民法證據篇再調査按第四十二回議事筆記
自第千四百六十一條至第千四百八十條及ヒ附錄自然義務ノ章
明治二十一年十二月二十二日午前第九時五十分開會
（南部委員）
遣リマシヨウ
第千四百六十一條朗讀ス
第四章 時效ノ停止
第千四百六十一條 時效ハ物權又ハ人權ニシテ其廣狹又ハ行使カ相續ノ發開ニ繋ルモノニ對シテハ其發開後ニ非サレハ進行ヲ始メス
（村田委員）
之ハドウ云フコトカ
（松岡委員）
分ランノデス
（栗塚委員）
之ハ分ツテハ居ルガナンデ相續ノ事柄ヲ書出シタモノカ物權人權ハ相續ニハ限ラン先取デ親父ノ遺ツタモノハ續テ往テアリサウナモノダガ往カレヌト云フノダカラ分ランノデス
（箕作委員）
發開シタラ行ハルルト云フノデス親父ガ死ンダラ行ハルルト云フノデシヨウ死ヌマデ時效ガ停止ト云フノハ分ラン
（栗塚委員）
ソレ丈ケノコトトハ思レテ居ルガ分ランノデ原按者ニ質スノデアリマス
（槇村委員）
マダ質サンノカ
（栗塚委員）
返答ガ參リ次第ニ致シマス
本條ハ原案者ニ質問中ニ付キ留保
第千四百六十二條朗讀ス
第千四百六十二條 遺言又ハ前主ノ合意ニ對シ相續人ニ屬スル銷除訴權ノ時效ハ其遺言又ハ合意ヲ相續人ニ對シテ援用シ又ハ其相續人ヲ害スル權利行使ノ基礎トシテ用ヒタル後ニ非サレハ進行ヲ始メス
（栗塚委員）
之モ前條ト同ジデ御座イマス
（松岡委員）
同ジク分ラン
（村田委員）
一處ニ留保トシテ於テ宜シイ
本條ハ前條ト同シク留保
第千四百六十三條朗讀ス
第千四百六十三條 權利ハ其行使カ確定若クハ不確定ノ期限ニ服從シ又ハ其發生カ停止ノ條件ニ繋ルトキハ其期限又ハ條件ノ到來後ニ非サレハ時效ニ罹ラス
（栗塚委員）
此趣意カラ見マシテモ今御說キ明シニナツタ模樣ト思フ
（箕作委員）
例ヘバ財產全部ガアツテ幾等カ取ツテ居ル其レニ父ヨリ條件ヲ贈遺シタモノハ相續人カラ取消セルノデスネ母ハ訴件アル贈遺ヲ現在取ツテ遺言ニ因テ取ツタ時デナケレバ往カント云フコトダロウ
（松岡委員）
確定確言ト云フノハ惡イ期限トハ往カンカ
（栗塚委員）
六ケ敷處ノ註ガ來テ居ルガ讀ミマシヨウカ
（南部委員）
後トニシテ下サイ
（淸岡委員）
分リ惡ク
（南部委員）
六十三條ハ良ク分ツテ居ル
（松岡委員）
服從ノ字ハドウカ原案者入室
（南部委員）
前ニ服シトヤリマシタ
（松岡委員）
其レガ良カロウ罹ト云フノハ後チニ進行シテ成就スル意味モ含ムガ言葉カラ云フト成立ツ樣デス
（栗塚委員）
其レカラデナケレバ起ラズデス
（松岡委員）
進行ヲ始メズトシテハドウカ
（栗塚委員）
權利ノ行使ガト言ツテ後トハ罹ル權利ガト云フテハドウカ
（南部委員）
服スル權利ハ分ラン
（箕作委員）
ドウモ之ハ文法デ仕方ガ御座イマセン
（松岡委員）
權利ノ行使ガ期限ニ服シ又ハ停止ノ條件ニ繋ルトキハ何々ニ非サズ時效ハ進行シ始メズダ
（栗塚委員）
期限附又ハ條件附ノ權利ハト言ツテモ宜シイ
（箕作委員）
スルト發生ガト云フノガ分ラン
（栗塚委員）
權利ノ行使ガトヤツテ確言若クハ不確言ノ期限ニ服條件ノ到來後ニ非ザレバ時效ハ進行ヲ始メズトヤリマシヨウ
（松岡委員）
ソウヤリマシヨウ
本條ハ「權利ノ行使カ確言若クハ不確言ノ期限ニ服シ又ハ條件ノ到來後ニ非サレハ時效ハ進行ヲ始メス」ト
第千四百六十四條朗讀ス
第千四百六十四條 前記ノ場合ニ於テ時效ハ第三所持者ニ對シテ停止セス但所有權ノ取得時效又ハ抵當ノ免責時效ヲ中斷セント欲スル利害關係人ニ於テ自己ノ權利ノ追認證書ヲ得ント請求スルコト又ハ裁判上其權利ヲ單ニ追認セシムルコトヲ妨ケス
（松岡委員）
第三者ニ對シテ求メルノカ
（栗塚委員）
左樣デス
本條ハ原案ニ決ス
第千四百六十五條朗讀ス
第千四百六十五條 時效カ其進行中ニ停止セラルヽトキハ既ニ經過シタル時間ハ其時效ノ更ニ進行ヲ始ムル時ニ之ヲ併算ス
（松岡委員）
進行中斷時效停止ト云ヘバ宜シイ
（村田委員）
併算ト云ガ通算ガ宜シイ
（南部委員）
宜シイ
本條ハ「併算」ヲ「通算」ト改メ其他原案ニ決ス
第千四百六十六條朗讀ス
第千四百六十六條 時效ハ法律ノ定メタル場合及ヒ法律ノ定メタル人ノ利益ニ於ケルニ非サレハ停止ス
（栗塚委員）
停止スハ停止セズデアリマス
（箕作委員）
之ハ分ツテ居リマス
本條ハ「停止ス」ヲ「停止セス」ト改メ其他原案ニ決ス
第千四百六十七條朗讀ス
第千四百六十七條 期間五ケ年ナル時效ハ成年者ニ對スル如ク未成年者及ヒ禁治產者ニ對シテ進行ス但後見人カ其行フ可キ權利ヲ覺知セサルコトニ付キ正當ノ原因ヲ有セサル場合ニ於テハ是等ノ者ヨリ其後見人ニ對スル求債權ヲ妨ケス
五ケ年ヲ起ユル時效ニ關シテ成規上ノ期間カ未成年中又ハ禁治產中ニ經過シタルトキハ成年ト爲リタル未成年者、能力ヲ回復シタル禁治產者又ハ是等ノ者ノ成年ノ相續人ヲシテ其權利ノ效用ヲ致サシムル爲メ之ニ一ケ年ノ補足期間ヲ付與ス
若シ權利カ無能力者ニ移リタル當時ニ於テ尙ホ進行ス可キ殘期カ一ケ年以下ナルトキハ補足期間ハ其殘期ノ繼續期ノミヲ有ス
（南部委員）
期間五ケ年「又ハ其以下」ト云フノガ脫シマシタ
（箕作委員）
五ケ年ナルト云フトカツキリ五ケ年ニナルカラ五ケ年以下ノ時效トヤリマシヨウ
（村田委員）
ソレガ宜シイ
（栗塚委員）
良シウ御座イマシヨウ
（大尾崎委員）
三項ヲ質問中デスカ
（南部委員）
左樣デス
（箕作委員）
五ケ年超ユル方ハ例ヘバ十年禁治產未成年中經過シタラ後ト一年ノ間ニ訴ヲヤリサヘスレバ良シイノデスカ
（栗塚委員）
左樣デス
（松岡委員）
末項ハ分ラン
（箕作委員）
末項ハ一年足シテ遣ラント云フノデス
（南部委員）
殘ツタ期限丈ケデアリマス
（箕作委員）
補足期間デハナイ
（栗塚委員）
末項ハ二項ノ例外ヲ示シタ樣ニ思ハレル
（箕作委員）
一ケ年往カン時ハ倍ニスルカ知ラン例ヘバ十ケ月殘ツテ居ルト又十ケ月加ヘルノデハナイ補足期間ト云フカラソウ見ヘル
（松岡委員）
ソウデス
（箕作委員）
例ヘバ元ト三ケ月シカナイ其限リデ補足ガナランカラ三ケ月殘ツタラ三ケ月丈ケ補足期間ヲ遣ルト云フノデシヨウ
（南部委員）
足リル丈ケヤルト思ハルルカ
（大尾崎委員）
一ケ年ニハ足シテ遣ルト云フ趣意ラシイ
（淸岡委員）
ソウデシヨウ
（栗塚委員）
繼續期ト云フト補足ノミヲ與フルト云フノデシヨウ
（淸岡委員）
其殘期ノ繼續ノミヲ云フノデ期ト云フ字ハ惡ルイ
（南部委員）
兎ニ角三項ハ質問中デアリマスカラデアリマス
（淸岡委員）
三項ハ入ラン話シデアリマス一ケ年ノ補足期間ヲ與フルコトハ前項ニアリマス
（南部委員）
ソレカラ三ケ月ノ上又一年ヤルカト云フニソウデハナイト云フ意味デス
（松岡委員）
上ノハ經過シテシマツタノデ三年モ經ツタ後チニ回復シタラ回復シタ日カラ效ヲ與フルト云フノデ三項ハ十日モ殘ツテ居レバ別ニ一年ヤルガ其レハ通算シテ一年ヤレバ良イト云フノデアリマス
（箕作委員）
マヅ三項ハ質問中ダカラ置キマシヨウ
本條ハ第一項「期間五ケ年ナル時效」トアルヲ「期間五年以下ノ時效ハ」ト改メ第三項ハ質問中ニ付キ留保
第千四百六十八條朗讀ス
第千四百六十八條 時效ハ婦ニ對シ第三者ノ利益ニ於テ進行ス但夫カ婦ノ爲メニ管理スル財產ニ關シ其夫ノ方ニ於テ懈怠アル場合ニ於テハ婦ヨリ夫ニ對スル求償權ヲ妨ケス
（粟塚委員）
然レドモ以下ハ分ランノダ之モ留保デ御座イマス
（松岡委員）
第三者ニ向ツテ言フラシイ
（栗塚委員）
左樣デス
（松岡委員）
之ハ留保ハ最モデアリマス
（村田委員）
日本デハ夫ハ婦ノ相續人ト云ツテハ分ラン
（槇村委員）
前ノ條ノ經過ト云フノハ曳就モ同ジデシヨウ
（箕作委員）
制規上ノ期間ガ流ンデ仕舞ツタモ同ジコトデス
（栗塚委員）
然レドモ以下ハ私共削障シタクテ溜ランガ何ント云フコトヤラ人事編マツタ上ノ話シデハナイカト思ツテ質問中デ御座イマスガ文字モ宜シマセンノデ御座イマス
（大尾崎委員）
其レデハ先ヅ後トノ事ニシマシヨウ
（箕作委員）
佛蘭西ハ結婚中停止スルトアリマス
（栗塚委員）
ソレナラバ分リマス
（南部委員）
補足期間ヲ享有ストアルカラ分ランノデアリマス停止スデ良ササウデアリマス
（箕作委員）
夫ニ對シテ反響スト夫ニ反響スツト云フト女房ガ壓セラルルダロウト云フノデシヨウ
（栗塚委員）
左樣デス
本條ハ質問中ニ付留保
第千四百六十九條朗讀ス
然レトモ時效ノ成規上ノ期間カ結婚中ニ成就シタルトキハ婦又ハ其相續人ハ左ノ場合ニ於テハ解婚ノ後未成年者及ヒ禁治產者ト同一ノ補足期間ヲ享有ス
第一 婦ニ因ル行使カ婚姻上ノ合意ノ效力又ハ法律ニ依リテ遲延セラレタル選擇ニ繋ル權利ニ關スルトキ
第二 第三者ニ對スル婦ノ訴カ擔保其他ノ方法ニテ夫ニ對シテ反響ス可キトキ
第千四百六十九條 前二條ノ規定ハ無能力者自身ニテ爲シタル行爲ノ銷除訴權ノ時效停止ニ關シ第五百六十七條及ヒ第五百六十八條ニ定メタルモノヲ妨ケス
（大尾崎委員）
五百六十七條ハナンデアリマスカ
（南部委員）
無能力者ノ時效ノ停止ト云フノハ五百六十七條ニアリマス強暴錯誤ニ成立ツタ契約ハ強暴錯誤ノ止ムマデ停止スルト云フノデアリマス
本條ハ原案ニ決ス
第千四百七十條朗讀ス
第千四百七十條 配偶者ノ一人ヨリ他ノ一人ニ對シテ行フ可キ權利ニ關シテハ配偶者間ニ在テ結婚中ハ時效進行セス
（松岡委員）
土臺所得免責時效ハ名々並ビ行ハレテ戻ラント云フコトヲ云フニハ及バン樣デス
（箕作委員）
配偶者ニアツテト云フ處丈ケ削レバ宜シイ
（松岡委員）
ソウデス
（淸岡委員）
宜シイ
（委員長）
良クバ往キマシヨウ
本條ハ「配偶者間ニ在テ」ヲ削リ其他原案ニ決ス
第千四百七十一條朗讀ス
第千四百七十一條 時效ハ他人ノ財產ノ管理人ト其管理ヲ受クル者トノ間ニ於テ其保存スルコトヲ任セラレタル權利ニ付テハ管理人ニ對シテ停止ス
質問中ニ付留保本條ハ留保
第千四百七十二條朗讀ス
第千四百七十二條 上ニ定メサル場合ニ於テ時效ノ期間ノ滿了スル時ニ當リ有權者カ交通ノ塞カリタルニ因リ又ハ地方ノ裁判事務ノ停止セラレタル因リテ其權利ノ效用ヲ致サシムル爲メ又ハ時效ヲ中斷スル爲メニ全ク手續ヲ爲スコト能ハサリシトキハ有權者其妨碍ノ止ム後直チニ請求ヲ爲スニ於テハ其失權ヲ免カルヽコトヲ得
右ノ規定ハ陸海軍人カ內國又ハ外國ノ戰亂ノ時ニ於テ服役ノ爲メ其權利ヲ行フコトヲ妨ケラレタル場合ニ於テハ其利益ノ爲メ之ヲ適用ス
（箕作委員）
權利ノ效用ヲ致サシメ又ハ時效中斷スルノ手續ヲトシテハドウカ
（南部委員）
「全ク」ノ字ガ惡ルケレバ中斷スル爲メトシテ宜シイ
（栗塚委員）
爲メ手續ヲデ宜シイ
（委員長）
宜シイ
本條ハ「效用ヲ致サシムル爲メ又ハ時效ヲ中斷スル爲メニ全ク手續ヲ爲スコト」トアルヲ「效用ヲ致サシメ又ハ時效ヲ中斷スル爲メ手續ヲ爲スコト」ト其他原案ニ決ス
第千四百七十三條朗讀ス
第千四百七十三條 物權又ハ人權ノ不可分リ生スル時效ノ停止ハ第三百十一條第四百六十七條及ヒ第千九十二條第二項ニ於テ之ヲ規定ス
本條ハ原案ニ決ス
第千四百七十四條朗讀ス
第五章 不動產ノ取得時效
第千四百七十四條 不動產ノ取得時效ニ付テハ所有者ノ名義ニテ占有シ其中斷ナク且平穩公顯ニシテ下ニ定メタル繼續期アルコトヲ要ス
第百九十五條及ヒ第百九十七條ニ定メタル如キ容假、強暴隱密又ハ隱密ノ占有ハ時效ヲ生ス
（栗塚委員）
容假強暴隱密隱密占有ノ處ニアリマス其ト云フ字ガ入リマスカ
（南部委員）
「其」デハ御座イマセン「且」ノ間違イデ御座イマス
（栗塚委員）
占有シ中斷ナクデ御座イマス
（栗塚委員）
強暴隱密又ハ容假デハドウカ
（箕作委員）
ソウ致シマシヨウ
（淸岡委員）
宜シイ
本條ハ第二項「容假強暴又ハ隱密」トアルヲ「強暴隱密又ハ容假」ト改ム第一項占有ノ下「其」ヲ削リ其他原案ニ決ス
第千四百七十五條朗讀ス
第千四百七十五條 占有者カ時效ニ因リテ取得セントスル物ニ付キ或ル長キ時間所有者ノ行爲ヲ行フコトヲ任意ニテ止メタルトキハ其占有ハ不繼續ニシテ時效ヲ生セス
占有者カ再ヒ所有者ノ行爲ヲ行フトキハ其以前ノ占有ノ時間ハ占有者ノ爲メニ之ヲ算セス
（村田委員）
算セズハ前ト同ジニ通算トシナケレバナランデシヨウ
（栗塚委員）
以前ノ時ハ算ヘナイカラ此方ガ宜シイ
（箕作委員）
七十四條ハ中斷ナイデアルガ其裏デアルカ
（村田委員）
占有ハ繼續シナケレバナラン
（箕作委員）
原文ニハ繼續ト云フノガアルカラ不繼續ト云フ裏モ出ルガ七十四條ニ中斷ナクト云フト此處ニ不繼續ト云フノハ照應ガ良クナイ
（栗塚委員）
恐レ入リマシタ前ハ七十四條ハ其ト云フ字ガアツタノデ七十四條ノ一項ハ「所有者ノ名義ニテ占有シ其占有ハ繼續シテ中斷ナク」デ御座イマス
（箕作委員）
ソンナラ此條ハ能ク分ツテ居リマス
本條ハ原案ニ決シ前條第一項「占有シ」ノ下ヘ「其占有ハ繼續シテ」ノ數字ヲ加フ
第千四百七十六條朗讀ス
第千四百七十六條 若シ占有カ上ニ定メタル條件ノ外第百九十三條ニ記載シタル如キ正名義ニ基因シ且第百九十四條ニ從ヒテ善意ナルトキハ占有者ハ不動產ノ所在地ト時效ノ爲メ害ヲ受クル者ノ住所又ハ居所トノ間ノ距離ヲ區別セス十五ケ年ヲ以テ時效ヲ得
（委員長）
惡意ハ三十年カ
（村田委員）
惡意ハ三十年善意ハ十五年デアリマス
本條ハ原案ニ決ス
第千四百七十七條朗讀ス
第千四百七十七條 方式上無效タリ又ハ裁判上取消サレタル名義ハ時效ノ爲メニ有益ナラス
本條ハ原案ニ決ス
第千四百七十八條朗讀ス
第千四百七十八條 占有者カ正名義ヲ證スルコトヲ得ス又ハ之ヲ證スルモ第百九十九條ニ規定シタル如ク其惡意カ證セラルヽトキハ取得時效ノ期間ハ三十ケ年トス
（栗塚委員）
惡意ノトキハ三十年ト云フノハ此處デ御座イマス
（大尾崎委員）
惡意ノ奴ニハ取得時效ヲ遣ランデモ良イト思フ
（南部委員）
自分ガ強奪シタリシヲハ往カンノデアリマス
（箕作委員）
途中カラ惡意ニナツタトキハドウカ
（南部委員）
惡意カラ起算シテ三十年デ御座イマス
（淸岡委員）
惡意ト云フノハ惡イネ他人ノモノト云ツテモ誰レカノモノト思フ位ノ話シデアロウ
（南部委員）
コツソリ持ツテ居ツテ惡意トハ云ヘンノデアリマス
（大尾崎委員）
眞ノ所有者ハ淸岡サンノモノ槇村サンガ所有シテ居リ後トニ至ツテ淸岡サンノモノト知ツタトキハ往カント云フノデシヨウ之ハ誰レノモノカ分ルガ自分ノモノデハナイ位ノ事デ時效ヲ得ラルルノデシヨウ
（槇村委員）
得ラルルガ知ツタ折リカラ三十年デス
（箕作委員）
取得シタトキハ善意デ後トデ惡意ニナツタラ十五年デ得ラルルノデハナイカ
（村田委員）
ソウデハナイ
（南部委員）
知ツタトキハ善意ガ止ンデ惡意ニナリマシヨウ
（箕作委員）
始メ取得シタトキハ善意デ何年カ經ツテ惡意ニナツタラ三十年ニスルカ十五年カ
（南部委員）
前カラ三十年デ御座イマス
（村田委員）
ソレカラ三十年デ御座イマスソレダカラ隨分長イノデアリマス
（南部委員）
始メ善意デ後チ惡意ト云フト三十年デ始メカラ起算スルノデアリマス
（栗塚委員）
善意ハ短イ惡意ハ長イト云フノデアリマス
（委員長）
權利者カラ言ヘバ長イ方ガ權利者ノ爲メデアロウ
（南部委員）
惡意善意ハ權利者ニ關係ハ御座イマセン
（箕作委員）
三十年ハ始メカラデナケレバイケマセン
（淸岡委員）
宜シイ
本條ハ原案ニ決ス
第千四百七十九條朗讀ス
第千四百七十九條 性質上登記ヲ爲ス可キ正名義ニ基因シタル時效ハ其名義ノ證書ヲ登記シタル後ニ非サレハ之ヲ算セス
（栗塚委員）
證書ノ字ヲ加ヘタハ苦シイカラデ御座イマス
（箕作委員）
名義ヲ登記スルコトモアロウ
（南部委員）
名義ノ證書トヤツテ仕舞ヒマシタ
（箕作委員）
證書ガナカツタラドウカ
（南部委員）
ソレハ出來マスマイ
（栗塚委員）
名義ノ書イタコトヲ登記スルノデアリマス
（箕作委員）
金額ノ少ナイモノハ口上デモ良イダロウ
（栗塚委員）
登記後デ困ルデシヨウ
（箕作委員）
スルト必ズ方式契約見タ樣ニナツテ證書ガナケレバナラン樣ニナリマシヨウ
（南部委員）
其レハ仕方ガナイ
（淸岡委員）
證書ト名義トハ違フ樣ニ思ヒハセンカ此處デ名義ノ證書ト云フハ良イコトハ良シイ
本條ハ原案ニ決ス
第千四百八十條朗讀ス
本條ハ原案ニ決ス
于時午後四時閉會
民法財產編自然義務ノ章再調査案議事筆記
明治二十一年十二月二十二日附錄
（委員長）
始メマシヨウ別紙報吿委員ヨリ提出ノ意見書自然義務ニ關スル民法草案ノ條項ヲ刪除スルノ建議ニ對スル意見民法草案中自然義務ノ條項ヲ刪除スル建議案ヲ按スルニ其要旨ハ自然義務ト稱スルモノハ道徳義務ト自然義務トヲ混合シテ一ノ自然義務ト爲シタルナリ然レトモ純粹道徳ニ關スル義務ハ已ニ第三百十五條末項ニ明文アリテ固ヨリ法律ノ干渉セサル所ナリ確定判決及ヒ時效ノ利益ヲ得タル場合ニ於テ其利益ヲ抛棄シテ義務ヲ盡シタルモノハ自然義務ノ履行ニ非ラス純然法定上ノ義務ノ履行ナリ其法定上ノ義務ハ第二編第二部ニ明文アリテ更ニ之レカ爲メニ規定ヲ爲スノ必要ナシ故ニ自然義務ノ條項ヲ刪除ス可シト云フニ在リ今本員ニ於テ自然義務ノ條項ニ就キ審査スルニ該條項ハ卽チ確定裁判ノ力ニ因リ或ハ時效ニ因リ法定上ノ義務ヲ免カレタルモ其良心上悟ル所アリ己レカ得タル利益ヲ抛棄シ更ニ法定上ノ義務ヲ再生ス可キ場合ニ關シ規定シタル者ニシテ建議者ノ所謂純然道徳義務ノミニ關シ規定シタルヲ見ス且此法律アルカ爲メニ實際上何等ノ障碍モ爲サス却テ法律上ノ推定ヨリ生スル實際ノ弊害ヲ醫スルノ一方トナル可シ何トナレハ確定裁判ト雖トモ必定誤リナシト謂フ可カラス又時效ヲ經過シタルモ全ク義務ノ書キタルニ非ス畢竟訴訟ノ停止スルコトナキ弊害ヲ防クカ爲メニ已ムヲ得サルニ出テ此法律ヲ制定シタルモノナリ是ヲ以テ法律上法定ノ義務ヲ免カレタルモ未タ自然義務ナルモノアリテ存スルコトヲ明示スルハ最人世ニ有益ナリ要スルニ之ヲ刪除スルノ建議者ト雖モ其事實ナント云フニ非ラス又其適用ヲ非難スルニモ非ラス只學術上自然義務ノ名稱如何ヲ論スルニ外ナラス學術上ノ論議ハ姑ク置キ實際上有益ナル起案者ノ原案ヲ採用アランコトヲ冀望ス
第五百八十六條朗讀ス
附錄 自然義務
第五百八十六條 自然義務ノ履行ハ訴ノ方法ニ依リテモ相殺ノ排斥ニ依リテモ之ヲ要求スルコトヲ得ス其履行ハ債務者ノ任意ナルコトヲ要シ法律ハ其道義心ニ委ス
又自然義務ハ第三者ヨリ債務者ノ名ヲ以テシ又ハ自己ノ名ヲ以テ之ヲ辨濟スルコトヲ得
號外民法草案修正案民法第二編第二部「附錄」ヲ「第四章」ト改ム
（理由）
第二編第一部住居權使用權ノ附錄ヲ刪リタル理由ニ依ル第五百八十六條第一項「排斥」ヲ「抗辯」ト改ム
（理由）
前例ニ因リ修正シタリ
（栗塚委員）
二項ハ刪ルノデアリマス自然義務ハ起案者ノ意ハ自然義務ト云フ名ヲ付ケテ置イテ尋常ノ義務有ラユル場合ニ適用シテ參ツタ其レガ一體議場デ異議ノ起ツタ所以デアル自然義務ハ道義心ニ委シテ相手カラ訴ヘルコト出來ンデモ此方カラ任意ニ履行ス付錄留保ルニ於テハ取戻スコトガ出來ンモノデアルカラソウ云フコトノ必要ナ箇條ヲ五六條程殘セバ足ルコトダト云フノデ大槪其處ニ論ジ付ケルコトガ出來ルナラバ殊更ニ云フニ及バント云フ趣意デアリマス
（南部委員）
ソレカラ第二項第一項ト牴觸ト考ヘルナゼナレバ自然義務ト云フモノハ道義心ニ委シテ債務者ノ任意ニ委スルトナツテ居ル任意ニスルヲ第三者ガアツテ債務者ノ心ヲ推量シテ金ヲ返シテ遣ルト云フ意ニ反シテモ自分ガ返スト其結果ハドウナルカト云フト返シタ者ニ對シテ債務者ハ矢張リ自然義務ノ債務者ト爲ル然ルニ彼ノ者ニ對シテ流ンコトダカラ返サナケレバナラントナルト法律ニ定メタ義務ノ樣ニナリマスナゼナレバ自分ガ好キデ返スナラ第三者カラデモ第三者ガ返シタ時分ニハ不得心デモ第三者ニ返サナケレバナラン結果ニナルト法定ノ義務ト甲乙ガナクナルカラ不都合ダト云フハ段々其外ニ刪除論ノ說ノ人モ言ツテ居リマスガドウモ不都合デアリマス
（松岡委員）
ソレモ一場ノ問題ダガ抑々今日マデ何故遲延シタカト云フト全テ刪ルト云フ說ガアツテ其レカラ種々ニナリマシタガ其邊ハ最早良シイカ
（村田委員）
私ハ段々考ヘルニ成程佛蘭西方リニ自然義務ト云フノガアルノデ彼ノ國ノ學者モ定義ノ出來ンモノト云フ程デ爲メニ佛蘭西方リデモ紛々ト論ガアツテ自然義務ハ刪ルト云フ說モ分ツテ居ルガ自然ト云フコトヲ考ヘルト分ラン民法ハドウ云フモノカ一體民法ト云フモノハ人ノ卽チ權利ヲ確メルト云フコトサヘ揭ゲレバ宜シイ例ヘバ斯ウ云フモノニ權利ガナイト云ヘバ權利ノナイ丈ケノ處分ヲスレバ卽チ足リテ居ル處ガ其外ニ例ヘバ刑ナラ首級ヲ斬ツテ仕舞ヘバ流レタモノ又其先キニドウシナケレバナラント云フ樣ナモノデ一體法律ニ揭ゲナクツテモ宜シイト思ヒマス早ク言ヘバ是々ヲ飛ブト金ヲ遣ルト約束スル處ガ其レデハ飛ベガ呉レト云ツタモ往ク樣ニ見ヘン第五百九十三條ニ第三者ノ所爲ヲ認諾スルト殆ンドソウ云フモノデ自然義務デ勝手ニスルハ法律デ云フモノデ却テ揭ゲテ置クト笑ヒ草ニナリマス
（栗塚委員）
法律デ制裁ヲ與ヘナイガ人ノ心デ出來タラバデス
（村田委員）
其レハ法律ニ因ルモノデハナイ早ク言ヘバ一家ノ事デアリマスカラ法律ニ揭ゲナクツテモ宜シイ法律ハ其處マデ往クモノデハナカロウ
（栗塚委員）
法律デ詰リ返サセテ遣ルト云フコトハ言ヘナイ義務デアリマス
（村田委員）
是レ丈ケ無效ニナルカラ法律デシテハナラント謂ツタ上デ又返スナラ其人ガ返シタラドウシロト云フノハ入ラン話シデ切角法律ニ書上ゲタ甲斐無クシテ、無效ダト定メテ其レカラシテ後チ又ハ遣ルナラ遣レト法律上認メテ遣ツテ權利ヲ付ケテ遣ル理窟デ其レハオカシイデハナイカ
（栗塚委員）
時效ト既判デ裁判官ガ間違ツテ事實私ガ勝テル筈ガナイニ貴君ガ負ケタト云フガ著シイ場合ハ此場合デアリマス
（村田委員）
裁判宮ガ間違ツタ場合ハ幾箇モアリマス
（栗塚委員）
手ニ手ヲ盡シテ貴君ニ借リタニ違イナイ然シナガラ貸シタ證據ガナイ爲メニ貴君ガ負ケマシタ處ガ固ヨリ借リタノダカラ返サナケレバナラン然シナガラ法律ガ何ケ月間ニ控訴セヨ何日間ニ上吿セヨ日限ガ切レタラ採リ上ゲナイト云フカラ貴君ハ仕方ナシニ負ケタケレドモ私モソレデ世ノ中ハ通レルガ私ガ心ニ濟ンノデ貴君ニ借リタ物ヲ返サンカラソレデ貴君ハ訴訟ニ負ケタガ實ハ借リタノダカラ返スト言フハ幾ラカ社會ノ人爲ノ不良ヲ改良スルニ足ルデシヨウ、ソレノアツタトキニ何ノ義務ト名付ケルカ名ハ不完全ノ義務デモ宜シイ
（村田委員）
法律ニ揭ゲナクツテモ宜シイ
（栗塚委員）
事柄ハ有ルガ無イカナレバ有ルノデシヨウ
（村田委員）
自分デ金ヲ構ヘ突込ム者サヘアルカラネ
（栗塚委員）
ソウ云フ奇妙者モアルカラト云フノデス
（村田委員）
法律カラ云フト極端ニ趨ルノデス
（栗塚委員）
時效ト云フハ穩カナランモノト思フ、ケレドモ五ケ年經タラ返シタモノト法律上推測スルゾヨ又賣掛ケ代金ハ一年デドウナルト云フコトニナツテ居ルダカラ裁判所ヘ向ツテハ時效ガアルト謂ヘバ一言モナイケレドモ時效ヲ申立ツタモノガ兎モ角モ私ガ恩ニナツタ金ダカラ返ソウト云フトキハ返シテ宜シイ其レヲ見テ居ルノデス
（村田委員）
ソウスルト法律ガ一遍往カント云フ奴ヲ取上ゲル樣ニナルト法律ノ義務ニ悖ル樣ニナル
（栗塚委員）
一遍訴權ヲ與ヘナカツタガ彼ノ爲メニ然シ社會ノ秩序ハ亂サンノデアリマス
（村田委員）
充分上吿マデ往クカラ其上大審院ト云フモノガアル其レデ濟ンダモノハ仕方ガナイ其レガ生キ回ツテ來テ上吿マデ往クコトニナルノハオカシイデハナイカ
（栗塚委員）
社會ノ秩序ヲ維持シテ往クノハ裁判確定シタモノハ動カセンノハ社會秩序ニ關スルカラデアルケレドモ一私人ノ利益ヲ保護スル爲メノ法律ダカラ自カラ義務ヲ認メル人ガアツタラ遣ツテ宜シイ
（村田委員）
履行ハ御互イ同士デ宜シイ法律ニ揭ゲンバ裁判上ノ力ヲ持タセナケレバナイカラ之ハオカシイ
（栗塚委員）
然シナガラ何處ニモアリマス
（村田委員）
英吉利ニハアリマセン大審院ノ判決ト云フモノハ確言シテ動カンモノデアリマス其レヲバ又起ツテ來ルデアリマス
（栗塚委員）
前ノ裁判ハ確定シテ居ルノデ其レガ起ルノデハアリマセン
（村田委員）
前ニ無イト謂フモノガ有ルトナルコトデシヨウ錯誤ガアルトカ承諾上ニ瑕疵ガアルカラ法律上認メナイカラ役ニ立タントナルノデ其レヲ一方デ私ガ惡イカラ拂ヒマシヨウト云フト又持出スト云フノハオカシイ全テ新規別ニ證文ヲ作ルト云フナラ當リ前法定義務デ遣ツテ良イダロウ必ズシモ妙ナモノデ爲メニ紛々ト論ガ起ツテ居ルモノヲ其レヲ日本デ置クト云フノハ分ラン
（栗塚委員）
分ラント云フノハ一二ノ學者ノ說デ御座イマス
（村田委員）
自然義務ト云フモノハ世界ニ法律ノナイ時分ノ話シデアリマス法律ガアツテ見レバ自然法ナドト云フコトハ入リマセン
（松岡委員）
自然法ノ論ハ暫ク置イテ良カロウ
（村田委員）
ナケレバ差支ルト云フナラ格別ダガ法律デ悉皆往クノデアリマス
（南部委員）
往カン處モアル
（村田委員）
私ハ刪ツテ差支ガナイト思フ第一佛蘭西當リデモ困ツテ居ル
（南部委員）
實際ハ差支ガナイ
（栗塚委員）
現存不完全ノ法律トシテアルソウデス
（村田委員）
不完全ナラ宜シイ
（栗塚委員）
ソンナラ名ガ惡イト云フ論デ事柄タルヤ槪判中トカ時效ニ罹ツタモノトカ云フノデアリマスカラ名ノ惡イト云フ論ハ別デス
（淸岡委員）
大體人モ言ツテ書盡シテ居ルノダカラ委員長カラ意見モ出シテアル位ダカラ此處デ云フニハ及バン論ジテモ詰リ辯論ヲ消ス丈ケダカラ大體デ決スルコトニシマシヨウ
（南部委員）
其レデ宜シイ
（松岡委員）
其レデハ新規ノ論ナラ言フガ私ハ自然義務ハ惡イト思イマス兎モ角モ自然ダノ天然ダノト云フト兎角徳義ト區別ガ分ラン其レ故寧ロ分ランナリニモ響キノナイ樣ニ不完全義務トカ不充分ノ義務トカ云フ字ニ替ヘテ貰イタイ題號ヲソウ替ヘテソウシテ中ノモノハ刪除スル處ハ建議モアル又私ノ考ヘモアルガ存廢ト云ヘバ兎モ角モ置クガ良イ
（委員長）
置クカ置カンカ定メマシヨウ
（淸岡委員）
私ナドハ刪ル方ダ
（北畠委員）
私ナドハ置ク方ノ論ダ
（委員長）
村田サンバドウデスカ
（村田委員）
私ハ刪ル方デス
（箕作委員）
私ハ簡短ニ申シマスガ原案者ニ對シテ刪ツテモ良イトハ思ハン起案者ハ民法全體ニ斯ウ云フモノモアル積リデ規定シ又古來慣習ニ背イテモナイカラ置クノハ差支ナイダロウト云フ淡白ナ主意デアリマス
（大尾崎委員）
私ハ置ク方デアリマス最モ條數ハ刪ツテ宜シイ
（委員長）
置クナラ置クトシテ表題ハナント遣ルカ
（栗塚委員）
元口符調デ御座イマスカラドウ云フ符調ヲ付ケテモ宜シイ穩カナ符調ヲ付ケタイ何レカ穩デアルカ否ヤト云フト天然ノ字ガ自然トナツタノデ初メハ天然トアツタノデアリマス自然ト云フノハナゼカト云フト法定デナイト云フノデ法律デ認メテ居ル義務デナイ人ガ任意ニ履行シタ上ノ義務ニナルト云フノデアリマス
（松岡委員）
講釋ヲシテ付ケルノダガ自然ト云フハソウ云意見ハナイ自然義務ト云フト天然自然備ツタ義務デ免ガレント見ルカ又ハ見樣ニ因ルト天然義務モ自然義務ト同ジデ道徳上ノ義務ト云フ論モ出ル私ハ不完全ノ義務トデモ云フ樣ナ名ガ良イト思フ畢竟其字義理デモノヲ分ケルコトナレドモ呼出シ題號ノ處ハ義務ダカラ義務ト云フモノハドウ云フ義務カト云フト定見ノシタ處デハ法律上デ御座ルトカナイトカ云フ位ナモノデ天然或ハ自然ノ義務ト云フト強イモノニ聞ヘルカラ寧ロ充分法律ヲ以テ強制スルコトノ出來ンモノデ不完全ノ義務トデモ云フ方ガ稍々當レリト思ヒマス
（箕作委員）
私ハ自然デモ天然デモ宜シイ不完全義務ト云ツテモ矢張リ分ラン法定ノ反對デ果實ノ處デモ一ハ法律ノ果實一ハ自然ノ果實ト云フスルト矢張リ法律デ受クルモノデハナイ遠クカラ起ルノデアリマスカラ矢張リ天然ト云ツテモ差支ハナイ
（松岡委員）
不完全ト云フ言葉ハ良イノデハナイガ天然ト云フト外外ノ疑ヒモ起ルカラ其レヨリモ不完全トデモ言ヘバ一種別ノモノト云フコトニ見テ判事ガ意味ヲ狹ク取ル樣ニナロウ
（箕作委員）
法定デナイ義務トスレバ一番良シイ
（栗塚委員）
左樣デス
（南部委員）
法定ニ非ザル義務ト云ヘバ矢張リ自然義務デアリマス
（箕作委員）
左スレバ矢張リ自然義務デ良イト思フ
（栗塚委員）
獨逸デハ何ント云フ字デスカ
（箕作委員）
不完全ト云フ字デシヨウ
（栗塚委員）
說明シハ其レデ分ルガ表題ハ兎モ角モ一番穩カナノハ自然義務ト云フノガ良シイ
（委員長）
酷ドイコトモアリマスマイ多數決デヨカロウドウデスカ
（村田委員）
名デモ替ヘテ置キタイ
（松岡委員）
自然義務トカ道徳ノ義務トカ妙ナモノトモ付クマイ又義務ト云フ字ハ縱令自然カラ出ル天然カラ出ルト云フト法定義務法定ノ果實天然ノ果實同ジ樣ニナル嫌ガアリマス
（村田委員）
天然ノ果實ト譯ケガ違フガ果實ヲ云フノダカラ天然ノ果實ト云ヘバ地面カラ出ルノデ之ハ地面カラ出ルノデハナイカラ法定ノ果實ハ例ヘバ利息トカ家賃トカ云フモノデ之ハ仕方ガナイ
（大尾崎委員）
之ハ何處カラ出ルト云ヘバ良心カラ出ルノダカラ自然義務デ良シイ題目ニ於テ不完全義務トナケレバナランコトハナイ
（委員長）
不完全ト云フ字ガ獨乙ニアレバ良イカハ知レマセンガ不完全デハアリマスマイ法律ニ定メタコトデナクツテモ天帝卽ゴツトカラ見ルト完然ノ義務カモ知レマセン
（箕作委員）
法定ニアラザルハ矢張リ自然トカ天然トカ云フノデシヨウ
（松岡委員）
義務ト云フ字ハドウカ權利ト向ヒ合セテ此方ニ權利ガアレバ向フニ義務ガアルト見ナケレバナリマセン此ハ權利ハナイノデアリマスカラ義務ト云フ字ヲ何ンデモナイト見レバ宜シイガ苟モ義務ハ權利ニ對持シテ居ル字デアリマス
（大尾崎委員）
向フニ權利ガアルノデ法律デ訴ヘラレナイガ權利ガアルカラ此方ニ義務ガ生ズルノデ義務ガナイトハ言ハレナイ
（栗塚委員）
自然權利ガ一方ニアルノデアリマス只訴ヘタ時ハ時效ガ過ギテ居ルカラ往カン方式ニ背クカラ往カント裁判官ガ云フカラ餘義ナク權ヲ伸スコトハ出來ンガ自然權ハアル上言ハナケレバナリマセン卽チ不完全ノ權利ガアルト言ハナケレバナリマセン
（淸岡委員）
分ラン、法律ニ道徳ヤ自然ノモノヲ存シテハテ字ガ惡イナドイウノハイカン
（栗塚委員）
其レハ一槪ノ論デス
（松岡委員）
其樣ニ云フト一字一句モ動カサン方ガ良シイガソウハ往カン頻リニ維持說ガ多イラシイ平日ノ例ト言ツテモ良シ又ソウ云フ宿弊ト言ツテモ良シ「ボアソナード」ガ不完全義務ト書イテ居ツタラ諸君モ滿足スルニ違イナイ自然義務ト云ヒ或ハ天然義務ト云フノハドウモ民法ニ因ルト義務ト云フハ權利ニ對抗スル樣ニ讀ムノデス
（村田委員）
自然ト云フノガ惡イノデアリマス
（箕作委員）
其レデハ義務ガ惡イト云ハナケレバナリマセン
（委員長）
村田サン感服スル樣ニ新發明ヲ言ツテハドウカ
（村田委員）
不完全義務ト云ヘバ良シイ自然ヲ付ケルトオカシイ
（松岡委員）
不完全ト云ヘバ區別ガ出來マス
（委員長）
不完全デモ義務ガアレバ不完全ナガラ權利ガナケレバナラン同ジダロウ
（松岡委員）
上ガ不完全トナレバ權利ガ來テモ不完全權利トナリマス自然ノ義務自然ノ義務ト云フノハオカシイ其レハ對抗デ御座イマスカラ格別ハアリマセン自然ト云フノト不完全ト云フノハ議論ガ少シ違イマス
（箕作委員）
違イマスマイト思フ
（委員長）
ナゼ貴君方ハ不完全ト云フカ
（松岡委員）
充分ナル權利ヲ以テ占メラレナイカラデアリマス
（委員長）
義務ヲ盡スニ不完全ノ義務ト云フハ困ル
（松岡委員）
義務ハ權利ト對持シタ言葉デアリマス自分ガスルヲ勝手ノ義務ト云フノデハナイ
（委員長）
人モ云フ自分モ言フノデス
（松岡委員）
元トノ起リハ權利ノ爲メ縛バルルヲ義務トシタ後チニ行ウ時義務ト云フガ起リハ權利ガアツテ縛バルモノヲ義務ト云フノデアリマス
（委員長）
不完全ニ縛バルコトダカラ不完全ノ義務ト云フノデハナイ縛バル方ハ不完全デモ義務ハ完全ノ義務ヲ盡スダロウ
（栗塚委員）
裁判上貰フコトノ出來ナイ繩ト云フノデアリマス裁判上デ係ルコトハ出來ン繩デアツテ實ハ繩デアリマス繩ニハ違イ裁判所ヘ往ツテ貰フコトノ出來ナイ繩デアリマス
（松岡委員）
名付ケテ不完全繩、其レハ裁判所カラ貰ハナイカラ不完全ト云フト適語デアリマス
（栗塚委員）
趣意ハ同ジデアリマスガ不完全ト言ツテモ裁判所ヘ往ツテ貰フコトノ出來ナイ繩デアリマス
（松岡委員）
原案ニ書カレタガ因果デ如何樣トモデス
（栗塚委員）
法律ニ於テ制裁ヲ與ヘザル義務デアリマス
（委員長）
何方カ定メテ往カウデハナイカ
（淸岡委員）
不完全義務ト云ツテハ分ラン自然義務ニ存シテ置キマシヨウ
（委員長）
ソレデハ自然ト義務トシテ置キマス「排斥」ハ「抗辯」トナルノカ
（栗塚委員）
左樣デス
（松岡委員）
排斥ト云フハ一體又ハ抗辯ノ方法ト直サント惡イ
（栗塚委員）
左樣デス
（箕作委員）
相殺ト云フノハ惡イ
（松岡委員）
相殺モ抗辯ノ方ヘ往クノデシヨウ
（委員長）
訴ノ方法ニ因ルト前ニアル
（箕作委員）
相殺ノコトハ主ニシテ見セタノデスネ
（栗塚委員）
左樣デス私ハ御前ニ金ガ貸シテアル十二三ノ時ニ貸シテアルト云フノデス
（箕作委員）
言詰メレバダガ抗辯ト云フ中ニ主トシテ此事ヲ言フノデス
（松岡委員）
良カロウ
（栗塚委員）
及ビ良心ニ委スデス
（松岡委員）
良心一ツデ良カロウ
（淸岡委員）
良カロウ
（栗塚委員）
良心ニ委スト致シテ置キマシヨウニ項ハ刪除デス
（松岡委員）
良シイ
（委員長）
良シイ
本條ハ「道義心ニ委ス」ヲ「良心ニ委ス」ニ改メ第二項ハ刪除其他修正ニ決ス
第五百八十七條朗讀ス
第五百八十七條 債務者又ハ第三者ノ任意ノ辨濟又ハ供與ハ不當ノ辨濟ナリトシテ之ヲ取戻スコトヲ得ス
自然義務ヲ辨濟シタル意思ノ證據カ事情ヨリ生スルニ於テハ辨濟ノ原因ヲ明示センコトヲ必要トセス
修正案第五百八十七條第一項「又ハ供與」ノ四字ヲ刪ル
同條第二項「明示センコトヲ必要トセス」ヲ「明示スルコトヲ必要トセス」ト改ム
（理由）
第一項刪除ノ文字ハ辨濟ト同樣ノ意味ナルヲ以テ刪除シタリ其他明了ナラシムル爲メ修正シタリ
（栗塚委員）
又ハ第三者ト云フヲ刪ツテソレカラ明示スルコトヲ要スト爲リソレカラ「供與」ヲ刪リマス
（松岡委員）
二項目ハ何ンノ爲メニ書イタカ
（南部委員）
辨濟ノ原因ヲ言ハナクテモ良イト云フノデス
（松岡委員）
受取ツタ人カラ云フノデシヨウ、證據法ノ話シデシヨウ
（南部委員）
前ニ少シ關係ガアリマスカラデスナゼナラバ任意ノ辨濟ト云フノガ不當ノ辨濟不當ノ原因ト云フニ關係ガアルカラデス
（松岡委員）
不當ノ辨濟ハ證明シナケレバナラン證明ガ出來レバ其レハ消ヘルダロウ
（委員長）
證明スルコトヲ必要トセンノダカラ
（松岡委員）
必要トスル、セズハ誰レガ明示スルノカ債權者ガスルノデナゼナレバ取戻シニ往ツテ不當ト云フト不當ト云フ人ガ證明シナケレバナラン證明シナケレバ取ルコトハ出來ン
（村田委員）
分ツタコトデス
（松岡委員）
餘計ナコトダ不當ニ辨濟シテ置キ取戻ソウト云フ人ハ取戻ス丈ケノ筋ヲ證明スルハ當然ナ譯ケデス
（栗塚委員）
前項ガ主デスカラ無クツテモ良シイ
（淸岡委員）
明示ハ誰レカ
（松岡委員）
受取ツテ居ル人ガデアリマス
（大尾崎委員）
二項ハ必要ガナイ
（村田委員）
二項ハ刪ツテ宜シイ
（委員長）
債權者デアリマスカネ債務者デハナイカ
（松岡委員）
論理ガソウナルノガ順デアリマス不當ニ辨濟シタラ取戻セン併シ斯ウ云フ證據ガアレバ取戻セルト云フ順デアリマス
（南部委員）
取戻シニ係ツタ時辨濟ノ原因ヲ明示スルノハ一體債權者ノ責ダロウ
（松岡委員）
元トノ通リニ書イタラ權利ガアルト主張シタラ斯ウ譯ケト向フガ證明シナケレバナラン
（南部委員）
取戻ソウト云フハ證明シナケレバナラン併シナガラ辨濟ノ原因ヲ明示シナクツテモ良イト云フノデアリマス
（松岡委員）
ソレデハ債務者カ
（南部委員）
ソウデス
（松岡委員）
ソレデハ上ガ分ラン
（南部委員）
一體ハ原吿ガ證明シナケレバナランデシヨウ
（栗塚委員）
自然義務ヲ辨濟シタラ辨濟ノ原因ヲ債務者ガ言ノニハ及バン卽チ恩借デアツタカラト云フニハ及バント云フノデアリマス
（南部委員）
任意ニ辨濟シタト債務者ガ證據立テシナケレバナラン
（栗塚委員）
其處デハナイ辨濟ノ原因ヲ明示スルコトヲ必要トセズハ子供ノ時分ニ借用シタトカ或ハ借用金デアツタトカ云フニハ及バンナゼナレバ天然ノ義務ヲ辨濟スル意思ガ分ツテ居タラ證據ヲ明示スルニハ及バント云フ話シデアリマス
（南部委員）
自然義務ヲ取戻ソウト云フノハ取戻スコトハ出來ンダロウ、ダカラ辨濟シタモノハ自然義務デナイト云ツテ取戻シ請求シナケレバナラン自然義務デナイト云フコトヲ原因ヲ別段證明シナクツテモ良イト云フノデス
（松岡委員）
ナンノコトダカ分ラン
（栗塚委員）
不當ノ辨濟ト云ツテ取戻スコトハ出來ン、スレバ原因ヲ書イテ置カナケレバナランカナラ事情ガ分ツタラ書イテ置クニ及バント云フノデアリマス
（淸岡委員）
ソウダロウ
（南部委員）
辨濟シタ證據ガアルナラ辨濟ノ原因ヲ證明シナクツテモ良イト云フノデアリマス
（村田委員）
辨濟シタルデハ既ニシタコトニナルカラ惡イ
（栗塚委員）
ナゼナレバ南部サンノ云フ通リ取戻シノ場合ヲ想像シデアリマス
（南部委員）
辨濟シテ居ル證據ガ最初カラ顯レタラ別ニ辨濟ノ原因ガ箇樣ナ譯ケデ自然義務ヲ盡シタト云フコトヲ證明シナクツテモ良イト云フノデアリマス
（淸岡委員）
ソレデハ分ラン
（栗塚委員）
一項二項ノ考ヘハ不當ノ辨濟ナラ取戻スコトガ出來ルト云フカラ其レデ天然義務ヲ盤シタトキハ不當辨濟ト共ニ出來ルト思フト往カンカラ前項デ出來ント云ツタ、スレバ自然義務デ御座ルト證文中ニナケレバナランカト云フニソンナコトハ言ハナクツテモ良イト云フノデアリマス
（北畠委員）
ソレニシテモ入リマセン
（大尾崎委員）
二項ハ入リマセン之ガアルト却ツテ迷ヲ生ジマス
（槇村委員）
自然義務デナイト云フコトヲ以テ取戻スカ
（栗塚委員）
自然義務ト書イテ置カナケレバナランカト云フニ書イテ置クニハ及バント云フ丈ケデアリマス
（箕作委員）
債權者ヲ保護シタノデシヨウ
（栗塚委員）
左樣デス
（松岡委員）
刪除スレバ明瞭デアリマス
（北畠委員）
刪除シマシヨウ
（栗塚委員）
二項ハ刪除デ宜シイ
（村田委員）
刪リマシヨウ
（委員長）
宜シイ
本條ハ第一項修正ニ決シ第二項ハ刪除ニ決ス
于時正午十二時休憩
午後一時二十分開會
（委員長）
始メマシヨウ
第五百八十八條朗讀ス
第五百八十八條 自然義務ハ債務者ノ明白ナル認定、第三者ノ保證、債務者若クハ第三者ノ爲セル更改又ハ動產質若クハ抵當ノ供與ノ目的タルコトヲ得
此諸種ノ場合ニ於テ自然義務ハ通常ノ法定ノ效力ヲ生ス
修正案第五百八十八條第一項「認定」ヲ「追認」ト改ム
（理由）
原文ニ基キ修正シタリ但此次條以下認定トアルハ總テ「追認」ト改ム
（栗塚委員）
追認定ヲ追認ト改メマスソレカラ此ト云フ字ヲ右ト改メマス
（村田委員）
動產質バカリ云フガ不動產質モ這入ラナケレバナリマセン
（南部委員）
入レナケルバナリマセン
（松岡委員）
之ハ第三者ヲ保證ニ立ツル方カ
（栗塚委員）
左樣デス實ハ自然義務ハ追認保證更改質若クハ擔當ノ目的デ良イノデアリマス
（南部委員）
其方ガ宜シイ
（栗塚委員）
自然義務ハ追認保證更改自然義務ヲ貴君ニ對シテ持ツテ居ルスルト南部サンガ保證ニ立ツテ呉レルト云フノデアリマス
（村田委員）
第三者ノ爲メ誰ガ保證シテヤルト云フノダロウ
（栗塚委員）
左樣デス
（松岡委員）
保證ト云フノハ入ラン後追認ガ更改スルカデス
（栗塚委員）
報吿委員デ致スベキガ相當カバ知レマセンガ追認シタル自然義務更改シタル自然義務又ハ擔保シタル通常法定ノ效力ヲ生ズトシテハドウカ
（南部委員）
是レデ宜シイ
（栗塚委員）
保證ハ御刪リニナル方ガ宜シイ
（村田委員）
明白ナルハ刪ツテ宜シイ
（淸岡委員）
自然義務ガ本義務ニ更改スルト云フノダロウ
（松岡委員）
賣上代金ガ貸金ニナルト云フコトヲ云フノデアリマス
（南部委員）
賣上代金ガ自然義務デアツタノヲ貸金ニスル時分法定ノ義務ニスルコトガ出來ルト云フノデス
（淸岡委員）
ソレハ元ト法定ノ義務デス
（松岡委員）
法定ノ義務デアツテ訴訟デ負ケテ私ハ時效ニ係ツタト云フト法定ノ義務ハ消ヘタノデソレヲ賣上代金ヲ貸金トカ云フコトニ更改ト云フノデアリマス
（淸岡委員）
自然義務ハ良心ニ任カシテ仕舞ウノダカラ更改セズト云フコトハナイ
（南部委員）
元ト賣上代金デアツテ期限ガ短イカラ出訴期限ガ切レタソレヲ貸金證書ニシタノダ
（淸岡委員）
ソウスレバ賣上代金デハナイモノデス
（南部委員）
ナイケレドモ自然義務ガアルダロウ
（淸岡委員）
貸金ニスルノハ卽チ法定義務ニスルカラ自然義務ヲ法定義務ニ更改スルト云フナラ宜シイ
（南部委員）
ソレハ末項ニアリマス、ソウ云フト追認ト云フコトハ入ラン
（淸岡委員）
追認ナラ良イガ更改ト云フト改マルトナルカラデス
（南部委員）
更改デ宜シイ卽チ期限ノ切レタモノヲ貸金ニシタノデアリマス
（淸岡委員）
ソレデハ更改デナイ天然義務ヲ拵ヘルニナルノデソレダカラ自然義務ヲ更改シテ法定義務ニナルノデス
（南部委員）
ソレハイカン
（松岡委員）
賣上代金デ出訴シタガ負ケタノデ時效デモ又ハ證據ヲ擧ゲルコトガ不充分デ負ケタトシテモ宜シイ義務者ハ免レタケレドモ良心ニ於テ彼レハドウモ良クナイト思ヒ貸金トシテ年賦ニシテ貰ウノデアリマス
（淸岡委員）
其レハ更ニ持ヘルノデス
（南部委員）
ケレドモ新タニ出來タノデハアリマセン
（淸岡委員）
改メテ貸金ニシタノデス
（松岡委員）
元ト賣揚代金ヲ改メタハ更改デス其レガ今度ハ法定ノ義務ノ效力ヲ生ズルノデアリマス
（淸岡委員）
自然義務ヲ新タニ法定ノ義務ニ替ヘルナラ宜シイ
（南部委員）
賣揚代金自然義務ト云フコトガ何レニナツタカ卽チ貸金ノ自然義務ニナツタノデ其レハ何ニカ法定義務ニナルト云フノデアリマス
（北畠委員）
コウヤツテ置ケバ宜シイ
（南部委員）
抵當ノ目的ハオカシイ
（栗塚委員）
質ノ目的トヤルカ
（箕作委員）
自然義務ヲ質ヤ擔保ヲ以テト云フノデシヨウ
（栗塚委員）
左樣デス
（淸岡委員）
目的タルコトヲ得ト云フノハオカシイ
（栗塚委員）
自然義務ハ之ヲ追認シ更改シ又ハ質若クハ擔保スルコトヲ得ト云フコトデス
（淸岡委員）
追認シ更改スルカラ效力ヲ生ズルノダロウ
（南部委員）
矢張リ其レデ宜シイ
（村田委員）
債務者ハアル方ガ宜シイ
（松岡委員）
アル方ガ宜シイ
（南部委員）
債務者ハナイ方ガ宜シイ
（箕作委員）
債務者ハ刪リマシヨウ
（栗塚委員）
之ヲ追認シ更改シ又ハ質若クハ抵當ヲ以テ擔保スルコトヲ得トヤツテモ差支ハアリマスマイガ自然義務ハ追認更改又ハ質若クハ抵當ノ供與ノ目的タルコトヲ得ト致シマシヨウ
（箕作委員）
宜シイ
（北畠委員）
宜シイ
本條ハ第一項「自然義務ハ追認更改又ハ質若クハ抵當ノ供與ノ目的タルコトヲ得」ト改メ第二項「此」ヲ「右」ト改メ其他原案ニ決ス
第五百八十九條朗讀ス
第五百八十九條 第三者カ債務者ノ代理ノ委任ヲ受ケスシテ自然義務ノ履行、更改又ハ擔保ヲ爲シタルトキハ債務者ハ其償還ニ付テハ自然義務ノミヲ負擔ス
（栗塚委員）
此條ハ全條ノ刪除ノ建議ヲ致シマス
（箕作委員）
前ヲ刪ツタカラ止ムヲ得ンコト結果デアリマス
本條ハ刪除ニ決ス
第五百九十條朗讀ス
第五百九十條 自然義務ノ任意履行、更改、認定又ハ擔保ハ讓渡ヲ爲シ又ハ義務ヲ負擔スルノ能力アル人ニ出ツルニ非サレハ其效ナシ
（栗塚委員）
認定ハ追認トナル丈ケデ御座イマス
（淸岡委員）
之ハ置カナケレバナランカ
（栗塚委員）
必要トモ思ヘマセン
（淸岡委員）
刪ツテモ宜シイ無益デアリマス
（大尾崎委員）
刪ツテモ宜シイ
（松岡委員）
之ハ刪リマシヨウ
（村田委員）
刪ツテ宜シイ
本條ハ刪除ニ決ス
第五百九十一條朗讀ス
第五百九十一條 自然義務ハ法定ノ承諾ヲ阻却スル錯誤ノ爲メ目的ノ指定ノ欠缺若クハ不足ノ爲メ又ハ必要ナル公式ノ欠缺ノ爲メ根源無效ナル契約ヨリ生スルコトヲ得
然レトモ方式ノ欠缺ノ爲メ無效ナル生贈ニ關シテハ生贈者自ラ自然義務ノ履行又ハ認定ヲ爲スコトヲ得ス其相續人又ハ承接人ノミ之ヲ爲スコトヲ得
前項ノ規定ハ方式上無效ナル遺言ヲ爲セル者ノ相續人ニ之ヲ適用ス
修正第五百九十一條第一項「根源」ノ二字ヲ刪リ「契約」ヲ「合意」ト改ム同條第二項「生贈」ハ共ニ「贈與」ト改メ「承接人」ハ「承繼人」ト改ム
（理由）
前例ニ因リテ修正シタリ次條以下契約トアルハ總テ「合意」ト改メタリ
（委員長）
認定ハ追認デスカ
（栗塚委員）
左樣デス契約ハ合意トナリマス
（淸岡委員）
無效ナル合意ヨリ生ズト云フノハ讀ミ惡イ
（箕作委員）
無效ニスルハ誰レノ爲メニ利益カナラ承繼人ヤ相續人ノ爲メニスルノダカラ其無效ガ追認スルトカ云フノハ向フデ利益ヲ受ク樣ト云フ人デナケレバ無效モ出來ント云フノデシヨウ
（栗塚委員）
左樣デス
（松岡委員）
既ニ贈與シタル後チハト云フ意味ダロウヨリト云フノハ分リ惡イ
（栗塚委員）
合意ノ中カラ出ルノデス
（箕作委員）
自然義務ハ合意カラ生ズト合意ハ原因ニナルノデス
（栗塚委員）
左樣デス
（村田委員）
其合意ハ無效トスルケレドモ自然義務ハ生ズルト云フノデシヨウ
（松岡委員）
無效ナル合意ヨリト云フノハ分リ惡イ
（箕作委員）
法律上合意ハ無效ダケレドモ其者カラ自然義務ガ生ズルト云フノデス
（淸岡委員）
時效デモ何ンデモ皆ナ無效ニナル合意ダロウ
（松岡委員）
此處ハ合意ガ元來無效デモ其レデモト云フノデス
（淸岡委員）
生ズルト云フノハオカシイ
（松岡委員）
合意ヨリ生ズト直接ニ云フト工合ガ惡イ
（淸岡委員）
譯ケガ分ラン
（松岡委員）
私ノ考ヘデハ此條ダト時效ヲ經タモノト云フノハ一番肝要ダト思フ、法定ノ承諾云々無效ナル合意ハ自然義務ヲ生ズルコトヲ得トシテハドウカ
（栗塚委員）
ソウシテモ宜シイ
（箕作委員）
合意ト云フノヲ一格ニシテモ宜シイ
（栗塚委員）
自然義務ハト言ツテ合意ハ法定義務ヲ生ズルト云フノデアリマス
（槇村委員）
之ヲ置クト云フノハオカシイ
（南部委員）
合意ニ付キ生ズルコトヲ得カ
（箕作委員）
三項ハ相續人計リデ良イ承繼人ハ入リマセン
（委員長）
合意モトヤツテハドウカ、法定ハ無效デアルガ自然義務ハ出ルト譯ケニシタラ松岡サンノ趣意ニモ叶フダロウ
（松岡委員）
宜シウ御座イマシヨウ
（委員長）
當然無效トナルモノデモ合意カラデモノダ
（箕作委員）
有效ナル合意カラ素ヨリ生ズルカ
（淸岡委員）
合意ヨリ生ズルト云フモ原案通リデ宜シイ
（村田委員）
原案通リガ宜シイ終リハ相續人計リデナケレバナラント見ヘルドウ云フモノガ遺囑ノ贈遺ハ詰リ遺贈者ガ死ンデナケレバ效ヲ生ジナイ
（箕作委員）
包括名義ノ承繼人ハドウカ
（村田委員）
遺贈者ハ素ヨリ出來ンガ贈遺ヲ受ケタモノハ連帶ノ爲メヲ以テ遣ルノデアリマスカラドウモ相續人計リデナケレバナラン
（松岡委員）
二三項ハ入ラン之ヲ言フト法定義務ト替ラン樣ニナリマス
（南部委員）
二項ハ必要デス
（村田委員）
二項ハ在ツテモ宜シイガ三項ハ入ラン
（槇村委員）
贈與者ハ生キテ居ルノカ
（箕作委員）
左樣デス從令バ甲ガ一人アル財產ヲ半分殘リナケレバナランガ併シナガラ私生キテ居ル内ハ甲ハ半分殘スヲ皆大尾崎サンニ全部贈與シタ其時分方式ニ缺ケタカラ無效ト相續人カラ言フノデス
（松岡委員）
可笑シイ
（村田委員）
文字ノ書キ方ノ惡ルイバカリデハイカン
（粟塚委員）
然レドモ無效ニナランゾヨト云ヘバ良イノデ御座イマス
（松岡委員）
ソレナラバ宜シイ
（淸岡委員）
方式ヲ缺イタトカ第三者ガ無效ノコトヲ云フハドウカ
（大尾崎委員）
第三者ノ場合デハナイ
（箕作委員）
前ノ錯誤トカ云フノハ契約上疏漏ナコトデ御座イマス
（栗塚委員）
贈與デハ前ニ申シマシタデシヨウ贈與デ必要ナル公式ノ欠缺ノ爲メト云フハ當リ前ノ合意ソレカラ贈與デハ無效ナル贈與デドウ云フ爲メナレバ式ニ背クカラデアリマス
（委員長）
式ハ前項ニ云フ必要ナル公式ノ欠缺ト云フノミヲ云フノカ若クハ不定ノ爲メハ云ハンノカ
（栗塚委員）
ソレモ申サナケレバナリマセン
（委員長）
ソレデハ公式ト云フノハ方式トハ違ウ
（南部委員）
一項ハ重モニ合意ノ處ノ契約篇ノ初メニアツタノヲ摘マンダノニテ專ラ贈與ニ關シテハ方式ガアツテ何分一デナケレバナラント云方式ガアリマスカラ二項ハ其コト丈ケデアリマス
（委員長）
ソレデハ前項ノ丈ケデハイカン
（栗塚委員）
左樣デス
（淸岡委員）
前項ノハ必要ナル公式ガ缺ケテ居ツテモ出來下ハ方式ガ缺ケテ居ツテハ出來ント云フノデアリマス
（南部委員）
ソレハ贈與ニ付テ出來ンノデアリマス
（淸岡委員）
第三者ガ苦情ヲ云ツテ來タラ出來ハセン
（南部委員）
自然義務ハ差支ナイ出來ルノデアリマス
（松岡委員）
一項ハ從令バ不動產ノ用方ノ云々不動產ニ向ツテ方式ガ缺ケテ居ツテハイカンガ自然義務ハ出來ルノデアリマス
（委員長）
方式ガ缺ケテハ自然義務モ出來ンノダロウ
（南部委員）
自然義務ハ宜シイ履行追認ガ行カンノデアリマス
（委員長）
自然義務ハ成立タン
（南部委員）
法定ノ義務ニナランノデアリマス
（委員長）
出來ン譯ガ出來テ居ノデス
（村田委員）
履行追認ガ出來ント自然義務ハ出來マセン
（南部委員）
二項ハ自然義務ハアルノデ追認ガ出來ルノデアリマス
（松岡委員）
ソレハイカン
（南部委員）
五百九十條ハ何トアルカ是レ丈ケノ人ガ出來ルト自然義務ガ出來ルト云フノデアリマス
（村田委員）
ト云フノハ贈與ハ元ト無償名義デ宜シイソレヲ只呉レルナラ方式ナドハ缺ケル氣遣ハナイ
（南部委員）
ソレデ然レドモガアルノデス
（淸岡委員）
然レドモ合意カラ生ズルコトハ出來ルガ履行ハ出來ント云フノガソウハイケマスマイ
（松岡委員）
生ズルコトヲ得ズデス
（南部委員）
五百九十條ニ何ントアルカ自然義務ハ履行更改追認ハ能力ノアル人デナケレバ效ガナイゾヨト云フカラ矢張リ自然義務ハアルノデアリマス
（淸岡委員）
ドウシテモ二項ハ生ジナイ
（北畠委員）
人事編ガ出來ンカラニ項ハ分ラン
（南部委員）
斯ウ云フコトハ必要デアリマス
（栗塚委員）
一方サヘアレバ跡ハ刪ツテモ宜シイト思フ
（南部委員）
ソウハイカン
（栗塚委員）
二項ハ九十條ト同ジデアリマス九十條ヲ刪ツタカラ二項ハ置ケマセン
（南部委員）
ソンナラ五百八十七條モ刪ルガ宜シイ九十條モ刪ツテサヘ宜シイ
（栗塚委員）
ソレハ別デス九十條ヲ刪ツタカラ又モ刪ラナケレバナランデシヨウト思フ
（南部委員）
自然義務ヲ置ク以上ハ必要デアリマス
（淸岡委員）
相續人バカリ取除ケルト云フコトハナイ若シ方式ヲ欠缺シタラ第三者ハ出來ント云フコトハナイ方式欠缺ナラ法律上固ヨリ無效ダケレドモ構ハズ一項デ合意ヨリ生ズルト云ツタノデアリマスカラ贈與ニ關スルバカリデナイ
（松岡委員）
全體人事編ノ相續ハドレ丈ケニシナケレバナランカ之モ贈與シタラ跡ハ悉ク相續人ニ行ツテ親父ハ手ヲ付ケラレナイト云フ樣ニ之デハ見ヘマス
（村田委員）
方式ノ欠缺デ良イダロウ
（松岡委員）
追認履行モ出來ント云フト親父ガ他人ニ向ツテ贈與シテ居ル其方式ハ分ランガ良シ缺ケタラ行カントシテモ自然義務トシテモ自然ヤルトシテモヤレント云フ仕方ガナイ別ノ金ヲヤロウト云ヘバ構ウコトハナイ相續人ハ入ランノデシヨウ
（南部委員）
ソレデハ相續人ヲ裸體ニシテモ良イカ決シテソウハ行カン
（村田委員）
相續人ハ自分ノ物ニナルト思ツテ居ルノダカラソレヲ勝手ニヤランデハタマラン相續人ノ懷ロガ違ウ
（松岡委員）
ソレハ相續人ノ定メ次第ダ
（南部委員）
ドウ定ツテモイカン
（松岡委員）
息子ニ三分ノ一ヲ殘サナケレバナランカ
（南部委員）
ソンナラ自然義務ヲヤルニハ及バン本當ノ贈與ガ出來ンカラ自然義務デヤツテ居ルソレヲ成立タセテハ溜マラン
（松岡委員）
親ガ生キテ居ル
（村田委員）
此處ハ餘リ相續篇ニ關係ハナイ
（委員長）
アル方ガ良イデシヨウ
（村田委員）
之ハ置カナケレバナリマセン
（淸岡委員）
惡ルイトモ思ハンガ置クト前項ト釣合ガ惡ルイ
（村田委員）
惡クハナイ
（淸岡委員）
前項ニ履行ガ出來ルト云フ此處ハ出來ルトアル
（栗塚委員）
前條トハ釣合ガ惡ルイノデアリマス
（南部委員）
然レドモデ取除ケガアルカラ宜シイ
（淸岡委員）
無效ノ合意カラ生ジテ認定ガ出來ルト云フト第三者ガ害ヲ受ケル
（南部委員）
第三者ニ對スルトキハ公式方法ニ依ラナケレバナリマセンカラ別ノ話デアリマス從令法定上義務デモ矢張リ公式ヲ要スベキハ要サナケレバナリマセン
（淸岡委員）
ソンナラ贈與ノトキモ書クニ及バン
（南部委員）
贈與シタモノニ對シテ出來ル旨意ダト贈與者ノ關係デアリマス
（淸岡委員）
第三者モ同ジダロウ從令バ公正證書ニシテ置カナケレバナランモノヲ其式ヲ缺イタトキハ無效トスルヨリ仕方ハアリマスマイ卽チ贈與方式ヲ缺イタモ同ジデアリマス
（委員長）
方式欠缺ハ一人贈與ニ關スルノミヲ見ルト前ノ事柄ハ問ハズシテ前項ニハ認定合意ヨリ生ズルコトガ出來ルガ贈與ニ關スル方式ノ缺ケタコトノミハ之レ々々ハ出來ント云フト分別ガ山出來マス
（淸岡委員）
ソウシテハ大變デス
（委員長）
方式ト公式トハ違ウノデアリマス方式ト云フノハ贈與ニ關シテ一ツノ方式ガ定マルノデソレヲ云フノデ前ノ内幾分カ這入ルガ後トハ同ジデハナイ
（淸岡委員）
贈與ノ方式ト相對ノ契約上ノ公式ト云フハ自ラ違ヒマスガ必要ナル公式ノ欠缺モ或ハ贈與ニ對シテ方式ノ欠缺モ等シク欠缺ヲ欠缺シテ居ルカラ苦情ガ云ヘルノデス公正證書デ作ルベキヲ作ラント第三者カラ苦情ガ云ヘル等シク云ハレタトキハ贈與履行認定モ出來ン上ニハ公式ガ缺ケテ苦情ヲ云ハンデモ契約上生ズルコトヲ得ルト云フノハ可笑シイ
（委員長）
出來ルケレドモ贈與ニ關シテハ贈與者丈ケ出來ント云フ取除ケデ御座イマス
（松岡委員）
土臺天然義務ニ細カイコトヲ云ヒ過ギルノデス
（南部委員）
第三者自然義務ハ合意ヨリ生ズルノダカラ第三者ニ對シテ效ガアルカナイカハ方式ヲ行ツタ上デナケレバナランコトハ分ツテ居ル
（淸岡委員）
然レドモト云ツテ贈與者ト云ヒ出シテ是レ丈ケ取除ケルト云フト外ノモノハ入ラン
（委員長）
前ニ合意ヨリ生ズルコトヲ得ト云ツテ居ルカラデス
（箕作委員）
一項ハドウシテ刪ツタカ
（委員長）
私ノハ元トノ通リデアリマス
（淸岡委員）
贈遺丈ケ取除ケバ惡ルイ
（南部委員）
同ジコトダカラ刪ツテモ良イデシヨウ
（委員長）
置ク方ガ多イデシヨウ
（村田委員）
無論之ハ置カナケレバナリマセン
（栗塚委員）
三人ニ五人デ御座イマス
（委員長）
三項ハドウカ
（栗塚委員）
同樣デ御座イマシヨウ
（委員長）
宜シイ
本條ハ修正ニ決ス
第五百九十二條朗讀ス
第五百九十二條 原因ノ欠缺又ハ不法ノ原因ノ爲メ無效ナル契約ハ自然義務ヲ生スルコトヲ得ス公ノ秩序ノ爲メ契約ノ目的トスルコトヲ禁シタル物ヲ目的ト爲ス契約ニ付テモ亦同シ
本條ハ原案ニ決ス
第五百九十三條朗讀ス
第五百九十三條 第三百四十三條及ヒ第三百四十四條ニ因リ無效ナル契約ハ諾約者ノ自然義務ヲ生スルコトヲ得
修正第五百九十三條左ノ如ク改ム第三者ノ所爲ノ諾約及ヒ第三者ノ利益ニ於ケル要約ニ關シ第三百四十三條及ヒ第三百四十四條ニ定メタル無效ハ諾約者ノ自然義務ノ生スルコトヲ妨ケス
（理由）
原文ニ基キ修正シタリ
（栗塚委員）
之ヲ悉皆改メテ意味ヲ充分ナラシムル爲メ箇樣ニ修正致シマシタ、第三者ノ所爲ノ諾約及ビ第三者ノ利益ニ於ケル要約ニ關シ第三百四十三條及ビ第三百四十四條ニ定メタル無效ハ諾約者ノ自然義務ノ生ズルコトヲ妨ゲズトシマシタ
（村田委員）
其方ガ良シイ
（松岡委員）
團十郎ニ踊ラスト云フ時分ニ私ガ自然義務デ踊ラスト云フコトダ
（淸岡委員）
團十郎ガ承知サヘスレバ宜シイ
（松岡委員）
團十郎ガ否ヤト云ヘバ無效ニナルノデ其時分ニ己レガ遣ルト言ヘバ遣ツテ良イト云フノデアリマス
（淸岡委員）
自然義務ヲ生ズルト云フコトハオカシイ
（箕作委員）
團十郎ノ踊ラン爲メニ興行スル奴ガ損ガ往ケバ償ヒヲ仕樣ト云フノデス
（松岡委員）
自分ガヤツテモ良イト云フノデス
（村田委員）
之レハオシイカラ刪リマシヨウ
（南部委員）
此處計リ刪ルコトハ出來マセン
（淸岡委員）
第三者ノ所爲ノ諾約ト云フハ入ラン
（箕作委員）
團十郎ニ踊ラスト云フノ踊ルト云フ所爲ヲダ
（淸岡委員）
入リマスカネ
（南部委員）
之ガ若シナイト自然義務ガ生ゼンカ生ゼント思フト往カンカラデス
（淸岡委員）
思フカモ知レマセン
（南部委員）
踊ランデ遣ロウト思ツタガ踊ラントキハ己レガ遣ロウト云フノデス
（淸岡委員）
團十郎ガ踊ラント團十ノ代リニ菊五ヲ連レテ來テモ良イデハナイカコンナコトヲ言ヒ出シタラ實ニ溜ラン
（南部委員）
ソレナラ自然義務ヲ削ルト言ハナケレバナリマセン之一ツ刪ルト云フコトハ相成ラン
（北畠委員）
之レ一ツノ爲メニ自然義務ヲ刪ルト云フコトハナラン
（南部委員）
權衡ガ合ハンカラ害ハナイト言ツテモ權衡ヲ一定ニ調ベナケレバナリマセン苟モ法律ダカラ君方ガ害ガナイト云ツテモ廣イ天下ノ法律デス
（松岡委員）
團十ガ踊ラント誰レガ踊ランカト云フ心配ハナイ之ハ刪ロウデハナイカ
（村田委員）
刪ルハ贊成
（槇村委員）
置クガ宜シイ
（南部委員）
跛ニナルノハナゲカハシイ
（北畠委員）
無論刪リマシヨウ
（箕作委員）
刪ツテモ良イデシヨウ
（大尾崎委員）
刪ツテモ宜シイ
（南部委員）
ソレデハ九十一條モ同ジコトデス權衡ガ合ヒマセン
（淸岡委員）
コンナコトヲ悉ク言ハレナケレバナランコトハナイ
本條ハ刪除ニ決ス
第五百九十四條朗讀ス
第五百九十四條 債務者カ不當ノ利得、不正ノ損害又ハ法律ノ規定ニ因リ法定義務ヲ負擔スルコト有ル可キ場合ノ外債務者ハ此名義ニテ自然義務ヲ負擔シタリト有效ニ自ラ認定スルコトヲ得
（大尾崎委員）
之モオカシイ
（松岡委員）
是等ハ本當ニ要用ノ文デアリマシヨウ
（南部委員）
同ジコトデス
本條ハ原案ニ決ス
第五百九十五條朗讀ス
第五百九十五條 自然義務ハ法定義務ノ銷除、廢罷又ハ解除カ裁判上ニテ宣吿セラレタル後存立スルコトヲ得
此他法定義務カ法律上ノ消滅方法ニ因リ消滅シタル後ニ於テモ亦同シ
修正第五百九十五條第二項「此他」ノ二字ヲ刪リ「消滅方法」ノ上「此他ノ」ノ三字ヲ置ク
（理由）
同上
（栗塚委員）
第二項ハ御置キニナルナラ此他ト云フノヲ刪ツテ法定義務ガ此他ノ云々トシタ方ガ宜シイ
（箕作委員）
外ノ方法ト云フノカ
（松岡委員）
裁判上ノ外ダロウ
（箕作委員）
裁判上宣吿セラレタ時ニダ
（松岡委員）
合意上銷除シタニ自然義務ダカラ己レガ拂フト云フノハオカシイ
（南部委員）
之ハ一項ヲ刪ツテ二項ヲ存スルト云フコトハ出來マセン
（大尾崎委員）
之ハ皆ナ刪リマシヨウ
（箕作委員）
之ハ入用デス
（松岡委員）
法律上ト云フノハ刪ツテハドウカ
（栗塚委員）
良イ樣デス
（南部委員）
此他消滅シタルトキニト見ハセンカ
（松岡委員）
法律上ト言ハズ法定義務ガ此他ノ消滅方法ニ因リトシテハドウカ
（箕作委員）
其レデモ宜シイ
（淸岡委員）
法律上ト云フノハ力ガアルノデハナイカ法律上ノ消滅ノ方ニ於テモト云フノデハナイカ
（松岡委員）
法律デ義務消滅方法ハ勿論法律上ニ定マツテ居ル
（箕作委員）
法律上デ消滅シテモ自然義務ハ殘ルト云フノダ
（栗塚委員）
宜シウ御座イマス
本條ハ第二項「法律上」ノ三字ヲ刪リ其他修正ニ決ス
第五百九十六條朗讀ス
第五百九十六條 免責又ハ取得ノ時效ノ利益ヲ用ヒタル者確定シタル判決ノ利益ヲ受ケタル者又ハ其他ノ推定若クハ證據ヲ申立ツルコトヲ得ヘキ者ハ尙ホ自然義務ヲ負擔セリト自ラ認定スルコトヲ得
第五百九十六條「確定シタル」ヲ「既判力ヲ得タル」ト改メ「受タ」ヲ「受ケタ」ト改ム
（理由）
同上
（栗塚委員）
用ヒタル者既判力ト致シマシタ實ハ既判力ノ利益ヲ與ヘル者トシテ宜シイ
（箕作委員）
ソウシマシヨウ
（栗塚委員）
ソウスルト次ノ「又ハ」ハ刪ツテ宜シイ
（淸岡委員）
用ヒルト云フハ外ニ用ヒタコトガアリマスカ
（栗塚委員）
援用シタル者デアリマス
（南部委員）
利益ヲ援用シタル者ガ良シイ
（淸岡委員）
援用ガ宜シイ
（松岡委員）
之レモ自然義務ニ必要デアリマス
本條ハ「利益ヲ用ヒタル者」トアルヲ「利益ヲ援用シタル奢」ト改メ「利益ヲ受クル者」ノ下「又ハ」ノ二字ヲ刪リ其他修正ニ決ス
第五百九十七條朗讀ス
第五百九十七條 自然債權ノ法定ノ讓渡ハ協諧契約ヲ以テ破產者ニ免除シタル金額ニ付キ其債權者ノ之ヲ爲シタル場合ノミ有效ナリ
（村田委員）
之ハ宜シイガ自然義務ニ對スル債權ノ讓渡ハトシテハドウカ
（北畠委員）
其方ガ宜シイ
（南部委員）
矢張リ自然債權デ宜シイ
（淸岡委員）
免除シタモノヲ又讓渡スト云フハドウ云フモノカ
（南部委員）
免除シテモ協諧契約ヲ一方ガ仕遂ゲナイト元トヘ戻ツテ來ルノデアリマス
（淸岡委員）
戻ツテ來レバ自然義務デハナイ樣デス
（村田委員）
例ヘバ協諧契約デ以テ二百圓ノ物ヲ百圓デ負ケテヤツタ處ガソレガ金持チニナツタモノダカラ返シテ遣ロウト云フケレドモソウスルト私ハ身代限ニナツタ處ガ御前百圓返ス云フガ處ガ一月マデ待ツテ呉レト云フ一月ニナレバ拂フト云フ其レマデ待テンカラ賣ルノデアリマス
（淸岡委員）
ソレナラバ自然債權デハナイ
（村田委員）
併シ債權ハ私ニ返シテ遣ロウト云フノデス
（淸岡委員）
返シマス併シナガラ今ハナイ來月返シマスト云フノナラバ債權ハ別ニ生ジタノデアリマス
（村田委員）
ソレガ自然ノ債權デアリマス
（南部委員）
銷除シタガ生キテ來ルノデアリマス
（松岡委員）
コウ云フ趣意ダロウ當リ前法定ノ權利ヲ失ツタ債權ハ讓渡ハ出來ン唯協諧契約デ破產者ニ許シテ居ツタ殘リ證文ハ讓レルト云フノデアリマス
（村田委員）
殘リ證文デハナイ良心ニ於テ御前ユ損ヲ掛ケルノハ惡イカラ返スト云フト向フガ債權ヲ來月マデ待テンカラ賣ルコトガ出來ルト云フノデアリマス
（栗塚委員）
此處デ云フノハ自然債權ノ讓渡ハ債權者ノミ之ヲ爲スコトヲ得ト云フノデアリマス
（箕作委員）
破產者三議渡スノデシヨウ
（南部委員）
ソウデハナイ誰ヘデモ宜シイ
（松岡委員）
此自然債權ト云フノハ取レルト云フコトハナイ時デ時效ニ掛ツタ古イ證文或ハ證書ヲ負ケタ證書ハ讓レナイゾヨト、ケレドモ協諧契約デ免除シタモノソレハ認メタ者ハ法定義務ニナルノデス
（箕作委員）
當リ前法定ノモノハ讓渡ハナラント謂テソレカラ例外ガアルト云フノデ例外ハ此樣ニナルノデシヨウ
（淸岡委員）
免除シタモノハ讓レルモノデハナイ
（松岡委員）
協諧契約ト云フモノハ讓レルノデ自然義務ノ今迄ヤツタモノハ認メナイ以前ニ自然債權ガアルト云フコトハ往カント云フノデ只協諧契約デ免除シタハ純粹ノ自然義務デナイカラダ
（栗塚委員）
去リ迚モ此方カラ訴ヘルコトハ出來ンソレハ置イタ所以デ御座イマシヨウ
（箕作委員）
物件ガアル爲メ第三者ガ拂フト讓リ受人ガ取レルノデシヨウ
（村田委員）
債權ハ讓受人ニアルノデ其讓受人ハ又脇ヘ賣ルコトダ破產者ガ債權者ニ遣ル其債權者ガ遣ルノデアリマス
（南部委員）
誰レニ遣ルノカ
（松岡委員）
私ガ身代限リヲスル貴君ハ貸主ダ債權ヲ持テ居ルダロウソレヲ私ハ協諧契約ダツテ訴ヘル權ヲシテ讓ルノダロウ其トキ證文ハ栗塚君ニ讓レルノデアリマス
（村田委員）
其時貴君ガ返ソウト言タノダロウ
（松岡委員）
ソレハ構ハンノデアリマス尋常免除シタモノナラバ讓レナイノデアリマス
（南部委員）
未定期限ノモノト同ジデアリマス
（箕作委員）
註ニモアリマスガ金額ハ豫メ定マツテ居ルノデアリマス
（粟塚委員）
詰リ協諧契約デ免除サレテ居ル義務ハ自然義務デアルト云フノデス
（松岡委員）
半自然義務デアリマス純粹自然義務ハ讓レンガ唯自然義務ハ讓レルナゼナレバ復權スルコトガアルカラデス
（大尾崎委員）
其處ガ微妙ノ理由デス
（栗塚委員）
法定ニ近イ方デス
本條ハ原案ニ決ス
第五百九十八條朗讀ス
第五百九十八條 連帶又ハ不可分ノ資格ヲ有スル法定義務ニ代替シ又ハ其消滅後ニ存立スル自然義務ハ連帶又ハ不可分タルコトヲ得
修正第五百九十八條「資格ヲ有スル」ノ六字ヲ刪ル
（理由）
必要ナラサルニ付刪除シタリ
本條ハ刪除ニ決ス
第五百九十九條朗讀ス
第五百九十九條 裁判所カ自然義務ノ任意履行、認定其他ノ法律上ノ效力ヲ裁判ス可キトキハ全權ヲ以テ債務者ノ意思ヲ判決ス然レトモ裁判所カ前數條ノ規定ニ付キ誤謬ノ適用ヲ爲シタルトキハ其判決ハ之ヲ破毀ニ付ス
本條ハ刪除ニ決ス
第六百條朗讀ス
第六百條 當事者ハ自然義務ノ任意ノ履行又ハ認定アラサル前ト雖モ仲裁契約ヲ以テ其自然義務ノ成立又ハ廣狹ヲ仲裁人ノ決定ニ委スルコトヲ得此場合ニ於テハ自然義務ヲ宣言シタル其決定ハ法定ノ義務ヲ生ス然レトモ法律カ自然義務ヲ無シトスル場合ニ於テ有リトシ之ヲ有リトスル場合ニ於テ無シト宣言シタルトキハ其決定ハ無效ナリ但右孰レノ場合ニ於テモ當事者ガ仲裁人ニ仲裁ノ全權ヲ與ヘタルトキハ此限ニ在ラス
修正第六百條「但」ノ下「右」ヲ「此」ト改ム
（理由）
前例ニ因リ修正シタリ
本條ハ刪除ニ決ス