旧民法・法例(明治23年)

法律取調委員会 民法草案議事筆記(要録)

参考原資料

備考

  • 未校正のテキストデータです.
第三編 財產ヲ得取スル方法
前置條例
第六百一條 既ニ前編ノ兩部ニ於テ記シタル物上及ヒ對人ノ權利ノ得取ノ原由ノ外右同一ノ權利ハ尙ホ本編ノ兩部ニ記スル如ク或ハ特定卽チ單一ノ名義或ハ一般卽チ包括ノ名義ヲ以テ之ヲ得取スル事ヲ得
包括名義ニテ得取スル者ハ其前主ノ總テノ權利ト共ニ其總テノ義務ヲ承繼ス但法律ニ記載シタル例外ヲ妨ケス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ特定ノ下「卽チ單一ノ」ノ五字竝ニ「一般卽チ」ノ四字ヲ刪リ「包括ノ名義」ヲ包括名義ト改ム單一義務ノ如キ紛ハシキヲ避ケンガ爲メナリ
(南部)
本條ハ冒頭ノ既ニ前編云々ヲ刪リ物上及ビ對人ノ權利ハ前編ノ兩部ニ於テ記シタル得取ノ原由ノ外トシテハ如何
(鶴田)
本編モ對人及ビ物權ノ兩部ヲモ包有スルヲ以テ右同一ノト云フ文字モ必要ナラズ
(栗塚)
物上及ビ對人ノ權利ハ前編ニ規定シタル原由ニ依リ得取スルノ外尙ホ本編ニ記スル如クトシテハ如何
可決ス
(栗塚)
前主ト云フハ先主其人ニ在テハト云フ先生ト同義ナルヲ以テ後チ反譯上ニテ先主ト修正スルヤモ知ルベカラズ
第一部 特定名義ニテ得取スルノ方法
第一章 先占
第六百二條 先占ハ無主ノ動產物ヲ所有スルノ意思ヲ以テ最先ノ占有ノ取得ニ因リ其動產物ノ所有權ヲ得取スルノ方法ナリ
(松岡)
占有ノ取得トアルモ占有ト云ヘバ既ニ明知スベキニアラズヤ
(南部)
取得ト云フ字ハ宜シカラズトスルモ單ニ占有ト云ヘバ繼續時間ヲモ要スベケレバナリ
(南部)
所有權ヲ得取スルノ上「動產物ノ」ト云フ四字ハ必要ナラズ
卽チ刪除ス
第六百三條 所有者カ禽獸ヲ放置シ又ハ飼養シタル圍障地内ニ於テ其許ナクシテ右ノ禽獸ヲ取リタル者ハ原物又ハ對價ヲ以テ之ヲ返還スル事ヲ要ス
私有ニ係リ且圍障アル池、湖又ハ水流ノ中ニ於テ魚類ヲ取リタル者ニ付テモ亦同シ
(栗塚)
本條ハ起案者ヨリ更ニ修正ス第一項ハ所有者ノ許可ヲ得ズシテ圍障アル所有地内ニテ狩獵スベキ禽獸ヲ取リ又ハ圍障ナキ所有地内ニテモ所有者ノ放置シ且ツ飼養シタリト知リタル狩獵スベキ禽獸ヲ取リタルモノハ現物云々ト修正シ二項ハ私有ニヲ私有ノトシ「係リ且圍障アル」ヲ刪リ付テモノ下「亦同シ」ヲ刪リ前同一ノトシテ且同一ノ區別ヲ適用スト修正シ又魚類ノ類ヲ刪ル事ト爲シ來レリ本條ノ意味ハ圍障アル所有地内ニテハ鶉雉ノ如キ外ヨリ飛來シタルモノヲモ狩取スルヲ得ズ又山林ノ如キ自己ノ所有地ヘハ圍障ヲ設ケントスルモ容易ナラザルニ付キ此地ノ如キハ之ヲ其所有者ノ放置シテ以テ飼養シタル事ヲ了知シ狩得シタルモノハ現物又ハ對價ヲ以テ返還スル事ヲ要スト云フニアリ
(松岡)
所有者ノ許可ヲ得ズシテ圍障地内ノ禽獸ヲ狩取シタルモノハ現物又ハ對價ヲ以テ之ヲ返還スレバ不都合ナキヤ
(栗塚)
此點ハ現物又ハ對價ヲ以テ返還スベキヲ規定シ所有者ノ許可ヲ得ズシテ猥リニ其地内ニ侵入シタルノ制裁ハ刑法ニ於テ規定アルベシ本條ハ無主ノ禽獸ヲ狩獵セントスルニハ猥リニ人ノ所有地内ヲ侵スベカラズト云フニアリ伊國法文ヲ參考セラレタシ
(尾崎)
無主卽チ野生ノ禽獸ヲ狩獵シタルモノノ方法ヲ規定スレバ可ナリ
(今村)
本條ハ前條ニ記載セル精神ニ過ギズ何ヲ以テ更ニ斯ニ明定セシヤ知ルベカラザルヲ以テ報吿委員ノ修正意見モアリシナレドモ到底其修正ヲ要セザルモノ否修正スベカラザルナリト思考ス且ツ他人ノ所有地内ニ於テ狩獵スルモノハ其所有者ノ故障ヲ受クルハ物權篇ニ規定アリ事實ハ右ノ場合多々ニシテ本條ノ場合ハ稀少ナルベシ何トナレバ圍障ナキ所有地内ニテハ所有者ノ放置シタルト飼養シタルトノ條件備具セザルベカラザレバナリ
(松岡)
本條ハ刪除シタシ
(今村)
狩獵權ハ佛國ノ昔ニ於テハ王權ナリシニ次來狩獵權ハ民權中ノ一部ナリト云フニナリシガ其民權ヲ使用スルニハ自己ノ所有地上ニアラザレバ爲スヲ得ザルナリ
(委員長)
所有者ノ咎責ヲ受ケタルトキハ狩獵者ノ得取スルヲ得ベキモノナリト云フ意味ニ修正スレバ可ナルベシ
(今村)
原物返還ハ所有地主ノ所有權アリト云フ譯ニアラズ處罰ノ爲メニスルノ意ナリ
(淸岡)
本條ハ刪除スルヲ要セズ修正シテ可ナリ
(尾崎)
無主ノ禽獸ハ何人モ之ヲ狩獵スルヲ得ベシ惟他人ノ所有地内ニ於テ狩獵スルハ許スベカラズト云フ譯ナルモ本條ハ詳了ニ失シテ弊害アリ
(村田)
原案ハ些少ノ修正ヲ加フレバ充分ナリ他ノ制限ニ關シテハ刑法中其制裁アルヲ以テナリ
(委員長)
圍障ナキ地ニ放置スルト飼養スルトノ如キハ殆ンド分別シ難シ爲メニ僅々營生ノ爲メ狩獵ヲ業トスル輩ノ迷惑ヲ被ルナラン故ニ圍障アル他人ノ所有地ヲ侵シタルモノノ制裁ヲ附スルノミニテ足レリ無主ノ禽獸ハ何人モ之ヲ狩獵スルヲ得ベキモノナレバ其對價ヲ償却シ原物ヲ還付スル理ナシ
(松岡)
他人ノ所有地ヲ侵シタルモノノ制裁ヲ附スルガ如キハ民法ノ關與スル所ニアラズ此點ハ未ダ地主ノ所有物タルニアラザレバ狩獵者ニ償却スルノ義務アルナシ
(南部)
所有物ニ對スル償却ニアラズ過怠ヲ罰スルモノナリ
(栗塚)
起案者ノ註示ニテハ無主ノ禽獸ニハ所有權ノ屬スル所ナシ之ヲ狩獵スル者卽チ所有者トナルト雖モ所有者ノ許可ナキトキハ之ヲ償了セザルベカラズト云ヘリ
(村田)
本條ノ場合ハ刑法第三百九十三條ニ於テ制裁アルニアラズヤ
(南部)
本條ハ地主ノ所有物ニアラザル事ハ認知セラレタシ
(村田)
準所有ノ如クナルベシ人ノ所有物ナレバ池中ノ魚ヲ取ルモ其竊盜タルヲ免レズ
(南部)
刑法第三百七十三條ニハ山林間三飼養スル禽獸ヲ云ヒシモノニアラズ
(村田)
人ノ詞養シ置ケルモノヲ狩獵スルヲ得ルモノニアラズ
(栗塚)
飼養ト云フモ自由ニ飛去ラルルモノナレバ籠中ニ飼養スルモノトハ異ナリ
(委員長)
自由ニ飛去サルル鳥類ハ自由ニ之ヲ保護スルヲ得ザルモノナレバ所有權ノ屬スルモノニアラズ
(淸岡)
所有者ノ圍障内ニアル禽獸ハ其他ノ所有者先占ノ權アルベシ
(松岡)
然レバ原案据置論者中モ其論據ニ差異アリ
(今村)
對價ヲ以テ云々ハ損害賠償トシテハ如何
(淸岡)
地主此禽獸ニ對シテ所有權アルヲ以テ損害賠償ト云フニナレバ本員ハ滿足ナリ
(委員長)
狩獵者之ヲ取得シタルトキ地主先占權ヲ有スルト云フニ至テハ奇妙ノ解釋ト云フベシ
(尾崎)
報吿委員ニテ明了ニ修正ヲ乞ヒタシ
卽チ其修正ニ附ス
第六百四條 狩獵並ニ捕漁ノ權利ノ行用及ヒ海上、河上竝ニ陸上ノ遺失物ノ得取ハ特別法ヲ以テ之ヲ規定ス
戰時ニ爲シタル略奪物及ヒ海上ノ搶掠物ニ付テモ亦同シ
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ海上ノ下ヘ又ハヲ河上ノ下ヘノ漂流物ノ四字ヲ挿入ス漂流物ト云ヘバ珊瑚樹ノ如キモ包含スベシ
(淸岡)
戰時ニ爲シタル略奪物ハ海上ニ於テスルモノカ
(松岡)
略奪物ニハ陸上ニ於テスル事モアルベシ
(栗塚)
略奪物搶掠物ハ萬國公法ニ困難ナル區別論アレバ此點ハ此儘ニ附シ置カレタシ
(淸岡)
戰時ニ爲シタル略奪物ノ如キハ捕漁ノ權ノ如キモノト同樣ニ記定スベキモノニアラズ
(栗塚)
此點ハ惟無主物ノ場合ヲ示シタルノミ
第六百五條 原所有者ノ抛棄シタリト主張セラレタル物ノ先占ニ付キ爭アルノ場合ニ於テハ任意ノ抛棄ノ證ハ先占ヲ利唱スル者ノ負擔タリ
(淸岡)
本條ハ原所有者一人ト拾得者二人トアリテ其二人ガ互ニ占有ヲ爭フモノノ如シ
(尾崎)
然ラズ
(鶴田)
家養犬ノ如キハ札ヲ附セザルベカラズ其札ナキトキハ任意ノ抛棄トナルベシ
(松岡)
主張セラレタルハ主張シタルト修正シテハ如何
可決ス
(鶴田)
證ハ負擔タリト云フ事アルカ
(栗塚)
賃借權ノ場合ニハ負擔ノ旨義ヲ生ゼリ
第六百六條 他人ノ物ノ中ニテ單ニ偶然ノ事ニ因テ發見シ所有者ノ知レサル埋藏物ノ所有權ハ其半ハ發見者ニ屬ス
埋藏物カ埋モレ又ハ隱レタル者ノ所有者ノ權利ハ下ノ附添ノ章ニ之ヲ規定ス
(栗塚)
本條第二項ハ金玉ヲ包入シタル物其物ノト云フ譯ナリ假令バ箱中ニ金圓存在シテ埋藏セル其箱ト云フ義ナリ
(松岡)
現行法ハ遺失物ハ必ズ所有主ニ返還セシメ之ヲ拾得者ニ頒與スルハ所有者ノ任意ナリトスルモ埋藏物ハ發見者ト共ニ折半セシメザルベカラズ
(鶴田)
隱レタル物ノ物ハ所在物ト云フ義ナリ西洋流ニテハ必ラズ地中ニ埋藏セザルモ埋藏ト云フ事アルモ支那流ノ字義ニ於テハ必ラズ地中ニ埋藏シタルモノニ限ルガ如シ
(委員長)
此點ハ埋藏物ガ埋メラレ又ハ隱サレタルト云ヘバ意義恰當ナルベシ假令バ此金錢ガ此箱ノ爲メニ埋メラレ又ハ隱サレタルモノト云フ譯ナレバナリ
(鶴田)
埋藏物ヲ埋藏シタル物ノトシテハ如何
(栗塚)
埋藏物ガ藏シタル物ノトスルカ埋藏物ガ埋モレ又ハ隱サレタル所ノ物トシテハ如何
(委員長)
埋藏物ガ埋モレ隱レタルト云ヘバ埋藏物ガ自ラ埋モレ隱レタルト云フ譯トナルニアラズヤ
遂ニ隱レタルノ下「所」ト云フ字ヲ加フルノ修正ニ決ス
第六百七條 埋藏物ノ原所有者ハ發見後三个年ノ期間内ニアラサレハ前記ノ付與ニ反シテ自己ノ權利ヲ利用スル事ヲ得ス
此期間ハ同時ニ埋藏物ノ發見セラレタル物ノ所有者タル者ニ對シテハ其發見ヲ知リタル後一个年ニ減縮セラル
然レトモ埋藏物ノ占有者カ惡意ナルトキハ通常ノ法定ノ時効ヲ適用ス
(栗塚)
本條第二項ハ報吿委員ニテ修正シ此期間ハ現所有者ガ同時ニ埋藏物ノ埋モレ又ハ隱レタル物ノ所有者タル者ニ於テハ其物ノ爲メニハ發見ヲ知リタル後一个年ニ之ヲ減縮スト修正ス本條第一項ハ甲者ノ所有物ヲ乙者ノ地内ニ於テ丙者之ヲ發見シタルトキヲ云ヒ第二項ハ甲者ノ所有地内ニテ乙者ガ甲者ノ所有物ヲ發見シタルトキヲ云フ
(尾崎)
自己ノ所有物ガ自己ノ地ニ埋藏シタル者ヲ他人發見シタルトキハ何故ニ期間短縮ナルカ
(栗塚)
自己ノ所有物ガ自己ノ地内ニ埋藏スルトキハ發見シ易キモノニシテ又擧證上ニモ便利ナルモ前項ハ之ニ反對スルノ事況アルヲ以テナリ
(淸岡)
同時ノ字ハ必要ナキニアラズヤ
(南部)
同時ノ二字ハ刪除シテ可ナリ
(栗塚)
同時ノ字ヲ刪レバ「共ニ」ト云フ字ヲ挿入シタシ
(委員長)
同時ト云フ字ヲ刪リ何ノ効用アルカ
(淸岡)
同時ト云フハ不用ナレバナリ
(委員長)
同時ニアラズ發見後所有者トナリシトキハ此權ヲ有セザルナリ
(南部)
前記ハ前條トシタシ
可決ス
第二章 附添
第六百八條 動產ト不動產トヲ問ハス一ノ物ノ所有者ハ其物ニ附從トシテ合シタル總テノモノヲ下ニ定メタル區別ニ從ヒ且償金ヲ以テ得取ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ「下ニ定メタル」ノ下ヲ償金ヲ以テ且ツ區別ニ從ヒ得取ストシ下ニ定メタルト云フハ償金ニモ關スルヲ明了ナラシメンガ爲メナリ
(尾崎)
報吿委員ノ修正ナキモ其意味ハ自ラ明ナリ
遂ニ其修正ハ否決セラル
(淸岡)
附添ト云フ字ハ妥當ナラズ
(南部)
附添ハ近時慣用語トナレリ
第一節 不動產ニ關スル附添
第六百九條 總テノ建築、植付及ヒ土地又ハ建物ノ上及ヒ下ニ爲シタル工作物ハ其何タルヲ問ハス右ノ土地及ヒ建物ノ所有者自費ニテ爲シタリト推定セラル但反對ノ證アルトキハ此限ニ在ラス
總テノ場合ニ於テ第三者ノ利益ニ於ケル名義又ハ時効アラサルトキハ右ノ工作物及ヒ建築ノ所有權ハ土地及ヒ建物ノ所有者ニ屬ス
植付ニ關スル場合ハ第六百十一條ニ之ヲ規定ス
(栗塚)
本條ハ冒頭ノ總テノ建築植付及ビノ文字ハ「下ニ爲シタル」ノ下ニ挿入スベキニ反譯上ノ誤ナリ又建物ノ上及ビ下ニ爲シタルト云フハ建物ノ上ニ植付スルニアラズ土地ノ上ニ建築シ建物ノ下ニ植付スルト云フ意味ナリ
第六百十條 若シ土地又ハ建物ノ所有者カ他人ニ屬スル材料ヲ以テ建築又ハ其他ノ工作ヲ爲シタルトキハ所有者カ惡意ナルトキト雖モ右工作物ヲ毀壞シテ其材料ヲ返付スル事ニ強要セラルル事ヲ得ス
又右ノ所有者ハ材料ノ屬スル本主ニ其取去ヲ強要スル事ヲ得ス
然レトモ右ノ所有者ハ第四百五條ニ從ヒ之ニ記載シタル區別ヲ以テ材料ノ所有者ニ賠償スベキノ言渡ヲ受ク
(南部)
本條「右工作物」トアルハ右ノ工作物ト云フベキニアラズヤ
(栗塚)
然リ本條ハ法律上ニテ罪人ヲ咎メズト云フ如キ不穩當ノ感アリ惡意ナリト雖モト云フハ法律ノ意甚毫膽ヲ極ムト云フベシ
(尾崎)
此點ハ惟工作物ヲ毀壞セラレザルヲ表示シタルモノナルベシ
(栗塚)
然リ
(松岡)
惡意者ノ建築シタル工作物ハ先取權アルカ
(栗塚)
先取權ナシ
(鶴田)
建築物ヲ抵當ニ附シタルニ其材料ヲ盜マレタル者ハ甚迷惑ナリ
(淸岡)
本條ハ涙ヲ振テ馬謖ヲ斬ルニ倣フベシ
(今村)
法律上惡意ヲ許スハ固ヨリ不可ナリト雖モ物體既ニ變形シタル以上ハ舊觀ヲ改メタルモノナリ刑法ニ於テモ金塊ヲ盜取シテ煙管ヲ作造シタルトキハ金塊ト云フハ滅失シ臓物ハ存在セザルモノトナルベシ支那律モ亦此ノ如シ羅馬法ニ於テモ亦然リトス
(尾崎)
惡意ナルトキト云ヘル文字ハ刪除シタシ
(松岡)
此點バ裁判官ノ判決ニ委任スベシ
(今村)
惡意ナリト雖モトアルヲ刪レバ裁判上ニテ惡意アルトキハ其工作物ヲ取毀タシムルヤモ知ルベカラズ
(栗塚)
佛國判決例ニテハ其工作物自ラ破壞シタルトキハ盜取シタル材料ハ元所有者ニ屬ス
(委員長)
起案者惡意ナリト雖モト云フヲ記示シタルハ經濟上ヲ虞リタルモノナルニ此字ヲ刪除シテ其意義ヲ失ハシメザルヲ得ルカ民法上ニテ之ヲ保護スルヲ得ルトスルモ刑法上ヨリ破毀セラルルヤモ知ルベカラズ
(南部)
如何ナルトキト雖モト修正シテハ如何
(今村)
用方ニ依ル不動產ノ如キハ之ヲ〓取スルニ差閊ヘナシ如何ナル場合ト雖モト云フハ餘リ汎漠ニ失スルニアラズヤ
(尾崎)
惡意ナリト雖モヲ刪除シタシ一夜立ニ造作シタル納屋ノ如キハ其材料ヲ返還スルモ可ナリ
(委員長)
本條ヲ刪除スルト云フ議論ナレバ格別ナリト雖モ惡意ナリト雖モト云フ字ノミヲ刪ルモ敢テ効驗ナカルベシ其文字ヲ刪リシトキ刑法上ニ於テ被害者ヨリ收還ヲ請求シタルトキハ裁判官ハ拒否スルヲ得ザルベキヲ以テ其材料ヲ返還スベキノ言渡ヲ受クルニ至ルベシ
(今村)
佛國法ニテハ動產ニ付テハ占有者ニ權利アリト云ヘリ日本民法ニ於テモ蓋シ然ルベキナラン
(栗塚)
他人ノ材料ト雖モ既ニ家屋ニ建築シタル以上ハ工作者ノ所有物ナルヲ以テ取還サルル事ナケレバ惡意ハ明示スルヲ要セラルベシ
結局所有者ガ惡意ナルトキト雖モノ數字ヲ刪除スルニ決ス
第六百十一條 他人ニ屬スル樹木、小樹木又ハ植物ノ植付ニ關シテハ其植付ヲ爲シタル土地ノ所有者又ハ占有者ハ其年内ニ於テ植付物ヲ拔取リ且之ヲ返還スル事ニ強要セラルル事ヲ得但損害アルトキハ之ヲ賠償スル事ヲ要ス
若シ右ノ樹木又ハ小樹木ノ所有者カ之ヲ引取ラサル事ヲ欲シ又ハ植付ノ時ヨリ一个年ヲ經過シタルトキハ其所有者ハ金圓ヲ以テ賠償セラル
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項「小樹木」ノ三字ヲ刪リ「其年内」ヲ「一年内」ト改ム第二項ハ「若シ」以下「欲シ」迄ヲ修正シテ若シ右ノ樹木ノ所有者カ之ヲ取戻ス事ヲ欲セズトス
(村田)
一年内ハ一个年内トスベシ
可決ス
(村田)
但損害アルトキハト云フハ樹木ノ所有者ヨリ地面ノ所有者ニ賠償セザルヲ得ズ
(南部)
強要セラルル者其賠償ヲ受クベシ
(松岡)
所有者又ハ占有者等ヨリ植付シタル占有者ニ賠償スルヲ得ト云フ意ナル如シ
(尾崎)
然リ植付アリシ占有者ハ栽培費用ヲ要シタル爲メ其賠償ヲ受クベキニアラズヤ
(松岡)
但ハ尙ホトスベシ
(南部)
強要セラルル事ヲ得トアルヲ強用セラレトスベシ
(淸岡)
強要セラルトスベシ
(栗塚)
然スルトキハ強要セラルル上尙ホト云フ意味ニナラズヤ
遂ニ強要セラル尙ホ損害アルトキハ之ヲ賠償スベシト修正ス
(南部)
二項ハ金圓ヲ以テ賠償セラルトアルハ賠償スベシトシタシ
可決ス
第六百十二條 取毀タルル爲メ建築物ヲ賣渡シ若クハ讓與シ又ハ拔取ラレ若クハ採伐セラルル爲メ樹木ヲ賣渡シ若クハ讓與シタル所有者又ハ占有者ハ工作物又ハ植付物ヲ保存スル爲メ買主若クハ受贈者ニ賠償シテ常ニ其取毀又ハ採伐ヲ停ムル事ヲ得
(栗塚)
本條ハ起案者更ラニ「取毀タルル」トアルヲ收去セラルルトシ建築物ノ下「ヲ」以下讓與シニ至ル迄及ビ又ハノ下「拔取」以下「採伐セラルル爲メ」ニ至ル迄ヲ刪除シ來レリ又讓與ハ贈與ノ誤リナリ
(尾崎)
收去セラルル爲メハ收去スル爲メトシテハ如何
可決ス
(栗塚)
收去スル爲メトハ取除ヲ欲スル爲メト云フ譯ナリ
(尾崎)
樹木ノ如キハ自己ノ庭前ニ植付ント欲スルモノナルニ賠償ヲ受ケテ其儘ニ附シ置カザルヲ得ザルトハ實ニ何ノ理由ナルヤ知ルベカラズ
(栗塚)
本條ハ經濟上ヨリ規定シタルモ刪除シテモ敢テ不都合ナカルベシ
(南部)
一旦賣却ニ附シタル物料ヲ設令賠償ヲ出ダセバ迚尙ホ賣者自己ノ所有地ニ存置シタシト云フハ不都合ニアラズヤ
(松岡)
本條ノ如キハ實ニ契約ノ自由ヲ害スト云フベシ
刪除ニ決ス
第六百十三條 他人ノ土地又ハ建物ノ善意ノ占有者ニシテ右ノ土地又ハ建物ニ於テ自己ノ材料、樹木又ハ小樹木ヲ以テ建築、工作又ハ植付ヲ爲シタル者ハ眞ノ所有者ヨリ不動產ノ回收ヲ請求セラルルニ當リ右ノ建築、工作又ハ植付ヲ取拂フノ責ニ任セス眞ノ所有者ハ其選擇ヲ以テ占有者ニ或ハ材料及ヒ手間ノ代價或ハ不動產ニ付キ生シタル增價ヲ辨濟ス
若シ建築者カ惡意ノ占有者タリシトキハ所有者ハ工作物及ヒ植付物ヲ除去シテ場所ヲ舊狀ニ復スル事ヲ之ニ強要シ且損害アルトキハ之ヲ賠償セシムル事ヲ得又所有者ハ上ニ記載シタル如ク占有者ニ賠償シテ右ノ工作物及ヒ植付物ヲ保存スル事ヲ得
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ樹木又ハ小樹木トアルヲ又ハ樹木トシ工作又ハ植付ヲトアル植付ノ下ニ物ノ字ヲ加ヘリ
(鶴田)
二項ハ若シ占有者ガ惡意ナリシトキハトシタシ
(栗塚)
若シ建築又ハ植付ヲ爲シタル者ガ惡意ノ占有者タリシトキハトシテハ如何
可決ス
(委員長)
此等ノ文例アリヤ
(栗塚)
第六百十一條ノ二項ニ其文例ヲ提出セリ
(南部)
該條モ又ハ植物ノ字ヲ挿入シタシ
可決ス
第六百十四條 寄洲卽チ舟又ハ筏ノ通スヘキト否トヲ問ハス水流ノ漸積地ヨリ生スル增加ハ沿岸所有者ニ屬ス
若シ漸積地カ水流ニ並行シ又ハ殆ト之ニ並行シテ數箇ノ沿岸地ニ生シタルトキハ所有者ノ各自ハ内部ニ於ケル所有地ノ廣狹ノ如何ニ拘ハラス水流ニ聯接シタル其土地ノ總テノ部分ニ付キ右ノ漸積地ヲ利ス
若シ之ニ反シテ漸積地カ水流ト角度ヲ成シ所有者ノ各自ニ沿岸者ノ分限ヲ保タシメテ之ニ歸スヘキ部分ヲ定ムル事難キトキハ其各所有者ハ派分スル事ヲ得スト認メラレタル漸積地ノ部分ニ付キ水流ノ舊狀ニテ其水流ニ接スル所有地ノ廣狹ノ割合ニ應シ不分共有者タリ
如何ナル場合ニ於テモ沿岸者ハ行政廳ノ許可ナクシテ前來存スル挽船路又ハ河岸徑ノ位地ヲ改樣シ又中間ノ漸積地ニ於テ船ノ牽挽又ハ通航ノ便用ヲ妨クル事有ルヘキ建築又ハ植付ヲ爲ス事ヲ得ス
(松岡)
本條二項ハ奧行ニ拘ハラズ間口ニ準ジテト云フ義ナルガ如シ
(栗塚)
寄洲ト云フハ增加地ノ分ヲ云フ
(栗塚)
第三項ノ廣狹ト云フ字ハ部分ト修正シタリ
(委員長)
新潟縣信濃川ニ斯樣ナル形狀ノ共有地アリテ其地ニ植付ルモノハ賣却シタル代價ニ付キ分配スルナリ
(尾崎)
河川ノ沿岸地ニ於テハ行政法ヲ以テ特別ニ規定スル事ト云ヘルヲ附記シテハ如何
(委員長)
沿岸者增加地ヲ得タルトキハ其保護法ヲモ規定セザルベカラズ前地役ノ場合ニハ此等ニ關スル規定アリ添附ノ場合ニハ其規定アラザルハ不都合ナリ
(栗塚)
其點ハ無論行政法ニ規定アルベシ
(南部)
河岸寄洲等ニ關スル法定ハ散示アルヲ以テ尙ホ關係ノ條項ニ交渉シテ議定シタシ
其議ニ定ス
第六百十五條 沿岸者ハ右同一ノ區別及ヒ條件ヲ以テ干潟卽チ舟又ハ筏ノ通スルト否トヲ問ハス河川ノ棄テタル川床ノ部分ヲ利ス
然レトモ川床カ沿岸者又ハ公有ニ屬スル水流ニ關シテハ漸次生シタル干潟ノ附添ハ舊川床ノ全幅員外ニ擴マリテ對岸ノ地ニ及ホス事ヲ得ス
此附添ノ權利ハ湖及ヒ池ニ關シテハ存立セス
又此附添ノ權利ハ海潟地ニ付テモ存立セス其海潟地ハ第二十六條ニ從ヒ國ニ屬ス
沿岸者ハ行政廳ノ行ヒタル堀割又ハ築提ノ工事ニ因テ露出シタル舟又ハ筏ノ通スル水流ノ岸地ノ部分ヲ利セス但行政法ニ定メタル條件ヲ以テスル沿岸者ノ先買權ヲ妨ケス
(南部)
本條ノ然レドモ川床ガ沿岸者ノ下ハ起案者更ニ修正シテ「ニ屬スル水流ニ關スルト公有ニ屬スル水流ニ關スルトヲ問ハス」云々トシタリ
(栗塚)
報吿委員ニテ舊川床ノ以下ハ全幅員外ニ擴マル事ヲ得ズト修正ス
(松岡)
干潟トハ如何
(栗塚)
水流退引シテ露出シタル所ヲ干潟ト云ヒ土地ノ增加ニ依テ生ジタルヲ寄洲ト稱ス
(委員長)
全幅員外ハ全幅員以下トスベシ
可決ス
第五百八十九條
本條ハ起案者其第三項ヲ刪除シ(舊)第五百九十一條ヲ本條ニ合併セリ
(委員長)
用收權ヲ廢スルノ說ハ各外國人等甚ダ之ヲ奇怪ナリトスルヲ以テ存置シタシ
(淸岡)
泰西流義ニ用收權ヲ存置セントスルモ用收權ノ如キハ實ニ雜駁ナリト云フベシ如此用收權ハ實ニ價値ナシト云フベシ
(委員長)
敢テ雜駁ナル用收權ト云フニアラズ且大修繕ノ負擔ト納稅ノ負擔ニ付キ起案者更ニ修正ヲ加ヘタルノミ又本邦ニテモ用收權ノ事實ナキニアラズトセバ其法規ナカルベカラズロエスレール氏云ヘリ用收權ナシト云フ說ヲ聞ケバ成ル程泰西ノ如キ用收權ハナカルベシ又用收權アリト云フ說ヲ聞ケバ其理由ナキニアラズ要スルニ其事實ノ存セザルニアラザルベケレバ若シボアソナード氏ノ起案ニ係ル用收權ヲ以テ之ヲ支配スルヲ得ザレバ此事實ハ之ヲ所有權中ニ插充スベシト云フニアリ然ルニ用收權ヲ有所權ニ挿入シタルトキハ所有權ニ段階ヲ置カザルベカラザルナリ
(尾崎)
先ヅ用收權ヲ置ク事トシテハ如何
(松岡)
用收權ハ親子ノ間或ハ夫婦ノ間ニ規定スルヲ以テ足レリ別ニ此ニ規定スルニ及ボサルベシ
(委員長)
然ルトキハ用收權ヲ認メザルニ至ルナラン然ルニ其事實生出シタルトキハ不都合ニアラズ
(淸岡)
用收權ハ法律ヲ以テ之ヲ許スニ及バザルベシ
(南部)
起案者ノ修正ハ舊案ヨリハ可ナリト雖モ租稅徵收ト大修繕ニ關スル點ヲ修正シタルニ止マリ爲メニ用收權ヲ存用スルノ必要ヲ見ザルナリ
結局用收權ハ存置スルニ決ス
第六百十六條 若シ河川ノ水ノ衝激カ植付ノ存スルト否トヲ問ハス沿岸地ノ一部分ヲ割去シテ下流ノ沿岸地又ハ對岸ニ轉送シ其何レノ所有地ノ部分タルヤヲ仍ホ認知スル事ヲ得ルトキハ占有ヲ失ヒタル所有者ハ變災ヨリ一ケ年内ニアラサレハ其回收ヲ請求スル事ヲ得ス又一ケ年後ニ於テハ沿岸者カ未タ右ノ土壞ヲ占有セサル間ニアラサレハ其回收ヲ請求スル事ヲ得ス其他所有者ハ自費ニテ泥土ヲ收去シ且收去ニ因テ加ヘタル損害ヲ補償スル事ヲ要ス
又所有者ハ總テノ時期ニ於テ押流サレタル土壞ノ回收ヲ爲スト其單純ナル抛棄ヲ爲ストノ間ニ其一ヲ撰ムヘキ事ニ付キ沿岸者ヨリ催吿セラルル事ヲ得
此條例ハ既ニ土地ヨリ離サレタルト否トヲ問ハス水ノ衝激ニ因テ押流サレタル樹木及ヒ收獲物ト建築ノ爲メ準備セラレ又ハ建物ヨリ離サレタル材料ト方位ノ如何ヲ問ハス洪水ニ因リ押流サレテ他人ノ土地ニ轉送セラレタル總テノ他ノ動產物トニ付キ右同一ノ條件ヲ以テ之ヲ適用ス但此等ノ物カ認知セラルル事ヲ得ヘク且漂流物ノ性質ヲ有セサル事ヲ要ス
(栗塚)
本條三項ハ反譯上ノ修正ニテ土地ヨリ離サレノ下又ハ離サレズシテ水ノ衝激云々トシ收獲物ト材料トハ何レモ「タル」ノ二字ヲ挿入シ洪水ニ因リノ上ニ其他總テノ動產タルトヲ問ハズ如何ナル方位ナルモト云フ數字ヲ加ヘ轉送トアルヲ轉徒トシ總テノ他ノ動產物ノ數字ヲ刪除シ轉徒セラレタルモノニ付トス又報吿委員ニテ第一項「植付ノ」ヲ「植付物ノ」トシ「其回收」ヲ「右ノ土壤ノ回收」トシ「右ノ土壤」ノ四字ヲ除去シ之ノ一字ヲ加フ又泥土ヲ其土ト改ム三項ハ此條例ヲ既ニ土地ヨリ離サン又ハ離サレ又ハ離サレズシテ水ノ衝激ニ因テ取去サレシ樹木及ビ收獲物タルト建築ノ爲メ建備セラレ又ハ建物ヨリ離サレシ材木タルト其他總テノ動產物タルトヲ問ハズ洪水ニ因リ如何ナル方位ナルモ押流サレテ他人ノ土地ニ轉徒シタルモノニ付キ右同一ノ條件ヲ以テ之ヲ適用ス但此等ノ物ハ認知スル事ヲ得ベク且漂流物ノ性質ヲ有セザル事ヲ要ストセリ
(淸岡)
一个年内ニアラザレバ右ノ土壤ノ回收ヲ請求スル事ヲ得ズ又一个年後ニ於テハノ文義明了ナラズ
(栗塚)
此點ハ一个年内カ又ハ一个年後ニ於テハノ意義ナリ之ヲ占有セザル間ニアラザレバトアルヲ修正シ之ヲ占有セザル間ノミ云々スルヲ得トス
(鶴田)
二項ノ沿岸者ヨリ催吿セラルル事ヲ得トアルヲ催吿セラルル事アリトスベシ
(栗塚)
此點ハ所有者ノ義務ヲ主トシタルニ依リ催吿セラルル事ヲ得トシタルモ報吿委員ニテ種々議論アリ其外ニモ尙ホ此例アレバ追テ一定ニ修正シタシ
(鶴田)
總テノ時期ト云フハ一年内ノ時期ヲ指ス如クナルニアラズヤ
(栗塚)
何時ニテモト云フ義ナリ
(渡)
何時ニテモトスベシ
本條ニ於ケル報吿委員ノ修正ハ可決セラル
第六百十七條 舟又ハ筏ノ通スル河川ノ川床ニ於テ成リタル大小ノ中洲ノ所有權ハ交通路トシテ定メタル水流ノ等級ニ從ヒ國「デパルトマン」又ハ「コンミユーヌ」ニ屬ス
舟モ筏モ通セサル水流中ニ成リタル小中洲ハ川床其モノノ如ク沿岸者ニ屬ス
兩側ノ沿岸者ノ權利ヲ定ムルニハ水流ノ中心ニ於テ縱線ヲ畫シ各沿岸者ハ自己ノ側ニ在ル小中洲又ハ其部分ヲ得取ス
若シ小中洲カ同側ノ二箇又ハ數箇ノ所有地ノ前面ニアルトキハ第六百十四條第二項ヲ適用ス
(栗塚)
本條國「デパルトマン」「コンミユーヌ」ト云フハ民法開會ノ當初ニ於テ無形人トシタルモ此所ハ國府縣又ハ町村ト修正シタリ現今内務省ニ於テ國府縣町村ヲバ無形人ト認メタルヲ以テナリ然ルニ市町村制度改革ノ後ハ如何ナル制定ニナルカ知ルベカラザルモ汎ク無形人ト云ヘバ公立學校ノ如キモ包含スベキヲ以テ更ニ府縣町村トシタリ最初公ノ無形人トシタルハ修正ノ過誤ナルヲ以テ尙ホ此點ニ關スル各所ノ再議ヲ仰ガントス市町村制度モ將サニ發布セントスルニ際シタルヲ以テ尙ホ其關係ヲ協議シテハ如何
(栗塚)
其點ハ他日改革スルモ容易ナルベシ
(淸岡)
水流ニ交通路トシテ定メタルモノアルカ
(委員長)
郵便線路ノ河川ニ沿屬シタルモノハ交通路トナレルモ此等ハ特別ニ定ムルモノアリ
(委員長)
國府縣又ハ町村ト云フハ市ヲ加フレバ充分ナルベシ
(栗塚)
其點ハ他日修正スベシ又河川ニ關スル所ハ内務省ニ間合セ實地ノ不都合ナキヤ否ヤヲモ究査スベシ
(松岡)
舟モ筏モ通ゼザルト云フハ舟筏ノ通セザルトスベシ
(鶴田)
舟モ筏モ通ゼザルト云フハ水淺少ニシテ舟筏ヲ通スル能ハザル所ナランカ
(栗塚)
然リ
第六百十八條 若シ第六百十六條ニ記載シタル如ク一箇ノ土地ヨリ割去セラレタル土地ノ部分ガ大小ノ中洲ノ形ニテ水流中ニ止着スルトキハ所有者ハ其存在スル場所ニ於テ之ヲ占領スル事ヲ得
然レトモ公有ノ部分ヲ爲ス水流ニ關シテハ國「デパルトマン」又ハ「コンミユーヌ」ハ漸積ノ中洲ノ所有權ニ付キ前條ニ爲シタル區別ニ從ヒ豫メ拂フヘキ正當ノ賠償ヲ以テ其讓渡ヲ要求スル事ヲ得
(栗塚)
本條モ報吿委員ニテ「デパルトマン」「コンミユーヌ」ヲ府縣又ハ町村ト修正セリ
(淸岡)
漸積ノ中洲ノ所有權ト云フハ如何
(栗塚)
個ハ突然ニ顯生シタル中洲ナリ其中洲モ前條ニアル漸積ニ生ジタル中洲ノ處分法ニ從フ
(委員長)
大小ノ中ノ形トアル形ノ字ハ穩當ナリヤ
此儘ニ附ス
第六百十九條 若シ舟又ハ筏ノ通スルト否トヲ問ハス水流カ新タニ支流ヲ成シ之カ爲メ沿岸地ノ全部又ハ一分ヲ中洲ノ形ニテ環繞スルニ至リタルトキハ右ノ土地ノ所有者ハ其所有權ヲ保存ス但前條ニ定メタル如キ所有權徵收ノ權利ヲ妨ケス
(委員長)
其所有權トアル其ハ川ヲ指ス如クナルニアラズヤ
(鶴田)
其川ヲ指スモノナラン
(淸岡)
貫流シタルトキハ其河水ニ所有權アルヲ示シタルナラン
(南部)
然ラズ其中洲ヲ指示セリ添付權ノ消失セザルヲ云フニアリ
(栗塚)
自己ノ地所流沒シテ水中ニ中洲ヲ生ジタルトキハ其所有者決シテ其所有權ヲ消滅セザルヲ云フニアリ
(淸岡)
所有權ノ徵收ノ權利ヲ妨ゲズトハ甚シキニアラズヤ
(栗塚)
公用土地買上規則ニ依リ徵收スルモノナリ
(鶴田)
若シ舟又ハ筏ノ通ズルト否トヲ問ハズト云フハ前條ハ舟筏ノ通ゼザルモノヲ云ヒタルニ本條ハ舟筏ノ通ズルモノヲモ包含セシメタル如クナルハ如何
(栗塚)
悉ク書ヲ信ズレバ書ナキニ若カズト云ヘル如ク決シテ舟筏ノ通ズル所ヲ云フタルニアラズヤ
第六百二十條 若シ二箇ノ土地ノ間ニ分界線ヲ成シ沿岸者ニ屬スル舟モ筏モ通セサル水流カ突然且全ク其水路ヲ變シタルトキハ棄テラレタル川床ノ所有權ハ沿岸者ニ屬シ第六百十七條ニ規定シタルハ小中洲ノ如ク之ヲ其沿岸者ノ間ニ派分ス
舟又ハ筏ノ通スル水流ニ關シテハ棄テラレタル川床ノ所有權ノ付與ハ第八章ニ之ヲ規定ス
(栗塚)
第八章ハ主トシテ六百三十七條ヲ指スベシ
(松岡)
棄テラレタル川床ハ置去リサレタル川床ナラン
(淸岡)
水流全ク變ゼザルモ川床ト云フニ妨ナシ
(栗塚)
少シク水流ヲ變ジタル爲メ棄テラレタル川床ハ之ヲ干潟ト云フ此場合ハ全ク水流ノ變轉シタルヲ云フ
第六百二十一條 私有池ノ魚類、鳩舎ノ鳩ニシテ計策ヲ以テ誘引セラレ又ハ停留モラレタル事無クシテ他ノ池又ハ鳩舎ニ移リタルモノハ同一ノモノナリトノ證明ヲ以テ一週日内ニ求メラレサルトキハ其栖止シタル土地ノ所有者ニ屬ス
群ヲ爲シテ隣地ニ飛轉シタル蜜蜂ニ關シテハ一週日間之ヲ追躡シ且之ヲ求ムル事ヲ得然レトモ隣人カ之ヲ取得シテ停留シタルトキハ此權利ハ三日ノ後ニ止ム
本性野生ナルモ飼馴サレテ逃ケ易キ禽獸ニ關シテハ善意ニテ之ヲ飼置キタル者ニ對シ一个月間其回收權ヲ行フ事ヲ得
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第二項飛轉ヲ移轉トシ追躡シ且ツ之ヲ求ムル事ヲ得トアルヲ追求スル事ヲ得ト改ム追躡ノ字ハ始終追索シタリシ如クナルヲ以テナリ又三項ハ飼養サレタルモ本性野生ニシテ逃レ易キ禽獸ニ關シテハ善意ニテ之ヲ停留シタル者ニ對シ一ケ月間其回收權ヲ行フト修正ス
(松岡)
家禽ノ如キヲモ包含スルヤ
(南部)
家禽ノ如キハ動產ノ時効ニ依ルベシ
(委員長)
一週間ト云ヒ又ハ三日トカ云ヘルハ佛蘭西法ニ依リシカ
(栗塚)
然ラズ
(鶴田)
日限ハ置カザルヲ可トス
(委員長)
本條アル以上ハ日限ヲ要スベシ
(渡)
二項ノ然レドモ以下ハ刪除スベシ何トナレバ以上ノ意味ニ牴觸スレバナリ
可決ス
(渡)
隣地ト云フハ他ノ地ニト修正シタシ
(淸岡)
「他ニ」トスベシ
可決ス
(松岡)
鳩舎中ノ鳩ノ如キハ用方ノ不動產中ニ於テモ刪除サレタルヲ以テ本條ハ刪除シテハ如何
(尾崎)
刪除セザルモ可ナルベシ
(鶴田)
刪除スベシ
(栗塚)
曩ニ鳩舎中ノ鳩ノ如キヲ刪除シタルハ左程ノ功用ナキニ却テ人ヲシテ民法ヲ非難スル奇貨タラシムルヲ得ベキニ由リシナリ本條モ刪除セラレテハ如何
(淸岡)
此點ヲ存置シ民法ノ一般ヲ嘲弄セシムル端緒トナルハ不可ナリ
(委員長)
此點ヲ刪ルトキハ鳩舎中ノ鳩ノ如キハ如何ナルカ
(栗塚)
動產ノ部ニ於テ處分スルヲ得ベシ
(委員長)
泰西ノ法律ニハ羅馬法ノ主義ニ從ヒ此等ノ物ヲモ規定シタルニ獨リ日本民法ヨリ除斥スルハ不可ナリ或ハ民法ヲ愚弄スルモノアレバ編纂ノ順序ニ付キ可否スルモノアルヲ此等ノ如キハ決シテ愚弄スベキ奇貨トナルモノニアラザルベシ
(松岡)
此點ハ動產ト認ムルニ依リ不用トスルカ或ハ存置セシムルハ不可ナリトシテ刪除スルカ將タ記示スルヲ要セザルカト云フニアリ
(委員長)
之ヲ記示セザルハ不可ナリ日本ハ天蠶ノ如キ最モ重要ナルモノアルヲ以テ此ノ規定アラザレバ類推スルヲ得ザレバナリ尙ホ他ノ法律ヲ詳調シテ決スベシ
第二節 動產ニ關スル附添
第六百二十二條 異別ノ所有者ニ屬スル二箇又ハ數箇ノ動產物カ所有者ノ意ニ因ルニ非スシテ第三者ニ因テ併セラレ且其何レノ物ニ付テモ著シキ損壞又ハ減價ナクシテ容易ニ分タレ得ルトキハ所有者ノ各自ハ其分離ヲ請求スル事ヲ得但賠償スベキトキハ附合ヲ爲シタル者其賠償ヲ負擔ス
物ノ附合前ノ改樣又ハ變化ハ之ヲ損壞ト看做ス事ヲ得
(栗塚)
本條一項ハ其賠償ノ三字ヲ刪除シ之ノ一字ヲ挿入シ二項ハ物ノ附合ノ下前ノ字ヲ刪除シテ附合ノ爲メニ爲シタル物ト修正ス前項ハ取毀ツベキトキモ損壞アレバ然カスルヲ得ズ二項ハ附合スルトキハニ損壞アルモ亦タ然ルヲ得ズト云フ意味ヲ示シタリ
(村田)
本條ハ假令バ職人ニシテ注文セザル他人ノ木材ヲ誤テ此ノ造作ノ用ニ供シタル如キ場合ニ適用サルベシ
(栗塚)
變化ノ字ハ或ハ反譯上變質ノ誤ニアラザルカト思考スルニ付キ爾後或ハ修正ヲ施スベシ
第六百二十三條 若シ二箇ノ物カ分タレ得ス又ハ著シキ損壞若クハ減價ヲ以テシ又ハ過分ノ費用若クハ遲延ヲ以テスルニアラサレハ分タレ得サルトキハ何レノ所有者モ離分ヲ請求スル事ヲ得スシテ物ハ全部ニ付キ主タル物ノ所有者ニ留屬ス但主タル物ノ所有者ハ從タル物ノ所有者ニ損害ヲ被ラシメテ己レヲ利シタル限度ニ於テ之ニ對シ賠償ヲ負擔ス
他ノ物ノ便益、裝飾又ハ補充ノ爲メニ併セラレタル物ハ之ヲ附從タル物ト看做ス若シ此點ニ付キ二箇ノ物カ同性質ナルトキハ從タル物ハ價格ノ少ナキ物タリ
其他ノ場合ニ於テハ各物ノ他物ニ對シ主タリ又ハ從タルノ性質ハ裁判所ノ査定ニ委ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ「請求スルヲ得ス」ノ下「シテ」ノ二字ヲ刪除シ且ツト云フ字ヲ挿入シ「物ハ全部ニ付キ」トアル「ニ付キ」ノ三字ヲ除去シタリ此點ハ物ハ殘ラズ主タル物ノ所有者ニ留屬スト云ヘル義ナリ
(松岡)
全部ニ付キト云フヲ可トス報吿委員ノ修正ハ否決セラル
(栗塚)
尙ホ報吿委員ニテ但ノ下主タル物ノトアルヲ刪リ其ノ字ヲ挿入シ二項ハ此點ニ付キトアルヲ主從ノ區別ノ點ニ付キト修正セリ
(淸岡)
「點」ノ字ヲ刪ルベシ
(栗塚)
點ノ字ハ除クモ可ナリ刪除ニ決ス
(淸岡)
附從ノ附ヲ刪ルベシ
(栗塚)
從タルモノトシテ可ナリ「附」ノ字ヲ刪ルニ決ス
(栗塚)
二箇ノ物ガ同性質ナルトキハト云フハ二個共ニ主タルモノト看得ベキトキノ區別ヲ云フナリ
(淸岡)
假令バ二箇同ジク金屬ナレバ其中價額ノ低少ナルモノヲ以テ從トスベシ
(南部)
然ラズ裝飾又ハ補充シタルモノヲ從トシ裝飾又ハ補充セラレタルモノハ主トス其主從ノ間ニ附テ區別スル場合ヲ云フ
(淸岡)
然ラバ同性質ト云フハ主從ノ性質ナルカ
(南部)
然リ
(渡)
同性質ノ三字ヲ刪除シテハ如何
(松岡)
主從ノ區別ニ付キ疑ヒアルトキハトスベシ結局疑ヒアルトキハ價額ノ少ナキ物ヲ以テ從タル物トストセリ
(松岡)
假令バ三圓ノ〓袋ニ二十圓ノ金飾ヲ附シタルトキハ〓袋ガ主ニシテ金具ハ從タルカ
(栗塚)
然ルベシ又指環ニ金剛石ヲ篏メタルトキハ金剛石ガ主ニシテ指環ガ從タルノ說アリ
(南部)
其區別ハ裁判官ニ附セザルベカラズ
第六百二十四條 若シ附合カ主タル物ノ所有者ノ過愆又ハ詭譎ニ因テ生シ前記ノ規則ニ從ヒ其離分ヲ爲スヘカラサルトキハ從タル物ノ所有者ノ賠償ハ第三百九十條及ヒ第四百五條ニ記載シタル如クニ査定シタル損害ニ準シテ之ヲ定ム
若シ從タル物ノ所有者カ附合ヲ爲シタル者ナルトキハ他ノ所有者ノ利益ノ限度ニ於テノミ自己ノ損失ニ付キ賠償ヲ受ク
(栗塚)
本條一項ノ所有者ノ賠償ト云フハ所有者ヨリ賠償スルト云フ意味ノ如クナルヲ以テ報吿委員ニテ「受クヘキ」ノ四字ヲ挿入シ又二項ハ所有者ノ利益トアル上ニ「自己ノ損失ニ付テハ主タル」ト云ヘル數字ヲ加ヘ「賠償ヲ受ク」トアル上ノ「自己ノ損失ニ付キ」ノ數字ヲ刪除セリ
可決ス
第六百二十五條 物カ不都合ナクシテ分タレ得サル右同一ノ場合ニ於テ若シ何レノ物モ或ハ其本性ニ因リ或ハ其品質又ハ價格ニ因リ他ノ物ニ對シ之ヲ主タルモノト看做ス事ヲ得サルトキハ附合ニ因テ成リタル物ハ平等ノ部分ニテ各所有者ノ間ニ共有タリ但過愆アリ又ハ惡意アル者ヨリ賠償ヲ受クルヲ妨ケス
(松岡)
本條ハ不都合ナル條項ト云フベシ
(栗塚)
報吿委員モ之ヲ極端ニ論ズレバ盜取者ト共有タラザルヲ得ザルモノナリト云フニアリテ不都合ト視認セリ
(松岡)
平等ト云フハ如何
(栗塚)
割合ニシテ權利ノ平等ヲ云フ
(松岡)
極點ノ際ニ於テハ共有ニスベシト云フハ不可ナリ
(尾崎)
倒底物ヲ甄別スルヲ得ザルトキハ双方ノ共有ニ屬セシムルト云フハ無理ニ裁判スルモノニアラザルヲ以テ穩當トス
(淸岡)
不都合ト云フ字ハ委當ナラズ不都合ノ意味ハ同ジカラザルモノアレバナリ
(南部)
不都合ノ字ハ可ナリ
第六百二十六條 右同一ノ規則ハ異別ノ所有者ニ屬スル流動物、固形物又ハ金屬ノ混和卽チ混同ニ右同一ノ區別ヲ以テ之ヲ適用ス
然レトモ離分スル事ヲ得サル物料カ同一ノ本性及ヒ品質ナルニ因リ利害ノ關係アル者ノ間ニ共有ト爲ルヘキトキハ各自ノ權利ハ混和物中ニテ己レヨリ出テタルモノノ數量ノ割合ニ應ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ冒頭右同一ノ文字ヲ前數條ト修正シ混和ノ下右同一ノトアル所ハ混同ニモ亦同一ト修正ス
(淸岡)
異別ノ所有者トアル異別ノ文字ハ明示セサルモ知ルヘシ
異別ノ原案ノ儘ニ決ス
第六百二十七條 附合又ハ混和カ所有者ノ一人ノ所爲ヨリ生スル場合ニ於テハ他ノ所有者ハ自己ノ物ノ優等ヨリ己レノ爲メ生スヘキ專屬ノ所有權ヲモ又物ノ重要及ヒ其互相ノ價格カ平等ナル事ニ基キタル不分ノ共有權ヲモ受諾スルノ責ナシ此場合ニ於テ他ノ所有者ハ附添ヲ爲シタル者カ現物ニテ右ニ等シキ數量及ヒ品質ノ物又ハ金圓ニテ其價額ヲ己レニ供スル事ヲ要求スル事ヲ得
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ此場合ノ上ニ卽チノ二字ヲ挿入シ附添ヲ爲シタル者カトアルヲ附添ヲ爲シタル者ヨリトシ其價額ノ額ヲ除去シ己レニ供スル事ヲ要求スル事ヲ得ト云フハ供セシムル事ヲ得ト修正セシ
(淸岡)
所有者ノ一人ノ所爲ヨリ生スルト云ヘバ共同行爲ニ出デタルヤモ知ルベカラザルニアラズヤ
(栗塚)
個ハ惟相手方ノ行爲ヲ指シタルモノニシテ立言ノ趣向ヲ異ニスレバナリ
第六百二十八條 若シ或人カ他人ノ物料ニ以テ新ナル種類又ハ新ナル用方ノ物ヲ作リタルトキハ物料ノ所有者ハ手間代又ハ其手間ヨリ物料ニ生スル增價額ヲ拂フテ右ノ物ノ所有權ヲ要求スル事ヲ得
然レトモ若シ手間ノ價格カ著シク物料ノ價格ヲ超ユルトキハ新ナル物ノ所有權ハ製作者ニ屬ス但製作者ハ物料ハ所有者ニ賠償スル事ヲ要ス
若シ製作者カ同時ニ物料ノ一分ヲ供シタルトキハ其物料ノ價格ハ優先權ヲ定ムル爲メ手間ノ價格ニ之ヲ附加ス
所有者ノ承諾ナクシテ物料ヲ用ヒタルトキハ其所有者ハ常ニ己レニ屬スル優先權ヲ抛棄シテ品質及ヒ數量ニテ自己ノ物料ニ等シキ物料又ハ金圓ニテ其價額ヲ請求スル事ヲ得
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ其一項ノ新ナル一種類又ハト云ヘルヲ一種ノ物卽チトシ手間代又ハトアルヲ手間代卽チト修正セリ
可決ス
第六百二十九條 若シ附合、混和又ハ製作カ利害ノ關係アル所有者ノ明示又ハ默示ノ承諾ヲ以テ成ルトキハ所有權ハ合意ニ從ヒテ之ヲ定ム疑アルトキハ離分カ容易ニシテ且著シキ不都合ナキトキト雖モ其離分ヲ請求スル事ヲ得スシテ優先權又ハ共有權ニ關スル前記ノ條例ヲ適用ス
(栗塚)
本條モ報吿委員ニテ之ヲ修正シ疑ヒアルトキハトアルヲ疑ヒアルニ於テハトシ優先權ノ上「シテ」ノ二字ヲ刪除シ且ツノ二字ヲ挿入セリ
(委員長)
所有權ハ既ニ明示默示ヲ以テ之ヲ定メタリトスレバ別ニ疑點アル義ナシ
(松岡)
合意ニ疑ヒアル場合ヲ指シタルナラン
(栗塚)
定ムルニ付キ疑ヒアルトキヲ云フナリ
(委員長)
然ラバ但ノ字ヲ加フベシ
此儘ニ附ス
第六百三十條 前數條ニ定メサル動產物附添ノ場合ニ於テハ裁判所ハ前數條ニ定メタル場合トノ類例ヲ援引スヘキトキハ之ヲ援引シ且天然公平ノ原則ニ基キテ所有權及ヒ賠償ノ問題ヲ規定ス
(栗塚)
天然公平ノ原則ト云フハ如何ナル義カト云ヘルヲ起案者ニ質問シタルニ起案者ハ天然公義ト修正シ來レリ報吿委員ニテハ公義ト云ヘバ天然ノ意味ヲ有セザルモノナキヲ以テ公義トシタキ意見ナリ
(松岡)
前數條ニ定メタル場合トノ類例ト云ヘルハ如何
(栗塚)
前數條ニ定メナキ場合顯出シタルトキハ又前條ノ類例ヲ以テ處分スベキヲ云ヒシナリ
(松岡)
「ト」ノ字ヲ刪除シタシ卽チ刪除ス
(委員長)
援引スベキトキハト云ヘバ必ラズ援引スルト云フ義ナルニアラズヤ
(南部)
然ラズ
(渡)
「トキ」ノ字ヲ刪除シテハ如何
可決ス
(栗塚)
問題ヲ規定ストアルハ問題ヲ決ストスベシ
(松岡)
問題ト云フ字ハ不可ナリ
(淸岡)
支那文ナレバ案件ト云フベキナリ
(委員長)
問題ノ字ハ尙ホ論究シ呈出スベシ
(淸岡)
天然ノ字ハ存置シテハ如何
(栗塚)
人定ニアラザルト云フ點ヲ表示スルヲ以テ存置スルモ可ナルベシ
第六百三十一條 第六百六條ニ從ヒ發見者ニ附與セラレサル埋藏物ノ部分ハ附添權ニ因リ其埋藏物ノ埋モレ又ハ隱レタル動產物又ハ不動產物ノ所有者ニ屬ス
若シ意外ノ發見カ其動產物又ハ不動產物ノ所有者自身ニ因テ爲サレタルトキハ埋藏物ハ一半ハ先占ニ因リ他ノ一半ハ附添ニ因リ全部其所有者ニ屬ス
所有者ニ因リ又ハ其命令ニ因リ又ハ其命令ナキ第三者ニ因テモ特ニ爲サレタル搜索ノ効力ニ因リ發見セラレタル埋藏物ハ附添ヲ以テ全部所有者ニ屬ス
原所有者ノ回收ニ對シ埋藏物ノ發見者ノ爲メ第六百七條ヲ以テ定メタル時効ハ此ニ之ヲ適用ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項隱レタルノ下ニ修正例ニ依リ「所ノ」二字ヲ挿入シ第二項ハ若シノ下「意外ノ發見カ」ノ數字ヲ刪除シ自身ニノ下因テ爲サレトアル數字ヲ「テ意外ニ發見シ」ト修正セリ
(淸岡)
一半ハ先占ニ因リ他ノ一半ハ附添ニ因リト云フハ行政上妥當ナラズ
(栗塚)
個ハ先占ト附添トニ因リ所有者ニ屬スル旨ヲ定メタリ
(淸岡)
自己ノ土地ニテ自ラ之ヲ發見シタルトキハ先占ト附添ニ因リ全部其所有者ニ屬スト云フハ可ナルモ一半ト云フ其區分ヲ附スルハ不可ナリ
(南部)
個ハ自己ノ所有物ノ埋藏シタルニアラズ他人ノ所有物ノ自己ノ地面ニ埋藏サレタルモノヲ自ラ發見シタルモノナレバ一半ハ先占ニ因リ他ノ一半ハ附添ニ因テ得ラルルモノナラザルベカラズ
(松岡)
一半ト云フ其區別ヲ附シタルハボアソナード氏ガ得意ノ講釋ニ屬スルモノナリ
(鶴田)
原所有者ト云フハ埋藏物其モノノ所有者ヲ云フカ
(南部)
然リ
(鶴田)
原所有者ハ發見者ニ讓ラズ其埋藏物ヲ回收スルノ權利アルカ
(委員長)
第六百七條ニ依リ回收スルヲ得ベシ
(松岡)
第三者ニ因テモト云フハ如何
(村田)
第三者ハ其囑託ヲ受ケザルモ嘗テ個ノ話趣ヲ承知シタルニ依リ其搜索ヲ爲シタルモノナリ
(淸岡)
特ニ爲サレタルハ特ニ爲シタルトスベシ
(松岡)
發見セラレタルトアルモ發見シタルトスベシ
可決ス
(鶴田)
第六百七條ハ無主ノ者ノ時効ヲ擧ゲ原所有者ノ時効ヲ示シタルニ地所ハ所有者ノ時効ヲ示ササルハ如何
(栗塚)
其時効ハ擧示スルニ及バズ通常ノ時効ニ依ルモノナレバナリ
第三章 善意ナル占有者ノ果實ノ收取
第六百三十二條 善意ナル占有者ノ天然及ヒ法定ノ果實ノ得取ハ第二百六條ヲ以テ之ヲ規定ス
(栗塚)
第二百六條ハ占有ノ場所ヲ指スモノナリ以上得取ノ點ヲ述ベ來リシニ依リ一回經過セシ占有ニ關シテモ其要點ヲ略示セザルベカラズ
第四章 引渡
第六百三十三條 種別及ヒ數量ノミヲ以テ定メテ各個ニ卽チ特定物トシテ定メラレサル物ノ占有權ハ第三百五十二條及ヒ第四百七十六條ニ從ヒ其物ノ屬スル者ニ因リ又ハ其名ヲ以テ爲サレタル引渡ニ因テ移轉ス引渡ナキトキハ當事者互ニ立會ノ上ニテ物ヲ指定スルヲ以テ足ル
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ種別トアルヲ種類トシ各個ノ上「メ」ノ字及ビ且ノ字ヲ刪除シ各個ニノ下ニ定メズト云ヘルヲ挿入シ定メラレザルヲ定メザルトシ其物ノ屬スル者ニ因リトアルヲ其物ノ屬スル者ヨリトシ其名ヲ以テ爲サレタルトアルヲ其名ニテ爲シタルト修正シ引渡ナキトキハ以下ハ別項ニ提ゲタリ
(松岡)
甘六名ニテト云フ修正ハ其名ヲ以テノ原案ニセラレタシ
(栗塚)
可ナリ
(淸岡)
且ツ各個ニ定メズ云々ハ旨義明了ナラズ
(松岡)
數量物ノミヲ以テ定メタル物ノ所有權トスベシ
可決ス
第五章 公用ニ因由スル所有權徵收ヲ爲ス裁判上又ハ行政上ノ所爲
第六百三十四條 公用ニ因由スル所有權徵收ニ服シタル財產ノ熟議ノ讓渡ナキトキハ所有權徵收ヲ宣吿スル裁判上又ハ行政上ノ所爲ハ其所爲ヲ以テ定メタル負擔及ヒ條件ヲ以テ國「デパルトマン」又ハ「コンミユーヌ」ハ是等ノ者ノ權利ノ特別讓受人ニ右財產ノ所有權ヲ移轉ス但總テ此法律ノ第三十二條竝ニ第三百六十八條第五號ノ條例及ヒ所有權徵收ニ關スル特別法ニ從フ事ヲ要ス
(栗塚)
本條「デパルトマン」「コンミユーヌ」ハ例ニ依リ報吿委員ニテ府縣町村ト修正シ又ハノ字ハ町村ノ下ニ置カザレバ文義明了ナラズ故ニ府縣町村又ハトセリ
(村田)
行政上ノ所爲ト云フハ英文ニテハ命令トアリ如何
(栗塚)
原語ハ「アクト」ニシテ證書ノ意ナリ要スルニ裁判上及ビ行政上ノ決議ト云フガ如シ
(委員長)
命令ト云フ字ニスレバ原文ノ意味ニ適合セズ
(栗塚)
宣吿スル裁判又ハ行政ノ決議トシテハ如何
(渡)
行政ノ決議ト云フハ適當ナラズ
(南部)
證書ハ所有權ヲ移轉スト云フヲ得ザルナリ
(委員長)
個ハ證書トスルカ決議トスルカ兎モ角日本文ニテハ所有ト云フヲ得ザルナリト云フヲ起案者ニ質問シテハ如何
(栗塚)
然カスベシ
第六章 公賣競落
第六百三十五條 裁判外ノ民事訴訟ニ關スル法律ニ從ヒ動產又ハ不動產ノ差押ニ付キ裁判上ニテ宣吿セラレタル競落ハ競落證書ニ記載シタル負擔及ヒ條件ヲ以テ其競落サレタル財產ノ所有權ヲ競落人ニ移轉ス
法律ノ命シ又ハ許シタル諸種ノ場合ニ於ケル他ノ公賣競落ニ付テモ亦同シ
(栗塚)
本條ハ裁判外ノ民事訴訟トアルヲ報吿委員ニテ無訟手續ト修正セリ
(委員長)
松岡委員ハ非訴訟トスベシト云ヒシ事アリシニ其當否如何
(栗塚)
佛國ニハ二種ノ稱謂アリ一ヲ穩カナル訟ト云ヒ二ヲ裁判外ノ民事訴訟トモ云フ
(鶴田)
競落ハ落札人ト云フト同ジナルベシ
(栗塚)
落札ノ語ハ不可ナリ
(淸岡)
競買トシテハ如何
(南部)
競落ノ文字ハ既ニ商法ニ於テ認了シタルニアラズヤ
(淸岡)
本條ハ二項ノ旨義ヲ初項ニ置クヲ當然トスルニアラズヤ
(栗塚)
個ハ稅關ニ於テ脫稅者ノ品類ヲ押收シ之ヲ公賣スル如キニモ適用スルモノナレバナリ
(淸岡)
無訟手續ニ關スル法律ニ從ヒト云フモ原被交論アルトキニハ無訟手續ニアラズ無訟手續トハ裁判スベキ訴訟ニアラザルモノヲ云フナリ
第七章 特別ノ沒收
第六百三十六條 刑法ノ條例ニ憑リ特別ノ沒收ヲ爲ス判決書ハ國「デパルトマン」「コンミユーヌ」又ハ特ニ行政ノ法律及ヒ規則ヲ以テ指定シタル公ノ建設所ニ沒收セラレタル物ノ所有權ヲ移轉ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ判決書トアル書ノ字ヲ刪リ「デパルトマン」「コンミユーヌ」ハ府縣町村トセリ
(村田)
本條ハ行政ノ法律及ビ規則ヲ以テ指定シタルト云フハ公ノ建設所ノミナラズ國府縣ニモ及ブベキニアラズヤ英文ニテハ其意義ニアリ
(栗塚)
公ノ建設所ハ特別ニ行政法ヲ以テ指定セザレバ公立ノ學舎ニシテ行政法ノ規定ヲ待タズ沒收セラルルニ至テハ不當ナルベシ國、府縣ノ如キニ沒收權アル事ハ固ヨリ行政法ニ於テ指定スベキナレドモ尙ホ且ツ公ノ建設所ト雖モ行政法ヲ以テ指定シタル公ノ建設所ハ沒收ノ權アリト云フ義ナリ
(松岡)
本員ハ村田委員ノ說ヲ贊成スベシ
(鶴田)
個ハ起案者ニ質問セラレタシ
(村田)
沒收ハ町村ニ迄及ブベキモノニアラズ
(委員長)
個ハ沒收ノ方法ヲ明示シタルニアラズ沒收ノ及ブ所ヲ云フタルナルベシ
(松岡)
此疑團ハ質問シタシ
其議ニ決ス
第八章 法律ニ因ル直接ノ付與
第六百三十七條 若シ舟又ハ筏ノ通スル河川カ其川床ヲ棄テテ新川床ヲ作ルトキハ全部又ハ一分ニ付キ新ニ浸沒セラレタル土地ノ所有者ハ其失ヒタルモノノ割合ヲ以テ各賠償ノ名義ヲ以テ棄テラレタル川床ヲ得取ス但舊川床ノ面積カ一層廣キトキト雖モ亦同シ
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ全部又ハ一分ニ付キ新ニトアルヲ刪リ棄テラレタル川床ト云ヘルヲ棄テラレタル舊川床トシ其川床ノ下ニ「ノ全部又ハ一部」ノ字ヲ挿入セリ
(南部)
冒頭若シノ文字ハ刪リタシ
可決ス
(淸岡)
舊川床ノ面積ガ一層廣キトキト云フハ浸沒セラレタル所有者ハ其浸沒セラレタル土地一反ナルモ舊川床二反ナリセバ其二反ヲ得取スルト云フハ甚シキニアラズヤ
(栗塚)
浸沒土地ノ所有者ハ非常ノ迷惑ニ被ルベケレバ其賠償ニ充ツルモノナレバナリ
(松岡)
本條ノ如クセバ沿岸者ノ利益ニ歸スベキ部分ヲ失ハシムルニアラズヤ
(栗塚)
舟筏ノ通ゼザル川流ハ沿岸者ノ所有ニ屬スベキモ舟筏ノ通スル河川ハ國ニ屬スルモノナリ
(委員長)
尙ホ此點ハ内務省ニモ間合スベシ又浸沒ノ上ニアル新ノ字ハ存スルヲ可トス
卽チ新ニノ二字ヲ存置ス
第六百三十八條 右ノ外法律ノ直接ノ効力ニ因リ所有權、用收權、地役、抵當及ヒ物上竝ニ對人ノ其他ノ權利ヲ得取スル場合ハ其關係アル事項ニ之ヲ規定ス
(栗塚)
本條ハ第二百二十八條乃至二百八十五條ヲ參觀セラルベシ
第九章 特定名義ノ贈遺
第六百三十九條 何人タリトモ無償名義ノ合意ヲ以テ處分スル事ヲ得ル財產ハ其死亡ノ時ノ爲メ贈遺卽チ遺囑處分ヲ以テ無償ニテ之ヲ處分スル事ヲ得
(鶴田)
贈遺ト云フハ死亡後ニ屬スルカ
(栗塚)
然リ生存者間及ビ死亡後ニ關スルモノヲ別タンガ爲メ贈遺トセリ
第六百四十條 遺囑ノ方式、遺囑スルニ付キ要セラレタル能力、或ル相續人ノ爲メ留保スヘキ財產ノ部分、贈遺ノ廢罷及ヒ無効ニ關スル規則ハ此編ノ第二部第五章ノ目的タル包括名義ノ遺囑贈與ノ事項ニ之ヲ規定ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ遺囑スルニ付キ要セラレタル能力トアルヲ遺囑スルノ能力トセリ
(委員長)
要スルノ文字アラザレバ遺囑ニ必要ノ能力ト看ルヲ得ザルニアラズヤ
(栗塚)
報吿委員ニテ相續人ノ爲メトアルヲ相續人ニトセリ
(委員長)
要スルノ文字ナキモ不明了ニアラズトスルモ如此類例ノ文字ハ皆刪除スルヲ得ルヤ若シ否ラザレバ其文字ノ原文ニ存在スル以上ハ本條ニモ存置スベシ法律取調局ハ其定義ヲ立置カズシテ自由ニ文字ヲ用捨スルハ不可ナリ
結局遺囑スルニ付キ要シタル能力トスルニ決ス
(村田)
遺囑贈與トアルハ前條ノ遺囑處分ト云フ義ト異ナラザレバ本條モ贈與ノ字ハ處分トスベシ
可決ス
(鶴田)
本條ハ此規則ハ包括名義ノ遺囑處分ノ事項ニ規定シアリト云フ見出シノ意味ニセズ此規則ハ包括名義ノ云々ノ方法ニ同ジトセザルベカラズ
終ニ此儘ニ附ス
第六百四十一條 各箇ニ定マリタル一箇又ハ數箇ノ動產物若クハ不動產物ヲ目的トスル單純又ハ有期ノ總テノ贈遺ハ受囑者ノ知ラサルトキト雖モ遺囑者死亡ノ當時ヨリ之ニ其所有權ヲ移轉ス但贈遺ヲ拒ム事ヲ得ル受囑者ノ權利ヲ妨ケス
收益權、使用權又ハ地役權ノ贈遺ニ付テモ亦同シ
若シ贈遺カ停止又ハ解除ノ條件附ナルトキハ其効力ハ合意ノ事項ニ於テ第四百二十八條以下ニ規定シタル如ク條件ノ到來ニ繋ル
(栗塚)
本條末項ノ繋ルトアルヲ報吿委員ニテ從フトセリ
(松岡)
冒頭ノ各箇ノ文字ハ之ヲ刪除スルヲ得ザルヤ物ノ一個アルトキハ各個ト云フヲ得ザルベシ
(栗塚)
特ニト云フ義ナリ
(鶴田)
有期ト云フハ期限アルト云フ義ナリヤ
(栗塚)
然ラズ註解ニ示セリ
(松岡)
有期ノ贈遺ト云ヘバ期限ヲ定テ其期限間贈遺スルモノト思惟セラルベシ
(栗塚)
然ラズ贈遺ヲ受ケタル以上ハ其物ニ向テ所有權ヲ存スベシ所有權ニハ期限アルモノニアラズ個ハ贈與スルニハ贈遺者死亡後何時ヲ以テ贈與スルト云フ義ニシテ起初ヲ定メタル期限ナリ
(松岡)
初起ヲ定メザルモ所有權ハ贈遺者ノ死亡スルト共ニ受贈者ニ移轉スルモノナリ收益權ヲ有スルニ付テハ贈遺者死亡後幾日ヲ經過スルヲ要スルモノナリ
(南部)
契約ハ双方ノ合意ヨリ生立スルモノナリ贈遺者死亡シタルモノニ付キ双方ノ合意ヲ求ムベカラザレバ死亡ノ當時其所有權ハ移轉スベシ
(淸岡)
個ハ目的トスル贈遺ハ單純又ハ有期ナルトニ關セズ云々ト云フ文義ニ爲サザレバ明瞭ナラズ
(栗塚)
贈遺ハ死亡ノ時ニ移轉ス假令ヒ單純ナルト有期ナルトニ拘ハラズト云フ義ナリ
(委員長)
單純又ハ有期ヲ問ハズトシテハ如何
(栗塚)
起案者ハ單純ニモセヨ有期ニモセヨト云フ如キ深意義ヲ示シタルニアラズ之ヲ學者流ニ立言セバ贈遺ニハ單純ナルモノアリ有期ナルモノアリ條件付ナルモノアリト云フ義ナリ
(淸岡)
此文章ニ於テハ單純有期ト云ヘルヲ主的トスベキ如クナルニアラズヤ
(栗塚)
主的ハ贈遺ニシテ單純ナル贈遺アリ有期ナル贈遺アリト云フ意義ナリトス
第六百四十二條 贈遺カ量定物ヲ目的トスルトキハ其所有權ハ第三百五十二條及ヒ第四百七十六條ニ從ヒ引渡ニ因リ又ハ相續人ト立會ノ上爲シタル他ノ指定ニ因ルニアラサレハ移轉セラレス
辨濟ノ一般ノ規則ハ此贈遺ノ辨償ニ之ヲ適用ス
(栗塚)
前條ハ確定物ニ付キ示定シ本條ハ量定物ニ付キ示定シタリ
(鶴田)
移轉セラレズト云ヘルハ移轉セズトスベシ
可決ス
(鶴田)
贈遺ノ辨償トハ如何
(南部)
相續人其辨償ヲ爲スニハト云フ譯ナリ
(栗塚)
先主負債シテ死亡シタルトキハ相續人其辨償ヲ爲サザルベカラザルニ依リ其辨償ハ辨濟ノ規則ニ從フモノナリ
第六百四十三條 遺囑者ハ其相續人ニ爲シ又ハ爲ササルノ義務ヲ負ハシムルコトヲ得但其義務ノ効力ハ相續人カ不當ノ利得ニ憑リ受囑者ニ對シテ義務ヲ負セタルトキト同一ナリ
(栗塚)
本條義務ヲ負ハセタルトキト雖モト云フハ義務ヲ負フタルトキト雖モノ誤リナルベシ否ラザレバ意味明了ナラザレバナリ
(委員長)
不當ノ利得ト云フハ如何
(栗塚)
相續人ハ第三者ニ對シ爲スベキ義務アルトキハ其義務ヲ果サザレバ不當ノ利益トナルベシ
(淸岡)
但ノ字ハ刪ルベシ
刪除ス
第六百四十四條 遺囑ハ遺囑者カ受囑者ノ物ニ付キ有スル地役又ハ其他總テノ物權ノ抛棄ヲ目的トスル事ヲ得此場合ニ於テ權利ハ生存者間ノ抛棄ニ因ルト等シク消滅ス
遺囑者カ其債務者ニ債務ノ釋放ヲ爲シタル處分ハ當然債務者ノ義務免除ヲ成シ死亡ノ日ヨリ利息ヲ止マシム
遺囑者カ債務者ニ相續人ニ對スル其義務免除ヲ贈遺シタルトキモ亦同シ
無償名義ノ合意上ノ釋放ノ規則ハ適用スル事ヲ得ヘキ限リハ義務免除ノ贈遺ニ之ヲ適用ス
(栗塚)
本條第三項ハ報吿委員ニテ若シ本會ニ於テ此意義不明ナリト云フ論難アルトキハ之ヲ遺囑者ガ債務者ニ贈遺スルニ相續人ニ對スル其義務免除ヲ以テ爲シタルトキモ亦同ジトスベシト云フニアリ其修正ニ可決ス
(鶴田)
本項ノ意義ハ如何
(栗塚)
債權者死亡ノ際債務者ニ遺囑シテ債務ヲ釋放シ債權者ノ相續人ニ對シ其義務ヲ盡スヲ要セザラシムルノ旨意ナリ
(鶴田)
報吿委員說明ノ如クナラバ此意味ハ既ニ第二項ニ於テ示了シタルニアラズヤ
(栗塚)
結果ハ同効ヲ顯ハスベキモ其筋合ハ同ジカラズ
(南部)
二項ハ相續人ニ關セザルナリ
(栗塚)
第一項受囑者ノ物ニ付キハ報吿委員ニテ受囑者ノ物ノ上ニトセリ
可決ス
(淸岡)
三項ノ相續人ニ對スル其義務トアル「其」ノ字ハ刪ルベシ
(松岡)
對スルノ義務トスベシ
(南部)
對スルノト云フニ及バズ
(渡)
二項ノ利息ヲ止マシムトアルハ利息ヲ止ムトシテハ如何
(栗塚)
處分ハ云々ト云ヒ來リタルニ依リ利息ヲ止ムトシガタシ
(渡)
死亡ノ上ニ且ノ字ヲ挿入シタシ
(淸岡)
且ノ字ヤ及ビノ字ヲ挿入スルノ必要アルヲ知ラズ
(渡)
義務免除ヲ成シタルモノニ何故ニ利息ハ死亡ノ日ヨリ止マシムトシタルヤ
(栗塚)
佛蘭西學者中ニハ此場合ニ於テ利息ハ止マズト云フ論說モアルヲ以テ特示シ以テ其疑ヲ避ケントスルニアルベシ
(松岡)
本義務已ニ消滅シタルニ何故ニ利息ノ遺存スベキ疑團アルヤ
(栗塚)
第六百四十六條ニ依レバ或ハ其疑團ヲ生ズベキヤモ知ルベカラザルヲ以テ爰ニ特ニ之ヲ示シタルノミ
第六百四十五條 若シ遺囑者カ不分ノ權利ノミヲ有スル物ヲ贈遺シタルトキハ受囑者ハ同一ノ權利ヲ得取シ其參與スベキ派分ハ遺囑者ノ爲メニ生スヘキ効力ヲ受囑者ノ爲メニ生ス
若シ贈遺セラレタル物カ遺囑者ニ於テ不分ノ權利ノミヲ有スル相續又ハ其他ノ包括ノ部分ヲ爲ストキハ受囑者ハ派分ニ參與セス然レトモ受囑者ハ若シ其物カ遺囑者ノ相續人ノ配當部分ニ歸スルトキハ現物ヲ受ケ若シ其物カ他ノ共有者ノ一人ノ配當部分ニ歸スルトキハ其價額ヲ受ク
(尾崎)
參與スベキ派分ト云ヘルハ立會フベキ派分ナルカ
(栗塚)
一項ハ遺囑者ノ不分權利ヲ有スル物ヲ贈遺シタルトキハ受囑者ハ遺囑者ノ受クベキ効力ヲ得二項ハ不分ノ權利ノミヲ有スル相續權ヲ贈遺シタルトキハ其受囑者ハ派分ニ參與セズ其遺囑人ノ相續者ニ相續物ノ配當部分アルトキハ現物ヲ受クベシ其物若シ他ノ共有者ノ一人ニ歸スルトキハ受囑者ハ遺囑者ノ相續人ヨリ價額ヲ得ベシト云フニアリ
(委員長)
其他ノ包括ノ部分ヲ爲ストハ如何
(栗塚)
會社ノ社員トシテ見タルトキハ解釋上ニ便ナリ
第二章 用收權使用權及ヒ住居權
前置條例
第五百四十六條
(本條以下第七百八十九條迄ハ物權中ノ條項ニ係ル)
(栗塚)
報吿委員ニテ前置條例ヲ附シタリ
(淸岡)
何故ニ前置條例ヲ置シヤ
(南部)
用收權ノ設定ニ於ケルヲ以テナリ
第一節 用收權ノ設定
第五百四十七條
(栗塚)
本條第三項ハ財產ニ付トアルハ反譯上ニテ財產ニ對スルトシ留置權ニ因リトアル權ノ字ヲ除キ第四項ハ第三編トアル下第二部ノ三字ヲ挿入シ第五項ハ用收權ノ時効ハトアルハ用收權ノ得取時効ハトシタリ
(淸岡)
用收權ハ西洋各國ニ於テモ弊害アルヲ認メ成ル丈ケ之ヲ制減セントスルモノナルニ人事自然ノ關係ヨリ自然ニ成立スル用收權ハ抑止スベカラザルモ法律ヲ以テ豫メ特ニ之ヲ規定シ置クノ必要ヲ見ズ
(南部)
用收權ハ合意ヲ以テ之ヲ認定スルハ不可ナリト雖モ既ニ用收權設定ヲ認許スル以上ハ其合意ヲ以テ之ヲ設定スルヲモ認許セザルベカラズ況ンヤ父子夫婦ノ間ニ設定スル用收權ハ合意上ニ成立スルモノニアラザルニ於テヲヤ法律上ニテ之ヲ規定シ置クハ甚肝要ナリ
(淸岡)
用收權ハ業已ニ之ヲ廢止スベシト云フ論モアリシニ特ニ之ヲ法律ニ規定シ置クハ如何之ヲ例セバ用收權ハ人ノ死生ノ如シ法律ニ記示スルト否トニ依ラズ其事實ハ社會ニ顯出スルモノナレバ法律ヲ以テ特ニ其死生ノ場合ヲ規定シテ如此際ニ於テハ死スルモノトシ如此際ニハ生ルモノトスルハ甚不可ナリ
(今村)
淸岡委員ハ用收權中ノ一元奏卽チ法定ノ用收權ヲ廢止セントスルニアラン
(淸岡)
然リ
(委員長)
用收權ヲ廢スルト云フ論者モ父子夫婦間ニ於ケル法律上ノ用收權ハ其名義ヲ變シテナリトモ之ヲ存セザルベカラズト云ヘリ實ニ此點ハ用收權中ノ大眼目ニ屬スルヲ以テ之ヲ除斥スルハ穩當ニアラズ
(鶴田)
本條第三項ノ意義明了ナラズ
(委員長)
財產ニ付キト云ヒ又財產ニ對スルト云ヘル如キハ穩當ナラズ
(栗塚)
財產ニ係ル用收權ハ留置ニ因リ之ヲ設定スル事ヲ得ト云フ譯ナリ財產ノ上ニ留置ニ因リ之ヲ設定スルヲ得トシテハ如何
可決ス
第五百四十八條
(栗塚)
本條第三項卽チ以下ハ報吿委員ニテ「動產若クハ不動產ニ付キ又ハ資產ヲ組成スル一切ノ財產ニ付キ又ハ其資產ノ動產若クハ不動產ノ不分ノ部分ニ付キ又ハ其全部ノ不分ノ部分ニ付キ之ヲ設定スルカ如シ」ト爲シタルモ個ハ上文ノ解釋ニ過ギザレバ之ヲ刪除シテ可ナルベシ
遂ニ卽チ以下ハ之ヲ刪除ス
(松岡)
動產ト不動產トトアルニ又有體物ト無體物トヲ問ハズト云ヘバ四個ノ物種アル如クナルニアラズヤ故ニ有體物ト無體物トヲ問ハズト云ヘル文字ハ刪除シタシ
(栗塚)
移動ナルト不動ナルト又有體ナルト無體ナルトヲ問ハズト修正シタシ
(委員長)
要スルニ個ハ財產ノ形狀ヲ示シタルニ過ギズ
遂ニ其修正說ニ可決ス
第五百四十九條
原案通
第五百五十條
(鶴田)
發開ハ開始ト云ヘルト其原語ヲ異ニスルカ
(今村)
相續ノ開始ト云フヲ得ザルベシ
(委員長)
反譯局ニ於テ詮議スベシ
第二節 用收者ノ權利
第五百五十一條
(栗塚)
本條ハ起案者ヨリ次節ニ定メタルトアル下ニ不動產ノ形狀書ト云フ字ヲ挿入シ財產目錄ヲ動產ノ目錄ト修正セリ
第五百五十二條
(鶴田)
本條前項ハ果實ノ收獲保存ノ費用ヲ償還スルヲ要ストシテ後項ニハ耕耘種子栽培ノ費用ヲ償還スルヲ要セズト云フハ前後牴觸スルニアラズヤ
(委員長)
前項ハ用收權設定後虛有者ノ手間ヲ要シタルニ對シ之ヲ償了シ後項ハ用收權設定以前ノ費用ナルヲ以テ用收權設定ト共ニ讓付スルモノナリ
第五百五十三條
(栗塚)
本條ハ反譯上ニテ天然上ノ上ヲ除去シ民法上ヲ法定上ト修正セリ
第五百五十四條
(栗塚)
本條ノ終了ノ文字ハ反譯上ニテ絕止セシトキト修正セリ
(委員長)
名代人ト云フハ原語如何ン
(栗塚)
「アンソンノン」ト云ヘリ
第五百五十五條
無異議
第五百五十六條
(栗塚)
本條ハ民法上トアルヲ法定トナシ了終トアルハ絕止トシ報吿委員ニテ金錢ノ納額ニトアルヲ金錢ノ納額ニ適用ストシ鑛坑及ヒノ四字ヲ刪除ス
(委員長)
鑛坑ハ何故ニ刪除セシカ
(栗塚)
鑛坑ハ政府ノ所有ニシテ一私人ノ所有タルベキモノニアラザレバ用收權ヲ設定セラルベキモノニアラズ
(松岡)
用收權ニ屬スル物タルノ故ヲ以テ第三者ヨリ拂フベキ金錢ノ納額ニ適用スト云フハ如何
(委員長)
例セバ虛有者ノ借家人トノ間ノ契約ハ用收者ガ用收權ノ理由ヲ以テ其家賃ハ之ヲ得取スルヲ得ルモノナリ
第五百五十七條
(栗塚)
本條收益ヲ始ムルノ際トアルハ起案者收益ヲ始ムル前トシタリ報吿委員ニテ葡萄ノ二字ヲ刪レリ其他飮食品トアルニ包含スベシト云フニアリ
(松岡)
此條ハ消費貸借ト差異ナキニアラズヤ
(栗塚)
本條ハ包括名義ヲ以テ各種類ヲ包含スルモノナレバナリ
第五百五十八條
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ布具ノ二字ヲ刪除セリ
第五百五十九條
(松岡)
本用收者トアルハ原用牧者トシテハ如何
(栗塚)
俗ニ所謂名前人ト云フ如キ用收權ノ上ニ更ニ用收權ヲ設定スルモノニシテ前ニ設定シタル用收權ニ付キ又用收權ヲ得タル者ト云フ譯ナレバナリ
(委員長)
更ニト云フ字ヲ挿入シタシ
(南部)
更ニ有スルト云ヘバ用收權ヲ有シタル上ニ又用收權ヲ得ル如クナルノ惑ヒアリ
(委員長)
前ニトアルヲ既ニトシ付ノ下「復タ」ト云フ字ヲ挿入スベシ
可決ス
第五百六十條
(栗塚)
本條獸類ノ文字ハ動物トセリ獸類ト云ヘバ蠶類ヲ包含セザルヲ以テナリ
(松岡)
養蠶場ハ刪除スベシ否ラザレバ畜群ト云フ字ヲ以テ蠶類モ包含スルモノト思惟スルヲ得ザレバナリ故ニ最初ニ養蠶場トアルニ結尾ニハ畜群トアリテ蠶類アルヲ認ムルヲ得ザレバナリ
第五百六十一條
(栗塚)
本條「デパルトマン」「コンミユーヌ」ハ府縣町村ト修正セリ
第五百六十二條
(栗塚)
起案者ハ本條ノ虛有者立會ノ上トアルヲ虛有者立會ニテ裁判上トセリ
(鶴田)
立會ニテト云フハ原被吿トナルヲ云フカ
(栗塚)
然リ
(委員長)
裁判上ト云フ字ハ何故ニ必要ナルヤ
(栗塚)
必要ナル事ヲ證スルニハ必ラズ裁判所ニ於テスベキヲ示シタリシニ過ギズ
(委員長)
裁判上ノ文字ハ刪除シ起案者ニ其不可ナキヤ否ヤヲ質問シタシ
(栗塚)
此儘ニテハ生木ヲ斬伐スルニモ必ラズ裁判所ニ證明セザルベカラズシテ合意ヲ以テスルヲ得ザルカ如シ依テ質問スベシ
第五百六十三條
無異議
第五百六十四條
無異議
第五百六十五條
(栗塚)
本條ハ起案者開掘ノ文字ヲ利用トシ其石坑ヲトアルヲ石坑ノトシ未タ利用セサルトキノ下ニ又ハ其利用ヲ確然抛棄シタルトキハト云フ數字ヲ挿入セリ
(南部)
第五百五十六條開掘モ利用ト修正スベキヤ
(栗塚)
然リ
(淸岡)
其利用ヲ確然抛棄シタルトキト云フハ如何ナルヤ既ニ前項ニ其利用ヲ斷續ストアルニアラズヤ
(松岡)
中興ノ祖先トナルベカラズト云フガ如シ
(鶴田)
一度穿ヲ止メタル窖竇ハ更ニ之ヲ開掘スベカラズト云フガ如シ
第五百六十六條
(栗塚)
本條ハ起案者ニ於テ其設定證書ニトアル證書ノ字ヲ屏斥シ明記ノ上ニ「於テ」ノ字ヲ挿入シ明記アルニアラザレバトアルヲ明記シタル定款アルニアラザレバト修正シタリ而シテ報吿委員ハ本條ヲ刪除スベキ意見ナリ何トナレバ礦法ハ日本政府ノ所有ニ係ルヲ以テナリ
(淸岡)
礦坑ヲ開掘スルニ付テハ礦法ニ從ハザルベカラザルモ用收權ヲ設定スルヲ規定スルニ於テ何ノ妨ゲアラン
結局刪除ニ決ス
第五百六十七條
(栗塚)
本條ハ漸積地ノ下ニ卽チノ二字ヲ挿入セリ
第五百六十八條
無異議
第五百六十九條
無異議
第五百七十條
(栗塚)
本條初項ノ關シテトアルヲ關スルト修正セリ關シテト云ヘバ行フ事ヲ得ト云フニ屬スル嫌ヒアルヲ以テナリ
第五百七十一條
(鶴田)
父母ノ外トスレバ父母ニ限ルカ
(栗塚)
起案者ハ此點ニ關シ顯著ナル者ヲ擧示シタルモ法律上ニ規定シタル用收權ハ他ニ讓付スルヲ得ズト云フノ意味ナリ
第五百七十二條
無異議
第五百七十三條
(栗塚)
本條ハ起案者十日ヲ過ギトアルヲ十日内ニトシ所有者ノ拒絕ノ下ハ「スルトキ又ハ其陳述ヲ爲サザルトキニアラザレバ其取毀又ハ收去」ト改正シ來レリ
(鶴田)
本條第四項ハ如何ナル異議カ第二項ニ於テハ既ニ用收者ハ虛有者ニ吿知スベキモノトシタルニアラズヤ
(委員長)
之ヲ吿知スルモ虛有者返詞アラザルニ於テハ用收者ハ其建物植付物ヲ除去スルヲ得所有者ハ其際尙ホ先買スルノ意思ヲ吿知スルヲ得ルト云フ譯ナラン
(淸岡)
個ハ用收權ノ終期ト否トヲ問ハズ吿知スルヲ得ベキモノナリ
(南部)
用收權未ダ終ラザル以前用收者己ガ家屋ヲ建築セリ然ルニ用收者其家屋ヲ取毀タシトスルニ當テハ虛有者ニ吿知セザルベカラズ虛有者其吿知ヲ受ケ其家屋ヲ買得シタルトキハ其家屋ノ建在セル地面ニハ用收權ヲ除去スルニ至ルノ憂ヒアルニ依リ用收權未終以前ト云フヲ得ザルナリ
(栗塚)
個ハ淸岡委員ノ說ノ如ク虛有者ハ何時ト雖モト用收者ニ先買ノ意思ヲ吿知スルヲ得ベシ
(今村)
何時ト雖モト先買スル意思ヲ吿知スルヲ得トシ其買取ハ用收權終了ノ後ニアラザレバ之ヲ得取スルヲ得ズ然ラザレバ用收權ヲ毀損スルニ至ルヲ以テナリ
(淸岡)
然レバ用收者ハ自己ノ目的ヲ逹スルヲ得ザルナリ
(松岡)
用收者ハ其建築ヲ毀チ其地面ニ他ノ事業ヲ爲サントスルモ所有者ノ爲メニ妨害ヲ受クルハ不都合ナリ
(今村)
五百四十七條ハ反譯局ト協議シ財產ノ上ヲ留置權ニ因リトシ又先條ニアル相續ノ發開ハ商法ニ於ケル開始ノ字ト其原字ヲ同フスレバ開始トスベシ
(松岡)
個ハ用收權ノ終期ニアラザレバ先買ノ意思ヲ吿知スルヲ得ザルベシ
(今村)
後來此建築物ヲ除却スルトキハ先買スベキノ吿知ハ之ヲ終期前ニスルヲ妨ゲザルナリ
(委員長)
用收權者此建築物ヲ毀壞シ他ノ事業ヲ爲サントスルトキ所有者ノ爲メニ買得スベキ吿知ヲ受ケタルトキハ用收權者ハ此部分ニ於ケル用收權ヲ返還スベシ
(今村)
個ハ用收權ヲ缺損スルモノトナルベシ
(委員長)
如何ニ所有者ト雖モ用收者ノ利益ヲ害スルヲ得ザルベシ
(南部)
用收權ノ終期ニ於テセザレバ此吿知ヲ爲スヲ得ザルモノトセザレバ不可ナリ
(栗塚)
終期ニ於テスルモノナラバ初項ニテ充分ナリ
遂ニ起案者ニ質問スルニ決ス
第三節 用收者ノ義務
第五百七十四條
(栗塚)
本條ハ不動物ヲ不動產トシタシ
(委員長)
移動物產ハ動產トスベシ
可決ス
(鶴田)
目錄ヲ製セシメトアルハ何人カ其目錄ヲ製スルヤ
(栗塚)
公證人ヲシテ其目錄ヲ製セシムルナリ
第五百七十五條
(栗塚)
本條ハ不動物ノ文字ヲ刪リ權衡ヲ得セシメントス
(鶴田)
反對ノ場合トハ如何
(南部)
出會セザルカ又ハ無能力者タルトキヲ云フ
第五百七十六條
(渡)
本條ノ但反對ノ明言アルトキハ此限ニ在ラズト云フハ代補物及ビ不代補物トモ關スルニアラザレバ不可ナリ
原案ニ可決ス
第五百七十七條
(淸岡)
十一日以上トシタルハ如何
(栗塚)
日本ニテ十日以上十日以下ト云ヘバ十日ヲモ指數内ニ屬スベシ
第五百七十八條
無異議
第五百七十九條
(栗塚)
前條ハ目錄及形狀書ヲ製作スルノ義務ヲ示シタルモ本條ハ保證人ヲ立ツベキヲ示シタリ
第五百八十條
(栗塚)
寄託金取扱所ノ上ニ公ノ字ヲ加ヘ動產質ノ上又ハトアルハヲ刪レルモ公ノ字ハ佛蘭西ニハ私ノ寄託金取扱所ナル者アラズ日本ニ於テモ蓋シ私設ノ寄託金取扱所アラザルベシ依テ之ヲ刪除シテハ如何
可決ス
第五百八十一條
(鶴田)
評價ノ半額ハ餘リ低下ニ過ギズヤ
(淸岡)
用收權ニ直チニ屬シタル金錢ノ數額トハ如何
(南部)
金錢ニ用收權ヲ設定シタル場合ナリ
(鶴田)
法律上ノ設定アルトキハ此擔保ヲ要セザルカ
(栗塚)
其場合ニハ保證ヲ立ツルヲ得ザルモ父母無資力トナリタルトキハ用收權ヲ得ベカラズ
第五百八十二條
(南部)
保證人ト云フハ擔保人トスベカラザルカ
(栗塚)
人ヲ以テスルトキハ保證人ト云フナリ
第五百八十三條
(栗塚)
本條ハ起案者金錢ト共ニトアル上ニ直接ニ用收權ニ服從シタルノ文字ヲ挿入シ國ニ對スル年金權トアルヲ國ノ債權ニトセリ
(渡)
用收權ニ服從シタルトアルハ用收權ニ屬シタルトスヘシ
可決ス
(松岡)
直接ニハ直チニトシタシ
(南部)
五百八十一條ノ直チニトアルヲ直接ニトスベシ
可決ス
(栗塚)
報吿委員ニテ有權者二人トアルヲ虛有者及ビ用收者トセリ
(南部)
公ノ字ハ刪除ノ例ニ依ルベシ
其議ニ決ス
第五百八十四條
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ擔保ノ一分トアルヲ一分ノ擔保トシ其受取ルトアルヲ其引渡ザルトシタリ
(淸岡)
物體ト云フ體ノ字ヲ刪ルベシ
(渡)
引渡ザルハ受取ルトスルヲ可トス
(栗塚)
個ハ寺島報吿委員ノ考案ニシテ受取ルト云ヘバ最初ヨリ受取ルベキ權アルガ如シ引渡サレタル事アルニアラザレバ受取ル事アルベキ理ナシト云フ意味ヲ顯サズ可決ス
(委員長)
此引渡ト云フハ何ノ爲メニ引渡サルルヤ知ルベカラザルヲ以テ用收物ニ付キトシテハ如何
(渡)
引渡サルル事アルベキ用收物トスベシ
(南部)
此場合ハ未ダ用收物ト爲ラズ
(委員長)
用收物トスルヲ得ザルナレバ用收ノ爲メトシタシ
遂ニ用收物トスルニ決ス
(委員長)
尙ホ此修正ニテ可ナリヤ否ヲ詮議スベシ
第五百八十五條
(栗塚)
本條ハ起案者保證人ヲ立ツトアル上ニ又ハ其後ニト云フ文字ヲ挿入シ但用收者ノ下其權利發開ノ後トアルヲ刪リ但用收者ガトシ二項ノ冒頭ニ若シ用牧者ガノ文字ヲ增加セリ又報吿委員ニテ設定證書ヲ設定名義トセリ
(尾崎)
設定名義ヲ以テ又ハ其後ニ保證人トアルハ如何
(栗塚)
最初設定ニ於テ保證人ヲ立ツル義務ヲ免除シ又ハ其後ニ於テ之ヲ免除スル事ヲモ得ルナリ
(委員長)
其後ニ保證人義務ヲ免ズルハ如何シテ之ヲ免除スベキヤ
(栗塚)
口頭ヲ以テスル事モアルベシ此其後ニト云フ下ヘ於テノ字ヲ加フレバ明了ナルベシ
(淸岡)
前二條ニ於テ處辨ストアルモ前條ノ如キハ無資力ニアラズ擔保ノ不足スル場合ナリ故ニ第五百八十三條ニ從テトナルハ可ナルモ第五百八十四條ニ從テトナルハ不都合ナリ
(栗塚)
此無資力ハ皆無ノ場合ニアラズ危險ニ陷リシ場合ヲ想像シタルモノナリ
(鶴田)
前二條ノ上ニ且ツト云フ字ヲ加フベシ
可決ス
(委員長)
若シ用收者ガト云フ數字ハ存置スルカ
(栗塚)
「カ」ノ字ヲ刪ルベシ卽チ「カ」ノ字ヲ刪ル
第五百八十六條
(栗塚)
本條第一項ハ報吿委員ニ於テ父母ノ法律上ノ用收權ハ常ニ保證ヲ免除セラルトシタリ
(淸岡)
本條ハ父母ノ無資力ノ場合ニ於テハ其金錢ニ等シキ保證人ヲ立ツル事ヲ要スルモノトスルハ實ニ人倫上ニ害アル法律ト云ハザルベカラズ
(渡)
然リ如此ハ父母ヲ信ゼザルニ生ズルモノナレバ願クハ此等ノ法律ヲ規定セザルヲ希望ス
(今村)
父母ヲ信ゼザルト云フハ子ニシテ父母ヲ信ゼザルニアラズ法律ガ父母ヲ信ゼザルモノニシテ法理上ノ點ヨリ觀察ヲ下ストキハ此規定ヲ要スベシ
(委員長)
此點ハ善良ノ父母ヲ見タルニアラズ父母ノ無資力ニ陷リ子タル者ノ教育費ヲモ辨用スルヲ得ザル甚ダ不始末ナルモノナルヲ以テ法律ハ之ヲ保護セントシタルモノナリ子タル身分ヲ以テ直接ニ父母ニ對シ保證人ヲ立テシメントスルハ宜シカラザルモ法律ノ之ヲ命ジタル場合ニ於テハ倫理ヲ害スルニアラズ此法律アルニ依リ頑〓ナル父母ノ專恣ヲ制スルニ足ルベシ
(箕作)
此點ハ不動產ノ用收權ニ於ケルモノヲ指シタルニアラズ金錢ノ如キ父母負債ニ沈淪シ債主ノ催促ニ堪ヘザルモノノ如ク殆ンド父母ノ所有權ヲ他人ノ爲メニ取去ラントスルガ如キヲ云フモノニシテ此法律ナクンバ一家ノ財產直チニ他人ノ所有トナリ忽チ一家ノ困難ヲ見ルニ至ルベシ
(南部)
人倫ニ害アリト云フ說アルモ否ラズ凡ソ人倫ナルモノハ孝養ノミニアラズ慈愛ト云フモ存セザルベカラズ子タルモノ孝養ヲ爲スベキノ義務アレバ父母ハ其子ヲ慈愛セザルベカラザルモノナレバナリ父母ニシテ慈愛心ヲ失シ其權ヲ濫用セントスルニ於テハ須ラク法律ハ之ヲ保護セザルベカラズ
(栗塚)
個ハ未亡人主婦タル場合ニ於テ放蕩ニ陷リ子タル者ノ生育ニ害アルガ如キヲ防止スルニハ甚ダ要用ナルベシ
(淸岡)
之ヲ法律ニ記存スルニ於テハ世ノ風俗ニ害アルモノナリ
(委員長)
此規定ナクンバ子タル者ノ財產危險ニ陷ルモ之ヲ救正スルノ方法ナシ依テ以テ此點ニ關スル規定ヲ必要トスベキナリ
(淸岡)
個ハ決シテ道理ニ反スルモノニアラズ理趣ノ歸スル所勢ヒ如此緻密ノ規定ヲモ要スベシト雖モ世道人心ノ風教ニ弊害ヲ顯出スルハ蓋シ免ルベカラザルベシ依テ人事篇ヲ規定スル時ニ讓置シテハ如何
(渡)
已ムヲ得ズ此規定ヲ存置スレバ父母ノ文字ヲ刪リタシ
(箕作)
父母ヲ刪リ贈與者ノミヲ記示シタルトキハ父母ハ無資力ニシテ子ノ財產ヲ危險ニ附スルガ如キ事アルモ之ヲ防止スルヲ得ザルベシ
遂ニ多數決ヲ以テ原案ニ可決ス
第五百八十七條
(淸岡)
本條ノ規定アレバ前條ノ父母無資力ノ時ニ於ケル保證人ヲ要セザルベシ
(南部)
本條ハ代補物ニ關スル所ヲ規定シタルモノナリ
第五百八十八條
(箕作)
一分ノ下「カ」ノ字ヲ加ヘラレタシ
(松岡)
カノ字アラザルヲ可トス
(渡)
如此ハ後ニ一定セラレタシ
(栗塚)
「カ」ノ字ヲ要スルトキト要セザルトキトアリ
(委員長)
「カ」ノ字ヲ用ユル所ト用ヒザル所トアルハ不都合ナレバ一定ニセザルベカラズ
(栗塚)
本條ハ用收者甚ダ迷惑ナル條目ナルモ反對ノ證據アルトキハ此限ニアラズトアルヲ以テ報吿委員ニテハ敢テ不都合ナシト云フニアリ
第五百八十九條
(委員長)
本條ハ報吿委員ニテハ別ニ意見ナキカ
(栗塚)
土除壁ヲ土止トシ水除壁ヲ堤塘ト修正シタルノミ
(委員長)
請求權ナリ云々擔任ストアルハ明了ナラズ
(栗塚)
請求權ハ反譯上求償權ト修正スベシ
(南部)
求償權トセバ明了ナルベシ
可決ス
第五百九十條
(南部)
本條ニハ懈怠ノミノ文字アリ過愆ノ字ナキハ如何
(栗塚)
前條第二項ノ場合ノ外トスレバ可ナラン
(箕作)
過愆又ハ懈怠ノ外トスベシ
可決ス
(委員長)
虛有者自爲ス事ヲ拒ミタルトキトアルモ鑑定人ハ只大破損ナリト云フ鑑定ヲ爲スニ止マリ大修繕ヲ爲スベシト云フヲ得ザルニ虛有者拒ミタルトキト云フヲ得ルカ
(箕作)
拒ミタルトアルヲ以テ用收者其大修繕ヲ爲スベキヲ求メタルモノトス
第五百九十一條
(南部)
前條ハ之ヲ地面ニ適用セズ建物ノミニ適用スベキナリ
(松岡)
壞頽シタル場合ニモト云ハザルベカラザルニアラズヤ
(委員長)
本條ハ建造物ガ墮倒シテ公道ニ横ハリ行政規則ニ反シタルトキ又ハ隣家ノ妨害ヲ爲スト云フ場合ノ如クナルヲ以テモノ字ヲ挿入スベシ
可決ス
第五百九十二條
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ用收者ハ其トアルヲ用收者ノトシ「土地」ヲ「所有地」ト修正シ之ヲ擔保ストアル上ニ用收者ト云フ文字ヲ挿入セリ
(委員長)
第二項所有物ハ財產トシテハ如何
(箕作)
原語ハ利子ヲ含マザル本金ト云フ譯ナリ
(委員長)
一項ハ土地トシ二項ハ所有物トアルニ付キ起案者ニ質問シ原文ヲ改正セシムベシ
(栗塚)
最初ニ非常ノ負擔又ハ稅トアルニ後ニハ非常ノ負擔ト看做スモノハ左ノ如シト云フ内ニ租稅ノ文字アリ非常ノ負擔又ハ租稅ト看做スト云ハザレバ不可ナルガ如シト雖モ報吿委員ニテハ非常ノ負擔ト云フ事ヲ擧示シテ租稅ハ其中ニ包含スト云フニアリ
(松岡)
非常ノ負擔又ハ租稅トシタシ
此儘ニ附ス
第五百九十三條
(南部)
用收權ハ所有權ノ支分權ナルニ其支分權タル用收權ノ租稅ヲ納メザルニ付キ所有權ヲ差押フルハ不可ナリ故ニ本條ハ刪除シタシ
(尾崎)
本條ハ刪除シ租稅ノ納付ニ關シテハ稅法ニ規定シテ可ナリ
(松岡)
曩ニハ用收者收益ヲ收得シナガラ租稅ヲ納付スルヲ得ザルトキハ所有者ノ權利ヲ害スルハ不可ナリト云譯ナリシニボアソナード氏ハ其憂セシ所ヲ規定シタルモノト云フベシ何トナレバ此新案ニ依ルモ用收者ノ租稅不納ノ爲メ所有者ハ其所有權ヲ害セラレ之ヲ公賣ニ附セラレ怠納租稅ヲ納メタル代價ノ超過額ニ於ケル其收益ハ尙ホ用收者ノ利益ニ歸スルモノトシタレバナリ
(淸岡)
本條ハ頗ル所有權ヲ蹂躍シタルモノト云フベシ
(南部)
第五百九十二條ニシテ既ニ日本ノ租稅法ニ牴觸シタルモノナレバ用收權ニ付テハ別ニ租稅法ヲ規定セザルベカラズ
(栗塚)
用收者所得稅ヲ納メザル爲メニ其土地ヲ賣却セラレ所有者ノ困迷ヲ受クル如キアラバ實ニ不都合ト云フベシ故ニ用收權ニ付テハ政府ハ對人權ノミヲ有シ物上權ハ抛棄セザルベカラズ
(尾崎)
此條文ニ依テ解釋セントスレバ用收權ヲ設定スル以上ハ所有者ハ此弱點ヲ甘ニセザルベカラズ
(渡)
委員會ニ於テハ現行法ニ牴觸スル所ハ其現行法ヲ變更セザルベカラズトシテ本條ヲ議定シタリトセバ果シテ其現行法ヲ改正スルヲ得ベキヤ
(南部)
用收權ハ現行法ニ牴觸スルト云フヲ以テ最初之ヲ刪除スル筈ナリシモ今敢テ用收權ヲ存置セントスレバ現行法ニ支吾スルハ勿論ナルベシ
(渡)
委員ノ權限ニ於テ現行法ニ牴觸スル所ハ頓着セズ議定スルヲ得ルカ又現行法ニハ牴觸セザル如ク規定スベキモノナルヤヲ斷定セザルベカラズ
(今村)
第五百七十三條四項ハ起案者ニ質問シタル處起案者ハ該項ノ初ニ期限アル用收權ナレバ期限一ケ年前ニ之ヲ豫吿セザルベカラズト云フ意義ニ修正シ來レリ
(尾崎)
本條ハ委員長列席ノ上議定セラレタシ
卽チ其議ニ決ス
第五百九十四條
(村田)
本條二項ノ如キ用收者ハ自己ノ出金額ノミヲ控除シ他ハ所有者ノ利益トナルトスルハ用收者ハ頗ル不利ナルニアラズヤ
(松岡)
保險料ノ元金ヲ控除シテ利益ヲ所有者ニ屬セシムルモノナリ
(委員長)
第五百九十三條ノ議決何此
(尾崎)
議事ハ充分熟シタルモ委員長ノ列席ヲ待ント云フヲ以テ未決ニ附セリ
(委員長)
其議論何此
(南部)
本條ハ頗ル所有權ニ害アリ故ニ此點ハ別ニ收稅法ニ規定スベシト云フニアリ
(委員長)
起案者ノ考案ハ用收權ヲ公賣ニ附スルモ政府ニ於テ得取スルモノアラザルベシト云フヲ以テ元來所有者ノ所有物ニ付キ用收權ノ生ジタルモノナレバ其用收權ニ於ケル租稅ノ未納ニ關シテハ所有權ヲ公賣セザレバ公賣ノ利益ヲ見ルヲ得ザルヲ以テナリ
(栗塚)
政府ハ用收者ニ向テハ對人權トシ物上權ナシトセバ租稅法ニ牴觸セザル樣規定セラルベシ
(委員長)
斯スルモ租稅法ヲ變ゼザルベカラザルニ至ルベシ
(栗塚)
用收者ガ租稅不納ノ爲メニ虛有者ガ損害ヲ受クルハ不都合ニアラズヤ
(委員長)
賃貸借ニ於テ貸人租稅不納ノ爲メニ借人ノ迷惑ヲ受クルモ同ジカルベシ非常稅ノ時ハ所有者其負擔ヲ受ケザルベカラザルモノナレバ普通稅ヲ課セラルルトキモ用收者其租稅ヲ納ムル能ハザルトキハ虛有者之ヲ負擔スルモ決シテ不可ナシ
(松岡)
本員ハ前說ヲ反シ第五百九十三條ヲ此儘存置シテ可ナリトス何トナレバ現時ノ收稅法ハ質取主租稅ヲ納ザルトキハ質地ヲモ公賣スルヲ得ルモノナレバ用收者租稅不納ノ場合ニ虛有者其損害ヲ受クルハ自然ノ理ト云ハザルベカラズ
(南部)
今日ノ質權ヲ以テ此民法ヲ攻撃スベカラズ
(委員長)
第九十二條ノ二項ノ場合ニ於テハ虛有者其租稅ヲ納付スルヲ得ザルトキハ其土地ハ公賣ニ付セラルルヲ以テ用收者其損害ヲ受クルニアラズヤ然ラバ用收者租稅不納ノ場合ニ於テ虛有者其損害ヲ受クベキハ已ムヲ得ザルモノト云ハザルベカラズ
(栗塚)
用收權ニ對スル租稅ハ對人權ヲ以テ徵收スルモノトナラバ可ナルニアラズヤ
(委員長)
日本ノ租稅ハ物上ニ就テ徵收スルモノナルニ用收權ノ場合ノミ菓實ニ就テ徵收スルモノトセバ又租稅ノ全體論ニ及バサルベカラズ
前條ハ結局原案据置ニ決ス
第五百九十五條
(南部)
償金ノ額ハ總テ用收者ノ所有權ニ屬スルト云フハ償金ノ總テノ所有權ハ用收者ニ屬ストスベシ
(委員長)
償金額ノ總テノ所有權ハ用收者ニ囑ストシタシ
可決ス
第五百九十六條
(松岡)
本條ノ利息ヲ擔任スルトハ用收者ナル故ニ如此ナルヤ
(栗塚)
然リ
第五百九十七條
(栗塚)
本條第二項ノ追奪ノ擔保ニ係ル訴權ニ妨ゲナシトアルハ追奪擔保ノ訴權ヲ妨ゲズトスベシ
可決ス
第五百九十八條
(栗塚)
本條第三項ハ或ハ用收者ハ元金ヲ立替ヘ虛有者ハ用收權ノ終ニ於テ之ヲ用收者ニ償還ストセラレタシ此項ハ寫字上ノ誤ナルヲ以テナリ
第五百九十九條
(栗塚)
本條ノ發吿ト云フハ反譯上ニテ吿發ト修正スベシ
可決ス
第六百條
(松岡)
追奪擔保ノ權利ヲ與ヘタルトキハ其權利ヲ許シタルトキト云フ譯カ
(栗塚)
然リ
(箕作)
證書ノ原語ハ「アクト」ナルヲ以テ所爲ト云フ如キモノナレバ名義トシテハ如何
(委員長)
第三項ハ用收者ガ虛有者ノ名代ヲ爲ストキヲ云フヤ
(栗塚)
用收者ハ虛有者ニ向テ追奪ノ擔保ヲ得ルノ權アルヲ云フ
(委員長)
與ヘタルトキトハ如何
(栗塚)
證書ガ與ヘタルトキト云フ譯ナリ
第六百一條
(栗塚)
本條裁決ハ反譯上ニ於テ判決ト修正ス
第四節 用收權ノ消滅
第六百二條
(淸岡)
用收權ノ廢罷ト云ハ用收權ノ廢罷セラルルニ至ル事カ
(栗塚)
然リ
第六百三條
無異議
第六百四條
(委員長)
無形人ト云フ字ハ恰當ナルカ
(栗塚)
佛蘭西法ニハ一己人ニ與ヘザル用收權トアリ
(南部)
町村ノ如キ之ニ該當スベシ
第六百五條
本條ハ第三者ニトアルヲ第三者ヲトセリ
第六百六條
(栗塚)
本條ハ反譯上ニテ未成人ヲ未成年者トシ又報吿委員ニテ之ヲ以テ對抗スル事ヲ得ズト云アルヲ對抗セラルル事ナシトセリ
(南部)
不使用ヲ對抗セラルル事ナシトシテハ如何
(淸岡)
之ヲ對抗セラルル事ナシトスレバ可ナリ
(委員長)
之ニ對シト云フヲ其人ニ對シ云々之ヲ對抗スル事ヲ得ズトシテハ如何
可決ス
(栗塚)
免債時効ハ免責時効ノ誤ナリ
第六百七條
(栗塚)
本條ハ第一項ノ末文消滅ヲ宣言スルヲ得ト云フヲ反譯上ニテ廢罷ヲ宣言スル事ヲ得ト修正シ第二項ハ起案者更ラニ修正ヲ加ヘ金錢又ハ果實ノ下ハ「ニ於ケル價額ハ用收者日每ニ之ヲ得取ス其計算ハ用收權ノ終リニ至リ前年中其用收權ノ繼續シタル時間ニ應シテ之ヲ爲ス」トセリ又報吿委員ニテ用收權ノ終リニ至リ其計算ハ云々ト修正セリ
(委員長)
第二項ノ意義ハ如何
(栗塚)
用收權廢罷セルニ付キ將來ハ金錢又ハ果實ニ於ケル價額ハ云々トナル
(委員長)
時間ニ應ジテト云フハ如何
(栗塚)
繼續スルベキ時間ト云フ譯ナリ
(村田)
用收權ノ終リト云フハ不都合ナリ用收物ハ終止スルモ其權ハ消滅セザルモノナレバナリ
(委員長)
時間ニ應ジテトアルハ時間ノ割合ニ應ジトセザレバ不明ナリ
(松岡)
物ヲ監守ニ付スル間ハ用收權ハ消滅スルニアラザルカ
(栗塚)
然リ廢罷ト云フニ至ラザレバ消滅セシモノトナラズ
(委員長)
繼續シタル時間ニ應ジト云ヘバ前年中繼續シタル時間ノ三日割ヲ以テ將來每歳月之ヲ附與スト云フガ如クナルベシ
(栗塚)
假令バ客年中ノ收取高幾額アルヲ以テ將來ハ客年中ノ收獲高ヲ其日割ノ計算高ヲ以テ附與スト云フ譯ナリ
(委員長)
時間ニ應ジハ時間ノ割合ニ應ジテトスベシ
可決ス
(淸岡)
用收權ノ終リニ至リト云フハ用收權ノ終リニ於テトスベシ
可決ス
(淸岡)
用收權ノ消滅ハ第六百二條ニ列擧シナガラ其濫用ノ場合ノミ此制限ヲ附スルハ如何
(委員長)
用收權ニ附シタル家屋ヲ毀損シタリトテ其用收權ヲ消滅スルヲ得ザルカ
(栗塚)
然リ
(淸岡)
濫用ノ場合ノミ消滅スルヲ得ズ本條ノ如キ處分ニ附セザルヲ得ザルハ不都合ナルニアラズヤ
(栗塚)
佛國ニテハ用收權ヲ濫用セシトキハ元來用收權ヲ消止スル精神ヨリ之ヲ消滅セシムルモノトセシカ尙ホ此點ハ起案者ニ質問スベシ
第六百八條
無異議
第六百九條
(委員長)
本條ハ用收權ノ絕止トアルハ何故ニ絕止トセシヤ
(栗塚)
起案者之ヲ絕止トセリ
(淸岡)
第六百七條ニ揭ゲタル場合ノ外ト云フヲ冒頭ニ冠置スベシ
可決ス
第六百十條
(栗塚)
本條ハ反譯上ニテ壞頽ヲ毀滅トシ收益スル事ヲ得ズトアルヲ收益セズト修正ス
第六百十一條
(栗塚)
本條「及ヒ第五百九十五條」ト云フ數字ハ報吿委員ヨリ起案者ニ注吿シ之ヲ刪除セシメタリ第五百九十五條ハ此場合ニ恰當セザレバナリ
第六百十二條
(栗塚)
本條物ノ字ハ反譯上ニテ土地ト修正シタルガ個ハ不動產ニ關スル所ナルヲ以テ報吿委員ニテハ所有物トシタリ
(松岡)
土地ハ不動產トスベシ
可決ス
(栗塚)
公益ノ爲メ徵買トアルハ反譯上ニテ公用ノ爲メ徵收ト修正セリ
第六百十三條
無異議
第六百十四條
(栗塚)
本條耕地又栽地トアルハ反譯上ニテ土地ト修正シ報吿委員ニ於テハ本條末項ヲ刪除シタリ水ノ有無ニ依リ用收權ニ死活ノ差アルハ實ニ繁雜ニ堪ヘザレバナリ卽チ其修正ニ可決ス
第六百十五條
(淸岡)
本條ハ畜群全部ノ喪失ニアラザレバ消滅セズトアリ第二項ノ盡蓋ト云フハ寡少ノ滅盡ノ如クナルニアラズヤ
(栗塚)
全部滅盡ト云フ譯ナリ
(松岡)
本條ハ前項ニハ消滅セズトアリ第二項ハ消滅シタルヲ云フモノナレバ文趣不都合ナリ
(栗塚)
第一項ヲ云々喪失スルトキノミ消滅ストシテハ如何
可決ス
附錄 使用權及ヒ住居權ニ特別ナル規則
第六百十六條
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ使用者ノ下「ノ需用ノ程度」トアルヲ刪リ其家族ノ需用ノ下ニ「ノ程度」ト云フ三字ヲ挿入セリ
(淸岡)
附錄ノ字ハ要用ナルカ
(栗塚)
款ト云ヒ節ト云フヲモ得ザルヲ以テナリ
第六百十七條
(栗塚)
本條ハ反譯上ニテ尊屬親及ビノ下ヘ使用者又ハト云フ字ヲ「此等」ノ下ヘ親族ト云フ二字ヲ挿入セリ
(松岡)
正當ト云フ字ハ養ニ對シ養ハ不正當ナルヤト云フ嫌ヒアルニアラズヤ
(栗塚)
本條ハ人事篇ニ於テ規定セラルベシ
(委員長)
然リ
第六百十八條
(栗塚)
本條ハ設定證書トアルヲ反譯上ニテ設定名義ト修正ス
第六百十九條
(委員長)
本條ハ何故ニ使用權住居權ヲ讓渡スルヲ得ルニ賃貸スルヲ得ザルヤ
(栗塚)
賃貸ヲ得セシムルトキハ用收權トナレバナリ
第六百二十條
(栗塚)
本條ノ用收者ト同ジク云々トアルハ用收者ト同ジクノ義ニシテ割合ノ同ジクニアラズ
(委員長)
此文字ニテハ其意味ヲ見ル能ハズ
(栗塚)
然ラバ割合ニ應ジノ下ヘ用收者ト同ジクト云フヲ挿入シ又ノ下「用收者ト同シク其」ノ數字ヲ刪ルベシ
可決ス
第二節 賃借人ノ權利
第六百三十三條
(栗塚)
用收權ヲ存置スル以上ハ本節ニモ關係ヲ有スルニ付キ尙ホ修正ヲ要スベシ本條ハ報吿委員ニテ舊ニ復セリ
可決ス
第六百三十四條
(栗塚)
本條モ報吿委員ニテ復舊セリ
可決ス
第六百三十五條
(栗塚)
本條モ報吿委員ニテ舊案ニ復セリ且ツ起案者ガ「下水溜」ノ下ハ又水道管ノ疏浚及ビ一般ニ賃借ト稱スル修繕ニ任セズトセリ
(尾崎)
地方ノ慣習アル場合云々ハ存置シタシ
(南部)
疊建具ノ如キハ估却スルヲ得ベキモノトナルヲ以テ賃借人ノ負擔トシタシ
(尾崎)
元來轉貸ヲ爲サシムルハ不可ナリ
(栗塚)
其點ハ既ニ議定サレタルヲ以テ奈何トモシ難シ
(南部)
地方ノ習慣云々ヲ記示スルハ不可ナリ
(委員長)
種類ヲ列擧スル譯ナレバ細密ニ羅列セザルベカラザルモ否ラザレバ要點ヲ示指スルノミニシテ足レリ
(淸岡)
地方ノ慣習云々ノ可否ヲ決シテハ如何
(委員長)
地方ノ慣習云々ハ記示セザルモ契約ヲ更正スレバ可ナリ
可決ス
(村田)
原文ノ儘ニ附セラレン事ヲ望ム
(委員長)
第五百八十九條三項ハ天井ヲモ大修繕トスルハ穩ナラザルニ付キ練瓦又ハ石造ノ重ナル屋壁又ハ基礎ノ修繕ハ一部タリトモ之ヲ大修繕ト見做ストシ天井ニ關スル部分ヲ除去シテハ如何
(南部)
一部タリトモト云フハ不可ナリ
(栗塚)
重モナル壁若クハ基礎ノ修繕又ハ重モナル梁柱ノ變更ハ之ヲ建物ノ大修繕ト看做ストシテハ如何
(委員長)
屋根トヲ挿入シタシ
(栗塚)
屋根若クハ重モナル壁ノ修繕又ハ重モナル梁柱若クハ基礎ノ變更ハ之ヲ大修繕ト看做ストスベシ
可決ス
(栗塚)
同條第二項ハ石垣堤塘及ビ圍障壁ノ改造モ亦大修繕タリトスベシ
(委員長)
先ヅ此ノ修正ニ措クモ尙ホ此條ハ報吿委員ニテ詮議スベシ又第六百三十五條ハ地方ノ習慣アルヲ記示シテハ何此之ヲ記示シタレバトテ賃借權ノ賣買讓與ニ妨ゲアラザルナリ
(淸岡)
習慣云云ノ點ヲ別ニ記示スルハ不可ナリ寧ロ一般ニ賃借ト稱スル云々ノ下ヘ附記スルヲ可トス
結局原案ニ決ス
第六百四十四條
(栗塚)
本條ハ原案ニ復シ修正ハ取消スベシ
無異議
第六百四十五條
(栗塚)
新入ノ第三項ヲ除ク
可決ス
第六百五十一條
(栗塚)
本條モ舊案ニ復セリ
可決ス
第六百五十六條
(栗塚)
本條第一項ハ他ニ讓渡サントスルトキハト云フ修正ヲ取消シ第二項ハ舊案ニ復スベシ
可決ス
第六百八十九條
(栗塚)
本條モ舊案ニ復ス
(委員長)
此餘ノ條例ト云フハ不可ナリ
(村田)
此他第五百七十三條ノ條例ハ右ノ場合ニ之ヲ適用スベシ
(南部)
此外云々トスベシ
(栗塚)
其他トシテハ如何
(南部)
不可ナリ
(栗塚)
第五百七十三條ノ此他ノトシテハ如何
(委員長)
第五百七十三條ニ此餘アルノ觀ヲ爲スベシ此餘ト云フハ同物ノ上ニ付テハ云フヲ得ベキモ異物ノ上ニ付テハ云稱スルヲ得ズ
結局此儘ニ決ス
第七百六條
(栗塚)
第二項ノ用收者云々刪除點ヲ生カスベシ
可決ス
第七百八十六條
(栗塚)
第二項ノ第二ノ負擔ハノ下使用若クハ賃借ノ物權又ハ使用賃借云々トセリ
可決ス
第七百八十九條
舊案ニ復ス
第六百七十七條
(栗塚)
本條ハ其修正ヲ廢シ原案ニ復セリ
(尾崎)
地稅ヲ拂フモノハ必ラズ所有者ナル譯ナレバ所有者ヨリ其地稅ヲ納付セシメザルベカラズ
(南部)
永借人ハ其收獲物ヲ得取スルモノナレバ永借人其責任ヲ受ケザルベカラズ
(栗塚)
永借人ハ其收入ヲ得取スルモノナレバ租稅ヲ納付スルハ理ノ當サニ然ルベキモノナリ又今日ノ永雇作ハ恰モ所有者ノ如キ姿ヲ有スルニアラズヤ
(南部)
永雇作ト云フモノハ尋常ノ雇作人ト同一ノ權力ニアラズヤ地目ヲ變換スルヲモ得ベキモノナリ
(委員長)
本條ノ修正ハ元ト用收權ニ關係スルニ起因セシモノニアラズ實際ニ於テ此修正ノ如クナラザルヲ得ザルモノト云フニ依レリ
(南部)
本條ノ修正ヲ原案ニ復スルトキハ現今ノ稅法ノ上ニ於テモ甚ダ都合宜シカルベシ
(委員長)
通常ト非常トヲ問ハズ永借人其租稅ヲ賦課セラレ若シ其租稅ヲ納付スルヲ得ザルトキハ公賣處分ニモ逢ハザルベカラザルニ至ルト云フハ地主ハ殆ンド有名無實ノモノトナルベシ
(栗塚)
維新以來ノ習慣ハ其租稅ハ永雇作人ヨリ納付スルモノトナレリ況ンヤ道理上亦タ收獲ヲ得取スルモノ其納稅ノ負擔ヲ負ハザルベカラザルノ義務アルニ於テヲヤ
(今村)
本條ハ從來我邦ニ慣行セル永雇作ニ恰當セシムル旨意ニアラズ新地開墾スベキモノニ應用セントシタルモノナリ
(委員長)
永借權ニ租稅ヲ賦課スベキハ永借者其收獲ヲ得取スル理由ナリト云フ譯ナレバ單ニ永借權ノミナラズ其他ノモノニモ收得者ニ對シテ賦課セザルベカラザルニ至ラン
(栗塚)
原案ノ但以下ハ稅法ニ關スル法律ガ別ニ規定シタルトキハ此限ニアラズトシテハ如何
(村田)
永借人其租稅ヲ納付スルモノニアラザルトキハ例ヘバ東京ニ住セル人ニシテ北海道ノ開墾地ヲ其地ノ人ニ永貸借ヲ爲シタルトキハ其土地ニ關セル租稅ヲ東京ニ於テ徵收セザルベカラザルニ至ルノ不都合アリ
(箕作)
個ハ内務省若クハ農商務省等實地地面ニ關シ詳知シタル所ヘ問合ス事トシテハ如何
(今村)
原案ニハ通常ト非常トヲ問ハズ一切ノ地稅ヲ拂フトアルモ租稅ノ拂ヒ方ニ關スル所ハ稅法ニ關スルモノニシテ民法ニ於テハ單ニ負擔ノミヲ示定スレバ可ナリ
(委員長)
本條ハ先ヅ此修正ニ附シ置キ尙ホ能ク地上ニ關シ熟知セル人ニ詮議スベシ
第七百七十七條
(栗塚)
起案者ハ本條末項ヲ刪除セリ起案者云フ日本人ハ土藏ニ窖ヲ穿ツトスレバ蓋シ不滿ナラント思惟シタルニ否ラズト云ヘバ此項ノ如キハ刪除シテ可ナリ
(今村)
本條ハ末項ヲ除ク外報吿委員ニ於テハ元案ヲ是トスルニアリ互有壁ヲ免レントスレバ分界線ノ餘地ヲ讓ラザルベカラズ
(委員長)
此點ニ對シ自分ガ曩日陳述シタル點ハ議場ノ採用ヲ得ザルガ其旨意ハ互有壁ノ堅牢ヲ害セザル限リハ分界壁ヲ互有ニスル事ヲ得ト云フニアリ
結局價格ノ半ヲ拂ヒテトアルヲ價格ノ半ヲ償ヒテト修正スレバ不都合ナシト云フニ決ス
(委員長)
此末項土藏ニ適用スル規定ハ刪除シテ可ナルヤ
(淸岡)
土藏造ニナスモ人間ノ住居スルモノナレバ前項ヲ以テ適用セラルルヲ得ベシ
(委員長)
人間ノ住スル所ハ假令土藏造ナルモ土藏ト云フヲ得ザルベシ故ニ倉庫ノミニ之ヲ適用セザルモノトスレバ可ナリ卽チ此條例ハ倉庫ニ之ヲ適用スル事ヲ得ズト
修正スルニ決ス
第七百七十八條
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項「直卽チ正面」ト云フ數字ヲ刪リ第二項ハ全ク刪除シ第三項ハ「右二個ノ場合ニ於テ」ト云フ數字ヲ刪リ此ト云フ字ヲ冠置シ「之ヲ計算ス」トアル上ニ「垂直ノ方向ニヨリ」ト云フ字ヲ挿入セリ
(委員長)
垂直ノ方向ニテトスベシ
可決ス
(松岡)
樓縁トハ二階縁ナリヤ
(今村)
佛蘭西國ノ運動場ノ如キヲ云フ
(淸岡)
縁側ヲモ作ル事ヲ得ザルカ
(栗塚)
三尺ノ距離アラザレバ之ヲ作ルベカラズ
(南部)
建物ニトアルハ建物ガトスベシ
(松岡)
斯ク修正スレバ建物ガ看望スルト云フ譯ニナルニアラズヤ
(栗塚)
建物ガ看望スルト云フ譯ナリ
卽チ建物ガト修正ス
第三篇
第六百三條
(栗塚)
本條ハ狩獵ノ目的トナルベキ禽獸ニシテ他人ノ所有地内ニ在リ又ハ所有者ノ特ニ之ヲ放置シ及ビ飼養シタルモ自由ニ飛走スルモノハ先占ヲ以テ之ヲ得取スル事ヲ得但所有者ニ對シ損害アルトキハ之ヲ賠償スベシト修正セリ此修正ハ曩ニ本會議定ノ旨ニ遵ヒ先占權アルヲ示シタルモノナリ
(松岡)
他人ノ所有地内ニ放置シ或ハ飼養スルト云フハ不可ナリ
(淸岡)
特ニ之ヲ放置スルト云フ場合アルカ
(今村)
曩ニ獨逸公使支那產ノ雉子ヲ得ント欲シ之ヲ上海ヨリ取リ寄セ自己ノ所有地内ニアラザル地ニ放置シテ其蕃殖ヲ計リシ事アリ
(淸岡)
個ハ放置ノ例トナルモ損害ノ例トナラズ
(尾崎)
此損害賠償ハ收獲シタル禽獸ノ損害賠償ニアラズ惟土地ヲ踏荒シタル損害ノ賠償ニ過ギザルナリ
(松岡)
此條ハ元來不用ノモノナリト思惟スルモ刪除セザルモノトナレバ他人ノ所有地内ニ在リ又ハ所有者ノ特ニ之ヲ放置シ及ビ飼養シタルモト云フ文字ノミハ除去シタシ
(箕作)
但書ヲ刪除スレバ可ナリ卽チ又ハノ下其ノ字ヲ挿入シ特ニト云フ字及ビ但書以下ヲ刪除ス
(箕作)
此修正文ハ文章穩當ナラズ狩獵ノ目的トナルベキ禽獸ニシテ自由ニ飛走スルモノハ他人ノ所有地内ニアリ其土地ノ所有者ノ云々トシテハ如何
成立セズ
第五百七十三條
本條第四項ハ起案者ヨリ修正シテ若シ用收權ニ定マリタル繼續期アルトキハ所有者ハ用收者ガ右ノ建築物及ビ植付物ヲ除却セントスル事アラバ之ヲ先買セントノ意思ヲ用收權絕止前一年内ニ於テ吿知スル事ヲ得トス
(南部)
此點ハ實ニ渥腆ノ感アレバ刪除スベシ
(淸岡)
用收權ヲ狹縮スル意思ナレバ刪ルベシ否ラザレバ刪ルベカラズ
結局刪除ニ決ス
第四百八十四條
本條ハ曩ニ再度未定ニ附シタルモノニ係ル
(委員長)
ボアソナード氏ノ論ハ金銀貨ハ勿論政府ノ發行スル紙幣ハ強制通用トスト云フニアリ
(淸岡)
銀行紙幣ノ如キ政府ガ發行ヲ認メタルモノヲ強制通用トセザルハ不可ナリトス
(松岡)
政府ガ保證ヲ取有シテ紙幣ノ發行ヲ許スト云フハ殆ンド歐洲大陸ノ諸國ニハ蓋シ稀少ナルベシ唯米國ノ一國ノミ其方法ヲ用ヒシ事アリ英國バンコフヘンクランドノ紙幣ノ如キハ政府ノ紙幣ト云フヲ得ズ該銀行ノ紙券ニ金額ヲ記示シテ發スルノミ然ルニ日本各銀行ハ政府ニテ其抵當ヲ取有シタルモノナレバ政府ノ紙幣ト等シキ効用ヲ有セシメザルベカラズ
(委員長)
英國バンコフヘンクランドノ如キハ英國政府ノ債主タルモノナレバ或ル場合ニ於テハ議院ニ於テバンコフヘンクランドノ紙幣發行ヲ認ムルモノナリ日本ノ銀行ノ如キハ政府ガ抵當ヲ得取シタレバ倒產ノ場合ニ於テハ其紙幣ヲ兌換セザルベカラザルノ義務アリト雖モ政府發行ノ紙幣ト等シク其價額ニ變動ヲ生ゼシメザルニ限ル事ヲ得ズ
(淸岡)
銀行紙幣ハ全價額ヲ有シテ通用セシムルモノトセザレバ日本ノ經濟社會ニ容易ナラザル不都合スベシ
(委員長)
其點ヲ別ニ記示スルハ格別ナルモ強制通用ノ中ヘ銀行紙幣ヲモ包含セリト云フ說ニ至テハ不都合ト云ハザルベカラズ個ハ尙ホ主務省ヘ問合セ銀行紙幣モ強制通用ニ準ズルカヲ詮議スベシ
結局本條ハ強制通用ニハ銀行紙幣ハ包含セザルモノト決スルモ尙ホ主務省ヘハ問合スベシト云フニ決ス
第五百五條
(今村)
本條第二項ハ起案者ヨリ改案シ來レリ此改正ノ趣キハ舊案ノ主旨トハ大ニ異レリ此改案ニ至リシ運ビバ諸種ノ入組ミアリ各種ノ問答ヲ盡シ起案者ハ更ラニ前說ヲ翻スニ至レリ
(委員長)
此條ヲ議スルニハ各參考物ヲ要スベキニ付キ次回ニ讓ルベシ
第五百二十五條
(今村)
本條ハ起案者抵當トアルヲ負擔アルト云フニ修正セリ抵當ノミニテハ特權ト云フ意義ヲ漏脫スレバナリ本條ハ曩ニ第三項ノ承諾ハト云フハ誰レノ承諾カト云フニ付キ議論ノ末留保ニ附シタリ個ハ誰レノ承諾ニテモ代テ債務ヲ辨濟セントスル人ノ承諾ナレバ可ナリト云フ譯ナリ
(委員長)
曩日債務者ノ義務ヲ果スヲ肯セザル自己ノ嫌惡スベキ人間ニ代辨セラレシトキハ自己ノ權利ニ害アルニアラズヤト云フ論アリシ
(今村)
既ニ債權ノ讓渡シヲ禁ゼザリシ以上ハ其論ハ通用セザルナリ
(委員長)
此抵當ハ甲某ヘ附シタルモノカ債務者承知セズ乙某ニ移轉シタルトキハ不都合ナリト云フヨリ質問スベシト云フニ至レリ
(今村)
更改ノ爲メニ債務ガ層重スレバ債務者ノ承諾ヲ要スベキモ其義務層重セザルモノナレバ何ゾ妨ゲアラン
第五百二十二條
(栗塚)
本條ハ原案ノ儘ニ復シタシ
(委員長)
本條モ隨分困難ナルニ付キ次回ニ決スベシ
第六百四十六條 受囑者ハ相續人ニ對シ爲シタル引渡請求ノ時ヨリ後ニアラサレハ果實及ヒ利息ニ付キ權利ヲ有セス但期限ノ滿了シ條件ノ成就シタル事ヲ要ス
然レトモ左ノ三個ノ場合ニ於テハ受囑者ハ死亡又ハ滿期ノ時ヨリ請求ナク果實ニ付キ權利ヲ有ス
第一 遺囑者カ此旨ヲ述ヘタルトキ
第二 贈遺カ養料ノ性質ヲ有スルトキ
第三 相續人カ受囑者ノ爲メ爲サレタル遺囑處分ヲ其受囑者ニ故意ニテ隱匿シタルトキ
(栗塚)
本條第一項果實及ビ利息ニ付キトアル上贈遺物ノト云フ四字ハ反譯上ニテ挿入セリ又報吿委員ニ於テ但ノ字ヲ刪リ「若シ贈遺カ有期又ハ條件附ナルトキハ尙ホ」ト云フ數字ヲ挿入セリ
(村田)
本條二項ニハ請求ナリ果實ニ付キ權利ヲ有ストアリテ利息ノ字ナキハ第一項ト同ジカラズ如何
(栗塚)
二項ニ利息ノ字ナキモ自ラ含蓄スルト云フ譯ナリ
(今村)
二項ハ重復ヲ省略シテ利息ノ文字ヲ除キタリ歐文ニハ如此文體アルヲ以テナリ
(松岡)
滿期トアルハ滿期日トスベカラザルカ
(栗塚)
滿期日トスルト滿了ト異ナラザルニ至ルベシ
(松岡)
第一項ニアル利息ノ字ヲ刪ルベシ
(栗塚)
民法ハ字句ニ拘泥シ刑法同樣ニ視認ストキハ第二項ニモ利息ノ字ヲ挿入セザルベカラズト云フニ至ルモ既ニ用收權ニ於テモ非常ノ負擔ト云フニ負擔ハ租稅ノ負擔ト云フヲモ認メタルニアラズヤ
(委員長)
利息ト云フ字ヲ除去スレバ兎モ角否ラズシテ一方ニハ利息ノ字アリ他ノ一方ニハ利息ノ字ナキハ不可ナルニアラズヤ
(栗塚)
文字ニ拘泥スレバ滿期ト云フ字モ期限ノ滿了條件ノ成就ノ時ヨリト云フニセザルベカラザルニ至ラン
(松岡)
外國人ノ腦髓ニハ此文體ニシテ了解スベキナルカモ知ルベカラズト雖モ日本人ノ腦髓ト日本ノ用語トヲ以テスレバ此默ハ甚ダ解釋ニ苦シムベシ
(栗塚)
民法ハ自在ニ解釋スルヲ得ベキモノナルニ着々文字ニ拘泥シ刑法同樣文字ニ束縛サルルハ洵ニ民法ノ要旨ニ反スルモノト云フベシ
(委員長)
贅論ハ之ヲ廢止シテ意義ヲ明了ナラシムルニ如カズ
(西)
果實ニ付キ權利ヲ有ストアルヲ其權利ヲ有ストシタシ
遂ニ果實及ビ利息ニ付キ權利ヲ有スト修正ス
第六百四十七條 贈遺セラレタル物ハ若シ贈遺カ單純ナルトキハ遺囑者ノ死亡ノ時ニ存スル形狀ニテ若シ又贈遺カ有期又ハ停止ノ條件附ナルトキハ引渡ヲ要求スル事ヲ得ル日ニ存スル形狀ニテ其天然ノ附從物ト共ニ受囑者ニ引渡サルル事ヲ要ス
遺囑者カ贈遺物ニ受ケシメ又ハ意外ノ事若クハ不可抗力ニ因リ之ニ生シタル改良又ハ損壞ハ受囑者ヲ利シ又ハ之ヲ害ス
相續人カ物ニ加ヘタル右同一ノ改樣ハ其相續人ト受囑者トノ間ニ互相ノ賠償ヲ生セシム
若シ贈遺カ解除ノ條件付ニテ爲サレテ其條件カ成就スルトキハ受囑者又ハ其相續人ハ物ヲ其存スル形狀ニテ返還ス但意外ノ事又ハ不可抗力ノ結果タラサル改良又ハ損害ニ付キ當事者間ノ互相ノ賠償ヲ妨ケス
(栗塚)
本條第一項天然ノ附從物ト云フハ報吿委員ニテ當リ前ノ附從物ト云フニ修正セリ
(尾崎)
當リ前ノ字モ天然ノ字モ之ヲ刪リ其附從物ト共ニトスベシ
(南部)
天然ト云フ原案ノ儘ニテ可ナリ用收權ニ於テモ天然ト云フニハ必ラズ人作ノ場合ヲモアレバナリ
(栗塚)
天然ト云ヘバ家作ノ雨戶ニ於ケル時計ノ鍵子ニ於ケルガ如キハ包含セシメ難キニ至ル
(村田)
既ニ天然ノ占有ト云フモノアルニアラズヤ天然ノ占有ト云フモ自然ト云フニ過ギズシテ人作ノ場合ナキニアラズ依テ原案ノ儘ヲ可トス
遂ニ自然ト修正ス
(栗塚)
本條末項ハ若シ贈遺ガ解除ノ條件附ニテ爲サレテトアルヲ爲サレ且ト修正セリ
(淸岡)
受囑者又ハ其相續人トアルハ如何
(村田)
相續人ハ受囑者ノ相續人ナリ
(委員長)
終末ノ當事者トハ何ヲ指スカ
(南部)
遺囑者及ビ受囑者ヲ云フベシ
第六百四十八條 不動產ノ受囑者ハ遺囑者カ遺囑後ニ土地又ハ建物ニ付テ爲シタル得取ヲ利セス其土地又ハ建物カ不動產ニ聯接シ又ハ不動產ノ利用ヲ改良スルニ供ヘラレタルトキト雖モ亦同シ但受囑者ノ爲メ更ニ遺囑處分ヲ爲シタルトキ又ハ其得取シタル物カ新ナル圍障若クハ分界ノ取拂ニ因リ遺囑者ニ因テ不動產ニ合體セラレタルトキハ此限ニ在ラス
贈遺セラレタル土地ニ第三者ノ爲シタル建築及ヒ植付ニシテ遺囑者ノ得取シタルモノハ常ニ遺囑者ニ因テ贈遺物ニ合體セラレタリト看做サル
右ノ外上ノ第二章ニ規定シタル如キ附添又ハ合體ノ場合ニ付テモ亦同シ
(栗塚)
本條ハ反譯上ニテ第一項ノ受囑者ハト云フヲ刪リ得取ヲ利セズトアルヲ得取ガト修正シ供ヘラレタルトキト雖モ亦タ同ジトアルヲ供ヘラレタルトキト雖モ其受囑者ヲ利セズトシ報吿委員ニテハ遺囑者ガ遺囑後ニトアル下ニ得取シタルノ土地又ハ建物ハ假令其不動產ニ聯連シ云々トシ不動產ノ利用トアル上ニ其ノ字ヲ入レ圍障ノ下ニ設置ノ文字ヲ置キ合體セラレタルトキハトアルヲ合體セラレタリト看做スベキトキハト修正セリ
(今村)
本條ハ道理上毫モ間然スルナシト雖モ日本ノ習慣ニハ甚ダ反對スルヲ以テ第二項ヲ裏面ヨリ反對ニ取除ヲ示ス事トシタシ
(栗塚)
二項ノ常ニト云フヲ反對ノ明示ナキニ於テハトスレバ其習慣ヲ破ルノ憂ヒナシトス
(南部)
本條ハ原案ヲ可トスルカ修正ヲ可トスルカヲ決シタシ第一項ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
(松岡)
二項ハ建家及ビ植付物ノ如キ土地ニ附從シタルモノトシテ其儘取去ラルルハ當然ナリ
(村田)
然リ
(今村)
伯林ノ如キハ人ノ土地ニ建築スルヲ止メシメントスルニ傾向セリ建築ニ於ケル地面ハ地上權アリト雖モ底地ト建築物トニハ關係ヲ見ザルヲ以テ此民法ノ主義ニ依レバ底地ヲ處分スルヲ妨グルヲ得ズ
(栗塚)
今村報吿委員ノ說ハ要スルニ自己ノ建築シタルモノニアラザル建物ヲ受囑者ニ付與スルハ受囑者ハ不當ノ利益ナリト云フニアリ
遂ニ栗塚報吿委員ノ修正說ニ可決ス
第六百四十九條 若シ贈遺セラレタル物カ遺囑ノ前又ハ遺囑ノ後遺囑者又ハ第三者ノ債務ノ爲メ抵當又ハ動產質トセラレタルトキハ相續人ハ引渡前ニ其物ノ負擔ヲ免レシムルノ義務ナシ但遺囑者カ相續人ニ此義務ヲ負ハシメタルトキハ此限ニ在ラス然レトモ若シ受囑者カ抵當權ヲ以テ訴追セラレテ追奪セラレ又ハ債務ヲ辨償スル事ニ強要セラレタルトキハ相續人ニ對シ擔保ノ求償權ヲ有ス
贈遺セラレタル物ノ移付ノ効力ニシテ贈遺ノ默示ノ廢罷ヲ爲スモノハ此編ノ第二部第五章ニ之ヲ規定ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項抵當權ヲ以テ訴追セラレテトアルヲ訴追セラレ且トセリ債務ヲ辨償スルト云フ上ニ已ムヲ得ズノ文字ヲ挿入シ辨償スル事ニ強要セラレタルトキハトアルヲ辨償シタルトキハト修正セリ「テ」ノ字ヲ「且」ニ換ルハ可決セラレ其他ハ否決ニ屬ス
(村田)
抵當權ノ下ニ又ハ動產質權ト云フヲ挿入シ上文ノ抵當又ハ動產質トアルニ對照スルヲ得ザルベカラズ
可決ス
第六百五十條 各箇ニ定マリタル物ノ贈遺ハ若シ其所有權カ遺囑者ノ死亡ノ時ニ於テ之ニ屬セサルトキハ無効タリ
然レトモ若シ遺囑ニ遺囑者カ物ノ他人ニ屬スル事ヲ知リテ相續人ニ受囑者ノ爲メ其物ヲ得取スヘキ義務ヲ負ハシメント欲シタル證アルトキハ相續人ハ右ノ得取ヲ爲ササレハ贈遺セラレタル物ノ評價額ヲ負擔ス
贈遺セラレタル物カ相續人ニ屬シテ遺囑其事カ指定セラレタルトキ常ニ遺囑者ニ右ノ意思アリト推定ス
(栗塚)
本條第三項ハ反譯上ニテ遺囑其事ガトアルヲ遺囑中其事ガトシ指定セラレタルトキト云フ下ニ「ハ」ノ字ヲ加フ聞ク日本ノ封建時代ニハ遺囑書ヲ置文ト云フ事アリシト假令バ夫ノ曾我家ニ於テハ川津字ノ來テ自己ノ所領地ヲ領取セン事ヲ處シ置文シテ之レガ贈遺スル人ヲ指示シタルガ如シ
(尾崎)
本條第三項ハ相屬人ニ囑シタルモノヲ遺囑スルヲ得ズト云フ譯カ
(栗塚)
然リ相續人卽チ他人ノ所有ニ係ルモノニシテ相續スベキ品物中ニアラズ
(松岡)
然ラバ第一項ノ精神ニ反スルヲ以テ末項ハ刪除スベシ
(南部)
第三項ハ相續人ニ囑スベキモノヲ指シタルニアラズヤ相續人自己ノ所持物ヲ云々スルト云フ譯ナシ
(栗塚)
起案者ノ說明ハ外人ノ所有スルモノト雖モ之ヲ請求シテ贈付セザルベカラザル場合モアルヲ以テ相續人ノ所有物ヲ贈遺スルヲ得ベキハ當然ナリト云フニアリ
(淸岡)
本條ハ相續人相續ヲ爲シタルトキニ於テ意外ニ遺囑ノ書類アルガ如キハ相續人ハ甚迷惑ナルモノト云フベシ
(今村)
相續人之ヲ迷惑トスレバ其相續ヲ抛棄セザルベカラズ
(西)
前條末項第二部第五章ニ之ヲ規定スト云フハ右ニ該當セザルガ如クナルヲ以テ尙ホ詮議スベシ
(委員長)
然リ
本條ハ原案ニ決ス
第六百五十一條 第三者又ハ相續人自身ニ屬スル不動產ノ贈遺カ有効ナル場合ニ於テハ相續人ヨリ受囑者ニ爲シタル讓渡ノ登記ヲ爲ス事ヲ要ス
第三百七十條ハ受囑者ト不動產ニ關スル物權ノ他ノ讓受人トノ間ニ於ケル優先權ノ規定ニ之ヲ適用ス
(松岡)
本條ノ登記ハ誰レガ之ヲ爲スモノナルカ
(南部)
相續人ト受囑者ナリ
(村田)
讓渡ノ證書ノ登記トシテハ如何
(栗塚)
何レナルモ差障ナシ
(委員長)
相續人自己ニ屬スル不動產ノ贈遺云々ハ如何
(栗塚)
前條末項ヲ指シタルモノニシテ其物ガ不動產ナルトキハ登記セザルベカラズト云フ譯ナリ
(松岡)
本條ノ如キハ刪除シテ可ナリ
(栗塚)
本條ヲ刪ルモ別ニ宜シキヲ加フルニアラズ
(松岡)
本條及ビ前條ハ蛇足ニ屬ス報吿委員ハ蓋シ鷄肋ノ感アルベシ
原案ニ決ス
第六百五十二條 遺囑者ノ不動產ノ贈遺ニ關シテハ受囑者ハ相續人カ任意ニテ承諾シタル引渡ノ日ヨリ其日ヲ算入シテ十五日内ニ其贈遺ノ登記ヲ爲ス事ヲ要ス
若シ相續人カ贈遺ヲ爭フトキハ引渡ノ請求ハ登記帳簿ニ拔書ヲ以テ之ヲ記入シタル後ニアラサレハ裁判上受理セラレス若シ又判決カ日後相續人ニ對シ爲サレタルトキハ其判決ハ最早控訴スヘカラサルモノト爲リタル日ヨリ其日ヲ算入シテ十五日内ニ請求書ノ縁邊附記ト共ニ其判決ヲ帳簿ニ登記スル事ヲ要ス
(栗塚)
本條ノ若シ又ノ下判決ガ日後相續人ニ對シ爲サレタルトアルヲ相續人ガ敗訴ニ歸シタルトキハト修正セリ
(淸岡)
登記帳簿ニ拔書ヲ以テ之ヲ記入スルトハ何ヲカ記入スルヤ
(南部)
其故障ノ旨趣ヲ記入スルモノナリ
(南部)
其判決ハ最早云云トアルヲ其判決ガ最早云々トシタシ
可決ス
第六百五十三條 其他ノ場合ニ於テハ贈遺ハ猶ホ條件ニ因テ停止セラルルトキト雖モ相續ノ開始ノ年内ニ之ヲ登記スル事ヲ要ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ其他ノ場合ニ於テハ贈遺ハノ下「猶ホ條件ニ因テ停止セラルルトキト雖モ」ト云フヲ刪リ結尾ハ尙ホ贈遺ガ條件ニ因テ停止セラルルトキト雖モ亦同ジト修正セリ
可決ス
第六百五十四條 前條ニ定メタル期間ニ於テ登記ヲ爲ササルトキハ不動產ノ贈遺ハ其不動產ニ付キ物權ヲ得取シ且第三百六十八條以下及ヒ先取特權竝ニ抵當ノ事項ニ於テ定メタルモノニ從ヒ其物權ヲ最初ニ公示シタル第三者ニ之ヲ對抗スル事ヲ得ス
無異議
第十章 無名ノ合意及ヒ契約
第六百五十五條 合意及ヒ契約ニシテ法律ヲ以テ下ノ諸章ニ其規則及ヒ効力ヲ定メタルモノノ外尙ホ各箇人ハ物權又ハ人權ヲ創造シ若クハ移轉シ又ハ改樣シ若クハ消滅スル爲メ適宜ノ合意又ハ契約ヲ爲ス事ヲ得但如何ナル場合ニ於テモ公ノ秩序又ハ善良ナル風俗ニ違ハサル事ヲ要ス
無名ト稱スル此合意又ハ契約ハ第二編第二部ノ條例及ヒ有名契約ニシテ之ト最モ類似シタルモノノ條例ニ因テ管知セラル
(栗塚)
本條ハ人權ヲ創造ストアルハ人權創設ノ誤リ合意又ハ契約トアル又ハノ字ノ卽チノ誤リ第二項ノ
(無名)
トアル括弧ハ刪除シ無名ト稱スル云々トスベシ
可決ス
(淸岡)
無名ト稱スルト云フハ右ノ契約ハトセザルベカラズ
(南部)
無名ト云ハザレバ命題ニ適合セザルヲ以テナリ
第十一章 生存者間ノ贈與
第六百五十六條 生存者一ノ贈與ハ贈與者カ受諾スル受贈者ニ無償ニテ卽チ對價ヲ受ケスシテ物權又ハ人權ヲ付與スル合意ナリ
又贈與ハ贈與者カ受贈者ノ物ニ付キ有スル物權ノ無償ノ抛棄又ハ受贈者ニ對シテ有スル人權ノ釋放ヲ以テ成ル事ヲ得
(今村)
第六百四十八條ハ建家ヲ贈遺シタル其後ニ於テ又其土地ヲ他人ニ賣却シタルトキハ其建家ハ買取人ニ屬スルカ否ヲ「ボアソナード」氏ニ問合セタルニ「ボアソナード」氏曰其場合ニ頗ル奇珍ナル場合ヲ以テ追テ回答スベシト云ヒ越サレタリ
(栗塚)
本條ハ反譯上釋放ノ上ニ無償ノ二字ヲ挿入シ報吿委員ニテ「受諾スル」トアル上ニ「其贈與ヲ」ト云フ字ヲ入レ贈與者ガ贈與スベキ人ヲ受諾スルト云フ解釋ヲ爲サザラシメン爲メナリ又物ニ付キトアルハ物ノ上ニトシタリ
(尾崎)
其贈與ヲト云フヲ挿入スルハ必要ニアラズ之ヲ挿入セザルモ斯ク解釋セラルベキモノニアラズ
(栗塚)
其贈與ヲト云フヲ挿入セズシテ誤リナキカ
(淸岡)
誤リナシ
第六百五十七條 贈與ハ單純ナリ、有期ナリ又ハ條件附ナル事ヲ得然レトモ停止又ハ解除ノ條件ハ贈與者ノ方ニ於テ純然隨意タル事ヲ得ス若シ之ニ違フトキハ其贈與ハ無効タリ
贈與ハ法律ニ定メタル原由ノ爲メニアラサレハ贈與者又ハ其相續人ニ因テ廢罷セラルル事ヲ得ス
(松岡)
單純ナリ有期ナリトアル「ナリ」ノ字ヲ刪ルベシ
可決ス
(淸岡)
純然隨意タル事ヲ得ズト云ヘルモ合意ニ純然隨意ナルモノナシ
(栗塚)
贈與ニ付テハ假令バ自己ガ其行爲ヲ爲ス事アレバ此物件ヲ贈與スベシト云フヲ得ズ賣買ニ於テハ純然隨意タル事ヲ得ルモ贈與ハ隨意タル事ヲ得ズト云フ譯ナリ
(松岡)
自分ガ官命ヲ以テ旅行スル事アレバ此家作ヲ贈與スベシト云フガ如シ
第六百五十八條 生存者間ノ贈與カ他人ニ屬スル物又ハ權利ヲ目的トスルトキハ無効タリ贈與カ贈與者ノ推定相續人ニ屬スル物又ハ權利ヲ目的トスルトキモ亦同シ但贈與者カ物ノ他人ニ屬スル事ヲ知リタル旨ヲ明言シタルト否トヲ區別スル事ヲ要セス
贈與者ハ受贈者ノ受ケタル追奪ノ擔保人タラス但其追奪カ贈與以後ニ係ル贈與者一身上ノ所爲ヨリ生シ又ハ他人ノ物ノ贈與ニ於テ詭譎アルトキハ此限ニ在ラス
(栗塚)
遺囑ニテハ相續人ノ所有物ヲ贈與スルヲ得ルモ本條ハ其反對ナリ報吿委員ニテ他人トアル下ヘ又ハ然ノミナラズ贈與者ノ推定云々トシ物又ハトアルヲ若クハトシ「モ亦同シ」トアルヲ「ハ無効タリ」トセリ
(村田)
然ノミナラズト云フ字ハ必要ヲ見ズ
(栗塚)
然ノミナラズト云フハ他人ニ屬スルモノハ勿論相續人ニ屬スルモノヲモ贈與スルヲ得ズト云フ譯ナリ故ニ他人ハ勿論トシテハ如何
可決ス
第六百五十九條 不動產物權ノ生存者間ノ贈與ハ第三百六十八條以下ノ條例ニ從ヒ登記スル事ヲ要ス
其他有償名義ノ合意ニ關スル一般ノ規則ハ贈與ニ之ヲ適用ス但法律又ハ贈與證書ヲ以テ明示又ハ默示ニテ之ニ違フノ意アルトキハ此限ニ在ラス
(栗塚)
本條ノ之ニ違フノ意アルトキハト云フハ報吿委員ニテ之ニ違フタルト修正セリ
(淸岡)
一般ノ規則ハ登記ノ場合ノミカ
(栗塚)
有償名義ニ關スル總體ノ規則ナリ
(淸岡)
贈與證書ヲ以テト云フハ當ヲ得ズ
(栗塚)
贈與證書ニ依リトシテハ如何
(村田)
原案ノ儘ニテ可ナリ
(淸岡)
之ニ違フハ之ニ反スルトキハトシタシ
可決ス
第六百六十條 生存者間ノ贈與ノ方式、與ヘ及ヒ受クルノ能力、相續人ノ爲メ留保スヘキ財產ノ部分及ヒ贈與ノ廢罷ノ原由ハ此編ノ第二部第三章包括贈與ノ事項ニ之ヲ定ム
(栗塚)
本條ハ西委員ノ注意セラレシ如ク何ニ當ルヤ詮議スベシ
第五百二十二條
(栗塚)
本條ハ曩ニ未定ニ屬セリ本條ニ付テハ三島氏ノ修正文ト報吿委員ノ修正案トニ付キ議定ヲ乞フ
(松岡)
本條ノ意味ハ如何
(栗塚)
甲者乙者ニ吿テ曰自分ハ丙者ニ負債アルニ依リ自分ニ返濟スベキ金額ヲ以テ丙者ニ返還スベシト云フ場合ノ如シ
(村田)
報吿委員ノ修正ハ明了ナリ
(委員長)
原案モ熟考スレバ不明ニアラズ
(淸岡)
其辨濟ヲ受クル者卽チ受囑託人トハ同一人ト視ルヲ得ザルナリ
(栗塚)
原案ノ囑託人ト云フハ自己ノ債權者ト云フトハ同一人ナルモ之ヲ同一人ト視ル事難シ依テ原案モ明瞭トハ云フベカラズ
(村田)
債權者ガ債務者ヲ丙者ニ對シ辨濟スルヲ以テ領承スベキヲ吿グルト云フ譯ヲ以テ受囑託人ト云フハ丙者ヲ指スベシ故ニ債務者ニト云フヲ債務者ヲトシテハ如何
(委員長)
債務者ヲ囑託ト云フヲ得ズ債務者ヲト云ヘバ受囑託人ト云フハ誰レナルヤ
(村田)
丙者ヲ指スベシ
(委員長)
債務者ヲト云ヘバ債務ヲ囑託スルニアラズシテ債務者ヲ囑託スルトナルハ文理不通ナリ
(南部)
辨濟スル事ニ付キ自己ノ債務者ヲトスベシ
(淸岡)
可ナリ
可決ス
第十二章 賣買
第一節 賣買ノ總則
第一款 賣買ノ本性及ヒ組成
第六百六十一條 賣買ハ當事者ノ一方カ他ノ一方又ハ第三者ノ己レニ辨濟スル事ヲ約スル金圓ニテ定メタル代價ヲ受ケテ物ノ所有權又ハ其支分權ヲ他ノ當事者ニ移轉シ又ハ移轉スルノ義務ヲ負フ契約ナリ
賣買契約ハ下ノ條例ニ反セサル總テノモノニ付テハ有價ニシテ雙繋ナル契約ノ一般ノ規則ニ從フ
(栗塚)
本條第三者ノトアルハ報吿委員ニテ第三者ヨリトセリ
(村田)
本條ハ賣買トアルモ必竟賣方ヲ主トシテ買方ヲ示シタル意ニアラザルニ賣買トセシハ如何
(箕作)
他ハ賣方ト買方トヲ別記シタルモ本條ハ賣買トセザレバ不可ナリ
(松岡)
代價ト云フハ金圓ノミヲ指スカ
(栗塚)
否ナ代價ト云フハ有價物ヲモ云フモノナリ
(淸岡)
義務ヲ負フ契約ナリト云ヘルニ依リ辨濟スル事ヲ約スルト云フニ及バズ日本人ノ眼ニテハ辨濟スル事ヲ約スル金圓及ビ定メタル代價ト意味セラルル如シ
(箕作)
個ハ辨濟スル事ヲ約スル代價金圓ニ定メタルト云フ意味ナリ
遂ニ辨濟スル事ヲ約スル代金ヲ受ケテトスルニ可決ス
第六百六十二條 賣買ハ當事者ノ承諾ノミヲ以テ完成ス
然レトモ當事者ハ賣買ヲ各當事者ノ證ニ供スル公正證書又ハ私署證書ノ正本二通ノ錄製ニ繋ラシムル事ヲ得
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ完成ストアルヲ完成ナリトシ又正本二通ノト云ヘルヲ刪レリ起案者モ證據篇ニ於テハ利益ヲ異ニスル各人ニ證書ヲ作ラザルベカラザルモノトシタリ又繋ラシムルトアルハ從ハシムル事ヲ得トセリ
(淸岡)
繋ラシムルトスルヲ可トス卽チ繋ラシムルトスルニ可決ス
(尾崎)
完成ナリト云フハ完成スト云ヘルヲ可トス
卽チ完成スト云フニ決ス
第六百六十三條 承諾セラレタル賣リ又ハ買フノ片務ノ豫約ハ要約者カ第三百二十九條ニ從ヒ契約ヲ爲サント要求スル時ヨリ諾約者ニ其豫約ニ於テ定メタル代價及ヒ條件ヲ以テ契約ヲ爲スノ義務ヲ負ハシム
若シ明示又ハ默示ニテ受諾ノ爲メ何等ノ期間ヲモ定メサリシトキハ諾約者ハ要約者カ履行ヲ要求セスシテ經過シタルトキハ其豫約ハ不成立ノモノト爲スヘキ期間ヲ定メント裁判所ニ請求スル事ヲ得
(栗塚)
本條第二項ハ起案者更ラニ第三百二十九條ノ第四ノ次ニ挿入セリ又第一項ハ賣リ又ハ買フノ片務ノ豫約ガ受取ラレ及ビ承諾セラレタルトキハ要約者ガ第三百二十九條ニ記載シタル條件ニ從ヒ契約ヲ爲サント要求スル時ヨリ諾約者ハ其豫約ニ於テ定メタル代價及ビ條件ヲ以テ契約ヲ爲スノ義務ヲ負フト修正セリ
(松岡)
受取ラレ及ビ承諾セラレタルトキハト云フハ不可ナリ
(栗塚)
受諾セラレタルトキハトスベシ
可決ス
(箕作)
法理上ハ扨置キ實際上賣買ハ契約ニ因テ所有權移轉シタルモノト云フ感觸アリヤ
(西)
現今ノ實際ニテハ未ダ其感觸ナカルベシ
(委員長)
本條第二項ヲ第三百二十九條ノ五項ニ挿入スルハ不都合ナキヤ
(栗塚)
正ニ順理ノ宜シキヲ得ベシ
(淸岡)
第二項若當事者ノ双方ニ因リト云フハ如何
(栗塚)
交互ト云フ意ナリ
(箕作)
當事者ノ孰ノ方ヨリモトスベシ
可決ス
(松岡)
第二項ノ意味ハ如何
(栗塚)
要約者諾約者ニ對シ何日迄ニ引渡スベシトモ云ハズ又諾約者モ要約者ニ對シ其物ヲ引渡ザルベシトモ云ハザルトキハ幾日モ空過スルヲ得ザルモノナレバ裁判所ニ其期間ヲ定メラレン事ヲ請求スルヲ得ベシ
(松岡)
個ハ之ヲ第三百二十九條ノ五項ニ挿入シ因テ按ズルニ如此ハ極メテ愚法ニ屬スルモノニシテ此等ハ對手方ヘ通知スルヲ以テ可トス何フ裁判所ニ出訴スルヲ須ンヤ
(南部)
個ハ第三百二十九條ニ挿入スルヨリ此儘本條第二項ニ置示スルヲ可トス
(委員長)
其位置論ヨリハ先ヅ用捨何レニ決スルヤヲ定メタシ
(淸岡)
受諾ノ爲メト云ヘバ未ダ賣買ノ契約ナラザルモノニシテ假令來ル何日マデニ其買受ヲ返答スベシト云フ意味ノ如シ
(栗塚)
此點ハ豫約トアルヲ以テ事實上否ラザルヲ推知セラルベシ
(南部)
豫約ニ起因スルモノナレバ之ヲ第三百二十九條ニ挿入シタルハ起案者ノ考案カ但シ報吿委員ヨリ註文セシカ
(栗塚)
實ハ如此タメ推ニ過ギザル規定ヲ第六百六十三條ニ記示スルハ不可ナレバ何レカ此點ヲ插塡スベキ其場所ヲ更ヘザルベカラズト云ヒタルニ卽チ起案者ハ更ラニ第三百二十九條ニ挿入シ來レリ
(委員長)
之ヲ第三百二十九條ニ挿入セントスレバ少シク該條ノ體面ヲ變更セザルベカラズ依テ今一應報吿委員ニ於テ再議ヲ盡スベシ
其議ニ決ス
第六百六十四條若シ諾約者カ契約ヲ爲ス事ヲ拒ムトキハ裁判所ニ於テ賣買ハ其帶有スル効力ヲ以テ組成シタリトノ判決ヲ爲ス
不動產權ノ賣買ニ關スルトキハ其判決ヲ登記ス
若シ賣買ノ豫約カ豫約トシテ登記セラレタルトキハ判決ハ右登記ノ縁邊ニ之ヲ附記シ其登記ハ賣主ノ承權人ニ對シ既往ニ遡リテ効力ヲ生ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ裁判所ニ於テトアルヲ裁判所ハトシ賣買ハト云ヘルヲ賣買ガトセリ
可決ス
(淸岡)
帶有スルト云ヘバ賣買ニ附屬シタルモノト云フガ如シ
(西)
帶有ハ含有ト云フガ如シ
(栗塚)
原案可ナルベシ
(村田)
英文ニハ其登記ハト云フ文字ナシ
(箕作)
英文ハ不可ナリ
第六百六十五條 若シ賣リ及ヒ買フノ互相ノ豫約アルトキハ各當事者ハ前條ニ記載シタル如ク契約ヲ爲ス事ニ付キ他ノ當事者ヲ強要スル事ヲ得
又裁判所ハ此場合ニ於テ當事者ノ意思ヲ解釋シ賣買ノ豫約ハ卽時ノ賣買ノ効ヲ有シタル事若シ又期間ヲ定メタルトキハ其期間ハ履行ノミニ適用セラルル事ヲ決定スル事ヲ得
(淸岡)
他ノ當事者ト云ヘルハ如何
(栗塚)
賣者ヨリ云ヘバ買者ナリ買者ヨリ指ストキハ賣者ナリ
(松岡)
第二項ハ如何
(栗塚)
裁判所ハ此場合ニ於テ當事者ノ意思ヲ解釋シ賣買ノ豫約トセズ卽チ賣買トシテモ可ナリ又期間ヲ定シトキハ豫約時間ニアラズ履行時間ノミニ適用セラルヲ決定スル事ヲ得
第六百六十六條 前四條ニ從ヒ當事者双方又ハ其一方カ日後賣渡及ヒ買受ノ契約ヲ爲シ又ハ單ニ之ヲ錄製スルノ義務ヲ負ヒタル場合ニ於テ豫約ノ擔保トシテ手附ヲ與ヘタルトキハ契約ヲ爲シ又ハ之ヲ錄製スル事ヲ拒ム一方ハ其與ヘタル手附ヲ失ヒ又ハ其受ケタル手附ヲ二倍ニシテ返付ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ買受ノ契約ヲ爲シトアルヲ契約ヲ爲スノ義務ヲ負ヒトシ手附ヲ與ヘタルトキハ契約ヲ爲シトアルヲ契約ヲ爲ス事ヲ拒ミトセリ手附ト云フ字ハ日本ニ於テ買分ノ出金ニ付キ云フ名稱ニシテ賣方ノ出金ニ云ヲ得ザルベシ依テ此字ハ反譯局ト報吿委員ノ内ニ於テ詮議スル筈ナリシモ個ハ賣買者雙方ニ關スルモノナリ
(尾崎)
原案ヲ可トス卽チ報吿委員ノ修正ハ否決セラル
(淸岡)
手附ヲ二倍ニシテト云フハ可ナルカ
(栗塚)
大抵皆二倍卽チ倍數ヲ返付スルモノトナレリ
(委員長)
單ニ之ヲ錄製スルノ義務ヲ負ヒト云フハ記入スルノミノ義務トナルニアラズヤ
(栗塚)
然リ既ニ契約ハ之ヲ爲シタルモノナルヲ以テ單ニ記入スルノ義務ヲ負フニ止マルモノナリ
第六百六十七條 卽時ノ賣買ニ於テハ手附ハ左ノ區別ヲ以テノミ解約スルノ方法トナル
第一 手附カ如何ナル本性ヨリ成ルヲ問ハス賣主之ヲ與ヘタルトキハ賣主ノ利益ノ爲メ
第二 若シ手附カ金圓ニアラサル物ヨリ成ルトキハ買主ノ利益ノ爲メ
第三 當事者雙方カ互ニ金圓又ハ其他ノ物ニテ手附ヲ與ヘ且之ニ解約方法ノ性質ヲ明確ニ付與シタルトキハ雙方ノ利益ノ爲メ
契約カ全部又ハ一分ニ付キ履行セラレタルトキハ解約ハ如何ナル場合ニ於テモ又孰レノ方ヨリモ之ヲ爲ス事ヲ得ス
(栗塚)
本條ハ起案者更ラニ修正ヲ加ヘ第二ハ若シ手附カ金圓ニアラサル物タルトキ又ハ金圓タルモ之ニ改約ノ性質ヲ明確ニ附與シタルトキハ買主ノ利益ノ爲メトシ第三ハ當事者雙方ガ互ニ手附ヲ與ヘタルトキハ前二記ノ區別ニ從ヒ其雙方ノ利益ノ爲メ云々トセリ
(淸岡)
解約スルノ方法トナルト云ヘルハ不可ナリ抑モ手附ハ契約ヲ確固ナラシムル爲メノ方法ナルニ返テ解約ノ方法トナルトハ不都合ナリ
(委員長)
要スルニ手附ト云フハ妥當ナラズ
(尾崎)
第一ノ場合ハ如何
(村田)
名ハ異ナルモ斯ル事實ナキニアラザルベシ
(南部)
本員モ裁判所ニ於テ斯ル樣ナル事實ニ遭遇シタル覺ヘアリ
(淸岡)
第二ハ買主之ヲ與ヘタルトキト云フヲ記示セズ買主ノ利益ノ爲メトアルハ如何
(栗塚)
此場合ハ買主ノ差入シ手附タル事明了ナリ
(淸岡)
手附ガ如何ナル本性ヨリ成ルヲ問ハズト云ヘルハ金圓ニテモ金圓ニアラザル迚モト云フ意味ノ如シ
(栗塚)
金圓ニモアレ金員ニアラザルモノニモアレト云フ事ナリ
(委員長)
其意味ニ認ムヲル得ザルナリ
(松岡)
賣主ノ利益ノ爲メニ解約スル場合ハ過怠約款ニ依テ爲スヲ得ベシ又明示ノ合意若クハ其他ノ習慣アラザルトキハ内金拂トナルベシ
(箕作)
此手附ト云ヒシハ日本ノ從來ニ存在スル手附ト又從來存在セザル手附トヲ含蓄シタルモノト見ザルベカラズ
(淸岡)
日本ノ從來ニ存在スル手附モ此中ニ含入スルモノトセザルベカラズ
(今村)
第六百四十八條第一項但シ以下ハ起案者ヨリ但受囑者ノ爲メ更ニ遺囑處分ヲ爲シタルトキハ此限ニ在ラズトセリ
(委員長)
第六百六十七條第二ハ金圓ニアラザルモノヲ手附ニセザルヲ得ザルモ一種物タルトキハ如何
(栗塚)
金圓ヲ以テスルヲ得ベシ
(委員長)
金圓ヲ以テスルトキハ之ニ改約ノ性質ヲ明確ニ示シタルトキハトアルヲ以テ其譯ヲ明示セザルベカラザレバ不可ナリ
(栗塚)
其明記ナキトキハ内金トナルヲ以テ手附トナラザルナリ
(委員長)
金圓ニアラザル物ト云フハ品物ヲ以テ手附トセザルベカラザルガ如クナルヲ以テ個ハ刪除スベシ
(栗塚)
内金ト見ユルヲ避ケンガ爲メナリ
(委員長)
如此ナレバ實ニ無益ノ必配ト云フベシ又品物ト雖モ贈與トナルノ憂ヒナキニアラザルヲ以テ其特別ヲ示サザルベカラザルニ至ラン品物ハ其特別ヲ捨テテ金圓ノミニ特示スルヲ要スト云フハ殆ンド其理由ナシ
(今村)
卽時賣買ニハ解除條件ナキヲ原則トスルモ本條第一第二ハ卽時賣買ノ解除アル特別ノ場合ヲ示シタルモノナリ
(南部)
原案通リニ決シタシ
(委員長)
假令原案ニスルモ金圓タルモ之ニ改約ノ性質ヲ明確ニスルト云フハ不文ト云フベシ
(淸岡)
此點ハ商法ト異ナルモノアルヲ以テ安ジ難シ
(栗塚)
商法第三百四十六條ハ明示シテ之ヲ合意セズ又地方ノ習慣アルニアラザレバ矢張リ内金トナルヲ以テ明示ノ合意ガ地方ノ習慣アラザレバ手附金トナルヲ得ズ依テ民商等シク其特示ヲ要スベキノミ
(委員長)
商法第三百四十六條ハ賣主買主共ニ明示シテ合意セザルベカラズ民法ハ何故ニ賣主ノ場合ノ特示ヲ除キタルカ
(栗塚)
賣主ハ代金ヲ與フルモノニアラザレバ之ヲ特示スルニ及バズ然ルニ買主ハ代金ヲ與フルモノナレバ之ヲ特示セザルベカラズ
(委員長)
第一ト第二ノ置替ヲ爲スベシ
(南部)
之ヲ置替ルモ不都合ナシ
(栗塚)
第一第二ノ兩號ハ必要ナルモ第三ハ敢テ要用ナシ
(委員長)
賣主ニモ其趣キヲ明示セシムルモノトシタシ
(栗塚)
第六十七條ハ卽時ノ賣買ニ於テハ手附ハ之ヲ與ヘタル者ノ利益ノ爲メ解約スルノ方法ト爲ル但買主ノ與ヘタル手附ガ金圓ナルトキハ之ニ解約ノ性質ヲ明確ニ附與スル事ヲ要ストシテハ如何
可決ス
(箕作)
個ハ裏面ヨリ立言シタシ
(南部)
利益ノ爲メノミトスベシ
可決ス卽チ第一第二第三項ハ刪除セラレ末文ノ又孰レノ方ヨリモト云フヲ刪除ス
第六百六十八條 若シ賣買カ嘗試ニテ爲サレタルトキハ其賣買ハ情況ニ隨ヒ買主ノ適意ノ停止條件附又ハ其拒絕ノ解除條件附ニテ爲サレタリト看做サル事ヲ得
試味ノ慣習アル飮食品ノ賣買ハ其物カ意ニ適スルノ停止條件附ニテ爲サレタリト推定セラル
(栗塚)
飮食ハ反譯上ニテ日用ト修正シ「嘗試ニテ」トアル括弧ヲ刪レリ
無異議
第六百六十九條 前條ニ定メタル二箇ノ場合ニ於テ買主カ己レニ屬スル權能ノ行用ニ付キ期間ヲ定メサルトキハ短カキ期間ニテ決答スヘキ催吿ヲ受クル事ヲ得若シ決答セスシテ賣渡サレタル物又ハ飮食品ノ引渡ヲ受ケタルトキハ其買主ハ受諾シタリト推定セラレ又反對ノ場合ニ於テハ拒絕シタリト推定セラル
(栗塚)
本條モ飮食ヲ日用ト修正スベシ
原案ニ決ス
第六百七十條 賣買ノ代價ハ全部ニ付テセサルモ少ナクトモ標本ニ付キ其契約ヲ以テ之ヲ定ムル事ヲ要ス
又其代價ハ或ハ同種類ノ商品ノ現時又ハ近時ノ市價ニ委セラレ或ハ契約ヲ以テ指定シタル第三者ノ評價ニ委セラルル事ヲ得
此終ノ場合ニ於テ若シ評價カ錯誤ニ出テ又ハ公平ニ反スル事ノ明白ナルトキハ其評價ヲ爭フ事ヲ得但其爭ハ損失ヲ受ケタリト主張スル一方カ評價ヲ知リタル時直チニ其者ヨリ起サルル事ヲ要ス
若シ第三者ト當事者ノ一方ノ間ニ共謀シタル詭譎アルトキハ第三百三十三條及ヒ第五百六十六條ヲ適用ス
當事者ノ定メタル代價ハ元本又ハ無期若クハ終身ノ年金權ヨリ成ル事ヲ得然レトモ若シ第三者カ代價ヲ定ムルトキハ其代價ハ元本ノミヨリスルニアラサレハ成ル事ヲ得ス但當事者カ明示ニテ一層廣キ權限ヲ仲裁人ニ與ヘタルトキハ此限ニ在ラス
(栗塚)
本條第三項其者ヨリ起サルル事ヲ要スト云フハ報吿委員ニテ其者ヨリ之ヲ起ス事ヲ要ストシタリ
(淸岡)
標本トハ見本ナリヤ
(栗塚)
否地面ナレバ地坪反物ナレバ尺布ト云フガ如シ
(箕作)
標本ハ元奏ト云フ如キ譯ナルモ妥當ノ譯字ニアラザレバ尙ホ反譯局ニテ詮議スベシ
(尾崎)
元本又ハ無期トハ如何
(箕作)
卽金拂ニスルモ無期若クハ終身ノ年金權ト爲ル事ヲモ得ベシト云フ譯ナリ
(村田)
現時又ハ近時ノ市價トアルハ近時ハ稍々將來ニ屬スルモノカ
(栗塚)
限月相場ノ如キモノヲ云フ
(淸岡)
近時ハ過去ニ屬セザルヤ
(栗塚)
過去ノ意味ニアラズ
(箕作)
俗ニ近日ト云ヘバ將來ニ屬スベシ
(村田)
現時又ハ其爾後ノトスベシ
(南部)
爾後ノト云ヘバ限リナシ
結局近日トスルニ決ス
(委員長)
第三者ノ代價ヲ定ムルトキト仲裁人ニ與ヘタルトキト異ルハ如何
(栗塚)
仲裁人ト云フハ第三者ヲ云ヒシモノナリ
(委員長)
然ラバ仲裁人ト云ハズ第三者トスベシ
可決ス
第六百七十一條 賣買契約ノ費用ハ當事者雙方平分シテ之ヲ負擔ス但當事者雙方カ別段ノ定ヲ爲シタルトキハ此限ニ在ラス
(淸岡)
本條ノ如キハ遠方ニアル買方ナルトキハ賣者ハ甚ダ迷惑ナリ
(南部)
此契約ノ費用ト云フハ證書作ヲ成スルガ爲メ等ナリ
(淸岡)
賣買契約ノ費用ト云ヘバ種々ノ費用アルベシ
(栗塚)
契約ノ費用ト云ヘバ公正證書私署證書ノ費用ニ過ギズ卽チ契約ノ下ニ書ノ字ヲ加フ
(淸岡)
印紙貼用代價ノ如キモ契約ノ費用タルベキモノナレバ斯ニ包含セザルベカラズ依テ契約書トスルハ不可ナリ
(箕作)
個ハ賣買契約ニ付キ證據トナルベキ費用ト云フ譯ナリ
(委員長)
證據トナルベキ費用トスレバ其周旋人ノ費用ヲモ包入スルモノタルベシ
(南部)
此費用ハ周旋人迄ヲモ包含スルモノニアラズ然ルニ證據トナルベキモノハ之ヲ包含スルト云フニ認ムルハ可ナリ
卽チ其精神ニ可決シ書ノ字ハ之ヲ挿入セズ
第二款 賣リ又ハ買フノ無能力
第六百七十二條 動產又ハ不動產ノ賣買ノ契約ハ配偶者ノ間ニ於テ互ニ禁セラル
配偶者ノ一方カ他ノ一方ニ對シテ有スル眞實ニシテ正當ナル債務ヲ消滅セシムル事ニ關スルトキハ配偶者ハ互ニ代物辨濟ヲ爲ス事ヲ得
此場合ニ於テ代物辨濟ハ相當ノ證明ノ後民事裁判所ヨリ允許セラレタルトキニアラサレハ當事者ノ間ニ於テ有効且完全ナラス
若シ代物辨濟カ不動產物權ヲ目的トスルトキハ其代物辨濟ハ允許カ證書ノ登記中ニ附記セラレタルトキニアラサレハ第三者ニ對シテ有効ナラス
(淸岡)
裁判所ノ允許ト云フ允許ノ手續ハ甚ダ無益ナルベシ
(村田)
代物辨濟トシ何フ金圓ヲ以テ其辨濟ニ充ツルヲ得ザルヤ
(栗塚)
金圓ヲ以テ辨濟スル事トセバ賣買トナルヲ以テナリ
(村田)
夫婦間ニ於テハ代物ヲ以テ辨濟スル事ヲモ禁ゼザルベカラズ
(淸岡)
裁判所ノ允許ヲ受クルト云フハ佛國民法第何條ニ記示セシカ
(栗塚)
佛國法ニハ別ニ其成條ナシ
(淸岡)
裁判所ノ允許ヲ要スルハ第三者ヲ害セザル爲メニシタルモノナルモ裁判所ニ於テハ未ダ錯誤ナキニ之ヲ裁判スルヲ得ザルナリ
(尾崎)
此條ハ人事編議事ノ際マデ留保シ置キタシ
其議ニ決ス
第六百七十三條 前條ニ基キタル無効卽チ銷除ノ訴權ハ賣却又ハ允許セラレサル代物辨濟ヲ爲シタル配偶者及ヒ其相續人又ハ其承權人ノミニ屬ス其訴權ハ第五百六十六條以下ノ一般ノ條例ニ從フ
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ其訴權トアル上ニ但ノ字ヲ加ヘリ
可決ス
第六百七十四條 法律上、裁判上又ハ合意上ノ代理人又ハ管理者ハ直接ニ自己ノ名ヲ以テスルモ又間介人ニ因ルモ賣ル事ヲ任セラレタル財產ニ付キ熟議上又ハ公賣上ノ得取者ト爲ル事ヲ得ス
右同一ノ制禁ハ公賣ヲ處理シ又ハ指揮スル事ヲ法律ニ因テ任セラレタル公吏ニ之ヲ適用ス
無異議
第六百七十五條 前條ニ反シテ爲シタル賣買ノ無効訴權ハ原所有者其相續人及ヒ其承權人ノミニ屬ス
無異議
第五百五條
(今村)
本條第二ハ起案者若シ債務ヲ辨濟シタル者ガ第三保有者ナルトキハ其第三保有者ハ保證人ニ對シテ代位セズ然レドモ辨濟シタル保證人ハ若シ第千三十六條ノ條例ニ適從スルトキハ第三保有者ニ對シテ代位スト改正セリ右ハ第三保有者保證人ニ通知セズ滌除方法ヲ行フ事ヲ得ズト云フ結果ニ至レリ舊案ニテハ第三保有者ト債務者トノ間ニ於テ滌除方法ヲ爲スヲ得ベキモノタルガ故ニ第三保有者ハ自己ノ辨償シタル金額ハ保證人ニ要請スルヲ得ベキニ此改正案ニテハ之ニ反セリ
(南部)
最初ノ論點ハ保證人ニ迷惑ヲ負ハシムルハ不可ナリト云フニアリ
(今村)
改正案ノ意味ニテハ債務者ノ抵當物ヲ第三保有者得取セントスルトキハ保證人ニ通知シ保證人之ヲ承諾スルニアラザレバ爲ス事ヲ得ズ保證人ハ之ヲ承諾スレバ第三保有者ヲシテ債權者ニ辨濟セシメ自ラ保證ノ義務ヲ免ルルモノナリ第三保有者其抵當物ニ保證人アルヲ知ルハ登記ノ縁邊ニ附記シアルヲ以テナリ
結局改案ニ可決ス
第五百三十四條
(今村)
本條ハ起案者然レドモ以下ヲ改正シ然レドモ保證人又ハ連帶債務者ハ其抛棄ニ因リ此等ノ擔保ニ於ケル代位ヲ妨ゲラレタルガ爲メ第千四十五條及ビ第千七十四條ニ從ヒ債權者ニ對シテ自己ノ義務免除ヲ請求スル事ヲ得トセリ
可決ス
第五百四十三條
(委員長)
本條第二項ハ共同義務者ガ連帶債務者中ノ一人ト云フ義ナリヤ
(西)
個ノ意味ハ連帶債務者ハ債權者ガ右連帶債務者中ノ或ル人ニ對シテ負債アルトキハ其債務ニ於テハ自己ノ債權者卽チ連帶債務者中其或ル人ニ對スル部分ニアラザレバ債權者ハ相殺ヲ對抗スルヲ得ズ若シ自己ノ權利ニテ相殺ヲ一般ニ對抗セントスレバ之ヲ爲スニ差障ナシト云フニアリ
結局本條ハ債務ノ上ニ連帶ノ二字ヲ加ヘ付テハトアルヲ關シテハトシ對スルトアルヲ付テト修正シ可決ス
第三篇
第六百四十八條
(今村)
本條ハ起案者第一項ノ改案ハ又ハ以下トキハト云フニ至ルマデヲ刪除セリ配布ノ字面ハ反譯上ノ錯誤ナリ
(南部)
然ラバ先時議定ノ通リト異ナラズ
(今村)
第二項ハ起案者ノ新案ナリ曰ク「地上權カ贈遺セラレテ遺囑者下ニ在ル土地ヲ得取シタルトキモ亦同シ」下ニ在ル土地ヲ云々ト云ヲ示シタルハ建物ニ屬スル地上權アル地表ノ部分ハ贈遺セラルルモノトナルモ底地ハ否ラザルヲ示シタリ
(南部)
下ニ在ルト云ヘバ地上權ノ下ト云フ如キ誤惑アリ
(村田)
下ニ在ルト云フハ其トシタシ
(淸岡)
可ナリ
可決ス
(今村)
三項ノ改正ハ贈遺セラレタル土地ニ遺囑者又ハ第三者ノ爲シタル建築及ビ植付ニシテ遺囑者ノ得取シタルモノハ常ニ遺囑者ニ依テ贈遺物ニ合體セラレタリト看做サルトセリ
(委員長)
常ニヲ刪リ反對ノ明示ナキニ於テハトシタルハ如何
(村田)
遺囑者ノ爲シタル建築及ビ植付ニシテトセザレバ到底不明ヲ免レズ
(箕作)
遺囑者ノ爲シタル建築及ビ植付又ハ第三者ノ爲シテ云々トシテハ如何
(淸岡)
土地ヲ贈遺スベキ約束ヲ爲シ爾後之ニ建築シタルモノヲモ共ニ贈遺セラレタリト看做サルルハ從來ノ感觸ニモ異ナルモノニシテ穩當ヲ得ズ
(尾崎)
反對ノ明示ナキトキハ共ニ贈遺セラルルモノトシテモ別ニ不都合ナカルベシ
結局報吿委員ノ修正ノ儘ニ決ス
第六百三條
(今村)
本條第二項ハ水流中ニ於テトシ魚ヲ取リタル者ニ付テモトアルヲ魚ニ付テモトセリ
(委員長)
魚類ニ付テモトスベシ
可決ス
第六百七十六條 判事、檢事、書記及ヒ書記補ハ當事者間ニ爭ハレ且其職務ヲ行フ裁判所ニ於テ訴訟ノ目的タルヘキ本性ノ物權又ハ人權ノ得取者ト爲ル事ヲ得ス
右同一ノ制禁ハ辯護士及ヒ公證人カ當事者間ニ爭ハレ且其職務ヲ行フ地ヲ管轄スル裁判所ニ付セラルル事ヲ得ヘキ權利ニ付キ是等ノ者ニ之ヲ適用ス
(栗塚)
本條第一項ハ起案者書記補ハトアル下ニ當事者間ニ爭ハレ且ト云ヘルヲ挿入シ裁判所ニ於テノ下「爭ハレ又ハ其裁判所ニ於テ」ノ數字ヲ除去シ第二項ハ公證人ガトアル下「當事者間ニ爭ハレ且」ト云フ字ヲ挿入シ「爭ハレタル」ノ五字ヲ刪レリ
(松岡)
目的タルベキト云フハ將來ヲ指セル如クナルニアラズヤ
(栗塚)
時間ヲ指スニアラズ性質ヲ指スモノニシテ訴訟ノ目的トナルヲ得ベキト云フ義ナリ又「ヘキ」ノ二字ハ刪除ス
(村田)
當事者間ニ爭ハレトアルハ未ダ裁判所ニ訴出セザル以前ノ如キニアラズヤ
(尾崎)
裁判所ニ出訴シタル以上ニ就キ云ヒシナリ
(南部)
始審裁判所ニ出訴シタル場合ニ於テハ控訴院ノ裁判官ハ其訴訟ニ關スル物件ヲ買求スルヲ得ザルベキカ
(栗塚)
然ルベシ
(委員長)
檢事ヲ記シタルハ如何
(栗塚)
檢事ト雖モ其訴訟物ヲ買得スルヲ得ザルナリ
本條ハ書記補トアルヲ刪除セリ
第六百七十七條 前條ヨリ生スル無効訴權ハ讓渡人、爭ハレ卽チ爭ニ係ル權利ノ被讓渡人及ヒ其相續人又ハ其承權人ニアラサレハ之ヲ行フ事ヲ得ス
又爭ハレタル權利ノ被讓渡人ハ讓受人ニ其讓渡ノ現價ト辨濟ノ日ヨリノ利息トヲ辨償シテ右ノ權利ノ受戻ヲ爲ス事ヲ得
右ハ總テ違背者ニ對スル懲戒刑ノ適用ヲ妨ケス
(松岡)
懲戒刑トアルハ懲戒ノ罰ヲモ受クベキヤ
(栗塚)
然リ
(松岡)
懲戒刑ト云フハ妥當ヲ得ズ
(栗塚)
本條モ起案者爭ハレ卽チ爭ニ係ルトアルヲ爭ハレタルト改正セリ
(松岡)
此二項ハ讓受人ヨリ被讓渡人ニ返戻スベキニハ讓渡人ニ返戻シタル上其讓渡人ヨリ被讓渡人ニ返戻スベキニアラズヤ
(南部)
讓受人ハ被讓渡人ニ返戻セザルベカラザルモノトナリシトキハ直接ニ被讓渡人ニ返戻スルヲ得ベシ
(委員長)
被讓渡人ニ權利ノ受戻ヲ爲ス事ヲ得セシムルモノハ其相續人又ハ其承權人ニモ其權利アラザルベカラザルニアラズヤ此點ヲ明記セザルハ或ハ起案者之ヲ省略シタルモノカ
(松岡)
然ルナラン
(村田)
此點ハ起案者之ヲ省略シタルモノニアラズ前項ハ無効訴權ヲ其相續人又ハ其承權人ニ行フ事ヲ得セシメルモノトセリ
(栗塚)
承權人モ權利ノ受戻ヲ爲スヲ得ト云フハ一驚スベキニアラズヤ尙ホ起案者ニ質問スベシ
(委員長)
懲戒刑ハ懲戒ノ處分トシテハ如何
(栗塚)
然ラバ適用ト云フヲ得ザルベシ
(委員長)
懲戒ノ處分ヲ妨ゲズトスベシ
(栗塚)
懲戒ノ罰ヲ妨ゲズトスベシ
可決ス
第三款 賣ル事ヲ得サル物
第六百七十八條 賣買カ本性ニ因リ一般ニ通易スル事ヲ得サル物又ハ特別法ヲ以テ各人ニ處分權ヲ拒絕シタル物ヲ目的トスルトキハ其賣買ハ無効タリ
此賣買ノ無効ハ抗辯ノ方法ヲ以テスルト訴權ノ方法ヲ以テスルトヲ問ハス當事者雙方ヨリ之ヲ援唱スル事ヲ得
若シ當事者ノ一方カ詭譎ヲ以テ賣買ノ制禁ヲ隱蔽シタルトキハ其一方ハ損害賠償ノ責ニ任ス
(松岡)
「其一方ハ」ト云フハ對手人ノ如シ
(栗塚)
其場合ハ他ノ一方ト云フモノニシテ其「方トアルハ詭譎ヲ以テ云々シタル者ヲ云フナリ
(村田)
處分權ヲ拒絕シタルトアルハ處分權ヲ禁ジタルトシタシ
(今村)
前條第二項ハ「ボアソナード」氏ノ說ニハ其相續人又ハ其承權人ヲモ包含スベキモ前項ニ記述シタルヲ以テ次項ニハ之ヲ省略シタリ
(村田)
然ラバ同項ヘモ其意義ヲ顯スベシ
(委員長)
記入シテ可ナリ卽チ被讓渡人ノ下及ヒ其相續人又ハ其承權人ハ云々トス
(淸岡)
處分權ヲ拒絕シタルトアルハ修正スベキヤ又原案ノ儘ニスルカ
(松岡)
處分權ヲ禁ズルトシテモ可ナリ
(南部)
處分ヲ禁ジタルトスベシ
可決ス
第六百七十九條 他人ノ物ノ賣買ハ當事者雙方ニ對シテ無効タリ
然レトモ此無効ハ賣主カ賣買ノ際其物ノ他人ニ屬スル事ヲ知ラサルトキニアラサレハ賣主ニ因リ援唱セラルル事ヲ得ス互相ノ訴權並ニ抗辯ノ行用代價ノ返還及ヒ賣主ノ負擔シタル賠償ニ關スル規則ハ追奪ノ擔保ノ事項ニ關スル次款ニ於テ之ヲ定ム
(栗塚)
本條ハ第二項中互相ノ訴權以下ヲ別項トスベキ筈ナルニ寫字上ノ誤リナルヲ以テ別項トセラレタシ又衣款ハ次節トセザルベカラザルニ次款トナリシバ蓋シ反譯上ノ誤リナラン
(松岡)
賣主ニ因リトアルヲ賣主ヨリトスベシ
(栗塚)
賣主ヨリ之ヲ援唱スルヲ得ズトスベシ
可決ス
(松岡)
當事者雙方ニ對シテトアルヲ當事者雙方ニ在テハトシタシ
(栗塚)
差障ナシ
可決ス
第六百八十條若シ契約ノ當事者ニ於テ物カ全部滅失シタルトキハ賣買ハ無効タリ但賣主カ此滅失ヲ知リタルトキ又ハ之ヲ知ラサルハ其過愆ナルトキハ善意ノ買主ニ對シ賠償ヲ負擔ス
若シ物カ一分ノミ滅失シ買主之ヲ知ラサリシトキハ買主ハ其撰擇ヲ以テ或ハ殘ル所ノモノカ自己ノ要用ニ不充分ナル事ヲ證明シテ賣買ヲ銷除セシメ或ハ代價ノ割合ノ減少ヲ以テ賣買ヲ維持スル事ヲ得但右二個ノ場合ニ於テ賣主ニ過愆アルトキハ其損害賠償ヲ負擔スル事ヲ妨ケス
銷除ノ請求ハ買主カ一部ノ滅失ヲ知リタル時ヨリ六个月後又代價減少ノ請求ハ二ケ年後ハ最早受理セラレス但其他明示又ハ默示ノ確認ノ場合ヲ妨ケス
(松岡)
若シ契約ノ當時ニ於テ物ガトアルハ其物既ニト云フ意ナルカ
(栗塚)
既ニト云フハ共場合ヲモ包含スベキモ之ニ止マラズ又本條ハ自己ノ要用トアルヲ反譯上ニテ其用方トセリ
(委員長)
末項ハ銷除ノ文字ヲ六个月トアル上ニ挿入シ銷除ハ六个月トシテハ如何
(淸岡)
原出條ノ儘ニシテ可ナリ
(委員長)
二个年ノ上ニ右ノ時ヨリト云フヲ挿入スベシ
可決ス
(松岡)
其他ト云フハ如何
(栗塚)
明示又ハ默示ノ確認シタル以上ハ勿論其他ノ方法ヲ以テスル確認ノ場合ヲモ妨ゲズト云フ譯ナリ
(南部)
其他ト云フ字ハ不用ナルベシ
第二節 賣買契約ノ効力
第一款 所有權ノ移轉及ヒ危險
第六百八十一條 賣買契約ハ賣ラレタル物ノ所有權ノ移轉及ヒ危險ニ付テハ第三百五十一條、第三百五十二條、第三百五十五條及ヒ第四百三十九條ニ定メタル如キ普通法ノ規則ニ從フ
無異議
第六百八十二條 若シ賣買ノ目的カ不動產ナルトキハ其契約ヲ賣主ノ特定且善意ノ承權人ニ對抗スル爲メニハ第三百六十八條以下ノ明文ニ從ヒ之ヲ登記スル事ヲ要ス
第三百六十六條及ヒ第三百六十七條ハ右同一ノ目的ヲ以テ有體動產及ヒ債權ノ賣買ニ之ヲ適用ス
(村田)
賣主ノ特定ト云フハ如何
(栗塚)
一般ノ承權人ニアラズ買主ノ如キ特定ノ承權人ヲ云フ
(淸岡)
本條二項ハ如何
(栗塚)
此所ハ第三百六十六條及ビ第三百六十七條ノ手續ヲ以テ動產賣買ヲ爲スヲ得ベシト云フ譯ナリ
第二款 賣買ノ義務
第六百八十三條 量定物ニ關スルトキハ賣主ハ所有權ヲ移轉スルノ義務ノ外賣ラレタル物ヲ引渡スノ義務、引渡ニ至ルマテ其物ヲ保存スルノ義務及ヒ下ニ定メタル原由ニ基キタル妨碍竝ニ追奪ニ對シ買主ヲ擔保スルノ義務ヲ有ス
(栗塚)
本條ノ量定物ニ關スルトキハ賣主ハトアルヲ賣主ハ量定物ニ關スルトキハト修正シタリ原案ノ儘ニテハ量定物ノミニ關スルガ如クナルヲ以テナリ
第一則 引渡ノ義務
第六百八十四條 賣主ハ賣リタル物ヲ其合意セラレタル時期及ヒ場所ニ於テ其現存ノ形狀ニテ引渡スノ責ニ任ス但保存ニ付キ懈怠アル場合ニ於テ買主ニ對スル賠償ヲ妨ケス
引渡ノ時期及ヒ場所ニ付キ合意アラサルトキハ第三百五十三條第六項及ヒ第七項ヲ適用ス
然レトモ若シ買主カ代價ノ辨濟ニ付キ合意上ノ期間ヲ得サリシトキハ賣主ハ其辨濟ヲ受クルマテ物ノ占有ヲ留置スル事ヲ得
若シ買主カ賣買ノ後破產シ若クハ無資力ト爲リ又ハ賣買ノ前ニ係ル其無資力ヲ隱秘シタルトキハ代價ノ辨濟ノ爲メ期間ヲ許與セラレタルトキト雖モ賣主ハ尙ホ引渡ヲ遲延スル事ヲ得
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ末項ヲ修正シ賣主ハ代價ノ辨償ノ爲メ期間ヲ許與シタルトキト雖モ若シ買主カ賣買ノ後破產シ若クハ無資力ト爲リ又ハ賣買ノ前ニ係ル其無資力ヲ隱秘シタルトキハ尙ホ引渡ヲ遲延スル事ヲ得トセリ
可決ス
(松岡)
本條第三項合意上ノ期間ヲ得ザリシトキハト云フハ稍明了ヲ缺クニアラズヤ
(村田)
個ハ向後ノ期間ト云フ譯ナリ
第六百八十五條 賣主ハ一般ニ契約ニ於テ約束シタル數量ヲ過不及ナク引渡ス事ヲ要ス
然レトモ下ノ數條ニ記載シタル場合ニ於テハ其記載ノ區別ヲ以テ賣主ハ右ノ數量ヨリ多クヲ讓渡シ又買主ハ此ヨリ多クヲ得取スルノ責ニ任ス
(淸岡)
本條一般ニ契約ニ於テ約束シタル云々ハ一般ニ引渡ス事ヲ要スト云フ譯カ
(栗塚)
然リ
(村田)
多ク得取スルノ責ニ任ズト云フハ假令バ地所千坪ノ需要ヲ目的ニテ購買シタルニ實際千有餘坪アリシトキハ買主ハ其剩坪ヲ得取セザルベカラズ
(南部)
買主ハ餘坪アルヲ以テ代價減少ヲ求ムル事ヲ得ズ
原案ニ決ス
第六百八十六條 若シ賣ラレタル物カ定マリタル不動產ニシテ契約ニ於テ各坪數ノ代價ヲ指示シテ其全面積ヲ明言シタル場合ニ於テ現實ノ面積カ指示セラレタル面積ニ足ラサルトキハ賣主ハ面積ノ擔保ナクシテ賣リタル旨ヲ明言シタルトキト雖モ代價ノ割合ノ減少ヲ受クル事ヲ要ス
若シ現實ノ面積カ明言セラレタル面積ニ過クルトキハ買主ハ代價ノ割合ノ補足ヲ拂フ事ヲ要ス
(栗塚)
本條ノ坪數トアルハ六尺四方ヲ云ヒシニアラズ反別ニ於テハ反數若クハ町歩ニ於テハ歩數ト云フ譯ナリ元來坪ト云フハ六尺四方ト云フニアラズ價本ト云フガ如キ意味ナリト
原案ニ決ス
第六百八十七條 若シ全面積ヲ指示シ唯一ノ代價ヲ以テ不動產ヲ賣リタルトキハ面積ノ不足ノ場合ニ於テ賣主ハ惡意ナルトキ又善意ナルニ於テハ面積ヲ擔保シタルトキ若クハ不足シタルモノカ少ナクトモ二十分一ナルトキニアラサレハ代價ノ減少ヲ受ケス
面積ヲ擔保セス又ハ面積ハ槪算ノミナリトノ附記ハ惡意ノ賣主ノ責任ヲ減セス
超過ノ場合ニ於テハ買主ハ其超過カニ十分一ニ及ヘルトキニアラサレハ代價ノ補足ヲ辨濟スル事ヲ要セス
(淸岡)
唯一ト云フハ斯ル場合ニモ委當ノ用語ナリヤ
(栗塚)
然リ
(委員長)
善意ナルニ於テハ面積ヲ擔保シタルトキハ寡少ナル不足アルモ代價ノ減少ヲ求ムル事ヲ得ベキヤ
(栗塚)
然リ惡意ナルモ善意ナルモ面積ニ擔保シタルトキ又擔保セザルモ二十分一ノ不足ナルトキトノ三種ノ場合ヲ云フモノナリ
原案ニ決ス
第六百八十八條 若シ建物ノ存スルト否トヲ問ハス二個又ハ數個ノ土地ヲ一箇ノ契約ニ因リ其各箇ノ面積ヲ指示シ唯一ノ代價ヲ以テ賣リタル場合ニ於テ一箇ノ土地ニ面積ノ超過アリ他ノ土地ニ面積ノ不足アルトキハ其土地ノ廣狹ニ隨ハス其坪ノ互相ノ價額ニ隨ヒ不足シタルモノト超過シタルモノトヲ相殺ス
此ノ如ク爲シタル後若シ相殺ニ因リ原價二十分一ノ過不及ヲ生スルトキハ代價ノ割合ノ增加又ハ減少ヲ成ス
此條例ハ一個ノ土地ノ數部分カ異別ノ本性ニシテ其各部分ノ面積ヲ指示シタル場合ニ之ヲ適用ス
(淸岡)
本條末項ハ如何
(栗塚)
田地若クハ畑地等ノ異別ナリ
(淸岡)
場合ニトアルニ場合ニモトスベシ
可決ス
第六百八十九條 買主カ面積不足ノ爲メ代價ノ減少ニ付キ權利ヲ有スル場合ニ於テ買主ハ亦損害賠償ヲ請求シ又約束シタル面積カ自己ノ需用ニ必要ナル事ヲ證シ且其他賣買カ面積ノ擔保ナクシテ爲サレタルニアラサルトキハ契約ノ解除ヲモ請求スル事ヲ得
超過ノ場合ニ於テ若シ買主カ二十分一ノ代價ノ補足ヲ辨濟スル事ヲ要スルトキハ單純ニ解約スル事ヲ得
(栗塚)
本條自己ノ需要ニトアルハ反譯上ニテ其用方ト修正シ報吿委員ニテ損害賠償ヲ請求スル事ヲ得トシ又約束シタルトアルヲ又賣主ハ約束シタルトシ且ノ字ヲ及ビトセリ
(尾崎)
面積ノ擔保ナクシテ爲サレタルニアラザルトキハト云フハ擔保アリテ爲シタルトキハト云フ譯ナリ
(委員長)
保證付ガ其保證ニ背キタルトキト云フ如シ
(栗塚)
賣買ハ擔保スベキハ當然ニシテ擔保ナキハ例外ナリ卽チ其擔保アラズシテ賣買シタルトキハ其賣買契約ハ之ヲ解除スル事ヲ得ベシト云フ譯ナリ
(淸岡)
且ヲ及ト修正シタルハ不可ナリ
(南部)
且ト云フハ及ビトスルヲ可トス
(栗塚)
且其他ト云フハ且ト云ヘバ既ニ其他ト云フ意味アルヲ以テ及ビトスルヲ可トス
卽チ及ビトスルニ決ス
第六百九十條 前記ノ規則ハ目方、員數及ヒ尺度ヲ以テ指示セラレタル數量カ買主ニ因リ容易且卽時ニ調査セラルル事ヲ得サル飮食品及ヒ動產物ノ賣買ニ之ヲ適用ス
(栗塚)
飮食品ト云フハ反譯上日用飮ト修正スベキナリ
(村田)
容易且ト云フハ容易ニ且トスルカ容易ク且トカシタシ
原案ニ決ス
第六百九十一條 前數條ニ依テ許サレタル代價改正、損害賠償又ハ契約解除ノ訴權ハ不動產ニ關シテハ一个年ノ期間ニ於テ又動產ニ關シテハ一个月ノ期間ニ於テ之ヲ行フ事ヲ要ス
右ノ期間ハ賣主ノ爲メニハ契約ノ日ヨリ又買主ノ爲メニハ引渡ノ日ヨリ又合意セラレタル代價ヲ引渡ノ前ニ皆濟シタルトキハ其皆濟ノ日ヨリモ經過ス
(栗塚)
皆濟ノ日ヨリモト云フハ皆濟ノ日ヨリモトセザルベカラザルベシ
(南部)
皆濟ノ日ヨリトスベシ
可決ス
(淸岡)
代價ヲ引渡ノ前ニ皆濟シタルトキハ其皆濟ノ日ヨリ經過ストアルモ賣物引渡前ニ過不足アルヲ知ルベカラザレバ其日ヲ起算點ニスルハ不都合ニアラズヤ
(尾崎)
買主ハ代價ヲ引渡シスルトキ充分ノ注意ヲ爲サザルベカラザルニ其注意ヲ爲サザルトキハ期間中失損アルモ詮ナカルベシ
(淸岡)
買主解除訴權ノ期間ヲ損スルハ不都合ナルヲ以テ賣主ノ爲メニハ契約ノ日ヨリ又買主ノ爲メニハ引渡ノ日ヨリ經過スルモノト云フニ止メテ可ナリ
(松岡)
然リ
(南部)
原案ハ尾崎委員ノ說ノ如キ意ナルベシ代金ヲ拂了スレバ其物品ハ引渡サルルベカラズ代金未ダ拂濟ニナラザルトキハ其物品ヲ引渡スベキモノニアラザレバナリ
(栗塚)
買主ノ爲メニ利益ヲ保護スベキ譯ナルニ反對ノ結果ヲ見ルニ至ルハ不都合ナリ依テ又合意セラレタル以下ハ尙ホ報吿委員ニテ調査シタシ
(今村)
代價ヲ皆濟スルハ買主ニ於テ完全ノ注意ヲ爲セシ上皆濟シタルモノナリ
(松岡)
然ラバ個ハ刪除スベシ
(南部)
強チ之ヲ刪除スルニ及バズ
(委員長)
又以下皆濟ノ日ヨリト云フマデヲ刪除シテ可ナリ
可決ス
第六百九十二條 動產又ハ不動產ノ賣買ニ於テ錯誤カ賣ラレタル物ノ品質ニ存スルトキハ第三百三十一條ヲ適用ス
無異議
第二則 追奪ノ擔保ノ義務
第六百九十三條 他人ノ物ノ賣買アリタル場合ニ於テ擔保ノ事ニ付キ何等ノ特別ナル合意モナカリシトキハ買主カ未タ追奪ノ恐アルニ至ラス且契約ノ當時其物ノ買主ニ屬セサル事ヲ知リテ賣主之ヲ知ラサリシトキト雖モ買主ハ賣買ノ無効ヲ宣吿セシムル事ヲ得
(松岡)
賣者自己ノ所有物ニアラザルヲ知ラズ之ヲ賣却セルモ買者ニ於テ其物品ノ賣主ニ屬セザリシヲ悉知シタルトキハ其賣買ヲ無効トスルト云フハ買者ノ惡意ヲ保護スルガ如シ
(栗塚)
他人ノ所有物ヲ賣買スルトキハ奏ヨリ無効タルヲ免レザルモノナレバ其無効ヲ表顯セシムルニハ之ヲ何時ニ於テスルモ不可ナシ
(松岡)
其情ヲ知レル買者ノ如キハ僥倖ヲ以テ奇利ヲ取得セントスルモノナレバ買者其不利ヲ受クルニ至ルモ已ムヲ得ザルモノト云フベシ
(栗塚)
此ノ如キ賣買ハ之ヲ有効ニ存續セシムルヲ得ズ
(箕作)
此賣買ハ到底無効ニ屬スベキモノナリ
(松岡)
此等ノ賣買ハ固ヨリ有効タラザルハ知ルベシト雖モ且以下ハ起案者ニ合テ理論ニ偏シタルガ如シ
(委員長)
宣吿セシムル事ヲ得トアルハ買主ノ權利ニシテ裁判所ハ必ラズ之ニ從ハザルヲ得ザルガ如シ
(箕作)
無効ヲ爲サシムルヲ得ト云フモ同ジ譯ナリ
(委員長)
別ニ名案アラザレバ此儘ニ附スルニ如カズ然ルニ此等ノ場合ハ此外ニモ往々アリシヲ以テ能不都合ナキ樣詮議スベシ
第六百九十四條 若シ買主カ惡意ナリシトキハ賣買ノ無効ト擔保トノ効力ハ買主ニ其尙ホ負擔スル代價ヲ辨濟スルノ義務ヲ免カレシメ又ハ其既ニ辨濟シタルモノヲ取戻ス事ヲ許スニ在ルノミ
買主ハ物ノ價格カ減少シタルトキト雖モ右取戻ニ於テ減少ヲ受クルノ責ナシ但減少カ自己ノ詭譎ニ出テ又ハ自己ノ利益トナリタルトキハ此限ニ在ラス
總テノ場合ニ於テ買主カ其辨濟シタル代價ヲ回收スルトキハ物ノ占有ヲ賣主ニ返還スル事ヲ要ス
(委員長)
減少ヲ受クルノ責ナシト云フハ如何
(箕作)
原代價ノ全額ヲ損セザルヲ云フ
(栗塚)
減少セラルノ責ナシト云フ譯ナリ
原案ニ決ス
第六百九十五條 若シ買主カ契約ノ際善意ナリシトキハ右ノ外左ノモノノ辨償ヲ受ク
第一 辨濟シタル契約費用ノ一分
第二 賣ラレタル物ニ付キ爲ス事有リタル出費ニシテ眞ノ所有者ヨリ辨償セラレサルモノ
第三 意外ノ事ニ因ルモ物カ得取スル事有リタル增價額
第四 所有者ノ請求ノ後ニ收取シタル果實ニシテ之ニ返還スル事ヲ要スルモノ
然レトモ買主ハ若シ果實ニ換ヘテ對應スル時期間ノ代價ノ法律上ノ利息ヲ受クル事ヲ欲スルトキハ之ヲ請求スル事ヲ得
又善意ノ買主ハ所有者ノ回收ノ訴ニ對スル答辯ノ費用及ヒ擔保ノ請求ノ費用ノ如キ證明セラレタル其他總テノ損害賠償ヲ普通法ニ從ヒ請求スル事ヲ得
(栗塚)
本條然レドモ買主ハ云々ノ項ハ本條第四ノ說明ニ過ギザレバ報吿委員ニ於テハ第四ノ別項ト爲スベシト云フニアリ又第一ハ辨濟シタルトアルヲ買主ノ拂ヒタルトシ一分トアルヲ部分トシ第二ハ賣ラタル物ニ付キトアル下ニ買主ガト云フ三字ヲ挿入シ第三ハ物ガ得取スルトアルヲ物ニ生ズルトセリ
(尾崎)
第四ハ贅澤費用ト雖モ之ヲ辨償サルルベシ
(松岡)
眞ノ所有者ヨリ辨償セラレザルモノヲ賣主ニ請求スルヲ得ベシト雖モ爲ス事有リタル出費ニシテト云フハ如何
(箕作)
爲セシ出費アラバト云フ譯ナリ個ハ必要ノ費用及ビ有益ノ費用ハ眞ノ所有者ヨリ辨償ヲ受クルヲ得ベク贅澤費ハ賣主ヨリ辨償ヲ受クベシ
(栗塚)
所有者ヨリ辨償ヲ受クルヲ得ザルモノノ辨償ハ之ヲ賣主ヨリ受クルヲ得ベシ
(村田)
物ガ取得ヲ物ニ生ズルトシタルハ原案ノ儘ヲ可トス
(栗塚)
報吿委員中ニテ奧山口藤ノ兩氏ハ物ニ生ズルトセザレバ明了ナラズト云ヘリ
(淸岡)
第四ノ場合ハ如何
(栗塚)
所有者ノ請求後ハ買者ハ其物ヲ所有者ニ返還セザルベカラザル義務アルヲ以テ其賠償ハ之ヲ賣者ヨリ得取スル事ヲ得ベシ
(松岡)
然レドモ以下ハ如何ナル譯カ
(栗塚)
果實ニ換ヘテ地所買入ノ代價ニ於ケル法律上ノ利息ヲ受クル事ヲ得ベキヲ云フ
(尾崎)
時期間ト云フハ如何
(箕作)
果實ヲ得取スルヲ得ベキ時間ナリ
(松岡)
代價ト云フハ地取賣買ノ代價ト認ムルヲ得ベキヤ
(南部)
賣買代價トスベシ
(箕作)
果實ニ換ヘテ賣買代價ノ右ニ對應スル時期間ノ法律上云々トシテハ如何
(栗塚)
買主ハ右ニ對應スル賣買代價ノ時期間ノ果實ニ換ヘトシテハ如何
(箕作)
果實ニ換ヘト云フハ成ル可ク前文ニ存置シタシ
結局此點ハ然レドモ買主ハ若シ果實ニ換ヘテ右ニ對應スル時期間ノ賣買代價云々トスルニ決ス
(淸岡)
然レドモ以下ハ一向ニ其必要ヲ見ザルナリ第四ノ初項ニ於テ所有者ノ請求ノ後ニ收取シタル果實ニシテ之ニ返還スル事ヲ要スルモノハ其辨償ヲ受クルモノトシアレバ充分ナルニアラズヤ
(栗塚)
然レドモ以下ニ於テハ其辨償ヲ受クベキ兩種ノ方法ヲ示シタルモノニシテ
結局便利ヲ與ヘタルモノト云フベシ
(松岡)
買主ハ果實ヲ返還スルニ付テ賣主ヨリ其辨償ヲ受ケシムルモノトセバ足レリ何ゾ二者其一ヲ擇ムベシト云フヲ與フルノ理アランヤ
(栗塚)
所有者ノ請求ヲ受ケ其地所ヲ返還シタル以上ハ果實ノ辨償ヲ受クルヲ得ベキモノナルヲ以テ之ニ換テ代價ヲ請求スルヲ得ベキハ理ノ當サニ然ルベキモノト云フベシ果實ノ辨償ト代價ノ請求トハ同一理ト云ハザルベカラズ所有者請求ナキ以前ハ買主ハ既ニ其果實ヲ收獲シ去リタルモ所有者請求アリシ以後ハ擇一ノ辨償ヲ受クル事ヲ得セシメテ可ナリ
(委員長)
代價ノ利息ニ換算セザレバ實際果實ノ辨償ヲ受クベカラザルモノアリ
第六百九十六條 若シ賣主カ契約ノ當時ニ於テ善意ナリシトキハ賣主ハ第四百五條ニ從ヒ正當ニ豫見スル事ヲ得タル限度内ニアラサレハ前條ノ第二號竝ニ第三號及ヒ末項ニ定メタル賠償ヲ負擔セス
(松岡)
賣主ノ惡意ハ買主ヨリ證明セザルベカラザルカ
(南部)
然リ
(委員長)
豫見スル事ヲ得タルト云フハ豫見スル事ヲ得ベキト云フ譯ニアラズヤ
(南部)
個ハ過去ニ屬セシヲ以テ不都合ナシ
(松岡)
得ベカリシトシテハ如何
可決ス
第六百九十七條 若シ善意ノ賣主カ契約ノ後物ノ他人ニ屬スル事ヲ發見シタルトキハ賣主ハ其物ノ引渡ノ請求ヲ受クルニ當リ買主ヨリ代價ノ辨濟ヲ提供スト雖モ其賣買ノ無効ヲ對抗シ且抗辯ノ方法ニ依リ擔保ノ定メ方ヲ裁決セシムル事ヲ得但買主カ追奪ノ場合ニ於ケル總テノ求償權ヲ抛棄スル旨ヲ明確ニ陳述シタルトキハ此限ニ在ラス
(松岡)
善意ノ人ニ限ラズ惡意ノ人ト雖モ本條ノ如ク對抗スルヲ得セシメテ可ナルニアラズヤ
(淸岡)
悔悟シタルトキカ
(松岡)
然リ
(村田)
其場合ハ其無効ヲ云ヒ得ルモノタルベシ
(箕作)
擔保ノ義務アルモノハ其賣却ヲ銷除スルヲ得ズト云フ譯ナリ
(松岡)
擔保ノ義務アル賣者ト雖モ賣買ノ約束ヲ取消サシムルニ何ノ不都合アランヤ
(南部)
賣買ニ於テハ賣主ノ義務ハ重大ナルモノナリ惡意ノ賣主ハ既ニ賣買契約ヲ爲シタル以上ハ其契約ヲ取消ス事ヲ得ザルナリ
(南部)
個ハ追テ議スル事ニシタシ
可決ス
第六百九十八條 若シ引渡ノ後ニ至リ右ノ發見アリタルトキハ賣主ハ卽時ニ擔保訴權ニ行フ事ニ付キ又ハ己レト共ニ立會ヒタル上第六百九十五條ニ從ヒ現ニ負擔セラレタル賠償額ヲ證明セシムル事ニ付キ買主ヲ遲滯ニ付スル事ヲ得
此終ノ場合ニ於テ賣主ハ實物提供ノ後其受取リタル代價ト共ニ右ノ評價額ヲ供託スルトキハ如何ナル時期ニ於テ擔保ノ訴アルモ總テ他ノ責任ヲ免カル
供託シタル金額ヲ引取ルノ權利ヲ第五百條ノ明文ニ從ヒテ行用シタル賣主ハ再ヒ本條ノ利益ヲ利唱スル事ヲ得ス
(栗塚)
本條ハ第二項ノ賣主ハト云フ下ニアル實物提供ノ後ト云フヲ評價額ヲノ下ニ挿入セリ
可決ス
第六百九十九條 若シ他人ノ物ノ賣主カ日後其賣ラレタル物ノ所有者ト爲リタルトキハ賣主ハ何時ニテモ擔保訴權ヲ行フト證明セラレタル賠償ヲ以テ賣買ヲ確認スルトノ中一ヲ擇ムヘキ事ニ付キ買主ニ催吿ヲ爲ス事ヲ得
右同一ノ權利ハ他人ノ物ノ賣主ノ相續人ト爲リタル眞ノ所有者及ヒ其所有者竝ニ賣主ニ相續シタル者ニ屬ス
(栗塚)
本條第一項ハ報吿委員ニテ賣ラレタルトアル五字ヲ刪リ第二項ハ眞ノ所有者及ビトアルヲ眞ノ所有者ニ屬シ又其所有者ト賣主トニ相續シタル者ニ屬ストセリ
可決ス
第七百條 若シ賣ラレタル物カ分割シタル部分ニ付キ完全ノ所有權又ハ虛有權ニテ第三者ニ屬スル場合ニ於テ買主カ右ノ部分ハ之ヲ得取スルヲ得サル事ヲ知レハ其物ヲ買ハサルヘキ程其本性又ハ廣狹ニ因リ有益ナル事ヲ證スルトキハ全部追奪ノ場合ニ付キ記載シタル如ク損害賠償ヲ得テ契約ノ銷除ヲ得ル事ヲ得
若シ買主カ契約ノ銷除ヲ宣吿セシメサルトキハ其受ケタル直接ニシテ且現在ナル損失ノ限度ニ於テ賠償ヲ受ク
(栗塚)
本條ハ若シ賣ラレタル物ガ分割シタルトアルハ報吿委員ニテ若シ賣ラレタル物ノ分割ノトセリ
可決ス
第七百一條 若シ不分ノ部分カ第三者ニ屬スルトキハ其部分ノ重要如何ニ拘ハラス買主ハ損害賠償ヲ得テ契約ヲ銷除スルノ權利ヲ有ス
若シ買主カ契約ヲ銷除セシメサルトキハ物ノ價格カ減少シタルトキト雖モ買主ハ常ニ其得取代價ト契約費用トノ右ノ部分ニ對應スル一分ヲ回取シ又物ニ增價アルトキハ其損害賠償ヲ受ク
(淸岡)
不分ノ部ニ增價スル事アルヤ
(箕作)
全部ニ增價スル事アレバ不分ノ部分モ共代價自ラ增加スルモノナリ
第七百二條 賣ラレタル土地ニ屬スルモノトシテ契約中ニ述ヘタル働方地役ノ追奪アリタルトキ或ハ人爲ヲ以テ設定シ契約中ニ述ヘサル受方地役、財產ノ一分又ハ全部ニ存スル用收權若クハ賃借權ニ關シテ第三者ノ要求アリタルトキハ第七百條ノ條例ヲ適用ス但全部ニ存スル用收權又ハ賃借權ニ關スルトキハ其經過スヘキ殘餘時期カ建物ニ付テハ一个年又土地ニ付テハ二个年ヲ超過セサルトキニ限ル
全部ノ用收權又ハ賣ラレタル財產ノ全部ニ付キ存スル賃借權ニシテ其經續時期カ建物ニ付テハ一个年又土地ニ付テハニ个年ヲ超過スヘキニ關シテハ買主ハ自己ノ爲メ殘ル所ノ權利ノ不充分ナル事ヲ證スル事ヲ要セスシテ第七百一條ニ從ヒ賣買ヲ銷除セシムル事ヲ得
(栗塚)
本條二項ノ二个年ヲ超過スベキニ關シテトアルハ超過スベキモノニ關スルト云フ寫字上ノ誤ナリ又報吿委員ニテ第一項或ハ人爲ヲ以テ設定シノ下「タル受方地役ニシテ」ト云フ字ヲ挿入シ契約中ニ述ベザル受方地役トアルヲ契約中ニ述ベザルモノニ關シ又ハトシ財產ノ一部又ハトアルヲ財產ノ一分若クハトセリ
(箕作)
第二項全部ノ用收權又ハトアルヲ刪リ賃借權ノ上ニ用收權又ハト云フ字ヲ挿入スベシ
可決ス
第七百三條 若シ賣ラレタル土地ニ契約中ニ述ヘタルト否トヲ問ハス先取特權又ハ抵當ノ負擔アリテ買主カ其代價ノ辨濟ノ前又ハ辨濟ノ時土地ニ右ノ負擔ヲ免カレシムル爲メ必要ナル方式ヲ履行セサルニ因リ賣主ノ債權者ニ因テ所有權ヲ取上ケラレタルトキハ其買主ハ賣主ニ對シテ第六百九十五條及ヒ第六百九十六條ニ規定シタル如キ擔保ノ求償權ヲ有ス
無異議
第七百四條 若シ賣買カ差押ノ上ノ競落ヨリ生シタルトキハ追奪ヲ受ケタル買主ハ代價ノ返還ニ付キ被差押人ニ對シテ求償シ又被差押人カ無資力ナル場合ニ於テハ代價ノ配當ヲ受ケタル債權者ニ對シテ求償スル事ヲ得
買主ハ差押人カ差押ノ際物ノ債務者ニ屬セサル事ヲ知リタルトキニアラサレハ其差押人ニ對シテ損害賠償ヲ要求スル事ヲ得ス又債務者ニ對シテハ債務者カ物ニ存スル第三者ノ權利ヲ詐欺ヲ以テ之レ無シト云ヒ又ハ之ヲ隱秘シタルトキニアラサレハ損害賠償ヲ要求スル事ヲ得ス
公賣條件書ノ錄製及ヒ競落ノ處理ニ任シタル公吏ハ其職務ノ本分ヲ甚シク缺キタルカ爲メ買主ノ錯誤ヲ助成シタルトキニアラサレハ損害賠償ニ服セス
原案通
第七百五條 債權ノ賣主ハ當然自己ノ利益ニ於ケル債權ノ成立及ヒ其有効ノ擔保人タリ
賣主ハ明示ニテ債務者ノ有資力ノ擔保ヲ約シタルトキニアラサレハ其有資力ノ擔保人タラス
右ノ場合ニ於テモ賣主ハ債權カ既ニ滿期ト爲リタルトキハ現時卽チ讓渡ノ日ニ於ケル有資力ノミニ付キ其受取リタル代價ノ限度ヲ以テ責ニ任ス但一層廣キ明確ナル約務及ヒ裏書ヲ以テ讓渡スヘキ商ヒ證券ニ特別ナル規則ヲ妨ケス
若シ未タ滿期トナラサル債權ニ關スル場合ニ於テ讓渡人カ他ノ特約ナクシテ債務者ノ將來ノ有資力ヲ擔保シタルトキハ其擔保ハ滿期ヨリ一个年後又無期ノ年金權ニ關シテハ其讓渡ヨリ十个年後ニ被讓渡人カ無資力ト爲リタルトキハ止ム
(栗塚)
本條末項ハ報吿委員中ニ於テ無期ノ年金權ニ關シテハ其讓渡ヨリ十个年後ニ止ムト云フ如クナルヲ以テ刪ルベシト云フ說アルヲ此點ハ被讓渡人ガ無資力ト爲リタルトキハ止ムト云フ義ナレバ之ヲ刪ラザルモ可ナルベシト思考ス
(尾崎)
被讓渡人ガ無資力ト爲ラザルトキハ止マザルノ嫌ヒアリ
遂ニ被讓渡人ガ無資力ト爲リタルトキト云フヲ刪レリ
第七百六條 物上ト對人トヲ問ハス爭ニ係ル權利ノ讓渡ニ於テハ讓渡人ハ特別ノ合意ナク且讓受人カ爭アル事ヲ知リタルトキハ其主張ノ現實ニ付キ擔保人タルノミニシテ讓渡シタル權利ノ眞ノ成立ニ付テハ擔保人タラス
權利ハ此條例ヲ適用スル爲メニハ裁判上ナルト裁判外ナルトヲ問ハス既ニ基本ニ於ケル明確ナル爭ノ目的タルトキニアラサレハ爭ニ係ルモノト看做サレス
本條ノ場合ニ於テ擔保カ負擔セラレタルトキハ讓渡人ハ讓渡代價ノ返還ノ外讓受人カ正當ニ企望シタル利益ノ賠償ヲ負擔ス
(栗塚)
本條二項ハ報吿委員中ニテ第二項ノ此條例ヲ適用スル爲メニハトアルハ必要ニアラザルヲ以テ之ヲ刪除スベシト云ヘリ何トナレバ此權利ト云フハ前項ヲ指シタルモノナレバナリ
(淸岡)
此條例ヲ適用スル爲メニハト云フハ他ノ注意ヲ惹起スルニ足ルモノナレバ刪除スベカラズ
(箕作)
權利ハトアルヲ爭ニ係ル權利トハトシタシ
(栗塚)
然ルベシ
遂ニ爭ニ係ル權利トハ裁判上ナルト裁判外ナルトヲ問ハズ既ニ基本ニ於ケル明確ナル爭ノ目的タルモノヲ云フトスルニ決ス
第七百七條 相續人又ハ包括名義ノ受囑者トシテ既ニ開始シタル相續ノ全部又ハ一分ニ於ケル不分ノ權利ヲ賣リタル者ハ其賣リタル部分ニ付キ右ノ相續ニ於ケル自己ノ權利ノ成立ノ擔保人タリ
其者ハ定マリタル得益ノ擔保人タル事ヲ明示シタルトキニアラサレハ其擔保人タラス
若シ其者カ如何ナル部分ニ付キ相續人タリ又ハ受囑者タルヤヲ特定セスシテ自己ノ權利ヲ「其存スルママニテ」賣リタルトキ買主ハ空位ト爲リタル部分ノ增加ヲ利ス又之ニ反シテ減少アルトキハ其減少ヲ受ク
(淸岡)
空位ニ爲リタルトハ如何
(栗塚)
相續人ノ一人缺ケシトキヲ云フ
第七百八條 總テノ場合ニ於テ相續權ノ讓受人ハ相續ノ債務ニ因レル總テ日後ノ訴追ニ對シ賣主ヲ擔保スル事ヲ要ス
若シ賣主カ右ノ債務ノ全部若クハ一分ヲ既ニ辨濟シ又ハ財產保存ノ爲メノ出費ヲ爲シ又ハ自ラ相續ニ對シ債權ヲ有スルトキハ讓受人ハ之ヲ賣主ニ計算スル事ヲ要ス
之ニ反シテ賣主ハ自ラ相續ニ對シ負擔スルモノノ相續ノ債權ニ付キ受取リタルモノ及ヒ相續ヨリ收メタル其他ノ利益ヲ讓受人ニ計算スル事ヲ要ス
(松岡)
本條第一項賣主ヲ擔保スル事ヲ要スト云フハ他ノ擔保ノ例ト趣ヲ異ニスルヤ
(栗塚)
個ハ買主ガ賣主ヲ據保スルモノナリ
(淸岡)
讓受人ト云フハ買主ナルカ
(栗塚)
然リ
(松岡)
委付ト云フモ同ジ譯ナルベシ
(栗塚)
委付ト云フモ同ジ譯ナルモ最早委付ト云フ字ハ使用セズ悉皆讓受トスル意思ナリ
(淸岡)
買主トシテハ如何
(栗塚)
差支ナシ
(委員長)
他ニ委付ト云フ場合モアレバ反譯局ニテ詮議シ之ヲ一定ニスベシ
第七百九條〔新案〕 特定又ハ包括ノ民事又ハ商事會社ニ於テ自己ノ權利ヲ賣ル者ハ又其權利ノ成立及ヒ其賣買契約ニ示シタル如キ權利ノ廣狹ニ付テノミ擔保人タリ
賣主ノ爲メ會社ノ前來ノ行爲ヨリ生シテ既ニ賣主ノ利益トシ又ハ其負擔トシテ淸算セラレタル權利及ヒ義務ハ買主ヲ利セス又之ヲ害セス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ商事會社ニ於テトアルヲ商事會社ニ於ケルトシ亦ノ字ヲ刪レリ
(村田)
本條ハ會社ヲ區別セズ單ニ會社トスルヲ可トスルニアラズヤ
(南部)
此ニ特定又ハ包括ト云ヘルヲ示スモ敢テ不都合ナシ
(松岡)
淸算セラレタル權利及ビ義務ハ買主ニ關係ナキハ勿論ナリ
(尾崎)
關係ナキハ勿論ナルモ此ノ如キ場合ヲ示シテモ不都合ナシ
(委員長)
特定會社又ハ包括會社ト云フモ最初會社ヲ設立スル際特定會社又ハ包括會社ト唱フベキ名稱アラザルベシ
(栗塚)
然リ會社設立ニ就キ其性質ヲ持シタルモノナリ特定會社ト云フハ出資金ヲ定置シタルモノヲ云ヒ包括會社トハ出資金ヲ安置セズ自己ノ取得ハ一切其社ノ資金ニ供スルモノトスルヲ云フ
(松岡)
特定又ハ包括ノ民事又ハ商事會社ト云フハ民事上ノ特定包括商事上ノ特定包括會社ト云フ義ナリヤ
(栗塚)
此點ハ其區別ヲ云フニアラズ只資金ノ定限アルト否トノ差ヲ云フモノナリ
(松岡)
然ラバ商事上ニテハ殆ンド包括會社ノ組織ナカルベシ包括會社ハ夫婦共働又ハ家族供働ト云フ姿ニ同ジキモノナリ
(南部)
熱考スルニ特定包括ノ文字ナキヲ却テ宜シトスルガ如シ
(淸岡)
商法ニ於テハ淸算セラレタル買主ハ第三者ニ於ケル責ヲ免ルルヲ得ザル場合アリ
(委員長)
商法ニ於テハ會社解散後第三者ヨリ元ノ社員ニ對抗スルヲ得ルト云フ事アルモ買者ハ其義務ヲ負擔スルモノニアラズ
(南部)
個ハ淸算セラレザルモノハ買主ヲ害スルト云フ裏面アルモ商法ニ於テハ淸算セラレザルモノト雖モ買者ヲ害スル事ナキヲ以テ牴觸ノ嫌ヒアルヲ免レズ
(栗塚)
商法ニ於テ別ニ時効ヲ規定シタルハ卽チ例外ヲ示シタルモノナルベシ
(淸岡)
起案者ハ商法ノ此ノ關係點ヲ知ルヤ
(栗塚)
恐クハ起案者其點ヲ了知セザルベシト雖モ必ラズ牴觸ノモノニアラザルベシ
(委員長)
個ハ尙ホ調査ニ附スベシ其議ニ決ス
(松岡)
特定包括云々ハ村田委員ノ說ノ如ク之ヲ除去スルモ可ナリト思惟ス
(委員長)
此點ハ第七百六十四條ニ於テ採否ヲ議スベシ
第七百十條 前記ノ總テノ場合ニ於テ賣買カ「擔保ナク又ハ何等ノ擔保モナク」爲サレタル事ヲ合意シタルトキト雖モ若シ買主カ追奪セラレタルニ於テハ賣主ハ代價ヲ返還スルノ責ニ任ス但買主カ同時ニ追奪ノ危險ヲ知リタルトキハ此限ニ在ラスシテ此場合ニ於テハ賣主ハ此返還ヲモ負擔セス
總テノ場合ニ於テ若シ賣買カ「買主ノ危險及ヒ危難ニテ」爲サレタルトキモ亦同シ
然レトモ如何ナル場合ニ於テモ又如何ナル要約ニ依ルモ賣主ハ賣買ノ前又ハ後ニ己レノ付與シタル權利ヨリ生スル妨碍又ハ追奪ノ擔保ヲ免カルル事ヲ得ス
(栗塚)
本條ハ起案者第一項ノ但買主ガ同時ニトアルヲ但買主ガ賣買ノ時ヨリトシ第二項ハ「總テノ場合ニ於テ若シ」ト云フ數字ヲ刪リ賣主ハト云フヲ挿入シ「爲サレタルトキモ亦同シ」トアルヲ爲サレタル事ノミニ因リ亦代價ノ返還ヲ免カルトシ第三項「又如何ナル」ノ下ヘ約定又ハト云フ挿入セリ報吿委員ニ於テハ第一項「此限ニ在ラスシテ此場合ニ於テハ」ト云フヲ刪レリ
(松岡)
此限リニ在ラズト云フヲ存置シ賣主ハ此返還ヲモ負擔セズト云フヲ刪除シテハ如何
(栗塚)
「ヲモ」ト云フ語詞ハ斯ニ緊要スルヲ以テ之ヲ存置シタシ
(南部)
括弧ハ除去スベシ
(松岡)
賣買ガ擔保ナク又ハ何等ノ擔保モナクトアルハ重複ナルヲ以テ單一ニシタシ
(委員長)
擔保ナクシテトスベシ
可決ス
(委員長)
賣買ガ爲サレタル事ヲ合意シタルトキト云フハ爲サレタルモノニ合意ヲ要セザルニアラズヤ
(南部)
爲サレタル賣買ガ合意ニテアリシヲ云フナリ
(委員長)
爲サレタルト云フハ過去ニ屬スルヲ以テ爲サルベキヲ合意シタルトキトシテハ如如
(西)
爲サレタルト云フハ現在詞ニシテ爲ス事ヲト云ヘバ未來ニ屬スル詞ナリ
(村田)
爲サルル事ヲ合意シタルトキトシテハ如何
(栗塚)
賣買ヲ擔保ナクシテ爲ス事ヲ合意シタルトキトスベシ
可決ス
(南部)
第二項ハ賣主ハ賣買ヲ買主ノ危險ニテ爲シタルトシタシ
(栗塚)
危險ト云ヒ危難ト云フハ異味アル文字ニアラズ只西洋文ノ熟語ナルヲ以テ別記シタルモ個ハ危險ノミニシテ不都合ナシ卽チ賣買ヲ買主ノ危險ニテ爲シタルトセリ
(松岡)
付與シタル權利ヨリ生ズルト云フハ如何
(南部)
付與シタル權利ヨリ他ヲ妨碍スル事ノ生ズルヲ云フナリ
(淸岡)
他人ノ所有物ヲ賣附シタルトキヲモ包含スベシ
(南部)
否ラズ約定又ハ要約トアルヲ以テ第三者アルヲ想像シタルモノナリ
(松岡)
第三者ノ丈字ヲ挿入シタシ
可決シテ前又ハ後第三者ニトシ己レノト云フヲ刪除セリ
第七百十一條 賣主カ買主ノ追奪ヨリ生スル自己ノ義務ノ全部又ハ一分ヲ買主ノ惡意ノ故ヲ以テ免カレント主張スルトキハ賣ラレタル物ニ關スル所爲ヲ第三者ノ利益ノ爲メ登記シアリト雖モ其登記ハ買主ノ賣買ノ前ニ帳簿保管人ノ保證書ニ依リ又ハ其他ノ方法ニテ右ノ所爲ヲ知リタル直接ノ證ヲ供スルノ責ヲ賣買ニ免カレシメス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ賣主ガ擔保義務ノ全部又ハ一分ヲ買主ノ惡意ノ故ヲ以テ免カレント主張スルトキハ賣ラレタル物ニ關スル所爲ヲ第三者ノ利益ノ爲メ登記シアリト雖モ其登記ノミニテハ買主ノ惡意ヲ證スルニ足ラズ尙ホ賣主ハ買主ガ賣買ノ前ニ帳簿主管人ノ保證書ニ依リ又ハ其他ノ方法ニテ右ノ所爲ヲ知リタル直接ノ證ヲ供スル事ヲ要スト修正セリ
(松岡)
全部又ハ一分ハ所有權ノ全部又ハ一分ト云フ譯カ
(栗塚)
擔保義務ノ全部又ハ一分ヲ云フ
(松岡)
惡意ト云フハ過言ニアラズヤ何トナレバ只其事情ヲ悉知シタルニ過ギザレバナリ
(栗塚)
知レル以上ハ惡意ナリ惡意ト云フモ必ラズ惡事ヲ爲スト云フニアラザルナリ
(村田)
擔保義務ト云ハズ買主ノ受ケタル追奪ヨリトスルカ買主ガ追奪セラルルトカシタシ追奪セラレタルニ付キ惹起スル義務ニシテ追奪以前ニ關スルモノニ非ラズ故ニ擔保義務ト云フヨリ追奪ヲ受ケタルニ付キ生ズル義務ト云フヲ勝レリトス
(栗塚)
擔保義務ニアラズ擔保ノ義務ト云フ修正ナリ
(松岡)
追奪セラレザル以前ト雖モ追奪ノ恐虞アル場合ヲモ見ザルニアラズ
(栗塚)
買者其物ヲ購買セントスル場合ニモ生出ズベキ問題タルベシ
第七百十二條 第四百十九條及ヒ第四百二十條ハ附帶ノ擔保ニ於ケル賣主ノ召喚及ヒ追奪ヲ受ケタル買主其擔保人ヲ訴訟ニ參カラシメサル爲メ買主ノ失權ニ之ヲ適用ス
(栗塚)
本條ハ丙者或ル不動產ヲ甲某ヨリ買受ケシトキ乙者其賣買ニ故障シ丙者買受ケシ不動產ノ權利ヲ失フタル事アラン此場合ニ當テ訴訟上丙者ハ乙者ノ參加ヲ要求セザルトキハ爾後乙者ニ對抗スルヲ得ザルナリ
(松岡)
附帶ノ擔保ト云フモ訴訟手續ノ上ニ屬スルモノニシテ擔保其性質ニ附帶ノモノアリト云フニアラザルベシ
(栗塚)
然リ主タル擔保ノ訴ヘト云フト訴訟物ニ附屬シタル場合トノ差アリ
(委員長)
適用スト云ヘルハ追奪ニ之ヲ適用スト云フ譯カ
(栗塚)
然リ
第三款 買主ノ義務
第七百十三條 買主ハ合意シタル時期ニ於テ代價ヲ辨濟スル事ヲ要ス又此事ニ付キ特別ノ合意ナキトキハ引渡ノ當時ニ於テ之ヲ辨濟スル事ヲ要ス
引渡ヲ遲延スル合意ハ當事者ノ意思ニ隨ヒ代價ノ辨濟ヲ暗ニ遲延スルモノト推定セラル
若シ賣主カ引渡ノ爲メノ恩惠期間ヲ裁判所ヨリ得タルトキハ買主ハ代價辨濟ノ爲メ同一ノ期間ヲ享有ス
之ニ反シテ代價辨濟ノ爲メ許與セラレタル恩惠期間ハ引渡ニ延及ス
(村田)
之ニ反シテト云フハ如何
(松岡)
之ニ反シテト云フハ又ト云フニ修正スベシ
可決ス
第七百十四條 合意セラレタル場所ナキトキハ辨濟ハ有體動產物ニ關シテハ引渡カ爲サルル場所ニ於テ之ヲ爲シ又不動產、債權、爭ニ係ル權利又ハ相續ノ權利ニ關シテハ證書ノ交付ノ場所ニ於テ之ヲ爲ス
若シ引渡ノ前又ハ後ニ辨濟ヲ要求スル事ヲ得ヘキトキハ其辨濟ハ買主ノ住所ニ於テ之ヲ爲ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ合意セラレタル場所ナキトキハト云ヘルヲ合意ヲ以テ辨濟ノ場所ヲ定メザルトキハトシ辨濟ハトアル上ニ其ノ字ヲ加ヘリ
(南部)
又ハ相續ノ權利ニ關シトアル點ニハ會社ノ權利ヲ示シテハ如何
(村田)
第七百九條ニ於テ會社ニ關スル場合ヲモ示シ置キタルニ付キ本條ニモ會社ニ關スル權利ヲ示サザルベカラズ
(栗塚)
會社ニ於ケル權利ニ付テハ報吿委員中ニ於テモ之ヲ示スベキヲ氣付カザリシモ今マ南部委員ノ言ハルル如クスルヲ是トス依テ爭ニ係ル權利ノ下又ハノ二字ヲ刪リ相續ノ權利ノ下「又ハ會社ニ於ケル權利ト云フ字ヲ挿入シタシ
可決ス
(委員長)
引渡ガ爲サルル權利トアルヲ引渡ヲ爲ストシテハ如何
(栗塚)
然ルベシ
可決ス
(南部)
辨濟ノ場所ヲ定メザルトキハ買主ノ住所ニ就テ辨濟ノ要求ヲ爲スベキハ當然ナリ
(松岡)
商法ニテハ賣主ノ住所ニ就テ辨濟ヲ爲サザルヲ得ザルベシ
(南部)
商法ノ權利者ト云フハ品物引渡ノ權利者ナリト雖モ獨逸商法ニテハ債主ノ所ニ於テ支拂ヲ爲ス事トセリ
(栗塚)
其債主ト云フハ金錢ノ債主ナルカ
(南部)
然リ
(委員長)
本條ハ商法第何條ト支吾スルカ
(松岡)
商法第三百六十六條ト支吾スベシ
(委員長)
商法ノ權利者ト云フハ其指的ハ如何
(南部)
品物ニ於テハ引渡ヲ爲スベキ者ヲ云ヒ金錢ニ於テハ金圓ノ債主ナリ
(西)
貸金ハ負債主ノ許ニ就テ取立ツベシ
(栗塚)
商人間ノ受渡ト商人ト非商人間ノ受授トハ差異アルベシ仕拂受取ハ買者ノ許ニ就テスベキ習慣アリ商法ニ於テ商人ト非商人ノ間ニ於テハ商法ノ支配ヲ受クルモノトナリシハ如何ナル理由ナルヤ知ルベカラズト雖モ隨分困難ナルベシ
(委員長)
商人ニシテ尋常裁判所ノ支配ヲ受クルモノトナルモ隨分困難ナルベシ
(松岡)
其論點ハ擱キ此點ハ先ヅ此趣旨ヲ以テ是トスベシ
(南部)
此點ノ可否ヲ決シタシ
(尾崎)
此點ハ此儘ニシテ至當ナリ
(栗塚)
伊太利亞法トモ照量シタル商人間ト雖モ一方ノ商人ハ營業向キニアラズ自己ノ需用ノ爲メ假令バ酒類ヲ買フガ如キ其場合ハ佛國ニ於テハ之ヲ商事上ノ取引トセズ伊國法ハ營業上ノ取引ニ屬スルモノヲ以テ商法ニ屬スルモノトシタルニアラズヤ
(松岡)
此點ハ暫時留保シ民法商法ヲ對照ノ上調査ヲ爲スモノトシタシ
其議ニ決ス
第七百十五條 若シ物カ果實又ハ其他金圓ニ見積ル事ヲ得ヘキ定期ノ利益ヲ生スルトキハ買主ハ引渡ノ時ヨリ當然代價ノ利息ヲ負擔ス
反對ノ場合ニ於テハ利息ハ特別ノ合意又ハ辨濟スヘキ催吿ニ憑ルニアラサレハ負擔セラレス
(村田)
地所家屋ノ引渡ノ如キ利息ヲ生ズルモノハ其引渡ノ日ヨリ利息ヲ生ズベシ
(松岡)
金圓ニ見積ル事ヲ得ベキ定期ノ利益ト云ヘバ有形ノ物ハ殆ンド之ニ當ラザルナシ
(淸岡)
定期ノ利息ト云ヘルモ凡ソ物ニシテ幾干カ利益ヲ有セザルモノナシ何事ヲモ網羅スルト云フハ甚シカルベシ
(松岡)
金圓ニ見積ル事ヲ得ベキモノト否ラザルモノトノ區別ハ何ンニ存スルカ殆ンド其境界ヲ見ル事能ハザルナリ
(尾崎)
定期ノ利益アルニアラザレバ此場合ニ當ラズ
(栗塚)
定期ノ利益ハ何レノ點マデヲ包含スルカト云フ問題ハ大審院ニ屬スベキモノナリ
(松岡)
假令バ大審院ニ屬スル問題ナルモ字面上延及スル點度ハ豫メ議定シ置カザルベカラズ
(栗塚)
定期ノ利益ト云フハ假令バ馬車アラザレバ必ラズ之ヲ賃借セザルベカラズ禮服アラザレバ之ヲ賃借セザルベカラズト云フガ如キ必需ニ屬スルモノナリ
(南部)
松岡委員ハ當然代價ノ利息ヲ負擔スト云フハ不可ナリト云フ論ナリヤ
(松岡)
然リ
(南部)
其利息ハ之ヲ使用シタルモノハ得ルモノトナルハ不可ナリ
(栗塚)
假令バ個ノ時計ノ如シ其時計アラザレバ賃借セザルヲ得ザル如キハ之ニ當ルベシ
(委員長)
時計ノ例ハ之ト別ナリ何人モ時計ヲ携ヘザルベカラザルモノニアラザレバナリ
(南部)
時計必需ノ人ニシテ之ヲ賃借シタルトキト假定スレバ其時計モ此場合ニ當ルベシ
(尾崎)
此點ハ先ヅ此儘ニシテハ如何其議ニ決ス
(栗塚)
第二項「負擔セラレス」ハ「之ヲ負擔セス」ト修正シテハ如何
可決ス
第七百十六條 若シ買主カ物上訴權ニ因リ妨碍セラレ又妨碍セラルル事ヲ恐ルヘキ正當ノ事由ヲ有スルトキハ買主ノ其妨碍若クハ危險ヲ止マシメ又ハ追奪ノ場合ニ在テハ買主ニ代價ヲ返還スルノ保證人ヲ立ツルマテ買主ハ右訴權ノ輕重ニ隨ヒ代價ノ全部又ハ一分ヲ辨濟スル事ヲ拒ム事ヲ得
此條例ハ若シ買主カ物ノ他人ニ屬スル事ヲ直接ニ證スル事ヲ得ルトキハ買主ニ於テ賣買ノ無效ヲ宣吿セシメ及ヒ擔保ノ訴權ヲ行フノ權利ヲ妨ケス
(栗塚)
本條妨碍ノ上又トアルハ「又ハ」ノ誤リ又賣主ノ其妨碍トアルハ賣主ガ其ノ妨碍ト修正セリ
(委員長)
危險ヲ止マシメト云フハ止マシムルマデト云フ意カ
(栗塚)
然リ
(淸岡)
妨碍トハ如何
(栗塚)
追奪セラルルノ恐レアルト云フ譯ナリ
(淸岡)
保證人ヲ立テタル以上ハ追奪サレタル以後ト雖モ之ヲ拒ム事ヲ得ト云フガ如シ
(委員長)
否追奪セラレントスル際ニアラザレバ不可ナリ
第七百十七條 若シ賣ラレタル不動產ニ付キ抵當又ハ先取特權ノ記入アルトキハ買主ハ滌除ノ方式ヲ行フタル後ニアラサレハ代價ヲ辨濟スルノ責ナシ但適法ノ期間ニ於テ滌除ヲ行フ事ヲ要ス
(松岡)
滌除法ハ何時ニ之ヲ行フカ
(栗塚)
早速之ヲ行フベシ
第七百十八條 前二條ニ定メタル場合ニ於テ若シ賣主ノ先取特權及ヒ第三者ニ對スル其解除ノ權利ノ保存ノ爲メ必要ナル方式カ遵守セラレサルトキハ賣主ハ當事者雙方ノ名ヲ以テ買主ヲシテ猶豫ナク代價ヲ供託セシメ當事者雙方ノ承諾又ハ裁判所ノ判決ニ憑リ其手續終了ノ後ニアラサレハ其代價ヲ引取ル事ヲ得サル樣爲ス事ヲ要求スル事ヲ得
(松岡)
賣主ノ先取特權云々ハ賣主ガ其賣物ニ付キ先取特權ノ方式ヲ爲サズ及ビ第三者ニ對スル其解除ノ權利ノ保存ノ爲メ其方式ヲ爲サザリシトキハト云フ譯カ
(栗塚)
然リ
(南部)
賣主ノ先取特權ハ賣主自身ノ先取特權ニシテ第三者ノ先取特權ニアラズ
(栗塚)
本條ハ其保證人ヲ立ツルヲ得ザル場合ハ代價ヲ供託セシムル事ヲ得ト云フヲ記示シタルニ過ギズ
(淸岡)
第七百十六條ニ於テハ買主ハ他人ニ屬スル事ヲ直接ニ證スル事ヲ買主ニ於テ賣買ノ無效ヲ宣吿セシムル事ヲ得トアルニ本條ニ於テハ代價ヲ供託セシムルト云フハ不都合ニアラズヤ
(南部)
裁判所ノ判決アラザル以前ハ其物件未ダ他人ニ屬スルモノト云ヲ得ズ
第七百十九條 若シ動產物ノ買主カ代價ヲ辨濟シタルト否トヲ問ハス引渡ヲ受クルノ權利ヲ有スル當時ニ於テ引渡ヲ受ケサルトキハ賣主ハ第四百九十五條乃至第五百條ニ從ヒ其賣ラレタル物ノ提供及ヒ供託ヲ爲ス事ヲ得
然レトモ飮食品又ハ其他速ニ敗損スヘキ物ニ關シテハ賣主ハ若シ買主ノ爲メ之ヲ轉賣スル事ヲ得ルトキハ其轉賣ヲ爲ス事ヲ得
(栗塚)
本條二項ノ飮食品トアルハ反譯上ニテ日用品トシ轉賣ヲ爲ス事ヲ得トアルハ轉賣ヲ爲ス事ヲ要スノ誤ナリ
(松岡)
引渡ヲ受クルノ權ト云フハ如何
(栗塚)
受クルト云フハ取ルト云フ譯ナリ受ケザルト云ヘバ引渡アラザルトキノ意味ナルヲ以テ此字ハ反譯局ニテ妥當ノ文字ヲ撰用セントス
第三節 賣買ノ解除及ヒ銷除
第一款 義務ノ不履行ノ爲メノ解除
第七百二十條 若シ當事者ノ一方カ上ニ定メタル如キ自己ノ義務又ハ其特ニ負擔スル總テ其他ノ義務ノ全部若クハ一分ヲ履行スル事ヲ缺キタルトキハ他ノ一方ハ損失アラハ其賠償ヲ得テ第四百四十一條乃至第四百四十四條ニ從ヒ契約ノ解除ヲ裁判上ニテ請求スル事ヲ得
若シ解除カ當事者ノ間ニ明示ニテ要約セラレタルトキハ裁判所ハ恩惠期間ノ特許ヲ以テ其解除ヲ遲延スル事ヲ得ス然レトモ其解除ハ若シ履行ヲ缺キタル當事者カ徒ラニ遲滯ニ付セラレタルトキニアラサレハ當然其效力ヲ生セス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項ノ第四百四十一條乃至第四百四十四條ニ從ヒトアルヲ刪リ請求スル事ヲ得ト云フ下ニ但第四百四十一條乃至第四百四十四條ニ從フト云ヘルヲ附記スルハ賠償ヲ得テ契約ノ解除ヲ裁判上ニテ請求スル事ヲ得ト云フ主旨ナルヲ明カニセンガ爲メナリ又第二項ノ徒ラニト云フ三字ヲ刪リ遲滯ニ付セラレタルトアル下ヘモ徒勞ニ屬シタルト云フ字ヲ挿入シタルハ戲レニ遲延ニ付セラレタルニアラズ全ク無用ニト云フ意味ヲ顯ハサンガ爲メナリ
(村田)
第一項ハ報吿委員ノ修正ヨリハ原案ノ儘ヲ可トス
(栗塚)
他ノ一方ハ第四百四十一條乃至第四百四十四條ニ從ヒ損失アラバ其賠償ヲ得トアルヲ契約ノ解除ヲ云々トシテハ如何
(南部)
然カスルトキハ損失ナケレバ契約ヲ解除スルヲ得ザル如クナルモ然レドモ賠償ト解除トハ元來二致ニ屬スベキモノナレバナリ
(栗塚)
損失アラバト云ヘルハ必用ノ文句ナリ恰モ疵傷アレバ膏藥ヲ貼シト云フガ如シ
(南部)
受ケタル損失ノ賠償ヲ得テトスレバ可ナリ
(松岡)
他ノ一方ハ第四百四十一條乃至第四百四十四條ニ從ヒ裁判上ニテ契約ノ解除ヲ請求シ損失アラバ其賠償ヲ請求スル事ヲ得トシテハ如何
(委員長)
可ナリ
(村田)
請求シノ下且ト云フ字ヲ挿入スベシ
可決ス
(淸岡)
第二項遲滯ニ付セラレタルモノト云フハ如何
(栗塚)
遲滯ニ付シタルモ無效ナルトキハト云フ譯ナリ
(南部)
遲滯ニ付シタル行爲徒勞ニ屬セザルトキハ解除ニ至ラズ付遲滯ヲ以テスルヲ得ルモノナリ
(栗塚)
解除ハ付遲滯ノ間ハ之ヲ爲スヲ得ズ未ダ遲滯ニ付セザル以前カ又遲滯ニ付シタルモ其遲滯ニ效力ヲ有セザルトキナラザルベカラズト云フニアリ
(淸岡)
然ラバ遲滯ニ付セズ直グ解除スルノ勝レルニ如カズ
(西)
遲滯ニ付スル目的ハ契約ノ履行ヲ希望シタルモノナリ
(栗塚)
然リ假令バ何日マデニ代價ヲ償却セヨト云ヒナガラ其契約ハ解除シタリト云フヲ得ズ解除セントスルニハ一旦遲滯ニ付セザルヲ得ズ
(村田)
遲滯ニ付セザルモ可ナルベシ
(淸岡)
遲滯ニ付シ尙ホ其契約ヲ履行セザレバ之ヲ解除スルト云フモノニアラザルベシ
(委員長)
遲滯ニ付セラレタルモ徒勞ニ屬シタルト云フハ遲滯ニ付セラレタルモ無用ニ屬シタルトキニアラザレバトシテハ如何
(松岡)
無用ト云ヘバ爲スヲ要セザルニ爲シタルトキノ如クナルヲ以テ不可ナリ
(南部)
無用ニ屬シタルトキニアラザレバトスルヲ可トス
可決ス
第七百二十一條 辨濟ヲ缺キ又ハ買主ノ其他ノ義務ヲ缺キタル爲メノ解除ハ登記セラレタル賣買證書ニ買主尙ホ代價ノ全部若クハ一分ヲ負擔スル事ヲ記載シ又ハ買主ノ責任タル其他ノ負擔及ヒ條件ヲ明示シタルトキニアラサレハ賣主ヨリ轉得者ニ對シテ之ヲ請求スル事ヲ得ス
然レトモ賣主ハ第三百七十二條ニ記載シタル如ク事後ニ右ノ負擔及ヒ條件又ハ其解除ノ請求ヲ公示シテ常ニ第三者ニ對スル其解除ノ權利ヲ保全スル事ヲ得
(栗塚)
本條ハ第一項ヲ報吿委員ニテ修正シ冒頭ニ買主ト云フ字ヲ冠シ又ハノ下買主ノト云フ三字ヲ刪ル
(委員長)
轉得者ト云フハ第三者ヲ云フカ
(栗塚)
然リ
第七百二十二條 辨濟ノ爲メ期限ヲ定メテ爲シタル動產ノ賣買ニ於テ其引渡カ實行セラレタルトキハ賣主ハ辨濟ヲ缺キタル爲メノ解除ノ權利ヲ買主ノ他ノ債權者ヲ害シテ行フ事ヲ得ス
若シ賣買カ期限ナクシテ爲サレタルトキハ賣主ハ引渡ヨリ八日内ニ賣買ヲ解除セシムル事ヲ得然レトモ善意ナル第三者ノ既ニ得取シタル物權ヲ害スル事ヲ得ス
(栗塚)
本條第二項若シ賣買ガノ下辨濟ノト云フ三字ヲ挿入セリ
(淸岡)
本條第一項ハ如何ナル意味カ
(栗塚)
動產ヲ賣却シタル者未ダ辨濟ヲ受ケザルニ買者ハ其物品ヲ第三者ニ賣附シタルトキハ最初ノ賣者ハ第三者ヲ害シ辨濟ヲ求ムルヲ得ズト云フ譯ナリ
(淸岡)
期限ヲ定メアルヲ以テ期限前引渡シタル物件ガ第三者ニ轉移シタリトテ賣主ノ權利ヲ妨グル事ヲ得ズ
(栗塚)
第三者ヲ害スルヲ得ザルモ買主ニ對シテ債權者ト爲ルモノナリ
第二款 買戻ノ權能ノ行用
第七百二十三條 賣主ハ賣買證書ノ中ニ記入シタル買戻ト稱スル約定ニ依リ若シ買主ノ辨濟シタル代價及ヒ費用ノ一分ヲ定マリタル期間内ニ買主ニ返還スルトキハ其賣買ヲ解除スヘキ事ヲ要約スル事ヲ得
其期間ハ不動產ニ付テハ五个年又動產ニ付テハ二个年ニ過クル事ヲ得ス
若シ一層長キ時期ニ付キ要約ヲ爲シタルトキハ其要約ハ當然右ノ期限ニ短縮セラル
期間カ一旦定メラレタル上ハ二个年又ハ五个年ノ制限内ト雖モ之ヲ長伸スル事ヲ得ス
然レトモ其長伸ハ買主ニ因レル再賣ノ豫約ト看做ス事ヲ得此場合ニ於テハ其長伸ハ第六百六十三條及ヒ第六百六十四條ノ條例ニ從フ
賣買ノ後ニ爲シ又ハ別證書ヲ以テ爲シタル買戻ノ要約ニ付テモ亦同シ
賣主ハ若シ代價ノ半額又ハ半額以上ノ辨濟ノ爲メ期限ヲ與ヘ且其期限カ買戻ノ爲メ定メタル期間ノ半ニ等シク又ハ半ヲ踰ユルトキハ有効ニ買戻ノ權能ヲ要約スル事ヲ得ス
(栗塚)
買戻ノ文字ハ起案者之ヲ妥當トセズ依テ受戻トスルカ又引戻トスルカ將タ別字ヲ撰用スベシト云フニアリ寺島報吿委員ハ引戻ト云フニ妥當ナリト云ヘリ
(箕作)
賣買ノ受戻ト云フハ不可ナリ
(尾崎)
買戻ト云フハ從來日本ニモ慣用シタル語ナルヲ以テ買戻シト云ヘルヲ然ルベシトス
(箕作)
買戻トハ一日賣買ヲ終了セザルベカラズト雖モ此點ハ未ダ賣買ヲ濟了シタルモノニアラズ
(栗塚)
此點ハ賣買ヲ解除スルト云フ意ニ過ギズ買戻ト云フ譯トハ異ナレリ
(南部)
從來年金ノ買戻ト云フ證文アル位ナレバ買戻ト云フヲ以テ可ナリトス
(箕作)
受戻ハ質物受戻シト云フニ用ユル辭ニシテ賣買ヲ受戻スト云フ事ナシ
(栗塚)
買戻ノ文字ハ起案者之ヲ修正シタレバ一旦引戻シト爲シ置キ更ラニ本會ノ決議ヲ以テ修正スルニ差支ナカルベシ故ニ命題ハ賣買引戻シトシ證書中ニ記入シタルノ下買戻ノ文字ハ反譯上ニテ賣買引戻トセリ
(尾崎)
買戻シトスベシ
可決ス
(栗塚)
記入ノ字ハ報吿委員ニテ明記シ費用ノ一部トアルヲ費用ノ部分ト修正セリ
(南部)
買戻ト稱スルト云フ字ハ刪除シテ可ナリ
(栗塚)
明記シタル約定ニ依リトスベシ
可決ス
(西)
不動產ニ付テハ五个年又動產ニ付テハ二个年ト云フハ期間延長ニ失シ世間ノ流通ヲ妨碍スベシ
(淸岡)
不動產ノ買戻シ期間ヲ五年トスルハ寧ロ短縮ナリト云フベシ不動產買戻ノ契約アルモノノ如キハ諸種ノ事情錯綜シタルモノナレバ五年間ノ期限ヲ以テ之ヲ制限スルハ世間頗ル迷惑ヲ受クルモノアラン又買戻契約ノ期間ヲ延長シタレバトテ弊害アリヤト云フニ決シテ其弊害ヲ見ザルナリ
(南部)
買戻契約アルモノハ必竟徒ラニ中間ニ繋リシ未定ノ性質ヲ有スルモノナレバナリ
(村田)
原案ノ期間ヲ可トスベシ
可決ス
(松岡)
動產ニ付テハ二个年ト云フ期間ハ刪除シタシ
(尾崎)
然リ
(南部)
動產ニ付テハ二个年ノ期限ヲ廢スルト云フハ其買戻ヲ爲スヲ得ザルモノトスルカ
(尾崎)
動產ニハ從來買戻ト云フ習慣アラズ
(栗塚)
動產ノ期間ハ敢テ必用ト云フニアラズト雖モ此期間ヲ存置スレバトテ決シテ害ナシ
(松岡)
動產ハ相對間ニ於テ隨意ニ其期間ヲ定メテ可ナリ何ゾ特ニ二个年ノ期間ヲ用ユルヲ要センヤ此點モ
結局原案ニ決ス
(尾崎)
期間ガ一旦定メラレタル上ハ二个年又ハ五个年ノ制限内ト雖モ之ヲ長伸スルヲ得ズト云フ制限ヲ附シタルハ何ノ必用アルヤ既ニ二个年又ハ五个年ノ期限アル以上ハ其期限内ニ於テ期間ヲ伸長スルニ於テ何ノ不可アラン
(松岡)
此制限ハ洵ニ契約ノ自由ヲ害スルモノト云フベシ
(南部)
此制限ハ要用ナルベシ
(村田)
然リ
此點モ原案ニ決ス
第七百二十四條 不動產ニ付テハ法律ノ定メタル期間内ニ其定メタル條件ヲ以テ買戻ノ權能ヲ行ヒタルトキハ買主ノ付與シ又ハ其權利ニ依テ第三者ノ得取シタル總テノ物權ヲ免カレテ其不動產ヲ賣主ノ手裏ニ復セシム但經過スヘキ殘餘期間カ三个年ニ過キサル賃借ハ此限ニ在ラス
動產物ニ關シテハ買戻ノ權能ハ善意ニテ其動產物ニ付キ物權ヲ得取シタル第三者ニ對シ之ヲ行フ事ヲ得ス
(栗塚)
本條第一項ハ報吿委員ニテ條件ヲ以テノ下ニ爲シタルト云フ字ヲ加ヘ權能ヲ行ヒタルトキトアルヲ權能ノ行用ハトシ買主ノ付與シ又ハ其權利ニ依テトアルヲ買主ヨリトシ總テノ物權ヲ免ガレテトアルヲ物權ヲ脫シテトセリ
(淸岡)
買主ヨリ第三者ノ取得シタル總テノ物權ヲ脫シテト云ヘバ買主ノ脫スルガ如キ意味ナル如キ嫌ヒアリ
(箕作)
第三者ノ買主ヨリ得取シタルトシテハ如何
(栗塚)
免レシメト云フヲ得ザルカ
(淸岡)
然カスルトキハ買主ガ免レシムル如クナルヲ以テ不可ナリ
(箕作)
報吿委員ノ修正ニ從フベシ
(尾崎)
三个年殘期ノ賃借ハ何故ニ取戻スヲ得ザルヤ
(栗塚)
賃貸借ハ賃借入ノ迷惑トモナルモノナレバナリ
(南部)
賃貸借ヲ物權トシテ殘期間三个年ニ過ギザルモノハ此限ニ在ラズト云フ理由ヲ見ル能ハザルナリ
(尾崎)
賃借付ノ儘ニ置クモノトスルハ恰モ瑕疵アルガ如シ
(西)
殘餘期間ト云フハ買戻ノ殘餘期間ナルニアラズヤ
(南部)
否ナ賃借ノ殘餘期間ナリ
(淸岡)
不動產ノ買戻ハ五个年期間ト定メアルヲ以テ賃借ノ期間ヲ云ヒシモノニハアラザルベシ
(箕作)
個ハ賃借ノ期間ヲ云ヒシモノナリ
(村田)
但書ハ刪除スベシ
(箕作)
不動產ニ付テハ必ラズ登記スルモノナレバ賃借者ハ買戻契約卽チ五年間ノ期限アルヲ知ルベシ故ニ賃借人其土地ヲ取戻サルルモ苦情ヲ銘ズ事ヲ得ザルベシ
第七百二十五條 賣主ノ債權者ハ賣主ニ代ハリテ買戻ノ權能ヲ行フ事ヲ得
然レトモ買主ハ右債權者カ豫メ其債務者ノ無資力ヲ證明シ且第三百五十九條ニ從ヒ買戻ノ權能ノ行用ノ爲メ裁判上ニテ賣主ニ代位スル事ヲ要求スル事ヲ得
又買主ハ物ノ保存ノ費用トシテ賣主ヨリ己レニ返還スヘキ金額ヲ控除シテ債權者ニ皆濟スルニ因リ其債權者ノ訴ヲ止ムル事ヲ得
(今村)
本條末項ハ起案者ヨリ改案スルモノアリトテ其意見ヲ送付シ來レリ依テ本條ハ暫時後廻シニ附セラレタシ
第七百二十六條 若シ賣主カ買戻約定ヲ以テ賣リタル物ヲ後日抵當トシ又ハ之ニ其他ノ物權ヲ負擔セシメタルトキハ其權利ノ効力ハ賣主自身又ハ前條ノ場合ニ於テハ其債權者ニ因レル買戻ノ行用ニ繋ル
若シ賣主カ買戻ニ服シタル物ノ所有權ヲ移付シタルトキハ其得取者ハ自己ノ名ヲ以テ買戻ヲ行フ事ヲ得然レトモ其得取者ハ賣主ニ因リ移付前ニ承諾セラレ且登記ヲ以テ公示セラレタル他ノ物權ヲ尊重スル事ヲ要ス但擔保ニ於ケル得取者ノ求償權ヲ妨ケス
(栗塚)
本條ハ第一項ノ「前條ノ場合ニ於テハ」トアルヲ刪リ又第二項ハ買戻ノ下「ニ服シタル物ノ所有」ト云フ數字ヲ除ケリ
(箕作)
買戻權ヲ移付スルト云フハ如何
(松岡)
賣主ハ所有權ヲモ有セザルベシ
(栗塚)
然リ賣主ニ所有權アリトセバ買者ノ所有權ト共ニ二個ノ所有權アルガ如クナルヲ以テ所有權トハ云フベカラズ卽チ賣主ハ買戻ス事ヲ得ベキ買戻權ヲ有スルモノト云フ譯ナリ
(箕作)
未必條件附ノ移付ト云フヲ得ベシ
(南部)
買戻權ト云ヘバ單ニ買戻スト云フノミナルヲ以テ不可ナリ依テ原案ノ儘ヲ可トス
第七百二十七條 買戻ノ權能ヲ行フ賣主ハ定マリタル期間内ニ賣買ノ原價及ヒ契約ノ費用ノ外物ノ保存ノ爲メ爲シタル出費ヲ買主ニ辨償スル事ヲ要ス
若シ買主カ右ノ金額ヲ受取ル事ヲ拒ミタルトキハ其金額ハ猶豫ナク供託セラルル事ヲ要ス
又賣主ハ物ヲ改良シタル出費ヲ辨償スル事ヲ要ス然レトモ賣主ハ此事ニ付キ裁判所ヨリ猶豫ヲ受クル事ヲ得
買主ハ右ノ金額ノ皆濟ヲ受クルマテ物ノ留置權ヲ有ス
(栗塚)
本條ハ第二項ヲ報吿委員ニテ其金額ト云フヲ賣主トシ猶豫ナクノ下ヘ之ヲト云フ字ヲ挿入シ供託セラルルト云フヲ供託スルトセリ
(淸岡)
原價及ビ契約ノ費用ノ外物ノ保存ノ爲メニセシ費用ヲモ辨償スルト云フハ甚シキニアラズヤ
(栗塚)
買主ハ洪水田地ヲ荒ラスヲ防禦シ又修覆ヲ要スルガ如キハ其手入ヲ爲シタルガ爲メ買戻ヲモ爲スヲ得ベシ此費用ハ必用ノ費用ニ屬シ奢侈ノ費用ヲ包含スルモノニアラズ
(尾崎)
從來ノ慣習ニハ此等ノ費用ヲ辨償スルモノニアラズト雖モ一旦賣渡ヲ爲シタル以上ハ保存費用ヲモ償ハシメントスルモノナルカ願クバ此種ノ辨償ハ除去シタシ
此儘ニ決ス
第七百二十八條 若シ買戻約定ニ於ケル賣買カ不動產ノ不分ノ部分ヲ目的トシタルトキ買主カ己レニ對シテ促サレタル公賣ニ因リテ財產全部ノ競落人ト爲リタルニ於テハ賣主ハ其受取リタル代價ニ公賣ノ代價ヲ加ヘテ全部ノ爲メニスルニアラサレハ買戻ヲ行フ事ヲ得ス
又買主ハ全部ノ買戻ニ故障ヲ述フル事ヲ得ス
若シ買主カ公賣ヲ促シタルトキハ賣主ハ其賣リタル部分ニ付テノミ買戻ヲ行フ事ヲ得
又買主ハ全部ノ買戻ニ故障ヲ述フル事ヲ得
(栗塚)
本條第一項ノ其受取リタル代價ト云フヲ刪除シ前條ニ記載シタル金額ト修正シ公賣ノ下拂足ノ字ヲ加フ
(今村)
公賣ノ字ハ他ニ不分物公賣トアルニ於テ不都合ナルヲ認視ス不分物公賣ト云フ場合ハ必ラズ公賣ニアラズ僅數ノ買者ニ競買セシムル事アレバナリ
(栗塚)
然ラバ此公賣ハ反譯上ノ修正ヲ以テ何レモ競賣トスベシ
(南部)
拂足ノ字ハ不用ナルヲ以テ否決スベシ
(栗塚)
競賣ノ代價ト云ヘバ競賣全部ニ關スル嫌ヒアルニ依リ拂足トシタリ
結局拂足ノ字ハ否決セラル
第七百二十九條 若シ賣主ニアラサル共有者ノ一人又ハ外人ノ利益ニ於テ公賣ノ競落アルトキハ其何レノ當事者ヨリ之ヲ促シタルヲ問ハス賣主ハ若シ公賣ニ召喚セラレサリシ場合ニ於テ其賣リタル部分ノミニ付キ競落人ニ對シ買戻ノ權利ヲ保存シ之ニ反スル場合ニ於テハ其權利ヲ失フ
(栗塚)
本條ハ冒頭ニ公賣ガ何レヨリ促サレタルヲ問ハズト云フ字ヲ加ヘ又外人トアル下「ニ」ノ字ヲ加ヘ「ノ利益ニ於テ公賣ノ」トアルヲ刪リ競落アルトキハト云フヲ競落シタルトキハトシ「其何レノ當事者ヨリ之ヲ促シタルヲ問ハス」ト云ヘルヲ刪リ「場合ニ於テ」ノ下「ハ」ノ字ヲ除ケリ
可決ス
第七百三十條 若シ現物ヲ以テ派分ヲ爲シタルトキ賣主カ派分ニ召喚セラレタルニ於テハ賣買ハ何レノ當事者ヨリ派分ヲ促シタルヲ問ハス他ノ所有者ニ歸シタル部分ニ付キ何等ノ要求ヲモ爲ス事ヲ得ス其賣主ハ買主ニ歸シタル部分ヲ取回ス事ヲ得ルノミ但當事者雙方買主ノ供給シ又ハ受取リタル補足額ヲ互ニ計算スル事ヲ妨ケス
若シ賣主カ派分ニ召喚セラレサリシトキハ賣主ハ其撰擇ヲ以テ或ハ爲サレタル派分ヲ確認シテ買主ニ對シ前ニ指示シタル權利ヲ行ヒ或ハ自己ノ受取リタル代價ヲ買主ニ辨償シテ共有者ニ對シ再派分ヲ促ス事ヲ得
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項ノ賣買ハ何レノトアルハ賣主ハ何レヨリト云フ寫字上ノ誤リ何レノ當事者トアルノ當事者ノ四字ヲ刪リ但ノ下當事者雙方ノ文字ハ補足額ヲトアル下ニ轉入シ又第二項ハ自己ノ受取リタル代價ト云フヲ第七百二十七條ニ記載シタル金額ト云フ字ニ換正セリ
可決ス
第七百三十一條 若シ不分物ノ共有者カ一箇ノ契約ヲ以テ唯一代價ニテ其物ヲ買戻約定ヲ以テ賣リタルトキハ買主ハ一分ニ付キ買戻ニ服スルノ義務ナシ
又買主ハ賣主ノ一人ヨリ爲ス全部ノ買戻ニ故障ヲ述フル事ヲ得但其賣主ノ一人カ他ノ賣主ノ委任ニ憑リ買戻ヲ行ヒタルトキハ此限ニ在ラス
若シ一人ノ賣主カ數人ノ相續人ヲ遺シテ死亡シタルトキモ亦同シ
若シ之ニ反シテ數人ノ共有者カ各別ノ契約ヲ以テ其各部分ヲ賣リタルトキハ各自ハ各別ニテ買戻ヲ行フ事ヲ得但第七百二十八條及ヒ第七百三十條ヲ適用スヘキトキハ之ヲ適用スル事ヲ妨ケス
(栗塚)
本條第一項ハ報吿委員ニテ買戻ニ服スルノ義務トアルヲ買戻ヲ受クルノ責ト修正ス
可決ス
第七百三十二條 若シ數名ノ買主カ一箇ノ契約又ハ各別ノ契約ニ因リ買戻約定ヲ以テ一箇ノ不動產ヲ得取シタルトキ賣主カ買主ノ間ニ派分ヲ爲サルル前ニ買戻ヲ行ハント欲スルニ於テハ賣主ハ或ハ併合シテ或ハ各別ニテ各買主ニ對シ其部分ニ付キ買戻ヲ行フ事ヲ得
若シ既ニ派分アリタルトキハ賣主ハ各買主ニ對シ派分又ハ公賣ニ因リテ其各自ニ歸シタル部分ニ付テノミ買戻ヲ行フ事ヲ得
若シ一人ノ買主カ數名ノ相續人ヲ遺シテ死亡シタルトキハ右同一ノ規則ヲ適用ス
(栗塚)
本條第一項ハ報吿委員ニテ買戻約定ヲ以テトアルヲ買戻約定付ノトシ賣主ハ或ハノ下「併合シテ或ハ各別ニテ各」トアルヲ刪リ總テノ買主ニ對シ或ハ一名若クハ數名ノト修正シ其部分ト云フヲ各自ノ部分トセリ
(箕作)
各自ノ部分ト云フハ元ノ如ク其部分ト云フヲ宜シトス
(村田)
買戻約定付ト云フハ元ノ如ク買戻約定ヲ以テトスルヲ可トス
(箕作)
各自ノ部分ニ付ト云フヲ刪リテハ如何
可決ス
第三款 折損ノ爲メノ銷除
第七百三十三條 若シ不動產ノ賣買カ契約ノ日ニ於ケル其實價ノ半以下ノ代價ニテ爲サレタルトキハ賣主ハ折損ノ爲メ銷除ヲ請求スル事ヲ得但賣主カ契約ヲ以テ明示ニテ此銷除ヲ抛棄シ又ハ代價ノ補足ヲ抛棄スル事ヲ述ヘタルトキモ亦同シ
折損ノ爲メノ銷除ハ代價カ當事者間ニ合意シタル第三者ニ因リ定メラレタル場合ニ於テハ之ヲ許サス但第六百七十條第三項及ヒ第四項ノ適用ヲ妨ケス
(今村)
本款卽チ折損ノ爲メノ銷除ト云フハ全廢セラレン事ヲ希望ス何トナレバ凡ソ獨立ノ一個人ガ既ニ契約ヲ爲シタル後之ヲ折損アリトシテ其契約ヲ銷除セント云フ理由アラザレバナリ「ボアソナード」氏ハ對手人ノ一方ニ折損ヲ生ズル位ナレバ他ノ對手方ハ恰モ不當ノ利益ヲ得ルモノナリト云フヲ以テ此原案ヲ作爲シタルモノナリ又一種ノ論趣ハ動產賣買ハ假令高價ノ品物ヲ何程低價ニ賣却スル事アルモ法律ノ干渉ヲ要セザルニ不動產ハ動產ト等シキ方法ニ處スルヲ得ズト云フニアリ然ルニ實際ヲ考究スルニ金額急需ノ爲メ所有ノ不動產ヲ賣却シ其需用ヲ逹シタル以上折損アリトシテ其契約ヲ消除セントスルガ如キハ甚不都合ヲ感ズルモノナレバ本款ハ到底不利ノ條款タルモノトス
(南部)
本款刪除說アルモ一應各條ヲ審議シ利害ヲ考究シタル以上ニ於テ其刪否ヲ決シタシ
(栗塚)
本款存置ト云フニ決スレバ本條ノ實債ノ半以下ヲ十分ノ一ト云フニ修正シタシ
第七百三十四條 銷除ハ賣買カ條件附ナルトキト雖モ契約ノ時ヨリ二个年内ニ之ヲ請求スル事ヲ要ス
此期間ハ賣買契約ヲ以テ之ヲ增減スル事ヲ得ス
若シ買戻ノ權能力要約セラレタルトキハ二個ノ期間ハ最モ短キ期間ニ滿ツルマテ混同ス
(栗塚)
本條第二項ハ報吿委員ニテ但書ヲ附シ但日後特別ノ契約ヲ以テ其期間ヲ減縮スル事ヲ得ト云フヲ增入ス
(淸岡)
但書ニ於テ減縮スルヲ得ト云フハ如何
(村田)
但書ニ依リ減縮スルヲ得ルモ增延スルヲ得ズト云フヲ見ルニ足ルベシ
(栗塚)
起案者ノ精神ハ銷除ハ到底是認シタルニアラザルヲ以テ成ル可ク短期ニスルヲ得セシメ之ヲ存在セザラシメントスルニアリ
(今村)
「ボアソナード」ノ說ハ賣主至當ノ代償ヲ得ザルト云フヨリ寧ロ買者ノ不當ノ利益ヲ得ントスルヲ許サザルモノナリ
(南部)
此修正ハ採用スベシ
可決ス
第七百三十五條 賣買ノ日ニ於ケル不動產ノ價額ハ證書及ヒ證人又ハ鑑定人ヲ以テ之ヲ證ス
當事者ハ各常ニ一人ノ鑑定人ヲ選任スル事ヲ請求スル事ヲ得
總テノ場合ニ於テ裁判所ハ職權ヲ以テ鑑定人一人ヲ選任スル事ヲ要ス
右ノ外後ノ第五編及ヒ民法訴訟法ニ定メタル鑑定ノ一般ノ規則ヲ適用ス
(栗塚)
本條第二項ノ各常ニトアル各ハ當事者ノ上ニ冠セシメタシ
可決ス
第七百三十六條 折損ノ爲メノ銷除ハ第三百七十二條第一項ニ從ヒ爲シタル請求ノ公示ニ先タチ證書ヲ登記シタル物權ノ轉得者ニ對シ之ヲ行フ事ヲ得ス
無異議
第七百三十七條 若シ買主カ第五百七十六條ヲ以テ許與セラレタル正當代價ヲ補足スルノ權能ヲ行ハント欲スルトキハ請求ノ日ヨリノ補足額ノ利息ヲ負擔ス
若シ買主カ物ヲ返還スル事ヲ欲スルトキハ其辨濟シタル代價ヲ請求後ノ利息ト共ニ請求後ニ收取シタル果實ヲ返還ス
此終ノ場合ニ於テ買主ハ代價ノ皆濟ヲ受クルマテ占有ヲ留置スル事ヲ得
(栗塚)
本條第二項ハ請求後ノ利息ト共ニトアル下ヘ反譯上ニテ回取シ且ト云フ字ヲ挿入セリ
(村田)
末項ノ買主ハ代價トアル下ニ及ビ其利息ト云フ字ヲ挿入シタシ
(栗塚)
其文字ハ反譯上ニテ挿入スル事トスベシ
第七百三十八條 買戻權能ノ可分又ハ不可分ノ行用ニ付キ第七百二十八條乃至第七百三十二條ニ定メタル規則ハ折損ノ爲メノ銷除ニ之ヲ適用ス
無異議
第七百三十九條 公賣ニテ爲シタル賣買ニ於テハ其賣買カ任意ナルモ折損ノ爲メノ銷除ハ存立セス但裁判所ノ權ヲ以テ爲シタル賣買ノ爲メ定メタル公示及ヒ期間ヲ遵守シ且公賣ノ自由ニ何等ノ妨碍ヲモ加ヘサリシ事ヲ要ス
(栗塚)
本條ハ公賣ニテ爲シタル賣買ニ於テハトアルヲ公ノ競賣ニ於テハトシ其賣買ガトアルヲ其競賣ガトシ但裁判所ノ權ヲ以テノ下爲シタルトアルヲ爲ストシ賣買ヲ賣却トシ公賣ハ競買トセリ競買ト云フハ競リニ於テト云フ譯ナレドモ競リニ於テモト云フヲ得ザルニ付キ競買ト云ヘリ
(松岡)
競賣ノ自由ニ何等ノ妨碍ヲモ加ヘザリシト云ヘバ買者ノ自由ヲ妨グルモト云フ如シ
(尾崎)
競リト云フトキハ買者ノミナラズ競賣トモ云フベキニ付キ賣者ニモ適用スルモノナリ
(西)
競リト云フハ買者ニシテ賣者ヨリスレバ競ヲスルト云フモノナリ
(委員長)
競方トシテハ如何
(栗塚)
競方ト云フトキハ呼聲ヲ云フモノノ如シ
(松岡)
本條ニ公ノ競賣ト云フハ如何
(栗塚)
不分物ノ競賣ニ於テハ公ニアラザルヲ以テ公ノ字ヲ除クベシトシタシヨシト云フトキハ競賣トシタルナリ
(委員長)
競賣ト云ヒ競買ト云ヘバ兩意味ノ場合ニ於テハ競賣買ト云ハザルベカラザルニ至ル故ニ競ト云ヘバ恰モ其兩意ヲ包有スベシ
(南部)
公賣ト云フヲ公ノ競リトシタルトマデ何モ區別ヲ見ズ
(栗塚)
競賣ノ自由ト云フ場合ノミ地既リトスベシ
可決ス
第七百四十條 賣ラレタル權利又ハ辨濟スベキ代價ノ本性ニ因リ射倖ノ性質ヲ有スル賣買ハ折損ノ爲メ之ヲ銷除スル事ヲ得ス
(委員長)
過日本款卽チ折損ノ場合ヲ全廢セント云フ論アリシハ如何ナル譯ナルヤ
(栗塚)
日々ノ商賣取引ニ於テハ損益アラザルモノナシ損益ハ商賣取引ノ常慣ナルニ本款ハ其常慣ヲ矯制セント云フモノナレバ不都合ト云フベシ高利貸ノ金圓ハ償却スルニ及バズト云フニ等シ
(今村)
本款刪除ニ付テハ起案者ノ同意セザル所ナリト雖モ其精神ハ不當ノ利得ハ許スベカラズト云フニアリ換言スレバ憫然ノ次第ナリト云フニ過ギズ然ルニ起案者ハ富豪家ノ折損ハ訴權成立セズト云ヒ又之ヲ第三者ニ賣却シタルトキハ回收スルヲ得ズト云フハ其論旨甚ダ模糊撞着タルヲ免レズ佛國ニ於テモ一旦此點ヲ廢却シ又獨逸法ニハ全ク此點アラズ日本民法ニ於テ特ニ此規定ヲ置クベキ必要ナシ
(委員長)
理論上ニ於テハ不用ニ屬スルモ實際ニ於テ憫然タル場合アリ
(今村)
法律上ニ於テハ種々ノ理由ヲ附スルモ其實憫然タリト云フニ過ギズ
(尾崎)
本款ノ如キハ實際上必要ヲ感ズルモノ少カラザルヲ以テ存置シタシ
(西)
然リ
結局全廢說ハ存立セズ
第四款 隱レタル瑕疵ノ爲メノ賣買廢却訴權
第七百四十一條 動產ト不動產トヲ問ハス賣ラレタル物ニ賣買ノ當時ニ於テ買主ノ知ラサル不表見ニシテ修補スル事ヲ得サル瑕疵アリテ若シ其瑕疵カ物ヲ其本性若クハ當事者ノ一致ニ因リ供セラレタル用方ニ不適當ナラシメ又ハ買主其瑕疵ヲ知レハ購買セサルヘキ程ニ物ノ使用ヲ減スルトキハ買主ハ賣主ニ因レル引取卽チ取回ヲ請求スル事ヲ得
此場合ニ於テ買主ハ其辨濟シタル代價ト契約費用トヲ回收ス然レトモ代價ノ利息ハ請求ノ日ニ至ルマテノ物ノ收益又ハ使用ト相殺セラル
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ當事者ノ一致ノ下ニ因リ供セラレタルト云フ數字ヲ刪リ「ヨリ出ツル」ト云フ字ヲ挿入セリ又取回ト云フヲ賣買廢却トシタリ
(今村)
取回ヲ賣買廢却トシタルハ此點ノ元意ハ取回セト云フ譯ナルモ日本文ニシテ取回セト云フ事ヲ得ベカラザルヲ以テ賣買廢却トシタリ
(今村)
代價ノ利息ハ物ノ收益ト相殺スト云フモ其收益ヲ得ザルトキハ如何
(南部)
法律上收益アリト看做スノ原則ヲ立テタルモノナリ
(淸岡)
修補スル事ヲ得ザルト云フトキハ完全ニ復セザルモ可ナル如シ
(南部)
原狀ニ復正スベキモノナリ
(松岡)
些少ノ損傷アルヲ以テ賣買廢棄ニ屬スルト云フハ不可ナリ
(西)
用方ニ不適當ナラシメト云フニ至ラザレバ廢却スルヲ得ズ
第七百四十二條 若シ買主ニ於テ隱レタル瑕疵カ賣買廢却訴權ヲ行フ程ニ重大ナル事ヲ證スル能ハス又ハ物ヲ保有スル事ヲ欲スルトキハ買主ハ其受クル便益喪失ノ割合ニ應シテ代價ノ減額ヲ請求スル事ヲ得
(栗塚)
代償ノ減額トアルハ反譯上代價ノ減少トスヘキ誤ナラン
(淸岡)
便益喪失ノ場合トアルハ便益ノ喪失ノ割合トシテハ如何
(栗塚)
其受クルトアルヲ以テ此儘ヲ可トス
第七百四十三條 買主カ賣主ニ對シテ物ノ取回又ハ代價ノ減少ヲ得タル二個ノ場合ニ於テ若シ賣主カ瑕疵ヲ知リタルトキハ買主ハ右ノ外其受ケタル損害又ハ失フタル利益ノ爲メ損害賠償ヲ要求スル事ヲ得
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ物ノ取回トアルヲ賣買廢却トシ代價ノトアル「ノ」ヲ刪リ受ケタル損害ト云フヲ受ケタル損失トシ利益ノ爲メトアルヲ利益ニ付テノトセリ
(村田)
二個ト云フ字ハ不用ナリ
(栗塚)
存置スルモ害ナク刪除スルモ差支ナシ卽チ刪除ス
第七百四十四條 「隱レタル瑕疵ヲ擔保セス」トノ要約ハ賣主ヲシテ其知リナカラ詐僞ヲ以テ隱秘シタル瑕疵ノ責任ヲ免レシメス
(栗塚)
本條ハ隱レタル瑕疵ヲ擔保セズト云ヘバ隱レタル瑕疵ハ之ヲ知レルモ其責ナシ然ルニ詐僞ヲ以テ隱蔽シタル瑕疵ニハ其責ヲ免レシメズ
(村田)
知リナガラト云フ字ヲ刪ルベシ
(南部)
知リナガラト云フ字アルヲ以テ詐僞ト隱秘シタル瑕疵トノ區別ヲ見ルベシ
(西)
隱レタル瑕疵ヲ擔保セズト云フハ瑕疵アルヤ否ヲ知ルベカラザルニ付キ能ク〓味ヲ盡シ之ヲ購買セラルベシト云フ譯ナラン
(栗塚)
然リ
(西)
然ラバ瑕疵アルヲ知ラザルモノナリ
(尾崎)
瑕疵ヲ知リシモノナリ
(委員長)
知リナガラト云フハ知リツツト云フ譯ナリ
(栗塚)
詐僞ト云フ字ハ反譯局詭譎ト云フ誤ナリ
(西)
知ルトキハ詐僞トナルベシ故ニ知レルト詐僞トノ異別ナシ
(栗塚)
隱レタル瑕疵ヲ擔保セズトノ要約ハ責任ヲ免ル但シ詭譎ヲ以テ隱秘シタル瑕疵ハ此限ニ在ラズト云フ譯ナリ
(松岡)
本條ノ文面ニテハ瑕疵ヲ知リタルモノハ其責ナシト云フヲ見ル能ハズ
(委員長)
其知リナガラト云フヲ其知リ且詭譎トシテハ如何
可決ス
第七百四十五條 賣買ノ當時ニ於テ物ニ瑕疵アリタル事竝ニ其瑕疵ヨリ買主ノ爲メ損害ノ生シタル事及ヒ買主又ハ賣主カ其瑕疵ヲ知リタル事ハ人證、鑑定又ハ總テ其他ノ適法ナル證據方法ヲ以テ之ヲ證ス
(松岡)
本條ハ證明スルニハ別ニ證據ヲ用ヒズト云フガ如キ譯ニシテ敢テ必要ニモアラザレバ刪除シテハ如何
(尾崎)
刪除セザルモ害ナシ
(南部)
起案者ハ鑑定人ニアラザレバ證明スルヲ得ズト云フ誤解ヲ避ケント云フニアリ
第七百四十六條 賣買廢却ノ訴及ヒ代價減少竝ニ損害賠償ノ訴ハ左ノ期間ニ於テ之ヲ起ス事ヲ要ス
不動產ニ付テハ六个月
動產ニアラサル動產物ニ付テハ三个月
動產ニ付テハ一个月
此期間ハ引渡ノ時ヨリ之ヲ計算ス
然レトモ此期間ハ買主カ瑕疵ヲ知リタルノ證アリタル日ヨリ其半ニ短縮セラル
若シ買主カ意外又ハ不可抗ノ情況ニ因リ右ノ期間内ニ隱レタル瑕疵ヲ發見スル事能ハサリシ事ヲ證スルトキハ其期間滿了ノ後ニ於テモ訴ヲ受理スル事ヲ得
(栗塚)
本條第六項ノ下ハ起案者ヨリ但其殘期ガ此半ヲ超過スルトキニ限ルト云フヲ挿入シ末項ノ下ニ此場合ニ於テハ瑕疵ノ發見シ得ベキトキヨリ通常期間ノ三分ノ一ヲ以テ新期間トスト云フ事ヲ挿入セリ
(松岡)
瑕疵ノ發見シ得ベキトキヨリト云フハ如何
(栗塚)
意外又ハ不可抗ノ情況ノ止ミタルトキヨリト云フ意ナリ
(南部)
此場合ニ於テハ意外又ハ不可抗ノ情況ノ止ミタルトキヨリトシテハ如何
可決ス
第七百四十七條 隱レタル瑕疵ニ基キタル代價減少ノ訴權ハ物ノ無償ノ移付ニ因テモ又其有償名義ノ移付ニ因テモ買主ノ爲メ喪失セス但有償名義ノ移付ノ場合ニ於テハ其移付カ瑕疵ノ爲メ損失ヲ以テ爲サレ又ハ買主自ラ其讓受人ヨリ訴ヘラレ若クハ訴ヘラルルノ危險ニ在ルトキニ限ル
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ買主ノ爲メ喪失セズトアルヲ買主之ヲ失ハズトシ「移付カ」ノ三字ヲ刪リ損失ヲ以テ爲サレトアルヲ損失アリタルトキトシ訴ヘラレノ下「タルトキ」ト云フヲ挿入セリ移付ト云フ字ハ皆讓渡シト云フ字ニ換正シタシ
(淸岡)
買主ハ讓受人ヲ云フカ
(南部)
買主ハ最初ノ買主ナリ買主之ヲ他ニ移付スル後ト雖モ之ヲ爲スニ妨ゲナシ
(淸岡)
但書以下ハ刪除シテハ如何
(委員長)
名義ノ字ヲ刪除スベシ
可決ス
第七百四十八條 若シ賣ラレタル物カ意外ノ事又ハ不可抗力ニ因リ全部又ハ半以上滅失シタルトキハ賣買廢却訴權ハ最早受理セラレス
物ノ一分ノ滅失ノ多少ニ拘ハラス代價減少ノ訴權ハ其殘存スル部分ノ割合ニ應シテ存立ス
總テノ場合ニ於テ賣主ハ隱レタル瑕疵其モノヨリ生スル全部又ハ一分ノ滅失ノ責ニ任ス
(南部)
本條ハ四分半ノ滅失ニ係ルトキハ賣買廢却訴權ヲ爲スヲ得ベシ
(淸岡)
末項ハ如何
(栗塚)
賣物個有ノ瑕疵ニヨリ滅失シタルトキハ其責ニ任ズベシ
第七百四十九條 合式ニテ爲シタル強賣ハ廢却訴權ヲモ又代價減少ノ訴權ヲモ生セス
(栗塚)
本條強賣トアルハ推賣リト云フ惑ヒアルヲ以テ報吿委員ニテ強制賣却トシ差押ヲ以テ賣買シタルモノヲ云ヘリ
第七百五十條 或ル動產及ヒ或ル物品又ハ飮食品ノ賣買ニ於ケル不表見ノ瑕疵ノ効力ヲ特別法ヲ以テ定ムルニ至ルマテ此法律ノ條例ハ區別ナク總テノ物品ノ賣買ニ之ヲ適用ス
(栗塚)
飮食品ハ反譯上日用品トスベシ本條ハ馬疋賣買ノ如キヲ云フモノニシテ馬疋賣買ノ如キハ瑕疵ヲ隱秘シテ賣買スルモノアリ故ニ此等ハ特別法ヲ以テ規定スル事アルベキモ其特別法ヲ立ツルニ至ルマテハ此法ヲ適用スト云フニアリ
(淸岡)
本條ノ如キハ假令バ此民法ハ他日改正スルマデ之ヲ施用スト云フガ如シ奇異ナラズヤ
(南部)
定ムルニ至ルマデト云フハ奇異ナリ
(委員長)
特別法ヲ以テ之ヲ定ムトシテハ如何此條文ナキトキハ此等ハ特別法ニ入ルモノカ否判然セザレバナリ
(松岡)
本條ノ如キハ不體裁ニ屬スベシ
(委員長)
不體裁ト云フハ此條ニ止マラズ不體裁ト云フ點ヲ以テ之ヲ除去セントスレバ他ニ如此條項ハ皆之ヲ刪ラザルベカラザルニ至ラン之ヲ刪除スルモ別ニ刪除スベキ理由ヲ見ズ
(南部)
本條ナキモ民法ニ屬スル點ニシテ特別法ヲ設ケザルベカラザル場合ハ之ヲ設クルヲ得ベシトシタシ
(委員長)
然リ馬商ノ如キハ是非特別法ヲ以テ要スベシト雖モ本條ヲ刪ルト否トハ追テ詮議ヲ盡シタル上ニスベシ
附錄 不分物公賣
第七百五十一條 不分財產ノ派分ヲ爲ストキ若シ所有者ノ一人カ現物ノ派分ヲ拒ムニ於テハ財產ノ熟議賣却又ハ公賣ヲ爲シ代價ハ有權者ノ部分ノ限度ニ隨ヒテ之ヲ其各自ニ配當ス
(栗塚)
公賣ノ字ハ總テ反譯上ニテ競賣トスベシ
第七百五十二條 若シ利害ノ關係人カ或ハ其間ノ一人又ハ第三者ニ熟議賣却ヲ爲スニ付キ或ハ其間ニ公賣ヲ爲スニ付キ一致スル事ヲ得ス又ハ其利害關係人中ニ失踪者若クハ無能力者アルトキハ不分物ノ公賣ハ裁判所ニ於テ又ハ裁判所ノ指定シタル公吏ノ前ニテ他ノ公賣ノ爲メ要セラレタル公式ヲ以テ且民事訴訟法ニ定メタル方式ニ從ヒテ之ヲ爲ス
共同公賣者ノ各自ハ常ニ公賣ニ付キ外人ノ參加ヲ許ス事ヲ要求スル事ヲ得ス共有者ノ一人カ失踪シ又ハ無能力ナルトキハ外人ノ參加ハ當然ニシテ且必要ナリ
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第三者ノ上又ハトアルヲ若クハトシ或ハ其間ニト云フヲ其利害關係人トシ一致スル事ヲ得ザルトキトシ公吏ノ前ニテトアル下「之ヲ爲ス但民事訴訟法ニ定メタル公賣ノ方式ニ從フヲ要ス」ト云フ數字ヲ挿入セリ
可決ス
第七百五十三條 共有者ノ一人カ物ノ全部ヲ得取シタルトキハ不分物公賣又ハ熟議賣却ハ其共有者間ノ派分ノ行爲ト看做サレ會社及ヒ相續ノ派分ニ關シテ定メタル効力ヲ生ス若シ第三者ニ競落又ハ熟議賣却ヲ爲シタルトキハ不分物公賣ハ第三者ト原共有者トノ間ニ此章ニ規定シタル如キ賣買ノ効力ヲ生ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ看做サレノ下「テ」ノ字ヲ入レ關シテトアルテヲ除去セリ
(村田)
派分ト賣買ノ差異ハ如何
(栗塚)
派分ノ場合ハ最初ヨリ所有權アルモノト看做サレ賣買ト云ヘバ賣買其當時ヨリ所有權ヲ生ズベシ
(松岡)
看做サレ然シテト云フ意味ナルヲ以テ看做サレト云ヒシモノナラン
(委員長)
此章ニ規定シタルト云フハ尋常ノ賣買ヲ云ヒシヤ
(栗塚)
然リ
(南部)
附錄ナルヲ以テ此章ト云ヒシモノナリ
(栗塚)
第七百二十三條ニテ買戻ト云フ字ハ起案者ノ意ニハ羅馬法以來ノ慣習字ナルヲ以テ佛國法ニモ之ヲ記用シタルモ元來妥當ノ字ニアラズ最初日本法律取調委員會ニ於テハ買戻ノ字ヲ採用セザル意見ナリト云フヲ以テ甚ダ之ヲ贊成シ居タルニ爾後同會ハ其說ヲ捨テテ買戻ノ字ヲ取用セラレシトハ遺惜ニ堪ヘザルナリト云フニアリ
第十三章 交換
第七百五十四條 交換ハ一方ノ當事者カ己レノ得取シ又ハ己レニ約束セラレタル物又ハ權利ノ對價ト看做サレタル物ノ所有權又ハ總テ其他ノ權利ヲ他ノ一方ニ移轉シ又ハ移轉スル事ヲ約スル契約ナリ
若シ互ニ讓渡シタル權利ノ一カ價額ニ於テ他ノモノニ劣ルトキハ其不均等ハ金圓又ハ其他ノ物ニ於ケル補足額ヲ以テ之ヲ增補ス
若シ金圓ニ於ケル補足額カ受取リタル有價物ノ對換トシテ供給セラレタル有價物ノ價ニ超ユルトキハ其契約ハ賣買ト看做サル
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ己レノト云フ三字ヲ削リ得取シノ下「タル物若クハ權利」ト云フ數字ヲ挿入シ物ノ下又ハトアルヲ若クハトシ第二項增補ストアルヲ均一ニストシ第三項供給セラレタルトアルヲ供給シタルト修正セリ
(淸岡)
本條若シ以下ハ如何ナル意味カ
(栗塚)
甲ノ馬ト乙ノ犬ト交換スルニ乙ハ犬ナルヲ以テ馬ト同價値ヲ有セザレバ金圓ヲ添ヘ交換スルヲ云フ
(箕作)
佛國ニテハ金圓ニ物ノ件フタルトキハ交換トナレバナリ
第七百五十五條 當事者ハ對換トシテ供給シ又ハ約束シタル物又ハ權利ニ關スル總テノ妨碍及ヒ追奪ノ擔保ヲ互ニ負擔ス
若シ當事者ノ一方カ己レニ約束セラレタル權利ヲ得取セサリシトキハ自己ノ撰擇ヲ以テ或ハ金圓ニ於ケル對價ヲ要求シ或ハ契約ノ解除ヲ請求シテ自己ノ與ヘタルモノヲ取回ス事ヲ得但何レノ場合ニ於テモ損害賠償ヲ受クベキトキハ之ヲ受ク
此場合ニ於テ解除ハ取戻ニ服スル不動產ニ付キ權利ヲ得取シタル第三者ニ對シテ之ヲ行フ事ヲ得ス但第三百七十二條第一項ニ從ヒ請求ノ公示前ニ其第三者ノ名義ノ登記又ハ記入アリタル事ヲ要ス
(栗塚)
約束セラレタル權利ヲ得取セザリシトキトアルハ約束セラレタル物又ハ權利ヲ得取スルヲ得ザリシトキトスベシ
可決ス報吿委員ニテ損害賠償ヲ受クベキトキハ之ヲ受クトアルヲ損害賠償ヲ妨ゲズトセリ
(箕作)
損害アラバ其賠償ヲ受クトスベシ
可決ス
第七百五十六條 賣買ノ規則ハ交換ニ之ヲ適用ス但左ノ例外ハ此限ニ在ラス
第一 交換ハ配偶者ノ間ニ許サル但互ニ供給シタル價額ノ不均等カ間接ノ利益ヲ成ストキハ贈與ヲ禁制シ又ハ制限スル規則ノ適用ヲ妨ケス
第二 定マリタル期間内ニ於ケル交換ノ任意ノ解除ニシテ當事者ノ一方又ハ雙方ノ爲メニ要約セラレタルモノハ第六百六十四條ニ從ヒ賣買ノ豫約カ第三者ニ對抗セラルル事ヲ得ル條件ニ從フニアラサレハ之ヲ第三者ニ對抗スル事ヲ得ス
第三 交換ハ折損ノ爲メ之ヲ銷除スル事ヲ得ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ交換ノ上ニ左ノ例外ヲ以テト云フ字ヲ挿入シ但以下ヲ刪除ス交換ノ任意ノ解除ニシテトアル「ニシテ」ヲ「カ」トシ「モノハ」ヲ「トキハ」トシ「之ヲ」ヲ其解除ヲトセリ
可決ス
第十四章 和解
第七百五十七條 和解ハ當事者カ交互ノ讓合又ハ損給ヲ爲シテ既ニ發シタル爭ヲ結了シ又ハ發スル事有ルヘキ爭ヲ豫防スル契約ナリ
和解ハ其組成、有効、効力及ヒ證據ニ付テハ下ノ改樣ヲ以テ合意ノ一般ノ規則ニ從フ
(栗塚)
本條ノ「發」ハ報吿委員ニテ皆「生」トセリ
(淸岡)
損給ト云フハ物ヲ遣ルト云フ譯カ
(栗塚)
然リ
第七百五十八條 無能力者ニ關スル和解ノ有効ニ付キ要セラレタル條件ハ此法律ノ第一編ニ之ヲ定ム
國「デパルトマン」「コンミユーヌ」及ヒ公設所ニ關スル和解ハ行政法ヲ以テ管知セラル
本條ハ國「デパルトマン」「コンミユーヌ」トアルヲ國、府縣、市、町村、トシ管知セラルトアルヲ之ヲ管知ストセリ
第七百五十九條 和解ハ法律ノ錯誤ノ爲メ之ヲ銷除スル事ヲ得ス但錯誤カ相手方ノ詭譎ニ出ツルトキハ此限ニ在ラス
無異議
第七百六十條 和解ハ僞造ノ書類又ハ無効ノ名義若クハ所爲ニ憑リ承諾シタルモノトシテ之ヲ銷除スル事ヲ得ス但是等ノ事ヲ陳辯スル事ヲ得ヘキ當事者ニ於テ僞造又ハ法律カ所爲ノ無効ヲ附着セシメタル事實ヲ知ラサリシトキハ此限ニ在ラス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ名義ノ下若クハトアルヲ卽チトシ當事者ニ於テノ下ニ書類ノト云フ三字ヲ挿入シ書類ノ僞造ヲ知ラズトシ又ハ法律ガ所爲ノトアルヲ又ハ所爲ノ法律上無効タルベキトセリ
(村田)
名義卽チ所爲トアル所爲ノ義ハ證書ト云フ所ナルヲ以テ證書トシテハ如何
(南部)
證書ノミニ限ラズ
(栗塚)
契約ト云フ義ナリ
(淸岡)
本條ノ前段ハ僞造ノ書類タルヲ知リト云フヲ見ル能ハズ
(栗塚)
本條ノ全文ヲ見レバ前段ノ意味明カナルベシ
(淸岡)
承諾シタルモノトシテトアルヲ承諾シタリトノ中立ヲ以テトスレバ稍了解シ易カルベシ
(松岡)
僞造ノ下「ヲ知ラス」ト云フ文字ハ挿入スルニ及バザレバ之ヲ刪ルベシ
其議ニ決ス
第七百六十一條 定マリタル爭ノ一箇又ハ數箇ノ原由ニ憑リ爲シタル和解ハ若シ新ニ發見シタル證書ニ因リ當事者ノ一方カ爭ノ一箇若クハ數箇ノ目的ニ付キ何等ノ權利ヲモ有セサリシ事又ハ他ノ一方カ之ニ付キ完全ニシテ且爭フ事ヲ得サル權利ヲ有セシ事ノ顯ハレタルトキハ事實ノ錯誤ノ爲メ亦之ヲ銷除シ又ハ取消ス事ヲ得
若シ確定シタル判決又ハ攻撃スル事ヲ得サル契約ヲ以テ既ニ爭ヲ結了シタルニ其判決又ハ契約ヲ知ル事ニ付キ利害ノ關係アリシ當事者カ之ヲ知ラサリシトキモ亦同シ
然レトモ若シ和解カ當事者雙方ノ前來ノ原由ニ憑リ爲ス事有ルヘキ總テ何等ノ爭タリトモ之ヲ結了シ又ハ豫防スル事ヲ目的トシタルトキハ當事者ノ一方ノ利益ニ於ケル確定證書ノ發見ハ其證書カ相手方ノ所爲ニ因リ控留セラレタルトキニアラサレハ銷除ヲ生セス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項ノ銷除シ又ハ取消ス事ヲ得トアルヲ銷除スル事ヲ得トシ第二項ハ契約ヲ知ル事ニ付キ利害ノ關係アリシトアルヲ契約ヲ知ルノ利益ヲ有スルトシ第三項ハ前條ノ原由ニ憑リ爲ス事アルベキトアルヲ前條ノ原由ヨリ生ズル事有ルベキトシ總テトアル下ニ「ノ」ヲ加フ
(淸岡)
知ルノ利益ヲ有スルトハ如何
(栗塚)
知ラザルヲ得ザルト云フ譯ナリ
(淸岡)
知ル事ニ付キ利益ト云ヘバ可ナリト雖モ知ルノ利益ト云フハ不可ナリ
(南部)
原文ノ通ニスベシ
可決ス
(栗塚)
第三項和解ガ當事者雙方トアル當事者雙方ト云フ字ハ必要ナシ刪除ニ決ス
(松岡)
總テノ何等ノ爭タリトモ之ヲ結了シトアルハ總テノ爭ヲ結了シトスベシ
可決ス
第七百六十二條 有効ナル和解ハ當事者ノ各自ノ利益ニ於テ互ニ認知セラレタル權利又ハ利益カ既ニ生シ又ハ發見セラレタル爭ニ係リシトキハ當事者ノ間ニ於テ確定判決ノ純然タル權利認定ノ効力ヲ生ス此場合ニ於テ右ノ權利又ハ利益ハ前來ノ原由ニ憑リ保有セラレタリト看做サル但當事者雙方ニ更改ヲ爲スノ意アリシトキハ此限ニ在ラス
若シ之ニ反シ互ニ供給セラレ又ハ約束セラレタル權利又ハ利益カ全部若クハ一分ニ於テ爭ニ係ラサリシトキハ和解ハ右權利又ハ利益ニ付テハ物權又ハ人權ヲ生シ移轉シ若クハ消滅スル有償名義ノ合意ノ規則ニ從フ
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項ノ各自ノ利益ニ於テト云ヘルヲ刪リ認知セラレタルトアルヲ認知シタシトシ當事者ノ間ニノ上ニ其ト云フ字ヲ加ヘ純然タルノ文字ヲ刪リ此場合ニ於テノトアル下「ハ」ノ字ヲ加ヘ「右ノ」ト云フ二字ヲ其ニ換フ第二項ハ供給セラレヲ供給シトシ又ハ約束セラレトアルヲ約束シトシ權利又ハ利益ノ下ガ全部若クハ一分ニ於テトアルヲ刪リ利益ノ内トシ爭ニ係ラザリシトキハトアルヲ爭ニ係ラザリシモノアルトキハトシ和解ハ右ノ權利又ハ利益トアルヲ刪リ其物ト云フ字ヲ挿入セリ
(淸岡)
利益ノ内トセシハ利益ノ全部若クハ一部ニシテトスベシ
可決ス
(松岡)
權利又ハ利益トスベキ例ナシ
(松岡)
權利又ハ利益ト云フハ尙ホ起案者ニ質問スルヲ可トス
(淸岡)
確定判決ノ權利認定ノ効力トハ如何
(栗塚)
和解ハ如何ナル効力アルカ權利ノ移付ニアラズシテ確定判決ノ如ク元來權利ヲ存有セシモノノ如ク効力ヲ生ズト云フニアリ
第十五章 特定會社
第一節 會社ノ本性及ヒ設立
第七百六十三條 會社ハ二人又ハ數人カ其間ニ配當セラルヘキ利益ヲ收ムル爲メ財產ヲ共通シ又ハ共通セント約スル契約ナリ
(淸岡)
包括會社ニ付テハ如何
(栗塚)
包括會社ノ點ハ此他ニ規定スベシ
第七百六十四條 會社ハ包括又ハ特定ナリ
包括會社ニ特別ナル規則ハ此編ノ第二部第二章ニ之ヲ定ム
特定會社ハ各社員カ或ハ定マリタル物ヲ共通シテ利用スル爲メ或ハ作業ヲ成シ又ハ定マリタル職業ヲ行フ爲メ其定マリタル物ノ出資ヲ爲シ又ハ之ヲ約スル會社ナリ
(栗塚)
本條第三項ハ報吿委員ニテ特定會社ハノ下各社員ガトアル四字ヲ職業ヲ行フ爲メト云フ下ニ換置セリ
(松岡)
又ハ定マリタル職業ヲ行フ爲メトアル定マリタルノ字ハ刪リタシ
(南部)
定マリタルノ文字ヲ刪ルトキハ職業ノ定リタルト云フ義ヲ見ル能ハズ
(松岡)
起案者モ會社ハ出資ヲ一定スレバ事業ニハ變換アルモ問フ所ニアラズト云ヘリ
(南部)
然ラバ或ハ定マリタル物ヲト云フ字ハ無効タルニ至ラン
(栗塚)
此點ハ特定會社ハ各社員ガ其定マリタル物ノ出資ヲ爲シ又ハ之ヲ約シ其物ヲ共通シテ利用シ或ハ作業ヲ爲シ又ハ職業ヲ爲スモノナリト云フ譯ナレバ定マリタル職業ト云フ定マリタルノ文字ヲ刪ルベシ
(松岡)
或ハ定マリタル物ト云フ其定マリタルノ文字ヲ刪除スベシ
(栗塚)
特定會社ハ各社員ガ其定マリタル物ノ出資ヲ爲シ又ハ之ヲ約スルモノニシテ其物ヲ共通シテ利用スル爲メ或ハ作業ヲ爲シ又ハ職業ヲ行フヲ目的トスル會社ナリトシテハ如何
(村田)
各社員ガ共通利用スルモノナルヲ以テ特定會社ハノ下各社員ガト云フ文字ヲ置キタシ
(栗塚)
各社員之ヲ共通利用スルモノニアラズ會社ト云フ無形人ガ之フ共通利用スベシ
(南部)
ニケノ定マリタルト云フ文字ヲ刪リ其他ハ原案ニ決シタシ
(淸岡)
或ハノ字ヲ刪ルベシ
(栗塚)
或ハト云フハ文例ナルヲ以テ追テ再調査ノ節一定スル事ニシタシ
其議ニ決ス
第七百六十五條 社員ノ出資ハ或ハ動產又ハ不動產ノ所有權若クハ收益權或ハ金圓勞力或ハ藝術ヨリ成ル事ヲ得
出資ハ不均等及ヒ別異ノ本性タル事ヲ得
(淸岡)
本條次項ハ別ニ必要ナシ別異ノ本性ノ如キハ前項既ニ之ヲ記述シタルモノナレバナリ
(松岡)
金圓ト動產ニハ差別アルカ
(栗塚)
動產ト云ヒ金圓ト云フニシタルトテ別ニ不都合ナカルベシ勞力ヲ動產トモ云ヒ難ケレバ金圓勞力ヲ併合スルモノナレバナリ
(南部)
末項ハ出資ハ不均等タルヲ得トスベシ
可決ス
第七百六十六條 民事會社ハ當事者ノ意カ之ヲ無形人ト爲スニ在ルトキハ無形人ヲ成ス
此場合ニ於テハ會社ニ一ノ社名ヲ付シ且其契約ハ商事會社ノ公吿ノ爲メ法律ノ定メタル方式ニ從ヒ拔書ヲ以テ之ヲ公吿スル事ヲ要ス
會社ニ社名ヲ付シ又ハ結社契約ヲ公吿シタルノ所爲ノミヲ以テ社員ニ會社ヲ無形人ト爲スノ意アリト推定セラル
(南部)
公吿ノミニシテ登記ヲ脫セリ
(栗塚)
公示ノ爲メトスベシ公示ト云ヘバ登記ヲモ包含スベケレバナリ
(松岡)
公示ト云フ文字ハ登記公吿ト云フ意味ニ用ヒタル場合ナシ
(南部)
登記ハ公示ナリ
結局公示ノ爲メ法律ノ定メタル方式ニ從ヒ之ヲ登記公吿スル事ヲ要ストス
(松岡)
登記公吿ヲ爲サザルモ社名ヲ附シタルノミニシテ無形人ト爲スノ意アリト推定シテ可ナルヤ
(栗塚)
個ハ會社ニ義務ヲ負ハシメタルモノナリ
(松岡)
會社ニ義務ヲ負ハシムルノミナラズ社員ノ權利ニモ關係スルヲ免レズ假令バ社員中ノ財產ハ自己ニテ處分スルヲ得ザルニ至ラン
(淸岡)
本條ハ未ダ有限無限ノ性質モ判然セザルニ社名ヲ附シタルノミニシテ無限責任ヲ負ハシメラルルニ至ルノ恐レアリ
(栗塚)
登記公吿ヲ爲シタルモノト社名ヲ附シタルモノトニ於テハ何ノ差異アリヤ
(淸岡)
當事者ノ意思ノミニ於テ無形人ヲ形成シタルニ過ギズシテ未ダ公衆ノ間ニ表唱シタルモノニアラズ
(栗塚)
社名ヲ附シタル以上ハ無形人タルニ付キ卽チ登記公吿スベシト云フニ過ギズ社名ヲ附シテ登記公吿セザルヲ云ヒシニアラズ
(村田)
第三項ハ無用ナルヲ以テ刪除スベシ何トナレバ前項ニ於テ無形人ハ登記公吿スベシトアルヲ以テナリ
(南部)
無形人ハ登記公吿スベキモ之ヲ無形人トスル意思ハ何ニ因テ知ル事ヲ得ベキヤ
(栗塚)
登記公吿スルモ當事者ニ於テ無形人トスル意思アルヤ否ヲ推知スル能ハザルナリ
(淸岡)
會社ガ社名ヲ附シテ登記公吿ヲ爲サザルトキモ無形人ト爲スモノト思惟セラルニ付キ當事者無形人トスルノ意思アルトキハ社名ヲ附シ登記公吿ヲ爲スベシト云ハザレバ明カナラズ
(栗塚)
第二項ハ無形人ハ登記公吿スベシトシ第三項ニ於テハ社名ヲ附シタルノミヲ以テ無形人トセラレ登記公吿ヲスルニ及バズト意味セラルルト云フ譯カ
(松岡)
然リ
(栗塚)
個ハ其意味ニアラズ
(松岡)
第二項ト第三項トヲ互ニ換置シテハ如何
(南部)
第一項ハ民事會社ハ當事者之ヲ無形人ト爲ス事ヲ得トシ末項ヲ除去シテハ如何
(松岡)
社名ヲ付シタリト雖モ商法ニ所謂共算商業組合ヲ組織スルヲ得ベシ必ラズ無形人ト認ムルニ及バザルナリ
結局第一項ハ民事會社ハ當事者ノ意ニ因リ之ヲ無形人ト爲ス事ヲ得トシ末項ヲ刪除スルニ決ス
第七百六十七條 合意ノ一般ノ規則ハ會社ニ之ヲ適用シ殊ニ當事者ノ承諾竝ニ能力、目的、原由及ヒ證據ニ關スルモノハ會社ニ之ヲ適用ス
商事會社ニ特別ナル規則ハ商法又ハ特別法ニ之ヲ定ム
(村田)
會社ニ之ヲ適用スト云フモ會社ノ何ニ之ヲ適用スルヤ知ルベカラズ
(淸岡)
末項ハ刪除シタシ
(南部)
末項ハ民事ト商事ノ分ルル點ニシテ甚ダ要用ナリ
第七百六十八條 目的ノ商事タラサル會社ハ商法ニ從ヒ資本ヲ株式ニ分チ且之ヨリ生スル有限責任ヲ以テ合資又ハ無名ノ會社ノ組織ヲ受クル事ヲ得之カ爲メ民事會社タル事ヲ妨ケス
(栗塚)
本條ハ商法ノ第百五十五條ト全ク反對ナリ報吿委員ノ說ニ於テハ資本ヲ株式ニ分ツベキモ事業上民事ノ目的ニ屬スルモノハ民事會社タルベキモノナルベシト云フニアリ
(南部)
資本ヲ株式ニ分ツトキハ株式流通シテ利益ヲ受クベキモノナレバ商事ノ會社ニ屬セシムルヲ可トス
(尾崎)
民事會社ト云ヘバ開墾會社曠山會社建築會社ノ類ヲ云フカ
(栗塚)
然リ
(尾崎)
資本ヲ株式ニ分ツトキハ商事タルニアラズヤ
(淸岡)
本條ハ起案者ニ改正ヲ求ムベシ
(栗塚)
起案者ハ改正スルヲ諾セザルベケレバ本會ニ於テ決セラレタシ但以下ヲ刪除スレバ可ナリ
(南部)
目的ノ商事タラザル會社ト雖モ資本ヲ株式ニ分ツトキハ商法ノ規定ニ從フトシテハ如何
(淸岡)
然カスルモ之ヲ民法ノ上ヨリ云フトキハ隱當トセズ
(村田)
合資會社ニハ無限責任アルヲ以テ有效責任ヲ以テ合資又ハ無名ノ會社ノ組織ヲ受クル事ヲ得ト云フベカラズ
(松岡)
此合資ト云フハ佛國ノ株式合資會社ノ如キナルベキモ商法ノ草案ノ上ヨリ見ルトキハ合資會社ニハ株式ヲ爲サシメザルモノトシタレバ不都合タルヲ免レズ
(淸岡)
會社ハ其目的商事タラザルトキト雖モ資本ヲ株式ニ分ツトキハ商法ノ規定ニ從フトシテハ如何
(栗塚)
會社ハ其目的商事タラザルモ其資本ヲ株式ニ分ツトキハ商法ノ規定ニ從フトシテハ如何
可決ス
第七百二十五條
(栗塚)
本條ハ曩ニ起案者ヨリ第三者ヲ改正スベキニ付キ留保ヲ乞ヒ置キタルナリ其第三項ハ起案者今マ之ヲ改正シ來タレリ買主ハ同一ノ場合ニ於イテ鑑定人ノ評價シタル物ノ現時ノ價ト債權者カ第七百二十七條ニ從ガヒ賣主ノ權利ニテ己ノレニ返還スベキ金額トノ差額ニ逹スルマデ債權者ニ對シテ自己ノ負擔スルモノヲ辨濟シテ亦其債權者ノ訴ヲ止ムルコトヲ得トセリ報吿委員ニテ更ニコレニ修正ヲ加ヘ第七百二十七條ノ上ニアル債權者ガノ字ヲ刪リ第七百二十七條ニ從ヒ賣主ノ權利ニテトアルヲ第七百二十七條ヨリトシ差額ニ逹スルマデノ下債權者ニ對シテ自己ノ負擔スルモノトアルヲ刪リ賣主ノ債務ヲト云フ字ヲ挿入シ「亦其」ト云フ二字ヲ除ケシ
(尾崎)
此項ハ如何ナル意味カ
(栗塚)
假令バ乙、甲ヨリ買戻ヲ得ベキ約束ニテ一個ノ地所ヲ代價五百圓ヲ以テ讓受ケタリ他日此土地ノ代價千圓トナル此際甲ノ債權者丙此土地ヲ買戻サントス乙ハ甲ニ對シテハ五百圓ニテ買戻サルベキモ丙ニ對シテ其代價ニテ買戻サルベキ義務ナシ依テ賣主ニ賣戻セバ受取ルベキ代價五百圓ヲ以テ評價額ノ時價千圓卽チ五百圓ノ差額ニ限リ賣主ノ債務ヲ辨濟シテ丙ノ訴ヲ止メシムルヲ得ト云フ譯ナリ
第二節 社員ノ權利及ヒ義務
第七百六十九條 會社ハ契約ノ日ヨリ始マル但明示又ハ默示ニテ他ノ期限又ハ條件ニ服シタルトキハ此限ニ在ラス
各社員ハ前同一ノ日ニ於テ及ヒ前同一ノ留保ヲ以テ其約束シタル出資ノ差出ヲ實行スル事ヲ要ス若シ之ヲ爲ササルトキハ其社員ハ當然果實並ニ利息及ヒ金額ニ對スルトキト雖モ遲延ノ爲メ損害アルトキハ其賠償ヲ負擔ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ他ノ期限ト云フ下ニ「ヲ定メ」ノ三字ヲ挿入シ條件ニ服シタルトアルヲ條件ヲ付シタシトシ各社員ハトアル下「前同一ノ目ニ於テ及ヒ前同一ノ留保ヲ以テ」ヲ刪リ會社ノ始マル時ニ於テトセリ當然果實トアル下竝ニヲ及ビトシ利息ノ下「及ヒ金額ニ對スルトキト雖モ」ヲ刪リ利息ヲ負擔ス且云々トシ損害アルトキハノ下ニ出資ノ金圓ナルトキト雖モト云ヘルヲ挿入セリ
(村田)
商法ニテハ會社ハ登記シタル以後第三者ニ對シテ權利義務ヲ有スルヤ
(本尾)
然リ本條ハ社員間ノ權利義務ナルヲ以テ少シク差異アリ
(南部)
果實及ビ利息ヲ負擔ストアルモ社員間ニ於テ果實及ビ利息ヲ負擔スルヲ得ザルトキハ如何
(栗塚)
民法ノ精神ハ社員間ノ一人ト雖モ其義務ヲ負擔スルヲ得ザルトキハ解散スベク同法ニ於テハ商法ト異ニシテ會社ハ無形人ト視認セズ各個人ノ組織シタルモノナレバナリ資金ヲ目的トセズ人ヲ目的トスル會社ハ其社員ノ一人ガ退社シタルトキハ解社スベシ
(南部)
商法ニハ社員ノ一人出資ヲ缺シトキハ除名セラレ民法ニテハ解社トナルト云フニ付キ商事ト民事ト各別ナリト云ヘバ各別ナリト雖モ個ハ牴觸タルヲ免レズ
(淸岡)
前條ニ於テ資本ヲ株式ニ分ツトキハ商法ノ規定ニ從フトシタルニ依リ本條ニ於テ會社ハ契約ノ日ヨリ始マルト云フハ除去セザルベカラズ尤モ會社ハ契約ノ日ヨリ始マルトアルモ資本ヲ株式ニ分ツトキハ契約ノ日ヨリ始マルモノニアラズト云フ解釋ニスレバ差支ナカルベキモ商法ニ於テハ此規定ト同ジカラザレバナリ
(栗塚)
此點ハ社員間ニ對スル規約ナリ第三者ニ對スルトキ卽チ無形人トスル場合ニ於テハ登記公吿セザルベカラズ
(南部)
商法ト牴觸スル場合ハ特リ本條ノミニ限ラズ會社ニ關スル各條ニ付キ起案者ニ質問シタシ
第七百七十條 社員カ會社ニ對シ自己ノ藝術又ハ勞力ヲ約束シテ之ヲ會社ニ供スル事ヲ缺キタルトキハ其社員ハ他ノ社員ノ撰擇ニ隨ヒ會社ニ對シ或ハ其義務ノ履行ヲ缺キタル當時ヨリ會社ノ受ケタル損害ノ賠償或ハ其時間又ハ藝術ヲ會社外ニ用ヒテ得タル利益ノ交付ヲ負擔ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ社員ガトアルヲ社員ニシテトシ約束シテトアルヲ約束シタル者ガトセリ
(栗塚)
勞力ト云ヒ藝術ト云ノモ同事實ニシテ差異ナシ
(尾崎)
差異ナケレバ同一ニシタシ
(栗塚)
藝術又ハトアルヲ刪ルベシ
可決ス
(尾崎)
時間ノ字ヲモ刪ルベシ
(南部)
時間ト云フ字ハ時間ヲ以テ勘定スルヲモ得ベキヲ示シタルモノナレバ存置シタシ
(栗塚)
時間ヲ會社外ニ用ユルト云フハ卽チ勞力ヲ會社外ニ用ユルト云フ譯ナレバ藝術ノ文字ノミニシテ不都合ナシ
卽チ時間又ハト云フ四字ヲ刪ルニ決ス
第七百七十一條 動產ト不動產トヲ問ハス特定物ノ所有權ヲ會社ニ出資ト爲ス事ヲ述ヘタル社員ハ會社ニ對シ賣主ニ對シ物ノ追奪、面積又ハ數量ノ不足及ヒ隱レタル瑕疵ノ擔保人タリ
若シ社員カ物ノ收益ノミヲ會社ニ約シタルトキ賃貸人ニ等シク擔保ノ責ニ任ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ賣主ニ對シトアルヲ賣主ノ如クトシ賃貸人ニ等シクトアルヲ賃貸人ノ如クトセリ
可決ス
第七百七十二條 若シ結社契約ヲ以テ社員中ニテ一名又ハ數名ノ管理人卽チ業務擔當者ヲ指定シタルトキハ其各自ハ己レニ付與セラレタル委任ノ權限ヲ踰エサル事ヲ要ス
權限ノ定マラサル管理人卽チ業務擔當者ハ共同ニテ又ハ各別ニテ管理ノ通常ノ所爲ヲ爲スニ止マル
又管理人卽チ業務擔當者ハ會社ノ目的中ニ存スル最大重要ノ所爲ヲ共同ノミニテ爲ス事ヲ得異議アル場合ニ於テハ爭ハレタル所爲ノ中止スル事ヲ要シ其所爲ハ會合シタル社員議決權ノ多數ヲ以テ之ヲ決ス
(栗塚)
本條第二項「卽チ業務擔當者」ノ文字ヲ刪リ第三項「卽チ業務擔當者」トアルヲ除キ共同ノミニテトアルヲ共同ニテノミトシ異議ノ上ニ但シト云フ字ヲ加フ
(村田)
管理人ト云フハ業務擔當者トシテハ如何
(南部)
第一項ニ管理人卽チ業務擔當者トアルニ付キ第二項及ビ第三項ハ業務擔當者ト云ヘルヲ存在スベシ
(村田)
第一項モ管理人卽チト云フ字ヲ刪除シテハ如何
(南部)
不可ナリ
(栗塚)
第三項ノ會合シタルト云フ五字及ビ議決權ノ文字ハ起案者ヨリ刪除シ來レリ會合シタルト云ヘバ集會シタルモノノ如クナレバナリ
(村田)
第一項結社契約トアルハ會社契約トシタシ他ノ場合ニ於テモ會社ノ文字ヲ用ヒタレバナリ
(西)
第七百六十五條金圓ノ下「又ハ」ト云フ字ヲ入ルベシ
可決ス
(委員長)
管理人卽チ業務擔當者ノ文字ハ第一項ハ其儘ニシ第二項及ビ第三項ニ在ルモノヲ刪ルベシ
可決ス
(栗塚)
多數ノ文字ハ過半數ノ意味ナルモ個ハ尙ホ比較多數ナルカ完全多數ナルカヲ起案者ニ質問中ナリ
第七百七十三條 若シ結社契約ヲ以テ何レノ社員ニモ管理權ヲ與ヘサリシ場合ニ於テ總社員ノ一致ニテ之ヲ定メサルノ間ハ社員ノ各自ハ前條ニ定メタル所爲ヲ同條ニ記載シタル條件ニ從ヒテ爲スノ權ヲ有ス
原案通
第七百七十四條 結社契約ヲ以テ管理人ニ選任セラレタル社員ハ正當ノ原由アルトキ又ハ管理人タル社員ノ承諾ヲ併セ總社員ノ同意アルトキニアラサレハ其委任ノ期限内ハ其解任ヲ爲ス事ヲ得ス
結社契約以後ノ所爲ヲ以テ選任セラレタル者ハ之ヲ選任シタルト同一ノ方法ヲ以テ其承諾ヲ要セスシテ其解任ヲ爲ス事ヲ得
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ管理人タル社員ノトアルヲ刪リ其ト云フ字ヲ挿入シ其委任トアリ其解任トアル其ノ字ヲ刪レリ
(南部)
第二項會社契約以後ノ所爲トアル所爲ハ合意トスベシ
(栗塚)
契約トスルモ可ナリ卽チ契約トス
(尾崎)
會社契約以後ハ契約ヲ以テ選任セラレタル者ハ其承諾ヲ要セズ總社員ノ同意ヲ以テ解任スルヲ得ルヤ
(南部)
然リ前項ハ會社定款ニ關スルヲ以テ管理人ノ無承諾ヲ以テ之ヲ解任スルヲ得ズ
(委員長)
解任ヲ爲ス事ヲ得ト云フハ自ラ退任スルガ如クナレバ解任セラルトシテハ如何
(南部)
之ヲ解任スル事ヲ得トスベシ
可決ス
第七百七十五條 社員又ハ社員ニアラサル管理人ヲ選任シタル方法ノ如何ヲ問ハス若シ其中ノ一人又ハ數人ノ死亡、辭任又ハ解任アリテ是等ノ事件ニ因リ會社ノ解散セサルトキハ社員議決權ノ多數ヲ以テ其補闕ヲ爲ス
(栗塚)
本條議決權ノ字モ起案者ノ刪除ニ係ル
(村田)
社員又ハ社員ニアラザル管理人ト云ヘバ社員ト社員外ノ管理人トノ如クニシテ社員ニシテ管理人ト社員ニアラザル管理人タルトヲ認ムルヲ得ス
(尾崎)
社員ニシテ管理人ヲ兼ヌルト社員外ニシテ管理人タルトアルベシ
(淸岡)
社員ノ多數ヲ以テ其補缺ヲ爲スト云フハ社員一人ノ補缺ニ社員多數ノ人員ヲ充ツルガ如クナルヲ以テ隱ナラズ
(栗塚)
補缺ヲ決ストシテハ如何
可決ス
第七百七十六條 會社定款ノ執行ニ付キ爲スヘキ總テ其他ノ處分ハ亦社員議決權ノ完全多數ヲ以テ之ヲ定ム
定款ヲ變更スル事又ハ定款ニ定メサル所爲ヲ爲ス事ニ關シテハ總社員ノ一致ヲ必要トス
右ハ其定款又ハ法律ノ之ニ反スル規定ヲ妨ケス
(栗塚)
本條議決權ト云フモ前例ニ依リ刪除ス完全多數ト云フ字ハ本條ニ初テ現出シタルモ前各條ニアル多數ト云フモ完全多數ノ意味ナルニ何故ニ本條ノミ安全ノ字ヲ用ヒシヤト云フヲ起案者ニ質問中ナリシ
(村田)
第二項ノ定款ヲ變更スルト云フハ定款ニ違反スルト云フ意ナルヲ以テ變更ト云フハ不可ナリ
(栗塚)
定款ニ違ウ事トスベシ
可決ス
(村田)
第三項冒頭右ハト云フハ然レドモトスベキニアラズヤ
(栗塚)
總テト云ヘバ意味ヲ有セリ
(委員長)
初項ノ其他ト云フ字ハ定款執行外ニ係ルヲ以テ定款ニ違ウ事ニ當ルニアラズヤ
(栗塚)
其他ノ字ハ刪ルベシ
(淸岡)
其他ノ字ヲ刪ルトキハ前條ヲ置キシ効用ナシ
(南部)
其他ノ字ハ冒頭ニ冠置スベシ
可決ス
第七百七十七條 若シ第三者カ會社ト業務擔當ノ任アル社員ノ一人トニ對シテ同本性ノ債務ヲ負擔シタルトキ其第三者カ二箇ノ債務ヲ消滅セシムルニ足ラサル金圓又ハ有價物ヲ右ノ社員ニ辨濟スルニ於テハ其社員ハ會社ノ債權ノ價額ニ比較シタル自己ノ債權ノ價額ノ割合ヲ以テスルニアラサレハ自己ノ債權ノ辨濟ニ充當スル事ヲ得ス然レトモ債務者ノ爲シタル充當ハ之ヲ遵守スル事ヲ要ス
然レトモ若シ債務者カ社員ノ債權ニ付キ全部ノ充當ヲ爲スニ正當ノ利益ヲ有セスシテ其充當ヲ爲シタルトキハ社員ハ辨濟ニ於テ其割合ニ應スル部分ヲ會社ニ交付スルノ責ニ任ス
債務者又ハ社員カ有効ナル充當ヲ爲ササルトキハ第四百九十三條ニ從ヒ法律上ノ充當ノ規則ヲ適用ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ業務擔當トアルヲ管理トシ第二項部分ノ字ハ起案者ニテ持分トシ來レリ
(淸岡)
本條第二項ハ如何
(栗塚)
第二項ハ全部ノ充當ニ關シ初項ハ一部ニ關シ充當ヲ行フモノナリ
(淸岡)
初項ノ然レドモ以下ハ債務者ヨリ充當返濟ハ之ヲ遵守セザルヲ得ズト云フ譯カ
(栗塚)
然リ
(南部)
部分ヲ持分トスルハ最初ノ如ク部分トスルヲ可トス
(栗塚)
持分ハ部分トスベシ
可決ス
(村田)
英文ニテハ辨濟ノ割合ノ部分トナレリ
(栗塚)
辨濟ニ於ケル割合ト云フ譯ナリ
(淸岡)
全部ノ充當ト云ヘバ負債額ノ全部ト云フ嫌ヒアリ
(尾崎)
第二項ハ債務者ガ充當ヲ爲スニハ正當ノ利益アルモノナラザルベカラザル義ナリ
(栗塚)
債務者正當ノ利益アルモノニ充當スルニアラザレバ債權者債務者ト通謀シ自己ニ償却セシムルモノアルヲ免レザレバ若シ其所爲アルトキハ其債權者ノ受取リタル金額ハ會社ニ交付セザルヲ得ズ
(尾崎)
淸岡委員ノ說ハ第三者ハ會社ニ償却スルモ社員ニ償却スルモ可ナリ只債務者ノ正當ノ利益ヲ有セザルトキハ其償却シタル金額ハ會社ノ爲メニ交付セシメラルルト云フ譯ナラン卽チ其設ノ如クナルニアラズヤ
(栗塚)
然リ
(委員長)
第二項ハ社員ノ債權ニ付キ正當ノ利益ヲ有セズシテ全部ノ充當ヲ爲スニトシテハ如何
(栗塚)
不可ナリ
(尾崎)
全部ノ充當ト云ヘバ負債額悉皆ヲ云フ如クナルモ此點ハ只一方ノミニ償却シタル場合ナラン
(栗塚)
然リ
(淸岡)
全部ト云フ字ハ刪除シタシ
(南部)
全部トアルモ前項ニ自己ノ債權ノ價額ノ割合ト云フモノアルヲ以テ全部ト云フモ負債滿額ト見ラルベキニアラズ
(委員長)
起案者ハ負債滿額ヲ想像シタルモノナラン負債滿額ト解スルモ不都合ナシ
(栗塚)
其充實ノトアルヲ刪リ之ヲトスベシ
可決ス
(村田)
割合ニ應ズル部分ト云フハ割合部分トシテハ如何
(栗塚)
個ノ意味ハ辨濟ノ金額中ヨリ會社ノ債權ニ屬スル部分ト云フ譯ナリ
(淸岡)
其辨濟ノ内割合ノ部分ヲトシテハ如何
可決ス
第七百七十八條 管理人タルト否トヲ問ハス社員ニシテ會社ノ債務者カ會社ニ對シテ負擔シタル物ノ一分ヲ其債務者ヨリ受取リタル者ハ場合ノ如何ニ拘ハラス「自己ノ部分ノ爲メ」受取證書ヲ與ヘタルトキト雖モ其共同社員ニ之ヲ利セシムル事ヲ要ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ會社ノ債務者ガトアルヲ會社ノ債務者ヨリトシ會社ニ對シテ負擔シタル物ノトアルヲ會社ニ對スル債務ノト修正シ其債務者ヨリトアルヲ刪レリ
(淸岡)
會社ノ債權ニ付キ社員中ノ一人ガ自己ノ受取書ヲ發スベキ譯ナシ
(南部)
社員中ノ一人ハ連帶債權者ナルヲ以テ債權ノ全額ヲ受取ルニ差支ナキモ其受取金額ハ自己ノミノ利益トスルヲ得ズト云フ譯ナリ
(栗塚)
部分台持分ノ誤リナリ
(南部)
「」ヲ除クベシ
(委員長)
此「」ハ有用ニアラズヤ
(南部)
法文ニ「」アルハ不可ナリ
(栗塚)
「」ハ圏點ノ代用ナリ自己ノ持分ノ爲メトシテト云フガ如シ
(淸岡)
「」ヲ置キ割註ヲ用ユルモ別段差支ナカルベシト思考ス
(栗塚)
此點ハ債權者ガ債務者ノ無資力トナリシ場合ヲ想像シタルモノニシテ債務者假令無資力トナルモ債權者ハ自己ノ部分ノミ償却セシムルヲ得ズ若シ自己ノ部分ノミノ受取證書ヲ出スモ其受領シタル金額ハ自己ノミノ利益ニ歸スルヲ得ズト云フ譯ナリ
結局場合ノ如何ニ拘ハラズ其共同社員ニ之ヲ利セシムル事ヲ要ス但シ自己ノ持分ノ爲メ受領證書ヲ與ヘタルトキト雖モ亦同ジトス
第七百七十九條 支配人タルト否トヲ問ハス各社員ハ其過愆又ハ懈怠ニ因リ會社ニ加ヘタル損害ヲ補償スルノ責ニ任ス
此損害ハ社員カ他ノ業務ニ於テ會社ニ得セシメタル利益ト相殺セラルル事ヲ得ス但其業務カ互ニ牽連シタルトキハ此限ニ在ラス
(栗塚)
本條支配人トアルハ反譯上管理人ノ誤ナリ
(南部)
本條ハ商法ノ第九十二條ニ該當セリ
第七百八十條 結社契約ヲ以テ管理人ヲ指定セサル爲メニ業務ヲ擔當シタル社員ハ會社ノ業務ニ自己ノ業務ト同一ノ注意ヲ加ヘサルトキニアラサレハ其過愆ノ責ニ任セス
(栗塚)
本條結社契約ハ前例ニ依リ會社契約トシタリ又本條ハ商法第九十二條ニ該當セリ
(村田)
業務ヲ擔當シタル社員ハ管理人タル社員ト云フベキニアラズヤ
(委員長)
第七百七十七條ノ業務擔當ヲ管理トシタルヲ原案ニ復シ本條ハ此儘ニ据置クベシ
(松岡)
商法第九十二條ハ齊整ナル商人トアルヲ以テ普通ノ注意ニテハ足レリトセズ
(栗塚)
普通ノ注意ヲ爲シタルモノヲ以テ足レリトセザルト云フベキ理アルヲ知ラズ本條ノ如キハ譬ヘバ親ニ事ルニハ孝養セヨト云フガ如キモノニシテ敢テ不孝ヲ標的トセズ孝養ヲ目安トスルガ如シ
第七百八十一條 各社員ハ會社資本ニ於テ處分スル事ヲ得ル金額ナキトキハ會社ニ屬スル物ニ關スル必要及ヒ保持ノ出費ヲ自己ノ權利ノ割合ニ應シテ分擔スルノ責ニ任ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ各社員ハノ下會社資本ニ於テ處分スト事ヲ得ル金額ナキトキハトアル數字ヲ刪リ結尾ニ但書ヲ附シ但會社資本ニ於テ處分スル事ヲ得ル金額ナキトキニ限ルトセリ
(淸岡)
本條ノ修正ハ如何ナル必要アルカ
(栗塚)
原案ノ通リニテハ會社資本中ニ何ヲ處分スルヲ得ル金額アルヤノ疑點アルヲ以テナリ本條ハ原案ニ決ス
(松岡)
會社ニハ資本金アルモ其資本金ヲ貸付シアルトキハ社員ハ各自ノ新出費ヲ負擔セザルベカラザルカ
(南部)
其場合ハ立換ノ名義トナルベシ
(淸岡)
社員ハ屡々保持ノ出費ヲ爲サザルヲ得ズト云フハ社員ニ於テハ困難ナルベシ
(松岡)
割合ノ出費ヲ否拒スルトキハ如何
(栗塚)
解散セザルヲ得ズ又本條ハ商法ノ第九十六條ト牴觸ス
(委員長)
起案者ニ質問スベシ
(松岡)
一時會社ノ資金他ニ流通セシニ付キ缺乏シタルトキナレバ立換金ヲ爲スベキモ寡婦孤兒ノ如キ配當金ノ利益ニ依リ漸ク生計ヲ營ミシモノノ如キハ甚ダ迷惑ナリ
(栗塚)
尙ホ起案者ニ質問スベシ
(南部)
本條ハ會社ガ未ダ無形人ヲ表示セサル場合ナリ
(栗塚)
然リ各自ノ資本會社中ニ係ルモノニアリ
第七百八十二條 右ニ反シ業務擔當者タルト否トヲ問ハス各社員ハ會社ヲシテ自己ノ出資外ニ會社ノ爲メ有益ニ立換ヘタル金額ヲ返還セシメ又ハ會社ノ利益ノ爲メ善意ニテ負擔シタル約務ヲ確認セシメ又ハ會社業務ノ爲メ自己ノ財產ニ受ケタル避クル事ヲ得サル損害ヲ賠償セシムル事ヲ得
本條ハ報吿委員ニテ負擔シタルトアルヲ結ビタルトセリ
(委員長)
爲シタルトスベシ
可決ス
(淸岡)
本條修正ノ理由ニ約務ヲ負擔シタルト云フ嫌ヒアルヲ以テトアルハ如何
(栗塚)
會社ガ約務ヲ負擔シタル嫌ヒアリト云ヘリ
(淸岡)
其嫌念ナシ
結局原案ニ決ス
第七百八十三條 會社業務ノ爲メ社員ノ立換ヘタル金額ハ其使用ノ日ヨリ右社員ノ利益ニ於テ當然利息ヲ生ス
之ニ反シ各社員ハ自己ノ業務ノ爲メ會社資本中ヨリ取用ヒタル金額ノ利息ヲ當然會社ニ對シテ負擔ス但此場合ニ於テ一層大ナル損害アリタルトキハ之ヲ賠償スル事ヲ妨ケス
(栗塚)
本條ハ第二項ノ取用ヒトアルヲ引出シトセリ
(淸岡)
引出ト云ヘルハ借用シタル事カ
(栗塚)
然リ
(松岡)
利息ハ民法ニテハ百分ノ六ナルカ
(栗塚)
然リ
(尾崎)
損害賠償ハ利息拂ヒヲスルモ尙ホ會社ノ損害アルヲ免レザルトキナラン
(松岡)
商法ニテハ賠償スルノ義務アリトナレリ
(淸岡)
引出シト云フヨリ取用ヒトスルヲ可トス自己ガ勝手ニ使用セシトキナレバナリ
(南部)
此點ハ會社ガ或ル事業ニ使用セントスル金額ヲ社員ガ之ヲ引出スニ付キ會社ノ資本ヲ轉用スル譯ナリ
遂ニ報吿委員ノ修正ニ決ス
第七百八十四條 社員ハ會社ノ存續中ニ得タル利益ニ因リ增加シ又ハ受ケタル損失ニ因リ減少シテ會社解散ノ際ニ存スル會社資本ニ於テ其相互ノ部分ヲ結社契約又ハ其後ノ所爲ヲ以テ自己ノ隨意ニ定ムル事ヲ得但第七百八十六條ニ記載シタルニ箇ノ例外ハ此限ニ在ラス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ會社資本トアル會社ヲ刪リ資本ニ於テトアルヲ資本ニ付キトシ部分ハ反譯上ニテ持分トナリ結社ハ前各條修正ノ例ニ依リ會社トナリ其後ノ所爲ヲトアルヲ其後ノ契約トシ自己ノノ三字ヲ刪リ例外ハトアルヲ場合ハトセリ
(村田)
會社資本トアル會社ハ原文ニモ記載シアレバ刪除セザルヲ可トス
(栗塚)
原文ニハ記存セルト雖モ語勢ヲ圓滑ナラシメシニ過ギズ
結局刪除ニ決ス
第七百八十五條 又社員ハ其中ノ一人又ハ數人ノ部分カ利益及ヒ損失ニ於テ同一ナラサル事ヲ合意スル事ヲモ得
然レトモ利益ノミヲ豫見シテ右ノ部分ヲ定メタルトキハ損失ニ付テモ同一ノ定ヲ合意シタリト推定セラル
總テノ場合ニ於テ受ケタル損失ヲ控除シ會社ノ貸方トシテ殘ル所ノモノニアラサレハ配當スヘキ利益ト看做サス又右貸方ヲ竭シタル後負擔トシテ殘ル所ノモノニアラサレハ損失ト看做サス
右ハ會社ノ存續中利益又ハ損失ノ一分ノ配當アリタルトキト雖モ會社解散ノ際確定ニ計算セラル
(栗塚)
本條第三項負擔ト云フ字ハ報吿委員ニテ借方トセリ
(淸岡)
第三頂ハノ右貸方ヲ竭シタル後ト云フハ如何
(栗塚)
控除シタル後チト云フ譯ナリ
(村田)
悉皆貸方ヲ取戻シタルヲ云フ
(栗塚)
本條末項ハ報吿委員ヨリ此規定ノ如クナラバ會社解散ノ際配當部分ノ確定ノ計算ヲ爲サルルモノトナラバ五年若クハ十年前ニ配當サレタル金額ト雖モ更ニ計算ヲ改メラルルモノトナルヲ以テ社員ハ甚ダ不安心ノモノト云ハザルベカラズ依テ每年確定計算ヲ爲スモノトセザルベカラズト云フ主旨ヲ以テ起案者ニ質問シタルニ起案者ハ更ラニ此項ヲ改テ然レドモ會社ノ存續中爲シタル利益又ハ損失ノ詐欺ナリ一分ノ配當ハ維持セラルト爲シ來レリ
(委員長)
詐欺ナクト云フハ存續中ノ下ヘ挿入シ詐欺ナクシテ爲サレタルトスベシ
(村田)
維持セラルトアル上ニ解散ノ際ト云フ字ヲ置キタシ
(淸岡)
此場合ハ會社解散ノ事柄ヲ云フモノナレバ解散ト云フヲ挿入スベシ
(南部)
維持セラルト云フハ會社解散ノ際ニ限ラズ一旦計算シタル配當ハ更ラニ再計算ヲ爲サザルヲ云フモノナリ
(委員長)
維持セラルト云ヘバ一旦計算シタル配當ノ會社解散ノ際ニ至ルマデ維持セラルト云フニ疑ヒナシ
(尾崎)
會社存續中ニ爲シタル計算ハ假計算ニシテ確定ノ計算ニアラズト雖モ其會社解散ノ際ハ右假計算タリシモノヲ確定ノ計算トナスニアリ
(淸岡)
第三項ノ如キハ貸方ヲ竭シタル後ニアラザレバ配當スルヲ得ズ依テ會社ハ追々損失ヲ嵩增シアルニ其利益配當ヲ受クベキ理由ナシ
結局此儘ニ決ス
第七百八十六條會社資本ノ全部又ハ會社ノ得タル利益ノ全部ノミヲ社員中ノ一人ニ歸スヘキ約款ハ無効タリ
藝術ノミヲ出資ト爲シタル社員ニアラサル社員ニ總テ損失ノ分擔ヲ免レシムル約款ニ付テモ亦同シ
若シ結社契約中ニ右ノ約款ヲ附記シタルトキハ其約款ハ契約ヲシテ全ク無効タラシム若シ又日後ニ右ノ約款ヲ採用シタルトキハ其約款ハ原契約ヲ存立セシメ會社ノ淸算ハ第七百八十九條ニ從ヒテ爲サル
(栗塚)
報吿委員ニテ第七百八十九條ハ商法ノ第百九條ニ牴觸スルヲ以テ起案者ニ此趣ヲ質問スベシト云フニアルカ本條第二項モ其關係アルヲ以テ他日共ニ議定セラルルマデ留保アリタシ
可決ス第三項ハ其約款ハトアル下ニ會社ノ二字ヲ挿入シ採用ヲ合意トセリ
(委員長)
會社ノ二字ヲ挿入セザルモ惑ヒナカルベシ
(淸岡)
約款ノ契約ト云フ嫌ヒナキニシモアラズ
(委員長)
末文ノ爲サルトアルハ之ヲ爲ストスベシ
可決ス
(栗塚)
第二項約款ニ付テモトアル「ニ付テ」ノ三字ヲ刪レリ
(淸岡)
第一項ノ全部ノミヲト云フハ如何
(委員長)
利益ノミヲ云ヒ損失ヲ云ハザルニ付キノミト云ヒシナラン
(栗塚)
否此點ハ資本ノ全部ト利益ノ全部ト云フ譯ニシテ單ニ會社ノ利益ノ全部ト云フ譯ナリ
(南部)
ノミト云フヲ除去シテハ如何
(今村)
佛文ニテハ必要ノモノナリ
(南部)
日本文ニテハノミト云ハザルモ通ズベシ
(栗塚)
此ノミハ會社資本及ビ會社ノ利益ト云フ二樣ニ係ル嫌ヒアリ
(西)
ノミヲ利益ノ下ニ轉置シテハ如何
其議ニ決シ且報吿委員ノ修正ヲモ可決ス
第七百八十七條 社員ハ自己ノ選任シタル又ハ撰任スヘキ社員又ハ外人タル一人若クハ數人ノ仲裁人ヲシテ會社解散ノ際各自ノ持分ヲ定メシムル事ヲ結社契約又ハ其後ノ所爲ヲ以テ合意スル事ヲ得
仲裁人ノ爲シタル定方ハ仲裁人カ仲裁契約ヲ以テ己レニ命セラレタル方式若クハ條件ヲ履行セス又ハ明カニ公平ニ違ウタルトキニアラサレハ之ヲ攻撃スル事ヲ得ス
右定方ノ無効ノ請求ハ之ニ因リテ害セラレタリト主張スル社員ノ方ニ在テハ其社員カ其定方執行ヲ助成シタルトキ又ハ之ヲ知リタルヨリ三个月ヲ經過シタルトキハ之ヲ受理セス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項所爲ヲ契約トシ第二項履行セズトアルヲ履行セザルガトシ第三項執行ヲ助成シタルトアルヲ執行ニ加ハリトセリ
(淸岡)
第一項自己ノ選任シタルトアルハ自己ノ選任シトシテハ如何
(委員長)
選任シト云ヘルハ不可ナリ
(栗塚)
選任セシトシテハ如何又一人若クハ數人ト云フ字ハ不用ニアラズヤ
(淸岡)
選任シタル又ハト云フ文章ハ甚ダ奇異ナリ
(委員長)
奇異ハ奇異ナリト雖モ選任シト云フニ勝レリ此二項ハ自己ノ選任シタル仲裁人條件ヲ履行セザルトキハ其委任ヲ解カザルベカラズ
(村田)
條件ヲ履行セザルトキハ無効トシ之ヲ取消スベシ
第七百八十八條 結社契約ヲ以テ持分ノ定方ヲ仲裁人ニ任スヘキ事ヲ定メタル場合ニ於テ少ナクトモ社員ノ過半數カ仲裁人ヲ選任スル事ニ一致スル事ヲ得サルトキハ裁判所ニ於テ其選任ヲ爲ス
若シ指定セラレタル仲裁人カ定方ヲ爲ス事ヲ欲セス又ハ之ヲ爲ス事能ハサルニ當リ社員カ之ヲ改選スル事ニ一致セサルトキモ亦同シ
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項一致スル事ヲ得ザルトアルヲ一致セザルトキハトセリ
可決ス
第七百八十九條 社員自身ニテ若クハ仲裁人ヲ以テ持分ノ定方ヲ爲サス又ハ仲裁人ノ決定カ取消サレタルトキハ會社資本及ヒ利益又ハ損失ハ社員交互出資ノ價額ノ割合ニ應シテ之ヲ其間ニ分配ス
社員カ其藝術ノミヲ出資ト爲シタルトキ之ヲ評價セサルニ於テハ其社員ハ他ノ社員中出資ノ最モ少ナキ者ニ等シキ取扱ヲ受ク
社員ニシテ同時ニ其藝術ト他ノ財產ヲ出資ト爲シタル者ハ前項ニ定メタル持分ノ外尙ホ右ノ財產ノ價格ニ隨ヒ計算シタル他ノ持分ヲ收受シ又ハ之ヲ負擔ス
(栗塚)
本條第二項モ商法第百五條ニ從ヒ修正スベキモ尙ホ起案者ノ返答ヲ待ツベキニ付キ留保セラレタシ
(淸岡)
決定ガ取消サレタルトキト云フハ如何
(栗塚)
第七百八十七條ニアリシ如ク攻撃セラルルヲ云フ
(淸岡)
攻撃ハ取消シカ
(栗塚)
然リ又藝術ノ字ハ皆勞力トスベシ
(委員長)
財產ハ權利ナリト云フ元則アルヲ以テ勞力ト財產トヲ分ツハ牴觸スルニアラズヤ
(栗塚)
財產ニハ遺棄シタルモノヲモアルヲ以テ財產ハ權利ト云フヲ以テ推スベカラズ
(尾崎)
持分ノ上ニアル他ノト云フ二字ハ其外ト云フ如キ嫌ヒアルヲ以テ刪除スベシ
可決ス
第七百九十條 各社員ハ自己ノ持分ニ第三者ヲ加入セシメ又自己ノ持分ヲ抵當トシ又ハ讓渡ス事ヲ得ルト雖モ是等ノ所爲ハ會社ニ對抗セラルル事ヲ得ス但結社ノ原契約ヲ以テ此權利ヲ認メ又ハ資本ヲ株式ニ分チタルトキハ此限ニ在ラス
右二箇ノ場合ニ於テ若シ會社カ社員ノ讓渡サント欲スル持分又ハ株式ヲ廢滅スル爲メ先買權ヲ留保シタルトキハ其約款ハ遵守セラレ社員ハ會社カ其先買權ヲ行ヒ又ハ抛棄スル事ニ付キ之ヲ遲滯ニ付スル事ヲ要ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項ノ加入セシメトアルヲ乘合ハシメトシ抵當ヲ質トシ此權利ノ上ニ社員ニト云フ字ヲ挿入シ又自己ノ持分トアルヲ又其持分トシ第二項ノ先買權ヲ行ヒトアルヲ先買權ヲ行フガトセリ
(淸岡)
乘合ハシメト云フヨリ加入セシメトスルヲ可トス
(栗塚)
此點ハ社員ノ一人自己ノ出資額ヲ或ル者ト共ニ組合ヒ其半額ヲ差出サシメ其二人ノ間ハ恰モ一個ノ會社ヲ組立テタルガ如キモノヲ云フニアリ
(委員長)
組合ハシメトスベシ
可決ス
(南部)
各社員ハノ下自己ノ持分ヲ其トスベシ
(委員長)
自己ヲ其トスルハ不可ナリ卽チ否決セラル
(村田)
但ノ下ハ會社ノ原契約トセザルベカラズ
(栗塚)
原契約ハ會社ノ契約ト云フ譯ニシ社員中組合契約ヲ爲シタルトキハ別ニ一個ノ會社ヲ爲シタル如キヲ以テ原契約ト云ヘリ
(淸岡)
報吿委員ニハ原契約ノ原ヲ刪ラントシタルハ如何
(栗塚)
原契約ト云フモ卽チ會社契約ナルヲ以テ原ノ字ヲ除去シタルモ組合契約ハ別ニ會社ヲ組立テタル如キモノナレバ原契約ト云フヲ可トスト云フニテ刪除セザルニアリ
第七百九十一條 業務擔當者カ會社ノ名ヲ以テ又ハ會社ノ業務ノ爲メ有効ニ負擔シタル約務ハ會社カ無形人ヲ爲ストキハ各社員ノ一身上ノ債權者ニ先タチ會社資本ヲ以テ擔保セラル
會社資本ノ不充分ナル場合ニ於テ又ハ訴追シタル債權者ニ會社資本ヲ示ササル場合ニ於テハ總社員ハ連帶シテ會社ノ義務ヲ負擔ス但資本ヲ株式ニ分チタル場合ハ此限ニ在ラス
會社カ無形人ナラサルトキモ亦同シ
右二箇ノ場合ニ於テ確定ノ定方ハ第七百八十四條乃至第七百八十九條ニ定メタル如キ貸方及ヒ借方ニ於ケル各自ノ持分ニ從ヒ社員ノ間ニ爲サル
(栗塚)
本條ハ第一項業務擔當者トアルヲ管理人トシ第二項ノ場合ニ於テトアル「ニ於テ」ヲ刪リ訴追ノ上ニ其資本ガト云フ字ヲ挿入シ會社資本ヲト云フ五字ヲ刪リ示サザルトアルヲ示サレザルト改メ第四項ハ確定ノ定方トアルヲ刪リ各社員間ノ決算ト云フヲ挿入シ末尾ノ社員ノ間ニトアルヲ刪除シ爲サルトアルハ之ヲ爲ストセリ
(尾崎)
第二項ハ無限責任ナルカ
(栗塚)
民事ニ於テハ株式ニアラザルトキハ皆無限責任ナリ
(淸岡)
第二項ハ總社員連帶シテ會社ノ義務ヲ負フト云フトキハ資本ヲ株式ニ分タザルトキハ無限貴任トナルカ
(委員長)
株式會社ニアラザルトキハ無限責任ヲ負ハザルベカラズト雖モ有限責任ヲ表示シ置クニ不都合ナカルベシ
(南部)
定款ニ有限責任ノ契約ヲ爲ストキハ有限責任會社ト爲スヲ得ルモノトスルモ果シテ然ルトキハ但書ヲ附シテ之ヲ明記セザルベカラズ
(栗塚)
起案者ハ謂ヘラク佛國ニ於テハ民事會社ハ無形人ヲ爲サズト雖モ民事會社ト雖モ無形人ヲ爲サザルニアラズ然ラバ社員ハ連帶責任ヲ負フベシト云フニアリ
(淸岡)
民事會社ハ資本不充分ナル場合ニハ連帶責任ヲ負フモノトセバ民事會社ハ解散スル時必ラズ連帶責任ヲ負フルニアルベシ
(南部)
資本不充分ト爲リタル爲メ連帶責任トナルモノナレバ有限無限ヲ區別スルノ効用ナキニ至ラン
(淸岡)
此點ハ報吿委員ニテ研究ヲ盡サレタシ
(委員長)
無形人ヲ爲サザルトキハ純然タル會社ニアラザルヲ以テ己ノ負債トナルベシ連帶責任トナルベキ理由ヲ見ズ連帶責任ヲ負ハントスルニハ組合人數ヲ知ラシメザレバ合同組織トナラザルモノナリ
(栗塚)
會社資本ノ不充分ナルト云フハ最初ヨリ不充分ナルニアラズ前項ヲ受ケ會社ノ債權者ニ義務ヲ執行セシムルモ尙ホ不足スルトキハ社員ノ財產ニ請求スルヲ得ベキト云フノ意ナリ
(委員長)
尙ホ本條ハ研究ヲ盡スベシ
第三節 會社ノ絕止
第七百九十二條 會社ハ左ノ諸件ニ因リ當然了終ス
第一 會社ノ契約セラレタル時期ノ滿了又ハ會社ノ服スル解除條件ノ成就
第二 會社ノ目的タル作業ノ成功又ハ右成功ノ不能
第三 拂込ミタル會社資本ノ全部又ハ半以上ノ滅失
第四 社員ノ一人ノ爲メ勞力又ハ收益ニ於ケル其繼續ノ出資ヲ爲ス事ノ不能
第五 社員中ノ一人ノ死亡、治產禁、宣吿セラレタル破產又ハ顯然ノ無資力但第七百九十五條ニ記載シタルモノヲ妨ケス
(栗塚)
本條第一ハ會社契約ヲ定メタル時期ノ滿了又ハ解除條件ノ成就トシ第二ノ右ノ字ハ其ニ換ヘ又第四ノ爲メト云フ二字ヲ其ニ換フ第五ハ治產禁トアルヲ禁治產トシ顯然ノトアルヲ顯然タルトセリ
(村田)
會社ノ解散トアル中ニモ會社了終ノ場合アリ
(栗塚)
訴權ニテ止ム場合ヲ解散トシ當然了終スル場合ヲ絕止トス
(村田)
解散ニモ當然了終ノ場合アルヲ以テ文字上ニ於テハ牴觸ノ氣味アルガ如シ
(委員長)
社員一人死亡シタル爲メニ會社ノ絕止スルト云フ理由ハ如何
(栗塚)
此會社ハ金錢ヲ目的ニセズ人身ヲ目的トシタルヲ以テ社員中ノ一人死亡シタルトキハ最早舊狀ノ會社ニアラズ依テ絕止スルモノトナレリ
(淸岡)
會社ノ絕止セズシテ事足ルモノトスレバ了終セザルヲ可トス
(委員長)
社員一人ノ死亡ニ依リ當然了終スト云フハ強語ナルガ如シ
(栗塚)
會社ガ止ムト云フモ會就ノ事業止ムニアラズ新ニ會社契約ヲ結バザルベカラズト云フ譯ナリ
(委員長)
會社契約ヲ變ズルトキハ會社ノ總計算ヲ改メザルベカラズトナルベシ
(委員長)
本條モ報吿委員ニテ研究ヲ盡スベシ
第七百九十三條 會社ハ左ノ諸件ニ因リ解散セラルル事ヲ得
第一 總テノ場合ニ於テ總社員ノ一致ノ意思
第二 會社ノ爲メ明示又ハ默示ノ定マリタル期間ナク且其他請求カ惡意ヲ以テモ又不都合ナル時期ニ於テモ爲サレサルトキハ社員中一人ノ意思
第三 社員中一人ノ義務不履行ニ基キタル解除ノ訴又ハ會社ノ爲ノ定マリタル期間アルトキト雖モ正當ノ理由ニ基キタル解散ノ請求
(栗塚)
本條第一ノ總ノ字ヲ刪リ第二ノ其他トアルヲ解散ノトセリ
(委員長)
第二ハ如何ナル場合ナルカ
(栗塚)
商業上ノ變動アルニ依リ解散シタルトキハ淸算上大ニ損害ヲ受クルトキハ爲スヲ得ズト云フヲ顯シタリ
(淸岡)
個ハ社員中一人ノ意思ト云フヲ主的トセルモ此文體ニテハ通シ難シ依テ文章ヲ倒置シテハ如何
此儘ニ決ス
第七百九十四條 當事者ハ會社ノ存續期ノ滿了セサル前ニ明示又ハ默示ニテ之ヲ長伸スル事ヲ得
又默示ノ長伸ハ定マリタル時期ノ滿了後ニ於テ會社業務カ何レノ社員ノ故障モ無ク繼續セラレタル事業ヨリ生スル事ヲ得此場合ニ於テ長伸セラレタル會社ハ第七百九十三條第二號ニ從ヒ一人ノ社員ノ意思ヲ以テ解散セラルル事ヲ得
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項冒頭ノ當事者トアルハ社員トシ存續期トアルヲ期間トセリ又第二項ノ第七百九十三條トアルハ前條トセリ
可決ス
(淸岡)
二項ノ時期ト云フヲ期間トシテハ如何
(栗塚)
期間トスルモ差支ナシ
(淸岡)
前條第二號ノミヲ解散スルヲ得ベキモノトスレバ如何
(栗塚)
此場合ハ元來期間アルヲ云フモノナレバ其期間ガ長伸シタルトキハ一人ノ社員ノ意思ヲ以テ解散セラルルヲ云フ
第七百九十五條 會社資本カ讓渡ヲ許シタル株式ニ分タレタルトキ第七百九十二條第五號ニ指定シタル原由ノ一カ株主中一人ノ一身ニ生スルニ於テハ右ノ原由ニ因ル會社ノ解散ナシ
又他ノ會社ニ於テハ右ノ原由カ會社ノ解散ヲ行ハスシテ會社ハ社員タルヲ止メタル者ノ持分ヲ定メテ他ノ社員ト共ニ繼續スヘキ事ヲ合意スル事ヲ得又會社ハ死亡シタル社員ノ相續人又ハ無能力若クハ無資力ト爲リタルモ合式ニ代理セラレタル社員ト共ニ繼續スヘキ事ヲモ合意スル事ヲ得
(栗塚)
本條ハ報吿委員ヨリ起案者ニ質問シ起案者更ラニ改正シ來レルモ未ダ反譯成ラザルニ付キ留保ニ附置カレタシ
第四節 會社ノ淸算及ヒ配當
第七百九十六條 會社解散ノ後ハ社員ノ各自又ハ其承權人ヨリ淸算ヲ請求スル事ヲ得
淸算ハ配當前ニ之ヲ爲ス事ヲ要ス但社員ノ多數カ全部又ハ一分ノ配當ヲ先ニスル事ヲ請求シタルトキハ此限ニ在ラス
又會社ノ各債權者ハ淸算前ニ配當ヲ爲ス事ニ付キ故障ヲ申立ツル事ヲ得
(栗塚)
本條モ商法ニテハ淸算前ノ配當ヲ許サザルニ本條ニテハ淸算前ノ配當ヲ爲スヲ得ベキモノトナルヲ以テ全ク牴觸シタレバ尙ホ起案者ニ質問スベシ
第七百九十七條 淸算ニハ左ノ諸件ヲ包含ス
第一 始メタル業務ノ成就
第二 會社債務ノ辨濟及ヒ第三者ニ對スル其債權ノ回收
第三 各社員ト會社トノ間ノ特別ナル計算ノ定方
第四 配當スヘキ貸方又ハ負擔スヘキ借方ニ於ケル各社員又ハ其代人ノ持分ノ指定
(栗塚)
本條第二會社ノ下「ノ」ト云フ字ヲ加フ
(淸岡)
始メタル業務ノ成就ト云フハ仕掛リ仕事ノ成就ナルヤ
(南部)
然リ
(村田)
前條會社解散ハ絕止ノ場合モ包含セルナラン
(栗塚)
然リ
第七百九十八條 淸算人ノ選定及ヒ其權限ニ關スル結社契約ノ約款ハ若シ右ニ付キ妨碍ノ生セサリシトキハ之ヲ遵守スル事ヲ要ス
右ノ約款ナキトキハ淸算ハ或ハ總社員ニ因リ或ハ社員ノ一致ヲ以テ選任シタル一人又ハ數人ノ社員ニ因テ爲サレ又ハ社員ノ一致ヲ以テ選定シタル第三者ニ因リテモ爲サル
若シ社員カ淸算人ノ選定ニ付キ一致スル事ヲ得サルトキハ裁判所ニ於テ之ヲ選任ス
本條ハ結社ヲ會社トシ一致スル事ヲ得ザルトキハトアルヲ一致セザルトキハトスルハ前修正ノ例ニ依ルモノナリ
(栗塚)
第二項社員ニ因テ爲サレトアルハ社員ニ因リ之ヲ爲シトシ第三者ニ因リテモ爲サルトアルヲ第三者ニ因リテモ之ヲ爲ストセリ
(委員長)
總社員ニ因リト云フト社員ノ一致ト云フトハ差異アルカ
(栗塚)
總社員ニ因リ又ハ社員一致ヲ以テ委任シタル社員ニ因リト云フ譯ナリ
(南部)
第一項若シ以下ハ殆ンド無用ニ近シ
(委員長)
云々會社契約ノ約款ナキトキハトシテモ可ナリ
(栗塚)
本條ハ此兩項ヲ合併シ會社契約中淸算人ノ選定及ビ其權限ニ關スル約款ナキトキハ云々トスベシ
可決ス
第七百九十九條 淸算人ハ總テノ場合ニ於テ速ニ毀損又ハ滅盡スヘキ物ヲ移付スル事ヲ要ス
若シ滿期ノ債務ノ辨償ノ爲メ其他ノ動產物ヲ移付スルノ必要アルトキハ之ヲ移付スル事ヲ得
不動產ニ關シテハ淸算人ハ社員ノ特別ナル委任ニ憑ルニアラサレハ之ヲ抵當トシ又ハ移付スル事ヲ得ス
此終ノ場合ニ於テ移付ハ公賣競落ニ因ルニアラサレハ之ヲ爲ス事ヲ得ス但熟議上ニテ約定スル事ヲ許シタルトキハ此限ニ在ラス且右ハ總テ社員ノ多數決ニ因ル
淸算人ハ社員ノ名ヲ以テ原吿又ハ被吿トシテ訴訟ヲ爲ス事ヲ得
淸算人カ會社ノ債務又ハ債權ニ付キ承諾シタル和解及ヒ仲裁ハ第三者ト通謀シタル詭譎ノ爲メニアラサレハ之ヲ攻撃スル事ヲ得ス
(栗塚)
本條第二項ハ報吿委員ニテ若シ滿期ノ債務ノ辨償ノ爲メ必要アルトキハ其他ノ動產物ヲ移付スル事ヲ得トセリ
(元尾崎)
移付ト云フハ賣却スル義ナリヤ
(栗塚)
起案者ノ註釋ニテハ賣却ノ義トナレリ淸算人ハ毀損又ハ滅盡スベキ虞アルモノハ早ク之ヲ賣却シ代金ニ換置カザルベカラザレバナリ
(元尾崎)
攻撃ハ排斥トスルヲ得ザルカ
(村田)
攻撃ノ字ハ既ニ之ヲ認存シタルニ付キ變更スルヲ得ズ
第八百條 淸算ノ總計算ハ社員ノ認可ヲ受クル事ヲ要ス
右ノ計算ヲ認可スルニハ社員ノ多數決ヲ以テ足レリトス
其議決ハ併合セラレタル總テノ計算ニ付キ又ハ計算ノ或ル部分ニ付キ各別ニ之ヲ爲ス事ヲ得
認可セラレスシテ仕直ス事ヲ得ヘキ計算ハ淸算人ノ費用及ヒ注意ヲ以テ之ヲ爲ス若シ仕直ス事ヲ得サルトキハ淸算人ハ代理ノ規則ニ從ヒ其過愆ニ因テ加ヘタル損害ノ責ニ任ス
淸算人ノ己レニ委任セラレタル權限ニ憑リ又ハ前條ニ從テ爲シタル所爲ハ常ニ善意ナル第三者ノ爲メ之ヲ維持ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第三項ノ其議決ハノ下併合セラレタルトアルヲ刪リ總テノ計算ニ付キ合併ニテ之ヲ爲シトシ第四項ハ認可セラレズシテトアルヲ認可セラレズ且トシ淸算人ノ費用ノ下「及ヒ注意」ヲ刪レリ
(槇村)
其議決ハ總テノ計算ニ付キ合併ニテ之ヲ爲スト云ヘバ社員ガ合併スルガ如シ
(南部)
計算ヲ合併シテトスベシ
(元尾崎)
計算ヲ合シテ之ヲ爲シトスベシ
(栗塚)
計算ヲ合シテ之ヲ爲シトスベシ
可決ス
(淸岡)
淸算人ノ費用ヲ以テトアルハ不明ナリ
(尾崎)
淸算人其費用ヲ以テトスベシ
可決ス
(南部)
本條ハ商法ノ第百三十二條ニ照應セリ
(元尾崎)
之ヲ維持スト云フハ如何
(栗塚)
日後之ヲ廢セザルヲ云フ維持セラルノ義ナリ
(槇村)
維持セラルト云ヘバ可ナリ
(南部)
原案ノ儘ヲ可トス
(元尾崎)
尙ホ此等ノ文字ハ報吿委員ノ再考ヲ煩シタシ
第八百一條 若シ民事會社カ株式ヲ以テ組織セラレタルトキハ商事株式會社ノ規則ニ從ヒテ淸算ヲ爲ス
(村田)
本條ハ之ヲ刪除シタシ
(南部)
本條ノミナラズ會社ノ條項ハ總テ商法ト照量刪除スルモノトナレリ
第八百二條 會社ノ淸算ノ後ハ不分ニ存スル財產ノ配當ハ舊社員ノ各自又ハ其承權人ヨリ之ヲ請求スル事ヲ得但當事者カ此法律第四十條ニ從ヒ不分ニ留マル事ヲ會社解散ノ後ニ合意シタル場合ハ此限ニ在ラス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ社員ノ上ニアル舊ノ字ヲ刪リ不分ニ留マルトアルヲ不分ニテ存スルトセリ
(南部)
此法律ト云フ三字ハ不用ナリ卽チ刪除セラル
(元尾崎)
不分ニ存スルト云フハ如何
(栗塚)
未分ノ儘ニテ共有スル有樣ヲ云フ
第八百三條 配當部分ノ組成又ハ各當事者ニ對スル其配付ニ付キ當事者ノ一致セサルトキハ相續及ヒ其他財產ノ共通ノ派分ノ爲メ此事ニ關シ此法律及ヒ民事訴訟法ニ定メタル規則ヲ遵守ス
(元尾崎)
財產ノ共通ノ派分ト云フハ如何
(栗塚)
獲得篇ノ包括名義ノ部ニ記示セリ
(南部)
配當部分ノ組成ト云フハ財產ノ配當割前ヲ云フカ
(栗塚)
然リ
(元尾崎)
配當部分ノ上ニ其財產ノ文字ヲ加ヘテハ如何
原案ニ決ス
第八百四條 會社資本中ノ物ニテ配當ニ因リ各社員ニ歸シタルモノニ關スル各社員ノ權利ハ會社解散ノ日ニ遡リ他ノ社員ヨリ其物ニ付キ付與シタル權利ハ解除セラル
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ關スルノ下各社員トアルヲ其社員トシ會社解散ノ日ニ遡リトアル下ニ「テ効力ヲ有シ不分中ノ」トアル數字ヲ刪レリ
(元尾崎)
不分中ノ他ノ社員ヨリ其物ニ付キ付與シタルト云フハ如何
(南部)
會社解散前共有ノ地面ヲ社員中ノ一人之ヲ抵當ニ附スル場合ノ如シ其他ハ不分中ノモノニシテ未タ何人ノ權利ニ屬スベキモノナルヤ知ルベカラザルナリ
(淸岡)
付與ノ上ニ第三者ノ字ヲ用ユベシ
可決ス
(元尾崎)
解除セラルトアルヲ之ヲ解除ストシタシ
可決ス
第八百五條 共同配當者ハ配當ヲ以テ約束セラレタル權利ニ於テ受クル事有ルヘキ妨碍及ヒ追奪ニ付キ其各自ノ部分ニ應シテ互ニ擔保人タリ
若シ共同配當者ノ一人カ無資力ナルトキハ其一人ノ負擔シタル賠償ノ部分ハ被擔保人ヲ加ヘテ他ノ各共同配當者ノ間ニ之ヲ分配ス
本條ハ報吿委員ニテ第一項ノ配當ヲ以テ約束セラレトアルヲ配當ニ因リ得取シトシ權利ニ於テトアルヲ權利上ニ於テトシ第二項ノ末文分配ストアルヲ分ツトセリ
可決ス
第八百六條 配當ハ成年者ノ間ニ爲サレ且動產有價物ヲ目的トシタルトキト雖モ不分ノ財產中ニテ受クヘキ部分ノ四分一ニ超エル折損ヲ被リタル者ノ利益ニ於テ之ヲ銷除スル事ヲ得
折損ノ爲メ賣買ノ銷除ノ行用ニ付キ第七百三十四條以下ニ定メタル條件ハ會社ノ配當ノ折損ニ關スル銷除ニ付キ遵守セラル
(南部)
配當ハ成年者ノ間ニ爲サレトアルハ爲シトシタシ
可決ス
(栗塚)
第二項銷除ノ行用トアル「ノ行用」ノ三字ヲ刪リ銷除ニ付キトシ末文ノ銷除ニ付キ遵守セラルトアルヲ之ヲ適用ストスベシ
可決ス
(槇村)
不分ノ財產ニテ受クベキ部分ノ四分ノ一ニ超ユル折損ヲ被リタル者ノ利益ニ於テ之ヲ銷除スル事ヲ得ト云フハ如何
(栗塚)
社員自己ノ受クベキ財產中ノ部分ノ四分ノ一ヲ損スル場合ニ於テハト云フ譯ナリ
(元尾崎)
不分ノ財產ト云フ字ハ不用ノ字ナルノミナラズ却テ誤解ヲ生ズベシ
(槇村)
利益ニ於テト云フハ不明ナリ
(栗塚)
其人ノ利益ノ爲メニト云フ譯ナリ
(尾崎)
折損四分一ニ超ユルトキ銷除スルトハ何國ノ法ニ依ルカ
(栗塚)
伊佛ノ法律ニ依レリ
(元尾崎)
本條ノ意味ハ報吿委員ノ說明ニ依リ領知シタルモ此文面上ニテハ不明ナルヲ免レズ
(栗塚)
不分ノ財產中云々ヲ配當ヲ受ケタル者ガ其受クベキ部分ノ四分ノ一ニ超ユル折損ヲ被リタルトキハ其者ノ爲メ之ヲ銷除スル事ヲ得トシテハ如何
(尾崎)
配當ヲ受ケタル者ガ其受クベキト云フハ其文ヲ爲サズ
(栗塚)
其配當ヲ受クル者ガ自己ノ受クベキ部分ノ四分一ニ超ユル折損ヲ被リタルトキハ其者ノ爲メニ之ヲ銷除スル事ヲ得トシテハ如何
可決ス
第十六章 射倖契約
前置條例
第八百七條 射倖契約ハ契約者双方若クハ一方ノ利益又ハ損失ニ關スル其効力ノ全部又ハ一分カ將來ニシテ且不的確ナル事件ニ繋ル合意ナリ〔第千百四條、第千九百六十四條〕
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ一方ノ利益ニ又ハ損失ニトアルヲ一方ノ損益ニト修正シ將來ニシテ且トアルヲ將來ノトセリ
(淸岡)
特來ト不的確トノ兩要件ヲ要スベシ依テ將來ニシテ且ト云フテ可トス
(南部)
將來ノト云フト不的確ト云フトノニ條件ナルベシ故ニ將來且トシテハ如何
可決ス
第八百八條 契約ハ其本性ニ因リ又ハ當事者ノ意思ニ因リ射倖ノモノタリ
博奕及ヒ賭事終身年金權又ハ其他終身權利ノ設定陸上及ヒ海上ノ保險海上ノ利益ニ於ケル貸借卽チ冒險貸借ハ其本性ニ因リ射倖ノモノタリ〔第千九百六十四條〕
其他ノ契約ハ其成立又ハ効力ヲ停止又ハ解除ノ偶然ノ條件ニ繋ルトキハ當事者ノ意思ニ因リ射倖ノモノタリ
(栗塚)
本條第二項ハ報吿委員ニテ本性ニ因ル射倖契約ハ博變及ビ云々トシ冒險貸借ハ云々トアルヲ冒險貸借ナリトシタシ
(村田)
本性ニ因ル射倖契約ハト云フヲ冒頭ニ冠セシメントスレバ第三項モ當事者ノ意思ニ因リト云フヲ其冒頭ニ冠セシメザルベカラズ
(淸岡)
原案ノ儘ヲ可トス
(村田)
海上ノ利益ニ於ケル貸借卽チ冒險貸借ト云フハ商法中ニ規定セシモノナレバ此點ハ刪除シテハ如何
(南部)
此點ヲ刪除スルハ不可ナリ
(元尾崎)
利益ヲ利害トシタシ可決シ報吿委員ノ修正ハ否決セラル
(南部)
其本性ト云フ其字ハ不用ナリ之ヲ刪リタシ卽チ其字ヲ刪レリ
第八百九條 海上保險及ヒ海上ノ利益ニ於ケル貸借ハ海商ニ關スル法律ニ因テ管知セラル〔第千九百六十四條〕
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ海商ニ關スル云々トアルハ海商法律ニ因リ之ヲ管知ストセリ
(村田)
海上ノ利益ニ於ケル貸借ハトアルハ冒險貸借ハトシタシ
可決ス
第八百十條 若シ博奕カ博奕者ノ勇氣、力量、巧技ヲ發逹スヘキ本性ナル體躯ノ運動タルニアラサレハ其約務履行ノ爲メ裁判上ノ訴權ヲ許サス〔第千九百六十六條第一項〕
賭事ニ基ク訴權ハ右ノ如キ運動ヲ爲ス人ノ利益ニ關シ又ハ農業工業若クハ商業ニ係ル作業ニシテ博奕ノ直接ニ參カルモノノ成功ニ關スルニアラサレハ亦之ヲ許サス
若シ右ノ博奕又ハ賭事ニ於テ約束セラレタル金額又ハ有價物カ情況ニ照シテ過度ナリト見ユルトキハ裁判所ハ之ヲ減スル事ヲ得ス全ク其請求ヲ棄却スル事ヲ要ス〔第千九百六十六條〕
本條ハ報吿委員ニテ第二項ニ賭事ニ基ク訴權ハ右ノ如キ運動ヲ爲ス人ノ爲メ利益ニ關シ又ハ賭者ノ直接ニ參カル農工商ノ作業ノ成功ニ關スルニアラサレハ亦之ヲ許サストシ第三項ハ全ク其トアルヲ且其トシ請求ヲ棄却スルトアル請求ヲ全ク棄却スルトセリ
(元尾崎)
假令バノルマントン號探偵ニ五百圓ヲ賭シタル如キハ如何
(村田)
巧技中ニ屬スベシ
(元尾崎)
此等ハ裁判官ノ問題ニ屬スルナラン
(槇村)
且其請求ヲトアルハ但其請求ヲトシタシ
(南部)
此點ハ然レドモト云フ意味ニ當ルベシ
(元尾崎)
約束セラレタルハ約束シタルトスベシ
可決ス
(尾崎)
且其請求ヲ全ク棄却スルトシタル修正ハ原案ノ儘ニスベシ
可決ス
(元尾崎)
英文ニテハ運動スル其人ニアラザレバ賭事スルヲ得ザルモノトナルモ本條ハ運動ヲ爲ス人ノ利益ニ關シト云ヘバ運動者自身ニ限ラザルガ如シ
(栗塚)
此點ハ運動ヲ爲ス人ニアラザレバ此點ニ當ラザルナリ
(南部)
運動ヲ爲ス人ノ爲メ又ハ賭事ノ直接ニ參カル農工商ノ作業ノ成功ノ爲メニアラザレバトシテハ如何
可決ス
(元尾崎)
圍碁ノ如キハ如何
(南部)
圍碁ハ此中ニ包含セザルベシ
(栗塚)
注解上ニテハ圍碁ノ巧妙ナルモ別段ノ利益ヲ有セザレバ此中ニ包含セザルナリ
(淸岡)
博奕ト賭事トハ何ノ差別アルカ
(元尾崎)
博奕ハ自ラ爲スルヲ云ヒ賭事ハ他人ノ行爲ニ付キ之ヲ賭スルモノナリ
(尾崎)
敢テ別段ノ區別ナシ
第八百十一條 其他ノ場合ニ於テ博奕及ヒ賭事ハ法定又ハ天然ノ何等ノ義務ヲモ生セスシテ之カ爲メ爲シタル債務ノ認知、更改又ハ保證ハ無効タリ〔第千九百六十五條〕
然レトモ有能力者カ右ノ約務ニ憑リ任意ニテ辨濟シタルモノニ付テハ取戻ス事ヲ許サス但シ勝者ノ方ニ於テ詭譎又ハ欺瞞アリタルトキハ此限ニ在ラス〔第千九百六十七條〕
(栗塚)
本條ハ義務ヲモ生ゼズトシテアルヲ報吿委員ニテ義務ヲモ生ゼズ且トセリ
可決ス
(淸岡)
勝者ノ方ニ於テト云フハ如何
(栗塚)
勝敗ニ詐術ヲ用ヒタルトキハ此限ニ在ラズト云フ譯ナリ
第八百十二條 官許ヲ得サル富講ハ訴權ナキ博奕及ヒ賭事ト同視セラル
被吿カ初ヨリ當事者ハ約束シタル金額又ハ有價物ノ引渡及ヒ辨濟ヲ實行スルニ意ナク只互ニ相場昂低ノ差額ヲ計算スルノミノ意アリタル事ヲ證スルトキハ商品又ハ公ノ證券ノ投機ノ定期賣買二付テモ亦同シ〔第千八百八十五年三月二十八日ニ議定シ四月□八日ニ頒布シタル佛法律〕
(栗塚)
本條第二項ヌ報吿委員ニテ被吿ガト云ヘル冒頭ノ文字ヲ刪除シ商品又ハ公ノ證券ノ投機ノ定期賣買ニ付テモト云ヘルヲ冠シ證スルトキハトアル上ニ被吿ガノ文字ヲ置キ被吿ガ證スルトキハ亦同ジトセリ
可決ス
第八百十三條 若シ前二條ノ場合ニ於テ被吿ヨリ無効ノ抗辯ヲ對抗セサルトキハ判事ハ職權ヲ以テ右無効ノ抗辯ヲ補充スル事ヲ得但契約又ハ請求ニ於テ債務カ博奕、富講又ハ相場差額ニ關スル賭事ノ原由トスル事ヲ明示シタルトキニ限ル
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ相場差額ノ下ハ「ノ賭事ヲ原由トスル事ノ明白ナルトキニ限ルトセリ
可決ス
(元尾崎)
判事カ抗辯ヲ補充スルヨリ受理セザル譯ニシテハ如何
(村田)
原被ノ陳述ヲ聽カザレバ訴權ノ有無判然セザルナリ
(栗塚)
本法ノ各條ヲ議スル前ニ當ツテ委員會ノ決議ヲ請ヒ度モノハ保險ニ關スルモノナリ本法ノ陸上保險ハ之ヲ商法ニ移入シテハ如何
(元尾崎)
會社ハ總テ商法ニ編入スルヲ可トス
(栗塚)
要スルニ無形人ヲ成立スルモノハ商法ニ屬シ無形人ヲ成立セザルモノハ民法ニ屬スベキモノナラン
(村田)
交互保險ハ民法ニ屬スベキモ其他ハ商法ニ入ルベキモノトス
(委員長)
交互保險ヲ民法ニ記存スベシト云フナレバ「ボアソナード」氏ノ流義ノ如ク陸上保險ヲ主唱セザルベカラズ
(元尾崎)
保險ハ皆悉商法ニ屬セシメテハ如何
(委員長)
商法ニ屬ハセシムル說多數ナルヲ以テ先ヅ其議ニ決ス
第二節
第一款
第八百十四條 終身年金權ハ動產若クハ不動產ノ元本ノ移付ノ報酬トシ又ハ爲シ若クハ爲スヘキ勤勞ノ報酬トシテ有償名義ニテ之ヲ設定スル事ヲ得〔第千九百六十八條〕
又贈與又ハ遺囑ヲ以テ無償名義ニテ終身年金權ヲ設定スル事ヲ得〔第千九百六十九條〕
此終ノ場合ニ於テハ終身年金ハ恩惠所爲ノ方式、與ヘ並ニ受クルノ能力及ヒ財產ノ處分スル事ヲ得ヘキ部分ニ付テハ無償名義ノ所爲ニ特別ナル規則ニ從フ〔第千九百六十九條、第千九百七十條〕
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項ノ又ハ爲シノ下「タル」ノ二字ヲ挿入シ第二項ハ又終身年金權ハ贈與又ハ遺囑ヲ以テ無償名義ニテ之ヲ設定スル事ヲ得トシ第三項ハ恩專所爲ノトアルヲ專與ノトシ與ヘ竝ニ受クルノトアルヲ授受ノトシ能力及ビノ下「財產ノ」三字ヲ刪リ部分ノ上ニ財產ノト云フ三字ヲ挿入シ無償名義ノ所爲ニトアルヲ無償名義ノトセリ
(委員長)
無償名義ニ於ケルトスルヲ得ザルカ
(栗塚)
無償名義ニ於ケルト云ヒ難シ
(淸岡)
不動產ノ元本ト云ヘバ不動產ト元本ト二個アルガ如シ
(元尾崎)
元金ノ資本ト云フニ異ナラズ不動產ノ元本ノ移付ト云ヘバ假令バ代價一萬圓ノ家宅アリ其家宅ノ代價卽チ一萬圓ヲ移付シ置クガ如ク思惟セラルベシ
(西)
元本ト云フハ年金ノ起由スルモノナルヲ以テ要用ナリ
(元尾崎)
元本ト云ヘバ金圓ノ如シ
(淸岡)
不動產ノトアルヲ不動產ナルトシテハ如何
可決ス
(元尾崎)
終ノ場合ト云フハ前項ト云フヲ得ザルカ
(栗塚)
前項ヲ指スモノナリ
(委員長)
無償名義ノトアルハ無償名義ニ於ケルトシテハ如何
可決ス
(栗塚)
特別ノ下「ナル」ノ二字ヲ刪ルベシ
可決ス
第八百十五條 終身年金ハ對價物ヲ供給シタル人ニアラサル他ノ人ノ利益ノ爲メ之ヲ要約スル事ヲ得
此場合ニ於テ終身年金ハ要約者ト諾約者トノ間ニ於テハ有償名義ノ契約ノ規則ニ從ヒ要約者享益者トノ間ニ於テハ贈與ノ規則ニ從フ然レトモ贈與ノ方式ニ從ハス〔第千九百七十三條〕
又終身年金ハ有償又ハ無償ノ名義ニテ移付シタル元本ニ付キ之ヲ控留スル事ヲ得
(栗塚)
本條第一項「他ノ人」ハ報吿委員ニテ者トセリ供給シタル人ニアラザルト云ヘバ他ノ人ナルハ明言セズトモ明カナルモノナレバナリ又報吿委員ニテ第二項要約者ノ下「ト」ノ字ヲ加ヘ又本條末項ハ前條中ニ記示スベキモノナルニ何故ニ本條ノ末項ニ置キシヤト云フヲ質問シタルニ起案者ノ回答ニハ第八百十四條第一項ト第二項ノ間ニ挿入スベシト云フニアリ且ツ本項ハ元本以下ヲ「ノ上ニ留保ニ因リ之ヲ設定スル事ヲ得」トセリ
(元尾崎)
本項ノ意味ハ如何
(栗塚)
虛有權ヲ移付シ其實物ハ之ヲ自己ノ方ヘ留存シテ讓渡サザルヲ云フモノナリ
(元尾崎)
年金ヲ得ル以上ハ無償名義トスルヲ得ザルニアラズヤ
(南部)
有償無償ハ年金ニ關セズ移付ニ關スルモノナリ移付スルトキ報償ヲ受ケズ讓渡シ年金ヲ得ルヲ云フ
(委員長)
本條第二項ノ然レドモハ有償名義ノ契約ノ規則ト贈與ノ規則ニ從フト雙方ニ係ルカ
(栗塚)
有償名義ノ契約ノ規則ニ關セザルナリ
(淸岡)
留保ニ因リ之ヲ設定スル事ヲ得ト云ヘバ留保ニ因リテ始マル如クナルモ個ハ元來ヨリ成レルモノニアラズヤ
(南部)
否ラズ
(槇村)
本項ヲ前條第二項トスレバ同條第三項ハ此儘ナルカ
(委員長)
又贈與又ハ云々之ヲ設定スル事ヲ得ト云フ原案ノ儘ニシ終身年金權ノ文字ノミ「之ヲ」トスベシ
可決ス
第八百十六條 終身年金權ハ債權者若クハ債務者ノ終身ヲ期シ又ハ第三者ノ終身ヲ期シテモ之ヲ設定スル事ヲ得〔第千九百七十一條〕
此儘ノ場合ニ於テ若シ契約カ有償ナルトキハ其組成ニ付キ右第三者ノ承諾ヲ必要トス然レトモ此承諾前ニ辨濟シタル利子ハ之ヲ取戻ス事ヲ得ス
(栗塚)
本條ノ第三者ハ關係者間ノ第三者ヲ云ヒシモノナルモ各國ノ法律ニ於テ全ク他人ノ終身ヲ期シ假令ハ普相ビスマルクガ死スルトキ迄ト云フニテ年金權ヲ設定スル事ナシトセズ起案者ノ意見ハ其場合ヲモ認メタルベキカ果シテ之ヲ認メタルモノトスレバ第二項第三者ノ承諾ヲ必要トスト云フヲ得ザルベシ依テ當時起案者ニ質議中ナリ依テ本案ハ未定ニ附置セラレタシ
其議ニ決ス
第八百十七條 終身年金權ハ同時又ハ順次ニ數人ノ終身ヲ期シテ之ヲ設定スル事ヲ得〔第千九百七十二條〕
此場合ニ於テハ用收權ニ關スル第百三條ノ條例ヲ適用ス
(元尾崎)
數人ノ終身ヲ期シテト云フハ如何
(栗塚)
假令バ自己ノ姉二人アリトセンニ其二人ノ姉ニ對シ同時ニ年金權ヲ約スルヲモ得ベシ又長姉死去ノ後ハ次姉ニ年金權ヲ與フルノ契約ヲ爲スヲモ得ベキヲ云フ
(元尾崎)
只數人ト云フノミニテハ不明ナリ
(村田)
共益者トカ債權者トカ云ヘル文字ヲ聞ヒテハ如何先ヅ債權者ト云フ字ヲ挿入スルニ決ス
(槇村)
第三者ハ包含セザルカ
(栗塚)
第三者ハ包含セズ共益者ト云フ字ハ第三者ヲ包含セザルモ債權者ト云ヘバ共益者トヲモ包含スルガ如シ
(南部)
佛蘭西民法ニモ債權者ト云フ字ナシ容易ニ債權者ノ文字ヲ挿入スルハ不可ナリ
(栗塚)
第三者ヲ包含セザル文字アレバ其文字ヲ使用シタキモ果シテ然ル事ヲ得ザルベシ本條モ起案者ガ前條ノ回答アルヲ待テ可決ス
第八百十八條 有償名義ヲ以テ設定シタル終身年金權ノ契約ハ若シ年金權ヲ設定スル爲メ終身ヲ期セラレタル人カ合意ノ當時ニ於テ既ニ死亡シタルトキハ當事者双方其死亡ヲ知ラスト雖モ無効ナリ〔第千九百七十四條〕
若シ右ノ人カ合意ノ當時ニ於テ既ニ罹リタル疾病ノ爲メ六十日ノ期間内ニ死亡シタルトキハ其契約ハ當然解除セラル〔第千九百七十五條〕
(村田)
本條ノ如キハ無關係者ヲ指シタルモノニアラズ必ラズヤ關係者間ニ止マルベシ
(栗塚)
佛法ノ如キハ無關係ノ第三者ヲモ包含セリ卽チ其條項ヲ援引シタルヲ以テ必ラズ關係者ノミト認ムルヲ得ズ
(元尾崎)
六十日間ト云フ期限ハ如何
(栗塚)
佛法ニハ二十日間ナルモ六十日間トシタルハ賭博心ヲ制限シタルモノナラン
(元尾崎)
双方互ニ承諾セシモノト雖モ六十日間ニ死亡シタルトキハ其契約解除セラルルカ
(栗塚)
然リ
第八百十九條 無償名義ニテ設定シタル終身年金權ハ設定者ニ於テ讓渡スヘカラス且差押フヘカラサルモノト定ムル事ヲ得〔第千九百八十一條佛訴第五百八十一條〕
右ノ約款ハ設定證書中ニ記入セラレタルトキニアラサレハ第三者ニ之ヲ對抗スル事ヲ得ス
養料トシテ無償ニテ終身年金權ヲ設定シタルトキハ其年金權ハ贈與又ハ委囑ニ於テ特ニ定メスト雖モ當然讓渡スヘカラス且差押フヘカラサルモノタリ〔同上第五百八十二條〕
此條例ハ贈與シタル財產ニ付キ贈與者ノ利益ニ於テ控留シタル終身年金權ニ之ヲ適用セス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ終身年金權ヲトアル文字ヲ設定シタルノ字ノ下ニ轉入シ「贈與又ハ委囑ニ於テ特ニ定メスト雖モ」ノ數字ヲ刪レリ
(委員長)
本條末項ハ債主ヨリ差押フル事ヲ得ルカ
(栗塚)
然リ
第八百二十條 終身年金權ノ讓渡スヘカラサル事及ヒ差押フヘカラサル事ハ是等ノ禁止ノ一ノミヲ要約シタルトキト雖モ二者共ニ存立ス
是等ノ禁止ハ決シテ滿期ノ利子ニ之ヲ適用セス
(栗塚)
本條第一項ハ終身年金權ノ讓渡及ビ差押ノ禁止ハ其一ノミヲ要約シタルトキト雖モニ者共ニ存立ストシ第二項是等ヲ此トセリ
(槇村)
同第二項ハ如何
(栗塚)
既ニ得收シタル利子ハ之ヲ差押フベカラザルモ未ダ得收セザル利子ハ之ヲ差押フル事ヲ得ベシト云フ譯ナリ
(淸岡)
假令バ自己ノ子息ノ官ヨリ受クル月給中其年金權ノ利子ヲ得タルニ忽焉債權者ノ爲メニ得收サレテハ實ニ迷惑ナリ
第二款
第八百二十一條 債務者ハ年金權ヲ設定スル爲メ終身ヲ期セラレタル人ノ生存中ハ其年金權ノ利子ヲ拂フ事ヲ要ス但特別ノ合意アラサルトキハ其年金權ノ買戻ヲ行フ事ヲ得ス〔第千九百七十九條〕
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ利子ヲ拂フ事ヲ要ストアル要スヲ要シ且トシ「ス但特別ノ合意アラサルトキハ其年金權ノ」ト云ヘルヲ刪リ末尾ニ但買戻ニ付キ特別ノ合意アルトキハ此限ニ在ラズト云ヘル一句ヲ添ヘタリ
可決ス
第八百二十二條 利子ハ債權者日割ヲ以テ之ヲ得取ス但其支拂ヲ月又ハ一層長キ時期ヲ以テ爲スヘキトキト雖モ亦同シ
然レトモ若シ利子ヲ前拂スヘキトキハ既ニ始マリタル時期ノ利子ハ全部負擔セラル〔第千九百八十條〕
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ第一項ヲ利子ハ其支拂ヲ每月爲スベキ又ハ一層長キ時期ヲ以テ爲スベキトキト雖モ債權者日割ヲ以テ之ヲ得取ストシ第二項「トキハ既ニ始マリタル」ト云ヘルヲ刪リ場合ニ於テハ支拂トシ時期ノトアル下ハ「始マリタルトキ其一期分ノ利子全部ヲ拂フヘシ」トセリ
(淸岡)
第二項ハ始マリタルトキハ其一期分トシタシ
(槇村)
トキハトセザルモ可ナリ又第一項ノ每月ノ下爲スベキトキト云フハ不可ナリ
(栗塚)
爲スベキトキヲ刪リ每月又ハ一層長キ期ニテ爲スベキトシテハ如何
(西)
時期ニ爲スベキトキト雖ドモトスベシ
可決ス
(淸岡)
始マリタルトキハトシタシ始マリタルトキト云ヘバ始マリシ時直チニト云フ嫌ヒアリ
(南部)
トキハトスルニ及バズ
第八百二十三條 利子ノ支拂ナキトキト雖モ若シ債權者カ解除ノ權利ヲ留保セサルトキハ其支拂ノ缺無ノ爲メ契約ノ解除ヲ請求スル事ヲ得債權者ハ賣却ヨリ生スヘキ元本ヲ以テ利子ノ支拂ヲ保スル爲メ債務者ノ財產中ニテ利子ヲ受クルニ足ルヘキ部分ヲ差押ヘ之ヲ賣却セシムル事ヲ得ルノミ但他ニ參同スヘキ債權者アルトキハ之カ參同ヲ受ク〔第千九百七十八〕
年金權カ無償名義ニテ設定セラレ又ハ贈與シ若クハ贈遺シタル元本ニ控留セラレタルトキモ亦右同一ニ處辨ス
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ冒頭ノ利子ノ支拂ナキトキト雖モ若シトアルヲ刪リ債權者ガトアルヲガヲハトシ留保セザルトキハ其トアルヲ留保セザルニ於テハ利子トシ請求スル事ヲ得トアルハ請求スル事ヲ得ズトスベキ寫字ノ誤ナリ又報吿委員ニテ債權者ハノ上ニ只ト云フ字ヲ加ヘ「賣却ヨリ生スヘキ元本ヲ以テ利子ノ支拂ヲ保スル爲メ」トアルヲ刪リ差押ヘ之ヲ賣却セシノ下ムル事ヲ刪リ「メ其賣却ヨリ生スヘキ元本ヲ利用シ利子ノ支拂ヲ」ト云フヲ挿入シ末項ノ控留ハ原文ニ從ヒ留置トセリ
(元尾崎)
缺無ト云フハ如何
(栗塚)
支拂ヲ爲サザルトキヲ云フ
(元尾崎)
缺無ト云ヘバ最初ヨリ一錢モ支拂ハザルガ如シ
(委員長)
此等ノ文字ハ之ニ代ユル字アラザレバ變易スルヲ得ズ
第八百二十四條 年金權ノ債務者ハ若シ年金權ヲ設定スル爲メ終身ノ期セラレタル人カ利子滿期ノ日ニ生存セシ證カ供セラレサルトキハ其利子ノ支拂ヲ拒絕スル事ヲ得〔第千九百八十三條〕
生存ノ保證書ハ其人カ現居所ノ地ノ「コンミユーヌ」長又ハ受持區公證人ヨリ之ヲ交付ス〔千七百九十一年三月六日ニ決議シ同二十七日ニ頒布シタル佛國勅令第十一條、千八百三十九年六月六日ノ勅令第一條〕
(栗塚)
本條ハ第一項ノ生存セシ證ガトアルヲ生存セシ證ノトシ「コンミユーヌ」ヲ區戶長トシタルモ區戶町ハ市町村制度ニ牴觸セリ
(委員長)
人事篇ニテハ身分取扱所トセリ
(西)
然リ
(委員長)
假リニ身分取扱人ト爲シ置クベシ
可決ス
(元尾崎)
證ノ供セラレザルトハ如何
(栗塚)
證ヲ債務者ニ供セラレザルトキト云フ譯ナリ
(委員長)
生存セシ證ヲ債權者ヨリ供セザルトキハトスベシ
可決ス
第三款
第八百二十五條 若シ有償名義ニテ設定シタル年金權ノ債務者カ利子支拂ノ爲メ約束シタル抵保ヲ供スル事ヲ缺キ又ハ供シタル抵保ヲ減少スルトキハ債權者ハ契約ノ解除ヲ請求スル事ヲ得但既ニ得取シタル利子ノ何等ノ部分ヲモ返還スルノ責ニ任セス〔第千九百七十七條〕
右同一ノ權利ハ贈與シ又ハ贈遺シタル元本ニ付キ控留シタル終身年金權ノ本主ニ屬ス
其解除ハ若シ年金權ヲ設定スル爲メ終身ノ期セラレタル人カ終局判決前ニ死亡シタルトキハ之ヲ宣吿セス
(栗塚)
末項終局ノ字ハ報吿委員ニテ確定トシ控留ハ留置トナルベシ
(淸岡)
本主ニ屬スト云フハ本主ニモ屬スト云フ譯カ
(栗塚)
終身年金權ハ右同一ノ權利ヲ以テ本主ニ屬スト云フ譯ナリ
(西)
元本ニ付キトアルハ前例ニヨリ元本ノ上ニトアルカ
(栗塚)
然リ
第八百二十六條 普通法ニテ許シタル銷除卽チ無効及ヒ廢罷ノ原由ハ終身年金權ニ之ヲ適用ス
終身年金權ハ尙ホ要約セラレタル買戻、更改、合意上ノ釋放、混同及ヒ時効ニ因テ消滅ス
然レトモ終身年金權ヲ第八百十九條及ヒ第八百二十條ニ從ヒ法律ノ條例又ハ人ノ處分ニ憑リ讓渡スヘカラス又ハ差押フヘカラサルモノナルトキハ其終身年金權ハ時効ニ係ラス
總テノ場合ニ於テ利子ハ滿期後五个年ヲ以テ各別ニ時効ニ係ル
(村田)
普通法ニテ許シタルトアル事ハ英文ニテハ法律ニ於テ普通ニ許サレタルトアリ
(栗塚)
本條第三項ハ報吿委員ニテ人ノ處分トアルヲ契約トセリ
(元尾崎)
要約セラレタルハ買戻更改等ニ關スルカ
(栗塚)
否買戻ノミニ關スルナリ
第八百二十七條 終身年金權ハ年金權ヲ設定スル爲メ終身ノ期セラレタル人ノ死亡ニ因リ消滅ス但第八百十八條ニ記載シタルモノヲ妨ケス〔第千九百八十二條〕
然レトモ年金權ノ本主カ債務者ノ責ニ歸スヘキ不正ノ原由ニ因リ死亡シタル場合ニ於テ若シ年金權カ有償名義ニテ又ハ贈與若クハ贈遺ノ負擔トシテ設定セラレタルトキハ契約又ハ恩惠所爲ハ解除セラレ債務者ハ既ニ拂ヒタル利子ノ何等ノ部分ヲモ回收セスシテ其得取シタル財產ヲ返還ス
若シ前ニ同シク年金權ノ本主カ債務者ノ過愆ニ因リ死亡シタル場合ニ於テ年金權カ直接ニ贈與又ハ贈遺セラレタルトキハ利子ノ支拂ハ裁判所カ其本主ノ生命ノ繼續期ト推測シテ定メタル期間内ハ利害ノ關係人ノ利益ニ於テ繼續セラル
(栗塚)
本條ハ報吿委員ニテ年金權ヲトアルヲ之ヲトシ第二項恩惠所爲ヲ惠與トセリ
(委員長)
生命ノ繼續期ト云フハ假令バ既ニ二十年生存セシニ付キ向後三十年生存スベキモノト見積ル義カ
(栗塚)
然リ
(委員長)
若シ前ニ同ジクト云フハ必要アルヤ
(南部)
前項ト同樣ニト云フ譯ヲ以テ必要ナルベシ
(淸岡)
前ニ同ジクト云フハ責ニ歸スル點ヲ云ヒシモノナラン
(南部)
末項ニ過愆ニ因リ死亡シタルモノノ無償名義ノ場合ニ當ルトキニシテ過愆モ有償名義ノ場合ハ第二項ニ包含セザルヲ得ズ
(栗塚)
末項過愆ヲ責ニ歸スベキ不正ノ原因トシテハ如何註解ニモ不正ト過愆ノ區別アラザルヲ以テナリ
(栗塚)
冒頭ノ若シト云フ文字ヲ年金權カノ上ニ轉置シテハ如何
可決ス
(委員長)
末項ハ本主ガ死亡シタル場合ニ於テ贈遺セラレタルトキト云ヘバ死亡ノ際贈遣セラレシ如キ意味トナルナリ
(南部)
第二項モ場合ニ於テ設定セラレタルトナレルニアラズヤ
(淸岡)
死亡ノ際ニ年金權ヲ設定スベキ譯ナケレバ原案ノ儘ニテ可ナリ
結局贈遺セラレタリシトキトスルニ決ス
第十七章消費貸借及ヒ無期年金權
第一節 消費貸借
第八百七十三條 消費貸借ハ當事者ノ一方カ代補スル事ヲ得ル物ノ所有權ヲ他ノ一方ニ移轉シ他ノ一方カ或ル時間ノ後同量及ヒ同質ノ類似ノ物ヲ返還スルノ義務ヲ負擔スル契約ナリ〔第千八百七十四條、第千八百九十二條、第千八百九十四條、第千八百九十七條、第千九百二條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ一方ガ代補スル事ヲ得ル物ノトアルヲ一方ヨリ代補物ノトシテ双務契約ノ意味ヲ避ケントスルニアリ類似ノトアルヲ等シキトセリ
(尾崎曰)
同質ト云ヘルハ同品質トシタシ
可決ス
(栗塚曰)
同品質トスルモ等シキト云フ字ハ必要ナルベシ
(淸岡曰)
等シキトアレバ同質ノト云フヲ以テ足レリ
第八百七十四條 若シ當事者カ辨償ノ時期ヲ定メサリシトキハ當事者ノ推測セラレタル意思ト情況トニ隨ヒ裁判所之ヲ定ム〔第千九百條、第千九百一條〕
若シ辨償ハ貸借カ無利息ニテ爲サレタルトキハ貸主ノ住所ニ於テ又反對ノ場合ニ於テハ借主ノ住所ニ於テ之ヲ爲ス但其他ノ場所ヲ定メタルトキハ此限ニ在ラス〔第千二百四十七條第二項〕
(栗塚曰)
本條ハ加報吿委員ニテ第一項ノ辨償ヲ返還トシ當事者ノ上ニ裁判所ハノ文字ヲ加ヘ當事者ノ推測セラレタル意思トトアルヲ當事者ノ意思ヲ推測シトシトニ隨ヒ裁判所之ヲ定ムトアルヲ情況ヲ參酌シテ之ヲ定ムトシ第二項ハ冒頭ニ返還ノ場所ノ定メナキトキハト云ヘルヲ置キ「若シ」ノ下辨償ハトアルヲ刪リ無利息ノ下ハ「ナレハ貸主ノ住所ニ於テ又利息附ナレハ借主ノ住所ニ於テ返還ヲ爲ス」ト修正セリ
(元尾崎曰)
定メナキトキハト云ヘベ事物自然ノ義ヲ云ヘルガ如クナルヲ以テ不可ナリ
結局其修正ニ可決ス
第八百七十五條 若シ借用物ノ返還カ不可抗力ニ因テ不能ト爲リタルトキハ借主ハ貸借ノ實行セラレタル時日及ヒ場所ニ於テ計算シタル其物ノ評價額ヲ負擔ス〔第千九百三條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ貸借ノ實行セラレタルトアルヲ貸借ヲ爲シタルトシ時日及ヒ場所ノ下「ニ於テ計算シタル」トアルヲ「ノ相場ニ從ヒ」トシ負擔スノ文字ノ上ニ計算シテ之ヲト云フ文字ヲ挿入セリ
(村田曰)
不可抗力トアルニハ若クハ意外ノ事ト云ヘルヲモ併記セザルベカラズ他ノ條項ニ於テモ不可抗力ノ場合ニハ皆意外ノ事ト云ヘル併記アレバナリ
(栗塚曰)
不可抗力ト云ヘル原字ハ自ラ意外ノ事ヲ包メリ
結局意外ノ事又ハ不可抗力トス
第八百七十六條 貸主ニ屬セサル物ノ貸借ハ無効タリ若シ其貸借カ利息附ニテ爲サレ且借主カ善意ナリシトキハ擔保ヲ生ス
其貸借ハ下ノ場合ニ於ケルニアラサレハ有効ト爲ラス
第一 若シ借主カ善意ニテ借用物ヲ消費シタルトキ
第二 若シ借主カ時効ニ因リ眞所有者ノ回收ノ請求ヲ排却シタルトキ
第三 若シ眞所有者カ貸借ヲ確認シタルトキ
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項利息附ニテ爲サレトアルヲ利息附ニシテトシ且借主ガトアルヲ借主ノトシ善意ナリシトキハノ下貸主ハ借主ニ對シト云フ文字ヲ入レ擔保ヲ生ズトアルヲ擔保ノ責アリトシ第二項下ノ字ヲ左ニ改メリ
(元尾崎曰)
時効ニ因リト云ヘルトキハ貸借ノ有効ナルノミナラズ返還スルノ義務ナシト云フヲ得ベキガ如シ
(栗塚曰)
時効ニハ權利ヲ得ルノ時効ト義務ヲ免ルル時効トアリ個ハ權利ヲ得ル時効ナリ又本條ノ無効タリト云ヘルハ實際有効ニシテ無効ナルモノニアラズ何トナレバ動產ノ貸借ハ瞬間時効ト借主ノ善意ナル旨トヲ以テ第三者ニ抗スルヲ得ベケレバナリ
第八百七十七條 若シ借用物ニ借主ノ知ラスシテ貸主ノ知リタル不表見ノ瑕疵アリ其瑕疵カ身體又ハ財產ニ損害ヲ加フヘキ本性ニシテ且其瑕疵カ實際借主ヲ害シタルトキハ貸主ハ貸借カ無償ナルトキハ自己ノ方ニ於テ詭譎又ハ害スルノ意思アリタルトキニアラサレハ其損害ノ責ニ任セス〔第千八百九十一條、第千八百九十八條〕
若シ貸借カ利息附ナルトキハ貸主ノ知ラサリシ隱レタル瑕疵ト雖モ之ヲ知ル事ヲ得ヘキトキハ其責ニ任ス
其他賣買ノ廢却訴權ニ關スル第七百四十一條乃至第七百四十八條ノ條例ハ適用スルヲ得ヘキタケハ之ヲ貸借ニ適用ス
(栗塚曰)
本條ハ借用物ニ借主ノ知ラズシテ貸主ノ知リタル不表見ノ瑕疵アリ其瑕疵ガ身體又ハ財產ニ損害ヲ加フベキ本性ニシテ實際其借主ヲ害シタルトキハ無償ノトキハ損害ノ責ニ任ゼズ利息アルトキハ其責ニ任ズベシト云フノ理由如何ヲ起案者ニ質問中ナリ
第八百七十八條 第四百八十四條乃至第四百八十七條ハ正貨又ハ強制通用ノ紙幣ニテ爲シタル貸借ニ之ヲ適用ス
然レトモ貸主カ第四百八十六條ニ於テ許サレタル如ク金貨若クハ銀貨ヲ以テ指定セラレタル價額ノ辨償ヲ受ケ又ハ是等ノ貨幣ノ一ヲ以テ辨濟ヲ受クル事ヲ要約スルニハ同本性ノ貨幣ヲ以テ又ハ他ノ貨幣若クハ紙幣ニ於ケル其對價ヲ以テ實際同一ノ價額ヲ貸付シタル事ヲ要ス
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ同一ノ上ニアル實際ノ二字ヲ刪リ同一ノ價額ヲ實際ニ貸付スル事ヲ要ストセリ
(南部曰)
他ノ貨幣若クハ紙幣ニ於ケル其對價ヲ以テト云ヘバ辨償ヲ受ケントスル貨幣ノ相場ニ對スル金額ヲ貸附シ置カザルベカラズ
(元尾崎曰)
金貨百圓ノ辨償ヲ受ケントシ當時金貨百三十圓ノ相場ナルヲ以テ紙幣百三十圓ヲ貸付シタリトセシニ其返濟ノ場合ニ於テハ金貨百圓ヲ辨償スレバ格別若シ紙幣ヲ以テ返濟セザルニ於テハ其際金貨百五十圓ノ相場ナルモ最初ノ百三十圓ヲ辨濟スレバ足レルニアラズヤ
(栗塚曰)
然ラズ
(南部曰)
辨濟ノ際ハ其當時ノ相場ニ依ラザルベカラズ
(尾崎曰)
金貨辨濟ノ契約ヲ紙幣辨濟ニ更ントスルニハ最初借受ケタル金額卽チ百三十圓ヲ返濟スルヲ以テ足レルニアラズヤ
(淸岡曰)
然カセシムルヲ得バ金貨辨濟ヲ要約シタル効ナカルベシ
(元尾崎曰)
其對價ト云フハ貸附スル際ノ對價ナルカ辨濟スル場合ノ對價ナルカ判然セザルニアラズヤ
(栗塚曰)
貸附スル場合ニハ返濟スル時ノ對價ヲ知ルヲ得ス
第八百七十九條 若シ貸借カ金銀塊ニテ爲サレタルトキハ借主ハ總テ其他ノ商品ニ關シタルトキノ如ク同本性、同重量、及ヒ同品質ノ金銀塊ヲ返還スル事ヲ要ス〔第千八百九十六條、第千八百九十七條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ同本性トアルヲ同一ノ本性トシ下ノニ個ノ同ノ字ヲ刪レリ
(元尾崎曰)
本條ハ如何ナル必要アルカ
(栗塚曰)
金銀塊ノ貸借ハ金銀塊ヲ以テ返濟スベシ金銀ノ通貨ヲ以テ返還スベカラザルヲ示シタルモノナリ
第八百八十條 金圓、日用品又ハ商品ノ借主ハ使用ノ報酬トシテ元本ノ外利息ノ名目ヲ以テ借用シタル有價物ノ割合ニ應スル若干ノ金額又ハ有價物ヲ辨濟スヘキ事ヲ約スル事ヲ得〔第千九百五條〕
(栗塚曰)
本條ハ借用ノ下シタルヲ刪リ若干ノノ三字ヲ除去セリ
第八百八十一條 利息ハ要約セラレタルトキニ非サレハ借主ニ對シテ之ヲ要求スル事ヲ得ス
若シ借主ヨリ利息ヲ辨濟スヘキノ合意アリテ其額ノ定ナキトキハ其利息ハ法律上ノ割合ニ於テ負擔セラル
借主ハ要約セラレサル利息ト雖モ法律上ノ設ケタル制限内ニテ任意ニ辨濟シタルモノハ之ヲ還償セシムル事ヲ得ス又之ヲ元本ニ充當スル事ヲ得ス〔第千九百六條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ「於テ負擔セラル」トアルヲ從フトシ末項ハ冒頭ノ借主ハノ文字ヲ刪リ利息ト雖モトアルヲ利息ヲトシ法律ノ設ケタルトアルヲ法律上トシ辨濟シタルモノハトアルヲ辨濟シタル借主ハトセリ
(尾崎曰)
利息ヲ法律上ノ制限外ニテ任意ニ辨濟シタルトキハ向後ト雖モ其利息ハ回收スルヲ得ベキガ如シ
(南部曰)
利息制限法アル以上ハ其効力然ラザルヲ得ズ
(尾崎曰)
不可ナリ
(元尾崎曰)
利息制限法ハ緊束シタル精神ニアラズ
(栗塚曰)
本條ハ尙ホ次條ト照量ノ上得失ヲ議セラレタシ
第八百八十二條 合意上ノ利息ハ法律カ禁セサル場合ニ非サレハ法律上ノ利息ヲ超ユル事ヲ得ス〔第千九百七條〕
若シ利息カ法律ノ許ス割合ヲ超ユル割合ニ於テ顯ニ定メラレタルトキハ其利息ハ法律上ノ割合ニ減スル事ヲ得ヘク其以外ニ辨濟シタルモノハ之ヲ元本ニ充當シ又ハ之ヲ還償セシム
若シ又債權者カ實際貸付シタル元本ヲ超ユル元本ヲ認知セシメ或ハ總テ其他ノ方法ヲ以テ右不正ノ利息ノ全部又ハ一分ヲ隱秘セシメタルトキハ其不正ノ利息ハ何等ノ部分ニ付テモ負擔セラレス若シ之ヲ辨濟シタルトキハ其全部還償セラル〔千八百七年九月三日千八百五十年十二月十九日、千八百八十六年一月十四日ノ佛法律〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項ハ合意上ノ利息ハ法律上ノ利息ヲ超ユル事ヲ得ズ但法律ノ禁ゼザル場合ハ此限ニ在ラズトセリ
(淸岡曰)
但書ハ不必要ナリ
(尾崎曰)
法律上ノ利息ト云フハ如何
(栗塚曰)
年六歩ヲ法律上ノ利息ナリ合意上ノ利息ハ法律ノ許ス割合ヲ超過スル事ヲ得ズトシテハ如何
可決ス第二項ハ報吿委員ニテ超ユル割合ニ於テトアルヲ超過シテトシ其利息ハノ四字ヲ除去シ法律上ノ割合ニ減ズル事ヲ得ベクトアルヲ法律ノ許ス割合ニ之ヲ減ズル事ヲ得ベクトシ第三項ハ何等ノ部分ニ付テモノ下負擔セラレズトアルヲ辨濟スルニハ及バズトシ其全部還償セラルトアルヲ全部ヲ還償セシムトセリ
(元尾崎曰)
法律ノ割合ヲ超過シタル利息ト雖モ既ニ辨濟シタルモノヲ還償セシムルト云フハ不隱當ナリ
(淸岡曰)
假令利息制限法ニ超過シタル利息ト雖モ已ニ辨濟シタル以上ハ最早其利息ヲ回收スルヲ得ズ
(栗塚曰)
已ニ不正ノ利息ニ屬スル以上ハ之ヲ回收セシメザルベカラズ
(南部曰)
利息制限法アル以上ハ其効力ヲ空シカラシムベカラズ
(栗塚曰)
尾崎委員ハ債權者己ニ領收シタル利息ヲ還償セザルヲ得ザルハ痛憫ニ堪ヘザルト云フガ如シ其理由ニ乏シキ論說ト云ハザルヲ得ズ
(南部曰)
此點ハ暫時未定ニ附シタシ
其議ニ決ス
第八百八十三條 若シ貸主カ負擔セラレタル元本ノ全部又ハ一分ヲ受取リ滿期ノ利息ニ付キ留保ヲ爲ササルトキハ貸主ハ反對ノ證アルマテ其利息ヲ受取リ又ハ之ヲ抛棄シタリト推定セラル〔第千九百八條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ負擔セラレタル元本ノ全部又ハ一分ヲ受取リトアルヲ刪リ留保ヲ爲サザルトキハ貸主ハトアルヲ留保ヲ爲サズシテ元本ノ全部又ハ一分ヲ受取リタルトキハトセリ
(元尾崎曰)
滿期ノ利息ニ付キ留保ヲ爲サズシテトアルハ如何
(村田曰)
利息ニ付一言ヲモ留メズ元金ヲ受取リタルトキハト云フ譯ナリ
(元尾崎曰)
利息ニ付キ留保ヲ爲サズシテ元本ノ全部又ハ一分ヲ受取リトアルモ利息ニ付キ一言ヲモ留メズ元本ノ一分ヲ受取リタルトキハ其利息ヲ受取リ又ハ之ヲ抛棄シタリト推定セラルルハ不當ニアラズヤ
(南部曰)
全部又ハ一分ト云フヲ記存セザレバ綿密ヲ缺クベシ
第八百八十四條 若シ十个年ヲ超ユル時期ニ付キ利息附貸借ヲ爲シタルトキハ借主ハ如何ナル反對ノ合意アルモ十个年後常ニ之ヲ辨濟スルノ權能ヲ有ス
然レトモ若シ年賦金カ利息ノ外元本ノ漸次償却ヲ包含スルトキハ其取越辨償ヲ爲ス事ヲ得ス〔伊民第千八百三十二條〕
本條ハ時期ニ付キトアルヲ時期ニテトセリ
(元尾崎曰)
本條第一項ハ假令バ二十个年若クハ三十个年ノ期限ナルモ十个年ヲ經過スレバ之ヲ償却スルヲ得ト云フ義カ
(栗塚曰)
然リ
(槇村曰)
第二項ハ然レドモ利息ノ外元本ノ漸次償却ヲ包含スル年賦金ハトシテハ如何
原案ニ決ス
第八百八十五條 第八百八十一條乃至第八百八十四條ノ條例ハ貸借ヨリ生シタルモノニ非サル金圓又ハ量定物ノ總テノ義務及ヒ合意上竝ニ法律上ノ利息ニ之ヲ適用ス
(元尾崎曰)
貸借ヨリ生シタルモノニ非サルト云ヘルハ如何
(南部曰)
賣懸代金ノ如キモノヲ云フ
第二節 無期年金權ノ契約
第八百八十六條 利息附貸主ハ何レノ時ニ至ルモ元本ヲ要求スルノ權利ヲ抛棄スル事ヲ得此場合ニ於テハ其契約ヲ「無期年金權ノ設定」ト稱ス〔第千九百九條、第千九百十條〕
此抛棄ハ明確ナル事ヲ要シ又ハ明ニ情況ヨリ生スル事ヲ要ス
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項權利ヲ抛棄スル事トアルヲ自カラ禁止スル事トシ第二項抛棄ハ禁止トセリ
(尾崎曰)
抛棄ト云フハ不可ナルカ
(南部曰)
抛棄ト云ヘバ元金ヲ抛棄スル如クナルヲ以テナリ
(槇村曰)
禁止トスルヲ可トス
(尾崎曰)
何レノ時ニ至ルモト云フハ何ノ時ト雖モト云フ譯カ
(南部曰)
永久ニト云フ譯ナリ
第八百八十七條 無期年金權ヲ負擔スル借主ハ如何ナル反對ノ合意アルモ常ニ其受取リタル元本ノ辨償ヲ實行スル事ヲ得〔第千九百十一條第一項〕
然レトモ其借主ハ十个年ヲ超ユル事ヲ得サル或ル時期前ニ於テ右ノ辨償ヲ實行セサル事ヲ約スル事ヲ得
右ノ約務ハ常ニ之ヲ更新スル事ヲ得然レトモ十个年ヲ超エルヲ得ス若シ之ヲ超ユルトキハ十个年ノ期限ニ短縮ス
辨償ハ反對ノ合意アラサルトキハ全部タル事ヲ要ス
債務者ハ六个月前ニ其辨償スルノ意思ヲ債權者ニ豫吿スル事ヲ要ス但當事者ニ於テ他ノ期間ヲ定メタルトキハ此限ニ在ラス〔第千九百十一條第二項〕
債務者自己ノ定メタル時期ニ於テ辨償セサルトキハ損害賠償ノ責ニ任ス然レトモ辨償ニ強要セラルル事ヲ得ス但更改アルトキハ此限ニ在ラス
(栗塚曰)
本條ハ第一項元本ノ辨償ヲ實行スルトアルヲ元本ノ辨償ヲ爲ストシ第二項ハ十个年ヲ超ユル事ヲ得ザルトアルヲ十个年ヲ超エザルトシ實行セザルヲ爲サザルトシ第五項六ケ月前ニノ下其ノ字ヲ刪リ
(元尾崎曰)
十ケ年ノ期限ニ短縮ストアルハ恰モ利息制限法ノ利息ト同ジク短縮サルルモ默々ニ經過シタルトキハ何年間ニ渉ルモ不可ナキニアラズヤ
(松岡曰)
年金ハ無期ナルヲ本則トス依テ十ケ年ノ期限ニ短縮スルト云フハ刪除スベシ
(元尾崎曰)
末項ノ然レドモ辨償ニ強要セラルル事ヲ得ズトアルハ如何
(栗塚曰)
強テ返濟ヲ要求スルヲ得ズト云ヘル譯ナリ
(元尾崎曰)
損害賠償ノ訴ハ之ヲ爲シ得ルモ辨償ニ強要セラルル事ヲ得ズト云フハ結果ニ於テ其差異ヲ見ズ
(栗塚曰)
無期年金權ノ性質ニ於テハ須ラク如此ナラザルベカラズ
第八百八十八條 債務者ハ第四百二十五條ニ總テ債務者ハ法律上ノ期限ノ利益ヲ失フト定メタル最初ノ三箇ノ場合及ヒ其他正式ノ付遲滯ノ後引續キニケ年間利子ノ辨濟ヲ缺キタル場合ニ於テハ元本ノ辨償ニ強要セラルル事ヲ得〔第千九百十二條、第千九百十三條〕
此終ノ場合ニ於テ第四百二十六條ニ從ヒ債務者ニ恩惠期間及ヒ辨濟ノ分割ヲ許與スル裁判所ノ權利ヲ妨ケス
(槇村曰)
第四百二十五條ニハ權利上ノ期限トアルニ本條ニハ法律上ノ期限トアルハ如何
(栗塚曰)
何レモ同意義ナレバ同一ニ權利上トスベシ
(元尾崎曰)
正式ノ付遲滯ト云フハ如何
(栗塚曰)
使丁ヲシテ催促狀ヲ送附セシムルガ如キ是ナリ
(元尾崎曰)
恩惠期間ト云フハ如何
(栗塚曰)
借金返濟ニ付キ恩惠ノ期間ヲ與きフルヲ云フ
(元尾崎曰)
權利上ノ期限ト法律上ノ期限トハ差異アルニアラズヤ
(今村曰)
權利上ノ期限ト法律上ノ利息トノ如キハ同ジカラズ
第八百八十九條 前二條ノ條例ハ不動產移付ノ代價又ハ條件トシテ設定シタル無期年金權ニ之ヲ適用シ又無償名義ニテ設定シタル無期年金權ニモ之ヲ適用ス〔第五百三十條〕
右孰レノ場合ニ於テモ辨償ハ當事者ノ間ニ評價セラレタル元本又其評價ナキトキハ利息ノ法律上ノ割合ニ從ヒテ計算シタル每年ノ利子ヲ生スヘキ元本ヲ以テス(同上)
若シ利子カ日用品ナルトキハ元本ノ辨償ハ特別ノ合意アルニ非サレハ終ノ十ケ年間ノ右日用品ノ平均代價ヲ利息ノ基礎ト爲シテ右元本ノ辨償ヲ爲ス〔千七百九十年十二月十八日ニ議決シ同二十九日ニ頒布シタル佛法律第三條〕
(栗塚曰)
本條ハ第三項ノ右日用品ヲ其日用品トシ利息トアルヲ利子トシ初項ノ不動產移付ノ代價又ハ條件トシテトアルハ報吿委員ニテ不動產移付ノ報酬トシテトスベシト云フ意見モアリシガ原書ニモ代價又ハ條件トシテトアレバ之ヲ敢テ改ムベキ理由ナシト云フニアリ
(淸岡曰)
十ケ年ノ日用品ノ平均代價ト云フハ長期ニ過グベシ
(元尾崎曰)
西洋ノ如キ經濟社會ノ整頓シタルモノハ十ケ年ノ平均モ敢テ變更ナカルベキモ日本ノ經濟社會ニ於テ十ケ年ト云ヘバ大ニ變狀ヲ呈スベシ
(淸岡曰)
五年トシテハ如何
(槇村曰)
十ケ年平均ハ佛國民法ノミカ
(栗塚曰)
伊太利モ十ケ年平均ナラン
(西曰)
法律上ノ割合ト云フハ法律ノ許ス割合トハ同ジカラザルカ
(栗塚曰)
此點ハ法律上ノ利子卽チ六分利子ヲ云ヘルモノナリ
(元尾崎曰)
終ノ十ケ年ト云フニテ明カナルヤ
(委員長曰)
日本語ヲ以テ云ヘバ終ノトスルカ後ノトカ云ヘル文字ヲ用ユルヨリ外ナシ
(元尾崎曰)
終十ケ年トアルハ前十ケ年トセザレバ明カナラズ
可決ス
第十八章使用貸借
第一節 使用貸借ノ本性
第八百九十條 使用貸借ハ當事者ノ一方カ他ノ一方ノ使用ノ爲メ之ニ動產物又ハ不動產物ヲ交付シ他ノ一方カ明示又ハ默示ニテ定メタル時期ノ後借受ケタル原物其物ヲ返付スルノ義務ヲ負擔スル契約ナリ〔第千八百七十四條、第千八百七十五條、第千八百七十七條、第千八百七十八條〕
此貸借ハ本來無償ナリ〔第千八百七十六條〕
本條ハ報吿委員ニテ一方ガトアルヲ一方ヨリトシ双務契約ノ如クナルヲ避ケシナリ
(栗塚曰)
使用貸借ハ人權ヲ得ベキヲ以テ借主ハ貸主ニ對シテ義務ヲ負擔スベキモノニシテ片務契約ナルベシ然ルニ起案者ハ貸主ニモ義務アル如ク記示セシバ撞着タルヲ免レズ又使用權アレバ使用貸借ハ必要アラザルベキニアラズヤト云ヘバ二點ヲ以テ質問中ナリ
(今村曰)
使用權ヲ物權トシ使用貸借ヲ人權トセシモ實際上ノ差異ヲ見ズ使用權ハ賃借ナリ使用貸借ハ賃借ニアラズ賃借ト否ラザルトヲ以テ物權ト人權トヲ區別スベキ理由ナシ又註釋ニハ使用貸借ヲ片務契約トスルモ第八百九十一條ニハ貸主ニ對スル人權ヲ得取ストアリ人權ニシテ義務ノ成立セザルモノ天下殆ンド其理ナシ以上ハ到底支吾タルヲ免レズ
第八百九十一條 借主ハ使用ノ物權ヲ得取セスシテ貸主及ヒ其相續人ニ對スル人權ノミヲ得取ス
借主ノ權利ハ其相續人ニ移ラス但相續人カ當事者ノ意思ノ右ト異ナレル事ヲ證スルトキハ此限ニ在ラス又相續人他ニテ右ト同一ナル物ノ使用ヲ求ムル爲メ裁判所ヨリ期間ヲ得ル事ヲ妨ケス〔第千八百七十九條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項ノ使用ノトアルヲ使用ニ付キトシ物權ヲ得取セズシテトアル「シテ」ヲ「只」トシ相續人ニ對スルトアル「スル」ヲ刪リ第二項ノ「右ト」アルヲ「之ニ」トシ右ト同一ナルトアルヲ等シキトセリ
(今村曰)
使用ニ付キト云フハ不可ナリ使用ノト云ハザルベカラズ可決ス
(淸岡曰)
又相續人他ニテ云々トアルハ如何
(栗塚曰)
假令バ借主ナル先人死去シタル爲メ直チニ回收サルルハ困難ナルニ付他ヨリ右ト同樣ノ物品ヲ借受クルヲ得ルマデハ前借物ヲ返還セザルモノヲ云ヘリ
(元尾崎曰)
使用貸借權ハ借主ノ相續人ニ移ラシムルヲ可トス
(栗塚曰)
使用貸借ノ借主ノ相續人ニ移サルハ三個ノ理アリ一ハ無償ナリ二ハ有期ノ性質ナリ三ハ借主ヲ信用セシナリト云フニアリ
(委員長曰)
等シキ物ノ使用ヲ求ムル爲メト云フハ恰當ナラズ
(尾崎曰)
等シキ物ノ使用ヲ得ル爲メトシテハ如何
(淸岡曰)
等シキト云フハ同一ト云フヲ可トス
(栗塚曰)
同一ト云フハ必ラズ同形ナラザルベカラザルガ如シ右ニ等シキト云フヲ可トス
(委員長曰)
等シキ物ノ使用ヲ得ルトスベシ
可決ス
第二節 貸借ヨリ生シ又ハ貸借ニ關シテ生スル義務
第八百九十二條 借主ハ物ノ本性ニ因リ又ハ合意ニ因リ定マリタル使用ニ於テ且貸付セラレタル時間ニ於テノミ其借用物ヲ用ユル事ヲ要ス〔第千八百八十條〕
借主ハ他ノ使用又ハ期限後ノ使用ヨリ生スヘキ滅失又ハ損壞ハ勿論又其使用カ遠因ト爲リタル意外ノ滅失ニ付テモ其責ニ任ス〔第千八百八十一條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第二節ノ貸借ニ關シテトアルヲ第一項ハ貸借ニ際シテトシ借主ハノ下借用ノ二字ヲ挿入シ使用ニ於テトアルヲ使用ニ從ヒトシ且貸付セラレタルノ下時間ニ於テノミヲ期限内ニ非ラザレバトシ其借用物ヲトアルヲ其物ヲトシ用ユル事ヲ要ストアルヲ使用ス可カラズトシ第二項ハ損壞ノ下「ニ付テ」ト云フ字ヲ入レ其使用ガ遠因ト爲リトアルヲ其使用ニ際シテ生ジトセリ
(元尾崎曰)
第二項ハ其使用ニ際シテ意外ノ事又ハ不可抗力ヨリ生ズル滅失云々トシタシ
可決ス
(村田曰)
第八百七十五條ニモ意外ノ事又ハト云ヘルヲ入ルベシ
可決ス
(村田曰)
本條末尾ノ滅失トアリテ損壞ノアラザルハ不可ナリ
(栗塚曰)
滅失ト云ヘルニテ類推スルヲ得ベキニアラズヤ
(委員長曰)
如此ハ凡テ此法律ノ文體如何ニ依ルモノニシテ或ル場合ニハ之ヲ詳記シ或ル場合ニハ省略スルハ不可ナリ
(栗塚曰)
然ラバ損壞ノ字ヲ挿入スベシ
可決ス
第八百九十三條 若シ借主カ自己ノ物ヲ用ヰテ借用物ニ右ノ滅失ヲ免カレシムル事ヲ得ヘキトキ又ハ自己ノ物ト借用物ニ共同ノ危險ニ於テ自己ノ物ヲ救護シタルトキハ其借主ハ亦意外ノ事又ハ不可抗力ヨリ生スル滅失ノ責ニ任ス〔第千八百八十二條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ冒頭ノ若シトアルヲ除去シ借主ハ若シトシ借用物ニ右ノトアル「ニ右」ノ二字ヲ刪リ自己ノモノアルヲ自己ノ物及ビトシ借用物ニトアルヲ借用物ノトシ危險ニ於テトアルヲ危險ニ際シトシ救護シタルノ下「ハ其借主ハ」トアルヲ刪リ救護シタルモトシ又前修正例ニ依リ滅失ノ下ニ又ハ損壞ノ字ヲ挿入セリ
(委員長曰)
本條ハ借用物ノ滅失又ハ損壞シタルヲ云ハザルハ如何
(南部曰)
亦ハ前條ヲ受クルヲ以テ其意昧ヲ顯ハスニ足ルベシ
(委員長曰)
本條上ノ字面上ニテハ借用物ノ滅失又ハ損壞ノ責ト云フヲ見ル能ハズ
結局不可抗力ヨリ生ズルノ下ヘ借用物ノト云フ字ヲ挿入シ前條第二項モ使用ヨリ生ズベキトアルヲ使用ヨリ生ズル借用物ノトセリ
第八百九十四條 借主ハ借用物保持ノ通常費用ヲ負擔ス但貸主ニ對シテ償還ヲ求ムル事ヲ得ス〔第千八百八十六條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ保持ノ通常トアルヲ使用ニ關スルトセリ
(槇村曰)
使用ニ關スルト云フハ譬ヘバ車ヲ使用スルニ油ヲ注グト云フ譯カ
(栗塚曰)
然リ
(淸岡曰)
保持ト云フヲ可トス
(委員長曰)
馬匹ヲ借ルモ食物ヲ與ヘルノミナラズ鐵履ヲモ附セザルヲ得ザレバナリ卽チ原案ニ決ス
第八百九十五條 借主ハ合意セラレタル時期ニ於テ其借用物ヲ返還スル事ヲ要ス又右ノ時期前ニ於テモ若シ許サレタル使用ヲ終リ又ハ貸主カ自ラ其物ニ付キ急要ニシテ且豫期セサル需用ヲ有スルトキハ其借用物ヲ返還スル事ヲ要ス〔第千八百八十八條、第千八百八十九條〕
若シ何等ノ時期ヲモ合意セサル場合ニ於テ物ノ使用ニ際限ナキトキハ裁判所ハ貸主ノ請求ニ因リ返還ノ爲メ適當ノ期間ヲ定ム
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項合意セラレトアルヲ合意シトシ又右ノトアルヲ其トシ時期前ニ於テモ若シトアルヲ時期前ト雖モトシ使用ガトアルヲ使用ヲトシ終リノ下「タルトキ」ト云フヲ加ヘ其借用物トアルヲ之ト改メ第二項ハ合意ノ下ハ合意セズ且物ノ使用ガ繼續シ得ルトキハ云々トセリ
(元尾崎曰)
第二項ハ刪除スベシ
(淸岡曰)
時期ヲ合意セズ貸附シタルモノノ期間ヲ定ムルト云フハ必要ニアラズ返付セザリシトキハ之ヲ裁判所ニ訴ヘテ可ナリ
(村田曰)
第二項ノ規定ナクンバ所有者ハ隨意ニ回收スベキヲ以テ借主ハ不安心ナリト云フベシ
(元尾崎曰)
凡ソ物ヲ貸付シタルトキハ必ラズ裁判所ニ訴ヘザルヲ得ズト云フハ不可ナリ
遂ニ第二項ヲ刪ル
(元尾崎曰)
初項ノ需用ヲ有スルトアルハ需用ノ生ジタルトキトシテハ如何
可決ス
第八百九十六條 返還ハ借主カ物ノ第三者ニ屬スル事ヲ知ルトキト雖モ貸主又ハ其代人ニ之ヲ爲ス事ヲ要ス但返還ニ付キ第三者ノ正式ニ成シタル故障アルトキハ此限ニ在ラス
此終ノ場合ノ外返還ハ貸主ノ住所又ハ其代人ノ住所ニ於テ之ヲ爲ス
(栗塚曰)
冒頭ノ返還ノ上ニ借用物ト云フ字ヲ加ヘテハ如何
(淸岡曰)
其必要ナシ
(元尾崎曰)
代人ト云フハ總理代人ナルベシ
(栗塚曰)
起案者ノ註釋ニハ未丁年者ノ後見人失踪者ノ管財人ニ返還スベシトセシナリ
第八百九十七條 若シ數人カ連合シテ同時又ハ交番ニ用ユル爲メ一箇ノ物ヲ借用シタルトキハ各自ハ他ノ者ト連帶ニテ前記ノ義務ヲ負擔ス〔第千八百八十七條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ交番ヲ交互ト改メ各自ノ下「ハ他ノ者ト」アルヲ刪レリ
可決ス
第八百九十八條 貸主ハ其借用物保存ノ爲メ爲シタル必要ニシテ且急要ナル出費ヲ借主ニ辨償スルノ責ニ任ス〔第千八百九十條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ其借用物トアルヲ借主ガ借用物トシ出費ヲ費用トシ借主ヲ之トセリ
(淸岡曰)
借主ヲ之トスルハ不可ナリ
(村田曰)
原案ノ通リ借主トスベシ
可決ス
第八百九十九條 貸主ハ亦貸付物カ其瑕疵ニ因リ借主ニ加ヘタル損害ヲ之ニ賠償スルノ責ニ任ス但不表見ニシテ且貸主ノ知リタル此瑕疵ヲ借主カ知ラサルトキニ限ル
(栗塚曰)
本條ハ起案者ニ質問中ナルヲ以テ意見書中ニハ修正ヲ呈セザルモ報吿委員ハ貸付物ガ其トアル其ヲ刪リ貸付物ノトシ借主ニ加ヘトアルヲ借主ノ受ケトシ但以下ハ但此瑕疵ハ不表見ニシテ貸主之ヲ知リ借主之ヲ知ラザルトキニ限ルトセリ
第九百條 借主ハ前二條ニ憑リ己レノ受クヘキモノノ辨償ヲ得ルマテ借用物ニ付キ留置權ヲ行フ事ヲ得〔第千八百八十五條〕
(栗塚曰)
本條ハ前條ヲ改正スルトキハ自ラ其修正ヲ要スヘシ
第十九章寄託及ヒ係爭物寄託
第一節 眞正ノ寄託
第九百一條 眞正ノ寄託ハ一人カ他ノ一人ニ動產物ヲ交付シ他ノ一人之ヲ保存シ請求次第直チニ現物其モノヲ返還スル契約ナリ〔第千九百十五條、第千九百十八條、第千九百十九條〕
寄託ハ本來無償ナリ〔第千九百十七條〕
寄託ハ純然任意ノモノタリ又ハ已ムヲ得サルモノタリ〔第千九百二十條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一節ノ下眞正ノ字ト又本條中ノ眞正ノ字トヲ刪リ一人ガトアルヲ一人ヨリトシ他ノ一人之ヲトアルヲ他ノ一人ガ之ヲトシ保存トアルヲ鑒守トセリ
(槇村曰)
第二項「タリ」ノ文字ハ「アリ」トセザルベカラズ
(栗塚曰)
然ラズ寄託ハニアラズ寄託ニハトセザルベカラズ
第一款 任意ノ寄託
第九百二條 任意ノ寄託ハ寄託者カ寄託ノ時日、場所及ヒ受寄者其人ヲ自由ニ撰擇スル事ヲ得ル狀況ニ於テ生スルモノナリ〔第千九百二十一條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ情況ニ於テ生ズトアルヲ場合ニ於テ成トセリ
第九百三條 寄託ハ所有者ニ因テ爲サルル事ヲ事ルイミナラス尙ホ物ノ監守及ヒ保存ニ利益ヲ有スル各人又ハ是等ノ者ノ代人ニ因リ爲サルル事ヲ得
又寄託ハ無能力者ノ法律上ノ代人ニ因リ爲サルル事ヲ得〔第千九百二十二條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項ノ所有者ノ下「ニ因テ爲サルル事ヲ得ル」ト云フヲ刪リ是等ノ者ノ下アルヲ其トシ代人ヲ代理人トセリ
(元尾崎曰)
代理人ニ因リ之ヲ爲ス事ヲ得トスベシ
可決ス又第二項ハ代人ニ因リトアルヲ代人ヨリ之ヲトセリ
第八百八十二條
(槇村曰)
既ニ合意ヲ以テ支拂フタル利息ヲ制限法内ニ束縛シ制限外ノ部分ヲ回收スルヲ得セシムルハ不可ナリ
(南部曰)
利息制限法アラザレバ格別苟シクモ其法アル以上ハ之ヲ逋脫スベカラズ又裁判所ニ於テ制限以外ノ利息ハ不當ノ利息ナルヲ以テナリ之ヲ回收セシメザルベカラズ
(元尾崎曰)
任意ニ支拂フタル利息ヲ制限以外ニ屬スルモノトシテ回收セシメザルヲ得ザルモノトスレバ恰モ任意ヲ以テ人ニ放讓シタルモノヲ回收スルガ如シ豈不理ト云ハザルベケンヤ
(淸岡曰)
現行ノ利息制限法ハ禁罰法ニアラズシテ微弱ナル制限法ニ過ギザレバ其制限法ヲ以テ嚴酷ニ使用スルハ甚不可ナリ
(栗塚曰)
現行ノ利息制限法ヲ以テ民法ノ範圍内ニ於ケル制裁力ニ依ラシムルノ可否ハ政治上ノ觀察ナリ民法ニハ利息ニ正當ノ利息ト不當ノ利息トノニ類アルヲ以テ不當ノ利息ハ認許スベカラズト云フニアリ
(尾崎曰)
既ニ支拂フタル利息ガ制限外ニ屬スルモノハ向後利息拂ノ場合ニ於テ前ニ支拂フタル制限外ノ利息ヲ回收スルヲ得ベシ依テ此規定ハ記存セザルヲ可トス
(委員長曰)
被吿ハ任意ノ契約アル利息ヲ拂ヒ來リタルニ半途ニ於テ拂止メタルヲ以テ原吿ヨリ之ヲ裁判所ニ出訴シタルトキ利息制限法以内トスレバ其出訴ノ當時ハ既ニ借金ニ對スル利息ヲ拂ヒ了リタルノミナラズ拂過シノ分アルトキハ如何
(尾崎曰)
拂過シノ利息ハ元金ニ充當スルモ可ナリ又償還セシムルモ可ナリ
(委員長曰)
元利皆濟證文ノ返還ヲモ得タル後チニ至テ已往ニ遡リ償還セシムルヲ得ルハ不當ナルニアラズヤ
(栗塚曰)
用收權ハ年々ノ期限ヲ以テ支拂フベキモノナレバ各年期限ヲ滿了スルヲ以テ皆濟シタル利息ニ遡ル事ヲ得ザルモノトスレバ不都合ニアラズヤ
(委員長)
合意上ヲ以テ支拂フタル利息ハ取奪シタルモノニアラザレバ好惡ナルモノト見ルヲ得ズ
(栗塚曰)
然ラバ但元利皆濟ノトキハ此限ニアラズトシタシ
(南部曰)
其但書ハ不可ナリ
(委員長曰)
民法ヲ論ズルニハ刑法ヲ論ズルガ如ク酷論スベキモノニアラザルベシ
(栗塚曰)
報吿委員ハ此時効ヲ短縮ニシテハ如何ト云フニアリ
(淸岡曰)
元利皆濟シタルモノハ此限ニアラズトスレバ可ナリ時効ヲ短縮スルハ不可ナリ
(委員長曰)
第八百十一條ニ任意ニテ辨濟シタルモノニ付テハ取戻ス事ヲ許サズトアルハ如何
(栗塚曰)
賭博ハ双方害惡ナルモノナレバ敗輸セシ者ヲ保護スルノ道理ナカルベシ
(委員長曰)
時効ヲ短縮シテハ如何
(元尾崎曰)
一旦結了シタル貸借ニ係リ訴訟ヲ起サシムルハ不理ナリト云フニアレバ時効ハ假令一日トスルモ不可ナリ
(栗塚曰)
合意ノミヲ正トスレバ民法上ニ不當ノ利益ナシ
(委員長曰)
時効ヲ短縮ニ附スルカ但シ元利皆濟シタルトキハ此限ニ在ラズトスルカノ二點ニ付キ起案者ニ質問スベシ
第九百四條 契約スル事ニ付キ完全ノ能力ヲ有スル者ニ非サレハ寄託ヲ受クル事ヲ得ス〔第千九百二十五條〕
然レトモ無能力者ハ仍ホ自己ノ手裏ニ存スル寄託物又ハ寄託ニ因テ利ヲ得タルモノノ價額ノ返還ニ付キ民事上責ニ任ス但背信ノ場合ニ於テ刑事ノ訴ヲ爲スヘキトキハ之ヲ爲ス事ヲ妨ケス〔第千九百二十六條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項冒頭ニ寄託ハノ三字ヲ冠シ寄託ヲ受クル事ヲ得ズトアルヲ之ヲ受クル事ヲ得ズトシ第二項寄託物ノ下ニ返還ノ二字ヲ入レ刑事ノ訴トアル下權アルトキハ之ヲ行フ事ヲ妨ゲズトセリ
(元尾崎曰)
無能力者ニ寄託シタルモノハ無能力者之ヲ消費シタルトキハ取戻シスルヲ得ザルカ
(栗塚曰)
然リ
(元尾崎曰)
假令バ暫時小童ニ附託シタルニ其小童之ヲ消費シタルトキハ如何
(村田曰)
小童ニ附託シタル場合ノ如キハ別事タルベシ
第九百五條 受寄者ハ受寄物ノ監守及ヒ保存ニ付テハ自己ノ財產ニ加フルト同一ノ注意ヲ加フル事ヲ要ス〔第千九百二十七條、第千九百三十三條〕
然レトモ若シ受寄者自ラ求メテ寄託ヲ受ケ又ハ寄託カ單ニ受寄者ノ利益ノ爲メ且需用ノ場合ニ於テ受寄者ニ物ノ使用ヲ許ス爲メ爲サレタルトキハ受寄者ハ善良ナル管理者ノ注意ヲ加フルノ責ニ任ス〔第千九百二十八條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第二項ノ利益トアル下「ヲ目的トシ其」ト云ヘル六字ヲ入レ受寄者ニトアルヲ之ニトセリ
(尾崎曰)
需用ノ場合ニ於テ之ニ物ノ使用ヲ許ス爲メトアルハ如何
(栗塚曰)
需用アル場合ニハ此物ヲ使用スベシト云フ義ナリ
(尾崎曰)
需用ノ場合ヲ云ハザルモ可ナリ
(南部曰)
需用ノ場合ト云フヲ存セザレバ使用貸借ニ等シカルベキヲ以テナリ
第九百六條 前條ニ豫定シタル終ノ場合ニ於テ受寄者カ物ヲ使用シタルトキハ第八百九十三條ヲ之ニ適用ス
總テ其他ノ場合ニ於テ若シ受寄物及ヒ受寄者ノ物カ共同ノ危險ニ罹リ受寄者其一ノミヲ救護スル事ヲ得ルトキ受寄物ノ價額カ著シク超ユルニ於テハ之ヲ救護スル事ヲ要ス但自己ノ物ノ價額ノ賠償ヲ受クル事ヲ妨ケス
(槇村曰)
之ニ適用スト云フ之ニハ不用ナルベシ
可決ス
(槇村曰)
第二項但以下ハ綿密ニ失シ人情習慣ニ反スベシ
(元尾崎曰)
但以下ノ如キハ健訟ノ弊風ヲ惹起スルノ害アリ
(尾崎曰)
第二項ハ全刪シテハ如何
(栗塚曰)
但以下ノミヲ刪除スベシ然ルニ強テ此二項ヲ全刪セントナラバ本條ヲ刪リ初項ハ前條第二項ノ下ニ接屬シ但此終ノ場合ニ於テ云々トスルヲ可トス
可決ス
第九百七條 返還スル事ノ遲滯ニ付セラレタル受寄者ハ普通法ニ從ヒ意外ノ滅失又ハ不可抗力ニ因ル滅失ノ責ニ任ス〔第千九百二十九條〕
本條ハ意外ノ滅失ヲ意外ノ事トセリ
第九百八條 寄託者カ受寄者ニ寄託物ノ本性ヲ隱秘シタルトキハ受寄者之ヲ知ラント求ムル事ヲ得ス又如何ナル場合ニ於テモ他人ニ之ヲ知ラシムル事ヲ得ス但損害アルトキハ其賠償ヲ爲ス〔第千九百三十一條〕
本條ハ報吿委員ニテ受寄者之ヲ知ラント求ムルヲ得ス云々トアルヲ受寄者之ヲ探求スヘカラス又寄託者其本性ヲ知ラシメタル場合ニ於テモ受託者之ヲ他人ニ泄ス事ヲ得ス但損害アルトキハ其賠償ヲ爲ストセリ
(尾崎曰)
但損害トアルモ漏泄シタル事ヲ示サザルハ如何
(淸岡曰)
又寄託者以下ハ又其本性ヲ寄託者ノミニ知ラシメタル場合ニ於テモ之ヲ他人ニ泄ス事ヲ得ズ若シ之ヲ泄ラシタルガ爲メ損害アルトキハ賠償ノ責ニ任ズトスベシ
可決ス
第九百九條 受寄者ハ受寄物ヲ使用スル事ヲモ又其果實ヲ消費スル事ヲモ得ス但此カ爲メ寄託者ヨリ明示又ハ默示ノ許諾ヲ受ケタルトキハ此限ニ在ラス〔第千九百三十條、第千九百三十六條〕
此許諾ハ寄託ニ使用貸借ノ性質ヲ與フルニ足ラス
(栗塚曰)
本條第一項ハ報吿委員ニテ許諾ヲ受ケトアルヲ許諾アリトセリ
(南部曰)
消費スル事ノ下「ヲモ」ハ不用ナルニアラズヤ此儘ニ可決ス
第九百十條 受寄者ハ其收取シタル果實及ヒ產物ト共ニ又ハ果實及ヒ產物ヲ金圓ニ換ヘサルヲ得サリシトキハ其代價ト共ニ原物其モノヲ返還スル事ヲ要ス但前條ニ豫定シタル場合ニ妨ケナシ〔第千九百三十二條、第千九百三十六條〕
若シ受寄者カ物ニ付キ或ル償金ヲ受取リ又ハ或ル權利若クハ利益ヲ得取シタルトキハ之ヲ寄託者ニ移轉スル事ヲ要ス〔第千九百三十四條〕
若シ受寄者カ故意ニテ受寄物ヲ消費シ移付シ又ハ隱竊シタルトキハ遲滯ニ付セラルル事無クシテ當然總テノ損害賠償ノ責ニ任ス但背信ノ爲メノ公訴ヲ妨ケス
(槇村曰)
果實產物原物ト云フハ如何
(栗塚曰)
產物ハ家畜ノ產出スル子ノ如キモノヲ云ヒ原物ハ家畜其モノヲ云ヒ果實ハ果物ヲ云ヘリ
(村田曰)
末項隱竊ト云フ字ハ〓移出納ト云フ意味ナレバ隱竊ニテハ要當ナラズ
(元尾崎曰)
隱竊ニテ可ナリ
(栗塚曰)
〓移出納ト云ヘバ意味狹隘ナルヲ以テ隱竊トスルヲ可トス又第一項豫定シタルハ定メタリトセリ
可決ス
第九百十一條 若シ受寄者ノ相續人カ寄託ヲ知ラスシテ寄託物ヲ消費シ又ハ移付シタルトキハ相續人ハ因テ得タル利益ノ額ニ滿ツルマテ其責ニ任ス〔第千九百三十五條〕
右ノ條例ハ遺忘又ハ混淆ニ因リ自己ノ物ト思量シテ寄託物ヲ處分シタル受寄者ニ之ヲ適用ス
本條ハ報吿委員ニテ第一項又ハノ下ニ之ヲト云フ字ヲ入レ相續人ハト云ヘルヲ刪リ第二項混淆ヲ錯誤トセリ相續人ハ刪除セザルニ決ス
第九百十二條 寄託物ノ返還ハ寄託者若クハ其相續人又ハ其法律上若クハ合意上ノ代人ニ之ヲ爲ス事ヲ要ス〔第千九百三十七條、第千九百三十九條乃至第千九百四十一條〕
無異議
第九百十三條 返還ニ付キ場所ノ定ナキトキハ受寄者カ寄託物ヲ移置シタルトキト雖モ詐僞ナキトキハ其寄託物ノ現在ノ場所ニ於テ其返還ヲ爲ス〔第千九百四十二條、第千九百四十三條〕
無異議
第九百十四條 寄託者ノ請求次第物ヲ返還スヘキ受寄者ノ義務ハ左ノ場合ニ於テ止ム
第一 若シ受寄者カ其物ノ己レニ屬スル事ヲ證スル事ヲ得ルトキ
第二 若シ受寄者カ次條ニ從ヒ留置權ヲ行フヘキ場合ニ在ルトキ
第三 若シ渡方差押卽チ返還ニ對スル故障カ正式ヲ以テ受寄者ニ吿知セラレタルトキ
第四 若シ受寄者カ其物ノ盜マレタルモノナル事ヲ發見シテ其所有者ヲ知ルトキ此場合ニ於テハ受寄者ハ所有者ニ寄託ヲ吿發シ相應ノ期間ヲ定メテ寄託者ト立會ノ上物ヲ要求スヘク若シ此期間ヲ過キテ所有者カ來到セサルトキハ寄託者ニ返還ヲ爲スヘキ旨ヲ催吿スル事ヲ要ス〔第千九百三十八條、第千九百四十四條、第千九百四十六條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第二ハ「ヘキ」ノ二字ヲ刪リ第四ハ發見シテトアルヲ發見シ且トシ相應ノ上ニ且定メタルノ五字ヲ加ヘ期間ヲ定メテトアルヲ期間内ニトシ來到セザルトアルヲ來ラザルトセリ
(槇村曰)
第四ノ其物ノ盜マレタルモノナル事ト云フハ妥當ナラズ
(栗塚曰)
其物ノ盜賍ナル事トシテハ如何
(村田曰)
原案ノ儘ヲ可トス
(尾崎曰)
然リ
(村田曰)
寄託ヲ吿發シトアルハ寄託ノ事實ヲ通知シトシテハ如何
(尾崎曰)
寄託アリタル事ヲ通知シトスベシ
(淸岡曰)
寄託ヲ通知シトスベシ
(西曰)
寄託アリタル事ヲ通知シトシテハ如何
(元尾崎曰)
所有者ニ寄託アリタル如クナルヲ以テ不可ナリ
結局寄託ノ事ヲ通吿シト云フニ決ス
(槇村曰)
寄託ノ事ト云ヘル上ニ其ト云フ字ヲ入レテハ如何
(南部曰)
必要ナシ
(元尾崎曰)
此場合以下ヲ同號中ノ別頂ニシテハ如何
可決ス
第九百十五條 寄託者ハ物ノ保存ノ爲メ受寄者ノ爲シタル必要ノ出費ト物カ受寄者ニ加ヘタル損害トヲ之ニ賠償スル事ヲ要ス〔第千九百四十七條〕
右ノ償金ノ皆濟ヲ受クルマテ受寄者ハ寄託物ニ付キ留置權ヲ行フ事ヲ得〔第千九百四十八條〕
本條ハ報吿委員ニテ第一項必要ノ下ハ「費用ト物ヨリ受寄者ノ受ケタル云々」トセリ
(元尾崎曰)
物ヨリ受寄者ノ受ケタルト云フハ如何
(栗塚曰)
受託物ヨリ受ケタルモノナリ假令バ病馬ヲ寄託サレタル爲メ受託者ノ他ノ馬ニ其病ノ傳染シ損害ヲ受ケシガ如シ
(元尾崎曰)
病馬ノ如キハ其害ヲ豫知スルヲ得ベキモ寄託馬驚逸ノ爲メニ損害ヲ及ボスガ如キハ寄託者モ之ヲ豫知スルヲ得ザルベシ
(槇村曰)
起案者ノ註解ニテハ馬僻ヲ豫吿セズ惹起シタル害ハ寄託者之ヲ償ハザルベカラズト雖モ寄託者ノ意想外ニ出ヅル者ハ之ヲ償フノ責ナシト云フニアリ
(栗塚曰)
本條ハ第八百九十八條及ビ第八百九十九條ノ意味ヲ合一ニシタルモノナリ
(元尾崎曰)
受寄者ハ受託ニ任ズルニハ利益アルベシ
(南部曰)
受寄者ハ利益ヲ得ルモノニアラズ
(尾崎曰)
物ヨリトアルハ物ノ瑕疵ヨリトセザルベカラズ
(村田曰)
瑕疵ト云フモ其瑕疵ガ受託前ナルカ受託後ナルカヲ知ルニ苦シムベシ
(元尾崎曰)
瑕疵ノ受託前ヨリ存セシ事ヲ明記スベシ
(南部曰)
瑕疵ヲ入ルルハ不可ナリ
(栗塚曰)
寄託ハ無償ナルヲ以テ受託者ニ損害アリシトキハ寄託者ハ其損害ヲ償ハザルベカラズ
結局物ヨリ受寄者ノ受ケタルトスルニ決ス
第二款 已ムヲ得サル寄託及ヒ旅店ニ於ケル寄託
第九百十六條 寄託者カ火災、洪水、難船、地震、暴動ノ如キ不可抗ニシテ且不測ノ事變ニ因リ寄託ヲ爲スニ強要セラレタルトキハ其寄託ハ「已ムヲ得サル寄託」ト稱セラル〔第千九百四十九條〕
已ムヲ得サル寄託ハ總テノ方法ニ因リ又情況ヨリ生スル事實ノ推定ニ因テモ之ヲ證スル事ヲ得〔第千九百五十條〕
其他已ムヲ得サル寄託ハ任意ノ寄託ノ規則ニ從フ但背信ノ場合ニ於テハ刑法ニ記載シタル刑ノ加重ヲ妨ケス〔第千九百五十一條〕
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項其寄託ハ止ムヲ得ザル寄託トアルヲ其寄託ハ已ムヲ得ザルモノト稱ストシ第二項ハ但以下ヲ刪除セリ
(槇村曰)
其寄託ハ已ムヲ得ザル寄託ト稱ストスベシ
(栗塚曰)
其寄託ヲ已ムヲ得ザル寄託ト稱ストスルヲ可トス
可決ス
(栗塚曰)
第二項但以下ヲ刪リシハ刑法ノ規定ヲ民法ニ記スベキモノニアラズト云フニアリ
(淸岡曰)
不可抗ニシテ且不測ト云フハ火災洪水等ノ解釋ナルベシ
(栗塚曰)
不可抗ニシテ且不測ノ事變ト云フガ主的ニシテ火災洪水等ハ其例ヲ擧ゲタルニ過ギズ
(淸岡曰)
不可抗ニシテ且不測ト云ヘバ不可抗ト不測トノニ要件アラザレバ已ムヲ得ザル寄託ト云フヲ得ザルガ如シ
(元尾崎曰)
強要セラレタルト云フハ隱當ナラズ
(槇村曰)
不可抗ト不測トハ離ルベカラズ不可抗アルモ豫メ用心スルヲ得ベキモノアレバナリ
第九百十七條 旅店主人及ヒ下宿屋主人ハ自己ノ方ニ止宿セシ旅人ノ携帶シタル手荷物ニ付テハ已ムヲ得サル受寄者ト看做サル〔第千九百五十二條乃至第千九百五十四條〕
舟車運送人及ヒ其他水陸運送營業人ノ營業カ商業ナルトキハ自己ニ運送ヲ任カセラレタル荷物ニ關シテモ亦同シ〔第千七百八十二條佛商第九十六條以下〕
然レトモ本條ニ定メタル受寄者ハ有償名義ニ於ケル契約者ノ通常ノ責任ニ從フ
(栗塚曰)
本條ハ報吿委員ニテ第一項ノ旅人トアル旅ヲ刪リ第二項ハ其他ノ下水陸運送ノ營業人ノ自己ニ運送ヲ任カセラレタル荷物ニ關シテモ亦同ジ但其營業ガ商業ナルトキニ限ルトセリ
(淸岡曰)
旅ノ字ヲ刪リ止宿セシ人ト云ヘバ意味廣漠ニ失スベシ
(村田曰)
旅人ノ旅ハ存セザルベカラズ存置スルニ決ス
(淸岡曰)
第二項ハ但書ノ必要ナシ
(栗塚曰)
人力車夫ハ運送人中ナルモ商業部内ニアラザルヲ以テ其取除ヲ明記セザルベカラズ
(槇村曰)
人力車ハ假令商業外ナルモ已ムヲ得ザル受寄者トスルヲ得ザル理由ナシ
(淸岡曰)
商業外ナルモ營業人ナルヲ以テ之ヲ別段ニ附スルヲ得ズ依テ原案ノ儘ニスルヲ可トス
(槇村曰)
營業ガ商業ナルトキハト云フハ不可ナリ
(栗塚曰)
然ラバ水陸運送ノ下營業ノ二字ヲ刪除スベシ
可決ス