旧民法・法例(明治23年)

法律取調委員会 民法草案再調査案議事筆記 第28回

参考原資料

備考

  • 未校正のテキストデータです.
民法擔保篇再調査案第二十八回議事筆記
自第千百二十一條至第千百三十一條
(箕作)
遣リマシヨウ
第千百二十一條朗讀ス
第三章 不動產質
第一節 不動產質ノ目的、性質及ヒ組成
第千百二十一條 不動產質契約ハ不動產質債權者ニ他ノ總債權者ヨリ先ニ其不動產ノ果實及ヒ入額ヲ收取スルノ權利ヲ付與ス
債務ノ期限ニ至レハ債權者抵當權アル債權者ノ權利ヲ行フ
其期限ハ三十年ヲ超過スルコトヲ得ス之ニ過クル場合ニ於テハ當然三十年ニ減縮ス其期限ハ縱令之ヲ延期スルモ前後通算シテ三十年ヲ超過スルコトヲ得ス
(栗塚)
不動產質ハ一旦議場デ議決ニナツタ後チ更ニ書キ替ヘテ參ツタノデ換ヘテ參ツタト申スセウ酷イ違イデハ御座イマセンガ此千百二十一條カラ不動產質丈ケノ間ニ數箇條直シテ參ツタノデス因テ議場デ換ツテ居ル案トハ初メニ議決ニナツタトキトハ違ツテ居ル所モ御座イマシヨウカラ此民法草案第三十六回改正ト紫字デ參ツタコトガアリマシヨウ初メ其レニ基イテ議決ニナツタノトニ基イテ再調査ヲシタノデ依テ尤モ圏點ガ打ツテアリマスガ酷イ相違ガアル樣ニ御覺デシヨウガ其相違ハ起案者ノ方カラ言ヒ出シテ參ツタノデ御座リマス
(淸岡)
第三項ノ「場合」ト云フノハ「トキ」ト改メテアリマスガ何ウ云フモノデアリマスカ
(南部)
改マツテ居リマス
(淸岡)
二十年トシテガ三十年トナツタノデスカ
(栗塚)
左樣デス
(松岡)
之ハ論ノ上ニシタノデアリマス
(栗塚)
小作人ナゾノ權衡デ三十年ニナツタノデアリマス
(松岡)
三十年過ギタトテ永小作ニスルト云フノデハアリマセン
(村田)
三十年ヨリ往カンノダ
(松岡)
隨分永イ
(南部)
永イ方ガ宜シイ
(村田)
其期限ハデ分リマシヨウカ抵當權アル債權者權利ヲ行フト云フカラシテ權利ダカラ期限ハト云フト或ハ抵當ノ方ニ這入ルト見ハセンカ
(南部)
上ニ其期限ハ債務期限トアリマス
(村田)
三項目ニ期限ト云フト動產質ノ期限トハ見ヘマセン
(松岡)
外ニアリマスカ
(村田)
抵當權ガ生ズルト云フノデシヨウ
(松岡)
抵當權ガ生ズルトソレカラ期限ガ起ルデハアリマセン
(村田)
ケレドモソウ見ヘハセンカ
(南部)
ソレハアリマセン
(箕作)
抵當權アル債權者ト云フノハ引合ニ出シタノデアリマシヨウ
(松岡)
他國ノ話ヲ持込ムカラ往カンノデ日本デハ「アンチクレーズ」ハナイカラ質權ハ雜ト云フトキハ賣ツテ取ルノガ當リ前デアリマス一向其處ニ懸念ハアリマスマイ
(村田)
其期限ガ分ルカ知ラン
(南部)
債務ノ期限デス
(箕作)
疑ヒハアリマセン
(松岡)
「總」ト云フ字ハ後トカラ入レタノデアリマス
(村田)
元トハナカツタカ入レタ方ガ宜シイ
(南部)
改正案デ入レタノデス
(松岡)
入ラン字デアリマス「總」ト云ツテモ他ニ優先權ヲ持ツテ居ツタラソウハ往カンカラノ債權者デ差間ヘナイ後チ々々「總」ノ字ヲ一々入レル譯ケニハ往キマスマイ
(栗塚)
初メナイモノヲ態々入レテ來タノデアリマス
(箕作)
前後通算シテト云フノハ何ウ云フモノカ縱令ヒ之ヲ延期スルモノカ
(南部)
延期シテモ初メカラ期限ハ之ヲ伸長スルコトヲ得ズト元トアツタノデアリマス
(大尾崎)
三十年ハエライ
(南部)
三十年ハ越ユルコトハ出來ンノデス短イハ餘リ良クハナイ
(大尾崎)
三十年ト云フノハ殆ンド賣タヨウナモノデス
(栗塚)
三十年ト云フハ極ク先キノ話デ一二三年デモ宜シイ、何所マデカナレバ三十年デ、其代リソレカラ先キハ延スコトハ出來ヌノデアリマス
(村田)
三十年マデハ五六年デモ延バサルルノデスネ
(栗塚)
左樣デス
(淸岡)
今日取戻シテ明日入レルト云フモ仕樣ガナイノダネ
(大尾崎)
ドウモ仕方ハアリマスマイ
(淸岡)
恰ド永小作ガ三十年トナツタカラ彼レト釣リ合フノダロウ
(南部)
三十年トシテ害ハナイ
(大尾崎)
良シイ
本條ハ原案ニ決ス
第千百二十二條朗讀ス
第千百二十二條 不動產質ハ債務者ノ爲メ第三者ヨリ之ヲ設定スルコトヲ得其不動產質ハ債務者ト設定者トノ間ニ於テハ動產質ノ爲メ第千百二條ニ定メタル効力ヲ生ス
本條ハ原案ニ決ス
第千百二十三條朗讀ス
第千百二十三條 不動產質ハ第千二百三條及ヒ第千二百四條ニ從ヒ抵當ト爲スコトヲ得ヘキ權利ノ上ニ非サレハ之ヲ設定スルコトヲ得ス
其他設定者ハ質ト爲シタル物件又ハ權利ノ收益權ヲ自ラ有スルコトヲ要ス其質ハ如何ナル場合ニ於テモ其收益權ノ繼續期ヲ超過スルコトヲ得ス
不動產質設定ノ爲メニ要スル能力ハ第千二百十五條及第千二百十六條ニ定メタル抵當設定ノ能力ト同一ナリ
(村田)
千二百四條ハ使用住居權ハ差押フルコトヲ得ザルモノハ抵當ト爲スコトヲ得ズダガ之ニ引テ來タノハドウ云フモノカ反對ノコトガ出ヤセンカ
(栗塚)
彼所デ禁ジテ居ルモノト云フノデス
(箕作)
千二百三條ハ行テ論モアルガ、從ヒダカラ宜シイデハアリマセンカ
(村田)
四條ハ抵當ト爲スコトヲ得ズダカラネ
(南部)
比較シテ見ナケレバナラン
(栗塚)
併シナガラ彼レヲ除クノ外ハ皆出來ルト云フノダカラ良シイデシヨウ
(村田)
彼レハ私ノ思フノハ二百三條ニアリマスノデ千二百四條ヲ引タノハ分ラン
(栗塚)
斯ウ云フ風ニ讀ダラ良シイダ二百四條ノ例外ヲ設ケテアル千二百三條從ヒト云フノデアリマス
(村田)
ソウ見ルモノハナイ
(南部)
千二百四條ノ但書ヲ御覽ナサイ許シテアツタラ往クト云フニナルカラ許サザルトキハ往カンガ許シタ場合ハ往クト云フノデアリマスカラ裏カラ見テデアリマス
(村田)
ソレハ要用デナイ
(松岡)
千二百三條ハドウ云フモノガ出來ルト云フノデ二百四條ハドウ云フモノガ出來ヌト云フノデケレドモ爲スコトヲ得ベキハ得ラルルモノト得ラレンモノト謂ハント分ランネ
(栗塚)
左樣デス
(箕作)
物權ト云フ字ハ「物件」ト云フ字ニ換ヘタノデスカ
(栗塚)
仰シヤル通リデス
(松岡)
物、デ良イノダネ
(南部)
件、ノ字ハ除クヨウ、原書ガ違イマスカ
(箕作)
違イハセン
(南部)
ソレデハ刪ロウ
(箕作)
ソレデハ「件」ト云フ字ハ刪リマス
(松岡)
權利ノ收益ト云フハ用益權ノヨウナモノヲ求得カ
(南部)
左樣デス
(松岡)
有形物無形物ノ質ヲ云フトソコデ、雲助ガ博奕ニ負ケルト草鞋ヲ穿レト云フコトヲ入レルカ、アレハ權ヲ云フノデ草鞋ヲ置クノデハナイネ
(村田)
草鞋ヲ穿カント云フハ不細工ノ方ダ
(箕作)
物ト云フ權利ト云フモ一ツコトヲ云フノダロウ
(栗塚)
用收權ヲ質ニ置クノデス
(松岡)
二ツニ書クト工合ガ惡イ物ト權利ト書分ケテヤツタラ再調査デ刪テ權ト云フノガ殘タノダカラ此所デ二ツ立ルトアハヌ
(箕作)
一項ニハ權利トノミアリマスネ矢張其事デスネ物卽チ權利財產卽チ權利ダ
(松岡)
此收益ハ權利ノ收益ト讀メルネ
(箕作)
卽チソウナノデシヨウ併シ何方カ入ラント云ヘバ入ランデシヨウ
(栗塚)
所有權ヲ質ニ置クノモ權利ヲ置クノデ物ヲ置クノデハナイ財產ハ權利ナリト云フ原則カラ云フトソレデス併シナガラ普通ヲ云フト家ヲ質ニ置クト家ノ上ニ有スル權ヲ置クトハ云ハン家ノ收益權ヲ持テ居ナケレバナラン地面ノ收益權ヲ以テ居ナケレバナラン併シナガラ家地面ノ所有權ヲ質ニ置クト云フノデス
(松岡)
ソウスルト假令バ所有權ハ質ニ置ケンカ
(栗塚)
千二百三條ニアリマス
(大尾崎)
所有權ハ入レテモ取リ入ガナイ
(松岡)
ヒドイ地面ヲ賣テ置ク收益ハナイガ幾年ノ後元根デ取レルト云フノモアリマス
(栗塚)
千二百三條ニ是等ノ權利ヲ支分シタ上ニモ設定スルコトヲ得トアリマス
(松岡)
收益權ト云フノハオカシクハナイカ此處デハ所有者ハ收益權ガナイ收益權ヲ人ニ與ヘテアリマスカラ支分權トナルノデ其レデ別ニ言ツテ居ルノデハナイカ
(南部)
原書ハ收益權ヲ自カラ有スルデスカ
(箕作)
ソウデハナイ
(松岡)
權利ノ收益權ハ入ラン樣ニナル支分權ヲ得テ居ル用益者ノ如キハ用益權計リ持テ居ル
(栗塚)
權利ト云フタノハ物卽チ權利ト云フ工合デ矢張リ收益權デモデ、此權利ト云フノハ支分權ノ上ヲ指スノデハナイ矢張質トナシタモノノ收益權ヲ自カラ有スノデアリマス
(南部)
物ノ收益權デ良イデハナイ
(栗塚)
千二百四條ノ下ハ物ト計リデ宜シイ其他設定者ハ質トナシタル物ノ收益權ヲ自カラ有スデ宜シイ
(松岡)
スルト物デモ收益ハ自カラ有スト云フト所有者ハ出來ントナリハセンカ如何ニモ主義ガ頗ル六ケ敷イ
(栗塚)
抵當トシテハ餘程違イマス
(南部)
所有權ノ收益ガナケレバ有スルコトヲ要スト云ツテモ其レハ這入ランモノデシヨウ
(栗塚)
出來ナイ結果ニ爲リハセンカ
(南部)
千二百三條ニ出來ルト云ツテ居リマス
(栗塚)
次ノ項ニ收益權ヲ自カラ有ストアルト恰度出來ント同ジニナリハセンカ
(南部)
ソウハナラン
(松岡)
設定者ハ何カト云フノデハナイ今云フ樣ナ意味ナラ所有者ハ出來ン樣ニ爲ル
(栗塚)
物又權利ト云フ物ト云フハ完全ナ所有權ヲ云フ權利ト云フノハ支分權ヲ指スモノデハナイト思フ物卽チ權利ト云フ意味デアリマス
(松岡)
註ニハ設定者ハ收益權ト占有權ヲ處分スルコトヲ要ストアリマス且物ハ抵當トセラル可キヲ要スルカ
(箕作)
原案者ハ所有權ナゾハ不動產質ニサセナイト云フノダロウ
(栗塚)
左樣デス
(箕作)
一項ノ二百三、四條ノ抵當ニ出來ルモノデナケレバ設定ハ出來ント其レカラ又斯ウ云フモノデナケレバナラント制限シタ樣ニ思ハレル
(松岡)
ソウ思ハルル果シテ其レナレバ權利ト云フノト物ト云フノトハ並ベテ置カント往カン
(南部)
元トノ權利ノ上ニ關係ハナイ
(村田)
不動產ナレバ自分デ處分權ヲ有スルモノデナケレバ往カンカラ其處分ヲ言ツタモノデシヨウ
(箕作)
此註ハ誠ニ愚註デアリマス
(栗塚)
左樣一項デハ抵當ト爲シ得ル物ハ質ト爲スコトガ出來ルト言ツテ二項ニ收益ヲ自ラ有スルモノデナケレバナラント云フ以上ハ且不動產質モサセルコトガ出來ント云フ說キ明シガ出來ソウデス
(松岡)
抵當ノ場合デハ出來ルデシヨウ
(栗塚)
左樣デス
(松岡)
質權ニハ收益ヲサセルガ六ケ敷イダカラ收益權ヲ他ニ遣テ賃借シテ置クトカ用益權ニ附シタト云フト殼計リデアリマスカラソウスルト質ハ出來ントシナケレバナラン
(大尾崎)
ソウ見テ仕舞ヘバ宜シイ所有ハ往カント云フナレバ宜シイ米實ノナイモノヲ質ニ取ルモノハ滅多ニアリマスマイ
(箕作)
スルト初メノ考ヘトハ違ツテ居ツタノデ「アンチイレーズ」ニ入レルト思タガソウデナイ又一ツ制限シテアルノデス
(栗塚)
理窟上制限スルノガ當リ前デシヨウ
(松岡)
日本ノ人ガ質ヲ設ケル心ハ私ガ貸長屋ヲ以テ借家人ニ米實ガアルモ其レヲ質ニ入レルコトハ出來ンカ
(南部)
家ノ質物ハアリマセン皆ナ抵當デス家ヤ宅地ハ質デハアリマセン
(松岡)
家ニシテモ收益權ヲ向フヘ持タスレバ出來ルデシヨウ
(南部)
ソウデス
(松岡)
スルト物ノ處分權ヲ以テ收益權ヲシナケレバナリマセンカ又收益權ヲ以テ居レバ處分權ハナクツテモ出來ルト見ナケレバナリマセン
(箕作)
收益權ヲ持テ居ルモノナラ出來ル
(村田)
收益權ガアリサヘスレバ宜シイ
(松岡)
前項ハ後項ト餘程分リ惡イ質ニ付テ斯ウ云フ事例ガ我我ハアンマリ無カツタノデアリマス
(南部)
動產質ハ收益權ガアルデシヨウ
(大尾崎)
左樣デス
(箕作)
其他ト云フ字ヲ餘程能ク見ナケレバナリマセン
(松岡)
要ス其質ハ如何ナル上ニ於テモ收益權ノ繼續期ヲ超過スル得ズト爲ルト所有者ヲ離レテ用益者賃貸者ニ計リヲ言ツタノデアリマシヨウ
(大尾崎)
左樣
(箕作)
ダカラ註ヲ見ルト動產質ヲ取ツタモノハ不動產ヲ又質ニ置クト云フコトガ
(南部)
實地ニハナイダロウ
(松岡)
物ノ收益權ハト云ツテ置キマス
(栗塚)
俗ニ分ルノハ物ト云ツテ置ケバ宜シイ
(松岡)
物ノ收益權ヲ自ラ有スルノデ何方ニシテモ自カラ收益ヲ有スルト云フノデ權利ノ收益權ト云フノハ分ラン
(箕作)
權利ノ收益權ニハ違イナイ財產卽チ權利デアリマス
(松岡)
分ラン質トナシタルモノノ收益權ト云ツタラ宜シイ
(村田)
ソウハ往ケマセン
(南部)
物卽チ權利ダケレドモ穩カナラン權利ノ方ガ宜シカロウ
(松岡)
二項目ハ質トナシタル權利ノ收益權ト云ツタラ分ラン
(南部)
質トナシタルハ權利ノ上デナケレバナラント前項ニ云ツテ居ル其質トシタ權利ノ收益ハ自カラ有セナケレバナラント云フノデ物ト遣ルト二十六條ノ質ト爲シタル收益權モ隨分珍ラシイ
(箕作)
權利ト物ト云フコトハ「ボアソナード」先生無茶苦茶デス
(栗塚)
左樣デス
(箕作)
千百二十一條ノ定義ニ動產質債權者云々其動產ノ果實ノ入額ト云ツテ仕舞ツタカラアノコトデ何ウモ工合ガ惡イノデス
(松岡)
不動產デ往クカ
(箕作)
ソウスルト用收權ハ卽チ不動產ト言ハナケレバナリマセン
(村田)
此儘デ宜カロウ
(栗塚)
物卽チ權利ト云ツテ置ケバ宜シイ
(南部)
刪ルナラ權利ヲ置テ物ヲ刪ツテ宜シイ
(淸岡)
一項カラ直シマシヨウ
(松岡)
一項ハ設定者ニ屬ス不動產權利ノ上ニ非ザレバト有ツタノデ如何ナル權利ノ上デハナカツタ
(箕作)
ソウデス
(淸岡)
ソレガアレバ分リ宜シイガ只權利上ト云ツテハ分ラン
(南部)
修正ハ不動產ト云フ字ハ刪ツタノデス
(栗塚)
權利ト遣レバ宜イノデシヨウ
(松岡)
不動產質ト云フ題ダカラ不動產ト云フ方ハ分リ良イ
(栗塚)
物又ハ權利ト云フノヲ入レテ來タノデアリマス
(大尾崎)
之ハ置イテハドウデスカ
(南部)
宜シウ御座イマス
(松岡)
上ノ方ハ宜シイカ實ハ讀ンデ見ルト隨分分リ惡イダロウ
(村田)
物ニ計リシテモ權利計リニシテモ足リナイ樣ニ思フ
(南部)
物又ハト云フ字ヲ刪ツテハ何ウカ
(淸岡)
物ノ收益權利ノ收益ハ分リマセン
(栗塚)
物計リニシテハ何ウカ
(南部)
修正スルナラソウシヨウ
(村田)
刪ル位ナラ質カラ權利ノマデヲ刪ツテ設定者自カラ收益權ヲ有スト云ツテ宜シイ
(箕作)
ソレハ分ラン
(松岡)
元トノデ見ルト不動產ノ所有者タルモノ云々トアル少クトモ動產質權ニ均シキ收益物權ヲ有スルモノト云フコトヲ入レテ來タガ何ウモ此處デハ外ノ事ハ言ハズ如何ナル權利ト云フノモ分リ惡イコトデハナイカ知ラン
(南部)
ソレデハ元ノ通リニ置クヨリ仕方ガナイ
(淸岡)
物ト仕樣デハナイカ
(村田)
設定者ガ質物ノ收益權ヲ自カラ有スト云ツテハ如何
(南部)
ソレハ往カン
(栗塚)
民法デ言フト權利ノ方ガ廣イ
(元尾崎)
設定者ハ質置主カ
(村田)
ソウデス
(大尾崎)
設定者ハ兩方デス
(南部)
否ナ取ツタ方デアリマス
(松岡)
質置主デアリマス迷イガナケレバ良イガ所有者モ出來ルト見ラレハセンカ
(南部)
物又ハ權利ト云フ字ヲ刪レバ宜シイ
(大尾崎)
設定者ト云フノハ雙方ニ係ル樣ニナル此處デハ質取主ト見ナケレバナラン
(松岡)
置主デス
(栗塚)
之デ置キナスツテ下サイ
(槇村)
之デ往カウ
(箕作)
質トナシタルト云フ字ハ原文ニハアリマセン只物又ハ權利ノ收益權ヲ有ストアルノデアリマス、質トナサントスルモノ收益權ヲ有サナケレバナラント云フノデシヨウ
(栗塚)
左樣デス
(南部)
「タル」ハ惡イ質トナシデ宜シイ
(村田)
千百二十一條ニ不動產ト云フコトガアリマスカラ分リマス
(栗塚)
質トナスデハ何ウカ
(箕作)
宜シイ
(槇村)
宜シイ
(淸岡)
物又ハ權利トモ如何物ト權利ト同ジデシヨウカ
(松岡)
違イマス權利ト云フハ收益權賃借權ト云フ方ノ權利ヲ云フノデ物ハ質物ヲ云フノデアリマス
(元尾崎)
「質ト爲サントスル物ハ」ガ宜シイ
(松岡)
物ハ刪ラレナイ
(槇村)
「質ト爲サントスル物ハ」ガ宜シイ
(南部)
質ト爲ス物ハ收益權ヲ有サナケレバナラント云フノデアリマス
(村田)
爲シテ後チハ收益權ガナイデモ宜イカ
(元尾崎)
既ニ入レタモノヲ自分ガ取ル樣ニ見ヘルカラ爲サントスルモノガ宜シイ
(村田)
爲スモノデ宜シイ
(淸岡)
解釋ガ二ツニナリハセンカ
(松岡)
物持チナラ收益權ヲ持ツテ居ル人又賃借權用益權ヲ以テ居ル人ト云フガ權ヲ云フノデ
(淸岡)
所有權ノ事ヲ云フノデハナイカラ其質ト爲スモノダ
(松岡)
物ノ持主ガ直グ遣ルノト持主デナイ權利丈ケ持ツテ居ル人ガスルノトノ話シデス
(栗塚)
左樣デス
(松岡)
先ヅ斯ウシテ置キマシヨウ爲ス物デ良カロウ
(箕作)
ソレデハ先キヘ遣リマシヨウ
本條ハ第二項「質ト爲シタル物件」ヲ「質ト爲ス物」ト改メ其他原案ニ決ス
第千百二十四條朗讀ス
第千百二十四條 不動產質カ合意上ノモノナルトキハ其質ハ合意上ノ抵當ノ爲メ第千二百十一條ニ定メタル公正證書ヲ以テスルニ非サレハ當事者ノ間ニ之ヲ設定スルコトヲ得ス
又不動產質ハ第千二百十八條ニ從ヒ遺言上ノ抵當ノ許サルヽ場合ニ於テハ遺言ヲ以テ之ヲ設定スルコトヲ得
不動產質ハ之ヲ證明スル證書又ハ判決書ヲ第三百六十八條第一號及ヒ第三號ニ從ヒ登記シタル後ニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
右ノ登記ハ抵當ノ順位ヲ保存スル爲メ記入ニ等シキ効力ヲ有ス
(村田)
第四項「等シキ」ヲ「同シク」ト直シタガ「等シキ」ノ方ガ宜シイ
(栗塚)
再調査デ皆ナ直シテ參ツタノデアリマス
(松岡)
當事者間ニ何ウ云フ譯デ之ガ入ルノカ
(栗塚)
矢張リ大事ノ契約ダカラト云フ積リデシヨウ
(村田)
公正證書計リデハ往カンノデス
(箕作)
第三者ニ對スルナラ登記ガアル當事者間デモ公正證書ガナケレバナラント云フノデス
(槇村)
當事者間デモト云フノデシヨウ
(松岡)
相對デモ私ノ證書デハ濟ンノデスカ
(元尾崎)
今デモ第三者ニ對シテ効ハナイガ相對デハ効ガアルノデス
(松岡)
公平ノ考デ相對同士デ私ノ普通證書デ有効ダガ第三者ニ對シテハ御尤デアリマスガ一體ハドウカネ
(淸岡)
往カン
(元尾崎)
私ハソウシテ置キタイ、公證人ノ面前デヤレト云フハドウモ實ニ融通ヲ止メル
(栗塚)
今日ハ公證人ト云フ者ガナイカラデスガ之ヲ置クノハ今日ノ法律デ出來テ居ル置ク旨意ハ何カ一體ソレカラ響クノデ、ソウスルトドウシテモ當事者間デ重大ノ所有權ヲ長イ間人ニ移ス如キハ熟慮ヲ要シタモノト見ルゾヨ只金ニ思テ取ラ置イタモノデハナイ此丈ケヤレバ權利モ失フゾヨト云フガ尤モ勝事ダカ知タモノト見ルカ隨分知リツツ負ケヤセンカラ慮テ公證人ヲ置タカラデシヨウ、スルト公證人ヲ置イタ旨意カラデシヨウ
(元尾崎)
相對ニシテ置ケバ登記スルト云フハ向ウハ否應ハナイ
(村田)
之ハ私抔ノ思フニハ矢張公證人ノ前デヤル方ガ良イト思ヒマス動產質抔ハナンダガ之ハ三十年迄往クノデ期限ノ長イモノデアリマスカラネ
(南部)
今デモ登記スルカラネ卽チ登記デ公證サセル
(元尾崎)
公證人ノ面前デ遣ルノハ迚テモ出來マセン今日ノ登記デサヘ融通不便ト言ツテ居リマス
(栗塚)
併シ何方ガ良イカ公證人ハ便利ナ爲メニ設ケマシタノデス其レカラ幼者ヤ百姓逹ヲ救フ爲メニ出來タモノト考ヘナケレバナラン
(元尾崎)
救フノハ宜シイガ酷メル樣ニナツテ困リマス
(栗塚)
其レハ手續ノ方ガ惡イノデ權利ヲ保護シテ遣ル道ヲ付ケ公證人ヲ置クノデアリマス貴君ノ論ニスルト抑々公證人ヲ置カヌガ良イトナリマス
(元尾崎)
ソンナ事ヲ言フト巡査ハ保護ノ爲メ每日家ヲ見張ラシタラ宜シイガソンナコトハ出來マセン元保護スル爲メナラ不便デモ何レデモシテ遣ルト言フコトハアリマセン
(栗塚)
不便ト云フノハ貴君ノ思想デアリマス
(元尾崎)
思想ガ實際ト適合スレバ宜シイ
(松岡)
爭ヒハ暫ク置キ斯ウスレバ物ノ道理ハ立チマス又一方カラ云フト凡ソ契約ハ雙方ニ於テハ法律ニ等シイカヲ以テ契約ハ人ノ自由デス併シナガラ他ノ人ニ向テハ公正ノ方式デモナケレバナラント云フトキハ登記或ハ公證人ノ證書ヲ設ケル左モナイデ相對丈ケノ事ハ自由ニ任シテ良イデハナイカト云フ二ツノ理窟ハ何方ニモアリマス
(箕作)
佛蘭西ノハ證書デ出來ルトアリマス
(南部)
佛蘭西ハ抵當ガナケレバナランデシヨウ抵當ト云フモノハ公正證書デナケレバナラント云ツタ今度不動產質ハ丸デ抵當効力見タ樣ダカラ佛蘭西ノト違ツテ佛蘭西ノ通リニ遣ルノナラ公正證書デナケレバナリマセン
(松岡)
質ハ收益權丈ケデ先取權ハナイ先取權ノ持タントキハ何ウカ必ズ公證人ニ付キスルカ否ヤ第三者ニ對スルモノナラ登記シナケレバナラント云フノデ第三者ニ勤スルトキハ登記シナケレバナラント云ヘバ分ル
(南部)
其レハ違イ登記ノ話デハナイ公正證書ノ話シデアリマス佛蘭西デ不動產質ノ場合ニハ不動產質ハ抵當ト同ジク權利ヲ與ヘマスカラダガ處ガ日本ハ舊慣ニ依テ不動產質ニ抵當權同樣ノ効力ヲ與ヘタソウシテ見レバ不動產質モ佛蘭西通リ往タカラ無論公正證書デナケレバナラント云フ結果ニナリマスナゼ抵當權ヲ與ヘタカ抵當ト云フモノハ公證人ノ作ツタ公正證書デ登記シナケレバナラントシテモ何故カト云ヘバ先取權ヲ與ヘル故ニト云ハナケレバナリマセン
(南部)
事柄ガ重大ナル故デス事ノ重大ナルモノハ公正證書ヲ以テ記載スル卽チ有式契約デナケレバ無効ダトシテ來タノデアリマス有式契約無式契約二ツニ分ケタラ斯ウ云フ理窟ニナリマス
(松岡)
相對間ヲナゼソウ言ハナケレバナランカ
(南部)
ソレハ公證人ト云フモノヲ置キ公正證書ヲ作ルトナレバ各國共ニソウデス
(松岡)
公證人ハアツテモ相對ハ相對デス
(南部)
遺言ヲ登記スルトカ遺言ノ記載ナキトキハ無効トナルト云フ例ヲ擧ゲレハ色々ニナツテ居ルダカラ公正證書ト云フモノヲ置ク以上ハ其結果不動產ニモ公正證書ヲ作ルト云フノハ當然デアリマス
(松岡)
併シナガラ之ヲモト云フ理窟ハ何ウカ
(栗塚)
事柄ガ重大ダカラ、サテ此事柄ハ重大デアルカ否ヤト云フ問題ニ過ギマセン貴君方愛國心ノ餘リニ云フノハ御尤モデアリマス併シナガラ日本ノ不動產質ト云フノハ違フノデアリマス
(松岡)
第三者ニ對スルハ必要デアリマス公正證書デアルハ宜シイ併シナガラ相對デ第三者ニ關係ヲ持タル時分ハ私ノ證書デ任シテ宜シイ實際上不都合モアリマスマイ
(大尾崎)
我輩ハソウデス
(松岡)
佛蘭西ハ第三者ニ向テ質拂ハ先取權ヲ持タント云フノダロウ
(南部)
ソウデハナイ
(松岡)
相對ノ間ハ口約束デハ往カント五十圓以下ハ口約束デモ出來ルガ動產ハ必ズ書面ニ作レト云フガ宜シイ公證書デナケレバ効ガナイト云フト私ノ證書ハ無効ニナルノガ酷イト云フノデ第三者ニ關係センモノハ法律ガ相對ノ契約ニ効ヲ持タンデハ何ウカ
(栗塚)
一歩ヲ御讓リ下サランデシヨウカ五十圓以下ト雖モ事柄ガ重大ダカラ當事者間デモ證書丈ケハ入用ト云フノデシヨウカ
(松岡)
左樣デス其處ガ一歩ヲ讓レバ此處マデ置イテト云フモ實際難義モアリマシヨウ因テ當事者間ノミノ時ハ書面ヲ作レト云フ丈ケニシテ第三者ニ往クノハ次ノ樣ニナツタラ實際不都合モナクシテ宜カロウ
(南部)
ソレデハ有式契約ヲ廢ソウト云フ論デシヨウ
(松岡)
高尙ノ理論ハ何ウカ知ランガ法學上カラ云フト日本ニ往カルルカ知ランガ強テ主張ハ致シマセンガ有式契約ハ甘ジテ受ケルトシテモ實際ハ何ウカ私ノ證書デ當事者間丈ケハ濟シテ差支ヘハナカロウ
(栗塚)
併シ民法ヲ如何セン國ト民法ガ大事カト云フト民法ノ大事上吾ハナケレバナラン殊ニ依レバ不便ガアルカ知レンガ斯シテ置カント筋道ガ立チマセン私ガ松岡サント一致ニナツタラ何レト云フ說ヲ出スカモ知レマセン
(松岡)
佛蘭西デ質拂ト云フハ第三者ニ向ツテ先取權ヲ與ヘナイ、與ヘナイカラ勿論登記式モ入ラソ其レナラ有式契約ヲ重大ノモノダカラ公證人ノ書面ヲ要スガソレニハ及バン併シ多少重イモノト見ルモ宜シイガ書面契デナケレバ往カンゾ書面ヲ要ス丈ケハ區別ヲ付ケ樣本法ニシテ相對間ニ於テハ區別ハアリマセン
(南部)
貴君ノ說ニスルト抵當ノ時分公正證書ヲ作ルコトハ入リマセン
(松岡)
相對間ノ抵當ニハ爭ヒハナイノデ第三者ニ對シテ初メテ論ガ起ルノデアリマス相對丈ケハ相對ノ契約ニ任シテ宜シイ
(南部)
ソレデハ有式契約ヲ廢ソウト云フ論ニナリマス
(村田)
不動產質ハ三十年デ長イカラ公證人ニ遣ツテ置ケト云フノデアリマス
(元尾崎)
其注意シテ置ケバ宜シイ後ヲ案ズルナラ公證人ノ公證ヲ經テトシテ宜シイ
(村田)
ケレドモ法律ニスルト違イマス動產質ハ鄭重ナモノデアリマス
(元尾崎)
無理ニ法律ノ力ヲ以テ強制スルノハ酷イ
(栗塚)
貴君方ニ疑ヒノ起ルノハ公證人ト云フモノハ何ンデ置キマシタカ
(元尾崎)
公證人ヲ置ク以上ハソレヲシナイト役ヲセンカ
(松岡)
公證人ヲ置ク大原則ハ法律デ強制スル趣意デハナイ雙方確カニ仕樣ト思フトキニ拵ヘルガ原則デアリマスダカラ必ズ有式シテ押付ケナケレバソレヲ止メテハ公證人ガ立タント云フモノデナイ
(南部)
松岡サンバ公正證書ト登記ト同ジニ見テ御座ルガ其レハ大變ニ違イマス
(松岡)
其位ハ知ツテ居リマス
(村田)
實ニ年限ノ長イコトヲ考ヘナケレバナリマセン永借權デモ年限ノ長イモノハ登記シテ居リマス先キイ往ツテ譯ケガ分ランカラ取扱ヒヲ鄭重ニスルト云フノデアリマス
(栗塚)
有式契約ナドガ行ハルルト公證人ガ便利ダカラ有式契約ヲ殖ソウト云フノデアリマス
(元尾崎)
法律デ敲キ込マンデモ人民ガ喜ンデ往ク樣ニシタイ民法デ無理ニセヌ樣ニシテ欲シイ
(南部)
ソウ云フト有式契約ハ入ラン樣ニナリマス
(大尾崎)
僅カ田地ヲ置キニ往クニ公證人ヘ往クノハ隨分酷イ五里十里アル處ヘ往カナケレバナラン
(槇村)
ソレハ酷イ
(元尾崎)
融通ガ止マル
(南部)
公證人ニ遣ツテ貰ヘバ便利ガアリマスケレ共其レヲ知ラズニ居ルノデアリマシヨウ
(元尾崎)
便利ガアレバ強制ナクツテモ心配ハイラン
(槇村)
便利ナラ心配ハ入ラン
(南部)
公正證書ヲ以テシナケレバナラント云フト不動產質抵當ニ入レル處ヲ保護スル人民ニ便ヲ與ヘ樣ト云フ趣意カラ成リ立ツタノデ處ガ無式契約トナツテ仕舞フト丸デ原則ガ立タン樣ニナリマス
(箕作)
諸君ノ論旨ハ書キマシタ
(村田)
松岡サンノ言フ通リニスルト抵當ハ刪ルノカソレハ困ル
(南部)
契約ニ有式無式ガアルト云フアレモ刪ラナケレバナラン樣ニナルソレハ大變デス
(箕作)
婚姻契ハ何ウカ
(栗塚)
アレモソウナリマス
(南部)
有式無式契約ガナイ樣ニナル
(村田)
三百二十一條ニモアリマスアレモ刪ラナケレバナリマセン
(大尾崎)
有式契約ヲ皆ナ廢ソウト云フコトハ明言ニナイ
(元尾崎)
ソンナコトヲ言ツテハ際限ガナイ
(松岡)
私ハ相對ノコトハ證書ヲ以テスルナラバ宜シイト思フ
(槇村)
贊成
(大尾崎)
贊成
(元尾崎)
贊成デス併シ登記ノコトハ何ウカ
(箕作)
之ハ無論入ランダロウ
(北畠)
贊成
(松岡)
ソレデハ多數デス
(南部)
慨歎ニ堪ヘマセン
(箕作)
其質ハ證書ヲ以テスルニアラザレバトシテ先キヘ送リマシヨウ
本條ハ第一項「其質ハ證書ヲ以テスルニ非サレハ」云々ト改メ其他原案ニ決ス
第千百二十五條朗讀ス
第千百二十五條 登記ス可キ證書又ハ判決書ニハ質ト爲シタル不動產ノ精確ナル指示ノ外元利ノ債權額ヲ記載スルコトヲ要ス
右ノ指示カ不十分ナル場合ニ於テハ旣ニ爲シタル登記ノ緣邊ニ補足ノ合意ヲ附記シテ之ヲ補フ然レトモ此附記ハ其日附後ニ非サレハ効力ヲ生セス
(元尾崎)
宜シイ
(村田)
然レドモカラ後チガ這入ツタノデスカ
(栗塚)
左樣デス
(箕作)
然レドモカラハ無クツテ良イト云エバ無クツテモ良イノデアリマス
(元尾崎)
先ヅ往キマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第千百二十六條朗讀ス
第千百二十六條 質ト爲シタル物權カ用益權賃借權又ハ永借權ナルトキハ此權利ノ設定證書ノ登記ノ緣邊ニ內質權ヲ附記スルヲ以テ足レリトス
(松岡)
之モ先刻ノ例ニ依ルト「爲ス」デ宜シイ
(槇村)
質ト爲スデス
(南部)
之ハ爲シタルデナケレバナリマセン
(村田)
千二百三條ヲ引テ居リマシヨウ之ハ地上權ト云フモノガナケレバナリマセン
(栗塚)
地上權ハ抵當ニハ出來ルカ收益權ハドンナモノカ
(村田)
地上權ニ收益ガアリマシヨウ
(栗塚)
家ヲ建テ居ルト云フノデシヨウ
(村田)
自分ガ住シテ居ルガ收益ガアルノデス
(栗塚)
所有權ハ這入ルマイト云フ抵當ニハ所有權ガ往ケルケレドモ此處デセンノハ何ニカ收益ガナイカラデアリマス
(村田)
ソレダカラ千二百三條ニモ所有權ト云フモノハ云ツテアリマセン
(松岡)
地上權ハ收益ノアルトキハ入レテモ良イノダ之ハ制限法デハナイノデス
(栗塚)
無論デス
(箕作)
不動產ヲ亦轉ジタトキ出來ルダロウ此條ノ通リデ宜シイ八釜敷云フト其レモ言ハナケレバナラン
(村田)
千二百三條ヲ引テ居リナガラ地上權ト云フモノガナイカラ此處ニ拔クト往カント云フノデアリマス
(栗塚)
地上權ヲ質ニ置イタト想像シテドンナモノカナゼナレバ家樹木ヲ置カズ地上權丈ケ置クノカ
(村田)
樹木モアリマシヨウ私ガ山林ヲバ貴君ニ質ニ入レルノデ
(栗塚)
家ヲ置キマスレバ卽チ地上權ガ這入ツテ居ルノデ地上權ノミ置ク場合ハ出樣ハアリマセン
(村田)
抵當ニ這入ツテ居リマス
(栗塚)
抵當ニハ這入ル
(村田)
抵當ニ出來ルモノハ卽チ出來ルノダロウ地上權ニハ土地ヲ入レルコトハナイ地上ニ於テ完全ニ所有シテ居ルカラ樹木丈ケデス
(栗塚)
其木其家ヲ置ケバ地上權ヲ置イタコトニナルダロウナゼソウ云フモノガアツタラドウ云モノデ支配スルカト云ヘバ質トナスモノデ往ケル
(村田)
地上權ニハ限リガアリマスカラ地上權ハ地上權デナケレバナリマセン
(栗塚)
家ノ續ク限リト云ツテ居リマス
(村田)
左樣
(松岡)
私ガ思フニ無論出來ルナラ此儘デ宜シイ
(栗塚)
私ハ出來ルト思フ何處デ出來ルト云フニ例ヲ設ケタモノデアリマス
(南部)
千百二十三條ニ不動產ハ云々トアリマス其所デ此處ニ抵當ハ素ヨリ出來ン從テ質ノ上ニ質ハ素ヨリ出來マセン
(松岡)
法律解釋ハ矢張リ出來ルト見ルノデス
(南部)
ソウハ往ケマセン千百二十三、四條ニ從ヒトアルカラ其時抵當ニ又抵當ハ出來マセン話シデス
(元尾崎)
今日民間デモ遣ツテ居ル
(南部)
アリマスマイ
(元尾崎)
之ハ怪カラン銀行ナゾハ皆ナ遣ツテ居リマス先生方ハ知ランノデ地面ヲ抵當ニ取ツテ其レヲ又抵當トシテ居リマス
(南部)
登記所ニ廻シタモノハ御座リマセン
(元尾崎)
登記所ニハナイカモ知レマセン
(南部)
抵當ニナツタモノヲ又抵當ニシテハ治マリガ付キマセン
(箕作)
註デハ自分ノ質取品ヲ「アンチクレーズ」ニ置イテ他ヘ賣ルコトガ書イテアリマス
(松岡)
上ノ定義ニ於テ收益權ヲ自カラ有スルモノハ繼續期ノ間讓ルコトガ出來ルトアル彼處カラ言フト出來ルト言ハナケレバナリマセン解シ方ハ分ラン制限シタト云ヘバ往ケナクナル類例ヲ示スナラ往ケル
(南部)
類例ヲ示シタモノニハ違イナイ此處ニハ關係ハナイ只千百二十三、四條ニ從ヒトアルカラ彼處カラ引クト抵當ニハ抵當ハ出來ント云フ其丈ケノ話シデ此處ニハ論ハ御座イマセン之ハ聞イテ見テモ宜シイ
(栗塚)
聞イテ見マシヨウ併シ出來ルトシカ見ヘナイ
(箕作)
ソレデ聞クコトニシテ先キヘ往キマシヨウ
本條ハ「爲シタル」ヲ「爲ス」ト改メ其他原案ニ決シ尙ホ地上權ノコトハ起案者ニ質問スルコトニ決ス
第千百二十七條朗讀ス
第千百二十七條 質取債權者ハ右ノ外動產質ニ關シ第千百七條ニ記載シタル如ク其債權ヲ擔保スル不動產ノ現實ニ占有ヲ得且之ヲ保存スルコトヲ要ス
(箕作)
右ノ外ト云フノハ
(村田)
今言ツタ外デス
(栗塚)
之ヲ保存スルハ何レデアリマシヨウカ
(村田)
保存デ良イ積リデス
(松岡)
占有スルコトヲ要スデアツタガドウシテ刪リマシタカ
(栗塚)
議場デハ占有スルコトヲ要スト遣リマシタ占有ヲ得テ自分デ占有センナラ抵當ヲ保存シテ置カナケレバナラン
(松岡)
自分ガスルモ他人ガスルニ及バント云フノデアツタガ占有ヲ自カラスルモ且之ヲ保存シタルニ非ザレバト云フノガ元トアリマシタ
(箕作)
保存ト云フノハ自分デヤラナイト云意味ハナイ繼續ハ千百七條ニアルノト同ジダロウ
(栗塚)
左樣デス
(松岡)
占有スルコトヲ要スデ良シイノデ全體百七條デモ決シタル繼續ハ惡イノデス
(元尾崎)
七條ニ記載シタルトアルカラ良シイ
(栗塚)
記載シタル如ク擔保スル不動產ヲ現實ニデ良シイ
(南部)
元トノ通リデ良シイ
(村田)
權利ト云フ字ヲ入レヨウ
(松岡)
不動產又ハ權利ノデ良シイ
(栗塚)
千百七條ニ有體ナル質物ヲ現實ニハ卽チ動產ヲ現實ニ占有スル意味ニアリマスカラ此所ハ動產ヲ云ヘバ良イト云フ意味デス
(元尾崎)
權利ト云フ字ハ入ランヨウデス
(栗塚)
權利トカ物トカ云フハ前ニアリマスカラ宜シイデシヨウ
(元尾崎)
良シイ
(槇村)
良シイ
(箕作)
ナクトモ良イデシヨウ原案デ置イテハ如何
(元尾崎)
不動產ヲ現實ニ占有スルコトヲ要ス、デ良シイ
(松岡)
良シイ
(槇村)
良シイ
本條ハ「其債權ヲ擔保スル不動產ヲ現實ニ占有スルコトヲ要ス」ト改メ其他原案ニ決ス
第千百二十八條朗讀ス
第千百二十八條 不動產質ハ動產質ニ關シ第千百十條ニ記載シタル如ク働方及ヒ受方ニテ不可分タリ
本條ハ原案ニ決ス
第千百二十九條朗讀ス
第二節 不動產質ノ效力
第千百二十九條 質取債權者ハ其債權ノ擔保ノ爲メ受取リタル不動產ヲ第百二十六條乃至第百二十九條ニ規定シタル制限ニ從ヒ賃貸スルコトヲ得但反對ノ合意アルトキハ此限ニ在ラス
又不動產質債權者ハ其不動產又ハ權利ヲ自己ノ權利ノ繼續期間ニ限リ動產質ニ關シ第千百十二條ニ記載シタル如ク自己ノ責任ヲ以テ其不動產質ヲ讓渡スルコトヲ得
(松岡)
質權ノミ讓渡スコトニスレバ千百二十六條ノハ質問スルニモ及バンノデ質ヲ賣渡スカラ向フノ人ガスルノデシヨウ
(箕作)
左樣此處ヲ分ツタノデアリマス
(栗塚)
此所ハ讓渡スコトヲ要スト致シマシヨウ
(松岡)
質契約ノ期間ニ限ツテ出來ルト云フト質契約ヨリ過ギラレナイ
(村田)
期間計リデハナイ
(栗塚)
之ハ皆ナサンニ恐入リマシタガ不細工ナ再調査案デアリマシタ其不動產ト云フ字ヲ刪ラナケレバナリマセン
(松岡)
議場デ入レタモノヲ刪ツテハ分ラン
(栗塚)
起案者ガ直シテ參ツタ通リ提出シタノデス
(松岡)
起案者ハ前カラ入レナカツタノデ
(栗塚)
直シマシタガ第百二十九條ニ規定シタル制限ニ從ヒ且質契約ノ期間ニ限リ賃貸スルコトヲ得ト遣リマシタ
(松岡)
ソレハ力ガアルノデ入レル方ガ宜シイ
(村田)
入レル方ガ宜シイ
(栗塚)
之ハ成程此條ヲ替ヘテ來タカラ置キ替ヘタト云フノデ議場デ這入タノハ我々ハ氣ガ付カンノデ
(松岡)
ソウデシヨウ入レサヘスレバ宜シイ
(元尾崎)
二十九條ニ三年トカ五年トカ云フハ仕樣ガナイト云フノ論デアツタ其レデ往カント云フノデ入レタノデス
(箕作)
ソレデハ入レテ置ク
(栗塚)
「且質契約ノ期間ニ限リ」ト入レマス
(南部)
初メノ契約ノ期間ヲ守テ居レバ差支ナイ
(箕作)
入レテ宜シイ
本條ハ第一項「制限ニ從ヒ」ノ下ヘ「且質契約ノ期間ニ限リ」ノ數字ヲ加ヘ第二項「其不動產又ハ權利ヲ」ノ數字ヲ刪リ「讓渡スルコトヲ得」ト有ルヲ「讓渡スルコトヲ要ス」ト改メ其他原案ニ決ス
第千百三十條朗讀ス
第千百三十條 質取債權者ハ租稅其他每年ノ公課ヲ負擔ス
質取債權者ハ保持ノ修繕及ヒ必要且急迫ナル大修繕ヲ爲スノ責ニ任ス若シ之ニ違フトキハ損害賠償ヲ負擔ス但此大修繕ノ費用ハ債務者之ヲ償還ス
(村田)
保持修繕ト云フノハ皆ナ小修繕トナシマシタ
(松岡)
小修繕デ宜シイ
(箕作)
保持ト云ツテモ分ラン大修繕ガアツテ其裏ハ小修繕ト見ルヨリ外ハナイ
本條ハ「保持ノ修繕」ヲ「小修繕」ト改メ其他原案ニ決ス
第千百三十一條朗讀ス
第千百三十一條 質カ建物宅地ニ存スルトキハ債權者ハ自ラ之ヲ領スルト之ヲ賃貸スルトヲ問ハス其借賃ヲ自己ノ債權ノ利息ニ充當シ又超過額アルトキハ附隨ニテ又ハ債權カ利息ヲ生セサルトキハ全部ニテ元本ニ充當ス質カ田畑山林ニ存スルトキハ當事者ノ間ニ於テ果實ト利息トハ計算ヲ爲サス相殺シタリト看做ス但反對ノ合意アルトキ又他ノ債權者ニ對シ又ハ利息ノ法律上ノ制限ニ付キ顯著ナル詐害アルトキハ此限ニ在ラス
借賃又ハ果實ヲ利息ニ充當スルニハ每年ノ公課及ヒ保持管理栽培ノ費用ヲ扣除シタル純益價額ニ付テ之ヲ爲スモノトス
(村田)
領スルト云フハオカシイ
(栗塚)
自分住ンデ居ルト云フノデアリマス
(箕作)
領收デモ往カンカ占有ト見違イサヘスレバ宜シイ
(元尾崎)
占領ガ宜シイ
(松岡)
私ハ大體ガ何ウ云フモノカト思ヒマスガ同ジ質物ト雖ドモ宅地ヲ質ニ入レタラ質取主ハ何ウスルカト云フト地面ヲ先ヅ貸賃ヲ積ンデソウシテ貸シタ金ノ利息ニ貸賃ヲ引當テ建物デモ土地デモネ、ソレト利息ト貸金ノ利息ト地面家ナリノ賃ヲ差引見ルソウシテ餘ルモノハ元金ニ入レ利息ガナイモノナラ元金ニ入レルソレカラ畑山林ナラ今日ノ通リダカラ無論言迄ハナイガ年々上ルモノハ一向差引勘定ニ及バン約束通リ終リニ元利ヲ持テ往キサヘスレバ戻スノデ幾等取ルモ權ハント二項目ニナルノデシヨウソレハ町ニアル屋敷地面ヤ建物ハ貸金ト家賃ノ上リ高質借高ト差引カナケレバナリマセン然ルニ田舎ノ方ニハ其差引勘定ハナイ日本全國今迄質地ハ收益ト元金ト利息ノ差引キ樣ハシナイ之ヲ差引ク樣ニスレバ實ニ繁雜ニ堪ヘン話シデス
(箕作)
起案者ガ巧ミニヤツタ積リデアリマス
(南部)
巧ミノミナラズ田畑ノ事ハ仕方ガナイト云ツテヤツテソレデハ斯ウ仕樣ト折合ヲ付ケタノデアリマス
(栗塚)
此事丈ケハ起案者ニ言ツタラ申ス日本ノ質規則ヲ反譯シテヤツタスルトアノ中ニ建物ガナイ日本デ建物ハ何ウシテ居ルカト云フ建物ノ法律ハナイ地所質入書入ト云フノデ建物ハ抵當丈ケデ質入ハアリマセンソンナラバ此一體不動產質ハ日本ノ不動產質ト云フノハ收獲ノ賣買見タイナモノデ論ガ詰ツタノデソレデ家ヲ質入シテ他人ガ住ンデ居ルハナイガケレドモ矢張リ不動產質ダカラ置イテ良カロウソレナラ最モ少ナイモノダカラ佛蘭西流義ノ差引勘定ヲ付ケルモ宜イケレドモ日本ニ今日遣ツテ居ル地所書入質入規則ニ傷ケテハ困ルト云フノデ日本法律ヲ反譯シテ呉レト云フノデ反譯シテ遣ツタラ地所質入規則ニ背カント云フノデ歴史付キデアリマス
(大尾崎)
斯ウシテモ宜カロウ
(元尾崎)
之デ宜シイ之ハ註文シテ斯ウナツタノデアリマシヨウ
(南部)
左樣デス
(松岡)
ソレデハ止メマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス