民法債權擔保篇再調査按第三十回議事筆記
自第千百七十五條至第千二百十條
明治二十一年十二月四日午前九時三十分開會
第千百七十五條朗讀ス
第二則 共同分割者ノ先取特權
第千百七十五條 相續人、社員其他ノ共有者ハ或ハ抽籤ノ方法或ハ合意上ノ指定或ハ不分物競賣ニ因レル分割ヨリ生スル左ノ債權ノ爲メ其分割ニ於テ各自ノ得タル不動產ニ付キ互ニ先取特權ヲ有ス
第一 補足額ノ爲メ又ハ配當ノ過分ノ爲メニハ之ヲ負擔セル分割者ニ歸シタル不動產ニ付キ先取特權アリ
第二 不分物競賣ノ代價ノ爲メニハ其競賣シタル不動產ニ付キ先取特權アリ
第三 分割者ノ一人カ其配當部分ノ動產又ハ不動產ニ於テ受ケタル追奪ノ擔保ノ爲メニハ他ノ分割者ニ歸シタル總不動產ニ付キ先取特權アリ但債務ニ於ケル各分割者ノ部分ニ限ル
本條ハ原按ニ決ス
第千百七十六條朗讀ス
第千百七十六條 右ノ擔保ハ亦左ノ諸件ニ之ヲ適用ス
第一 相續人又ハ社員ニシテ他ノ相續人又ハ社員ニ對シ補足額又ハ不分物競賣ノ代價ヲ負擔シタル者ノ無資力
第二 分割者ノ一人ノ配當部分ニ債權ヲ充テタルトキ其債務者ノ無資力但其債務者ハ分割者タルト外人タルトヲ問ハス分割ノ當時無資力タリシコトヲ要ス
(村田)
此處ハ無資力丈ケデ破產ハ宜シウ御座イマスカ
(栗塚)
宜シウ御座イマス此時ハ商人ノ場合ヲ考ヘテ書キマセンカラ
(村田)
此間破產ヲ入レタカラ此處ヘモ入レナケレバナランダロウ無資力バカリデ通レバ宜シイケレドモ此間ノ處モ入レン方ガ良カロウ千百四十五條ニ破產ト入レテアル
(栗塚)
千百四十五條ハ無資力ト云フ字ハ書イテナク二ツニ書キ分ケテアリマス破產又ハ分產ト書イテアリマスガ此處ハ廣イ字デ書イテアリマス日本文デ無資力ト云フト破產ガ這入ルカ這入ランカト云ヘバ無論這入ルノデ御座イマスカラ宜シウ御座イマス
(淸岡)
配當部分ニ債權ヲ當テタルトキト云フノカ
(栗塚)
貴君ト私デ物ヲ分ツタ私ハ債權デ取ツタトキ債務者ガ無資力ニナツタ場合デス
(村田)
債權ニテ分割ヲ受ケタモノト云フノダ
本條ハ原按ニ決ス
第千百七十七條朗讀ス
第千百七十七條 第千百七十四條ハ分割者間ノ追奪擔保ノ先取特權ニ之ヲ適用ス
分割者タルト否トヲ問ハス債務者ノ無資力ニ關シテハ其擔保ハ元本ニ於ケル債務ノ滿期ヨリ一个年內ニ請求ヲ爲シ之ヲ公示シタルトキニ非サレハ當事者ノ間ニテモ又第三者ニ對シテモ之ヲ負擔セシムルコトヲ得ス
債務カ無期又ハ終身ノ年金權タルトキ債務者ノ無資力カ分割ノ日ヨリ十个年後ニ生スルニ於テハ其擔保ノ負擔ハ止ム
債務カ利息ヲ生スル元本ニシテ其滿期ノ十个年以上ニ及フトキモ亦同シ
本條ハ原案ニ決ス
第千百七十八條朗讀ス
第三則 工匠、技師及ヒ工事請負人ノ先取特權
第千百七十八條 工匠、技師及ヒ工事請負人ハ建物、堤塘若クハ掘割ノ築造若クハ修繕ニ付キ又ハ地上ニ爲シタル排洩、灌漑、開墾置土其他之ニ類似スル土工ニ付キ自己ノ指揮又ハ擧行シタル工事ヨリ生スル債權ノ爲メ先取特權ヲ有ス
右ノ先取特權ハ鑛坑及ヒ石坑ノ開掘、利用閉鎖又ハ廢止ニ關スル地下又ハ外部ノ工事ノ爲メ工匠、技師及ヒ工事請負人ニ屬ス
(箕作)
排洩ト云フハ乾カスト云フ字デスネ
(栗塚)
印播沼抔ヲ排洩スルト云フノダカラ此字デ宜シウ御座イマシヨウ
(元尾崎)
掘割ノ築造修繕ニ付キ先取特權ト云フノハ掘割ヲ先取スルノカ
(松岡)
工事ヨリ生ズル增加ダ
(元尾崎)
掘割シタラ增加ニナランダロウ
(栗塚)
河ヲ掘ツタノハ便利ニナツタノデス
(箕作)
「付キ」ト云フノハ歐文デ「プール」ト云フノデシヨウ之ハ修繕ノ爲メ自己ノ指揮シタル擧行シタルト云フノデ何ノ爲メト云フコトハ未ダ云ハンノデス
(栗塚)
ソウデス旅店ノ主人ガ旅客ノ宿料ノ爲メ手荷ニ付キトナツテ居マスカラ之ハ爲メデナケレバナリマセン
(淸岡)
債權ノ爲メトアルカラ同ジコトダ
(栗塚)
爲メニガ二ツ重ツテモ宜シウ御座イマシヨウ
(南部)
ソレハ可笑シイ
(松岡)
何々ニ付キ債權ノ爲メト云フノモ同ジコトダロウ
(栗塚)
今迄何ノ爲メ何ニ付キ先取特權ヲ有スト云フ文例ニナツテ居リマス
(淸岡)
修繕ノ爲メ債權ニ付キトシヨウ
(南部)
修繕ノ爲メ債權ノ爲メトシタラ良カロウ
(松岡)
「ニ付キ」ヲ止メテ修繕又ハ何ヲ擧行シタル工事ヨリ生ズル債權ノ爲メトスレバ宜シイ
(栗塚)
「ニ付キ」ヲ止メテ「類似スル工事ヨリ生スル債權ノ爲メ」トシタラ良カロウ
(箕作)
ソレガ宜シイ
(南部)
「ニ付キ」ハアツテモ宜シイ
(箕作)
「築造若クハ修繕又ハ地上ニ爲シタル排洩、灌漑、開墾置土其他之ニ類似スル工事ヨリ生スル債權ノ爲メ」トシタラ良カロウ
本條第一項ハ左ノ如ク改ム
工匠技師及ヒ工事請負人ハ建物、堤塘若クハ掘割ノ築造若クハ修繕又ハ地上ニ爲シタル排洩、灌漑開墾、置土其他之ニ類似スル工事ヨリ生スル債權ノ爲メ先取特權ヲ有ス
第千百七十九條朗讀ス
第千百七十九條 右ノ工事ヨリ生スル先取特權ハ其工事ニ因リ土地又ハ建物ニ加ヘタル增價ニシテ先取特權ノ當時猶ホ存在スルモノヽミニ付キ存ス
右ノ增價ハ裁判所ノ選定シタル鑑定人ノ作レル三箇ノ調書ヲ以テ之ヲ明定スルコトヲ要ス
其第一調書ハ工事ヲ始ムル前ニ之ヲ作リテ場所ノ現狀ヲ明定シ且目論見タル工事ノ槪略ヲ指示スルコトヲ要ス
其第二調書ハ工事ノ竣成ヨリ又ハ原因ノ如何ヲ問ハス其工事ノ絕止ヨリ三个月內ニ之ヲ作リ且其工事ヨリ現ニ生スル增價ヲ明定スルコトヲ要ス
其第三調書ハ配當加入ノ請求ノ當時之ヲ作リ且右增價ノ存在スルモノヲ明定スルコトヲ要ス
本條ハ原案ニ決ス
第千百八十條朗讀ス
第四則 金錢貸主ノ先取特權
第千百八十條 前數條ニ揭ケタル先取特權ハ讓渡若クハ分割ノ當時又ハ工匠、技師若クハ工事請負人トノ契約ノ當時ニ於テ賣買若クハ不分物競賣ノ代價、交換若クハ分割ノ補足額又ハ工事ノ代金ノ辨濟ノ爲メ金錢ヲ貸付スル者ニ法律ニ依リ直接ニ屬ス但其金錢ノ貸付及ヒ使用ヲ此等ノ行爲ノ證書中ニ記載シタルトキニ限ル
若シ讓渡人、分割者又ハ工事ノ爲メノ債權者ノ利益ニ於テ先取特權ノ生セン後ニ金錢ヲ貸付ケタトキハ貸主ハ第五百二條及ヒ第五百三條ニ定メタル條件及ヒ方式ニ從ヒ債權者又ハ債務者ヨリ合意上ノ代位ヲ得タルトキニ非サレハ先取特權ヲ取得セス
孰レノ場合ニ於テモ金錢ノ貸主カ債務ノ一分ノミヲ辨濟シタルトキハ貸主ハ其辨濟シタルモノヽ割合ニ應シ第五百八條ニ從ヒ原債權者ト共ニ先取特權ヲ行フ
(箕作)
二項ノ債權者又ハ債務者ヨリト云フノハドウ云フ場合デス
(南部)
債務者ノ委託ニ依ツテ金ヲ拂ツテヤツタ人デス
本條ハ原案ニ決ス
第千百八十一條朗讀ス
第五則 資產分離ノ先取特權
第千百八十一條 相續ノ債權者及ヒ受遺者カ死亡者ノ遺產ト相續人ノ資產トノ分離ヲ請求スルノ權利ヲ行フニ付キ服從ス可キ條件ハ相續ノ事項ニ之ヲ規定ス
(松岡)
之レハ入ラン人事篇ガ出來ナケレバ分ラン
(元尾崎)
之ハ削ロウ
(淸岡)
モツト先取特權ヲ減ラスコトハ出來ナイカ知ラン
(栗塚)
ソウスルト次ノ條モ削ラナケレバナリマセン
(渡)
次ノ條ヲ讀ンデ見レバ宜シイ
第千百八十二條朗讀ス
第千百八十二條 讓渡人、分割者及ヒ資產分離ヲ請求シタル債權者並ニ受遺者ノ先取特權ハ債務者ノ所爲ニ因リ又ハ其權利ニ基キ且其費用ヲ以テ不動產ニ加ヘタル增加及ヒ改良ニ及ハス
(村田)
之モ入ラン
(南部)
前條モ置イテ良カロウ
(栗塚)
害ガナイカラ置イテモ宜シウ御座イマシヨウ
(渡)
八十二條ハ置イテモ宜シイ
(元尾崎)
讓渡人分割者ハ資產分離デハナイダロウ
(村田)
資產分離ノ讓渡人ダ
(大尾崎)
皆置クガ宜シイ
(栗塚)
置クナラ皆ナ置カナケレバ良クナイ適用ノナイ法律ト見テ置ケバ宜シイ
(村田)
外ニ影響ハナイカラ削ツテ宜シイ
(元尾崎)
讓渡人ハ資產分離ノ讓渡人デハアルマイ
(箕作)
一體ノ讓渡人デス
(元尾崎)
ソウスルト題ニ合ハン
(大尾崎)
相續ノ讓渡人ダロウ
(元尾崎)
ソウデハナイ一般ノ讓渡人ダ
(淸岡)
共同分割者ダロウ
(南部)
一般ノ讓渡人デス
(箕作)
入レル處ガナイカラ此處ヘ入レタノデ御座イマシヨウ
(松岡)
讓渡人分割者デモ詰リ死亡者ノ遺產ニ對シテ云フノダロウ尋常普通ノ相對ノ讓渡人デハアルマイ
(村田)
一般ノ讓渡人ガ良イナラバ此處ニ書ク筈ガナイ
(箕作)
之ハ單純ノ場合デス讓渡人ト受遺者ト三ツ丈ケノコトヲ云フ、請負人ト金員ヲ貸シタモノノ先取特權ハ別ニ云ハンデモ分ルト云フノデスカラ
(松岡)
五則ノ中ハ資產分離八十一條デス相續ノ債權者或ハ死亡遺產云々トアツテ只ノ債權デハナイ遺產ノモノノ分割シタモノト云フノデ目的タルモノハ死亡者ノ遺產ト云ハナケレバ題ニ合ハナイ
(渡)
死亡者ノ遺產デナケレバナラント云フノハ千百七十一條ノ五項カラ出テ來タノダ
(南部)
ソウデナイト云フコトガ註ニアル
(栗塚)
資產分離ヲ請求シタル債權者並ニ受遺者ノ先取特權ハト云フノモ同ジコトデス
(淸岡)
讓渡人分割者ニ付テモ亦同ジデ宜シイ
(元尾崎)
削ルガ宜シイ
(村田)
削ツテ宜シイ
(松岡)
如何ニ「ボアソナード」ガ疎漏デモ共同派分者ハ一則ニ書キ此處デ一口ニ資產分離ノ中ニ書クノハ良クナイ若シ眞ニ間違ツテ居レバ「ボアソナード」ニ直サセルガ宜シイ
(南部)
商法ニモアル此規則ハ何ノ規則ニ適用スト云フコトガアル
(大尾崎)
終リヘ入レルガ宜シイ
(南部)
右ノ規定ハ讓渡人分割者ニ付イテモ之ヲ適用スデ宜シイ
(栗塚)
右ノ規定ハ讓渡人及分割者ノ先取特權ニ之ヲ適用スデ宜シイ
(箕作)
資產分離ガ間違ヒダト云フナレバ一則ニ記シタル先取特權及ビ第三則ニ記シタルトシタラ良カロウ
(南部)
ソレハ入ラナイ
(箕作)
五則ヘ入レテ宜クノガ不適當ダト云フ議論ガアルカラ五則ダケレドモ一則二則ニ記シタル先取特權ニ之ヲ適用スト書ケバ宜シイ
(栗塚)
其ノ方ガ宜シウ御座イマシヨウ五則ト云フノガ惡ルイト云フ論カラ出タノデ御座イマス
(南部)
ソンナコトハ云ハンデモ宜シイ
(村田)
分割者ハ不動產バカリニ限ラン
(栗塚)
不動產バカリデス
(松岡)
動產ノコトハ出來ナイ
(栗塚)
前ノ「讓渡人分割者及ヒ」ヲ削ツテ末項ニ「右ノ規定ハ不動產ノ讓渡人又ハ分割者ノ先取特權ニ之ヲ適用ス」ト致シマス
本條第一項「讓渡人分割者及ヒ」ノ八字ヲ割リ左ノ二項ヲ新設ス
右ノ規定ハ不動產ノ讓渡人又ハ分割者ノ先取特權ニ之ヲ適用ス
第千百八十三條朗讀ス
第二款 不動產ニ係ル特別ノ先取特權ノ債權者間ノ効力及ヒ順位
第千百八十三條 前款ニ揭ケタル先取特權ハ下ニ定メタル方法、條件及ヒ期間ヲ以テ公示シ且保存シタルトキニ非サレハ之ヲ以テ他ノ債權者ニ對抗スルコトヲ得ス
(松岡)
此ノ先取特權ハ勉強スルモノニ褒美ヲヤルト云フノダロウ
(栗塚)
原因ガ何ノ爲メト云フノデ御座イマス
本條ハ原案ニ決ス
第千百八十四條朗讀ス
第千百八十四條 賣買代價ノ爲スノ賣主ノ先取特權及ヒ補足額ノ爲メノ交換者ノ先取特權ハ代價又ハ補足額ノ全部又ハ一分ヲ未タ辨濟セサル旨ヲ記シタル所有權移轉證書ノ登記ヲ以テ之ヲ保存ス
又交換ニ於ケル追奪擔保ノ爲メ及ヒ賣買、交換其他所有權移轉契約ノ附從負擔ノ爲メノ先取特權ハ證書ノ登記ヲ以テ之ヲ保存ス但擔保及ヒ負擔ノ評價ヲ證書中ニ記載シタルトキニ限ル
本條ハ原案ニ決ス
第千百八十五條朗讀ス
第千百八十五條 分割者ノ先取特權ハ所有權表白ノ効力アル分割ノ證書ヲ登記スルニ因リ之ヲ保存ス但其證書ニ不分物競賣代價又ハ補足額若クハ配當ノ過分及ヒ追奪擔保ノ評價其他各配當部分ノ負擔ノ評價ヲ記載シタルトキニ限ル
(栗塚)
表白ハ認定トナリマス
(箕作)
先取特權ハ分割ノ證書ヲ登記スルニ依リトシテ所有權認定ノ効力アルハ削ルガ宜シイ
(栗塚)
所有權移轉デナイト云フ處ヲ見セルノデ御座イマス
(南部)
分割證書デ宜シイ
(栗塚)
「ノ」ノ字ヲ削ツテ宜シウ御座イマス分割シタトキ初メテ効力ガ移轉スルカ或ハ所有權ノ移轉デナク所有權ハ元トカラアルノガ必要ダト云フコトヲ申シマシタ其コトデ御座イマス
(箕作)
効力ノナイ分割證書ガアルカト云フトソンナモノハナイカラ先取特權ハ分割證書ヲ登記スルデ宜シイ
(松岡)
ソレデ宜シイ
(南部)
併此字ガアルノデ註ヲ見ナイデ分ルノデ御座イマシヨウ
(元尾崎)
削ル說ニ同意シマス
(北畠)
贊成シマシヨウ
(栗塚)
此處ノモノヲ以テ補ヒ互ニ分カトウト云フトキカ分カツタトキハ所有權ガ移ツタ樣ニ人ガ思フカ知レマセン
(松岡)
ソレハ誰レモ思フマイ
(箕作)
効力アルト書イテ置クト効力ノナイ分割證書ガアツテ効力ノアル分割證書ヲ登記スル樣ニ思フカモ知レン
(南部)
所有權移轉ニ照應スルカラアツタ方ガ宜シイ
(松岡)
分割證書ト云フハ銘々ニ分ケルト云フノデ移轉ニ對スル字ダロウ
(栗塚)
ソウデハ御座イマセン移轉ト云フ字ハ認定ト云フ字ニ見合ハセテアルノデ契約ト云フ字ガ分割證書ト見合ハセテアルノデス
(箕作)
ソンナラ所有權認定ノ證書デ宜シイノデス
(栗塚)
詰リ認定ノ効力アル分割ヲ登記スルト云フコトデス
(委員長)
削ルガ多數カ本條ハ左ノ如ク改ム分割者ノ先取特權ハ分割ノ證書ヲ登記スルニ因リテ之ヲ保存ス
(但以下原案ノ通リ)
第千百八十六條朗讀ス
第千百八十六條 右讓渡又ハ分割ノ證書登記ナキ間ハ取得者又ハ分割者ノ承諾シ又ハ其權利ニ基キテ生シタル物上擔保ハ公示シタルトキト雖モ之ヲ以テ先取特權アル債權者又ハ其承繼人ニ對抗スルコトヲ得ス但工事ヨリ生スル先取特權アル債權ハ此限ニ在ラス
然レトモ利害關係人ハ原契約者ノ承諾ヲ得スト雖モ常ニ右ノ登記ヲ爲サシムルコトヲ得
(松岡)
之ハイラナイ文ダ
(淸岡)
二項ノ登記ハ双方登記官ノ面前ニ於テ爲スベキニ此處デハ一人デ爲スノハ如何
(栗塚)
得ズト雖ドモ登記ヲ爲サシムルコトヲ得ト云フノハ何ウカ承諾スレバ無論ダガ假令承諾セズトモ強制執行ノ出來ルト云フノダソレヲ得ズト云フノハ不用ノモノト云フノダト說明委員ガ說イタ我々ノ考デハ假令承諾ハ向カセズトモ強テ之ヲ登記スルノ權利ヲ持ツテ居ルト云フコトデアツタ
(箕作)
原契約ハ元トノ賣主買主ノ承諾ガナクテモ登記ヲスルコトガ出來ルト云フノデシヨウ
(南部)
ソウデス
(箕作)
利害關係人ハ讓受ケタ人ト物上權ヲ持タ人デスネ
(南部)
ソウデス
(松岡)
利害關係人ト云フノハ擔保ヲ取ツテ居ル人ダ
(箕作)
登記ノナイ間ハ對抗ガ出來ナイカラ登記ヲスル
(元尾崎)
但工事ヨリ生ズル先取特權ト云フノハ
(松岡)
先取特權ガ出來ルノダ如何トナレバ增額ト云フカラ元トノ人ハ取ルコトハ出來ナイ自分ノ分サヘ登記シテアレバ効力アルト云フノダ
(委員長)
此文章ハヤツタ人ノ樣ニ見ヘルヤツタ人ノ方ヲ分割者ト云フノデハナイカ
(箕作)
ヤツタノ貰ツタノト云フコトハ來タ出ナイノデス只ダ分ケルト云フ丈ケノデス
(栗塚)
社員相續人共有者デ御座イマス
(委員長)
右ノ登記ト云フノハ
(栗塚)
前項ヲ指シテ居リマス此限ニ在ラズデ切レテ居リマスカラ宜シウ御座イマシヨウ
(箕作)
全體歐文デハ前項デハアリマセン
(松岡)
前回デ別項ニシタノダ
本條ハ原案ニ決ス
第千百八十七條朗讀ス
第千百八十七條 讓渡又ハ分割ノ證書ニ其對價物ノ全部若クハ一分ノ未タ辨濟ナキコト又ハ負擔ノ付シ有ルコトヲ記載セサルトキハ日後ノ證書ヲ以テ此遺脫ヲ補フコトヲ得且其證書ハ債權者ノ注意ヲ以テ讓渡又ハ分割ノ證書ト共ニ之ヲ公示スルコトヲ得
右日後ノ證書ヲ讓渡又ハ分割ノ證書ノ登記ト共ニ公示セサルトキハ債權者ハ何時ニテモ抵當ノ章ニ定ムル方式ニ從ヒ要旨ノ記入ヲ以テ其證書ヲ公示スルコトヲ得但此場合ニ於テハ先取特權ハ單純ナル法律上ノ抵當ニ變性ス
右ノ抵當ハ二箇ノ公示ノ間ニ於テ債務者ノ權利ニ基キ物上擔保ヲ取得シ且合式ニ之ヲ公示シタル債權者ニ之ヲ以テ對抗スルコトヲ得ス
讓渡若クハ分割ノ證書ニ記シタル負擔又ハ擔保ノ評價ヲ日後ノ證書ニ記載シタルトキモ亦同シ但其證書ノ抵當記入ハ其記入ヲ爲シタル日附ニ從ヒ債權者ノ順位ヲ定ム
(村田)
注意ヲ以テト云フコトハナクテモ宜シイ
(栗塚)
債權者ヨリデス
(村田)
此處バカリ注意ト云フ字ヲ入レタノハ可笑シイ
(渡)
二ケノ公示ノ間ニ於テト云フノハ讓渡分割證書ト共ニシナカツタ二ケノ公示ダロウ
(栗塚)
ソウデス
(委員長)
公示スルト云フノハ登記ヲスルノダロウ
(南部)
登記ヲスル前ニ抵當ニ取ツタノデス
本條ハ原案ニ決ス
第千百八十八條朗讀ス
第千百八十八條 賣主其他讓渡人又ハ分割者ノ先取特權カ法律上ノ抵當ニ變性シタルトキハ此抵當ノ記入前ニ讓渡又ハ分割ノ目的タル不動產ニ付テノ物上擔保ヲ債務者ノ權利ニ基キテ取得シ且合式ニ保存シタル債權者ヲ害シテ義務不履行ノ爲メノ解除訴權ヲ行フコトヲ得ス
本條ハ原案ニ決ス
第千百八十九條朗讀ス
第千百八十九條 工匠、技師又ハ工事請負人ノ先取特權ハ第千百七十九條ニ定メタル第一第二ノ調書ノ記入ヲ以テ之ヲ保存ス
其第一調書ハ工事ヲ始ムル前ニ之ヲ記入スルコトヲ要ス
第二調書ハ其錄製ヨリ一个月內ニ於テ之ヲ記入スルコトヲ要ス
第二調書ノ記入ノ効力ハ第一調書ノ日附ニ溯及シ且工事ノ前又ハ後債務者ト約束シタル各人ニ對シ其增價ニ付テノ優先權ヲ先取特權アル債權者ニ保有セシム
利害關係人中一人ノ爲シタル右調書ノ記入ハ委任ナキトキト雖モ他ノ關係人ヲ利シ且總關係人ニ其債權ノ割合ニ應シテ辨濟ヲ受取ル爲メノ同一ノ順位ヲ保有セシム但總テノ者カ有益ノ時期ニ於テ必要ナル疏明ヲ爲スコトヲ要ス
本條ハ原案ニ決ス
第千百九十條朗讀ス
第千百九十條 前條ニ指定シタル期間ニ二箇ノ調書中其一ノ記入ヲ爲サヽリシトキハ先取特權ハ法律上ノ抵當ニ變性シ其順位ハ左ノ日附ヲ以テ之ヲ定ム
第一 工事ノ竣成又ハ絕止ノ時ヨリ三个月內ニ第二調書ヲ錄製シ且次月內ニ之ヲ記入シタルトキハ第一調書ノ遲延記入ノ日附
第二 右ノ三个月內ニ第二調書ヲ錄製セス又ハ三个月內ニ之ヲ錄製シタルモ次月內ニ之ヲ記入セサルトキハ其第二調書記入ノ日附
(松岡)
作製ト云フ字モ錄製ト云フ字モアリマシヨウ
(南部)
皆ナ錄製トナツタ
(委員長)
疏明ト云フ字ハ民法ニ用ユル樣ニナツタカ
(栗塚)
矢張リ疏明デ宜シイ積リデ御座イマス
(松岡)
未ダ定マランノデ御座イマスガ皆ナ訴訟法ト合ハセテ一定スル積リデ御座イマス
本條ハ原案ニ決ス
第千百九十一條朗讀ス
第千百九十一條 取得、分割又ハ工事ノ爲メ初メニ金圓ヲ貸付タル者ノ第千百八十條第一項ニ從ヒ有スル先取特權ハ賣主、分割者又ハ工事請負人ニ於ケルト同一ノ方法ヲ以テ之ヲ保存ス
右貸主カ後日代位ニ因リテ賣主、分割者又ハ工事請負人ニ承繼シタルトキ未タ先取特權ノ公示ナキニ於テハ其貸主ハ主タル證書及ヒ代位證書ノ登記又ハ記入ニ因リテ其公示ヲ爲サシム
若シ代位前ニ公示アリタルトキニハ貸主ハ登記シタル證書ノ緣邊ニ代位證書ノ附記ヲ請求ス可シ
又先取特權アル債權ヲ讓受ケタル者ハ讓渡證書ノ附記ヲ請求ス可シ
此末ノ二箇ノ場合ニ於テ附記ヲ爲サシムルコトヲ遲延シタル代位者又ハ讓受人ハ其以前善意ニテ債務者又ハ其承繼人ト原債權者トノ間ニ爲シタル辨濟其他ノ免責ノ行爲ヲ非難スルコトヲ得ス
(松岡)
非難ト云フ字ガ出來マシタネ
(栗塚)
駁撃ト云フ字デ御座イマスガ何レデモ宜シウ御座イマス
(南部)
駁撃ガ宜シイ
(松岡)
非難ト云フ方ハ古クカラ知ツテ居ルカラ非難ガ良カロウ
(栗塚)
駁撃ト願ヒマス
本條末項「非難」ヲ「駁撃」ト改ム
第千百九十二條朗讀ス
第千百九十二條 上ニ記載シタル如クニ保存シタル先取特權又ハ抵當アル債權ニシテ利息又ハ年金ノ附キタルモノハ利息又ハ年金ノ滿期ト爲リタル最終ノ二个年分ニ非サレハ元本ト同一ノ順位ニテ配當ニ加入スルコトヲ得ス但滿期ノ利息又ハ年金ノ中ニテ二个年以外ノモノヽ爲メ漸次ニ特別ノ抵當記入ヲ爲ス可キ債權者ノ權利ヲ妨ケス
(松岡)
默ツテ居テモ利息ガ取レルト思フト利息ハ取レンカ
(南部)
ソウダ
本條ハ原案ニ決ス
第千百九十二條第二朗讀ス
第千百九十二條〔第二〕 資產分離ヲ請求スル債權者及ヒ受遺者ハ擔保ノ爲メ留置セント欲スル財產ニ付キ相續ノ發開ヨリ六个月內ニ其債權又ハ遺贈ヲ記入スルコトヲ要ス
其記入ニハ債權又ハ遺贈ノ額ト其記入ヲ爲ス主旨トヲ附記スルコトヲ要ス
相續人ノ權利ニ基キ右ノ期間ニ爲シタル記入又ハ登記ハ分離請求者ニ之ヲ以テ對抗スルコトヲ得ス但工事請負人ノ先取特權ニ關シ次條ニ記載スルモノハ此限ニ在ラス
(松岡)
權利ニ基キハ何ヨリトハ出來ナイカネ
(栗塚)
ソレノ資格デト云フ字デス
(箕作)
遺贈ハ贈遺デスカ
(栗塚)
贈遺デス
(元尾崎)
分離シテモ權利ガアルノダロウ
(松岡)
分離シテ置イテモ外ヘ動カス樣ナコトヲシテハ役ニ立タナイ
(委員長)
右ノ期間ニ爲シタル記入ハ
(箕作)
相續人カラ承繼人ガスル
(元尾崎)
相續人ノ債權者モ自分モスルダロウ
(箕作)
相續人ノ債權者ガスル
(委員長)
何ガスルカ分ラン
(南部)
權利ニ基キト云フ字ニ切レルノデ御座イマスカラ六ケ敷デス
(箕作)
權利ニ基キト云フノハ何時デモ承繼人ガスルト思ツテ居レバ宜シイ
本條「遺贈」ヲ「贈遺」ト改ム
第千百九十三條朗讀ス
第千百九十三條 不動產ニ付キ先取特權アル債權者間ノ相互ノ優先權ハ左ノ順序ニ從フ
第一 工匠、技師及ヒ工事請負人但其債權カ後ニ生シタルトキモ亦優先權ヲ有ス
其工事ヨリ生スル增價額カ右ノ各人ニ全ク辨濟スルニ足ラサル場合ニ於テハ債權ノ割合ニ應シ同一ノ順位ニテ其配當加入ヲ定ム
第二 讓渡人又ハ分割者
逐次ノ讓渡又ハ派分ノ場合ニ於テハ優先權ハ債權者間最モ舊キ者ニ屬ス
金錢ノ貸主ハ或ハ初ヨリ或ハ合意上ノ代位ニ因リ其金錢ニテ全部又ハ一分ノ辨濟ヲ受ケタル債權者ト同一ノ順位ヲ有ス
資產ノ分離ヲ請求スル債權者及ヒ受遺者ハ死亡者ノ遺產ニ付キ其遺產カ相續人ニ歸シタル後之ニ增價ヲ與ヘタル工匠、技師及ヒ工事請負人ノミニ先セラル
資產ノ分離ハ死亡者ノ債權者間及ヒ受遺者間ノ相互ノ權利ヲ變更セス
(南部)
金錢ノ貸主ハ上ニ掛ルノデハナイカ
(栗塚)
金錢ノ貸主ハ上ニ掛ルノデ御座イマス
(元尾崎)
資產ノ分離モ上ニ掛リマスカ
(栗塚)
掛リマス
(委員長)
舊キモノニ屬スト云フノハ
(南部)
先キノモノハ先キニ取ルト云フノデス
本條ハ原案ニ決ス
第千百九十四條朗讀ス
第千百九十四條 先取特權ノ記入及ヒ其更新、抹殺、減少ニ關スル規則ハ先取特權及ヒ抵當權ニ共通ナリ且之ヲ次章ニ規定ス
(南部)
共通ナリ且ツ之ヲト云フノハ共通ノモノニシテ之デモ良カロウ
(淸岡)
共通ニシテデ宜シイ
(委員長)
共通ニシテトシヨウ
本條ハ「共通ナリ且之ヲ」トアルヲ「共通ニシテ之ヲ」ト改ム
于時正午休憩
午後一時十五分開會
第千百九十五條朗讀ス
第三款 第三所持者ニ對スル不動產先取特權ノ効力
第千百九十五條 合式ニ公示シタル先取特權ハ其負擔アル不動產ニ付キ第三所持者ノ方ニマテ追及ス
第三所持者カ下ニ定ムル方法ノ一ニ依リ先取特權アル債權者ニ辨償セサルトキハ其債權者ハ第三所持者ニ對シ其不動產ヲ差押ヘ之ヲ競賣ニ付スルコトヲ得
(松岡)
辨償ハ辨濟デハナイカ
(栗塚)
辨濟デ御座イマス
本條ハ「辨償」ヲ「辨濟」ト改ム
第千百九十六條朗讀ス
第千百九十六條 一般ノ先取特權ハ第三所持者ノ取得證書ノ登記前ニ之ヲ記入シタルトキニ非サレハ其第三所持者ニ移轉シタル不動產ニ付キ追及權ヲ與ヘス
本條ハ原案ニ決ス
第千百九十七條朗讀ス
第千百九十七條 轉得者ノ證書ノ登記前ニ登記セサル讓渡又ハ分割ニ因リ先取特權ヲ有スル債權者ハ其先取特權ノ生シタル證書ヲ登記セシムルコトニ付キ轉得者ヨリ催吿ヲ受ケタレトモ一个月內ニ其登記ヲ爲サシメサリシトキニ非サレハ追及權ヲ失ハス但此一个月ニハ距離ニ應シ法律上ノ期間ヲ加フ
然レトモ轉得者ハ讓渡人カ十个年以上不動產ニ付キ法定ノ占有ヲ爲シタルトキハ右ノ催吿ヲ爲スノ責ナク且舊所有者ノ總テノ先取特權ヲ免カル
(南部)
法律上ノ期間ヲ加ウト云フノヲ元ト削ツタノヲ入レマシタ
(村田)
セシムルト云フノハ惡ルイ
(南部)
登記スルトシマシヨウ
(栗塚)
ソレデハ直次モ其登記ヲ爲サザルトキト致シマス
(元尾崎)
セシムルデ良カロウ
(南部)
登記官吏ニサセル樣ニナルカラ「スル」トシタノデス
(元尾崎)
十ケ年以上ト云フコトハ分割ノ方ニハ入リマセンカ
(松岡)
同ジコトダ一ツアレバ宜シイト云フ積リダロウ
(栗塚)
「然レトモ轉得者ハ讓渡人又ハ分割者カ」ト致シマシタ
(南部)
分割者ガ占有スルコトガアリマスカ
(元尾崎)
分割シタ以上ハ占有シテ居ラナケレバナラン
(箕作)
分割者モ讓渡人ト同ジ樣ダ
(松岡)
同ジ理窟ダ
(槇村)
此轉得者ハ分割者カラ貰フノダロウ
(栗塚)
ソウデス轉得者ハ何レ得タ人デ御座イマスカラ讓渡人モ分割者ト云ヘマシヨウ
(南部)
上ノ讓渡分割トハ違フ
(箕作)
原文ニハ彼ガトアル
(栗塚)
「轉得者ハ其讓渡人カ」ト致シマシヨウ
(南部)
ソレデ宜シイ
本條第一項「登記セシムル」ヲ「登記スル」ト改メ「登記ヲナサシメサリシ」ヲ「登記ヲナササリシ」ト改ム第二項轉得者ハノ下ニ「其」ノ一字ヲ加フ
第千百九十八條朗讀ス
第千百九十八條 工事ニ因リ先取特權ヲ有スル債權者ハ工事ノ竣成又ハ其絕止ノ前ニ讓渡アリテ其證書ノ登記アリタルトキハ第一調書ノ記入ニ依リテ追及權ヲ行フコトヲ得
工事ノ竣成シ又ハ絕止シタルトキ第二調書ノ錄製及ヒ記入ノ二箇ノ期間カ未タ經過セサルニ於テハ右ノ債權者ハ此期間ノ滿了後又ハ第二調書ヲ錄製シ且記入セシム可キ催吿ヲ受ケタルモ一个月ノ期間ニ之ニ應セサリシ後ニ非サレハ先取特權ヲ失ハス
(南部)
之モ記入スベキトナル
(元尾崎)
之ハ催吿スル奴ガアルカ知ラン我々ハ外ヘ賣ルトキハ默ツテ賣ル
(箕作)
早ク失ハセルニハ催吿スルガ良カロウ
本條第二項「且記入セシム可キ」トアルヲ「且記入ス可キ」ト改ム
第千百九十九條朗讀ス
第千百九十九條 追及權ヲ保存シ及ヒ之ヲ行フ爲メニ必要ナル公示ヲ爲サヽル先取特權アル債權者ハ第三所持者ノ負擔シタル讓受代價ニ付キ優先權ヲ失ハス但代價ノ辨濟前又ハ順序配當手續ノ閉鎖前ニ自ラ債權者タルコトヲ知ラシメ且其債權ヲ證明シタルトキニ限ル
本條ハ原案ニ決ス
第千二百條朗讀ス
第千二百條 先取特權ニ關スル追及權其條件効力並ニ第三所持者カ所有權徵收ヲ避クルノ方法及ヒ先取特權消滅ノ原因ハ次章ノ第三節第五節乃至第七節ノ規定ニ從フ但先取特權ノ固有ノ規則ニ反スルモノハ此限ニ在ラス
(栗塚)
之ハ報吿委員デ修正致シマシタ抵當ノ處ニ附錄ト云フモノガアリマシテソノ附錄ヲ廢シマシテコウ云フ文章ニ直シマシタ
本條ハ原案ニ決ス
第千二百一條朗讀ス
第五章 抵當
第一節 抵當ノ性質及ヒ目的物
第千二百一條 抵當ハ法律又ハ人意ニ因リ或ル義務ヲ他ノ義務ニ先タチ辨償スル爲メニ充テタル不動產ノ上ノ物權ナリ但其不動產ヲ質入スルコトヲ要セス
(松岡)
質入ヲ要セズハ握有ト云フ字ハ握有ヲ要セズガ宜シイ
(槇村)
握有ヲ要セズガ宜シイ
(元尾崎)
不動產上ノ物權トシヨウ
(栗塚)
握有ト云フト取ツタ人カラ云フ言葉デ御座イマスガ元ハ入レル方ノ言葉デ御座イマスカラ充テル人ハ品物ヲヤルニ及バント云フ積リデ御座イマス
(南部)
質ヲ設クルヲ要セズガ宜シイ
(村田)
但ヲ削ルガ宜シイ
(南部)
中ヘ入レヨウカ
(松岡)
置クナレバ元トノ通リガ宜シイ
(栗塚)
抵當ト質ノ區別ヲ立テテ云フノデ御座イマスカラ但ヲ云ハント質ト同ジニナリマス
(渡)
但ヲ削ロウ
(南部)
註ニハ法律又ハ善意ニ依ル單リ法律ノミニ依テ出來ル先取特權トモ違フ又善意ニ依テヤル質トモ違ウト云フ意味デス
(箕作)
削ルノガ多數ダカラ削ロウ
本條ハ但書ヲ削除スルコトニ決ス
第千二百二條朗讀ス
第千二百二條 抵當ハ動產質及ヒ不動產質ニ付キ記載シタル如ク働方及ヒ受方ニテ不可分タリ但反對ノ合意アルトキハ此限ニ在ラス
本條ハ原案ニ決ス
第千二百三條朗讀ス
第千二百三條 抵當ハ不動產ノ完全所有權ノ上ノミナラス父母ノ法律上ノ用益權ヲ除クノ外ノ用益權、賃借權、永借權及ヒ地上權ノ上ニモ又此等ノ權利ヲ支分シタル所有權ノ上ニモ之ヲ設定スルコトヲ得
然レトモ完全ノ所有權ヲ有スル者ハ虛有權又ハ用益權ノミヲ分離シテ之ヲ抵當ト爲スコトヲ得ス又土地及ヒ建物ヲ所有スル者ハ土地ヲ分離シテ建物ノミヲ抵當ト爲シ又ハ建物ヲ分離シテ土地ノミヲ抵當ト爲スコトヲ得ス
此ニ反シテ右ノ所有者ハ其不動產ノ限界ニ因リ定マリタル部分又ハ其不分ノ幾部分ヲ抵當ト爲スコトヲ得
地役ハ要役地ヨリ分離シテ之ヲ抵當ト爲スコトヲ得ス又用方ニ因ル不動產ハ其附着スル不動產ヨリ分離シテ之ヲ抵當ト爲スコトヲ得ス
(栗塚)
又ハ以下ハ元ト削ツテアツタノデ御座イマス元來削除ニナリマシタノハ土地ト家トヲ別々ニ質ニ置ケント云フノハ不便デハナイカト云フコトデ削ラレマシタガ民法デ規定シテアル抵當ハ第一第二第三第四何人デモ債權デ吸ヒ取ラルル以上ハ幾ラデモ出來マス家ト地面ト一ツト見テ第一ノ抵當ヲ取リ第二ノ抵當ヲ取ツテ不便ハナイ家ガ五百圓地所ガ五百圓ノトキ第一ノ人ガ五百圓抵當ニ取レバ第二ノ抵當ハ五百圓ニ取レル家ガ五百圓ニ地所ガ五百圓ニ取レルカト云フトソレハ取レナイソレヨリモ家ト地面ヲ一箇ニ見テ千圓ト見レバ餘程都合ガ良クハナイカ債務者ニ取ツテモ債權者ニ取ツテモ同ジコトデアルカラ一ツモ不便デナイ債務者ガ家ヲ質ニ置クトキ地面ト一所デナケレバ質ニ取レント云フトキハ不便ナ樣デ御座イマスガ金高ガ多クナツテ居リマスカラ差支アリマセン
(箕作)
抵當ハ不可分ダカラ家ト地面ト一所ダカラ家ガ百圓ニ當リ地面ヲ入レルト千圓ニナルト云フトキ一所ニスルト云フト債務ガ少シデモ殘ツテ居ルト貴イ地面ガ一所ニ抵當ニナツテ仕舞フ
(栗塚)
一人ハ地面ヲ押ヘ一人ハ家ヲ押ヘタトキ二ツノ計算ヲ拵ヘナケレバナラン
(松岡)
ソレハ結構ダ分ケテ出來ルノハ結構ナコトダ
(栗塚)
借ル人ノ身ニ取ツテ地所ト家ヲ質ニ置イテモ別々ニ置クノモ一所ニ置クノモ同ジデハナイカ
(大尾崎)
假令バ家ト地面デ二千圓ノ金ガ借ラレルトキ千圓外金ガイラナイト云フトキハ先ヅ家バカリヲ質ニ入レヨウト云フ便利ガアル
(栗塚)
二千圓ノモノヲ質ニ入レレバ第一抵當デ千圓外アリマセン
(松岡)
凡ソ人間ガ家倉地面モ一所ニ質ニ這入ツテ居ルト云フノトハ私ノ地面ハ質ニ入レテアルケレドモ家ハ浮イテ居ルト云フノトハ世間ノ信用ガ違フ
(栗塚)
家ト地面デ千圓ノ價ガアツテ百圓ノ金ヲ借リルトキハ家ト地面デ千圓借レバ宜シイ
(大尾崎)
ソレハ大變不便ダ
(栗塚)
家丈ケノ抵當ヲシ地面丈ケノ抵當ヲシテ公賣ニシタトキ地面ハ賣ツテナイ家丈ケハ賣ツテ宜シイト云フ爭ハナイ
(元尾崎)
爭ノ起リ樣ハナイ
(栗塚)
別々ニスルヨリ一ツニシテ小切レニシテ抵當ニ入レテ差支ナイ
(松岡)
ソレヲスレバ世ノ中ニ害ガアルト云フナレバ兎モ角モ
(栗塚)
袴ト羽織ト一所ニ質ニ入レルトキ羽織丈ケ質ニ入レル方ガ便利ダト仰シヤイマスガ引離シテ質ニ入レル結果ト一所ニ入レル結果トドチラガ宜シウ御座イマシヨウ家丈ケノ見積リヲスルトキ地面丈ケノ見積リヲスルトキト違イマス家ガアツテ始メテ地價ガ高クナリマス
(松岡)
ソレヲ別々ニシタイト云ツテモ法律ガ出來ナイト云フノハ困ル
(栗塚)
日本デハ抵當ニ入レルト云フノヲ第一第二第三抵當ト云フノハ近來ノコトデ一ツモノヲ抵當ニ入レレバソレデアラン限リ金ヲ借リテ仕舞ウト云フ仕來リデ御座イマスガ家ヲ三分一四分一抵當ニ入レルト云フコトハ出來ル世ノ中ナレバ一所ニシテ小刻ミニスル方ガ便利デ御座イマシヨウ
(松岡)
四分五分ニ出來ルモノハ引離シテ入レル方ガ便利ダ
(栗塚)
千坪ノ屋敷ニ五百坪ノ建家ガアル家ト地面ヲ集メタトキハ地價ガ千坪一萬圓ニナル然ルニ家ガナイ爲メニ安クナルソウスレバ債務者ハ合ハセテ抵當ニ入レル方ガ便利ダロウ
(松岡)
馬鹿ナモノガアツテ家丈ケ賣ルト云フトキソレハ地面ト一所ニ賣ル方ガ價値ガ良カロウト云フナレバ喜ブカ知レン
(箕作)
私ハ此前ノ會議ハ知リマセンガ今日始メテ見テ誠ニ詰ランモノダト思ヒマス二番抵當ト云フコトモ分ツテ居ルガソレニ拘ハラズ家ト地面ト離スコトハナラント云フノハ詰ランコトダト思ヒマス
(村田)
跡デ都合ノ良イ樣ニスルノハ一所ニスル方ガ宜シイ
(淸岡)
「建物ヲ分離シテ土地ノミヲ抵當ニスルトキハ損害アリト知ルヘシ」ト修正シヨウ
(栗塚)
「又」以下ヲ削リマスカ第三項ノ「右ノ」ヲ削リマシヨウ
本條第二項「又土地及建物ヲ所有スルモノハ土地ヲ分離シテ建物ノミヲ抵當ト爲シ又ハ建物ヲ分離シテ土地ノミヲ抵當ト爲スコトヲ得ス」トアルヲ削除スルコトニ決ス
第三項「右ノ」ノ二字ヲ削ル
第千二百四條朗讀ス
第千二百四條 左ニ揭クルモノハ之ヲ抵當ト爲スコトヲ得ス
使用權、住居權其他讓渡スコトヲ得ス又ハ差押フルコトヲ得サル財產
第十一條第二號及ヒ第三號ニ揭ケタル如キ不動產債權
同第十一條第四號ニ揭ケタル如キ不動產ト爲シタル債權但之ヲ不動產ト爲スコトヲ許可スル法律カ其抵當ヲ許サヽルトキニ限ル
船舶ノ抵當ニ付テハ特別法ノ規定ニ從フ
(箕作)
船舶ノ抵當ハ商法ニアル
(栗塚)
ソレデハ商法ノ規定ニ從フト致シマシヨウ
(南部)
「同」ノ字ハ入ランダロウ
(栗塚)
「同第」ト云フノハ可笑シイ樣デ御座イマス
(南部)
船舶ノ抵當ヲ登記スルト云フコトハ商法ニハナイ樣デ御座イマス
(渡)
佛文ニハ同條第四號トアル
(栗塚)
同條デモ宜シイ
(委員長)
商法デ出來ント思ヘバ特別法デ補フ
(村田)
同ノ字ヲ削ルガ宜シイ
(箕作)
船舶債權者ト云フノガアル
(松岡)
商法ノ八百五十六條ニ記入ヲスルコトガアル
(栗塚)
ソレデハ商法ト致シマシヨウ
本條第四項「同」ノ字ヲ削ル第五項「特別法」ヲ「商法」ト改ム
第千二百五條朗讀ス
第千二百五條 此章ノ規定ハ商法其他特別法ニ於テ異例ヲ設ケサル限リハ此等ノ法律ヲ以テ設定シタル抵當ニ之ヲ適用ス
本條ハ原案ニ決ス
第千二百六條朗讀ス
第千二百六條 抵當ハ漸積地ノ如キ意外及ヒ無償ノ原因ニ由リ或ハ建造、栽植其他ノ工作ノ如キ債務者ノ所爲及ヒ費用ニ因リ不動產ニ生スルコト有ル可キ增加又ハ改良ニ當然及フモノトス但他ノ債權者ニ對シテ詐害ナキコトヲ要シ且前章ニ規定シタル如キ工匠、技師及ヒ工事請負人先取特權ヲ妨ケス
抵當ハ債務者カ縱令無償ニテ取得シタルモノタリトモ其隣接地ニ及ハサルモノトス但新圍障ノ設立又ハ舊圍障ノ廢棄ニ因リ隣接地ヲ抵當不動產ニ合體シタルトキモ亦同シ
(元尾崎)
一項ノ且カラ下ハ入ラン
(渡)
入ラナイ
(栗塚)
併シ前ニモ此コトガアリマスカラ照應ガアツテ宜シウ御座イマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第千二百七條朗讀ス
第千二百七條 意外若クハ不可抗ノ原因又ハ第三者ノ所爲ニ出テタル抵當財產ノ滅失、減少又ハ毁損ハ債權者ノ損失タリ但失取特權ニ關シ第千百三十八條ニ記載シタル如ク債權者ノ賠償ヲ受クヘキ場合ニ於テハ其權利ヲ妨ケス
若シ抵當財產カ債務者ノ所爲ニ因リ又ハ保持ヲ爲サヽルニ因リ減少又ハ毁損ヲ受ケ之カ爲メ債權者ノ擔保カ不十分ト爲リタルトキハ債務者ハ抵當ノ補充ヲ與フルノ責ニ任ス
其補充ヲ與フルコト能ハサル場合ニ於テハ債務者ハ擔保ノ不十分ト爲リタル限度ニ應シ滿期前ト雖モ債務ヲ辨濟スルノ責ニ任ス
本條ハ原案ニ決ス
第千二百八條朗讀ス
第千二百八條 抵當財產ノ差押ナキ間ハ債務者ハ第百二十六條及ヒ第百二十七條ニ定メタル期間中其不動產ヲ賃貸スルコトヲ得ス其果實及ヒ產出物ヲ讓渡シ及ヒ管理ノ總テノ行爲ヲ爲スコトヲ得
本條ハ原案ニ決ス
第千二百九條朗讀ス
第二節 抵當ノ種類
第千二百九條 抵當ハ法律上、合意上又ハ遺言上ノモノタリ
(槇村)
此處ヘ裁判上ノ抵當ヲ入レルコトハ「ボアソナード」ニ質問スルトアル
(栗塚)
問ヒマシタ處ガ伊太利デモ阿蘭陀デモ白耳義デモ廢シテ居ル佛蘭西モ近日廢スダロウカラ日本ノ法律ニハ御勸メ申サナイト申シテ來マシタ
(松岡)
大變都合ノ好イコトダガ一家ノ節ヲ立テルノニ不都合ダカラ「ボアソナード」ガ廢シタノダロウ
(栗塚)
ソウデハアリマセン他ノ人ヲ害スルカラト云フノデ御座イマス
(松岡)
保證ヲ立テサセテ猶豫シテ置ク樣ナ實跡ガ現ハレル
(村田)
一般ノ債務者カラ云フト置カン方ガ良カロウ
本條ハ原案ニ決ス
第千二百十條朗讀ス
第一款 法律上ノ抵當
第千二百十條 左ノ抵當ハ總テノ要約ニ關セス當然成立ス
第一 婦カ其夫ニ對シテ有スルコト有ル可キ總債權ノ爲メ婚姻ノ日現ニ夫ニ屬スルト後日之ニ屬ス可キトヲ問ハス其夫ノ總不動產ニ付キ婦ノ有スル抵當但夫ノ未成年タルトキモ亦同シ
第二 未成年者及ヒ禁治產者カ其後見人ニ對シテ有スル總テノ債權ノ爲メ現在ニ屬スルト將來ニ得ルトヲ問ハス後見人ノ總不動產ニ付キ有スル抵當
第三 國府縣市町村及ヒ公設所カ行政法ノ定メタル限度ト條件トニ從ヒ會計吏員ノ管理ノ爲メ其不動產ニ付キ有スル抵當
又第千百八十七條及ヒ第千百九十條ニ從ヒ變性シタル先取特權ヨリ生スル抵當ハ之ヲ法律上ノ抵當ト看做ス
(箕作)
第三モ總不動產デ御座イマシヨウ
(栗塚)
左樣デス
(元尾崎)
女房ガ夫ノ抵當權ヲ持ツコトガアルカ知ラン
(南部)
アルトモ、君抔ハ歐州ノコトヲ知ランカラ困ル
(栗塚)
法律上ノ抵當ヲ置ケバコウ云フコトヲ申サナケレバナリマセン
(箕作)
之ヲナクナスト法律上ノ抵當ガナクナツテ仕舞フ
(松岡)
準禁治產デハナイカ民法デハ白痴瘋癲抔ハ準禁ダロウ
(栗塚)
ソウデハアリマセン
(松岡)
禁治產ヲ入レバ準禁モ同ジカネ
(栗塚)
準禁デハ此民法デハ見テ居リマセン
(松岡)
跡デ忘レン樣ニシテ貰ヘバ宜シイ
本條ハ原案ニ決ス
于時午後二時五十分閉會