旧民法・法例(明治23年)

法律取調委員会 民法草案再調査案議事筆記 第29回

参考原資料

備考

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民法擔保篇再調査案第二十九回議事筆記
自第千百三十二條至第千百七十四條
(委員長)
始メマシヨウ
第千百三十二條朗讀ス
第千百三十二條 質取債權者ハ如何ナル反對ノ合意アルニ拘ハラス常ニ己レノ爲メ負擔重キニ過クルト見ユル收益權ヲ將來ニ向テ抛棄シ抵當權ノミヲ存スルコトヲ得然レトモ適當ニ時期ニ非サレハ之ヲ爲スコトヲ得ス
(栗塚)
之ハ不動產質ヲ質ニ取ツテ置キナガラ收益丈ケハスマイカラ抵當權ハ抵當權丈ケニシ置クト云フガ餘リ質取債權者ノ利益ノミ見テ實際不都合ハアリハセンカト質問シテ遣リマシタガ其返答モ參リマシタガマダ反譯ニナツテ居リマセンカラ明日ノ會議ニ申上ゲマス併シ之デ宜シイト云フコトナラバ此儘デ御座イマス
(元尾崎)
負擔重キニ過グルト云フノハ如何
(栗塚)
不動產質ヲ以テ居ルト稅ガ酷ク掛ルト云フノデ便利ハ餘程便利デアリマス
(松岡)
田畑山林日本ノ宅地ヲ持ツテ往ツテハ不都合デ唯ダ收益ト利息ト差引スルト計リ通ホセバ要用デアロウガ多クハ山林田畑ノ質物ノ果實利息ト相殺シテ居ル上カラ見ルト建テラレナイ
(村田)
併シ其レハ返答ガ來タラ其レヲ反譯ニシテカラ遣リマシヨウ
(大尾崎)
質ヲ止メテ抵當ニスルナゾトソンナコトガ出來ルモノカ
(松岡)
差引スル上カラ云フト申分ガナイ譯ケデス質取權ハ賣却スルトキハ抵當權シカ殘ランカラソレデ斯ウヤツタノデアリマシヨウ
(栗塚)
左樣デス
(槇村)
前ヨリ大變分ツテ居リマス
(栗塚)
日本ノ不動產ヲ見セテ其カラ悉皆書キ直シタノデアリマス
(委員長)
原案者ハ替ヘタノカ
(栗塚)
左樣デス
(箕作)
本條ハ明日答ヲ得テカラニ致シマシヨウ
本條ハ起案者ノ答ヲ得テ議スコトニシ未定
第千百三十三條朗讀ス
第千百三十三條 債權者ハ債務ノ皆濟ニ至ルマテ質ニ取リタル不動產ノ占有ヲ留置スルコトヲ得
然レトモ質取債權者ハ債務ノ滿期前又滿期後ニ熟議ヲ以テスルト競賣ヲ以テスルトヲ問ハス債務者又ハ他ノ債權者ヨリ求メタル賣却ニ故障ヲ申立ツルコトヲ得ス
又質取債權者ハ自ラ賣却ヲ申立ツルコトヲ得右ハ下ニ指示シタル異別ノ効力ヲ生ス
(箕作)
滿期前又ハデスカ削除ノ意ニテ質問
(栗塚)
又ハデス
(元尾崎)
宜カロウ
(村田)
末項ノ中右ト云フノハ何ウ云フモノカ
(栗塚)
別項ニシタ積リデアリマス
(村田)
右ハト云フノハ前ノ項ノ事ヲ云フノデハナイカラ、前項ノ事デナケレバ右ハトシナイ文例デアリマス
(委員長)
實名詞ニクツ付イテスルトキハ此場合ニト云フ文例ダ
(元尾崎)
右ハデ良イデシヨウ
(村田)
質取債權者ハ下ノ異別ニ從ヒ賣却ヲ申立ツルコトヲ得トシテモ宜シイ
(淸岡)
留保トシテアルノハ何ウ云フモノカ
(村田)
異別ノ効力ノアルト云フノハ言ツタトキハ効力ガアルノデ他人ノ言ツタトキハ入ランノデ自分デ申立ツタトキハ異別ノ効力ガアルト云フノデアリマス
(松岡)
異別ト云フノハ他人ノ云フノト自分ノ言フノト違フト云フノデアリマス
(元尾崎)
他人カラ申シ立タトキハ何所マデガ二ツノ効力ヲ生ズルト云フノデス
(南部)
熟議上ト認メタルモノト云フノデス
(松岡)
他人ノ言タトキハ斯ウ自分ノ言タトキハ斯ウト兩方云フノデアリマス
(村田)
自分カラ申立テ効力ヲ生ズト云フノデス
(元尾崎)
「右」デ良カロウ
(南部)
得ト云フマデ、一項ニ切テ置クカ
(箕作)
續テ居リマス、「留保」ト書イテアリマスハナンデスカ
(元尾崎)
一體右ハ異別云々ハ刪テ仕舞テ良イノダネ
(箕作)
ソレデ上ニ「留保」トアルノデハナイカ
(栗塚)
之ハ留保ニナツテ居リマスノハ末項デハ後座イマセン第二項デアリマス二項デハ質取債權者ハ故障ヲ申立ルコトヲ得ズトアルトソコデ誰カラ賣却スルカト云フト債務者ガ質ニ置キナガラ賣ルト云フコトデ出來ルヨウニナル賣タトキ故障ヲ言フコトガ出來ント云フト質權ガ消滅スルト云フノハ次ノ條ノ四條ニアリマス、處デ三條ト四條ノ關係カラシテ質問シタノデアリマス
(奧山)
三十三條デ留保シタハ栗塚カラ申ス通リ債務者ヨリ賣ル上言タトキハ債權者ハ一言モ出來ン十年ト約束シテモ翌日彼ノ品物ハ賣ルト言タラ賣ラナケレバナラン賣ルガ良シイカ四條ニ往クト賣レバ十年ノ契約ハ消滅スルソレデ抵當權ヲ行ツテ自分ノ貸タ金ハ賣代金カラ取テ仕舞ト云フノデ十年ノ契約ハ消滅スルソレハ不都合ダ、ソコデ誰カ外ニ抵當權ヲ持テ居ル者ガ在ルヤ否ヤ、ソレデ抵當權ハ債務ノ限ニナツテ抵當ヲ賣ランケレバ二番抵當ダカラ止ムヲ得ン消滅スルケレドモ此場合ニ外ニ抵當權ヲ持ツテ居ルモノガナク一人デアツタ場合デモ之デハ消滅スル樣ニ見ヘルカラ不都合ダカラ行ウ譯ケダト言ツテ起案者ニ質問中ナツテ居ルノデ其レデ留保ニナツテ居リ
(元尾崎)
返事ハ來マセンカ
(奧山)
返事ハ來テ居ルガ反譯ニナリマセンカラ出シマセン
(元尾崎)
英文ヲ見ルト買フタモノハ矢張リ質取主ニ留置權ヲ行ウト云フコトガアル
(奧山)
ソレハ殘ツタ場合デ千圓ノ質ニ取ツテ居ツテハ百圓ニシカ賣レン其時ハ二百圓足シテ留置權ガアルト云フノハ第三十四條ノ末項ニアリマス抵當權補フソウシテ誰レヨリモ先ナラ尙ホ受取ルモノガアツタラ質ノ終ルマデ買フタ人ガ尊重シナケレバナラントアリマス
(箕作)
ソレデハ之モ留保シテ置キマシヨウ
(南部)
ソウ願ヒマシヨウ
(栗塚)
ソレデハ此章丈ケハ明後日迄留保ヲ願ヒマス
(大尾崎)
ソレデハ第四章ヘ移リマシヨウ
本條及ヒ第千百三十四條、第千百三十五條ハ未定
第千百三十六條朗讀ス
第四章 先取特權
總則
第千百三十六條 先取特權ハ或ル債權ノ原由ニ附着シタル優先權ナリ但動產質及ヒ不動產質ニ關シ合意ヨリ生スル先取特權ハ此限ニ在ラス
先取特權ハ法律ノ制限シテ定メタル原因條件及ヒ目的物ニ於ケルニ非サレハ存セス
先取特權カ第三所持者ニ對シ追及權ヲ與フル場合及ヒ其權利行使ノ條件モ亦法律ヲ以テ之ヲ定ム
本條ハ原案ニ決ス
第千百三十七條朗讀ス
第千百三十七條 先取特權ハ動產質及ヒ不動產質ニ關シ第千百十條及ヒ第千百二十八條ニ記載シタル如ク働方及ヒ受方ニテ不可分タリ
本條ハ原案ニ決ス
第千百三十八條朗讀ス
第千百三十八條 先取特權ノ負擔アル物カ第三者ノ方ニテ滅失シ又ハ毁損シ第三者之カ爲メ債務者ニ賠償ヲ負擔シタルトキハ先取特權アル債權者ハ他ノ債權者ニ先タチ右ノ賠償ニ於ケル債務者ノ權利ヲ行フコトヲ得但其先取特權アル債權者ハ辨濟前ニ合式ニ拂渡差留ヲ爲スコトヲ要ス
先取特權ノ負擔アル物ヲ賣却又ハ賃貸シタル場合及ヒ其物ニ關シ債務者ニ金額又ハ有價物ヲ辨濟ス可キ總テノ場合ニ於テモ亦同シ但災害ノ場合ニ於テ保險者ノ負擔スル賠償ニ關シ商法第〔缺字〕條ニ記載シタルモノヲ妨ケス
(元尾崎)
第(缺字)條トセズシテハ何ウカ
(箕作)
唯ダ商法ト遣ツテハ何ウカ
(南部)
調ベテ入レマスカラ此儘ニ願ヒマス
(槇村)
宜シイ
本條ハ原案ニ決ス
第千百三十九條朗讀ス
第千百三十九條 先取特權ノ種類ハ左ノ如シ
第一 債務者ノ總動產及ヒ附隨ニテ其總不動產ニ係ル一般ノ先取特權
第二 或ル動產ニ係ル特別ノ先取特權
第三 或ル不動產ニ係ル特別ノ先取特權
本條ハ原案ニ決ス
第千百四十條朗讀ス
第千百四十條 一般又ハ特別ノ先取特權ヲ有スル債權者ノ相互ノ順位ハ此章ノ各節ニ於テ之ヲ規定ス
不動產ニ付キ先取特權ヲ有スル債權者ハ其同一ノ不動產ニ付キ抵當權ヲ有スル債權者ニ先タツ但法律ニ於テ特別ニ規定シタル場合ハ此限ニ在ラス
同名義又ハ同順位ノ先取特權アル債權者ハ其債權額ノ割合ニ應シテ辨濟ヲ受ク
(箕作)
註ヲ見レバ分ルデシヨウガ同名義ハ同順位ト何ウ違ヒマスカ
(栗塚)
實ハ同ジデ御座イマス
(箕作)
詰リ同順位デ良イ譯ケダ
(栗塚)
左樣デス
(元尾崎)
同名義卽チ同順位ト云フト宜シイ
(村田)
卽チトモ違ヒマス
(元尾崎)
之ハ有テモ宜シイ
本條ハ原案ニ決ス
第千百四十一條朗讀ス
第千百四十一條 本法ニ定メタル先取特權ハ各人又ハ國庫ノ爲メ商法又ハ特別法ヲ以テ規定シ又ハ規定ス可キ先取特權ノ妨ケト爲ラス
右ノ先取特權ハ別段ノ規定ナキ場合ニ於テハ下ニ定メタル一般ノ規則ニ從フ
(箕作)
「別段ノ規定ナキ場合」ハ此民法ニ別段ノ規定ナキ場合デアリマス
(栗塚)
ソウデハナイ商法又ハ特別法デ別段ノ規定シテナキ場合デシヨウ
(松岡)
前言ツテアル
(箕作)
商法ヤ特別法ニ規定ト云フノハ前ニアルカラ右定メタル云々トシタ方ガ宜カロウ
(南部)
商法特別法ノ規定ヲ云フノデシヨウ
(箕作)
ソウデスカ
(松岡)
上ヘニ又ハヲ並ベテ下ヲ又ハデ承ケルノハ無理ナ文法デス
(元尾崎)
特別法ヲ以テ先取特權ヲ定メタ時ハト云フノデアリマシヨウ
(箕作)
右ノト云フノガ分リ惡イノデス
(元尾崎)
右商法又ハ特別法ノ先取特權ト雖ドモ別段規定ナキ場合ニ於テハ下ニ定メタルトヤツテハ何ウカ
(槇村)
ソウ云フ事ダ
(南部)
其ト云フ處デ承ケテ居ル其先取特權トシテ分ルデシヨウ
(箕作)
今ノ元尾崎サンノ說ガ宜シイ
(槇村)
ソレガ宜シイ
(村田)
商法又ハ特別法ニ別段ノ規定ナキ場合デ宜カロウ
(松岡)
ソレハ往カン
(元尾崎)
宜カロウ
本條ハ第二項「右ノ先取特權ハ」云々トアルヲ「右商法又ハ特別法先取特權ハ」云々ト改メ其他原案ニ決ス
第千百四十二條朗讀ス
第一節 動產及ヒ不動產ニ係ル一般ノ先取特權
第一款 一般ノ先取特權ノ原因
第千百四十二條 動產及ヒ不動產ニ係ル先取特權アル債權ハ左ノ如シ但下ニ定メタル制限及ヒ條件ニ從フ
第一 訴訟費用
第二 葬式費用
第三 最後疾病費用
第四 雇人給料
第五 飮食品供給
本條ハ原案ニ決ス
第千百四十三條朗讀ス
第一則 訴訟費用ノ先取特權
第千百四十三條 訴訟費用ノ先取特權ハ或ハ債務者ノ財產ヲ保存スル爲メ或ハ其財產ヲ淸算シ之ヲ換價シ及ヒ有權者間ニ其代價ヲ配當スル爲メ各債權者ノ共同利益ニ於テ正當ニ爲セル裁判上若クハ裁判外ノ總テノ行爲ニ付キ金圓ノ立替ヲ爲シタル又ハ給料若クハ謝金ヲ受取ル可キ債權者ニ屬ス
債權者ニ有益ナラサリシ費用ニ付テハ先取特權ハ特別ノモノニシテ其費用ノ爲メ利益ヲ得タル債權者ニ對スルニ非サレハ之ヲ以テ對抗スルコトヲ得ス
本條ハ原案ニ決ス
第千百四十四條朗讀ス
第二則 葬式費用ノ先取特權
第千百四十四條 債務者ノ身分ニ應シ且慣習ニ從ヒ爲シタル葬式ノ費用ハ先取特權アルモノトス
先取特權ハ債務者ノ擔當タル其同居ノ親屬ノ葬式ノ費用ニモ亦之ヲ適用ス
其先取特權ハ葬式ニ連續シタル出費ニ及ハス縱令其出費カ慣習上ノモノタルモ亦同シ
本條ハ原案ニ決ス
第千百四十五條朗讀ス
第三則 最後疾病費用ノ先取特權
第千百四十五條 最後疾病費用ノ先取特權ハ債務者又ハ前條ニ指定シタル家屬ノ死亡前ノ疾病ニ關スル醫師、藥商、看病人及ヒ其他ノ費用ヲ包含ス但債務者ノ無資力前ノ疾病及ヒ其親屬ノ疾病ニ關スルモノモ亦同シ
長病ノ場合ニ於テハ右費用ノ先取特權ハ最後ノ一ケ年ノ費用ニ之ヲ制限ス
債務者又其親屬右費用ヲ生セシメタル疾病ノ外ノ原因ノ爲メ死亡シタルトキト雖モ先取特權ハ猶ホ存ス
(箕作)
他ノ事デ死ンデモ構ハン死ニサヘスレバ良イノダ
(委員長)
癒ツタラ往カンノダ
(南部)
左樣デス
(村田)
宜シイ樣ダ
(元尾崎)
前ニ債務者ノ無資力前ニ疾病及ビ親屬ノ疾病ト云フコトハ餘程議論ガアリマシタガ之デ宜シイカ
(南部)
意味ガ籠ツテ居ルト云フノデ議論デ刪ツタノデス之デ分ルト云フノデス
(箕作)
破產ノ時ハ之ニ順ズル積リデシヨウ何ウ云フ譯ケデスカ
(松岡)
破產ヲ入レテ置カント類推ガ出來ン
(栗塚)
成程破產ガ出來ン
(村田)
原文デハ兩方アルノデス
(箕作)
破產デモ一ツ事見タヨウナモノデシヨウ
(栗塚)
原文ニハ二ツアリマス
(南部)
ソレデハ書カナケレバナラン
(栗塚)
「但債務者ノ破產又ハ無資力前ノ」デアリマス
(委員長)
破產又ハヲ入レマシヨウ
(委員長)
先ヘ遣リマシヨウ
本條ハ「但債務者ノ」ノ下ヘ「破產又ハ」ノ四字ヲ加ヘ其他原案ニ決ス
第千百四十六條朗讀ス
第四則 雇人給料ノ先取特權
第千百四十六條 雇人ノ先取特權ハ債務者又ハ其同居ノ親屬ノ一身ニ附屬シ或ハ債務者ノ家屋其他ノ所有物ニ附屬シタル雇人ニ屬ス
右ノ先取特權ハ最後ノ一ケ年ノ給料ノミヲ擔保ス
本條ハ原案ニ決ス
第千百四十七條朗讀ス
第五則 飮食品供給ノ先取特權
第千百四十七條 飮食品供給ノ先取特權ハ債務者又ハ其同居ノ親屬及ヒ雇人ニ供給シタル生活ニ必要ナル飮食品ノミニ之ヲ適用ス
右ノ先取特權ハ最後ノ六个月間ノ供給ノミヲ包含ス
本條ハ原案ニ決ス
第千百四十八條朗讀ス
第二款 一般ノ先取特權ノ効力及ヒ順位
第千百四十八條 一般ノ先取特權ハ先取特權アル各債權者カ動產ニ付キ配當ヲ受ケ尙ホ不足アルニ非サレハ不動產ニ付キ之ヲ行フコトヲ得ス
然レトモ若シ動產代價ノ配當ニ先タチ不動產代價ノ配當アルトキハ債權者ハ條件附ニテ不動產代價配當ニ加入スルコトヲ得但右ノ配當加入ニ於テハ日後動產代價ノ配當加入ニ於テ辨濟ヲ受ケサルモノヽミヲ受ク
動產代價ノ配當ニ有益ナル時期ニ出席スルコトヲ怠リタル債權者ハ動產ニ付キ受クヘカリシモノヽ限度ニ於テ不動產ニ付キ其優先權ヲ失フ
(松岡)
有益ナル時期ニ出席スルヲ怠タリト云フノハ如何
(栗塚)
出席スベキニシナカツタ時ハデス
(松岡)
無資力ヲ入レンデ分散ノ時バカリデスカ
(栗塚)
何分題ガ配當ノ場合デスカラ
(松岡)
無資力ト云フノハ公吿ヲシナイデシヨウ
(南部)
初メ這入ツテ居ツテ配當ノ場合ニ這入ツテ來ナイノデアリマス
(松岡)
配當ト云フノハ後チニ分ケルト云フノカ
(栗塚)
代價ヲ配當スル場合デアリマス
(元尾崎)
有益ナル時期ニ出席セントキハ不動產ニ付イテハ受ク可カリシ限度ト云フト例ヘバ百圓ノモノヲ早ク出席スレバ百圓取レルガ出ナイカラ取レンノカ
(栗塚)
左樣デス
(元尾崎)
動產デハ出ナカツタ爲メニ取レナイガ其モノガ不動產デアレバ往ケルノカ
(南部)
往カンノデス
(元尾崎)
餘リガアレバ取レルノデス
(南部)
左樣デス他ノ債權者ト同ジ割合ニナルノデス
(元尾崎)
優先ト先取トハ何ウ違ヒマスカ
(栗塚)
優先權ハ卽チ先取特權デアリマス
(元尾崎)
此處ハ優先權トヤリマシタガ其書キ分ケタ理由ガ分リマセン
(松岡)
有益ナル時期ト云フノハ最初ニ屆出デヲシテ置キソウシテ分ケル日ニ出ナイモノト云フノデスカ
(栗塚)
動產配當ノ差押ヲ押ヘタ人ハ債權者五人居ルレバ配當スルト次ヘ通知スル其時出ナケレバデス
(松岡)
何ウ云フコトヲ云フノカ
(栗塚)
賣ツテカラ何日目ニ配當スルト六日目ニ配當スルト云ヘバ六日ノ中ニ出ナケレバナラント云フノデス
(村田)
有益ナルハ重ク見タノデハナイ配當ノ時ニ出ナケレバト云フノデアリマス私ハ有益ノ字ハナクツテモ宜シイト思ヒマス
(南部)
遲クナツテモ配當セン前ナラ良イノデアリマスカラ有益ナルト云フ處ハ必要デアリマス
(元尾崎)
宜シイ
(大尾崎)
宜カロウ
本條ハ原案ニ決ス
第千百四十九條朗讀ス
第千百四十九條 一般ノ先取特權ノ互ニ競合スル場合ニ於テハ第千百四十三條乃至第千百四十七條ニ列記シタル相互ノ順序ニ從ヒ配當加入ヲ定ム
右ノ數條ニ揭ケタル同名義ノ債權ハ同順位ニテ配當ニ加入ス
若シ一般ノ先取特權カ動產ニ係ル特別ノ先取特權ト競合スルトキハ其順位ハ下ノ第二節ニ於テ之ヲ規定ス
不動產ニ係ル特別ノ先取特權ハ一般ノ先取特權ニ先タチ又特別ノ抵當ハ後ノ設定ニ係ルト雖トモ詐害ナキニ於テハ一般ノ先取特權ニ先タツ
然レトモ一般ノ先取特權ハ其發生前ノ取得ニ係ル一般ノ抵當ニモ先タツ
一般ノ抵當ノ負擔アル總不動產ヲ同時ニ賣却シタル場合ニ於テハ一般ノ先取特權ハ各不動產ノ賣却代價ノ割合ニ應シテ其總不動產ニ付キ配當ニ加入ス
若シ順次ニ右ノ不動產ヲ賣却スルトキハ一般ノ先取特權ハ初ノ賣却ニ付キ全部之ヲ充當シ又次ノ賣却ニ付キ附隨ニテ之ヲ充當ス且此先取特權ヲ負擔セシ不動產ニ付キ抵當ヲ有スル債權者ハ他ノ不動產ノ賣却代價ニ付キ求償權ヲ有ス
(村田)
競合ト云フ字ハ何ウカ
(栗塚)
競リ合ヒト云フノデアリマス
(村田)
競取ノ方デアリマシヨウ
(栗塚)
寧ロ競爭トヤリマスカ
(渡)
競合ハ分リマセン
(槇村)
競合ヨリモ牴觸ノ方ガ宜シイ
(渡)
衝突デシヨウ
(槇村)
先ヅ御取リナサイト云フノデス
(元尾崎)
競合ハ面白イ
(松岡)
日本言葉デハ競リ合ヒデシヨウ
(元尾崎)
衝突スル場合ニ於テハダ
(槇村)
競合デ宜シイ
(渡)
相會スルデ宜シイ
(大尾崎)
競合デ宜シイ
(南部)
私ハ充分トハ思ヒマセンガ外ニ適當ノ字ガナイカラ之デ宜シイ良イ字ガ出レバ贊成致シマス
(箕作)
競合デ仕方ガアリマスマイ
(北畠)
私ハ相會スルトシテ良シイト思マス
(淸岡)
競合デ宜カロウ
(委員長)
ソレデハ競合デ置キマシヨウ、發生前ト云フノハ何ウ云フ譯ケカ
(箕作)
發生後ハ無論デアリマス
(南部)
ニモト言ハント後ノコトハ含マン樣ニナルカラト云フ意味デアリマス
(元尾崎)
皆ナノ頭カラ取ツテ往クト云フノガ彼方カラ五十圓此方カラ百圓ト云フ工合ニ仕樣ト云フノデスネ
(南部)
ソウシテ置クト特別ノ抵當順位ニ關係スルカラデス
(元尾崎)
特別ノ抵當ハ先取特權デモ仕方ガナイ
(栗塚)
末項ハ大槪分ル積リデス
(元尾崎)
一般ノ抵當ヲ讓ルト云ツテハ何ウカ
(村田)
一般ナラ特別デハ往カンノデス
(栗塚)
爲メニ此條デ特別ノ抵當ト見ルノハ六ケ敷デシヨウ
(元尾崎)
法律學ニ腦髓ニ入リ込ンダ人ニハソウダロウガ素人ニハ分リマセン
(栗塚)
一般ト云フ字ヲ入レテモ宜シイ
(大尾崎)
ソンナラ宜シイ
(元尾崎)
賣却ニ付キ全部之ヲ充當スハ宜シイガ次ノ資却附隨ニテ之ヲ充當スト云フノハ何ウ云フコトガ附隨ト云ヘバ例ヘバ一ツ賣ツタト其レニ付テ百圓取ル可キヲ八十圓ノモノヲヤツタ次ニ財產ヲ賣ツタ時後ト二十圓取ルノダロウ取ツテ附隨ト云フノハ何ウカ外ノ者ニ附隨ト聞ヘルカラ後トカラ賣ツタ之ハ抵當權デモ其レヲ取ツタ後トノ殘リヲト云フニ見ヘル
(栗塚)
尙ホ不足ノアツタトキ次ノ賣却ニト云フノデス
(元尾崎)
拂ツテ仕舞ツテ殘リノミ貰フト云フ樣ニ聞ヘルガ左樣云フ意味デハアリマスマイ
(南部)
前カラ讀ンデ見タラソウハ見ヘマセン
(元尾崎)
附隨ト云ハンデモ宜カリソウナモノデス
(箕作)
又デハナイ尙ホ附隨ニテ次ノデス
(栗塚)
左樣
(南部)
宜シイ
本條ハ末項左ノ如ク改メ其他原案ニ決ス
若シ順次ニ右ノ不動產ヲ賣却スルトキハ一般ノ先取特權ハ初メノ賣却ニ付キ全部之ヲ充當シ尙ホ附隨ニテ次ノ賣却ニ付キ之ヲ充當ス且此先取特權ヲ負擔セシ不動產ニ付キ一般ノ抵當ヲ有スル債權者ハ他ノ不動產ノ賣却代價ニ付求償權ヲ有ス
第千百五十條朗讀ス
第千百五十條 一般ノ先取特權ハ不動產カ債務者ニ屬スル間ハ他ノ債權者ニ對抗スル爲メ其不動產ニ付テノ記入ヲ要セス
本條ハ原案ニ決ス
第千百五十一條朗讀ス
第二節 動產ニ係ル特別ノ先取特權
第一款 動產ニ係ル特別ノ先取特權ノ原因及ヒ目的
第千百五十一條 上ノ第二章ニ規定シタル先取特權ヲ有スル動產質取債權者ノ外下ニ指定シタル動產物ニ付キ先取特權ヲ有スル債權者左ノ如シ
第一 不動產ノ賃貸人
第二 種子及ヒ肥料ノ供給者
第三 農業ノ稼人及ヒ工業ノ職工
第四 動產物ノ保存者
第五 動產物ノ賣主
第六 旅店ノ主人
第七 舟車運送營業人
第八 保證ヲ供スルノ義務アル公吏ノ職務上ノ所爲ニ對スル債權者
第九 右保證金ノ貸主
(箕作)
之ハ順ニ往クノデスカ
(栗塚)
左樣デス
(村田)
特別ノ先取特權ト云フノヲ入レルガ宜シイ
(南部)
二ツダカラ良イデハナイカ
(栗塚)
入レルコトハアリマスマイ
(村田)
分ルコトハ分ルガ疑ヒガ出ハセンカ
(南部)
ソレハナイ
(渡)
旅店ノ主人ハ何ウカ
(南部)
其ハ先キニアリマス
(委員長)
現在動產質ヲ押ヘル事ノ出來ルモノデ質デナイ
(栗塚)
左樣
(元尾崎)
往キマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第千百五十二條朗讀ス
第一則 不動產賃貸人ノ先取特權
第千百五十二條 居宅、倉庫其他ノ建築物ノ賃貸人ハ賃借人ノ使用又ハ商工業ノ爲メ此建物內ニ備ヘタル動產物ニ付キ先取特權ヲ有ス
右ノ動產物カ賃借人ニ屬セスト雖モ先取特權ハ猶ホ存ス但賃貸人カ賃貸場所ニ此動產物ノ持込ヲ知リタル當時其物ノ賃借人ニ屬セサル事實ヲ知ラス且其事實ヲ豫見スルニ足ル可キ理由アラサリシトキニ限ル
賃貸人ノ先取特權ハ現金ニ付キ又賃借人及ヒ其家屬ノ一身ノ使用ニ供シタル金玉寶石ニ付キ又無記名ナルモ證券ニ付キ之ヲ行フコトヲ得ス
(箕作)
前ノ條ニ戻ツテ濟ミマセンガ第八第九保證ト云フノガアルガ第八ニハ右保證金トアル何方ガ出ス金デモ公債證書デモ宜カロウガ公證人ノ如キハ五百圓出シタト云フコトダロウ金ト云フ字ヲ入レテハ何ウカ
(栗塚)
右保證金トアルカラデス右保證元資ノ貸付トシテ何ウカ
(松岡)
其方ガ宜シイ
(箕作)
ソウナラソウシマシヨウ
本條ハ原案ニ決シ前條ニ遡リ同條第八「保證」ノ下ヘ「金」ノ一字ヲ加ヘ第九「右保證元資ノ貸主」ト改ム
第千百五十三條朗讀ス
第千百五十三條 賃貸人ハ家賃ノ當期分及ヒ後ノ一期分ノ辨濟ヲ擔保スルニ足ル可キ動產ヲ賃貸シタル場所ニ備フルコトヲ賃借人ニ要求スルコトヲ得賃借人之ヲ爲サス且右家賃ノ前拂又ハ之ニ相當スル其他ノ擔保ヲ供セサルトキハ賃貸人ハ賃貸借ヲ銷除スルコトヲ得但損害アルトキハ其賠償ヲ求ムルコトヲ得
賃借場所ニ備ヘタル動產ヲ賃貸人ノ許諾ナクシテ取去リタルモ別ニ詐害ナキニ於テハ賃貸人ハ其擔保カ不足ト爲リタルトキ且賃借人ニ屬スル權利ノ限度內ニ非サレハ此動產ヲ其場所ニ復セシムルコトヲ得ス
然レトモ賃貸人ノ權利ヲ詐害シテ爲シタル所爲ニ付テハ賃貸人ハ第三百六十一條以下ニ記載シタル條件及ヒ區別ニ從ヒ第三者ニ對シテ其行爲ヲ廢罷セシムルコトヲ得
右ハ總テ第千百三十八條ニ依リ賃貸人ノ有スル權利ヲ妨ケス
(松岡)
但ハ且デモ宜シイ
(北畠)
尙ホデアリマシヨウ
(箕作)
但ヲ尙ホトシテハ何ウカ
(南部)
尙ホトカ若シトカガ宜シイ
(槇村)
尙ホガ宜シイ
(元尾崎)
先キヘ往キマシヨウ
本條ハ第一項「但」ヲ「尙ホ」ト改メ其他原案ニ決ス
第千百五十四條朗讀ス
第千百五十四條 賃貸借ト永貸借トヲ問ハス田畑山林ノ賃貸人ハ賃借人カ居宅並ニ土地利用ノ建物內ニ備ヘタル動產物ニ付キ及ヒ土地ノ利用ニ供シタル動物農具其他ノ器具ニ付キ上ト同一ノ限度ニ於テ先取特權ヲ有ス
其他右ノ賃貸人ハ賃貸シタル土地ノ收穫物其他ノ產出物カ猶ホ土地ニ附着スルト土地ニ保存シ有ネルトヲ問ハス其收穫物及ヒ產出物ニ付キ先取特權ヲ有ス
分果賃貸人ハ賃貸シタル土地ノ收穫物其他ノ產出物中ニテ自己ノ權利ヲ有スル部分カ猶ホ分果小作人ノ方ニ存スル間ハ他ノ債權者ニ先タチ直接ニ其收穫物其他ノ產出物ヲ己レノ有トシテ先取特權ヲ行フ
(村田)
動產物ト云フ「物」ト云フ字ハナクツテモ宜サソウナモノデス前ニモ動產動產ト云ツテ居ルノニ此處計り物ト云フノハオカシイ
(箕作)
村田サンノ說ヲ贊成
(委員長)
物ノ字ヲ取ツテ先キヘ往キマシヨウ
本條ハ「動產物」トアル「物」ノ一字ヲ刪リ其他原案ニ決ス
第千百五十五條朗讀ス
第千百五十五條 永貸借ト賃貸借ト分果小作トヲ問ハス賃借人ハ賃貸人ノ求アルニ於テハ其擔保ノ爲メ其年ノ收穫物其他ノ產出物ヲ保存スルノ責アリ
第千百五十三條ヲ以テ賃貸人ノ利益ニ於テ定メタル隱竊物ノ取戾權及ヒ賃貸借ノ解除權ハ田畑山林ノ利用ニ供シタル物ノ賃貸借ニ之ヲ適用ス
(箕作)
隱竊ト云フ字ハ何ウカ
(南部)
九百十條ニ隱竊トヤツタカラ此處モ其例ニ慣ヒマシタ
(村田)
商法ノ破產法ノ罰則ニアリマシタガアレハ帳面ヲ何ウトカスルト云フコトガアツタ
(栗塚)
民法ニハ三四ケ所アリマス隱竊ト云フ字ハ隱竊スルト云フ動詞ニ使ツタノト名詞ニ使ツタノトアリマス
(村田)
之ハ解除デハナイ銷除ダ
(元尾崎)
銷除デス
(淸岡)
但書ハアツテモ宜シイガナゼ刪ツタカ
(南部)
但書ハアツテモ差支ハナイ
(村田)
隱竊ハ隱蔽デハ御座イマセンカ
(北畠)
商法ニハ藏匿トアリマス
(松岡)
二項ハ暫ク刪ツタガ一項ハ其儘書イテ置イテモナンダカラト云フ論ノ末求メアルニ於テハト議場デ入レタノデヨモヤ求メハ仕舞イト思フガ言ツテ置ケバ求メラレタラ動スコトハ出來ン
(大尾崎)
賃貸人ハ利益ガアルケレドモ賃借人ハ困リマス
(元尾崎)
收穫物ヲ其處ヘ置イテ往クコトカ
(大尾崎)
左樣
(栗塚)
ソレデ態々求メアルニ於テハト這入ツタノデアリマス
(大尾崎)
左樣心配スル樣ナコトハナイ
(松岡)
ソンナ小六ケ敷事ヲ言フナラ勝手ニシロト云フ大變不經濟ナ話シデアリマス
(元尾崎)
私ハ之デ宜シイト思ヒマス
(北畠)
年期小作年貢ヲ拂フ後チデシヨウ勝手次第ニ賣ル樣ナ弊ガアリマス
(元尾崎)
ダカラ之デ宜シイ地主ニ權利ヲ與ヘテ置クガ宜シイ
(村田)
解除ハ銷除ニ改メマシヨウ
(栗塚)
御最モデス
(委員長)
隱竊ハ商法ト能ク相談ヲシテ下サイ
(箕作)
商法ハ隱竊トアツタガ再調査ノ節隱竊ト云フト盜ム樣ニナル竊ノ字ハ何ウモ往カント云フノデ藏匿ト云フガ分リ善イト云フノデ初メハ暫ク書イタガ藏匿トシマシタ
(淸岡)
隱竊ハ穩カデナイ
(委員長)
ソレデハ藏匿シテハ何ウカ
(淸岡)
藏匿ガ宜シウ御座イマシヨウ
(栗塚)
ソレデ財產ヲ押ヘラレタトキ物ヲ匿スコトガアリマスカ
(村田)
日本刑法ニモアリマス
(南部)
アレトハ違イマス
(村田)
ソレデハ隱蔽ニシテハ何ウカ
(栗塚)
穩匿物トシマシヨウ
(箕作)
商法モ其レデハ隱匿ニシマシヨウ
本條ハ「解除」ヲ「銷除」ト「隱竊」ヲ「隱匿」ト改メ其他原案ニ決ス
第千百五十六條朗讀ス
第千百五十六條 賃借權ノ讓渡又ハ轉貸ノ場合ニ於テハ賃貸人カ賃貸場所ニ備ヘ有ル動產物ノ讓受人又ハ轉借人ニ屬スルコトヲ知ルト雖モ其先取特權ハ是等ノ物ニ及フ
此場合ニ於テ先取特權ハ第千百三十八條ニ從ヒ讓渡又ハ轉貸ノ代價トシテ主タル賃借人ノ受ク可キ金額ニ及フ但前拂ヲ以テ賃貸人ニ對抗スルコトヲ得ス
本條ハ原案ニ決ス
第千百五十七條朗讀ス
第千百五十七條 賃借人ノ財產ノ總淸算ノ場合ニ於テハ賃貸人ハ土地家屋ノ借賃其他每年ノ負擔ニ付キ前年、本年及ヒ翌年ノ分ニ非サレハ前數條ニ定メタル先取特權ヲ有セス
其他先取特權ハ賃貸借ヨリ生スル他ノ合意上ノ義務、前年及ヒ本年ニ於テノ賃借人ノ過失又ハ懈怠ノ爲メ賃貸人ノ受ク可キ賠償及ヒ賃貸人カ將來ニ向テ請求スルコト有ル可キ銷除ニ添フタル損害賠償ヲ擔保ス
(松岡)
淸算ト云フ字ハ分ラン字デス
(元尾崎)
總淸算ガ良カロウ
(箕作)
分散モ無資力モアルダロウ
(松岡)
ソレカラ永借人ガ無資力ノ場合ニ拂入レ不足ノ多少ニ拘ハラズ解除スルト云フコトガ前ニアリマシタガ此處トソレトハ違フカ
(栗塚)
アレト照應シテ居ルノデアレハ斯ク云フ論デアリマシタ我々ノ趣意デハ借賃滯リ高ノ多少ニ拘ハラズト云ツタ論デ若シ破產無資力トナツタ時ハ銷除スルコトヲ得ト云フ意味ニ書イタノハ今日マデ滯ツテ居ツタナラバ滯ラン時ハ無資力デモ構ハントカ云フアレト照應ダト云ツテ居ルダカラシテ彼處ハ今迄滯リノナカツタ時ハ出來ント見テモ翌年分マデノ擔保ヲシテ置カナケレバナランカラ翌年分ヲ沸ハナイト云ヘバ銷除スルコトガ出來ル
(箕作)
彼處ハ滯ツテナケレバ往カント云フノデシヨウ
(栗塚)
左樣デス彼ノ返答ノ時ニ此處ヲ引キ出シテ申上ル積リデス
本條ハ原案ニ決ス
第千百五十八條朗讀ス
第千百五十八條 右淸算ノ場合ニ於テ他ノ債權者ハ自己ノ利益ニ於テ賃貸借ノ銷除ヲ妨止シ及ヒ初ヨリ轉貸又ハ讓渡ノ禁止アルニ拘ハラス其賃貸借權ヲ轉貸シ又ハ讓渡スルコトヲ得但賃貸借殘期ノ爲メ賃貸人ニ土地家屋ノ借賃其他ノ納額ヲ擔保スルコトヲ要ス
本條ハ原案ニ決ス
第千百五十九條朗讀ス
第二則 種子及ヒ肥料供給者ノ先取特權
第千百五十九條 所有者、用益者、賃借人又ハ占有者ニ種子及ヒ肥料ヲ供給シタル者ハ之ヲ用ヰタル年ノ果實ニ付キ先取特權ヲ有ス
蠶種及ヒ蠶ノ飼養ニ供スル桑葉ヲ供給シタル者ニ付テモ亦同シ
本條ハ原案ニ決ス
第千百六十條朗讀ス
第三則 農業稼人及ヒ工業職工ノ先取特權
第千百六十條 雇人ノ外其年ノ收穫ノ爲メ勞働シタル稼人ハ其一ケ年間ノ給料ノ爲メ收穫物ニ付キ先取特權ヲ有ス
又樹林、礦坑、炭坑、石坑、養蠶場ニ於テ勞働シタル職工ハ其產出物ニ付キ先取特權ヲ有ス但其年ノ給料中最後ノ三个月間ノ爲メノミニ限ル
(松岡)
此處デ工業ト云フ字ハ何ウカ
(南部)
工業ハ職工トヤツタ方ガ良イト云ツタノデス
(松岡)
二項目ハ之デ網羅シタノデハナイ至テ狹イモノ計リデ製造場ノ如キハ往カンノデスルト工業ト云フノハ拔ケル樣ニナリマス
(栗塚)
自分ノ手カラ出シタモノト云フ積リデアリマス處ガ塗師屋ガアリマス彫物師ト云フト品物ニ付テハ言ヘマセン
(松岡)
言ヘマス
(栗塚)
幾段ニモ大勢ノ手ヲ掛ケテ來ルノデ例ヘバ陶品ニ畫ヲ繪ク人ガアル書丈ケニ付テノ先取特權ガアルトハ言ヘマセン
(元尾崎)
英文ハ農產物計リデス
(南部)
此他ハ商法ノ先取特權ニ屬ストアリマス
(元尾崎)
機織場トカ云フモノハ澤山アリマス
(松岡)
工業ト言ヒナガラ今度又商事ニ屬ス工業ト民事ニ屬ス工業ヲ分ケルノハ六ケ敷
(元尾崎)
皆ナ列擧スルノハ六ケ敷
(栗塚)
最モ制限シタモノデハナイト云ツテ居ル
(松岡)
商法ニ讓ルナラ旅籠屋運送營業人ハ許サナケレバナリマセン何ントカ此處デ兼ネル譯ケニハ往カンカ工業ト農業ト二ツニシテ「マツチ」製造場職工ハ「マツチ」ノ箱ノアル間ハ權ヲ持タスト
(委員長)
民法ニハ書キ方ヲ分ケルノハ何々ト定マリナシニ二三ヲ擧ゲテ後トハ類推デ往ク原則デ樹林ト云フモ樹木ト言ツテ竹モ籠ルト云フ譯ケデ外ノ法律ニハ何々ハ何ウト云フ字ガアリマス處ガ民法ニ限ツテ一類推デ往クト云フハ何ウカ
(松岡)
類推デ職業ハ例デ出セズ治マルガ起案者ノ註ニハ職業ニ付テハ先取特權ヲ規定スルト云フノデ書カント云フノデアリマス
(栗塚)
商業上ノ工業デハナイ積リデアリマス卽チ民事上ノ工業ト云フノデ商業上ノ製造場等ハ商法デヤル此處デハ民法上ノ工業場ヲ擧ゲタモノト云ツテ居リマス
(松岡)
其レハ難義ナ譯ケデ商法ニ先取特權ヲ皆ナ讓ツタナラ例ガ立ツガ運送營業人ト云フニ商業ノ事モアリマス
(栗塚)
民法上ノト云フノデアリマス
(松岡)
何故ニ分ケルト云フニ商事ニ關スルカラ商事ニ讓ル理窟ダロウガ旅店主人運送營業人尙ホ商法ニ讓ツテ良イデハナイカ
(南部)
六七則ハ商法ニ規定ガナイカラ矢張リ置カナクテハナリマセン
(松岡)
順序ヲ建テル爲メ民法ニ置クハ良カロウガ若シヤ同ジモノガブツカツタラ何ウカ滅多ニナイケレドモ此處ニ商事ト民事トノ工業ヲ二樣ニ分ケルト云フノハ隨分六ケ敷又是非分ケナケレバナラントスレバ商法ヲ此意味ヲ以テ拵ヘナケレバナラン斯ウ云フ先取特權ハ商法ニナイカラ困リマス
(淸岡)
商法ノ方ニナイト誠ニ往カン
(松岡)
石鹸デモ羅沙デモ畢竟工業ト云フト實ハ商法ノ建テ方ニスレバ大方商法ニ這入ルノデス
(南部)
農業ノ方ガ宜シイ
(栗塚)
養蠶種ト此所ニ限ツテ後ト砂糖製造石鹸製造ナゾ何ウスルカト云フト其レガ商法ニ言ツテナイト困リマス
(松岡)
商法ニハ運送人旅籠屋ナゾハ留置權ノコトガアリマスガ斯ウ云フ部類ノ先取特權ト云フモノハアリマセン
(村田)
商法ニハ民法ノ方ヘ書イタカラト云ツテ讓ツタノデアリマス
(松岡)
工業ヲ總テ廣ク引込ム方ガ宜カロウ
(委員長)
其方ガ宜カロウ商法ニ規定ノナイ場合ハ之ニ因ルトシテ良イダロウ
(松岡)
先取特權ヲ與ヘルノハ是ヨリモ向フヘ與ヘナケレバナリマセン
(南部)
工業ノ職工ハト云ツテ宜シイ
(淸岡)
起案者ハ工業農業ト云フノハ範圍ノ小サイモノヲ言ツタノデハナイカ商業上ニナルト百人千人モドン々ヤルモアルト云フモノデ斯ウ云フ樣ニ農業ノ稼人或ハ炭坑石坑ナゾハ刪ツテモ良カロウ
(松岡)
高島炭坑モ何百人モ居ルカラネ
(南部)
工業ノ職工トヤツテ尙ホ起案者ニ問合セマシヨウ
(委員長)
ソウヤリマシヨウ
(槇村)
ソウスルト樹林礦坑云々ハ止メマスカ
(栗塚)
止メル方ガ宜シウ御座イマシヨウ工業ノ職工ハ產出物又ハ製造人ニ付キ先取特權ヲ有ストシテハ何ウカ
(委員長)
ソウシテ置キ起案者ニ相談スルガ宜シイ
(村田)
宜シイ
本條ハ第二項「樹林礦坑」云々ヲ刪リ「又工業ノ職工ハ產出物又ハ製造品ニ付キ先取特權ヲ有ス但」云々ト改メ其他原案ニ決ス
第千百六十一條朗讀ス
第四則 動產物保存者ノ先取特權
第千百六十一條 動產物ノ修繕又ハ保存ノ費用ニ付テノ債權者ハ第千九十六條ニ從ヒ己レニ屬スル留置權ヲ行ハサルトキト雖モ其修繕又ハ保存シタル物ニ付キ先取特權ヲ有ス
右ノ先取特權ハ金額有價物其他動產物ニ關スル人權又ハ物權ヲ債務者ノ爲メニ追認保存又ハ實行セシメタル裁判上又ハ裁判外ノ行爲ノ費用ニ之ヲ適用ス
本條ハ原案ニ決ス
第千百六十二條朗讀ス
第五則 動產物賣主ノ先取特權
第千百六十二條 動產物ノ賣主ハ代價辨濟ノ爲メ期限ヲ與ヘタルト否トヲ問ハス其代價及ヒ利息ノ爲メ賣却物ニ付キ先取特權ヲ有ス
若シ補足額ヲ以テスル交換アリテ其補足額カ讓渡シタル物ノ價額ノ半ヲ超ユルトキハ先取特權ハ其補足額ノ爲メ交換物ニ付キ存ス
本條ハ原案ニ決ス
第千百六十三條朗讀ス
第千百六十三條 先取特權ハ賣却物カ用方ニ因リ又ハ不動產ニ合體スルニ因リ不動產ト爲リタルトキト雖モ猶ホ買主ノ占有ニ在リ且變形セサル間ハ存續ス但合體ノ場合ニ於テハ不動產ヲ毁損セスシテ其物ヲ分離シ得ルコトヲ要ス
本條ハ原案ニ決ス
第千百六十四條朗讀ス
第千百六十四條 賣主ノ先取特權ハ第六百八十四條及ヒ第七百二十一條ニ規定シタル留置及ヒ解除ノ權利ヲ妨ケス
本條ハ原案ニ決ス
第千百六十五條朗讀ス
第六則 旅店主人ノ先取特權
第千百六十五條 旅店ノ主人ハ旅客其從者及ヒ牛馬ノ宿泊料、食料ノ爲メ其旅客ノ携帶シテ尙ホ旅店ニ存スル手荷物ニ付キ先取特權ヲ有ス
本條ハ原案ニ決ス
第千百六十六條朗讀ス
第七則 舟車運送營業人ノ先取特權
第千百六十六條 舟車運送營業人ハ荷物又ハ旅客ノ運送賃ノ爲メ及ヒ關稅其他正當ナル附從ノ費用ノ爲メ自己ノ手ニ存スル運送物ニ付キ先取特權ヲ有ス
運送營業人カ運送物ノ引渡ヨリ四十八時間內ニ債務者又ハ其名ヲ以テ其物ヲ受取リタル者ニ對シ其物ヲ返還スルヤ又ハ運賃其他ノ費用ヲ辨濟スルヤノ催吿ヲ爲シ且其効果ヲ生セシムル爲メ短キ時間內ニ裁判上ノ請求ヲ爲シタルトキハ其先取特權ハ物ノ引渡後ト雖モ存續ス
如何ナル場合ニ於テモ第三取得者ニ對シテ物ヲ回復スルコトヲ得ス但第千百五十三條ニ規定シタル如ク詐害アル場合ハ此限ニ在ラス且第千百三十八條ノ適用ヲ妨ケス
(松岡)
二項以下ハ商法ト合セテ見マシタカ
(村田)
商法ニアリマシタ
(松岡)
商法ノト詰リ同ジコトダ
(南部)
此處ハ留置權デハナイ先取特權デス
(松岡)
戻セトハ何ンノ爲メカ物ヲ此方ヘ戻スカ金ヲ拂フカ催促シテ戻サシテ元トニ復スト云フノデシヨウ
(南部)
留置デハナイ
(村田)
ヤルモノヲ押ヘテ品物ヲ此方ヘ取ルノデアリマス
(栗塚)
貴君ニ御屆ケ申上マスト運賃ヲ拂ツテナラ物ヲ戻スカ金ヲ拂フカデアリマス
(松岡)
取ツテ何ウスルカ
(村田)
何レ後トハ競賣スルヨリ外ハアリマセン
(南部)
留置權ハ千九十六條ニアリマス通リデ占有シテナケレバ留置權トハ言ハレマセン
(松岡)
手放シタルト失フカ
(南部)
ソレダカラ留置權デハナイ先取特權トナルノデアリマスカラ商法ノ留置權ト引合セル譯ケニハ往カン商法ニハ先取特權ノコトハアリマセン
(松岡)
果シテ其通リデ良イナラバ良シイ
(元尾崎)
良カロウ
(委員長)
商法ト能ク合セテ見ルガ宜シイ
(栗塚)
商法ト牴觸ガアリハスマイカト云フ疑念デアリマシヨウ事柄ガ何ウ斯ウ云フノデハナイダロウ
(松岡)
ソウデス商法デ定メタモノト撞着ガアリハスマイカト云フノデアリマス
(栗塚)
突キ止メテナイカラ良イトハ申セマセン
(南部)
商法ハ留置ノコト此處ハ先取特權ノ方デアリマス
(委員長)
兎ニ角之ハ良イトシテ商法ト對照シテ見ルガ良カロウ
本條ハ原案ニ決シ商法ト對照スルコトニ決ス
第千百六十七條朗讀ス
第八則 職務上ノ所爲ニ對スル債權者ノ先取特權
第千百六十七條 保證ヲ供スルノ義務アル公吏ノ職務上ノ過失、又ハ濫妄ヨリ生スル債權ハ其保證金ニ付キ先取特權アリ
(元尾崎)
「濫妄」ハ困リマス
(南部)
前ニ定マツタノデアリマス
(元尾崎)
「濫用」位デ如何デスカ
(北畠)
元ト「濫用」トアツタノデアリマス
(栗塚)
再調査デ「濫妄」トナツタノデアリマス
(淸岡)
「濫妄」デ宜カロウ
(栗塚)
三島ノ說ニ「濫用」ト云フノハ語ヲ成サン漢文ニハナイソウデアリマス
(槇村)
濫妄デ良ササウデス
(委員長)
先キヘ遣リマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第千百六十八條朗讀ス
第九則 保證金貸主ノ先取特權
第千百六十八條 前條ノ保證金ヲ貸付タル第三者ハ職務上ノ所爲ヨリ害ヲ受ケタル者ニ辨濟アリシ後第二位ニテ此保證金ニ付キ先取特權ヲ有ス但第三者カ貸付ノ當時又ハ他ノ債權者ヨリ何等ノ故障ヲモ述ヘサル前規則ニ從ヒ其權利ヲ證明シタルトキニ限ル
(栗塚)
「保證金」ハ「保證ノ元資」ト願ヒマス
(元尾崎)
之ハ「保證金」デ良シイ
(大尾崎)
原案通リデ良シイ
(南部)
ソレデハ前モ保證金トシテ下サイ
(栗塚)
彼處丈ケハ元資トシテ後トハ金デ何ウカ
(元尾崎)
宜シイ
(松岡)
六十八條ノ一項ニ金圓ト云フ字ガアルガ圓ト云フ字ガ這入ツテ居ルガ
(栗塚)
今迄使ツテ居ル金錢ト云フ字デハナイ資本ト云フ樣ナ字デス
(村田)
資本デモナイ
(渡)
金デ宜シイ
(元尾崎)
保證金デ良カロウ
(栗塚)
ソレデハ前ノ五十一條第八ハ保證金ト致シマス
(槇村)
ソレデ宜シイ
(渡)
五十一條カラ保證金トシマシヨウ
(南部)
宜シイ
本條ハ原案ニ決シ第千百五十一條第八第九ヲ「保證金」ト改ム
第千百六十九條朗讀ス
第二款 動產ニ係ル特別ノ先取特權ノ順位
第千百六十九條 動產ニ係ル特別ノ先取特權ト一般ノ先取特權ト競合スルトキハ優先ノ順序ヲ左ノ如ク規定ス
第一 訴訟費用ハ其費用ノ有益タリシ總債權者ニ先タツ但有益ノ限度又ハ割合ニ從フ
第二 其他四箇ノ一般ノ先取特權ハ第千百四十二條ニ定メタル順序ヲ以テ總テノ特別ノ先取特權ニ先タツ但特別ノ先取特權ニ服セサル他ノ動產ノ不足ナル場合ニ限ル
(村田)
千百四十九條ハ不動產ニ係ル一般ノ先取特權トアルガ處ガ此二項ニハ彼方此方ニナリマスガ彼處ハ先取特權ニ先立ツト云フ此處ハ唯動產ガ違フ丈ケデスカ
(栗塚)
左樣デス
(委員長)
其他四箇ノト云フノハ何ニカ
(村田)
前ニアリマシタ訴訟法ヲ除キ後ト四ツデ御座イマス動產ト不動產デ其レ丈ケ違ヒガ出來タノデアリマシヨウ
(栗塚)
左樣デス事柄カラ云フト左樣シナケレバナリマセン、詮モナイコトガアリマスト云フノデ切角保護シヨウト思ツテ醫者ノ藥禮トカ云フモノヲ保護シヨウト思フニ特別先取特權ガアルト云ツテハ詰ラント云フラシキアレバ何ンナコトヲシテモ取ラセルト云フノデアリマス
(松岡)
但其他ノ動產ヲ取ツテ其レカラト云フノデアリマシヨウ
(栗塚)
左樣デス
(委員長)
一項ニ有益タリシトキトアルガ負ケ訴訟ニナツタトキハ先取特權ハナイダロウカ
(松岡)
負ケ勝チニ拘ハラズデアリマス
(委員長)
有益タリシトキト云フト拂ツテモ有益ト言ヘルカ
(栗塚)
左樣デス
(淸岡)
有益ノ限度割合ニ從フト云フノハ割合ノ外出サンカ
(南部)
皆ナ債權者ノ有益デアリマス
(淸岡)
千圓益ガアツタモノヲ其レ丈ケノ割合ハ百圓ト聞ヘテオカシイ訴訟仲間ニ百圓モ五十圓ノ人モアル互ニ割合ツテ取ル樣ナ譯ケデハナイカ
(栗塚)
ソウ云フ意味デアリマス
(松岡)
千圓ノ金ニ入費ガ百圓係ルト一割デ外モ一割ト云フノデアリマス
(淸岡)
ソウデハナイ樣デス
(松岡)
詰リ金高割ニスルノデアリマス
(元尾崎)
ソウヤルヨリ外ハナイ
(淸岡)
但書ニスルハオカシクハナイカ
(南部)
少シモ違イマセン
(松岡)
動產デ着物ヲ賣ツタリ机ヲ賣ツタリシテ先取特權ヲ持ツタ人ガアルソレデモ訴訟費ノ時ハ債權者ガ費用ヲ机ノ上カラ取ラレテ溜マラン皆ナ割合ツテト云フノデアリマス詰リ益ノナイ人ハ掛レナイノデアリマス
(委員長)
益ハナクツテモ矢張リ往クデシヨウ
(南部)
千百四十三條ノニ項ニ總債權者有益ナラザリシ云々トアルアレモソウデ一人ノ債權者ニ關係ナイト云フ場合ヲ見テ居ルノデアリマス
(松岡)
財產ヲ差押ヘルト紛失セン樣ニ預ケルト云フ手數ガ係ル其時動產質ヲ取ツテ居ル人ガアリマス執行吏ノ手數ヲ頼ンデ良イ人モアル文案ヲ作ツタリスル人ハ皆ナ自分ノ利益ニ保護ヲ受ケ文方ニナルカラ有益ノ方デアリマス
(南部)
千百四十三條ノ二項ヲ見ルト分リマス
(淸岡)
成程之デ良イ樣デス
(元尾崎)
良カロウ
本條ハ原案ニ決ス
第千百七十條朗讀ス
第千百七十條 一箇ノ動產ニ付キ特別ノ先取特權ヲ有スル諸種ノ債權競合スルトキハ其相互ノ優先權ハ下ノ順序及ヒ區別ニ從ヒ之ヲ定ム
第一ノ順位ハ先取特權ノ目的物ヲ保存シタル者ニ屬ス
若シ數人ノ債權者漸次ニ保存ヲ爲シタルトキハ優先權ハ其間ニテ最後ノ保存者ニ屬ス
第二ノ順位ハ合意上ノ動產質ニ因リ或ハ不動產ノ賃貸人、旅店ノ主人又ハ運送營業人ノ如ク默示ノ動產質ニ因リ物ヲ質ニ取リタル債權者ニ屬ス
第三ノ順位ハ物ノ賣主ニ屬ス
然レトモ質取債權者ハ動產質設定ノ時其物ノ保存費用ノ未タ支拂ナキコトヲ知ラサリシトキハ第一ノ順位ヲ得
之ニ反シテ質取債權者カ賣却代價ノ未タ支拂ナキコトヲ知リタルトキハ賣主之ニ先タツ
收穫物ニ關シテハ第一ノ順位ハ農業ノ稼人ニ第二ノ順位ハ種子及ヒ肥料ノ供給者ニ第三ノ順位ハ土地ノ賃貸人ニ屬ス
工業ノ職工ハ鑛坑、石坑、其他土地ノ採掘事業又ハ土地ノ工業ヨリ生スル產出物ニ付キ賃貸人ニ先タツ
公吏ノ保證金ニ關シテハ職務上ノ所爲ニ對スル各債權者ハ相共ニ債權ノ割合ニ應シ其債權ノ割合ニ應シ其債權ノ日附ニ關セス他ノ債權者ニ先タチ又保證金ヲ貸シタル債權者ニモ先タツ其保證金ヲ貸シタル債權者ハ保證金ノ殘額ニ付キ第二位ニテ先取特權ヲ有ス
(栗塚)
此處モ工業ノ職工ハ產出物又ハ製造品ニ付キトヤツタラ宜シイ
(南部)
工業ヨリ生ズルトスレバ宜シイ
(淸岡)
第三ヲ狹ンダラ然レドモト云フノハオカシイ
(松岡)
次ヲ讀ムト之ニ反シテ質取主ハ賣却代價支拂ナイト知ツタ自分ハ何ウト第三ノ方ニ取ラルルト云フノデアリマス
(委員長)
支拂ヒナキヲ知ラザルナラ宜シイガ知リタリト云フハオカシイ
(栗塚)
前ノト後トノトハ違イマス支拂ヒノ未ダナルコトヲ知リタルトキデアリマス
(淸岡)
支拂ハザルガ宜シイ
(栗塚)
支拂ラハレザルト云ハナケレバナラン
(元尾崎)
支拂ラハレザルト云ヘバ宜シイ
(淸岡)
終リモ代價ノ未ダ支拂ハレザルコトヲ知リタルダ
(北畠)
之デ宜イデハナイカ
(委員長)
費用ノ未ダ支拂ヒ非ザルト云フガ宜シイ
(栗塚)
費用ノ未ダ支拂ヒ非ザルト云ツテ宜シイ
(委員長)
宜シイ
本條ハ第六項七項「支拂ヒナキ」トアルヲ「支佛ヒアラサル」ト改メ第九「工業ノ職工ハ工業ヨリ生スル產出物又ハ製造品ニ付賃貸人ニ先タツ」ト改メ其他原案ニ決ス
第千百七十一條朗讀ス
第三節 不動產ニ係ル特別ノ先取特權
第一款 不動產ニ係ル特別ノ先取特權ノ原因及ヒ目的物
第千百七十一條 左ノ債權者ハ下ニ定メタル債權ノ爲メ及ヒ其條件ニ從ヒ不動產ニ付キ先取特權ヲ有ス
第一 賣買、交換其他有償ノ行爲ニ因リ又無償ニモセヨ負擔ヲ帶フル行爲ニ因リ不動產ヲ讓渡シタル者ハ其讓渡シタル不動產ニ付キ先取特權ヲ有ス
第二 共同分割ハ分割中ニ包含シタル不動產ニ付キ先取特權ヲ有ス
第三 工匠、技師及ヒ工事請負人ハ工事ニ因テ不動產ニ生シタル增價ニ付キ先取特權ヲ有ス
第四 先取特權ヲ生セシムル行爲ノ當時ニ於テ讓渡人、共同分割者、工事請負人ニ支拂ヒタル金錢ノ貸主ハ右同一ノ不動產ニ付キ先取特權ヲ有ス
第五 死亡者ノ遺產ト相續人ノ資產トノ分離ヲ請求スル相續ノ債權者及ヒ受遺者ハ相續ノ不動產ニ付キ先取特權ヲ有ス
(淸岡)
「債權者ノ爲メ及ヒ」ト云フノハドウ云フコトカ
(栗塚)
債權者ノ爲メ特權ヲ有スソレカラ不動產ニ付テ何デスネ「及ヒ」ハナクテモ良イデシヨウ條件ニ從ヒトヤツタカラ「及ヒ」ヲ入レタノデス
(元尾崎)
「及ヒ」ハナイ方ガ良シイ
(村田)
「及ヒ」ハ除カンデモ良シイ
(松岡)
「及ヒ」ハ刪ルガ良シイ
(栗塚)
債權ノ爲メソウシテ條件ニ從ヒトアルノデアリマスカラ「及ヒ」ハ入リマセン
(委員長)
ソレデハ「及ヒ」ハ刪ルカ
(淸岡)
「無償ニモセヨ」ハ「無償ナルモ」デ宜シイ
(松岡)
宜カロウ
(委員長)
共同派分ハ分割トシタカ
(栗塚)
皆ナ分割ニ改メマシタ
本條ハ第一項「及ヒ」ヲ刪リ「無償ニモセヨ」ヲ「無償ナルモ」ト改メ其他原案ニ決ス
第千百七十二條朗讀ス
第一則 讓渡人ノ先取特權
第千百七十二條 讓渡人ノ先取特權ハ左ノ各人ニ屬ス
第一 賣買ノ代價利息其他ノ負擔ニ付テハ賣主
第二 交換ノ補足額、負擔及ヒ交換物ノ追奪擔保ニ付テハ交換者
第三 贈與ノ負擔ニ付テハ贈與者又ハ其承繼人
其他有償又ハ無償名義ノ不動產讓渡人ハ一般ニ其對價及ヒ負擔ニ付キ先取特權ヲ有ス
(南部)
第一賣買ノ代價及ビデハナイカ
(栗塚)
ソウデ御座イマス
(松岡)
今迄賣却代價ト云ツテ來タニ何ウシテ賣買トシマシタカ
(栗塚)
賣買交換ト云ツテ來タ其代價デアリマス
(松岡)
賣却代價デ良イデシヨウ
(栗塚)
ソレデモ良シイ
(淸岡)
其負擔ハ賣買ニ關係スルノデ其レダカラ賣買ト云ツタノデス
(栗塚)
左樣デス
(委員長)
年金權ト云フノハ止メタカ
(栗塚)
止メマシタ
(村田)
賣ツタモノハ其モノニ付テ先取特權ガアルノダカラ買ツタモノハ出樣ハナイ
(栗塚)
始終賣買ト云ツテ來マシタ貸借モ貸ス計リデモ貸借ト云ツタカラ良イデハ御座イマセンカ
(松岡)
賣却代價デ良イノダ、ダカラ先取特權ノ處モ賣却代價支拂ヒ云々トアルノダカラ賣却デ良シイ此處許リ殊更ラニ賣買ト直シタノハ餘計デス
(南部)
賣却ノ負擔トハ云ヘン
(委員長)
土地ヲ私ガ買フタ代リニ貴君ニ一生涯何程ヲ上ゲマシヨウト云フ其レヲ代價ト云フカ
(栗塚)
卽チ代價デアリマシヨウ
(淸岡)
宜シイ
(大尾崎)
宜シイ
本條ハ「第一賣買ノ代價」ノ下ヘ「及ヒ」ノ二字ヲ加ヘ其他原案ニ決ス
第千百七十三條朗讀ス
第千百七十三條 賣買代價、交換補足額ノ外賣買、交換、贈與ノ負擔及ヒ交換其他有償名義ノ合意ニ於ケル追奪擔保ノ未定ノ賠償ハ讓渡ノ證書又ハ日後ノ證書ヲ以テ金錢ニテ之ヲ定ムルコトヲ要ス
其他右ノ證書ハ次款ニ記載スル如ク之ヲ公示スルコトヲ要ス
(元尾崎)
之ヲ定メテ居カナケレバナリマセンカ
(南部)
定メテ置カント之ガ出來マセン
(元尾崎)
不動產物ヲ買ヘバ追奪擔保ハ言ハンデモ分ツテ居ル
(南部)
賣買ノ代價交換贈與ノ負擔皆ナ書イテ置カナケレバナリマセン
(大尾崎)
仕方ハアリマセン
(委員長)
賣買ノナイモノハ先取特權ガナイカ
(南部)
人ガ代リマスカラ唯ダ遣ルニハ第三デ宜シイ
(委員長)
價ヲ付ケテ賣ルノデハナイ山ガ十町アル價ハ一ケ年三十圓シカ遣ラント云フ價ニ比較サレンモノデモ山ヲカル代リニハ己レノ死ヌマデ呉レンカト云フノハ何ウカ
(栗塚)
其他有償名義不動產讓渡ノ云々トアルノデ第一第二第三ノ他ニ有償名義ノ讓渡ハ一般ノ先取特權ヲ有ストアルノデ總罷シテ居ルノデアリマス
(元尾崎)
宜シイ
本條ハ原案ニ決ス
第千百七十四條朗讀ス
第千百七十四條 交換其他不動產ノ讓渡ノ對價トシテ受取リタル不動產ノ追奪擔保ノ爲メノ先取特權ハ其追奪カ讓渡ノ時ヨリ十个年內ニ生シ且廢罷ス可カラサル判決ヨリ一个年內ニ擔保ノ請求ヲ爲シ之ヲ公示シタルトキニ非サレハ存在セス
對價トシテ受取リタル動產ニ關シテハ擔保ノ爲メノ先取特權ハ追奪カ一个年內ニ生シ且廢罷ス可カラサル判決ヨリ一个月內ニ請求ヲ爲シ之ヲ公示シタルトキニ非サレハ存在セス
本條ハ原案ニ決ス