法律取調委員会 民法草案再調査案議事筆記 第18回
参考原資料
- 法律取調委員会 民法草案財產取得編再調査案議事筆記 , 自 第十八回 至 第二十一回 [国立国会図書館デジタルコレクション]
備考
- 未校正のテキストデータです.
民法財產取得篇再調査按第十八回議事筆記
自第七百四十一條至第七百八十二條
明治二十一年十一月十六日午前第九時開會
○第七百四十一條朗讀ス
第四款 隱潛ノ瑕疵ニ因ル賣買廢却訴權
第七百四十一條 動產ト不動產トヲ問ハス賣渡物ニ賣買ノ當時ニ於テ不表見ノ瑕疵アリテ買主之ヲ知ラス又修補スル事ヲ得ス且其瑕疵カ物ヲシテ其性質若クハ當事者ノ一致ノ用方ニ不適當ナラシメ又ハ買主其瑕疵ヲ知レハ初ヨリ買受ケサル可キ程ニ物ノ使用ヲ減セシムルトキハ買主ハ其賣買ノ廢却ヲ請求スル事ヲ得
此場合ニ於テハ買主ハ辨濟代金ト契約費用トヲ取戾シ其代金ノ利息ハ請求ノ日ニ至ルマテノ物ノ收益又ハ使用ト之ヲ相殺ス
(栗塚)
「第四款」ハ「第三款」トナリマス
(村田)
「隱潛」ト云フヲ字ハ可笑シイ
(栗塚)
「隱レタル」ト云フ字デ御座イマス
(松岡)
元トノ儘ガ宜シイ併シ「不表見」ト云フ字ト「隱レタル」ト云フ字ハ交セテ使ツテアル
(南部)
「隱レタル地役」トハ云ヒ惡クイ
(栗塚)
兩方使ツテモ宜シウ御座イマシヨウ「潛」ノ字ハ可笑シイカ知レマセン
(松岡)
「隱レタル」デ置キマシヨウ
(箕作)
潛ムト云フ字ハ當ラヌダロウ
(栗塚)
報吿委員デ一人モ同意ハ應座イマセン其レカラ本文ノ四行目ハ「其性質ニ因リ若クハ當事者ノ一致々ニ因ルノ用方ニ不適當ナラシメ」デハ如何デ御座イマス之デハ性質ニ不適當ナラシメト御覽ニナリハシマセンカ
(松岡)
用方ニ不適當ナラシメト讀メル樣ニ見ヘル
(大尾崎)
御互ヒニ止メル丈ケノ話シダ
(村田)
「性質若クハ合意ノ用方ニ」デモ宜シイノダ
(松岡)
一致ノ用方モ合意モ分リ惡クイ
(南部)
「性質ノ」トハ續カヌ
(箕作)
「性質上若クハ合意上ノ」ト云フガ一番宜シイ
(村田)
ソレガ宜シイ
(南部)
「性質若クハ合意ノ」デモ宜シイ
(栗塚)
「上」ノ字ノアツタ方ガ宜シイト思フノハ性質ニ不適當ナラシメト讀マレルト困リマスカラ
(南部)
「性質上若クハ合意上」ト致シマシヨウ
(元尾崎)
ソレガ宜シイ
(淸岡)
「合意」ハ甚カロウ、合意ハ約束ダ、双方ガ云ハズ語ラズシテ煖爐ヲ買ヘバ火ヲ燃イテ暖メル爲メト云フノダカラ
(大尾崎)
性質モ合意モ同ジコトダ
(栗塚)
假令バ帶地ヲ買ウニ窓掛ケニスレバ窓掛ニハ賣ラヌト云フ
(南部)
性質ニ背イテモ合意デ一致シタノダカラ
(槇村)
手水鉢ヲ火鉢ニ使ウト云フノハ合意ダロウ
(元尾崎)
西洋ノ小便壺ヲ菓子入ニシタ抔ト云フコトガアルカラ
「第四款」ヲ「第三款」ト改メ「隱潛ノ」トアルヲ「隱レタル」ト改ム本條「其性質若クハ當事者ノ一致ノ」トアルヲ「其性質上若クハ合意上ノ」ト改ム
○第七百四十二條朗讀ス
第七百四十二條 買主カ隱潛ノ瑕疵ノ賣買廢却訴權ヲ行フ程ニ重大ナルヲ證明スルコト能ハス又ハ物ヲ保持スルコトヲ欲スルトキハ買主ハ便益ヲ失フ割合ニ應シテ代金ノ減少ヲ請求スルコトヲ得
(栗塚)
「隱潛」ハ「隱レタル」トナリマス
(箕作)
「物ヲ保持スル」ト云フノハ分リ惡クハアリマセンカ
(村田)
保持ト云フノハ返ヘサンデ自分デヤツテ行クノダカラ
(南部)
「保存」トヤツテハドウダロウ
(栗塚)
「證明」ハ「疏明」デ御座イマス
(松岡)
之ハ「證」デナケレバイケヌ
(淸岡)
「證スルコトヲ得」デ宜シイ
(箕作)
「保持修繕」トハ違ヒマスカ
(栗塚)
唯自分デ持テ居ルト云フノデ御座イマスカラ違ヒマス「物ヲ保タヌコトヲ」デモ宜シイ
(槇村)
「所持スル」ガ宜シイ
(松岡)
「所持」ト云フト所有ト所持ト同ジコトダ之ハ戻サズシテ其儘向ウガ持ツト云フノダカラ
(箕作)
保持修繕ト間違ヒサヘシナケレバ宜シイ
(松岡)
アレハ修繕ト云フ字ガアルカラ宜シウ御座イマシヨウ
(淸岡)
「所藏」ガ宜シイ
(南部)
「保有」ガ宜シイ
(箕作)
「保有」ノ方ガ宜シイ
(栗塚)
「保有」デ宜シウ御座イマシヨウ
(淸岡)
元トガ「保有」ダカラ「保有」デ良カロウ
(栗塚)
「證明」ハ「疏明」トナリマス
(松岡)
向ウカラ來タトキニ自分カラ辯明スルト云フコトハナイ排却訴權ヲ行ナオウト思テモ道具ガ足リナイ其時ハ出來ルト云フノダカラ「證スル」デナケレバナラヌ
(栗塚)
人カラ云ヘバ、ソンナニ瑕疵ガ有ル筈ハナイ
(箕作)
之ハ「證スル」ガ宜シイ孰レカ證據ヲ擧ゲル責ガアルカト云フト買主ガ原吿ニナツテ證據ヲ擧ゲル責メガアルト云フノダカラ云ヒ詰レバ證サナケレバナラヌコトニナル
(松岡)
原文ハ「證スル」ト書イテアル
(松岡)
原吿ガ何時デモ疏明ヲシテソレカラ證明スルト云フコトニナル、ソンナコトハナイ
(北畠)
初メハ口デ云ヒ後ハ證據ヲ出スト云フコトハナイ
(栗塚)
私ハ是レ々々ト云テ出ルトキハ疏明デス
(大尾崎)
「疏」ノ字ハ云ヒ分ケヲスルト云フ字ダ
(淸岡)
原書ノ通リニシテ行キマシヨウ、皆一所ニシテ「證明」トスルナラ宜シイ、ガ書キ分ケル以上ハ仕方ガナイ
(栗塚)
「疏明」ト「證スル」トハ、ドウ違ヒマス
(箕作)
「疏明」ノ方ハ眞實ラシク論ズルト云フノデ本當ノ證據ヲ擧ゲルノトハ手續ガ違ウ
(松岡)
廢却訴權トナツテ疏明デスルト云フコトハナイ
(粟塚)
相手方ガ爭テ始メテ證據ニナル一體ニ證明ト疏明ト同ジコトダ初メカラ證據ヲ使ツテ宜シイト云フ御論ナラバ分リマスガ相手方ガ爭ハヌ中ニ是レ丈ケノ害ヲ被ツテ居ルト云フノハ「疏明」デ、否是レ丈ケノ證據ガアルト云フノハ「證明」ト分ケテ來タノデ御座イマス
(松岡)
相手方ガナケレバ疏明デ宜シイ、相手方ヘ向テ戰ウトキニ出スノガ疏明デ宜シイ
(栗塚)
裁判官ノ前デ疏明スル、ソウスルト栗塚ハ彼云フ疏明ヲ致シマスガ虛デ御座イマス、コウ云フコトガ御座ルト疏明シタトキ私ガコウ云フ證據ガアルト云フノガ證明デ御座イマス
(南部)
訴訟法ノ疏明ト此證明ト同ジ字ダト云フノデ「疏明」トシマシタノデスカラ其レガ惡ルケレバ疏明ノ字ヲ變ヘナケレバナリマセン
(淸岡)
日本人ガ是レ迄疏明ト云フ字ダ證明ト云フ字ダノ解シ得ナカツタノダ
(元尾崎)
「疏明」ト致シマス
本條「隱潛ノ」ヲ「隱レタル」ト改メ「證明」ヲ「疏明」ト改メ「保持」ヲ「保有」ト改ム
○第七百四十三條朗讀ス
第七百四十三條 買主カ賣主ニ對シ賣買ノ廢却又ハ代金ノ減少ヲ得タルニ拘ハラス賣主カ初ヨリ其瑕疵ヲ知リタルトキハ買主ハ尙ホ其受ケタル損害又ハ失フタル利益ニ付テノ賠償ヲ要求スルコトヲ得
本條ハ原按ニ決ス
○第七百四十四條朗讀ス
第七百四十四條 隱潛ノ瑕疵ヲ擔保セストノ要約ハ賣主ヲシテ初ヨリ自ラ了知シ且詭譎ヲ以テ隱蔽シタル瑕疵ニ付テノ責任ヲ免カレシメス
本條ハ原案ニ決ス
○第七百四十五條朗讀ス
第七百四十五條 賣買ノ當時ニ於テ物ニ瑕疵アリタルコト其瑕疵ヨリ買主ニ損害ヲ生シタルコト及買主又ハ賣主カ其瑕疵ヲ了知シタルコトハ人證、鑑定其他ノ法律上ノ擧證方法ヲ以テ之ヲ證明ス
(栗塚)
之ハ「證ス」トナリマス
(村田)
此條ハ證據法デ宜シイノダ
(松岡)
訴訟法ノ擧證方法ハ「證據方法」トシタ
(箕作)
「擧證方法」ノ方ガ宜シイ
(村田)
此間直シタ
(南部)
採證ト云フノハ分ラヌ話シダ「擧證」モ惡ルイカラ其レデ「證據方法」トシテ仕舞タ
(淸岡)
「證據方法」トシ樣
(槇村)
訴訟法デヤレバ「證據調ヘノ方法」デナケレバナラヌ
(南部)
訴訟法ト一致デナケレバイケマセン
(箕作)
「證據」ト云フノハ證據ヲ立ツタ其物ダカラ
(村田)
三百六十七條デ「證據方法」ト直シタデハナイカ
(栗塚)
御尤モデス
(松岡)
ソレナラ「方法」ト云フ字ハ入ラヌ「法律上ノ證據」デ宜シイノダ
(箕作)
其レデ宜シイノデス
(元尾崎)
「證據方法」デ宜シイ
(南部)
之ハ訴訟法デ定ツテ居ルカラ訴訟法ノ委員ノ出タトキ再議シマシヨウ
(元尾崎)
松岡サンノ樣ニ訴訟法迄モ改メルト云フ論ガ多ケレバソウスルガ宜シイ、其レ迄置ク
(村田)
此條ヲ削リ度イ、何デモ心證ト鑑定ト證據デ證スルノハ當リ前ノコトダ
(南部)
鑑定バカリデ證スルト云フ人ノ誤解ガアルカラ置カ宜シイ
(箕作)
削ルニハ及バヌ
本條「擧證方法」ヲ「證據方法」ト改メ「證明ス」ヲ「證ス」ト改ム
○第七百四十六條朗讀ス
第七百四十六條 賣買廢却、代金減少及ヒ損害賠償ノ訴ハ左ノ期間ニ於テ之ヲ起スコトヲ要ス
第一 不動產ニ付テハ六个月
第二 動產ニ付テハ三ケ月
第三 獸畜ニ付テハ一ケ月
右期間ハ引渡ノ時ヨリ之ヲ起算ス
然レトモ此期間ハ買主カ瑕疵ヲ知レル證據アリタル日ヨリ其半ニ短縮ス但其殘期カ此半ヲ超ユルトキニ限ル
買主カ意外ノ事又ハ不可抗ノ力ニ因リテ右期間ニ隱潛ノ瑕疵ヲ覺知スル能ハサリシコトヲ證明スルトキハ其期間ノ滿了後ニ於テモ訴ヲ受理セラルコトヲ得此場合ニ於テハ意外ノ事又ハ不可抗ノ力ノ止ミタル時ヨリ通常期間ノ三分一ヲ以テ新期間ト爲ス
(栗塚)
「不可抗ノ力」ハ「不可抗力」トナリマス「受理セラルルコトヲ得」ト云フノヲ「訴ヲ爲スコトヲ得」ト致シマス
(松岡)
良カロウ
(北畠)
「瑕疵ヲ知レル」ト云フノハ可笑シイ
(栗塚)
「アリタル」トアルカラ「知レル」トシタノデ御座イマス
(元尾崎)
獸畜ト云フ中ニ鶯ナドハ這入ラヌカ
(松岡)
畜ト云ヘバ飼物ハ皆這入ル獸バカリデハナイ
(栗塚)
生物ト云フ意味デス
(北畠)
「動物」デ良カロウ
(栗塚)
動物モ動產デ御座イマスカラ其レデ「獸畜」トシマシタ
(元尾崎)
動物ヲ動產トハ云ハヌ
(北畠)
生物ト云フコトダ
(元尾崎)
「人間ノ外ナル動物」トスルガ宜シイ
(北畠)
「禽獸ニ付テハ」トハ出來マセンカ
(元尾崎)
禽獸ト云フハ蜂ガ這入ラヌ
(槇村)
「動物」トシ樣
(栗塚)
「動物」ト致シマシヨウ
本條第三「獸畜」ヲ「動物」ト改メ「不可抗ノ力」ヲ「不可抗力」ト改メ「隱潛ノ」ヲ「隱レタル」ト改メ「受理セラル」ヲ「爲ス」ト改ム
○第七百四十七條朗讀ス
第七百四十七條 隱潛ノ瑕疵ニ基キタル代金減少ノ訴權ハ買主カ買受物ヲ無償又ハ有償ニテ讓渡シタルモ之ヲ失ハス但有償ノ讓渡ノ場合ニ於テハ其瑕疵ノ爲メ買主カ損失ヲ受ケタルトキ又ハ買主自ラ讓受人ヨリ訴ヘラレ若クハ訴ヘラルルノ危險ニ在ルトキニ限ル
本條ハ原按ニ決ス
○第七百四十八條朗讀ス
第七百四十八條 賣渡物カ意外ノ事又ハ不可抗ノ力ニ因リテ全部又ハ半以上滅失シタルトキハ賣買廢却訴權ハ受理セラレス
滅失部分ノ多少ニ拘ハラス代金減少ノ訴權ハ殘存部分ノ割合ニ應シ存立ス
如何ナル場合ニ於テモ賣主ハ隱潛ノ瑕疵ヨリ生スル全部又ハ一分ノ滅失ノ責ニ任ス
(南部)
「廢却訴權ハ之ヲ受理セス」トシマス
(箕作)
「訴權ヲ受理セス」ト云フノハ可笑シイ文ダ
(松岡)
「訴權ヲ行フコトヲ得ス」ガ宜シイ
(粟塚)
ソレガ宜シウ御座イマシヨウ
本條第一項「訴權ハ受理セラレス」ヲ「訴權ヲ行フコトヲ得ス」ト改ム第三項「隱潛ノ」ヲ「隱レタル」ト改ム
○第七百四十九條朗讀ス
第七百四十九條 合式ノ強制賣却ハ賣買廢却訴權ヲモ代金減少訴權ヲモ生セス
(元尾崎)
瑕疵ガアツテモ仕方ガナイカ
(大尾崎)
仕方ガナイ
本條ハ原案ニ決ス
○第七百五十條朗讀ス
第七百五十條 或ル獸畜、物品又ハ日用品ノ隱潛ノ瑕疵ニ付キ特別法ヲ以テ其賣買上ノ效果ヲ定ムルニ至ルマテ本法ノ規定ヲ此等ノ物ノ賣買ニ適用ス
(栗塚)
「物品」ト云字ヲ刪リ度イト思ヒマス
(槇村)
「或ル」ト云フ字ハ入ラヌダロウ
(村田)
勿論入ラヌ
(南部)
「或ル物品」ダカラ入リマス
(元尾崎)
「特別」ト云フノハ
(栗塚)
馬トカ牛トカ云フ賣買ニ外國デハ特別法ガアリマス
(淸岡)
前ニハ入ラヌト云フ說ガアツタ
(南部)
私モ刪除說デアツタ
(松岡)
刪ルガ宜シイ
(箕作)
アツテモ宜シイ
(松岡)
特別法ガ出來レバ之ガ消ヘテ向ウガ立ツニハ定ツテ居ル
(松岡)
前ニハ委員長ガ一人デ置クト云フ論デアツタ
(南部)
缺席裁判ヲスルノハ良クナイ
(松岡)
委員長ハ若シ之ヲ刪レバ獲得篇ヲ殘ラズ議了シタ上デ之ニ類シタモノガアレバ皆削リ度イト云フノダガ他ニハ何處ニモナカロウ
(大尾崎)
アリ樣ハナイ
(栗塚)
五十條ヲ栫エル爲メニ置イタノデ御座イマス
(淸岡)
佛蘭西ニモアル
(槇村)
刪ラズ
(北畠)
置クガ宜シイ
本條「獣畜物品」ヲ「動物」ト改メ「隱潛ノ」ヲ「隱レタル」ト改ム
○第七百五十一條朗讀ス
第四節 不分物ノ競賣
第七百五十一條 不分財產ノ分割ヲ爲スニ當リ共有者ノ一人タリトモ現物ノ分割ヲ拒ム者アルトキハ其財產ノ協議賣却又ハ競賣ヲ爲シ各有權者ノ權利ノ限度ニ應シテ其代金ヲ配當ス
(村田)
民法デハ皆公賣ダガ此處ハ競賣デハナイカ
(栗塚)
民法モ競賣ニナリマシタ
本條ハ原案ニ決ス
○第七百五十二條朗讀ス
第七百五十二條 共有者カ其一人若クハ第三者ニ協議賣却ヲ爲シ又ハ相互ノ間ニ競賣ヲ爲スニ付キ一致ヲ得ル能ハサルトキ又ハ共有者中ニ失踪者若クハ無能力者アルトキハ不分物ノ競賣ハ裁判所又ハ裁判所ノ指定シタル公吏ノ前ニ於テ之ヲ爲ス但民事訴訟法ニ定メタル公賣方式ニ從フコトヲ要ス
共同競賣者ノ各自ハ常ニ競賣ニ付キ第三者ノ參加ヲ許スヲ要求スルコトヲ得共有者ノ一人カ失踪シ又ハ無能力ナルトキハ外人ノ參加ハ當然且必要ナリトス
(栗塚)
末項ハ「許スヲ要求スルコトヲ得」デ御座イマス
(南部)
「公賣方式」ハ訴訟法ニ「競賣方式」ニナツテ居ル
(箕作)
「競賣方式」ト直シマシヨウ
(松岡)
「熟議」ハ「協議」デ宜シイカ
(栗塚)
協議デ御座イマス
(南部)
「熟議」ト云フト熟スル樣ニナル
(箕作)
第三者ノ參加ヲ許スト前ニ在ルガ「外人ノ」ト云フ原文ト同ジダカラ孰レカニシテ貰ヒ度イ
(南部)
「第三者ノ」ガ宜シイ
(栗塚)
前モ「外人」ガ宜シウ御座イマシヨウ
本條第一項「公賣」ヲ「競賣」ト改メ「第三者」ヲ「外人」ト改ム
○第七百五十三條朗讀ス
第七百五十三條 共有者ノ一人カ不分物ノ全部ヲ取得シタルトキハ競賣又ハ協議賣却ハ共有者間ノ分割ノ行爲ト看做サレ會社及ヒ相續ノ分割ニ關シ規定シタル效力ヲ生ス
第三者ニ競落又ハ協議賣却ヲ爲シタルトキハ其賣買ハ第三者ト原共有者トノ間ニ於テ本章ニ規定シタル賣買ノ效力ヲ生ス
(松岡)
此第三者カラ前ノ第三者ヲ云タノダ
(村田)
此處デハ「外人」トハ云ヘヌ
(箕作)
違ツテ居テモ宜シイデハアリマセンカ外ノ人ガ參加スルノト今度ハ第三者ニ競落シタノダカラ「第三者」デ宜シイ
(槇村)
「取得」ト云フノハ分ラヌ「買取ル」トスルガ宜シイ
(淸岡)
競賣ノ上ニ「其」ノ字ヲ入ルレバ宜シイ
(栗塚)
其レガ宜シイ
(南部)
「其」ト云フ字ハ何ヲ指スカ
(栗塚)
取除ヲ指シマス
(松岡)
入レルガ宜シイ
本條第一項競賣ノ上ニ「其」ノ字ヲ加フ
○第七百五十四條朗讀ス
第十三章 交換
第七百五十四條 交換ハ當事者ノ一方カ取得シ又ハ要約シタル或ル物ノ所有權其他ノ權利ノ對價トシテ或ル物ノ所有權其他ノ權利ヲ他ノ一方ニ移轉シ又ハ移轉スルコトヲ諾約スルノ契約ナリ
相互ノ權利ノ價額カ均一ナラサルトキハ金錢其他ノ物ノ補足ヲ以テ之ヲ均一ニス
金錢ノ補足カ交換ニ供シタル物ノ價額ヲ超ユルトキハ其契約ハ之ヲ賣買ト看做ス
修正按第一項左ノ如ク改ム
交換ハ當事者ノ一方カ或ル物ノ所有權其他ノ權利ヲ他ノ一方ヨリ取得シ又ハ之ヲシテ諾約セシメ其對價トシテ或ル物ノ所有權其他ノ權利ヲ他ノ一方ニ移轉シ又ハ移轉スル事ヲ諾約スルノ契約ナリ
(栗塚)
「第十三章」ハ「第四章」トナリマス第一項ハ修正ガ出テ居リマス、報吿委員ノ考デハ修正スル方ガ原意ヲ盡シ又交換ノ意ヲ明カニスルダロウト思ヒマス
(箕作)
修正ガ宜シイ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第七百五十五條朗讀ス
第七百五十五條 當事者ハ交換ニ供シ又ハ諾約シタル物又ハ權利ニ對スル妨碍及ヒ追奪ノ擔保ヲ相互ニ負擔ス
當事者ノ一方カ要約シタル物又ハ權利ヲ取得スルコトヲ得サリシトキハ其選擇ヲ以テ或ハ金錢ノ對償ヲ要求スルコトヲ得或ハ契約ノ解除ヲ請求シテ自己ノ供與シタルモノヲ取戾スコトヲ得但孰レノ場合ニ於テモ損害アレハ其賠償ヲ受ク
右解除ノ權利ハ取戾ニ服スル不動產ニ付キ權利ヲ取得シタル第三者ニ對シテ之ヲ行フコトヲ得ス但第三百七十二條第一項ニ從ヒテ請求ノ公示前ニ其第三者ノ名義ノ登記又ハ記入ヲ爲シタルコトヲ要ス
(栗塚)
「要約シタル」ヲ「他ノ一方ノ諾約シタル」ト致シマス
(松岡)
何ゼ他ノ一方ガアルダロウ
(栗塚)
初メト同ジニ要約ヲ止メマシタ
(渡)
第三項ニ刪除建議ガアル
(栗塚)
刪除ハ我々ノ處デハ採リマセン
(松岡)
前條ノ二項ニ均一ニスルトキ
(栗塚)
貴君ノ獵犬ト私ノ馬ト交換スルトキ貴君ノ獵犬ガ大變高イトキハ私ノ馬ニ二十圓ヲ添ヘテヤルト云フノデ御座イマス
(元尾崎)
均一ト云フト誰カ他カラ均一ニシテヤル樣ニ見ヘル
(箕作)
取戻ニ服スル不動產ト云フノハドウ云フコトデス「デハンジカジヨン」デハアリマセンカ
(栗塚)
「バハンジカジヨン」デハアリマセン、解除スルト戻ツテ來ルト云フノデス
(箕作)
受戻デハナカロウ
(松岡)
解除訴權ニ服スルモノト云フノデス
(栗塚)
元トニ戻ル不動產ニ付キデ御座イマス
(松岡)
云ヒ詰メレバ其不動產ニ付キト云フコトニナル
(箕作)
均一ニシナイト贈遺ニナルカラ交換ハコウ云フモノダト云フコトナノダ
(元尾崎)
均一ニシナケレバ交換ニナルカ
(南部)
ソウデス
(元尾崎)
物ニ依テ價ノ分ラヌモノガアル
(粟塚)
ソレガ定マレバ次ギノ條ノ三項ヲ願ヒマス
(箕作)
分ツテ見レバ取戻デモ宜シイ
本條第二項「要約シタル」ヲ「他ノ一方ノ諾約シタル」ト改ム
○第七百五十六條朗讀ス
第七百五十六條 賣買ノ規則ハ交換ニ之ヲ適用ス但左ノ場合ハ此限ニ在ラス
交換ハ配偶者ノ間ニ之ヲ爲スコトヲ許ス但交換物ノ價額ノ差カ間接ノ利益ヲ成ストキハ生贈與ヲ禁制シ又ハ之ヲ制限スルノ規則ヲ適用ス
當事者ノ一方又ハ雙方カ指定ノ期間ニ於テ任意ニ交換ヲ解除スルコトヲ要約シタルトキハ第六百六十四條ニ從ヒ賣買ノ豫約ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得ル條件ニ從フニ非サレハ其解除ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲス
交換ハ欠損ノ爲メ之ヲ銷除スルコトヲ得ス
(栗塚)
「生贈」ハ「贈與」デ御座イマス、「約束」ハ「要約」トナリマス末項ハ削除デ御座イマス一項ハ「賣買ノ規則ハ左ノ例外ヲ以テ交換ニ之ヲ適用ス」ト致シマス第三項削除建議理由ハ賣買ノ豫約ヲ廢スル故ナリ第四項削除建議理由缺損ニ由ル銷除ヲ廢スル故ナリ
(淸岡)
元トモ直シテアル
(松岡)
元トハ但左ノ例外トアルカラ上ニ入レタノダガ場合ナラ是レデ宜シイ
(南部)
場合デハナイ
(箕作)
「左ノ例外ヲ以テ」ガ宜シイ
(槇村)
「左ノ場合ハ此限ニ在ラス」ガ宜シイ
(元尾崎)
「左ノ條件ハ例外ナリトス」トスルハ宜シイ
(栗塚)
左ノ規定ハ例外ニナル
(槇村)
「左ノ規定ヲ除キ交換ニ之ヲ適用ス」
(渡)
元トノ案ガ宜シイ
(元尾崎)
左ノ規定ハ此限ニ在ラズ
(箕作)
ソウスルト賣買ノ規則ハ交換ニ適用スルケレドモ左ノ例外ハ交換ニ適用セヌト云フコトニナル
(淸岡)
「左ノ例外ヲ以テ交換ニ之ヲ適用ス」ガ宜シイ
(元尾崎)
其レデ宜シイ
本條第一項左ノ如ク改メ賣買ノ規則ハ左ノ例外ヲ以テ交換ニ之ヲ適用ス第二項「生贈」ヲ「贈與」ト改ム第三項「約束」ヲ「要約」ト改ム第四項刪除ニ決ス
○第七百五十七條朗讀ス
第十四章 和解
第七百五十七條 和解ハ當事者カ交互ノ讓合又ハ出捐ヲ爲シテ旣ニ生シタル爭ヲ落着セシメ又ハ生スルコト有ル可キ爭ヲ豫防スルノ契約ナリ
和解ノ成立、右物及ヒ證據ハ下ノ規定ヲ除ク外契約ニ關スル總般ノ規則ニ從フ
(栗塚)
「十四章」ハ「五章」トナリマス、二項ハ「除クノ外合意ニ關スル一般ノ規則ニ從フ」トナリマス「第十四章」ヲ「第五章」ト改ム
本條第二項「除ク外契約」ヲ「除クノ外合意」ト改メ「總般」ヲ「一般」ト改ム
○第七百五十八條朗讀ス
第七百五十八條 無能力者ニ關スル和解ノ有效ニ要スル條件ハ本法ノ第一編ニ之ヲ規定ス
國、府縣、市町村及ヒ公設所ニ關スル和解ハ行政法ノ規定ニ從フ
(栗塚)
「本法ノ第一編ニ」ト云フノハ「無能力者ノ財產管理ノ規定ニ從フ」ト改メ度イノデ御座イマス、一編ハ人事編デ御座イマス此方ハ賣買ニナツテ出マスカラ人事篇ガ出ルカト云フ豫想ガアルカト云フト我々ニハナイノデ御座イマス、他日無能力者ノ管理規定ガ出來レバ其レニ依ルト云フテ置ケバ宜シイト思ヒマス
(渡)
其レガ宜シイ
(箕作)
無能力者ノ財產管理ト云フコトハ民法ダカ何ダカ分ラヌ
(栗塚)
其レナラ削リマシヨウ
(松岡)
削ルガ宜シイ二項ノ府縣町村ト云フコトモ入ラヌ皆削ルガ宜シイ
(淸岡)
皆削ルハ惡ルイ「國府縣市町村ハ行政法ノ規定ニ從フ」トスルガ宜シイ
(南部)
二項ハ別ノ話シデス之ハ削ルト云フ理由ハナイ
(淸岡)
特別法ト云フコトガ出レバ皆刪ルト云フ樣ニナル
(元尾崎)
國府縣ノ和解ト云フコトハナイ
(槇村)
二項ヲ置クト云フ論ナラ贊成スル
(南部)
行政法ニ無クトモ今ノ行政法ヲヤラナケレバナラヌ其レハ大變間違ヒダ末項ハ差支ナイカラ置クガ宜シイ
(北畠)
削ルガ宜シイ
本條ハ刪除ニ決ス
○第七百五十九條朗讀ス
第七百五十九條 和解ハ法律ノ錯誤ノ爲メ之ヲ銷除スルコトヲ得ス但其錯誤カ相手方ノ詭譎ニ起因スルトキハ此限ニ在ラス
(箕作)
法律ノ錯誤ト云フト法律ニ間違ヒガアル樣ニナル
(北畠)
法律ノ更改ダ
本條ハ原按ニ決ス
○第七百六十條朗讀ス
第七百六十條 和解ハ僞造ノ書類又ハ無效ノ行爲ニ因リ承諾シタルコトヲ理由トシテ之ヲ銷除スルコトヲ得ス但此等ノ申立ヲ爲スヲ得ヘキ當事者ニ於テ其書類ノ僞造又ハ其行爲ヲ法律ニ於テ無效ナラシムル事實ヲ知ラサリシトキハ此限ニ在ラス
(淸岡)
四行目ニ「其書類ノ僞造又ハ其行爲」ト讀ミマスガ「其書類ノ偽造ヲ知ラス無效ナラシメルノ事實ヲ知ラサリシトキハ」ト云フノデ御座イマスガ「僞造ヲ知ラス」ト云フ字ヲ加ヘタ方ガ宜カロウト思ヒマス
(松岡)
元トノ議場デ入レタノダ
(栗塚)
ソレカラ「無效ナラシムル處ノ事實ヲ知ラス」ト願ヒマス
(渡)
「處」ガ良カロウ、司法大臣ガ判ヲ捺サナケレバ司法省ノ書付ハ無效ダト云フト司法大臣ノ判ヲ押サンデモ宜シイト思テ居タノト司法大臣ノ判ヲ押サナケレバ無效ト云フノハ知テ居タガ判ガアツタト思テ居タト云フコトト二ツニナル、其差ヒヲ見セテ見ルノデ御座イマス、之ハ實印ノ入用ト云フコトハ知ツテ居タガ、實印ガアツタト思テ居タト云フノデ御座イマスカラ「處」ト云フ字ヲ入レテ其意味ヲ少シク見セ度イ、此儘デハ實印ガ無クテモ有效ト思テ居タト云フノデ御座イマスカラ
(大尾崎)
遂ニ法律上デハ無效トナルト云フ譯ダ
(松岡)
印ガナケレバイケナイト云フコトヲ知ラナカツタト云フノハ法律ノ錯誤ダ印ガアツタト思ツタガ實ハナカツタト云フノハ事實ノ錯誤ダ
(栗塚)
左樣デス
(箕作)
良カロウ、「因」ノ字ハ「依」ノ字デハナイカ
(栗塚)
「依」ルデ御座イマス
(村田)
「當事者ニ於テ其」ト云フノハ何ヲ指スノダロウ
(栗塚)
前ニ操リ替シテ御座イマスカラ
本條ハ「因リ」ヲ「依リ」ト改メ「爲造又ハ」ヲ「偽造ヲ知ラス又ハ」ト改メ「事實」ノ上ニ「處ノ」二字ヲ挿入ス
○第七百六十一條朗讀ス
第七百六十一條 爭ノ定マリタル原因ニ由リテ爲シタル和解ハ新ニ發見シタル證書ニ因リテ當事者ノ一方カ爭ノ一箇若クハ數箇ノ目的ニ付キ何等ノ權利ヲモ有セス又ハ他ノ一方カ其目的ニ付キ完全且爭フ可カラサル權利ヲ有スルコトノ顯ハレタルトキハ事實ノ錯誤ノ爲メ亦之ヲ銷除スルコトヲ得
確定シタル判決又ハ攻撃スルヲ得サル契約ヲ以テ旣ニ爭ヲ落着セシメタル場合ニ於テ其判決又ハ契約ヲ知ルニ利益アル當事者カ之ヲ知ラサリシトキモ亦同シ
然レトモ和解カ從前ノ原因ヨリ生スル有ル可キ總テノ爭ヲ落着セシメ又ハ之ヲ豫防スルヲ目的トシタルトキハ當事者ノ一方ノ利益タル確定證書ノ發見ハ其證書カ相手方ノ所爲ニ因リテ扣留セラレタルニ非サレハ其和解ノ銷除ヲ生セス
(栗塚)
一項ハノ「爭ノ定マリタル原因ニ依リ」ト云フノハ分リマセンカラ「定マリタル爭ニ付爲シタル和解カ」トヤリマシタ
(箕作)
意味ガ違ヒハセヌカ
(松岡)
爭ニ付キ定マリタルダロウ
(栗塚)
「定マツタ爭ニ付キ爲シタル和解カ」ト云フノデ御座イマス
(南部)
何ノ爭ガアツテモ皆和解ヲスルト云フノハ別デス
(栗塚)
甲乙ノ爭ニ付キ甲乙ノ間ニト云フコトデ御座イマスカラ
(松岡)
「原因」ト云フ字ガナケレバナラヌダロウ後ニ「原因」ト云フ字ガアルカラ
(箕作)
定マツテ居ル爭ト云フノダ
(淸岡)
元トノ通リガ宜シイ
(栗塚)
ソレカラ「一箇若クハ數箇ノ」ト云フ字ヲ刪リ度イト思ヒマス
(槇村)
「定マリタル爭ニ付キ」トスルカ
(箕作)
若シ爭ガ定マツテ一箇又ハ數箇ノ爭ヲ止メシ豫防スルコトヲ目的トスルカラトアリマス、報吿委員ノ說デ良カロウ
(栗塚)
ソレカラ「爭ノ目的ニ付キ」ト改シマス三項ハ「生スルコトアルヘキ」トナリマス
(村田)
「攻撃スルコトヲ得サル」ダロウ
(南部)
ソレハ「攻撃スルヲ得サル」デ宜シイ
本條第一項左ノ如ク改ム定マリタル爭ニ付キ爲シタル和解ハ新ニ發見シタル證書ニ因リテ當事者ノ一方カ爭ノ目的ニ付キ云々以下原按ノ通リ第二項「生スル有ル可キ」ヲ「生スルコトアル可キ」ト改ム
○第七百六十二條朗讀ス
第七百六十二條 有效ノ和解ハ當事者ノ相互ニ認定シタル權利又ハ利益ニシテ旣ニ生シ又ハ豫見シタル爭ノ目的タルモノニ付テハ當事者間ニ在テハ確定判決ノ判認ノ效力ヲ生ス此場合ニ於テハ其權利又ハ利益ハ從前ノ原因ニ由リテ保持シタルモノト看做ス但當事者双方ニ更改ヲ爲スノ意思アリシトキハ此限ニ在ラス
此ニ反シテ相互ニ供與シ又ハ約束シタル權利又ハ利益ノ全部若クハ一分ニシテ爭ノ目的タラサリシモノニ付テハ和解ハ物權又ハ人權ヲ生シ之ヲ移轉シ若クハ之ヲ消滅セシムル有償名義ニ關スル契約ノ規則ニ從フ
(栗塚)
「認定」ハ「追認」トナリマス「約束」ハ「諾約」トナリマス「判認」ト云フノハ何ノコトヤラ分ラヌカラ「權利表白」トシ度イ考デ御座イマスガ、先キニ裁判又ハ分割ハ如何ナル效ガ生ズルカト云フコトガ度々アリマス、會社ノ解散ト云フ時デモ相續ノ時デモ半分ノ效ヲ生ズルカ移轉ノ效ヲ生ズルカト云フ問題デ御座イマス、分割ノ時ニ元トカラ權利ガアルト看做シテ掛ツタノト分割シタトキノ權利ガ移ルノト此二ツノ結果ガ違ヒマス若シ元トカラ權利ガアツタモノト看做スゾヨト云フコトガ先キニ數ケ條御座イマス、初メニハ「權利宣吿」トヤロウト思ヒマシタガ宣吿ト云フノハ裁判ニ係ルトキハ宣吿デ宜シウ御座イマスガ元來權利ガアツタト云フコトヲ示スノデ御座イマスカラ宣吿ト云フ字ガ用ヒラレズシテ「表白」トヤリマシタ
(大尾崎)
權利固有ノ效力ト云フノダ
(栗塚)
左樣デス
(松岡)
表ガ白クテ裏ガ黄色カ
(栗塚)
此處デ「白」ト云フノハ申スト云フ意味デ御座イマス
(南部)
ソレガドウシテモ云ヘヌ「宣吿」ト云テハドウダ
(栗塚)
宣ノ字ハ御神カラ降ルト云フ意味ニナリマスカラ
(淸岡)
「此場合ニ於テハ保持シタモノト看做ス」ト云フテ分ツテ居ルカラ「判決ノ效力ヲ生ス」デ宜カロウ
(栗塚)
此處ハソレデモ宜シウ御座イマスガ此字ガ何處ニモ出マスカラ「權利認定」ト云フ字ガ出來マシタ
(箕作)
「權利認定」デハイケマセンカ
(松岡)
「權利認定」ガ宜シイ
(大尾崎)
「權利認定」ガ宜シイ
(箕作)
判決ニ權利ヲ認定スルコトガアリマシヨウカ
(村田)
云ヒ詰メレバ確定判決ト看做スト云フコトダ
(栗塚)
六百三十四條ニ「公用徵收ニ服シタル熟議ノ讓渡ナキトキ所有權徵收ヲ宣言スル裁判上又ハ行政上ノ行爲ハ其行爲ニ於テ定メタル負擔及ヒ條件ヲ以テ國府縣町村又ハ其權利ノ讓渡人ニ右財產ノ所有權ヲ移轉ス」トアリマス卽チ裁判ガ權利ヲ移轉スルノデ御座イマス
本條第一項「認定」ヲ「追認」ト改メ「確定判決ノ判認」ヲ「權利認定」ト改ム第二項「約束」ヲ「諾約」ト改ム
于時正午十二時休憩
午後第一時開議
○第七百六十三條朗讀ス
第十五章 特定會社
第一節 會社ノ性質及ヒ設立
第七百六十三條 總般ノ會社ノ設立ハ數人カ各自ニ配當ス可キ利益ヲ收ムル爲メ財產ヲ共通シ又ハ共通セント約束スルノ契約ナリ
特定會社ハ或ハ物ヲ共通シテ利用スル爲メ或ハ一定ノ事業ヲ成シ又ハ職業ヲ營ム爲メ各社員カ定マリタル物ノ出資ヲ爲シ又ハ之ヲ約束スルノ會社ナリ
(栗塚)
「第十五章」ハ「第六章」トナリマス「總般ノ」ヲ「凡ソ」ト致シテ「凡ソ會社ハ數人カ各自ニ配當ス可キ利益ヲ收ムル爲メ財產ヲ共通シ又ハ共通スルコトヲ諾約スルノ契約ナリ」ト致シマス
(元尾崎)
刪除ハドウシマス
(栗塚)
民事會社ガアル以上ハナケレバナリマセン、本來會社ト云フモノハ斯ノ如キモノデアル其中商法ニ屬スルモノハ商法デヤルガ本家ハ何處ニ在ルカト云フト民法ニ在ル出見世ガ繁昌シテモ本家ヲ潰スト云フコトハアルマイソレカラ二項ハ「特定會社カ或ル物ヲ共通シテ利用スル爲メ又ハ或ル事業ヲ爲シ若クハ或ル職業ヲ營ム爲メ各社員カ定マリタル物ノ出資ヲ爲シ又ハ諾約スルノ會社ナリ」ト致シマス
(松岡)
「會社ハ會社ナリ」ト云フノハ可笑シイ
(淸岡)
「會社ノ成立」トシ樣「會社ハ契約ナリ」シト云フノハ可笑シイ
(粟塚)
會社ト云フ家ヲ指スノデハアリマセン無形ノ事ヲ指スノデス
(淸岡)
之ハスルノハ卽チ成立ニナル元來其レヲ組織スル契約ダカラ
(栗塚)
會社ハ卽チ契約デス
(元尾崎)
「共通スルコトヲ契約スルノ結合ナリ」トスレバ宜シイ
(淸岡)
凡ソ會社ハト云フノハ下ノ特定會社ニ釣合ハヌト思フ此會社ハ一般ノヲ指スノダカラ
(南部)
其處デ凡ソガ宜シイ
(元尾崎)
凡ソノ中ニ特定會社ガ這入ツテ居ルカラ宜シイ
(槇村)
契約スルノ結合ナリガ宜シイ
(栗塚)
ソウスルト契約シテ集ツタ數人ヲ云フ樣ニナル
(栗塚)
人ノ義務ヲ指シテ居ル場合ト組合ヲシタ旨意ヲ指シテ居ルトキト二ツアリマス之ガ組合デ居ル綱ヲ指シテ居ルノデ御座イマス
(元尾崎)
契約スルノ綱ナリト云フカ
「第十五章」ヲ「第六章」ト改ム
本條ハ左ノ如ク改ム
凡ソ會社ハ數人カ各自ニ配當ス可キ利益ヲ收ムル爲メ財產ヲ共通シ又ハ共通スルコトヲ諾約スルノ契約ナリ特定會社ハ或ル物ヲ共通シテ利用スル爲メ又ハ或ル事業ヲ爲シ若クハ或ル職業ヲ營ム爲メ各社員カ定マリタル物ノ出資ヲ爲シ又ハ之ヲ諾約スルノ會社ナリ
○第七百六十四條朗讀ス
第七百六十四條 商事會社ニ特別ナル規則ハ商法又ハ特別法ヲ以テ之ヲ定ム
包括會社ニ特別ナル規則ハ本編第二部第二章ニ於テ之ヲ定ム
(栗塚)
二項ハ刪除建議ガ御座イマス
(西)
削除ハ宜シイガ此事ハ委員長カラ「ボアソナード」ニ云フテヤツテアリマシヨウ
(栗塚)
出來テ居リマシヨウ前ノ贈與ト相續ノコトガ定マレバ相續ハ卽チ之デ御座イマスカラ
(元尾崎)
尾崎家ヲ包括スル會社ナリト云フカ
(村田)
ソウデハアリマセン
(松岡)
特定會社ト包括會社ト二ツ並ベルナラ宜シイガ左モナケレバ特定ト云フ字ヲ削ツテ會社トスレバ宜シイ
(北畠)
其方ガ宜シイ
(淸岡)
本條ハ皆刪ルガ宜シイ
(南部)
包括名義デ取得スルモノハ權利義務ヲ相續スト云フコトガアルカラ仕方ガナイ
(松岡)
包括會社ハ六十三條ノ定義ニ外レマスカ
(栗塚)
包括名義モ這入テ居リマス
(南部)
「特定」ト云フ字ヲ削ツテ總テノ會社ニ適用スルト大變違ウ
(村田)
二項ハ置クガ宜シイ特定ガアレバ包括ガナケレバナラヌ
(松岡)
普通ノ會社ハ是レヨリ外ナイノガ當リ前ダ別ニ違ツタモノガアレバ違タ名ヲ付ケレバ宜シイ、ソレデ當リ前ノ會社ノ規則ヲ適用スレバ宜シイ、詰リ會社ハ異別ノ人ガ物ヲ出シ合ツテスルノダカラ會社ノ規則ヲ設ケテ置イテ包括ナリ特定ナリト云フコトヲ入レテ包括會社ハ何々、特定會社ハ何々ト云ハナケレバナラヌ
(栗塚)
ソレハ起按者ニ云ハナケレバ出來ナイ
(村田)
包括ニ對スル特定ダカラ特定ガナケレバ包括ハ入ラヌ
(松岡)
獲得ノ處デモ贈遣ト云フ所ニ特定ト包括トアル是レモ其筆法デ通ス積リダロウ
(南部)
其レハ通ス積リダカラ主義ヲ變ルノハ良クナイ
(栗塚)
主義ハ構ハヌ唯「特定」ト云フ字ヲ除クノダロウ
(元尾崎)
是レ迄特定會社包括會社ト云フモノガ一ツモ出タコトハナイ
(南部)
如何ナル必要デ削ルカ分ラヌ削ルナラ誰カ擔任シテ調ベルガ宜シイ
(松岡)
元來贈遺ナドハ一ツノ名ニハナラヌ會社ト云フノハ外ノ人ガ寄合ツテ會社ト云フ名ガアルノダ、其レヲ包括ナドト云フ名ヲ付ケルノハ良クナイ
(南部)
ソンナラ包括ト特定ノ名義ヲ止メテ始メテ議論ガ立ツ
(松岡)
包括ヲ削ルコトニナレバ特定モ素ヨリ削ル
(村田)
同意ダ
(渡)
置クニシテモ本編二部二章ト云フコトハ書ケナイカラ何トカ書カナケレバナラヌ其レニ困ルダロウ、其レデ據ナク削ルト云フト茲ニ紛議ガ出來ル私モ置クコトニ左袒シ樣カ結末ガツカナイ
(南部)
二項ハ分ラナイカラ削ツテモ特定會社デ宜シイ
(大尾崎)
「特定」ハ置イテモ良カロウ
(松岡)
削ル
(南部)
改メテ歎願シマスガドウカ御置キヲ願ヒマス
(栗塚)
二項ハ削リマス
本條第二項ハ刪除ニ決ス
○第七百六十五條朗讀ス
第七百六十五條 社員ノ出資ハ或ハ動產又ハ不動產ノ所有權若クハ收益權或ハ金錢又ハ技術勞力ヲ以テスルコトヲ得
出資ハ不均一ナルコトヲ得
本條ハ原按ニ決ス
○第七百六十六條朗讀ス
第七百六十六條 民事會社ハ當事者ノ意思ニ因リテ之ヲ無形人ト爲スコトヲ得
此場合ニ於テハ會社ニ社名ヲ付シ且其契約ハ商事會社ノ公示ノ爲メ法律ニ規定シタル方式ニ從ヒテ之ヲ公吿スルコトヲ要ス
(元尾崎)
何ゼ「民事會社」トヤツタロウ
(栗塚)
商事會社ハ當然無形人デアルガ民事會社デモ無形人トスルコトガ出來ル
(松岡)
商事會社ハ當然無形人トハ出來ヌ樣ダ
(箕作)
日本ノ商法ハ無形人ダ
(松岡)
商社ハ無形人ニ非ズト雖モ法律ニ於テ無形人ト看做サルルコト往々之アリト云フノガ「ルエスレル」ガ商法ヲ書イタ旨意ダ、商社ハ當リ前ニ無形人ト云フモノデハナイダロウト思フ
(元尾崎)
無形人ニ違ヒナイ
(松岡)
獨立スレバ是非商法ニ規メテアル登記公吿ヲシナケレバナラヌ、ソウスレバ支配ヲ商法デ受ケナケレバナラヌ、無形人ニナラヌ組合事業等ガ民法ニハナイ樣ニナル、云ヒ詰メレバ民法ノ會社ハナイ樣ニナル
(槇村)
「銷除シタル理由如何」ト書イテアル
(南部)
議場デ削ツタノデス、公吿シタナレバ無形人トスル樣ニナルカラ矛盾スル樣ニナルカラ削リマシタ
(松岡)
良ク見ルト矛盾ト云フモ變ナモノダ人ノ意思ニ因テ無形人ト出來ル併シ公吿ガシテナケレバ役ニ立タヌソレ故ニ公吿ヲシナケレバナラヌ、意思ハナイ無形人ニナル積リデナイト思ツテモ公吿ヲスレバ無形人トシタ意思ガアツタト外カラ推定スル、何故ニ削ツタト云フ理由ニ乏シカロウ
(箕作)
有テモ宜シイ
(淸岡)
商法ニモ牴觸スルダロウ
(南部)
社名ヲ付ケレバ無形人ダ、社名ヲ付ケレバ公吿ヲシナケレバナラヌ、社名ヲ付ケタバカリデ公吿シナクトモ宜シイト云フ論モアルダロウ
(栗塚)
社名ヲ付シ會社契約ヲ公吿シタト云フ丈ケデ無形人ニスルト云フコトガアル、ソレナレバ之ヲ公示スルコトヲ要スト云フニモ及バヌ、之ヲ會社ニ名ヲ付シ又公吿スルコトガ必要デアルト云フテ置ケバ宜シイノダト云フ理窟デアリマシタ推定セシムルト云フコトハ面白クナイ、社名ヲ付シテ無形人デナイト云フ原案ニハ此條ニ第三項アリ之ヲ銷除シタル理由如何カ知レヌ
(淸岡)
削ツテ良カロウ
(栗塚)
「公吿」ハ「公示」デハ如何デシヨウ
(松岡)
元トハ「公示」ダ
(箕作)
商法ハ公吿ダ
(栗塚)
公示ハ商法デハ公吿トナツテ居ルノデスカ、「公示」ノ方ガ良カロウト思ヒマス
(松岡)
公示ト云フノハ登記公吿ヲ兼ネタコトニシテアル、公吿ハ公吿バカリニシテアル
(箕作)
前ノ條ニ不均等ト性質ハ別異ナルコトヲ得ト云フノガ前ニハアツタガドウ云フ譯デ削リマシタカ
(栗塚)
「出資ハ不均一ナルコトヲ得」ト云フノデス
(松岡)
一項ニ勞力ガアリ金錢ガアルカラ
(箕作)
二項ハ一項ト違ツテ一人ガ金一人ガ不動產デ社員同士ガ出スト云フコトデ一項ハ社員ガ皆不動產ナラ不動產ヲ出スト云フコトデアツタガ入リマセンカ
(松岡)
入リマセン
本條ハ「公吿」ヲ「公示」ト改ム
○第七百六十七條朗讀ス
第七百六十七條 契約ノ總般ノ規則ハ會社ニ之ヲ適用シ殊ニ當事者ノ承諾、能力、目的、原因及ヒ證據ニ之ヲ適用ス
(粟塚)
「合意ノ一般ノ規則殊ニ當事者ノ承諾能力目的原因及ヒ證據ニ議スルモノハ之ヲ會社ニ適用ス」ト云フ方ガ良カロウト思ヒマス
(松岡)
ソレデ宜シイ
本條ハ左ノ如ク改ム
合意ノ一般ノ規則殊ニ當事者ノ承諾、能力、目的、原因及ヒ證據ニ關スルモノハ之ヲ適用ス
○第七百六十八條朗讀ス
第七百六十八條 會社ハ其目的ノ商事ニ在ラサルモ資本ヲ株式ニ分ツトキハ商法ノ規定ニ從フ
本條ハ原按ニ決ス
○第七百六十九條朗讀ス
第二節 社員ノ權利及ヒ義務
第七百六十九條 會社ハ契約ノ日ヨリ開始ス但明示又ハ默示ニテ他ノ期限ヲ定メ又ハ條件ヲ帶ハシメタルトキハ此限ニ在ラス
各社員ハ會社ノ開始スル時ニ於テ其約束シタル出資ノ差出ヲ實行スルコトヲ要ス之ヲ實行セサルトキハ其社員ハ當然出資ニ生スル果實及ヒ利息ヲ負擔ス且遲延ノ爲メ損害ヲ生シタルトキハ出資ノ金錢ヲ以テスルトキト雖モ其賠償ヲ負擔ス
(栗塚)
「實行セサル」ヲ「差出スコトヲ要ス」トシテ「之ヲ差出ササルトキハ」トシマス
(元尾崎)
商法ニハ「差入」トアル
(村田)
ソンナラ「差入」ニシマシヨウ
(渡)
「差出スコトヲ要ス」ガ宜シイ
(南部)
商法モ「差出シ」トスルガ宜シイ
(元尾崎)
商法ハ元老院ニ往ツタ
(栗塚)
「差入」ト致シマシヨウ「約束シタル」ハ「諾約シタル」トナリマス
(淸岡)
之ガ開示スルニハ手續ガアルカラ
(松岡)
云ヒ詰メレバ滅多ニナイ
本條第二項「其約束シタル出資ノ差出ヲ實行スルコトヲ要ス之ヲ實行セサルトキハ」トアルヲ「其諾約シタル出資ヲ差入ルルコトヲ要ス之ヲ差入レサルトキハ」ト改ム
○第七百七十條朗讀ス
第七百七十條 會社ニ對シテ技術又ハ勞力ノ出資ヲ約束シタル社員カ其諾約ヲ欠キタルトキハ其社員ハ他ノ社員ノ選擇ニ從ヒ會社ニ對シテ或ハ其義務ノ履行ヲ欠キタル當時ヨリ會社ノ受ケタル損害ヲ賠償シ或ハ其勞力ヲ會社外ニ用ヰテ得タル利益ヲ讓與スルノ責ニ任ス
(栗塚)
「約束」ハ「諾約」トナリマス
(元尾崎)
「缺キタル當時ヨリ」ハ「缺キタルトキ」ガ宜シイ
(南部)
皆當時トナツテ居ル
本條「約束」ヲ「諾約」ト改メ「讓與」ヲ「交付」ト改ム
○第七百七十一條朗讀ス
第七百七十一條 動產ト不動產トヲ問ハス特定物ノ所有權ヲ出資ト爲スコトヲ約束シタル社員ハ會社ニ對シ賣主ト同シク其物ノ追奪又ハ面積、數量ノ不足及ヒ隱潛ノ瑕疵ニ付キ擔保ノ責ニ任ス
又社員カ物ノ收益權ノミヲ出資ト爲スコトヲ約束シタルトキハ賃貸人ト同シク擔保ノ責ニ任ス
(栗塚)
「其物ノ妨碍追奪」ト致シマス之ハ起案者ガ後ニ入レテ來タノデアリマス
(元尾崎)
之ハ宜シイ
本條ハ「約束」ヲ「諾約」ト改メ其物ノ下ヘ「妨碍」ノ二字ヲ加ヘ「隱潛ノ」ヲ「隱レタル」ト改ム
第七百七十二條朗讀ス
第七百七十二條 會社契約ヲ以テ社員中ヨリ一人又ハ數人ノ支配人ヲ選任シタルトキハ其各員ハ受任ノ權限ヲ踰ユルコトヲ得ス
權限ノ定マラサル支配人ハ共同又ハ各別ニテ通常ノ管理行爲ヲ爲スニ止マル
又支配人ハ會社ノ目的中ニ存スル一層重要ナル行爲ニ付テハ共同ニテノミ之ヲ爲スコトヲ得但異議アル場合ニ於テハ其行爲ヲ中止シ總社員ノ多數ヲ以テ之ヲ決ス
(栗塚)
支配人ハ商法ニ從テ業務擔當人ト致シマス「多數」ハ起案者ガ「過半數」ト改メテ來マシタ
(元尾崎)
過半數デハ惡ルクハナイカ
(松岡)
商法デモ總會議ノ過半數ト云フコトヲセズシテ尋常ノ過半數ト云フノデナケレバナルマイ
(箕作)
商法ト違ヒハアルマイ
(元尾崎)
ソウスルト一層ト云フノハ惡ルイ、一層ト云フト目的ヨリ一層重要ナルト云フコトニナル
(箕作)
重要ハ管理行爲ヨリ重イト云フコトダロウ
(栗塚)
ソウデス併シ一層ト云フ字ヲ削リマスカ
(松岡)
削レバ宜シイ
(栗塚)
ソウスルト「會社ノ目的中ノ重要ナル行爲ニ付テハ」デ宜シウ御座イマシヨウ
(槇村)
其レガ宜シイ
本條ハ「支配人」トアルヲ「業務擔當人」ト改メ第三項「目的中ニ存スル一層重要ナル」トアルヲ「目的中ノ重要ナル」ト改ム「多數」ヲ「過半數」ト改ム
第七百七十三條朗讀ス
第七百七十三條 會社契約ヲ以テ支配人ヲ選任セサル場合ニ於テ總社員ノ一致ニテ之ヲ選任セサルノ間ハ社員ノ各自ハ前條ニ規定シタル行爲ヲ同一ノ條件ニ從ヒテ爲スノ權ヲ有ス
本條ハ原按ニ決ス
第七百七十四條朗讀ス
第七百七十四條 會社契約ヲ以テ支配人ニ選任セラレタル社員ハ正當ノ原因アルトキ又ハ其承諾ヲ得及ヒ總社員ノ同意ヲ得タルトキニ非サレハ委任ノ期限內ニ之ヲ解任スルコトヲ得ス
會社契約以後ノ行爲ヲ以テ選任シタル支配人ハ之ヲ選任シタルト同一ノ方法ヲ以テ其承諾ヲ要セスシテ之ヲ解任スルコトヲ得ス
(栗塚)
末項ハ「契約以後ノ契約ヲ以テ」デハ如何デス
(松岡)
元ト契約ト直シテアル
(箕作)
契約ト云フ字ガ二ツ入リマスカ「會社契約以後ニ」デ良カロウ
(松岡)
以後ノ契約カラ出來タ選任ト云フコトダロウ
(箕作)
契約其ノ物デヤラナケレバナラン後ハ契約ガ濟ンデ選ンダノダ
(南部)
契約ト云フ字ハアル方ガ宜シイ
(栗塚)
契約ト云フ字ハ入用ト思ヒマス七百八十四條ヲ御覽ヲ願ヒマスソレカラ一項ハ「又ハ其承諾及ヒ」デ良カロウト思ヒマス
(槇村)
「ヲ得」ヲ削ルカ
本條ハ第一項「其承諾ヲ得及ヒ」トアルヲ「其承諾及ヒ」ト改メ第二項「行爲」ヲ「契約」ト改メ
第七百七十五條朗讀ス
第七百七十五條 支配人ヲ選任シタル方法ノ如何ヲ問ハス其中ノ一人又ハ數人ノ死亡、辭任又ハ解任アリテ是等ノ事件ノ爲メニ會社ノ解散セサルトキハ總社員ノ多數ヲ以テ其補闕者ヲ選任ス
本條ハ「多數」ヲ「過半數」ト改ム
第七百七十六條朗讀ス
第七百七十六條 右ノ外會社定款ノ執行ニ關スル諸般ノ處分ハ亦社員ノ完全多數ヲ以テ之ヲ定ム
定款ノ違反又ハ定款外ノ行爲ニ付テハ總社員ノ一致ヲ得ルヲ必要トス
本條ハ定款又ハ法律ノ此ニ反スル規定ヲ妨ケス
(粟塚)
「諸般」ヲ「總テ」ト致シ「完全多數」ヲ「過半數」ト致シマス
(元尾崎)
「定款ノ違反」ト云フノハ可笑シイ
(箕作)
定款ヲ改メルコトハナイガ商法ニアル定款ノ變更ト同ジコトダロウ
(松岡)
違反ト云フト事ガ違ウ
(栗塚)
定款ニ違ウタコトヲスルニハト云フノデ御座イマス
(村田)
ナニシロ違反ト云フ字ハ惡ルイ
(栗塚)
定款ニ規定シテ居ランコトヲスルノト定款ニ背イタコトヲスルノト二ツデ御座イマス
(元尾崎)
定款ニ反シタル行爲又ハ「定款外ノ行爲」トシテ良カロウ
(淸岡)
ソレガ良カロウ
(南部)
ソレガ良カロウ
本條第一項「諸般」ヲ「總テ」ト改メ「完全多數」ヲ「過半數」ト改ム第二項「定款ノ違反又ハ」トアルヲ「定款ニ反スル行爲又ハ」ト改ム
第七百七十七條朗讀ス
第七百七十七條 第三者カ會社ト支配人タル社員ノ一人トニ對シテ同性質ノ債務ヲ負擔シタルトキ其第三者カ二箇ノ債務ヲ消滅セシムルニ足ラサル金錢又ハ有價物ヲ右社員ニ辨濟スルニ於テハ其社員ハ會社ノ債權額ト自己ノ債權額トノ割合ニ應スルニ非サレハ自己ノ債權ノ辨濟ニ之ヲ充當スルコトヲ得ス
但債務者ノ爲シタル充當ヲ變更スルコトヲ得ス
然レトモ債務者カ正當ノ利益ナクシテ社員ノ債權額ノ全部ニ充當シタルトキハ社員ハ其辨濟ノ額內ヨリ右ノ割合ニ應スル部分ヲ會社ニ讓與スルノ責ニ任ス
債務者又ハ社員カ有效ナル充當ヲ爲ササルトキハ第四百九十三條ニ從ヒ法律上ノ充當ノ規則ヲ適用ス
(栗塚)
第一項ノ「支配人タル社員」ハ「業務擔當社員」トナリマス二項ノ「讓與」ハ元ト「交付」トアリマシタ
(元尾崎)
「會社ニ差出スノ責ニ任ス」トスレバ宜シイ
(栗塚)
七十條モ「利益ヲ交付スルノ責ニ任ス」デ宜シウ御座イマシヨウ之レモ「交付」ト致シマス
本條第一項「支配人タル社員」トアルヲ「業務擔當社員」ト改メ第二項「讓與」ヲ「交付」ト改ム
第七百七十八條朗讀ス
第七百七十八條 支配人タルト否トヲ問ハス社員ニシテ會社ノ債務者ヨリ會社ニ對スル債務ノ一分ヲ受取リタル者ハ場合ノ如何ニ拘ハラス共同ノ社員ニ之ヲ利得セシムルコトヲ要ス但自己ノ持分トシテ受取證書ヲ與ヘタルトキト雖モ亦同シ
(箕作)
「共同社員ニ」トアルハ
(松岡)
「會社ニ」ト云ヘバ宜シイノデ
(栗塚)
共同ハ入リマセン
(南部)
「總社員」デモ宜シイ
(松岡)
商法デモ「會社ニ」トシテアル
(栗塚)
無形人ヲ爲シテ居ラヌ會社ハ人ノ方ヲ主トシテ書カナケレバナラン
(元尾崎)
無形人デナイ以上ハ訴フルコトハ出來ナイダロウ
(南部)
會社ト云フ名前デ宜シイソレハ差支ナイ
(栗塚)
業務擔當人ヲ相手取レバ會社ヲ相手取ツタニナルダロウガ會社ノ資本ハ是レ丈デ御座イマスルト云フコトハ出來ナイ
(箕作)
公吿ノ式ハ商法ニ依ルカ公吿ヲシタ後ノ規定ハ民法デヤル積リダロウ
(栗塚)
ソレハ其ノ積リデス
(元尾崎)
其處ガ暖昧ニナル
(松岡)
私ハソウハ思ハヌ登記公吿シテ商法ニナル以上ハ商業帳簿ヲ栫ヘテ商法ニ依ラナケレバナラン
(箕作)
登記公吿丈ケハ商法ニ依ルケレドモ後ノ事ハコノ民法ニ依ル
(元尾崎)
公吿スル丈ケハ商法ニ從ハナケレバナランガ其ノ外ハ之ニ從ハナケレバナランカ
(栗塚)
左樣デス併シ株式ハ此ノ限ニ在ラズデ御座イマス
(元尾崎)
合資會社抔ハドウシマス
(箕作)
民事ノ合資會社ガ出來ル譯ニナル
(元尾崎)
登記ハシテ居ルケレドモ之ハ民事デ御座レバ一方ハ否登記シテ居ル以上ノ商事ダト云フ樣ナ爭ヒガ起ルデアロウ
(箕作)
商法ヲ見テ商法ノ商事ニ這入ランモノハ民事會社ト見ルヨリ仕方ガナイ
(栗塚)
登記ヲシテハ商事ニナルト云フコトハアリマセン
(村田)
「共同ノ社員」ハ「會社員」ガ宜シイ
(松岡)
會社ノ爲メニ受取ツテ會社ニ對スルノダカラ「會社」デ宜シイ
(淸岡)
佛蘭西ノ民法デ、流用セシ處ノモノヲ共通財產ノ合部ニ返還スルトアル
(渡)
會社デ宜シイ
本條ハ「支配人」ヲ「業務擔當人」ト改メ「共同ノ社員ニ」ヲ「會社ニ」ト改ム
第七百七十九條朗讀ス
第七百七十九條 支配人タルト否トヲ問ハス各社員ハ其過失又ハ懈怠ニ因リテ會社ニ加ヘタル損害ヲ賠償スルノ責ニ任ス
此損害ハ社員カ會社營業ノ或ル他ノ事件ニ付キテ會社ニ得セシメタル利益ト相殺スルコトヲ得ス但其事件ノ互ニ牽連シタルトキハ此限ニ在ラス
本條ハ「支配人」ヲ「業務擔當人」ト改ム
第七百八十條朗讀ス
第七百八十條 會社契約ヲ以テ支配人ヲ選任セサル爲メニ業務ヲ執行スル社員ハ自己ノ業務ヲ執行スルト同一ノ注意ヲ加ヘサルトキニ非サレハ其過失ノ責ニ任セス
(栗塚)
「執行スル」ハ「取扱フ」デ良カロウト思ヒマス
(渡)
「取扱フ」ガ宜シイ
(栗塚)
ソレカラ「自己ノ業務ニ於ケルト」トスルガ良カロウト思ヒマス
(淸岡)
業務ノ取扱ヒニ於ケルダロウ
(南部)
「於ケル」デ宜シイ
本條ハ左ノ如ク決ス
會社契約ヲ以テ業務擔當人ヲ選任セサル爲メニ業務ヲ取扱フ社員ハ自己ノ業務ニ於ケルト同一ノ注意ヲ加ヘサルトキニアラサレハ其過失ノ責ニ任セス
第七百八十一條朗讀ス
第七百八十一條 各社員ハ會社資本中ニ於テ使用スルコトヲ得ル金額ナキトキハ會社ノ所屬物ニ關スル必要及ヒ保持ノ費用ヲ自己ノ權利ノ割合ニ應シテ分擔スルノ責ニ任ス
(栗塚)
此處ニ「保持」ト云フ字ガ御座イマスガ七百六十二條ノ第一項ノ終ニ「保持」ト云フ字ガ御座イマシタガ彼レハ留存シタルトカ留保スルトカ云ハナケレバナランノデ御座イマス
(元尾崎)
「保持」デ宜シイ
本條ハ原案ニ決ス
第七百八十二條朗讀ス
第七百八十二條 右ニ反シテ支配人タルト否トヲ問ハス各社員ハ會社ヲシテ自己ノ出資外ニ會社ノ爲メ有益ニ立替ヘタル金額ヲ返還セシメ又ハ會社ノ利益ノ爲メ善意ニテ負擔シタル義務ヲ認諾セシメ又ハ會社ノ營業ノ爲メ自己ノ財產ニ受ケタル避クルヲ得サル損害ヲ賠償セシムルコトヲ得
(粟塚)
「避クルヲ得サル」ハ「避クルコトヲ得サル」ト致シマシヨウカ
(松岡)
「コトヲ」ハ入ラン
本條ハ「支配人」ヲ「業務擔當人」ト改ム
于時午後第二時三十分閉會