旧民法・法例(明治23年)

法律取調委員会 民法草案再調査案議事筆記 第17回

参考原資料

備考

  • 未校正のテキストデータです.
民法財產取得篇再調査按第十七回議事筆記
自第七百一條至第七百三十二條
第七百一條朗讀ス
第七百一條 買受物ノ不分ノ部分カ第三者ニ屬スルトキハ其部分ノ重要ノ如何ニ拘ハラス買主ハ損害賠償ヲ得テ契約ヲ銷除スルノ權利ヲ有ス
買主ハ契約ヲ銷除セシメサルトキハ買受物ノ價格ノ減少シタルトキト雖モ常ニ其買受代金ト契約費用トノ右部分ニ對當スル部分ヲ取戾シ又其價格ノ增加シタルトキハ其損害ノ賠償ヲ受ク
(元尾崎委員)
右ノ部分ニ對當スル部分ト云フノハ
(南部委員)
不分ノ部分デス
(栗塚報吿委員)
買受代金ト費用ノ部分ヲ取リ戻スト云フノデス
(元尾崎委員)
不分ノ部分ダカラ其レ丈ケ取戻シテモ仕方ガナイ
(南部委員)
金デ取戻ス千圓ノ内第三者ニ屬スルニ百圓ナラニ百圓丈ケト云フノデス
(元尾崎委員)
地面ヲ二百坪取ラレテハ叶ハン
(南部委員)
其二百坪丈ケノ代金ヲ取戻ス
(松岡委員)
「セシメサルトキハ」ハ「セサルトキハ」ノ方ガ良カロウト思フ
(村田委員)
ソレガ宜シイ
(箕作委員)
部分ト云フノガ二ツアルカラ分リ惡クイ
(南部委員)
七百條ノ「銷除ヲ宣吿セサルトキハ」ヲ決シヨウデハナイカ
(栗塚報吿委員)
「判決ヲ受ケサルトキハ」デ宜シイ
(箕作委員)
減少シタトキデモ對當スル部分ヲ取戻ス事ハ出來ル價格ノ增減シタトキハ損害ノ賠償ヲ受ケル丈ケニ見ヘハセンカ賃貸シタ部分ヲ取戻シタ上ニ損害賠償ヲ得ラルルト云フ事ニ見ラルレバ宜シイガ
(南部委員)
價格ノ增加シタル賠償ダカラ代金モ一所ニ這入ツテ居ルダロウ
(箕作委員)
損害賠償ヲ受クト云フノハ
(南部委員)
損害賠償ノ内ニ對當スル部分ガ這入ル積リデス
(松岡委員)
其實增加モ割合ニ應ジテ取レルト云フノダガ文字ガ分ラン「得分」ト云フト直グ分ル
(箕作委員)
モツト儲ツタ筈デモアツタニ取レナカツタト云フ樣ニ考ヘナケレバナラン
(南部委員)
損害賠償ノ内ニ利得ガ這入ツテ居マス
(栗塚報吿委員)
七百條ハ「銷除セシメサルトキハ」デス
(南部委員)
得ザルト云フ意味デハナイ
(松岡委員)
ソウスルト「求メサルトキハ」デ宜シイ
(栗塚報吿委員)
七百條ノ「銷除ヲ求メサルトキハ」ト致シマシヨウ
(箕作委員)
ソレガ宜シイ
(南部委員)
七百條モソウダロウ七百一條ノ二項モ「契約ノ銷除ヲ求メサルトキハ」トシマシヨウ
(箕作委員)
ソレデ宜シウ御座イマシヨウ
(栗塚報吿委員)
ソレカラ「常ニ右部分ニ對當スル其買受代金ト契約ノ費用トヲ取戻ス」トスレバ宜シイ
(箕作委員)
ソレガ宜シイ
本條第二項左ノ如ク改ム
買主ハ契約ノ銷除ヲ求メサルトキハ買受物ノ價格ノ減少シタルトキト雖モ常ニ右部分ニ對當スル其買受代金ト契約費トヲ取戻シ又其價格ノ增加シタルトキハ其損害ノ賠償ヲ受ク
第七百二條朗讀ス
第七百二條 或ハ賣買ノ土地ニ屬スルモノトシテ契約ニ於テ述ヘタル働方地役ノ追奪アリタルトキ或ハ契約ニ於テ述ヘサル人爲ヲ以テ設定シタル受方地役ニ關シ又ハ財產ノ全部若クハ一分ニ存スル用益權、賃借權ニ關シテ第三者ノ要求アリタルトキハ第七百條ノ規定ヲ適用ス但用益權又ハ賃借權ノ經過ス可キ殘餘時期カ建物ニ付テハ一个年土地ニ付テハ二个年ヲ超ユ可キトキハ買主ハ自己ニ存留セル權利ノ不十分ナルヲ證明スル事ヲ要セスシテ第七百一條ニ從ヒ賣買ヲ銷除セシムル事ヲ得
(栗塚報吿委員)
末項ノ「證明」ハ「證スル」トナリマス
(箕作委員)
一番初メニ「或ハ」トアルノハ奇デスネ
(村田委員)
七百一條ト云フノハ「前條」デ宜シイ
(栗塚報吿委員)
前條ニ從ヒト致シマシヨウ
(淸岡委員)
「賣買ノ銷除ヲ求ムル事ヲ得」トシマスカ
(栗塚報吿委員)
「銷除スル事ヲ得」ト致シマシヨウ
(元尾崎委員)
「賣買ノ契約ヲ」ダロウ
(南部委員)
「賣買ヲ銷除」デ宜シイ
(栗塚報吿委員)
之ハ原文ノ意味ヲ再調査デ間違ツテ居マスカラ改メマス第一項ノ「受方地役ニ關シ」以下ヲ「又ハ財產ノ一分ニ存スル用益權何々ニハ七百條ノ規定ヲ適用ス財產ノ全部ニ存スル用益權又ハ何々ニ付テモ亦同シ」トモナケレバナリマセン「又ハ財產ノ一分ニ存スル用益權賃借權ニ關シテ第三者ノ要求アリタルトキハ第七百條ノ規定ヲ適用ス財產ノ全部ニ存スル用益權又ハ賃借權ニシテ經過スヘキ殘餘時期カ建物ニ付テハ一ケ年土地ニ付テハ二ケ年ヲ超ヘサルモノニ關シテモ亦同シ」ト致シマス
(松岡委員)
ソウスルト前ノモ違ウテ居ル
(箕作委員)
財產ト云フ字ガ突然出テ宜シウ御座イマスカ土地ニ屡スルト云フ字ガナクモ宜シウ御座イマス
(村田委員)
土地トモ云ヘン字ガアルカラ
(箕作委員)
賣買物ト云フ事デス
(栗塚報吿委員)
賣買ノ財產ト云フ事デス
(松岡委員)
上ノ土地モ家ガ這入ツテ良カロウ
(箕作委員)
ソウデス
(元尾崎委員)
土地ハ住居ヲ目的トスルカラニケ年迄位イガ宜シイ
(松岡委員)
前條ノ全都ト云フノハ殘シテ置カナケレバイケマイ全部モ損害ヲ取ツテ契約ノ銷除ガ出來ル併シナガラ其分ハ是レ丈ケノ期限ガアル
(南部委員)
「亦同シ」ダカラ恰度ソレデ宜シイ
(松岡委員)
「繼續時期」モ「殘餘時期」モ同ジ事ダロウ
(南部委員)
條ノ適用ガ違ウカラ區別ヲシタノダ
(箕作委員)
人爲ヲ以テ設定シタルト云フノハ地役ニモ長ク書イテ置マスカ
(松岡委員)
此通リデス
本條第一項「又ハ」以下ヲ左ノ如ク改ム「又ハ財產ノ一分ニ存スル用益權、賃借權ニ關シ第三者ノ要求アリタルトキハ第七百條ノ規定ヲ適用ス財產ノ全部ニ存スル用益權又ハ賃借權ニシテ其經過スヘキ殘餘時期カ逮物ニ付テハ一ケ年土地ニ付テハ二ケ年ヲ超ユルモノニ關シテモ亦同シ」第二項「證明スル」ヲ「證スル」ト改ム「第七百一條ニ」ヲ「前條ニ」ト改ム「賣買ヲ銷除セシムル事ヲ得」ヲ「賣買ヲ銷除スル事ヲ得」ト改ム
第七百三條朗讀ス
第七百三條 契約ニ於テ述ベタルト否トヲ問ハズ賣買ノ土地ニ先取特權又ハ抵當權ノ負擔アリテ買主カ其代金ノ辨濟ノ前又ハ辨濟ノ時其土地ヲシテ右ノ負擔ヲ免カレシムル爲メニ必要ナル方式ヲ履行セサルニ因リ賣主ノ債權者ノ爲メニ所有權ヲ取上ケラレタルトキハ買主ハ賣主ニ對シ第六百九十五條及ヒ第六百九十六條ノ規定ニ從ヒテ擔保ノ求償權ヲ有ス
本條ハ原案ニ決ス
第七百四條朗讀ス
第七百四條 差押ヘタル財產ノ競落者カ追奪ヲ受ケタルトキハ被差押人ニ對シテ代金ノ返還ヲ求ムル事ヲ得若シ被差押人ガ無資力ナルニ於テハ代金ノ配當ヲ受ケタル債權者ニ對シテ其代金ノ返還ヲ求ムル事ヲ得
競落者ハ差押人カ差押ノ際ニ其財產ノ債務者ニ屬セサル事ヲ知リタルニ非サレハ之ニ對シテ損害賠償ヲ要求スル事ヲ得ス又債務者カ其財產ニ存スル第三者ノ權利ヲ詭譎ヲ以テ隱蔽シタルニ非サレハ之ニ對シテ損害賠償ヲ要求スル事ヲ得ス
公賣條件書ノ錄製及競落ノ處理ニ任シタル公吏ハ甚シク其職分ヲ缺キタル爲メ買主ノ錯誤ヲ惹起シタルニ非サレハ損害賠償ノ責ニ任セス
(栗塚報吿委員)
「詭譎」ハ「詐欺」トナリマス
(元尾崎委員)
一項ト二項ト事質シハセンカ追奪サセルノハ追奪スル權利ガアルカラ追奪スル其場合ニハ代金ノ返還ヲ求ムル事ガ出來ル其次ハ債務者ガ其財產ニ存スル第三者ノ權利ヲ詐欺ヲ隱蔽シタルニ非ザレバトアル
(村田委員)
損害賠償丈ケノ事ダ
(元尾崎委員)
人ノ物ヲ知ラズニ持ツテ居タノハ一項ヘ行クガ若シ知ツテ隱シタノハ損害賠償ヲ取ラレルカ
(箕作委員)
債務者ト被差押人ト同ジ人間デスカ
(南部委員)
ソウデス
(槇村委員)
差押人ガ知ツテ居タトキハ損害賠償ガ出來ル
(箕作委員)
後ノ債務者ハ被差押人トシタラ良カロウ
(西委員)
其方ガ宜シイ
(箕作委員)
一條ノ内ニ二ツアルノハ良クナイ
(元尾崎委員)
破產ノ處デモ破產者トモ債務者トモ云フカラ宜シイ
(委員長)
被差押人ト云フ方ガ惑ヒハナイ
(大尾崎委員)
債務者ト云ヘバ被差押人ト云フ事ハ分ル
本條「詭譎」ヲ「詐欺」ト改ム
第七百五條朗讀ス
第七百五條 債權ノ賣主ハ當然自己ノ債權ノ存立及ヒ其有效ノ擔保ニ任ス
又賣主ハ明示ニテ債務者ノ有資力ノ擔保ヲ約束シタルニ非サレハ其擔保ニ任セス
有資力ノ擔保ニ任シタル場合ニ於テモ賣主ハ債權カ旣ニ滿期ト爲リタルトキハ讓渡ノ日ニ於ケル有資力ノミニ付キ且受取タル代金ノ限度ニ從ヒテ其責ニ任ス但一層廣大ナル擔保ノ明約ト裏書ヲ以テ讓渡ス商證券ノ特別規則トヲ妨ケス
未タ滿期ト爲ラサル債權ノ讓渡ニ於テ讓渡人カ他ノ特約ナクシテ債務者ノ將來ノ有資力ヲ擔保シタルトキハ其擔保ハ滿期ヨリ一个年又無期年金權ニ付テハ其讓渡ヨリ十个年ニテ絕止ス
(元尾崎委員)
二項ハ滿期ニナツタモノヲ讓渡シタ時ノ場合ヲ云フノデスカ
(南部委員)
ソウデス滿期ニナランノガ次ノ項デス
(元尾崎委員)
千圓ノ證文ヲ五百圓デ買ツタ此證文ニ付テハ受合ウ
(南部委員)
有資力ノ擔保丈ケハ任シテ居ル
(元尾崎委員)
五百圓デ賣ツテモ七百圓迄受合ウト云フノガ一層廣大ナルカソウスルト裏書ト云フノハ商法ノ方デヤルノカ
(栗塚報吿委員)
ソウデス
(元尾崎委員)
一層廣大ナル擔保ノ明約アルトキハ此限ニ在ラズト云ツテ又裏書ヲ以テ讓渡ス商證券ノ特別規則ヲ妨ゲズトスレバ宜シイ
(栗塚報吿委員)
ソウ云フ事デス
(淸岡委員)
之デ良ク分ル
(大尾崎委員)
尾崎サンノ修正ガ宜シイ
(南部委員)
ソレデハ「明約及ヒ裏書ヲ以テ」トシテハ如何デシヨウ
(松岡委員)
之デ分ル
本條ハ原按ニ決ス
第七百六條朗讀ス
第七百六條 物上ト對人トヲ問ハス爭ニ係ル權利ノ讓渡ニ於テハ讓渡人ハ特別ノ契約ナク且讓受人カ爭ヒ有ル事ヲ知リタルトキハ其主張ノ虛構ナラサル事ヲ擔保スルノミニシテ讓渡シタル權利ノ眞ノ成立ヲ擔保セス
裁判上ト裁判外トヲ問ハス權原ニ關スル明白ノ爭ノ目的タル權利ニ付テノミ右ノ規定ヲ適用ス
本條ニ定メタル擔保ニ任スル讓渡人ハ讓渡代金ノ返還ノ外讓受人ガ正當ニ期望シタル利益ノ賠償ヲ負擔ス
(箕作委員)
「契約」ハ「合意」ニナリマスカ
(栗塚報吿委員)
初メノハ合意ニナリマス
(元尾崎委員)
權原ニ關スルト云フノハ
(栗塚報吿委員)
占有ニ關スル爭權原ニ關スル爭デ御座イマスカラ所有權ニ關スル爭ト御覽ニナレバ宜シウ御座イマス
(元尾崎委員)
占有權ニハ通用シナイカ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(松岡委員)
占有ノ内デモ權原ト云フノガアル
(箕作委員)
占有權中自ラニ關シタ事デアリマス
(元尾崎委員)
爭ニ係ツテ居ル權ト云フノハ既ニ訴ニナツテ居ル權ヲ賣ツタ併シ虛構デハナイト云フ事ダ併シ負ケルカ勝ツカ分ラナイ若シ負ケタトキハ此樣ハナイ
(南部委員)
仕樣ハナイ
(元尾崎委員)
第三項ニ至ツテ負ケタトキハ代金ヲ返スカ
(松岡委員)
虛構デアツタトキハ返ス勝負ハ向フノ運財、天財ダ
(南部委員)
擔保ガ虛構デナイト云フ事ヲ受合ウ
(箕作委員)
本條ノ場合ニ於テ負擔シテアツタトキハガ宜シイ
(南部委員)
場合ニ於テ擔保ヲ負擔シタルニハデモ宜シイ
(松岡委員)
同ジ事ダ
(栗塚報吿委員)
此次ギノ條ト次ギノ條ハ二條一所ニ讀ミマシテ相續篇ノ規定迄御預リニシタイト思ヒマス
本條第一項「契約」ヲ「合意」ト改ム
第七百七條第七百八條朗讀ス
第七百七條 相續人又ハ包括名義ノ受遺者トシテ旣ニ發開シタル相續ノ全部又ハ一分ニ係ル不分ノ權利ヲ賣渡シタル者ハ其賣渡シタル部分ニ付キ自己ノ權利ノ存立ヲ擔保ス
右賣主ハ定マリタル得益ヲ擔保スル事ヲ明言シタルニ非サレハ其擔保ニ任セス
又賣主カ其相續又ハ受遺ノ部分ヲ特定セスシテ單ニ自己ノ權利ヲ賣渡シタルトキハ買主ハ相續人又ハ受遺者ノ增減ヨリ生スル得益ノ增減ヲ受ク
第七百八條 相續權ノ買主ハ相續ノ債務ニ對スル日後ノ訴追ニ付キ賣主ヲ擔保スル事ヲ要ス
又賣主カ相續ノ債務ノ全部若クハ一分ヲ旣ニ辨濟シ又ハ財產ヲ保存スル爲メニ費用ヲ出シ又ハ自ラ相續ニ對シテ債權ヲ有スルトキハ買主ハ之ヲ賣主ニ計算スル事ヲ要ス
右ニ反シテ賣主ハ自ラ相續ニ對シテ負擔スル債務、相續ノ債權ニ付キ受取リタル利得及ヒ相續ヨリ收取シタル其他ノ利益ヲ買主ニ計算スル事ヲ要ス
(松岡委員)
二條トハ云フモノノ三條ニナル
(栗塚報吿委員)
ソレハ起案者ガ改メテ參リマシタ報吿委員ガ刪除建議ヲシタイノハ事柄ガ重大ノ樣テ御座イマス日本デ斯ウ云フ事ガ出來ルカ出來ンカ分リマセン今日デハ相續ヲ賣ル事ガ出來ルカ出來ンカ昔ハ後見人ノ株ヲ賣買シタカラ彼ノ樣ナモノニナルダロウカ之ハ相續法ノ定マルマデ預ル方ガ都合ガ好カロウ此二條ノ爲メニ世間ノ人ガ驚イテ相續ヲ賣買スル事ガドウシテ出來ルダロウト云フト外ノ條ニモ響キマスカラ此條ハ姑預リニシタイト思ヒマス
(松岡委員)
八章十章ト同ジ樣ナ事ダ
(元尾崎委員)
刪除ガ宜シイ昔ノ後見人ハ賣買デハナイ彼レハ相續ダ
(栗塚報吿委員)
表ハ相續デ内所ハ賣買デス
(委員長)
留保ト云フテ置ク譯ニモ行クマイカ
(栗塚報吿委員)
此内カラ取除ケテ置キマス
(委員長)
刪除スルノカ
(栗塚報吿委員)
左樣デス併シ集メテ置イテ相續ノ定マルトキニ之ヲ云ハナケレバナリマセン
(委員長)
此樣ニ委シク云ハレテモ影ヲ見セテ置カナイデ宜シイカ
(南部委員)
相續ノ元トガ定マラナケレバ之ハ定マリマスマイ
(箕作委員)
會社ノ權利ノ賣買ハ此儘存シテ置キマスカ
(栗塚報吿委員)
存シテ置キマス
(委員長)
相續權トカ包括名義ニ關スル事柄ハ人事篇ニ讓ルトカ人事篇ノ規定ニ從フトカ書カレル樣ニ一寸見セテ置ケバ良カロウト思フ
(栗塚報吿委員)
賣買ノ事ヲ相續デハ毛頭云ハンデス
(委員長)
此處デ云フテ置ケバ賣買デハアルケレドモ相續ノ事包括名義ノ事ト相續ノ處ニ書イタラ良カロウ
(栗塚報吿委員)
相續ノ事ハ相續デ書ク樣ニシナケレバナランデシヨウ
(委員長)
之ハ僅カ書イテ置ケバ此法律ヲ動サンデモ相續ノ方ニ揭ゲルダロウ
(元尾崎委員)
相續ノ賣買ガアルカナイカ相續ノ賣買ノ事ハ人事篇デ定メルト云フト賣買ガ出來ル樣ニナル
(委員長)
町ノ鰻屋風呂屋抔ハ隨分賣買ガアル
(南部委員)
彼レハ商號ノ賣買デシヨウガアル
(委員長)
物ニ依ルト財產ノ賣買ガアル
(元尾崎委員)
狐鰻ノ見世ヲ引受ケテヤルノハ商號ダ
(南部委員)
商法ノ樣ニ財產ヲ付ケルノトハ違ヒマス
(委員長)
財產ノ中ニ商號モ付イテ行キマス
(箕作委員)
縱令バ狐鰻ガアツテ其倅ガ私ノ親父ハ死ヌカモ知レン私ハ相續權ガアル商號モ財產モ貸主モアルガ私ハ入ラナイカラ御前ニ讓ロウト云フモノガアルカ知ラン
(栗塚報吿委員)
株ナラ株ヲ賣ル家ナラ家ヲ賣ルト云フノガアリマシヨウ
(委員長)
皆ナノ時モアリ一部ノ時モアル
(箕作委員)
ソレハ商號ノ讓渡デ御座イマシヨウ
(栗塚報吿委員)
株ノ賣買ナラ宜シウ御座イマスカ
(元尾崎委員)
外ニ兄弟ガアツテ構ハズシテ相續人ガ賣ツテ仕舞ツテハ困ル
(淸岡委員)
既ニ親父ガ死ンダ所デ商賣品モ家モ財產モ借錢モアル處ガ息子ガ我レハ此賣買ハシナイト云フモノガ隨分アルダロウ
(大尾崎委員)
恰屬家ヲ絕ヤス樣ニナル
(松岡委員)
商賣ヲ賣ルノト相續ヲ賣ルノトハ違ウ詰リ親ノ名ヲ繼グト云フ事ハ毛頭ナイト云フ事デ論ジナケレバナリマセン日本ノ相續ハ違ヒマス
(委員長)
多クハナカロウト思フガアルトナイトヲ研究シタイ一ツハ呉服店一ツハ料理屋一ツハ製造場ヲ持ツテ居ルトキ總領ニハ何ヲ遣リ次男ニハ何ヲ遣リ其貰ツタ物ガ人ニ賣ルトキハ自分ガ相續シテ包括名義ノ合意ニナルダロウ
(栗塚報吿委員)
不分ノ權利デ御座イマスカラ未ダ分ランノデ御座イマス分ツテ仕舞ツテ我ガ所有物ニナレバ賣ツテモ差支アリマセンガ未ダ不分ノ權利ヲ讓リ渡シタトキデ御座イマスカラ
(委員長)
相續セシトキニ親カラ貰ツテ子ノ呉服店ハ嫌忌ダカラ何某ニ遣ル
(南部委員)
自分ガ人ニ賣ロウト云フ相續ハ不分ガ人ニ行クカ知レマセン
(委員長)
自分ノ氣ニ入ラン物ヲ賣ルト云フ事ハ出來ヨウ
(栗塚報吿委員)
相續スルニ付テハ親父丈ケノ義務ヲ負ハナケレバナラン私ガ相續權ヲ他人ニ賣リマスト他人ガ私ノ母親ヤ妹ヲ養ウ事ガ出來マスマイ
(委員長)
ソレハ家名相續デ一家ヲ保護スル方デハ賣ル事ハ出來ナイ之ハ財產ノ一部ヲ云フノデ家名ノ相續ヲ云フノトハ違ウト見ナケレバナラン
(栗塚報吿委員)
向ウノ社會ノ立テ方ハ人ガアレバ金ガアル金ガアレバ義務ガアルト云フ處カラ出テ居ル相續デ御座イマスカラ
(箕作委員)
報吿委員ノ說デ良カロウト思フ
(委員長)
刪ルノハ惡ルクハナイカ此處ニ跡方ヲ見セテ良カロウト思フ
(南部委員)
跡カラ入レテモ宜シウ御座イマシヨウ
(栗塚報吿委員)
相續ノ定ツタトキ賣ツテモ良イ事ニナレバ其時ニ加ヘタ方ガ良カロウト思ヒマス之ハ未ダ日本デ分ツテナイノデ御座イマス佛蘭西デハ六十日間ニ賣買シテ仕舞ウノデ自分ノ物ニ爲ツテカラ賣ルノハ自分ノ所有權ヲ賣ルノデ御座イマスカラ宜シウ御座イマスガ不分ノ權利ハ賣ル事ハナラン三年ノ間ハ親ノ物ニ手ヲ付ント云フ支那ノ教ヲ守ルデハ御座イマセンカ
(委員長)
ソレデハソウシヤシヨウ
第七百九條朗讀ス
第七百九條 特定又ハ包括ノ民事又ハ商事ノ會社ニ於ケル自己ノ權利ヲ賣渡シタル者ハ其權利ノ存立及ヒ其賣買契約ニ示セル權利ノ廣狹ニ付テノミ擔保ニ任ス
會社ノ從前ノ營爲ヨリ生シ旣ニ淸算濟ト爲リタル賣主ノ權利及ヒ義務ハ買主ニ利害ノ關係ヲ及ホス事無シ
賣主ト會社トノ間ニ於ケル特別ノ計算ニ付テモ亦同シ
(栗塚報吿委員)
營爲ト言フ言葉ガ初メテ出マシタラトハ合意トアツタノデ御座イマスカラ「營業」トシタラ良カロウト思ヒマス
(箕作委員)
商法ニモ營爲トアリマシタガ可笑シイト云フノデ營業トヤリマシタ商事會社デモ此規定ニ從フ樣ニナリマスネ
(南部委員)
民事又ハ商事ト云フ事ヲ刪ルガ宜シイ
(箕作委員)
合名會社ハイケナイ
(松岡委員)
商事會社ハ成規ガ別ニアルカラ刪ルガ宜シイ
(栗塚報吿委員)
詰リ會社ニ這入ツテ居レバ自分ノ權利ヲ賣ル事ガ出來ルカラ是レコソ相續ヲ賣ルドコロデハナイ
(松岡委員)
酒ヲ飮ム權カルタヲスル權抔ガアル
(南部委員)
民事會社ハアツテ宜シイ
(淸岡委員)
商事ノ方ヲ(缺字)ラニ見タノダロウ
(南部委員)
ソウデハナイ
(松岡委員)
民事會社ナレバ唯權利ヲ賣ルト云フ事ハ挾イモノダロウ
(栗塚報吿委員)
極ク狹イモノデス
(村田委員)
殆ンド倶樂部見タ樣ナモノダロウ
(栗塚報吿委員)
元來民事デアルノヲ商法デ商事ニシヨウト云フノデ御座イマス
(箕作委員)
株式會社ナレバ民事デモ何レデモ商法ニ從フ
(元尾崎委員)
民事舍社ト云フモノガアルカ知ラン
(委員長)
開墾抔ヲスレバ民事會社ダ
(箕作委員)
魚漁抔モ商事會社ダ
(元尾崎委員)
赤十字社抔ハ
(栗塚報吿委員)
彼レハ民事デ御座イマス
(元尾崎委員)
農事奬勵會抔ハ
(南部委員)
彼レハ會社デハナイ
(委員長)
赤十字社學校寺院抔ハ一ツノ無形人ダロウ
(栗塚報吿委員)
一ツ公役所デ御座イマス
(元尾崎委員)
ソウスルト民事會社ハナイ
(委員長)
資本ヲ出シ合ウテ開墾スルノガアル
(村田委員)
金ヲ募レバ商法ニ從ハナケレバナラン
(松岡委員)
刪ツテ宜カロウ
(南部委員)
民事會社ヲ置ク以上ハ入リマス
(渡委員)
民事會社ハアルベキモノダロウ現ニ之ガ民事會社ト云フ事ハ出來ンガナケレバナランモノダ
(西委員)
共同競馬會社抔ハドウデス
(村田委員)
賣ル事ハ出來マイ
(栗塚報吿委員)
出來マス
(西委員)
彼レ抔ハ本當ノ民事會社デ御座イマシヨウ
(淸岡委員)
彼レハ會社トハ云ハレン組合ト云フモノダ
(南部委員)
「商事ノ」ト云フ字ヲ刪ツテ宜シウ御座イマシヨウ
(箕作委員)
民事會社ハ殘ツテ居ルノデスカ
(栗塚報吿委員)
殘ツテ居マス
(委員長)
民事會社トヤルカ何モ云ハンデ置クカ
(松岡委員)
民事ハ賣買ヲ許サンノガ本性デ御座イマスカラ
(元尾崎委員)
會社ノ契約ハ賣リ渡ス事ハナラント云フテ置ケバ宜シイ
(南部委員)
ソレハソウデス
(淸岡委員)
獨逸ノ民法草按ニ民事會社ト云フノガアリマスカ
(箕作委員)
此度ノ按ニハナイ樣デス
(大尾崎委員)
アルトシテ置キマシヨウ
(栗塚報吿委員)
商法デ以テ賣渡ス事ヲ禁ジテハナイ商法デモ賣リ渡スノデシヨウ
(箕作委員)
合名會社ハ禁ジテ居リマス
(栗塚報吿委員)
ソンナラ商法デ禁ジテアルモノハ此限ニ在ラズトシテ會社ノ權利ハ賣レルトシテ置イタラ如何デシヨウ
(南部委員)
之ハ「特定又ハ包括ノ會社ニ於ケル」トシテ七百六十四條ニ「商法又ハ特別法ヲ以テ定ム」トアルカラソレデ宜シイ樣デ御座イマス
(村田委員)
特定又ハ包括ト云フ事ハ云ハンデ宜シイ七百六十四條ニ區別ガアルカラ
(委員長)
ソンナラ「會社ニ於ケル自己ノ權利ハ」トデ宜シウ御座イマス
(栗塚報吿委員)
ソレデ宜シウ御座イマス
本條第一項「特定又ハ包括ノ民事又ハ商事ノ」ヲ刪ル第二項「營爲」ヲ「營業」ト改ム
第七百十條朗讀ス
第七百十條 上ノ場合ニ於テ無擔保ニテ賣買スルトノ契約ヲ爲シタルトキト雖モ買主カ追奪ヲ受ケタルニ於テハ賣主ハ代金ヲ返還スルノ責ニ任ス但買主カ賣買ノ時ニ於テ追奪ノ危險アル事ヲ了知シタルトキハ賣主ハ此返還ヲ負擔セス
賣主ハ買主ノ危險負擔ニテ賣買スルトノ契約ヲ爲シタル事ノミニ因リテ亦代金ヲ返還スルノ責ヲ免カル
然レトモ如何ナル場合ニ於テモ又如何ナル約款ニ依ルモ賣主ハ賣買ノ前後ヲ問ハス第三者ニ授與シタル權利ヨリ生スル妨碍又ハ追奪ノ擔保ヲ免カルル事ヲ得ス
(元尾崎委員)
無擔保ニテ賣買シテモ追奪シタトキハ返還シナケレバナランカ無擔保ト云フノハ取ラレルマデ知ラント云フノカ一體無擔保デ買ウト云フノガ間違ヒダ
(松岡委員)
無擔保ト云フト代價丈ケニナル損害賠償抔ハ出來ナイ
(箕作委員)
日本デモ不動產ノ賣買ハ他所ヨリ如何ナル事ヲ申シテ來テモ御迷惑相掛ケ申間敷候ト云フ事ガ書イテアルダロウ
(栗塚報吿委員)
ソレハ御座イマシヨウ
(村田委員)
免カルルノ「ル」ノ字ガ落チタ樣ダ
(栗塚報吿委員)
ソウデス
本條末項「免カル」ノ下ヘ「ル」ノ字ヲ加フ
第七百十一條朗讀ス
第七百十一條 賣主ガ擔保ノ義務ノ全部又ハ一分ヲ買主ノ惡意ノ故ヲ以テ免カレント主張スルトキハ賣渡物ニ關スル行爲ヲ第三者ノ利益ノ爲メニ登記シタリト雖モ其登記ノミニテハ買主ノ惡意ヲ證明スルニ足ラス尙ホ賣主ハ登記官吏ノ保證書ニ依リ又ハ其他ノ方法ヲ以テ買主カ賣買ノ前ニ右ノ行爲ヲ了知シタル直接ノ證據ヲ供スル事ヲ要ス
(栗塚報吿委員)
「證明」ハ「證スル」トナリマス「登記シタル」ハ「登記有リタル」トシタ方ガ良カロウト思ヒマス
(箕作委員)
「行爲ヲ」ト云フノハ「行爲カ」ダロウ
(南部委員)
「行爲カ」ガ本當デ御座イマシヨウ
(松岡委員)
「惡意」ト云字ハ強過ギハセンカ
(栗塚報吿委員)
善意惡意ハ知ツテ居ルトキト知ツテ居ラン處ニ使ツテアリマス
本條「行爲ヲ」ヲ「行爲カ」ト改メ「登記シタリト」ヲ「登記モ有リト」ト改ム
第七百十二條朗讀ス
第七百十二條 第四百十九條及ヒ第四百二十條ハ擔保ノ爲メニスル賣主ノ召喚ニ付キ及ヒ追奪ヲ受ケタル買主カ擔保人ヲ訴訟ニ參加セシメサル爲メニ生スル失權ニ付キ之ヲ適用ス
(箕作委員)
之ハ殆ンド入ラン條ダ
本條ハ原按ニ決ス
第七百十三條朗讀ス
第三款 買主ノ義務
第七百十三條 買主ハ約束シタル時期ニ於テ代金ヲ辨濟スル事ヲ要ス又其時期ニ付キ特別ノ契約ナキトキハ引渡ノ時ニ於テ之ヲ辨濟スル事ヲ要ス
引渡ヲ日後ニ延フルノ契約アルトキハ當事者ニ代金ノ辨濟ヲ暗ニ日後ニ延フルノ意思アリトス
賣主カ引渡ノ爲メ恩惠期間ヲ裁判所ヨリ得タルトキハ買主ハ代金辨濟ノ爲メ同一ノ期間ヲ享有ス
又代金辨濟ノ恩惠期間ハ引渡ノ爲メ賣主亦之ヲ享有ス
(栗塚報吿委員)
末項ノ「賣主亦」ノ「亦」ヲ刪リマス
(元尾崎委員)
「亦」ハアツテモ宜シイ
(栗塚報吿委員)
上ニ「又」ト云フ字ガアリマスカラ削ツテ宜シウ御座イマシヨウ
(槇村委員)
アル方ガ宜シイ
(南部委員)
ソウスレバ上ノヲ刪ラナケレバナラン
(委員長)
下ノハアル方ガ宜シイ引渡ノ爲メガ何ノ引渡ダカ分ラン
本條末項「又代金」トアル「又」ノ字ヲ刪ル
第七百十四條朗讀ス
第七百十四條 代金辨濟ノ場所ヲ約束セサルトキハ其辨濟ハ有體動產ニ付テハ引渡ヲ爲ス場所不動產、債權、相續ノ權利、爭ニ係ル權利又ハ會社ニ於ケル權利ニ付テハ證書ノ交付ヲ爲ス場所ニ於テ之ヲ爲ス
引渡ノ前後ヲ問ハス代金辨濟ノ要求ヲ受ク可キトキハ其辨濟ハ買主ノ住所ニ於テ之ヲ爲ス
(栗塚報吿委員)
「相續ノ權利」ハ御刪リヲ願ヒマス今ノ續キデ御座イマスカラ二項ハ引渡ノ前後ヲ問ハズトアルヲ「引渡ノ前又ハ後ニ」ト云フ方ガ良カロウト思ヒマス
(村田委員)
其方ガ宜シイ
(栗塚報吿委員)
ソレカラ「代金ノ辨濟ヲ要求スヘキトキハ」ト致シマシヨウ
(委員長)
「受クヘキ」ト「得ヘキ」トハ表裏ニナルダロウ
(栗塚報吿委員)
同ジ事ニナルダロウ
(箕作委員)
「代金辨濟ノ時期カ引渡ノ前又ハ後ナルトキハ」ト云フノダカラ受クベキデモ宜シイノデス
(委員長)
賣主ノ住所ト云ヘバ變ヘタ方ガ宜シイガ買主ノ住所トアルカラ原案ノ通リデ宜シイ
(箕作委員)
「代金辨濟ノ要求ヲ受クルトキハ」ト云フノダカラ
(南部委員)
「要求スヘキ」デナケレバ宜クアリマセン
(栗塚報吿委員)
「代金辨濟ノ要求アルヘキトキデハ御座イマスカラ「要求スヘキトキハ」デ宜シウ御座イマス
(箕作委員)
八ケ間敷ク云フト「得ヘキトキハ」ノ方ガ本當ダロウト思フ
(南部委員)
得ベキトシヨウ
本條第一項「相續ノ權利」ノ五字ヲ刪ル第二項左ノ如ク改ム
引渡ノ前又ハ後ニ代金辨濟ヲ要求スル事ヲ得ヘキトキハ其辨濟ハ借主ノ住所ニ於テ之ヲ爲ス
第七百十五條朗讀ス
第七百十五條 買受物カ果實其他金錢ニ見積ル事ヲ得ヘキ定期ノ利益ヲ生スルトキハ買主ハ引渡ノ時ヨリ當然代金ノ利息ヲ負擔ス
反對ノ場合ニ於テハ利息ハ特別ノ契約又ハ辨濟ノ催吿ニ依ルニ非サレハ之ヲ負擔セス
本條ハ原按ニ決ス
第七百十六條朗讀ス
第七百十六條 買主カ物上訴權ニ因リテ妨碍ヲ受ケ又ハ妨碍ヲ受クルノ危險アル正當ノ事由ヲ有スルトキハ賣主カ其妨碍若クハ危險ヲ止マシメ又ハ追奪アリタルニ於テハ代金返還スルノ保證人ヲ立ツルマテ買主ハ右訴權ノ輕重ニ從ヒテ代金ノ全部又ハ一分ノ辨濟ヲ拒ム事ヲ得
此規定ハ買主カ買受物ノ他人ニ屬スルヲ直接ニ證明スル事ヲ得ルトキハ賣買ノ無效ヲ宣吿セシメ及ヒ擔保ノ訴權ヲ行フ買主ノ權利ヲ妨ケス
(栗塚報吿委員)
「證明」ハ「證スル」トナリマス「危険アル」ハ「恐アル」ノ方ガ宜シウハ御座イマセンカ
(箕作委員)
其方ガ宜シウ御座イマシヨウ
(南部委員)
ソウスルト妨碍危險ト二ツニヤツテ來ルカラ
(箕作委員)
ソウスルト其妨碍ト云フノハ既ニ受ケタ妨碍デ後ノ危險ハ現在妨碍ヲ受ケテ居レバ危險ヲ止マシムル
(栗塚報吿委員)
ソレハ「危險」デ宜シウ御座イマス
(松岡委員)
危險ノ外ニ妨碍ハナイ
(村田委員)
後ノ方ノ危險ハ入ラナイ
(元尾崎委員)
兩方トモ危險ハ入ラナイ
(箕作委員)
後ノ「危險」ハ「恐」ト云フ字ヲ受ケルト云フ事ニナルノデスカ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(箕作委員)
原按ノ儘デハ惡ルイノデスカ
(栗塚報吿委員)
往來ノ受クル危險ト云フト妨碍ト云フ事ガナクナツテ仕舞ウ妨碍ヲ受クル恐レヲ名詞ニスレバ危險ト云フ
(委員長)
「止マシメルマテ」ト云フ方ガ良クハナイカ
(北畠委員)
「止メシメ」ガ宜シイ「止マシメ」ト云フ事ハナイ
(栗塚報吿委員)
ソレカラ「止マシメタルマテ」ト致シマス
(南部委員)
「マテ」ハ入ラン
(箕作委員)
「又ハ」デスカ「又」デハアリマセンカ
(南部委員)
「又ハ」デ良カロウ
(箕作委員)
又追奪ノ場合ニ在テハ代金ヲ返還スルトスルガ宜シイ
(淸岡委員)
追奪ノ場合ト云フト追奪ノ恐レアル場合トナル
(松岡委員)
原按ノ通リデ宜シイ
(栗塚報吿委員)
末項ハ「賣買ノ無効ノ判決ヲ求メ」ト致シマス
(委員長)
登記ハセシメルト書イテアル
(元尾崎委員)
登記官吏ハ低イカラセシメルデ宜シイ
本條第一項「危險アル」ヲ「恐レアル」ト改ム第二項「證明スル」ヲ「證スル」ト改メ「無効ヲ宣吿セシメ」ヲ「無効ノ判決ヲ求メ」ト改ム
第七百十七條朗讀ス
第七百十七條 買受ケタル不動產ニ付キ抵當權又ハ先取特權ノ登記アルトキハ買主ハ滌除ノ方式ヲ行フタル後ニ非サレハ代金ヲ辨濟スルノ責ナシ但法律上ノ期間ニ於テ滌除ヲ行フ事ヲ要ス
(栗塚報吿委員)
登記ハ記入ノ間違ヒデ御座イマス
本條「登記」ヲ「記入」ト改ム
第七百十八條朗讀ス
第七百十八條 前二條ノ場合ニ於テ賣主ノ先取特權及ヒ第三者ニ對スル解除ノ權利ヲ保存スル爲メ必要ノ方式ヲ行ハサルトキハ賣主ハ當事者雙方ノ名ヲ以テ買主ヲシテ猶豫ナク代金ヲ供託セシメ當事者雙方ノ承諾又ハ裁判所ノ判決ニ依リテ諸手續ノ終了後ニ非サレハ其代金ヲ引取ルヲ得サルノ處分ヲ要求スル事ヲ得
(栗塚報吿委員)
之ハ讀ミ惡ク御座イマスカラ「買主ヲシテ猶豫ナク代金ヲ供託セシムルヲ得但當事者雙方ノ承諾又ハ裁判所ノ判決アルモ諸手續ノ其後ニアラサレハ其代金ヲ引取ル事ヲ得サルノ方法ニ依ル事ヲ得」ト致シマス
(箕作委員)
手續ヲシ終ツタ暁ニ雙方ノ承諾ガアルカ裁判所ノ判決ガナケレバト云フノダカラ少シ變ニナル
(栗塚報吿委員)
「終了後當事者双方ノ承諾又ハ裁判所ノ判決アルニアラサレハ」デス
(箕作委員)
「供託セシメタ代金カ賣主買主ノ承諾カアルカ裁判所ノ判決カナケレハ之ヲ取戻ス事ヲ得サルモノ」ト云フノダ
(南部委員)
ソウデス
(箕作委員)
「但其代金ハ諸手續ノ終了後ニ至リ當事者双方ノ承諾又ハ裁判所ノ判決ニ依ルニ非サレハ之ヲ引取ル事ヲ得ス」
(松岡委員)
「供託セシムル事ヲ得」トシテ但以下ハ原案ノ通リデ宜シイ
(箕作委員)
判決ニ依リト云フノガ分ラン
(委員長)
箕作サンノ說ガ宜シイ
(南部委員)
手續ト云フノハ何ダ
(栗塚報吿委員)
「但其代金ハ」トヤルノデス
(南部委員)
諸手續ト云フノハ分ラン判決ニ依テ諸手續ガ出ルノダカラ
(栗塚報吿委員)
裁判所ノ判決ニ依ルニアラザレバ諸手續ノ後デナケレバト云フ事デ御座イマス
(南部委員)
終了後ヲ上ニ入レルト終了後ニ裁判所ノ判決ガアツタ樣ニ見ヘル
(栗塚報吿委員)
「判決ニ依リ且諸手續ノ終了後ニアラサレハ之ヲ引取ル事ヲ得ス」デハ如何デス
(南部委員)
ソンナラ宜シイ
本條「買主ヲシテ」以下左ノ如ク改ム
買主ヲシテ猶豫ナク代金ヲ供託セシムル事ヲ得但其代金ハ當事者双方ノ承諾又ハ裁判所ノ判決ニ依リ且諸手續ノ終了後ニ非サレハ之ヲ引取ル事ヲ得ス
第七百十九條朗讀ス
第七百十九條 動產物ノ買主カ代金ヲ辨濟シタルト否トヲ問ハス引渡ヲ受クル權利ヲ有スル時ニ於テ其引渡ヲ受ケサルトキハ賣主ハ第四百九十五條乃至第五百條ニ從ヒテ其賣渡物ノ提供及ヒ供託ヲ爲ス事ヲ得
然レトモ日用品其他速ニ敗損ス可キ物ニ付テハ賣主ハ買主ノ爲メ之ヲ轉賣スル事ヲ得ルトキハ其轉賣ヲ爲ス事ヲ要ス
(栗塚報吿委員)
末項ハ文字ヲ少シ入レ變ヘテ「轉賣スル事ヲ得ルトキハ賣主ハ買主ノ爲メ其轉賣ヲ爲ス事ヲ要ス」トシテハ如何デ御座イマスカ
(淸岡委員)
變ヘル程ノ事ハナイ
(栗塚報吿委員)
「轉賣スル事ヲ得ルトキハ其轉賣ヲ爲ス事ヲ要ス」ト云フノガ嫌忌ナノデ御座イマス
(元尾崎委員)
此儘デ宜シイ
(松岡委員)
「受ケサルトキハ」ト云フノハ「拒ムトキハ」トシタラ良カロウ
(栗塚報吿委員)
「肯ンセサルトキハ」トヤリマシヨウカ
(村田委員)
買主ガ嫌忌ダト云フトキハ供託スルカラ「受ケサルトキハ」デ宜シイ
(栗塚報吿委員)
「引渡ヲ取ラサル」ト書イテアルノデ御座イマス此方カラ品物ヲ持ツテ行クニ取ラント云フノデ御座イマス
(箕作委員)
「引渡ヲ受クル事ヲ拒ムトキハ」ト書カナケレバナラン
(南部委員)
ソンナニシナイデ宜シイ
本條第一項ハ第七百二十七條ヲ議スルニ當リ「受ケサルトキハ」ヲ「受クル事ヲ拒ミタルトキハ」ト改ム
第七百二十條朗讀ス
第三節 賣買ノ解除及ヒ銷除
第一款 義務ノ不履行ニ因ル解除
第七百二十條 當事者ノ一方カ上ニ定メタル義務其他特ニ負擔スル義務ノ全部若クハ一分ノ履行ヲ缺キタルトキハ他ノ一方ハ第四百四十一條乃至第四百四十四條ニ從ヒ裁判上ニテ契約ノ解除ヲ請求シ且損害アレハ其賠償ヲ要求スル事ヲ得
當事者カ解除ヲ明約シタルトキハ裁判所ハ恩惠期間ヲ許與シテ其解除ヲ延ヘシムル事ヲ得ス然レトモ此解除ハ履行ヲ缺キタル當事者ヲ遲滯ニ付シタルモ猶ホ履行セサルトキニ非サレハ當然其效力ヲ生セス
(栗塚報吿委員)
「買主ノ猶ホ代金ヲ皆濟セサル事」ト云フノハ議決案トハ意味ガ違ヒマス矢張リ「代金ノ全部若クハ一部ヲ負擔スル事ヲ」ト改メマシタ方ガ宜シイ樣デ御座イマス
(箕作委員)
他ノト云フ字ハ入リマセンカ
(栗塚報吿委員)
「他ノ負擔及ヒ條件ヲ」ト入レマセント原文ノ意ヲ傷ヒマス
(淸岡委員)
「皆濟セサル事ヲ記載セシ」ノ方ガ良ク分ル
(南部委員)
百圓ノ中五百圓皆濟ニナラント云フ事ガアルカラ全部一部ガ必要ト思フ
(栗塚報吿委員)
「未タ代金ヲ辨濟セサル事ヲ」ト云フナラ宜シイ
(村田委員)
「皆濟セサルトキハ」ト云ツテモ全部一部ト云フ事ハ分ツテ居ル
(栗塚報吿委員)
「代金ノ全部若クハ一部ヲ負擔スル事ヲ」ト御入レヲ願ヒマスソウスルト負擔ト云フ字モ生キテ來ルト思ヒマス
(淸岡委員)
「一部ヲ拂ハサル事ヲ記載ス」ト書ク方ガ良ク分ル
(南部委員)
後ニモ負擔ト云フ字ガアリマス代金ノ皆濟ヲセシ事モ負擔ニナツテ居ルカラ負擔ト云フ字ヲ見セテ置カナケレバナラン
(村田委員)
二項ハ削ツタノダ
(栗塚報吿委員)
起案者ガ刪ツテ特用ノ處ヘヤリマシタ
本條「猶ホ代金ヲ皆濟セサル事ヲ記載シ又ハ其責任タル負擔」トアルヲ「猶ホ代金ノ全部若クハ一分ヲ負擔スル事ヲ記載シ又ハ其責任タル他ノ負擔」ト改ム
第七百二十二條朗讀ス
第七百二十二條 辨濟期限ヲ定メ有ル動產ノ賣買ニ於テ其引渡ヲ實行シタルトキハ辨濟ヲ缺キタル爲メノ賣主ノ解除ノ權利ハ買主ノ他ノ債權者ヲ害スル事ヲ得ス
辨濟期限ノ定メナキ賣買ニ付テハ賣主ハ引渡ヨリ八日內ニ賣買ヲ解除セシムル事ヲ得然レトモ善意ナル第三者ノ旣得ノ物權ヲ害スル事ヲ得ス
(栗塚報吿委員)
「辨濟期限ヲ」ハ「辨濟期限ノ」トシテハ如何デ御座イマス
(三島委員)
「ノ」ノ間違ヒデ御座イマス
(元尾崎委員)
若シ破產デモシタトキ一所ノ配當トナル先所特權ガナイト云フノカ
(南部委員)
ソウデス
(元尾崎委員)
「解除セシムル」ハ「解除スル事ヲ」デ良カロウ
(松岡委員)
「スル事ヲ得」デ宜シイ
(栗塚報吿委員)
解除スルハ裁判所ヲシテト云フノデハナイノデス相手方ニ對シテ斯ウ云フ訴權ヲ起ス事ガ出來ルト云フノデス
(南部委員)
「スル事ヲ得」トシヨウ
(大尾崎委員)
求ムルト云フ意味ダロウ
(委員長)
「スル事ヲ得」トスルカ
本條第一項「辨濟期限ヲ」ヲ「辨濟期限ノ」ト改ム第二項「解除セシムル」ヲ「解除スル」ト改ム
第七百二十三條朗讀ス
第二款 受戾權能ノ行使
第七百二十三條 賣主ハ賣買證書ニ明記シタル受戾ノ約款ニ依リ買主ノ辨濟シタル代金ト費用ノ部分トヲ指定ノ期間ニ買主ニ返還スルトキハ其賣買ヲ解除スル權能ヲ要約スル事ヲ得
右期間ハ不動產ニ付テハ五个年動產ニ付テハ二个年ヲ超エル事ヲ得ス此ヨリ長キ時期ノ要約ハ當然之ヲ此期限ニ短縮ス
然レトモ其伸長ハ之ヲ買戾ノ豫約ト看做ス事ヲ得此場合ニ於テハ第六百六十三條及ヒ第六百六十四條ノ規定ニ從フ(然レトモ其伸長ハ單ニ之ヲ買戾ト看做ス事ヲ得此項ヲ此如ク修正シテ次項ニ合併スルノ建議
賣買後ニ於テ爲シ又ハ別證書ヲ以テ爲シタル受戾ノ要約ニ付テモ亦同シ
賣主ハ代金ノ半額以上ノ辨濟ノ爲メ期限ヲ與ヘ且其期限カ受戾ノ爲メ定メタル期間ノ半以上ニ及ヘルトキハ有效ニ受戾ノ權能ヲ要約スル事ヲ得ス
(南部委員)
第四項ハ据派ノ「然レトモ」ヲ御刪ヲ願ヒマス
(松岡委員)
一旦期間ヲ定メタル後ハト云フノハ必要ダロウカ又次ノ項デ之ヲ伸ベレバ云々トアル
(栗塚報吿委員)
伸セバ新規ノ賣買ニナルソコデ買戻ハ再賣ノ誤リデ御座イマス
(元尾崎委員)
受戻シテ又賣ツタノカ
(南部委員)
貴君ニ買ツタノヲ貴君カラ又私ニ賣ルト云フノデス
(元尾崎委員)
「再賣買」トスルガ宜シイ
(松岡委員)
更新シテ行ケバ再賣ノ豫約抔ト立入ツテ云ハンデモ宜サソウナモノダ
(南部委員)
ソレヲ云ヒ出シタ元ヘ歸ル樣ニナル期限ヲ動カス樣デハ六ケ敷イ
(松岡委員)
込入ツタ法律ヲ拵ヘテモ利益ハナイ
(委員長)
其伸長ヲ爲ストキハト云ハンデモ宜シイカ
(栗塚報吿委員)
其伸長ハデ宜シイト思ヒマス賣買後デアル例ヘバ是非證書デアルカラ
(栗塚報吿委員)
「賣買後ニ於テ爲シ又ハ受戻ノ豫約ニ付テモ亦同シ」ト致シマシヨウカ
(元尾崎委員)
兩方アルガ宜シイ
(松岡委員)
買戻ノ豫約ハ後ニ離シテスルノガアル
(淸岡委員)
五ケ年ト云フノハ前回ニ十年トスルト云フ論ガアツタ不動產ヲ賣ツテ買戻スニハ五年位デ身代ヲ持直シテ買戻ス事ハ出來ナイケレドモ止ムヲ得ナイカラダ
(南部委員)
質ノ現行法ハ三年トナツテ居ルソレカラ云フテモ五年ガ相當ダ
(松岡委員)
動產買戻ノ契約抔ハ困ツタモノダ登記デモシナケレバ第三者ニ賣ツテモ仕樣ガナイ
(元尾崎委員)
損害賠償ヲ取ルカラ宜シイ
(南部委員)
出來ナイ事ハナイ出來ルニ相違ナイ
(淸岡委員)
アツテモ差支ナイガ五年丈ケハ惡ルイ
(松岡委員)
我々モ十年ノ方ガ宜シイ「ボアソナード」ハ成ルベク買戻ヲサセン旨意カ
(西委員)
ソウデス
(南部委員)
此買戻ハ今ノ買戻トハ違ヒマス之ハ私ガ買戻スト初メカラ今日迄持チ續ケテ居タモノト見ル
(元尾崎委員)
五年ハドウデス
(栗塚報吿委員)
外ニ權衡ガ合ハン事ニナリマス
(渡委員)
五年ガ宜シイ
(栗塚報吿委員)
既往ニ遡ツテ効ヲ生スルト云フノト後ニ効ヲ生ズルノト同ジダト云ヘバ仕方ガナイ
(松岡委員)
ソレハ物ニ依リマス幾ラデ買戻サセルト云フ事ヲ知ツテ居ラナケレバ質ニハ取ラン
(栗塚報吿委員)
解除デナイ再賣ニシテ書クト云フノデスカ相續ノトキニハ相續ノ派分ハ二ト云フ効力ガアルカ所有權ヲ與ヘル權利ガアルカ
(松岡委員)
初メカラ買戻スト登記ニナツテ居ルノヲ取ルノモ第三者ニ行ツテ居ルノヲ取戻スノモ同ジ事ダ
(栗塚報吿委員)
ソレハ時ヲ以テ御論ニナルノデ賣デハ再賣デハ解除ト云フモノノ結果ヲ生ゼシムル事ガ出來ナクナリマス
(松岡委員)
解除トナレバ再賣トシナケレバ差支ガアルト云フノハ何處ニアルカ
(南部委員)
再賣ナレバ不動產ノ脊負ツテ居ルモノヲ皆脊負ナケレバナラン
(栗塚報吿委員)
貴君ニ賣ツタノデアルガ彼ノ賣買ハ止メルト云フト手離シタ物ヲ貴君カラ買ウノダ貴君ノ行爲カラ生ジタ物ヲ尊守シナケレバナラン
(松岡委員)
何處ニ違ヒガアル
(栗塚報吿委員)
違ヒマス解除ニナルトキト更ニ賣買ノアルトキトハ違差ガアリマス
(松岡委員)
ソレハ違ウ今迄ノモ元トカラ買戻スナレバ一向構ハン
(栗塚報吿委員)
ソレハ解除ノ理窟デシヨウ
(南部委員)
違ノ證據ヲ擧ゲマシヨウ登記ノ以前ハ買戻ノ契約ガアツテモ總テ立チマセン何ゼト云フノニ買戻ノ契約ト見テナイ
(委員長)
之ハ畢寛昔ノ買戻デハ法律上カラ論ズレバ權利ガ移ツテ買戻ノ間ハアツテモ更ニ賣買ヲシタモノニナルカラ解除ガ出來ル事ニナレバ所有權ガ付イテ居ル同ジ賣買ヲシタケレドモ眞ニ向ウヘ權利ヲ與ヘタノデナイ斯ノ如クシテアレバ先祖代々ノ土地ハ其土地ニ限ツテ取リ返ス事ガ出來ル利益ガアル
(松岡委員)
ヅツト昔シ元米返シト云フノデ誰ガ持ツテ居ロウガ一向構ハズ元トノ十解ヲ持ツテ行ケバ其地面ヲ取ツテ來ラレルト云フノガアル
(委員長)
ソレハ民法デ云フ買戻契約デハ云ヘナイ
(松岡委員)
昔ノハ十石デ賣ツタモノガ二十石ニ轉輾シテモ構ヒマセン
(委員長)
解除ガ付イテ居ラン以上ハ新ノ賣買トナル
(南部委員)
再賣買ノ豫約ト見ルノガ惡ルイト云フトソレハ良クナイ
(松岡委員)
昔ノ買戻ハ種々御座イマス私ノ國ニハ一年ノモアレバ五年ノモアルガ質地デモ十年迄ハ出來ルカラ淸岡君ニ同意デ御座イマスソレガ此買戻ハ從前ト違ウト云フカラ論ガアルノデ御座イマス
(委員長)
十年ト五年ノ差ガアルガ十年ハ長過ギル五年位ナラ大槪望ガ逹セラレルト云フ位ノ事デ御座イマシヨウカラ何方デモ決スレバ宜シイ
(箕作委員)
佛蘭西ガ五年ダカラ五年ト立テタノダロウ
(栗塚報吿委員)
伊太利モ五年デス
(淸岡委員)
日本デハ地所ニ離ルルト云フコトハ大變感觸ガアル
(栗塚報吿委員)
返ヘシタ人ノ利益モ御考ヘヲ願ヒマス
(淸岡委員)
買戻ヲスルノハ何カ理由ガアツテスルノデ決シテ普通ノ事デハナイ買戻ヲスルニハ御前ノ家ヘ賣ツテ置ケバ得ニ買戻ガ出來ルカラ千圓ノ物ヲ六百圓デ賣ツテ買ウト云フ事ガアル
(南部委員)
不動產ヲ長ク權利未定ノ間ニ置クノハ良クナイ
(淸岡委員)
未定ト云フ事ハナイ
(松岡委員)
未定ニ居ルニハ相違ナイケレドモ經濟ト云フ一分ノ事ニ這入リ過ギルノハ良クナイ
(元尾崎委員)
五年ヲ十年ニスルガ良イカ惡ルイカヲ決スルガ宜シイ
(村田委員)
五年デ宜シイ
(元尾崎委員)
私ハ十年ニ御同意スル
(大尾崎委員)
私モ十年
(渡委員)
五年
(西委員)
五年
(委員長)
十年ガ四人ナラ五人ガ多數ダカラ五年トシヨウ
(北畠委員)
貴君ヘ賣ツテ居ル間ニ義務ガ生ジタナラ私ガ脊負ハナケレバナランカ
(南部委員)
五年ヨリ上ニ六年トカ七年トカ伸シタトキデス五年過ギタトキハ前ニ賣買シタモノト見ル
(北畠委員)
其五年ヨリ遲レル間ニ義務ヲ脊負ツタ以上ハ私ガ引受ケナケレバナランカ
(栗塚報吿委員)
ソレハ抵當ニ這入ツテ居レバ抵當ノ付イタ儘デ買テ損ハ一ツモナイ
(元尾崎委員)
此項ハソレデ宜シイガ末項ハ削リタイ
(村田委員)
受戻賣買ノ性質ヲ示シタノダ
(松岡委員)
買戻ト受戻トヲ混淆シテ使ウテアル
(村田委員)
買戻ト云フノハナイ
(南部委員)
ソレハアレバ間違ヒダ
本條第四項「買戻ノ」ヲ「再賣ノ」ト改メ括弧「然レトモ」以下ヲ削ル
第七百二十四條朗讀ス
第七百二十四條 不動產ニ付テハ法律ノ定メタル期間ニ其定メタル條件ヲ以テ爲シタル受戾權能ノ行使ハ買主カ第三者ニ授與シ又ハ第三者カ買主ノ權ニ基キテ取得シタル物權ヲ排脫シテ其不動產ヲ賣主ニ復セシム但賃借ノ殘期ノ三个年ヲ超エサルモノハ此限ニ在ラス
動產物ニ付テハ受戾ノ權能ハ善意ニテ其動產物上ニ物權ヲ取得シタル第三者ニ對シテ之ヲ行フ事ヲ得ス
(松岡委員)
但ハ削ツタノダ
(南部委員)
ソレヲ再調査デ補フト云フノダ
(松岡委員)
ソンナラ建議ダ
(村田委員)
第三者ノ取得シタル總テノ物ヲシテ賣主ニ復セシムト直シタノヲ中ニ又クダクダシイモノガ這入ツテ來タ
(南部委員)
無イト分ランカラ入レタノダロウ
(栗塚報吿委員)
登記モアツテ見レバ賃借人ガ知ル筈ダ實際小作人ガ迷惑スル
(松岡委員)
原案ニアル事ハ知ツテ削ツタノダ
(南部委員)
再調査ガ建議ヲスルト云フノダ
(松岡委員)
吾々ハ前議ノ通リデ宜シイ但書ハ原案ニ據リテ之ヲ補フ
(淸岡委員)
三年ヲ超エザルトキハ宜シイト云フノハ酷イ
(南部委員)
賃貸借ハ一ツノ管理ノ所爲ト見テアルカラ管理人ガ出來ルトナツテ居ル之ハ管理ノ所爲ダカラ本人ガアツテモ賣主ガ買主ノ管理ヲシタモノト見ヘル
(松岡委員)
管理ト云フノハ其人ノ利益ヲ思ツテスルノダ今迄アルモノヲ遽カニ退ケト云フ事ハ出來ナイ樣ニシナケレバナラン短クモ三年ヲ守ラナケレバナラント云フノハ反對スル事デアル
(箕作委員)
三年以下ハ正當ノ管理ト見做スカ見做サンカト云フ問題デス
(南部委員)
之ヲ削ルト賃貸借ノ管理スルト云フ事モ削ラナケレバナラン
(栗塚報吿委員)
貴君ガ金ヲ持ツテ來レバ返ヘサナケレバナランガ三年丈ケハ我慢シテカツテ呉レト云フノデス
(元尾崎委員)
削ルガ宜シイ
(栗塚報吿委員)
松岡サンカラ地面ヲ買ツテソレヲ貴君ニ小作ニ入レテ置イテ一年目デモ二年目デモ金ヲ持ツテ行ケバ取戻ス事ガ出來ル三年小作ニ入レテ置イテ金ヲ貸シテ半年モ經ン内ニ受戻ニ御出ナサツタトキハ地面ハ何時デモアゲルガ小作丈ケハ許サナケレバナランソレヲシナイト小作人ガ甚ダ迷惑ニナル三年ガ長過ギルト云フナレバ今年ノ分丈ケハ取リタイ
(松岡委員)
ソレハ無論出來ルガ三年ノ間默ツテ居ルノハ酷イ
(渡委員)
置クガ宜シイ
(西委員)
置クガ宜シイ
(南部委員)
二ケ年位ニシテ置イテハドウダロウ
(元尾崎委員)
一年トシヨウ
(松岡委員)
一年ナラ宜シイ
(栗塚報吿委員)
一ケ年ト致シマシヨウ三年ノモノヲ一年デ賣テ仕舞テハ大變安賣ダ
本條第一項「殘期ノ三ケ年」トアルヲ「殘期ノ一ケ年」ト改ム
第七百二十五條朗讀ス
第七百二十五條 賣主ノ債權者ハ賣主ニ代ハリテ受戾ノ權能ヲ行フ事ヲ得
然レトモ買主ハ右債權者カ豫メ其債務者ノ無資力ヲ證明シ且第三百五十九條ニ從ヒテ受戾權能ノ行使ノ爲メ裁判上ニテ賣主ニ代位スルヲ要求スル事ヲ得
買主ハ同一ノ場合ニ於テ鑑定人ノ評價シタル買受物ノ現時ノ價額ト第七百二十七條ニ從ヒテ賣主ヨリ己レニ返還ス可キ金額トノ差額ニ逹スルマテ賣主ノ債務ヲ辨濟シテ債權者ノ訴ヲ止ムル事ヲ得
(栗塚報吿委員)
「證明」ハ「證スル」デ宜シウ御座イマシヨウ
本條「證明シ」ヲ「證ス」ト改ム
第七百二十六條朗讀ス
第七百二十六條 賣主カ受戾ノ契約ヲ以テ賣渡シタル物ヲ日後抵當トシ又ハ之ニ其他ノ物權ヲ負擔セシメタルトキハ其權利ノ效力ハ賣主自身又ハ其債權者ノ受戾權能ノ行使ニ從フ
賣主カ受戾ニ服スル物ノ所有權ヲ讓渡シタルトキハ讓受人ハ自己ノ名ヲ以テ受戾ヲ爲ス事ヲ得然レトモ讓渡前ニ賣主ノ承諾シ且登記ヲ經タル此他ノ物權ヲ妨碍スル事ヲ得ス但其擔保訴權ヲ失フ事無シ
(栗塚報吿委員)
契約ヲ持ツテハ約款ニテト致シマス
(箕作委員)
行使ニ從ウト云フノハ口論ハアリマセンカ
(松岡委員)
行使ニ係ルト云フ事ダ
本條「契約ヲ持ツテ」ヲ「約款ニテ」ト改ム
第七百二十七條朗讀ス
第七百二十七條 賣主カ受戾ノ權能ヲ行ハントスルトキハ指定ノ期間ニ賣買代金及ヒ契約費用ノ外尙ホ物ノ保存費用ヲ買主ニ辨償スル事ヲ要ス
買主カ右金額ヲ受取ル事ヲ拒ミタルトキハ賣主ハ猶豫ナク之ヲ供託スル事ヲ要ス
賣主ハ物ノ改良費用ヲモ辨償スル事ヲ要ス然レトモ裁判所ハ此辨償ニ付テハ賣主ニ猶豫ヲ許ス事ヲ得
買主ハ右金額ノ皆濟ヲ受クルマテ其物ノ上ニ留置權ヲ有ス
(栗塚報吿委員)
七百十九條モ「受クル事ヲ拒ミタルトキハ」トシテモ宜シウ御座イマス
(箕作委員)
ソウデス
(松岡委員)
ソレデ宜シイ
本條ハ原案ニ決ス
第七百二十八條朗讀ス
第七百二十八條 受戾ノ契約アル賣買カ共有ノ不分ノ部分ヲ目的トシタル場合ニ於テ買主カ他ノ共有者ヨリ促カサレタル競賣ニ因リテ其全部ノ競落人トナリタルトキハ賣主ハ前條ニ揭ケタル金額ニ競賣ノ代金ヲ加ヘテ其全部ニ對スルニ非サレハ受戾ヲ爲ス事ヲ得ス
又買主ハ全部ノ受戾ニ故障ヲ述フル事ヲ得ス
買主カ自ラ競賣ヲ促シタルトキハ賣主ハ其賣渡シタル部分ニ付テノミ受戾ヲ爲ス事ヲ得
又買主ハ全部ノ受戾ニ故障ヲ述フル事ヲ得
(栗塚報吿委員)
此契約モ約款トナリマス
(南部委員)
不動產ト云フ字ヲ削ツテハ良クナイ「共有ノ不動產不部」ト云ハナケレバナラン
(栗塚報吿委員)
之ハ字ガ拔ケタノデ御座イマス
(箕作委員)
「不動產ノ不分部分」デ宜シイ
(栗塚報吿委員)
ソレデ宜シウ御座イマス
(淸岡委員)
自ラ促スノト人カラ促スノトドウ云フ違ガアルダロウ
(南部委員)
自ラ促スト罪ガ深イ
本條ハ「契約」トアルヲ「約款」ト改メ「共有ノ不分ノ部分」ヲ「不動產ノ不分ト部分」ト改ム
第七百二十九條朗讀ス
第七百二十九條 孰レヨリ競賣ヲ促カシタルヲ問ハス買主ニ非サル共有者ノ一人又ハ外人ノ競落シタル場合ニ於テ賣主ハ競賣ニ召喚セラレサリシトキハ其賣渡シタル部分ニ付テノミ競落人ニ對シテ受戾ノ權利ヲ有シ之ニ反スルトキハ其權利ヲ失フ
(槇村委員)
召喚セラルルトキハ權利ガナイ
本條ハ原案ニ決ス
第七百三十條朗讀ス
第七百三十條 現物ヲ以テ分割シタルトキ賣主カ其分割ニ召喚セラレタルニ於テハ賣主ハ孰レヨリ分割ヲ促カシタルヲ問ハス他ノ所有者ニ歸シタル部分ニ付キ何等ノ要求ヲモ爲ス事ヲ得スシテ買主ニ歸シタル部分ノミヲ受戾ス事ヲ得但當事者雙方カ買主ノ供與シ又ハ受取リタル補足代金ヲ互ニ計算スル事ヲ妨ケス
賣主カ分割ニ召喚セラレサリシトキハ賣主ハ選擇ヲ以テ或ハ其分割ヲ認諾シ買主ニ對シテ前項ニ示シタル權利ヲ行ヒ或ハ第七百二十七條ニ揭ケタル金額ヲ買主ニ辨償シテ共有者ニ對シテ再分割ヲ促カス事ヲ得
(元尾崎委員)
當事者雙方ト云フノハ買主ト賣主カネ
(栗塚報吿委員)
分割ノ當事者デ御座イマス
(淸岡委員)
分割者ハ買ツタ人ト違ヒマスカ
(箕作委員)
當事者双方ト云フテ宜シイカネ
(松岡委員)
分割者ト地所ノ買主ダ
(村田委員)
賣主ト買主ニナル
(松岡委員)
ソレデ當事者双方ヲ下ヘ下ゲタノダ全ク賣主ト買主ノ間ダ
(栗塚報吿委員)
「補足代金ヲ當事者ノ互ヒニ計算スル事ヲ妨ケス」デ宜シウ御座イマシヨウ
(箕作委員)
ソレデ宜シイ
本條第一項但書ヲ左ノ如ク改ム
但買主ノ供與シ又ハ受取リタル補足代金ヲ當事者互ニ計算スル事ヲ妨ケス
第七百三十一條朗讀ス
第七百三十一條 不分物ノ共有者カ一箇ノ契約及ヒ唯一ノ代價ニテ其物ヲ受戾ノ條件ヲ以テ賣渡シタルトキハ買主ハ一分ニ付キ受戾ヲ受クルノ責ナシ
又買主ハ賣主ノ一人ヨリ爲ス全部ノ受戾ニ故障ヲ述フル事ヲ得
唯一人ノ賣主カ數人ノ相續人ヲ遺シテ死亡シタルトキモ亦本條ノ規定ニ從フ
之ニ反シテ數人ノ共有者カ各別ノ契約ヲ以テ各自ノ部分ヲ賣渡シタルトキハ各別ニ受戾ヲ爲ス事ヲ得但第七百二十八條及ヒ第七百三十條ノ規定ハ之ヲ此場合ニ適用スル事ヲ得
(栗塚報吿委員)
第一項「受戻ノ條件ヲ以テ」ハ「受戻ノ約款ニテ」トナリマス末項ノ「之ニ反シテ」ハ「此ニ反シテ」ノ誤リデ御座イマス
(松岡委員)
但以下ハ削ツタカ
(栗塚報吿委員)
削リマシタ
本條第一項「條件ヲ以テ」ヲ「約款ニテ」ト改メ末項「之ニ反シテ」ヲ「此ニ反シテ」ト改ム
第七百三十二條朗讀ス
第七百三十二條 數人ノ買主カ一箇ノ契約ノ契約又ハ各別ノ契約ヲ以テ一箇ノ財產ヲ受戾ノ條件ニテ取得シタルトキ賣主カ買主ノ間ニ分割ヲ爲ササル前ニ受戾ヲ爲サント欲スルニ於テハ賣主ハ總買主ニ對シ又ハ一人若クハ數人ノ買主ニ對シテ受戾ヲ爲ス事ヲ得
旣ニ分割ヲ爲シタルトキハ賣主各買主ニ對シ分割又ハ競賣ニ因リテ其各自ニ歸シタル部分ニ付テノミ受戾ヲ爲ス事ヲ得
唯一人ノ買主カ數人ノ相續人ヲ遺シテ死亡シタルトキモ亦本條ノ規定ニ從フ
(栗塚報吿委員)
數人ノ買主ニ對シテ受戻ヲ爲ス事ヲ得トアリマス對シテノ下ヘ「其各自ノ部分ニ付キ」ト云フ必要ガアリマス
(南部委員)
一所デハイカント云フノダカラ
(箕作委員)
三人アツタ時分ニ三人殘ラズニ對シテヤツテモ宜シイガ三人別々ニヤルト云フノデス
(栗塚報吿委員)
ソウデス
(淸岡委員)
各自ノ部分ガアルト間違ヒマス
(南部委員)
元トノ案ハ或ハ併行シテ或ハ各別ニテ買主ニ對シテ其部分ニ付キトアル
(松岡委員)
畢竟訴訟手續ヲ云フタ丈ケダ
(栗塚報吿委員)
貴君ニ對シテハ貴君ノ部分丈ケデナケレバイケナイト云フノデス
(元尾崎委員)
ソウスルト二項ト變ツタ事ハナイ
(淸岡委員)
一體ニ受戻ヲ爲スコトヲ得ルト云フノダロウ
(南部委員)
總員ノトキハ總員ニ對シテ一人又ハ効人ノトキハ一人又ハ數人ニ對シダ
(栗塚報吿委員)
千圓ノモノヲ二人ニ分ケテヤレバ一人ニ對シテ五百圓宛外イケナイ
(元尾崎委員)
各自ノ部分ヲ入レルト一人ニ對シテ總體ノ事ガ出來ル樣ニナルダロウ
(栗塚報吿委員)
ソレハイケナイノデ御座イマス
(淸岡委員)
ソレデ前ニ各自ノ部分ヲ削ツタノデシヨウ
(南部委員)
人ノ物ヲ求メラレテハ困ルダロウ
(元尾崎委員)
不可分物ダカラ仕方ガナイ
(南部委員)
此處ハ不可分物デハナイ
(松岡委員)
註ニ賣主買戻ヲ行ハントスル時期ニ於テ云々トアル
(箕作委員)
併行シテ全部ト云フノハ全部ト云フ字ハナイノデス併行シテトアルノデス
(松岡委員)
ソウスルト一人々々デモ一所デモト云フノデス
(栗塚報吿委員)
其各自ノ不分ノ部分ニ付キト云ハナケレバナラン
(箕作委員)
ソレハ云ハンデモ分ル
(松岡委員)
意味ガ分ラン
(箕作委員)
原文ト違ツテ居ル樣デス併行ニモセヨ別々ニモ各自ノ部分ニ對シテトアル
(栗塚報吿委員)
總テノ買主ニ對シ一名若クハ數名ノ買主ニ對シテト報吿委員デヤツタノデアリマス
(南部委員)
「併行ニテ又ハ各別ニテ各買主ニ對シ其部分ニ付キ」デ宜シイ
(淸岡委員)
修正ノ通リガ宜シイ
(箕作委員)
宜シウ御座イマショウ其各自ノ部分ニ付キヲ入レマシヨウ
本條第一項「條件」ヲ「約款」ト改メ賣主ニ對シテ受戻ヲ爲ス事ヲ得」トアルヲ「買主ニ對シ其各自ト部分ニ付キ受戻ヲ爲ス事ヲ得」ト改ム
賣買ノ章中缺損銷除ニ關スル議
不動產(此ニ目的トスル物ハ主トシテ土地家屋ナリ)ヲ賣買シ其價カ眞ノ價額ノ半ニ滿タサルトキハ賣買契約後二ケ年間ハ賣主ヨリ其契約ノ銷除ヲ請求スル事ヲ得是レ此款ノ規定スル所ニシテ不動產ノ所有權ヲ賣買後二个年間不確定ナラシムルモノナリ
按スルニ缺損ニ因ル銷除ハ佛國ニ於テモ之ヲ廢シタル事アリ現行ノ民法ヲ議スルニ當リテモ廢止論多カリシ然レトモ拏波倫ノ威權ヲ以テ此銷除法ヲ存スル事トナレリ
抑モ此銷除法ハ不動產ノ賣買ノミニ適用スルモノニシテ動產ニハ之ヲ適用セス又賣買ニ非サル他ノ授受ノ契約ニモ之ヲ適用セス且ツ當事者カ各有能力者タルニ拘ハラス銷除ヲ許スナリ
凡ソ契約ハ當事者ノ間ニ於テハ法律ト効力ヲ同フス(第三百四十八條)故ニ一旦完成シタル契約ハ當事者ノ同意アルニ非サレハ之ヲ銷除スル事ヲ得ス是レ萬國普通ノ原則ナリ又實際ニ於テ不便アル事此ノ如シ此原則此不便ニ拘ハラス此銷除法ヲ設ケントスルヲ以テ參事院ノ議官カ佛國ノ民法ヲ議スルニ當リ痛ク之ヲ駁撃シタリ其討論ノ要旨ヲ觀ルニ維持者ノ理由トスル所ノモノハ確タル論據ナシ唯「不動產ノ如キ貴重ナル物ヲ殘價ニ賣却シタルハ氣ノ毒ノ至リナリ」ト云フニ在ルノミ和郎按スルニ如何ニモ氣ノ毒ノ至ナリ然リト雖モ世上氣ノ毒ナル事多シ氣ノ毒ヲ理由トシテ盡ク有能力者ノ契約ヲ破毀セントセハ社會ノ取引ヲ攪擾妨害シ其弊ヤ名狀ス可カラサラントス
ボ氏ハ更ニ一理由ヲ發明シ賤價ヲ以テ財產ヲ得タルトキハ則チ不當ノ利得ナリト云フ凡ソ人生日常授受ノ間其利得ノ平均ヲ得ルコト殆ント少シ若シ不當ノ利得ヲ理由トシテ契約ヲ銷除スルトキハ何ソ唯不動產ニ限ルヤ何ソ唯賣買契約ニ限ルヤ新理由モ亦取ルニ足ラス此事項ニ關シテハ八十年來學者之ヲ討論シ競フテ新理由ヲ發明シ以テ佛國ノ民法ヲ辯護セント欲スト雖モ未タ服スヘキ理由ヲ唱フル者アルヲ聞カス蓋シ服スヘキノ理由アル事無キナリ是故ニ獨逸ノ新民法案ニハ此銷除法ヲ載セス又白耳義ノ改正案ニハ之ヲ削除シタリ其削除ノ理由ハ大槪上ニ言ヘルト異ナル事ナシ
又我國ニハ從來此種ノ銷除ヲ許サス故ニ賣買ノ完成スルヤ買主ノ權利ハ直チニ確定スルヲ常トス今新タニ此法ヲ起ストキハ忽チ買主ノ所有權ヲシテ不確定ナラシメ土地家屋ノ買主ハ二ケ年間ハ安堵ノ思ヲ爲ス能ハスシテ大ニ社會ニ影響ヲ及ホサン
ボ氏ハ此法ノ理由トシテ一種ノ說ヲ爲スト雖モ實ハ切迫ノ事情ニ至リ不動產ヲ賤價ニ賣却スル者ヲ保護セント欲スル者ニシテボ氏亦氣ノ毒論者ナリボ氏ノ自註ヲ一讀セハ此主旨ニ出テタル事自ラ明瞭ナリ實際ヲ案スルニ不動產ノ所有者カ急ニ金錢ヲ要スルトキハ先ツ其財產ヲ抵當若クハ質入トシテ之ヲ借用スル事難カラス必スシモ其財產ヲ賣却スルニ及ハス古ヘ金融ノ不便ニシテ利息甚ダ高ク且ツ抵當質入ニ關スル法ノ不備ナル世ニ於テハ不動產アリト雖モ之ヲ以テ金錢ヲ得ル事容易ナラサリシ今ハ則チ然ラス世態一變シテ不動產ノ所有主カ其不動產ノ實價ノ半以下ニ賣却セサルハ金策成ラサル如キ不便ナシ又何等切迫ノ事情アルモ有能力者カ所有ノ不動產ヲ賣却セントスルニ當ツテハ然ラス反覆熟慮シテ而テ後事ヲ決ス且ツ不動產ニ付テハ動產ノ如ク乍チ議シテ乍チ賣買ヲ決行スル事ヲ得ス必ス反覆熟慮スルノ餘白アリ故ニ實價ノ半以下ニ不動產ヲ賣却スルハ恐ラクハ世上其例ヲ見ル事ナシト謂フ事ヲ得ヘシ果シテ此種ノ保護法ヲ必要トセハ却テ動產ニ對シテ之ヲ設クヘキナリ然レトモ民法中已ニ無能力者ヲ保護スルノ法アリ之ニ加フルニ錯誤詭譎等諸般ノ原因ヲ主張シテ契約ヲ銷除スル事ヲ得ルノ場合モ亦甚タ多シ故ニ有能力者カ反覆熟慮シテ決行シタル場合ノ爲メ特ニ保護法ヲ設クルヲ要セス凡ソ特別保護ノ法ハ之ヲ行フニ當リ其害ヲ被ムル者ナシトセス特ニ必要スル事情アルニ非サレハ之ヲ設ク可ラス
又此銷除法ヲ行フトキハ實價ノ半以上以下ヲ定ムル爲メ非常ノ困難アル可シ固ヨリ鑑定人ナル者アリト雖モ其評價ハ已ムヲ得サルニ於テ依頼スヘキモノニシテ評定ノ正實ナル事ハ必シモ信ヲ取リ離シ故ニ實際ニ於テ不便困難弊害ノ並到ル事アラン
右ノ理由ヲ以テ缺損ニ因ル賣買銷除ノ全款第七百三十三條乃至第七百四十條ヲ削除スルノ議ヲ呈ス
缺損銷除ハ一種特別ノ事項タルヲ以テ此一款ヲ削除スルモ他ノ條項ニ關係アル事ナシ
(栗塚報吿委員)
次ノ條カラ第三款缺損ニ依ル銷除ハ再調査カラ全款ヲ削除スル理由モ出テ居リマス我々モ一度目ヲ通シテ修正ヲ致シ議ヲ鑑シタル處ガ如何ニモ再調査ノ方ガ最ノ樣デ應座イマス理由ハ別紙ニ御座イマス賣買ノ章中缺損削除ニ關スル議ト云フノガ御座イマスカラ御承知デ御座イマシヨウガ理由書ヲ讀ミマシヨウカ
(村田委員)
削ル方ガ宜シイ
(松岡委員)
我々ハ建議ノ理由ニ依テ削ル此理由書ヲ削ルカラ此理由書ヲ書イテ置クガ宜シイ
(淸岡委員)
起案者ニ質シマシタカ
(栗塚報吿委員)
初メニ起案者ニ質シマシタ處ガ私ノ註ニ書イテ置イタ通リノ事デ御座イマスカラアレデ分ルダロウト申シマシタ成程長ク書イテ御座イマスケレドモ論旨ガ貫カン
(松岡委員)
昔ノ餘風ヲ存シテ居ル事ハ「ボアソナード」モ云フテ居ルガ百姓ヲ其土地カラ離セント云フ餘風ヲ存シテ居ル我ガ日本ニハ習慣ニナイ法律上カラ云ツテモ能力ノナイモノ詐欺強暴ノ補ヒガ付イテ居ル又半バ以上モ損ヲスル樣ナ賣買ヲスル事ノアルベキ筈ガナイ又今日明日ニ値段ノ變ル事ガアレバ逐繼ノ出來ル話デナイ此方ニハソウ云フ事ヲ書ク用モナシ習慣モナイ
(大尾崎委員)
或ハ若イモノ抔ガ能力ヲ具ヘテモ遊蕩抔ヲシテ一時ノ迷ヒカラ散財ヲシテ田地ヲ賣ラナケレバナラント云フトキハソウ云フ奴ヲ見込ンデ賣ル否應云ハセズ手ヲ捻ル樣ニシテ安ク買ウ先方ノ實ニ窮シ切ツテ居ル處ヲ見込ンデ安ク買ウソレハ狡猾ナヤツデアルカラソウ云フモノハ銷除ノ出來ル樣ニシナケレバナラン
(南部委員)
佛蘭西ニモ實用ハナイト云マス
(淸岡委員)
ナケレバ御目出度イ事ダ
(南部委員)
不動產ヲシテ不確定ノ間ニ置カシムルハ經濟上良クナイ夫レ故ニ買戻ノ年限ヲ縮メテ居ル其意味ト抵觸スルカラ削除セナケレバナラン
(松岡委員)
能力ノアルモノガ賣テ安イカラ取戻スト云フ事ハ日本ニハアルマイ
(大尾崎委員)
アリマス
(渡委員)
事實ヲ尋ネタラ一ツヤ二ツハアルダロウガ法律デ定メテ置クト害ガアル
(大尾崎委員)
削ルト云フコトハ「ボアソナード」ニ背キマシタカ
(栗塚報吿委員)
背キマセン攻撃ハシテヤリマシタ處ガ不當ノ利得ダト云フ辯解デスソレナラ皆不當ノ利得トナツテ仕舞ウソレハ〔缺字〕場以上ト云フガ何ノ位デモ不當ノ利得ト云フ原則ヲ適用シナケレバナラン
(元尾崎委員)
ソンナ事ハ六ケシイ
(栗塚報吿委員)
一町ノ地面ハ大槪千圓ノ相場デアルノヲ二千圓ニ買ツタトキハ一方ノ人ハ不當ノ富ヲ得タノデス
(元尾崎委員)
此原則デ行クト其時モ取戻ヲシナケレバナラン
(大尾崎委員)
安ク賣ルノハ何カ理由ガアルニ違ヒナイ尋常ノ事デハナイ
(南部委員)
幼者浪費者ノトキハ別ニ保護ノ仕方ガアルカラ少シモ氣遺ハナイ
(栗塚報吿委員)
金ニ困ツテ安ク賣ルモノヲ保護スル積リノ樣デス
(松岡委員)
ソウ云フト動產物ノ方ヲ保護シタイ動產物ノ方ハこつそり安ク賣ル、ソレカラ惡意デ買ウ人間ハドウシテ居ルカ眞ニソレヲ持ツテ自分ノ財產ニシテ居ルカト云フト必ズ人ニ賣ツテ居ル人ニ賣ツテ居レバ最早銷除スル事ハ出來ナイ
(大尾崎委員)
併シ幸ニ其人ガ持テ居レバ取戻ス事ガ出來ル
(南部委員)
契約ト云フモノハ良意デ結ンダトキハ法律ニ均シキ効力ガアル
(元尾崎委員)
コンナ法ガアルト迂闊ニ買ハンカラ良クナイ
(槇村委員)
之ハ削除セント良クナイ
(西委員)
詰リ氣ノ毒ダト云フ事ニナル
(箕作委員)
金持ガ不動產ヲ賣タトキ困リマス
(栗塚報吿委員)
買タ人モ御氣ノ毒ト云ハナケレバナラヌ
(淸岡委員)
民事上ノ事ハ格外ノ事ヲスベキモノデナイト云ハナケレバナランソレハ千圓ノモノヲ五百圓ニ賣ル普通人情ヲ具ヘタモノノアルベキ筈ガナイ其時ハ道樂息子ガ前後不覺ニ沈酔シテヤル、ソウ云フ事ヲシテ利益ヲ得サセルノハ社會ヲ害スル事ニナル
(南部委員)
道樂息子ガアルカラ社會ノ經濟ガ立テ居ル
(元尾崎委員)
華族ハ世襲財產ガアルカラ心配ハ入ラン
(松岡委員)
道樂息子ガ安イモノヲ大變高ク嵌メ込マレタトキモ取消ナケレバナラン樣ニナル
(淸岡委員)
利息ヲ制限スルノト同ジ樣ナモノダ
(大尾崎委員)
甘ノアル處ヲ削ツテハ困ル
(淸岡委員)
記錄ニ存シテ他日ノ息子ヲ待ツ計リダ
(箕作委員)
唯ダ可哀ソウト云フ丈ケデハ理由ガ乏シイ
(委員長)
ソレデハ削除シマス
本條第三款ハ全款削除ニ決ス