旧民法・法例(明治23年)

法律取調委員会 民法草案再調査案議事筆記 第20回

参考原資料

備考

  • 未校正のテキストデータです.
民法財產取得篇再調査按第二十回議事筆記
自第八百二十五條至第九百十二條
第八百二十五條朗讀ス
第三款 終身年金權ノ消滅
第八百二十五條 有償名義ノ終身年金權ノ債務者ガ年金支拂ノ爲メ約束シタル擔保ヲ供セス又ハ供シタル擔保ヲ減少スルトキハ債權者ハ契約ノ解除ヲ請求シ且旣ニ支拂時期ノ至リタル年金ヲ取得スルノ權利ヲ有ス
生贈又ハ遺贈ノ元本ノ上ニ留存シタル終身年金權ノ債權者モ亦右ト同一ノ權利ヲ有ス
右ノ解除ハ年金權ノ設定ノ爲メ終身ヲ期セラレタル人ガ確定判決前ニ死亡シタルトキハ之ヲ宣吿セス
(栗塚)
「約束」ヲ「諾約」ト致シマス「擔保ヲ供セス又ハ供シタル擔保ヲ減少スルトキハ債權者ハ契約ノ解除ヲ請求スル事ヲ得但既ニ取得シタル年金ノ何等ノ部分ヲモ返還スルノ責ナシ」ト致シマス
(松岡)
責ニ任ゼズデ良カロウ
(箕作)
「責ナシ」デ宜シイ再調査ハドウ云フ積リデシヨウ
(栗塚)
甚ダシキ誤解ノ樣デス
(村田)
併シ裏カラ云フト同ジ事ユナル
(栗塚)
返スニ及バナイト云フノハ取ル事ガ出來ルト云フノトノ違ヒデス
(箕作)
再調査ノ方ガ良クハナイカ支拂期限ニナツタ年金ハ現ニ受取テ居ランデモ取ル權利ヲ有スルト云フノダカラ
(元尾崎)
再調査ガ宜シイ
(栗塚)
既ニ支拂時期ノ至ツタテノハ取ツタモノデ取ツタモノハ返スニ及バント云フノデ御座イマス修正ガ宜シウ御座イマシヨウ
(松岡)
取ツタモノヲ返スニ及バナイ
(栗塚)
取得スル權利ヲ有スルト云フ事ハ云ハン方ガ宜シイ取得シタモノハ返スニ及バン
(松岡)
未ダ受取ラナケレバ取レナイト云フ樣ナ疑ガ起ルカラ再調査ガ宜シイ
(栗塚)
解除ヲ請求シタレバ物ヲ返サナケレバナランカト云フト返スニ及バン
(槇村)
前ノ旨意ハ取ランノモ時期ガ至ツテ居レバ呉レロト云フ事ニナル
(栗塚)
呉レドコロデハナイ今迄取ツテ居タモノハ吐キ出サナケレバナラヌカト云フニ吐キ出スニ及バン
(南部)
返還スルノ責ナシガ宜シイ既ニ取ツテ居ルノダカラ解除ヲ請求スレバ返スノガ當リ前ナノヲ甲返サント云フ
(箕作)
原語ノ返スニ及バント云フノハ日本ノ返スニ及バント云フノト違ヒハセンカ受取ラン物ヲ返スニ及バント云フノハ日本語デハ惡ルクハナイカ
(南部)
取得スルト云フト是レカラ取ルノヲ返スト云フノデ語弊ガアリマス
(栗塚)
解除條件デ元トノ有樣ニ戻ルト云フケレドモ權利ガアレバ返スニ及バント云フノデ御座イマス
(淸岡)
時期ガ來ツテ居ルカラ解除シテモ其レ丈ケノモノハ取レルト云フノダロウ
(栗塚)
五年前カラ年金ヲ設定シテ解除シタラナイモノト看做スゾヨ併シ五年間ノモノハ拂ハナケレバナラン
(松岡)
取ランモノニ返スト云フ事ハ出來ナイ
(栗塚)
支拂時期ガ來テ居レバ權利上ノ話デ品物ノ話デハナイ
(渡)
修正シタ方ガ宜シイ
(松岡)
ドウモ言葉ガ惡ルイ
(栗塚)
「若クハ取得シタル年金ノ何等ノ部分ヲモ」トシタラ宜シウ御座イマシヨウ
(南部)
註ニ取得シタルトアルカラ「取得スルノ權利ヲ有ス」デハ良クナイ
(松岡)
末ノ方ヲ押ヘレバ前ノ方ハ云ハンデモ宜シイ
(栗塚)
取ツテ居ル居ランデハナイ
(南部)
解除ト云フ字ガ上ニアル下ニ取得シタルト云フ字ハ云ヘナイ
(渡)
至リタルト云フ字ハ少シ耳觸リダ經過シタルトハ云ヘンカ
(淸岡)
次ギノ時期ニ至ルノハ假令バ當月ノ三十日ト云フ時期ガ既ニ至ツタトキソレヲ去年ノ十二月ノ事ヲ云フニ時期ノ至ルト云フ事ハナイ
(栗塚)
「權利ノ生シタル年金ノ何等ノ部分ヲモ返還スルノ責ナシ」ト云フノモ同ジデス
(淸岡)
勘定濟ニナツテ居ルノヲ既ニ支拂時期ノ至ルト云フ事ハ出來ナイ
(渡)
至ルト云フト其時ノ分バカリノ樣ニ聞エルガ支拂ノ濟ミタルト云フ事ダ
(元尾崎)
濟ミタルトハ云ヘナイ或ハ濟ンデ居ランカ知レン
(栗塚)
「又ハ取得シタル」ニテハ如何デス
(松岡)
末ヲ押ヘテ置ケバ前ノ方ハ裏カラ分ル
(栗塚)
解除ト云フモノハ三年經テモ四年經テモ元トノ默阿彌ニナルカラ今迄取ツテ置イタ物ヲ返ヘサナケレバナラン
(渡)
期限ノ至ランモノハ未ダ要求シナイ
(松岡)
本當ノ意味ハ解除ト云ヘバ舊物ヲ復舊スルノダ
(栗塚)
「又年金ノ何等ノ」トシテハ如何デス
(淸岡)
元トノ通リデ宜シイ
(南部)
取得スル權利トハ云ヘン取得シタルノダ
(大尾崎)
元トヨリ受取ツタ物ハ戻サナケレバナラン
(箕作)
既ニ受取ツタ年金ハ返スニ及バン既ニ支拂時期ノ至ツタモノハ取レルト云フノダカラ
(槇村)
修正ノ通リニスレバ今年ノ十二月迄ノ分ハドウシマスカ
(栗塚)
權利ハ生ジテ居マスカ
(槇村)
生ジテ居マス
(粟塚)
ソレナラバ返スニ及バント云フノデス
(西)
「取得スル權利ヲ失ハス」トシテハドウデス
(松岡)
再調査ノ通リガ一番宜シイ
(栗塚)
「既ニ取得シタル年金ノ何等ノ部分ヲモ返還スルノ責ナシ」デハ如何デ御座イマス
(箕作)
ソレデ宜シイ
(元尾崎)
ソウスルト期限ガ來ツテ居ツテモ現ニ受取ツテ居ランモノハ取ル事ハ出來ントナルドウシテモ時期ノ至ルト云フ事ガ必要ダ
(南部)
取得ト云フノハ金バカリデハナイ
(渡)
既ニ支拂時期ノ至ル前取得シタルトシヨウ
(箕作)
「既ニ取得シタル」ガ宜シイ
(栗塚)
「既ニ取得シタル」ト致シマス
(松岡)
二項ハ
(南部)
元本ヲ向ウヘ遣ツテ自分ガ年金ヲ持ツテ居ルノダ
(栗塚)
貴君ガ私ニ物ヲ下スツテ私ガ擔保ヲ爲シ私ガ年々年金權ヲ拂ヒマシヨウト云フノデス
本條第一項左ノ如ク改ム有償名義ノ終身年金權ノ債務者カ年金支拂ノ爲メ諾約シタル擔保ヲ供セス又ハ供シタル擔保ヲ減少スルトキハ債權者ハ契約ノ解除ヲ請求スル事ヲ得但既ニ取得シタル年金ノ部分ヲモ返遽スルノ責ナシ第二項「生贈」ヲ「贈與」ト改ム
第八百二十六條朗讀ス
第八百二十六條 普通法ニ於テ許シタル銷除及ヒ廢罷ノ原因ハ終身年金權ニ之ヲ適用ス
終身年金權ハ此他尙ホ更改、免除、混同、時効及ヒ要約シタル贖回ニ因リテ消滅ス
然レトモ終身年金權ガ第八百十九條及ヒ第八百二十條ニ從ヒテ法律又ハ契約ニ依リテ不可讓及ヒ不可押ノモノナルトキハ其年金權ハ時効ニ罹ラス
如何ナル場合ニ於テモ年金ハ支拂時期ノ五ケ年ニシテ時効ニ罹ル
(栗塚)
免除ノ上ニ「合意上ノ」ト入レマス「贖回」ハ「買戻」トナリマス第二項ノ「不可讓」及ビ「不可押」ハ「讓渡ス事ヲ得ス且差押フル事ヲ得サル」ト致シマス之ハ此處デ御議定ニナリマシタカラ修正致シマシタ
(渡)
「普通法ニ許シタル」ト云フ字ハ無ケレバナリマセンカ
(松岡)
契約篇トカ何トカ云フノダカラ入用ハナイ
(元尾崎)
「契約法ニ於テ」トスレバ宜シイ
(栗塚)
普通法ト書イタラ民法ト云フ意味ダト思ヘバ宜シウ御座イマシヨウ
(渡)
民法ニ云フ銷除廢罷ハ民法ニ適用スルト云フ事ニナル
(村田)
二百九十四條ニモ普通法ト云フ事ガアル
(松岡)
支拂時期ノ五ケ年ト云フノハ變ダロウト思フ「支拂時期ノ後」ト元ハナツテ居ル
(栗塚)
支拂時期後トヤリマシヨウ
(槇村)
滿期後トアル
(元尾崎)
支拂時期後デ宜シイ
(北畠)
滿期ノ方ガ良カロウ
(栗塚)
支拂時期ノ至リタル上五年ト云フノデ御座イマスカラ滿期後ト云フト至リタルト云フ事ヲ云ハズシテ濟ミマスカラ滿期後デ宜シイ
(箕作)
商法デハ皆「滿期日」トヤリマシタ
(元尾崎)
假令バ十年ト云フ年期ヲ定メル十年經テバ滿期ト見ハセヌソレダカラ「支拂時期後」ガ宜シイ
(松岡)
成ル可ク商法ト同ジニスルガ宜シイ
(南部)
「支拂時期後」トスレバ宜シイ
(栗塚)
之ハ後ニ文字ヲ一定スル者ニ委ネテハ如何デス
(淸岡)
時期ノ後ガ宜シイ
(栗塚)
何ニシロ後ト云フ字ハ入レル事ニシマシヨウ
(松岡)
元ト議定シテアツタ商法ガ皆ソウナツテ居ルカラ「滿期」ガ宜シイ
(栗塚)
支拂時期デ宜シウ御座イマシヨウ
(渡)
ソレデ宜シイ
(槇村)
多數デ決シマシヨウ
(松岡)
滿期後
(村田)
時期後
(槇村)
支拂時期後
(箕作)
滿期後
(大尾崎)
時期後
(西)
時期後
(槇村)
時期後ガ多數
本條第二項免除ノ上ニ「合意上ノ」ノ四字ヲ加ヘ「贖回」ヲ「買戻」ト改ム第三項「不可讓及ヒ不可押ノ」ヲ「讓渡ス事ヲ得ス且ツ差押フル事ヲ得サル」ト改ム第四項一「時期ノ」ヲ「時期後」ト改ム
第八百二十七條朗讀ス
第八百二十七條 終身年金權ハ其設定ノ爲メ終身ヲ期セラレタル人ノ死亡ニ因リテ消滅ス但第八百十八條ノ規定ヲ妨ケス
然レトモ終身ヲ期セラレタル人カ債務者ノ責ニ歸ス可キ不正ノ原因ニ由リテ死亡シタル場合ニ於テ其年金權ヲ有償名義ニテ又ハ贈與若クハ遺贈ノ負擔トシテ設定シタリシトキハ其契約又ハ惠與ハ之ヲ解除ス
且債務者ハ旣ニ支拂ヒタル年金ヲ取戾サスシテ其取得シタル財產ヲ返還ス
右ト同一ノ死亡ノ場合ニ於テ其年金權ヲ直接ニ生贈シ又ハ遺贈シタリシトキハ年金ノ支拂ハ裁判所カ終身ヲ期セラレタル人ノ生命ノ繼續期ト推測スル期間之ヲ繼續セシム
(箕作)
第二項ノ「取戻サスシテ」トスルハ「取戻ス事ヲ得スシテ」ト云フノデス
(栗塚)
ソウデス
(元尾崎)
二項三項ト違ハン樣ダ
(南部)
三項ハ贈與二項ハ負擔トシテ設定シタノダカラ大變違ウ
(栗塚)
原文ハ二項ノ「然レトモ終身ヲ期セラレタル人カ」トナツテ居リマス
(元尾崎)
遺贈ノ場合デハ相續人ガ拂ウノダロウ
本條ハ「生贈」ヲ「贈與」ト改ム
第八百二十八條ヨリ第八百七十二條マデ(第三節陸上保險)ハ商法ニ讓ルニ付略ス
第八百七十三條朗讀ス
第十七章 消耗貸借及ヒ無期年金權
第一節 消耗貸借
第八百七十三條 消耗貸借ハ當事者ノ一方カ代替物ノ所有權ヲ他ノ一方ニ移轉シ他ノ一方ヲ或ル時間後ニ同數量及ヒ同品質ノ物ヲ返還スル義務ヲ負擔スルノ契約ナリ
(栗塚)
第十七章ハ八章トナリマス
(箕作)
「消耗貸借」ハ商法デハ「消費貸借」トヤリハセンカ
(栗塚)
其方ガ宜シウ御座イマシヨウ
(箕作)
商法ト一定スルガ宜シイ
(松岡)
會計法デハ皆此字ヲ使ツテ居ルダロウ
(村田)
「消費貸借」ニシヨウ
(南部)
本當ハ「耗」ノ字ガ良イ
(淸岡)
其方ガ宜シイ
(松岡)
商法デハ民法ノ規則ヲ用ヒナケレバナランカ
(南部)
商法ヲ「消耗」ト直ソウ
(大尾崎)
「消費」ガ宜シイ
(元尾崎)
「消費」ガ宜シイ
(箕作)
之ヲ消耗スルナラ商法ノ方ヲ直シマシヨウ
(渡)
消費ガ宜シイ
(松岡)
消耗ガ宜シイ
(箕作)
多數ダカラ「消費」ト致シマシヨウ表題ノ「消耗貸借」ヲ「消費貸借」ト改ム
本條「消耗貸借」ヲ「消費貸借」ト改ム
第八百七十四條朗讀ス
第八百七十四條 當事者ガ返還ノ時期ヲ定メサリシトキハ裁判所ハ當事者ノ意思ヲ推測シ且事情ヲ斟酌シテ之ヲ定ム
又返還ノ場所ヲ定メサリシトキハ無利息ノ貸借ニ付テハ貸主ノ住所有利息ノ貸借ニ付テハ借主ノ住所ニ於テ其返還ヲ爲ス
(栗塚)
「有利息」ハ「利息付」ト致シマス
(箕作)
「貸主ノ住所又利息付ノ」トシテ「又」ノ字ヲ入レテハドウデス
(栗塚)
入レタ方ガ宜シウ御座イマシヨウ
(渡)
ソンナラ上ノ又ヲ削ルガ宜シイ
(箕作)
ソレデ宜シイ
本條第二項冒頭ノ「又」ヲ削リ「住所有利息ノ」ヲ「住所又利息付ノ」ト改ム
第八百七十五條朗讀ス
第八百七十五條 借用物ノ返還ガ意外ノ事又ハ不可抗ノ力ニ因リテ不可爲ト爲リタルトキハ借主ハ貸借ヲ爲シタル時日及ヒ場所ノ相場ニ從ヒテ算定シタル其物ノ價額ヲ負擔ス
(栗塚)
「不可爲」ハ「不能」ト致シマス
(箕作)
「意外ノ事又ハ不可抗力ニ因リ借用物ヲ返還スル事能ハサルトキハ」デ宜シイ
本條ハ左ノ如ク改ム
意外ノ事又ハ不可抗力ニ因リ借用物ヲ返還スル事能ハサルトキハ云々以下原文ノ通リ
第八百七十六條朗讀ス
第八百七十六條 貸主ニ屬セサル物ノ貸借ハ無効ナリ其貸借ガ有利息ニシテ且借主カ善意ナリシトキハ貸主ハ借主ニ對シテ擔保ノ責ニ任ス
然レトモ此貸借ハ左ノ場合ニ於テハ有効ナリ
第一 借主カ善意ニテ借用物ヲ消耗シタルトキ
第二 借主カ時効ニ因リ眞所有者ノ回復ノ請求ヲ排却シタルトキ
第三 眞所有者カ貸借ヲ認諾シタルトキ
(村田)
「排却」ハ「抗辯」ダロウ
(栗塚)
之ハ「抗辯」デハアリマセン
本條ハ原按ニ決ス
第八百七十七條朗讀ス
第八百七十七條 貸借物ニ借主ノ了知セスシテ貸主ノ了知シタル隱濳ノ瑕疵アリテ其瑕疵ガ身體又ハ財產ニ損害ヲ加フ可キ性質ニシテ且實際借主ニ損害ヲ加ヘタルトキハ貸主ハ無利息ノ貸借ニ付テハ自己ニ詭譎アリ又ハ加害ノ意思アリタルニ非サレハ其損害ノ責ニ任セス
其貸借カ有利息ナルトキハ貸主ノ了知セサリシ隱濳ノ瑕疵ト雖モ之ヲ了知スル事ヲ得ベキトキハ其責ニ任ス
此他賣買廢却訴權ニ關スル第七百四十一條乃至第七百四十八條ノ規定ハ之ヲ消耗貸借ニ適用スル事ヲ得
(粟塚)
「隱濳ノ」ヲ「隱レタル」ト致シマス併シ此處ハ隱濳ノ方ガ都合ガ宜シイノデ御座イマス
(松岡)
「不表見」トシヨウデハナイカ
(箕作)
「不表見」トシナクモ宜シイ
(村田)
七百四十一條ニ不表見トアル
(南部)
彼レハ直サナケレバナラン
(松岡)
「隱レタル」ト云フ事ダロウ
(南部)
「不表見」デ良カロウ
(松岡)
題號ニ出シタ字ト中ノ字ト二ツアツテハ可笑シイ
(槇村)
「隱レタル」デ宜シイ
(大尾崎)
「隱レタル」宜シイ
本條ハ「隱濳ノ」ヲ「隱レタル」ト改メ「詭譎」ヲ「詐欺」ト改メ「有利息」ヲ「利息付」ト改ム
第八百七十八條朗讀ス
第八百七十八條 第四百八十四條乃至第四百八十七條ハ正貨又ハ強制通用ノ紙幣ニテ爲シタル消耗貸借ニ之ヲ適用ス
然レトモ貸主カ第四百八十六條ノ許セル金貨若クハ銀貨ヲ以テ指定シタル價額ノ辨濟ヲ受ケ又ハ是等ノ正貨ノ一ヲ以テ辨濟ヲ受クル事ヲ要約スルニハ同性質ノ正貨又ハ他正貨若クハ紙幣ヲ以テ對當ノ價額ヲ實際ニ貸付スル事ヲ要ス
(元尾崎)
四百四十八條ハ何ダロウ
(村田)
強制通用ノ處ダ
本條ハ原按ニ決ス
第八百七十九條朗讀ス
第八百七十九條 貸借ヲ金銀塊ニテ爲シタルトキハ借主ハ他ノ商品ノ貸借ノ如ク同一ノ性質、重量及ヒ品格ノ金銀塊ヲ返還スル事ヲ要ス
本條ハ原按ニ決ス
第八百八十條朗讀ス
第八百八十條 金錢、日用品又ハ商品ノ借主ハ使用ノ報酬トシテ元本ノ外ニ利息ノ名目ヲ以テ借用物ノ割合ニ應スル金額又ハ有價物ノ辨濟ヲ約束スル事ヲ得
(南部)
此議按ノ上ニ出シテアルノハ使用貸借ヲ消費貸借ト一所ニシヨウト云フノデ御座イマスガ既ニ此間論ガ立チマセンカラ是デ宜シウ御座イマシヨウ
本條ハ原按ニ決ス
第八百八十一條朗讀ス
第八百八十一條 利息ハ要約シタルニ非サレハ借主ニ對シテ之ヲ要求スル事ヲ得ス借主ヨリ利息ヲ辨濟ス可キノ契約アリテ其額ノ定メ無キトキハ其利息ハ法律ノ制限ニ從フ
諾約セサル利息ヲ法律ノ制限內ニテ任意ニ辨濟シタル借主ハ之ヲ取戾シ又ハ之ヲ元本ノ辨濟ニ充當スル事ヲ得ス
(栗塚)
第三項「諾約セサル」ハ「要約セラレサル」デ御座イマス向ウカラ呉レロト云ハナカツタ利息ヲ拂ツタナレバト云フノデ御座イマスカラ
(元尾崎)
ソレハ「諾約セサル」デ宜シイ
(松岡)
二項ハ「法律上ノ」ト云フガ良カロウ下ノ方ニハ「合意上ノ利息」トアルカラ
(栗塚)
法律ノ制限デ御座イマス
(松岡)
百分ノ六ノトソレカラ幾ラヨリスル事ハナラント云フ制限ヲ立テタノト二ツアルカラ
(栗塚)
二ツヲ含ンダノデ御座イマス
(松岡)
之ハ二ツヲ含ンダト云ハレナイカラ「法律上ノ割合」トスルガ宜シイ
(栗塚)
ソレハ一項ハ「法律上ノ割合」ト致シマス二項ハ「要約セラレサル」デ宜シウ御座イマシヨウ
(槇村)
ソノ方ガ宜シイ
本條第二項「契約」ヲ「合意」ト改メ「法律ノ制限ニ從フ」ヲ「法律上ノ割合ニ從フ」ト改ム第三項「諾約セサル」ヲ「要約セラレサル」ト改ム
第八百八十二條朗讀ス
第八百八十二條 契約上ノ利息ハ法律ヲ以テ特ニ制禁スル場合ノ外ハ法律ノ制限ヲ超ユル事ヲ得
法律ノ制限ヲ超エテ顯然ニ利息ヲ定メタルトキハ之ヲ法律ノ制限ニ滅却シ此制限ヲ超エテ爲シタル辨濟ハ之ヲ元本ノ辨濟ニ充當シ又ハ之ヲ取戾ス事ヲ得
債權者カ實際ニ貸付シタル元本ヲ超ユル元本ノ認定其他ノ方法ヲ以テ不正ノ利息ノ全部又ハ一分ヲ隱蔽シタルトキハ債務者ハ其不正ノ利息ノ何等ノ部分ヲモ辨濟スル事ヲ要セス若シ之ヲ辨濟シタルトキハ其全部ヲ取戾ス事ヲ得
(栗塚)
「認定」ハ「追認」トナリマス
(村田)
法律ノ制限ヲ超ユル事ガ出來ルト云フノハ可笑シイ
(大尾崎)
法律ノ制限スル場合ノ外制限ヲ超ヘテモ宜シイト云フテ次ギニ超ヘテハ惡ルイトナツテ居ルノハ可笑シイ
(渡)
元トノガ宜シイ
(栗塚)
此通リニ起按者ガ改メテ參ツタノデアリマス
(松岡)
云ヒ詰メレバ同ジ事ニナル
(栗塚)
日本ノ法律上ハ六朱ダ併シ一割ヨリ餘計デナケレバ六朱ヲ超ユル事ガ出來ルト云フノデ御座イマス
(元尾崎)
合意上ノ利息ハ法律上ノ利息ヲ超ユル事ヲ得ト書バ宜シイ
(松岡)
法律上ノ割合法律上ノ利子ハ百分ノ六、合意上ノ利子ハ勝手デ宜シイ併シ合意上デモ是レカラ上ニハ出來ナイト云フ制限ヲ立テル事モアルト云フノダロウ
(南部)
一項ト二項ガ同ジ字ニナツテ居ルカラ分ラン
(松岡)
「合意上ノ利子ハ法律上ノ制限ヲ超ユル事ヲ得ス」トスレバ宜シイ
(栗塚)
但法律ガ特ニ之ヲ禁ズル場合ハ此限ニ在ラズ
(淸岡)
法律ノ制限ヲ超ユルト云フ字ニ弊ガ御座イマス
(栗塚)
法律上ノ利息ヨリ高ク出來ルゾヨト云フノデ御座イマス
(松岡)
前條デ制限ト云フノガ惡ルイ
(箕作)
原書ニハ「割合」ト書イテアル
(栗塚)
合意上ノ利息ハ法律上ノ利息ヲ超ユル事ヲ得ズトナツテ仕舞ウソレデ合意上ノ利息ハ法律ノ利息ヲ超ユル事ガ出來ル但法律デ特ニ制限シタルトキハ此限ニ在ラズトスルノデス
(箕作)
別段ニ合意ノナイトキニ法律ノ定メタ割合ニ定メル事ガ出來ルト云フノデスカ之ハ文ガ惡ルイカラ直シテ貰ヒマシヨウ
(栗塚)
二項ハ法律ガ許シタヨリモ餘計ノ高ニ利息ヲ定メタナラバ法律ノ割合ニ減却スルトアリマス
(淸岡)
「割合」ト直シタノガ惡ルイ割合ト云フノハ百圓ニ付イテ何圓ト云フノダカラ
(栗塚)
其割合ト云フモノハ六朱法律ノ利息ハ一割二分迄行ケルト云フノデス
(大尾崎)
之ハ修正シテ下サイ
(栗塚)
制限ト云フ字ガ惡ルイノデス
(松岡)
割合ト云フ字ガ惡ルケレバ「法律上ノ額ニ從」ト云ツテモ宜シイ
(栗塚)
ソウデス
(村田)
ソウスルト八百八十一條ト共ニ直シテ貰オウ
(松岡)
二項ハ「充當スル事ヲ得」迄ニシテ「又ハ」以下ヲ削ロウ元本ト利息モ出シテ日ヲ經テ利息ヲヤリ過ギタカラ取戻スト云フノハ良クナイ
(栗塚)
ソコデ元本ノ辨濟ニ充當スルガ至極宜シウ御座イマシヨウ併シ元本ヲ拂ツタ上ニ利息ヲ拂ヘバ拂ヒ損デスカ
(松岡)
勿論
(栗塚)
充當シ樣ガナイ
(松岡)
元金ヲ拂ツテ利子ヲ拂ツテ居ナイトキデスカ
(栗塚)
ソウデス
(松岡)
勘定ガ殘ツテ居ルトキハ元利ノ内ヘ勘定シテヤラナケレバナランケレドモ元金ハ元金利子ハ利子トシテヤツテ置イテ日ガ過ギテカラ彼レハ餘計ダカラト云テ取戻スノハ酷イ
(南部)
法律ニ制限ヲ立ル以上ハ取戻ス事ガ出來ルトシナケレバ制限法ガ行ハレナイ
(元尾崎)
松岡サンノ說ガ宜シイ拂ツタノヲ取戻スノハ良クナイ
(大尾崎)
制限ヲ立テル以上ハ仕方ガナイ私抔モ初ハ松岡サンノ樣ナ論ガアツタガ仕方ガナイ
(北畠)
商人仲間デ四厘日歩トカ五厘日歩トカ云フノハ何ウスル
(南部)
ソレハ商法デ支配スル之ヲ止メレバ制限法ヲ止メレバ宜シイ
(元尾崎)
何時マデモ取戻ス事ガ出來ルカ
(槇村)
時効ヲ定メルガ宜シイ之ハ起按者ニ問フテ後ニ定メル事ニナツテ居ル
(元尾崎)
何モ個モ濟ンデ仕舞ツテ取戻スト云フノハ酷イ
(松岡)
餘リ窮屈デ配法ニナツテ來ル
(南部)
制限ハ高利貸ノ征罰ニ出テ來タソレガ惡ルケレバ別ダ
(南部)
改メテ質問スルカ質問セヌカヲ決シヨウ
(松岡)
聞クガ宜シイ
(元尾崎)
關係ノアル間ヲ云フノデ五年モ十年モ經ツテ後ヲ云フノデナイソレナラ聞イテ見ヨウト云フ事ニナツテ居ル
(南部)
ソレナラ聞カズトモ宜シイ
(箕作)
取戻ス事ヲ得トシテ十年トカ七年トカ時効ヲ定メル事ハ出來マセンカ何ントモ云ハナケレバ三十年行クノダカラ其レデ時効ヲ定メタラ良カロウ
(南部)
時効ハ決シテ入ラナイソレ程廣イモノヲ取戻スト云フ事ハナイ
(元尾崎)
併シ行ツテ來レバヤラナケレバナラン
(栗塚)
取戻サセント云フ理窟ニ重ミヲ添ヘル事ハ出來マセン
(淸岡)
任意上デ宜シウ御座イマスト云ツテ取引ヲシテ二三年モ經ツテ口惜シクナツタカラ取戻スト云フ樣デハ困ル
(栗塚)
何ンニ基イテ取リマス
(松岡)
任意ダカラ
(栗塚)
ソレナラ何故ニ制限ヲ致シマシタカ
(松岡)
拂ヘト云フ強迫ハ出來ンケレドモ任意デ拂ツタ以上ハ取戻スニハ及バン
(元尾崎)
博奕デモ取戻ス事ハ出來ンデハナイカ
(南部)
賭博トハ違ウ賭博ハ原因ガナイ此利息ハ立派ナモノダケレドモ高利貸ヲスル處カラ制限シタト云フ違ヒガアル
(北畠)
我輩モ元尾崎君ト同論
(元尾崎)
苟クモ經濟ヲ心得テ居ル人ハ同意スベキ筈ダ
(松岡)
議論上カラ單純ニ行ケバ貴君方ノ云フノデ宜シイ
(栗塚)
私モ少シ議論ニ(缺字)レ過ギルト思フガ之ヲ毀ハス理窟ガナイ
(淸岡)
前ニ未ダ勘定ガ殘ツテ居ル内ナレバ前後ヲ通算シテ相當ノ利息ニ引直セバ元利トモ皆濟ンダ以上ハ後ニ其事ヲ思ヒ出シテ來タ樣ナトキハ立タヌト云フ裁判ヲ現ニシテ居ル
(松岡)
抑モ任意ハ出來ルガ唯法律ガ此處デ制限スルト云ヘバ
(栗塚)
ソンナラ債權者ガ要約シタ丈ケノ物ヲ任意デ取ルト云フナラ制限ヲ超ヘテ要約シタ物ヲ取ルト云ハナケレバナラン
(松岡)
其權利中ハ法律ガ是丈ケハ立入ルゾソレヲ五分ニスルカ七分ニスルカト云フ丈ケダ元ト々々固有ノ權利デアルニ他カラ制限シテ是レ丈ケハ出來ント云フノダカラ
(栗塚)
ソレヂヤニヨツテ制限ヨリ餘計ニ拂ツタモノハ取戻ス事ガ出來ル任意デヤツタ事ダニヤツタラ取戻ス事ガ出來ナイト云フト任意デヤツタモノハ取戻ス事ハ出來ルト云ハナケレバナラン
(元尾崎)
恰度博奕ト同ジ事ダ
(南部)
博奕トハ全ク違ウ
(箕作)
原按デ宜シイト思フケレドモ三十年ハ長イ
(元尾崎)
「充當スル事ヲ得」デ止メタイ
(淸岡)
充當シテ勘定ノトキニ除リガアレバ取レルト云フ丈ケノ事ダ
(南部)
原按ガ六人デ修正說ガ五人ダカラ修正ハ少數ダ
(箕作)
時効ヲ設ケレバ宜シイ
(村田)
原按ガ多數ダカラ定メテ宜シイ
(西)
制限ヲ立テルカラニハ此通リヤラナケレバナラン
(栗塚)
全ク不當ノ富ト思ツテ居ルノデ御座イマス
(西)
元ト制限ヲ立テルノハソウ云フ事ヲサセン爲メデスカラ知ラン樣ニナツタラ宜シイト云フノハ良クナイ
(淸岡)
斯ウ云フ事ハ佛蘭西ニナカロウ
(西)
佛蘭西ガ此精神デ御座イマシヨウ
(箕作)
佛蘭西ノハ利息制限法ニ超ヘテ利息ヲ出シタトキハ餘分ヲ返スガ元金ニ入レル事ノ言渡ヲ受ケテ加之ナラズ輕罪裁判所ニ送致セラルルト云フテ居ル
(松岡)
三項ハ元本ノ認定カ
(栗塚)
「追認」トナリマス
(松岡)
「追認」ト云フト過ギ去ツタ事ヲ後カラト云フ事ニナル
(栗塚)
ソウデス
(箕作)
「認諾」デハドウデス
(栗塚)
「認諾」ハ外ニアリマス
(松岡)
後カラバカリデハナル證文ヲ書クトキガ重モニアル
(南部)
「認諾」ガ宜カロウ
(箕作)
「追認」ノ字ハ弊ガアル
(栗塚)
認メルト云フ字ト同ジデスカラ「諾約」デハ如何デス
(大尾崎)
「認諾」ガ宜シイ
(南部)
「諾約」デ宜シイ
(栗塚)
「認メ」トシマスカ
(箕作)
元本ヲ認メカ
(松岡)
「認メシメ」ガ宜シイ
(南部)
元トハ「認知」トアルカラ「認知」デモ宜シイ
(箕作)
「認メシメ又ハ其他ノ方法」ト致シマシヨウ
本條第一項ハ起按者ニ質問スル事ニ決ス
第三項「元本ノ認定」ヲ「元本ヲ認メシメ又ハ」ト改メマス
第八百八十三條朗讀ス
第八百八十三條 貸主ハ支拂時期ノ至リタル利息ニ付キ異議ヲ爲サズシテ元本ノ全部又ハ一分ヲ受取リタルトキハ反對ノ證據アルマテ其利息ヲ受取リ又ハ之ヲ抛棄シタリトノ推定ヲ受ク
本條ハ原按ニ決ス
第八百八十四條朗讀ス
第八百八十四條 十ケ年ヲ超ユル期間ヲ以テ有利息ノ貸借ヲ爲シタルトキハ借主ハ如何ナル反對ノ契約アルモ十ケ年後ハ常ニ辨濟ヲ爲スノ權能ヲ有ス
然レトモ年賦金ヲ以テ利息ノ外尙ホ元本ノ幾分ヲ漸次ニ償却スルトキハ其取越辨濟ヲ爲ス事ヲ得ス
(元尾崎)
詰リ年金ノ性質ノ何等ト云フ事ダ
(栗塚)
「有利息」ハ「利息付」トナリ「契約」ハ「合意」トナリマス
本條「有利息」ヲ「利息付」ト改メ「契約」ヲ「合意」ト改ム
第八百八十五條朗讀ス
第八百八十五條 第八百八十一條乃至第八百八十四條ノ規定ハ消耗貸借ヨリ生スル義務ニ非サル金錢又ハ定量物ノ義務及ヒ契約上、法律上ノ利息ニ之ヲ適用ス
(村田)
消費貸ニスルカラ宜シイガ消費貸借デナイ他ノモノニ適用スルナラ
(松岡)
本當ハ之ガ一番宜シイノダ
本條ハ「消耗貸借」ヲ「消費貸借」ト改メ「契約」ヲ「合意」ト改ム
第八百八十六條朗讀ス
第二節 無期年金權ノ契約
第八百八十六條 有利息ノ貸主ハ元本要求ノ權利ヲ抛棄スル事ヲ得此ヲ無期年金權ノ設定ト謂フ
此抛棄ハ明白ナルカ又ハ明カニ事情ヨリ生スル事ヲ要ス
(栗塚)
此處ハ抛棄ト云フ字ハ原文ニモアリマセンカラ「自ラ禁止スル事ヲ得」ト致シマシヨウ
(松岡)
向ウデ否ト云フタラドウダ利息付デ金ヲ貸シテ置イテ
(南部)
置テト云フ意味デハナイ
(松岡)
人ニ金ヲ貸シテ利息ヲ取ツテ最早我ハ元本ヲ取ランカラ無期年金ト心得ロト言渡ガ出來ルト云フノダロウ
(栗塚)
出來ルト云フノデス
(松岡)
政府ハ元金ヲ何時デモ拂ウ事ガ出來ル政府ト云フモノハ斯ウ云フ事ガ出來ルト云フノハ格別栗塚ト云フ人ガ松岡ニ金ヲ貸シテ松岡以來元金ヲ返ス事ハ相成ラン
(栗塚)
イヤ私カラ元金ヲ呉レロト申シマセント云フテ約束シタトキデス
(松岡)
約束ト云フ事ハ見ヘンカラ約束ナラ自由ダ
(南部)
「禁止スルノ要約ヲ爲ス事ヲ得」ト云ツテモ同ジデス
(箕作)
詰リ定義ガ足ランノデス
(栗塚)
貴君ニ金ヲ貸シテ居ル併シ何時デモ貴君ノ處ニ要求ニ行クノハ止メマシヨウト云フノデス
(松岡)
自ラ禁止スルト云フノハ可笑シイ
(栗塚)
ソレハ文字ノ論デ抛棄ト云フノハ理窟ニ當リマセン
(松岡)
字ハ惡ルイケレドモ深イ意味ノ解除ハ出來ナイ最早我ハ元金ハ取ランカラ無期年金ト心得ロト云フトホカ讀メナイ
(箕作)
佛蘭西ノハ貸主ハ元金ヲ要求スル事ハ止メテ利息丈ケハ要求スル事ヲ得此場合ニ於テハ年金權ノ設定ト云フノデス
(栗塚)
金ヲ貸シタ人ガ元金ヲ取リマセント云フノダカラ
(淸岡)
元金ハ返スカラ年金權ハ嫌忌デ御座ルト云フタラ
(南部)
借リタ人ハ何時デモ返ス事ガ出來ルト云フノデス
(元尾崎)
返シテ年金ノ義務ヲ遁ルル事ガ出來レバ宜シイ
(栗塚)
貸シタ人ハ始終元金ガ欲シイト云フ可キ筈デ貸シタ人ガ元金ハ入ラント云フガ借リタ人ハ何時デモ返ス事ガ出來ル
(松岡)
佛蘭西ノハ歴史付デハナイカ
(栗塚)
政府デ國債ヲ起スノハ皆之デヤツテ居ル
(松岡)
註デハ政府デナイト云ツテ居ル
(栗塚)
政府バカリデナイ人民モ間デヤツテモ宜シイト云フノデス
(松岡)
我ノ元金ヲ取ランカラ無期デ年金權ヲ拂ヘト云フ權ヲ持テ居ル
(栗塚)
人ニ金ヲ貸シテ置イテ元金丈ケハ取リマスマイ其代ハリ利息丈ケハ寄超セト云フ事デス借リタ人ハ何時デモ返セル
(元尾崎)
日本ニハナイ
(栗塚)
外國デモ恐ラクハ政府ヨリ外ニアリマスマイ
(箕作)
「貸主ハ元本要求ノ權利ヲ行フ事ヲ禁止シテ年金ノミヲ受取ル事ヲ得之ヲ無期年金權ノ設定ト云フ」トシテハドウデス
(栗塚)
「年金權ニシテ貸主ヨリ元本要求ノ利ヲ自ラ禁シタルモノハ之ヲ無期年金權ト云フ」
(村田)
禁ジタルハ良クナイ契約スルガ宜シイ「年金權ニシテ貸主カ元本ノ要求ヲ爲ササルコトヲ約スルトキハ之ヲ無期年金權ノ設定ト云フ」
(栗塚)
初メニ「貸主カ」トハ出セマセン
(元尾崎)
「利息付ノ貸主ハ」デ宜シイ
(栗塚)
「年金權ニシテ貸主カ元本要約ノ權利ヲ」トシタイノデ御座イマス
(箕作)
後ニ報吿委員デヤツテ下サイ
(栗塚)
八百八十六條ハ「貸主カ元本ノ要求ヲ爲ス事ヲ自ラ禁止シ年金ノミヲ受取ル事ヲ要約スルトキハ之ヲ無期年金權ノ設定ト云フ」ト致シマシテ二項ハ「此禁止ハ明示ナルカ」ト致シマス契約デ知セント書イテアルカ又ハ事情カラ生ズル事ヲ要スト云フノデ兎モ角モ明瞭デナケレバナラン
本條ハ左ノ如ク決ス
貸主カ元本ノ要求ヲ爲ス事ヲ自ラ禁止シ年金ノミヲ受取ル事ヲ要約スルトキハ此ヲ無期ノ年金權ノ設定ト云フ此禁止ハ明示ナルカ又ハ明カニ事情ヨリ生スル事ヲ要ス
第八百八十七條朗讀ス
第八百八十七條 無期年金ノ債務ヲ負擔スル借主ハ如何ナル反對ノ契約アルモ常ニ其受取リタル元本ノ辨濟ヲ爲ス事ヲ得
然レトモ借主ハ十ケ年ヲ超エサル或ル時期前ニ辨濟ヲ爲サヽルヲ約束スル事ヲ得
右期間ハ常ニ之ヲ更新スル事ヲ得然レトモ亦十ケ年ヲ超ユル事ヲ得ス若シ之ヲ超ユルトキハ十ケ年ニ短縮ス
辨濟ハ反對ノ契約アラサルトキハ全部タル事ヲ要ス
債務者ハ六ケ月前ニ辨濟ヲ爲スノ意思ヲ債權者ニ豫吿スル事ヲ要ス但當事者ニ於テ他ノ期間ヲ定メタルトキハ此限ニ在ラス
債務者ハ自己ノ定メタル時期ニ於テ辨濟ヲ爲ササルトキハ其損害ノ責ニ任ス然レトモ辨濟ノ強要ヲ受クル事無シ但更改アリタルトキハ此限ニ在ラス
(栗塚)
損害ノ下ニ賠償ノ二字ガ落チマシタ
(松岡)
「無期年金ノ債務ヲ負擔スル借主」ハ可笑シイ
(栗塚)
「無期年金權ノ債務者」デモ宜シウ御座イマシヨウ
(村田)
ソレデモ宜シイ
(松岡)
「借主」ガ宜シイ
(南部)
元トノ通リガ宜シイ
(元尾崎)
「無期年金權ヲ負擔スル債務者」トスルカ
(南部)
原按デ宜シイ
(元尾崎)
契約ハ合意トナリマスカ
(栗塚)
合意トナリマス
(元尾崎)
「約束」ハ「合意」トナリマス
(栗塚)
ソレハ動詞デ御座イマスカラ「約束」デ宜シウ御座イマス
本條ハ「契約」ヲ「合意」ト改メ末項「損害」ノ下ニ「賠償」ノ二字ヲ加フ
第八百八十八條朗讀ス
第八百八十八條 債務者ハ第四百二十五條ニ揭ケタル初ノ三號ニ依リテ尋常ノ債務者カ權利上ノ期限ノ利益ヲ失フ場合又ハ合式ノ付遲滯ヲ受ケタル後引續キ二ケ年間年金ノ辨濟ヲ缺キタル場合ニ於テハ元本辨濟ノ強要ヲ受ク
此末ノ場合ニ於テ第四百二十六條ニ從ヒ債務者ニ恩惠期間及ヒ分割辨濟ヲ許與スル裁判所ノ權ヲ妨ケス
(栗塚)
「揭ケタル初メノ三號」ハ可笑シイカラ「第四百二十五條第一號乃至第三號ニ依リテ」ト致シマシタソレカラ末項ノ「分割辨濟」ヲ「割濟」ト致シマス
(元尾崎)
「分割辨濟」ガ宜シイ
(栗塚)
「割濟」ト云フノハ現ニ云フテ居リマス
(元尾崎)
何ヲ苦ンデ「割濟」トスルカ
(淸岡)
割拂ト云フ事ハ云フガ割濟ト云フ事ハ云ハナイ
(南部)
ソレデハ元トノ通リニ致シマシヨウ
本條第一項「第四百二十五條ニ揭ケタル初メノ三號ニ依リテ」トアルヲ「第四百二十五條第一號乃至第三號ニ依リテ」ト改ム
第八百八十九條朗讀ス
第八百八十九條 前二條ノ規定ハ不動產讓渡ノ代金若クハ條件トシテ設定シ又ハ無償名義ニテ設定シタル無期年金權ニ之ヲ適用ス
右孰レノ場合ニ於テモ辨濟ハ當事者ノ評定シタル元本若シ評定セサリシトキハ法律上ノ利息ノ割合ニ從ヒテ計定シタル年金ノ生ス可キ元本ヲ以テ之ヲ爲ス
日用品ヲ以テ年金ニ充ツルトキハ元本ノ辨濟ハ特別ノ契約アルニ非サレハ前十ケ年間ノ其日用品ノ平均代價ヲ年金ノ基礎ト爲シテ之ヲ爲ス
(栗塚)
「計定」ハ「計算」ト致シマス
(松岡)
「年金權ニモ之ヲ適用ス」デハナイカ
(栗塚)
「モ」ト云フト「亦」ト云ハナケレバナリマセン
(村田)
「ニ適用ス」ト云フノハ前ニモアリマシタ
本條第二項「計定」ヲ「計算」ト改メ第三項「契約」ヲ「合意」ト改ム
第八百九十條朗讀ス
第十八章 使用貸借
第一節 使用貸借ノ性質
第八百九十條 使用貸借ハ當事者ノ一方カ他ノ一方ノ使用ノ爲メ之ニ動產物又ハ不動產ノ後他ノ一方カ其借受ケタル原物ヲ返還スル義務ヲ負擔スルノ契約ナリ
此貸借ハ本來無償ナリ
(栗塚)
第十八章ハ九章トナリマス
(北畠)
「交附」ノ附ノ字ハ⻖ガナイノダロウ
(栗塚)
⻖ハ御削リ下サイ
(松岡)
「此貸借ハ本來無償ナリ」ト云フ事ハ中ヘハ入レラレマセンカ
(南部)
本來ト云フ字ガアルカラ六ケ敷イ
本條「交附」ヲ「交付」ト改ム
第八百九十一條朗讀ス
第八百九十一條 借主ハ使用ノ物權ヲ取得セス單ニ貸主及ヒ其相續人ニ對シテ人權ヲ取得ス
借主ノ權利ハ其相續人ニ移轉セス但其相續人カ當事者ノ意思ノ之ニ異ナル事ヲ證明スルトキハ此限ニ在ラス又其相續人ガ他ヨリ同種ノ物ノ使用ヲ得ル爲メ裁判所ヨリ返還猶豫ノ期間ヲ受クル事ヲ妨ケス
(栗塚)
「證明」ハ「證スル」トナリマス
(元尾崎)
其物ヲ取得センカ
(松岡)
第三ノモノニ向ツテ云ヘン賃ガアレバ物權トナリ賃ガナケレバ人權トナル
(栗塚)
使用貸借ハドンナ性質カト云フト矢張リ賃貸借ノ性質ハト見ルト違ヒマス
(淸岡)
無償貸借モ使用賃借モ同ジ事ダ
(粟塚)
卽チ是レデス
本條ハ「證明スル」ヲ「證スル」ト改ム
第八百九十二條朗讀ス
第二節 使用貸借ヨリ生シ又ハ其貸借ニ際シテ生スル義
第八百九十二條 借主ハ借用物ノ性質又ハ契約ニ因リテ定マリタル用方ニ從ヒ且契約ノ期間ニ非サレハ其物ヲ使用スル事ヲ得ス
借主ハ此他ノ使用又ハ期限後ノ使用ニ因リテ生スル借用物ノ滅失又ハ毁損ニ付テハ勿論又其使用ニ際シ意外ノ事又ハ不可抗ノ力ニ因リテ生スル滅失又ハ毁損ニ付テモ其責ニ任ス
(栗塚)
「且契約ノ期間」トアルハ「且賃貸期間」ト致シマス
(元尾崎)
「契約」ヲ「貸借期間」ト改メタノハ可笑シイ
(栗塚)
原文ガ違ツテ居リマスカラ
(村田)
貸借ガ宜シイ
(松岡)
「貸借ノ期間」ト云フノハアルマイ
(粟塚)
貸借ノ年限中デス
(元尾崎)
貸借ノ年限中ダ
(南部)
上ニ合意トアルカラ貸借ト云ハント分ラン
(松岡)
元トハ貸付ラレタルトアル
(渡)
貸借デ宜シイ
(大尾崎)
不可抗力デ家ガ燒ケタラ責ニ任ズルト云フノハ酷イ
(南部)
ソレハ仕方ガナイ
本條第一項「契約」ヲ「合意」ト改メ「契約ノ期間」ヲ「貸借期間」ト改ム
第八百九十三條朗讀ス
第八百九十三條 借主ハ自己ノ物ヲ用ヒテ借用物ノ滅失又ハ毁損ヲ免カレシムル事ヲ得ヘキトキ又ハ自己ノ物ト借用物トカ同時ニ危險ヲ受クルニ際シ自己ノ物ノミヲ救護シタルトキモ亦意外ノ事又ハ不可抗ノ力ニ因リテ生スル借用物ノ滅失又ハ毁損ノ責ニ任ス
本條ハ原按ニ決ス
第八百九十四條朗讀ス
第八百九十四條 借主ハ借用物保持ノ通常費用ヲ負擔シ貸主ニ對シテ其償還ヲ求ムル事ヲ得ス
本條ハ原案ニ決ス
第八百九十五條朗讀ス
第八百九十五條 借主ハ約束セシ時期ニ於テ借用物ヲ返還ス其時期前ト雖モ約束セシ使用ヲ終リタルトキハ亦同シ尙ホ第八百九十八條第二項ノ規定ニ從フ事ヲ要ス
返還ノ時期ヲ定メス且物ノ使用カ繼續ス可キトキハ裁判所ハ貸主ノ請求ニ因リ返還ノ爲メ相應ナル時期ヲ定ム
(元尾崎)
約束ハ合意カ
(栗塚)
合意デス「時期前ト雖モ許與サレタル」ト致シマス
(村田)
元トハ「許サレタル」トアル
(槇村)
「許サレタル」ガ宜シイ
(栗塚)
「規定ニ從フ事ヲ要ス」ハ「規定ヲ妨ケス」ト致シマス
(箕作)
原文ニハ返還スル事ヲ要ストアル
(村田)
二項ハ元ハ削ツテアツタ
(栗塚)
二項ノ「繼續スヘキトキハ」ハ「繼續シ得ヘキトキハ」ト致シテ「相應ナル時期ヲ定ム」ハ「相應ナル期間ヲ定ムル事ヲ得」ト致シマス
(松岡)
前ニ二項ヲ削ツタノハドウ云フ譯カ
(栗塚)
裁判所ヘ驅付ケテ行ク事ガ出來ナイト云フ議論ガ出テ貸主ノ迷惑ダ、斯ウ云フトキハ裁判所ガ出來ルトサヘ書イテ置ケバ宜シイト云フノデアリマシタ
(元尾崎)
求メテ來テモ定メズシテ宜シイト云フ事ハナイ
(松岡)
「繼續シ得ヘキトキハ」ト云フノハ
(栗塚)
「繼續セラレタルトキハ」ト云フノデ御座イマス
(箕作)
此「得」ト云フノハ「アルヘキトキハ」ト云フノダ
(南部)
「得ヘキモノナルトキハ」トヤルカ
(松岡)
使用サセテアル其使用ハ元ト々々際限ノナイモノハ裁判所ガ切レ目ヲ入レルト云フノダカラ元トハ「際限ナキトキハ」トアル所謂分界ノ立タナイモノト云フノダ
(栗塚)
此「ヘキ」ハシナケレバナラント云フ「ヘキ」デハナイ
(松岡)
約束ノ期限ナキ又暗ニ期間ヲ示ス機會モナキトキトアル
(大尾崎)
「際限ナキ」ト云フ方ガ宜シイ
(渡)
使用ガ際限ナキトキトハ分ラン「繼續スルトキハ」デ宜シイ
(淸岡)
「繼續スヘキトキハ」デ宜シイ
(箕作)
「使用カ繼續スル性質ノモノナルトキハ」ト云フノデス
(淸岡)
「繼續スヘキモノナルトキハ」デ宜シイ
(松岡)
「繼續スヘキモノナルトキハ」ガ宜シイ
本條ハ左ノ如ク決ス
借主ハ約束セシ時期ニ於テ借用物ヲ返還スル事ヲ要ス其時期前ト雖モ許サレタル使用ヲ終リタルトキハ又同シ尙第八百九十八條第二項ノ規定ヲ妨ケス返還ノ時期ヲ定メス且物ノ使用カ繼續スヘキモノナルトキハ裁判所カ貸主ノ請求ニ依リ返還ノ爲メ相應ナル期間ヲ定ムル事ヲ得
第八百九十六條朗讀ス
第八百九十六條 借主カ借用物ノ第三者ニ屬スル事ヲ了知スルトキト雖モ貸主又ハ其代人ニ之ヲ返還スル事ヲ要ス但第三者カ其返還ニ付キ合式ニ故障ヲ爲シタルトキハ此限ニ在ラス
此末ノ場合ノ外返還ハ貸主又ハ其代人ノ住所ニ於テ之ヲ爲ス
本條ハ原案ニ決ス
第八百九十七條朗讀ス
第八百九十七條 數人連合シテ同時又ハ交互ニ用フル爲メ一箇ノ物ヲ借用シタルトキハ各自連帶ニテ上ノ義務ヲ負擔ス
(栗塚)
「上ノ」ヲ「前記ノ」ト致シマス
本條ハ「上ノ」ヲ「前記ノ」ト改ム
第八百九十八條朗讀ス
第八百九十八條 貸主又ハ其相續人ハ明示又ハ默示ニテ借主ニ約束シタル期限前ニ貸付物ノ返還ヲ要求スル事ヲ得ス
然レトモ其物ニ付キ急迫ニシテ且豫期セサル要用ノ生シタルトキハ貸主又ハ其相續人ハ裁判所ニ請求シテ期限前ニ一時又ハ永久ノ返還ヲ爲サシムル事ヲ得
(栗塚)
「約束シタル」ハ「許シタル」トナリマス
本條ハ「約束シタル」ハ「許シタル」ト改ム
第八百九十九條朗讀ス
第八百九十九條 貸主ハ借主カ借用物保存ノ爲メ支出シタル必要且急迫ナル費用ヲ之ニ辨償スルノ責ニ任ス
又貸主ハ貸付物ノ瑕疵ノ爲メニ借主ノ受ケタル損害ヲ賠償スルノ責ニ任ス但其瑕疵ハ隱潛ニシテ借主之ヲ了知セス貸主之ヲ了知シ且借主ニ害ヲ加フルノ意思アリタルトキニ限ル
(栗塚)
「隱潛」ハ「不表見」トナリマス
(箕作)
「其瑕疵ハ隱レタルモノニシテ」デモ宜シイ
(南部)
「不表見」ガ宜シイ
(淸岡)
「隱レタル瑕疵ニシテ」ガ宜シイ
(松岡)
ソレガ宜シイ
(南部)
瑕疵ニシテト云フト物ハトカ何ントカ云ハナケレバナラン
(箕作)
「其瑕疵ハ隱レタルモノニシテ」ガ宜シイ
(松岡)
「不表見」ヲ始メト終リヘ聞イテ中ヲ隱レタルトスルノハ良クナイ
(槇村)
「其瑕疵ハ隱レタルモノニシテ」ガ宜シイ
本條第二項「隱潛ニシテ」ハ「隱レタルモノニシテ」ト改ム
第九百條朗讀ス
第九百條 借主ハ前條ニ依リテ自己ノ受ク可キ賠償ヲ得ルマテ借用物ニ付キ留置權ヲ行フ事ヲ得
(松岡)
之ハ削ロウデハナイカ
(元尾崎)
之ハ無クテハナラン本條ハ原案ニ決ス
(栗塚)
第十九章ハ十章トナリマシテ「爭論寄託」ハ「監守」トナリマス
第十章「爭論寄託」ヲ「監守」ト改ム
第九百一條朗讀ス
第十九章 寄託及爭論寄託
第一節 寄託
第九百一條 寄託ハ一人カ動產物ヲ交付シ他ノ一人カ之ヲ監守シ要求次第直チニ原物ヲ寄託ハ本來無償ナリ
寄託ニハ任意ノモノアリ急迫ノモノ有リ
(栗塚)
「寄託ハ一人ガ他ノ一人ニ動產物ヲ交付シ他ノ一人ガ之ヲ監守シ」トシタイノデ御座イマス
(元尾崎)
原按デ宜シイ
(箕作)
他ノ一人ハ分ラナイ
(松岡)
分ラナイ
本條ハ原案ニ決ス
第九百二條朗讀ス
第一款 任意寄託
第九百二條 任意ノ寄託ハ寄託者カ寄託ノ時日、場所及ヒ受寄者ヲ自由ニ選擇スル事ヲ得ル場合ニ於テ成ルモノナリ
本條ハ原按ニ決ス
第九百三條朗讀ス
第九百三條 寄託ハ所有者ノミナラス尙ホ物ノ監守及ヒ保存ニ付キ利益ヲ有スル人又ハ其代理人之ヲ爲ス事ヲ得
又寄託ハ無能力者ノ法律上ノ代理人之ヲ爲ス事ヲ得
(栗塚)
法律上ノ代理人ハ代人デ御座イマス
本條第二項「代理人」ヲ「代人」ト改ム
第九百四條朗讀ス
第九百四條 寄託ハ契約ヲ爲スノ能力ヲ有スル者ニ非サレハ之ヲ受クル事ヲ得ス
然レトモ無能力者ハ仍ホ自己ノ手ニ存スル寄託物ノ返還又ハ寄託ニ因リテ得タル利益ノ返還ニ付キ民事上其責ニ任ス但背信ノ爲メノ公訴ヲ妨ケス
(松岡)
小供ニ預ケテハナラント云フノハ聞ヘルケレドモ小供ガ扱ツテハ言ツテモ分ラナイ頑是ナイ小供ニ云ツテモ分ラナイデハナイカ
(元尾崎)
返還スレバ何モナイダロウ
(南部)
返還スル事ニ付テデス
本條ハ「契約」ヲ「合意」ト改ム
第九百五條朗讀ス
第九百五條 受寄者ハ受寄物ノ監守及ヒ保存ニ付テハ自己ノ財產ニ加フルト同一ノ注意ヲ爲ス事ヲ要ス
然レトモ受寄者カ自ラ求メテ寄託ヲ受ク又ハ單ニ自己ノ利益ヲ目的トシ要用ニ從ヒ受寄物ヲ使用スルノ許諾ヲ得テ寄託ヲ受ケタルトキハ受寄者ハ善良ナル管理者ノ注意ヲ爲スノ責ニ任ス但此末ノ場合ニ於テ受寄者ガ其物ヲ使用シタルトキハ第八百九十三條ノ規定ヲ適用ス
(栗塚)
但此末ノ場合デハ分リマセンカラ第九百六條ヲ置イテ前條ノ末ノ場合ニ於テシタイト思ヒマス
(元尾崎)
之デ宜シイ
本條ハ原案ニ決ス
(第九百六條)(此條第一ハ前條ノ末項トナル)
第九百六條(議場削除第一ハ前條末項ト爲ル
(栗塚)
元ト九百六條ニ「總テ其他ノ場合ニ於テ若シ受寄物及ヒ受寄者ノ物カ共同ノ危險ニ罹リ受寄者其一ノミヲ救護スル事ヲ得ルトキ受寄物ノ價額カ著シク超ユルニ於テハ之ヲ救護スル事ヲ要ス但自己ノ物ノ價額ノ賠償ヲ受クル事ヲ妨ケス」ト云フ事ガアツタノヲ議場デ盛ンノ論ガアツテ刪レマシタガ彼レヲ活カシテ活カスニ付テハ一條設ケルガ宜シイ
(松岡)
結構デ御座イマシヨウケレドモ微妙スギテ分ラン
(寺島)
一體之ガナイト自分ノ品物ヲ出シテモ他人ノ品物ハ出サン樣ニナル假令バ自分ノ物ハ十圓ノ物デ他人ノ物ハ千圓ノ物デモ自分ノ物ヲ出シテ他人ノ物ハ出サン樣ニナルカラ他人ノ物モ自分ノ物モ同一ニ保護シ樣ト云フ主義デ出來テ居ルノデ御座イマス
(松岡)
云フテ置イテモ何ンニモナラン自己ノ財產ニ加ヘルト同一ノ注意ヲ要スト云フテ置イテソレデハ足ラン同一ノ時ハ人ノ物ヲ燒イテ自分ノ物ヲ出シテハナランカラ二項ヲ置イタノダ
(寺島)
自分ノ物モ他人ノ物モ同一ニ見ナケレバナラン値段ノ良イ物ヲ持チ出スノハ人情デ御座イマシヨウ
(松岡)
火事ノトキニ箪笥ヲ捨テ置イテ棕梠箒ト行燈ヲ持チ出ス樣ナモノダカラ考ヘテ居ル暇ハナイ
(寺島)
縱令持チ出サンデモ責任ハナイケレドモ縱令バ持チ出シタ物ノ内ニ私ハ御前サンノ物ヲ持チ出ス爲メニ自分ノ物ヲ持出ス事ガ出來ナカツタ御前サンノ物ヲ持チ出サナケレバ私ハ此レヲ持チ出シタニ御前サンノ物ヲ持チ出シタカラ私ノ物ガ無クナツタ私ノ物ガ十圓ダカラ十圓下サイト云ヘルガ此法文ガナイト呉レロト云フ事ガ云ヘナイ
(松岡)
價額ガ高ケレバ出セト云フテ置ケバ他人ノ物ヲ出シテ我ガ物ヲ出サントキハ他人ノ物ヨリ餘計ニハ取レント云フノダロウ人ノ物ヲ出シタ爲メニ必ラズ自分ノ物ガ燒ケタカドウダカ分ラナイ
(栗塚)
ソレハ良イ分ツタ上ノ話デス
(松岡)
一所ニ尋ネテ分ラントキノ事ガアツタネ
(南部)
八百九十三條ニアル
(松岡)
一ツ丈ケ出スト人ノ物ヲ燒イテ我ガ物ヲ出スト人カラ何ントモ云ヘナイ
(寺島)
我々ノ考デハ自分ノ物ト人カラ預ツタ物ト二ツ一所ニアツテ其中法文ニアル通リ人カラ預ツタ物ガ著シク高價ノ物デアツタトキ高價ノ物ヲ持ツテ出ヨウ行燈ヤ箒ノ類デハナイ
(松岡)
持ツテ出ナカツタトキハドウシマス
(寺島)
出ナクツテモ何ントモナイ
(松岡)
持ツテ出ナケレバ償ヒヲスルナラ理窟ガ合ウケレドモ之レデハ理窟ガ合ハナイ
(南部)
但丈ケハ存シテ置ケバ良カロウ償ヒヲ求ムル事ガ出來ルカ出來ンカト云フ事ハ少シ足ラン樣ダ
(箕作)
但丈ケ置クナラ皆置クガ宜シイ
(松岡)
救護スルヲ要スト云フトキシナカツタトキノ制裁ガナケレバナラン
(大尾崎)
刪ツタ方ガ宜シイ
(栗塚)
二ツノ物ガ危險ニ罹ツタトキ受寄者ガ一ツ丈ケハ救ウ事ガ出來ル場合トソウシテ其二ツノ物ノ間ノ價額ガ著シク差ガアルトキト云フ事ヲ御考ヲ願ヒマス
(渡)
預カツタ物ガ著シク高イトキハ預カツタ物ヲ取リ出サナケレバナランゾヨト云フノガ
(寺島)
且經濟上ノ主義ニモナリマス
(箕作)
原按者ノ旨意ハ斯ウシテ置ケバ貴イ物ヲ救ウ樣ニナルダロウト云フノダ
(寺島)
此法文ガナイト人ノ結構ナ物ヲ持チ出シテヤツテモ償ヒヲ求メル事ガ出來ナイ
(渡)
火事場デ其證據ヲ擧ゲルノハ六ケ敷イ
(栗塚)
之ハ報吿委員カラ願ツテ御考置キ下サル事ハ出來マセンカ
(寺島)
ソウスレバ起按者ニモ問合セマシヨウ
(松岡)
前議ノ通リデ宜シイ
本條ハ刪除ニ決ス
第九百九條朗讀ス
第九百九條 受寄者ハ受寄物ヲ使用シ又ハ其果實ヲ消耗スル事ヲ得ス但此カ爲メ寄託者ノ明示又ハ默示ノ許諾アリタルトキハ此限ニ在ラス
此許諾ハ寄託ニ使用貸借ノ性質ヲ與フルニ足ラス
(栗塚)
二項ハ「此許諾ハ寄託ヲ使用貸借ニ變體スルニ足ラス」デハ如何デス
本條ハ原按ニ決ス
第九百十條朗讀ス
第九百十條 受寄者ハ其收取シタル果實及ヒ產出物又ハ果實及ヒ產出物ヲ金錢ニ換ヘサルヲ得サリシトキハ其代金ト共ニ原物ヲ返還スル事ヲ要ス但前條ノ規定ヲ妨ケス
受寄者カ受寄物ニ付キ或ル替償又ハ或ル權利若クハ利益ヲ取得シタルトキハ之ヲ寄託者ニ移轉スル事ヲ要ス
又受寄者ガ故意ニテ受寄物ヲ消耗シ讓渡シ又ハ隱竊シタルトキハ遲滯ニ付セラルル事無クシテ當然損害賠償ノ責ニ任ス但背信ノ爲メノ公訴ヲ妨ケス
(栗塚)
第一項ハ「產出物ハ之ヲ」デ宜シウ御座イマシヨウ二項ハ「替償」ヲ「償金」ト致シマス
本條第一項「產出物又ハ果實及ヒ產出物ヲ」トアルヲ「產出物又ハ之ヲ」ト改ム第二項「替償」ヲ「償金」ト改ム
第九百十一條朗讀ス
第九百十一條 受寄者ノ相續人カ受寄物ナル事ヲ知ラスシテ其物ヲ消耗シ又ハ之ヲ讓渡シタルトキハ其相續人ハ此ニ因テ得タル利益ノ額ニ滿ツルマテ賠償ノ責ニ任ス
右ノ規定ハ遺忘又ハ錯誤ニ因リ自己ノ物トシテ受寄物ヲ處分シタル受寄者ニ之ヲ適用ス
(松岡)
人ノ妾ヲ預カツテ我ノ物ダト思ウテヤツタノカ
(渡)
他人ノ娘ナドヲ預カツテ置イテ自分ノモノトシテ處分サレテハ斤ハン
本條ハ原按ニ決ス
第九百十二條朗讀ス
第九百十二條 寄託物ノ返還ハ寄託者若クハ其相續人又ハ其法律上若クハ契約上ノ代人ヲ爲ス事ヲ〔欠字〕ス
本條ハ「契約」ヲ「合意」ト改ム