法律取調委員会 民法草案再調査案議事筆記 第22回
参考原資料
- 法律取調委員会 民法草案財產取得編再調査案議事筆記 , 自 第二十二回 至 第二十五回 [国立国会図書館デジタルコレクション]
備考
- 未校正のテキストデータです.
民法財產取得篇再調査案第二十二回議事筆記
自第九百四十一條至第九百九十一條
明治二十一年十一月二十一日午前第九時二十分開會
第九百四十一條朗讀ス
第三節 委任者ノ義務
第九百四十一條 委任者ハ代理人ニ對シテ左ノ義務ヲ負擔ス
第一 代理人カ代理ノ履行ノ爲メ支出シタル立替金又ハ正當ノ費用ノ辨償及ヒ其支出シタル日以來ノ法律上ノ利息ノ辨償
第二 合意シタル謝金ノ辨濟
第三 代理人カ其管理ニ因リ又ハ其管理ヲ爲スニ際シ自己ノ過失ニ非スシテ受ケタル損害ノ賠償但豫見シタル損害ニシテ其全部又ハ一分ニ付キ謝金ヲ諾約スルノ理由ト爲リタルモノハ此限ニ在ラス
第四 代理人カ其管理ニ因リテ負擔シタル一身上ノ義務ノ免責又ハ其賠償
(栗塚)
第四ノ「免除」ハ「解脫」ト致シマス釋放ニ免除ト云フ字ヲ用ヒマシタカラ解脫ト致シマシヨウト思ヒマスガ解脫モ可笑シイカラ「免責」ト致シマシテハ如何デ御座イマシヨウ
(松岡)
此度ノ法律ニハアルマイガ免責時效ト云フ事ガアルカラ
(南部)
免責ト云フ事モアル
(箕作)
免責デ差支ナイ
(栗塚)
「リベラシヨン」ト云フ字ヲ始終免責トヤツテ來マシタ
(元尾崎)
此約束シタルハ合意シタルトナリマスカ
(栗塚)
合意シタルトナリマス
(元尾崎)
一身上ノ義務ノ免責ト云フノハ
(栗塚)
委任者ガ代理人ノ義務ヲ免除シテヤルノデス
(元尾崎)
負擔シタ事ガアレバ我ガ引受ケト云フテヤレバ宜シイカ
(栗塚)
左樣デス
(元尾崎)
ソレデハ負擔シタル義務ノ免責デ良カロウ一身上ト云フト奴隷ニナツタ奴ヲ宥シテヤル樣ニナル
(箕作)
委任者デナイ自分ノ身ノ引受ダ
(大尾崎)
一身上デ引受ケル義務ダケレドモ代理中ダカラ拂ツテヤルト云フノダロウ
(栗塚)
左樣デス
本條ハ第二ノ「約束」ヲ「合意」ト改メ第三ノ「約束」ヲ「諾約」ト改メ第四ノ「免除」ヲ「免責」ト改ム
第九百四十二條朗讀ス
第九百四十二條 代理人ハ前條ニ揭ケタル支出ヲ爲ス事ヲ約束セサルトキハ其責ニ任セス然レトモ委任者ヨリ必要ナル資金ヲ供スル事ヲ拒絕シ又ハ遲延セシ事ノ證據ナキニ於テハ支出ヲ約束セサル爲メ代理ノ履行ヲ遲延スル事ヲ得ス
(栗塚)
「資金」ハ「方法」ト起案者ガ改メテ參リマシタ「モアイセン」ト云フ字デ御座イマス
(箕作)
手段ニナル品物ヲ云フノデスカラ方法ト云フ事柄ヲ云フノデナイ
(松岡)
矢張リ資金デ宜シイ爲換資金ト云フ事モアルカラ
(元尾崎)
矢張リ金ダ
(淸岡)
材料ト云フト木石ノ樣ナモノニナル
(南部)
元トハ準備トナツテ居ル
(松岡)
資金デアル
(淸岡)
金計リデハアルマイカラ資本トシタラ良カロウ
(松岡)
「前條ニ揭ゲタル、、、支出ノ責ニ任セス然レトモ」ト云フト金ニナラナケレバナラン
(箕作)
「約束」ハ約束デ宜シウ御座イマスカ
(栗塚)
左樣デス
(北畠)
資金ハ資材ガ良カロウ
(箕作)
金ノ字ガ嫌ヒナレバ資材デ宜シイ
(南部)
資金デモ良カロウ註ニ前金トアリマスカラ
本條ハ原案ニ決ス
第九百四十三條朗讀ス
第九百四十三條 謝金ハ代理ノ全部履行アリタル後ニ非サレハ委任者之ヲ負擔セス但一分ツヽ辨濟ス可キ事ヲ約束シタルトキハ此限ニ在ラス
代理人ノ責ヲ歸セサル原因ニ由リテ全部ノ履行ニ妨碍アリタルトキハ謝金ハ其履行ノ割合ニ應シテ委任者之ヲ負擔ス
(栗塚)
「約束」ハ「要約」トナリマス
(淸岡)
委任者ノ方デ承知シタト云ヘバ諾約ニナル
(栗塚)
私ハ一分宛ホカ拂ハント委任者ガ云フタトキハ此限ニ在ラズデ御座イマス約束トスルハ宜シウ御座イマスガ諾約トハ出來マセン
(南部)
此間要約トシタデハナイカ
(松岡)
全部履行デナケレバ拂ハント云フノハ委任者ノ權利ダロウ併シ一分宛拂オウト云フ事ヲ委任者ガ自分ニ引受ケテ居ツタナラ一分宛拂ハナケレバナラント云フノデハナイカ
(栗塚)
ソウデハアリマセン
(元尾崎)
約束デ宜シイ
(南部)
元トカラ要約トアルノヲ其儘置クノダカラ良カロウ
(箕作)
謝金ヲヤランデスル損ニナルカ知レンカラ仕舞迄待ツテ居ラナケレバナランガ一月前出來レバヤルト云フノダカラ何デモ宜シイ
(栗塚)
之ハ再調査ヲ改メタノデ元トハ要約トアツタノデ御座イマス
(松岡)
元トノハ要約アリタルトアル
(栗塚)
アリタルデモ宜シウ御座イマス此處ノノモ約束ニシナケレバナラント云フ事ハ後ニ文字ヲ一定スルトキ困リマシヨウト思ヒマス之ヲ要約ニシタ以上ハ諾約ニシテモ宜シイト云フ樣ナ御論ガ出テハ困リマス要約ノトキハ權利者ノ方カラ言葉ガ立チ諾約ノトキハ義務者ノ方カラ言葉ヲ立テルト云フ事ハ御承知下サラント困リマス
(松岡)
一分宛デモ拂ウト云フデアレバソレハ權利デアルカ義務デアルカト云ヘバ義務デアルト云ハナケレバナラン
(箕作)
謝金ガ要約セラレタルトキハ此限ニ在ラズデス
(松岡)
辨濟スル人ハ要約トハ云ヘン
(淸岡)
要約トカ諾約トカ云フ文字丈ケヲ原書ニ合ハセルト箇樣ニナル
(栗塚)
ソレデハ約束ニ致シマシヨウ
(南部)
要約セラレタルトヤレバ宜シイ要約ト諾約ハ之デ定メルト云フ事ニ運ンデ來テ居ルカ
(淸岡)
文字ノ主客ヲ違ヘテ置イテ要約トカ諾約トカ云フ字バカリ書イテハ困ル
(村田)
總テ約束ニスレバ宜シイ
(元尾崎)
約束デ宜シイ
(箕作)
謝金ガ辨濟セラルベキモノト要約セラレタルトキハトヤラント原書ノ通リニナリマセン
(渡)
ドチラデモ宜シイ
本條ハ原案ニ決ス
第九百四十四條朗讀ス
第九百四十四條 委任者カ義務ヲ辨濟スルニ至ルマテ代理人ハ代理ニ依リテ所持シ且債權者ト爲レル原因タル物ノ上ニ留置權ヲ有ス
(元尾崎)
「爲レルー」ト云フノハ可笑シイ
(南部)
「爲レル」デ宜シイ
(松岡)
「ー」ノ字ヲ削ロウ
本條ハ「爲レルー」トアルヲ「爲レル」ト改ム
第九百四十五條朗讀ス
第九百四十五條 數人カ唯一ノ證書又ハ各別ノ證書ヲ以テ共同事件ノ爲メ代理ヲ委任シタルトキハ委任者ノ各自ハ連帶シテ上ノ義務ヲ負擔ス但反對ノ要約アルトキハ此限ニ在ラス
(栗塚)
「上ノ」ハ「前記ノ」ト改メマス
本條ハ「上ノ」ヲ「前記ノ」ト改ム
第九百四十六條朗讀ス
第九百四十六條 委任者ハ代理人カ委任ニ從ヒ委任者ノ名ニテ約束セシ第三者ニ對シ負擔シタル義務ノ責ニ任ス
委任者ハ左ノ場合ニ於テハ代理人ノ權限外ニ爲シタル事柄ニ付テモ亦其責ニ任ス
第一 委任者カ明示又默示ニテ代理人ノ行爲ヲ認諾シタルトキ
第二 委任者カ代理人ノ行爲ニ因リテ利益ヲ得タルトキ但其利益ノ限度ニ從フ
第三 第三者カ善意ニシテ且代理人ニ權限アリト信スル正當ノ理由ヲ有シタルトキ
(元尾崎)
第三者ガ善意デヤツタトキハ引受ケナケレバナラント云フノハ酷イ
(松岡)
信ズベキトシタラ良カロウ
(栗塚)
「信スルニ足ルヘキ」デス
(松岡)
信ジタガ御尤ト云フノダ
本條ハ原案ニ決ス
第九百四十七條朗讀ス
第四節 代理ノ終了
第九百四十七條 代理ノ履行又ハ其履行ノ不得爲及ヒ代理ニ付シタル期限ノ到來又ハ條件ノ成就ノ外尙ホ代理ハ左ノ諸件ニ因リテ終了ス
第一 委任者ノ爲シタル廢罷
第二 代理人ノ爲シタル抛棄
第三 委者又ハ代理人ノ死亡、破產、無資力若クハ禁治產
第四 委任者又ハ代理人カ代理ヲ委任シ又ハ之ヲ受諾セシ原因タル資格ノ絕止
(栗塚)
第四ノ「消絕」ハ「終了」トナリマス
(箕作)
「セツシヨン」ハ是レマデ何トヤリマシタカ
(栗塚)
絕止トヤリマシタカラ之モ絕止デ御座イマス第一項ノ「不得爲」ハ「不能」デ御座イマス
(箕作)
第四ノ承諾ハ
(栗塚)
受諾デ御座イマス
(元尾崎)
代理人ガ自分ニ事ヲ引受ケテ置イテソレヲ棄テテ仕舞ツタノハソレガ責ニ任ジナケレバナランダロウ
(南部)
ソレハ先キニアリマス
(松岡)
代理ノ履行ガ切レテ仕舞ツテ不能ニ係ラン樣ニナル
本條第一項「不得爲」ヲ「不能」ト改メ第四「承諾」ヲ「受諾」ト改メ「消絕」ヲ「絕止」ト改ム
第九百四十八條朗讀ス
第九百四十八條 委任者ノミノ利益ノ爲メニ委任セシ代理ノ廢罷ハ謝金ヲ約束シタルトキト雖モ委任者ハ何時ニテモ隨意ニ之ヲ爲ス事ヲ得
(栗塚)
此約束ハ諾約トナリマス
(松岡)
今ノ要約トナリマス
(栗塚)
ソレデハ默ツテ居テ後ニ御目ニ懸ケマシヨウ
(箕作)
之ハ委任者ガト云フ一括ガ原文ニ這入ツテ居ル
本條ハ「約束」ヲ「諾約」ト改ム
第九百四十九條朗讀ス
第九百四十九條 廢罷ハ將來ニ向ヒテノミ有效ナリ且其廢罷前ニ有效ニ爲シタル事柄ヲ害セス
(淸岡)
「且」ト云フノハ惡ルイ廢罷ガ且トナル
(松岡)
有效ナリガ惡ルイノダ效アリ且ガ宜シイノダ
(元尾崎)
此通リデ宜シイ
(松岡)
廢罷ハ此處バカリデハナイダロウ何處デモ此定義ダロウ
(栗塚)
ソウデス
本條ハ原案ニ決ス
第九百五十條朗讀ス
第九百五十條 數人ノ委任者アルトキハ其中ノ一人ノ爲シタル廢罷ハ他ノ人ノ代理ヲ終了セシメス
(松岡)
之ハ唯一デハナカロウカ
(槇村)
四十五條デハ連帶トアツテ此處デハ一人デ止メルトアルノハドウ云フモノカ
(松岡)
之ハ原則カラ來テモ委任ニシテアルノハ利益ト見ナケレバナラン自分バカリ止メテモ他ノ人ニ及ボス事ハナカロウ
本條ハ原案ニ決ス
第九百五十一條朗讀ス
第九百五十一條 代理ノ廢罷ハ默示タル事ヲ得默示ノ廢罷ハ同一ノ事件ニ付キ新代理人ノ選任又ハ委任者ノ管理ノ回復其他ノ事情ヨリ生スルモノナリ
(栗塚)
委任者ノ管理ノ回復ト云フノハ取戻ス事デ御座イマスカラ回復ト云フ字ハ如何デ御座イマシヨウカ
(村田)
回復訴權ト云フ事ガアルカラ良カロウ
(栗塚)
管理處分ヲ向ニヤツテ居ツタノヲ私ガ自分デスルト云フノダカラ回復ヨリ何カ外ニ文字ガアリハセンカト思ヒマス
(箕作)
何トスルノデス
(栗塚)
報吿委員デハ心配シテ居リマスガ取戻ト云ツテモ分ランカラ
(元尾崎)
取戻ガ良カロウ
(箕作)
回復デモ良カロウ
本條ハ原案ニ決ス
第九百五十二條朗讀ス
第九百五十二條 代理ノ抛棄カ委任者ニ損害ヲ生セシメタルトキハ代理人ハ其賠償ノ責ニ任ス但正當又ハ已ムヲ得サル原因ニ基キタルトキハ此限ニ在ラス
代理ノ抛棄モ亦默示ニテ之ヲ爲ス事ヲ得
(大尾崎)
代理ノ抛棄ヲ默示デヤラレテハ困ル
(元尾崎)
默示ノ場合ガ示シテアリマスカ
(村田)
家ニ寢込ンデ居テ知ラナカツタノモ默示ダ
(箕作)
今迄頼ンデ有ツタ人間ガ官員ニナツテ人ノ代理抔ハ出來ン樣ニナツタトキ
(槇村)
歐米各國ヘ差遣サレタカ
(松岡)
御斷ト云フノダ
(箕作)
代理人ナレバ御斷リ代權ナレバ抛棄スル
(松岡)
抛棄ト云フ字ハ外ノ例カラ云フト聞ヘナイ
(栗塚)
辭退ト云フ事デス
(箕作)
契約ノ事モ云ヒ權利ノ事モ云ヒ銷除ノ事モ云ヒ變ナ字デス
(元尾崎)
双方不和ヲ生ジタ上ニ喧嘩ヲシタ又財產上ノ事ニ付テ訴訟ヲ起シタ場合ダ
本條ハ原案ニ決ス
第九百五十三條朗讀ス
第九百五十三條 代理終了ノ原因ハ委任者ヨリ出テタルト代理人ヨリ出テタルトヲ問ハス當事者ノ一方カ其吿知ヲ受ケタルカ又ハ確實ニ之ヲ知リタルトキニ非サレハ當事者互ニ之ヲ以テ對抗スル事ヲ得ス
當事者ノ一方ノ死亡シタル場合ニ於テハ其相續人ニ吿知シ又ハ其相續人ヨリ吿知スル事ヲ要ス
(栗塚)
之ハ起案者ガ誤リテ直シテ來マシタ末項ハ「其相續人ヨリ吿知スル事ヲ要ス」ト致シマス
(箕作)
委任者ガ死ダトキ代理人カラ死ダ相續人ヨリ吿知スルト云フノハ分ラン
(栗塚)
第一項ノ「當事者ノ一方カ」ハ「當事者カ」デ宜シウ御座イマス後ニ互ニト云フ事ガ御座イマスカラ「ノ一方」ノ三字ヲ削リマシタ
(松岡)
「一方カ」ハ入ラン「當事者互ニ」ヲ「他ノ一方ニ之ヲ對抗スル事ヲ得ス」トスルカ
(箕作)
互ニト云フノハ當事者ノ間ニトアリマス
(松岡)
「他ノ一方ニ之ヲ」トシタ方ガ良カロウ
(南部)
ソウスレバ上ヲ「當事者ノ一方カ」ト云ハナケレバナラン
(箕作)
ソレデモ宜シイ
(村田)
上ノ一項ヲ削ツテ「當事者互ニ」デ宜シイ
(箕作)
私ハ一方ガヲ削ツタ丈ケデ宜シイト思フ
(元尾崎)
二項ハ吿知スル事ヲ要スト云ツテモ親ガ代理ヲ受取ツタカ受取ランカ知ラントキハ困ル
(栗塚)
知ラントキハ仕方ガナイ
(元尾崎)
死ンダラ委任者ハ別ノ者ヲ命ズルカドウカスルカラ吿知スル事ヲ要スノダロウ
(南部)
知ラント云フ事ハナイ
(元尾崎)
人ニ委任ヲ受ケテ一々息子ニ知ラセル事ハ出來ナイ若シ知ラナケレバ責ニ任ジテ宜シイカ
(南部)
知ラナケレバ仕方ガナイ
本條第一項「當事者ノ一方カ」ヲ「當事者カ」ト改ム第二項「其相續人ニ吿知シ又ハ其相續人ヨリ」トアルヲ「其相續人ヨリ」ト改ム
第九百五十四條朗讀ス
第九百五十四條 代理終了ノ原因ハ委任者カ代理人ヨリ委任狀ヲ取戾シタルトキト雖モ代理ノ終了後善意ニテ其代理人ト約束シタル第三者ニ之ヲ以テ對抗スル事ヲ得ス
(委員長)
取戻シタ後ニ約束シタノヲ對抗スル事ガ出來ナイト云フノハ困ル
(栗塚)
知ランデ善意デヤリマス
(委員長)
取戻セバ代理者ト云フノハ惡ルイ縱令善意デモ宜シイ
(松岡)
貴君ガ出來ル丈ケ箕作サンニ向ツテ償ヲ出セバ宜シイ
(委員長)
全體第三者ヲ嵌メ込ンデ手數ヲ掛ケサセルノハ良クナイ
(元尾崎)
場合ニ因テハ詐欺ノ稽古ニナルダロウ
(栗塚)
第三者ト委任者ト比較スルト第三者ノ方ガ氣ノ毒ダト云フノデス
(委員長)
第三者モ氣ノ毒ダガ委任者モ氣ノ毒ダ
(南部)
賣買ノ契約ヲスルニ委任狀ヲ持テ午前ニ來テ午後ニ契約ガ定ツタ其時午前ニ委任者ガ委任狀ヲ取戻シタ事ガアリマスカラ
(委員長)
委任者ノ方ガ第三者ノ方ヨリモ割合ガ惡ルクナツテ居ルソレガ惡ルイ委任ヲ解イテ自分デ安心シテ居ル其時第三者ト結ンデモ效能ハナイ
(箕作)
第三者ガ一々委任狀ガアルカト云ツテ見レバ宜シイガ取引ガ多ケレバ始終ソウ云フ事ハ出來ナイ
(委員長)
委任ヲ解イテモ自分ノ損ニナルト云フノハ困ル
(栗塚)
私ガ家ヲ買ツタ處ガ御前ガ買ツタケレドモ賣ルト云フ委任狀ヲ解イテ仕舞ハタソレデ金ハ拂ツテ居リマス金ヲ拂ツテモ構ハント云フト第三者ガ困ル
(委員長)
委任狀ヲ返シタ以上ハ第三者ト委任者ト双方デヤツテ宜シイノダロウ委任者ガ義務ヲ免レンデハ困ル
(栗塚)
貴君ノ御家來ガ他ヘ行ツテ家ヲ買ツテ來ル其中貴君ガ委任ヲ解イタト云ツタラ第三者ガ困リマス
(委員長)
一方ハ契約ガ解ケテアルニ解ケテアルモノヲ損害ヲ被ラセルノハ酷イデハナイカ
(栗塚)
解ケタ事ヲ知ランデ取引シタ者ハ取引シタモノガ勝ツゾヨト云フノデ御座イマス
(淸岡)
家ノ僕ニ何時デモ牛肉ヲ買ヒニヤルソレガ暇ヲ出シタ後ニ牛肉屋ヘ行ツテ牛肉ヲ取ツテ後ニ勘定ヲ取リニ來ルト其僕ハ先月暇ヲ出シタカラ拂ツテヤラント云フノダガ此條ノ通リニスレバ私ガ默ツテ拂ハナケンバナラン
(栗塚)
銀行ヘ私ノ僕ニ委任狀ヲ持タシテ午後ニ金ヲ引出ニヤルソレヲ書後ニ取リニ行クトキ委任狀ヲ取リ返シテアルノヲ銀行デ金ヲ渡シタトキ委任狀ガ取戻シテアツタトキ私ガ知ラント云フタラ銀行ハ迷惑デ御座イマシヨウ
(委員長)
銀行デハ委任狀ヲ見ナイデ渡ス筈ハナイ
(南部)
商法デハ委任狀モ何モナクテ出來ル
(委員長)
商法ハ違ウ
(大尾崎)
委任狀ハ時ニ見ナケレバナラン午前ニ委任狀ヲ持ツテ來テモ午後ニ金ヲ取リニ來タトキニモ委任狀ヲ見ナイノハ惡ルイ
(箕作)
實際ハドウナツテ居リマス
(西)
實際ハ此ノ通リヤツテ居リマス
(元尾崎)
實際ハ斯ウデハアリマセン例ヲ御見セナサイ
(西)
部理代人デ何カ相手ヲ定メタトキハ其人ニ向ツテ代理ヲ解イタ事ヲ云ツテヤルヨリ外ニ仕方ガナイ總理代人ナラ最モ六ケ敷イ
(南部)
總理代人ノ委任狀ヲ朝カラ晩迄見テ居ラナケレバナラン樣ニナリマス
(栗塚)
始終委任狀ヲ見テ居ラナケレバナラン樣ニナルト本人ト本人デナケレバ取引ガ出來ナイ樣ニナリマス
(元尾崎)
委任狀ヲ取リ戻サナケレバ代理ヲ止メテモ效ハナイカ
(栗塚)
委任狀ヲ取戻サンデモ我ハ代理ヲ解イタゾヨト云フ事ヲ第三者ニ知ラセテヤレバ宜シイ若シ之ガ對抗スル事ヲ得ルトナルト代人ト取引ハ出來ン樣ニナリマスカラ融通ガ止ンデ仕舞ウ樣ニナル
(渡)
委任狀ヲ宮内省ノ御門鑑ヲ見タ樣ニ始終出サナケレバナラン樣ニナツテハ困ル
(村田)
委任外ノ事ヲスル事モアルダロウ
(松岡)
絕體代理ノ事ヲ立テルニ車夫ガ足袋ヲ買ヒニイツタリ於寡ガ牛肉ヲ買ヒニ行ツタリスル事ハ此法律デ見タノデハナク大キイモノノ代理事務ヲ執ル處カラ起ツタノダソレヲ一々委任狀ヲ見ナケレバ出來ナイト云フト畢竟代理契約ハ出來ナクナル
(村田)
新聞ヘ廣吿スレバ宜シイ
(松岡)
私ハ其新聞ヲ見ルト云フ義務ハ御座ラント云ヘバ仕方ガナイ
(委員長)
委任狀ヲ解イテカラ幾日間ト云フ事ナラ宜シイガ何時ニテモソレト契約シタモノハ對抗スル事ガ出來ント云フノハ困ル
(南部)
一昨年濟ンデ仕舞ツタモノヲ今年スルノガアリマシヨウ
(委員長)
其人ハ自ラ代理者ト云フテヤルデアロウ第三者ハ知リ樣ハナイ
(南部)
一年モ代理ノ事ヲ止メテ居ルノヲ知ラント云フ事ハナイ
(委員長)
商事ナラ無イガ民事ニ、遠隔ノ地ニ居ルモノガアルカラ隨分アル
(松岡)
大キナ事ナラ知ルニモ易シ小サイモノナラ小サイ事デ重イ刑ヲ受ケルノハ嫌忌ダカラ刑法デ取締ガ付キマシヨウ
(委員長)
刑辟ニ係ルノモ何モ權ハズヤルソレヲ日ガ過ギテモ委任者ガ責ヲ負ハナケレバナラント云フノハ酷イ
(南部)
此原則ハ動キマスマイ佛蘭西ニモアリマスカラ
(委員長)
佛蘭西ニアツテモ其法理ハ不適當ト思ウ
(南部)
代理人ノ取引ヲ便利ニスル爲メニ置クノデ御座イマスソウスレバ代理人ハ始終委任狀ヲ顔ノ先キニ付ケテ居ラナケレバナラント云フ事ニナツテ不便ニナルカラ本人ト本人ト取引ヲシナケレバナラン樣ニナル
(委員長)
ソウスルト委任ハ一遍スレバ一生アル樣ニナル斯ノ如キ事ヲヤレバ代理ハ世ノ中ニ全クヤラセン代理ノ事ハ止メテ仕舞ウト云フノハ格別世ノ中ニ效用ヲ爲サセヨウト云フノハ詐欺ヲヤツタノモ何モ默ツテ居ルノハ酷イ
(南部)
詐欺ヲヤツタノハ責メマス
(委員長)
第三者ニ對抗スル事ハ出來ント云フト委任者ガ償ハナケレバナラン
(松岡)
委任者ガ對抗ノ出來ン責ヲ受ケル其ノ代バリ解イタ後ニ代理人ヲ責メル
(委員長)
ソレハ勿論ダ委任者ガ契約ヲ解イタ以上ハ契約ハ解ケナケレバナラン
(松岡)
一々委任狀ガナケレバ出來ン樣ニスレバドレ程ノ不便ガアルカ又徳義ヤ刑法ガアルニ公衆ノ便利ヲ目算ニ立テルノデ御座イマスソウシテ見レバ狹ク切リ詰メルヨリモ斯ウヤツタ方ガ便利デアリマス
(委員長)
便利ト云フ解釋ハ貴君方ニノ云フノハ尤モナレバ宜シイガ一方ニ便利ヲ與ヘレバ一方ニ不便利ニナル
(松岡)
惡ルイモノハ少イ其少イモノノ爲メニ押ヘヨウトスルト多クノ人ガ疑懼ヲ抱ヒテ出來ナイヨウニナル
(委員長)
君逹ノ云フノハ第三者ガ安心スルカラ便利ト云フガ我輩ノ云フノハ委任者ガ危險ニ思フノガ不便ト云フノダカラ何レデモ同ジ事ダ
(南部)
第三者ハ知リマセン
(大尾崎)
知ラン處ニ落チ度ガアル
(南部)
尾崎サンハ九百四十六條ノ第三抔ハ御議シニナツテ今ニナツテソウ云フ事ヲ仰シヤルノハ間違ツテ居ル
(大尾崎)
之ハ大ヒニ違ウ
(栗塚)
然カモ代理人ガ權限外ニシタ事デモ
(大尾崎)
本人ガ委任シテアル如ク正當ノ理由ヲ云フテ居ル事ガアレバデス
(栗塚)
之ガ出來ナイトナルト代理人ト話ヲスル入ガナクナル
(委員長)
第三者丈ケヲ保護スル理由デナシニ今少シ慥ニ世ノ中ノ公益ニナル事ガアレバ宜シイガ
(松岡)
貴君ノ理由モ慥カデアリマセン
(委員長)
私ハ委任者モ第三者モ同ジニスル積リダ
(栗塚)
委任者ヲ助ケルナレバ矢張リ片落チニナル
(委員長)
同ジニシタイト思フガ委任者ハ約束ガ解ケタ以上ハ責ハ負ハナイ
(栗塚)
解イタトカ解カントカ云フノハ委任者ト第三者ノ間ヲ云フノデ第三者ニ向ツテ云フ事ハ出來マセン
(松岡)
栗塚ト云フ人ハ徳義ト云フモノト刑法ガアルカラ滅多ニ惡ルイ事ハシナイモノト見ルソレヲ代理人ヲ凡テ疑ヘバ代理ハ行ハレン樣ニナル
(南部)
少シモ疑ヒバ起ラン
(委員長)
之ヲ疑ハンノハ無神經ダ
(淸岡)
約束ハスルダロウケレドモ卒ザ家代金五千圓拂ウト云フトキ委任狀ヲ見ナイデ取引ヲスルモノハナイ
(委員長)
於前ハ委任者デアルカナイカト云フ事ヲ聞カズニヤツタモノハ委任狀ヲ取返シタト云フ事ヲ知ツテヤツタ樣ニ見ヘル
(栗塚)
ソレデハドウシテ代理人ト云フ事ガ分リマス
(委員長)
自分ガ代理人ト云フテ契約ヲシヨウト掛ツタカラ
(南部)
委任狀ヲ初メ見テ居リマス
(委員長)
委任狀ヲ見テ居ランノダ
(南部)
見テ居ルカラ取戻シタルトキト雖モトアリマス
(委員長)
見テ居ルトキモアリ見テ居ラントキモアルダロウ
(大尾崎)
初メハ見テ居リマス
(委員長)
決シテ見テ居ルトハ見ラレナイ
(栗塚)
私ガ充分ニ貴君ヲ信ジテ貴君ハ松岡サンノ代理ト信ジテ居ツテ現在松岡サンガ其通リ履行ナサツタ
(南部)
此話ハ委任狀ヲ取戻トアツテ取戻ス前ハ代理人ノ手ニアツタカラ見テ居ルニ違ヒナイ
(栗塚)
見テ居ルノガ條件ニナツテ此ガ出來ルノデハナイ
(箕作)
此人ノ論デハ第三者ニ知ラセル道ヲ盡シテ居ル委任狀ヲ取返シテ置ケバ委任者ハ充分ニ責ヲ盡シテ居ルソレヲ第三者ガ委任狀ヲ見セルト云ハンデ迂闊ニスレバ第三者ガ惡ルイト云フ事ガ書イテアル
(委員長)
ソレハ其レデナケレバ酷イ
(淸岡)
詰リ之ハ文章ガ足ラン、場合ニ因テ餘程違ウト思ヒマス假令バ私ガ何某ニ委任シテ平素銀行ノ取引ヲサセテ居ルトキハ委任狀ヲ取リ戻シタ丈ケデハ足ラン何某ノ代理ヲ解イタカラ以來左樣心得テ居ロト云ハナケレバナラン併シナガラ之ハ慢然トシテ何處ヘデモグルリグルリト行クモノニ一々云フテ行ク事ハ出來ナイ
(大尾崎)
公債證書ヲ買ヒニヤルノハ其目的ガ何レデ買ツテ來ルカ分ラン其時代理人ガ委任狀ヲ持タズシテ公債證書ノ相場ガ八十圓ノモノヲ百園デ約束シテ來タノハ
(元尾崎)
ソレハ善意デナイ
(大尾崎)
第三者ハ善意デス
(淸岡)
法律ハ之レデヤツテ居イテ
(委員長)
法律ガ之デヤツテ置クト皆ナ拂ハナケレバナラン
(淸岡)
拂ヒハシマセン
(栗塚)
善意カ善意デナイカト云フ事ガ肝腎ダデ御座イマス
(委員長)
善意デアツテ一向知ラン
(栗塚)
之ヲ反對ニスルト取引ガ止ミマス
(委員長)
反對ニセズトモ代理ガアルカナイカト思ヘバツライ、ツライ事モシナケレバ委任者ニ向ツテ對抗スル事ハ出來ナイト云フ事ガナケレバナラン自分ガツライ事ヲ怠ソタリ委任者ノ知ラセタノガ分ラナカツタリスルノハ善意デモイケナイト云フ事ニシナケレバナリマセン
(栗塚)
今迄委任狀ヲヤツテ置イタガ委任狀ヲ取リ返シタ丈ケデハ第三者ニ向ツテ私ノ代理人デ御座ラント云フ事ハ云ヘンゾヨト云フノデ御座イマスカラ通知ヲスルセント云フ事ハ第二ノ問題ダロウト思ヒマス通知ヲシテ通知ガ不可抗力デ向ウヘ逹シナイト云フ場合ハ此處デハ見テアリマセン
(委員長)
ソレハ此處デ見テナケレバナラン
(南部)
ソレハ此處デ論究シテアリマセン
(栗塚)
此處デハ委任狀ヲ取戻シタ丈ケデハ内輪ノ話ダカラ第三者ニ對シテイケンゾヨト云フノデス
(委員長)
善意ト云フ丈ケノ講釋カ
(栗塚)
取戻シタト云フ事ヲ知ラナカツタ卽チ權利ガアルト思ツテ居タ
(委員長)
委任者ノ方デハ充分手續ヲ盡シテ一方ハ第三者ガ知ランダロウ其トキハドウスルカ
(村田)
知ラナケレバ仕方ガナイ
(委員長)
ソウナルト委任者ガ新聞紙ヘ廣吿シテモ一方ガ知ラントキハ善意デモ仕方ガナイ新聞紙ヘデモ廣吿スレバ委任者ガ手ヲ盡シタモノト見ナケレバナラン
(栗塚)
ソレハ五十三條ノ論デス
(南部)
註ヲ御覽ニナルトソレガ見テアリマセン吿知スル責ハナイト云フテアリマス
(委員長)
吿知スルニ及バンカ
(南部)
左樣デス
(委員長)
ソンナラ尙ホ々々分ラン
(南部)
向ウノ誰レト約束シテアルカ分ランカラ吿知ノ仕樣ガアリマセン
(委員長)
代理者ト契約スル人ニ吿ゲル
(南部)
ソレハ誰カ分リマセン
(委員長)
分ツタ丈ケノモノニ吿ゲル貴君方ハ委任者ヲ丸デ脛腰ノ立タヌ目ニ合ハセテ第三者丈ケヲ無暗ニ保護スルト云フノハ法理ノモ合ハンガ實際ニモ適セン樣ニナル
(松岡)
尋常普通ナレバ委任狀ヲ見テ契約スル委任狀ガナケレバ役ニ立タン前々ヨリ仕來リノアルノハ一々委任狀ヲ見テスル事ハ出來ンカラ委任狀ヲ取戻シタバカリデハイカント云フデアリマス
(委員長)
前々ヨリノ仕來リナレバ宜シイガ之レデハ一般ニ及ボスカラ
(松岡)
前々カラノデナケレバイケマセン之ハ飛込ンデ來タノハ這入リマセン
(南部)
ソレハ這入リマセン
(委員長)
ソレハ此分デハ見ヘン
(松岡)
今迄居タ事ノナイ人間ガ貴君ノ僕デ御座イマスト云ツテ牛肉屋ヘ云ツテモ牛肉ハ寄越シマスマイ
(委員長)
松岡サンノ僕デ御座イマスト云フタラ向ウデ渡スダロウ
(南部)
委任狀ガ代理人ノ手ニアレバ第三者ガ委任狀ヲ見ズニ契約スル事ハ決シテアリマセン
(松岡)
委任狀ヲ見ナイデシタ人ハ役ニ立タンノハ當リ前ダ
(委員長)
ソレ丈ケノ條文ガアレバ宜シイガ今日初メテ來タ人間デモ此通リニナル
(南部)
初メカラ委任狀ヲ持タンモノニ適用スル條デハアリマセン如何トナレバ委任狀ヲ取戻シタトキト雖ドモトアリマスカラ
(委員長)
最初ノトキハ委任狀ヲ持ツテ行ツテ二度目ニ持タンデ行ケバ宜シイ
(南部)
ソレハ宜シウ御座イマス
(大尾崎)
此法文デハイカンモウ少シ御注意ニナツテ考ヘテ下サイ
(淸岡)
之レデハ足ラン
(栗塚)
此裏ヲ考ヘテ下サイ第三者ノ迷惑ガ酷イ
(淸岡)
此春來タトキ何某ノ委任狀ヲ持ツテ居タカラ今デモ持ツテ居ルダロウト云フノハ違ウ
(箕作)
之デ何モ箇モ分ル樣ト云フ事ハ出來ナイ
(栗塚)
併シ對抗スル事ヲ得ルトハ書ケナイデ御座イマシヨウ
(委員長)
ソンナ詰ラナイ論ヲスルノデハナイ法外ニ委任者ヲ責メルノハ酷イ
(淸岡)
之デハ今年ノ春委任狀ヲ持ツテ居タカラ三年經ツテモ代理人ト見ルノハ酷イ
(栗塚)
如何ニモ間拔ケナ事ハ詐欺ト同ジ事ダト云フテ居リマス自分デ落チ度ガアツテハナラン但第三者ニ於テ大イナル過失アルトキハ此限ニ在ラズト云ツテモ宜シイ
(元尾崎)
ソレガ宜シイ
(箕作)
ソレナラ少シ心配ガ少ナイ樣ダ
(南部)
ソレデハ起案者ニ聞イテ入レント良クナイ
(淸岡)
起案者ニ聞イテモウ一眉場合ヲ示シテ貰イタイ
(南部)
ソレハ出來ナイ
(栗塚)
但シ第三者ニ於テ其原因ヲ知ラザルノ過失アルトキハ此限ニ在ラズ
(村田)
善意ト云フテ置イテ過失アルトキトハ云ヘン
(箕作)
第三者ヲ始終取引ノ慣習アルモノト見レバ宜シイ
(委員長)
一度カ二度來タモノガヤツタノハ裁判官ガ見テ善意トスル事ハ出來ナイ
(松岡)
詰リ善意ノ見樣デス
(箕作)
委任狀ヲ見ベキ事柄カ見ナイデ濟ム事カモ善意ノ中ニナケレバナラン
(栗塚)
善意ト云フノ字ヲ過失ナク之ヲ知ラザリシトキハ此第三者ニ對シ對抗スル事ヲ得ズトスレバ宜シイ
(南部)
見ルベキモノヲ見ナカツタト云フガ委任狀ガ代理人ノ手ニアツタト云フ事ハ分ツテ居ル良シ見ナクテモ代理人デアツタト云フ事ハ分ツテ居ル其後ニ至ツテ委任狀ヲ見タトカ見ナイト云フ事ハナイ
(箕作)
委任狀ヲ返シマシタト云フタラドウシマス
(南部)
ソレハ善意デハナイ
(箕作)
ソレヲ何トモ云ハンデシタラドウナリマシヨウ
(南部)
ソレデモ善意デス
(委員長)
ソレハ惡ルイ
(南部)
ソウスレバ朝カラ晩迄委任狀ヲ見ナケレバナラン
(栗塚)
過失ナク之ヲ知ラズトシテハ如何デス
(南部)
過失ナイト云フ事ハドウ云フ事カ
(栗塚)
見ルベキノヲ見ナカツタト云フノデス
(委員長)
始メテノトキハ必ズ見ルニ違イナイ
(南部)
之ハ始メテデハアリマセン取戻シタルトキト雖ドモトアリマスカラ
(委員長)
元トハアツタケレドモナクナツタカ第三者ニ向ウノハ始メダ其時南部サンニ賣ルト云フトキ見ズニスルカセンカ
(松岡)
始メノ人ハ這入リマセン
(委員長)
第三者ニ向テ始メテノ場合ガアル
(大尾崎)
二度目ノトキハドウシマス始メニハ委任狀ヲ見テ一ケ月モ經ツテ來タトキ契約ヲ取結ンダ卽チ公債證書ノ賣買ハ誰カラ買ツテ來ルカ分ラン始メノトキハ委任狀ヲ持ツテ來タ二度目ニ來タトキハ前ノ委任狀ヲ受ケタモノト見テ取引ヲシタ
(南部)
二度目ニ委任狀ヲ見セロト云フタトキ本人ニ返シテ仕舞ヒマシタト云フテ取引ヲシタトキハ惡意ニナル
(委員長)
見セズニヤツタトキハドウスルカ「ムールロン」ノ說ハ云フベキ事トシテアル公債證書ヲ買ヒニ行ツタ人間ハ先年モ委任狀ヲ持ツテ來タガ二度目ニ來タトキハ持ツテ來ナイト云フノハ問ウベキモノヲ問ハズシテヤツタラ良クナイ
(栗塚)
ソレハ善意デナイ過失ガアルト見レバ宜シイ
(委員長)
南部サンハソレヲ善意ト云フ
(南部)
假令バ私ガ其委任狀ヲ持ツテ居リマセント云フテモ前ニ忘レテ持ツテ居ランカ又ハ返ヘシテ仕舞ツタカ知レマセンカラ本人ニ逢ツテ聞ケト云ハナケレバナリマセン
(松岡)
過失ガアルカナイカト云フ事ハ事實ノ問題デ一槪ニハ云ヘナイ善意ト惡意トヲ見ルニハ判決ノ上デナケレバナラン
(箕作)
善意ト云フ字サヘ旨ク解釋スレバ宜シイ
(栗塚)
「過失ナクシテ之ヲ知ラサリシ代理人ト約シタル」トスレバ宜シウ御座イマシヨウ善意ト云フ字ハ何處ヘ出テモ唯ダ知ラナカツタ丈ケト云フ字デハアリマセン
(松岡)
當リ前ト云フ事デ
(委員長)
善意ト云フ二字デハ私一己デハ折合ガ出來ン
(大尾崎)
今一應考ヘテ下サイ
(栗塚)
旨意丈ケハ御議定ニナラント困リマス
(淸岡)
善意バカリデハナイ過失トカ懈怠トカ聞ヘレバ宜シイガソレバカリデハイケナイ場合ガアルダロウカラソレヲ書カナケレバナラン
(栗塚)
場合ハ迚モ書ケマセン
(元尾崎)
雇人ニ牛肉ヲ買ヒニヤツタ場合ハドウコウト云フ事ハ書ケナイ
(栗塚)
書イタラ却テ危險ニナルダロウト思ヒマス
(委員長)
是等ハ立法官ガ注意シナケレバナラン斯ウ云フ事ヲ裁判官ニ任カセレバ立法者ガ註意セント云ハレル裁判官ハ神聖ノ能力ヲ持ツテ居テモソウ立派ニ解釋ハ出來ンカラ
(栗塚)
我々ノ眼デハ善意ト云フ處ニ含ンデ居ルト思ヒマス實際ノ問題ハ善意ニアルト思ヒマス
(委員長)
書カ文章ヲ書クノナラドンナニ書イテモ宜シイガ之ハ貴賤上下ノ區別ナク利害ガ關スルカラ面白イカラ善意ト書ク樣デハ困ル
(栗塚)
重大ナル過失アルトキハ此限ニ在ラズトシテハ如何デ御座イマス
(大尾崎)
「過失ナクシテ其代理人ト約束シタル」トシテハ如何デス
(南部)
「惡意ノ多イトキノミ對抗スル事ヲ得」トシテハ如何デス
(槇村)
「善意ニテ且過失解怠ナク」トシタラ良カロウ
(元尾崎)
善意ト云フ字ハイケナイ
(栗塚)
「善意ニテ僻怠ナク」トシテハ如何デス
(大尾崎)
ソレガ良カロウ
(松岡)
斯ウ云フ處ノ善意ハ過失ノナイ事ヲ云フノダ
(南部)
「之ヲ知ラス且懈怠ナイ」トスルガ宜シイ
(箕作)
「其終了ヲ知ラス過失ナク」トシタラ良カロウ
(渡)
此度ハ宜シイガ外ノ善意ノ處ハ懈怠ガ離レテ仕舞ウ
(大尾崎)
「其終了ヲ知ラス且懈怠ナク」トシヨウ
(栗塚)
「終了ヲ知ラス且懈怠ナク」ト致シマスカ
(松岡)
知ラザルノハ懈怠ナクシテトナルダロウ
(栗塚)
「終了後懈怠ナク」ト致シマスカ
(箕作)
懈怠ナク代理人ト約束シタ事ニナルカラ「懈怠ナク其終了ヲ知ラス」ト云ハナケレバナラン
(南部)
「懈怠ナクシテ」ト云フガ良カロウ
(栗塚)
「懈怠ナクシテ其終了ヲ知ラス代理人ト約束シタル」ト致シマシヨウ
本條「代理ノ」ノ下左ノ如ク改ム
代理ノ終了後懈怠ナクシテ其終了ヲ知ラス代理人ト約束シタル第三者ニ之ヲ以テ對抗スル事ヲ得ス
于時正午十二時休憩
午後零時五十分開會
第九百五十五條朗讀ス
第九百五十五條 代理カ上ニ揭ケタル原因ノ一ニ由リテ終了シタルトキハ代理人又ハ其相續人ハ委任者又ハ其相續人カ旣ニ生シタル利益ヲ自ラ處理シ又ハ新代理人ヲシテ之ヲ處理セシムル事ヲ得ルニ至ルマテ其利益ヲ處理スル事ヲ要ス
此規定ハ代理ノ終了カ廢罷ニ因レルトキヨリモ抛棄ニ因レルトキハ一層嚴ニ之ヲ適用ス
(元尾崎)
抛棄ニ因リ一層嚴ニト云フ事ハ分ラン
(栗塚)
委任者ガ止メタトキト代理人カラ辭退ヲ申シタトキデス
(元尾崎)
自分ガ出來ナイ樣ニナツテ抛棄スルニ違ヒナイ出來ナイ樣ニナツテハ跡デ處理スル事ハ出來ナイダロウ
(栗塚)
併シシテ呉レント溜ラン
(元尾崎)
ソウスレバ頼ンダ以上ハ抛棄サレテハ困ル
(栗塚)
跡拭ヒ丈ケハシテ置イテ呉レント困ル
(村田)
委任者ノ廢罷ニ依レル抛棄ヨリモ代理人ノ抛棄ニ依レルトスレバ宜シイ
(南部)
村田君ニ贊成
(尾崎)
ソレガ宜シイ
(渡)
贊成
(北畠)
贊成
(大尾崎)
贊成
(淸岡)
一髄彼方ラ此方ラニシテ「代理ノ終了カ代理人ノ抛棄ニ因レルトキハ委任者ノ廢罷ニ因レルトキヨリモ一層嚴ニ之ヲ適用ス」トスレバ宜シイ
(栗塚)
ソレガ宜シイ「モ」ハ入リマスカ
(淸岡)
アツテモ宜シイ
(委員長)
「モ」ハアル方ガ宜シイ本條第二イ損左ノ如ク改ム此規定ハ代理ノ終了カ代理人ノ抛棄ニ因レルトキハ委任者ノ廢罷ニ因レルトキヨリモ一層嚴ニ之ヲ適用ス
(淸岡)
次ノ見習契約ニ關スル說ト云フノハ
(栗塚)
之ハ今村ノ注意デ御座イマス見習契約ニ關スル說按スルニ歐米ノ列國ニハ未成年者ノ使役ニ付キ取締ノ法律ヲ設ケタリ未タ此法律ノ設ケナキハ唯葡萄牙、土耳其、希膿及米國南北洲中二三ノ國ノミナリト云フ蓋シ葡萄牙以下ノ數國ハ皆主トシテ農ヲ以テ業トスルカ爲メナリ(千八百八十年ノ調〕何レノ國ニ於テモ此法律ノ規定セル事項ハ左ノ數件ナリ第一兒童ノ仕事場ニ入ルヲ許スヘキ年齡ヲ定ムル事第二一日中仕事スヘキ時間ヲ限定スル事第三夜間及日曜日ノ仕事ヲ禁スル事第四兒童ニ入學ヲ命シ及親方ニ其見習生ヲシテ修學セシムルノ革義務ヲ命スル事第五此法律ノ施行ヲ監督スルノ方法ヲ定ムル事第六衞生ノ事〔飲食ヲ淸潔ニシ及危險ノ仕事ニ關スル類〕第七罰則此法律ハ未成年者ヲ保護スルヲ以テ其目的ト爲ス蓋シ歐米ノ列國ニ於テハ製造工作ノ業繁盛ニシテ製作ノ業ヲ營ム者ハ劇使スルノ益アリ兒童ノ親族ハ多ク貧民ニシテ其殘酷ニ抗抵スル事ヲ得ス又兒童ハ自ラ論爭スルノ識力ナシ以テ慘狀言フ可カラサルノ弊害アリ是ニ於テ立法者ハ此殘酷ヲ見ルニ忍ヒス法律ヲ定メテ兒童ノ不幸ヲ救護セント欲シタルナリ然リ而シテ此法ノ目的トスル救事項中監督ノ一事ハ孰レノ國ニ於テモ其方法ノ宜キヲ得ント欲シテ百方之ヲ講究ス何トナレハ此一事ニ不備アレハ此法ヲ擧テ徒法ト爲セハナイ或ハ俸給ヲ與ヘテ監督官ヲ置カント欲スト雖トモ大ニ財政ニ關係アリ或ハ議會若クハ親方ノ中ニ於テ人ヲ選定シ無給ニテ監督ヲ爲サシメント欲スト雖トモ彼等相互ニ隱秘シテ仕事場内ノ事ヲ吿發セス故ニ監督ノ方法ハ各國ノ立法官ヲシテ苦慮セシムル所ノモノナリ唯此法律ニ刑罰ヲ加ヘテ始メテ稍ヤ其效ヲ見ル事ヲ得タルノミ今慕氏ノ民法案中見習ニ關スル一節〔第九百六十三條以下)ヲ觀ルニ其規定スル所一二ノ事項ニ止ル而シテ最モ必要トスル監督方法及罰則ハ之ヲ設ケス(民法中ニハ此二事項ヲ設ケ難キカ爲メナリ)是故ニ其徒法タルヲ知ル且果シテ我國ニ於テ此法律ヲ今日ニ必要トスルヤ甚タ疑フ可シ要スルニ此取締ハ實ニ我國ニ必要ナルヲ待チ特別法ヲ發シテ完全ナル規則ヲ設クルノ勝レルニ如カス
(歐洲ニモ之ヲ特別法ト爲ス然ラサレハ此法ヲシテ完全ナラシムル事ヲ得ス)
且此不備ノ規定ヲ以テ却テ實際ニ妨碍ヲ爲サン事ヲ虞懼ス議者或ハ曰ハン現今必要ナラサルモ豫メ此種ノ法ヲ設ケ將來ノ弊ニ具フ可シト和郎ハ之ニ答テ曰ハン是レ恰モ兵備ヲ爲サント欲スル者カ豫メ銃砲彈藥製作スルノミナラス尙ホ豫メ彈藥ヲ發放セルカコトシ損アリテ益ナキナリト然リト雖モ和郎ハ敢テ此案ノ削除ヲ建議セス唯一委員ノ此ニ注意アラン事ヲ冀望スル者ナリ
第二十一章雇傭及ヒ仕事請負
第一節雇傭
(栗塚)
二十一章ハ十二章トナリマス
第九百五十六條朗讀ス
第二十一章 雇傭及ヒ仕事請負
第一節 雇傭
第九百五十六條 執事、番頭、僕嬶、職工其他ノ雇傭人ハ年月又ハ日ヲ以テ定メタル給料又ハ賃銀ヲ受ケテ勞務ニ服スル事ヲ得
雇傭ハ地方ノ慣習ニ因リ定マリタル時期ニ於テ又ハ確定ノ慣習ナキトキハ何時ニテモ一方ヨリ豫メ解約申入ヲ爲スニ因リテ終了ス但其解約申入ハ不利ノ時期ニ於テ之ヲ爲サス又惡意ニ出テサル事ヲ要ス
(栗塚)
表題ヲ「雇傭及ヒ仕事請負契約」ト致シタイノデス第一節ハ雇傭契約トナリマスソレカラ「執事」ヲ「使用人」トシテ「使用人、番頭、手代」ト致シマス
(元尾崎)
矢張リ執事ガ這入ルノダロウ
(栗塚)
這入リマス
(村田)
番頭手代ハ使用人ニ這入ルダロウ
(栗塚)
這入リマスソレカラ「勞務ニ服スル事ヲ得」ト云フノヲ「勞務ヲ人ニヤル」ト云フ方ニ書イタラドウダロウト思ヒマス「勞務ヲ供與スル事ヲ得」ト致シマス
(元尾崎)
供與スルハ可笑シイ
(松岡)
勞務ニ服スルガ宜シイ
(淸岡)
服スル事ヲ得ハ可笑シイ
(元尾崎)
服スルモノトシタラ良カロウ
(栗塚)
雇傭契約ハ何々ガ服スルモノヲ云フ
(松岡)
ソウスレバ定義ニナル
(南部)
ソウスルト勞務ヲ供スルト云ハナケレバナラン
(元尾崎)
勞務ヲ供スルト云フ事ハナイ
(南部)
ソレデハ此儘デ宜シイ第二十一章ヲ十二章ト改メ請負ノ下ニ契約ノ二字ヲ加フ第一節「雇傭」ヲ「雇傭契約」ト改ム
本條「執事、番頭、僕嬶」トアルヲ「使用人、番頭、手代、僕嬶」ト改ム
第九百五十七條朗讀ス
第九百五十七條 雇傭ノ期間ハ執事、番頭等ニ付テハ五ケ年僕嬶職工等ニ付テハ一ケ年ヲ超ユル事ヲ得ス但見習契約ニ關スル下ノ規定ヲ妨ケス
此ヨリ長キ時期ヲ約束シタルニ於テハ當事者ノ一方ノ隨意ニテ右ノ時期ニ之ヲ短縮ス但更新ヲ爲スノ權能ヲ妨ケス
(栗塚)
見習契約ハ習業契約トナリマス商法ニモ習業トアルソウデ御座イマス
(村田)
之モ番頭手代等ニ付テハ使用デハナイカ
(南部)
頭ノ字ガアルカラ宜シイ
(淸岡)
ソンナラ使用人等ニ付テハデ宜シイ
(渡)
宜シイ
(元尾崎)
宜シイ
本條ハ「執事」ヲ「使用人」ト改メ「見習」ヲ「習業」ト改メマス
第九百五十八條朗讀ス
第九百五十八條 雇傭ハ時期ヲ定メタルトキト雖モ當事者ノ一方ノ義務不履行ニ因ル解除ノ爲メ又ハ一方ヨリ出テタル正當ニシテ且已ムヲ得サル原因ノ爲メ其定期前ニ於テ終了ス
如何ナル場合ニ於テモ主人ノ一身ニ關スル雇傭ハ其死亡ノ爲メ當然終了ス
(栗塚)
假令バ小供ノ乳母デ御座イマス小供ガ死ネバ乳母ハ無用ニナリマスカラ
第九百五十九條朗讀ス
第九百五十九條 雇傭ヲ終了セシムル正當ノ原因カ主人ヨリ出テ且地方ノ慣習ニ從ヒ雇傭ノ新契約ヲ爲スニ困難ナル季節ニ生シタルトキハ裁判所ハ事情ニ從ヒテ定ムル償金ヲ雇傭人ニ付與スヘキ事ヲ其主人ニ言渡ス
(松岡)
妾ヲ出ス時分ニ桂庵ニ行ツテ傭ハレルマデハヤレト云フノカ
(栗塚)
季節ガアルカラデス
(北畠)
之ハ飽ト云フ季節デ御座イマス
(村田)
言渡スト云フノハ惡ルイ裁判所カラ言渡ス樣ニナル
(栗塚)
償金ヲ裁判上附與スト云ヘバ良カロウ
(淸岡)
付與セシムル事ヲ得トシテハドウダロウ
(元尾崎)
付與セシムル事ヲ得ガ宜シイ
(栗塚)
ソレデ宜シウ御座イマス
本條「付與スヘキ事ヲ其主人ニ言渡ス」トアルヲ「言渡ス事ヲ得」ト改ム
第九百六十條朗讀ス
第九百六十條 如何ナル場合ニ於テモ雇傭人ノ死亡ハ契約ヲ終了セシム但其相續人ハ給料又ハ賃銀ノ取越過額ヲ返還ス
(渡)
死ダ場合ダカラ如何ナル場合ハナカロウ
(松岡)
虎列拉デ死デモ腹ヲ切ツテ死デモ
(南部)
死ダ場合デハナイ
(元尾崎)
或ハ長イ期限デ雇ツテアツテモ一月デモト云フノデ死ダ場合バカリデハナイ
(淸岡)
如何ナル死ニ方デモト云フノデハナイ
本條ハ原案ニ決ス
第九百六十一條朗讀ス
第九百六十一條 上ノ規定ハ俳優、音樂師等ノ藝人ト座元興行者トノ間ニ取結ヒタル雇傭ニ之ヲ適用ス
又醫師辯護士ト其依頼人トノ間及ヒ學藝敎師ト其生徒トノ間ノ關係ニ付テモ亦上ノ規定ヲ適用ス
(栗塚)
之モ雇傭契約トナリマス
(松岡)
一項ハ宜シイ
(村田)
二項ハ九百六十二條ヲ此處ヘ入レタノダガ元トノ方ガ宜シイ之ヲ雇傭契約ト云フノハ可笑シイ今日デモ醤者ト病人ハ雇傭契約デハナイ
(栗塚)
左樣デス
(箕作)
獸醫ト云フノハ變ダ獸醫ガアルト人醫ガナケレバナラン
(松岡)
ソレデ獸醫ハ前ニ削リマシタ
(栗塚)
此丈ケハ削リマシタ
(槇村)
上ノト云フノハ前記ノダロウ
(栗塚)
前記デ宜シウ御座イマス
(村田)
前記デ宜シイソレカラ角力ヲ入レテ角力俳優トシヨウ
(箕作)
地方稅規則ヲ見タ樣ニナル
(元尾崎)
角力取ト云ハナケレバナラン
(松岡)
等ノ中ニ皆ナ這入ツテ居ル
(淸岡)
角力ハ藝カシラン
本條第一項「上ノ」ヲ「前記ノ」ト改メ「雇傭」ノ下ニ「契約」ノ二字ヲ加フ第二項削除ニ決ス
第九百六十二條朗讀ス
第九百六十二條 醫師、辯護士及學藝敎師ハ雇傭人ト爲ラス是等ノ人ト其患者、訴訟人又ハ生徒トノ間ニ約束シタル世話ヲ與ヘ又ハ與ヘ始メタル世話ヲ繼續スルコトニ付キ法定ノ義務ナシ又患者、訴訟人又ハ生徒ハ是等ノ者ノ世話ヲ求メテ約諾ヲ得タル後其世話ヲ受クルノ責ニ任セス
然レトモ實際世話ヲ與ヘタルトキハ相互ノ分限ト慣習及契約トヲ酌量シテ其謝金又ハ報酬ヲ裁判上ニテ要求スルコトヲ得
是等ノ者ノ世話ヲ受クルコトヲ約束シタル後正當ノ原因ナクシテ之ヲ受クルコトヲ拒絕シタル者ハ其拒絕ヨリ是等ノ者ニ金錢上ノ損害ヲ生セシメタルトキハ賠償ノ言渡ヲ受ク
之ニ反シテ世話ヲ與フルコトヲ約束シタル後正當ノ原因ナクシテ之ヲ拒絕シタル者ハ因テ加ヘタル損害ヲ賠償スルノ言渡ヲ受ク
(此條ヲ削除スルノ理由)
此條第一項ノ要領ニ曰ク「醫師代言人等ノ職業ハ之ヲ民法外ニ放置ス故ニ是等ノ者ト依頼人トノ間ニハ何等ノ約束アルモ民法上義務ヲ生セス」ト起案者ノ說明ヲ按スルニ此種ノ者ハ下賤ナル雇傭人ト伍ヲ爲サス又此種ノ者ト依頼人トノ間ノ約束ハ其履行ヲ強要スルコトヲ得ス此二ノ理由アルヲ以テ此種ノ職業ヲ民法外ニ放置スト云フニ在リ凡ソ醫師代言人等ノ職業ハ一ノ生業ナリ他ノ四民ノ業ト何ンソ別タン農工商賣ハ法律ヲ以テ之ヲ支配シ醫師代言人ハ否セストノ主旨何等反覆熟考スルモ其理由ヲ發見セス又履行ノ強要シ難キハ獨リ醫師云々ノ數輩ノミナラス作爲ノ義務ニハ履行ノ強要シ難キモノ許多アリ第四百二條ニ明文アリ是ヲ以テ此第一項ニ二三ノ職業ヲ限リテ法律外ノモノト爲スハ謂レナキノ法ナリ又第二項ニハ既ニ與ヘタル世話ノ報酬ヲ請求スル事ヲ記ス此ハ普通ノ義務篇ニ規定シタルコトナリ又第三項以下ニハ約束ヲ履行セサルカ爲メニ生シタル損害ヲ賠償スル責任アル事ヲ記セリ此モ普通義務中ニ規定セリ右ノ理由アルヲ以テ此條ヲ削除スルノ議ヲ呈ス
(栗塚)
約束ハ諾約デ御座イマス此條ハ削除致シマセン方ガ良カロウト思ヒマス
(村田)
削除シナイ方ガ宜シイガ文章ハ再調査デ調ベテナイ樣ダ
(栗塚)
「コト」ハ「事」ト致シマス訴訟人又ハ生徒ニト致シマス是等ノモノハト致シマス先ヅ一旦本條ヲ置クカ置カンカヲ御決定ヲ願ヒマス其上文字ノ修正ヲ申上ゲマシヨウ
(元尾崎)
之ハ置ク方ガ宜シイ
(松岡)
學校ノ教師抔ト云フノハ可笑シイ
(槇村)
文字ヲドウ改メマスカ
(栗塚)
雇人ト爲ラズ是等ノモノハ其患者訴訟人又ハ生徒ニ諾約シタル世話ヲ與ヘ
(村田)
「トキ」ハ「トキ」ダロウ「言渡ヲ受ク」モ變ヘナケレバナランダロウ
(栗塚)
其賠償ノ責ニ任ズト致シマス末項モ賠償スルノ責ニ任ズ
(箕作)
法定ノト云フ事ハ云ハンダロウ
(栗塚)
入リマセン裁判上訴ヘラレント云フノデ御座イマス
(南部)
アツタ方ガ良カロウ
(松岡)
皆ナ法定ダロウ
(南部)
ソレデハ民事裁判所ト云フ事ハ入ランガ矢張リ民事裁判所ト書クカラ同ジ事ダ
(村田)
「及」ノ下ニ「ヒ」ノ字ガ拔ケテ居ル
(淸岡)
民法上ノ責ニ任ゼズトシタラ良カロウ
(箕作)
法定ノ義務ナシト云フト其裏ハ道徳上ノ義務アリト云フ樣ニナル本條ハ左ノ如ク改ム第九百六十二條醫師、辯護士及學藝教師ハ雇傭人ト爲ラス是等ノ者ハ其患者、訴訟人又ハ生徒ニ諾約シタル世話ヲ與ヘ又ハ與ヘ始メタル世話ヲ繼續スル事ニ付キ法定ノ義務ナシマハ患者、訴訟人又ハ生徒ハ是等ノ者ノ世話ヲ求メテ諾約ヲ得タル後其世話ヲ受クルノ責ニ任セス然レトモ實際世話ヲ與ヘタルトキハ相互ノ分限ト慣習及ヒ契約トヲ酌量シテ其謝金又ハ報酬ヲ裁判上ニテ要求スル事ヲ得是等ノ者ノ世話ヲ受クル事ヲ約束シタル後正當ノ原因ナクシテ之ヲ受クル事ヲ拒絕シタル者ハ其拒絕ヨリ是等ノ者ニ金錢上ノ損害ヲ生セシメタルトキハ其賠償ノ責ニ任ス之ニ反シテ世話ヲ與フル事ヲ約束シタル後正當ノ原因ナクシテ之ヲ拒絕シタル者ハ因テ加ヘタル損害ヲ賠償スルノ責ニ任ス
(此條ヲ削除スルノ理由)
此條第一項ノ要領ニ曰ク「醫師代言人等ノ職業ハ之ヲ民法外ニ放置ス故ニ是等ノ者ト依頼人トノ間ニハ何等ノ約束アルモ民法上義務ヲ生セス」ト起案者ニ說明ヲ按スルニ此種ノ者ハ下賤ナル雇傭人ト伍ヲ爲サス又此種ノ者ト依頼人トノ聞ノ約束ハ其履行ヲ強要スルコトヲ得ス此二ノ理由アルヲ以テ此種ノ職業ヲ民法外ニ放置スト云フニ在リ凡ソ醫師代言人等ノ職業ハ一ノ生業ナリ他ノ四民ノ業ト何ンソ別タン農工商賣ハ法律ヲ以テ之ヲ支配シ醫師代言人ハ否セストノ主旨何等反覆熟考スルモ其理由ヲ發見セス又履行ノ強要シ難キハ獨リ醫師云々ノ數輩ノミナラス作爲ノ義務ニハ履行ノ張要シ難キモノ許多アリ第四百二條ニ明文アリ是ヲ以テ此第一項ニ二三ノ職業ヲ限リテ法律外ノモノト爲スハ謂レナキノ法ナリ又第二項ニハ既ニ與ヘタル世話ノ報酬ヲ請求スル事ヲ記ス此ハ普通ノ義務篇ニ規定シタルコトナリ又第三項以下ニハ約束ヲ履行セサルカ爲メニ生シタル損害ヲ賠償スル責任アル事ヲ記セリ此モ普通義務中ニ規定セリ右ノ理由アルヲ以テ此條ヲ削除スルノ議ヲ呈ス
第九百六十三條朗讀ス
第二節 見習契約
第九百六十三條 工業人又ハ商業人ハ見習契約ヲ以テ男女ノ見習者ニ自己ノ職業上ノ知識ト實驗トヲ傳授シ見習者ハ其人ノ勞務ニ助力スルヲ約束スル事ヲ得
未成年者ハ其父、後見人其他自己ニ對シテ權力ヲ有スル人ノ輔佐又ハ名代ニ依ルニ非サレハ見習契約ヲ取結フ事ヲ得ス
(栗塚)
「工業人工匠又ハ匠人ハ」トナリマス工匠人ノ中ニ大工ヤ左官ヲ入レタイノデ御座イマス
(元尾崎)
工業人ト云ヘバ工匠ハ入ラン
(松岡)
工業人ハ製造場ヲ持ツテ居ルモノ、工匠人ハ自分デゴソゴソヤルモノダ第二節「見習契約」ヲ「習業契約」ト改ム
本條「工業人」ノ下ヘ「工匠」ノ二字ヲ加ヘ「匠業人」ヲ「匠人」ト改ム「見習」ヲ「習業」ト改ム
第九百六十四條朗讀ス
第九百六十四條 合式ニ輔佐ヲ受クル未成年者又ハ其代人ノ取詰ヒタル見習契約ハ其未成年ノ時期ヲ超ユル事ヲ得ス但見習者カ成年ニ逹シタル後其契約ヲ更新シ又ハ之ヲ伸長スル事ヲ妨ケス本條ハ「見習」ヲ「習業」ト改ム
本條ハ「見習」ヲ「習業」ト改ム
第九百六十五條朗讀ス
第九百六十五條 見習契約ハ當事者相互ノ義務ノ性質及ヒ廣狹ヲ定ム
見習契約ノ不備ハ親方ノ其職業ヲ行フ地方ノ慣習ニ從ヒテ之ヲ補完スルコトヲ得
(栗塚)
「親方」ハ「師匠」トナリマス
(松岡)
工業人ト云フ處ヲ師匠トスルノハ可笑シイ
(村田)
稽古ヲ教ハルンダカラ師匠ニ違ヒナイ
(松岡)
習業トハ云フモノノ自分ガ稽古スルバカリデナイ農業場ニ使ウノモアルダロウ
(栗塚)
左樣デス佛文ニハ師匠又ハ親方トアリマス
(箕作)
主人ト云フノハ可笑シイ召使デハナイ親方デ宜シイ
(元尾崎)
師匠親方主人トヤルガ宜シイ
(槇村)
親方ト云フト博徒ノ於頭ラニナル
(元尾崎)
主人又ハ師匠ガ宜シイ
(松岡)
師匠又ハ親方ガ宜シイ
(渡)
親方ガ宜シイ
(箕作)
師匠又ハ親方ガ宜シイ
(南部)
主人ト云フト普通ニ通ズルカラ主人ガ宜シイ
(元尾崎)
師匠又ハ親方ガ多數ダ
本條ハ「見習」ヲ「習業」ト改メ親方ノ上ニ「師匠又ハ」ノ四字ヲ加ウ
第九百六十六條朗讀ス
第九百六十六條 親方ハ見習者ニ居室、食物及ヒ職業ノ器具ヲ與ヘ且日常ノ使用ヲ足ラシムル事ヲ要ス但反對ノ契約ナリ且地方ノ慣習ノ此ニ異ナラサルトキニ限ル
又親方ハ見習者ニ其見習契約ノ目的タル職業ヲ學フ事ヲ得セシムル爲メ必要ナル時間ヲ與ヘ世話ヲ爲シ及ヒ諸般ノ便利ヲ圖ル事ヲ要ス
未成年ノ見習者カ未タ算筆ヲ知ラサルトキハ親方ハ何等ノ反對ノ契約アルモ見習者ニ算筆修習ノ爲メ休憩時間外ニ於テ每日少ナクトモ一時間ヲ與フル事ヲ要ス
(南部)
反對ノ合意トナル
(北畠)
反對ノ合意ハ宜シイガ習業契約ヲ習業合意トスルノハ見惡クイ
(村田)
ソレハ契約デ宜シイ又師匠又ハ親方ト云フノハ可笑シイ
(南部)
上ノ又ヲ削ロウ
本條ハ親方ノ上ニ「師匠又ハ」ノ四字ヲ加ヘ「見習」ヲ「習業」ト改ム末項「反對ノ契約」ヲ「反對ノ合意」ト改ム
第九百六十七條朗讀ス
第九百六十七條 見習者ハ其學ハント欲スル職業ニ關シ日日ノ時間及ヒ勞務ヲ親方ニ供スル事ヲ要ス
本條ハ「見習」ヲ「習業」ト改メ親方ノ上ニ「師匠又ハ」ノ四字ヲ加フ
第九百六十八條朗讀ス
第九百六十八條 見習者カ自己又ハ其親屬ノ疾病其他不可抗ノ原因ニ由リテ一ケ月以上引續キ勞務ヲ供スル能ハサルコト一回又ハ數回ニ及ヒタルトキハ見習者ハ其成年ニ逹シタル後ト雖モ見習契約ノ期限滿了後ニ於テ前契約ニ同シキ相互ノ條件ヲ以テ休業シタル時間ヲ補足スル事ヲ要ス
(松岡)
一回ナレバ御流レデ數回ニナツタラバト云フナラ聞ヘルガ一回又ハ數回ナレバ云ハンデモ良イ事ニナル
(村田)
一月中續イテナツタノモアル
(松岡)
計算シテ一ケ月ノト云フノデナイ一月以上モ續ク缺勤ガ幾度モアルトキハト云フノダロウ
(箕作)
ソウデス幾ツモ集メテ
(村田)
續イテ一年行クノモアル一年ノ中幾度モヤルノモアル
(元尾崎)
十日宛三度デハイケナイカ
(松岡)
ソレハ此處デハナイ一ケ月以上續イタモノハ補ハナケレバナラント云フノダ
(南部)
一ケ月以上一遍二遍三遍ト續イタトキハドウスルカト云フ疑ガアル
(松岡)
ソレヲ疑グルナレバ疑グツタノガ惡ルイ
(元尾崎)
一回又ハ數回ハ入ラン
(槇村)
供スル能ハザルトキハデ宜シイ
(渡)
引續キ勞務ヲ供スルハ勞務ニ服スルト云ハナケレバナラン
(南部)
前ニ供スルト云ツテアル
(元尾崎)
原案デ宜シイ
(松岡)
能ハザルトキハデ宜シイ
(元尾崎)
ソレガ宜シイ
本條ハ「能ハサル事一回又ハ數回ニ及フトキハ」トアルヲ「能ハサルトキハ」ト改ム
第九百六十九條朗讀ス
第九百六十九條 見習契約ハ左ノ諸件ニ因リテ當然終了ス
第一 親方又ハ見習者ノ死亡
第二 親方又ハ見習者ノ陸海軍ノ服役
第三 親方又ハ見習者ノ言渡サレタル重罪ノ處刑又ハ三ケ月ヲ超ユル禁錮ノ處刑
第四 契約又ハ法律ヲ以テ定メタル期限ノ滿了
(栗塚)
第一ヲ「師匠親方又ハ習業者ノ死亡」ト致シマス
(元尾崎)
親方ガ三ケ月ノ禁錮ニナルト習業者ハ出ナケレバナランカ
(村田)
親方ガナケレバ習業ガ出來ナイ
(南部)
第四ノ契約ハ合意トナリマス
(村田)
失踪シタ場合ハドウスルダロウ
(栗塚)
ソレハ當然デハナイ
本條親方ノ上ニ「師匠」ノ二字ヲ加ヘ第四ノ「契約」ヲ「合意」ト改ム
第九百七十條朗讀ス
第九百七十條 左ノ原因アルトキハ解除ノ利益ヲ得ル一方ノ當事者ノ請求ニ因リ裁判所ハ契約ノ解除ヲ宣吿スルコトヲ得
第一 相互ノ義務ノ不履行但不可抗ノ原因ニ由ルトキモ亦同シ
第二 見習者ニ對スル親方ノ苛酷ナル取扱
第三 見習者ノ平常ノ不品行
第四 前條ニ揭ケタル場合ノ外親方又ハ見習者ノ犯罪
第五 契約ヲ履行ス可キ府縣外ニ親方ノ轉居
本條ニ依リ解除ノ宣吿ヲ受ケタル當事者ノ一方ハ自己ニ過失アルトキハ他ノ一方ニ對シテ尙ホ損害ヲ賠償ス可キノ言渡ヲ受ク前條ニ揭ケタル處刑言渡ノ場合ニ於テモ亦同シ
(第九百七十一條ヨリ第九百八十條マテ(第三節、水陸運送ノ賃貸)ハ商法ニ讓ルノ議決ニ從ヒ之ヲ略ス)
(栗塚)
「府縣外」ヲ「土地外」ニ致シマス府縣外ト云フ意味デハアリマセン
本條親方ノ上ニ「師匠」ノ二字ヲ加ヘ第五ノ「府縣外」ヲ「土地外」ト改ム
第九百八十一條朗讀ス
第四節 仕事ノ請負
第九百八十一條 工技又ハ勞力ヲ以テスル某ノ仕事ヲ其全部又ハ一部ニ付キ豫定代金ニテ爲スノ契約ハ注文者ヨリ主タル材料ヲ供スルトキハ仕事ノ請負ナリ若シ請負人ヨリ主タル材料ト仕事トヲ供スルトキハ仕事ヲ爲ス可キ有條件ノ賣買ナリ
(栗塚)
第四節ハ「仕事請負契約」トナリマス「有條件」ハ「條件付」トナリマス
(大尾崎)
「某ノ仕事」ハ「或ル仕事」ダロウ
(栗塚)
「或ル仕事」ノ方ガ宜シウ御座イマシヨウ
(箕作)
某デハ人ノ樣ニナル「或ル仕事」ノ方ガ宜シイ
(村田)
爲スノ「契約」ハ「合意」ダロウ
(栗塚)
「合意」デ御座イマス
(大尾崎)
今日ノ習慣ト變ツテ居ル
(栗塚)
併シ口デ云フノハドウデモ宜シイガ裁判官ガ判斷スルトキ賣買ト見ルカ、賣買ノ性質ヲ含ンダモノダ仕事ヲ爲スト云フ條件ヲ含ンデ材木ヲ賣ルノダ
(元尾崎)
併シ彼レハ日本ノ請負ダ
(栗塚)
印ヲ彫ルトキ印判屋カラ木ヲ付ケテ與越スデ御座イマセウ
(元尾崎)
多クハ材木ナドヲ向ウデ持テ來ル
(北畠)
田舎ヘ行クト家ノ山ノ木デヤツテ呉レト云フノガアル、幾ラデ引受ケマスト云フテヤルノヲ請負ト云フ
(元尾崎)
多クノ請負ハ皆材木ヲ持テ來ル
(松岡)
仕事屋ガ羅紗ヲ出シテ衣物ノ寸尺ヲ合セテ是レ丈ケニシマシヨウト云フノハ賣買兼請負ダ
(箕作)
結果ハ請負ニナリマス、純粹ノ賣買デハナイ第四節ヲ「仕事請負契約」ト改ム
本條「某ノ」ヲ「或ル」ト改メ「契約」ヲ「合意」ト改メ「有條件」ヲ「條件付」ト改ム
第九百八十二條朗讀ス
第九百八十二條 前條ニ揭ケタル二箇ノ場合ニ於テ物ノ全部又ハ一分ニ付キ旣ニ仕事ヲ爲シタル後ニ意外ノ事又ハ不可抗ノ力ニ因リテ其物ノ滅失シタルトキハ材料ノ滅失ハ其材料カ屬スル者之ヲ負擔シ請負人ハ仕事賃ヲ損失ス
當事者ノ一方カ其所爲ニ因リテ滅失ヲ來タシタルカ又ハ引渡若クハ受取ニ付キ遲滯ニ在ルトキハ其一方ノミ材料及ヒ仕事賃ニ付キ其滅失ヲ負擔ス但一層大ナル損害アルトキハ其賠償ノ責ニ任ス
請負人ヨリ材料ヲ供シタル場合ニ於テ一分ノ滅失又ハ單一ナル毁損カ物ニ其價額ノ半以上ヲ失ハシムルトキハ之ヲ全部ノ滅失ト同視ス又其減價カ半以下ニ在ルトキハ第百五十八條、第四百三十九條第三項及ヒ第四百四十條ノ規定ヲ適用ス
注文者ヨリ材料ヲ供シタルトキハ注文者ハ存在スル材料ノ部分ノ增價シタル限度ニ從ヒテ仕事賃ヲ辨濟スルノ責ニ任ス
(村田)
「一層大ナル」ハ削ツテ良カロウ
(栗塚)
之ハ滅失ニ對シテデ御座イマスカラ置イテモ宜シウ御座イマシヨウ
(村田)
一項ニ但書ガアツタヲ削ツタ
(栗塚)
三項ノ「單一」ハ「單ニ」トヤリ度イノデ御座イマス
(南部)
但書ヲ削ツタノハ
(栗塚)
之ハ議場デ削リマシタ
(槇村)
二項ト重複故ニ削ルトアル
(栗塚)
「單ニ」ト致シマス
(箕作)
「單ニ毀損カ」デハ分ラヌ
(委員長)
「單一」ガ宜シイ
本條ハ原按ニ決ス
第九百八十三條朗讀ス
第九百八十三條 注文者ヨリ材料ヲ供シタルトキハ一分ニ付キ仕事ヲ調査シ且之ヲ受取ルヲ約束スルコトヲ得但仕事完成ノ後ニ非サレハ其引渡ヲ實行セサル可キトキト雖モ亦同シ
此場合ニ於テ注文者カ旣成ノ仕事ヲ調査シテ受取リタルトキ又ハ之ヲ調査スルノ遲滯ニ在ルトキハ請負人ハ旣成ノ仕事ニ付キ其危險ノ責ヲ免カル
仕事中ニ注文者ヨリ前金又ハ內金ヲ供シタルモ此ヲ以テ旣成ノ仕事ヲ受取リタリト看做サス然レトモ物カ注文者ノ明白ナル受取又ハ其付遲滯ノ以前ニ滅失シタルトキハ注文者ハ旣成ノ仕事ノ代金ヲ超ユル部分ニ非サレハ前金又ハ內金ヲ取戾ス事ヲ得ス
(村田)
「約束」ハ「合意」デスカ
(南部)
「合意」デス
(箕作)
前金ト内金トハドウ違ヒマス
(南部)
前金卽チ内金デス
(村田)
起按者ニ質問中トアル
(栗塚)
之ハ質問中デ未ダ返事ガ參リマセン、佛蘭西流義ニシ度イト云フ論デ御座イマシタ
(南部)
ソレハ二項ダロウ
(松岡)
一項モ可笑シイ
(南部)
二項ノ「然レトモ」ハ前ニ矛盾スル樣ニ見ヘル
(箕作)
成程二項ハ可笑シイ
(松岡)
一項ノ但書ハ
(南部)
「仕事完成ノ後チニ然サレハ實行セラレサルトキト雖モ」デス
(元尾崎)
之ハ請負人ニ勘辨ヲ與ヘタノダロウ
(栗塚)
注文者ハ既成ノ代金ヲ超ユル部分ニ非ザレバ取戻ス事ハ出來ヌ殘ラズ取戻シテ宜イデハナイカ可哀ソウト云フ論デス取戻スハ可哀ソウト云フノガ主眼ナノデス
(元尾崎)
起按者ハ恩惠ノ積リカドウカバカラヌ
(栗塚)
註ニ可哀ソウダト云フテアリマス、ソレナラ金ヲ拂ハズシテ燒ケタトキハドウスルカ
(箕作)
此前質問スル事ニナツテ居ルカラ尙ホ聞クガ宜シイ
(栗塚)
答ヘガアリマシタ、金ヲ拂ツテアレバ危險ヲ分擔スルノデアルト云フテアリマス然レドモ滅失ノトキハ滅失ノ危險ハ分擔シテ居ルノダ
(箕作)
職工ガ前金ヤ内金ヲ要サナカツタトキハ請負人ノ方デ危險ヲ分擔スルト云フノダ、内金前金ヲ受取レバ自分ガ損ヲシテハ叶ハヌ不可抗力ノアツタトキ損失ヲ受ケナイモノト推測スル
(栗塚)
說明シバ付ク樣デ御座イマス
(箕作)
明白ナル受取ト云フハ本當ノ受取デスネ
(栗塚)
大工ガ建前ヲシタトキ幾ラカ金ヲヤツタソレ丈ケヲ受取ツタ看做スカ其レハ看做サヌ、其跡デ受取ツタト云フ事ヲ云ツタトキデナケレバイカヌ、併シ受取ル前ニ無クナツタトキハヤツタ金ハ取戻スコトガ出來ルカト云フト出來ヌ
(箕作)
幾ラカ看做スコトニナルノデス
(栗塚)
拂ツテナイト看做サヌデス、金ヲ拂ツテアルト受取ツタト看做ス、拂ツテナイト看做サヌト云フノデ可笑シイカラ問フテヤリマシタガ、今ノ危險ヲ負擔スルト云フ答ヘガ來マシタカラ
(箕作)
職工ガ受取ラヌ金ヲ以テ下タ働キ人ニ拂ツテアル其時ニ返ヘスノハ大變ダ併シ前ノ分擔ト云フ理由デ充分トシテアル
(南部)
「注文者ヨリ材料ヲ供シタルトキハ仕事完成ノ後ニ非サレハ其引渡ヲ實行セサル可キトキト雖モ一分ニ付キ仕事ヲ調査シ且之ヲ受取ルヲ合意スル事ヲ得」ト云タ方ガ良カロウ
(箕作)
「場合ニ於テ仕事完成ノ後ニ非サレハ」ト云ハヌト良クナイ
(栗塚)
「一分宛」トシタラ良カロウ
(淸岡)
「一分宛」ガ良カロウ
(栗塚)
屋根ガ出來レバ屋根丈ケノ金ヲヤル、根太板ヲ張レバ根太板丈ゲヤルト云フノデスカラ一分宛デ宜シウ御座イマシヨウ
(委員長)
修正スルカ
本條第一項ハ左ノ如ク改ム
註文者ヨリ材料ヲ供シタル場合ニ於テ仕事完成ノ後ニ非サレハ其引渡ヲ實行セサル可キトキト雖モ一分宛仕事ヲ調査シ且之ヲ受取ルヲ合意スルコトヲ得此場合ニ於テ(以下原按ノ通リ)
第九百八十四條朗讀ス
第九百八十四條 注文者カ異議ヲ留メスシテ工作物ヲ受取リタルモ後日其物ノ使用ニ不適當ナル隱潛ノ瑕疵ヲ發見スルトキハ注文者ハ其受取ヲ取消シテ代價ノ減殺又ハ其一分ノ返還ヲ請求スルノ權利ヲ失ハス
此權利ニ基キタル訴權ハ注文者ニ屬スル動產又ハ不動產ノ上ニ施シタル仕事ニ付テハ全部ノ工作物ヲ受取リタル後ノ三ケ月ニテ消滅ス
職工ヨリ材料ヲ供シタル製作物ニ付テハ第七百四十六條ノ規定ヲ適用ス
(栗塚)
「受取」ハ「受諾」トナリマス
(箕作)
詰リ受取ノ事ダカラ「受取」デ良カロウ
(栗塚)
「受取」デモ宜シウ御座イマス
本條ハ「隱潛ノ」ヲ「隱レタル」ト改ム
第九百八十五條朗讀ス
第九百八十五條 建物、牆壁其他地上ニ於ケル大ナル工作物ヲ請負ニテ築造シタルトキハ請負人ハ築造ノ瑕疵又ハ地盤ノ瑕疵ヨリ生シタル其工作物ノ全部若クハ一分ノ滅失又ハ重大ナル損壞ノ責ニ任ス但請負人カ他人ノ土地ニ築造シタルト自己ノ土地ニ築造シタルト材料ヲ供シタルト材料ヲ供セサリシトヲ區別セス
右責任ハ左ノ期間ノ滿了ニ因リテ消滅ス
第一 牆壁其他木、石又ハ瓦ヲ從トシテ用ヒタル工作ニ付テハ其受取後二ケ年
第二 木造ノ建物ニ付テハ五ケ年
第三 石又ハ煉瓦ノ建物及ヒ土藏ニ付テハ十ケ年
(松岡)
「大工作物」ハ「大ナル工作物」トスルガ宜シイ
(栗塚)
「材料ヲ供シタルト之ヲ供セサルトヲ」ト致シマス
(松岡)
「供シタルト否トヲ問ハス」デ良カロウ
(栗塚)
其方ガ宜シイ
(松岡)
「大ナル作物」トスルカ
(淸岡)
箱ヲ作ツタノヲ大キイトハ云ハヌ「築造」ト云ヘバ分ル
(元尾崎)
「大ナル」デ宜シイ
(栗塚)
「右責任ハ左ノ期間ノ」ト云フノヲ改メテ「右責任ハ左ノ時期間經續ス」ト致シマス
(松岡)
同ジ事ダ
(南部)
後ノ事項ト區別ヲスル爲メダカラ
(委員長)
木造ヲ五ケ年ト云フト、五ケ年經テバ自然ニ毀ハセルダロウ
(松岡)
今ノ大工ニ此樣ナ事ヲ云ヘバ「旦那樣御斷リデ御座イマス」ト云フダロウ
(栗塚)
第一ノ「工作」ハ「土工」トシテハ如何デス之ハ家ナドデハアリマセン
(元尾崎)
「土工」ガ良カロウ
(栗塚)
石ヤ瓦ハ從テ土ガ主ダト云フノデ御座イマスカラ直シマシタ、第一ハ瓦ヤ石ヲ從トシテ土ガ主デアツタガ第二ハ「木材ヲ主トシテ用ヒタル建物ニ付テハ五ケ年」トシ度イノデ御座イマス
(箕作)
木造デモ良カロウ
(栗塚)
世間デ塗家ト云フノハ木造トハ申シマセン
(松岡)
塗家ハ土藏ダ
(栗塚)
尤モ東京丈ケデ塗家ト申シマス、塗家ト云フト土藏デハ御座イマセン
(大尾崎)
木造デ宜シイ
(箕作)
ドンナ家デモ日本家ニハ壁モアリ泥ガ付イテ居ル
(元尾崎)
ソレデハ直ソウ
(箕作)
ソウスルト之ハ「石又ハ煉瓦ヲ主トシテ用ヒタル」カ
(栗塚)
之ハ之デ宜シウ御座イマス
(松岡)
日本土木會社ナドハ良イケレドモ我々ノヤラセル大工ハ金ガナケレバ出來ナイ
(委員長)
五年ハ酷イ
(元尾崎)
三年五年デ宜シイ
(委員長)
木造ハ三年トシ樣
本條ハ左ノ如ク決ス第一項「大工作物」ハ「大ナル工作物」ト改メ「材料ヲ供シタルト材料ヲ供セサリシトヲ」ヲ「材料ヲ供シタルト否トヲ」ト改ム第二項ハ左ノ如ク改ム右責任ハ左ノ時期間經續ス第一號「工作」ヲ「土工」ト改ム第二號「木材ヲ主トシテ用ヒタル建物ニ付テハ三年」ト改ム
第九百八十六條朗讀ス
第九百八十六條 右ノ責任ニ基キタル賠償訴權ハ左ノ時期ヲ以テ時效ニ罹ル
第一 物ノ全部ノ滅失ノ場合ニ於テハ其滅失ノ時ヨリ一ケ年
第二 物ノ一分ノ滅失又ハ重大ノ損壞ノ場合ニ於テハ請負人ノ責ニ任ス可キ期間ノ滿了ノ時ヨリ六ケ月
(栗塚)
「損害」ハ「毀損」ノ間違ヒデ御座イマス
本條ハ「損害」ヲ「毀損」ト改ム
第九百八十七條朗讀ス
第九百八十七條 經書ノ變更ヨリ代金ノ增減ヲ生ス可キモ書面ヲ以テ之ヲ定メサルトキハ其變更ヲ口實トシテ請負人ハ原代金ノ增加ヲ請求シ注文者ハ其減少ヲ請求スル事ヲ得ス
全ク區分セル建築ヲ請負外ニ爲シ又ハ請負內ノ全ク區分セル建築ヲ廢セシトキハ此規定ヲ適用セス此場合ニ於テ當事者ノ間ニ一致ヲ得サルトキハ裁判所原代金ノ增減ヲ定ム
請負人ハ經畵又ハ其變更カ註文者ノ指圖ニ出テタル事ヲ口實トシテ第九百八十五條ニ定メタル責任ヲ免カルル事ヲ得ス但請負人カ書面ヲ以テ此責任ノ免除ヲ得タルトキハ此限ニ在ラス
(北畠)
「經畫」ハ面白イ字ダ
(松岡)
二項ハ「全ク區分スル原案」ト云フノハ
(南部)
請負外ニ區分スル事ヲ爲スト云フノダ
(栗塚)
家ヲ建一アルトキ廢ガ這入ツテ居ナカツタト云フノデス
(松岡)
意味ハ分ツテ居ル
(栗塚)
末項ハ「此責任ヲ免カルル事ヲ得タルトキハ此限ニ在ラス」トナリマス
(松岡)
請負中ニ含ンデアル建築ト全ク違ウ仕事ト書イテアル其レヲ全ク區分スルト云フノダガ其レデ分ルカ知ラヌ
(委員長)
前ノ方ガ良ク分ル
(松岡)
「請負中ニ包含シタル建築ト全ク別ナル建築ノ增加」
(栗塚)
增加ハ良クナイ「建築ヲ爲シ」ガ良イ
(村田)
「又ハ請負中ニ全ク別ナル建築ヲ廢シ又ハ請負中ニ別ナル」
(栗塚)
「請負中ニ包含シタル建築ト全ク別ナル建築ヲ爲シ又ハ請負中ニ區分アル建築ヲ廢セシトキハ」ト致シマス
(松岡)
「此場合ニ於テハ」以下ハ削リ度イ
(渡)
アツテモ宜シイ
本條ハ左ノ如ク決ス第二項左ノ如ク改ム請負中ニ包含シタル建築ト全ク別ナル建築ヲ爲シ又ハ請負中ノ區分アル建築ヲ廢セシトキハ此規定ヲ適用セス此場合ニ於テ當事者間ニ一致ヲ得サルトキハ裁判所原代金ノ增減ヲ定ム第三項「責任ノ免除ヲ」トアルヲ「責任ヲ免カルル事ヲ」ト改ム
第九百八十八條朗讀ス
第九百八十八條 請負人カ仕事ノミヲ供スルト材料ヲ併セ供スルトヲ問ハス註文者ハ常ニ自己ノ意思ノミヲ以テ契約ヲ解除スル事ヲ得然レトモ註文者ハ請負人ノ旣成ノ仕事ノ賃銀及ヒ準備ノ材料ニ受ケタル損失其他ノ損害ヲ賠償シ且其契約ニ因リテ得ヘキ正當ナル利益ノ全部ヲ辨濟スルノ義務ヲ負擔ス
本條ハ原案ニ決ス
第九百八十九條朗讀ス
第九百八十九條 他人ノ材料ヲ以テ仕事ノ全部ニ供シタルト一分ニ供シタルト又其仕事ヲ實行シタルト契約ヲ解除シタルトヲ問ハス請負人ハ仕事ノ爲メ又ハ解除ノ賠償ノ爲メ自己ノ受ク可キ金額ノ皆濟ニ至ルマテ其材料ヲ留置スル事ヲ得但此留置權ハ動產物ノミニ之ヲ適用ス
本條ハ原案ニ決ス
第九百九十條朗讀ス
第九百九十條 註文者カ請負人其者ノ仕事ヲ目的トシテ契約ヲ取結ヒタルトキハ其契約ハ請負人ノ死亡又ハ其仕事ノ不得爲ニ因リテ之ヲ解除スル事ヲ得
右二箇ノ場合ニ於テ註文者ハ自己ノ希望セシ目的ニ付キ利シタル仕事又ハ材料ノ代金ノミヲ請負人又ハ其相續人ニ辨濟スルノ責ニ任ス
(栗塚)
「不得爲」ハ「不能」トナリマス
(村田)
「目的」ハ初メニハ「主眼」トアツタガ「主眼」ノ方ガ宜シイ
(南部)
「主眼」ガ宜シイ
本條第一項「目的」ヲ「主眼」ト改メ「不得爲」ヲ「不能」ト改ム
第九百九十一條朗讀ス
第九百九十一條 仕事ノ一分ニ任シタル下請負人ト請負人トノ關係ニ付テハ上ノ規定ニ從フ
請負人カ下請負人ニ對シ負擔スル金額ヲ辨濟セサルトキハ下請負人ハ自己ノ名ヲ以テ直接ニ註文者ニ對シ其註文者ノ猶ホ請負人ニ辨濟ス可キ債務ノ限度ニ於テ訴ヲ起ス事ヲ得
職工モ亦己レヲ雇ヒタル請負人カ賃銀ヲ辨濟セサルトキハ註文者ニ對シ右ト同一ノ權利ヲ有ス
(栗塚)
末項ハ「職工モ亦己レヲ雇ヒタル又ハ下請負人」ト云ハナケレバナリマセン
(箕作)
「雇ヒタル者」デ良カロウ
(栗塚)
「者」デ宜シウ御座イマス
(村田)
第一項「上ノ」ハ「前記ノ」デ宜シイ
本條第一項「上ノ」ヲ「前記ノ」ト改メ末項「請負人カ」ヲ「者カ」ト改ム
于時午後第三時十五分閉會