニテ之ヲ賣却シタルトキハ代理人ハ代價ノ差額ヲ補足シテ其賣却ヲ承諾セシムルコトヲ得
(松岡)
本條ハ曩ニ起案者ニ質問中ニテ未決ノ趣キナリ如何
(栗塚)
起案者ノ答案ハ次回ニ印刷ノ上報吿スベシ
第九百三十五條 代理人ハ委任事件ヲ成就セシムルコトニ付テハ善良ナル管理者ノ注意ヲ爲スノ責ニ任ス
然レトモ左ノ場合ニ於テハ代理人ノ過失ハ較ヤ寛大ニ之ヲ審判ス
第一 代理人カ無償ニテ代理ヲ爲ストキ
第二 代理人カ自ラ求メテ代理ヲ爲シタルニ非サルトキ
第三 委任者カ代理人ノ不熟練ナルコトヲ了知シ又ハ之ヲ推量シタルトキ
第四 代理人カ管理ノ或ル行爲ニ付キ委任者ヲシテ其豫期セサリシ利益ヲ得セシメタルトキ
(栗塚)
委任事件ヲ成就セシムルト云フハ文章ヲ爲サズ
(元尾崎)
委任事件ヲ成就セシムルト云フニテ可ナリ
(栗塚)
「セシムル」ト云フ詞ハ上ニ「ヲシテ」ノ詞ナクンバ文章ノ格ヲ失ス
(槇村)
原案ノ儘ニテ可ナリ
(栗塚)
「セシム」トアルハ「セシムル」トシテハ如何
可決ス
(元尾崎)
較ヤト云フ字ハ允當ナリヤ
(南部)
允當ナリトス
(淸岡)
寛大ニ之ヲ審判スト云フハ允當ニアラズ
(栗塚)
見積較ヤ寛大ナリノ義ナリ
(南部)
審判スト云ヘルハ査定ストシテハ如何
可決ス
第九百三十六條 代理人ハ代理ノ終了シタルトキハ證據書類ヲ添ヘテ其計算ヲ爲スノ責ニ任ス其終了前ト雖トモ委任者ノ之ヲ求メタルトキハ亦同シ
無異議
第九百三十七條 代理人ハ委任者ノ名ヲ以テ又ハ管理ニ關シ自己ノ名ヲ以テ受取リタル金額若クハ有價物ヲ委任者ニ返還スルコトヲ要ス又委任者カ正當ニ受取コトヲ得ス又タハ代理人ニ受取コトヲ許ササリシ金額若クハ有價物ト雖トモ亦之ヲ返還スルコトヲ要ス然レトモ次節ニ從ヒ委任者ヨリ受取ル可キ金額ヲ扣除ス
代理人ハ自己ノ收取スルコトヲ怠リ又ハ自己ノ過失ニ因リテ滅失セシメタル金額若クハ有價物ノ價額ヲ前數條ニ依リ負擔スル損害賠償ト共ニ前項ノ返還中ニ附加ス
(松岡)
委任者ニ返還スルト云ヘルモ返還ノ文字ハ受取リタル者ニ返還スル如キ意味ニシテ委任者ニ返還スルノ義ト云フヲ悟了スル能ハズ
(元尾崎)
返還ト云フハ委任者ニ返還スベキ意味タルニ惑イナシ
(委員長)
亦之ヲ返還スルコトヲ要スト云フハ何故ニ返還スルノ場合ニ至リタルヤ疑ヒアリ
(栗塚)
之ヲ受取タルトキハ亦同シトスベシ
可決ス
(箕作)
返還ノ文字ハ允當ナリヤ
(南部)
委任者ノ有ナルニ付キ委任者ニ返還スルモノトナルベシ
(松岡)
引渡スト云フ譯ニアラズヤ
(南部)
引渡スト云フニテハ意味甚ダ薄カルベシ
(北畠)
復還トシテハ如何
結局原案ノ通リ返還ニ可決ス
第九百三十八條 委任者ノ許諾ヲ受ケスシテ其元本ヲ自己ノ利益ニ用ヒタル代理人ハ其使用ノ日ヨリ當然利息ヲ負擔ス但一層大ナル損害ヲ生セシメタルトキハ其賠償ノ責ニ任ス
計算殘餘ノ金額ニ付テハ代理人ハ其遲滯ニ付セラレタル日ヨリ利息ヲ負擔ス
(淸岡)
「一層大ナル」ノ文字ハ刪除スベシ
(南部)
一層大ナルト云フ字ヲ刪除スルニ止ムルハ不可ナリ
(栗塚)
其他ト云フ字ヲ塡補シ損害ヲ生ゼシメタルトキハト云ヘルヲ損害アルトキハトスベシ
可決ス
第九百三十九條 一箇ノ事件ニ付キ數人ノ代理人アルトキハ唯一ノ證書ヲ以テ之ヲ委任シタルト各別ノ證書ヲ以テ之ヲ委任シタルトヲ問ハス各代理人ハ自己ノ過失ニ付テノミ其責ニ任シ連帶ヲ約束シタルトキ又ハ過失ノ連合ナルトキニ非サレハ其間ニ連帶ヲ成サス
無異議
第九百四十條 代理人カ委任者ノ爲メ其名ヲ以テシテ第三者トノ間ニ成リタル行爲ノ履行ニ付テハ代理人ハ其第三者ニ對シテ責ニ任セス但代理人カ明示ニテ履行ノ責ニ任シ又ハ第三者ニ對シ己レノ有セサル權限ヲ有スルモノノ如クシタルトキハ此限ニ在ラス
(栗塚)
其名ヲ以テシトアルハ其名ヲ以テトシ第三者トノ間ニ成リタルトアルヲ第三者ト爲シタルトシタシ
可決ス
(栗塚)
「如ク」ノ下「示」ノ字ヲ挿入スベシ個ハ必竟誤脫シタルガ故ナリ
第三節 委任者ノ義務
第九百四十一條 委任者ハ代理人ニ對シテ左ノ義務ヲ負擔ス
第一 代理人カ代理ノ履行ノ爲メ支出シタル立替金又ハ正當ノ費用ノ辨償及ヒ其支出シタル日以來ノ法律上ノ利息ノ辨償
第二 約束シタル謝金ノ辨濟
第三 代理人カ其管理ニ因リ又ハ其管理ヲ爲スニ際シ自己ノ過失ニ非スシテ受ケタル損害ノ賠償但豫見シタル損害ニシテ其全部又ハ一分ニ付キ謝金ヲ約束スルノ理由ト爲リタルモノハ此限ニ在ラス
第四 代理人カ其管理ニ因リテ負擔シタル一身上ノ義務ノ免除又ハ其賠償
(栗塚)
本條第四義務ノ免除ト云ヘルハ義務ノ解說トスベキモ解說ノ字ハ穩當ナラザルニ付免責トシタシ
可決ス
(栗塚)
第三約束ノ文字ハ諾約トシ第二約束ノ文字ハ合意トスベシ
可決ス
第九百四十二條 代理人ハ前條ニ揭ケタル支出ヲ爲スコトヲ約束セサルトキハ其責ニ任セス然レトモ委任者ヨリ必要ナル資金ヲ供スルコトヲ拒絕シ又ハ遲延セシコトノ證據ナキニ於テハ支出ヲ約束セサル爲メ代理ノ履行ヲ遲延スルコトヲ得ス
(栗塚)
必要ナル資金ノ文字ハ起案者ヨリ必要ナル方法ト改正シ來レリト雖トモ矢張資金トシテハ如何
(淸岡)
資本トシテハ如何
(元尾崎)
資金ト云フハ金錢ノミニモ限ラサルベケレバ資金トスルハ允當ニアラズ
(南部)
資金ハ前條第一ノ場合ヲ指シタルモノナルベケレバ資金ニテ可ナリ
第九百四十三條 謝金ハ代理ノ全部履行アリタル後ニ非サレハ委任者之ヲ負擔セス但一分ツツ辨濟スヘキコトヲ約束シタルトキハ此限ニ在ラス
代理人ノ責ニ歸セサル原因ニ由リテ全部ノ履行ニ妨碍アリタルトキハ謝金ハ其履行ノ割合ニ應シテ委任者之ヲ負擔ス
(栗塚)
本條第一項約束ノ文字ハ要約トスベシ
(淸岡)
諾約トシタシ
(南部)
要約ヲ可トス
(松岡)
一分ヅツ辨濟ス可キコトヲ約束スルトキハ辨濟者ハ義務ヲ有スル者トナルベケレバ諾約ト云ハザルベカラズ
(元尾崎)
本條ハ約束ト云フニテ差支ヲ見ス原案ニ可決ス
第九百四十四條 委任者カ義務ヲ辨濟スルニ至ルマテ代理人ハ代理ニ依リテ所持シ且債權者ト爲レルノ原因タル物ノ上ニ留置權ヲ有ス
(南部)
債權者ト爲レルノトアル「ノ」ハ刪除スベシ
可決ス
第九百四十五條 數人カ唯一ノ證書又ハ各別ノ證書ヲ以テ共同事件ノ爲メ代理ヲ委任シタルトキハ委任者ノ各自ハ連帶シテ上ノ義務ヲ負擔ス但反對ノ要約アルトキハ此限ニ在ラス
(栗塚)
上ノ義務ト云ヘルハ前記ノ義務トシタシ
可決ス
第九百四十六條 委任者ハ代理人カ委任ニ從ヒ委任者ノ名ニテ約束セシ第三者ニ對シ負擔シタル義務ノ責ニ任ス
委任者ハ左ノ場合ニ於テハ代理人ノ權限外ニ爲シタル事柄ニ付テモ亦其責ニ任ス
第一 委任者カ明示又ハ默示ニテ代理人ノ行爲ヲ認諾シタルトキ
第二 委任者カ代理人ノ行爲ニ因リテ利益ヲ得タルトキ但其利益ノ限度ニ從フ
第三 第三者カ善意ニシテ且代理人ニ權限アリト信スル正當ノ理由ヲ有シタルトキ
(松岡)
本條第三「信スル」トアルハ「信スヘキ」トシテハ如何原案ニ可決ス
第四節 代理ノ終了
第九百四十七條 代理ノ履行又ハ其履行ノ不得爲及ヒ代理ニ付シタル期限ノ到來又ハ條件ノ成就ノ外尙ホ代理ハ左ノ諸件ニ因リテ終了ス
第一 委任者ノ爲シタル廢罷
第二 代理人ノ爲シタル抛棄
第三 委任者又ハ代理人ノ死亡、破產、無資力若クハ禁治產
第四 委任者又ハ代理人カ代理ヲ委任シ又ハ之ヲ承諾セシ原因タル資格ノ消絕
(栗塚)
不得爲ト云フハ不能トシ消絕ト云フハ終了トスベシ
(箕作)
消絕ハ絕止トスベシ
可決ス
(箕作)
承諾ハ受諾トスベキヤ
(栗塚)
然リ
(元尾崎)
第九百四十條ノ第三者ニ對シ己レノ有セザル權限ヲ有スルモノノ如ク示シタルトキト云フハ第九百四十六條第三ト牴觸セザルカ代理人ハ權限アル如ク示サザレバ第三者モ之ヲ信セズ
(箕作)
第九百四十六條第三ハ委任者ノ過失ト云フベシ
第九百四十八條 委任者ノミノ利益ノ爲メニ委任セシ代理ノ廢罷ハ謝金ヲ約束シタルトキト雖トモ委任者ハ何時ニテモ隨意ニ之ヲ爲スコトヲ得
本條ハ例ニ從ヒ約束ノ文字ハ諾約トセリ
第九百四十九條 廢罷ハ將來ニ向ヒテノミ有効ナリ且其廢罷前ニ有効ニ爲シタル事柄ヲ害セス
無異議
第九百五十條 數人ノ委任者アルトキハ其中ノ一人ノ爲シタル廢罷ハ他ノ人ノ代理ヲ終了セシメス
無異議
第九百五十一條 代理ノ廢罷ハ默示タルコトヲ得默示ノ廢罷ハ同一ノ事件ニ付キ新代理人ノ選任又ハ委任者ノ管理ノ回復其他ノ事情ヨリ生スルモノナリ
無異議
第九百五十二條 代理ノ抛棄カ委任者ニ損害ヲ生セシメタルトキハ代理人ハ其賠償ノ責ニ任ス但正當又ハ已ムヲ得サル原因ニ基キタルトキハ此限ニ在ラス
代理ノ抛棄モ亦默示ニテ之ヲ爲スコトヲ得
(元尾崎)
代理ノ抛棄モ亦默示ニテ之ヲ爲スコトヲ得ト云フハ如何ナル場合カ
(箕作)
代理者官途ニ奉仕シタルガ爲メ代理ノ事務ヲ爲ス能ハザルトキノ如キヲ云フニアリ
(尾崎)
委任者ト受任者ト鬪歐シタル場合ノ如シ
第九百五十三條 代理終了ノ原因ハ委任者ヨリ出テタルト代理人ヨリ出テタルトヲ問ハス當事者ノ一方カ其吿知ヲ受ケタルカ又ハ確實ニ之ヲ知リタルトキニ非サレハ當事者互ニ之ヲ以テ對抗スルコトヲ得ス
當事者ノ一方ノ死亡シタル場合ニ於テハ其相續人ニ吿知シ又ハ其相續人ヨリ吿知スルコトヲ要ス
(栗塚)
本條末項其相續人ニ吿知シ又ハ其相續人ヨリ吿知スルコトヲ要ストアルハ意味不明ニ依リ起案者ニ質問シタルニ其相續人ヨリ吿知スルコトヲ要スト改正シ來レリ又初項ノ當事者ノ一方カトアル「ノ一萬」ノ三字ヲ刪除シタシ
(元尾崎)
父他ノ代理ヲ受ケ死亡シタルトキ子ハ其事實ヲ知ラザルトキハ如何
(松岡)
之ヲ知ラザル場合ハ詮ナカルベシ
(栗塚)
第一項「ノ一方」ヲ刪除スルハ如何
可決ス
第九百五十四條 代理終了ノ原因ハ委任者カ代理人ヨリ委任狀ヲ取戻シタルトキト雖モ代理ノ終了後善意ニテ其代理人ト約束シタル第三者ニ之ヲ以テ對抗スルコトヲ得ス
(委員長)
第三者ニハ對抗スルヲ得ズト云フモ代理者ハ既ニ代理ノ委任ヲ解除サレタルニ代理者ノ資格ヲ示スコトヲ許容スベカラズ
(栗塚)
本條ハ第三者ニハ過失ナキヲ顯ハシタルモノト云フベシ
(委員長)
第三者ニハ過失ナシトスルモ最初ノ委任者ニ其責ヲ負ハシムルハ不都合ナリ斯クノ如キ場合ハ其責任ハ委任者ト第三者トニ於テ分擔スベキニアラズヤ
(北畠)
假令バ或ル銀行ニ對シ午前ニ委任狀ヲ持セシメ金圓引出ノ約束ヲ爲シ置キ午後ハ其委任狀ヲ取戻シタルニ最初ノ代理者再ビ銀行ニ到リ其金錢ヲ收受スルガ如キアルモ銀行ハ其責ニ任ゼサルベシ
(栗塚)
其責任第三者ニ歸スルトセバ世人ハ終始疑惑ヲ生ジ取引上不便至極ニアラズヤ
(委員長)
最初ノ委任者ハ代理ヲ解除シタルニモ拘ハラズ無期ニ責任ヲ負ハザルベカラズト云フハ不都合ナリ第三者ノ爲メニハ便利ナルモ委任者ノ爲メニハ不便ヲ惹起スルモノト云フベシ第三者ハ取引ヲ爲ス際ニハ必ラズ其委任狀アルヤ否ヲ問ハザルベカラズ其事項ヲ問ハザルトキハ第三者ノ過失ト云フ可シ
(南部)
本條ハ最初委任狀アル事實ヲ目視シタルモノニ限ルベシ
(委員長)
最初ノ委任狀ヲ目視セザル者ニモ適用サルベシ
(栗塚)
多クハ委任狀ノ有無ヲ問フベキモ若シ委任狀ヲ目視セザル爲メ本條ヲ適用スルヲ得ザルニアラザレバナリ
(委員長)
取引ノ際ハ委任狀ノ有無ヲ問ハザルベカラズトシテハ如何
(栗塚)
從來代理ヲ受ケ來リタルモノニ對シテハ委任狀ノ有無ヲ問フニ及バザルベシ
(委員長)
委任者ハ委任ヲ解止シタルトキハ之ヲ吿知スベキモノナレバ第三者ハ之ヲ諒知スベシ
(南部)
委任者ハ何人ニ向テ吿知スベキヤ
(栗塚)
委任者ノ迷惑ハ固ヨリ迷惑ナリト雖ドモ之ヲ反對ニ想像スルトキハ甚ダシキ惡結果ヲ生出スベシ
(元尾崎)
但第三者ニ於テ懈怠アリタルトキハ此限ニ在ラズト云フヲ附記シテハ如何
(栗塚)
善意ト云フ文字ヲ懈怠ナク之ヲ知ラザルノ意味ニ解釋スレバ可ナリ
(尾崎)
善意ト云フ文字ノミニテハ懈怠ナク之ヲ知ラザルト云フ意味ト思惟スルヲ得ズ
(栗塚)
然ラバ善意ト云フ文字ハ懈怠ナク之ヲ知ラザルトキハトシテハ如何
(南部)
懈怠ナクト云フ場合ナシ既ニ委任狀アルヲ認知シタルモノニ限ルベケレバナリ
(委員長)
第三者中ニハ委任狀アルヲ認知セザル者アルベシ
(南部)
第三者中之ヲ認知セザルモノナシ
(松岡)
善意ト云フ文字ノ解釋ハ事實上ニ屬スベキモノナレバ裁判官ノ眼識ニ委附セザルベカラズ
(淸岡)
善意ト云フ文字ハ單ニ知ラズト云フ意味ニ止マルベシ
(栗塚)
善意ト云フハ當然知ラザルト云フ義ナリ知ルベキヲ知ラザルハ善意ニアラズ
(槇村)
善意ニシテノ下且懈怠ナクト云フ文字ヲ加入シテハ如何
(栗塚)
本條ノ善意ト云フ文字ハ歴史付トシテ善意ニシテ且過失ナクトシテハ如何
(松岡)
善意ニシテト云ヘハ過失ノ意味ヲ含蓄スルモノナリ
(尾崎)
其終了ヲ知ラズ且懈怠ナキトキトシテハ如何
(箕作)
懈怠ナクト云フ文字ハ其終了ノ上ニ置クヲ可トス
(南部)
懈怠ナクシテ其終了ヲ知ラズトスベシ
可決ス
(栗塚)
其代理人ト云フ「其」ハ除去スベキヤ
(南部)
此代理人トシテハ如何
(松岡)
「其」ヲ除去スベシ
可決ス
第九百五十五條 代理カ上ニ揭ケタル原因ノ一ニ由リテ終了シタルトキハ代理人又ハ其相續人ハ委任者又ハ其相續人カ既ニ生シタル利益ヲ自ラ處理シ又ハ新代理人ヲシテ之ヲ處理セシムルコトヲ得ルニ至ルマテ其利益ヲ處理スルコトヲ要ス
此規定ハ代理ノ終了カ廢罷ニ因レルトキヨリモ抛棄ニ因レルトキハ一層嚴ニ之ヲ適用ス
(村田)
本條第二項廢罷ノ文字ノ上ニ委任者ノト云フ字ヲ挿入シタシ
(淸岡)
第二項ハ此規定ハ代理ノ終了カ代理人ノ抛棄ニ因レルトキハ委任者ノ廢罷ニ因レルトキヨリモ一層嚴ニ之ヲ適用ストシタシ
可決ス
第二十一章 雇傭及ヒ仕事請負
第一節 雇傭
第九百五十六條 執事、番頭、僕婢、職工其他ノ雇傭人ハ年、月又ハ日ヲ以テ定メタル給料又ハ賃銀ヲ受ケテ勞務ニ服スルコトヲ得
雇傭ハ地方ノ慣習ニ因リ定マリタル時期ニ於テ又ハ確定ノ慣習ナキトキハ何時ニテモ一方ヨリ豫メ解約申入ヲ爲スニ因リテ終了ス但其解約申入ハ不利ノ時期ニ於テ之ヲ爲サス又惡意ニ出テサルコトヲ要ス
(栗塚)
本章ノ請負ノ下契約ノ文字ヲ加ヘ本條ノ執事ト云フ字ヲ使用人トシ番頭ノ下手代ト云フ文字ヲ加ヘタシ
可決ス
(栗塚)
勞務ニ服スルトアルハ勞務ニ供スルトシテハ如何
(元尾崎)
供スルト云フ字ハ不可ナリ勞務ニ服スルコトヲ得ト云フ得ノ文字ハ允當ニアラズ
(南部)
原案ノ儘ニテ不都合ナシ
第九百五十七條 雇傭ノ期間ハ執事番頭等ニ付テハ五ケ年僕婢職工等ニ付テハ一ケ年ヲ超ユルコトヲ得ス但見習契約ニ關スル下ノ規定ヲ妨ケス
此ヨリ長キ時期ヲ約束シタルニ於テハ當事者ノ一方ノ隨意ニテ右ノ時期ニ之ヲ短縮ス但更新ヲ爲スノ權能ヲ妨ケス
(栗塚)
本條ハ見習契約トアルヲ習業契約トシ執事ヲ使用人トセリ
可決ス
第九百五十八條 雇傭ハ時期ヲ定メタルトキト雖モ當事者ノ一方ノ義務不履行ニ因ル解除ノ爲メ又ハ一方ヨリ出テタル正當ニシテ且已ムヲ得サル原因ノ爲メ其定期前ニ於テ終了ス
如何ナル場合ニ於テモ主人ノ一身ニ關スル雇傭ハ其死亡ノ爲メ當然終了ス
無異議
第九百五十九條 雇傭ヲ終了セシムル正當ノ原因カ主人ヨリ出テ且地方ノ慣習ニ從ヒ雇傭ノ新契約ヲ爲スニ困難ナル季節ニ生シタルトキハ裁判所ハ事情ニ從ヒテ定ムル償金ヲ雇傭人ニ付與ス可キコトヲ其主人ニ言渡ス
(淸岡)
付與ス可キコトヲ其主人ニ言渡ストアルハ付與セシムルコトヲ得トシタシ
可決ス
第九百六十條 如何ナル場合ニ於テモ雇傭人ノ死亡ハ契約ヲ終了セシム但其相續人ハ給料又ハ賃銀ノ取越過額ヲ返還ス
(渡)
如何ナル場合ニ於テモノト云フ文字ハ除去シテハ如何原案ニ決ス
第九百六十一條 上ノ規定ハ俳優、音樂師等ノ藝人ト座元興行者トノ間ニ取結ヒタル雇傭ニ之ヲ適用ス
<此一項ヲ追加シ次條ヲ削除スルノ建議其理由ハ下ニ詳ナリ>
又醫師辯護士ト其依頼人トノ間及ヒ學藝教師ト其生徒トノ間ノ關係ニ付テモ亦上ノ規定ヲ適用ス
(村田)
醫師辯護士ノ如キハ雇傭契約中ニ包入スルヲ得ズ
(松岡)
第二項ハ雇傭ト云フヲ得ズ
(栗塚)
第二項ハ削除スベシ
可決ス
(村田)
角力ヲ加ヘテハ如何
(松岡)
等ノ文字アルニ依リ角力ノ文字ヲ加フルニ及バズ
第九百六十二條 醫師、辯護士及學藝教師ハ雇傭人ト爲ラス是等ノ人ト其患者、訴訟人又ハ生徒トノ間ニ約束シタル世話ヲ與ヘ又ハ與ヘ始メタル世話ヲ繼續スルコトニ付キ法定ノ義務ナシ又患者、訴訟人又ハ生徒ハ是等ノ者ノ世話ヲ求メテ約諾ヲ得タル後其世話ヲ受クルノ責ニ任セス
然レトモ實際世話ヲ與ヘタルトキハ相互ノ分限ト慣習及契約トヲ酌量シテ其謝金又ハ報酬ヲ裁判上ニテ要求スルコトヲ得
是等ノ者ノ世話ヲ受クルコトヲ約束シタル後正當ノ原因ナクシテ之ヲ受クルコトヲ拒絕シタル者ハ其拒絕ヨリ是等ノ者ニ金錢上ノ損害ヲ生セシメタルトキハ賠償ノ言渡ヲ受ク
之ニ反シテ世話ヲ與フルコトヲ約束シタル後正當ノ原因ナクシテ之ヲ拒絕シタル者ハ因テ加ヘタル損害ヲ賠償スルノ言渡ヲ受ク
(此條ヲ削除スルノ理由)此條第一項ノ要領ニ曰ク「醫師代言人等ノ職業ハ之ヲ民法外ニ放置ス故ニ是等ノ者ト依頼人トノ間ニハ何等ノ約束アルモ民法上義務ヲ生セス」ト
起案者ノ說明ヲ按スルニ此種ノ者ハ下賤ナル雇傭人ト伍ヲ爲サス又此種ノ者ト依頼人トノ間ノ約束ハ其履行ヲ強要スルコトヲ得ス此二ノ理由アルヲ以テ此種ノ職業ヲ民法外ニ放置スト云フニ在リ
凡ソ醫師代言人等ノ職業ハ一ノ生業ナリ他ノ四民ノ業ト何ンソ別タン農工商賣ハ法律ヲ以テ之ヲ支配シ醫師代言人ハ否セストノ主旨何等反覆熟考スルモ其理由ヲ發見セス又履行ノ強要シ難キハ獨リ醫師云々ノ數輩ノミナラス作爲ノ義務ニハ履行ノ強要シ難キモノ許多アリ第四百二條ニ明文アリ是ヲ以テ此第一項ニ二三ノ職業ヲ限リテ法律外ノモノト爲スハ謂レナキノ法ナリ
又第二項ニハ既ニ與ヘタル世話ノ報酬ヲ請求スルコトヲ記ス此ハ普通ノ義務篇ニ規定シタルコトナリ
又第三項以下ニハ約束ヲ履行セサルカ爲メニ生シタル損害ヲ賠償スル責任アルコトヲ記セリ此モ普通義務中ニ規定セリ
右ノ理由アルヲ以テ此條ヲ削除スルノ議ヲ呈ス
(栗塚)
本條ハ刪除ノ建議アルモ之ヲ存セシメタシ又「ニト」トアルハ「コト」トシ生徒ハトアルヲ生徒ニトシ約諾トアルハ諾約トシタシ
可決ス
(栗塚)
第二項賠償ノ言渡ヲ受クトアルヲ其賠償ノ責ニ任ズトシ第三項言渡ヲ受クトアルヲ責ニ任ズトシタシ
可決ス
(松岡)
法定ノ義務ナシトアル法定ノ文字ハ不可ナリ
(南部)
法定ノ義務ナシト云ヘバ裏面ニ道徳上ノ義務アルヲ顯ハス
(松岡)
民法ニ義務ナシト云フハ道徳上ノ義務ニアラザルヤ知ルベシ
(元尾崎)
法定ノ義務ナシト云フハ不都合ナシ
第二節 見習契約
第九百六十三條 工業人又ハ商業人ハ見習契約ヲ以テ男女ノ見習者ニ自己ノ職業上ノ知識ト實驗トヲ傳授シ見習者ハ其人ノ勞務ニ助力スルヲ約束スルコトヲ得
未成年者ハ其父、後見人其他自己ニ對シテ權力ヲ有スル人ノ輔佐又ハ名代ニ依ルニ非サレハ見習契約ヲ取結フコトヲ得ス
(栗塚)
工業人ト云ヘルハ工匠人トシ大工左官ノ類ヲモ包含セシメ商業人ハ商人トシ見習ハ習業トスベシ
可決ス
第九百六十四條 合式ニ輔佐ヲ受クル未成年者又ハ其代人ノ取結ヒタル見習契約ハ其未成年ノ時期ヲ超ユルコトヲ得ス但見習者カ成年ニ達シタル後其契約ヲ更新シ又ハ之ヲ伸長スルコトヲ妨ケス
例ニ從ヒ見習トアルヲ習業トセリ
第九百六十五條 見習契約ハ當事者相互ノ義務ノ性質及ヒ廣狹ヲ定ム
見習契約ノ不備ハ親方ノ其職業ヲ行フ地方ノ慣習ニ從ヒテ之ヲ補完スルコトヲ得
(栗塚)
親方ト云フ文字ハ師匠トシタシ
(松岡)
師匠トスルハ不可ナリ
(村田)
稽古ヲ授ケル者ハ師匠ニアラズヤ
(元尾崎)
師匠ノミニテハ蓋サザルヲ以テ師匠又ハ主人トシテハ如何
(南部)
師匠又ハ親方トシテハ如何
(北畠)
親方ト云ハズ主人トスベシ親方ノ文字ハ關東ノ方語ニ屬スレバナリ
第九百六十六條 親方ハ見習者ニ居室、食物及ヒ職業ノ器具ヲ與ヘ且日常ノ便用ヲ足ラシムルコトヲ要ス但反對ノ契約ナク且地方ノ慣習ノ此ニ異ナラサルトキニ限ル
又親方ハ見習者ニ其見習契約ノ目的タル職業ヲ學フコトヲ得セシムル爲メ必要ナル時間ヲ與ヘ世話ヲ爲シ及ヒ諸般ノ便利ヲ圖ルコトヲ要ス
未成年ノ見習者カ未タ算筆ヲ知ラサルトキハ親方ハ何等ノ反對ノ契約アルモ見習者ニ算筆修習ノ爲メ休憩時間外ニ於テ每日少ナクトモ一時間ヲ與フルコトヲ要ス
例ニ從ヒ親方ノ上ニ師匠又ハノ文字ヲ加ヘ見習ヲ習業トセリ
第九百六十七條 見習者ハ其學ハント欲スル職業ニ關シ日日ノ時間及ヒ勞務ヲ親方ニ供スルコトヲ要ス
例ニ從ヒ見習ヲ習業トシ親方ノ上ニ師匠又ハノ文字ヲ加フ
第九百六十八條 見習者カ自己又ハ其親屬ノ疾病其他不可抗ノ原因ニ因リテ一ケ月以上引續キ勞務ヲ供スル能ハサルコト一回又ハ數回ニ及ヒタルトキハ見習者ハ其成年ニ達シタル後ト雖トモ見習契約ノ期限滿了後ニ於テ前契約ニ同シキ相互ノ條件ヲ以テ休業シタル時間ヲ補足スルコトヲ要ス
本條モ見習ノ文字ヲ習業トス
(松岡)
一ケ月以上休業シタルトキハ其時間ヲ補足スベキモノナレバ一回又ハ數回ノ文字ハ必要ヲ見ズ
(淸岡)
一回又ハ數回ヲ除去スルニ及バズ
(箕作)
疑惑ヲ回避セン爲メ之ヲ刪除スベシ
可決ス
第九百六十九條 見習契約ハ左ノ諸件ニ因リテ當然終了ス
第一 親方又ハ見習者ノ死亡
第二 親方又ハ見習者ノ陸海軍ノ服役
第三 親方又ハ見習者ノ言渡サレタル重罪ノ處刑又ハ三ケ月ヲ超ユル禁錮ノ處刑
<第四號ヲ第一號ト爲スノ建議>
第四 契約又ハ法律ヲ以テ定メタル期限ノ滿了
本條ハ親方ノ上ニ「師匠」ト云フヲ加ヘ見習ヲ習業トスベシ
(南部)
契約ハ合意トスルヤ
(栗塚)
然リ
第九百七十條 左ノ原因アルトキハ解除ノ利益ヲ得ル一方ノ當事者ノ請求ニ因リ裁判所ハ契約ノ解除ヲ宣吿スルコトヲ得
第一 相互ノ義務ノ不履行但不可抗ノ原因ニ由ルトキモ亦同シ
第二 見習者ニ對スル親方ノ苛酷ナル取扱
第三 見習者ノ平常ノ不品行
第四 前條ニ揭ケタル場合ノ外親方又ハ見習者ノ犯罪
第五 契約ヲ履行スヘキ府縣外ニ親方ノ轉居
本條ニ依リ解除ノ宣吿ヲ受ケタル當事者ノ一方ハ自己ニ過失アルトキハ他ノ一方ニ對シテ尙ホ其損害ヲ賠償ス可キノ言渡ヲ受ク前條ニ揭ケタル處刑言渡ノ場合ニ於テモ亦同シ
本條モ親方ノ上ニ「師匠」ヲ挿入シ見習ヲ習業トシ府縣外ヲ土地外トスヘシ
可決ス
第四節 仕事ノ請負
第九百八十一條 工技又ハ勞力ヲ以テスル某ノ仕事ヲ其全部又ハ一分ニ付キ豫定代金ニテ爲スノ契約ハ注文者ヨリ主タル材料ヲ供スルトキハ仕事ノ請負ナリ若シ請負人ヨリ主タル材料ト仕事トヲ供スルトキハ仕事ヲ爲ス可キ有條件ノ賣買ナリ
(箕作)
某ノ仕事ト云フハ或ル仕事トスベシ
可決ス
(元尾崎)
請負人主タル材料ト仕事トヲ供スルトキハ條件付ノ賣買ニアラズ矢張請負仕事ナリ
(松岡)
本條ノ定義ハ敢テ不都合ナシ
第九百八十二條 前條ニ揭ケタル二箇ノ場合ニ於テ物ノ全部又ハ一分ニ付キ既ニ仕事ヲ爲シタル後ニ意外ノ事又ハ不可抗ノ力ニ因リテ其物ノ滅失シタルトキハ材料ノ滅失ハ其材料ノ屬スル者之ヲ負擔シ請負人ハ仕事賃ヲ損失ス
當事者ノ一方カ其所爲ニ因リテ滅失ヲ來タシタルカ又ハ引渡若クハ受取ニ付キ遲滯ニ在ルトキハ其一方ノミ材料及ヒ仕事賃ニ付キ其滅失ヲ負擔ス但一層大ナル損害アルトキハ其賠償ノ責ニ任ス
請負人ヨリ材料ヲ供シタル場合ニ於テ一分ノ滅失又ハ單一ナル毀損カ物ニ其價額ノ半以上ヲ失ハシムルトキハ之ヲ全部ノ滅失ト同視ス又其減價カ半以下ニ在ルトキハ第百五十八條、第四百三十九條第三項及ヒ第四百四十條ノ規定ヲ適用ス
注文者ヨリ材料ヲ供シタルトキハ注文者ハ存在スル材料ノ部分ノ增加シタル限度ニ從ヒテ仕事賃ヲ辨濟スルノ責ニ任ス
(栗塚)
單一ナル毀損カト云ヘル文字ハ單ニ毀損カトシタシ
(箕作)
單一ナルト云フヲ可トス
第九百八十三條 注文者ヨリ材料ヲ供シタルトキハ一分ニ付キ仕事ヲ調査シ且之ヲ受取ルヲ約束スルコトヲ得但仕事完成ノ後ニ非サレハ其引渡ヲ實行セサル可キトキト雖モ亦同シ此場合ニ於テ注文者カ既成ノ仕事ヲ調査シテ受取リタルトキ又ハ之ヲ調査スルノ遲滯ニ在ルトキハ請負人ハ既成ノ仕事ニ付キ其危險ノ責ヲ免カル
仕事中ニ注文者ヨリ前金又ハ内金ヲ供シタルモ此ヲ以テ既成ノ仕事ヲ受取リタリト看做サス然レトモ物カ注文者ノ明白ナル受取又ハ其付遲滯ノ以前ニ滅失シタルトキハ注文者ハ既成ノ仕事ノ代金ヲ超ユル部分ニ非サレハ前金又ハ内金ヲ取戻スコトヲ得ス
(箕作)
前金ト内金トハ如何ナル差異アリヤ
(栗塚)
第二項ハ起案者ニ質問シ置キタルモ未ダ回答ニ接セズ
(元尾崎)
起案者ハ蓋シ恩惠ヲ與フルノ意ナラン
(栗塚)
金額ヲ取戻スヲ得ズト云ヘバ未ダ金額ヲ供セザルトキハ燒失部分ニ於ケル代價ヲ供スレバ可ナルモ只今起案者ヨリ回答ヲ得タルニ金額ヲ供シタルトキハ危險ヲ分擔スルノ意思ニテ之ヲ取戻サザルナリト云フニアリ
(箕作)
起案者ハ請負人已ニ補手者ニ與ヘタル金額マデモ取戻サルルニ至テハ迷惑ナルモ先ヅ危險ヲ分擔スルト云フ理由ヲ以テ充分ナリト云フ
結局第一項ハ注文者ヨリ材料ヲ供シタル場合ニ於テハ仕事完成ノ後ニ非ザレバ其引渡ヲ實行セザル可キトキト雖ドモ一分宛仕事ヲ調査シ且之ヲ受取ルヲ合意スルコトヲ得云々トスルニ可決ス
第九百八十四條 注文者カ異議ヲ留メスシテ工作物ヲ受取リタルモ後日其物ノ使用ニ不適當ナル隱潛ノ瑕疵ヲ發見スルトキハ注文者ハ其受取ヲ取消シテ代價ノ減殺又ハ其一分ノ返還ヲ請求スルノ權利ヲ失ハス
此權利ニ基キタル訴權ハ注文者ニ屬スル動產又ハ不動產ノ上ニ施シタル仕事ニ付テハ全部ノ工作物ヲ受取リタル後ノ三ケ月ニテ消滅ス
職工ヨリ材料ヲ供シタル製作物ニ付テハ第七百四十六條ノ規定ヲ適用ス
無異議
第九百八十五條 建物、牆壁其他地上ニ於ケル大工作物ヲ請負ニテ築造シタルトキハ請負人ハ築造ノ瑕疵又ハ地盤ノ瑕疵ヨリ生シタル其工作物ノ全部若クハ一分ノ滅失又ハ重大ナル損壞ノ責ニ任ス但請負人カ他人ノ土地ニ築造シタルト自己ノ土地ニ築造シタルト材料ヲ供シタルト材料ヲ供セサリシトヲ區別セス
右責任ハ左ノ期限ノ滿了ニ因リテ消滅ス
第一 牆壁其他木、石又ハ瓦ヲ從トシテ用ヒタル工作ニ付テハ其受取後二ケ年
第二 木造ノ建物ニ付テハ五ケ年
第三 石又ハ煉瓦ノ建物及ヒ土藏ニ付テハ十ケ年
(栗塚)
第一項材料ヲ供セザリシトヲ區別セズトアルハ之ヲ供セザリシトヲ區別セズトシタシ
(松岡)
否トヲ區別セズトスベシ
可決ス
(松岡)
大工作物ハ大ナル工作物トスベシ
可決ス
(栗塚)
右責任ハ左ノ期間ノ滿了ニ依リテ消滅ストアルヲ右責任ハ左ノ時期間繼續ストシタシ
可決ス
(栗塚)
第一工作トアルハ土工トシタシ
(箕作)
土工トスル理由ハ如何
(栗塚)
多クハ瓦石等ヲ用ユル場合ナレバ土工ニ屬スレバナリ
可決ス
第二木造ト云フ文字ハ木材ヲ主トシテ用ヒタルトシタシ
(元尾崎)
可ナリ
可決ス
(尾崎)
十ケ年間請負人ヲシテ其責任ヲ受ケシメントスルハ苛酷ナリ
(松岡)
土木會社ノ如キハ此責任ヲ負フベシトスルモ尋常ノ大工ニシテ長年月ノ間其責任ヲ負ハシメントスルハ無理ナリ
(委員長)
木造ノ建物ハ三ケ年ノ責任トスベシ
可決ス
第九百八十六條 右ノ責任ニ基キタル賠償訴權ハ左ノ時期ヲ以テ時効ニ罹ル
第一 物ノ全部ノ滅失ノ場合ニ於テハ其滅失ノ時ヨリ一ケ年
第二 物ノ一分ノ滅失又ハ重大ノ損壞ノ場合ニ於テハ請負人ノ責ニ任ス可キ期間ノ滿了ノ時ヨリ六ケ月
(栗塚)
損壞ノ文字ハ例ニ從ヒ毀損トスベシ
可決ス
第九百八十七條 經畫ノ變更ヨリ代金ノ增減ヲ生ス可キモ書面ヲ以テ之ヲ定メサルトキハ其變更ヲ口實トシテ請負人ハ原代金ノ增加ヲ請求シ注文者ハ其減少ヲ請求スルコトヲ得ス
全ク區分セル建築ヲ請負外ニ爲シ又ハ請負内ノ全ク區分セル建築ヲ廢セシトキハ此規定ヲ適用セス此場合ニ於テ當事者ノ間ニ一致ヲ得サルトキハ裁判所原代金ノ增減ヲ定ム
請負人ハ經畫又ハ其變更カ注文者ノ指圖ニ出テタルコトヲ口實トシテ第九百八十五條ニ定メタル責任ヲ免カルルコトヲ得ス但請負人カ書面ヲ以テ此責任ノ免除ヲ得タルトキハ此限ニ在ラス
(南部)
本條末項此責任ノ免除ト云フハ此責任ノ免責トスベキヤ
(栗塚)
此責任ノ免カルルコトトシタシ
可決ス
(松岡)
第二項冒頭ノ全ク區分セル建築ヲ請負外ニ爲シトアルヲ請負中ニ包含シタル建築ト全ク別ナル建築ヲ爲シトスベシ
可決ス
(南部)
又ハ請負内ノ全ク區分セルトアルヲ又ハ請負中ノ區分アルトスベシ
可決ス
第九百八十八條 請負人カ仕事ノミヲ供スルト材料ヲ併セ供スルトヲ問ハス注文者ハ常ニ自己ノ意思ノミヲ以テ契約ヲ解除スルコトヲ得然レトモ注文者ハ請負人ノ既成ノ仕事ノ賃銀及ヒ準備ノ材料ニ受ケタル損失其他ノ損害ヲ賠償シ且其契約ニ因リテ得ヘキ正當ナル利益ノ全部ヲ辨濟スルノ義務ヲ負擔ス
無異議
第九百八十九條 他人ノ材料ヲ以テ仕事ノ全部ニ供シタルト一分ニ供シタルト又其仕事ヲ實行シタルト契約ヲ解除シタルトヲ問ハス請負人ハ仕事ノ爲メ又ハ解除ノ賠償ノ爲メ自己ノ受ク可キ金額ノ皆濟ニ至ルマテ其材料ヲ留置スルコトヲ得但此留置權ハ動產物ノミニ之ヲ適用ス
無異議
第九百九十條 注文者カ請負人其者ノ仕事ヲ目的トシテ契約ヲ取結ヒタルトキハ其契約ハ請負人ノ死亡又ハ其仕事ノ不得爲ニ因リテ之ヲ解除スルコトヲ得
右二箇ノ場合ニ於テ注文者ハ自己ノ期望セシ目的ニ付キ利シタル仕事又ハ材料ノ代金ノミヲ請負人又ハ其相續人ニ辨濟スルノ責ニ任ス
(栗塚)
本條ノ不得爲トアルハ例ニ從ヒ不能トスベシ
可決ス
(村田)
第一項目的ノ文字ハ主眼トスベシ
可決ス
第九百九十一條 仕事ノ一分ニ任シタル下請負人ト請負人トノ關係ニ付テハ上ノ規定ニ從フ
請負人カ下請負人ニ對シ負擔スル金額ヲ辨濟セサルトキハ下請負人ハ自己ノ名ヲ以テ直接ニ注文者ニ對シ其注文者ノ猶ホ請負人ニ辨濟ス可キ債務ノ限度ニ於テ訴ヲ起スコトヲ得
職工モ亦己レヲ雇ヒタル請負人カ賃銀ヲ辨濟セサルトキハ注文者ニ對シ右ト同一ノ權利ヲ有ス
(栗塚)
本條末項職工モ亦己レヲ雇ヒタル請負人トアル下ニ「下請負人」ト云フ字ヲ挿入セザレバ下請負人ヲ漏脫スルニ至ルベシ
(村田)
「請負人カ」トアルヲ「者カ」トスレバ之ヲ包含スベシ
可決ス
第三章 賃借權、永借權及ヒ地上權
第一節 賃借權
第百二十一條 動產ト不動產トヲ問ハス有體物ノ賃貸借ハ賃借人カ賃貸人ニ金錢其他ノ有價物ヲ定期ニ拂フコトヲ約シ賃貸人カ賃借人ニ或ル時間賃借物ノ使用及ヒ收益ヲ爲スノ權利ヲ與フ但後ノ第二款及ヒ第三款ニ定メタル如ク約束ニ因リ又ハ法律ノ効力ニ因リテ當事者ノ負擔スル相互ノ義務ヲ妨ケス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ賃借ガトアルヲ賃借人ヨリトシ拂フコトヲトアルヲ拂フノトシ約シトアルヲ約ニテトシ賃貸人ガトアル三字ヲ刪除シタシトス
(淸岡)
賃貸借權ト云フ「權」ノ字ヲ刪ルベキヤ
(南部)
賃貸借ト云フトキハ權ノ字ヲ除去スルコトトセリ
可決ス
<本條削除建議>
第百二十二條 工作又ハ工業及ヒ傭吏ノ賃貸借ノ契約ハ第三編ニ於テ之ヲ規定ス
獸畜ノ賃貸借ニ特別ナル規則モ亦第三編ニ於テ之ヲ規定ス
(南部)
本條ハ雇傭契約ニ屬スルモノナレバ刪除スベシ
(箕作)
工作又ハ工業及ビ傭吏ノ賃貸借ヲ除去スベキモノトセバ前條ニ於ケル有體物ノ文字ヲ擧グルノ必要ナシ
(松岡)
然リ
(槇村)
前條ハ動產及ビ不動產ノ賃貸借トスベキヤ
(箕作)
然ルベシ
可決ス
(栗塚)
本條ハ刪除スベキヤ卽チ刪除ニ決ス
第百二十三條 國、府縣、町村及公設所ニ屬スル財產ノ賃貸借ハ行政法ヲ以テ之ヲ規定ス
(栗塚)
本條ハ町村ノ上ニ市ノ文字ヲ挿入スベシ
(元尾崎)
行政法ノ發布ナキトキハ如何
(渡)
行政法ノ發布ナキモ民法ヲ適用スルヲ得ザルベシ
(元尾崎)
官民契約ニ屬スル場合ハ民法ニ依準セザルヲ得ズ原案ニ可決ス
第一款 賃借權ノ設定
第百二十四條 賃借權ハ賃貸借契約ヲ以テ之ヲ設定ス
賃借權ヲ贈遺シタル場合ニ於テハ相續人ハ遺言書ニ記載シタル項目及ヒ條件ニ從ヒテ受遺者ト賃貸借契約ヲ取結フコトヲ要ス
賃借權ヲ豫約シタル場合ニ於テモ諾約者ハ要約者ト賃貸借契約ヲ取結フコトヲ要ス
(栗塚)
項目ノ文字ハ約款トスベシ
(箕作)
遺言書ニハ約款ト云フモノアラザルベシ
(栗塚)
項目ト爲シ置クベキヤ可決ス
(松岡)
贈遺ト云フ文字ハ遺贈トスベシ
可決ス
第百二十五條 賃貸借契約ハ有償名義ナル双務ノ契約ノ通則ニ從フ但後ニ揭ケタル變例ヲ妨ケス
(栗塚)
有償名義ナル双務ト云フ文字ハ報吿委員ニテ有償且双務ノトシタシ
可決ス
第百二十六條 法律上又ハ裁判上ノ管理者ハ其管理スル物ヲ賃貸スルコトヲ得然レトモ管理者カ期間ニ付キ特別ノ委任ヲ受ケスシテ賃貸スルトキハ左ノ期間ヲ超ユルコトヲ得ス
第一獸畜其他ノ動產ニ付テハ二ケ年
第二居宅、店舖其他ノ建物ニ付テハ三ケ年
第三耕地、牧場、樹林、池沼其他土地ノ部分ニ付テハ五ケ年
(栗塚)
本條「然レトモ管理者カ期間ニ付キ特別ノ委任ヲ受ケスシテ賃貸スルトキハ」ト云ヘルヲ刪除シ但其賃貸借ハト云フ文字ヲ塡入スベシ
(箕作)
但其賃貸借ハ云々トセズ原案ノ儘ニテ不都合ナシ
可決ス
第百二十七條 管理者ハ前條ニ記載シタル賃貸物ノ區別ニ從ヒ限期間ノ滿了ニ先タツ三ケ月、四ケ月又ハ六ケ月内ニ非サレハ同一ノ期間ヲ以テ賃貸借ヲ更新スルコトヲ得ス
然レトモ右ノ時期ニ先タチ爲シタル更新ハ管理者ノ委任ノ止ムヨリ前ニ既ニ新期間ノ始マリシトキハ無効ナラス
無異議
第百二十八條 管理者ハ金錢外ノ有價物ヲ貸賃ト爲シテ賃貸スルコトヲ得ス
然レトモ田畑ニ付テハ其產出物ヲ貸賃ト爲シテ賃貸スルコトヲ得
(栗塚)
本條ハ曩ニ議場ノ刪除トナリシモ其旨ヲ以テ起案者ニ質問シタルニ起案者ヨリ回答アリシニ依リ更ラニ報吿委員ニテ第一項ハ管理者ハ金錢外ノ有價物ヲ貸賃ト爲シテ賃貸スルコトヲ得ズトシ第二項ハ然レドモ田畑ニ付テハ其產出物ヲ貸賃ト爲シテ賃貸スルコトヲ得トセリ
(元尾崎)
田畑ノ文字ハ耕地トスベシ
可決ス
第百二十九條 前二條ノ規定ハ代理人ニ之ヲ適用ス但代理委任ノ書面ヲ以テ其權限ヲ伸縮シタルトキハ此限ニ在ラス
(栗塚)
前二條ハ前三條トナリ代理人ニ之ヲ適用ストアルヲ合意上ノ總テノ管理者ニ之ヲ適用ストシ但ノ下代理ノ文字ヲ刪除スベシ
(箕作)
合意上ノ總テノ管理者ト云フニテハ代理人ト云フ意味ト思惟シ難キ場合アリ
(村田)
合意上ト云フ文字ハ必要ナリ
(栗塚)
本條ヲ除クノ外代理人ト云ヘバ合意上及ビ法律上ノ代理人ヲモ包含スベシ
(箕作)
本條ハ別ニ疑團ナシ
第百三十條 自己ノ財產ヲ管理スルコトヲ得ル婦及ヒ既脫後見ノ未成年者モ亦前二條ノ規定ニ從フニ非サレハ其財產ヲ賃貸スルコトヲ得ス
(栗塚)
本條ハ前二條ノ規定トアルヲ管理者ト同一ノ條件トシタシ
可決ス
(渡)
自己ノ財產ヲ管理スルコトヲ得ル婦ハトアル文字ニハ最初議論ノ燒點トナレリ
(淸岡)
婦ト云フ文字ハ女性ノ通稱ナルベシ
(栗塚)
婦ハ有夫女子ヲ云フ
(渡)
有夫ノ女子ナルニ依リ議論アリ
(元尾崎)
良夫ノ許可アレバ其婦ヲシテ原吿又ハ被吿ノ地位ニ立タシメテ可ナリ
(松岡)
有夫ノ婦ヲシテ賃貸借權ニ限リ權利上ノ制限ヲ附シテ可ナリヤ
(元尾崎)
英國抔ニハ有夫ノ婦ハ民事上ニテハ夫ノ許可ヲ得ザルベカラザルコトトナレリ原案ニ可決ス
第百三十一條 前數條ニ反シタル賃貸借又ハ其更新ニシテ所有者其權利ヲ自在ニスルコトヲ得ルニ至リ追認シタルモノニ付テハ賃借人ハ其無効又ハ短縮ヲ請求スルコトヲ得ス
然レトモ賃借人ハ所有者ノ追認スルヤ否ノ意思ヲ第百二十六條ニ區別シタル賃借物ノ性質ニ從ヒ八日、十五日又ハ三十日ノ期間ニ述フルヲ常ニ要求スルコトヲ得
所有者カ其意思ヲ述フルコトヲ拒ムトキハ賃借人ハ起初又ハ更新ニ於テ定メタル如ク賃借期間ヲ存持セント述フルコトヲ得
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項更新ニシテトアル文字ヲ更新ナルモトシ追認ト云フ文字ハ之ヲ認諾シトシ第二項追認トアルヲモ認諾トシ「意思ヲ」ノ下述ブルコトヲ常ニ要求スルコトヲ得但其意思ヲ述ブルノ期間ハト云フ數字ヲ挿入シ三十日ノ期間云々トアルヲ三十日トストセリ
(元尾崎)
意思ヲノ下ノ修正ハ原案ノ儘ニ置キタシ
可決ス
(栗塚)
第三項存持ト云ヘル文字ハ維持トシタシ
可決ス
(元尾崎)
無効ノ申立ハ賃貸人ノ利益ニ歸スベキニ賃借人ハ云々ト云フハ允當ナリヤ
(栗塚)
社會ノ秩序ニ害アル者ハ賃貸人ニ限ラズ之ヲ請求スルヲ得ベシ然ルニ年長ニ達シ之ヲ認諾シタルモノニ付テハ賃借人ハ其無効ヲ請求スルヲ得ズト云フ義ナリ
(松岡)
賃貸借ニ於ケル無効ノ請求ハ其利益賃貸人ニ存セルヲ以テ本條第一項ノ行文ハ平穩ヲ得ズ
(村田)
凡ソ法律ニ違反シタル者ハ何人ヨリモ無効ヲ請求スルヲ得ベシ然ルモ賃借人之ヲ認諾シタル以上ハ賃借人ハ其無効ヲ請求スルヲ得ザルモノトス
(箕作)
無能力者ノ利益ノ爲メ締結セル契約ニ付テハ有能力者之ヲ解廢スルヲ得ザルハ一般ノ原則ト云フベシ曩ニ民法編纂局ニ於テ種々議論アリシニ依リ「ボアソナード」氏ニ質問シタルニ當時同氏ハ之ヲ刪除シタルニ今又之ヲ記入シ來タレリ
(栗塚)
認諾セザル以上ハ無効ヲ請求スルヲ得ルモノト思惟セリ假ニ第一項ハ賃借人ハ前數條ニ反シタル賃貸借又ハ其更新ノ無効又ハ短縮ヲ請求スルコトヲ得ズトシ第二項ハ然レドモ所有者其權利ヲ自在ニスルヲ得ルニ至リタルトキハ賃借人ハ云々ト爲シ置キ更ラニ起案者ヨリ確答ヲ得タルトキハ其答案ニ從フベシ其議ニ決ス
第百三十二條 所有者ノ爲シタル不動產ノ賃貸借カ二十ケ年ヲ超ユルトキハ其賃貸借ハ永貸借ト爲リ此種ノ賃貸借ノ爲メ後ノ第二節ニ定メタル規則ニ從フ
(栗塚)
二十ケ年ハ三十ケ年トシタシ時効ノ如キモ三十ケ年ヲ期限ト爲セバナリ
(松岡)
三十ケ年トスルハ慣習ニ反スベシ
(渡)
三十ケ年ヲ可トス
(尾崎)
從來ハ二十ケ年ヲ經過シタルトキハ小作人ノ利益ニ歸セシメ之ヲ永小作ト爲スベキアリ
(淸岡)
地主ノ利益ヨリ云ヘバ三十ケ年ヲ期限トスベキモ小作人ハ二十ケ年モ使用スレバ自己ノ資力ヲモ耗費シタルモノナレバ在來ノ習慣ニ從ヒ二十ケ年トスベシ
(南部)
二十ケ年以上ニ至ルトキハ永小作ト爲ルベキ習慣ハ名田小作ニ於テノミナルベシ
(尾崎)
二十ケ年以上ニ渉ルトキハ皆名田小作ニアラザルモノナシ多數ニ依リ三十ケ年トスルニ可決ス
第二款 賃借人ノ權利
第百三十三條 賃借人ハ賃借物ニ付キ用益者ト同一ノ利益ヲ收ムル權利ヲ有ス但其賃貸借設定ノ契約及ヒ法律ノ規定ヨリ生スル權利ノ增減ハ此限ニ在ラス
(栗塚)
本條契約ノ文字ハ行爲トシタシ
(村田)
契約ト云フニテ可ナリ
可決ス
第百三十四條 賃借人ハ其收益ヲ始ムル爲メニ定メタル時期ニ於テ賃借物ノ占有ヲ賃貸人ニ要求スルコトヲ得然レトモ財產ノ目錄又ハ形狀書ヲ作リ及ヒ保證人ヲ立ルノ責ニ任セス但契約ニ因リテ其責ニ任スルトキハ此限ニ在ラス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ但書ヲ刪除シ然レドモトアルヲ但契約ニ因ルノ外云々トシタシ
(元尾崎)
原案ヲ可トス
可決ス
第百三十五條 賃借人ハ物ノ引渡前ニ其用方ニ從ヒ一切ノ修繕ヲ完好ニスルヲ賃貸人ニ要求スルコトヲ得
其他賃貸人ハ賃貸借ノ期間大小修繕ヲ爲スノ責ニ任ス但下ノ二項ニ揭ケタル修繕及ヒ賃借人又ハ其僕婢ノ過失若クハ懈怠ニ因リテ必要ト爲リタル修繕ハ賃借人之ヲ負擔ス
賃貸人ハ賃貸借ノ期間疊、建具、塗彩及ヒ壁紙ノ保持ヲ負擔セス
又井戶、用水溜、汚物溜又ハ水動管ノ疏浚及ヒ普通ニ賃借人ノ爲ス可キ修繕ヲ負擔セス
(栗塚)
下ノ二項トアルヲ左ノ二項トシタシ
可決ス
(村田)
第三項ハ冒頭ニ賃貸人ト云フ文字ヲ加ヘタシ
(栗塚)
「又」ト云フ字アルヲ以テ自ラ明ナリ
第百三十六條 建物ニ必要ト爲リタル大修繕ハ賃借人ヨリ之ヲ要求セス且此カ爲メ賃借人ニ多少ノ不便ヲ生セシム可シト雖モ賃貸人之ヲ爲スコトヲ得
然レトモ賃借人ハ右修繕ノ一ケ月ヨリ長ク繼續スルニ因リテ損害ヲ被リタルトキハ其賠償ヲ受クルコトヲ得又時間ノ如何ヲ問ハス右修繕ノ爲メ其賃借物中住居ス可キ全部又ハ商業若クハ工業ニ極メテ必要ナル部分ヲ失フ可キトキハ賃借人ハ賃貸借ノ解除ヲ請求スルコトヲ得
(栗塚)
第二項賃借物中トアルハ賃借物ノトシタシ
(槇村)
賃借物中ト云ヘルヲ可トス
可決ス
(栗塚)
解除ノ文字ハ銷除トスベシ
(委員長)
起案者ハ此原文ヲ改メタリヤ
(栗塚)
然リ
(尾崎)
損害賠償ヲ受クルト云フ意ハ刪除シタシ
(元尾崎)
然レドモ賃借人ハ右修繕ノ一ケ月ヨリ長ク繼續スルニ因ルカ或ハ其賃借物中云々トシタシ賃貸人之ヲ修繕スルニ付キ損害賠償ヲ出サザルベカラザルト云フハ不都合ニアラズヤ
(箕作)
此損害賠償ト云フハ借賃ノ減少ト云フニ過ギザルノミ
(栗塚)
繼續スルニ因リ云々得トアルヲ繼續スルトキハ借賃ノ減少ヲ請求スルコトヲ得トシテハ如何
(元尾崎)
其割合ニ應シ借賃ノ減少ヲ求ムルコトヲ得トシテハ如何
(栗塚)
割合ニ應ズルノ文字ハ必要ヲ見ズ
結局繼續スルトキハ借賃ノ減少ヲ要求スルコトヲ得トスルニ決ス
第百三十七條 賃借人カ第三者ノ所爲ニ因リテ收益ノ權利ニ妨碍又ハ爭論ヲ受ケ其原因ヲ賃借人ノ責ニ歸ス可カラサルトキ賃借人ヨリ合式ニ吿知ヲ受ケタル賃貸人ハ其訴訟ニ參加シテ賃借人ヲ擔保シ又ハ損害ヲ賠償スルコトヲ要ス
(栗塚)
本條ハ其原因ヲトアル「ヲ」ハ刪除スベシ
可決ス
第百三十八條 妨碍カ戰爭、旱魃、洪水、暴風、火災ノ如キ不可抗ノ力又ハ官ノ處分ヨリ生シ此カ爲メ每年ノ收益ノ三分一以上ノ損失ヲ致シタルトキハ賃借人ハ其割合ニ應シテ借賃ノ減少ヲ要求スルコトヲ得
又右ノ妨碍カ引續キ三ケ年ニ及フトキハ賃借人ハ賃貸借ノ解除ヲ請求スルコトヲ得建物ノ燒失其他ノ毀滅ノ場合ニ於テ所有者カ一ケ年内ニ之ヲ再造セサルトキモ亦同シ
無異議
第百三十九條 土地又ハ建物ヲ以テ主タル目的物ト爲シタル賃貸借ニ於テ其現在ノ坪數カ契約ノ坪數ヨリ少ナク又ハ多キトキハ土地又ハ建物ノ賣買ニ於ケルト同一ノ條件ニ從ヒテ借賃ノ增減又ハ契約ノ銷除ヲ爲スコトヲ得
無異議
第百四十條
議場削除
第百四十一條 賃借人ハ賃貸人ノ明許ヲ要セスシテ賃借地ニ適宜ニ建物ヲ築造シ又ハ樹林ヲ栽植スルコトヲ得但現在ノ建物又ハ樹林ニ何等ノ變更ヲモ加フルコトヲ得ス
賃借人ハ舊狀ニ復スルコトヲ得ヘキトキハ其築造シタル建物又ハ栽植シタル樹林ヲ賃貸借ノ終ニ收去スルコトヲ得但第百五十六條ヲ以テ賃貸人ニ與ヘタル權能ヲ妨ケス
(栗塚)
樹林トアルハ樹木トシテハ如何
可決ス
第百四十二條 賃借人ハ賃貸借ノ期間ヲ超エサルニ於テハ其賃借權ヲ無償若クハ有償ノ名義ニテ讓渡シ又ハ其賃借物ヲ轉貸スルコトヲ得但反對ノ約束アルトキハ此限ニ在ラス
賃借人ハ讓渡ノ場合ニ於テハ贈與者又ハ賣主ノ權利ヲ有シ轉貸ノ場合ニ於テハ賃貸人ノ權利ヲ有ス
右孰レノ場合ニ於テモ貸借人ハ賃貸人ニ對シ其義務ヲ免カルコトヲ得ス但賃貸人カ轉借人ト更改ヲ爲シタルトキハ此限ニ在ラス
果實又ハ產出物ノ一分ヲ以テ借賃ト爲シ金錢ヲ以テ之ヲ代フルコトヲ許ササルトキハ賃借權ノ讓渡又ハ轉貸ハ賃貸人ノ承諾アルニ非サレハ之ヲ爲スコトヲ得ス
(元尾崎)
反對ノ慣習アルトキハ此限ニ在ラズト云フハ奇異ナリトス
(栗塚)
個ハ曩ニ論決ニ屬セリ
第百四十三條 不動產ノ賃借人ハ其權利ヲ抵當ト爲スコトヲ得但讓渡又ハ轉貸ヲ禁セサルトキニ限ル
(栗塚)
本條ハ禁ゼザルトキニ限ルトアルヲ爲スコトヲ得ベキトキトシタシ
(渡)
可ナリ
(松岡)
爲スコトヲ得ベキトキト云フ理由如何
(栗塚)
禁ゼザルトキト云フハ合意ノミニ關シ慣習ノ場合ヲ認メザルガ如クナレバナリ
可決ス
第百四十四條 賃借人ハ其權利ヲ保存スル爲メ第三者ニ對シテ用益權ニ關シ第七十條ニ記載シタル訴權ヲ行フコトヲ得
(栗塚)
第三者ノ上ニ賃貸借人及ビト云フ文字ヲ加ヘ用益權ニ關シノ數字ヲ刪除シタシ
可決ス
第三款 賃借人ノ義務
第百四十五條 賃貸人其權利ヲ保存スル爲メ賃貸物ノ目錄又ハ形狀書ヲ作ラント欲スルトキハ賃借人ハ何時ニテモ賃貸人カ己レト立會ヒテ之ヲ作ルヲ許諾スルコトヲ要ス但其書類ノ費用ヲ分擔セス
賃借人モ亦賃貸人ヲ召喚シ立會ノ上自費ニテ右目錄又ハ形狀書ヲ作ルコトヲ得
目錄又ハ形狀書ヲ作ラサリシトキハ賃借人ハ修繕完好ノ形狀ニテ賃借物ヲ受取リタリトノ推定ヲ受ク但反對ノ證據アルトキハ此限ニ在ラス
目錄ナキトキハ動產ノ實狀及ヒ形態ノ證明ハ賃貸人ノ責ニ歸シ通常ノ方法ニ從ヒテ之ヲ爲ス
(栗塚)
實狀及ビ形態トアルハ實狀及ビ形狀トシタシ
(元尾崎)
形態ト云フニテモ妨ゲナシ
(栗塚)
中身ト外形ト云フ義ナレバ形狀トシテハ如何
(村田)
形態ト云フヲ可トス
(栗塚)
證明ノ文字ハ擧證トシタシ
(村田)
擧證ノ文字ハ何レニモ存用セザルニ決セリ
(槇村)
實狀ト云フハ如何ナル義カ
(栗塚)
堅キトカ或ハ脆キトカ云ヘルガ如シ
(村田)
本條ハ動產ノ證明ニ止マリ不動產ニ及バザルヤ
(元尾崎)
動產ハ推定ニ苦シムト雖ドモ不動產ハ推定ニ交易ナリ
(元尾崎)
動產ノ形狀ニ付キ擧證セントスルモ困難ナルベシ
(栗塚)
動產ハ敗壞シ易ク一定ノ形狀ヲ存續シ難キモノナレバナリ
(箕作)
第三項ハ不動產ニ付キ規示シタルモノナラン
(栗塚)
或ハ然ラン冒頭ノ目錄又ハト云フ文字ヲ刪除スベシ
可決ス
(栗塚)
第三項實狀トアルハ實體トシ形態ハ形狀トシ證明ハ擧證トシタシ
(松岡)
證明ト云フハ擧證トスルヲ可トス訴訟法ニ於テ擧證ノ文字ヲ取リ除キタレバナリ
(栗塚)
擧證ノ文字ハ到底捨置クヲ得ザレバ擧證トシタシ
結局擧證ニ可決ス
第百四十六條 金錢ヲ以テ借賃ト爲シタルトキハ賃借人ハ約束ノ時期ニ之ヲ拂ヒ約束ナキトキハ每月末ニ之ヲ拂フコトヲ要ス但地方ノ慣習之ニ異ナルトキハ此限ニ在ラス
果實ヲ以テ借賃ト爲シタルトキハ收穫後ニ非サレハ之ヲ要求スルコトヲ得ス收穫後ニ於テハ其全部ヲ要求スルコトヲ得
(栗塚)
約束ノ時期ト云フハ合意シタル時期トシ收穫後ニ於テハ其全部ヲ要求スルコトヲ得ト云フハ別ニ必要ナキヲ以テ之ヲ刪除セリ
可決ス
第百四十七條 賃借人カ右ノ拂入ヲ爲サス又ハ賃貸借ノ其他ノ特別ナル項目又ハ條件ヲ履行セサルトキハ賃貸人ハ訴訟ヲ以テ賃借人ニ對シ直接ニ其履行ヲ強要シ又ハ損害アルトキハ其賠償ヲ得テ賃貸借ノ解除ヲ請求スルコトヲ得
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ賃借人借賃ヲ拂ハズ其他賃貸借ノ特別ナル約款又ハ條件ヲ履行セザルトキハ賃貸人ハ賃借人ニ對シ直接ニ其履行ヲ強要シ又ハ損害アルトキハ其賠償ヲ得トアルヲ賃貸借ノ銷除ヲ請求スルコトヲ得トシタシ
(元尾崎)
右ノ拂入ヲ爲サズ云々ト云ヘルハ可ナリ
(松岡)
直接ニト云フ文字ハ脇目ヲ振ラズト云フ意ナルモ其文字ノ必要ナシ卽チ直接ニノ文字ヲ刪除シ報吿委員ノ修正ニ可決ス
(第百四十八條) 〔賃貸人先取特權ノ條ニ轉入〕
(栗塚)
本條ハ起案者ガ之ヲ賃貸人先取特權ノ條ニ轉入セリ
第百四十九條 賃借人ハ賃借物ニ直接ニ賦課セラルル通常及ヒ非常ノ租稅ヲ負擔セス租稅法ニ依リ賃借人ヨリ徵收スル租稅ハ其借賃ヨリ之ヲ扣除シ又ハ賃貸人ヨリ賃借人ニ之ヲ償還ス但反對ノ約束アルトキハ此限ニ在ラス
然レトモ賃借人ノ築造シタル建物ニ賦課セラレ又ハ賃借不動產ニ於テ賃借人ノ營ム商業若クハ工業ニ賦課セラルル租稅其他ノ公課ハ賃借人之ヲ負擔ス
(松岡)
本條ハ何ノ必要ヲモ見ズ
(栗塚)
事理明白ナルニモ拘ハラズ尙ホ明カニ規定シタリト云フニ過キズ
(元尾崎)
賃借人ヨリ徵收スル租稅ト云ヘバ賃借人ニ課セラルベキ租稅ノ如キ疑ヒアリ
(松岡)
賃借人ノ手ヨリ徵收スルトシテハ如何
(淸岡)
徵收スル租稅ハトアルヲ徵收スルコトアルトキハトシタシ租稅法ノ定メ方ニ依リ賃借人ヨリ上納セザルベカラザルニ至ルヲ以テナリ
(栗塚)
此租稅ヲ徵收スルコトアルトキハトスベシ然ラザレバ之ヲ扣除シトアルモノ何ヲ指シタルヤ知ラザレバナリ
(淸岡)
此租稅ト云フ文字ヲ挿入スルハ不可ナリ其議ニ決ス
第百五十條 賃借人ハ明示ト默示トヲ問ハス約束ヲ以テ定メタル用方ニ從フニ非サレハ賃借物ヲ使用スルコトヲ得ス其約束ナキトキハ契約ノ時ノ用方又ハ賃借物ノ性質ニ相應シテ毀損セサル用方ニ從フニ非サレハ之ヲ使用スルコトヲ得ス
無異議
第百五十一條 賃借人ハ賃借物ノ看守及ヒ保存ニ付キ用益者ト同一ノ義務ヲ負擔ス
第三者カ賃借物ニ侵奪ヲ加ヘ又ハ營作ヲ爲ストキハ賃借人ハ第九十九條ニ記載シタル如ク用益者ト同一ノ責ニ任ス
無異議
第百五十二條 一箇ノ建物ニ數人ノ賃借人アルトキハ各賃借人ハ所有者ニ對シ其賃借部分ノ價額ニ應シテ火災ノ責ニ任ス但各賃借人又ハ其幾人ニ過失ナキノ證據アルトキハ此限ニ在ラス
(栗塚)
報吿委員中ニ於テ曩ニ第百五十三條ヲ議場ニテ刪除シタルヲ以テ遺憾ニ堪ヘザルモノアレバ本條ト共ニ起案者ノ意見聽了シタル以上呈出スベキニ付キ第百五十四條ヲ合セ暫時未定ニ乞ヒ置キタシ其議ニ決ス
(箕作)
第七十八條ニ實狀ノ文字アルハ實體トセザルモ可ナリヤ
(栗塚)
實體トスベシ
可決ス
(第百五十三條議場削除)
(栗塚)
追訴トアルヲ訴追トスベシ
可決ス
第百五十四條 所有者カ燒失セシ建物ノ一部分ニ住居シタルトキハ火災カ其部分ヨリ起ラサリシコトヲ證スルニ非サレハ賃借人ニ對シ賠償ヲ要求スルコトヲ得ス
(松岡)
本條ハ刪除シタシ
(元尾崎)
本條ハ賃借人之ヲ他ニ賣渡セントスルトキハ賃貸人ヲシテ先買スルヲ得セシムベキ權ヲ與フルモノトスベシ
(箕作)
原案ハ其精神ナルベシ
(元尾崎)
文字上其意味ヲ覺知スルヲ得ザレバナリ
(槇村)
第二項ニ先買權アルヲ示シタルヲ以テ其意味タルヲ覺知スベシ
(栗塚)
第七十三條鑑定人ノ上ニ賣ラントスルトキハト云フ文字ヲ加フレバ其意義ヲ失ハザルベシ
(松岡)
然リ
結局第七十三條第一項ハ用益權消滅ノ時用益者又ハ其相續人ガ前條ニ從ヒ收去スルコトヲ得ベキ建物及ビ樹木ヲ賣ラントスルトキハ虛有者ハ鑑定人ノ評價シタル現時ノ價値ヲ以テ先買スルコトヲ得トス
(南部)
本條ハ「樹木ヲ」ノ下先買スルコトヲ得トスベシ然スルトキハ第七十三條ト照應シテ不都合ナシ
(淸岡)
收去スルヲ得ベキ建物及ビ樹木ヲ先買スルヲ得ト云フハ不可ナリ第七十三條第一項ニ賣ラントスルトキハト云フ文字ヲ加ヘシニ付キ同條第二項ニ其收去ニ着手セザルヲ得ズトアルハ其賣却又ハ收去ニ着手スルヲ得ベキヲ要ス
(南部)
第二項モ收去及ビ賣却ヲ包含スルモノナリ
(松岡)
本條第二項ハ此場合ニ於テハト云フ文字ヲ加ヘテ之レヲ第一項ト合併スベシ
可決ス
第百五十五條 賃貸借ノ終ニ賃借人カ賃借物ヲ返還セサルトキハ賃貸人ハ其選擇ヲ以テ對人訴權又ハ物上訴權ニテ之ヲ追訴スルコト得
第百五十六條 賃貸人ハ賃貸借ノ終ニ第百四十一條ニ依リテ賃借人ノ收去スルヲ得ヘキ建物及ヒ樹林ヲ鑑定人ノ評價ニ從ヒ現時ノ相場ヲ以テ己レニ讓渡スヲ要求スルコトヲ得
第七十三條ハ右先買權ニ之ヲ適用ス
第四款 賃借權ノ消滅
第百五十七條 賃借權ハ左ノ諸件ニ因リテ當然消滅ス
第一 賃借物ノ全部ノ滅失
第二 賃借物ノ全部ノ公用徵收
第三 賃貸人ニ對スル追奪又ハ賃貸物ニ存スル賃貸人ノ權利ノ取消但其追奪及ヒ取消ハ賃貸借契約以前ノ原因ニ由リ裁判所ニ於テ之ヲ宣吿セシトキニ限ル
第四 明示若クハ默示ニテ定メタル期間ノ滿了又ハ約束シタル解除ノ未必條件ノ成就
第五 初ヨリ期間ヲ定メサルトキハ解約吿知ノ後法律上ノ期間ノ滿了
右ノ外賃貸借ハ法律ニ定メタル條件ノ不履行其他ノ原因ノ爲メ當事者ノ一方ノ請求ニ因リ裁判所ニテ宣吿シタル取消ニ因リテ終了ス
(栗塚)
本條第四解除ノ未必トアル「ノ未必」ヲ刪ルベシ
可決ス
(栗塚)
別項ハ法律ニ定メタルト云フ文字ヲ其他ノトアル上ニ轉入シ又ハ法律ニ定メタルトスベシ
可決ス
第百五十八條 意外ノ事又ハ不可抗ノ力ニ因リテ賃借物ノ一分ノ滅失シタルトキハ賃借人ハ第百三十八條ニ記載シタル條件ニ從ヒテ賃貸借ノ解除ヲ請求シ又ハ賃貸借ヲ保持シテ借賃ノ減少ヲ請求スルコトヲ得
公用徵收ノ爲メ賃借物ノ一分カ徵收セラレタルトキハ賃借人ハ常ニ借賃ノ減少ヲ請求スルコトヲ得
(栗塚)
保持ハ例ニ從ヒ維持トシ末項ハ公用徵收トアル徵收ノ二字ヲ刪リ一分ガ徵收セラレタルトアリシヲ一分ノ徵收アリタルトシタシ
(元尾崎)
公用徵收ト云ヘル徵收ノ文字ヲ刪除スルハ可ナルモ一分ガ微收セラレタルトアルハ原案ノ儘ヲ可トス
可決ス
第百五十九條 期間ノ定メ有ル賃貸借ノ終リタル後賃借人仍ホ收益シ賃貸人之ヲ知リテ故障ヲ爲ササルトキハ新賃貸借暗ニ成立シ前賃貸借ト同一ノ負擔及ヒ條件ニ從フ
然レトモ前賃貸借ヲ擔保シタル抵當ハ消滅シ保證人ハ義務ヲ免カル
新賃貸借ハ下ノ數條ニ記載シタル如ク解約申入ニ因リテ終了ス
(元尾崎)
抵當ハ消滅シ保證義務ヲ免カルト云フハ今日民間ノ習慣ニモ違反スベシ
(委員長)
前條一分ノ滅失ト云フ場合ニハ第百三十八條ノ全部ニ從フコトヲ得ズシテ同第一項ニ從ハザルベカラズ然ルニ前條ハ契約ヲ銷除スルヲ得ベキガ如シ
(南部)
三分ノ滅失ト云ヘルヲ三分一以上トスレバ不都合ナシ
(尾崎)
三分一以上ノ滅失ニアラザレバ契約ヲ銷除スルヲ得ズト云フハ不可ナリ假令バ地面ノ一分ヲ滅失シタルモ其一分ハ收穫上ニ必要ナル部分ナルトキハ最早借地ノ必要ヲ見ザルナリ
(箕作)
前條ハ原案ノ儘ニテ明了ナリヤ
(栗塚)
第三百三十八條ト云フコトアルヲ以テ明了ナリト思考ス
(委員長)
三分ノ滅失ト云フハ三分一以上ナルベシ三分一以上ノ滅失アラザルニ直チニ契約解除ノ請求ヲ受クルハ穩當ナラズ
(渡)
收益ヲ得ザル場合ニ於テハ假令借地ノ一部分ナルモ契約ハ解除セシメザルベカラズ
(委員長)
其場合ハ第三百三十八條第一項ニ明記アリ
(渡)
第三百三十八條ハ收益ニ付テ云フ前條ハ借物ニ付テ云ヒシナラン
(箕作)
「ボアソナード」氏、三分一以上ノ滅失ニ至ラザレバ敢テ取損ナシト思惟シタルナラン
(松岡)
收益ノ損失モ三分一以上ト云フ定ヲ置キタレバ賃借物ニ於テモ三分一以上ノ滅失ノ定トシ尙ホ必要ナル部分ヲ損失シタル場合ト云フ旨ヲ擧示シテハ如何
(栗塚)
賃借物ノ三分一以上又ハ住居若クハ營業ニ必要ナル部分ノ滅失シタルトキハ賃貸借ノ銷除云々トシテハ如何
可決ス
第百六十條 家具ノ附キタル家屋ノ全部若クハ一分又ハ離屋ノ賃貸借ニシテ其期間ヲ明示セス其借賃ヲ一年、一月又ハ一日ヲ以テ定メタルモノハ一年、一月又ハ一日ノ間之ヲ爲シタリト推定ス但前條ニ記載シタル默示ノ更新ヲ妨ケス
動產ノミヲ以テ目的ト爲シタル賃貸借ニ付テモ亦同シ
(栗塚)
本條ハ「又ハ離屋」ト云フ文字ヲ刪除シタル家屋ノ全部ト云フニ包含スベケレバナリ
(箕作)
家屋ノ文字ヲ建物トスレバ「又ハ離屋」ノ文字ヲ刪ルモ可ナリ
(松岡)
家具ノ附キタルト云フハ膳椀ノ類カ
(栗塚)
窓掛ノ類ナリ
(北畠)
此等ハ原語ヲ示シ置ヲ可トス
(栗塚)
家具又ハ疊建具トスベシ
第百六十一條 家具ノ附カサル建物ノ賃貸借ハ期間ヲ定メサルトキ又ハ之ヲ定メタルモ默示ノ更新アリタルトキハ年中何ノ時節ヲ問ハス當事者ノ一方ノ解約申入ニ因リテ終了ス
解約申入ヨリ返却マテノ時間ハ左ノ如シ
第一 全家屋ニ付テハ三ケ月
第二 建物ノ一分若クハ離屋又ハ尙ホ狹隘ナルモ賃借人ノ商業若クハ工業ヲ營メル住居ニ付テハ二ケ月
第三 總テ其他ノ家具ノ附カサル住居ニ付テハ一ケ月
(栗塚)
本條第一項ハ年中何ノ時節ヲ問ハズト云ヘバ春夏秋冬ト云フガ如クナルヲ以テ何時ニテモトシ第一ハ全家屋ニトアルヲ建物ノ全部ニトシ第二ハ建物ノ一分ニ付テハ二ケ月トシ第三ハ全ク刪除スベシ此等ハ實際其區別ヲ置クベカラザルニ依レリ
可決ス
第百六十二條 家具ノ附キタル家屋ノ賃貸借ニ付キ默示ノ更新アリタルトキハ解約申入ヨリ返却マテノ時間ハ左ノ如シ
第一 前賃貸借ノ期間ヲ三ケ月又ハ其以上ニ定メタルトキハ一ケ月
第二 三ケ月未滿ノ賃貸借ニ付テハ原期間ノ三分一
第三 日日ノ賃貸借ニ付テハ二十四時
右規定ハ動產ノ賃貸借ニ付キ默示ノ更新アリタル後ニモ亦之ヲ適用ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ別項ヲ右規定ハ默示ノ更新後ノ動產ト賃貸借ニ付テモ亦之ヲ適用ストシタシ
(元尾崎)
更新後ニト云フハ更新アリタル後ノトスベシ
結局報吿委員ノ修正ニ可決ス